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特許6997327CAMP受容タンパク質変異体及びそれを用いたL-アミノ酸の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】CAMP受容タンパク質変異体及びそれを用いたL-アミノ酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/31 20060101AFI20220107BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20220107BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220107BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220107BHJP
   C12P 13/04 20060101ALI20220107BHJP
   C12P 13/08 20060101ALI20220107BHJP
   C12P 13/22 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
C12N15/31 ZNA
C07K14/705
C12N15/63 Z
C12N1/21
C12P13/04
C12P13/08 C
C12P13/22 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020538582
(86)(22)【出願日】2019-07-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-06
(86)【国際出願番号】 KR2019009292
(87)【国際公開番号】W WO2020111437
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2020-07-10
(31)【優先権主張番号】10-2018-0151043
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【微生物の受託番号】KCCM  KCCM12375P
(73)【特許権者】
【識別番号】508139664
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】CJ CHEILJEDANG CORPORATION
【住所又は居所原語表記】CJ Cheiljedang Center,330,Dongho-ro,Jung-gu,Seoul,Republic Of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】リ,ソク ミョン
(72)【発明者】
【氏名】チョン,キ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ソ,チャン イル
(72)【発明者】
【氏名】リ,チ サン
【審査官】山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許第103114069(CN,B)
【文献】米国特許出願公開第2016/0362456(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 14/00-14/825
C12N 1/00- 1/38
C12P 13/00-13/24
CAplus/REGISTRY(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列で35番目のアミノ酸がアラニンに置換された、cAMP受容タンパク質(cAMP receptor protein)変異体。
【請求項2】
請求項1に記載のcAMP受容タンパク質変異体をコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項1に記載のcAMP受容タンパク質変異体をコードするポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項4】
配列番号1のアミノ酸配列で35番目のアミノ酸がアラニンに置換されたcAMP受容タンパク質変異体を含む、エシェリキア属(Escherichia sp.)微生物。
【請求項5】
前記エシェリキア属微生物が大腸菌である、請求項4に記載のエシェリキア属微生物。
【請求項6】
前記エシェリキア属微生物が、L-アミノ酸を生産するものである、請求項4に記載のエシェリキア属微生物。
【請求項7】
前記L-アミノ酸が、L-トレオニンまたはL-トリプトファンである、請求項6に記載のエシェリキア属微生物。
【請求項8】
配列番号1のアミノ酸配列で35番目のアミノ酸がアラニンに置換されたcAMP受容タンパク質変異体を含む、エシェリキア属微生物を培地で培養する段階を含む、L-アミノ酸を生産する方法。
【請求項9】
前記微生物または培地からL-アミノ酸を回収する段階をさらに含む、請求項8に記載のL-アミノ酸を生産する方法。
【請求項10】
前記L-アミノ酸が、L-トレオニンまたはL-トリプトファンである、請求項8に記載のL-アミノ酸を生産する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、cAMP受容タンパク質変異体、それを含む微生物、及びそれを用いたL-アミノ酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CRP(cyclic AMP receptor protein)は、大腸菌で最も知られている転写調節因子であり、CAP(catabolite activator protein)とも呼ばれる。CRPは、炭素源に依存的な調節機序を特徴的に有するが、代表的なものが「代謝産物抑制作用(catabolite repression)」である。この作用は、細胞内のcyclic AMP(以下「cAMP」)の濃度によって引き起こされるが、グルコースのような好まれる炭素源があるときにはアデニル酸シクラーゼ(adenylate cyclase)の活性が阻害されてcAMPが低くなり、この信号を介してカタボライト代謝遺伝子の発現が抑制される。逆の場合、アデニル酸シクラーゼの活性が増加され、その結果、リプレッサーを抑制してカタボライト代謝遺伝子の発現が開始される。その他にもCRPは、cAMPを介した細胞内シグナル伝達、浸透調節、細胞の緊急事態発生時の対処、バイオフィルムの生成、窒素固定、鉄分輸送などのさまざまな役割をすることが知られている。
【0003】
報告されたところによると、418個の大腸菌の遺伝子がCRPによって調節されることが知られているが、その機序はまだ詳細に明らかにされていない(非特許文献1)。このように広範囲な調節能力でCRPは突然変異によって様々な表現型を示すことができる可能性を有しており、そのような利点のため、様々な環境で適用可能な細胞レベルの菌株の再設計に適した対象として研究されている。最近では、バイオインフォマティクス的な方法で選別されたCRPのアミノ酸変異によってDNAの結合程度を変化させて調整対象の遺伝子の発現を変化させた方法(非特許文献2)とジンクフィンガーDNA結合部位とCRPとを融合して人工的な転写因子(ATF、artificial transcription factor)を作ったもので、熱、浸透及び低温に耐性を有する大腸菌を選別(非特許文献3)するなど、様々な実験が行われている。つまり、CRPの発現の変化は、広範囲なレベルのサブステップの遺伝子発現の変化を促進し、有用な形質を有する微生物を製作するのに良い手段になる可能性が大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】大韓民国登録特許第10-0576342号
【文献】大韓民国登録特許第10-0058286号
【文献】大韓民国登録特許第10-1261147号
【文献】大韓民国登録特許第10-0966324号
【文献】大韓民国登録特許第10-1865998号
【文献】大韓民国登録特許第10-1532129号
【非特許文献】
【0005】
【文献】J Biol Eng. (2009) 24;3:13
【文献】Nucleic Acids Research, (2009) 37: 2493-2503
【文献】Nucleic Acids Research, (2008) 36: e102
【文献】Pearson et al (1988)[Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85]: 2444
【文献】Rice et al., 2000, Trends Genet. 16: 276-277
【文献】Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453
【文献】Smith and Waterman, Adv. Appl. Math(1981) 2:482
【文献】Schwartz and Dayhoff, eds., Atlas Of Protein Sequence And Structure, National Biomedical Research Foundation, pp. 353-358(1979)
【文献】Gribskov et al(1986) Nucl. AcidsRes. 14: 6745
【文献】Sambrook et al., supra, 9.50-9.51, 11.7-11.8
【文献】Introduction to Biotechnology and Genetic Engineering, A. J. Nair., 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、配列番号1のアミノ酸配列で1つ以上のアミノ酸置換を含む新規な変異型タンパク質を発掘し、前記変異型タンパク質がL-アミノ酸の生産能を増加させることを確認することにより、本出願を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本出願の一つの目的は、cAMP受容タンパク質変異体を提供することにある。
【0008】
本出願の他の一つの目的は、前記cAMP受容タンパク質変異体をコードするポリヌクレオチドを提供することにある。
【0009】
本出願の別の目的は、前記ポリヌクレオチドを含むベクターを提供することにある。
【0010】
本出願の別の目的は、前記変異体を含む、エシェリキア属微生物を提供することにある。
【0011】
本出願の別の目的は、前記エシェリキア属微生物を培地で培養する段階を含むL-アミノ酸の生産方法を提供することにある。
【0012】
本出願の別の目的は、前記変異体または前記変異体を含むエシェリキア属微生物 のL-アミノ酸の生産用途を提供することにある。
【発明の効果】
【0013】
本出願のcAMP受容タンパク質変異体を含む、L-アミノ酸を生産するエシェリキア属微生物を培養する場合、高収率のL-アミノ酸の生産が可能である。そこで、産業的な面での生産の利便性とともに製造原価低減などの効果を期待することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
これを具体的に説明すると、次の通りである。一方、本出願で開示された各説明及び実施形態は、それぞれの他の説明及び実施形態にも適用されうる。すなわち、本出願で開示された様々な要素の任意の組み合わせが本出願のカテゴリに属する。また、下記記述された具体的な叙述によって、本出願のカテゴリが制限されるとは見られない。
【0015】
前記目的を達成するための本出願の一つの様態は、配列番号1のアミノ酸配列内の1つ以上のアミノ酸置換を含むcAMP受容タンパク質変異体を提供することである。具体的には、本出願は、配列番号1のアミノ酸配列内の1つ以上のアミノ酸置換を含むcAMP受容タンパク質変異体を提供し、前記アミノ酸置換は、N末端から35番目のアミノ酸がアラニンに置換されたものを含む。より具体的には、配列番号1のアミノ酸配列で35番目のアミノ酸がアラニンに置換されたものを含む、cAMP受容タンパク質変異体を提供する。
【0016】
本出願において、用語、「cAMP受容タンパク質(cAMP receptor protein、CRP)」は、大腸菌で最も知られている転写調節因子であって、それ自体で活性因子と阻害因子の機能を一緒に有し、「デュアルレギュレータ(dual regulator)」とも呼ばれる。一般的に、構造遺伝子の上流に位置した22個の塩基を有する対称型DNA配列に結合してDNAの曲がりを誘導し、カルボキシ末端にある1番目の活性部位とアミノ末端にある2番目の活性部位が転写を担当するRNA重合酵素と相互作用するようにして活性因子の役割をし、抑制因子の役割をする場合には活性タンパク質が活性部位に結合しないようにその位置を先占したり、活性タンパク質と結合して活性部位に結合していない構造に変換させる方法を取ることが知られている。前記cAMP受容タンパク質は、crp遺伝子によってコードされるcAMP受容タンパク質である。
【0017】
本出願の「cAMP受容タンパク質(cyclic AMP receptor protein、CRP)」は、カタボライト活性化タンパク質(catabolite activator protein、CAP)、CRPタンパク質、CAPタンパク質などと混用して使用されてもよい。
【0018】
本出願で、前記CRPは公知のデータベースであるNCBIのGenBankからその配列を得ることができる。一例としては、エシェリキア属(Escherichia sp.)由来CRPであってもよく、より具体的には、配列番号1に記載されたアミノ酸配列を含むポリペプチド/タンパク質であってもよいが、これに制限されない。また、前記アミノ酸配列と同様の活性を有する配列は制限なく含まれてもよい。また、配列番号1のアミノ酸配列またはこれと80%以上の相同性(homology)または同一性(identity)を有するアミノ酸配列を含んでもよいが、これに制限されるものではない。具体的には、前記アミノ酸は、配列番号1及び前記配列番号1と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%以上の相同性または同一性を有するアミノ酸を含んでもよい。また、このような相同性または同一性を有し、前記タンパク質に相応する効能を示すアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、変形、置換、または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質も、本出願の範囲内に含まれるのは自明である。
【0019】
本出願において、用語、「変異体(variant)」は、1つ以上のアミノ酸が保存的置換(conservative substitution)及び/または変形(modification)において、前記列挙された配列(the recited sequence)と相異するが、前記タンパク質の機能(functions)または特性(properties)が維持されるポリペプチドを称する。変異型ポリペプチドは、数個のアミノ酸置換、欠失または付加によって識別される配列(identified sequence)と相異する。これらの変異型は、一般的に前記ポリペプチド配列のいずれかを変形し、前記変形されたポリペプチドの特性を評価して識別されうる。つまり、変異型の能力は、本来のタンパク質(native protein)に比べて増加したり、変わらなかったり、または減少してもよい。これらの変異型は、一般的に前記ポリペプチド配列のいずれかを変形し、変形されたポリペプチドの反応性を評価して識別されうる。また、一部の変異型は、N末端のリーダー配列または膜貫通ドメイン(transmembrane domain)のような1つ以上の部分が除去された変異型を含んでもよい。他の変異型は、成熟タンパク質(mature protein)のN末端及び/またはC末端から一部が除去された変異型を含んでもよい。
【0020】
本出願において、用語、「保存的置換(conservative substitution)」は、1つのアミノ酸を類似の構造的及び/または化学的性質を有する他のアミノ酸に置換させることを意味する。前記変異型は、1つ以上の生物学的活性を依然として保有しながら、例えば、1つ以上の保存的置換を有してもよい。これらのアミノ酸置換は、一般的に残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性、及び/または両親媒性(amphipathic nature)での類似性に基づいて発生しうる。例えば、陽に荷電された(塩基性)アミノ酸は、アルギニン、リジン、及びヒスチジンを含み;陰に荷電された(酸性)アミノ酸は、グルタミン酸及びアスパラギン酸を含み;芳香族アミノ酸は、フェニルアラニン、トリプトファン、及びチロシンを含み;疎水性アミノ酸は、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、グリシン及びトリプトファンを含む。
【0021】
また、変異型はポリペプチドの特性と2次構造に最小限の影響を有するアミノ酸の欠失または付加を含んでもよい。例えば、ポリペプチドは翻訳と同時に(co-translationally)または翻訳後に(post-translationally)タンパク質の転移(transfer)に関与するタンパク質N末端のシグナル(またはリーダー)配列とコンジュゲートしてもよい。また、前記ポリペプチドはポリペプチドを確認、精製、または合成できるように、他の配列またはリンカーとコンジュゲートされてもよい。
【0022】
本出願において、用語、「cAMP受容タンパク質変異体」は、cAMP受容タンパク質活性を有するポリペプチドのアミノ酸配列で1つ以上のアミノ酸置換を含むcAMP受容タンパク質変異体であって、前記アミノ酸置換は、N末端から35番目の位置のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたことを含む。具体的には、AMP受容タンパク質活性を有するポリペプチドのアミノ酸配列で35番目の位置のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された35番目の位置のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたタンパク質変異体を含む。例えば、前記タンパク質変異体は、配列番号1のアミノ酸配列内のN末端から35番目の位置の変異が起こったタンパク質変異体を含む。より具体的には、前記タンパク質変異体は、配列番号1のアミノ酸配列で35番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたタンパク質であってもよい。前記「他のアミノ酸」は、35番目のアミノ酸であるL-グルタミン酸を除いた他のアミノ酸であれば制限されない。具体的には、前記変異体は配列番号1のアミノ酸配列で35番目のアミノ酸が疎水性アミノ酸に置換されたタンパク質であってもよい。前記疎水性アミノ酸は、L-アラニン、 L-グリシン、L-バリン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-メチオニン、L-プロリン、L-フェニルアラニン及びL-トリプトファンのいずれかであってもよい。より具体的には、前記変異体は配列番号1のアミノ酸配列で35番目のアミノ酸がアラニン(Alanine)に置換されたタンパク質であってもよいが、これに制限されない。
【0023】
また、前記変異体は前述の配列番号1及び/または前記配列番号1と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%以上の相同性または同一性を有するアミノ酸でN末端から35番目の位置のアミノ酸が変異されたことを意味する。
【0024】
本出願において、用語、「cAMP受容タンパク質変異体」は、変異型CRPタンパク質、CRP変異体、変異型cAMP受容タンパク質、変異型CAPタンパク質、CAP変異体、変異型カタボライト活性化タンパク質、カタボライト活性化タンパク質変異体などと混用されて用いられてもよい。
【0025】
本出願の目的上、前記cAMP受容タンパク質変異体を含む微生物の場合、L-アミノ酸の生産量が前記cAMP受容タンパク質変異体が存在しない微生物に比べて増加することを特徴とする。前記CRP変異体は、天然の野生型または非変異cAMP受容タンパク質に比べてL-アミノ酸の生産能が増加するように遺伝子調節活性を有することを特徴とする。これは、本出願のCRP変異体が導入された微生物を用いてL-アミノ酸の生産量を増加させうるということに意義がある。具体的には、前記L-アミノ酸はL-トレオニンまたはL-トリプトファンであってもよいが、前記変異型cAMP受容タンパク質が導入または含まれて生産されうるL-アミノ酸であれば、制限なく含まれる。
【0026】
前記cAMP受容タンパク質変異体は、その例として、配列番号1で表されるアミノ酸配列内の35番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を含む変異体であって、配列番号3からなるものであってもよい。配列番号1のアミノ酸配列で35番目のアミノ酸がアラニン(Alanine)に置換された変異体は、配列番号3からなるものであってもよいが、これに制限されない。また、前記CRP変異体は、配列番号3のアミノ酸配列またはこれと80%以上の相同性または同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよいが、これに制限されるものではない。具体的には、本出願の前記CRP変異体は、配列番号3及び配列番号3と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%以上の相同性または同一性を有するタンパク質を含んでもよい。また、このような相同性または同一性を有しながら、前記タンパク質に相応する効能を示すアミノ酸配列であれば、35番目の位置のアミノ酸配列の他に、一部の配列が欠失、変形、置換、または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質も、本出願の範囲内に含まれるのは自明である。
【0027】
すなわち、本出願で「特定の配列番号に記載されたアミノ酸配列を有するタンパク質」と記載されていても、その配列番号のアミノ酸配列からなるタンパク質と同一あるいは相応する活性を有する場合であれば、一部の配列が欠失、変形、置換、保存的置換または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質も、本出願で用いられるのは自明である。例えば、前記変異型タンパク質と同一あるいは相応する活性を有する場合であれば、前記アミノ酸配列の前後にタンパク質の機能を変更していない配列の追加、自然に発生しうる突然変異、そのサイレント突然変異(silent mutation)または保存的置換を除外することなく、これらの配列の追加、あるいは突然変異を有する場合でも、本願の範囲内に属するのが自明である。
【0028】
本出願において、用語、「相同性(homology)」または「同一性(identity)」は、2つの与えられたアミノ酸配列または塩基配列と互いに関連された程度を意味し、パーセンテージで示されてもよい。
【0029】
用語相同性及び同一性は、多くの場合、相互交換的に用いられてもよい。
【0030】
保存された(conserved)ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの配列相同性または同一性は標準配列アルゴリズムによって決定されるし、用いられるプログラムによって確立されたデフォルトのギャップペナルティが一緒に用いられてもよい。実質的には、相同性を有するか(homologous)または同一な(identical)配列は、中間または高い厳しい条件(stringent conditions)で、一般的に配列全体または全長の少なくとも約50%、60%、70%、80%または90%以上でハイブリッドしてもよい。ハイブリッド化は、ポリヌクレオチドでコドンの代わりに縮退コドンを含有するポリヌクレオチドも考慮される。
【0031】
任意の2つのポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列が、相同性、類似性または同一性を有するかどうかは、例えば、非特許文献4と同じデフォルトのパラメータを用いて「FASTA」プログラムのような公知のコンピュータアルゴリズムを利用して決定してもよい。または、EMBOSSパッケージのニードルマンプログラム(EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite、非特許文献5)(バージョン5.0.0またはそれ以降のバージョン)で実行されるような、ニードルマン-ウンシュ(Needleman-Wunsch)アルゴリズム(非特許文献6)を用いて決定してもよい。(GCGプログラムパッケージ(Devereux, J., et al, Nucleic AcidsResearch 12: 387(1984))、BLASTP、BLASTN、FASTA(Atschul, [S.] [F.,] [ET AL, J MOLEC BIOL 215]: 403(1990);Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, [ED.,] Academic Press, San Diego,1994、及び[CARILLO ETA/.](1988)SIAM J Applied Math 48: 1073を含む)。例えば、国立生物工学情報データベースセンターのBLAST、またはClustalWを用いて相同性、類似性または同一性を決定してもよい。
【0032】
ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの相同性、類似性または同一性は、例えば、非特許文献7に公知されたように、例えば、非特許文献6のようなGAPコンピュータプログラムを利用して配列情報を比較することによって決定してもよい。要約すると、GAPプログラムは、2つの配列のうち、より短いものからのシンボルの全体数で同様の配列されたシンボル(つまり、ヌクレオチドまたはアミノ酸)の数を割った値として定義する。GAPプログラムのためのデフォルトパラメータは、(1)一進法の比較マトリックス(同一性のための1及び非同一性のための0の値を含有する)及び非特許文献8に開示されたように、非特許文献9の加重された比較マトリックス(またはEDNAFULL(NCBI NUC4.4のEMBOSSバージョン)置換マトリックス);(2)各ギャップのための3.0のペナルティ及び各ギャップの各記号のための追加の0.10ペナルティ(またはギャップ開放ペナルティ10、ギャップ延長ペナルティ0.5);及び(3)末端ギャップのための無ペナルティを含んでもよい。したがって、本願で用いられたものとして、用語、「相同性」または「同一性」は、配列間の関連性(relevance)を示す。
【0033】
本出願の他の一つの様態は、前記CRP変異体をコードするポリヌクレオチド、または前記ポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0034】
本出願において、用語、「ポリヌクレオチド」は、ヌクレオチド単量体(monomer)が共有結合によって長く鎖状につながったヌクレオチドのポリマー(polymer)で、一定の長さ以上のDNAまたはRNA鎖であり、より具体的には、前記変異型タンパク質をコードするポリヌクレオチド断片を意味する。
【0035】
本出願のCRP変異体をコードするポリヌクレオチドは、本出願のcAMP受容タンパク質変異体をコードするポリヌクレオチド配列であれば制限なく含まれてもよい。前記CRP変異体をコードするポリヌクレオチドは、配列番号1のアミノ酸配列で35番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された変異型タンパク質をコードする配列であれば制限なく含まれてもよい。具体的には、配列番号1のアミノ酸配列で35番目のアミノ酸がアラニンに置換された変異体をコードするポリヌクレオチド配列であってもよい。例えば、本出願のCRP変異体をコードするポリヌクレオチドは、配列番号3のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド配列であってもよいが、これに制限されるものではない。より具体的には、配列番号4からなるポリヌクレオチド配列で構成されたものであってもよいが、これに制限されるものではない。前記ポリヌクレオチドは、コドンの縮退性(degeneracy)により、または前記タンパク質を発現させようとする生物で好まれるコドンを考慮して、タンパク質のアミノ酸配列を変化させない範囲内でコーディング領域に多様な変形がなされてもよい。したがって、コドン縮退性(codon degeneracy)によって前記配列番号3のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはこれと相同性または同一性を有するポリペプチドに翻訳されうるポリヌクレオチドも含まれるのは自明である。
【0036】
また、公知の遺伝子配列から調製されうるプローブ、例えば、前記塩基配列の全体または一部に対する相補配列と厳格な条件下でハイブリッド化し、配列番号1のアミノ酸配列で35番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたCRP変異体をコードする配列であれば制限なく含まれてもよい。
【0037】
前記「厳しい条件(stringent condition)」とは、ポリヌクレオチド間の特異的混成化を可能にする条件を意味する。これらの条件は、文献(例えば、J. Sambrook et al.,)に具体的に記載されている。例えば、相同性(homology)または同一性(identity)が高い遺伝子同士、80%以上、85%以上、具体的には、90%以上、より具体的には、95%以上、さらに具体的には、97%以上、特に具体的には、99%以上の相同性または同一性を有する遺伝子同士でハイブリッド化する。そして、それより相同性または同一性が低い遺伝子同士はハイブリッド化しない条件、または通常のサザンハイブリッド化(southern hybridization)の洗浄条件である60℃、1×SSC 、0.1%SDS、具体的には、60℃、0.1×SSC、0.1%SDS、より具体的には、68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度及び温度で、1回、具体的には、2回~3回洗浄する条件を挙げられる。
【0038】
混成化は、たとえ混成化の厳密度によって塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能であっても、2つの核酸が相補的配列を有することを要求する。用語、「相補的」は、互いに混成化が可能であるヌクレオチド塩基間の関係を記述するために用いられる。例えば、DNAに関すると、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。したがって、本出願は、また、実質的に類似の核酸配列だけでなく、全体配列に相補的な単離された核酸断片を含んでもよい。
【0039】
具体的には、相同性または同一性を有するポリヌクレオチドは、55℃のTm値で混成化段階を含む混成化条件を用い、上述した条件を用いて探知してもよい。また、前記Tm値は、60℃、63℃または65℃であってもよいが、これに制限されるものではなく、その目的に応じて当業者によって適切に調節されてもよい。
【0040】
ポリヌクレオチドを混成化する適切な厳密度は、ポリヌクレオチドの長さ及び相補性の程度に依存し、変数は当該技術分野でよく知られている(非特許文献10参照)。
【0041】
本出願で用いられた前記用語、「ベクター」は、適合した宿主内で目的変異型タンパク質を発現できるように、適合の調節配列に作動可能に連結された前記目的変異型タンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列を含有するDNA製造物を意味する。前記調節配列は、転写を開始しうるプロモーター、このような転写を調節するための任意のオペレーター配列、適合のmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、及び転写及び解読の終結を調節する配列を含んでもよい。ベクターは、適切な宿主細胞内に形質転換された後、宿主ゲノムとは無関係に複製されたり機能することができ、ゲノムそのものに統合されてもよい。
【0042】
本出願で用いられるベクターは、宿主細胞内で複製可能なものであれば特に限定されず、当業界に知られている任意のベクターを用いてもよい。通常用いられるベクターの例としては、天然の状態であるか、組換えされた状態のプラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージが挙げられる。例えば、ファージベクターまたはコスミドベクターとしてpWE15、M13、MBL3、MBL4、IXII、ASHII、APII、t10、t11、Charon4A、及びCharon21Aなどを用いてもよく、プラスミドベクターとしてpBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系及びpET系などを用いてもよい。具体的には、pDZ、pACYC177、pACYC184、pCL、pECCG117、pUC19、pBR322、pMW118、pCC1BACベクターなどを用いてもよい。
【0043】
一例として、細胞内の染色体挿入用ベクターを介して染色体内に目的変異型タンパク質をコードするポリヌクレオチドを変異されたポリヌクレオチドに交替してもよい。前記ポリヌクレオチドの染色体内への挿入は、当業界で知られている任意の方法、例えば、相同組換え(homologous recombination)によって行われてもよいが、これに限定されない。前記染色体に挿入されたかどうかを確認するための選別マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。選別マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選別、すなわち目的核酸分子が挿入されたかどうかを確認するためのものであり、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性または表面変異型タンパク質の発現のような選択可能な表現型を付与するマーカーが用いられてもよい。選択剤(selective agent)が処理された環境では、選別マーカーを発現する細胞のみ生存したり他の表現形質を示すので、形質転換された細胞を選別できる。本出願のもう一つの様態として、本出願は、前記変異型タンパク質を含むか、前記変異型タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含んで、L-アミノ酸を生産する微生物を提供することである。具体的には、変異型タンパク質及び/または前記変異型タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む微生物は、変異型タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換によって製造される微生物であってもよいが、これに制限されない。
【0044】
本出願において、用語、「形質転換」は、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを宿主細胞内に導入して、宿主細胞内で前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質が発現できるようにすることを意味する。形質転換されたポリヌクレオチドは宿主細胞内で発現することさえできれば、宿主細胞の染色体内に挿入され位置するか、染色体外に位置するかに関係なく、これらをすべて含んでもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、標的タンパク質をコードするDNA及びRNAを含む。前記ポリヌクレオチドは、宿主細胞内に導入されて発現できるものであれば、あらゆる形態で導入されるものであっても構わない。例えば、前記ポリヌクレオチドは、それ自体で発現されるのに必要なすべての要素を含むポリヌクレオチド構造体である発現カセット(expression cassette)の形態で宿主細胞に導入されてもよい。前記発現カセットは、通常、前記遺伝子に作動可能に連結されているプロモーター(promoter)、転写終結シグナル、リボソーム結合部位及び翻訳終結シグナルを含んでもよい。前記発現カセットは、それ自体の複製が可能な発現ベクターの形態であってもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、それ自体の形態で宿主細胞に導入されて、宿主細胞で発現に必要な配列と作動可能に連結されたものであってもよいが、これに限定されない。
【0045】
また、前記において、用語、「作動可能に連結された」というのは、本出願の目的変異型タンパク質をコードするポリヌクレオチドの転写を開始及び媒介するようにするプロモーター配列と、前記遺伝子配列が機能的に連結されていることを意味する。
【0046】
本出願の他の一つの様態は、前記cAMP受容タンパク質変異体を含む、エシェリキア属(Escherichia sp.)微生物を提供する。
【0047】
本出願で用いられる用語、「CRP変異体を含む微生物」とは、本出願のCRP変異体が発現されるように組換えされた微生物を意味してもよい。例えば、CRP変異体をコードするポリヌクレオチドを含むか、またはCRP変異体をコードするポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換されて前記変異体を発現できる宿主細胞または微生物を意味する。本出願の目的上、具体的には、前記微生物は配列番号1のアミノ酸配列内の1つ以上のアミノ酸置換を含むcAMP受容タンパク質変異体を発現する微生物であって、前記アミノ酸置換はN末端から35番目のアミノ酸がアラニンに置換されてcAMP受容タンパク質活性を有する、変異型タンパク質を発現する微生物であってもよいが、これに制限されない。
【0048】
前記CRP変異体を含む微生物は、前記CRP変異体を含んでL-アミノ酸、その例として、L-トレオニンまたはL-トリプトファンを生産できる微生物であればすべて可能であるが、これに制限されない。例えば、前記CRP変異体を含む微生物は、天然の野生型微生物またはL-アミノ酸を生産する微生物にCRP変異体が発現されて、L-アミノ酸の生産能が増加した組換え微生物であってもよい。前記L-アミノ酸の生産能が増加した組換え微生物は、天然の野生型微生物または非変形微生物に比べてL-アミノ酸の生産能が増加した微生物であってもよく、前記L-アミノ酸はL-トレオニンまたはL-トリプトファンであってもよいが、これに制限されるものではない。
【0049】
本出願において、用語、「L-アミノ酸を生産する微生物」は、野生型微生物や自然的または人為的に遺伝的変形が起きた微生物をすべて含み、外部遺伝子が挿入されたり、内在的遺伝子の活性が強化されたり不活性化されるなどの原因により特定機序が弱化されたり強化された微生物であって、目的とするL-アミノ酸の生産のために遺伝的変異が起きたり、活性を強化させた微生物であってもよい。本出願の目的上、前記L-アミノ酸を生産する微生物は、前記変異型タンパク質を含んで、目的とするL-アミノ酸の生産能が増加したものであってもよい。具体的には、本出願でL-アミノ酸を生産する微生物またはL-アミノ酸の生産能を有する微生物は、L-アミノ酸生合成経路内の遺伝子の一部が強化または弱化されるか、L-アミノ酸分解経路内の遺伝子の一部が強化または弱化された微生物であってもよい。
【0050】
前記「非変形微生物」は、天然型菌株自体であるか、前記CRP変異体を含まない微生物、または前記CRP変異体をコードするポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換されていない微生物を意味する。前記「微生物」は、L-アミノ酸を生産できる微生物であれば、原核微生物及び真核微生物いずれも含まれてもよい。例えば、エシェリキア(Escherichia)属、エルウィニア(Erwinia)属、セラチア(Serratia)属、プロビデンシア(Providencia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、及びブレビバクテリウム(Brevibacterium)属に属する微生物菌株が含まれてもよい。具体的には、エシェリキア属微生物であってもよく、より具体的には、大腸菌であってもよいが、これに制限されない。
【0051】
本出願のもう一つの様態として、前記cAMP受容タンパク質変異体を含むL-アミノ酸を生産するエシェリキア属微生物を培地で培養する段階を含むL-アミノ酸の生産方法を提供する。
【0052】
前記用語、「cAMP受容タンパク質変異体」、及び「L-アミノ酸」は、前述した通りである。
【0053】
前記の方法において、前記微生物を培養する段階は特に制限されないが、公知の回分式培養方法、連続式培養方法、流加式培養方法などにより行われてもよい。このとき、培養条件は特に制限されないが、塩基性化合物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたはアンモニア)または酸性化合物(例えば、リン酸または硫酸)を用いて、適正pH(例えば、pH5~9、具体的には、pH6~8、最も具体的には、pH6.8)を調節してもよく、酸素または酸素含有ガス混合物を培養物に導入させて好気性条件を維持してもよい。培養温度は20~45℃、具体的には、25~40℃を維持してもよく、約10~160時間培養してもよいが、これに制限されるものではない。前記培養によって生産されたL-アミノ酸は、培地中に分泌されるか細胞内に残留してもよい。
【0054】
また、用いられる培養用培地は、炭素供給源としては、糖及び炭水化物(例えば、グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、糖蜜、澱粉及びセルロース)、油脂及び脂肪(例えば、大豆油、ヒマワリの種油、ピーナッツ油及びココナッツ油)、脂肪酸(例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、及びリノール酸)、アルコール(例えば、グリセロール及びエタノール)及び有機酸(例えば、酢酸)などを個別に用いたり、または混合して用いてもよいが、これに制限されない。窒素供給源としては、窒素含有有機化合物(例えば、ペプトン、酵母抽出液、肉汁、麦芽抽出液、トウモロコシ浸漬液、大豆泊分及びウレア)、または無機化合物(例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、及び硝酸アンモニウム)などを個別に用いたり、または混合して用いてもよいが、これに制限されない。リン供給源としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、これに相応するナトリウム含有塩などを個別に用いたり、または混合して用いてもよいが、これに制限されない。また、培地には他の金属塩(例えば、硫酸マグネシウムまたは硫酸鉄)、アミノ酸及びビタミンのような必須成長促進物質を含んでもよい。
前記方法は、前記微生物または培地からL-アミノ酸を回収する段階をさらに含んでもよい。
【0055】
本出願の前記培養段階で生産されたL-アミノ酸を回収する方法は、培養方法によって当該分野で公知の適切な方法を用いて培養液から目的とするL-アミノ酸を収集(collect)してもよい。例えば、遠心分離、ろ過、陰イオン交換クロマトグラフィー、結晶化及びHPLCなどが用いられてもよく、当該分野で公知の適切な方法を用いて、培地または微生物から目的とするL-アミノ酸を回収してもよい。
【0056】
また、前記回収段階は、精製工程を含んでもよく、当該分野で公知の適切な方法を用いて行われてもよい。したがって、前記の回収されるL-アミノ酸は、精製された形態またはL-アミノ酸を含有した微生物発酵液であってもよい(非特許文献11)。
【0057】
本出願のもう一つの様態として、L-アミノ酸の生産のための配列番号1のアミノ酸配列内に1つ以上のアミノ酸置換を含むcAMP受容タンパク質変異体の用途を提供する。
【0058】
本出願のもう一つの様態として、L-アミノ酸の生産のための前記cAMP受容タンパク質変異体を含むエシェリキア属微生物の用途を提供する。
【0059】
前記用語、「cAMP受容タンパク質変異体」、及び「L-アミノ酸」は、前述した通りである。
【実施例
【0060】
以下、本出願の実施例により、より詳細に説明する。しかし、これらの実施例は、本出願を例示的に説明するためのものであり、本出願の範囲がこれらの実施例により制限されるものではなく、本出願が属する技術分野で通常の知識を有する者にとって明らかであろう。
【0061】
実施例1.組換えベクターpCC1BAC-crpの製作
1-1.遺伝子crp断片の準備
遺伝子crpと発現調節部位を含む配列番号5のDNA断片約0.96kbを得るために、Qiagen(社)のGenomic-tipシステムを用いて大腸菌野生株であるW3110の染色体DNA(gDNA)を抽出し、前記gDNAを鋳型としてPCR HL premix kit(BIONEER社製、以下同じ)を用いてPCR(polymerase chain reaction)を行った。遺伝子crp断片部位を増幅させるためのPCRは、配列番号6及び7のプライマーを用いて95℃で30秒の変性(denaturation)、56℃で30秒のアニーリング(annealing)、及び72℃で2分の伸長(elongation )からなるサイクルを27回繰り返し行った。
【0062】
前記PCR結果物をEcoRIで切断し、0.96Kbの大きさのDNA断片(以下、「crp断片」と命名した)を0.8%アガロースゲル(agarose gel)で電気泳動した後、溶離して収得した。
【0063】
【表1】
1-2.組換えベクターpCC1BAC-crpの製作
Copycontrol pCC1BACベクター(EPICENTRE、USA)をEcoRIで処理して0.8%アガロースゲル(agarose gel)で電気泳動した後、溶出して収得し、実施例1-1で得られたcrp断片をライゲーション(ligation)させて pCC1BAC-crpプラスミドを作製した。
【0064】
実施例2.組換えベクターpCC1BAC-crp変異体ライブラリの作製
2-1.error-prone PCRを用いた突然変異crp断片の準備
野生型大腸菌であるW3110染色体DNAを鋳型にclonetech社diversify PCR random mutagenesis kit(catalog#:K1830-1、TableIII、mutagenesis reactions 4)を用いてPCRを行った。具体的には、PCRは実施例1-1で用いられた配列番号6及び7のプライマーを用い、94℃で30秒の変性(denaturation)、68℃で1分の伸長(elongation)からなるサイクルを27回繰り返して行った。
【0065】
前記PCR結果物をEcoRIで切断し、0.96Kbサイズの突然変異されたcrp断片(以下、「crp断片」と命名した)を0.8%アガロースゲル(agarose gel)で電気泳動した後、溶離して収得した。
【0066】
2-2.組換えベクターpCC1BAC-crp変異体ライブラリの作製
ベクターpCC1BACを制限酵素EcoRIで処理した後、アルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase(NEB))を処理して準備した。用意されたベクターに実施例2-1で収得したcrp断片をライゲーション(ligation)させてTransforMax EPI300 Electrocompetent E.coli(EPICENTRE、USA)に電気穿孔法を用いて形質転換した。形質転換させた菌株は、クロラムフェニコールを含むLB固体培地(15μg/ml)でコロニー(colony)を選別した。このように獲得されたコロニーを集めてプラスミドプレップ(plasmid prep)を行い、pCC1BAC-crplibraryを作製した。
【0067】
実施例3.crp変異体ライブラリのトレオニン生産菌株の導入及び成長が改善された菌体の選別
3-1.pCC1BAC-crplibraryのトレオニン生産菌株の導入
実施例2で収得したpCC1BAC-crplibraryをトレオニンを生産する微生物KCCM10541のelectroコンピテントセルに電気穿孔法を用いて形質転換(transformation)させて導入した。本実施例で用いられた大腸菌KCCM10541(特許文献1)は、L-トレオニンを生産する大腸菌KFCC10718(特許文献2)からgalR遺伝子が不活性化された大腸菌である。
【0068】
pCC1BAC-crplibraryが導入された微生物の対照群として、KCCM10541にpCC1BAC-crpを前記のような方法で形質転換し、KCCM10541/pCC1BAC-crp(WT)を作製した。
【0069】
3-2.組換え微生物の成長速度の比較
1%グルコース(glucose)、0.2g/Lの酵母抽出物(yeast extract)が含まれたM9最小培地をディープウェルマイクロプレートに分注した後、前記実施例3-1で作られた形質転換体及び対照群菌株を接種した。マイクロサイズ恒温培養器シェーカー(Micro size constant temperature incubator shaker、TAITEC、Japan)を用いて(37℃、200rpmの条件)、HTS(High Throughput Screening)の方法で20時間、前記菌株を培養して成長が改善された菌株を選別し、そのうち、最終的に1種の菌株を選別した(表2)。
【0070】
野生型crp遺伝子が導入されたKCCM10541菌株の場合、crp追加導入によって若干のOD増加を示すが、成長が改善された形質転換体の場合、ODが同じ培養時間の後、野生型crpに比べて高く測定されることを確認した。また、選別されたcrp変異体に対してプラスミドミニプレップ(plasmid mini-prep)の後に配列分析を行い、その結果は表2にまとめた。
【0071】
【表2】
3-3.組換え微生物のトレオニン力価の比較
前記実施例3-2で選別された組換え微生物のトレオニン力価を測定するために、下記表3の組成に従って製造されたトレオニン力価培地で培養し、L-トレオニン生産性の向上を確認した。
【0072】
【表3】
具体的には、33℃培養機(incubator)内のLB固体培地で一晩培養した大腸菌KCCM10541/pCC1BAC-crp(WT)及び大腸菌KCCM10541/pCC1BAC-crpTM4をそれぞれ前記表3の25mLの力価培地に一白金耳ずつ接種した後、これを33℃、200rpmの培養機で48時間培養して糖の消耗速度及びトレオニン濃度を比較した。
【0073】
その結果、下記表4に記載されたように、対照群であるKCCM10541/pCC1BAC-crp(WT)菌株は、24時間で消耗糖が26.1g/Lであるが、突然変異crpTM4を導入した菌株は、親菌株に比べて約16%、野生型crpを追加導入した菌株に比べて約11%改善された糖の消耗速度を示すことが確認された。
【0074】
また、L-トレオニン生産量の場合、48時間培養したとき、野生型crpを追加導入した菌株の場合は29.0g/Lを生産したが、前記で得られた突然変異菌株は培養速度が増加したにもかかわらず、L-トレオニンの生産量が31.0g/Lまで増加されて、親菌株に比べて約8%、野生型crpを追加導入した菌株に比べて約7%増加した濃度を示すことを確認した。
【0075】
これは、crp変異型の導入によって収率が増加し、菌体の糖消耗能を増加させうるよい変異形質と思われ、発酵時の生産効率の向上に大きく寄与できるものと思われる。
【0076】
【表4】
24時間測定値、**48時間測定値
実施例4.pCC1BAC-crpTM4変異体のトリプトファン生産菌株の導入
4-1.pCC1BAC-crpTM4のスクリーニング菌株の導入
実施例3で得られたpCC1BAC-crpTM4をトリプトファンを生産する菌株KCCM11166Pのelectroコンピテントセルに電気穿孔法を用いて形質転換(transformation)させて導入した。本実施例で用いられたKCCM11166PはtehB遺伝子が欠失され、NADキナーゼの活性が強化されたL-トリプトファン生産大腸菌である( 特許文献3)。
【0077】
pCC1BAC-crpTM4が導入された微生物の対照群として、KCCM11166PにpCC1BAC-crp(WT)を前記のような方法で形質転換してKCCM11166P/pCC1BAC-crp(WT)を作製した。
【0078】
4-2.組換え微生物の成長速度の比較
1%グルコース、0.2g/Lの酵母抽出物が含まれたM9最小培地をディープウェルマイクロプレートに分注した後、前記実施例4-1で記述したように作られた形質転換体及び対照群菌株を接種した。マイクロサイズ恒温培養器シェーカー(Micro size constant temperature incubator shaker、TAITEC、Japan)を用いて(37℃、200rpmの条件)、HTS(High Throughput Screening)の方法で16時間前記菌株を培養して、KCCM11166P/pCC1BAC-crpTM4形質転換体の成長が改善されることを確認した(表5)。
【0079】
野生型crp遺伝子が導入されたKCCM11166P菌株の場合、crp追加導入によって同じ培養時間後に測定したとき、同等レベルのODを示すが、成長が改善された形質転換体の場合、ODが野生型crpに比べて高く測定されることを確認した。
【0080】
【表5】
4-3.組換え微生物のトリプトファン力価の比較
前記実施例4-2で製造した組換え微生物のトリプトファン力価を測定するために、下記表6の組成に従って製造されたトリプトファン力価培地で培養し、L-トリプトファン生産効率の向上を確認した。
【0081】
【表6】
具体的には、37℃培養機(incubator)でLB固体培地上に一晩培養した大腸菌KCCM11166P/pCC1BAC-crp(WT)及び大腸菌KCCM11166P/pCC1BAC-crpTM4をそれぞれ前記表6の25mLの力価培地に一白金耳ずつ接種した後、これを37℃、200rpmの培養機で48時間培養して、糖の消耗速度及びトリプトファン濃度を比較した。その結果、下記表7に記載されたように、対照群であるKCCM11166P/pCC1BAC-crp(WT)菌株は、22時間で消耗糖が30.2g/Lであるが、突然変異型crpTM4を導入した菌株は、親菌株に比べて約146%、野生型crpを追加導入した菌株に比べて約9%まで改善された糖の消耗速度を示すことが確認された。
【0082】
L-トリプトファン生産量の場合、48時間培養したとき、野生型crpを追加導入した菌株の場合は、8.4g/Lを生産したが、前記で得られた変異体菌株は、培養速度が増加したにもかかわらず、L-トリプトファンの生産量が9.7g/Lまで増加されて、親菌株に比べて約18%、野生型crpを追加導入した菌株に比べて約15%増加した濃度を示すことが確認された。
【0083】
これは、crp変異型の導入によって菌体の糖消耗能の増加され、収率も向上させうる良い変異形質と思われるし、発酵時の生産性の向上に大きく寄与できるものと思われる。
【0084】
【表7】
22時間測定値、**48時間測定値
実施例5.有効crp変異型内在ベクターの野生型大腸菌の導入
5-1.有効pCC1BAC-crp変異型の野生型由来のトレオニン生産菌株の導入
前記実施例3でスクリーニングされたcrp変異型を含むベクターが野生型菌株でも同等の効果を示すかを確認するために、pCC1BAC-crp(WT)及びpCC1BAC-crpTM4のベクターをトレオニンを生成できる野生型由来の菌株に電気穿孔法を用いて形質転換(transformation)させて導入した。また、対照群としてpCC1BAC-crp(WT)を導入した菌株も製作した。
【0085】
本実施例で用いられたトレオニンを生成できる野生型由来の菌株は、W3110::PcysK-ppc/pACYC184-thrABCであり、W3110::PcysK-ppc/pACYC184-thrABCは染色体上のホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼをコードするppc遺伝子のネイティブプロモーターをcysK遺伝子のプロモーターに置換し、トレオニン生合成オペロンの遺伝子をベクター形態で導入してコピー数を増加させてトレオニン生成量を増加させた菌株である。具体的には、特許文献4に記載された方法に従ってpUCpcycKmloxPを用い、W3110::PcycK-ppc菌株を製作した後、前記菌株にpACYC184-thrABC(特許文献5)を電気穿孔法を用いて形質転換した。
【0086】
前記製造された菌株は、下記表8の組成に従って製造されたトレオニン評価培地で培養し、成長速度とL-トレオニン生産能を比較した。
【0087】
【表8】
具体的には、33℃培養機(incubator)でLB固体培地中に一晩培養したW3110は、それぞれの菌株を表8の25mLの力価培地に一白金耳ずつ接種した後、これを33℃、200rpmの培養機で48時間培養し、その結果を下記表9に示した。下記結果から分かるように、野生型菌株でも、本出願で選別した変異型タンパク質がトレオニンを高収率で効率的に生産できることを示唆しているものである。
【0088】
【表9】
5-2.有効pCC1BAC-crp変異型の野生型由来のトリプトファン生産菌株の導入
前記実施例4でスクリーニングされたcrp変異型を含むベクターが野生型菌株でも同等の効果を示すかを確認するために、pCC1BAC-crp(WT)及びpCC1BAC-crpTM4のベクターをトリプトファンを生産できる野生型由来菌株に形質転換(transformation)させて導入した。
【0089】
本実施例に用いられたトリプトファンを生産できる野生型由来菌株はW3110 trp△2/pCL-Dtrp_att-trpEDCBAであって、トリプトファンオペロンの調節部位の調節メカニズムが解除され、トリプトファンを過剰生産できるようにトリプトファンオペロンの発現が強化されたベクターが導入された菌株である(特許文献6)。ベクターが導入された菌株は、下記表10の組成に従って製造されたトリプトファンの評価培地で培養し、L-トリプトファン生産能を比較した。
【0090】
【表10】
具体的には、37℃培養機(incubator)でLB固体培地上に一晩培養した菌株をそれぞれ前記表9の25mL評価培地に一白金耳ずつ接種した後、これを37℃、200rpmの培養機で48時間培養してOD及びトリプトファン濃度を比較して、表11に示した。下記結果から分かるように、野生型菌株でも、本出願で選別した変異型タンパク質がトリプトファンを高収率で効率的に生産できることを示唆しているものである。
【0091】
【表11】
本発明者らはKCCM11166Pの菌株基盤、pCC1BAC-crpTM4が導入されてトリプトファン生産能及び糖消耗速度が改善された菌株(KCCM11166P/pCC1BAC-crpTM4)を「CA04-2807」と命名した後、ブダペスト条約下で国際寄託機関である韓国微生物保存センター(KCCM)に2018年11月07日付で寄託し、受託番号KCCM12375Pを与えられた。
【0092】
前記のような結果は、本出願のcrp変異体が導入されたエシェリキア属微生物で糖の消耗速度が改善されて、L-アミノ酸生成能が増加され、結果的に非変形菌株よりL-アミノ酸の生産能が増加されることを示唆する。
【0093】
以上の説明から、本発明が属する技術分野の当業者は、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更せず、他の具体的な形態で実施されうることを理解できるだろう。これに関連し、以上で記述した実施例はすべての面で例示的なものであり、限定的なものではないものと理解しなければならない。本発明の範囲は、前記詳細な説明より、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導き出されるすべての変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
【0094】
【配列表】
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