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特許6997331アシルヒドラジン誘導体を含む抗炎症組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】アシルヒドラジン誘導体を含む抗炎症組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/404 20060101AFI20220107BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220107BHJP
   A61P 17/04 20060101ALI20220107BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20220107BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220107BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20220107BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20220107BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20220107BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
A61K31/404
A61P17/00
A61P17/04
A61P17/06
A61P29/00
A61P37/08
A23L33/10
A61K8/49
A61Q19/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020541492
(86)(22)【出願日】2019-01-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-20
(86)【国際出願番号】 KR2019000482
(87)【国際公開番号】W WO2019151676
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-08-06
(31)【優先権主張番号】10-2018-0011046
(32)【優先日】2018-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】505448855
【氏名又は名称】コリア リサーチ インスティテュート オブ バイオサイエンス アンド バイオテクノロジー
【氏名又は名称原語表記】KOREA RESEARCH INSTITUTE OF BIOSCIENCE AND BIOTECHNOLOGY
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】キム、ボヨン
(72)【発明者】
【氏名】ファン、ジュンソン
(72)【発明者】
【氏名】ソン、ナクキョン
(72)【発明者】
【氏名】アン、ジョンソグ
(72)【発明者】
【氏名】リー、キョンホ
(72)【発明者】
【氏名】ムン、ジョン
(72)【発明者】
【氏名】スリニバスラオ、ガニピセッティ
(72)【発明者】
【氏名】チャ、ヒョンジュ
(72)【発明者】
【氏名】アン、ミジャ
(72)【発明者】
【氏名】リー、ヒグ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン、ジェ-ヒョク
(72)【発明者】
【氏名】リュ、インジャ
(72)【発明者】
【氏名】コ、ソン-キョン
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2017-0098170(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0032916(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2007-0029106(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0246024(US,A1)
【文献】Annu. Rev. Pathol. Mech. Dis.,2013年,Vol.8,pp.477-512
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A61K 8/00
A23L 33/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表される化合物、その立体異性体又はその薬学的に許容可能な塩を含む、皮膚炎、乾癬、湿疹、そう痒症、皮膚の痒み、じんましん、特発性慢性じんましんおよび強皮症からなる群から選択される炎症性疾患の予防又は治療用薬学的組成物:
【化1】
前記化学式1において、RはC-Cアルキル又は-(CH(C=O)ORであり、RはC-Cアルキルであり、mは0、1、2又は3である。
【請求項2】
がメチルであり、Rがメチル又はエチルである、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記化学式1で表される化合物が下記化学式から選択されるいずれかである、請求項1に記載の薬学的組成物:
【化2】
【請求項4】
前記炎症性疾患が皮膚炎である、請求項に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記皮膚炎がアトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎又はアレルギー性皮膚炎である、請求項に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記薬学的組成物が炎症性サイトカイン発現を抑制するためのものである、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
前記サイトカインがインターロイキン(IL)-2、インターロイキン-4又はインターロイキン-13を含む、請求項に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
前記薬学的組成物が皮膚の紅斑又は皮膚の乾燥症状を抑制するためのものである、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
前記薬学的組成物が上皮過形成(epidermal hyperplasia)を抑制するためのものである、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
前記薬学的組成物が経皮投与又は経口投与される、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
下記化学式1で表される化合物又はその立体異性体を含む、皮膚炎、乾癬、湿疹、そう痒症、皮膚の痒み、じんましん、特発性慢性じんましんおよび強皮症からなる群から選択される炎症性疾患の予防又は改善用食品組成物:
【化3】
前記化学式1において、RはC-Cアルキル又は-(CH(C=O)ORであり、RはC-Cアルキルであり、mは0、1、2又は3である。
【請求項12】
下記化学式1で表される化合物又はその立体異性体を含む、皮膚炎の予防又は改善用化粧料組成物:
【化4】
前記化学式1において、RはC-Cアルキル又は-(CH(C=O)ORであり、RはC-Cアルキルであり、mは0、1、2又は3である。
【請求項13】
皮膚炎、乾癬、湿疹、そう痒症、皮膚の痒み、じんましん、特発性慢性じんましんおよび強皮症からなる群から選択される炎症性疾患を予防又は治療するための医薬の製造のための下記化学式1で表される化合物又はその立体異性体を含む組成物の使用:
【化5】
前記化学式1において、RはC-Cアルキル又は-(CH(C=O)ORであり、RはC-Cアルキルであり、mは0、1、2又は3である。
【請求項14】
下記化学式1で表される化合物、その立体異性体又はその薬学的に許容可能な塩を含む、皮膚の紅斑又は皮膚の乾燥症状の改善用化粧料組成物:
【化6】
前記化学式1において、RはC-Cアルキル又は-(CH(C=O)ORであり、RはC-Cアルキルであり、mは0、1、2又は3である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化1で表される化合物、その立体異性体又はその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む炎症性疾患の予防、改善又は治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アトピー性皮膚炎は、現代人に頻繁に発生し、医学的に原因不明な慢性皮膚疾患である。一般に、アトピー性皮膚炎は、ヒトの免疫システムの不均衡によってもたらされた疾患として知られている。近来、国内外でアトピー性皮膚炎の発病が小児から成人に至るまで広範囲に発生しており、これに対する効果的な治療剤の開発が求められている。
【0003】
今日、ステロイド系のアトピー性皮膚炎抑制剤が治療剤として使用されている。しかし、アトピー性皮膚炎の病因を正確に診断できる診断法と、これに伴う正確なカスタマイズ治療法がないので、アトピー性皮膚炎の根本的な解決方法ではない一時的な軽減効果があり、且つ、耐性が生じる副作用があることが知られている。したがって、免疫学的治療及び抗炎症効果に優れ、副作用がほとんどなく、長期間使用できる薬剤の開発が急がれているのが実情である。
【0004】
一方、大韓民国公開特許公報第10-2014-0032916号において、N-メチレンナフト[2,1-b]フラン-2-カルボヒドラジド誘導体が細胞分裂を有意に抑制し、多剤耐性を示す癌細胞に効果的に作用する点が開示されている。また、大韓民国公開特許公報第10-2017-0098170号において、安定性と溶解度が改善された癌細胞増殖抑制効果を示すインドール誘導体化合物が開示されている。上記文献には、アシルヒドラジン誘導体化合物が、一部癌細胞の増殖抑制に効果的に使用し得ることが開示されているが、炎症性疾患の抑制効果については全く開示されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、効果的な炎症性疾患の予防及び治療剤を開発すべく研究した結果、アシルヒドラジン誘導体化合物が炎症誘発動物モデル及び細胞株モデルにおいて優れた抗炎症効果を示し、炎症性疾患の予防又は治療剤として用いることができることを確認し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、
本発明の一側面は、アシルヒドラジン誘導体化合物、その立体異性体又はその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む炎症性疾患の予防又は治療用薬学的組成物を提供する。
【0007】
本発明の他の側面は、上記化合物又はその立体異性体を有効成分として含む炎症性疾患の予防又は改善用食品組成物を提供する。
【0008】
本発明のもう一つの側面は、前記化合物又はその立体異性体を有効成分として含む皮膚炎の予防又は改善用化粧料組成物を提供する。
【0009】
本発明のもう一つの側面は、炎症性疾患を予防又は治療するための上記薬学的組成物の用途を提供する。
【0010】
本発明のもう一つの側面は、炎症性疾患の予防又は治療用薬剤を製造するための上記薬学的組成物の用途を提供する。
【0011】
本発明のもう一つの側面は、上記薬学的組成物を処理する段階を含む炎症性疾患を予防又は治療する方法を提供する。
【0012】
本発明のもう一つの側面は、皮膚炎を予防又は改善するための上記化粧料組成物の用途を提供する。
【0013】
本発明のもう一つの側面は、皮膚炎の予防又は改善用化粧品を製造するための上記化粧料組成物の用途を提供する。
【0014】
本発明のもう一つの側面は、上記化粧料組成物を処理する段階を含む皮膚炎を予防又は改善する方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のアシルヒドラジン誘導体化合物、その立体異性体又はその薬学的に許容可能な塩は、炎症性サイトカイン及び炎症性シグナル伝達経路を効果的に抑制し、皮膚炎などのような炎症性疾患の症状を効果的に改善することができる。したがって、本発明に係る組成物は、炎症性疾患の予防、改善又は治療のために有用に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】背中に皮膚炎を誘発させたマウスを用いて、アシルヒドラジン誘導体化合物の皮膚炎抑制効果を肉眼で確認した図である。
図2a】背中に皮膚炎を誘発させたマウスにアシルヒドラジン誘導体化合物又はCyclosporine Aを処理した後、皮膚組織内のIL-4の発現量を示す図である。
図2b】背中に皮膚炎を誘発させたマウスにアシルヒドラジン誘導体化合物又はCyclosporine Aを処理した後、皮膚組織内のIL-13の発現量を示す図である。
図2c】背中に皮膚炎を誘発させたマウスにアシルヒドラジン誘導体化合物又はCyclosporine Aを処理した後、皮膚組織内のIL-2の発現量を示す図である。
図3a】表皮をなす基底層、有棘層、顆粒層及び角層と各層の発現マーカーを示す図である。
図3b】背中に皮膚炎を誘発させたマウスにアシルヒドラジン誘導体化合物又はCyclosporine Aを処理した後、皮膚組織内のK14(Keratin 14)の発現量を示す図である。
図3c】背中に皮膚炎を誘発させたマウスにアシルヒドラジン誘導体化合物又はCyclosporine Aを処理した後、皮膚組織内のK1(Keratin 1)の発現量を示す図である。
図3d】背中に皮膚炎を誘発させたマウスにアシルヒドラジン誘導体化合物又はCyclosporine Aを処理した後、皮膚組織内のFLG(Filaggrin gene)の発現量を示す図である。
図4】耳に皮膚炎を誘発させたマウスを用いてアシルヒドラジン誘導体化合物の皮膚炎抑制効果を肉眼で確認した図である。
図5】耳に皮膚炎を誘発させたマウスにアシルヒドラジン誘導体化合物又はCyclosporine Aを処理した後、皮膚組織をヘマトキシリン及びエオシンで染色した写真である。
図6a】耳に皮膚炎を誘発させたマウスにアシルヒドラジン誘導体化合物又はCyclosporine Aを処理した後、皮膚組織内のIL-4の発現量を示す図である。
図6b】耳に皮膚炎を誘発させたマウスにアシルヒドラジン誘導体化合物又はCyclosporine Aを処理した後、皮膚組織内のIL-13の発現量を示す図である。
図6c】耳に皮膚炎を誘発させたマウスにアシルヒドラジン誘導体化合物又はCyclosporine Aを処理した後、皮膚組織内のIL-2の発現量を示す図である。
図7】耳に皮膚炎を誘発させたマウスにアシルヒドラジン誘導体化合物又はCyclosporine Aを処理した後、皮膚組織内の免疫細胞数を測定した図である。
図8a】耳に皮膚炎を誘発させたマウスにアシルヒドラジン誘導体化合物又はCyclosporine Aを処理した後、皮膚組織内のK14の発現量を示す図である。
図8b】耳に皮膚炎を誘発させたマウスにアシルヒドラジン誘導体化合物又はCyclosporine Aを処理した後、皮膚組織内のK1の発現量を示す図である。
図9】免疫細胞株を用いてアシルヒドラジン誘導体化合物の炎症性シグナル伝達経路の抑制効果を確認した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体的に説明する。なお、本発明において開示された各説明及び実施形態は、それぞれに対する他の説明及び実施形態にも適用することができる。すなわち、本発明に開示された様々な要素らのすべての組み合わせが本発明の範疇に属する。また、下記において記述された具体的な叙述により本発明の範疇が制限されるものではない。
【0018】
本発明は、下記化1で表されるアシルヒドラジン誘導体化合物、その立体異性体又はその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、炎症性疾患の予防又は治療用薬学的組成物を提供する:
【化1】
上記式中、RはC-Cアルキル又は-(CH)m(C=O)ORであり、RはC-Cアルキルであり、mは0、1、2又は3である。具体的には、上記Rはメチル、エチル、プロピル又はブチルであってもよい。また、Rはmが0であるとき、-(C=O)ORであってもよく、mが1であるとき、-(CH)(C=O)ORであってもよく、mが2であるとき、-(CH(C=O)ORであってもよく、-(CH(C=O)ORであってもよい。また、Rはメチル、エチル、プロピル又はブチルであってもよい。
【0019】
本発明の一実施形態によれば、上記化1で表される化合物において、Rはメチルであってもよい。本発明のもう一つの一実施形態によれば、上記化1で表される化合物において、Rはメチル又はエチルであってもよい。
【0020】
本発明の一実施形態において、上記化1で表される化合物は、下記化2の化合物であってもよい:
【化2】
上記式の化合物は、エチル(2-メチル-3-(E)-{[(ナフト[2,1-b]フラン-2-イルカルボニル)ヒドラゾノ]メチル}-1H-インドール-1-イル)酢酸と命名され、本明細書において簡略にWCI-1004と命名される。
【0021】
本発明の一実施形態において、上記化1で表される化合物は、下記化3の化合物であってもよい:
【化3】
上記式の化合物は、(E)-N’-(1,2-ジメチル-1H-インドール-3-イル)メチレン)ナフト[2,1-b]フラン-2-カルボヒドラジドと命名され、本明細書において簡略にWCI-1015と命名される。
【0022】
本発明の一実施形態において、上記化1で表される化合物は、下記化4の化合物であってもよい:
【化4】
上記式の化合物は、メチル(E)-2-(2-メチル-3-((2-(ナフト[2,1-b]フラン-2-カルボニル)ヒドラゾノ)メチル)-1H-インドール-1-イル)酢酸と命名され、本明細書において簡略にWCI-1031と命名される。
【0023】
本発明において、上記化1で表される化合物は、例えば、大韓民国公開特許公報第10-2017-0098170号に開示され方法で製造することができるが、これらに限定されるものでない。
【0024】
本発明において、薬学的に許容可能な塩は、医薬業界において一般に用いられる塩を意味する。例えば、カルシウム、カリウム、ナトリウム、及びマグネシウムなどで製造された無機イオン塩、塩酸、硝酸、リン酸、臭素酸、ヨウ素酸、過塩素酸、及び硫酸などで製造された無機酸塩、酢酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、マレイン酸、コハク酸、シュウ酸、安息香酸、酒石酸、フマル酸、マンデル酸、プロピオン酸、クエン酸、乳酸、グリコール酸、グルコン酸、ガラクツロン酸、グルタミン酸、グルタル酸、グルクロン酸、アスパラギン酸、アスコルビン酸、炭素酸、バニリン酸、ヨウ化水素酸などで製造された有機酸塩、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、及びナフタレンスルホン酸などで製造されたスルホン酸塩、グリシン、アルギニン、リシンなどで製造されたアミノ酸塩、及びトリメチルアミン、トリエチルアミン、アンモニア、ピリジン、ピコリンなどで製造されたアミン塩などがあるが、列挙されたこれらの塩により、本発明において意味する塩の種類が限定されるものではない。
【0025】
本発明の化1で表される化合物は、1つ以上の非対称炭素を含有することができる。これにより、ラセミ体、ラセミ混合物、単一エナンチオマー、部分立体異性体の混合物、及びそれぞれの部分立体異性体として存在することができる。このような異性体、例えば、化1で表される化合物は、カラムクロマトグラフィー又はHPLCなどの分割により分離が可能である。或いは、化1で表される化合物のそれぞれの立体異性体は、公知の配列された光学的に純粋な出発物質及び/又は試薬を用いて立体特異的に合成することができる。
【0026】
本発明に係る前記化1で表されるアシルヒドラジン誘導体化合物、その立体異性体又はその薬学的に許容可能な塩は、炎症性疾患の予防又は治療に有用に使用することができる。
【0027】
本明細書にて使用される用語「炎症性疾患」は、痛み(有害物質の生成及び神経刺激による疼痛)、発熱(血管拡張による熱)、発赤(血管拡張及び血流増加による潮紅)、腫脹(流体の過剰な流入又は制限された流出による腫瘍)、及び機能不全(部分的に又は完全に、一時的又は恒久的といえるような機能喪失)の兆候のうち一つ以上を特徴とする状態を指す。本発明に係る化1の化合物が用いられる炎症性疾患の非限定的な例としては、皮膚炎、アレルギー、乾癬、湿疹、そう痒症(pruritis)、痒み、じんましん、特発性慢性じんましん、強皮症、鼻ポリープ、鼻炎、慢性副鼻腔炎、鼻充血、鼻のかゆみ、喘息、慢性閉塞性肺疾患、関節リウマチ、結膜炎、角結膜炎、目炎、眼球乾燥症、心不全、不整脈、アテローム性動脈硬化症、多発性硬化症、炎症性腸疾患、炎症性痛、神経性疼痛、骨関節炎の痛みと甲状腺自己免疫疾患を含むが、これに制限されるものではない。
【0028】
本発明の一実施形態において、炎症性疾患は皮膚炎であってもよい。本発明において、上記皮膚炎は、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、アレルギー性皮膚炎、にきび、湿疹、酒さ、乾癬、及び脂性肌、接触伝染性膿痂疹を含むが、これに制限されるものではない。
【0029】
本発明の一実施形態において、皮膚炎は、アトピー性皮膚炎であってもよい。本発明において、用語アトピー性皮膚炎は、他のアトピー性疾患、例えば、アレルギー性鼻炎、及び喘息とよく関連付けられる、炎症性であり、再発性であり、非-感染性であり、掻痒症である慢性皮膚疾患を指す。発生部位又はこれらの外観又はこれらを誘発するストレス要因から名付けられる特定形態のアトピー性皮膚炎もまた本発明における用語アトピー性皮膚炎に含まれる。アトピー性皮膚炎は、乾燥した湿疹性皮膚、丘疹、激しいかゆみなどのような症状をあらわし、アトピー患者の病変サンプルから上皮過形成症(epidermal hyperplasia)、表皮増殖及びリンパ球と肥満細胞の蓄積などが確認される。アトピー性皮膚炎患者は、一般的に激しいかゆみを患っており、これにより、皮膚病変の炎症が誘発されてかゆみをさらに悪化させ、臨床症状をさらに悪化させる。
【0030】
本発明の実施例において、化1で表される化合物は、皮膚炎誘発動物モデルにおいて、皮膚紅斑、及び皮膚乾燥症状を抑制し(図1及び4)、炎症性サイトカインの発現と上皮過形成症状を効果的に抑制するばかりでなく(図2a~2c、図3a~3d、図6a~6c、図8a及び8b)、免疫細胞株において炎症性シグナル伝達経路を効果的に抑制することが確認され(図9)、皮膚炎を含む炎症性疾患の治療剤として有効に活用することができる点が確認された。
【0031】
本発明において、用語「炎症性サイトカイン」とは、体内で発生する炎症反応を誘発させるサイトカインを意味し、本発明が属する技術分野において通常の意味として使用される。例えば、皮膚炎の誘発にIL-2、IL-4及びIL-13などが炎症性サイトカインとして作用することができる。
【0032】
上記薬学的組成物は、抗炎症活性を示す有効成分を1種以上さらに含むことができる。
【0033】
上記薬学的組成物は、薬剤学的に許容可能な添加剤をさらに含むことができる。この時、薬剤学的に許容可能な添加剤としては、澱粉、ゼラチン化澱粉、微結晶セルロース、乳糖、ポビドン、コロイダル二酸化ケイ素、リン酸水素カルシウム、ラクトース、マンニトール、飴、アラビアゴム、澱粉の糊化、トウモロコシ澱粉、粉末セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、オパドライ、澱粉グリコール酸ナトリウム、カルナウバー鉛、合成ケイ酸アルミニウム、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、白糖、デキストロース、ソルビトール、及びタルクなどが用いられることができる。本発明に係る薬剤学的に許容可能な添加剤は、上記組成物に対して0.1~90重量部含まれることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0034】
上記薬学的組成物は、実際の臨床投与時、経口及び非経口のさまざまな剤形で投与されることができる。製剤化する場合には、通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩解剤、界面活性剤などの希釈剤又は賦形剤を使用して調製することができる。経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれることができる。これらの固形製剤は、タバコ葉の抽出物に少なくとも一つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム(calcium carbonate)、スクロース(sucrose)、ラクトース(lactose)又はゼラチンなどを混ぜて調剤することができる。また、単純な賦形剤以外にマグネシウムスチレートタルクなどの潤滑剤も使用することができる。経口のための液状製剤としては、懸濁剤、内用液剤、乳剤及びシロップ剤などが該当するが、よく用いられる単純希釈剤である水、リキッドパラフィン以外にさまざまな賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが含まれることができる。非経口投与のための製剤には、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤が含まれることができる。非水性溶剤、懸濁溶剤はプロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物油、オレイン酸エチルのような注射可能なエステルなどが使用され得る。坐剤の基剤としては、ウィテプソル(witepsol)、マクロゴール、ツイン(tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどが使用され得る。
【0035】
上記薬学的組成物は、目的とする方法に基づいて経口投与するか、又は非経口投与することができる。非経口投与する際、経皮投与、皮膚外用、腹腔内注射、直腸内注射、皮下注射、静脈内注射、筋肉内注射又は胸部内注射注入方式を選択することができ、例えば、経皮投与することができる。投与量は、患者の体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率及び疾患の重症度などによってその範囲が多様である。
【0036】
上記薬学的組成物は、薬剤学的に有効な量で投与する。本発明において、「薬剤学的に有効な量」は、医学的治療に適用可能な合理的な恩恵/リスク比であって、疾患を治療するのに十分な量を意味する。上記有効な量は、患者の疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する感度、投与時間、投与経路、及び排出割合、治療期間、同時に使用される薬物を含む要素及びその他の医学分野でよく知られている要素によって決定することができる。
【0037】
本発明の組成物は、治療剤として個別に投与するか、又は他の治療剤と併用して投与することができ、従来の治療剤とは、順次又は同時に投与することができ、単一又は複数投与することができる。上記した要素をすべて考慮し、副作用なく最小限の量で最大効果が得られる量を投与することが重要である。これは当業者によって容易に決定することができる。
【0038】
具体的には、本発明に係る化合物の有効量は、患者の年齢、性別、体重によって変わり得る。一般的には体重1kg当たり0.1mg~100mg、好ましくは0.5mg~10mgを毎日、隔日又は週に1~5回投与するか、又は1日1~5回に分けて投与することができる。しかし、投与経路、重症度、性別、体重、年齢などによって増減し得るので、上記投与量はどのような方法であっても本発明の範囲を限定するものではない。
【0039】
本発明の化1で表される化合物は、皮膚炎誘発マウスモデルにおいて、優れた炎症抑制活性を示しているので、これらを有効成分として含む組成物は、炎症の予防又は改善用食品組成物として有用に使用することができる。
【0040】
上記食品組成物は、通常、他の食品組成物、健康機能食品又は飲料に添加剤などをさらに含むことができる。
【0041】
例えば、上記食品組成物は、白糖、結晶果糖、ブドウ糖、D-ソルビトール、マンニトール、イソマルトオリゴ糖、ステビオサイド、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロースなどの甘味料、無水クエン酸、DL-リンゴ酸、コハク酸及びその塩などの酸味剤、安息香酸及びその誘導体などの保存剤、数々の栄養剤、ビタミン、鉱物(電解質)、合成風味剤及び天然風味剤などの風味剤、着色剤及び香味増強剤(チーズ、チョコレートなど)、フェクト酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、有機酸、保護コロイド性増粘剤、pH調整剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に使用される炭酸化剤などを含有することができる。また、上記食品組成物らは、天然果実ジュース、及び野菜飲料を製造するための果肉を含有することができる。これらの添加剤の割合は、本発明の食品組成物100重量部当たり約20重量部以下の範囲で使用することができる。
【0042】
上記食品組成物が飲料である場合、飲料に通常含まれる香味剤又は天然炭水化物をさらに含むことができる。上記天然炭水化物は、ブドウ糖、果糖のようなモノサッカライド、マルトース、スクロースなどのようなジサッカライド、デキストリン、シクロデキストリンなどのようなポリサッカライド又はキシリトール、ソルビトール、エリスリトールなどのような糖アルコールであってもよい。また、前記香味剤としては、ソーマチン、ステビア抽出物(レバウディオシドA、グリチルリチンなど)の天然香味剤又はサッカリン、アスパルテームなどのような合成香味剤であってもよい。上記食品組成物が飲料である場合、天然炭水化物は組成物100ml当たり、一般的に約1g~20g、好ましくは約5g~12g含むことができる。
【0043】
上記食品組成物は、粉末、顆粒、錠剤、カプセル又は飲料形態で製造され、食品類、飲料、ガム、お茶、ビタミン複合剤、健康補助食品類として用いられることができる。
【0044】
また、本発明の化1で表される化合物は、皮膚炎誘発マウスモデルにおいて、優れた炎症抑制活性を示しているので、これらを有効成分として含む組成物は、皮膚炎の予防又は改善用化粧料組成物としても有用に使用することができる。
【0045】
上記化粧料組成物は、当業界において一般的に製造される任意の剤形でも製造することができる。例えば、溶液、懸濁液、乳濁液、ペースト、ゲル、クリーム、ローション、パウダー、せっけん、界面活性剤-含有クレンジング、オイル、粉末ファンデーション、乳濁液ファンデーション、ワックスファンデーション及びスプレーなどに剤形化することができるが、これらに限定されるものではない。より詳しくは、柔軟化粧水、栄養化粧水、栄養クリーム、マッサージクリーム、エッセンス、アイクリーム、クレンジングクリーム、クレンジングフォーム、クレンジングウォーター、パック、スプレー又はパウダーの剤形に製造することができる。
【0046】
上記化粧料組成物の剤形がペースト、クリーム又はゲルである場合には、担体成分として動物性油、植物性油、ワックス、パラフィン、澱粉、トラカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコン、ベントナイト、シリカ、タルク、又は酸化亜鉛などを用いることができる。
【0047】
上記化粧料組成物の剤形がパウダー又はスプレーである場合には、担体成分としてラクトース、タルク、シリカ、アルミニウムヒドロキシド、カルシウムシリケート又はポリアミドパウダーを用いることができ、特にスプレーの場合には、さらにクロロフルオロヒドロカーボン、プロパン/ブタン又はジメチルエーテルのような噴射剤を含むことができる。
【0048】
上記化粧料組成物の剤形が溶液又は乳濁液である場合には、担体成分として溶媒、溶解化剤又は乳濁化剤が用いられ、例えば、水、エタノール、イソプロパノール、エチルカーボネート、エチルアセテート、ベンジルアルコール、ベンジルベンゾエート、プロピレングリコール、1,3-ブチルグリコールオイル、グリセロール脂肪族エステル、ポリエチレングリコール又はソルビタンの脂肪酸エステルがある。
【0049】
上記化粧料組成物の剤形が懸濁液である場合には、担体成分として、水、エタノール又はプロピレングリコールなどのような液状の希釈剤、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールエステル及びポリオキシエチレンソルビタンエステルなどのような懸濁剤、微小結晶性セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、アガー又はトラカントなどを用いることができる。
【0050】
上記化粧料組成物の剤形が界面-活性剤含有クレンジングである場合には、担体成分として脂肪族アルコール硫酸、脂肪族アルコールエーテル硫酸、スルホコハク酸モノエステル、イセチオン酸、イミダゾリウム誘導体、メチルタウリン、サルコシネート、脂肪酸アミドエーテル硫酸、アルキルアミドベタイン、脂肪族アルコール、脂肪酸グルリセリド、脂肪酸ジエタノールアミド、植物性油、ラノリン誘導体又はエトキシ化グリセリン脂肪酸エステルなどを用いることができる。
【0051】
本発明のもう一つの側面は、炎症性疾患を予防又は治療のための上記薬学的組成物の用途を提供する。
【0052】
本発明のもう一つの側面は、炎症性疾患の予防又は治療用薬剤を製造するための上記薬学的組成物の用途を提供する。
【0053】
本発明のもう一つの側面は、上記薬学的組成物を処理する段階を含む炎症性疾患を予防又は治療する方法を提供する。
【0054】
本発明のもう一つの側面は、皮膚炎を予防又は改善するための上記化粧料組成物の用途を提供する。
【0055】
本発明のもう一つの側面は、皮膚炎の予防又は改善用化粧品を製造するための上記化粧料組成物の用途を提供する。
【0056】
本発明のもう一つの側面は、上記化粧料組成物を処理する段階を含む皮膚炎を予防又は改善する方法を提供する。
【実施例
【0057】
以下、本発明を、実施例を通じてより詳細に説明する。しかし、これらの製造例及び実施例は、本発明を例示的に説明するためのものであって、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
I.背中に皮膚炎を誘発させたマウスを用いたアシルヒドラジン誘導体化合物の皮膚炎抑制効果を確認
実施例1.アシルヒドラジン誘導体化合物の皮膚炎抑制効果を肉眼で確認
アシルヒドラジン誘導体化合物の抗炎症効果を証明するために、オキサゾロンにより誘導された皮膚炎モデルマウスを作製した。具体的には、6週齢のHR-1(Hairless)マウスの背中の皮膚に5%オキサゾロン(4-エトキシメチレン-2-フェニル-2-オキサゾリン-5-オン)150ulを塗布した後、0.1%希釈した同一化合物150ulを週に3回ずつ、計11回塗布して皮膚の炎症反応を誘導した。それから、アシルヒドラジン誘導体化合物を、各500nMの濃度で150ulを週に5回ずつ、計19回塗布した。化合物の効能を比較・検証するために、抗炎症効果が広く知られたシクロスポリン(Cyclosporine)Aを比較物質として使用し、溶媒であるエタノールのみを処理した陰性対照群とオキサゾロンのみを処理した陽性対照群も実験に反映した。各実験群のマウス個体数は10匹以上に維持し、計2回繰り返し実験した。
【0059】
その結果、オキサゾロンのみを処理した陽性対照群からは、赤い斑点模様、並びに乾燥状態の皮膚が観察され、典型的な皮膚炎症反応が誘導されたことが確認された。一方、アシルヒドラジン誘導体化合物であるWCI-1004、WCI-1015、WCI-1031化合物又はCyclosporine A処理した実験群からは、溶媒であるエタノールを処理した陰性対照群と酷似する皮膚の状態が観察された。これにより、アシルヒドラジン誘導体化合物が皮膚の炎症反応を効果的に抑制することが確認された(図1)。
【0060】
実施例2.アシルヒドラジン誘導体化合物の炎症性サイトカイン発現抑制効果を確認
アトピー性皮膚炎のような皮膚炎の発病と最も関連性のある炎症性サイトカインは、Th2 T細胞において主に分泌されるIL-4とIL-13などとして知られている。オキサゾロンにより皮膚炎が誘発されたマウスからアシルヒドラジン誘導体化合物の抗炎症効果を追加で確認するため、炎症組織を対象に、皮膚炎発病と最も関連深いサイトカインであるIL-4及びIL-13、且つTh2 T細胞から分泌されるIL-2のmRNAレベルを定量化した。
【0061】
具体的には、実施例1にて作製された皮膚炎誘発マウスから皮膚組織を採取し、細胞破砕機で粉砕した。粉砕した組織粉末をTrizol reagent(Sigma社)溶液に溶かし、RNeasy mini kit(Qiagen社)を利用してRNAを抽出した。抽出したRNAをImProm-IITM Reverse Transcription kit(Promega社)を利用して、cDNAに逆転写した後、CFX96TM Real-Time PCR Detection System(Bio-Rad社)を使って、皮膚組織に存在するサイトカインのレベルをqPCR法(quantitative PCR)で測定した。
【0062】
その結果、オキサゾロンのみを処理した陽性対照群からは、上記炎症性サイトカインのレベルが大幅に増加した。その一方、Cyclosporine A、WCI-1004、WCI-1015又はWCI-1031化合物を処理した実験群の皮膚組織からは、上記炎症性サイトカインの発現レベルが著しく減少したことが確認された。特に、WCI-1004、WCI-1015又はWCI-1031化合物を処理した実験群の皮膚組織において、Cyclosporine A処理した実験群の皮膚組織よりも炎症性サイトカインの発現レベルが低かった。このことからアシルヒドラジン誘導体化合物がCyclosporine Aより炎症性サイトカイン抑制効果に優れている点を確認した(図2a~2c)。
【0063】
実施例3.アシルヒドラジン誘導体化合物の上皮過形成抑制効果を確認
皮膚炎が誘発された場合、皮膚の厚みが厚くなる上皮過形成(epidermal hyperplasia)のような病理的症状が誘発される。アシルヒドラゾン化合物がオキサゾロンにより炎症反応が誘発された皮膚において、皮膚炎の症状を和らげ、皮膚の恒常性維持を確認するために、実施例2と同様の方法で、皮膚組織からRNAを抽出した後、qPCR法でK14(Keratin 14)、K1(Keratin 1)、FLG(Filaggrin gene)のmRNA発現レベルを測定することによって調査した。
【0064】
その結果、オキサゾロンを単独処理して皮膚炎が誘発されたマウスは、皮膚基底層のK14、皮膚上層のK1、皮膚最上位層のFLGの発現レベルがすべて増加する上皮過形成(epidermal hyperplasia)症状が示された(図3a)。その一方、Cyclosporine A、WCI-1004、WCI-1015又はWCI-1031化合物を処理した実験群の皮膚組織からは、上記因子の発現レベルがすべて正常レベルに回復され、上皮過形成の症状が回復されたことが確認された(図3b~3d)。
【0065】
このことからアシルヒドラジン誘導体化合物の優れた炎症抑制効果及び皮膚再生効果を確認した。
【0066】
II.耳に皮膚炎を誘発させたマウスを用いたアシルヒドラジン誘導体化合物の皮膚炎抑制効果を確認
実施例4.アシルヒドラジン誘導体化合物の皮膚炎抑制効果を肉眼で確認
アシルヒドラジン誘導体化合物の抗炎症効果を証明するために、オキサゾロンにより誘導された皮膚炎モデルマウスを作製した。具体的には、6週齢のマウスの腹部の皮膚に3%濃度のオキサゾロン150ulを塗布し、免疫反応誘導し、0.5%濃度で希釈した同一化合物20ulを一日おきにマウスの耳に計5回塗布して炎症反応を誘導した。それから、アシルヒドラジン誘導体化合物は、各500nMの濃度で20ulずつ、オキサゾロン塗布30分後、計5回塗布した。
【0067】
化合物の効能を比較・検証するために、抗炎症効果が広く知られたCyclosporine Aを比較物質として使用した。また、溶媒であるエタノールのみを処理した陰性対照群とオキサゾロンのみを処理した陽性対照群も実験に反映した。各実験群のマウス個体数は10匹以上に維持し、計2回繰り返し実験した。
【0068】
その結果、オキサゾロンを単独塗布した陽性対照群の耳は、溶媒であるエタノールのみを塗布した耳に比べて赤い発赤があらわれ、炎症反応がうまく誘導されたことが確認された。その一方、アシルヒドラジン誘導体化合物であるWCI-1004、WCI-1015及びWCI-1031化合物とCyclosporine Aを処理した動物群からはエタノールを処理した陰性対照群と酷似する皮膚状態が観察された。このことからアシルヒドラジン誘導体化合物らが皮膚の炎症反応を効果的に抑制することが確認された(図4)。
【0069】
実施例5.組織病理学的分析を通じたアシルヒドラジン誘導体化合物の皮膚炎抑制効果を確認
塗布実験終了後、皮膚の病理学的観察のために、各マウスの耳の皮膚組織を採取し、ヘマトキシリン-エオシン(Hematoxylin and Eosin)で染色した。
【0070】
その結果、一般的に皮膚炎が誘発されると、上皮過形成(epidermal hyperplasia)という病理学的現象があらわれ、オキサゾロンを単独塗布した陽性対照群的から採取した耳の皮膚組織は、エタノールのみを塗布した陰性対照群の耳の皮膚組織に比べて全体の厚みが2倍程増加しており、上皮の厚みも約3倍程増加した。その一方、WCI-1004、WCI-1015、WCI-1031化合物又はCyclosporine Aを処理した実験群から採取した耳の皮膚組織からは、陰性対照群と酷似するほどに皮膚全体と上皮の厚みが減少したことが確認された。このことからアシルヒドラジン誘導体化合物が皮膚の炎症反応を効果的に抑制することが確認された(図5)。
【0071】
実施例6.アシルヒドラジン誘導体化合物の炎症性サイトカインの発現抑制効果を確認
アトピー性皮膚炎のような皮膚炎の発病と最も関連性のある炎症性サイトカインは、Th2 T細胞において主に分泌されるIL-4とIL-13などとして知られている。実施例4においてオキサゾロンにより皮膚炎が誘発されたマウスからアシルヒドラジン誘導体化合物の抗炎症効果を追加で確認するため、耳の皮膚組織を採取し、IL-4及びIL-13、且つTh2 T細胞において分泌されるIL-2のmRNAレベルを定量化した。
【0072】
具体的には、実施例4にて作製された皮膚炎誘発マウスから耳の皮膚組織を採取し、細胞破砕機で粉砕した。粉砕した組織粉末をTrizol reagent(Sigma社)溶液に溶かし、RNeasy mini kit(Qiagen社)を利用してRNAを抽出した。抽出したRNAをImProm-IITM Reverse Transcription kit(Promega社)を利用して、cDNAに逆転写した後、CFX96TM Real-Time PCR Detection System(Bio-Rad社)を使って、皮膚組織に存在するサイトカインのレベルをqPCR法で測定した。
【0073】
その結果、オキサゾロンを単独塗布した陽性対照群の耳の皮膚組織からは、エタノールのみを塗布した陰性対照群の耳の皮膚組織より組織内のIL-4、IL-13及びIL-2の発現量が増加した。その一方、WCI-1004、WCI-1015、WCI-1031化合物又はCyclosporine Aを処理した実験群の耳の皮膚組織内のサイトカイン発現量は、上記陽性対照群のサイトカイン発現量の50%レベルに著しく減少したことが確認された(図6a~6c)。
【0074】
実施例7.アシルヒドラジン誘導体化合物の炎症性免疫細胞数の減少効果を確認
皮膚炎が誘発されると、一般的に、皮膚全体の炎症性免疫細胞数が増加する病理学的現象が観察される。実施例4においてオキサゾロンにより皮膚炎が誘発されたマウスからアシルヒドラジン誘導体化合物の抗炎症効果を追加で確認するため、耳の皮膚組織を採取し、炎症性免疫細胞数を測定した。
【0075】
その結果、オキサゾロンを単独塗布した陽性対照群の耳の皮膚組織からエタノールのみを塗布した陰性対照群の皮膚組織でより炎症性免疫細胞数が約3倍程増加した。その一方、WCI-1004、WCI-1015、WCI-1031化合物又はCyclosporine Aを処理した実験群の耳の皮膚組織からは、陰性対照群と同等のレベルの炎症性免疫細胞数が観察された。このことからアシルヒドラジン誘導体化合物が炎症免疫細胞数を減少させることが確認された(図7)。
【0076】
実施例8.アシルヒドラジン誘導体化合物の上皮過形成抑制効果を確認
皮膚炎が誘発される場合、皮膚の厚みが厚くなる上皮過形成(epidermal hyperplasia)のような病理的症状が誘発される。アシルヒドラジン誘導体化合物がオキサゾロンにより炎症反応が誘発された皮膚から皮膚炎の症状を和らげ、皮膚の恒常性維持を確認するために、実施例6と同様の方法で、皮膚組織からRNAを抽出した後、qPCR法でK14とK1のmRNA発現レベルを測定することによって調査した。
【0077】
その結果、オキサゾロンを単独塗布した陽性対照群の耳の皮膚組織は、K14とK1の発現レベルがすべて増加する上皮過形成症状があらわれた。一方、WCI-1004、WCI-1015、WCI-1031化合物又はCyclosporine Aを処理した実験群の耳の皮膚組織内のK14とK1の発現レベルが回復され、上皮過形成症状が回復された。このことによりアシルヒドラジン誘導体化合物の優れた炎症抑制効果と、皮膚の再生及び恒常性維持の効果が確認された(図8a及び8b)。
【0078】
実施例9.免疫細胞株を用いたアシルヒドラジン誘導体化合物の炎症性シグナル伝達経路の抑制効果を確認
アシルヒドラジン誘導体化合物の炎症抑制効果に関与する薬理機序(mechanism of action)を追加で確認するため、マウス由来マクロファージ免疫細胞株であるRAW細胞株を培養した後、炎症性サイトカインの生産に関与するNF-κB(nuclear factor kappa-light-chain-enhancer of activated B cells)シグナル伝達経路に対する本発明の化合物の影響を観察した。NF-κBシグナル伝達経路は、炎症反応において深く関与するが、特にp65(RelA)のリン酸化が誘導されると、リン酸化されたp65が免疫細胞の核へ移動して炎症反応を引き起こすサイトカイン発現を誘導するとして知られている。
【0079】
具体的には、一定量(6-ウェルプレートの場合、5×10~10×10個/well)のRAW細胞をDMEM培地(10%牛胎児血清を含む)に培養した後、NF-κBシグナル伝達プロセスを誘発する因子(Tumor necrosis factor-α又はLipopolysaccharideなど)と一緒にWCI-1004、WCI-1015、WCI-1031化合物を12時間から24時間処理した。RIPA Lysis and Extraction Buffer(Thermofisher社)に蛋白質分解阻害剤と脱リン酸阻害剤を添加してRAW細胞からタンパク質を抽出した。ウエスタンブロッティングプロセスは、本発明が属する技術分野において通常使用される方法を用い、リン酸化されたp65に特異的な抗体はCell Signaling Technology社製品を使用した。
【0080】
その結果、マクロファージ免疫細胞株にWCI-1004、WCI-1015又はWCI-1031化合物を処理する場合、炎症性サイトカインの生産に関与するNF-κBシグナル経路を介して免疫反応を誘導するとして知られたp65(RelA)のリン酸化が効果的に抑制されたことが確認された(図9)。
【0081】
このことからアシルヒドラジン誘導体化合物が炎症反応と関連したNF-κBシグナル経路を効果的に遮断することが確認された。
図1
図2a
図2b
図2c
図3a
図3b
図3c
図3d
図4
図5
図6a
図6b
図6c
図7
図8a
図8b
図9