(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】圧電膜
(51)【国際特許分類】
H01L 41/193 20060101AFI20220128BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20220128BHJP
C08L 27/16 20060101ALI20220128BHJP
H01L 41/45 20130101ALI20220128BHJP
【FI】
H01L41/193
C08J5/18
C08L27/16
H01L41/45
(21)【出願番号】P 2017012557
(22)【出願日】2017-01-26
【審査請求日】2020-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】597125863
【氏名又は名称】株式会社ケミトロニクス
(74)【代理人】
【識別番号】100088096
【氏名又は名称】福森 久夫
(72)【発明者】
【氏名】表 研次
(72)【発明者】
【氏名】鮫澤 剣
(72)【発明者】
【氏名】大東 弘二
【審査官】加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-043903(JP,A)
【文献】国際公開第2016/159354(WO,A1)
【文献】特開平07-066467(JP,A)
【文献】特表2011-522096(JP,A)
【文献】特開平03-196412(JP,A)
【文献】特開昭62-001744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/193
H01L 41/45
C08J 5/18
C08L 27/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデンVDFとトリフルオロエチレンTrFEの共重合体{P(VDF/TrFE)または専らPVTと記す}であって、
VDFとTrFEの重合比が異なる少なくとも2種の共重合体(第1の共重合体PVT1と第2の共重合体PVT2とする)の混合物からなる圧電膜であって、
第1の共重合体PVT1は、重合比がモル比率でVDF:82~90% 対 TrFE:18~10%から選択され、
第2の共重合体PVT2は、重合比がモル比率でVDF:60~82% 対 TrFE:40~18%から選択さ
れ、
前記少なくとも2種の共重合体(第1の共重合体PVT1と第2の共重合体PVT2)の混合物からなる圧電膜の残留分極と電気機械結合係数が、第1の共重合体PVT1および第2の共重合体PVT2の各々単独の残留分極と電気機械結合係数を上回ることを特徴とする圧電膜。
【請求項2】
前記圧電膜は、第1の共重合体PVT1がVDF重合比85モル%、TrFE重合比15モル%の共重合体PVT(PVT85/15と表す)であり、
第2の共重合体PVT2がVDF 75%、TrFE25%の共重合体PVT75/25であ
って、
前記第1の共重合体PVT85/15と前記第2の共重合体PVT75/25の混合物からなる圧電膜の残留分極と電気機械結合係数が、第1の共重合体PVT85/15および第2の共重合体PVT75/25の各々単独の残留分極と電気機械結合係数を上回ることを特徴とする請求項1記載の圧電膜。
【請求項3】
前記圧電膜は、PVT1(PVT85/15)の混合比率が50重量%から80重量%の範囲内であることを特徴とする請求項2記載の圧電膜。
【請求項4】
前記圧電膜は、第1の共重合体PVT1がVDF重合比85モル%、TrFE重合比15モル%の共重合体PVT(PVT85/15と表す)であり、
第2の共重合体PVT2がVDF 81%、TrFE19%の共重合体PVT81/19であ
って、
前記第1の共重合体PVT85/15と前記第2の共重合体PVT81/19の混合物からなる圧電膜の残留分極と電気機械結合係数が、第1の共重合体PVT85/15および第2の共重合体PVT81/19の各々単独の残留分極と電気機械結合係数を上回ることを特徴とする請求項1記載の圧電膜。
【請求項5】
前記圧電膜は、PVT1(PVT85/15)の混合比率が30重量%から70重量%の範囲内であることを特徴とする請求項4記載の圧電膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフッ化ビニリデン(VDF)とトリフルオロエチレン(TrFE)の共重合体{P(VDF/TrFE)または以下簡略化して専らPVTと記す}であって、VDFとTrFEの重合比が異なる少なくとも2種類の共重合体(以下第1の共重合体PVT1と第2の共重合体PVT2 とする)の混合物(ブレンド)からなる圧電膜、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強誘電性高分子であるフッ化ビニリデン(VDF)とトリフルオロエチレン(TrFE)の共重合体 {P(VDF/TrFE)または以下簡略化して専らPVTと記す}は、大きい自発分極(残留分極)に代表されるように優れた圧電性をもち、柔軟性、加工性を生かした圧電センサー・トランスジューサ、赤外線焦電センサーなど種々の素子・デバイスへの応用が検討されている。
しかしながら、本共重合体PVTの膜は通常では厚いラメラ結晶の集合体となるので、白濁し、変形によって破断し易く(耐変形性に劣る)用途上制約があった。
【0003】
すでに、本発明者らは、この共重合体PVTを一軸延伸した膜を、融点以下に存在する常誘電相で膜表面を自由にして結晶化して得られる単結晶状のPVT膜は、ラメラ結晶膜とは異なり、非特許文献1、2および特許文献1、2に開示されているように、既存の高分子圧電材料では達成されていない圧電性と透明性を有しており、応用上、優れた高分子圧電材料であることを示した。
【0004】
さらに、PVTとは性質の異なる機能性分子を上記単結晶状PVT膜に配合することで圧電性能が向上することが、特許文献3、特許文献4にそれぞれPVTと水酸化フラーレン、カーボンナノチューブの混合物(ブレンド)の圧電膜として開示されている。特許文献3、4に記載された単結晶状をなす共重合体PVTは、VDFとTrFEの重合比が75対25モル%(以下PVT75/25と表す)であって、耐熱性、耐変形性はまだ不十分であった。
【0005】
耐変形性、耐熱性が、共重合体PVT75/25からなる圧電膜よりも優れた圧電膜として、VDFとTrFEの共重合体PVTであって、重合比率がVDFが82モル%(PVT82/18)から86モル%(PVT86/14)で、分子量が60万/mol以上である共重合体が特許文献5に示されている。これによれば、耐熱性の代表的な目安であるキュリー点(強誘電相から常誘電相に転移する温度)は、PVT75/25で120℃であるのに対しPVT85/15では156℃となり、耐熱性の大幅な向上が見られる。
ただし、この特許文献5の代表例PVT85/15を含めVDF比率82~90%のPVTでは単結晶状膜が得られておらず(または極めて得にくく)ラメラ結晶膜だけである。これらで単結晶状膜が得られていない理由は、融点以下に常誘電相となる温度領域が存在せず(強誘電相から常誘電相に転移する温度すなわちキュリー点が融点以下には無いため←非特許文献3参照)、非特許文献1、2および特許文献1、2に述べられている単結晶状膜製造方法が適用できないからである。
【0006】
以上の従来技術によると、残留分極(の大きさ)を代表的な目安とする圧電性は、重合体PVT系では一般的に単結晶状膜の方がラメラ結晶膜よりも優れる。これは単結晶状膜の方が分子鎖の配向性が高い(分子鎖の並び方が一方向に揃っている)からと考えられていて、従来最高の圧電性はPVT75/25(VDF75モル%とTrFE25モル%の重合比の共重合体)に代表されるVDF82モル%未満のPVTの単結晶状膜で得られている(非特許文献1、2、3および特許文献1~5)。
ラメラ結晶膜同士の比較では、PVT85/15がPVT75/25の圧電性を凌ぐにもかかわらず、PVT75/25の単結晶状膜の圧電性がPVT85/15の圧電性を上回る理由は、単結晶状膜とすることで分子鎖の配向性が増し、単結晶状膜とならずに分子鎖の配向性がラメラ結晶膜のままのPVT85/15の圧電性を上回るようになると推定される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Hiroji Ohigashi,Kenji Omote,and Teruhisa Gomyo,Appl. Phys. Lett. ,66,3281 (1995)
【文献】Kenji Omote,Hiroji Ohigashi,and Keiko Koga,J. Appl. Phys. ,81,2760 (1997)
【文献】Keiko Koga,Nobuko Nakano,Takeshi Hattori,and Hiroji Ohigashi,J. Appl. Phys. ,67,965 (1990)
【文献】H.Tanaka, A.J.Lovinger. D.D.Davis: Journal of PolymerScience: Part B: PolymerPhysics, Vol. 28, pp.2183-2198 (1990)
【文献】H.Tanaka, H.Yukawa, T.Nishi; Mscromplecules, Vol.21, pp.2469-2474(1988)
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第2681032号
【文献】特許第3742574号
【文献】特開2011-080058号公報
【文献】特開2012-082378号公報
【文献】特開2016-197626号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、耐変形性、耐熱性などの点で優れるPVT85/15に代表されるVDF比率82~90%のPVTの圧電性を改良し、従来最高の圧電性を示すPVT75/25に代表されるVDF82モル%未満のPVTを超える圧電性を有する圧電膜およびその製造方法を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのための指針としては、何らかの方法でVDF比率82~90%のPVTの分子鎖の配向性を増すことである。上記の特許文献3、4によれば、PVT75/25に水酸化フラーレン、カーボンナノチューブを混合(ブレンド)して配向性を向上し、圧電性を良化することが開示されている。
本発明では、VDF比率82~90%のPVTに対し、VDF比率が少なく重合比が異なる第2のPVTを混合(ブレンド)する手段を用いる。VDF組成比の異なる3種のPVT(VDF52モル%、65%、73%)から2種を選んで混合した3通りのブレンドの相溶性を検討した非特許文献が公表されている(非特許文献4、同5)。しかし、これらは圧電性とは無関係であり、且つ本発明で対象としている82-90モル%の多いVDFを含むPVTに関する発明は、これらの文献の研究内容と重なる部分は全くない。本発明になる異なる重合比のPVT を混合する圧電膜技術の先行例は今のところ見当たらない。
【0011】
本発明の請求項1に係る圧電膜は、フッ化ビニリデンVDFとトリフルオロエチレンTrFEの共重合体{P(VDF/TrFE)または専らPVTと記す}であって、VDFとTrFEの重合比が異なる少なくとも2種の共重合体(第1の共重合体PVT1と第2の共重合体PVT2とする)の混合物からなる圧電膜であって、第1の共重合体PVT1は、重合比がモル比率でVDF:82~90% 対 TrFE:18~10%から選択され、第2の共重合体PVT2は、重合比がモル比率でVDF:60~82% 対 TrFE:40~18%から選択され、前記少なくとも2種の共重合体(第1の共重合体PVT1と第2の共重合体PVT2)の混合物からなる圧電膜の残留分極と電気機械結合係数が、第1の共重合体PVT1および第2の共重合体PVT2の各々単独の残留分極と電気機械結合係数を上回ることを特徴とする圧電膜である。
【0012】
本発明の請求項2に係る圧電膜は、第1の共重合体PVT1がVDF重合比85モル%、TrFE重合比15モル%の共重合体PVT(PVT85/15と表す)であり、第2の共重合体PVT2がVDF 75%、TrFE25%の共重合体PVT75/25であって、前記第1の共重合体PVT85/15と前記第2の共重合体PVT75/25の混合物からなる圧電膜の残留分極と電気機械結合係数が、第1の共重合体PVT85/15および第2の共重合体PVT75/25の各々単独の残留分極と電気機械結合係数を上回ることを特徴とする請求項1記載の圧電膜である。
【0013】
本発明の請求項3に係る圧電膜は、PVT1(PVT85/15)の混合比率が50重量%から80重量%の範囲内であることを特徴とする請求項2記載の圧電膜である。
前記第1の共重合体PVT85/15の混合比率が、重量比率で、50重量%以上であると、圧電膜の残留分極の数値が上昇し始める領域に入り、重量比率で、80重量%以下であると、圧電膜の残留分極の数値が上昇を保持している領域にある。
図3を参照。
【0014】
本発明の請求項4に係る圧電膜は、第1の共重合体PVT1がVDF重合比85モル%、TrFE重合比15モル%の共重合体PVT(PVT85/15と表す)であり、第2の共重合体PVT2がVDF 81%、TrFE19%の共重合体PVT81/19であって、前記第1の共重合体PVT85/15と前記第2の共重合体PVT81/19の混合物からなる圧電膜の残留分極と電気機械結合係数が、第1の共重合体PVT85/15および第2の共重合体PVT81/19の各々単独の残留分極と電気機械結合係数を上回ることを特徴とする請求項1記載の圧電膜である。
【0015】
本発明の請求項5に係る圧電膜は、
PVT1(PVT85/15)の混合比率が30重量%から70重量%の範囲内であることを特徴とする請求項4記載の圧電膜である。
前記第1の共重合体PVT85/15の混合比率が、重量比率で、30重量%以上であると、圧電膜の残留分極の数値が上昇し始める領域に入り、重量比率で、70重量%以下であると、圧電膜の残留分極の数値が上昇を保持している領域にある。
図6を参照。
【0016】
本発明の請求項6に係る圧電膜の製造方法は、フッ化ビニリデンVDFとトリフルオロエチレンTrFEの共重合体{P(VDF/TrFE)または専らPVTと記す}であって、VDFとTrFEの重合比が異なる少なくとも2種の共重合体(第1の共重合体PVT1と第2の共重合体PVT2とする)の混合物からなる圧電膜の製造方法であって、第1の共重合体PVT1は、重合比がモル比率でVDF:82~90% 対 TrFE:18~10%から選択され、第2の共重合体PVT2は、重合比がモル比率でVDF:60~82% 対 TrFE:40~18%から選択され、前記2種の共重合体の混合物と溶媒との溶液を、基板に塗布して乾燥し、前記乾燥して形成した共重合体混合物の膜を、140℃以上融点以下の温度範囲にて熱処理することを特徴とする圧電膜の製造方法である。本製造方法で得られる圧電膜はラメラ結晶膜である。
図1および
図5参照。
【0017】
本発明の請求項7に係る圧電膜の製造方法は、フッ化ビニリデンVDFとトリフルオロエチレンTrFEの共重合体{P(VDF/TrFE)または専らPVTと記す}であって、VDFとTrFEの重合比が異なる少なくとも2種の共重合体(第1の共重合体PVT1と第2の共重合体PVT2とする)の混合物からなる圧電膜の製造方法であって、第1の共重合体PVT1は、重合比がモル比率でVDF:82~90% 対 TrFE:18~10%から選択され、第2の共重合体PVT2は、重合比がモル比率でVDF:60~82% 対 TrFE:40~18%から選択され、前記2種の共重合体の混合物と溶媒との溶液を、基板に塗布して乾燥し、前記乾燥して形成した共重合体混合物の膜を延伸し、次いで140℃以上融点以下の温度範囲にて熱処理することを特徴とする圧電膜の製造方法である。本製造方法で得られる圧電膜は単結晶状膜であると思われる。
図2参照。
【0018】
本発明の請求項8に係る圧電膜の製造方法は、前記[0016][0017]に記載の圧電膜の製造方法において、第1の共重合体PVT1がVDF重合比85モル%、TrFE重合比15モル%の共重合体PVT(PVT85/15と表す)であり、第2の共重合体PVT2がVDF 75%、TrFE25%の共重合体PVT75/25であり、PVT1(PVT85/15)の混合比率が50重量%から80重量%の範囲内であることを特徴とする請求項6または7記載の圧電膜の製造方法である。
【0019】
本発明の請求項9に係る圧電膜の製造方法は、前記[0016][0017]に記載の圧電膜の製造方法において、第1の共重合体PVT1がVDF重合比85モル%、TrFE重合比15モル%の共重合体PVT(PVT85/15と表す)であり、
第2の共重合体PVT2がVDF 81%、TrFE19%の共重合体PVT81/19であり、PVT1(PVT85/15)の混合比率が30重量%から70重量%の範囲内であることを特徴とする請求項7または7記載の圧電膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の請求項1の圧電膜によれば残留分極の数値が高く、また電気機械結合係数の数値が高い圧電膜を提供することができる。
【0021】
本発明の請求項2の圧電膜によれば、PVT2を、PVT75/25 に選択することにより、残留分極の数値が高く、また電気機械結合係数の数値が高い圧電膜を提供することができる。
【0022】
本発明の請求項3の圧電膜によれば、PVT1(PVT85/15)の重量%を最適値とした圧電膜を提供することができる。
【0023】
本発明の請求項4の圧電膜によれば、PVT2を、PVT81/19に選択することにより、残留分極の数値が高く、また電気機械結合係数の数値が高い圧電膜を提供することができる。
【0024】
本発明の請求項5の圧電膜によれば、PVT1(PVT85/15)の重量%を最適値とした圧電膜を提供することができる。
【0029】
本発明によれば、耐変形性、耐熱性などの点で優れるPVT85/15に代表されるVDF比率82~90モル%のPVTの圧電性を改良し、従来最高の圧電性を示すPVT75/25に代表されるVDF比率82%未満のPVTを超える圧電性を有する圧電膜およびその製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本実施例1-1のブレンドラメラ結晶圧電膜の製造方法の工程フロー図。
【
図2】本実施例1-2のブレンド単結晶状圧電膜の製造方法の工程フロー図。
【
図3】PVT85/15とPVT75/25からなるブレンド圧電膜のPVT85/15重量比率(%)対残留分極(mC/m
2)の関係を示すグラフ。
【
図4】PVT85/15とPVT75/25からなるブレンド圧電膜のPVT85/15重量比率(%)対電気機械結合係数k
tの関係を示すグラフ。
【
図5】本実施例3のブレンドラメラ結晶圧電膜の製造方法の工程フロー図。
【
図6】PVT85/15とPVT81/19からなるブレンド圧電膜のPVT85/15重量比率(%)対残留分極(mC/m
2)の関係を示すグラフ。
【
図7】PVT85/15とPVT81/19からなるブレンド圧電膜のPVT85/15重量比率(%)対電気機械結合係数k
tの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の実施の形態による圧電膜は、フッ化ビニリデンVDFとトリフルオロエチレンTrFEの共重合体{P(VDF/TrFE)または専らPVTと記す}であって、VDFとTrFEの重合比が異なる少なくとも2種の共重合体(第1の共重合体PVT1と第2の共重合体PVT2とする)の混合物からなる圧電膜であって、第1の共重合体PVT1は、重合比がモル比率でVDF:82~90% 対 TrFE:18~10%から選択され、第2の共重合体PVT2は、重合比がモル比率でVDF:60~82% 対 TrFE:40~18%から選択されてなる圧電膜である。
【0032】
ここで、前記圧電膜は、第1の共重合体PVT1がVDF重合比85モル%、TrFE重合比15モル%の共重合体PVT85/15であり、第2の共重合体PVT2がVDF 75%、TrFE25%の共重合体PVT75/25である。前記圧電膜は、PVT1(PVT85/15)の混合比率が50重量%から80重量%の範囲内であることを特徴とする。
前記第1の共重合体PVT85/15の混合比率が、重量比率で、50重量%以上であると、圧電膜の残留分極の数値が上昇し始める領域に入り、重量比率で、80重量%以下であると、圧電膜の残留分極の数値が上昇を保持している領域にある。
図3を参照。
【0033】
また、他の例として、前記圧電膜は、第1の共重合体PVT1がVDF重合比85モル%、TrFE重合比15モル%の共重合体PVT85/15であり、第2の共重合体PVT2がVDF 81%、TrFE19%の共重合体PVT81/19である。前記圧電膜は、PVT1(PVT85/15)の混合比率が30重量%から70重量%の範囲内であることを特徴とする。
前記第1の共重合体PVT85/15の混合比率が、重量比率で、30重量%以上であると、圧電膜の残留分極の数値が上昇し始める領域に入り、重量比率で、70重量%以下であると、圧電膜の残留分極の数値が上昇を保持している領域にある。
図6を参照。
【0034】
本発明の実施の形態による圧電膜の製造方法は、フッ化ビニリデンVDFとトリフルオロエチレンTrFEの共重合体{P(VDF/TrFE)または専らPVTと記す}であって、VDFとTrFEの重合比が異なる少なくとも2種の共重合体(第1の共重合体PVT1と第2の共重合体PVT2とする)の混合物からなる圧電膜であって、第1の共重合体PVT1は、重合比がモル比率でVDF:82~90% 対 TrFE:18~10%から選択され、第2の共重合体PVT2は、重合比がモル比率でVDF:60~82% 対 TrFE:40~18%から選択され、前記2種の共重合体の混合物と溶媒との溶液を、基板に塗布して乾燥し、前記乾燥して形成した共重合体混合物の膜を、140℃以上融点以下の温度範囲にて熱処理することを特徴とする圧電膜の製造方法である。ここで、前記圧電膜の製造方法によって、ラメラ結晶膜の圧電膜が製造される。
【0035】
また、他の例として、本発明の実施の形態による圧電膜の製造方法は、フッ化ビニリデンVDFとトリフルオロエチレンTrFEの共重合体{P(VDF/TrFE)または専らPVTと記す}であって、VDFとTrFEの重合比が異なる少なくとも2種の共重合体(第1の共重合体PVT1と第2の共重合体PVT2とする)の混合物からなる圧電膜であって、第1の共重合体PVT1は、重合比がモル比率でVDF:82~90% 対 TrFE:18~10%から選択され、第2の共重合体PVT2は、重合比がモル比率でVDF:60~82% 対 TrFE:40~18%から選択され、
前記2種の共重合体の混合物と溶媒との溶液を、基板に塗布して乾燥し、前記乾燥して形成した共重合体混合物の膜を延伸し、次いで140℃以上融点以下の温度範囲にて熱処理することを特徴とする圧電膜の製造方法である。ここで、前記圧電膜の製造方法によって、単結晶状膜の圧電膜が製造される。
【0036】
前記[0034][0035]に記載の圧電膜の製造方法において、第1の共重合体PVT1がVDF重合比85モル%、TrFE重合比15モル%の共重合体PVT(PVT85/15と表す)であり、第2の共重合体PVT2がVDF 75%、TrFE25%の共重合体PVT75/25であり、
PVT1(PVT85/15)の混合比率が50重量%から80重量%の範囲内である。
【0037】
前記[0034][0035]に記載の圧電膜の製造方法において、第1の共重合体PVT1がVDF重合比85モル%、TrFE重合比15モル%の共重合体PVT(PVT85/15と表す)であり、第2の共重合体PVT2がVDF 81%、TrFE19%の共重合体PVT81/19であり、 PVT1(PVT85/15)の混合比率が30重量%から70重量%の範囲内である。
【実施例】
【0038】
(実施例1-1)
図1は、ブレンドラメラ結晶圧電膜の製造方法の工程フロー図である。圧電膜の製造工程は、調液工程→塗布工程→乾燥工程→熱処理工程→電極形成工程→分極処理工程の順番にて実施され、ブレンドラメラ結晶圧電膜が作製される。
【0039】
実施例1-1の個々の工程の詳細な説明について、以下列記する。
調液工程
PVT1としてPVT85/15、PVT2としてPVT75/25を選択し、PVT1とPVT2の混合重量比が、25:75から90:10の範囲で異なる7種類の溶液を、溶媒にN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を用いてそれぞれ作製する。
塗布工程
基板となるガラス基材を準備し、前記ガラス基材の上に、前記溶液を塗布する。
乾燥工程
真空オーブンを使用し、65℃、1時間、3hPaにて、塗布された膜を乾燥する。乾燥後に得られる膜の厚みは、約30μmである。
熱処理工程
対流式オーブン内にて、ガラス基材上に塗布された状態の膜を142℃にて2時間加熱し、結晶化させる。
電極形成工程
抵抗加熱式の真空蒸着機を使用し、気圧3×10-3Pa以下にてアルミを加熱蒸発させ、膜の両面に電極被膜を形成する。
分極処理工程
分極処理は、膜をシリコンオイル中に配置し、膜両面の電極間に直接、振幅140MV/m、周波数50mHzの三角波交流を6周期印加し行う。
【0040】
(実施例1-2)
図2は、ブレンド単結晶状圧電膜の製造方法の工程フロー図である。圧電膜の製造工程は、調液工程→塗布工程→乾燥工程→延伸工程→熱処理工程→電極形成工程→分極処理工程の順番にて実施され、ブレンド単結晶状圧電膜が作製される。
【0041】
実施例1-2の個々の工程の詳細な説明について、以下列記する。
調液工程
PVT1としてPVT85/15、PVT2としてPVT75/25を選択し、PVT1とPVT2の混合重量比が、25:75から90:10の範囲で異なる7種類の溶液を、溶媒にN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を用いてそれぞれ作製する。
塗布工程
基板となるガラス基材を準備し、前記ガラス基材の上に、前記溶液を塗布する。
乾燥工程
真空オーブンを使用し、65℃、1時間、3hPaにて、塗布された膜を乾燥する。乾燥後に得られる膜の厚みは、約100μmである。
延伸工程
乾燥後の膜を基材から剥がし、専用治具を用いて一軸方向に5倍の長さになるまで膜を変形させ、その状態で保持する。
熱処理工程
対流式オーブン内にて、前記専用治具に固定された状態の膜を142℃にて2時間加熱し、結晶化させる。熱処理後に得られる膜の厚みは、30~45μm程度である。
電極形成工程
抵抗加熱式の真空蒸着機を使用し、気圧3×10-3Pa以下にてアルミを加熱蒸発させ、膜の両面に電極被膜を形成する。
分極処理工程
分極処理は、膜をシリコンオイル中に配置し、膜両面の電極間に直接、振幅120MV/m、周波数50mHzの三角波交流を6周期印加し行う。
【0042】
(実施例2)
表1に、実施例1-1(発明品1)、実施例1-2(発明品2)の各圧電膜の、残留分極Pr、抗電界Ec、電気機械結合係数ktの測定結果と、比較例(1、2、3)の圧電膜の、残留分極、抗電界、電気機械結合係数ktの測定結果との比較一覧表を示す。
残留分極Prおよび抗電界Ecは、分極処理中に計測したD(電気変位)-E(電界)ヒステシス曲線から読み取った。D-Eヒステシス曲線は、Eとして、ラメラ結晶膜では140MV/mを、単結晶膜では120MV/mを各々50mHzの三角波交流で6周期印加し、チャージアンプ出力6周目の波形から求めた。
電気機械結合係数ktは、分極処理済みの試料をヘキサンにて洗浄ののち5mm×5mmサイズにカットして、インピーダンスアナライザにて1kHz~110MHzの範囲でCp(静電容量)-G(コンダクタンス)データをサンプリングし自由共振解析式を適用して求めた。
【0043】
【表1】
ラメラ結晶膜において。比較品1:PVT85/15単独および比較品2:PVT75/25単独のPr、Ktは、それぞれ87.7、0.275および72.9、0.240であるのに対し、本発明品1:PVT85/15:PVT75/25ブレンド膜では、Pr、Ktはそれぞれ
ブレンド比50重量%:50重量%で94.8、0.290
60重量%:40重量%で94.8、0.295
70重量%:30重量%で95.8、0.301
75重量%:25重量%で97.6、0.299
80重量%:20重量%で94.5、0.296
90重量%:10重量%で92.0、0.286
であり、各重量比ブレンドとも、単独を上回っている。
単結晶状膜において、比較品3:PVT75/25単独のPr、Ktは95.4、0.311であるのに対し、本製品2:PVT85/15:PVT75/25ブレンド膜では、Pr、Ktはそれぞれ
ブレンド比25重量%:75重量%で96.8、0.316
60重量%:40重量%で101.3、0.318
70重量%:30重量%で103.0、0.317
75重量%:25重量%で102.3、0.315
であり、各重量比ブレンドとも、単独を上回っている。
また、ブレンド比50重量%:50重量%で99.5、0.308、80重量%:20重量%で98.4、0.296であり、少なくともPrは単独を上回っている。
単結晶膜で、比較品PVT85/15の特性値が無いのは、PVT85/15はそもそも単結晶が得られないためである。あえて比較品とするならラメラ結晶膜(比較品1および比較品2)のPr、Ktであるが、これらと比べても、各ブレンド比のPr、Ktが大きく上回っている。
【0044】
(実施例3)
図5は、ブレンドラメラ結晶圧電膜の製造方法の工程フロー図である。圧電膜の製造工程は、調液工程→塗布工程→乾燥工程→熱処理工程→電極形成工程→分極処理工程の順番にて実施され、ブレンドラメラ結晶圧電膜が作製される。
【0045】
実施例3の個々の工程の詳細な説明について、以下列記する。
調液工程
PVT1としてPVT85/15、PVT2としてPVT81/19を選択し、PVT1とPVT2の混合重量比が、30:70から70:30の範囲で異なる3種類の溶液を、溶媒にN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を用いてそれぞれ作製する。
塗布工程
基板となるガラス基材を準備し、前記ガラス基材の上に、前記溶液を塗布する。
乾燥工程
真空オーブンを使用し、65℃、1時間、3hPaにて、塗布された膜を乾燥する。乾燥後に得られる膜の厚みは、約30μmである。
熱処理工程
対流式オーブン内にて、ガラス基材上に塗布された状態の膜を142℃にて2時間加熱し、結晶化させる。
電極形成工程
抵抗加熱式の真空蒸着機を使用し、気圧3×10-3Pa以下にてアルミを加熱蒸発させ、膜の両面に電極被膜を形成する。
分極処理工程
分極処理は、膜をシリコンオイル中に配置し、膜両面の電極間に直接、振幅140MV/m、周波数50mHzの三角波交流を6周期印加し行う。
【0046】
(実施例4)
表2に、実施例3(発明品3)の各圧電膜の、残留分極Pr、抗電界Ec、電気機械結合係数ktの測定結果と、比較例(1、4)の圧電膜の、残留分極、抗電界、電気機械結合係数ktの測定結果との比較一覧表を示す。
残留分極Prおよび抗電界Ecは、分極処理中に計測したD(電気変位)-E(電界)ヒステシス曲線から読み取った。D-Eヒステシス曲線は、Eとして、140MV/mを50mHzの三角波交流で6周期印加し、チャージアンプ出力6周目の波形から求めた。
電気機械結合係数ktは、分極処理済みの試料をヘキサンにて洗浄ののち5mm×5mmサイズにカットして、インピーダンスアナライザにて1kHz~110MHzの範囲でCp-Gデータをサンプリングし自由共振解析式を適用して求めた。
【0047】
【表2】
比較品1:PVT85/15単独および比較品4:PVT81/19単独のPr、Ktはそれぞれ87.7、0.275および88.5、0.284であるのに対し、
ブレンド比30重量%:70重量%で93.1、0.297
50重量%:50重量%で97.0、0.302
70重量%:30重量%で91.6、0.293
であり、各ブレンドとも、単独を上回っている。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、耐変形性、耐熱性などの点で優れるPVT85/15に代表されるVDF比率82~90モル%のPVTの圧電性を改良し、従来最高の圧電性を示すPVT75/25に代表されるVDF82モル%未満のPVTを超える圧電性を有する圧電膜およびその製造方法を得ることができ、圧電膜を利用し、応用する産業の発展に寄与する。