IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マツダ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車両の制御装置 図1
  • 特許-車両の制御装置 図2
  • 特許-車両の制御装置 図3
  • 特許-車両の制御装置 図4
  • 特許-車両の制御装置 図5
  • 特許-車両の制御装置 図6
  • 特許-車両の制御装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/00 20060101AFI20220107BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20220107BHJP
   B60W 10/30 20060101ALI20220107BHJP
   B60K 11/04 20060101ALI20220107BHJP
   B60R 19/52 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
B60W10/00 150
B60W10/04
B60W10/30
B60K11/04 J
B60R19/52 M
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018061244
(22)【出願日】2018-03-28
(65)【公開番号】P2019172011
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-02-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100168871
【弁理士】
【氏名又は名称】岩上 健
(72)【発明者】
【氏名】梅津 大輔
【審査官】竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-065327(JP,A)
【文献】特開2018-052324(JP,A)
【文献】特開2014-083999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00
B60W 10/04
B60W 10/30
B60K 11/04
B60R 19/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を駆動するためのトルクを生成する駆動源と、前記駆動源の生成トルクを制御する生成トルク制御機構と、操舵装置の操舵角関連値を検出する操舵角関連値センサと、車両が走行しているときに車体下方へ流入する空気量を調整する空気流入量調整機構と、制御器とを備えた車両の制御装置であって、
前記制御器は、
前記操舵角関連値センサにより検出された操舵角関連値に基づき、前記操舵装置が切り込み操作されたと判定されたときに、前記駆動源の生成トルクを低下させるように前記生成トルク制御機構を制御し、
前記車両が前記駆動源と前記車輪との間の動力伝達が遮断されたコースティング走行中であるときには、前記操舵装置が切り込み操作されているか否かにかかわらず、コースティング走行中ではないときよりも前記車体下方へ流入する空気量が大きくなるように前記空気流入量調整機構を制御するように構成されている、
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御器は、前記車両がコースティング走行を開始したときに、前記車体下方へ流入する空気量を増加させるように前記空気流入量調整機構を制御するように構成されている、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
車輪を駆動するためのトルクを生成する駆動源と、前記駆動源の生成トルクを制御する生成トルク制御機構と、操舵装置の操舵角関連値を検出する操舵角関連値センサと、車体の前面に形成された開口を開閉する開閉装置と、制御器とを備えた車両の制御装置であって、
前記制御器は、
前記操舵角関連値センサにより検出された操舵角関連値に基づき、前記操舵装置が切り込み操作されたと判定されたときに、前記駆動源の生成トルクを低下させるように前記生成トルク制御機構を制御し、
前記車両が前記駆動源と前記車輪との間の動力伝達が遮断されたコースティング走行中であるときには、前記操舵装置が切り込み操作されているか否かにかかわらず、コースティング走行中ではないときよりも前記開閉装置の開度を小さくするように当該開閉装置を制御することにより車体下方へ流入する空気量を増加させるように構成されている、
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項4】
前記制御器は、前記車両がコースティング走行中ではないときには、前記開閉装置の開度が所定の下限値以上となるように当該開閉装置を制御するように構成されている、請求項3に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記制御器は、前記車両の目標加速度が所定値以下及び前記車両の目標減速度が所定値以下であり、且つ、前記駆動源と前記車輪との間に設けられた係合要素が解放されているときに、前記車両がコースティング走行中であると判断する、請求項1から4の何れか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記制御器は、前記駆動源と前記車輪との間に設けられた係合要素を解放する操作が行われたときに、前記車両がコースティング走行中であると判断する、請求項1から4の何れか1項に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に係わり、特に、車両に減速度を付加することで車両姿勢の制御を行う車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スリップ等により車両の挙動が不安定になった場合に、車両の挙動を安全方向に制御する技術(例えば横滑り防止装置)が知られている。具体的には、車両のコーナリング時等に、車両にアンダーステアやオーバーステアの挙動が生じたことを検出し、それらを抑制するように車輪に適切な減速度を付与するようにしたものが知られている。
【0003】
一方、上述したような車両の挙動が不安定になるような走行状態における安全性向上のための制御とは異なり、通常の走行状態にある車両のコーナリング時におけるドライバによる一連の操作(ブレーキング、ステアリングの切り込み、加速、及び、ステアリングの戻し等)が自然で安定したものとなるように、コーナリング時に減速度を調整して操舵輪である前輪に加わる荷重を調整するようにした車両運動制御装置が知られている。
【0004】
さらに、ドライバのステアリング操作に対応するヨーレート関連量(例えばヨー加速度)に応じて、エンジンやモータの生成トルクを低減させることにより、ドライバがステアリング操作を開始したときに減速度を迅速に車両に生じさせ、十分な荷重を操舵輪である前輪に迅速に加えるようにした車両用挙動制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置によれば、ステアリング操作の開始時に荷重を前輪に迅速に加えることにより、前輪と路面との間の摩擦力が増加し、前輪のコーナリングフォースが増大するので、カーブ進入初期における車両の回頭性が向上し、ステアリングの切り込み操作に対する応答性(つまり操安性)が向上する。これにより、ドライバの意図に沿った車両姿勢の制御を実現することができる。以下では、このような制御を適宜「車両姿勢制御」と呼ぶ。
【0005】
ところで、例えば特許文献2に示されているように、燃費改善を目的として、車両の走行中に所定の条件が満たされたときに、自動変速機をニュートラル状態として車両を惰性走行(コースティング走行)させる、いわゆるコースティング制御を行うことが提案されている。
【0006】
また、車両が空気の流れによって受ける揚力やダウンフォースを制御するために、ラジエータグリル等の車両前部の開口部を開閉する空気流制御部材を用いることが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-166014号公報
【文献】特開2017-198139号公報
【文献】特開2008-6855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載されているようなコースティング走行中は、エンジン等の駆動源と車輪との動力伝達が遮断されているので、ドライバのステアリング操作に基づき駆動源の生成トルクを低減しても、車両には減速度が生じない。したがって、特許文献1に記載されたような従来の車両姿勢制御を行うことができない。
【0009】
そこで、特許文献3に記載されたような技術を適用し、ドライバのステアリング操作に基づき空気流制御部材を作動させてダウンフォースを発生させることにより、車両姿勢制御を行うことも考えられる。しかしながら、ステアリング操作に基づき空気流制御部材を作動させてから、車両にダウンフォースが発生することで車両姿勢の変化が生じるまでには応答遅れが存在するので、ステアリング操作の開始時に荷重を前輪に迅速に加えることができず、ステアリングの切り込み操作に対する応答性を向上することができない。
【0010】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、コースティング走行中でもドライバの意図に沿った車両姿勢の制御を行うことができる、車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明の車両の制御装置は、車輪を駆動するためのトルクを生成する駆動源と、駆動源の生成トルクを制御する生成トルク制御機構と、操舵装置の操舵角関連値を検出する操舵角関連値センサと、車両が走行しているときに車体下方へ流入する空気量を調整する空気流入量調整機構と、制御器とを備えた車両の制御装置であって、制御器は、操舵角関連値センサにより検出された操舵角関連値に基づき、操舵装置が切り込み操作されたと判定されたときに、駆動源の生成トルクを低下させるように生成トルク制御機構を制御し、車両が駆動源と車輪との間の動力伝達が遮断されたコースティング走行中であるときには、操舵装置が切り込み操作されているか否かにかかわらず、コースティング走行中ではないときよりも車体下方へ流入する空気量が大きくなるように空気流入量調整機構を制御するように構成されている、ことを特徴とする。
このように構成された本発明においては、制御器は、車両がコースティング走行中であるときには、操舵装置が切り込み操作されているか否かにかかわらず、コースティング走行中ではないときよりも車体下方へ流入する空気量が大きくなるように空気流入量調整機構を制御する。したがって、コースティング走行中は、コースティング走行中ではないときよりも大きいダウンフォースを予め車両の前部に生じさせ、前輪に荷重を加えておくことができる。これにより、コースティング走行中においても、操舵装置の切り込み操作に対する車両の応答性を向上することができ、ドライバの意図に沿った車両姿勢の制御を行うことができる。
【0012】
また、本発明において、好ましくは、制御器は、車両がコースティング走行を開始したときに、車体下方へ流入する空気量を増加させるように空気流入量調整機構を制御するように構成されている。
このように構成された本発明においては、制御器は、車両がコースティング走行を開始すると、操舵装置が切り込み操作されているか否かにかかわらず、車体下方へ流入する空気量を増加させるように空気流入量調整機構を制御するので、コースティング走行中に予めダウンフォースを生じさせて前輪に荷重を加えておくことができる。これにより、コースティング走行中においても、操舵装置の切り込み操作に対する車両の応答性を向上することができる。
【0013】
他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明の車両の制御装置は、車輪を駆動するためのトルクを生成する駆動源と、駆動源の生成トルクを制御する生成トルク制御機構と、操舵装置の操舵角関連値を検出する操舵角関連値センサと、車体の前面に形成された開口を開閉する開閉装置と、制御器とを備えた車両の制御装置であって、制御器は、操舵角関連値センサにより検出された操舵角関連値に基づき、操舵装置が切り込み操作されたと判定されたときに、駆動源の生成トルクを低下させるように生成トルク制御機構を制御し、車両が駆動源と車輪との間の動力伝達が遮断されたコースティング走行中であるときには、操舵装置が切り込み操作されているか否かにかかわらず、コースティング走行中ではないときよりも開閉装置の開度を小さくするように当該開閉装置を制御することにより車体下方へ流入する空気量を増加させるように構成されている、ことを特徴とする。
このように構成された本発明においては、制御器は、車両がコースティング走行中であるときには、操舵装置が切り込み操作されているか否かにかかわらず、コースティング走行中ではないときよりも開閉装置の開度を小さくするように開閉装置を制御し、車体下方へ流入する空気量を増加させる。したがって、コースティング走行中は、コースティング走行中ではないときよりも大きいダウンフォースを予め車両の前部に生じさせ、前輪に荷重を加えておくことができる。これにより、コースティング走行中においても、操舵装置の切り込み操作に対する車両の応答性を向上することができ、ドライバの意図に沿った車両姿勢の制御を行うことができる。
【0014】
また、本発明において、好ましくは、制御器は、車両がコースティング走行中ではないときには、開閉装置の開度が所定の下限値以上となるように当該開閉装置を制御するように構成されている。
このように構成された本発明においては、車両がコースティング走行を開始したときに、コースティング走行中ではないときよりも開閉装置の開度を小さくし、車体下方へ流入する空気量を増加させることができ、車両の前部に生じるダウンフォースを大きくすることができる。したがって、コースティング走行中においても、操舵装置の切り込み操作に対する車両の応答性をより確実に向上することができる。
【0015】
好適な例では、制御器は、車両の目標加速度が所定値以下及び車両の目標減速度が所定値以下であり、且つ、駆動源と車輪との間に設けられた係合要素が解放されているときに、車両がコースティング走行中であると判断するのがよい。
【0016】
好適な例では、制御器は、駆動源と車輪との間に設けられた係合要素を解放する操作が行われたときに、車両がコースティング走行中であると判断するのがよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明による車両の制御装置によれば、コースティング走行中でもドライバの意図に沿った車両姿勢の制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態による車両の制御装置を搭載した車両の全体構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態による車両の制御装置を搭載した車両の前部を左側方から見た断面図である。
図3】本発明の実施形態による車両の制御装置の電気的構成を示すブロック図である。
図4】本発明の実施形態による車両姿勢制御処理のフローチャートである。
図5】本発明の実施形態による付加減速度設定処理のフローチャートである。
図6】付加減速度と操舵速度との関係を示したマップである。
図7】本発明の実施形態による空気流入量制御処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両の制御装置を説明する。
【0020】
<構成>
まず、図1及び図2により、本発明の実施形態による車両の制御装置を搭載した車両のシステム構成を説明する。図1は、本発明の実施形態による車両の制御装置を搭載した車両の全体構成を示すブロック図であり、図2は、本発明の実施形態による車両の制御装置を搭載した車両の前部を左側方から見た断面図である。
【0021】
図1において、符号1は、本実施形態による車両の制御装置を搭載した車両を示す。車両1の車体前部には、車輪(図1の例では左右の前輪2)を駆動する駆動源として、エンジン4が搭載されている。エンジン4は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃エンジンであり、本実施形態では点火プラグ26を有するガソリンエンジンである。
【0022】
また、車両1は、当該車両1を操舵するための操舵装置(ステアリングホイール6など)と、この操舵装置においてステアリングホイール6に連結されたステアリングコラム(図示せず)の回転角度を検出する操舵角センサ8と、車速を検出する車速センサ10と、シフトレバー11の位置に応じたシフトポジションを検出するシフトポジションセンサ12と、エンジン4の冷却水の温度を検出する水温センサ13と、車両1のヨーレートを検出するヨーレートセンサ15と、車両1の加速度を検出する加速度センサ17を有する。これらの各センサは、それぞれの検出値をコントローラ14に出力する。このコントローラ14は、例えばPCM(Power-train Control Module)などを含んで構成される。
【0023】
また、車両1は、各車輪に設けられたブレーキ装置16のホイールシリンダやブレーキキャリパにブレーキ液圧を供給するブレーキ制御システム18を備えている。ブレーキ制御システム18は、各車輪に設けられたブレーキ装置16において制動力を発生させるために必要なブレーキ液圧を生成する液圧ポンプ20を備えている。液圧ポンプ20は、例えばバッテリから供給される電力で駆動され、ブレーキペダルが踏み込まれていないときであっても、各ブレーキ装置16において制動力を発生させるために必要なブレーキ液圧を生成することが可能となっている。また、ブレーキ制御システム18は、各車輪のブレーキ装置16への液圧供給ラインに設けられた、液圧ポンプ20から各車輪のブレーキ装置16へ供給される液圧を制御するためのバルブユニット22(具体的にはソレノイド弁)を備えている。例えば、バッテリからバルブユニット22への電力供給量を調整することによりバルブユニット22の開度が変更される。また、ブレーキ制御システム18は、液圧ポンプ20から各車輪のブレーキ装置16へ供給される液圧を検出する液圧センサ24を備えている。液圧センサ24は、例えば各バルブユニット22とその下流側の液圧供給ラインとの接続部に配置され、各バルブユニット22の下流側の液圧を検出し、検出値をコントローラ14に出力する。
ブレーキ制御システム18は、コントローラ14から入力された制動力指令値や液圧センサ24の検出値に基づき、各車輪のホイールシリンダやブレーキキャリパのそれぞれに独立して供給する液圧を算出し、それらの液圧に応じて液圧ポンプ20の回転数やバルブユニット22の開度を制御する。
【0024】
また、車両1は、エンジン4と車輪(図1の例では左右の前輪2)との間の動力伝達経路上に設けられた自動変速機28を備えている。
自動変速機28は、クラッチ30(係合要素)と、ブレーキ32とを備えており、これらのクラッチ30及びブレーキ32を介してエンジン4から前輪2へ動力が伝達される。また、クラッチ30が解放されることにより、エンジン4から前輪2への動力伝達が遮断される。また、自動変速機28には、クラッチ30及びブレーキ32への供給油圧を制御する油圧制御弁33と、供給油圧を検出する油圧センサ35が設けられている。油圧センサ35は、検出値をコントローラ14に出力する。この油圧センサ35の検出値に基づき、クラッチ30及びブレーキ32の締結状態を判定することができる。
【0025】
また、車両1は、車体の前面に形成された開口を開閉するグリルシャッター34(空気流入量調整機構、開閉装置)を備えている。図2に示すように、グリルシャッター34は、車両1の前面においてエンジン4の前方に形成された開口部に設けられている。グリルシャッター34は、車幅方向に沿って延びる細長い板状のフィン36を複数枚備えている。各フィン36は、その板面が車両1の前後方向に平行な向きと、車両1の前後方向に垂直な向きとの間で回動可能となっている。具体的には、フィン36の向きが車両1の前後方向に平行なとき(図2において実線により示す)に、グリルシャッター34の開度は最大となり、車両1の前方からグリルシャッター34を通過してエンジンルーム38内に流入する空気(図2において実線の矢印により示す)の流量が最大となる。この場合、エンジンルーム38内の圧力が上昇し、車両1の前部を上方へ付勢する揚力が増大する。
【0026】
一方、フィン36の向きが車両1の前後方向に垂直なとき(図2において破線により示す)に、グリルシャッター34の開度は最小となり、車両1の前方からグリルシャッター34を通過してエンジンルーム38内に入る空気の流れは遮断される。これにより、エンジンルーム38内の圧力上昇に伴う揚力が抑制される。さらに、グリルシャッター34の開度を小さくすることにより、車両1の車体下方へ流入する空気(図2において破線の矢印により示す)の流量が増加し、フロア40の下方を流れる空気の流速が上昇する。この場合、フロア40の下方の圧力が低下し、車両1の前部を下方へ付勢するダウンフォースFが増大する。
【0027】
次に、図3により、本発明の実施形態による車両の制御装置の電気的構成を説明する。図3は、本発明の実施形態による車両の制御装置の電気的構成を示すブロック図である。
【0028】
本実施形態によるコントローラ14(制御器)は、上述したセンサ8、10、12、13、15、17、24、35の検出信号の他、車両1の運転状態を検出する各種センサが出力した検出信号に基づいて、生成トルク制御機構として機能するエンジン4の各部(例えば、スロットルバルブ、ターボ過給機、可変バルブ機構、点火プラグ26、燃料噴射弁、EGR装置等)、ブレーキ制御システム18、自動変速機28及びグリルシャッター34に対する制御を行う。具体的には、コントローラ14は、車両1を駆動するときには、車両1に付与すべき目標トルク(駆動トルク)を求めて、この目標トルクをエンジン4から発生させるようにエンジン4に対して制御信号を出力する。また、コントローラ14は、車両1を制動させるときに、車両1に付与すべき目標制動力を求めて、この目標制動力を実現するようにブレーキ制御システム18に対して制御信号を出力する。この場合、コントローラ14は、ブレーキ制御システム18の液圧ポンプ20及びバルブユニット22を制御することで、ブレーキ装置16により所望の制動力を発生させるようにする。さらに、コントローラ14は、車両1の車体下方あるいはエンジンルーム38へ流入する空気量を調整するときに、車両1の運転状態に基づきグリルシャッター34の開度を設定して、この開度を実現するようにグリルシャッター34に対して制御信号を出力する。
【0029】
コントローラ14(ブレーキ制御システム18も同様)は、1つ以上のプロセッサ、当該プロセッサ上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)、及びプログラムや各種のデータを記憶するためのROMやRAMの如き内部メモリを備えるコンピュータにより構成される。
詳細は後述するが、コントローラ14は本発明における制御器に相当する。
【0030】
<車両姿勢制御>
次に、車両の制御装置が実行する具体的な制御内容を説明する。まず、図4により、本発明の実施形態において車両の制御装置が行う車両姿勢制御処理の全体的な流れを説明する。図4は、本発明の実施形態による車両姿勢制御処理のフローチャートである。
【0031】
図4の車両姿勢制御処理は、車両1のイグニッションがオンにされ、車両の制御装置に電源が投入された場合に起動され、所定周期(例えば50ms)で繰り返し実行される。車両姿勢制御処理が開始されると、図4に示すように、ステップS1において、コントローラ14は車両1の運転状態に関する各種センサ情報を取得する。具体的には、コントローラ14は、操舵角センサ8が検出した操舵角、車速センサ10が検出した車速、シフトポジションセンサ12が検出したシフトポジション、水温センサ13が検出した冷却水温、ヨーレートセンサ15が検出したヨーレート、加速度センサ17が検出した加速度、液圧センサ24が検出した液圧、油圧センサ35が検出した油圧、アクセル開度等を含む、上述した各種センサが出力した検出信号を運転状態に関する情報として取得する。
【0032】
次に、ステップS2において、コントローラ14は、ステップS1において取得された車両1の運転状態に基づき、目標加速度を設定する。具体的には、コントローラ14は、種々の車速及び種々のギヤ段について規定された加速度特性マップ(予め作成されてメモリなどに記憶されている)の中から、現在の車速及びギヤ段に対応する加速度特性マップを選択し、選択した加速度特性マップを参照して現在のアクセル開度に対応する目標加速度を決定する。
【0033】
次に、ステップS3において、コントローラ14は、ステップS2において決定した目標加速度を実現するためのエンジン4の基本目標トルクを決定する。この場合、コントローラ14は、現在の車速、ギヤ段、路面勾配、路面μなどに基づき、エンジン4が出力可能なトルクの範囲内で、基本目標トルクを決定する。
【0034】
また、ステップS2及びS3の処理と並行して、ステップS4において、コントローラ14は付加減速度設定処理を実行し、車両1の操舵角に関連する値(操舵角関連値)に基づき、車両1に減速度を発生させることで車両姿勢を制御するために必要なトルク低減量を決定する。本実施形態では、操舵角関連値として操舵角を用いる場合を説明する。
【0035】
ここで、図5及び図6を参照して、本発明の実施形態における付加減速度設定処理について説明する。
図5は、本発明の実施形態による付加減速度設定処理のフローチャートであり、図6は付加減速度と操舵速度との関係を示したマップである。
【0036】
付加減速度設定処理が開始されると、ステップS11において、コントローラ14は、ステアリングホイール6の切り込み操作中(即ち操舵角(絶対値)が増大中)か否かを判定する。その結果、切り込み操作中である場合、ステップS12に進み、コントローラ14は、図4の車両姿勢制御処理のステップS1において操舵角センサ8から取得した操舵角に基づき操舵速度を算出する。
【0037】
次に、ステップS13において、コントローラ14は、操舵速度が所定の閾値S1以上であるか否かを判定する。その結果、操舵速度が閾値S1以上である場合、ステップS14に進み、コントローラ14は、操舵速度に基づき付加減速度を設定する。この付加減速度は、ドライバの意図に沿って車両姿勢を制御するために、ステアリング操作に応じて車両に付加すべき減速度である。
【0038】
具体的には、コントローラ14は、図5のマップに示す付加減速度と操舵速度との関係に基づき、ステップS12において算出した操舵速度に対応する付加減速度を設定する。図5における横軸は操舵速度を示し、縦軸は付加減速度を示す。図5に示すように、操舵速度が閾値S1未満である場合、対応する付加減速度は0である。即ち、操舵速度が閾値S1未満である場合、コントローラ14は、ステアリング操作に基づき車両1の駆動力を低下させ減速度を付加するための制御(具体的にはエンジン4の生成トルクの低減)を行わない。
【0039】
一方、操舵速度が閾値S1以上である場合には、操舵速度が増大するに従って、この操舵速度に対応する付加減速度は、所定の上限値Dmaxに漸近する。即ち、操舵速度が増大するほど付加減速度は増大し、且つ、その増大量の増加割合は小さくなる。この上限値Dmaxは、ステアリング操作に応じて車両1に減速度を付加しても、制御介入があったとドライバが感じない程度の減速度に設定される(例えば0.5m/s3≒0.05G)。さらに、操舵速度が閾値S1よりも大きい閾値S2以上の場合には、付加減速度は上限値Dmaxに維持される。
【0040】
次に、ステップS15において、コントローラ14は、ステップS14で設定した付加減速度に基づき、トルク低減量を決定する。具体的には、コントローラ14は、エンジン4の生成トルクの低下により付加減速度を実現するために必要となるトルク低減量を、現在の車速、ギヤ段、路面勾配等に基づき決定する。ステップS15の後、コントローラ14は付加減速度設定処理を終了し、メインルーチンに戻る。
【0041】
また、ステップS11において、ステアリングホイール6の切り込み操作中ではない場合、又は、ステップS13において、操舵速度が閾値S1未満である場合、コントローラ14は、付加減速度の設定を行うことなく付加減速度設定処理を終了し、メインルーチンに戻る。この場合、トルク低減量は0となる。
【0042】
図4に戻り、ステップS3及びS4の処理の後、ステップS5において、コントローラ14は、ステップS3において設定した基本目標トルクと、ステップS4において決定したトルク低減量に基づき、最終目標トルクを決定する。具体的には、コントローラ14は、基本目標トルクからトルク低減量を減算した値を最終目標トルクとする。つまり、コントローラ14は、車両1に付与する駆動トルクを低減させるようにする。なお、ステップS4においてトルク低減量が設定されなかった場合には(つまりトルク低減量が0である場合)、コントローラ14は、基本目標トルクをそのまま最終目標トルクとする。
【0043】
次に、ステップS6において、コントローラ14は、ステップS5において設定した最終目標トルクを出力させるようにエンジン4を制御する。具体的には、コントローラ14は、ステップS5において設定した最終目標トルクと、エンジン回転数とに基づき、最終目標トルクを実現するために必要となる各種状態量(例えば、空気充填量、燃料噴射量、吸気温度、酸素濃度等)を決定し、それらの状態量に基づき、エンジン4の各構成要素のそれぞれを駆動する各アクチュエータを制御する。この場合、コントローラ14は、状態量に応じた制限値や制限範囲を設定し、状態値が制限値や制限範囲による制限を遵守するような各アクチュエータの制御量を設定して制御を実行する。
【0044】
より詳細には、コントローラ14は、ステップS5において基本目標トルクからトルク低減量を減算することにより最終目標トルクが決定された場合、点火プラグ26の点火時期を、ステップS5において基本目標トルクをそのまま最終目標トルクとしたときの点火時期よりも遅角させる(リタードする)ことにより、エンジン4の生成トルクを低下させる。なお、エンジン4がディーゼルエンジンであって、ステップS5において基本目標トルクからトルク低減量を減算することにより最終目標トルクが決定された場合、コントローラ14は、燃料噴射量を、ステップS5において基本目標トルクをそのまま最終目標トルクとしたときの燃料噴射量よりも減少させることにより、エンジン4の生成トルクを低下させることができる。ステップS6の後、コントローラ14は、車両姿勢制御処理を終了する。
【0045】
<空気流入量制御>
次に、図7により、本発明の実施形態において車両の制御装置が行う空気流入量制御処理を説明する。図7は、本発明の実施形態による空気流入量制御処理のフローチャートである。
【0046】
図7の空気流入量制御処理は、車両1のイグニッションがオンにされ、車両の制御装置に電源が投入された場合に起動され、所定周期(例えば50ms)で繰り返し実行される。空気流入量制御処理が開始されると、図7に示すように、ステップS21において、コントローラ14は車両1の運転状態に関する各種センサ情報を取得する。具体的には、コントローラ14は、車速センサ10が検出した車速、シフトポジションセンサ12が検出したシフトポジション、水温センサ13が検出した冷却水温、液圧センサ24が検出した液圧、アクセル開度等を含む、上述した各種センサが出力した検出信号を運転状態に関する情報として取得する。
【0047】
次に、ステップS22において、コントローラ14は、ステップS21において取得した情報に基づき車両1がエンジン4と車輪との間の動力伝達が遮断されたコースティング走行中か否かを判定する。具体的には、コントローラ14は、車両1の目標加速度が所定値以下及び車両1の目標減速度(絶対値)が所定値以下であり、且つ、油圧センサ35の検出値に基づき自動変速機28のクラッチ30及びブレーキ32が解放されていると判定したときに、車両1がコースティング走行中であると判断する。目標加速度は、図4の車両姿勢制御処理のステップS2において決定されている。また、目標減速度は、車速及びブレーキ液圧と目標減速度との関係を規定した減速度特性マップ(予め作成されてメモリなどに記憶されている)に基づき決定される。他方で、コントローラ14は、自動変速機28のクラッチ30及びブレーキ32が解放する操作が行われたとき(即ちシフトポジションセンサ12により検出されたシフトポジションがNレンジであるとき)に、車両1がコースティング走行中であると判断してもよい。あるいは、コントローラ14は、車両1の目標加速度が所定値以下(アクセル開度が略全閉)及び車両1の目標減速度(絶対値)が所定値以下(ブレーキペダル踏込量が略0)であり、且つ、自動変速機28のクラッチ30及びブレーキ32を解放するために、クラッチ30及びブレーキ32への油圧供給を停止するように油圧制御弁33を制御するコースティング制御を実行中であるときに、車両1がコースティング走行中であると判断してもよい。
【0048】
その結果、車両1がコースティング走行中である場合、ステップS23に進み、コントローラ14は、グリルシャッター34の開度を、車両1の車体下方へ流入する空気量を増加させる開度(空気流入用の開度)に設定する。具体的には、コントローラ14は、グリルシャッター34の開度を最小(0%)に設定する。
【0049】
一方、車両1がコースティング走行中ではない場合、ステップS24に進み、コントローラ14は、グリルシャッター34の開度を、エンジン4の冷却水温度や車速に基づき設定する。このとき、コントローラ14は、グリルシャッター34の開度を所定の下限値(例えば10%)以上に設定する。例えば、コントローラ14は、車速が所定車速以下である場合において、エンジン4の冷却水温度が予め定められた閾値以上であるときにはグリルシャッター34の開度を最大に設定し、冷却水温度が閾値未満であるときにはグリルシャッター34の開度を所定の下限値に設定する。また、車速が所定車速より高い場合には、グリルシャッター34の開度を所定の下限値に設定する。
【0050】
ステップS23又はS24の後、ステップS25に進み、コントローラ14は、ステップS23又はS24において設定した開度となるように、グリルシャッター34を制御する。具体的には、コントローラ14は、ステップS23又はS24において設定した開度に対応する位置となるように、フィン36を駆動するアクチュエータを制御する。ステップS25の後、コントローラ14は、空気流入量制御処理を終了する。
【0051】
このように、車両1がコースティング走行を開始すると(ステップS22:Yes)、グリルシャッター34の開度が最小となるように制御される。これにより、車両1の前方からグリルシャッター34を通過してエンジンルーム38内に入る空気の流れは遮断されるので、エンジンルーム38内の圧力上昇に伴う揚力が抑制される。また、車両1の車体下方へ流入する空気の流量が増加し、フロア40の下方を流れる空気の流速が上昇するので、フロア40の下方の圧力が低下し、車両1の前部を下方へ付勢するダウンフォースFが増大する。即ち、車両1がコースティング走行を開始したときにグリルシャッター34を閉じることにより、コースティング走行中は車両1の前部に予めダウンフォースを生じさせ、荷重を前輪に加えている。これにより、コースティング走行中においても、ステアリングの切り込み操作に対する応答性を向上することができる。
【0052】
<作用効果>
以上のように、本発明の実施形態によれば、コントローラ14は、車両1がコースティング走行を開始すると、ステアリングホイール6が切り込み操作されているか否かにかかわらず、コースティング走行中ではないときよりも車体下方へ流入する空気量が大きくなるように、グリルシャッター34の開度を小さくする。したがって、コースティング走行中は、コースティング走行中ではないときよりも大きいダウンフォースを予め車両1の前部に生じさせ、前輪に荷重を加えておくことができる。これにより、コースティング走行中においても、ステアリングホイール6の切り込み操作に対する車両1の応答性を向上することができ、ドライバの意図に沿った車両姿勢の制御を行うことができる。
【0053】
また、コントローラ14は、車両1がコースティング走行中ではないときには、グリルシャッター34の開度が所定の下限値以上となるようにするので、車両1がコースティング走行を開始したときに、コースティング走行中ではないときよりもグリルシャッター34の開度を小さくし、車体下方へ流入する空気量を増加させることができ、車両1の前部に生じるダウンフォースを大きくすることができる。したがって、コースティング走行中においても、ステアリングホイール6の切り込み操作に対する車両1の応答性をより確実に向上することができる。
【0054】
<変形例>
最後に、本発明の実施形態のさらなる変形例を説明する。
【0055】
上述した実施形態では、図7の空気流入量制御処理において、車両1がコースティング走行中である場合(ステップS22:Yes)、コントローラ14は、グリルシャッター34の開度を最小(0%)に設定する(ステップS23)と説明したが、グリルシャッター34の開度は最小でなくてもよい。少なくとも、コースティング走行中ではないときよりも車体下方へ流入する空気量が大きくなるようにグリルシャッター34の開度を小さくすることにより、コースティング走行中ではないときよりも大きいダウンフォースを予め車両1の前部に生じさせ、前輪に荷重を加えておくことができる。
【0056】
また、上述した実施形態では、車両1が自動変速機28を備えている場合を説明したが、手動変速機を備えた車両にも本発明を適用することができる。この場合、図7の空気流入量制御処理において、コントローラ14は、クラッチペダルが踏み込まれている場合や、シフトポジションがニュートラルである場合に、車両1がコースティング走行中であると判定する(ステップS22:Yes)。
【0057】
また、上述した実施形態では、車両1の操舵角を用いて車両の姿勢制御を実行する例を示したが、操舵角に代えて、ヨーレートセンサ15により検出したヨーレートや加速度センサ17により検出した横加速度等の操舵角関連値に基づき姿勢制御を実行するようにしてもよい。これらの操舵角、ヨーレート、横加速度は、本発明における「操舵角関連値」の一例に相当する。
【符号の説明】
【0058】
1 車両
2 前輪
4 エンジン
6 ステアリングホイール
8 操舵角センサ
12 シフトポジションセンサ
14 コントローラ
26 点火プラグ
28 自動変速機
30 クラッチ
32 ブレーキ
33 油圧制御弁
34 グリルシャッター
35 油圧センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7