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特許6997421圧電アクチュエータの発生変位と発生力の自己感知方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】圧電アクチュエータの発生変位と発生力の自己感知方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/16 20060101AFI20220107BHJP
   G01L 25/00 20060101ALI20220107BHJP
   G01B 7/16 20060101ALI20220107BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20220107BHJP
   H02N 2/18 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
G01L1/16 G
G01L25/00 A
G01B7/16 Z
H01L41/09
H02N2/18
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020121973
(22)【出願日】2020-07-16
(65)【公開番号】P2021076580
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2020-07-16
(31)【優先権主張番号】201911104273.X
(32)【優先日】2019-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520143281
【氏名又は名称】寧波大学
【氏名又は名称原語表記】NINGBO UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】818 Fenghua Road, Jiangbei District, Ningbo City, Zhejiang Province, China
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【弁理士】
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】崔 玉国
(72)【発明者】
【氏名】蔡 永根
(72)【発明者】
【氏名】婁 軍強
(72)【発明者】
【氏名】馬 剣強
(72)【発明者】
【氏名】李 国平
【審査官】岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0054520(US,A1)
【文献】特開2010-229881(JP,A)
【文献】特開2010-50382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/00- 1/26
G01L 5/00- 5/28
G01L25/00
G01B 7/00- 7/34
H01L41/08-41/113
H02N 2/00- 2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電アクチュエータの発生変位と発生力の自己感知方法であって、圧電アクチュエータのチップの表面電荷を取得するための積分器が含まれ、積分器は演算増幅器と積分容量部を含み、前記圧電アクチュエータの発生力Fの自己感知表現式は次のとおりであり、
外力と電圧の作用下での前記圧電アクチュエータの発生変位δの自己感知表現式は次のとおりであり、
ここで、Festは、圧電アクチュエータが自己感知した力であり、δestは、圧電アクチュエータが自己感知した変位であり、Cは積分器の積分容量であり、αは電荷-力係数であり、uoutは積分器の演算増幅器の出力電圧であり、Cは圧電アクチュエータの容量であり、uは圧電アクチュエータの駆動電圧であり、Rは圧電アクチュエータの絶縁抵抗であり、QDAは圧電アクチュエータの誘電吸収電荷QDAであり、iBIASは演算増幅器のバイアス電流であり、δfee_estは、無負荷時の圧電アクチュエータが電圧作用下で自己感知した変位であり、kは圧電アクチュエータの剛性であり、Cの値、Cの値及びuの値は既知であり、
BIASの値は、駆動電圧なしでの演算増幅器の出力電圧uoutを収集してから、演算式
によって取得され、
の値は、無負荷で圧電アクチュエータに一定の駆動電圧uを印加すると同時に、演算増幅器の出力電圧uoutを収集してから、演算式
によって取得され、
αの値は、u = 0の場合、圧電アクチュエータに動的標準力Fを加え、同時に演算増幅器の出力電圧uoutを収集して、演算式
によって取得され、
outの値は、圧電アクチュエータに駆動電圧を印加しない場合、即ちu=0の場合、演算増幅器の出力電圧uoutを収集してから、演算式
によって取得され、
DAの値は、演算式
及びQ DA(s)=QDA(s)/α、k=k/αによって取得され、kとτを識別するとき、u = 0の場合、重りを介して圧電アクチュエータにステップ力を加え、同時に演算増幅器の出力電圧uoutを収集し、識別されたパラメータに従ってFestを取得し、次にFestとFとの差ΔFestを取得し、ΔFestの経時変化曲線を描き、ΔFestの定常値と重りで発生された力の定常値との比はkであり、ΔFestが定常値の63.2%に達するときに対応する時間はτであり、Q DA(s)を識別した後、それに対して逆ラプラス変換を実行して、Q DA(s)の時間領域応答Q DAを取得し、さらにQDAを取得し、
は、u = 0の場合、圧電アクチュエータに与えられた標準力と、その力の作用下での圧電アクチュエータの変位との比によって取得され、
δfee_estの値は、演算式
によって取得され、βの値は、F = 0の場合、圧電アクチュエータにステップ又は正弦波電圧を印加し、その発生変位δを精密変位センサーによって測定し、演算増幅器の出力電圧uoutを収集して、演算式
によって取得される、ことを特徴とする圧電アクチュエータの発生変位と発生力の自己感知方法。
【請求項2】
DAの値は、演算式
及びQ DA(s)=QDA/α、k=k/αによって取得され、kとτを識別するとき、積層圧電アクチュエータにステップ電圧を印加し、精密変位センサーで積層圧電アクチュエータの発生変位δを測定し、識別されたパラメータに従ってδfee_estを取得し、
そして両者の差Δδfee_estを取得して、Δδfee_estの経時変化曲線(即ち、ステップ電圧uの作用下でのΔδfee_est応答曲線)を描き、Δδfee_estの定常値とuの定常値との比はkであり、Δδfee_estが定常値の63.2%に達するときに対応する時間はτであり、
DA(s)を識別した後、それに対して逆ラプラス変換を実行して、Q DA(s)の時間領域応答 DAを取得し、さらにQDAを取得する、ことを特徴とする請求項1に記載の圧電アクチュエータの発生変位と発生力の自己感知方法。
【請求項3】
前記圧電アクチュエータは積層圧電アクチュエータである、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の圧電アクチュエータの発生変位と発生力の自己感知方法。
【請求項4】
前記圧電アクチュエータはバイモルフ型の圧電アクチュエータである、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の圧電アクチュエータの発生変位と発生力の自己感知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノポジショニング技術の分野に属し、ナノポジショニングシステムにおける圧電アクチュエータに関し、特に、圧電アクチュエータの発生変位と発生力の自己感知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電アクチュエータは、ナノスケールの動き精度及び分解能を発生できるアクチュエータである。電磁、磁歪、静電、電熱、形状記憶合金などの他のタイプのアクチュエータと比較して、圧電アクチュエータは小型、高剛性、高速応答、大発生力、高変位分解能、無加熱、無ノイズの利点を有するため、幅広くナノポジショニングシステムで使用されている。例えば、積層圧電アクチュエータ(機械的に直列、電気的に並列の多層圧電セラミックチップで構成)を使用して、フレキシブルヒンジメカニズムツールホルダーを駆動し、ファストツールサーボシステムを構成し、超精密加工で微少送りを実現する。積層圧電アクチュエータによりフレキシブルヒンジメカニズムグリッパを駆動し、片持ち梁型圧電アクチュエータ(単層の圧電セラミックチップを黄青銅又はベリリウム青銅に接着してなる、即ち、ユニモルフ型の圧電アクチュエータ、あるいは二層の圧電セラミックチップをそれぞれ黄青銅又はベリリウム青銅の両面に接着してなる、即ち、バイモルフ型の圧電アクチュエータ)をグリッパフィンガとして採用して、圧電マイクログリッパを構成することによって、MEMSのマイクロアセンブリー中でマイクシャフト、マイクロギアなどのマイクロ部品、及びマイクロモータ、マイクロポンプなどのマイクロ部材に対してピックアップ、搬送、組み立てなどを行い、ならびに生物医学工学で細胞に対して捕捉や放出などのマイクロ操作を行う。
【0003】
上述したそれらのナノポジショニングシステムでは、微動機構の発生変位の大きさと発生力の大きさの両方を感知する必要がある。例えば、超精密加工にファストツールサーボを使用する場合、送り量と送り力が適切であることを保証するために、ツールホルダの送り量と送り力を感知する必要がある。大きすぎると、加工物が過度に変形し、加工物とツールとの間に激しい摩擦と摩耗が生じ、加工精度と加工品質が低下する。小さすぎると、加工効率が低下する。マイクロアセンブリーとマイクロ操作の作業中、それを制御しマイクロオブジェクトの間の衝突を回避するために、マイクログリッパのグリッパフィンガの発生変位を感知する必要がある。同時に、発生力の大きさを適切にするために、グリッパフィンガの発生力を感知する必要がある。そうしないと、発生力が小さすぎる場合、マイクロオブジェクトが脱落し、発生力が大きすぎる場合、マイクロオブジェクトが損傷する。
【0004】
現在は、たいてい精密センサー(抵抗ひずみゲージ、誘導式センサー、容量式センサーなど)を使用して、ナノポジショニングシステムの微動機構の発生変位と発生力を感知している。これらの精密センサーは高価であり、ナノポジショニングシステムのコストを増加させる。また、マイクロアセンブリーやマイクロ操作などのナノポジショニングシステムでは、スペースの制約により、センサーを設置することができず、システムの設計の難しさが増加する。ナノポジショニングシステムのコスト及び設計の難しさを低減するために、現在、自己感知(即ち、精密センサーを省略)方法を採用して圧電アクチュエータの発生変位と発生力の情報を取得することもあり、主に電気的ブリッジ法と積分器法を含む。
【0005】
電気的ブリッジ法の原理は、次のとおりである。圧電アクチュエータをブリッジアームとして使用し、他の3つのブリッジアーム(基準コンデンサ、直列インピーダンス)と一緒に電気的ブリッジを構成する。駆動電圧が圧電アクチュエータに印加されていない場合、電気的ブリッジはバランスが取れる。駆動電圧の作用下で、電気的ブリッジは電圧(即ち、感知電圧)を出力する。この電圧は、圧電アクチュエータの駆動電圧に比例する。圧電アクチュエータの発生変位と発生力も同駆動電圧に比例するため、感知電圧により圧電アクチュエータの発生変位と発生力を反映することができる。電気的ブリッジ法の実現原理及び回路構成は簡単であるが、次のような欠点がある。電気的ブリッジ法は、動的駆動状況にのみ適し、静的又は低周波駆動状況には適していない。その理由は次のとおりである。圧電セラミックチップは理想的な絶縁体ではなく、一定の漏れ抵抗があり、動作中に漏れ電流が発生する。静的又は低周波数状況での漏れ電流は、電気的ブリッジのバランスを崩す。電気的ブリッジのバランスが崩れると、システムの安定性が低下する。駆動電圧と比較して、感知電圧は非常に小さい。
【0006】
積分器法の原理は次のとおりである。圧電アクチュエータを構成する圧電セラミックチップが駆動電圧の作用下で分極化しながら変形し、さらに、駆動電圧に比例する電荷がチップの表面に発生する。圧電アクチュエータの発生変位と発生力も駆動電圧に比例するため、圧電アクチュエータの発生変位と発生力もチップの表面電荷に比例する。しかしながら、チップの表面電荷を直接求めることができず、積分器(即ち、積分回路)により取得する必要がある。それにより、積分回路の出力電圧は、圧電アクチュエータの発生変位と発生力を反映することができる。積分器法の実現原理と回路構成も比較的簡単であり、チップの表面電荷を反映する積分回路の出力電圧(即ち、感知電圧)は電気的ブリッジ法の感知電圧よりもはるかに大きくなり、静的又は低周波駆動状況だけでなく、動的駆動状況にも適している。このことからわかるように、積分器法は、電気的ブリッジ法よりも有利である。しかしながら、現在の積分器法(例えば、特許ZL201510515293.1に開示された積分器法)にはまた以下の欠点がある。
1)圧電セラミックチップの漏れ抵抗によって発生する漏れ電流の自己感知精度への影響を排除するために、積分器のフィードバックコンデンサの両端に抵抗を並列に接続することによって、C×R=C×R(この式は、チップの漏れ電流を除去するためのバランス条件である。C、Rはそれぞれ圧電アクチュエータのチップの容量、漏れ抵抗であり、C、Rはそれぞれ積分器のフィードバックコンデンサ、フィードバック抵抗である)を満たす。圧電アクチュエータのチップの漏れ抵抗Rは多くの場合1010Ω以上に達するため、積分器のフィードバック抵抗Rは10Ω以上に達する必要がある。このような高い抵抗値を持つ抵抗は購入が難しく、複数の直列接続で実現する必要がある。また、圧電アクチュエータのチップの漏れ抵抗Rは環境温度と湿度の影響により変化しやすいため、C×R=C×Rを満たすために、積分器のフィードバック抵抗Rも頻繁に調整する必要がある。それにより、積分器法を実現するのが難しくなり、調整プロセスが煩瑣である。
【0007】
2)電圧の作用下で圧電アクチュエータのチップによって生成される誘電吸収が無視される。実際には、圧電セラミックチップは電圧の作用下で誘電吸収を生成し、チップの表面に電荷を発生させる。この電荷は、圧電アクチュエータに発生変位と発生力を発生させないが、積分器を構成する演算増幅器に出力電圧を発生させ、それにより圧電アクチュエータの発生変位と発生力の自己感知精度を低下させる。
【0008】
3)積分器を構成する演算増幅器のバイアス電流が無視される。実際には、全ての演算増幅器にはバイアス電流が存在する。このバイアス電流は積分器の出力を引き起こし、それによって圧電アクチュエータの発生変位と発生力の自己感知精度を低下させる。
【発明の概要】
【0009】
本発明が解決しようとする技術的課題は、圧電アクチュエータのチップの漏れ抵抗によって発生する漏れ電流の自己感知精度への影響を排除する場合、積分器のフィードバックコンデンサの両端に抵抗を並列に接続することなく、電圧の作用下で圧電アクチュエータのチップによって生成される誘電吸収と積分器を構成する演算増幅器のバイアス電流とを考慮して、自己感知精度を向上させる圧電アクチュエータの発生変位と発生力の自己感知方法を提供することである。
【0010】
本発明が上記の技術的課題を解決するために採用する技術的手段は、圧電アクチュエータの発生変位と発生力の自己感知方法である。この方法では、(図1図2に示すように)圧電アクチュエータは外力F及び駆動電圧uの作用下で変形δし、変形と同時に圧電アクチュエータのチップが分極化される。それにより、(図1図2に示すように)チップの表面に電荷Qが発生する。この電荷Qには、圧電アクチュエータの発生変位(出力変位)δと発生力(出力力)(その大きさは外力と同じであり、方向は外力とは逆である)Fの情報が含まれる。δとF、uとの間、及びQとF、uとの間の関係を確定でき、Qを取得できる限り、δ、Fを取得することができる。
【0011】
δとF、uとの間の関係、及びQとF、uとの間の関係は、第一類圧電基礎方程式によって取得することができる。第一類圧電基礎方程式に基づいて、QとF、uとの間の関係は、
として表わすことができる。
式では、αは電荷-力係数であり、Cは圧電アクチュエータの容量である。
【0012】
第一類圧電基礎方程式に基づいて、δとF、uとの間の関係は、
として表わすことができる。
式では、kは圧電アクチュエータの剛性であり、λは変位-電圧係数である。
【0013】
式(1)からわかるように、圧電アクチュエータのチップの表面電荷には、圧電アクチュエータの発生力の情報が含まれる。圧電アクチュエータの駆動電圧は既知であるため、圧電アクチュエータのチップの表面電荷が得られれば、圧電アクチュエータの発生力を取得することができる。それにより、外部の力センサーを節約し、圧電アクチュエータの発生力の自己感知を実現することができる。
【0014】
圧電アクチュエータのチップの表面電荷Qは、チップを流れる電流に対して積分することによって取得することができる。図3には、圧電アクチュエータのチップの表面電荷を得る積分回路(即ち、積分器)が示される。図3では、積分器は、演算増幅器Aと積分容量部Cを含み、圧電アクチュエータを流れる電流を積分するために使用される。放電回路は、スイッチKと電流制限抵抗Rを含み、Cの電荷がゼロになることを保証するために、毎回圧電アクチュエータを駆動する前に、積分容量部Cを放電するために使用される。
【0015】
図3では、圧電アクチュエータの正極が電源の正極に接続され(電源の負極が接地される)、圧電アクチュエータの負極が演算増幅器Aの反転端に接続される(演算増幅器Aの非反転端が接地される)。積分容量部Cの一端は、演算増幅器Aの反転端に接続され、他端は演算増幅器Aの出力端に接続される。スイッチKと電流制限抵抗Rが直列に接続された後、一端が演算増幅器Aの反転端に接続され、他端が演算増幅器Aの出力端に接続される。
【0016】
図3では、演算増幅器Aの出力電圧uoutは、
として表わすことができる。
式では、Cは積分器の積分容量であり、Qは積分容量部の電荷であり、iは積分容量部C及び圧電アクチュエータPAを流れる電流である。
【0017】
式(1)を式(3)に代入すると、
が得られる。
式(4)からわかるように、演算増幅器Aの出力電圧uoutは圧電アクチュエータの発生力を反映することができる。従って、uoutを正確に取得できる限り、圧電アクチュエータの発生力の精密な自己感知を実現することができる。そのため、演算増幅器の出力電圧uoutの精度に影響を与える要因を考慮する必要がある。これらの要因には、主に次の3つの側面が含まれる。
1)圧電アクチュエータは理想的な絶縁体ではなく、その絶縁抵抗(それが圧電アクチュエータの等価容量と並列に接続される)は無限ではない。電圧の作用下で漏れ電流が発生する。この漏れ電流は演算増幅器の出力電圧を引き起こす。
2)圧電セラミック材料は誘電吸収特性を持ち、それにより圧電アクチュエータのチップの表面に電荷が発生する。この電荷も演算増幅器の出力電圧を引き起こす。
3)演算増幅器にはバイアス電流iBIASがある。このバイアス電流iBIASも演算増幅器の出力電圧を引き起こす。
【0018】
上記の3つの要因を考慮すると、演算増幅器の出力電圧uoutは、
として表すことができる。
式(5)の等号の右側の最後の3つの項目はそれぞれ、圧電アクチュエータの漏れ電流、チップ表面の誘電吸収電荷、及び演算増幅器のバイアス電流によって生じる演算増幅器の出力電圧である。Rは圧電アクチュエータの絶縁抵抗であり、QDAは圧電アクチュエータのチップの誘電吸収電荷であり、iBIASは演算増幅器のバイアス電流である。
【0019】
式(5)に基づいて、圧電アクチュエータの発生力の自己感知表現式は、
として取得することができる。
式では、Festは、圧電アクチュエータの自己感知力である。
【0020】
式(6)からわかるように、α、R、QDA、iBIASを識別すれば、圧電アクチュエータの発生力の自己感知を実現することができる。α、R、QDA、iBIASの識別プロセスは次のとおりである。
【0021】
1)演算増幅器のバイアス電流iBIASの識別
演算増幅器のバイアス電流は演算増幅器自体に関連するが、圧電アクチュエータの駆動電圧uとは関係ないため、演算増幅器のバイアス電流iBIASを識別するとき、圧電アクチュエータに駆動電圧を印加しない(即ちu=0)場合、演算増幅器の出力電圧uoutを収集する。圧電アクチュエータの駆動電圧はゼロであるため、その発生力F、漏れ電流u/R、及び誘電吸収電荷QDAはすべてゼロである。それにより、式(5)に従って、演算増幅器の出力電圧uoutは、
として表すことができる。
式(7)の両側の導関数を同時に取得することにより、
を得ることができる。
(8)からわかるように、駆動電圧のない演算増幅器の出力電圧uoutを収集すれば、iBIASを識別することができる。iBIASはuoutの勾配であるため、iBIASの識別結果を正確にするために、数十秒間uoutを継続的に収集する必要がある。
【0022】
2)圧電アクチュエータの絶縁抵抗Rの識別
圧電アクチュエータの絶縁抵抗Rを識別するとき、無負荷(即ち、圧電アクチュエータは拘束されていない、F=0)で圧電アクチュエータに一定の駆動電圧uを印加する。(演算増幅器の出力電圧uoutのドリフトを除去するために)駆動電圧が数百秒間印加された後、演算増幅器の出力電圧uoutを収集する。誘電体の誘電吸収は瞬間的な充放電プロセスにのみ関係するため、この時点でQDAはゼロである。それにより、式(5)に従って、演算増幅器の出力電圧uoutは、
として表わすことができる。
式(9)の両側の導関数を同時に取得する。圧電アクチュエータの発生力Fは一定値であるため、その導関数はゼロである。それにより、
を取得することができる。
さらに、圧電アクチュエータの絶縁抵抗は
として取得することができる。
演算増幅器のバイアス電流iBIASは識別されたため、式(11)から圧電アクチュエータの絶縁抵抗Rを識別することができる。このことからわかるように、一定の駆動電圧下での演算増幅器の出力電圧uoutを収集すれば、圧電アクチュエータの絶縁抵抗Rを識別することができる。
【0023】
3)電荷-力係数αの識別
式(1)からわかるように、電荷-力係数αは外力Fの作用下での圧電アクチュエータのチップの表面電荷とその力との比である。また、圧電アクチュエータのチップの表面電荷は、積分器の積分容量部Cの電荷Q(即ち、Cuout)と同じである。それにより、式(4)に基づいて、電荷-力係数αは
として表わすことができる。
そこで、電荷-力係数αを識別するとき、u = 0である(即ち、圧電アクチュエータに駆動電圧を印加しない)場合、圧電アクチュエータに動的標準力を加え(例えば、重りによりステップ力(step force)を加えるか、又は起振機により正弦波作用力を加える。動的力を加える理由は、圧電セラミックに漏れ抵抗があることである。静的な状況では、その表面の電荷は迅速に漏れる)、同時に演算増幅器の出力電圧uoutを収集する。さらに、式(12)に基づいて、電荷-力係数αを識別することができる。式(12)では、uoutとFは、それぞれの振幅を取ればよい。
【0024】
4)チップ表面誘電吸収電荷QDAの識別
式(3)から、
が分かる。
式(6)に基づいて、式(13)のQは、
であることが得られる。
式では、Festは、識別されたパラメータに基づいて取得することができる。
【0025】
式(13)のQは、外力の作用下での圧電アクチュエータのチップの表面電荷(即ち、αF)と誘電吸収電荷QDAとの合計であり、即ち
である。
さらに、
を取得することができる。
誘電体の誘電吸収QDAは、αΔFestとuとの間の一次伝達関数、即ち
により定量的に表すことができる。
式では、kは静的感度であり、τは時定数である。
【0026】
式(17)はさらに
として表すことができる。
式では、Q DA(s)=QDA(s)/α、k=k/αである。
【0027】
式(18)からわかるように、k、τを識別すれば、Q DA(s)を識別することができ、それによって時間領域QDAを識別することができる。kとτを識別するとき、u = 0である(即ち、圧電アクチュエータに駆動電圧を印加しない)場合、重りにより圧電アクチュエータにステップ力を加え、同時に演算増幅器の出力電圧uoutを収集する。識別されたパラメータに基づいてFestを取得し、次にFestとFとの差ΔFestを取得して、ΔFestの経時変化曲線(即ち、重りの作用下でのΔFest応答曲線)を描く。ΔFestの定常値と重りによって生成された力の定常値との比はkであり、ΔFestが定常値の63.2%に達するときに対応する時間はτである。Q DA(s)を識別した後、それに対して逆ラプラス変換を実行すると、Q DA(s)の時間領域応答 DAを取得し、さらにQDAを取得することができる。
【0028】
上記は、外力と電圧の同時作用下での圧電アクチュエータの発生力の自己感知方法である。以下では、外力と電圧の同時作用下での圧電アクチュエータの発生変位の自己感知方法を示す。式(2)からわかるように、圧電アクチュエータの発生変位は、外力のみ(u = 0)によって発生する変位(即ち、式(2)の等号の右側の第1項)と電圧のみ(F = 0)によって発生する変位(即ち、式(2)の等号の右側の第2項)との合計である。式(2)の等号の右側の第1項では、外力Fは既に自己感知方法によって取得され(即ち、式(6)のFest)、圧電アクチュエータの剛性kは、u = 0である(即ち、圧電アクチュエータに駆動電圧を印加しない)場合、標準力(例えば、重りにより生成されるもの)と、この力の作用下での圧電アクチュエータの変位との比によって識別することができる。それにより、外力のみが作用する場合に、圧電アクチュエータの発生変位を取得することができる。
【0029】
以下では、式(2)の等号の右側の第2項、即ち、無負荷時の圧電アクチュエータの電圧作用下での発生変位の自己感知方法を説明する。圧電アクチュエータへの外力がゼロである場合、式(1)と式(2)はそれぞれ以下の式で表すことができる。
式(19)及び式(20)により、Qとδとの間の関係は、
である。
式では、β = C/λであり、それは電荷-変位係数である。
【0030】
式(20)からわかるように、圧電アクチュエータが電圧のみの作用を受ける場合、そのチップの表面電荷にはその無負荷発生変位の情報が含まれるため、圧電アクチュエータのチップの表面電荷を取得すれば、圧電アクチュエータの無負荷発生変位を取得することができる。
【0031】
力を自己感知するときにチップの表面電荷を取得する場合と同様に、圧電アクチュエータの無負荷発生変位を自己感知するとき、チップの表面電荷Qも積分器(図3に示す)により取得される。図3では、圧電アクチュエータが電圧のみの作用を受ける場合、演算増幅器Aの出力電圧uoutは、
として表すことができる。
式(21)を式(22)に代入すると、
を取得することができる。
圧電アクチュエータの漏れ抵抗、誘電吸収、バイアス電流を考慮すると、無負荷時の圧電アクチュエータが電圧の作用を受ける場合、図3の演算増幅器の出力電圧uout
として表すことができる。
さらに、無負荷時の圧電アクチュエータの電圧作用下での発生変位の自己感知表現式は、
として取得することができる。
式(25)からわかるように、β、R、QDA、iBIASを識別すれば、無負荷時の圧電アクチュエータの電圧作用下での発生変位を自己感知することができる。ここで、iBIAS、R、QDAは、力の自己感知時に識別された。以下では、βの識別プロセスを説明する。
【0032】
式(23)からわかるように、電荷-変位係数βは、積分器の積分容量部Cでの電荷Q(即ち、Cuout)と圧電アクチュエータの発生変位δとの比であり、即ち、
である。
そこで、電荷-変位係数βを識別するとき、F = 0である(即ち、圧電アクチュエータに外力を加えない)場合、圧電アクチュエータにステップ又は正弦波電圧を印加して、精密変位センサーによってその発生変位δ(精密変位センサーは、パラメータを識別するときにのみ使用され、自己感知としては不要である)を測定し、同時に演算増幅器の出力電圧uoutを収集する。さらに、式(26)に基づいて、電荷-変位係数βを識別することができる。式(26)では、uoutとδは、それぞれの振幅を取ればよい。
【0033】
また、QDAは、測定された無負荷変位と自己感知された無負荷変位により識別することもできる。この識別方法は以下のとおりである。
【0034】
式(25)に基づいて、式(13)のQは、
として取得することができる。
式では、δfee_estは、識別されたパラメータに基づいて取得することができる。
【0035】
式(13)のQは、圧電アクチュエータに無負荷発生変位を発生させる電荷(即ち、βδ)と誘電吸収電荷QDAとの合計であり、即ち、
である。
さらに、
を取得することができる。
誘電体の誘電吸収QDAは、αΔδfee_estとuとの間の一次伝達関数、即ち
により定量的に表すことができる。
式では、kは静的感度であり、τは時定数である。
【0036】
式(30)は、さらに次の式で表わされ得る。
式では、Q DA(s)=QDA/α、k=k/αである。
【0037】
式(31)からわかるように、k、τを識別すれば、Q DA(s)を識別することができ、それによってQDAを識別することができる。k、τを識別するとき、圧電アクチュエータにステップ電圧を印加し、精密変位センサーで圧電アクチュエータの発生変位δを測定し、識別されたパラメータに従ってδfee_estを取得し、そして両者の差Δδfee_estを取得して、Δδfee_estの経時変化曲線(即ち、ステップ電圧uの作用下でのΔδfee_est応答曲線)を描く。Δδfee_estの定常値とuの定常値との比はkである。Δδfee_estが定常値の63.2%に達するときに対応する時間はτである。Q DA(s)を識別した後、それに対して逆ラプラス変換を実行すると、Q DA(s)の時間領域応答 DAを取得し、さらにQDAを取得することができる。
【0038】
無負荷時の圧電アクチュエータの電圧作用下での自己感知変位δfee_estを取得した後、外力と電圧の作用下での圧電アクチュエータの自己感知変位δestは、
として表すことができる。
このように、圧電アクチュエータの発生変位と発生力の自己感知が実現される。上記式(6)と式(32)はそれぞれ圧電アクチュエータの発生変位と発生力の自己感知表現式である。
【0039】
従来技術と比較して、本発明は以下の点で優れている。
1)圧電アクチュエータ内のチップ漏れ抵抗によって生成された漏れ電流の自己感知精度への影響を排除する場合、積分器のフィードバック容量部の両端に抵抗を並列に接続する方法ではなく(即ち、チップ漏れ電流を排除するバランス条件を満たすことが不要である)、積分器の出力電圧から、チップ漏れ電流に起因する出力部分を差し引くため、圧電アクチュエータの発生変位と発生力の自己感知精度を改善する状況で、積分器法を実現しやすく、バランスを繰り返し調整するプロセスは不要である。
2)圧電アクチュエータのチップが電圧の作用下で生成する誘電吸収を考慮すると、積分器の出力電圧から、誘電吸収に起因する出力部分を差し引くことによって、圧電アクチュエータの発生変位と発生力の自己感知精度が向上する。
3)積分器を構成する演算増幅器のバイアス電流を考慮すると、積分器の出力電圧から、演算増幅器のバイアス電流に起因する出力部分を差し引くことによって、圧電アクチュエータの発生変位と発生力の自己感知精度がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】積層圧電アクチュエータが外力と電圧の作用下で変位と電荷を生成する模式図である。
図2】バイモルフ型の圧電アクチュエータが外力と電圧の作用下で変位と電荷を生成する模式図である。
図3】圧電アクチュエータと自己感知回路との接続模式図である。
図4】積層圧電アクチュエータと自己感知回路との接続模式図である。
図5】バイモルフ型の圧電アクチュエータと自己感知回路との接続模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、図面を参照して本発明の実施例をさらに詳細に説明する。
【0042】
実施例1では、図1及び図4に示すように、圧電アクチュエータの発生変位と発生力の自己感知方法が提供される。この方法では、積層圧電アクチュエータは(図1に示すように)外力F及び駆動電圧uの作用下で変形δし、変形と同時に積層圧電アクチュエータのチップが分極化される。それにより、(図1図2に示すように)チップの表面に電荷Qが発生する。この電荷Qには、積層圧電アクチュエータの発生変位δと発生力(その大きさは外力と同じであり、方向は外力とは逆である)Fの情報が含まれる。δとF、uとの間、及びQとF、uとの間の関係を確定しQを取得できる限り、δ、Fを取得することができる。
【0043】
δとF、uとの間の関係、及びQとF、uとの間の関係は、第一類圧電基礎方程式によって取得することができる。第一類圧電基礎方程式に基づいて、QとF、uとの間の関係は、
として表わすことができる。
式では、αは電荷-力係数であり、Cは積層圧電アクチュエータの容量である。
【0044】
第一類圧電基礎方程式に基づいて、δとF、uとの間の関係は、
として表わすことができる。
式では、kは圧電アクチュエータの剛性であり、λは変位-電圧係数である。
【0045】
式(1)からわかるように、積層圧電アクチュエータのチップの表面電荷には、圧電アクチュエータの発生力の情報が含まれる。積層圧電アクチュエータの駆動電圧は既知であるため、積層圧電アクチュエータのチップの表面電荷が得られれば、積層圧電アクチュエータの発生力を取得することができる。それにより、外部の力センサーを節約し、積層圧電アクチュエータの発生力の自己感知を実現することができる。
【0046】
積層圧電アクチュエータのチップの表面電荷Qは、チップを流れる電流に対して積分することによって取得することができる。図4には、積層圧電アクチュエータのチップの表面電荷を得る積分回路(即ち、積分器)が示される。図4では、積分器は、演算増幅器Aと積分容量部Cを含み、積層圧電アクチュエータを流れる電流を積分するために使用される。放電回路は、スイッチKと電流制限抵抗Rを含み、Cの電荷がゼロになることを保証するために、毎回積層圧電アクチュエータを駆動する前に、積分容量部Cを放電するために使用される。
【0047】
図4では、積層圧電アクチュエータの正極が電源の正極に接続され(電源の負極が接地される)、積層圧電アクチュエータの負極が演算増幅器Aの反転端に接続される(演算増幅器Aの非反転端が接地される)。積分容量部Cの一端は、演算増幅器Aの反転端に接続され、他端は演算増幅器Aの出力端に接続される。スイッチKと電流制限抵抗Rが直列に接続された後、一端が演算増幅器Aの反転端に接続され、他端が演算増幅器Aの出力端に接続される。
【0048】
図4では、演算増幅器Aの出力電圧uoutは、
として表わすことができる。
式では、Cは積分器の積分容量であり、QCは積分容量部の電荷であり、iは積分容量部C及び圧電アクチュエータPAを流れる電流である。
【0049】
式(1)を式(3)に代入すると、
が得られる。
式(4)からわかるように、演算増幅器Aの出力電圧uoutは積層圧電アクチュエータの発生力を反映することができる。従って、uoutを正確に取得できる限り、積層圧電アクチュエータの発生力の精密な自己感知を実現することができる。そのため、演算増幅器の出力電圧uoutの精度に影響を与える要因を考慮する必要がある。これらの要因には、主に次の3つの側面が含まれる。
1)積層圧電アクチュエータは理想的な絶縁体ではなく、その絶縁抵抗(それが圧電アクチュエータの等価容量と並列に接続される)は無限ではない。電圧の作用下で漏れ電流が発生する。この漏れ電流は演算増幅器の出力電圧を引き起こす。
2)圧電セラミック材料は誘電吸収特性を持ち、それにより積層圧電アクチュエータのチップの表面に電荷が発生する。この電荷も演算増幅器の出力電圧を引き起こす。
3)演算増幅器にはバイアス電流iBIASがある。このバイアス電流iBIASも演算増幅器の出力電圧を引き起こす。
【0050】
上記の3つの要因を考慮すると、演算増幅器の出力電圧uoutは、
として表すことができる。
式(5)の等号の右側の最後の3つの項目はそれぞれ、積層圧電アクチュエータの漏れ電流、チップ表面の誘電吸収電荷、及び演算増幅器のバイアス電流によって生じる演算増幅器の出力電圧である。Rは積層圧電アクチュエータの絶縁抵抗であり、QDAは積層圧電アクチュエータのチップの誘電吸収電荷であり、iBIASは演算増幅器のバイアス電流である。
【0051】
式(5)に基づいて、積層圧電アクチュエータの発生力の自己感知表現式は、
として取得することができる。
式では、Festは、積層圧電アクチュエータの自己感知力である。
【0052】
式(6)からわかるように、α、R、QDA、iBIASを識別すれば、積層圧電アクチュエータの発生力の自己感知を実現することができる。α、R、QDA、iBIASの識別プロセスは次のとおりである。
【0053】
1)演算増幅器バイアス電流iBIASの識別
演算増幅器のバイアス電流は演算増幅器自体に関連するが、積層圧電アクチュエータの駆動電圧uとは関係ないため、演算増幅器のバイアス電流iBIASを識別するとき、積層圧電アクチュエータに駆動電圧を印加せずに(即ちu=0)、演算増幅器の出力電圧uoutを収集する。積層圧電アクチュエータの駆動電圧はゼロであるため、その発生力F、漏れ電流u/R、及び誘電吸収電荷QDAはすべてゼロである。それにより、式(5)に基づいて、演算増幅器の出力電圧uoutは、
をとして表すことができる。
式(7)の両側の導関数を同時に取得することにより、
を取得することができる。
(8)からわかるように、駆動電圧のない演算増幅器の出力電圧uoutを収集すれば、iBIASを識別することができる。iBIASはuoutの勾配であるため、iBIASの識別結果を正確にするために、数十秒間uoutを継続的に収集する必要がある。
【0054】
2)圧電アクチュエータの絶縁抵抗Rの識別
積層圧電アクチュエータの絶縁抵抗Rを識別するとき、無負荷(即ち、圧電アクチュエータは拘束されていない、F=0)で積層圧電アクチュエータに一定の駆動電圧uを印加する。(演算増幅器の出力電圧uoutのドリフトを除去するために)駆動電圧が数百秒間印加された後、演算増幅器の出力電圧uoutを収集する。誘電体の誘電吸収は瞬間的な充放電プロセスにのみ関係するため、この時点でQDAはゼロである。それにより、式(5)に基づいて、演算増幅器の出力電圧uoutは、
として表すことができる。
式(9)の両側の導関数を同時に取得する。積層圧電アクチュエータの発生力Fは一定値であるため、その導関数はゼロである。それにより、
を取得することができる。
さらに、積層圧電アクチュエータの絶縁抵抗は
として取得することができる。
演算増幅器のバイアス電流iBIASは識別されたため、式(11)から積層圧電アクチュエータの絶縁抵抗Rを識別することができる。このことからわかるように、一定の駆動電圧下での演算増幅器の出力電圧uoutを収集すれば、積層圧電アクチュエータの絶縁抵抗Rを識別することができる。
【0055】
3)電荷-力係数αの識別
式(1)からわかるように、電荷-力係数αは外力Fの作用下での圧電アクチュエータのチップの表面電荷とその力との比である。また、積層圧電アクチュエータのチップの表面電荷は、積分器の積分容量部Cの電荷Q(即ち、Cuout)と同じである。それにより、式(4)に基づいて、電荷-力係数αは
として表すことができる。
そこで、電荷-力係数αを識別するとき、u = 0である(即ち、圧電アクチュエータに駆動電圧を印加していない)場合、積層圧電アクチュエータに動的標準力を加え(例えば、重りによりステップ力を加えるか、又は起振機により正弦波作用力を加える。動的力を加える理由は、圧電セラミックに漏れ抵抗があることである。静的な状況では、その表面の電荷は迅速に漏れる)、同時に演算増幅器の出力電圧uoutを収集する。さらに、式(12)に基づいて、電荷-力係数αを識別することができる。式(12)では、uoutとFは、それぞれの振幅を取ればよい。
【0056】
4)チップ表面誘電吸収電荷QDAの識別
式(3)から、
がわかる。
式(6)により、式(13)のQ
であることが得られる。
式では、Festは、識別されたパラメータに基づいて取得することができる。
【0057】
式(13)のQは、外力の作用下での積層圧電アクチュエータのチップの表面電荷(即ち、αF)と誘電吸収電荷QDAとの合計であり、即ち
である。
さらに、
を取得することができる。
誘電体の誘電吸収QDAは、αΔFestとuとの間の一次伝達関数、即ち
により定量的に表すことができる。
式では、kは静的感度であり、τは時定数である。
【0058】
式(17)は、さらに
として表すことができる。
式では、Q DA(s)=QDA(s)/α、k=k/αである。
【0059】
式(18)からわかるように、k、τを識別すれば、Q DA(s)を識別することができ、それによって時間領域QDAを識別することができる。kとτを識別するとき、u = 0である(即ち、積層圧電アクチュエータに駆動電圧を印加しない)場合、重りにより積層圧電アクチュエータにステップ力を加え、同時に演算増幅器の出力電圧uoutを収集する。識別されたパラメータに基づいてFestを取得し、次にFestとFとの差ΔFestを取得して、ΔFestの経時変化曲線(即ち、重りの作用下でのΔFest応答曲線)を描く。ΔFestの定常値と重りによって生成された力の定常値との比はkであり、ΔFestが定常値の63.2%に達するときに対応する時間はτである。Q DA(s)を識別した後、それに対して逆ラプラス変換を実行すると、Q DA(s)の時間領域応答 DAを取得し、さらにQDAを取得することができる。
【0060】
上記は、外力と電圧の同時作用下での積層圧電アクチュエータの発生力の自己感知方法である。以下では、外力と電圧の同時作用下での積層圧電アクチュエータの発生変位の自己感知方法を示す。式(2)からわかるように、積層圧電アクチュエータの発生変位は、外力のみ(u = 0)によって発生する変位(即ち、式(2)の等号の右側の第1項)と電圧のみ(F = 0)によって発生する変位(即ち、式(2)の等号の右側の第2項)との合計である。式(2)の等号の右側の第1項では、外力Fは既に自己感知方法によって取得され(即ち、式(6)のFest)、積層圧電アクチュエータの剛性kは、u = 0である(即ち、圧電アクチュエータに駆動電圧を印加しない)場合、標準力(例えば、重りにより生成されるもの)と、この力の作用下での積層圧電アクチュエータの変位との比によって識別することができる。それにより、外力のみが作用する場合に、圧電アクチュエータの発生変位を取得することができる。
【0061】
以下では、式(2)の等号の右側の第2項、即ち、無負荷時の積層圧電アクチュエータの電圧作用下での発生変位の自己感知方法を説明する。積層圧電アクチュエータへの外力がゼロである場合、式(1)と式(2)はそれぞれ以下の式で表すことができる。
式(19)及び式(20)により、Qとδとの間の関係は、
であることが得られる。
式では、β = C/λであり、それは電荷-変位係数である。
【0062】
式(20)からわかるように、積層圧電アクチュエータが電圧のみの作用を受ける場合、そのチップの表面電荷にはその無負荷発生変位の情報が含まれるため、積層圧電アクチュエータのチップの表面電荷を取得すれば、積層圧電アクチュエータの無負荷発生変位を取得することができる。
【0063】
力を自己感知するときにチップの表面電荷を取得する場合と同様に、積層圧電アクチュエータの無負荷発生変位を自己感知するとき、チップの表面電荷Qも積分器(図3に示す)により取得される。図3では、積層圧電アクチュエータが電圧のみの作用を受ける場合、演算増幅器Aの出力電圧uoutは、
として表すことができる。
式(21)を式(22)に代入すると、
を取得することができる。
積層圧電アクチュエータの漏れ抵抗、誘電吸収、バイアス電流を考慮すると、無負荷時の圧電アクチュエータが電圧の作用を受ける場合、図3の演算増幅器の出力電圧uout
として表すことができる。
さらに、無負荷時の圧電アクチュエータの電圧作用下での発生変位の自己感知表現式は、
として取得することができる。
式(25)からわかるように、β、R、QDA、iBIASを識別すれば、無負荷時の積層圧電アクチュエータの電圧作用下での発生変位を自己感知することができる。ここで、iBIAS、R、QDAは、力の自己感知時に識別された。以下では、βの識別プロセスを説明する。
【0064】
式(23)からわかるように、電荷-変位係数βは、積分器の積分容量部Cでの電荷Q(即ち、Cuout)と積層圧電アクチュエータの発生変位δとの比であり、即ち、
である。
そこで、電荷-変位係数βを識別するとき、F = 0である(即ち、積層圧電アクチュエータに外力を加えない)場合、積層圧電アクチュエータにステップ又は正弦波電圧を印加して、精密変位センサーによってその発生変位δ(精密変位センサーは、パラメータを識別するときにのみ使用され、自己感知としては不要である)を測定し、同時に演算増幅器の出力電圧uoutを収集する。さらに、式(26)に基づいて、電荷-変位係数βを識別することができる。式(26)では、uoutとδは、それぞれの振幅を取ればよい。
【0065】
また、QDAは、測定された無負荷変位と自己感知された無負荷変位により識別することもできる。この識別方法は以下のとおりである。
【0066】
式(25)に基づいて、式(13)のQ
であることが得られる
式では、δfee_estは、識別されたパラメータに基づいて取得することができる。
【0067】
式(13)のQは、積層圧電アクチュエータに無負荷発生変位を発生させる電荷(即ち、βδ)と誘電吸収電荷QDAとの合計であり、即ち、
である。
さらに、
が得られる。
誘電体の誘電吸収QDAは、αΔδfee_estとuとの間の一次伝達関数、即ち
により定量的に表すことができる。
式では、kは静的感度であり、τは時定数である。
【0068】
式(30)は、さらに次の式で表わされ得る。
式では、Q DA(s)=QDA/α、k=k/αである。
【0069】
式(31)からわかるように、k、τが識別される限り、Q DA(s)を識別することができ、さらにQDAを識別することができる。k、τを識別するとき、積層圧電アクチュエータにステップ電圧を印加し、精密変位センサーで積層圧電アクチュエータの発生変位δを測定し、識別されたパラメータに従ってδfee_estを取得し、そして両者の差Δδfee_estを取得して、Δδfee_estの経時変化曲線(即ち、ステップ電圧uの作用下でのΔδfee_est応答曲線)を描く。Δδfee_estの定常値とuの定常値との比はkである。Δδfee_estが定常値の63.2%に達するときに対応する時間はτである。Q DA(s)を識別した後、それに対して逆ラプラス変換を実行すると、Q DA(s)の時間領域応答 DAを取得し、さらにQDAを取得することができる。
【0070】
無負荷時の積層圧電アクチュエータの電圧作用下での自己感知変位δfee_estを取得した後、外力と電圧の作用下での積層圧電アクチュエータの自己感知変位δestは、
として表わすことができる。
このように、積層圧電アクチュエータの発生変位と発生力の自己感知が実現される。上記式(6)と式(32)はそれぞれ積層圧電アクチュエータの発生変位と発生力の自己感知表現式である。
【0071】
図2図5に示すように、実施例2は、実施例1と似ているが、圧電アクチュエータがバイモルフ型の圧電アクチュエータであるという点で異なる。
【0072】
本発明の好ましい実施例を説明したが、当業者により行われる様々な変更や修正は、本発明の範囲から逸脱するものではない。
図1
図2
図3
図4
図5