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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 3/083 20060101AFI20220107BHJP
   F16H 3/091 20060101ALI20220107BHJP
   F16H 3/089 20060101ALI20220107BHJP
   F16H 3/48 20060101ALI20220107BHJP
   F16D 11/12 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
F16H3/083
F16H3/091
F16H3/089
F16H3/48
F16D11/12
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021117056
(22)【出願日】2021-07-15
【審査請求日】2021-07-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521314138
【氏名又は名称】金川 博優紀
(74)【代理人】
【識別番号】100097984
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 宏
(72)【発明者】
【氏名】金川 博優紀
【審査官】岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-20526(JP,A)
【文献】特開2021-11226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/083
F16H 3/091
F16H 3/089
F16H 3/48
F16D 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸と、
該入力軸と同軸上又は平行に配置される出力軸と、
前記入力軸と前記出力軸との間で相対して噛合し、軸方向に配置される複数の変速ギヤ対と、
所望の変速比を有する前記変速ギヤ対に前記入力軸からの動力を選択的に伝達するための一又は複数の変速比切替手段と、を有する変速機であって、
前記変速比切替手段が、前記出力軸又は前記入力軸に空転可能に設けられて前記変速ギヤ対の一方をなす空転ギヤに、軸方向に接離自在なネジ部同士の螺合によって動力が伝達される構成を有し、
前記変速ギヤ対の切替がなされたとき、切替前の変速比切替手段における前記ネジ部同士の螺合が、切替後における前記空転ギヤを有する軸の回転速度の変化により自動的に解除されるように構成した ことを特徴とする変速機。
【請求項2】
前記変速比切替手段が、
前記空転ギヤを有する軸と共に回転するハブスリーブと、
前記空転ギヤに設けられ、前記ネジ部同士の一方をなす第1ネジ部と、
前記ハブスリーブに該ハブスリーブと共に回転可能に且つ軸方向に移動可能に設けられ、前記ネジ部同士の他方をなす第2ネジ部と、
前記ハブスリーブに該ハブスリーブと共に回転可能に且つ軸方向に移動可能に設けられ、前記シフトフォークによって前記第1ネジ部に向けて前記第2ネジ部を押す移動スリーブと、を有している
ことを特徴とする請求項1に記載の変速機。
【請求項3】
軸方向で隣り合う変速比切替手段が1つのハブスリーブと1つの移動スリーブを共用する構成を有し、前記1つの移動スリーブを挟んで前記1つのハブスリーブに各変速比切替手段の第2ネジ部が配置され、各変速比切替手段における前記1つの移動スリーブの移動方向は逆であり、且つ各ネジ部同士は逆ネジの関係にある
ことを特徴とする請求項2に記載の変速機。
【請求項4】
前記各第2ネジ部が互いに接近する方向に弾性部材で付勢されている
ことを特徴とする請求項3に記載の変速機。
【請求項5】
前記ハブスリーブが、前記移動スリーブを軸方向に移動させるガイド溝を少なくとも2つ有し、前記各ガイド溝は、前記移動スリーブが前記ハブスリーブの周方向にずれることが可能な幅を有しているとともに、前記第1ネジ部に対する前記第2ネジ部の螺合が完了するまで前記移動スリーブの移動を阻止する構成を有している
ことを特徴とする請求項3又は4に記載の変速機。
【請求項6】
前記空転ギヤと前記移動スリーブとが、前記第1ネジ部に対する前記第2ネジ部の螺合が完了した後に前記移動スリーブの移動により互いに嵌合する凹凸構成を有している
ことを特徴とする請求項5に記載の変速機。
【請求項7】
前記動力源と前記入力軸との間に設けられ、着脱操作で前記動力源の動力の伝達・遮断がなされるクラッチと、前記動力源と前記クラッチの間に設けられ、クラッチペダルを深く踏み込んだときに前記入力軸を前記動力源であるエンジンの回転とは逆に回転させる遊星歯車機構と、を有している
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の変速機。
【請求項8】
前記遊星歯車機構が、前記クラッチペダルを深く踏み込んだときにプラネタリギヤが公転せずに自転のみする構成を有している
ことを特徴とする請求項7に記載の変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の走行条件は、停止状態から発進する場合、低速走行から高速走行に移行する場合、あるいはこれらの逆の場合、さらには後退する場合など広範囲に亘って変化する。このような走行条件の変化に応じてエンジン性能を適合させるべく変速機が用いられる。従来の手動変速機(マニュアルトランスミッション;MT)は、運転者によるシフトノブやシフトレバーの操作によって変速比を変化させるものである。
【0003】
この種の手動変速機は、例えば特許文献1に記載されているように、インプットシャフトとアウトプットシャフトとが同一軸線上に隣り合うように配置されるとともに、これらのシャフトと平行にカウンタシャフトが配置された構成を有している。そして、インプットシャフト及びアウトプットシャフトとカウンタシャフトとの間に相対して噛合する複数の変速ギヤ対が軸方向に間隔をおいて設けられ、これらの変速ギヤ対の間には、所望の変速比を有する変速ギヤ対に対して選択的に動力伝達を可能とする変速比切替手段としてのシンクロメッシュ機構が配置されている。
【0004】
シンクロメッシュ機構は、例えば、アウトプットシャフト上に該アウトプットシャフトと共に回転可能に且つ軸方向に移動可能に設けられており、アウトプットシャフトに噛み合うクラッチハブと、クラッチハブにスプライン嵌合したハブスリーブと、ハブスリーブの内側に設けられたシンクロナイザリング等から構成されている。ハブスリーブを軸方向における右又は左に移動させ、シンクロナイザリングを介してアウトプットシャフト上のメインギヤ(空転ギヤ)と噛み合わせることにより、インプットシャフトからカウンタシャフトに伝達された回転は、メインギヤからハブスリーブを経由してアウトプットシャフトに伝えられる。例えばハブスリーブは運転者が操作するシフトノブに接続されたシフトフォークでアウトプットシャフト上を移動させられる。メインギヤにハブスリーブが連結される前に、シンクロナイザリングによってメインギヤとハブスリーブとの回転の同期がとられる。すなわち、シンクロナイザリングは、アウトプットシャフトとメインギヤとの間の回転数を同期させる作用を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-317856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の手動変速機では、変速比を変える場合には、運転者がクラッチペダルを踏んでクラッチを切る操作が必要となる。これはMT車を好む運転者にとってAT(オートマティックトランスミッション)車では得られない醍醐味ともいえるものであるが、クラッチを切ると次の変速比に切り替わるまでトルク伝達がされない状態(トルク抜けの状態)が生じ、シームレスな変速は得られない。また、変速比を段階的に単調に変化させる場合などのケースではクラッチ操作が煩わしくなることも否めない。また、シンクロナイザリングによってギヤの回転数を同期させる構成では、同期するまでの時間が必要であるために変速比変更点での滑らかさに欠け、同期が完了するまでの接触による部品の摩耗も避けられない。
【0007】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来の手動変速機の良さを維持しつつ、トルク抜けのないシームレスな変速ができるとともにクラッチ操作を低減して操作性の向上を図ることができ、部品の摩耗抑制にも寄与することができる変速機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、従来のシンクロメッシュ機構を用いた同期方式の概念に代えて、出力軸への動力伝達をネジ部同士の螺合によって行い、切替前のネジ部同士の螺合を、切替後における軸の回転速度の変化を利用して自動的に解除して部分的なクラッチレス化を実現する、という考えに基づいている。
【0009】
具体的には、本発明に係る変速機(2)は、入力軸(18)と、該入力軸(18)と同軸上又は平行に配置される出力軸(20)と、入力軸(18)と出力軸(20)との間で相対して噛合し、軸方向に配置される一又は複数の変速ギヤ対(22A~22F)と、所望の変速比を有する変速ギヤ対(22A~22F)に入力軸(18)からの動力を選択的に伝達するための複数の変速比切替手段(SC1~SC6)と、を有する変速機であって、変速比切替手段(SC1~SC6)が、出力軸(20)又は入力軸(18)に空転可能に設けられて変速ギヤ対(22A~22F)の一方をなす空転ギヤ(MG1~MG6)に、軸方向に接離自在なネジ部同士の螺合によって動力が伝達される構成を有し、変速ギヤ対(22A~22F)の切替がなされたとき、切替前の変速比切替手段(SC1~SC6)におけるネジ部同士の螺合が、切替後における空転ギヤ(MG1~MG6)を有する軸(20)の回転速度の変化により自動的に解除されるように構成したことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る変速機によれば、変速段のシフトアップやシフトダウンにおいてクラッチ操作が不要となる。このため、変速比の変更点でトルクが伝達されない状態が生じずに済むので、トルク抜けの無いシームレスな変速を行うことができるとともに、操作性が向上する。また、ネジ部同士の螺合によってシンクロナイザリングを用いる構成に比べて接触摩耗を抑制できる。
【0011】
また、上記の変速機では、変速比切替手段(SC1~SC6)が、空転ギヤ(MG1~MG6)を有する軸(20)と共に回転するハブスリーブ(26A~26C)と、空転ギヤ(MG1~MG6)に設けられ、ネジ部同士の一方をなす第1ネジ部(FS1~FS6)と、ハブスリーブ(26A~26C)に該ハブスリーブ(26A~26C)と共に回転可能に且つ軸方向に移動可能に設けられ、ネジ部同士の他方をなす第2ネジ部(MS1~MS6)と、ハブスリーブ(26A~26C)に該ハブスリーブ(26A~26C)と共に回転可能に且つ軸方向に移動可能に設けられ、シフトフォーク(SF1~SF3)によって第1ネジ部(FS1~FS6)に向けて第2ネジ部(MS1~MS6)を押す移動スリーブ(SB1~SB3)と、を有していることを特徴とする。これによれば、従来の手動変速機と同様に、シフトノブによるシフトフォークの駆動でスリーブを移動させることにより、ネジ部同士の螺合を得ることができる。
【0012】
また、上記の変速機では、軸方向で隣り合う変速比切替手段(SC1、SC2)が1つのハブスリーブ(26A)と1つの移動スリーブ(SB1)を共用する構成を有し、1つの移動スリーブ(SB1)を挟んで1つのハブスリーブ(26A)に各変速比切替手段(SC1、SC2)の第2ネジ部(MS1、MS2)が配置され、各変速比切替手段(SC1、SC2)における1つの移動スリーブ(SB1)の移動方向は逆であり、且つ各ネジ部同士は逆ネジの関係にあることを特徴とする。これによれば、隣り合う変速比切替手段で構成の共用化を図ることができ、構成の簡易化、小型化を図ることができる。
【0013】
また、上記の変速機では、各第2ネジ部(MS1~MS6)が互いに接近する方向に弾性部材(52)で付勢されていることを特徴とする。これによれば、螺合が自動解除された第2ネジ部を所定位置に確実に移動させることができる。
【0014】
また、上記の変速機では、ハブスリーブ(26A~26C)が、移動スリーブ(SB1~SB3)を軸方向に移動させるガイド溝(26Ab)を少なくとも2つ有し、各ガイド溝(26Ab)は、移動スリーブ(SB1~SB3)がハブスリーブ(26A~26C)の周方向にずれることが可能な幅を有しているとともに、第1ネジ部(FS1~FS6)に対する第2ネジ部(MS1~MS6)の螺合が完了するまで移動スリーブ(SB1~SB3)の移動を阻止する構成を有していることを特徴とする。これによれば、空転ギヤと移動スリーブとが完全に同期した状態で移動スリーブを移動させることができる。
【0015】
また、上記の変速機では、空転ギヤ(MG1~MG6)と移動スリーブ(SB1~SB3)とが、第1ネジ部(FS1~FS6)に対する第2ネジ部(MS1~MS6)の螺合が完了した後に移動スリーブ(SB1~SB3)の移動により互いに嵌合する凹凸構成を有していることを特徴とする。これによれば、空転ギヤと移動スリーブとが完全に同期した状態で移動スリーブを移動させ、確実に嵌合することができる。
【0016】
また、上記の変速機では、動力源と入力軸との間に設けられ、着脱操作で動力源の動力の伝達・遮断がなされるクラッチと、動力源とクラッチとの間に設けられ、クラッチペダルを深く踏み込んだときに入力軸(16)を動力源であるエンジンの回転とは逆に回転させる遊星歯車機構(10)を有していることを特徴とする。これによれば、何らかの理由でエンジンが停止した場合でもネジ部同士の螺合を外してニュートラルに戻すことができる。
【0017】
また、上記の変速機では、遊星歯車機構(10)が、クラッチペダルを深く踏み込んだときにプラネタリギヤ(38)が公転せずに自転のみする構成を有していることを特徴とする。これによれば、クラッチペダルの踏み込み操作だけでネジ部同士の螺合を外す回転を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来の手動変速機の良さを維持しつつ、トルク抜けのないシームレスな変速ができるとともにクラッチ操作を低減して操作性の向上を図ることができ、部品の摩耗抑制にも寄与する変速機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第一実施形態に係る変速機の全体構成図で、クラッチが係合(締結)されている状態の図である。
図2図1の状態からクラッチが切断(解放)されている状態の一部省略図である。
図3図1で示した変速機における1速対応の変速比切替手段と2速対応の変速比切替手段の構成を示す分解斜視図である。
図4図1で示した変速機の要部拡大図である。
図5図4で示したニュートラル状態から1速ギヤへ入れた状態の図である。
図6図1で示した変速機におけるハブスリーブに嵌合する部材の嵌合状態を示す概要縦断面図で、(a)は移動スリーブの嵌合状態を示す図、(b)は雄ネジ部の嵌合状態を示す図である。
図7図6(b)におけるX1-X1線での概要断面図である。
図8図1で示した変速機における移動スリーブの凹凸嵌合タイミングを遅らす構成を示す概要図で、移動スリーブがニュートラル位置にある状態の図である。
図9】(a)は図8の状態から移動スリーブを1速ギヤへ移動した図でネジ部同士の螺合が進行した状態を示す図、(b)はネジ部同士の螺合が完了した状態を示す図である。
図10図5で示した状態から移動スリーブを移動して2速ギヤへ入れた状態の図である。
図11】(a)は図9(b)の状態から移動スリーブを2速ギヤへ移動して2速ギヤのネジ部同士の螺合が完了した状態を示す図、(b)2速ギヤのネジ部同士の螺合の完了に伴って1速ギヤのネジ部同士が外れた状態を示す図である。
図12図1のX2-X2線での概要断面図である。
図13】本発明の第二実施形態にかかる変速機の構成の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0021】
〔第一実施形態〕
図1及び図2は、本発明の第一実施形態に係る変速機の構成の概要を示す図で、図1はクラッチが係合(締結)されている状態の全体図、図2はクラッチが切断(解放)されている状態のエンジン側のみの図(一部省略図)である。本実施形態の変速機2は、FR車用の変速機であって、変速機構部4と、クラッチ部6と、フライホイール8と、フライホイール8のエンジン側に配置された遊星歯車機構10等を備えている。符号12はディファレンシャルギヤを、14は差動輪(後輪)を、15はミッションケースをそれぞれ示している。
【0022】
変速機構部4は、クラッチ部6の着脱操作でエンジン(動力源)の動力の伝達・遮断がなされる入力軸(第一入力軸)16と、該入力軸16と平行に配置されるカウンタ軸(第二入力軸:本発明の入力軸に相当)18と、入力軸16と同一軸線上に配置される出力軸(メインシャフト)20と、入力軸16及び出力軸20とカウンタ軸18との間で相対して噛合し、軸方向に配置される複数の変速ギヤ対22A~22Fと、バックギヤ22Rと、不図示のシフトノブ(シフトレバーの概念を含む)に接続されたシフトフォークSF1~SF3で駆動され、所望の変速比を有する変速ギヤ対に入力軸16からの動力を選択的に伝達するための複数の変速比切替手段SC1~SC6と、シフトフォークSF4で駆動されるバック切替手段SC7と、を有している。出力軸20は遊星歯車機構10まで延びている。以下では、出力軸20をメインシャフト20と称する。シフトフォークSF1~SF4における四角枠内の数字(1~6)は変速段階(低速→高速)を示し、Rはバックを示している。
【0023】
変速ギヤ対22A~22Fはヘリカルギヤからなり、車両の後退時に使われるバックギヤ22Rは平歯車からなる。変速ギヤ対22Aは、カウンタギヤCG1とこれに噛合するドリブンギヤDG及びドリブンギヤDGと一体のメインギヤMG1とからなる。ドリブンギヤDGはスプライン嵌合により入力軸16と共に回転する。変速ギヤ対22Bは、カウンタギヤCG2とこれに噛合するメインギヤMG2とからなり、変速ギヤ対22Cは、カウンタギヤCG3とこれに噛合するメインギヤMG3とからなる。変速ギヤ対22Dは、カウンタギヤCG4とこれに噛合するメインギヤMG4とからなる。また、変速ギヤ対22Eは、カウンタギヤCG5とこれに噛合するメインギヤMG5とからなり、変速ギヤ対22Fは、カウンタギヤCG6とこれに噛合するメインギヤMG6とからなる。バックギヤ22Rは、カウンタギヤCG7及びこれに噛合する中間ギヤAGと、該中間ギヤAGに噛合するメインギヤMG7とからなる。
【0024】
各変速比切替手段SC1~SC6及びバック切替手段SC7は、メインシャフト20に空転可能に設けられて変速ギヤ対22A~22F及びバックギヤ22Rの一方をなす空転ギヤとしてのメインギヤMG1~MG7に、軸方向に接離自在なネジ部同士の螺合によって動力が伝達される構成を有している。メインギヤMG1~MG7は、後述する雌ネジ部を形成するための軸方向に突出したリング部が一体に形成された断面コ字形状を有している。空転ギヤとは、支持される軸の回転の影響を受けずに当該軸に回転可能に設けられているギヤを意味する。
【0025】
変速比切替手段SC1は、ドリブンギヤDGと一体に構成されたメインギヤMG1を有する軸であるメインシャフト20とスプライン嵌合で共に回転する円筒状のハブスリーブ26Aと、メインギヤMG1に設けられ、ネジ部同士の一方をなす雌ネジ部(第1ネジ部)FS1と、ハブスリーブ26Aに該ハブスリーブ26Aと共に回転可能に且つ軸方向に移動可能に設けられ、ネジ部同士の他方をなすリング状の雄ネジ部(第2ネジ部)MS1と、ハブスリーブ26Aに該ハブスリーブ26Aと共に回転可能に且つ軸方向に移動可能に設けられ、シフトフォークSF1によって雌ネジ部FS1に向けて雄ネジ部MS1を押す移動スリーブSB1と、を有している。メインギヤMG1には噛合対象が存在しないので、歯は形成されていない。
【0026】
軸方向で隣り合う変速比切替手段SC1とSC2は、1つのハブスリーブ26Aと1つの移動スリーブSB1を共用する構成を有している。すなわち、1つの移動スリーブSB1を挟んで、1つのハブスリーブ26Aに各変速比切替手段SC1、SC2の第2ネジ部である雄ネジ部MS1、MS2が軸方向に隣り合うように配置されている。各変速比切替手段SC1、SC2における1つの移動スリーブSB1の移動方向は逆であり、且つ各ネジ部同士は逆ネジの関係にある。他の変速比切替手段においても同様である。すなわち、変速比切替手段SC3とSC4は、1つのハブスリーブ26Bと1つの移動スリーブSB2を共用し、変速比切替手段SC5とSC6は、1つのハブスリーブ26Cと1つの移動スリーブSB3を共用している。変速比切替手段SC1、SC3、SC5のネジ部同士は正ネジによる螺合であり、変速比切替手段SC2、SC4、SC6のネジ部同士は逆ネジによる螺合である。バック切替手段SC7のネジ部同士は正ネジによる螺合である。
【0027】
図3に示すように、変速比切替手段SC1におけるメインギヤMG1のリング部MG1aの内周面には雌ネジ部(第1ネジ部)FS1が形成されており、リング部MG1aには軸方向に突出する円柱状の凸部MG1bが周方向に等間隔に複数(ここでは4つ)形成されている。符号MG1cはメインシャフト20の挿通孔を示している。共用のハブスリーブ26Aの外面には、周方向の幅が異なる3種類のガイド溝が形成されており(後述)、雄ネジ部(第2ネジ部)MS1のハブスリーブ26Aに対する挿通孔MS1aには、3種類のガイド溝のうちの1種類のガイド溝(ここでは4つ)に嵌合する凸部MS1bが形成されている。共用の移動スリーブSB1のハブスリーブ26Aに対する挿通孔SB1aには、3種類のガイド溝のうちの2種類のガイド溝に嵌合する2つの凸部SB1bと、8つの凸部SB1cが形成されている。ハブスリーブ26Aは、メインシャフト20に部分的に形成されたスプライン部20a(図1参照)に嵌合する嵌合孔26Aaを有している。
【0028】
図3に示すように、変速比切替手段SC2におけるメインギヤMG2のリング部MG2aの内周面には逆ネジの雌ネジ部(第1ネジ部)FS2が形成されており、リング部MG2aには軸方向に突出する円柱状の凸部MG2bが周方向に等間隔に複数(ここでは4つ)形成されている。符号MG2cはメインシャフト20の挿通孔を示している。逆ネジの雄ネジ部MS2のハブスリーブ26Aに対する挿通孔MS2aには、雄ネジ部MS1が嵌合するハブスリーブ26Aの同じガイド溝に嵌合する凸部MS2bが複数(ここでは4つ)形成されている。移動スリーブSB1には、メインギヤMG1の凸部MG1bに嵌合する孔形状の凹部SB1dが形成されているとともに、メインギヤMG2の凸部MG2bに嵌合する孔形状の凹部SB1eが形成されている。すなわち、空転ギヤ(メインギヤMG1、MG2)と移動スリーブSB1とが、第1ネジ部(雌ネジ部FS1、FS2)に対する第2ネジ部(雄ネジ部MS1、MS2)の螺合が完了した後に嵌合する凹凸構成を有している。凹凸の配置は相対的で、移動スリーブSB1側に凸部を、空転ギヤ(メインギヤMG1、MG2)側に凹部を設けてもよい。他の変速比切替手段SC3~SC6及びバック切替手段SC7においても同様であり、符号が異なるだけであるので説明は省略する。図3では分り易くするためにメインシャフト20を直角に折り曲げて表示している。
【0029】
図1に示すように、バック切替手段SC7では、ハブスリーブ26Dがスプライン嵌合によりメインシャフト20と共に回転する。メインシャフト20のスプライン部20b、20cはそれぞれ変速比切替手段SC3、SC4共用のハブスリーブ26B、変速比切替手段SC5、SC6共用のハブスリーブ26Cに対応し、スプライン部20dはバック切替手段SC7のハブスリーブ26Dに対応している。したがって、ハブスリーブ26A~26Dとこれらに嵌合している雄ネジ部MS1~MS7、移動スリーブSB1~SB4はメインシャフト20と共に回転する。
【0030】
クラッチ部6は、不図示のクラッチペダルの操作によって入力軸16上をスライドするレリーズベアリング30と、レリーズベアリング30で押圧されるダイヤフラムスプリング32と、ダイヤフラムスプリング32のスプリング圧でフライホイール8に圧接されるクラッチディスク34等を有している。図1は、フライホイール8にクラッチディスク34が圧接されてエンジンの動力が入力軸16に伝達されているがギヤの入力(雌ネジ部と雄ネジ部の螺合)がないニュートラルの状態を示し、図2は、クラッチペダルを最深部まで踏み込んでエンジンの動力を逆回転で伝達する状態を示している。
【0031】
以下、図2に示すクラッチペダルを最深部まで踏み込んだ状態を「深クラッチ」と称し、半クラッチや、クラッチペダルが最深部まで到達せずにエンジンの動力伝達が遮断された通常のクラッチ切り状態と区別する。
【0032】
遊星歯車機構10は、エンジンの回転が直接伝達され、フライホイール8と一体に固定されたリングギヤケース36と、該リングギヤケース36に一体に形成されたリングギヤ36aと、リングギヤ36aに噛合する平歯車からなる4つのプラネタリギヤ38と、メインシャフト20に空転可能に支持され、プラネタリギヤ38を保持するプラネタリベース40と、プラネタリギヤ38に噛合するサンギヤ42と、サンギヤ42に固定されたサンギヤシャフト44と、メインシャフト20に固定された固定ディスク46と、メインシャフト20に空転可能に支持され、プラネタリベース40のエンジン側に配置されたディスクプレート48と、固定ディスク46とディスクプレート48との間に配置されたバネ50等を有している。符号40aはプラネタリギヤ38を支持する軸を、符号51は、深クラッチでの回転を円滑するためのスラストベアリングを示している。
【0033】
メインシャフト20は入力軸16に対して空転する構成となっており、サンギヤシャフト44は入力軸16に対してスプライン嵌合により入力軸16と共に回転し且つ軸方向に移動可能に設けられている。また、サンギヤシャフト44は遊星歯車機構10側のスライド部44aとダイヤフラムスプリング32に固定された押圧部44bとに分割された構成を有している。クラッチディスク34はサンギヤシャフト44のスライド部44aに対してスプライン嵌合によりスライド部44aと共に回転し且つ軸方向に移動可能に設けられている。図1に示すように、ニュートラルの状態では、固定ディスク46とプラネタリベース40とはディスクプレート48を介してバネ50のスプリング圧で軸方向に離れている。
【0034】
フライホイール8にクラッチディスク34が圧接するクラッチ入りの状態では、エンジンの回転がサンギヤシャフト44を介して入力軸16に伝達され、ドリブンギヤDGが回転するとともにメインギヤMG1が空転する。同時にドリブンギヤDGの回転がカウンタギヤCG1を介してカウンタ軸18に伝達され、カウンタギヤCG2~CG7が回転する。これに伴って、メインシャフト20が回転しない状態でカウンタギヤCG2~CG7に噛合するメインギヤMG2~MG7が空転する。
【0035】
以下に変速機2の操作について説明する。
[ニュートラルから1速ギヤへのシフトアップ]
図4は、図1における変速比切替手段SC1、SC2間におけるニュートラル状態を拡大した図である。このニュートラル状態からクラッチペダルを踏み、半クラッチで変速比切替手段SC1の1速ギヤであるメインギヤMG1を空転させた状態で、図5に示すように、不図示のシフトノブを操作してシフトフォークSF1でスリーブSB1を軸方向左側に移動させ、雄ネジ部MS1を雌ネジ部FS1に向けて押す。すると、回転していない雄ネジ部MS1が1速で空回転しているメインギヤMG1の雌ネジ部FS1に噛み合い、螺合が進行する。螺合が進行している状態では雄ネジ部MS1がハブスリーブ26A上をスライドするだけで、ハブスリーブ26AにメインギヤMG1の回転は伝わらない。雌ネジ部FS1と雄ネジ部MS1の螺合が完了すると、雄ネジ部MS1はメインギヤMG1と一体となり、メインギヤMG1の回転がハブスリーブ26Aに伝達されてメインシャフト20が1速の変速比で回転する。雌ネジ部FS1と雄ネジ部MS1の螺合完了にやや遅れて、メインギヤMG1の凸部MG1bが移動スリーブSB1の凹部SB1dに嵌合し、メインギヤMG1と移動スリーブSB1とが一体化される。
【0036】
雄ネジ部MS1のネジ先端が雌ネジ部FS1のネジ先端に係合すると、螺合が一気に進行する。シンクロナイザリングを用いる方式では接触しながら嵌合機会を待たなければならないが、本発明の「ネジ螺合方式」ではネジが係合するまでの時間がほとんどなく、このため部材同士の不要な接触も存在しない。
【0037】
雌ネジ部FS1と雄ネジ部MS1の螺合完了にやや遅れてメインギヤMG1に移動スリーブSB1が一体化される構成及び動作を、図6乃至図9を参照して説明する。図6はハブスリーブ26Aに対する、軸方向と直交する方向での移動スリーブSB1と雄ネジ部MS1の嵌合構造の拡大概要断面図である。なお、メインシャフト20に対するハブスリーブ26Aのスプライン嵌合構成は省略している。
【0038】
図6(a)に示すように、ハブスリーブ26Aの外面には、移動スリーブSB1の凸部SB1bが嵌合するガイド溝26Abが径方向で対向する2箇所に形成されているとともに、凸部SB1cが2つずつ嵌合する幅広のガイド溝26Acが周方向に略等間隔で4箇所に形成されている。また、図6(b)に示すように、雄ネジ部MS1の凸部MS1bが嵌合するガイド溝26Adが周方向に略等間隔で4箇所に形成されている。すなわち、ハブスリーブ26Aの外面には3種類のガイド溝26Ab、26Ac、26Adが形成されている。図6(a)に示すように、ガイド溝26Ab、26Acは移動スリーブSB1が周方向にずれる(僅かに回転する)ことが可能な幅を有している。厳密には移動スリーブSB1の凸部SB1bや凸部SB1cの約1個幅に相当する寸法t分、周方向に回転可能となっている。2つのガイド溝26Abには軸方向中央に台形状のセンターガイドG1が形成されており(図8参照)、ニュートラル位置ではセンターガイドG1と凸部SB1bとが周方向で重なって隙間がなくなるため、移動スリーブSB1は周方向にずれることができない、すなわち回転しない状態となる。雄ネジ部MS1の凸部MS1bが嵌合するガイド溝26Adは、雄ネジ部MS2の凸部MS2bも嵌合しており、共用のガイド溝となっている。
【0039】
図6(b)に示すように、ガイド溝26Adに対する凸部MS1b、凸部MS2bの嵌合は周方向にほとんど隙間のない密接嵌合となっている。すなわち、雄ネジ部MS1、MS2はハブスリーブ26Aの周方向にはずれない構成となっている。凸部MS1bと凸部MS2bは中央が凹状にくり抜かれており、このくり抜き部とガイド溝26Adとの間の隙間に弾性部材としてのコイルスプリング52が配置されている。図7に示すように、凸部MS1bと凸部MS2bの外側にはそれぞれコイルスプリング52の一端が固定される係止プレート54が固定されており(他の図では省略)、これにより雄ネジ部MS1と雄ネジ部MS2(第2ネジ部同士)は矢印で示すように、コイルスプリング52で互いに接近する方向に付勢されている。
【0040】
図8はニュートラル状態を示している。なお、分り易くするために、図8及び図9ではハブスリーブ26Aについて、移動スリーブSB1の移動を制御するガイド溝26Abのみを誇張して示している。図8に示すように、ガイド溝26Abの軸方向中央には、斜面G1a、G1bを有する台形状のセンターガイドG1が一体に形成されており、移動スリーブSB1の凸部SB1bは斜面G1a、G1bと傾斜度が同等の斜面SB1b-1、SB1b-2を有する台形状に形成されている(図3等では省略)。ガイド溝26Abに対応する雄ネジ部MS1と雄ネジ部MS2の内周面には、移動スリーブSB1の移動を一時的に阻止するタイミングブロックガイドG2、G3が形成されている。ガイド溝26Abの軸方向両端部には、タイミングブロックガイドG2、G3と協働して移動スリーブSB1のメインギヤMG1、MG2に対する凹凸嵌合を遅れたタイミングで案内するタイミングガイドG4、G5が一体に形成されている。タイミングブロックガイドG2、G3はそれぞれ、センターガイドG1の斜面G1a、G1bと傾斜度が同等の斜面G2a、G3aを有し、タイミングガイドG4、G5はそれぞれ、凸部SB1bの斜面SB1b-1、SB1b-2と傾斜度が同等の斜面G4a、G5aを有している。
【0041】
図9(a)に示すように、図8に示すニュートラル状態から1速ギヤへシフトアップすべくシフトノブを操作して移動スリーブSB1を図中左側へ移動させ、雄ネジ部MS1を1速ギヤであるメインギヤMG1の雌ネジ部FS1へ向けて押す。すると雌ネジ部FS1と雄ネジ部MS1との螺合が進行するが、移動スリーブSB1の凸部SB1bの斜面SB1b-1がタイミングガイドG4の斜面G4aに当接するとともに、タイミングブロックガイドG2とタイミングガイドG4との間に形成される楔状の隙間に凸部SB1bの左角部が係合して移動を阻止される。雄ネジ部MS1を押す移動スリーブSB1移動は、ミッションケース15における不図示のガイド溝に沿ったシフトノブの移動によってなされるとともに、コイルスプリング52の付勢力に逆らってなされる。移動スリーブSB1が左側への更なる移動を阻止された状態で雌ネジ部FS1と雄ネジ部MS1との螺合が進行する。螺合が完了すると、図9(b)に示すように、タイミングガイドG4の斜面G4aとタイミングブロックガイドG2の斜面G2aが直線状に連なるため、凸部SB1bはこれらの斜面G4a、G2aに沿ってスライド可能となり、移動スリーブSB1はハブスリーブ26Aの周方向(矢印N方向)に僅かに回転しながら軸方向に移動し、メインギヤMG1の凸部MG1bが移動スリーブSB1の凹部SB1dに嵌合してメインギヤMG1と移動スリーブSB1とが一体化される。
【0042】
ハブスリーブ26Aの径方向の対向位置にあるガイド溝26Adにおいても上記と同様の構成を有し、同様の動作が行われる。本実施形態では移動スリーブSB1の移動を安定に制御するため、ガイド溝26Adをハブスリーブ26Aの径方向で対向する2箇所に設けているが、周方向に均等間隔で3箇所以上設ける構成としてもよい。移動スリーブSB1が左側に移動した場合、雄ネジ部MS2はニュートラル位置に残ったままとなる。移動スリーブSB1の移動に伴ってコイルスプリング52による左側への引っ張り力が大きくなるが、上記のように雄ネジ部MS1、MS2はハブスリーブ26Aに対して周方向へはずれない構成であるので、センターガイドG1がストッパとしてなり、雄ネジ部MS2はニュートラル位置に維持される。
【0043】
ここで、雌ネジ部FS1と雄ネジ部MS1の螺合完了にやや遅れたタイミングでメインギヤMG1に対する移動スリーブSB1の凹凸嵌合を行う理由について説明する。単に移動スリーブSB1を直線移動させて雄ネジ部MS1を押す構成とした場合、雌ネジ部FS1と雄ネジ部MS1の螺合が完了する前にメインギヤMG1の凸部MG1bと移動スリーブSB1の凹部SB1dとが嵌合可能となるが、螺合が完了していない状態ではメインギヤMG1のみが回転して移動スリーブSB1は回転していないため、凸部MG1bと凹部SB1dの嵌合は困難となる。このため、螺合が完了した状態、すなわち、メインギヤMG1と雄ネジ部MS1とが一体化し(ネジ機能の消失)、ハブスリーブ26Aを介してメインギヤMG1と移動スリーブSB1とが完全に同期した状態で移動スリーブSB1を移動(僅かな回転及び直進)させて凸部MG1bと凹部SB1dの嵌合を行うようにしている。雌ネジ部FS1と雄ネジ部MS1の螺合開始位置と螺合完了位置はネジ数によって決まっているため、これを基準に凸部MG1bと凹部SB1dの位置を設定すれば、メインギヤMG1と移動スリーブSB1との凹凸嵌合を確実に行うことができる。換言すれば、シンクロナイザリング方式ではランダムな同期タイミングを待つことになるが、ネジの螺合方式では螺合開始位置と螺合完了位置が決まっているためにランダム性を排除した凹凸嵌合が可能となる。
【0044】
図9(a)に示すように、移動スリーブSB1が移動を阻止されている状態ではメインギヤMG1の凸部MG1bに対する移動スリーブSB1の凹部SB1dの位置はずれている。また、図9(b)に部分拡大図で示すように、メインギヤMG1の凸部MG1bの先端は丸く尖った状態に形成され、一方、移動スリーブSB1の凹部SB1dは凸部MG1bの進入側がテーパ状に拡径されており、僅かな位置ずれがあっても確実に嵌合できる構成となっている。他のメインギヤ(MG2~MG7)と移動スリーブ(SB1~SB4)との間の凹凸嵌合においても同様である。
【0045】
メインギヤMG1と移動スリーブSB1との凹凸嵌合は、雌ネジ部FS1と雄ネジ部MS1との螺合においては意味をなさない。しかし、車輪からエンジンへ動力が逆流する状態においてはネジの螺合が外れるため、これを防止するためにメインギヤMG1に移動スリーブSB1を凹凸嵌合し、移動スリーブSB1を雄ネジ部MS1のストッパとして機能させている。
【0046】
[1速ギヤから2速ギヤへのシフトアップ]
アクセルペダルを踏んだまま、シフトノブを操作してシフトフォークSF1を軸方向右側に移動させ、メインギヤMG1と移動スリーブSB1との凹凸嵌合を解除する。この状態では雄ネジ部MS1と雌ネジ部FS1の螺合は維持されており、1速の変速比による加速は継続される。図10に示すように移動スリーブSB1をさらに右側に移動させ、1速で回転している雄ネジ部MS2を2速で回転しているメインギヤMG2の雌ネジ部FS2に向けて押す。すると、逆ネジの雄ネジ部MS2がこれよりも早い速度で空転している逆ネジの雌ネジ部FS2に噛み合って螺合が進行する。螺合完了によりハブスリーブ26Aの回転数が2速ギヤであるメインギヤMG2と完全に同期し、メインギヤMG1の雌ネジ部FS1よりもハブスリーブ26Aと共に回転する雄ネジ部MS1が速く回転することになる。「雄ネジより雌ネジが速く回転しないとネジは噛み合わない」という原理により、雌ネジ部FS1と雄ネジ部MS1の螺合が自動的に解除され、雄ネジ部MS1はハブ26A上を軸方向右へ移動する。
【0047】
メインギヤMG2に対する移動スリーブSB1の凹凸嵌合は、図11(a)に示すように、メインギヤMG1に対する移動スリーブSB1の凹凸嵌合と同様の原理でなされるため、説明は省略する。変速ギヤ対22Aから22Bへの切替がなされたとき、切替前の変速比切替手段SC1におけるネジ部同士(雌ネジ部FS1と雄ネジ部MS1)の螺合が、切替後における空転ギヤを有する軸(メインシャフト20)の回転速度の変化(低速から高速)により自動的に解除される。雌ネジ部FS1との螺合が自動的に外れた雄ネジ部MS1は、図11(b)に示すように、コイルスプリング52の付勢力で軸方向右側へ移動し、センターガイドG1のストッパ機能によりニュートラル位置に維持される。
【0048】
このように、アクセルペダルを踏んだままシフトアップができるので、シームレスな変速が可能となり、乗車感覚の快適性が得られる。従来の構成ではシフトアップを行う場合には必ずクラッチペダルを踏む操作が必要であるため、変速比の変更点でアイドリング状態が発生してシームレスな状態は得られない。
【0049】
[その他のシフトアップ]
上記と同様の手順を繰り返すことにより、3速以降6速までのシフトアップが可能である。本実施形態では、1、3、5速では正ネジ同士の噛み合いがなされ、2、4、6速では逆ネジ同士が噛み合う設定となっている。いずれのシフトアップの場合にもアクセルペダルを踏んだままのシームレスな変速となる。また、1速以降のシフトアップでは、クラッチペダルを踏む操作は不要となり、単調なシフトアップにおけるクラッチレス化を実現でき、操作性の向上を図ることができる。
【0050】
[シフトダウンの方法]
図1に示すように、例えば6速から5速へのシフトダウンでは、まずアクセルペダルを戻し、変速比切替手段SC6のシフトフォークSF3を軸方向左側に移動させてメインギヤMG6に対する移動スリーブSB3の凹凸嵌合を解除する。これにより、6速ギヤであるメインギヤMG6の雌ネジ部FS6の回転はアイドル回転まで低下するが、ハブスリーブ26Cと共に回転する雄ネジ部MS6の回転は走行回転のため、上述の自動的な螺合解除と同じ原理(雌ネジの回転速度<雄ネジの回転速度)で即座に外れる。次に移動スリーブSB3を5速のメインギヤMG5側へ移動させてシフトするが、この場合、5速ギヤであるメインギヤMG5の雌ネジ部FS5の回転はアイドル回転でハブスリーブ26C上の雄ネジ部MS5の回転は走行回転であるため、回転速度の関係が雌ネジ部FS5<雄ネジ部MS5となり、噛み合わない。そこで、エンジンを軽く吹かし、一瞬だけ雌ネジ部FS5を雄ネジ部MS5より速く回転させるブリッピングを行うことで噛み合う。これにより、走行回転をメインギヤMG5に伝えてエンジンブレーキを掛けることができる。他のシフトダウンにおいても同様である。なお、走行中にアクセルをオフしてニュートラルギヤへ移行する場合も、クラッチペダルを踏む操作は不要となる。
【0051】
シフトダウンにおいても、エンジンを一瞬吹かす操作は必要であるものの、クラッチペダルを踏む操作は不要となり、クラッチレス化を実現できて操作性の向上を図ることができる。
【0052】
ところで、何らかの原因によりエンジンが止まってしまった場合には、「ネジ螺合方式」ではシンクロナイザリング方式のように軸方向の移動による歯同士の噛み合いではないので螺合を解除できず、ニュートラルに戻すことができない。このネジ嵌螺合方式特有の問題を解消するために遊星歯車機構10が設けられている。
【0053】
図2に示すように、クラッチペダルを深クラッチ位置まで踏み込むと、分割構成のサンギヤシャフト44が一連に繋がってプラネタリベース40を固定ディスク46側へ押す。押されたプラネタリベース40はディスクプレート48を介して固定ディスク46に圧接され、公転できなくなったプラネタリギヤ38はその場で自転するしかなくなる。プラネタリギヤ38の回転は、図12に示すように、サンギヤシャフト44をエンジンの回転とは逆に回転させる回転となる。すなわち、エンジンの回転方向をリングギヤ36aの回転方向(矢印K1方向)とした場合、プラネタリギヤ38の回転方向は同じK1方向となるが、サンギヤ42の回転方向(サンギヤシャフト44の回転方向)は逆のK2方向となる。上記のように、サンギヤシャフト44は入力軸16にスプライン嵌合しており、クラッチ状態は深クラッチにより切れているため、エンジン回転とは逆の回転、すなわちネジ部同士の螺合が解除される回転が抵抗なく得られる。これにより、エンジンが何らかの理由で停止しても、シフトノブをニュートラル位置へ戻して移動スリーブの凹凸嵌合を解除し、クラッチペダルを深クラッチの位置まで踏み込んでエンジンを掛ければネジ部同士の螺合が外れる。
【0054】
[バックギヤへの切替]
バック切替手段SC7のメインギヤMG7は、他の変速ギヤ(メインギヤMG1~MG6)とは常に逆向きに回転(空転)している。上記のように、メインギヤMG7に形成されている雌ネジ部FS7とハブスリーブ26D上の雄ネジ部MS7は正ネジであるため、逆回転では噛み合わず、噛み合っている場合には外れる。このため、バックに入れる場合には、クラッチペダルを深クラッチ位置まで踏み、入力軸16を逆回転させる。この状態で移動スリーブSB4を図1の軸方向左側に移動させ、雄ネジ部MS7を雌ネジ部FS7に螺合させるとともに、メインギヤMG7に移動スリーブSB4を凹凸嵌合させる。その後、半クラッチ状態を経てクラッチが入ると、入力軸16により本来のバックギヤの逆回転の動力が伝達されるが、移動スリーブSB7がメインギヤMG7に凹凸嵌合して雄ネジ部MS7の移動を阻止しているため、雌ネジ部FS7と雄ネジ部MS7の螺合は外れず、車両はバックする。
【0055】
シフトノブを操作してバック切替手段SC7におけるメインギヤMG7と移動スリーブSB4との凹凸嵌合を解除すると、メインギヤMG7は逆回転しているため雌ネジ部FS7と雄ネジ部MS7の螺合は自動的に解除される。このため、ニュートラル位置や他の前進ギヤ(メインギヤMG1S~MG6)への切替をスムーズ且つ迅速に行うことができる。
【0056】
〔第二実施形態〕
次に、本発明の第二実施形態について説明する。なお、第二実施形態の説明及び対応する図面においては、第一実施形態と同一又は相当する構成部分には同一の符号を付し、以下ではその部分の詳細な説明は省略する。また、以下で説明する事項以外の事項、及び図示する以外の事項については、第一実施形態と同じである。
【0057】
図13は、本発明の第二実施形態にかかる変速機の構成の概要を示す図である。同図に示す本実施形態の変速機2-2は、動力源である電気モータ50の動力による回転を減速してディファレンシャルギヤ12に伝達するための減速機構部4-2を備えている。減速機構部4-2は、電気モータ50の動力が伝達される入力軸16-2と、該入力軸16-2と平行に配置される出力軸(メインシャフト)20-2と、入力軸16-2と出力軸20-2との間で相対して噛合し、軸方向に配置される変速ギヤ対22G,22Hと、シフトフォークSF5で駆動され、変速ギヤ対22G,22Hに入力軸16-2からの動力を選択的に伝達するための変速比切替手段SC8,SC9とを有しており、これらによって、電気モータ50の動力による回転の伝達(減速度)を低速(ロー)/高速(ハイ)の二段階に切り替えることができるように構成されている。なお、本実施形態のシフトフォークSF5は、不図示の電気式のアクチュエータで作動する構造であるが、それ以外にも不図示のシフトノブ(シフトレバーの概念を含む)に接続された構造などであってもよい。
【0058】
変速ギヤ対22Gは、入力軸16-2上のドライブCG8とこれに噛合する出力軸上のメインギヤMG8とからなり、変速ギヤ対22Hは、入力軸16-2上のドライブギヤCG9とこれに噛合する出力軸上のメインギヤMG9とからなる。ドライブギヤCG9及びCG9は入力軸16-2上に固定されて該入力軸16-2と一体回転し、メインギヤMG8及びMG9は、出力軸20-2上に相対回転自在に配置されている。なお、変速比切替手段SC8,SC9、及びそれらの間に設けられたハブスリーブ26Eと移動スリーブSB5は、第一実施形態の変速機2が備える変速比切替手段SC1,SC2、ハブスリーブ26A及び移動スリーブSB1と同様の構成である。
【0059】
本実施形態の変速機2-2では、シフトフォークSF5が軸方向左側に位置している状態で雌ネジ部FS8と雄ネジ部MS8とが螺合していると共にメインギヤMG8と移動スリーブSB5とが凹凸嵌合した状態となっている。この状態で、変速機構部4-2の変速段が低速段(ロー)に設定されており、入力軸16-2から入力した電気モータ50の回転がドライブギヤCG8及びメインギヤMG8を介して出力軸20-2に伝達される。
【0060】
[低速段(ロー)から高速段(ハイ)への切り替え(シフトアップ)]
上記の低速段に設定された状態で、電気モータ50の駆動を継続したまま、シフトフォークSF5を軸方向右側に移動させる。これにより、第一実施形態の変速機2における1速ギヤから2速ギヤへのシフトアップ(段落0046参照)と同様の過程を経て、最終的にシフトフォークSF5が軸方向右側に位置している状態で、雌ネジ部FS9と雄ネジ部MS9とが螺合していると共にメインギヤMG9と移動スリーブSB5とが凹凸嵌合した状態となる。この状態で、変速機構部4-2の変速段が高速段(ハイ)に設定され、入力軸16-2から入力した電気モータ50の回転がドライブギヤCG9及びメインギヤMG9を介して出力軸20-2に伝達される。
【0061】
[高速段(ハイ)から低速段(ロー)への切り替え(シフトダウン)]
一方、高速段(ハイ)から低速段(ロ-)への切り替え(シフトダウン)では、まず電気モータ50の駆動を一時的に停止して空転させ、その状態でシフトフォークSF5を軸方向左側に移動させてメインギヤMG9に対する移動スリーブSB5の凹凸嵌合を解除する。なおこの場合、モータ50を完全に空転させると雌ネジ部FS9と雄ネジ部MS9との螺合が外れないおそれがあるため、モータ50を停止させるか又は軽く逆回転させるようにして、モータ50の回転軸に軽い抵抗力がかかった状態とすることが望ましい。その後、第一実施形態の変速機2におけるシフトダウンの場合(段落0050参照)と同様の理由により、電気モータ50を再度駆動することで雌ネジ部FS9を雄ネジ部MS9より速く回転させる動作(第一実施形態のブリッピングと同様の動作)を行うことで、雌ネジ部FS9に雄ネジ部MS9を螺合させる。これにより、変速機構部4-2の変速段が低速段(ロー)に設定され、入力軸16-2から入力した電気モータ50の回転がドライブギヤCG8及びメインギヤMG8を介して出力軸20-2に伝達される。
【0062】
なお、本実施形態の変速機2-2では、車両の後退(バック)時に出力軸20-2を逆回転させる場合には、変速機構部4-2で低速段(ロー)又は高速段(ハイ)が設定された状態で、電気モータ50の回転を逆転させればよい。
【0063】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では変速ギヤ対22A~22Fをヘリカルギヤとしたが、平歯車としてもよい。また、1つの移動スリーブを2つの変速比切替手段で共用する構成としたが、変速比切替手段毎に設ける構成としてもよい。また、空転ギヤと変速比切替手段SC1~SC7の全てをメインシャフト20に設ける構成としたが、少なくとも一部をカウンタ軸18に設ける構成としてもよい。また、上記実施形態では1速から6速の変速ギヤ対22A~22Fを速度段階順に配置する構成としたが、順不同の配置構成としてもよい。
【符号の説明】
【0064】
2,2-2 変速機
4,4-2 変速機構部
6 クラッチ部
8 フライホイール
10 遊星歯車機構
16,16-2 入力軸(第一入力軸)
18 カウンタ軸(第二入力軸:入力軸)
20,20-2 出力軸(メインシャフト、空転ギヤを有する軸)
22A~22F,22G,22H 変速ギヤ対
22R バックギヤ
26A~26E ハブスリーブ
32 ダイヤフラムスプリング
34 クラッチディスク
36 リングギヤケース
36a リングギヤ
38 プラネタリギヤ
40 プラネタリベース
42 サンギヤ
44 サンギヤシャフト
CG1~CG9 カウンタギヤ
DG ドリブンギヤ
FS1~FS9 雌ネジ部(第1ネジ部)
MG1~MG9 メインギヤ(空転ギヤ)
MS1~MS9 雄ネジ部(第2ネジ部)
SB1~SB5 移動スリーブ
SC1~SC6、SC8,SC9 変速比切替手段
SC7 バック切替手段
【要約】
【課題】従来の手動変速機の良さを維持しつつ、トルク抜けの無いシームレスな変速を実現できるとともに、クラッチ操作を低減して操作性の向上を図ることができ、部品の摩耗抑制にも寄与することができる変速機を提供する。
【解決手段】変速機2の変速機構部4は、カウンタ軸(入力軸)18と、出力軸20と、複数の変速ギヤ対22A~22Fと、シフトフォークSF1~SF3で駆動される変速比切替手段SC1~SC6及びバック対応の切替手段SC7を有する。変速比選択手段SC1は、メインギヤMG1に形成された雌ネジ部FS1と、出力軸20にスプライン嵌合したハブスリーブ26Aと、ハブスリーブ26Aに嵌合した雄ネジ部MS1と、変速比切替手段SC2と共用の移動スリーブSB1とを有する。移動スリーブSB1で雄ネジ部MS1を左に押すと、雌ネジ部FS1と雄ネジ部MS1とが螺合し、回転がハブスリーブ26Aから出力軸20に伝わる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13