(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】ガロール基で修飾されたヒアルロン酸誘導体を基材とするヒドロゲルおよびその用途
(51)【国際特許分類】
C08J 3/075 20060101AFI20220128BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20220128BHJP
A61K 9/52 20060101ALI20220128BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220128BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20220128BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20220128BHJP
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A61K 31/713 20060101ALI20220128BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220128BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20220128BHJP
A61K 38/18 20060101ALI20220128BHJP
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A61P 9/00 20060101ALI20220128BHJP
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A61P 41/00 20060101ALI20220128BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20220128BHJP
A61K 31/728 20060101ALI20220128BHJP
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A61L 31/14 20060101ALI20220128BHJP
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A61L 27/48 20060101ALI20220128BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20220128BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220128BHJP
A61L 27/26 20060101ALI20220128BHJP
C08L 1/08 20060101ALI20220128BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20220128BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20220128BHJP
C08J 3/24 20060101ALI20220128BHJP
C08B 37/08 20060101ALI20220128BHJP
A61K 8/02 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
C08J3/075 CEP
A61K47/36
A61K9/52
A61K39/395 M
A61K39/395 A
A61K35/28
A61K35/12
A61P43/00 105
A61K31/7088
A61K31/7105
A61K31/711
A61K31/713
A61K48/00
A61K38/02
A61K38/18
A61P9/10
A61P9/00
A61P17/02
A61P41/00
A61K9/19
A61K31/728
A61L31/04 120
A61L31/14 300
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A61L27/52
A61L27/54
A61L27/48
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A61P17/00
A61L27/26
C08L1/08
A61K8/73
A61Q19/08
C08J3/24 Z
C08B37/08 Z
A61K8/02
(21)【出願番号】P 2019542124
(86)(22)【出願日】2018-02-02
(86)【国際出願番号】 KR2018001473
(87)【国際公開番号】W WO2018143736
(87)【国際公開日】2018-08-09
【審査請求日】2019-08-02
(31)【優先権主張番号】10-2017-0014855
(32)【優先日】2017-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2017-0014856
(32)【優先日】2017-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】519157118
【氏名又は名称】エムティックスバイオ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】AMTIXBIO CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】A-513,11,Beobwon-ro 11-gil, Songpa-gu, Seoul 05836 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】チョ,スン ウ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジュン-スン
(72)【発明者】
【氏名】チョ,ジョン ホ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジョン-スン
【審査官】三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/174934(WO,A1)
【文献】特表2016-534136(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 37/08
A61K 47/36
A61K 9/52
A61K 39/395
A61K 35/28
A61K 35/12
A61P 43/00
A61K 31/7088
A61K 31/7105
A61K 31/711
A61K 31/713
A61K 48/00
A61K 38/02
A61K 38/18
A61P 9/10
A61P 9/00
A61P 17/02
A61P 41/00
A61K 9/19
A61K 31/728
A61L 31/04
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A61L 26/00
A61L 27/20
A61L 27/52
A61L 27/54
A61L 27/48
A61L 27/22
A61P 17/00
A61L 27/26
C08L 1/08
A61Q 19/08
A61K 8/02
A61K 8/73
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸ヒドロゲルの製造方法であって、
下記化学式4:
[化学式4]
【化1】
の構造を有するヒアルロン酸繰り返し単位を一つ以上5’-ヒドロキシドーパミンと反応させることによってピロガロール基(pyrogallol group)で修飾された下記化学式5:
[化学式5]
【化2】
の構造の繰り返し単位を一つ以上含むヒアルロン酸誘導体を得ること;および
前記ヒアルロン酸誘導体を架橋(cross-linking)させること
を含む、前記ヒアルロン酸ヒドロゲルの製造方法。
【請求項2】
前記架橋させるステップは、酸化剤またはpH調節剤を添加して架橋させることを特徴とする、請求項1に記載のヒアルロン酸ヒドロゲルの製造方法。
【請求項3】
前記酸化剤は、過ヨウ素酸ナトリウム(sodium periodate)、過酸化水素(hydrogen peroxide)、西洋ワサビペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase)、およびチロシナーゼ(tyrosinase)からなる群より選択されるいずれか一つであることを特徴とする、および
前記pH調節剤は、水酸化ナトリウム(sodium hydroxide)、水酸化リチウム(lithium hydroxide)、水酸化カリウム(potassium hydroxide)、水酸化ルビジウム(rubidium hydroxide)、水酸化セシウム(cesium hydroxide)、水酸化マグネシウム(magnesium hydroxide)、水酸化カルシウム(calcium hydroxide)、水酸化ストロンチウム(strontium hydroxide)、および水酸化バリウム(barium hydroxide)からなる群より選択されるいずれか一つであることを特徴とする、
請求項2に記載のヒアルロン酸ヒドロゲルの製造方法。
【請求項4】
酸化剤またはpH調節剤を添加することによって
、下記化学式5:
[化学式5]
【化3】
の構造の繰り返し単位を一つ以上含むヒアルロン酸誘導体を架橋させることを含む、ヒアルロン酸ヒドロゲルの製造方法であって、
前記酸化剤を添加して架橋させるステップは、下記化学式2:
[化学式2]
【化4】
(前記化学式2において、HA’はカルボキシ基がアミド基で置換されたヒアルロン酸を示す。)
の架橋結合を形成することを特徴とする、および
前記pH調節剤を添加して架橋させるステップは、下記化学式3:
[化学式3]
【化5】
(前記化学式3において、HA’はカルボキシ基がアミド基で置換されたヒアルロン酸を示す。)
の架橋結合を形成することを特徴とする、
前記ヒアルロン酸ヒドロゲルの製造方法。
【請求項5】
下記化学式5:
[化学式5]
【化6】
の構造を有する繰り返し単位を一つ以上含むヒアルロン酸誘導体を架橋させることによって製造されたヒアルロン酸ヒドロゲルであって、
化学式2または化学式3:
[化学式2]
【化7】
(前記化学式2において、HA’はカルボキシ基がアミド基で置換されたヒアルロン酸を示す。)、
[化学式3]
【化8】
(前記化学式3において、HA’はカルボキシ基がアミド基で置換されたヒアルロン酸を示す。)
の架橋結合を形成することを特徴とする、
前記ヒアルロン酸ヒドロゲル。
【請求項6】
前記ヒアルロン酸誘導
体は、10,000Da~
2,000,000Da
の分子量を有することを特徴とする、請求項5に記載のヒアルロン酸ヒドロゲル。
【請求項7】
前記ヒアルロン酸誘導体は、0.1%~50%のガロール基置換率を有することを特徴とする、請求項5または6に記載のヒアルロン酸ヒドロゲル。
【請求項8】
請求項5または6に記載のヒアルロン酸ヒドロゲルを含む、組織工学用支持体。
【請求項9】
請求項5または6に記載のヒアルロン酸ヒドロゲルを含む、薬物送達用担体。
【請求項10】
前記薬物は、抗体、抗体断片、DNA、RNAまたはsiRNAを含む核酸、ペプチド、遺伝子、タンパク質、幹細胞または化合物(chemical compound)であることを特徴とする、請求項9に記載の薬物送達用担体。
【請求項11】
請求項5または6に記載のヒアルロン酸ヒドロゲルを含む、フィラー組成物。
【請求項12】
請求項5または6に記載のヒアルロン酸ヒドロゲルを含む、癒着防止用組成物。
【請求項13】
請求項5または6に記載のヒアルロン酸ヒドロゲルを含む、傷ドレッシング用組成物。
【請求項14】
請求項5または6に記載のヒアルロン酸ヒドロゲルを含む、徐放薬物送達用組成物。
【請求項15】
ピロガロール基で修飾された下記化学式5:
[化学式5]
【化9】
の構造を有する繰り返し単位を一つ以上含む、ヒアルロン酸誘導体。
【請求項16】
前記ヒアルロン酸誘導
体は、10,000Da~
2,000,000Da
の分子量を有することを特徴とする、請求項15に記載のヒアルロン酸誘導体。
【請求項17】
前記ヒアルロン酸誘導体は、0.1%~50%のガロール基置換率を有することを特徴とする、請求項15または16に記載のヒアルロン酸誘導体。
【請求項18】
請求項15または16に記載のヒアルロン酸誘導体を含む、フィラー組成物。
【請求項19】
前記ヒアルロン酸誘導体は、全体フィラー組成物に基づき0.1%(w/v)~15%(w/v)で含まれることを特徴とする、請求項18に記載のフィラー組成物。
【請求項20】
前記組成物は、in vitroでは液体状態であり、in vivoでは架橋剤なしにゲル化状態を形成することを特徴とする、請求項18に記載のフィラー組成物。
【請求項21】
前記組成物は、目下の窪み領域、眉間のシワ領域、目尻領域、額領域、鼻面領域、鼻横のシワ領域、口横のシワ領域、および首のシワ領域からなる群より選択されるいずれか一つの部位に注入されることを特徴とする、請求項18に記載のフィラー組成物。
【請求項22】
前記組成物は、線維芽細胞成長因子(FGF)、上皮細胞成長因子(EGF)、ケラチノサイト成長因子(KGF)、形質転換成長因子-α(TGF-α)、形質転換成長因子-β(TGF-β)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、インスリン様成長因子(IGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、肝細胞成長因子(HGF)、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、およびグリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)からなる群より選択されるいずれか一つの細胞成長因子をさらに含むことを特徴とする、請求項18に記載のフィラー組成物。
【請求項23】
前記組成物は、局所麻酔剤、抗酸化剤、ビタミンからなる群より選択されるいずれか一つの成分、またはこれらの組み合わせをさらに含むことを特徴とする、請求項18に記載のフィラー組成物。
【請求項24】
請求項15または16に記載のヒアルロン酸誘導体を含む、組織工学用支持体。
【請求項25】
請求項15または16に記載のヒアルロン酸誘導体を含む、薬物送達用担体。
【請求項26】
前記薬物は、抗体、抗体断片、DNA、RNAまたはsiRNAを含む核酸、ペプチド、遺伝子、タンパク質、幹細胞または化合物であることを特徴とする、請求項25に記載の薬物送達用担体。
【請求項27】
請求項15または16に記載のヒアルロン酸誘導体を含む、癒着防止用組成物。
【請求項28】
請求項15または16に記載のヒアルロン酸誘導体を含む、傷ドレッシング用組成物。
【請求項29】
ピロガロール基で修飾された下記化学式5:
[化学式5]
【化10】
の構造を有する繰り返し単位を一つ以上含むヒアルロン酸誘導体を含む、徐放薬物送達用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガロール基で修飾されたヒアルロン酸誘導体を基材とするヒドロゲルおよびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
医療およびバイオ産業、化粧品などの産業の市場が急激に拡大するにつれて、機能性バイオマテリアル(biomaterials)に対する関心が増加している。特に、毒性や副作用を誘発しうる化学的な合成高分子より安定性が確保された天然高分子を用いた生体適合材料に対する開発がより脚光を浴びている実情である。
【0003】
生体適合材料としてヒアルロン酸(hyaluronic acid)に対する様々な研究および開発が行われてきた。ヒアルロン酸は、生体由来高分子であって、生体適用時に副作用がほぼ発生せず、含まれた糖の化学構造式により親水性である。また、水分を多く含有して関節での物理的緩衝効果および摩擦に対する潤滑効果を有し、皮膚の柔軟性に関与することが知られている。また、外部からの細菌侵入に対する保護特性があり、生体内のヒアルロニダーゼ(hyaluronidase)により生体内移植時に生分解され、様々な薬物をヒアルロン酸と結合させることによって薬物送達システムの重要な材料として活用されている。特に、ヒアルロン酸が米国食品医薬品安全庁の承認を受けて以来、医療用バイオマテリアル、組織工学用支持体の材料および薬物送達用高分子として幅広く活用している。また、ヒアルロン酸は、皮膚の数々の相異した層に豊富に存在し、例えば、水分を供給する機能、細胞外マトリックスの組織を補助する機能、充填物質として作用する機能、および組織再生メカニズムに関与する機能のような複合的な機能を有する。しかし、老化と共に、皮膚に存在するヒアルロン酸、コラーゲン、エラスチン、およびその他のマトリックス重合体の量は減少する。例えば、太陽からの紫外線に対する反復的な露出は、真皮細胞にとってそれらのヒアルロン酸の生産を減少させるのは勿論であり、その分解速度を増加させるようにする。このような物質の損失は、シワ、穴、水分損失、および/または老化に寄与するその他の好ましくない状態を誘発する。したがって、皮膚状態の改善のための方法のうちの一つとして、ヒアルロン酸を主成分とするフィラー組成物が広く用いられている。
【0004】
従来のヒアルロン酸の関連技術として、ビスエポキシド、ビスハライド、ホルムアルデヒドなどのように官能基が2個である化合物を用いて架橋結合された不溶性ヒアルロン酸誘導体を合成した例が色々な文献に報告されている。特に、米国特許第4,582,865号にはヒアルロン酸の架橋のためにジビニルスルホンを用いた例が開示されており、米国特許第4,713,448号にはホルムアルデヒドを用いた架橋反応、米国特許第5,356,883号には様々なカルボジイミドを用いてO-アシル尿素またはN-アシル尿素にカルボキシル基が変形されたヒアルロン酸誘導体ゲルの合成例が開示されている。しかし、これらの特許での方法により製造されたヒアルロン酸架橋物は、ヒアルロン酸分解酵素に対する安定性が低く、未反応化学物質の含量が高いため、生体毒性を誘発する恐れがあった。また、使用とする用途に合う架橋の調節や物性の調節が容易でないため、様々な医療用材料に適用するには限界があった。したがって、優れた生体適合性を保持しつつヒアルロン酸ヒドロゲルの物性を容易に調節できる技術に対する開発が依然として求められている実情である。
【0005】
そこで、本発明者らは、このような問題を解決するために、生体適合性物質であるヒアルロン酸の機能性を向上させる技術を開発しようと不断に努力した。その結果、ピロガロール基(pyrogallol group)で修飾されたヒアルロン酸ベースのヒドロゲルプラットフォーム技術を開発し、それに基づいて本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ヒアルロン酸をピロガロール基で修飾して製造されたヒアルロン酸誘導体およびその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記ヒアルロン酸誘導体を架橋(cross-linking)させることを含む、ヒアルロン酸誘導体ヒドロゲルの製造方法を提供することにある。
本発明のまた他の目的は、ヒアルロン酸誘導体が架橋された構造を有するヒアルロン酸誘導体ヒドロゲルを提供することにある。
【0007】
本発明のまた他の目的は、前記ヒアルロン酸誘導体ヒドロゲルを用いた薬物送達用担体または薬物送達システム(DDS、Drug Delivery System)を提供することにある。
本発明のまた他の目的は、前記ヒアルロン酸誘導体ヒドロゲルを用いた組織工学用支持体などの医療用材料を提供することにある。
本発明のまた他の目的は、前記ヒアルロン酸誘導体ベースの創傷治療剤(wound dressing)または癒着防止剤(adhesion barrier)を提供することにある。
【0008】
本発明のまた他の目的は、前記ヒアルロン酸誘導体ヒドロゲルを含むフィラー組成物を提供することにある。
本発明のまた他の目的は、前記フィラー組成物を個体の皮内または皮下に注入するステップを含む、皮膚のシワ改善方法を提供することにある。
なお、本発明が達成しようとする技術的課題は以上で言及した課題に制限されず、言及していないまた他の課題は下記の記載によって当業者に明らかに理解できるものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記のような本発明の目的を達成するために、本発明は、ガロール基で修飾されたヒアルロン酸誘導体を架橋させるステップを含み、前記ヒアルロン酸誘導体は、ヒアルロン酸と5’-ヒドロキシドーパミン間の反応によってガロール基で修飾されている、ヒアルロン酸ヒドロゲルの製造方法を提供する。
【0010】
本発明の一実現例として、前記ヒアルロン酸誘導体は下記化学式1であってもよく、ここで、前記ヒアルロン酸誘導体の分子量は10,000Da~2,000,000Daであってもよく、前記ヒアルロン酸誘導体のガロール基置換率は0.1%~50%であってもよい。
[化学式1]
【化1】
(前記化学式1において、R
1はヒドロキシ基または
【化2】
であり、nは1~1000の整数である。)
【0011】
本発明の他の実現例として、前記架橋させるステップは酸化剤またはpH調節剤を添加して架橋させてもよく、前記酸化剤は過ヨウ素酸ナトリウム(sodium periodate)、過酸化水素(hydrogen peroxide)、西洋ワサビペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase)またはチロシナーゼ(tyrosinase)であってもよく、前記pH調節剤は水酸化ナトリウム(sodium hydroxide)、水酸化リチウム(lithium hydroxide)、水酸化カリウム(potassium hydroxide)、水酸化ルビジウム(rubidium hydroxide)、水酸化セシウム(cesium hydroxide)、水酸化マグネシウム(magnesium hydroxide)、水酸化カルシウム(calcium hydroxide)、水酸化ストロンチウム(strontium hydroxide)または水酸化バリウム(barium hydroxide)であってもよい。
【0012】
本発明のまた他の実現例として、前記酸化剤を添加して架橋させるステップは、ヒアルロン酸誘導体間に下記化学式2の架橋結合を形成することができる。
[化学式2]
【化3】
(前記化学式2において、HA’はカルボキシ基がアミド基で置換されたヒアルロン酸を示す。)
【0013】
本発明のまた他の実現例として、前記pH調節剤を添加して架橋させるステップは、ヒアルロン酸誘導体間に下記化学式3の架橋結合を形成することができる。
[化学式3]
【化4】
(前記化学式3において、HA’はカルボキシ基がアミド基で置換されたヒアルロン酸を示す。)
【0014】
また、本発明は、前記化学式1のヒアルロン酸誘導体を架橋させて製造されたヒアルロン酸ヒドロゲルとして、例えば、ヒアルロン酸誘導体間に前記化学式2または化学式3の架橋結合が形成されたヒアルロン酸ヒドロゲル;および前記ヒアルロン酸ヒドロゲルを含む生体活性物質の送達のための担体を提供する。このような観点から、本発明の一態様において、前記薬物送達用担体は、抗体、抗体断片、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、低分子化合物(small molecule chemical compound)、DNAおよび/またはRNA、siRNA、遺伝子、および成体幹細胞、間葉幹細胞(mesenchymal stem cells)または誘導多能性幹細胞(iPSC)を含む幹細胞を含むが、これらに制限されるものではない。このような観点から、本発明の他の一態様は、前記生体活性物質の送達のための担体は、生体活性物質のin vitroおよびex vivoでの徐放(sustained release)を提供する。
【0015】
また、本発明は、前記化学式1のヒアルロン酸誘導体を架橋させて製造されたヒアルロン酸ヒドロゲルとして、例えば、ヒアルロン酸誘導体間に前記化学式2または化学式3の架橋結合が形成されたヒアルロン酸ヒドロゲル;および前記ヒアルロン酸ヒドロゲルを含む組織工学用支持体を提供する。
なお、本発明は、ガロール基で修飾されたヒアルロン酸誘導体またはそれを架橋させて製造したヒアルロン酸誘導体ヒドロゲルを含む、フィラー組成物を提供する。
【0016】
このような目的に合う本発明の一態様において、前記ヒアルロン酸誘導体の分子量は10,000Da~2,000,000Daであってもよく、前記ヒアルロン酸誘導体のピロガロール基置換率は0.1%~50%、好ましくは1%~30%であり、より好ましくは2%~20%であってもよい。本発明の他の態様において、前記ヒアルロン酸誘導体は、全体フィラー組成物に対して0.1%(w/v)~15%(w/v)で含まれてもよい。
【0017】
本発明のまた他の態様において、前記フィラー組成物は、体外では液体状態であり、体内では架橋剤なしにゲル化状態を形成することができる。本発明のまた他の実現例において、前記フィラー組成物は、目下の窪み領域、眉間のシワ領域、目尻領域、額領域、鼻面領域、鼻横のシワ領域、口横のシワ領域、および首のシワ領域からなる群より選択されるいずれか一つの部位に注入されてもよい。本発明のまた他の実現例として、前記フィラー組成物は、線維芽細胞成長因子(FGF)、上皮細胞成長因子(EGF)、ケラチノサイト成長因子(KGF)、形質転換成長因子-α(TGF-α)、形質転換成長因子-β(TGF-β)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、インスリン様成長因子(IGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、肝細胞成長因子(HGF)、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、およびグリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)からなる群より選択されるいずれか一つの細胞成長因子をさらに含むことができる。本発明のまた他の実現例として、前記フィラー組成物は、局所麻酔剤、抗酸化剤、ビタミン、およびこれらの組み合わせからなる群より選択されるいずれか一つの成分をさらに含むことができる。
【0018】
また、本発明は、ヒアルロン酸のグルクロン酸の骨格にピロガロール基を導入してヒアルロン酸誘導体を製造するステップ;および前記ヒアルロン酸誘導体を水性媒質に添加して混合するステップを含む、フィラー組成物の製造方法を提供する。
【0019】
なお、本発明は、前記フィラー組成物を個体の皮内または皮下に注入するステップを含む、皮膚のシワ改善方法を提供する。
さらに、本発明は、ガロール基で修飾されたヒアルロン酸誘導体またはそれを架橋させて製造したヒアルロン酸誘導体ヒドロゲルを含む、創傷治療剤(wound dressing)または癒着防止剤(adhesion barrier)を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るヒアルロン酸ヒドロゲルの製造技術は、ガロール基で修飾されたヒアルロン酸誘導体をベースにして、適切な酸化または特定のpH条件下でそれを架橋させるステップを含む。本発明は、ヒドロゲルの優れた生体適合性と共に、それぞれの架橋方式に応じて架橋速度、弾性、接着力などの物理的特性を効率的に調節することができるため、医療および化粧品などの様々な分野に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係るヒアルロン酸誘導体の合成過程を示す図である。
【
図2】本発明に係るヒアルロン酸誘導体の構造を(a)FT-IRまたは(b)H-NMRで分析した結果である。
【
図3】互いに異なる架橋方式によるヒアルロン酸ヒドロゲルの外観および架橋結合の変化を概略的に示す模式図である。
【
図4】NaIO
4を用いたヒアルロン酸ヒドロゲルの製造過程において、(a)化学構造の変化をUV-visで分析した結果、および(b)前記結果に基づいた架橋メカニズムを示す図である。
【0022】
【
図5】NaOHを用いたヒアルロン酸ヒドロゲルの製造過程において、(a)化学構造の変化をUV-visで分析した結果、および(b)前記結果に基づいた架橋メカニズムを示す図である。
【
図6】本発明に係るヒアルロン酸ヒドロゲルの形成速度を確認したものであって、(a)時間の経過に応じたヒドロゲルの形成を肉眼で確認した結果、および(b)時間の経過に応じた弾性係数の変化を確認した結果である。
【
図7】本発明に係るヒアルロン酸ヒドロゲルの強度および弾性を確認したものであって、(a)0.1~1Hzにおいて弾性係数の変化を確認した結果、および(b)弾性係数とtanδ(G’’/G’)を比較した結果である。
【0023】
【
図8】ヒアルロン酸誘導体の分子量および濃度に応じたNaIO
4で架橋されたヒアルロン酸ヒドロゲルの強度および弾性の変化を確認したものであって、(a)0.1~1Hzにおいて弾性係数の変化を確認した結果、および(b)弾性係数とtanδ(G’’/G’)を比較した結果である。
【
図9】本発明に係るヒアルロン酸ヒドロゲルの接着力を確認したものであって、(a)プレート間の距離に応じてレオロジー機器に加えられる力の変化を測定した結果、および(b)接着力を定量化して評価した結果である。
【
図10】本発明に係るヒアルロン酸ヒドロゲルの膨潤および分解の様相を確認したものであって、ヒアルロン酸のモル濃度に対比して(a)0.5×または(b)1.0×の5-ヒドロキシドーパミンを添加して合成されたヒアルロン酸誘導体を用いて製造されたヒアルロン酸ヒドロゲルの膨潤率と分解率を定量化して評価した結果である。
【0024】
【
図11】本発明に係るヒアルロン酸ヒドロゲルの細胞毒性および炎症反応の誘発有無を確認したものであって、(a)および(b)は各々HAPGヒドロゲルの毒性を評価するために細胞を封入(encapsulation)してから1、3および7日目のLive/Dead染色(スケールバー=100μm)(a)およびhADSCs生存率(b)を示す。(c)はNaIO
4またはNaOH溶液で架橋されたHA-PGヒドロゲルと共培養時、マクロファージ(RAW264.7)から分泌されたTNF-αの定量化のための酵素リンクされた免疫吸着アッセイ結果である(n=4、
**p<0.01 vs LPS群)。
【0025】
【
図12】本発明に係るヒアルロン酸ヒドロゲルのin vivoでの適合性を確認したものであって、(a)はマウスの皮下領域から皮下領域に移植されてから0、7、28および84日目に回収されたHA-PGヒドロゲル(DS 8%)の形態を示すものである。(b)はHA-PGのin vivo生分解プロファイルを示す。(c)および(d)は各々移植してから28日目に隣接した組織と共に回収したヒドロゲルのH&E染色(cおよびトルイジンブルー染色(d)を示す(スケールバー=300μm)。
【
図13】本発明に係るヒアルロン酸ヒドロゲルのin vivoでの分解様相を確認したものであって、マウス皮下に移植した後、(a)肉眼でヒドロゲルの体積変化を確認した結果、および(b)残存ヒドロゲルの重量を確認した結果である。
【0026】
【
図14】NaIO
4を用いたヒドロゲルの薬物送達用製剤としての活用可能性を確認したものであって、(a)凍結乾燥前または後、極微粒子の形成および存在有無を確認した結果、および(b)前記極微粒子に封入されたBSAの放出量を確認した結果である。
【
図15】NaIO
4を用いたヒドロゲルの薬物送達用製剤としての活用可能性を確認したものであって、(a)NaIO
4を用いた架橋反応を示し、(b)HA-PG極微粒子の形成(スケールバー=50μm)を示す顕微鏡写真であり、(c)バルクHA-PGヒドロゲルまたはHA-PG極微粒子から放出されたVEGFの累積量を示すものである(PBS、37℃)(n=4)。
【0027】
【
図16】後肢虚血(hindlimb ischemia)マウスモデルにおいてNaIO
4を用いたヒドロゲルのVEGF送達および治療効果を示したものであって、(a)VEGFを含むHA-PG極微粒子を筋肉注入してから0日目(薬物注入日)および28日目に観察した結果を示す写真であり、(b)前記結果を数値化して示すものであり(n=4~5)、(c)H&E染色およびMT染色の結果を正常のマウス組織を対照群にして示すものであり(スケールバー=100μm)。(d)虚血の脚において線維症領域を定量化して示すものであり(n=12、
**p<0.01 vs PBS群、
##p<0.01 vs HA-PG群、および
@@p<0.05 vs VEGF群)、(e)虚血の脚の筋肉をα-SMA(arteriole formation)およびvWF(capillary formation)に対して免疫染色した写真である。黒色の矢印は虚血組織において小動脈(α-SMA陽性)および毛細血管(vWF陽性)の形成を各々示す(スケールバー=100μm)。(f)は虚血性筋肉においてα-SMA陽性に染色された内腔(lumen)とvWF陽性毛細血管数を示す(n=18.20、
*p<0.05、および
**p<0.01 vs PBS群、
##p<0.01 vs HA-PG群、および
@@p<0.01 vs VEGF群)。
【0028】
【
図17】NaOH-媒介架橋を用いた組織接着性HA-PGヒドロゲルの製造を示すものである。(a)NaOH-媒介架橋によるヒアルロン酸誘導体ヒドロゲルの形成を示す。(b)NaOHまたはNaIO
4により架橋されたヒアルロン酸誘導体ヒドロゲルの接着力を比較したものである。(c)は各HA-PGヒドロゲルの平均分離強度を比較したものである(n=3、
**p<0.01 vs NaIO
4群)。
【
図18】(a)はNaOH-誘導されたHA-PGヒドロゲルの接着化学(adhesion chemistry)を簡略に示すものであり、(b)は様々なマウス器官(心臓、腎臓および肝臓)に対する直接的な接着を示す写真である。
【0029】
【
図19】(a)はNaOH-誘導されたHA-PGヒドロゲルをマウスの肝表面に塗布してから7日後に肝組織表面上に付着されたヒドロゲルをH&E染色した結果である(スケールバー=500μm)。(b)はNaOHにより架橋されたHA-PGを用いてマウスの肝上にhADSCs(ヒト脂肪組織由来幹細胞(human adipose tissue-derived stem cells))を移植した後、本来の肝組織および本発明のヒドロゲル構造物内hADSCsの免疫染色を共に示すものである。移植前にDilで標識された細胞が検出された(左側)。CD44に対して免疫染色し、細胞核をDAPIでカウンター染色した(右側)(スケールバー=500μm)
【0030】
【
図20】本発明に係るHA-PG溶液の体内酸化力によるゲル化を示したものであって、(a)はHA-PG溶液の注射および体内酸化力によるゲル化を示す図であり、(b)は体内に形成されたヒドロゲルを含む、マウスの皮膚を肉眼で確認した結果である。
【
図21】本発明に係るHA-PG溶液を皮膚に注射した後、体内に形成されたヒドロゲルの体内保持有無を確認したものであって、(a)は体内に形成されたヒドロゲルを肉眼で確認した結果であり(0、10、24週目)、(b)は体内に形成されたヒドロゲルの重さ変化を約6ヶ月間測定した結果である。
【0031】
【
図22】本発明に係るHA-PG溶液のHA-PGヒドロゲルの形成および体内注射のための条件を確認したものであって、(a)はHA-PGヒドロゲルの形成過程を概略的に示す模式図であり、(b)は体内注射可能な注射針の大きさを既存のフィラー製品(Megafill、Perlane)と比較した結果である。
【
図23】本発明に係るHA-PG溶液を皮膚に注射した後、注射前と後のシワ改善効果を確認したものであって、(a)はシワが誘発された皮膚をレプリカとしてレプリケートして比較した結果であり、(b)はシワの面積、長さ、および深さを定量化して比較した結果である。
【0032】
【
図24】既存のフィラー製品(Megafill、Perlane)と体内保持能を比較したものであって、(a)は本発明に係るHA-PG溶液(200KDa、1MDa)、Megafill製品、Perlane製品を皮膚に注射した後、体内に形成されたヒドロゲルを肉眼で確認した結果であり(D0、14、28、56、84、168、252)、(b)は体内に形成されたヒドロゲルの重さ変化を約9ヶ月間測定した結果である。
【
図25】既存のフィラー製品(Megafill、Perlane)と体内保持能を比較したものであって、(a)は本発明に係るHA-PG溶液(200KDa、1MDa)、Megafill製品、Perlane製品を皮膚に注射した後、体内に形成されたヒドロゲルを肉眼で確認した結果であり(D0、14、28、56、84、168)、(b)は体内に形成されたヒドロゲルの体積変化を約9ヶ月間測定した結果である。
【0033】
【
図26】体内形成されたヒドロゲルの体内接着力を確認したものであって、(a)はPerlane製品の結果であり、(b)はHA-PG溶液(200KDa、1MDa)の結果である。
【
図27】既存のフィラー製品(Megafill、Perlane)と注射可能性を比較したものであって、様々な大きさの注射針(21、25、29、30G)を用いて本発明に係るHA-PG溶液(200KDa、1MDa)、Megafill製品、Perlane製品を注射する時の押出力の変化を確認した結果である。
【0034】
【
図28】既存のフィラー製品(Megafill、Perlane)と注射可能性を比較したものであって、(a)は30Gの注射針を用いて本発明に係るHA-PG溶液(200KDa、1MDa)、Megafill製品、Perlane製品を注射する時の押出力の変化を確認した結果であり、(b)は29Gの注射針を用いて本発明に係るHA-PG溶液(200KDa、1MDa)、Megafill製品、Perlane製品を注射する時の押出力の変化を確認した結果である。
【0035】
【
図29】既存のフィラー製品(Megafill、Perlane)と注射可能性を比較したものであって、(a)は様々な大きさの注射針(21、25、29、30G)を用いて本発明に係るHA-PG溶液(200KDa、1MDa)、Megafill製品、Perlane製品を注射する時の摺動降伏応力(Break Loose Force)を比較した結果であり、(b)は様々な大きさの注射針(21、25、29、30G)を用いて本発明に係るHA-PG溶液(200KDa、1MDa)、Megafill製品、Perlane製品を注射する時の動的な衡応力(Dynamic Glide Force)を比較した結果である。
【0036】
【
図30】本発明に係る上皮細胞成長因子(20ng/ml、1μg/ml、20μg/ml)が封入されたHA-PG溶液を皮膚に注射した後、注射前と後のシワ改善効果を確認したものであって、(a)はシワが誘発された皮膚をレプリカとしてレプリケートして比較した結果であり、(b)はシワの面積、長さ、および深さを定量化して比較した結果である。
【
図31】本発明に係る上皮細胞成長因子(20ng/ml、1μg/ml、20μg/ml)が封入されたHA-PG溶液を皮膚に注射した後、そのOCT凍結切片をH&E染色して病理組織検査を実施した結果である。
【
図32】既存のフィラー製品(Perlane)および上皮細胞成長因子が封入されていないHA-PG溶液と本発明に係る上皮細胞成長因子(10μg/ml)が封入されたHA-PG溶液間の皮膚組織再生効果を時間の経過に応じて(1ヶ月)比較したものであって、OCT凍結切片をH&E染色して病理組織検査を実施した結果である。
【0037】
【
図33】既存のフィラー製品(Perlane)および上皮細胞成長因子が封入されていないHA-PG溶液と本発明に係る上皮細胞成長因子(10μg/ml)が封入されたHA-PG溶液間の皮膚組織再生効果を時間の経過に応じて(1ヶ月)比較したものであって、OCT凍結切片をMT(Masson’s Trichrome)染色して病理組織検査を実施した結果である。
【
図34】本発明に係るHA-PG溶液を傷部位に塗布した後、傷部位のヒドロゲルの形成およびそれに応じた接着有無を肉眼で確認した結果である。
【
図35】本発明に係るHA-PG溶液をパウダー形態に剤形化する過程を簡略に示す図である。
【0038】
【
図36】本発明に係る凍結乾燥パウダー形態から再可溶化されたHA-PG溶液を皮膚に注射した後、体内形成されたヒドロゲルを肉眼で確認した結果である。
【
図37】本発明に係るHA-PG溶液の保管安定性を確認したものであって、HAPG溶液を常温(25℃)または冷蔵(4℃)状態で保管しつつ保管容器内でのゲル化有無を確認した結果である。
【
図38】本発明に係るHA-PG溶液の保管安定性を確認したものであって、保管容器に窒素気体を注入してHA-PG溶液と酸素間の接触を遮断させた後、冷蔵(4℃)状態で3日間保管し、他の一方では、HA-PG溶液を冷凍(-80℃)状態で10日間保管し、その後、これらの溶液を皮膚に注射して体内形成されたヒドロゲルを肉眼で確認した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下では、本発明について詳しく説明する。
本発明は、ガロール基で修飾されたヒアルロン酸誘導体を架橋させるステップを含み、前記ヒアルロン酸誘導体は、ヒアルロン酸と5’-ヒドロキシドーパミン間の反応によってガロール基で修飾されている、ヒアルロン酸ヒドロゲルの製造方法を提供する。
【0040】
本発明で用いられる用語、「ヒアルロン酸(Hyaluronic acid、HA)」とは、D-グルクロン酸(D-glucuronic acid、GlcA)およびN-アセチル-D-グルコサミン(GlcNAc)がβ1,3-グリコシド結合(β1,3-glycosidic bond)によって連結された二糖を繰り返し単位として含む高分子量の線状の多糖であって、ヒアルロン酸とその塩を全て称し、これらに制限されるものではないが、前記塩としてはナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩などが例示される。
【0041】
ヒアルロン酸の二糖繰り返し単位(repeating unit)は下記化学式4のとおりであり、前記繰り返し単位は1~1,000個であってもよいが、これらに制限されるものではない。
[化学式4]
【化5】
【0042】
ヒアルロン酸は、眼球の硝子液、関節の滑液、鳥のトサカなどから発見されており、生体適合性が高い生体材料として知られている。ヒアルロン酸ヒドロゲルは、バイオマテリアルへの高い適用可能性にもかかわらず、天然高分子そのものに起因する機械的特性の限界点により、生体材料(例えば、薬物送達体、組織工学用支持体)に適用するのに困難な実情である。そこで、本発明者らは、高い酸化能を有するガロール基をヒアルロン酸に導入してヒアルロン酸誘導体を製造し(製造例1)、このようなヒアルロン酸誘導体を適切な酸化または特定のpH条件(pH8~9)下で架橋させてヒドロゲルを製造する(製造例2)ことにより、架橋速度、弾性、接着力などの物理的特性を効率的に調節できたことに技術的な意義がある(実施例1および3)。
【0043】
本発明で用いられる用語、「ヒアルロン酸誘導体」または「ヒアルロン酸-ピロガロールコンジュゲート」とは、ヒアルロン酸またはその塩のグルクロン酸の骨格にガロール基が導入されたヒアルロン酸またはその塩を全て含むものとして解釈される。
一具体例として、前記化学式4の二糖繰り返し単位の末端、具体的には、そのカルボキシ基と5’-ヒドロキシドーパミン間の反応により製造されることができる。前記反応により製造されたヒアルロン酸誘導体は、下記化学式5の繰り返し単位を一つ以上含み、下記化学式1のように表すことができる。
【0044】
[化学式5]
【化6】
[化学式1]
【化7】
(前記化学式1において、R
1はヒドロキシ基または
【化8】
であり、nは1~1,000の整数である。)
【0045】
また、前記ヒアルロン酸誘導体の分子量は10,000Da~2,000,000Daであってもよく、前記ヒアルロン酸誘導体のガロール基置換率は0.1%~50%であってもよいが、これらに制限されるものではない。
前記「置換率」とは、ヒアルロン酸またはその塩の特定の官能基がガロール基で代替または修飾されることを意味する。ガロール基への置換率は、全体ヒアルロン酸繰り返し単位のうちガロール基が導入された繰り返し単位の割合に定義され、定義上、0超過1以下の数値、または0%超過100%以下の数値、または0モル%超過100モル%以下の数値で表すことができる。
【0046】
本発明で用いられる用語、「ヒドロゲル」とは十分な量の水分を保有している親水性高分子の3次元的な構造を意味し、本発明の目的上、前記ヒドロゲルはガロール基で修飾されたヒアルロン酸誘導体間に形成されたヒドロゲルを示す。
【0047】
前記ヒアルロン酸ヒドロゲルの製造過程は、前記ヒアルロン酸誘導体の架橋反応によって進行し、前記架橋反応のために前記ヒアルロン酸誘導体とPBSなどと混合してヒアルロン酸ヒドロゲル前駆体溶液を製造するステップをさらに含むことができる。このような架橋は、UV照射による化学的架橋、物理学的架橋または生物学的架橋によりヒドロゲルに形成されることができる。ここで、UV照射による化学的架橋には、光架橋(photo-crosslinking)または反応性架橋剤(reactive crosslinker)を活用した架橋などがあり、生物学的架橋にはヘパリンと成長因子の結合力を活用した架橋またはDNAなどの相補的結合を用いた架橋などがあり、物理的架橋には水素結合による架橋、疎水性(hydrophobic)相互作用による架橋または静電気的相互作用を活用した架橋などがあるが、好ましくは、酸化剤またはpH調節剤を添加して架橋させることができる。前記酸化剤は過ヨウ素酸ナトリウム、過酸化水素、西洋ワサビペルオキシダーゼまたはチロシナーゼであってもよく、前記pH調節剤は水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウムまたは水酸化バリウムであってもよいが、これらに制限されるものではない。
【0048】
一具体例として、前記酸化剤を添加して架橋させる場合、ヒアルロン酸誘導体間に下記化学式2の架橋結合を形成する。化学式2において、HA’はカルボキシ基がアミド基で置換されたヒアルロン酸を示す。
[化学式2]
【化9】
【0049】
他の具体例として、前記pH調節剤を添加して架橋させる場合、ヒアルロン酸誘導体間に下記化学式3の架橋結合を形成する。化学式3において、HA’はカルボキシ基がアミド基で置換されたヒアルロン酸を示す。
[化学式3]
【化10】
【0050】
本発明の一態様においては、ガロール基で修飾されたヒアルロン酸誘導体の架橋ステップにおいて、各々酸化剤である過ヨウ素酸ナトリウムまたはpH調節剤である水酸化ナトリウムを用いてヒアルロン酸ヒドロゲルを製造し(製造例2を参照)、その結果、それぞれの架橋方式に従って製造されたヒアルロン酸ヒドロゲルは、優れた生体適合性と共に架橋速度、強度、弾性、接着力、分解様相などの物理的特性の顕著な差を確認することができた(実施例1~3を参照)。
【0051】
本発明の一態様において、本発明のヒアルロン酸誘導体またはヒアルロン酸ヒドロゲルを含むフィラー組成物が提供される。本発明のフィラー組成物は、水性媒質上にガロール基が導入されたヒアルロン酸誘導体が混合されている、液体または溶液の状態で提供される。特に、体内に注射される場合、このような溶液は、架橋成分を含まなくても、個人間の偏差なしに体内酸化力だけでヒドロゲルを形成して皮膚組織を補充し、皮膚の水分を保持できる役割をすることができる。一具体例として、前記水性媒質はリン酸緩衝溶液(Phosphate buffered saline;PBS)であり、前記ヒアルロン酸誘導体は全体フィラー組成物に対して、好ましくは0.1%(w/v)~20.0%(w/v)、より好ましくは0.3%(w/v)~10.0%(w/v)で含まれてもよいが、当業界で公知の水性媒質およびフィラー組成物内の含量比に応じて多様に変形または変更して製造されることができる。
【0052】
本発明で用いられる用語、「フィラー」とは、生体に適合な材料を皮内または皮下に注入してシワを改善し、美観上のボリュームを回復させるなどの皮膚組織を補充する注射可能な物質を意味する。現在、FDAまたはMFDSが承認したフィラー製造用物質として、コラーゲン、ヒアルロン酸、カルシウムハイドロキシアパタイト、ポリ乳酸などがある。その中でも、ヒアルロン酸は、人体構成成分と類似した物質であって、皮膚反応検査なしに使用可能であり、1分子あたり214個の水分子を引き寄せる特性があって皮膚の水分を効果的に保持できるところ、現在、フィラー市場の約90%を占めている。本発明に係るフィラー組成物は、高い酸化力を有したガロール基が導入されたヒアルロン酸誘導体を用いることにより、架橋剤を添加しなくても体内酸化力だけでヒドロゲルを形成することができるので生体適合性を向上させ、上記のように体内に形成されたヒドロゲルは長期間透明な状態にその形態を保持することができるので(少なくとも6ヶ月以上)前述したヒアルロン酸の特性に応じて優れたシワ改善効果を示し、既存のフィラー製品に比して優れた接着力および体内安定性を有するだけでなく、押出力に関係なく安定的に対象部位に注射できることに技術的な意義がある(実施例2および3)。
【0053】
また、本発明のフィラー組成物は、使用便宜性および保管安定性を提供するために、パウダー形態、より具体的には凍結乾燥されたパウダー形態に剤形化することができる。一方、前記フィラー組成物は、皮膚に注射する前、PBSのような水性媒質に溶解させて可溶化させる前処理ステップを必要とするが、保管および剤形状態に応じて溶液化されたフィラー組成物の直接的な適用も可能である。
【0054】
また、別の態様において、効果的な皮膚再生効果を与えるために、本発明のフィラー組成物は、細胞成長因子またはビタミンをさらに含むことができる。前記細胞成長因子は、細胞の分裂、成長、および分化を促進するポリペプチドを総称するものであって、好ましくは、線維芽細胞成長因子(FGF)、上皮細胞成長因子(EGF)、ケラチノサイト成長因子(KGF)、形質転換成長因子-α(TGF-α)、形質転換成長因子-β(TGF-β)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、インスリン様成長因子(IGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、肝細胞成長因子(HGF)、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、およびグリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)からなる群より選択されてもよく、前記細胞成長因子は20ng/ml~20μg/mlの濃度で含まれてもよいが、これらに制限されるものではない。
【0055】
さらに別の態様において、注入過程での痛みを緩和するために、本発明のフィラー組成物は、局所麻酔剤をさらに含むことができる。前記局所麻酔剤はアンブカイン(ambucaine)、アモラノン(amolanone)、アミロカイン(amylocaine)、ベノキシネート(benoxinate)、ベンゾカイン(benzocaine)、ベトキシカイン(betoxycaine)、ビフェナミン(biphenamine)、ブピバカイン(bupivacaine)、ブタカイン(butacaine)、ブタンベン(butamben)、ブタニリカイン(butanilicaine)、ブテタミン(butethamine)、ブトキシカイン(butoxycaine)、カルチカイン(carticaine)、クロロプロカイン、コカエチレン、コカイン、シクロメチカイン、ジブカイン、ジメチソキン、ジメトカイン、ジペロドン、ジシクロニン、エクコニジン、エクゴニン、塩化エチル、エチドカイン、β-ユーカイン、ユープロシン(Euprocin)、フェナルコミン、フォモカイン(Fomocaine)、ヘキシルカイン、ヒドロキシテトラカイン、p-アミノ安息香酸イソブチル、ロイシノカインメシレート、レボキサドロール、リドカイン、メピバカイン、メプリルカイン、メタブトキシカイン、塩化メチル、ミルテカイン、ナエパイン、オクタカイン、オルトカイン、オキセタザイン、パレトキシカイン、フェナカイン、フェノール、ピペロカイン、ピリドカイン、ポリドカノール、プラモキシン、プリロカイン、プロカイン、プロパノカイン、プロパラカイン、プロピポカイン、プロポキシカイン、シュードコカイン(Pseudococaine)、ピロカイン(Pyrrocaine)、ロピバカイン、ブピバカイン、サリチルアルコール、テトラカイン、トリルカイン、トリメカイン、ゾラミン、およびこれらの塩からなる群より選択されてもよく、前記麻酔剤の量は全体フィラー組成物の重量に対して、好ましくは0.1重量%~5.0重量%、より好ましくは0.2重量%~1.0%重量%で含まれてもよいが、これらに制限されるものではない。
【0056】
別の態様において、体内でゲル化して生成されたヒドロゲルの酸化および分解を防ぐために、本発明のフィラー組成物は抗酸化剤をさらに含むことができる。前記抗酸化剤はポリオール、マンニトール、およびソルビトールからなる群より選択されてもよく、前記抗酸化剤の量は全体フィラー組成物の重量に対して、好ましくは0.1重量%~5.0重量%、より好ましくは0.2重量%~1.0%重量%で含まれてもよいが、これらに制限されるものではない。
本発明の側面において、本発明は、ヒアルロン酸のグルクロン酸の骨格にガロール基を導入してヒアルロン酸誘導体を製造するステップ;および前記ヒアルロン酸誘導体を水性媒質に添加して混合するステップを含む、フィラー組成物の製造方法を提供する。
【0057】
本発明において、前記ヒアルロン酸誘導体を水性媒質に添加して混合するステップは、液体状態のフィラー組成物の注入前のゲル化を防ぐために、好ましくは、酸素およびその他の酸化源との接触を遮断した状態(例えば、窒素ガスの注入)で約4℃~28℃、および/またはpH4~8の条件で行われることができる。
【0058】
一態様において、前記水性媒質はリン酸緩衝溶液(Phosphate buffered saline;PBS)であり、前記ヒアルロン酸誘導体はヒアルロン酸と5’-ヒドロキシドーパミン間の反応による前記化学式1であってもよく、本発明のフィラー組成物は前述した細胞成長因子、局所麻酔剤、抗酸化剤、ビタミン、およびこれらの組み合わせを追加して製造されることができる。
【0059】
本発明の別の側面において、前記フィラー組成物を個体の皮内または皮下に注入するステップを含む、皮膚のシワ改善方法を提供する。本発明において、前記フィラー組成物の対象部位は個体の顔、首、耳、胸、お尻、腕、手などのような身体の任意の部位であってもよく、好ましくは、皮膚のシワ領域として、目下の窪み領域、眉間のシワ領域、目尻領域、額領域、鼻面領域、鼻横のシワ領域、口横のシワ領域、および首のシワ領域からなる群より選択されるいずれか一つの部位であってもよいが、これらに制限されるものではない。また、本発明において、「個体」とは皮膚のシワの改善を必要とする対象を意味し、より具体的にはヒトまたはヒトでない霊長類などを全て含む。
【0060】
特に、本発明のフィラー組成物は、押出力に関係なく容易に対象部位に注入または注射することができる。前記注入するステップにおいては、様々な大きさの注射針(Needle)または挿入管(Cannula)を用いてフィラー組成物を皮内または皮下に注入することができ、フィラーの注入方法としては、例えば、少しずつ何度も刺すSerial punture方法;10mmほど針を前進させた後、後ろに抜きながら少しずつ注射するLinear threading方法;一度刺した後、Linear threading方法で注射した針は抜かずに若干の角度を捩じって再び同じ方法で繰り返し注射するFanning方法などが利用できる。
【0061】
本発明の他の側面において、前記化学式1のヒアルロン酸誘導体を架橋させて製造されたヒアルロン酸ヒドロゲルとして、ヒアルロン酸誘導体間に前記化学式2の架橋結合が形成されたヒアルロン酸ヒドロゲル;および前記ヒアルロン酸ヒドロゲルを含む薬物送達用担体、薬物送達システムまたは組織工学用支持体を提供する。
【0062】
また、本発明のさらなる他の側面において、前記化学式1のヒアルロン酸誘導体を架橋させて製造されたヒアルロン酸ヒドロゲルとして、ヒアルロン酸誘導体間に前記化学式3の架橋結合が形成されたヒアルロン酸ヒドロゲル;および前記ヒアルロン酸ヒドロゲルを含む薬物送達用担体、薬物送達システム、または組織工学用支持体を提供する。
【0063】
本発明のヒアルロン酸ヒドロゲルは薬物送達用の有効骨格としての人工細胞外基質として用いられることができ、前記ガロール基が修飾されたヒアルロン酸誘導体の優れた酸化能によりナノまたはマイクロ単位の極微粒子形態を実現できることに技術的な意義がある。前記薬物は特に制限されないが、好ましくは、化学物質、小分子、ペプチド、抗体、抗体断片、DNA、RNAまたはsiRNAを含む核酸、タンパク質、遺伝子、ウイルス、細菌、抗菌剤、抗真菌剤、抗ガン剤、抗炎症剤、またはこれらの混合物などを含むことができ、これらに制限されるものではない。
【0064】
また、本発明のヒアルロン酸ヒドロゲルは、優れた弾性および接着力をベースに組織工学用支持体として用いられることができる。組織工学とは、患者の組織から分離した細胞または幹細胞を支持体(scaffold)において培養して細胞-支持体複合体を製造した後、製造された細胞-支持体複合体を再び生体内に移植するのを意味し、前記ヒアルロン酸ヒドロゲルは、生体組織および臓器の再生を最適化するために、生体組織と類似した支持体に実現されることができる。したがって、遺伝子治療剤または細胞治療剤に利用できる。
【0065】
また、本発明のヒドロゲルは、化粧品、および創傷治療剤、創傷被覆材、癒着防止剤、または歯科用マトリックスなどの医療用材料にも活用されることができ、これらに制限されるものではないのは勿論である。
以下では、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示する。但し、下記の実施例は本発明をより容易に理解するために提供されるものであって、下記の実施例によって本発明の内容が限定されるものではない。
【0066】
[製造例]
製造例1:ガロール基で修飾されたヒアルロン酸誘導体の製造
図1に示すように、本発明のガロール基で修飾されたヒアルロン酸誘導体を製造した。具体的には、ヒアルロン酸(MW 200K、Lifecore Biomedical, IL, USA)を水(TDW)に完全に溶解させ、1当量のNHS(N-hydroxysuccinimide、Sigma, St.Louis, MO, USA)と1.5当量のEDC(1-(3-dimethylaminopropyl)-3-ehtylcarbodiimide hydrochloride、Thermo Scientific, Rockford, IL, USA)を添加し、それより30分後、PG部分として1当量の5’-ヒドロキシドーパミン(5-hydroxydopamine、Sigma)を添加してpH4~4.5で24時間反応させた。2個の異なるモル比の反応物をHA-PGコンジュゲートの製造に用いた(HA:EDC:NHS:PG=1:1.5:1:1または2:1.5:1:1)。その後、EDC、NHS、5’-ヒドロキシドーパミンをPBSおよび水ベースの透析(Cellu/Sep(商標名)、dialysis membrane(6.8kDa cut-off, Membrane Filtration Products Inc., Seguin, TX, USA))により除去し、凍結乾燥により溶媒を蒸発させて本発明のヒアルロン酸誘導体を製造した。前記ヒアルロン酸誘導体の合成を確認するために、FT-IR(Fourier transform-infrared spectroscopy)(Vertex 70, Bruker, Billerica, MA, USA)およびH-NMR(proton Nuclear magnetic Resonance)(Bruker 400 MHz, Bruker)で分析した結果、
図2aに示すように、約1,580cm
-1~1,700cm
-1波数領域での強いピークを通じて新しく形成されたアミド結合を確認することができ、
図2bに示すように、6.5ppmおよび3ppm付近のピークを通じて各々5’-ヒドロキシドーパミンの芳香族のベンゼン環および-CH
2CH
2-の構造を確認することができた。前記結果から、本発明のヒアルロン酸誘導体は、ヒアルロン酸のカルボキシ基と5’-ヒドロキシドーパミンのアミン基間に形成されたアミド結合により5’-ヒドロキシドーパミンが導入されることが分かった。HA骨格に対するガロール基の置換程度を計算するために、HA-PGコンジュゲートをPBS(pH5)に1mg/mLで溶解させ、溶液の吸光度を283nm(UV-visible spectrophotometer(Cary 100 UV-vis, Varian Inc., Palo Alto, CA, USA)において測定した。PGで置換されたHA内のカルボキシ基の%を5’-ヒドロキシドーパミン溶液(1mg/mL濃度から)の連続希釈により得た標準曲線を用いて計算した。
【0067】
製造例2:ヒアルロン酸ヒドロゲルの製造
前記製造例1のヒアルロン酸誘導体を架橋(cross-linking)させてヒアルロン酸ヒドロゲルを製造し、この時、架橋方式は酸化剤である過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO
4)またはpH調節剤(pH8~9)である水酸化ナトリウム(NaOH)を各々用いた。具体的には、前記ヒアルロン酸誘導体をPBSに溶解させた後(1%(w/v)、2%(w/v))、4.5mg/mlのNaIO
4または0.08MのNaOHをヒアルロン酸誘導体溶液の体積に対比して1.5:1~4:1の割合で混合させながら架橋を進行し、
図3に示すように、これらの各々を通じて明るい茶色または青色を帯びるヒアルロン酸ヒドロゲルを製造した。
【0068】
前記ヒアルロン酸ヒドロゲルの架橋を具体的に確認するために、UV-vis(紫外・可視分光法(Ultraviolet-visible spectroscopy))で分析した。NaIO
4を用いた場合、
図4に示すように、時間の経過に応じて350~400nm波長領域が変化するのを確認することができ(
図4a)、これは、酸化過程で中間体であるラジカルの瞬間的な形成と減少を意味するものであり、その後、ラジカル重合反応によりビフェノール(biphenol)が形成されることが分かった(
図4b)。また、NaOHを用いた場合、
図5に示すように、時間の経過に応じて600nm波長領域が変化するのを確認することができ(
図5a)、これは、酸化過程で[5+2]互変異性化(tautomerization)により電荷移動複合体およびベンゾトロポロン(benzotropolone)が形成されることが分かった(
図5b)。
【0069】
[実施例]
実施例1.架橋方式に応じたヒアルロン酸ヒドロゲルの物性変化
本実施例においては、前記製造例2の架橋方式の差に応じたヒアルロン酸ヒドロゲルの物性変化を比較した。一方、前記ヒドロゲルの製造ステップにおいて、ヒアルロン酸に対比して5’-ヒドロキシドーパミンのモル濃度比(0.5×(HA:EDC:NHS:5’-hydroxydopamine=2:1.5:1:1)、1×(HA:EDC:NHS:5’-hydroxydopamine=1:1.5:1:1))によってガロール基の置換率を4~5%(0.5×)、または8~9%(1×)に調節することができ(示さず)、5’-ヒドロキシドーパミンの置換程度に応じたヒドロゲルの物性変化も比較した。具体的には、時間の経過に応じたヒドロゲルの形成および弾性係数の変化を架橋方式に応じて比較し、架橋方式および5’-ヒドロキシドーパミンの置換程度に応じた弾性、接着力、膨潤、および分解様相を各々比較分析した。
【0070】
1-1.ヒアルロン酸ヒドロゲルの形成速度の比較
図6aに示すように、NaIO
4を用いた場合には、明るい茶色を帯びるヒドロゲルが即刻的な架橋反応により瞬間的な形成されたのに対し、NaOHを用いた場合には、青色を帯びるヒドロゲルが相対的に徐々に形成されるのを確認することができた。また、時間の経過に応じた貯蔵弾性率G’と損失弾性率G’’を測定し、カテコール基が導入されたヒアルロン酸誘導体をNaIO
4を用いて架橋させたヒドロゲル(HA-CA(NaIO
4))と前記結果を比較した。その結果、
図6bに示すように、いずれも酸化が進行するにつれて安定的にヒドロゲルが形成された(G’>G’’)。特に、貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線が接する時点を通じてヒドロゲルの形成時点を確認した時、NaOHを用いて架橋させた場合には約2~3分、HA-CA(NaIO
4)の場合には約30秒程度がかかったのに対し、NaIO
4を用いた場合には測定できないほど速く架橋が進行することが分かった。
【0071】
ヒアルロン酸の粘弾性係数は0.1~1Hzの周波数範囲(frequency range)において周波数スイープモード(frequency sweep mode)内の貯蔵弾性率G’および損失弾性率G“を測定して分析した。ヒアルロン酸の弾性は1Hz(n=45)において貯蔵係数を損失係数で分けて計算した。HA-PGのゲル化速度(Gelation kinetics)は、レオメータ(rheometer)(MCR102, Anton Paar, VA, USA)を各々10%および1Hzの調節されたストレインおよび周波数においてタイムスイープモードで測定した。二つの酸化剤(NaIO4およびNaOH)をG1およびG”の最初測定から30分後に添加した。ヒドロゲルの接着性は、レオメータ(MCR102, Anton Paar)でプローブと基材プレート間の完全に架橋されたヒドロゲルの分離ストレスを記録して測定した(n=3)。プローブの引っ張る速度は5μm/secであった。
【0072】
1-2.弾性および接着力の比較
図7aに示すように、架橋方式または5’-ヒドロキシドーパミンの置換程度の差にもかかわらず、いずれも貯蔵弾性率G’が損失弾性率G’’に比して一定のレベルに高く測定されたところ、安定的にヒドロゲルが形成されるのを確認することができた。また、ヒドロゲルの強度を表す弾性係数(Elastic modulus)と弾性程度を表すtanδ(G’’/G’)を算出した結果、
図7bに示すように、NaIO
4を用いる場合には、ヒドロゲルの強度がさらに優れ、低い置換率でも全て優れた弾性力を有していたのに対し、NaOHを用いる場合には、置換率の増加に応じて優れた弾性力を得た。また、同一の架橋方式である場合には、5’-ヒドロキシドーパミンの置換率が増加するに伴い、このようなそれぞれの優れた物性も向上することが分かった(0.5×<1×)。また、前記結果に基づいて、ヒアルロン酸誘導体の分子量(40、200、500kDa)および濃度(1%(w/v)、2%(w/v))に応じたNaIO
4で架橋されたヒドロゲルの物性差を確認した結果、
図8に示すように、全て貯蔵弾性率G’が損失弾性率G’’に比して一定のレベルに高く測定されたところ、安定的にヒドロゲルが形成されるのを確認することができ(
図8a)、ヒアルロン酸の分子量の大きさが大きくなるほど、濃度が高くなるほど、ヒドロゲルの強度および弾性力が向上することが分かった(
図8b)。また、ヒドロゲルの接着力を評価するために、レオロジー機器(Bohlin Advanced Rheometer, Malvern Instruments, Worcestershire, UK)の各プレートの間でヒドロゲルを架橋させ、前記プレートの間隔を増加させながら機器に加えられる力を測定し、カテコール基が導入されたヒアルロン酸誘導体をNaIO
4を用いて架橋させたヒドロゲル(HA-CA(NaIO
4))と前記結果を比較した。その結果、
図9に示すように、NaOHにより形成されたヒドロゲル、およびHA-CA(NaIO
4)は優れた接着力を示したのに対し、NaIO
4により形成されたヒドロゲルは接着力がほぼ観察されなかった。
【0073】
1-3.膨潤および分解様相の比較
図10に示すように、架橋方式および5’-ヒドロキシドーパミンの置換程度に応じて多少相異した膨潤および分解様相を示した。膨潤特性は、特定の時点(0、1、2、3、5、7、14および28日目)に残存するヒドロゲルの重さを測定して評価した。具体的には、HA-PGをPBS、37℃でインキュベーションし、膨潤率を次の式で計算した:(Wt-Wi)/Wi×100、ここで、Wtは各時点でのヒドロゲルの重さであり、Wiは初期時点でのヒドロゲルの重さである(n=4~5)。分解プロファイルを調査するために、3日間膨潤したHA-PGヒドロゲルをヒアルロニダーゼ(hyaluronidase)(5units/mL、Sigma)で処理し、残存するヒアルロン酸の重さを各時点ごとに測定した(n=4~7、0、2、5、12、24、48および72時間)。NaOHよりNaIO
4を用いた場合に、膨潤率は低く、分解はより速く進行し、同一の架橋方式である場合には、5’-ヒドロキシドーパミンの置換率が増加した場合に、このような膨潤率および分解速度は減少する傾向を示した。このような結果を総合してみると、同一構造のヒアルロン酸誘導体を用いた場合であっても、架橋方式に応じてヒドロゲルは相異した結合形態で架橋され(製造例2)、これは、強度、弾性、接着力、膨潤および分解のような固有な物理的特性の変化につながることを示す。また、これとは逆に、同一の架橋方式を採択したとしても、ヒアルロン酸誘導体の構造に応じて上記の物理的特性も変化することが分かった。
【0074】
実施例2.細胞毒性および生体適合性の分析
本実施例においては、前記製造例2のヒアルロン酸ヒドロゲルの細胞毒性および生体適合性を評価した。先ず、3D細胞培養での毒性および炎症反応の誘発有無を確認するために、ヒドロゲルに幹細胞(human adipose-derived stem cell、hADSC)(100μLのヒドロゲルあたり1.0×106細胞)を培養し、LIVE/DEAD viability/cytotoxicity kit(Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)を製造会社の指示に従って各時点(time point)(1、3および7日目)にLive/Dead染色を行った。染色された細胞を共焦点顕微鏡(confocal microscope)(LSM 880, Carl Zeiss, Oberkochen, Germany)で観察し、生存率は蛍光イメージから生存細胞と死滅細胞を計数して定量化した(n=4~5)。hADSCはATCC(ATCC, Manassas, VA, USA)から入手し、Growth Kit-low serum(ATCC)および1% ペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen)が補充された間葉幹細胞培地Mesenchymal Stem Cell Basal Medium(ATCC)で培養した。
【0075】
また、免疫細胞(Raw 264.7)をヒドロゲルにトランスウェルシステム(permeable supports with 3.0μm pores, Corning, New York, NY, USA)を用いて共培養した後、炎症反応により分泌される腫瘍壊死因子(TNF-α)の量をELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)を用いて測定した。Raw 264.7細胞を一晩インキュベーションした後、96ウェルプレート(1ウェルあたり2.0×104細胞)上にシードした後、トランスウェルの上部挿入部を通してヒドロゲル50μLをロードした後、24時間さらにインキュベーションした。共培養から回収した培地内のTNF-αの量をTNF-α enzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)kit(R&D Systems, Minneapolis, MN, USA)を用いて定量化した。
【0076】
HA-PGヒドロゲルのin vivo生体適合性を評価するために、NaIO4またはNaOHにより形成された100μLのHA-PGヒドロゲル(2%[w/v]の最終濃度)をICRマウスの皮下に移植した。マウス(5週齢 雄, OrientBio, Seongnam, Korea)に移植前にケタミン(ketamine)(100mg/kg、Yuhan, Seoul, Korea)およびキシラジン(xylazine)(20mg/kg、Bayer Korea, Ansan, Korea)で麻酔した。組織分析のために、予め設定した時点(0、7、14、28、および84日目)に隣接した組織と共にヒアルロン酸構造物を回収した。回収したヒアルロン酸を4% パラホルムアルデヒド(paraformaldehyde)(Sigma)で2日間固定し、OCT化合物(Leica Biosystems, Wetzlar、Hesse, Germany)に包埋(embedding)した後、6μm厚さに切断した。in vivo実験からの切断された試料をH&Eで染色してヒドロゲルの保持を評価した。トルイジンブルー(Toluidine blue)染色を、HA-PGヒドロゲル移植後の免疫反応を調査するために行った。HA-PGヒドロゲルのin vivo分解は、各時点に回収されたヒドロゲル構造物の残存重さを測定して評価した(n=3~5)。
【0077】
その結果、
図11および
図12に示すように、架橋方式に応じた二つの形態のヒドロゲルの両方とも、培養7日後まで細胞毒性を示さなかった(
図11(a)、(b))。LPSにより増加したTNF-αは、前記二つの形態のヒドロゲルを処理した場合、少量だけが検出され、何の処理もしていない対照群(NT)とも大差はなかった(
図11c)。また、
図12に示すように、前記ヒドロゲルをマウスに移植した場合にも、特異的炎症所見は観察されず、移植されたヒドロゲル付近、マクロファージなど炎症関連細胞の増殖なしにその構造がよく保持されているのを確認することができた(
図12cおよびd)。
【0078】
実施例3.in vivoでの分解様相の分析
本実施例においては、架橋方式(NaIO4/NaOH)および反応させた5’-ヒドロキシドーパミンのモル比(0.5×、1×)に差があるヒアルロン酸ヒドロゲルをマウスの皮下に移植した。移植した当日、それより1週、4週および12週後にマウスを犠死させ、それぞれのヒドロゲルを採取して、それらの膨潤程度を肉眼で確認し、in vivoでの残存量を算出することによって、in vivoでの分解様相などを分析した。
【0079】
その結果、
図13に示すように、NaIO
4を用いて架橋させたヒドロゲルは膨潤の程度がより少ないのを確認することができ、より速くin vivoでの分解がなされることが分かった。また、同一の架橋方式である場合、5’-ヒドロキシドーパミン(ガロール基)の置換率が増加した場合、分解速度は減少する傾向を示した。
【0080】
前記実施例2および3の結果は、本発明に係るヒアルロン酸ヒドロゲルは、例えば、薬物送達体、組織工学用支持体などのようなバイオマテリアル分野に活用できることを示唆する。特に、前記実施例1などの固有な物理的特性を考慮してみる時、速い架橋速度およびin vivoでの分解様相を示す、NaIO4により形成されたヒドロゲルは微細粒子形態の薬物送達用担体として、優れた接着力および遅いin vivoでの分解様相を示す、NaOHにより形成されたヒドロゲルは組織工学用支持体などとして活用することができるであろう。
【0081】
実施例4.極微粒子の形成を通じた薬物送達システムとしての活用
4-1.HA-PGヒドロゲル極微粒子を用いたタンパク質の徐放(sustained release)
本実施例においては、NaIO
4により形成されたヒドロゲルの一態様として、ナノまたはマイクロ単位の直径を有する極微粒子形態の薬物送達用製剤を製造し、その効能を確認した。先ず、水中油エマルション(Oil/water emulsion)方式を用いて製造例2のヒアルロン酸誘導体溶液(HA-PG)のエマルションの形成を誘導し、前記溶液に酸化剤(NaIO
4)を添加した後、凍結乾燥前および後の極微粒子の形成および存在を確認した。また、HA-PG溶液とタンパク質(ウシ血清アルブミン(bovine serum albumin)、BSA)を混合しエマルション形態に作った後、酸化剤(NaIO
4)を添加して架橋させることによってBSAが封入された極微粒子を製造し、14日にかけて極微粒子のタンパク質の放出様相を確認した。その結果、
図14に示すように、前記製造過程を通じてヒアルロン酸ヒドロゲルを成分とする極微粒子が生成され、凍結乾燥過程を経ても相変わらず保持された(
図14a)。また、バルクに製造されたヒドロゲル(HA-PG bulk hydrogel)においては封入されたタンパク質がほぼ放出されなかったのに対し、前記極微粒子(HA-PG particle)においてはタンパク質が一定の速度で放出されるのを確認することができたところ(
図14b)、極微粒子形態のNaIO
4により形成されたヒドロゲルは薬物送達製剤として活用することができるであろう。
【0082】
4-2.HA-PGヒドロゲル極微粒子を用いた抗体の徐放
先ず、治療的適用を成長因子の徐放および調節送達のための方法として、HA-PGヒドロゲル極微粒子をNaIO
4-媒介架橋の超高速ゲル-形成を用い、水中油エマルション方法で製造した(
図15(a))。HA-PG極微粒子は、HAPG溶液の油中水(water-in-oil)エマルションに単に加えることによって製造できる。オイル上でNaIO
4によるHAPGエマルションの迅速な化学的架橋は数分内にマイクロ以下のHA粒子を多量生成させた。生成されたHA-PG極微粒子は、平均直径8.8μm(±3.9μm)の球状を示した(
図15(b))。興味深くにも、HA-PG極微粒子により封入されたVEGF(血管内皮成長因子(vascular endothelial growth factor))は60日間徐々に放出されたのに対し、バルク形態のHA-PGはヒドロゲル構造物からほぼ放出されなかった(
図15(c))。本発明者らの先行研究において、本発明者らは、カテコール-修飾されたアルギネートヒドロゲル内に封入された成長因子が、ゲル化過程でタンパク質が酸化されたカテコールに強く結合することにより、ほぼ放出されないのを確認したことがある。PG基もカテコール基と同様に、成長因子のヒドロゲル構造物への強力な結合を誘導することができるであろう。しかし、微粒子で形成されたHA-PGが顕著に増加した成長因子の放出のための表面積によりVEGFを放出できると見られる。
【0083】
VEGF(Peprotech, Rocky Hill, NJ, USA)が組み込まれたHA-PG極微粒子を末梢血管疾患における治療的血管生成を促進するために適用した。HA-PG極微粒子を含有するVEGFの筋肉内注入(VEGFロード用量:1マウスあたり6μg)は、大腿動脈(femoral artery)の切除および結紮して製造した後肢虚血マウスモデルにおいて顕著に改善された治療効果を示した。マウスはオリエントバイオから入手した((Balb/c、6週齢 雌、OrientBio)。注入してから4週経過後に、VEGFを含有するHAPG極微粒子で処理した群ではいかなる脚の切断や組織壊死(tissue necrosis)もなかった。その反面、PBSまたはVEGFなしにHA-PGのみを処理した群のただ20%だけが虚血性脚の改善を示した(
図16(a))。同一容量(1マウスあたり6μg)のVEGFの単一(Single bolus)投与は虚血性脚の多少の改善を示したが、後肢虚血マウスの50%は依然として脚損失または組織壊死を示した(
図16(b))。また、H&EおよびMassons’s trichrome(MT)染色によって確認した組織学的分析は、HAPG/VEGF群の虚血マウスモデルにおいて最小の筋肉損傷および線維症の形成を示した(
図16(c)、(d))。また、小動脈染色のためのα-平滑筋アクチン(smooth muscle actin)(α-SMA)および毛細血管染色のためのフォンビルブランド因子(von Willebrand factor)(vWF)免疫組織化学分析は、小動脈および毛細血管が対照群((PBS、HAPG、およびVEGF)と比較してHAPG/VEGF群において顕著に増加したことを示した(
図16(e)、(f))。このような結果は、血管形成の実質的な改善を示す。非侵襲的で注射しない(injection-free)細胞移植のための接着性ヒドロゲル支持体を製造するためにNaOH-媒介架橋を利用した(
図17(a))。以前の研究から、カテコール-修飾ポリマーはタンパク質内の酸化されたカテコールの様々な求核体(nucleophiles)に対する高い結合親和力を通じて強い組織接着力を示すのが確認されたことがある。
【0084】
実施例5.体内酸化力を用いたヒアルロン酸フィラー組成物のゲル化およびシワ改善効果の確認
5-1.体内酸化力を用いたヒドロゲルの形成および保持
製造例1で製造されたHA-PG溶液をマウスの皮下に注入し、その後、前記注入されたHA-PG溶液が架橋剤の添加がなくても体内でゲル化が進行するか否かを確認した。また、体内条件で、形成されたHA-PGヒドロゲルの重さ変化を約6ヶ月間測定することによって、形成されたHA-PGヒドロゲルが体内で長期間保持できるか否かを確認した。
【0085】
その結果、
図20および
図21に示すように、液体状態で皮下に注入されたHA-PG溶液は5分以内にゲル化して体内でHA-PGヒドロゲルを形成し、形成されたHA-PGヒドロゲルは透明な状態で6ヶ月間大きな重さの差なしに体内でよく保持されることが分かった。また、
図22に示すように、前記HA-PG溶液は、体内酸化条件に露出する場合、強い自己酸化能力を有するガロール基間にキノンを容易に形成してヒアルロン酸を重合させ、HA-PGヒドロゲルを形成するようになる。したがって、重合された形態の剤形からなるフィラー製品(Megafill、perlane)とは異なり、本発明のフィラー組成物は、溶液状態の剤形で用いられることができるため、皮膚への注入がさらに容易であり、様々な追加成分を含有できることが分かった。すなわち、本発明のHA-PG溶液は、架橋剤の添加がなくても体内でヒドロゲルを形成し、安定的に保持されることができたところ、それよりフィラー組成物としての活用可能性を確認することができた。
【0086】
5-2.シワ改善効果の確認
前記実施例5-1の結果に基づいて、HA-PG溶液のシワ改善効果を確認しようとした。具体的には、無毛マウスにカルシトリオール(Calcitriol)を0.2μg/dayずつ1週間に5回、総6週間投与して皮膚のシワを誘発させた。その後、HA-PG溶液を皮膚の皮下に注射し、注射前と後のシワが誘発された皮膚をレプリカとしてレプリケートし、シワ分析機器を用いてシワの面積、長さ、および深さを測定して比較した。その結果、
図23に示すように、HA-PG溶液の注射前のシワの面積、長さ、および深さは各々約6mm
2、約36mm、約90μmであったのに対し、HA-PG溶液の注射後には各々約2mm
2、約19mm、約68μmとしてシワの面積、長さ、および深さの全てが顕著に減少するのを確認することができた。この結果は、皮膚のシワ改善のためのフィラー用組成物として本発明のHA-PG溶液が活用できることを示すものである。
【0087】
5-3.既存のフィラー製品との比較
(1)体内接着力および固定性の比較
HA-PG溶液のフィラーとしての活用可能性をさらに具体的に確認するために、様々な分子量を有するヒアルロン酸誘導体(200KDa、1MDa)ベースのHA-PGヒドロゲルと既存に市販中のフィラー製品(Megafill、Perlane)間の体内保持および分解様相を約9ヶ月間測定して比較した。これと共に、本発明のHA-PG溶液とPerlane製品により生成されたヒドロゲルの体内接着力または固定性を比較した。その結果、
図24および
図25に示すように、Megafill、Perlane製品は注射した日から約1ヵ月目から体内のヒドロゲルの重量および体積が減少する傾向を示したのに対し、HA-PGヒドロゲルは9ヶ月間重量および体積の大きな変化なしにその模様が保持されるのを確認できたところ、HA-PGヒドロゲルの体内保持能に優れることが分かった。また、ヒドロゲルの体内接着力を確認した結果、
図26に示すように、Perlane製品は皮膚に固定されず特定の部位に偏る現象を示したのに対し、HA-PG溶液によるヒドロゲルは注射部位に接着および固定されて生体内でよく保持されるのを確認することができ、このような優れた体内接着力は、アミン基、チオール基(thiol group)などのように皮膚に存在する官能基と本発明のヒアルロン酸誘導体間の反応から起こった結果である(
図22a)。すなわち、本発明のHA-PG溶液は、既存のフィラー製品に比べてさらに優れた体内安定性および接着性を有することを示すものである。
【0088】
(2)注射可能性の比較(Injectability test)
HA-PG溶液の優れた注射可能性(injectability)を具体的に確認するために、様々な分子量を有するヒアルロン酸誘導体(200KDa、1MDa)ベースのHA-PGヒドロゲルと既存に市販中のフィラー製品(Megafill、Perlane)間の注射針の大きさ(21G、25G、29G、30G)に応じた押出力の変化を万能試験機(Universal testing machine)(UTM)を用いて測定しただけでなく、最初に注射器を移動させるのに必要な力である摺動降伏応力(Break Loose Force)と移動中の注射器の運動性を保持するのに必要な力である動的な衡応力(Dynamic Glide Force)を定量して比較した。その結果、
図27および28に示すように、Megafillは、粒子の大きな大きさにより、小さい大きさの注射針では押出されることができず、21G以下においてのみ押出可能であり、Perlaneの場合も、粒子の大きさにより、29Gおよび30Gでは不規則な形態の押出力を示したのに対し、本発明のHA-PG溶液(200KDa、1MDa)の場合は、29Gおよび30Gを含む全ての大きさの注射針で小さい力でも効果的に押出されるのを確認することができた。また、摺動降伏応力および動的な衡応力を比較した結果、
図29に示すように、押出が円滑でなく測定が不可能なMegafill、および高い力値(force value)を示したPerlaneに比べて、本発明のHA-PG溶液(200K、1M)は顕著に低い力値を示して、注射の押出力、すなわち、注射針の大きさに拘らず容易に注射できることが分かった。この結果は、本発明のHA-PG溶液は、対象部位に直接注射することができ、より安定的に注射可能であることを示すものである。
【0089】
5-4.細胞成長因子を含む機能性フィラー組成物
機能性フィラーとしての応用を確認するために、前記実施例5-2の方法でシワを誘発させた無毛マウスの皮膚に上皮細胞成長因子(EGF;20ng/mL、1μg/mL、20μg/mL)が封入されたHA-PG溶液を注射し、注射前と後のシワが誘発された皮膚をレプリカとしてレプリケートし、シワ分析機器を用いてシワの面積、長さ、および深さを測定して比較し、前記EGFが封入されたHA-PG溶液を注射してから1ヶ月目に、前記皮膚組織を採取してOCT凍結切片を製作した後、それをH&E(ヘマトキシリン&エオジン(Hematoxylin & eosin))染色を通じて病理組織検査を実施した。また、前記無毛マウスにEGF(10μg/mL)が封入されたHA-PG溶液、HA-PG溶液、および既存の製品Perlaneを注射してから1ヶ月目に、前記と同様の方法でH&EおよびMT(マッソントリクローム(Masson’s trichrome))を通じて皮膚組織再生の差を比較した。
その結果、
図30に示すように、注射前に比べて、EGFが封入されたHA-PG溶液を注射した場合、形成されたシワの大きさに関係なくシワの面積、長さ、および深さの全てが顕著に減少するのを確認することができた。また、
図31に示すように、皮膚の真皮層内の膠原線維が破壊されて密度が粗くて配列が不規則であったのに対し、封入された上皮細胞成長因子の濃度が増加するほど膠原線維が規則的に配列される傾向を示したところ、有意な皮膚再生およびシワ改善効果を確認することができた。さらに、
図32および
図33に示すように、EGFが封入されたHA-PG溶液を注射した場合、他の比較群(フィラーなし、Perlane、HA-PG)に比べて、シワ誘発によって厚くなった表皮層が顕著に薄くなり、真皮層のコラーゲン密度が大幅に高くなるのを確認することができた。この結果は、皮膚のシワ改善のための細胞成長因子を本発明のHA-PG溶液に適用することによって、機能性フィラーとしても活用できることを示すものである。
【0090】
実施例6.傷ドレッシング、創傷治療剤および癒着防止剤用の製剤
傷治療用ドレッシング製剤としての応用を確認するために、マウスの背中皮膚を1cm×1cm大きさに切開した傷誘発動物モデルにHA-PG溶液を塗布した後、周辺の活性酸素を用いて架橋させた後、傷部位のヒドロゲルの形成およびそれに応じた接着有無を確認した。その結果、
図34に示すように、HA-PG溶液を傷部位に塗布してから10分以内にヒドロゲル膜が形成され、それにより安定的に接着されるのを確認することができた。この結果は、HA-PG溶液は、優れた酸化能を持って別途の添加剤なしに傷に均一に塗布できる、新しい形態の傷ドレッシング材料として活用できることを示すものである。
【0091】
実施例7.粉末剤形化および保管安定性の分析
7-1.粉末剤形化
フィラー組成物の粉末(パウダー)剤形化の可能性を確認するために、
図35に示すように、製造例1のHA-PG溶液を凍結乾燥してパウダー形態のフィラー組成物を製造した。その後、前記パウダー形態のフィラー組成物をPBS(pH7)に溶解させて再可溶化(Resolubilization)した後、それをマウスの皮下に注入してヒドロゲルの形成有無を観察した。その結果、
図36に示すように、凍結乾燥パウダー状態から再可溶化された、本発明のフィラー組成物は、従来と同様に体内酸化力により架橋されてヒドロゲルを形成するのを確認することができた。この結果は、パウダー剤形化が可能な本発明のフィラー組成物は、使用者に使用便宜性および保管容易性を提供できることを示すものである。
【0092】
7-2.保管安定性の分析
フィラー組成物の具体的な保管安定性を確認するために、先ず、製造例1のHA-PG溶液を常温(25℃)または冷蔵(4℃)状態で保管しつつ保管容器内でのゲル化有無を確認した。また、保管容器に窒素気体を注入してHA-PG溶液と酸素間の接触を遮断した後、冷蔵(4℃)状態で3日間保管し、他方ではHA-PG溶液を冷凍(-80℃)状態で10日間保管し、その後、これらの溶液をマウスの皮下に注射してヒドロゲルの形成有無を観察した。その結果、
図37に示すように、本発明のフィラー組成物は、高い酸化力により、常温では1日、冷蔵状態では3日以内にゲル化が進行した。その反面、
図38に示すように、酸素を遮断した条件で、冷蔵状態の場合、3日が経過した時にもゲル化が進行せず、HA-PG溶液を冷凍状態で保管してから10日後に解凍させた場合、溶液の性質を保持していただけでなく、それをマウスの皮膚に注射した場合にも従来と同様に体内酸化力により架橋されてヒドロゲルが形成されるのを確認することができた。この結果は、本発明のフィラー組成物は、酸素を遮断した条件または冷凍状態でより長期間保管できることを示すものである。
【0093】
前述した本発明の説明は例示するためのものであって、本発明が属する技術分野の通常の知識を有した者であれば、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更せずに他の具体的な形態に容易に変形が可能であるということを理解することができるであろう。よって、以上で記述した実施例は全ての面で例示的なものであって限定的なものではないことを理解しなければならない。