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特許6997475レーザーマーキングされた樹脂製成形体およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】レーザーマーキングされた樹脂製成形体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20220107BHJP
【FI】
B23K26/00 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020139914
(22)【出願日】2020-08-21
(62)【分割の表示】P 2016147431の分割
【原出願日】2016-07-27
(65)【公開番号】P2020185614
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2020-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000176176
【氏名又は名称】三信化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100075524
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 重光
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】高見 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】広澤 政範
(72)【発明者】
【氏名】丸山 貴
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 学
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/091949(WO,A1)
【文献】特表2010-513609(JP,A)
【文献】特開2004-155462(JP,A)
【文献】登録実用新案第3009877(JP,U)
【文献】特開2011-025461(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0234286(US,A1)
【文献】特開2012-051267(JP,A)
【文献】特開2012-035600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザーで黒色にマーキングされた樹脂製成形体であって黒色がCCICカラーコーディネーションチャートで明度記号60以下に相当する黒色であり、マーキングされた部分の表面が指先の指触においてマーキングによるざらつきが感じられない平滑性を示し樹脂が不飽和ポリエステル樹脂であるレーザーマーキングされた樹脂製成形体。
【請求項2】
前記樹脂が、繊維強化不飽和ポリエステル樹脂である請求項1に記載のレーザーマーキングされた樹脂製成形体。
【請求項3】
前記樹脂製成形体が、樹脂製食器もしくは樹脂製トレイである請求項1または2に記載のレーザーマーキングされた樹脂製成形体。
【請求項4】
前記樹脂製成形体が、繊維強化不飽和ポリエステル樹脂製トレイである請求項に記載のレーザーマーキングされた樹脂製成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製成形体にレーザー照射によって任意形状の模様、文字、図形若しくは記号がマーキングされた樹脂製成形体およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、表面を平滑に保ちながら鮮明にレーザーマーキングされた樹脂製成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
包装や容器、電子部品、自動車部品、カード、ラベルなどの樹脂製成形体の表面には、ロット番号、シリアル番号、賞味期限、品質保証期限、バーコードその他の任意形状の模様、文字、図形もしくは記号など種々のマーキングが施されている。
樹脂製成形体の表面へのマーキング方法として、従来から一般的に採用されている方法には、(a)樹脂製成形体の表面に専用の金型を用いて凹凸を付ける方法、(b)樹脂製成形体表面の切削加工により凹凸を付ける方法、(c)樹脂製成形体の表面に直接にインキを用いて所望の形像表示物を印刷する方法、(d)樹脂製成形体の表面にインキ印刷を施した膜状物を貼付する方法などがある。
【0003】
上記のようなマーキング方法のうち、金型を使用する方法では、金型に特殊な細工を施す必要があるが、小さな形像表示部がある場合には視認性が悪かったし、少量生産の場合には特にマーキングコストが高くつくという問題点があった。
また、印刷する方法や、膜状物を貼付する方法は、いずれも樹脂製成形体の表面にインキや膜状物といった樹脂製成形体とは異なる材質が存在するために、時間の経過とともにそれが剥離とか褪色の進行などに伴って視認性が悪くなって、マーキング性能が低下するという問題があった。さらに、表面への直接印刷の場合には溶剤が使用されるために、作業環境への影響が懸念されるという問題もあった。
【0004】
樹脂製食器や食器用樹脂製トレイなどの樹脂製成形体のマーキングや加飾には、文字や図柄を表したシート状物を作製し、それを成形時に樹脂製成形体と一体化して文字や図柄が視認できるようにする手段が一般的に行われている。この方法においても、シート状物が破損したり、長期使用のうちに受ける熱履歴によってシート状物が白化するなどの不具合が生じていた。
【0005】
最近ではレーザー照射によってマーキング(以下レーザーマーキングということがある)する技術が知られるようになり、レーザーマーキングの技術が発展してきている。レーザーマーキング法としては、レーザー光を利用して、マーキング対象物の表面において熱分解、気化、あるいは剥離などによって樹脂の一部を消失させることによって樹脂製成形体に直接、文字、数字、登録商標、バーコード、図形などのマーキングを施す方法が知られている。
【0006】
このようなレーザーマーキング法は、インクジェットやスタンプと違って、溶剤を使わないマーキング方法であるから作業環境への影響がなく、擦れや剥がれなどがないので耐久性に優れている。さらに非接触マーキングであることから、文字の歪み、バラツキ、文字欠けなどが少ない安定したマーキングが得られる上に、インクジェットインクやインクリボンなどの消耗品が不要であるなどの特徴がある。
このようなレーザーマーキング方法において、レーザー光線により樹脂製成形体の表面に凸部を付けて形像表示部を認識させるものも知られている。しかしこの方法では、視る方向や角度により視認性に大きなばらつきがあってマーキング性能としては十分でなく、またマーキング表面が平滑な樹脂製成形体を得ることはできない。(特許文献1)
【0007】
表面に深い凹部や凸部を発生させることなくマーキングするレーザーマーキング方法として、常温では固相で耐熱性の高い液晶ポリマー樹脂からなる樹脂製成形体の表面にレーザー光線を直接照射することで、その照射箇所の樹脂分子を炭化させて黒色に変化させて所望の形像表示部を発現させることが提案されている(特許文献2)。
しかしながら、表面を炭化させるマーキング方法では、マーキング部分の表面が粗面化されているので、触れたときにざらつきが感じられて不快感を生じるし、食品用包装材、食器、トレイなどの樹脂製成形体では、粗面化部分に食品残渣などが付着して衛生上の問題を生じる可能性があるという不都合があった。
【0008】
樹脂製成形体の表面に無機顔料等の無機粒子を付着させておいて、無機粒子付着面をレーザー照射することによって、樹脂表面に当該無機粒子を固着させてマーキングする方法も提案されている(特許文献3)。この場合のマーキング面も固着した無機粒子が露出しており、樹脂製成形体表面はざらついた状態であって、樹脂製成形体表面を平滑な状態で得ることは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平6-297828号公報
【文献】特開平8-39270号公報
【文献】特開平8-174263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記問題点を解決して、表面を平滑な状態に保ちながら、鮮明なレーザーマーキング(以下レーザーマーキングということがある)が施されたレーザーマーキング樹脂製成形体およびそれを得る方法を鋭意研究した結果到達したものである。
本発明において、マーキングされた表面が平滑であるとは、マーキングされた部分の樹脂製成形体の表面が平滑であることを言い、異なった表現で言うならばマーキングによって樹脂製成形体の表面の状態にざらつき等の変化がないことをいう。
本発明は、レーザーマーキングによって、マーキング部分の表面が平滑で、鮮明なマーキングが施された樹脂製成形体およびそれを得ることができるレーザーマーキング樹脂製成形体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、レーザーでマーキングされており、マーキングされた部分の表面が平滑であるレーザーマーキングされた樹脂製成形体を提供する。
【0012】
前記マーキングが、黒色発色マーキングである前記したレーザーマーキングされた樹脂製成形体は本発明の好ましい態様である。
【0013】
前記黒色が、CCICカラーコーディネーションチャートで、明度記号60以下に相当する黒色である前記したレーザーマーキングされた樹脂製成形体は本発明の好ましい態様である。
【0014】
前記樹脂が、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂から選ばれた少なくとも一種の樹脂である前記したレーザーマーキングされた樹脂製成形体は本発明の好ましい態様である。
【0015】
前記樹脂製成形体が、樹脂製食器もしくは樹脂製トレイである前記したレーザーマーキングされた樹脂製成形体は本発明の好ましい態様である。
【0016】
本発明はまた、顔料を含む樹脂製成形体に対して、出力が1~50Wであって、パルス周波数が1~500kHz、パルス幅が1~100nsのパルスレーザーを、レーザー照射の焦点を樹脂製成形体の照射表面からずらすデフォーカス値を、+30~+0.1mmまたは-0.1~-30mmとして照射するマーキング表面が平滑なレーザーマーキングされた樹脂製成形体を製造する方法を提供する。
【0017】
前記パルスレーザーのパルス幅が、4~65nsである前記したレーザーマーキングされた樹脂製成形体を製造する方法は本発明の好ましい態様である。
【0018】
前記パルスレーザーが、固体レーザー、またはこれとファイバーレーザーを含むレーザー装置から発振されたものである前記したレーザーマーキングされた樹脂製成形体を製造する方法は本発明の好ましい態様である。
【0019】
前記顔料が、無機顔料、またはこれと他の無機顔料もしくは有機顔料の混合物を含むものである前記したレーザーマーキングされた樹脂製成形体を製造する方法は本発明の好ましい態様である。
【0020】
前記したレーザー照射条件の範囲内で、照射対象樹脂組成物を用いてレーザー照射試験をした結果に基づいて予め設定した条件で、レーザー照射する前記したレーザーマーキングされた樹脂製成形体を製造する方法は本発明の好ましい態様である。
【0021】
前記樹脂が、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂から選ばれた少なくとも一種の樹脂である前記したレーザーマーキングされた樹脂製成形体を製造する方法は本発明の好ましい態様である。
【0022】
前記樹脂製成形体が、樹脂製食器もしくは樹脂製トレイである前記したレーザーマーキングされた樹脂製成形体を製造する方法は本発明の好ましい態様である。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、レーザーマーキングによってマーキングされ、マーキング部分の表面が平滑なマーキングされた樹脂製成形体およびその製造方法が提供される。
本発明により、レーザーマーキングによって、マーキング部分の表面が平滑で、鮮明なマーキングが施された樹脂製成形体が提供される。
本発明により、レーザーマーキングによって、マーキング部分の表面が平滑で、鮮明なマーキングが施された樹脂製成形体を得ることができるマーキングされた樹脂製成形体の製造方法が提供される。
本発明のマーキングされた樹脂製成形体の製造方法によって得られた樹脂製成形体は、指触によっても平滑性が感じられ、マーキングが明瞭に視認できるレーザーマーキングが施された樹脂製成形体である。
本発明により得られるレーザーマーキングが施された樹脂製成形体は、特に樹脂製食器もしくは樹脂製トレイに適した樹脂製成形体である。
本発明により、マーキング部分の表面が平滑で、鮮明な黒色着色マーキングが施されたレーザーマーキングされた樹脂製成形体およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】固体レーザー発振装置を示す概略図である。
図2】ファイバーレーザーの概要を示す概略図である。
図3】レーザーマーキングを行うための装置の一例を示す概略図である。
図4】パルスレーザーの特徴を示す概略図である。
図5】黒色発色度の判定に使用できるグレースケールのカラーチャート表の例を示す図である。
図6】実施例1によって、レーザーマーキングされた樹脂製食器蓋を示す写真である。
図7】実施例1によって得られたレーザーマーキングされた樹脂製食器蓋の斜視図を示す写真である。
図8図8のレーザーマーキングを拡大して示す写真である。
図9】実施例3において、レーザー照射の予備試験したときのマーキングの例を示す写真である。
図10】実施例3によって、レーザーマーキングされた樹脂製トレイの例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明において、樹脂製成形体を形成する樹脂の例として、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂を挙げることができる。
熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、アイオノマー樹脂、ポリエーテルスルフォン、フッ素系樹脂などを挙げることができ、熱硬化性樹脂の具体例としては、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂などを挙げることができる。
中でも好ましい樹脂としては、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルフォンなどの熱可塑性樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂などの熱硬化樹脂を挙げることができる。
さらに好ましい樹脂としては、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルフォン、不飽和ポリエステル樹脂などである。
【0026】
本発明の樹脂としては、これらの樹脂を主体とする樹脂であることが好ましい。主体とする樹脂とは、これらの樹脂が主たる構成成分を形成しておれば、その他の樹脂、充填材、ガラス繊維や合成樹脂製繊維などの補強用繊維などを含んでいてよいことを意味する。したがって、本発明の樹脂としては、繊維状物質によって強化された繊維強化樹脂(FRP)の形態をしていてもよい。
【0027】
本発明の樹脂製成形体としては、特に限定されるものではなく、従来公知の種々の形状の樹脂製成形体から適宜選択することができる。例えば板状、球状、円柱、紡錘形、円錐形、三角錐、直方体、立方体、多面体、フィルム、シート状などの形状を採用することができる。単純な形状のものが好ましいが、不規則な曲面を有する形状であってもよい。
本発明の特に好ましい樹脂製成形体としては、食器形状またはトレイ形状の樹脂製成形体を挙げることができる。
【0028】
また、本発明の樹脂製成形体の例として樹脂製食器を挙げれば、本発明の樹脂製食器を構成する樹脂の好適例としてポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルフォン(PES)、またはこれらの混合物、例えばPEN/PES混合物、メラミン樹脂などを挙げることができる。中でも、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルフォン(PES)、PEN/PES混合物などが好ましい。
【0029】
本発明の樹脂製成形体の例として、樹脂製トレイを挙げれば、樹脂製トレイを構成する樹脂の好適例として、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルフォン(PES)、またはこれらの混合物、例えばPEN/PES混合物、不飽和ポリエステルなどを挙げることができる。また強度や耐用期間などの観点から、トレイを繊維強化樹脂製(FRP)とすることもできる。このような好ましい繊維強化樹脂の例としては、繊維強化された不飽和ポリエステル樹脂を挙げることができる。強化用の繊維としては特に限定されるものではなく、従来公知の例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維(ビニロン)、アクリル繊維、ポリプロピレン(PP)繊維、ポリ塩化ビニル(PVC)繊維、ポリエチレン(PE)繊維、ポリフェニレンスルフィド(PPS)繊維、超高分子ポリエチレン繊維などから選択して用いることができる。特にはガラス繊維が好ましく、FRPとしてはガラス繊維強化樹脂が好ましい。
本発明の樹脂製成形体の例としては、不飽和ポリエステル樹脂製トレイ、特にはガラス繊維強化不飽和ポリエステル樹脂製トレイが好ましい例である。
【0030】
本発明の顔料の例としては、無機顔料または有機顔料などを挙げることができる。無機顔料および有機顔料は、従来公知のものから適宜選択して使用することができる。
本発明の好ましい顔料は、無機顔料、またはこれと他の無機顔料もしくは有機顔料の混合物を含むものである。
無機顔料としては例えば、白色顔料として、亜鉛華(酸化亜鉛)、鉛白、リトポン、酸化チタン、耐湿顔料である沈降性硫酸バリウムおよびバライト粉など;赤色顔料として鉛丹、弁柄など;黄色顔料として黄鉛(クロムイエロー)、亜鉛黄(ジンククロメート、ジンクイエロー)、カドミウムイエロー、ニッケルチタンイエロー、ストロンチウムクロメート、プラセオジムイエロー、クロムチタンイエローなど;緑色顔料としてヴィリジアン、酸化クロム緑、クロムグリーン(黄鉛と紺青の混合物)、ピーコック、ビクトリアグリーンなど;青色顔料として群青(ウルトラマリン)、紺青(プルシアンブルー)、コバルトブルー、ターコイズブルーなど;黒色顔料としてカーボンブラック、黒鉛などのカーボン粒子など;金色や銀色に使われるアルミニウム粉等の合成無機顔料など;褐色顔料としてアンバーやシェンナなど;桃色顔料のクロムスズピンク、陶試紅、サーモンピンク等のセラミック顔料など;灰色顔料のジルコングレーなどが挙げられる。その他、白または無色の炭酸カルシウム、無色のカオリン(粘土)等、パール顔料の白色雲母(マイカ)等の天然鉱物顔料などを使用することもできる。
また、有機顔料としては、たとえば、キナクリドン系顔料、フタロシアニン系顔料、スレン系顔料、ペリレン系顔料、フタロン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、メチン・アゾメチン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、アゾレーキ顔料系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料などが挙げられる。
【0031】
なお、樹脂の着色のための調色という観点からは、樹脂に単数もしくは複数の無機顔料または有機顔料を混合して着色し、所望の色を現出することが行われている。樹脂製成形体のレーザー照射による黒色発色という観点からは、無機顔料として白色顔料を用い、これと他の無機顔料または有機顔料を用いることが好ましい。白色顔料としては、酸化チタンが特に好ましく使用される。
【0032】
樹脂中に混合される無機または有機顔料の割合は、特に限定されるものではないが、樹脂に対して1~40重量%、好ましくは1~30重量%程度の割合であることが好ましい。
また、本発明の顔料の粒径は、特に限定されるものではないが、1~100μm程度のものが適しており、さらに好ましくは、5~20μm程度のものであることが望ましい。
【0033】
本発明のレーザーマーキングによって黒色発色されたマーキングを得ることができる。本発明のレーザーマーキングによって黒色発色する機構については不明であるが、顔料粒子がレーザー光を吸収して発熱し、熱によって顔料自体が炭化したり、周辺の樹脂が炭化して黒色発色するか、顔料粒子がレーザー光を吸収して顔料自体が化学的に変化して発色が生じるのではないかと推測される。
【0034】
本発明の顔料に加えて、所望の着色を得るために染料を用いてもよい。染料の例としては、これに限定されるものではないが、アクリジン類、アゾ染料、フタロシアニン類、キサンテン類およびフェナジン類である。染料はカチオン性、アニオン性、ノニオン性のいずれなどを挙げることができる。
なお、顔料の使用を省略して染料のみを用いた場合は、所望の黒色発色を得ることは難しい。
【0035】
本発明の樹脂製成形体は、前記したような顔料、またはこれと染料を用いて着色される。顔料については、それぞれに例えばC.I番号(カラーインデックス番号)及びC.I.名(カラーインデックス名)が付されているときは、その顔料の色を知ることができるが、着色のために樹脂に配合した場合に発色する色を正確に予測することは難しい。また、複数の顔料を配合して着色する場合の発色する色を予測することはさらに困難である。多くの場合、樹脂への顔料配合に精通した者は、経験に基づいて所望の色を発色する顔料の配合を知っている。
【0036】
所望の色を特定するのにカラー見本が使われてきたが、色を体系的に表す工夫は古くから試みられてきたことである。最近は使い易い色の体系化が試みられてきた。
たとえば、JIS Z8102-2001には、「物体色の色名」が規定されている。
顔料の混合は減法混色なので、三原色をシアン(C)、マジェンタ(M)およびイエロー(Y)とし、これにブラック(K)を加えてCMYK値で色を表現することも行われている。
本発明では、商工会議所が作成し発行している「商工会議所 カラーコーディネーションチャート」(CCICカラーコーディネーションチャートということがある。以下、単にCCICということがある。)を用いることとする。なお、CCICカラーコーディネーションチャートは、東京商工会議所発行の「カラーコーディネーター検定試験」公式テキストに添付されているので、そのテキストから入手することも可能である(例えば、同検定試験3級用公式テキスト(第4版)(発行所:東京商工会議所、発行元:(株)中央経済社、第2014年5月20日発行。)。
【0037】
CCICカラーコーディネーションチャートでは、有彩色について、色相を24に分類した色相環が作成されている。色相は、赤(R)、黄(Y)、緑(G),青(B)及び紫(P)の5種類を基本色相としている。この色相に明度および彩度からなる色調(トーン)を加えて色が表現されている。色相24種類から12種類を選び出し、これとトーン記号を組み合わせたCCICカラーコーディネーションチャート簡易版が作成されているが、これがわかり易いので、それに基づいて説明する。
本発明の樹脂製成形体を有彩色に着色する場合には、前記CCIC簡易版におけるトーン記号がvp(very pale)~vv(vivid)、またはlg(light grayish)もしくはmg(medium grayish)に分類される色に相当する明るい色から選択することが好ましい。
着色がdp(deep), dk(dark)、vd(very dark) またはdg(dark grayish)などの色調に相当する暗い色に相当する場合には、発色した黒色を視認することが難しくなる傾向にある。
【0038】
本発明におけるレーザーマーキングは、レーザー発振装置から発振されるレーザー光によって行われるが、本発明のレーザーマーキングに用いるレーザーはパルスレーザーである。
パルスレーザーは、パルス波形を有するレーザー光として取り出されたレーザーである。レーザー発信装置には元々パルスレーザーとしてレーザーを発振するものと、連続波形を有する連続レーザーを発振するものがあるが、連続波形を有する連続レーザーは、パルス波形に変換してパルスレーザーとして取り出して、パルスレーザーとして使用することができる。連続波形をパルス波形に変換するのには、通常Qスイッチ方式が用いられている。パルス波形への変換方法としては、そのほかに直接変調法、モード同期(モードロック)法などが知られている。
【0039】
本発明におけるレーザーマーキングを行うためのレーザー光を出力するためのレーザー発振装置としては、従来公知のレーザー発振装置から適宜選択して使用することができる。レーザー発振装置の例としては、比較的安価でかつ高出力が得られるYAG(Nd:YAG)レーザーやYVO(Nd:YVO)レーザーに代表される固体レーザー、炭酸ガスレーザーなどの気体レーザー、半導体レーザー、ファイバーレーザーなどがある。
固体レーザーとしては、波長400nm以上2,000nm以下の、可視光域から近赤外光域の光を発振できるものが用いられる。
【0040】
図1には、典型的なレーザー発振装置の例の概略図が示されている。
図1では、レーザー発振装置1の両端にはフロントミラー2及びリアミラー3が設置されており、フロントミラー2及びリアミラー3の間でレーザー光が増幅される。発振装置とミラーの間には、Qスイッチ4及び5が設けられていて、パルス化したレーザー光として照射レーザー光のエネルギー量を高めて取り出すことができるように設計されている。6は励起ランプである。
【0041】
最近ファイバーレーザー発振装置が注目されるようになってきた。ファイバーレーザーは、光ファイバー中で希土類元素等をドープしたコア中で誘導放電を起こさせ、レーザー光をファイバー中に閉じ込めた状態で伝送するので、伝送路を自由に設定できるうえに、衝撃や振動に強く、メインテナンスが容易であるなどの特徴を持つものである。
【0042】
図2は、ファイバーレーザーの一例を示す概略図である。図2のファイバーレーザー発振装置は、プリアンプ7及びメインアンプ8で2段階増幅できる装置となっていて高出力のレーザー光を得ることができる。プリアンプ7及びメインアンプ8には、それぞれ励起LD10及び希土類ドープファイバー9が設けられている。また、シードLD(レーザーダイオード)11には、パルスジェネレーター12が設けられていて、パルスレーザーとして出力させることができる。
図2中、アイソレーター(isolator)13は、レーザー媒質から誘導放射されたレーザー光や励起用レーザー光の伝播を一方向にのみ許可する光学素子である。
【0043】
このようなファイバーレーザー発振装置は、固体レーザー発振装置など他の様式のレーザー発振装置と連結させて、より高い出力が可能なレーザー発振装置としてもよい。例えばYVO固体レーザー発振器のビームを、ファイバーレーザーのアンプ技術(増幅技術)と組み合わせてさらに増幅し、高出力レーザーを得ることができる。
【0044】
本発明におけるレーザー照射に用いるレーザーマーキング装置の概略図を、図3に示した。図3において、レーザー光20を樹脂製成形体26に照射してマーキングされる。レーザー光は、レーザー発信装置21からパルスレーザーとして出力されるものであり、レーザー発信装置21としては前記したような発信装置から適宜選択することができる。レーザー発信装置21から出力されたレーザーはガルバノメータースキャナー22によって、レーザー照射による加工を高速で行うためにレーザーの光軸が動かされる。
ガルバノメータースキャナー22は、レーザー用の光学系で1個以上のミラーを使用しレーザー光を走査(スキャン)させるための装置である。図3では、ガルバノメーターミラー(Y方向)とガルバノメーターミラー(X方向)の2枚のミラーから構成されている。これらのミラーはモーター23で動かされるもので、その動作はコンピューター24を使って制御することにより、コンピューターを通じて送られる信号(例えばCADからの信号)に従ってレーザー照射による加工をすることができる。ガルバノメーターミラー系を採用することにより、被照射物の位置を変更させることなく、レーザー照射による加工を行うことができる。
【0045】
このような光学系では、ミラーだけでは焦点を結ばせることができないので、fθ(エフシータ)レンズ25と呼ばれる特殊なレンズなどと組み合わせることによって、レーザー光を任意の位置で焦点を結ばせることができる。また、レンズは、レーザーを集光させる結果、照射レーザー光のエネルギー量を高める働きもする。
【0046】
パルスレーザーは、図4の(p)に示されているように、レーザー出力をパルス状に発振するものである。したがって、照射レーザー光のエネルギー量は、単位時間当たりのパルスの総数(周波数)の各パルスエネルギーの総和となる。換言すれば、各パルスエネルギーは、照射レーザー光のエネルギー量を周波数で割った値となる。
よって、パルスレーザーにおいて、周波数の高いほど各パルスのパルスエネルギーは低くなる。
また、パルスには幅(パルス幅:秒)があるので、パルスを図4の(q)のように表示するとわかり易いが、各パルスの面積がパルスエネルギーに相当し、パルス幅が狭いパルスほどエネルギー強度(ピーク強度)が高くなる。
本発明のパルスレーザーのパルス幅は、1~100ns、好ましくは4~65ns程度のものが好ましい。
【0047】
上記したような条件が変わることによって、照射レーザー光のエネルギー量が変化するので、それぞれの条件を選択することによって、レーザー照射の状態を調整することが可能である。条件の調整によってピーク強度200kWを得ることもできる。
【0048】
本発明のレーザー照射にあたって、レーザー光の焦点を樹脂製成形体の表面に合わせる位置(ジャストフォーカス)で照射を行ってもよいが、レーザー光の焦点をレーザー照射の方向で樹脂製成形体の表面の手前にずらすことも、また同焦点を樹脂製成形体の表面より遠方にずらすこともできる。前記図3では、fθレンズで集光されたレーザー光は焦点を樹脂製成形体の表面に合わせる位置(ジャストフォーカス)で照射をする態様を示している。本発明では、この樹脂製成形体の表面位置からのずれをデフォーカス値と呼び、レンズ側手前にずらす場合は+としてそのずれをmm単位で表し、同焦点を樹脂製成形体の表面より遠方にずらす場合には-としてそのずれを同様にmm単位で表すこととする。
【0049】
照射レーザー光の照射装置において、内蔵カメラを設けたりすることによって、レーザー光照射の焦点を調整することも可能である。焦点位置の調整をコンピューターによって微妙にかつ正確に調整させることも可能である。
【0050】
本発明のレーザー照射おいては、デフォーカス値は、+30~+0.1mmまたは-0.1~-30mm、好ましくは+30~+1mmまたは-1~-30mm、さらに好ましくは+20~+5mmまたは-5~-20mmの範囲であることが望ましい。なお、デフォーカス値がゼロの場合は、焦点が照射レーザーのエネルギー密度が最も高くなる位置になっているので、マーキングされた面のざらつきが生じやすく、マーキング表面のざらつきがないという平滑さの観点からは、デフォーカス値が、+20~+10mmまたは-10~-20mm、好ましくは+20~+15mmまたは-15~-20mmの範囲であることが望ましい。
【0051】
本発明のレーザー照射に用いるパルスレーザーの出力は、1~50W、好ましくは1~25W、より好ましくは4~25Wであることが好ましい。本発明のパルスレーザーの出力は、レーザー照射されるレーザー光の出力を指す。通常単位時間あたりのパルスエネルギーの総和を平均出力と称されるが、それに相当するものである。
パルスレーザー照射装置に、レーザー照射出力割合を変更設定できる機能を備えているものも市販されている。このような装置を用いた場合には、所望の出力割合に設定してレーザー照射を行うことができる。
例えばパルスレーザー照射出力25Wのレーザー照射装置を用いて、出力20%~100%の範囲で可変であるとすると、5~25Wの範囲でレーザー照射を行うことができることになる。
【0052】
また、パルスレーザーのパルス周波数としては、通常1~500kHz程度の範囲で選択できるが、本発明においては、好ましくは1~200kHz,より好ましくは5~100kHzの範囲で設定することが望ましい。
一定のレーザー照射出力で、パルス周波数を増すに従って、照射面の単位時間当たりのレーザー照射量は変化しないが、各パルスのエネルギー強度が減少することになる。
【0053】
本発明の黒色発色マーキングをするためには、所定の範囲にレーザー照射するためにレーザー光をスキャンして当該所定の範囲をカバーする必要がある。このレーザースキャニングには、通常前記したガルバノメータースキャナーを制御装置として制御しながら行われる。
本発明のレーザー照射によるレーザーマーキングには、このレーザースキャンニングのスキャン速度も影響してくる。レーザースキャン速度が低いほど、所定の点におけるレーザー照射時間が長くなり、反対にスキャン速度が高くなるに従ってその点におけるレーザー照射時間が短くなることになる。
レーザースキャニングは、例えばスキャン速度を12,000mm/s以下で行うことができるが、通常は500~5,000mm/s、好ましくは1,000~3,000mm/s程度の速度で行うのが望ましい。
【0054】
本発明において、樹脂製成形体が例えば球体であるような場合においては、レーザーのマーキングを行うことのできる範囲が極端に狭くなってしまう。このような場合においては、レーザーが照射される樹脂製成形体を回転させうる装置上に設置して配置することによって、球体全面にマーキングすることができる。さらに、曲面を有するその他の形態の樹脂製成形体の場合も、適宜該成形体を、球体に倣って、随時回転ないし移動させるような同様の装置を使用することにより、同様にして曲面上に好適にマーキングすることができる。
【0055】
また、レーザー光照射装置が、前記のような内蔵カメラを設けたりすることによって、レーザー光照射の焦点を調整することができる承知である場合には、被照射体の形状に応じて焦点位置を正確に調整することによって所定のレーザー照射を行わせることも可能である。
【0056】
本発明によるマーキングは、黒色発色マーキングが可能であることが特徴である。本発明の黒色発色マーキングは、単なる細線マーキングだけではなく、広幅、例えば幅5mm以上、で所定の長さを有する所望の面積を有する図形や文字に発色させることができるマーキングである。本発明の黒色発色マーキングによって任意の図形をマーキングしたり、任意の字体の文字を太字でマーキングしたりすることが可能となる。
【0057】
本発明のレーザーマーキングでは、顔料または所望によりこれに染料を加えて着色した樹脂製成形体に、黒色にマーキングすることができる。
黒色の発色度は、視認できるか否かで判定することができる。この場合、視認による黒色の濃さに応じて黒色度の判定をすることもできる。
【0058】
また、たとえば図5に示すような、グレースケールのカラーチャート表を用いて、そこに表示された黒色度に照らして判定してもよい。図5のカラーチャート表は、前記「商工会議所 カラーコーディネーションチャート」における無彩色のカラーチャートである。
図5のカラーチャートの下側に表示されているのは明度記号である。また、同チャートの上側の英文字は色調の略号であって、それぞれWtはWhiteを、lGはlight Grayを、pGはpale Grayを、mGはmedium Grayを、dGはdark Grayを、BkはBlackを表している。
【0059】
図5では、明度記号が小さい程黒に近くなることを示している。
本発明のレーザーマーキングでは、図5のCCICカラーコーディネーションチャートにおける明度記号60以下の黒色発色が可能であり、さらに好ましくは、明度記号40以下の黒色発色が可能である。
【0060】
本発明におけるレーザー照射では、比較的高出力のレーザー光を用いて、照射条件を制御(調整)することによって、視認できる黒色発色をさせながら、マーキングされた面をざらつきがない平滑に保ったレーザーマーキングされた樹脂製成形体を実現させたものである。
【0061】
本発明においては、樹脂製成形体へのパルスレーザーによるレーザーマーキングは、顔料を含む樹脂組成物の樹脂製成形体に対して、出力が1~50W、好ましくは1~25、より好ましくは4~25Wであって、1~500kHz、好ましくは1~200kHz,より好ましくは5~100kHzのパルスレーザーを、レーザー照射の焦点を樹脂製成形体の照射表面からずらすデフォーカス値を、+30~+0.1mmまたは-0.1~-30mm、好ましくは+30~+1mmまたは-1~-30mm、さらに好ましくは+20~+5mmまたは-5~-20mmの範囲で照射して行われる。
【0062】
本発明者らが、樹脂製成形体について、前記パルスレーザー照射条件でレーザーマーキングを行った知見に基づけば、黒色発色についてはパルスレーザーの出力が高いほど良好な結果が得られる。具体的には黒色発色の観点からは、パルスレーザー出力が4~25W、好ましくは10~25Wのパルスレーザー出力でレーザー照射することが望ましい。
【0063】
一方、パルスレーザーマーキングの表面のざらつきについては、レーザーの出力が高くなるにつれてさらつきが出易くなる傾向にある。したがって、具体的にはざらつきの観点からは、レーザー出力が4~25W、好ましくは4~20Wのレーザー出力でレーザー照射することが望ましい。
なお、パルスレーザーのパルス周波数は、個々のパルスエネルギーに影響する、すなわち、周波数が高いほど個々のパルス波のパルスエネルギーは小さくなる。したがって、パルス周波数も、黒色発色およびざらつきの発生に影響する。具体的には、パルス周波数は、50kHz以下、すなわち1~50kHz、好ましくは1~30kHzの条件でレーザー照射することが望ましい。
【0064】
さらに、デフォーカス値は、黒色発色およびざらつきの発生に関しては重要である。前記したとおり、黒色発色およびざらつきの発生の観点からは、デフォーカス値が+20~+10mmまたは-10~-20mm、好ましくは+20~+15mmまたは-15~-20mmの範囲であることが望ましい。
【0065】
したがって、樹脂製成形体、好ましくは樹脂製トレイまたは樹脂製食器については、多くの場合、レーザー出力が4~25W、好ましくは10~20W、パルス周波数が、1~50kHz、好ましくは1~30kHz、デフォーカス値が+20~+10mmまたは-10~-20mm、好ましくは+20~+15mmまたは-15~-20mmの範囲でパルスレーザー照射することによって、黒色発色および表面のざらつきがないという平滑性の良好なレーザーマーキングが得られる可能性が高いので、本発明のレーザーマーキングにおいて推奨されるパルスレーザー照射条件である。
なお、樹脂製成形体によっては、これらパルスレーザー照射条件の範囲外で良好な結果を示すことがあるので、その場合にはこれらの条件を参考にして、レーザー照射条件を微修正すればよい。
【0066】
また、前記の推奨されるレーザー照射条件内であっても、所望の結果が得られない場合があるが、その場合には、良好な結果が得られる条件を選んでレーザー照射を行えばよい。
【0067】
樹脂製成形体の樹脂が同じであって、レーザー照射条件も同じであっても得られるレーザーマーキングの黒色発色度やマーキングされた表面のざらつきにおいて異なった結果が得られることがある。これは、配合する顔料の種類や配合量に起因すると推定される。したがって、調色のために複数種の顔料が配合される場合、最適のレーザー照射条件を予測することが困難な場合が多い。また、レーザー照射対象の樹脂製成形体に配合された顔料を知ることは、分析等の手段を用いても容易でない場合や、分析に多額の費用を要するという場合もある。
【0068】
したがって、本発明のレーザーマーキングされた樹脂製成形体の製造方法においては、マーキングされる樹脂製成形体と同じかまたはこれに近い樹脂製成形体を用意して、前記したレーザー照射条件として各条件が異なるマーキングテスト条件を作成し、作成した条件にしたがって複数のレーザーマーキングを行う予備レーザーマーキングテストを実施することが好ましい。そのテスト結果に基づいてレーザー照射条件を予め設定し、実際の樹脂製成形体へのレーザーマーキングは、予め設定されたレーザー照射条件によって行う方法を採用することが推奨される。
すなわち、予め予備レーザーマーキングテストを行い、その結果に基づいて定めた条件でレーザーマーキングする本発明のレーザーマーキングされた樹脂製成形体の製造方法は、本発明の好ましい態様である。
【0069】
本発明において求める効果を達したレーザーマーキングされた樹脂製成形体とは、マーキング面において視認できる黒色発色が認められ、マーキングされた表面が指先の指触においてざらつきが感じられないレーザーマーキングがなされた樹脂製成形体である。
すなわち、レーザーで黒色マーキングされており、マーキング部の表面が平滑であって、発色した黒色がCCICカラーコーディネーションチャートの無彩色チャートで、明度記号40以下に相当すると認められる黒色であるレーザーマーキングされた樹脂製成形体は、本発明の好ましい態様である。
【0070】
前記したとおり、本発明のマーキングされた表面が平滑であるとは、マーキングされた部分の樹脂製成形体の表面が平滑であることをいうが、平滑という語は、例えば前記従来技術として段落[0002]において(d)として紹介した貼付物により生じるような表面上の段差も生じていないことも包含するものである。
【実施例
【0071】
以下に、具他的な例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。
本実施例におけるマーキング状態の評価は下記の方法及び判定基準によって行った。
【0072】
評価基準
(1)発色
マーキングの発色程度を目視で観察し、CCICカラーコーディネーションチャートの無彩色チャートの明度記号を参照して以下の基準で判定した。
(a)〇:黒色発色が明確に視認できる黒色度であった。(前記明度記号60以下に相当すると認められる黒色度)
(b)△:黒色発色が視認できるが薄いと感じられる黒色度であった。(前記明度記号70程度に相当すると認められる黒色度)
(c)×:視認できても極めて薄い黒色度であるか、視認が困難であった。(前記明度記号80程度に相当すると認められる黒色度)
(d)-:視認できなかった。(前記明度記号90以上に相当すると認められる黒色度)
【0073】
(2)ざらつき
マーキングされた表面のざらつきは、マーキングされた樹脂製成形体の表面を人差し指の指腹で触診して、全くざらつきを感じなかったときを「〇:ざらつきなし」と判断し、少しでもざらつきを感じたときを「×:ざらつきあり」と評価した。
【0074】
参考例1
樹脂製成形体の作製
(1)樹脂成分
使用した樹脂は、ポリエーテルスルフォン(PES)樹脂(BASF社製、E2010で、樹脂100重量部あたりの重量部で表して下記割合で配合されており、樹脂はアイボリー色(CCICカラーコーディネーションチャートのvp-Y1に相当する色)を呈していた。
(a)C.I.ピグメントホワイト6 チタニア 2重量部
(b)C.I.ピグメントイエロー53 ニッケルチタンイエロー(チタンニッケルアンチモン黄) 0.1重量部
(c)C.I.ピグメントブラウン24 クロムチタンイエロー(チタンアンチモンクロムイエロー) 0.1重量部
【0075】
(2)樹脂製成形体の調製
PES樹脂を、射出成形によって楕円形状の食器に、その形状に合わせた蓋を成形した。
成形された樹脂製食器の身(本体)及び蓋のサイズは以下のとおりであった。
身:180mm(長径)×119mm(短径)×40mm(高さ)、容量460ml
蓋:182mm(長径)×122mm(短径)×30mm(高さ)
【0076】
レーザー照射
前記で成形した蓋の上正面に、レーザー照射機を用いて、下記の照射条件で模様をマーキングした。用いたレーザー照射機は、YVOレーザーとファイバーレーザーの技術を組み合わせたハイブリッドレーザーマーカー(株式会社キーエンス社製、MD-X1520)を用いた。同レーザーマーカーはレーザー出力が25Wで、パルス幅4~65nsの短パルス幅のパルスレーザーを用い、オートフォーカス機能を用いてレーザー照射を行った。用いたレーザー照射機は、パルス周波数の選択及びデフォーカス調整が可能なレーザー照射機であるので、パルス周波数及びデフォーカス値を下記の設定とした。
・照射出力:照射機出力(25W)の18%
・パルスレーザー周波数:10kHz
・レーザー照射のデフォーカス値:-20mm
・レーザー光のスキャン速度:2,000mm/s
【0077】
マーキング状態
前記レーザー照射条件によって、幅約0.1~0.5mmの曲線によって模様を描いたところ、黒色着色した曲線模様をマーキングすることができた。マーキングされた曲線模様は、視認可能であって、マーキング表面は滑らかであった。
また描いた模様中の円形は直径5mmを越えるものであって、本発明によって黒色発色が可能であることがわかった。
参考例によって曲線模様がレーザーマーキングされたPES樹脂製食器蓋体の図を、図6に示した。図6には、表面に黒色発色でレーザーマーキングされた曲線模様が鮮明に表されている様子が示されている。
マーキングされた曲線模様の黒色度は、CCICカラーコーディネーションチャートの明度記号で40に相当する黒色であった。
図7は、マーキングされたPES樹脂製食器蓋の斜視図であり、図8は、図7に示された食器蓋にレーザーマーキングされた曲線模様の部分拡大図である。
【0078】
実施例1
サイズが縦325mm、横235mmおよび高さ18mmの白色に着色したガラス繊維強化不飽和ポリエステル製のトレイ(酸化チタン 10重量%、ガラス繊維 25重量%含有)を用い、参考例1で使用したのと同じレーザー照射機を用いて、下記条件でレーザー照射を行った。
・照射出力:照射機出力(25W)の40%
・パルスレーザー周波数:10kHz
・レーザー照射のデフォーカス値:-20mm
・レーザー光のスキャン速度:1,000mm/s
レーザー照射の結果、太字文字が鮮明な黒色発色しており、黒色発色が明確に視認できる黒色度であった(判定基準で「〇」)。前記明度記号40以下に相当すると認められる黒色度であった。また、レーザーマーキングの表面は、人差し指の指腹で触診して、全くざらつきを感じなかった(判定基準で「〇」)。
【0079】
実施例2
1.レーザー照射の予備試験
(1)試験方法
顔料として酸化チタンを含む複数の顔料が配合されていると推定され、黄色(CCICカラーコーディネーションチャートのpl-Y2に相当する色)に着色されたガラス繊維強化不飽和ポリエステル製のトレイ(サイズ:縦325mm、横235mm、高さ18mm)(三信化工株式会社製、商品名「エスタートレイ」(FYE)を用いてレーザー照射の予備試験を行った。
レーザー照射には、参考例1と同様YVOレーザーとファイバーレーザーの技術を組み合わせたハイブリッドレーザーマーカー(株式会社キーエンス社製、MD-X1520)を用いた。同レーザーマーカーはレーザー出力が25Wで、短パルス幅のパルス出力が可能で、パリス周波数の選択が可能で、オートフォーカス機能を有し、レーザー光のスキャン速度の調整もでき、デフォーカス調整も可能なレーザー照射機である。
前記試験用トレイに対して、下記の項目について条件を変えて、太文字英文字のマーキングを行った。
条件を変更した項目は下記のとおりであり、選択した条件はそれぞれの項目に記載したとおりである。
【0080】
条件変更項目:
(1)レーザー照射出力(25Wに対して)
(a)100%、(b)80%、(c)60%、(d)40%、(e)20%
(2)パルス幅
4~65nsの短パルス幅のパルスレーザー
(3)パルス周波数(単位:kHz)
(a)5、(b)10、(c)30、(d)50、(e)100
(4)デフォーカス値
(a)0、(b)-10mm、(c)-20mm
固定貢献項目
レーザー光のスキャン速度は、1,000mm/sとした。
【0081】
(2)試験結果
前記樹脂製トレイの予備試験結果を下記表1に示した。
表1に表示された発色評価における〇印、△印及び×印のマーキング例を図9に示した。
図9には、本発明によって黒色発色した例が示されている。図9の(a)は黒色発色が鮮明に認められる例で表1では〇印の評価である。図9の(b)も黒色発色が認められる例であって(a)の黒色度と比較するとやや薄くなっているが、表1では〇印の評価である。
図9の(c)は、黒色発色が認められるが黒色度については薄いと認識される例であって表1では△印の評価である。同図の(d)は黒色度が辛うじて視認できる程度の極めて弱い発色の例であり、表1では×印の評価である。
【0082】
予備試験結果から、試験対象の樹脂製トレイについては、下記の条件でレーザー照射マーキングを行えば、発色が良好で、マーキング表面が平滑(ざらつきがない)なレーザーマーキングができることがわかる。
(A)レーザー出力:100%、パルス周波数:5kHz、デフォーカス値:-20mm
(B)レーザー出力:80%、パルス周波数:10kHz、デフォーカス値:-20mm
(C)レーザー出力:60%、パルス周波数:10kHz、デフォーカス値:-20mm
(D)レーザー出力:40%、パルス周波数:10kHz、デフォーカス値:―10mmまたは-20mm
(E)レーザー出力:40%、パルス周波数:30kHz、デフォーカス値:―10mmまたは-20mm
【0083】
【表1】
【0084】
2.レーザーマーキングの実施
レーザー照射の予備試験に用いたガラス繊維強化不飽和ポリエステル製のトレイ(サイズ:縦325mm、横235mm、高さ18mm)(三信化工株式会社製、商品名「エスタートレイ」(FYE)の表面中央部に、予備試験結果が良好であった前記(C)の条件を適用してレーザーマーキングを行った。
その結果、発色が明確に視認できる黒色度で、マーキング表面が平滑はレーザー印字を施すことができた。
レーザーマーキングの結果を図10に示した。
【符号の説明】
【0085】
1 レーザー光発振装置
2 フロントミラー
3 リアミラー
4、5 Qスイッチ
6 励起ランプ
7 プリアンプ
8 メインアンプ
9 希土類ドープファイバー
10 励起LD
11 シードLD
12 パルスジェネレーター
13 アイソレーター
14 出力ファイバー
15 コリメーター
20 レーザー光
21 レーザー光発振装置
22 ガルバノメータースキャナー
23 モーター
24 コンピューター
25 fθレンズ
26 樹脂製成形体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10