(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】金属空気電解液、金属空気電池、金属空気発電システム、金属空気発電システムを用いた電力自給自足システム、及び、電力自給自足型機器集積システム
(51)【国際特許分類】
H01M 12/08 20060101AFI20220107BHJP
H01M 12/06 20060101ALI20220107BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20220107BHJP
H02J 7/10 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
H01M12/08 K
H01M12/06 G
H01M12/06 D
H01M10/48 P
H01M10/48 Z
H02J7/10 A
(21)【出願番号】P 2021082538
(22)【出願日】2021-05-14
【審査請求日】2021-07-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510203809
【氏名又は名称】株式会社エクスプロア
(74)【代理人】
【識別番号】100110559
【氏名又は名称】友野 英三
(72)【発明者】
【氏名】羽澤 学
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-199520(JP,A)
【文献】特表2005-520310(JP,A)
【文献】特表2002-538585(JP,A)
【文献】特開平05-205784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 12/08
H01M 12/06
H01M 10/48
H02J 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が1,000~5,000のアニオン性高分子電解質が、水又は中性塩化物水溶液に3.0~10.0重量%溶解されていることを特徴とする金属空気電池用の水系中性電解液。
【請求項2】
前記アニオン性高分子電解質が、ポリカルボン酸塩、ポリスルホン酸塩、及び、ポリ(カルボン酸-スルホン酸)塩の中から選択されるいずれか一つ以上含有することを特徴とする請求項1に記載の金属空気電池用の水系中性電解液。
【請求項3】
前記ポリカルボン酸塩が、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸共重合体塩、ポリメタクリル酸塩、ポリメタクリル酸共重合体塩、ポリ(アクリル酸-ポリメタクリル酸)共重合体塩、無水マレイン酸共重合体塩、カルボキシメチルセルロース塩、及び、アルギン酸塩であり、前記ポリスルホン酸塩が、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリスチレンスルホン酸共重合体塩、及び、ポリナフタレンスルホン酸塩であることを特徴とする請求項2に記載の金属空気電池用の水系中性電解液。
【請求項4】
前記ポリカルボン酸塩、前記ポリスルホン酸塩、及び、前記ポリ(カルボン酸-スルホン酸)塩が、ナトリウム(Na)塩又はカリウム(Ka)塩であることを特徴とする請求項2又は3に記載の水系中性電解液。
【請求項5】
マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、錫(Sn)、及び、鉛(Pb)、並びに、これらの中から選択される少なくとも二種以上の金属を含有する合金、並びに、前記合金にインジウム(In)、ガリウム(Ga)、及び、シリコン(Si)の中から選択される少なくとも一種以上の金属が含まれている合金から選択される金属を活物質とする負極と、
酸素を活物質とする正極と、
請求項1~4のいずれか一項に記載の水系中性電解液とを用いて組み立てられていることを特徴とする金属空気電池。
【請求項6】
センサー部と情報通信部とが内設された
請求項5記載の金属空気電池と、
センサー部と情報通信部とが内設された蓄電池と、
センサー部と情報通信部とが内設された集水機器と、
前記金属空気電池から前記蓄電池への給電制御部と、
前記金属空気電池と前記蓄電池との給電切換制御部と、
前記集水機器から前記金属空気電池への給水制御部と、
第一の機械学習コンピューターと、
第一の携帯端末とを具備し、
前記金属空気電池、前記蓄電池、及び、前記集水機器に内設された前記センサー部によって収集された金属空気電池関連状態情報が、前記金属空気電池、前記蓄電池、及び、前記集水機器に内設された前記情報通信部を介して前記第一の携帯端末で管理されることができると共に、
前記金属空気電池、前記蓄電池、及び、前記集水機器に内設された前記情報通信部を介して送信される前記金属空気電池関連状態情報の蓄積情報を前記第一の機械学習コンピューターが学習した解析結果に基づいて、前記金属空気電池及び前記蓄電池の給電量、前記蓄電池の蓄電量、並びに、前記集水機器の給水量及び貯水量が制御されることを特徴とする金属空気発電システム。
【請求項7】
前記集水機器が、
第一、第二、及び、第三の切換制御部を介して、雨水を集水する第一の集水機器、大気中の水分を凝縮させて集水する第二の集水機器、及び、水分吸着材を用いて空気中の水分を集水する第三の集水機器と接続される第一の貯水部と、
第四の切換制御部を介して前記第一の貯水部及び上水道と接続される第二の貯水部とを備え、
前記第一、第二、及び、第三の集水機器、並びに、前記第一及び第二の貯水部にセンサー部と情報通信部とが内設されており、
前記第一、第二、及び、第三の集水機器、並びに、前記第一及び第二の貯水部に内設された前記センサー部によって収集された集水器状態情報及び貯水部状態情報が、前記第一、第二、及び、第三の集水機器、並びに、前記第一及び第二の貯水部に内設された前記情報通信部を介して前記第一の携帯端末で管理されることができると共に、
前記第一、第二、及び、第三の集水機器、並びに、前記第一及び第二の貯水部に内設された前記情報通信部を介して送信される前記集水器状態情報及び貯水部状態情報の蓄積情報を前記第一の機械学習コンピューターが学習した解析結果に基づいて、前記第一、第二、及び、第三の切換制御部、並びに、前記第四の切換制御部が制御されることを特徴とする請求項6に記載の金属空気発電システム。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の金属空気発電システムと商用電源との第一の切換制御部を介して、住宅及び施設の機器及び設備に給電されることを特徴とする電力自給自足システム。
【請求項9】
請求項8に記載の電力自給自足システムにおいて、
第二の機械学習コンピューターと、
第二の携帯端末とを備え、
前記金属空気発電システムの金属空気電池関連状態情報が、
前記情報通信部を介して第二の携帯端末で管理され、前記第一の切換制御部が制御されると共に、
前記情報通信部を介して送信される
前記金属空気発電システムの金属空気電池関連状態情報を前記第二の機械学習コンピューターが学習した解析結果に基づき、前記第一の切換制御部が制御されることを特徴とする電力自給自足システム。
【請求項10】
請求項6又は7に記載の金属空気発電システムと商用電源との第一の切換制御部を介して給電される、据置式家電機器及び据置式大気水生成機器とが住宅に配設されることを特徴とする電力自給自足型据置式家電機器及び据置式大気水生成機器集積システム。
【請求項11】
請求項10記載の電力自給自足型据置式家電機器及び据置式大気水生成機器集積システムにおいて、
前記金属空気発電システムと商用電源との第一の切換制御部を介して住宅及び施設の機器及び設備に給電される電力自給自足システムから給電される、センサー部、情報通信部、及び、動作制御部が内設された据置式家電機器及び据置式大気水生成機器と、
第二の機械学習コンピューターと、
第二の携帯端末とを具備し、
前記金属空気発電システムの金属空気電池関連状態情報が、
前記情報通信部を介して、並びに、前記据置式家電機器及び据置式大気水生成機器に内設された前記センサー部によって収集された据置機器状態情報が、前記据置式家電機器及び据置式大気水生成機器に内設された情報通信部を介して前記第二の携帯端末で管理されることができると共に、
前記第二の携帯端末によって、前記第一の切換制御部、並びに、前記据置式家電機器及び据置式大気水生成機器を制御可能であり、
前記情報通信部を介して送信される
前記金属空気発電システムの金属空気電池関連状態情報の蓄積情報、並びに、前記据置式家電機器及び据置式大気水生成機器に内設された情報通信部を介して送信される前記据置式家電機器及び据置式大気水生成機器に内設された前記センサー部によって収集された据置機器状態情報の蓄積情報を前記第二の機械学習コンピューターが学習した解析結果に基づき、前記第一の切換制御部、並びに、前記据置式家電機器及び前記据置式大気水生成機器を制御可能であることを特徴とする電力自給自足型据置式家電機器及び据置式大気水生成機器集積システム。
【請求項12】
請求項6又は7に記載の金属空気発電システムと商用電源との第二の切換制御部を介して給電される、携帯式家電機器及び携帯式大気水生成機器とが、出し入れ可能に一体化されて保管されることを特徴とする電力自給自足型携帯式家電機器及び携帯式大気水生成機器集積システム。
【請求項13】
請求項12に記載の電力自給自足型携帯式家電機器及び携帯式大気水生成機器集積システムにおいて、
前記第二の切換制御部を介して給電される、センサー部、情報通信部、及び、動作制御部が内設された携帯式家電機器及び携帯式大気水生成機器と、
第三の機械学習コンピューターと、
第三の携帯端末とを具備し、
前記金属空気発電システムの金属空気電池関連状態情報が、
前記情報通信部を介して、並びに、前記携帯式家電機器及び携帯式大気水生成機器に内設された前記センサー部によって収集された携帯機器状態情報が、前記携帯式家電機器及び携帯式大気水生成機器に内設された情報通信部を介して前記第三の携帯端末で管理されることができると共に、
前記第三の携帯端末によって、前記第二の切換制御部、並びに、前記携帯式家電機器及び携帯式大気水生成機器を制御可能であり、
前記情報通信部を介して送信される
前記金属空気発電システムの金属空気電池関連状態情報の蓄積情報、並びに、前記携帯式家電機器及び携帯式大気水生成機器に内設された情報通信部を介して送信される前記携帯式家電機器及び携帯式大気水生成機器に内設された前記センサー部によって収集された携帯機器状態情報の蓄積情報を前記第三の機械学習コンピューターが学習した解析結果に基づき、前記第二の切換制御部、並びに、前記携帯式家電機器及び前記携帯式大気水生成機器を制御可能であることを特徴とする電力自給自足型携帯式家電機器及び携帯式大気水生成機器集積システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定置用電源、非常用電源、電子機器、電気自動車等に必要な電気エネルギーを蓄積し供給する電源として使用することができ、メカニカルチャージで容量が回復できる、金属を活物質とする負極と、酸素を活物質とする正極(空気極)と、水系中性電解液とからなる金属空気電池に適した電解液及びこの電解液を用いた金属空気電池に関する。また、この金属空気電池を用いた発電システムとなる金属空気発電システム、及び、この金属空気発電システムを用いた電力自給自足システム、更には、電力自給自足システムを活用した機器集積システムに関する。
【背景技術】
【0002】
18世紀半ばに始まった産業革命以来の技術進歩は、世界的な人口増加と相まって、電気や熱等の大量エネルギーなくしては成り立たない現代社会が作り上げられ、温室効果ガスの排出量も増加の一途を辿っている。このようなエネルギーの消費量と温室効果ガスの排出量の増加は、将来的にも抑制することは実質上困難である。従って、資源に限りある地球が持続可能な社会であるためには、人類が活用する電気や熱等の有効エネルギーに変換する際の有害物質排出量(二酸化炭素、窒素酸化物等)が少なく、太陽光・太陽熱、風力、水力、地熱、波力・潮力、及び、バイオマス等の永続的に利用可能な資源から製造されるエネルギーであって、石油、石炭、天然ガス等を用いた化石エネルギー及びウラン等を用いた原子力エネルギー等のような枯渇資源を用いないエネルギー、すなわち、再生可能エネルギーを創出し活用する必要がある(非特許文献1)。
【0003】
特に、エネルギーの中でも、産業、交通・運輸、通信・サービス、家庭等、あらゆる部門において電気エネルギーの占める割合が増加している。そのため、太陽光発電、風力発電、地熱発電等の再生可能エネルギーの開発が重要であることは言うまでもないが、このようにして製造された電気を蓄積し、繰り返し利用可能で、有害物質を排出しない二次電池も不可欠な存在であり、性能の向上やコストダウンを目的とした開発が積極的に行われている。
【0004】
この二次電池には、代表的なものとして、鉛蓄電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池等があるが、電圧、容量、エネルギー密度の観点から、現在では、リチウムイオン電池の用途が拡大しており、パソコンや携帯電話等のあらゆる携帯機器に採用されている。今後は、電気自動車の電源、震災等の緊急時のライフライン確保のための非常用電源、定置用電力貯蔵として、その役割が一層重要となってくるものと推測される。そのため、容量やエネルギー密度の更なる向上を目指した電極材料、電解質及び電解液、並びに、セパレータ等の要素技術開発が継続されている(非特許文献2及び3)ものの、このようなリチウムイオン電池にも、解決することが困難な問題がある。第一に、エネルギー密度に限界があり、電気自動車等には不十分であるという性能の問題である。第二に、正極材料にリチウム(Li)やコバルト(Co)等のレアメタルを使用しなければならず、高価であるというコスト及び資源枯渇の問題がある。また、LiやCoは毒性があり、環境破壊の問題がある上、電解液として非水系の有機溶媒を使用しており、内部短絡で高温になると発火・爆発するという安全の問題がある。第三に、従来の二次電池では繰り返し使用するためには充電を必要とし、充放電を繰り返すことによる電池の劣化が著しく進行し、最終的には廃棄処分することになるというリサイクルの問題がある。
【0005】
そこで、革新的二次電池として期待されているのが、金属空気電池及び金属空気二次電池である。これは、次のような具体的な根拠に基づいている。
【0006】
リチウムイオン電池の課題であるエネルギー密度についてみると、金属空気電池のエネルギー密度は、理論的にはリチウムイオン電池の数倍以上、例えば、リチウム空気電池で、11,400Wh/Kg、アルミニウム空気電池で、8,100Wh/Kgと計算されており、ガソリン車のエネルギー密度(12,722Wh/Kg)に肩を並べることができる(非特許文献4及び5)。
【0007】
電極材料については、金属空気電池の正極の活物質は大気中に無尽蔵に存在する酸素(O2)である。その上、これまでのところ、金属空気電池の負極の活物質がLiの場合に最も高いエネルギー密度が達成されてはいるが、上記アルミニウム空気電池に代表されるように、地球に広く分布している鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、及び、マグネシウム(Mg)等のように安価な金属を用いることができる可能性があり、資源の枯渇が心配され、高価なLiやCoを必ずしも必要としない(非特許文献6)。従って、Liやナトリウム(Na)等のような反応性が激しい金属を電極とする場合のように、非水系電解液を使用する必要がなく、水系電解液を用いることができるため、発火、発熱、爆発の心配がなく、安全性が高い。
【0008】
また、金属空気電池は、リサイクル可能な燃料電池となりうる可能性がある。フランスのフェリーが1900年代初期に考案した金属空気電池を、ル・カーボン社が改良したZn空気電池は、一次電池として利用されていたが(非特許文献7)、1996年、米国のAbrahamにより、リチウム空気電池が蓄電池として機能することが報告された。その後、二次電池を目的とした金属空気電池の開発が活発化し、次世代の二次電池として期待されるようになった(非特許文献4及び8)。特に、金属空気電池に特徴的なことは、従来の充電方式だけでなく、再生可能な電解液及び金属電極を入れ替えるメカニカルチャージを採用すれば、長期間の連続使用が可能で、一種の燃料電池ともなる(非特許文献9)。
【0009】
更に、燃料となる金属を化学反応させない方式で保管することができ、これまでの二次電池の課題の一つである自己放電による容量の減少を解決することができる可能性がある。
【0010】
このように、金属空気電池は、従来の二次電池の性能、コスト、資源、環境、及び、安全性の様々な問題を理論的には解決できる可能性がある。特に、アルミニウム(Al)空気電池は、リチウム空気電池に次いでエネルギー密度が高く、安価なAl又はAl合金を負極として用いるため、最も期待されている金属空気電池の一つである。
【0011】
そのため、金属空気電池を構成する、負極材料の金属の種類、電解質及び電解液の種類、並びに、正極材料の種類等全体に亘って、それぞれ検討しなければならないが、金属空気電池の電極反応及びそれに付随する化学反応等に起因する課題を解決しようとする試みが数多く認められる。以下、Al空気電池を具体例として、金属空気電池の開発の経緯を簡単に説明する。
【0012】
従来のAl空気電池では、電解質として水酸化ナトリウム(NaOH)を用いたアルカリ性水溶液を電解液に用いる場合が多かった(例えば、非特許文献4)。これは、アルミニウム空気電池の放電における電極反応[化1]から分かるように、アルカリ性又は酸性が強い程電位差が大きくなるので、電解液としては、NaOHや水酸化カリウム(KOH)等のアルカリ水溶液又は塩酸(HCl)等の酸性水溶液を採用することが望ましい。
【0013】
【0014】
しかしながら、Alは両性金属であるため、[化2]に示したように、アルカリ性水溶液や酸性水溶液による自己放電が激しく、負極材料が無駄に消費されてしまうという問題がある。更に、HCl水溶液やNaOH水溶液のような強酸性水溶液や強アルカリ性水溶液を用いると、液漏れ等における火傷や失明の事故に繋がる危険性があるという問題もある。
【0015】
【0016】
これらの問題に対して、アルカリ性電解液への添加剤の導入、電極材料の改良、中性電解液の適用等が試みられてきた。例えば、特許文献1では、アルカリ性電解液に四級アンモニウム基を有する高分子電解質を、特許文献2及び3では、オキソ酸塩等を添加することが提案されている。特許文献4では、負極材料に適したAl合金を採用することによって自己放電を抑制する方法が提案されている。また、特許文献5は、安全性の問題も解決し得る電解液の中性化を図るため、電解質の役割をアニオン交換膜またはアニオン交換樹脂に機能させる方法が提案されており、電解液として水が用いられている。確かに自己放電が大幅に減少するが、Al表面に酸化被膜(Al2O3)が形成された不動態となり、Alの溶解が阻害され、発電能力が極めて低くなるという別の障害が顕著になるという問題が生じる。
【0017】
一方、電極反応[化1]の放電生成物である水酸化アルミニウム(Al(OH)3)が負極上に析出し、ゲル化物が発電を阻害する問題がある。更に、[化3]に示すAl(OH)3と水との反応によるテトラヒドロキソアルミン酸イオン([Al(OH)4]-)と水素イオン(H+)が生成するという問題もある。前者の[Al(OH)4]-は、電位差を低下させ発電を阻害する。後者のH+は、一般的に分極と呼称され、負極から電子を奪って水素(H2)となり電子の逆流現象が生起するだけでなく、負極を覆うH2の気泡が、Alの酸化と電解液への金属イオンの透過阻害を促進する。
【0018】
【0019】
これら問題に対しても、電極構造、並びに、電解質及び電解液の改良が提案されている。電極構造としては、例えば、特許文献6に、アルミニウムイオン伝導体を貼り合わせた負極を適用することが開示されている。電解液として、中性水溶液を用いた場合には、放電生成物のAl(OH)3による放電阻害を抑制する効果があり、アルカリ性水溶液を電解液として用いた場合においては、放電生成物のAl(OH)3による放電阻害の抑制に加えて開回路状態における負極の腐食を抑制して負極として用いたAlまたはAl合金の利用率を高め、いずれの場合においても電池寿命の長いアルミニウム空気電池を提供することができると記載されている。
【0020】
しかし、電極構造だけでは満足される効果が得られないものと考えられ、有機分散剤、無機凝集剤、及び、高分子脂肪酸塩等の電解液への添加が試みられている(特許文献7~10)。
【0021】
特許文献7には、分子量5,000~10,000のアニオン系高分子分散剤を含有させた水系中性電解液を用いたことを特徴とするAl及びMg空気電池が開示されている。すなわち、高分子分散剤によって、電池反応生成物である凝集物が電極表面に付着することが防止され、電極及び電極付近における電池反応生成物による電池反応阻害を防止でき、金属空気電池の放電容量及び電池出力を向上可能な金属空気電池用電解液を提供することができると記載されている。その作用効果は、次のように考えられている。第一に、正極付近では、電池反応により負極で生成する水酸化物にH+が吸着して正に帯電している電池反応生成物が、正極表面の負電荷に引き寄せられて電極表面に付着し、正極の表面が電池反応生成物で覆われ、反応場が減少して電池反応が阻害されるが、高分子分散剤が電池反応生成物を被覆し正電荷を遮蔽してこの現象を防ぐというものである。第二に、負極付近において、負極から溶解する金属イオンの正電荷と電池反応生成物の正電荷とが反発して金属イオンの溶解が妨げられることを、高分子分散剤が電池反応生成物を被覆し正電荷を遮蔽してこの現象を防ぐというものである。
【0022】
特許文献8は、電解液中で電荷を帯びる無機系凝集剤を含有させた水系中性電解液を用いたことを特徴とするAl及びMg空気電池が開示されている。この凝集剤は、電池反応による生成物、すなわち、負極活物質の金属イオンと正極で生じる水酸化物イオンとが結合して生成する水酸化物を凝集・沈殿させるものである。この電池反応生成物を凝集・沈殿させることによって、電池反応生成物が電極表面を覆う電池反応の反応場の減少、及び、電池反応生成物が電解液中に漂う伝導性の低下による電池反応阻害を防止でき、放電容量及び電池出力の向上を図ることができると記載されている。
【0023】
更に、特許文献9では、高分子脂肪酸塩を溶解した水系中性電解液を用いたことを特徴とするAl空気電池が開示されている。高分子脂肪酸塩は、上記アニオン系高分子分散剤と化学構造上は類似しているが、作用効果が全く異なっていると考えられている。高分子脂肪酸塩は、解離し、負極で生成するH+と結合して高分子脂肪酸となることによって、負極金属の酸化剤としてこれらの金属の溶解を促進すると共に、H+を吸着することでH2ガスの発生を防止し、分極を阻害すると考えられている。その上、この高分子脂肪酸が負極で生成するAl水酸化物と混合して負極表面を被覆して酸化被膜が形成されることを防止すると共に、Al水酸化物が正極に移行しないことで正極の被毒も防止するセパレータの役割を供すると考えられている。更に、高分子脂肪酸の生成は、H+を消費することで電位差を低下させ、発電を阻害する要因となる金属に水酸イオン(OH-)が配位した金属錯イオン、[Al(OH)4]-が生成されても、電解液内で、錯イオンが水酸化物に戻るという循環反応経路を形成するので、金属錯イオンの生成による電位差の低下及び金属の水酸化物による負極の劣化を防止する効果があると記載されている。一方、高分子脂肪酸塩は、解離したナトリウムイオン(Na+)やカリウムイオン(K+)等の金属イオンが、正極の電極反応で生成するOH-と塩橋の役割を果たし、イオンの平衝を保つことで発電を促進する効果や、水との水素結合によって水を吸着し、正極で副次的に生じる水と電子との反応によって生成するH2の発生を妨げ、正極の電極反応を促進する効果もあると記載されている。
【0024】
そして、特許文献10には、この高分子脂肪酸塩を溶解した水系中性電解液を、イオン化傾向の異なる、Mg、Al、Zn、Fe、錫(Sn)、鉛(Pb)、及び、これらの少なくとも二種以上の金属からなる合金を活物質とする負極とする金属空気電池に適用した場合にも同様の効果が認められたことが記載されている。
【0025】
以上、Al金属空気電池を具体例として、金属空気電池の開発動向を説明したが、未だ、エネルギー密度、電圧、寿命、及び、安全性等の性能を満足する金属空気電池は得られていない。
【0026】
また、金属空気電池は、再生可能な電解液及び金属電極を入れ替えるメカニカルチャージを採用すれば、様々な設備や機器等の電力源としての連続使用が可能で、一種の燃料電池ともなる。しかし、現状では、レジャー等のアウトドアでの電源、並びに、災害避難時及び停電時の電源等として利用されているだけあり、太陽電池や燃料電池のように、金属空気電池を家庭や施設等の各種家電機器や設備等の基幹エネルギー源に利用できる発電システムとなる金属空気発電システム、更には、この金属空気発電システムを用いた電力自給自足システムに対する取り組みには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【文献】特開昭55-62661号公報
【文献】特開2012-15025号公報
【文献】特開2012-15026号公報
【文献】特開平6-179936号公報
【文献】特開2002-184472号公報
【文献】特開2006-147442号公報
【文献】特許第6410136号公報
【文献】特許第6410137号公報
【文献】特許第6085044号公報
【文献】特開2018-137050号公報
【文献】特開2000-281701号公報
【非特許文献】
【0028】
【文献】独立行政法人・新エネルギー・産業技術総合開発機構編、「NEDO再生可能エネルギー技術白書第二版」、2014年2月、森北出版株式会社
【文献】暖水慶孝、「二次電池の進化と将来」、年報NTTファシリティーズ総研レポート、No.24、2013年6月、pp.67~72
【文献】独立行政法人・新エネルギー・産業技術総合開発機構編、「NEDO二次電池技術開発ロードマップ2013」、2013年8月
【文献】富士色素株式会社ホームページ、http://www.fuji-pigment.co.jp/pres.pdf
【文献】環境庁ホームページ、https://www.env.go.jp/policy/tech/nano_tech/review/theme/03/05.html、石井正純、「環境ナノテクがエレクトリック・カーの未来の問題を開く~自動車産業のシリコンバレー・モデル~」
【文献】村上浩康、「リチウム資源」、地質ニュース670号、22-26頁、2010年6月
【文献】吉田和正、「一次電池技術発展の系統化調査」、独立行政法人国立科学博物館編、国立科学博物館 技術の系統化調査報告第9集、2007年3月30日、172-277頁
【文献】武田保雄他、「水溶液系リチウム/空気電池の現状と課題」、GS Yuasa Technical Report、2010年6月、第7巻、第1号、1-7頁
【文献】国立研究開発法人・産業技術総合研究所ホームページ、「新しい構造の高性能「リチウム-空気電池」を開発」、2009年2月24日掲載、http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2009/pr20090224/pr20090224.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
本発明は、自己放電や分極等の問題を解決し、エネルギー密度や電圧等の電池性能に優れ、寿命が長く、安全性の高い金属空気電池となる水系中性電解液及びその電解液を用いた金属空気電池の提供を目的としている。また、この金属空気電池を備えた、利便性が高く、長期間に亘って使用可能な発電システムとなる金属空気発電システム、及び、この金属空気発電システムを利用した、住宅や各種施設の電力自給自足システムを提供することを目的としている。更に、このシステムを活用し、住宅や各種施設における電力自給自足型機器集積システム、特に、住宅の家電機器及び大気水生成機器を家庭内外において効率的かつ効果的に使用することができるように構築された電力自給自足型家電機器及び大気水生成機器集積システムの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明者らは、上記課題を解決することを目的として、金属空気電池の水系中性電解液の電解質を種々検討した結果、水又は中性塩化物を水に溶解した水溶液に添加する高分子電解質の分子量及び濃度には、エネルギー密度、電圧、寿命等の電池性能を向上させることができる領域が存在することを見出し、本発明の完成に至った。
【0031】
すなわち、本発明は、重量平均分子量が1,000~5,000のアニオン性高分子電解質が、水又は中性塩化物水溶液に3.0~10.0重量%溶解されていることを特徴とする金属空気電池用の水系中性電解液である。この電解液を、金属を活物質とする負極と酸素を活物質とする正極とを備える金属空気電池の間隙に満たすことによって金属空気電池の性能が大きく向上する。
【0032】
この電解液は、既に検討されているように、水又は中性塩化物の水溶液に酸性高分子電解質塩を溶解した水系中性電解質であるため、酸性またはアルカリ性水溶液下で起きる自己放電の問題を解消できるという効果がある。
【0033】
しかし、本発明は、特許文献9及び10から明らかなように、従来より知られていた、解離したアニオン性高分子脂肪酸塩と負極で生成するH+との結合によって生成するアニオン性高分子脂肪酸の金属空気電池に及ぼすアニオン性高分子脂肪酸塩の分子量及び濃度の影響が顕著であることを見出し、更なる検討結果として完成したものであり、本技術分野の通常の知識を有する者が容易に想到し得るものではない。また、特許文献7及び8に記載されたような、電池反応生成物を分散及び凝集させることに基づく金属空気電池の性能向上とも全く異なる作用効果を発現するものである。
【0034】
アニオン性高分子脂肪酸塩が解離した高分子脂肪酸アニオンと、負極で生成するH+とが結合してアニオン性高分子脂肪酸となることによって生起する作用効果は、次のように考えられる。第一に、高分子脂肪酸が、負極金属の酸化剤として負極金属の溶解を促進すること、第二に、高分子脂肪酸アニオンがH+を捕捉するので、水素ガスの発生を抑止し分極を防止できること、第三に、高分子脂肪酸が負極で生成する金属水酸化物、例えば、負極がAlの場合、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)と混合して負極表面を被覆して酸化被膜の形成を防止すること、第四に、金属水酸化物が正極への移行を抑止し正極の被毒を防止できること、第五に、高分子脂肪酸アニオンがH+を消費することによって電位差を低下させて発電を阻害する要因となる、金属にOH-が配位した金属錯イオン、例えば、[Al(OH)4]-が生成されても、電解液内で錯イオンが水酸化物に戻るという循環反応経路を形成するので、金属錯イオンの生成による電位差の低下及び金属の水酸化物による負極の劣化を防止できること、第六に、高分子脂肪酸塩から解離したNa+やK+等の金属イオンが、正極の電極反応で生成するOH-と平衡を保ち、イオンの移動を抑止し塩橋のような役割果たすために発電を促進すること、そして、第七に、高分子脂肪酸は、水との水素結合によって水を吸着し、正極で副次的に生じる水と電子との反応によって生成する水素ガスの発生を抑止し分極を防止することである。
【0035】
このような高分子脂肪酸塩の効果を十分発現するためには、酸性度が高い程好ましいと考えられるので、高分子脂肪酸塩の濃度を高める必要がある。しかし、高分子脂肪酸塩の分子量が大き過ぎると、溶解性が低下して、濃度を高めることが困難になると共に、電解液の粘度が高くなり過ぎ、負極金属の溶解の弊害となる。しかし、電解液の粘度が低すぎると、水素ガスの発生及び解離したカチオンの移動を抑止する上で弊害となると共に、金属空気電池からの電解液の漏洩を促進することになる。従って、高分子脂肪酸塩には、最適な分子量と濃度が必要である。
【0036】
このような観点から、脂肪酸よりも酸性度の高い解離基を有する高分子電解質の塩であることが、上記第一から第七の作用効果をより高めることができて好ましいと考えられるので、更に検討した結果、アニオン性高分子電解質として、ポリカルボン酸塩よりもポリスルホン酸塩の方が好ましいことを見出した。
【0037】
従って、本発明の金属空気電池用の水系中性電解液は、より具体的には、重量平均分子量が1,000~5,000のポリカルボン酸塩、ポリスルホン酸塩、及び、ポリ(カルボン酸-スルホン酸)塩の中から選択される少なくとも一つ以上を含有するアニオン性高分子電解質が、水又は中性塩化物水溶液に3.0~10.0重量%溶解されていることを特徴としている。
【0038】
更に、ポリカルボン酸塩が、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸共重合体塩、ポリメタクリル酸塩、ポリメタクリル酸共重合体塩、ポリ(アクリル酸-ポリメタクリル酸)共重合体塩、無水マレイン酸共重合体塩、カルボキシメチルセルロース塩、及び、アルギン酸塩であることが好ましい。また、ポリスルホン酸塩が、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリスチレンスルホン酸共重合体塩、及び、ポリナフタレンスルホン酸塩であることが好ましい。これらは、合成方法を選択することによって、重量平均分子量を制御することが容易であることに基づいている。
【0039】
また、ポリカルボン酸塩、ポリスルホン酸塩、及び、ポリ(カルボン酸-スルホン酸)塩は、アルカリ金属の塩であることができるが、汎用性に優れるNa塩又はKa塩であることが好ましい。
【0040】
ところで、本発明のアニオン性高分子電解質を含有する水系中性電解液は、当初、Al又はAl合金を活物質とする負極と、酸素を活物質とする正極とするAl空気電池において、その優れた効果を見出した。しかし、特許文献10に記載されているように、この高分子脂肪酸塩を溶解した水系中性電解液は、イオン化傾向の異なる、Mg、Zn、Fe、Sn、及び、Pb、並びに、これらの少なくとも二種以上の金属からなる合金、並びに、この合金に、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、及び、シリコン(Si)の少なくとも一種以上の金属が含まれている合金を活物質とする負極と、酸素を活物質とする正極とから構成される金属空気電池に適用した場合にも、同様の効果が認められた。この点に関しては、本発明の高分子脂肪酸塩以外のアニオン性高分子電解質を含有する水系中性電解液についても全く同様の効果が認められ、分子量及び濃度を最適化することによって、Al以外の金属及び合金を活物質とする負極とする金属空気電池の性能をより高めることができることを確認した。
【0041】
従って、本発明の金属空気電池は、負極がAlに限定されるものではなく、Mg、Zn、Fe、Sn、及び、Pb、並びに、これらの中から選択される少なくとも二種以上の金属を含有する合金、並びに、この合金にIn、Ga、及び、シSiの中から選択される少なくとも一種以上の金属が含まれている合金から選択される金属を活物質とする負極と、酸素を活物質とする正極と、重量平均分子量が1,000~5,000のアニオン性高分子電解質が、水又は中性塩化物水溶液に3.0~10.0重量%溶解されている水系中性電解液とを用いて組み立てられていることを特徴とする金属空気電池である。
【0042】
なお、中性塩化物としては、特に限定されないが、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化アルミニウム(AlCl3)、及び、塩化マンガン(MnCl2)等の塩化物を用いることが好ましく、特に、高分子電解質との組合せによる種々の効果を十分発現するためには、NaCl及びKClであることがより好ましい。そして、陽イオンとして、マグネシウムイオン(Mg2+)、カルシウムイオン(Ca2+)等、陰イオンとして、硫酸イオン(SO4
2-)、炭酸水素イオン(HCO3-)等を微量に含む海水を中性塩化物水溶液に置き換えて使用することもできる。
【0043】
以上、金属空気電池の性能を高める解決手段について説明してきたが、金属空気電池は、再生可能な電解液及び金属電極を入れ替えるメカニカルチャージを採用すれば、様々な設備や機器等の電力源としての連続使用が可能で、一種の燃料電池ともなることに着目し、金属空気電池を集水機器及び蓄電池と一体化することによって、利便性が高く、長期間に亘って使用可能な金属空気発電システムの提供ができることを見出した。そして、このような金属空気発電システムが構築されると、これを利用した住宅や各種施設の電力自給自足システムの提供、更には、このシステムを活用し、住宅や各種施設における電力自給自足型機器集積システム、特に、住宅の家電機器及び大気水生成機器を家庭内外において効率的かつ効果的に使用することができるように構築された電力自給自足型家電機器及び大気水生成機器集積システムの提供が可能であることを見出し、本発明の完成に至った。
【0044】
すなわち、本発明の金属空気発電システムは、センサー部と情報通信部とが内設された本発明の金属空気電池と、センサー部と情報通信部とが内設された蓄電池と、センサー部と情報通信部とが内設された集水機器と、金属空気電池から蓄電池への給電制御部と、金属空気電池と蓄電池との給電切換制御部と、集水機器から金属空気電池への給水制御部と、第一の機械学習コンピューターと、第一の携帯端末とを具備し、金属空気電池、蓄電池、及び、集水機器に内設されたセンサー部によって収集される金属空気電池関連状態情報が、金属空気電池、蓄電池、及び、集水機器に内設された情報通信部を介して第一の携帯端末で管理されることができ、第一の携帯端末を用いて金属空気電池及び蓄電池の給電量、蓄電池の蓄電量、並びに、集水機器の給水量及び貯水量が制御されると共に、金属空気電池、蓄電池、及び、集水機器に内設された情報通信部を介して送信された金属空気電池関連状態情報の蓄積情報を第一の機械学習コンピューターが学習した解析結果に基づいて、金属空気電池及び蓄電池の給電量、蓄電池の蓄電量、並びに、集水機器の給水量及び貯水量が制御されることを特徴とする金属空気発電システムである。特に、この金属空気発電システムは、自然環境からの給水により金属空気電池が発電するクリーンエネルギーを長期間に亘り安定的に確保可能な機構となっていることに特徴がある。なお、金属空気電池から蓄電池への給電制御部と、金属空気電池と蓄電池との給電切換制御部と、集水機器から金属空気電池への給水制御部は、情報を受信して制御動作が実行される機構を備えたものである。
【0045】
この金属空気発電システムによれば、自然環境からの水を集めた集水機器から金属空気電池に、最適な時間間隔で最適な水量が供給されることが可能であるため、長期間の連続運転による金属空気電池の電力供給を見込むことができる。また、集水機器の貯水量の変動があり、集水量が不足して電力供給が困難となる場合も想定されるが、集水機器の貯水量が不足している期間は、上水道の利用も可能である。そして、可能な限り自然環境からの水を利用したクリーンエネルギーを確保するとしても、集水機器の貯水量が充足している期間に、金属空気電池で発電した電力を蓄電池に貯蔵しておくことができる。
【0046】
この蓄電池は、特に限定されるものではなく、鉛蓄電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池、及び、ナトリウム硫黄(NAS)電池等を用いることができるが、エネルギー密度、寿命、操作性等の観点から、現在のところ、リチウムイオン電池が好ましい。
【0047】
この金属空気発電システムは、特に、クリーンエネルギーの確保を目的とするものであるため、集水機器が極めて重要な役割を担っている。そこで、本発明の集水機器は、第一、第二、及び、第三の切換制御部を介して、雨水を集水する第一の集水機器、大気中の水分を凝縮させて集水する第二の集水機器、及び、水分吸着材を用いて空気中の水分を集水する第三の集水機器と接続される第一の貯水部と、第四の切換制御部を介して第一の貯水部及び上水道と接続される第二の貯水部とを備え、第一、第二、及び、第三の各集水機器、並びに、第一及び第二の各貯水部にはセンサー部と情報通信部とが内設されており、第一、第二、及び、第三の集水機器、並びに、第一及び第二の貯水部に内設されたセンサー部によって収集される集水器状態情報及び貯水部状態情報が、第一、第二、及び、第三の各集水機器、並びに、第一及び第二の各貯水部に内設された情報通信部を介して第一の携帯端末で管理することができ、第一の携帯端末を用いて、第一、第二、及び、第三の切換制御部、並びに、第四の切換制御部が制御されると共に、第一、第二、及び、第三の各集水機器、並びに、第一及び第二の各貯水部に内設された情報通信部を介して送信された集水器状態情報及び貯水部状態情報の蓄積情報を第一の機械学習コンピューターが学習した解析結果に基づいて、第一、第二、及び、第三の切換制御部、並びに、第四の切換制御部が制御されることを特徴とする集水機器であることが好ましい。なお、この集水機器における切換制御部も、情報を受信して制御動作が実行される機構を備えたものである。
【0048】
本発明の金属空気発電システムは、金属空気電池、蓄電池、及び、集水機器に備えられたセンサー部によって収集される金属空気電池関連状態情報の蓄積情報を第一の機械学習コンピューターが学習した解析結果に基づき、金属空気電池及び蓄電池の給電量、蓄電池の蓄電量、並びに、集水機器の給水量及び貯水量の自動式制御を行うことを特徴としているが、金属空気電池関連状態情報を携帯端末で管理し、手動式制御を行うこともできより好ましい。
【0049】
この点については、集水機器も同様であり、第一、第二、及び、第三の集水機器、並びに、第一及び第二の貯水部に内設されたセンサー部によって収集される集水器状態情報及び貯水部状態情報を第一の機械学習コンピューターが学習した解析結果に基づき、第一、第二、及び、第三の切換制御部、並びに、第四の切換制御部の自動式制御を行うことを特徴としているが、集水器状態情報及び貯水部状態情報の携帯端末による管理に基づいた手動式制御も可能でありより好ましい。
【0050】
このように、本発明の蓄電池を備えた金属空気発電システムは、長期間の連続運転による金属空気電池の安定的な電力供給が見込むことができる金属空気発電システムであるため、商用電源との切換制御部を配設し、地震及び台風等の天災、並びに、工事及び事故等の人災による不慮の停電に対応するだけでなく、本発明の金属空気発電システムが創出するクリーンエネルギーを有効に利用できる電力自給自足システムを構築できることを見出した。
【0051】
すなわち、本発明の電力自給自足システムは、上記本発明の金属空気発電システムと商用電源との第一の切換制御部を介して、住宅及び施設の機器及び設備に給電されることを特徴とする電力自給自足システムである。
【0052】
更に詳しくは、本発明の電力自給自足システムは、本発明の金属空気発電システムと商用電源との第一の切換制御部を介して、住宅及び施設の機器及び設備に給電される電力自給自足システムであって、第二の機械学習コンピューターと、第二の携帯端末とを備え、本発明の金属空気発電システムを構成する金属空気電池、蓄電池、及び、集水機器に内設されたセンサー部で収集される金属空気電池関連状態情報が、金属空気電池、蓄電池、及び、集水機器に内設された情報通信部を介して第二の携帯端末で管理され、第二の携帯端末を用いて第一の切換制御部が制御されると共に、そのセンサー部で収集される金属空気電池関連状態情報がその情報通信部を介して第二の機械学習コンピューターに送信され、この金属空気電池関連状態情報を第二の機械学習コンピューターが学習した解析結果に基づき、第一の切換制御部が制御されることを特徴とする電力自給自足システムである。
【0053】
この電力自給自足システムは、金属空気発電システムと商用電源との第一の切換制御部が、手動式及び自動式いずれの方法によっても制御され動作が実行され、例えば、手動式制御により不慮の停電に対応し、自動式制御によりクリーンエネルギーを有効に利用すれば、本発明の電力自給自足システムは、自然環境破壊から守り、持続可能な開発目標を達成するために貢献することができる。
【0054】
なお、上記第二の機械学習コンピューター及び第二の携帯端末は、金属空気発電システムで用いた第一の機械学習コンピューター及び第一の携帯端末と兼用することができるが、本発明を分かり易く説明するため区別した表記とした。
【0055】
この電力自給自足システムが、更に具体的に機能を発揮するためには、金属空気発電システムと商用電源との第一の切換制御部が、据置式家電機器及び据置式大気水生成機器とが接続され、据置機器状態情報が把握され、第一の切換制御部と連携する必要がある。
【0056】
そこで、本発明者は、このような電力自給自足システムを用い、金属空気発電システムと商用電源との第一の切換制御部を介して給電される、据置式家電機器及び据置式大気水生成機器とが住宅に配設されることを特徴とする電力自給自足型据置式家電機器及び据置式大気水生成機器集積システムを発明するに至った。
【0057】
本発明の電力自給自足型据置式家電機器及び据置式大気水生成機器集積システムは、電力自給自足システムから第一の切換制御部を介して給電される、センサー部、情報通信部、及び、動作制御部が内設された据置式家電機器及び据置式大気水生成機器と、第二の機械学習コンピューターと、第二の携帯端末とを具備し、本発明の金属空気発電システムを構成する金属空気電池、蓄電池、及び、集水機器に内設されたセンサー部で収集される金属空気電池関連状態情報が、金属空気電池、蓄電池、及び、集水機器に内設された情報通信部を介して、並びに、据置式家電機器及び据置式大気水生成機器に内設されたセンサー部によって収集される据置機器状態情報が、据置式家電機器及び据置式大気水生成機器に内設された情報通信部を介して第二の携帯端末で管理されることができ、第二の携帯端末によって、第一の切換制御部、並びに、据置式家電機器及び据置式大気水生成機器を制御可能であると共に、本発明の金属空気発電システムを構成する金属空気電池、蓄電池、及び、集水機器に内設された情報通信機部介して送信される本発明の金属空気発電システムを構成する金属空気電池、蓄電池、及び、集水機器に内設されたセンサー部で収集される金属空気電池関連状態情報の蓄積情報、並びに、据置式家電機器及び据置式大気水生成機器に内設された情報通信部を介して送信される据置式家電機器及び据置式大気水生成機器に内設されたセンサー部によって収集される据置機器状態情報の蓄積情報を第二の機械学習コンピューターが学習した解析結果に基づき、第一の切換制御部、並びに、据置式家電機器及び前記据置式大気水生成機器を制御可能であることを特徴とする電力自給自足型据置式家電機器及び据置式大気水生成機器集積システムである。
【0058】
このシステムも、携帯端末によって、金属空気電池関連状態情報及び据置機器状態情報が管理及び制御されるので、自動式制御及び手動式制御の双方が行える。
【0059】
このような本発明の電力自給自足型据置式家電機器及び据置式大気水生成機器集積システムは、蓄電池を備えた金属空気発電システムが長期間の連続運転によるの安定的な電力供給が見込むことができるため、地震及び台風等の天災、並びに、工事及び事故等の人災による不慮の停電に対応するだけでなく、据置式家電機器及び据置式大気水生成機器に必要以上の電力を供給することがないため、本発明の金属空気発電システムが創出するクリーンエネルギーを有効に利用できる。
【0060】
しかも、本発明の電力自給自足型据置式家電機器及び据置式大気水生成機器集積システムは、自然環境から大気水と呼称される水を生成することができるため、地震及び台風等の天災、並びに、工事及び事故等の人災による不慮の停電だけでなく、不慮の断水に対して極めて有効なシステムである。
【0061】
更に、本発明者は、災害時における避難場所及び人間が本能的に求める屋外活動であるアウトドア・アクティビティにおける電気及び水を供給することを目的として、電力自給自足システムを用い、金属空気発電システムと商用電源との第一の切換制御部を介して給電される携帯式家電機器及び携帯式大気水生成機器が、出し入れ可能に一体化されて保管されることを特徴とする電力自給自足型携帯式家電機器及び携帯式大気水生成機器集積システムを構築できることを見出した。
【0062】
すなわち、本発明の電力自給自足型携帯式家電機器及び携帯式大気水生成機器集積システムは、電力自給自足システムから第二の切換制御部を介して給電される、センサー部、情報通信部、及び、動作制御部が内設された携帯式家電機器及び携帯式大気水生成機器と、第三の機械学習コンピューターと、第三の携帯端末とを具備し、本発明の金属空気発電システムを構成する金属空気電池、蓄電池、及び、集水機器に内設されたセンサー部で収集される金属空気電池関連状態情報が、金属空気電池、蓄電池、及び、集水機器に内設された情報通信部を介して、並びに、携帯式家電機器及び携帯式大気水生成機器に内設されたセンサー部によって収集される携帯機器状態情報が、携帯式家電機器及び携帯式大気水生成機器に内設された情報通信部を介して第三の携帯端末で管理されることができ、第三の携帯端末によって、第二の切換制御部、並びに、携帯式家電機器及び携帯式大気水生成機器を制御可能であると共に、本発明の金属空気発電システムを構成する金属空気電池、蓄電池、及び、集水機器に内設された情報通信機部介して送信される本発明の金属空気発電システムを構成する金属空気電池、蓄電池、及び、集水機器に内設されたセンサー部で収集される金属空気電池関連状態情報の蓄積情報、並びに、携帯式家電機器及び携帯式大気水生成機器に内設された情報通信部を介して送信される携帯式家電機器及び携帯式大気水生成機器に内設されたセンサー部によって収集される携帯機器状態情報の蓄積情報を第三の機械学習コンピューターが学習した解析結果に基づき、第二の切換制御部、並びに、携帯式家電機器及び携帯式大気水生成機器を制御可能であることを特徴とする電力自給自足型携帯式家電機器及び携帯式大気水生成機器集積システムである。
【0063】
このシステムも、携帯端末によって、金属空気電池関連状態情報及び携帯機器状態情報が管理及び制御されるので、自動式制御及び手動式制御の双方が行える。
【0064】
なお、ここでも、第三の機械学習コンピューター及び第三の携帯端末は、金属空気発電システムで用いた第一の機械学習コンピューター及び第一の携帯端末、及び、電力自給自足システムで用いた第二の機械学習コンピューター及び第二の携帯端末と兼用することができるが、本発明を分かり易く説明するため区別した表記とした。
【0065】
このような電力自給自足型携帯式家電機器及び携帯式大気水生成機器集積システムによれば、災害時の避難場所等において、金属空気発電システムから供給された電力が蓄電されたポータブル電源を用い、電灯をはじめとして避難場所で必要とされるポータブル家電製品を使用することができる上、人間が生命を維持する上で最も重要な飲料水が、ポータブル大気水生成器で生成され、ポータブルウォーターサーバーから供給されることが可能となる。従って、このシステムは、避難場所の生活で必要とされるライフラインの中でも重要な電気、水、及び、通信を確保できる。一方、人間が本能的に求める屋外活動であるアウトドア・アクティビティにおいても同様に、電気及び水が供給され、様々な状況に応じたアウトドア・アクティビティを楽しむことができる。
【0066】
その上、電力自給自足型携帯式家電機器及び携帯式大気水生成機器集積システムを、キャスター等を備えた可動式ラックに収容したシステムとすれば、避難場所での生活及びアウトドア・アクティビティに必要な機器を一括して持ち運ぶことができる。
【発明の効果】
【0067】
本発明によれば、最適化された重量平均分子量のアニオン性高分子電解質が、最適化された濃度で水又は中性塩化物の水溶液に溶解した水系中性電解液を用いた金属空気電池を提供することができため、次のような作用が極めて効果的に発現し、金属空気電池の発電量、寿命等の性能が高められる。第一に、高分子電解質が解離した高分子電解質アニオンがH+と結合した高分子電解質が、負極金属の酸化剤として負極金属の溶解を促進すること、第二に、この高分子電解質アニオンとH+との結合がH+を捕捉するので、水素ガスの発生を抑止し分極を防止できること、第三に、高分子電解質が負極で生成する金属水酸化物、例えば、負極がAlの場合、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)と混合して負極表面を被覆して酸化被膜の形成を防止すること、第四に、金属水酸化物が正極への移行を抑止し正極の被毒を防止できること、第五に、高分子電解質アニオンによるH+の消費によって電位差を低下させて発電を阻害する要因となる、金属にOH-が配位した金属錯イオン、例えば、[Al(OH)4]-が生成されても、電解液内で錯イオンが水酸化物に戻るという循環反応経路を形成するので、金属錯イオンの生成による電位差の低下及び金属の水酸化物による負極の劣化を防止できること、第六に、高分子電解質から解離したNa+やK+等の金属イオンが、正極の電極反応で生成するOH-と平衡を保ち、イオンの移動を抑止し塩橋のような役割果たすために発電を促進すること、そして、第七に、H+と結合した高分子電解質は、水との水素結合によって水を吸着し、正極で副次的に生じる水と電子との反応によって生成する水素ガスの発生を抑止し分極を防止することである。
【0068】
更に、この作用効果は、最適な解離基を有するアニオン性高分子電解質により一層高めることができる。
【0069】
また、本発明により、非水系電解質の発火・爆発の問題、酸性又はアルカリ性電解質の火傷や失明の問題を解決した、安全性の高い金属空気電池を提供することができる。そして、H+と結合した高分子電解質が水との相互作用によりゲル状となるため、簡易な構造で、液漏れがなく、メカニカルチャージが容易な金属空気燃料電池を構成できる。しかも、本発明の金属空気電池は、地球に無尽蔵に存在する資源である海水や雨水等を利用することもできる上、災害時等には尿等も使用できる。
【0070】
このような本発明の金属空気電池を備えた金属空気発電システムによれば、自然環境からの水を集めた集水機器から金属空気電池に、最適な時間間隔で最適な水量が供給されることが可能であるため、長期間の連続運転による金属空気電池の電力供給を見込むことができる。また、集水機器の貯水量の変動があり、集水量が不足して電力供給が困難となる場合も想定されるが、集水機器の貯水量が不足している期間は、上水道の利用も可能である。そして、可能な限り自然環境からの水を利用したクリーンエネルギーを確保するとしても、集水機器の貯水量が充足している期間に、金属空気電池で発電した電力を蓄電池に貯蔵しておくことができる。
【0071】
そして、この金属空気発電システムを用いた本発明の電力自給自足システムは、金属空気発電システムと商用電源との第一の切換制御部が、手動式及び自動式いずれの方法によっても制御され動作が実行されるので、不慮の停電にも対応できルと共に、クリーンエネルギーを有効に利用することができ、自然環境破壊から守り、持続可能な開発目標を達成するために貢献することができる。
【0072】
更に、この電力自給自足システムを用いた本発明の電力自給自足型据置式家電機器及び据置式大気水生成機器集積システムは、蓄電池を備えた金属空気発電システムが長期間の連続運転による安定的な電力供給が見込むことができるため、地震及び台風等の天災、並びに、工事及び事故等の人災による不慮の停電に対応するだけでなく、据置式家電機器及び据置式大気水生成機器に必要以上の電力を供給することがないため、本発明の金属空気発電システムが創出するクリーンエネルギーを有効に利用できる。
【0073】
また、この電力自給自足システムを用いた電力自給自足型携帯式家電機器及び携帯式大気水生成機器集積システムによれば、災害時の避難場所等の生活において必要とされるライフラインの中でも重要な電気、水、及び、通信を確保できる。一方、このシステムの別の効果としては、人間が本能的に求める屋外活動であるアウトドア・アクティビティにおいて、電気及び水が供給され、様々な状況に応じたアウトドア・アクティビティを楽しむことができる。その上、このシステムを、キャスター等が備えられた可動式ラックに収容したシステムとすれば、避難場所での生活及びアウトドア・アクティビティに必要な機器を一括して持ち運ぶことができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【
図1】本発明の一実施形態に係る、Al空気電池の基本的な構成と電極化学反応を示す模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る、ポリアクリル酸ナトリウム(PAA-Na)を水に溶解した水系中性電解液が、Al空気電池の性能を効果的に向上させることができる理由を説明するための電極化学反応及びそれによって生成する各成分の循環経路である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る、簡単なAl空気電池を示す斜視模式図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る、金属空気電池を用いた金属空気発電システムを根幹とする電力自給自足型据置式家電機器及び据置式大気水生成機器集積システムの概要模式図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る、金属空気電池を用いた金属空気発電システムを根幹とする電力自給自足型携帯式家電機器及び携帯式大気水生成機器集積システムの概要模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0075】
まず、本発明の金属空気電池について、負極A1の金属活物質がAl系金属である場合を代表例として、図面を用い詳細に説明するが、図面に描かれた一実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想によってのみ限定されるものである。
【0076】
図1は、本発明の一実施形態に係る、Al空気電池の基本的な構成と電極化学反応を示す模式図である。
【0077】
図2は、PAA-Naを水に溶解した水系中性電解液が、Al空気電池Aの性能を効果的に向上させることができる理由を説明する電極化学反応を示した。また、
図3は、本発明の一実施形態に係る、簡単なAl空気電池を示す斜視模式図である。
図2及び3では、代表例として、負極A1にはAl合金(A5052)を、正極A2には、多孔質炭素シート(東洋炭素(株)製クノーベル(登録商標))の酸素吸着体A2-1と、電気導電体と酸素吸着体A2-1の支持体としての機能を果たし、通気性を有するチタン(Ti)製メッシュ(エキスパンドメタル)の集電体A2-2との積層体を使用している。
【0078】
まず、
図2及び下記[化4]を用い、PAA-Naを水に溶解した水系中性電解液が、Al空気電池Aの性能を効果的に向上させる理由を具体的に説明する。これは、本発明の技術的根幹である高分子電解質の分子量及び濃度、並びに、高分子電解質の解離基が、金属空気電池の性能に影響を与え、それを向上させることを表現するものではないが、高分子電解質の分子量及び濃度には、これらの電極化学反応を活性化させる適正な範囲があり、また、高分子電解質の解離基の種類には、これらの電極反応をより活性化させるものがあることを理解するために重要である。高分子電解質の分子量及び濃度の範囲を特定すると共に解離基の種類を明確にした本発明の技術的根幹については、後述する実施例で説明する。
【0079】
図2及び
図3のAl空気電池において、この場合の電解液の中で生じる全反応を[化4]に、[化4]に示す電極化学反応によって生成される各成分の循環経路を
図2に示す。
【0080】
【0081】
PAA-Naを水に溶解した電解液であるため、負極A1の自己腐食の問題はない。PAA-Naが解離し([化4]反応式(11))、負極A1で生成するH+と結合してポリアクリル酸(PAA)となる([化4]反応式(12))。このPAAが、Alの酸化剤としてAlの溶解を促進すると共に、水素の発生を防止する上、負極A1で生成するAl(OH)3([化4]反応式(8、9))と混合してAl表面を被覆して酸化被膜(Al2O3)が形成されることを防止するため、発電が阻害されることなく、Al空気電池の寿命が長くなる。
【0082】
また、PAAの生成によってH+が消費され、電位差を低下させ発電を阻害する要因となる[Al(OH)4]-が生成されるが([化4]反応式(6))、負極上に生成する水に難溶なAl(OH)3([化4]反応式(8))が、ゲル化して発電を阻害する要因を解消する。と同時に、増加した[Al(OH)4]-は再びAl(OH)3に戻る([化4]反応式(9))という循環反応経路が形成される。従って、全体的には、PAAが、[Al(OH)4]-による電位差の低下及びAl(OH)3による負極A1での発電阻害要因を防止する効果を奏する。
【0083】
更に、PAA-Naから解離したNa
+([化4]反応式(11))が、正極A2及び負極A1の電極反応で生成するOH
-([化4]反応式(2)及び(9))と塩橋の役割を果たし([化4]反応式(10))、イオンの平衝を保つことで発電を促進する。一方、PAAは、水との水素結合によって水を吸着し、正極でのガス拡散電極のFlooding(水没)で生じる水と電子との反応によって生成する水素の発生を妨げ、正極A2の電極反応を促進する効果もある([化4]、
図2には省略)。
【0084】
水に溶解したPAA-Naは、PAA-Na水溶液内のイオン濃度が高まると吸水力が低下して、正極A2では還元剤として、負極A1では酸化剤となる水を放出する。従って、ゲル状電解液内で金属イオンの濃度が高まることで水を供給出来る効果もある。
【0085】
以上、
図2及び[化4]において、負極A1の代表例として、負極活物質Alを含有するAl合金、具体的には、A5052を用いた場合のPAA-Naの効果を説明したが、これに限定されるものではない。ただし、Al合金は、Al単体よりも、表面の酸化被膜による初期反応性が良く、長時間の使用に当たっても酸化被膜が生成され難く、また、自己腐食率が低く、負極表面の酸化に伴う分極を抑制できるため、Al合金の方が好ましい。このような効果をより高めるためには、負極A1として、Alに、Mg、Zn、マンガン(Mn)、Fe、ニッケル(Ni)、Sn、Pb、クロム(Cr)、カルシウム(Ca)、及び、銅(Cu)から選ばれる少なくとも一種以上の金属を含有するAl合金を用いる方が、負極表面の酸化の防止という観点から好ましい。特に、このようなAl合金に、In、Ga、及び、Siが少なくとも1種以上添加されていることが、同様の観点からより更に好ましい。
【0086】
また、負極活物質は、Alだけでなく、Mg、Zn、Sn、Fe、及び、Pbを用いることができる。この場合も、Al同様、表面の酸化被膜、自己腐食率、分極という観点から、合金とすることが好ましい。このような合金としては、Mg、Zn、Sn、Fe、及び、Pbの少なくとも二種以上の金属からなる合金であることが好ましいが、Mn、Ni、Cr、Ca、及び、Cuの少なくとも一種以上が含まれていることがより好ましい。そして、これらの合金にも、やはり、In、Ga、及び、Siの少なくとも一種以上の金属が含まれていることがより更に好ましい。このような金属を負極活物質として使用した場合、Alとイオン化傾向が異なるため、水系中性電解液に対する溶解性の問題が生じるものと予想されたが、PAA-Naを導入することによって生起しなかったものと考えられる。例えば、Znを負極活物質とした場合、[化5]に示すように、電解質中でAlと同様の反応が生起したものと考えられる。
【0087】
【0088】
しかし、
図1~3は、本発明の技術的根幹であるPAA-Naの分子量及び濃度が、Al空気電池の性能に影響を与え、それを向上させることを表現するものではない。本発明は、PAA-Naの分子量及び濃度には、
図2、[化4]、及び、[化5]の電極化学反応を活性化させる適正な範囲があり、また、高分子電解質の解離基の種類によって、これらの電極反応をより活性化させるものがあることを見出したことにその本質があり、その範囲を特定すると共に解離基の種類を明確にしたものである。この点については、後述する実施例に示す。
【0089】
一方、本発明における正極(空気極)A2は、従来のAl空気電池と同様に、酸素を活物質としており、水との濡れ性を有し、気体を透過し、電子を受け取って、気体と液体と固体で形成される三相界面で還元する導電性の固体物質であれば、特に限定されるものではない。
図2及び3では、多孔質炭素シート(東洋炭素(株)製クノーベル(登録商標))の酸素吸着体A2-1と、電気導電体と酸素吸着体A2-1の支持体としての機能を果たし、通気性を有するチタン(Ti)製メッシュ(エキスパンドメタル)の集電体A2-2との積層体を好ましい形態の代表例として示した。酸素吸着体A2-1としては、白金担持カーボン、活性炭やカーボンブラック等の炭素材料、ランタンマンガナイト等のペロブスカイト型複合酸化物、Mg低級酸化物、及び、これらの混合物等を用いることができる。特に、気体透過性があり、酸素還元能と導電性を有する活性炭やカーボンブラック等の炭素材料が好ましい。また、集電体A2-2としては、導電性が高く、脆い炭素材料を支持する強度を有し、通気性に優れた金属であれば、特に限定されない。例えば、Ni、ステンレス、Ti、Cr、Fe等の金属又はこれらの合金のメッシュ又は多孔質体であることがより好ましい。
【0090】
また、上記説明では、水系中性電解液の溶媒としては、水を代表例として挙げているが、水の代わりに、中性塩化物水溶液を使用することがより好ましい。この理由は、塩素イオン(Cl-)が電解液の電気的抵抗を低減する作用に基づいた、発電までの時間を短縮でき、初期発電量も大きくなるという効果を発現することにある。また、負極A1の不動態となった金属表面の酸化被膜を破壊し易くする作用にもその理由がある。その結果、中性塩化物の水溶液を採用することによって、負極活物質として、各種金属及び合金を幅広く選択することができる。
【0091】
中性塩化物は、特に限定されるものではないが、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化アルミニウム(AlCl3)、及び、塩化マンガン(MnCl2)等の塩化物を用いることが好ましい。特に、高分子電解質との組合せによる種々の効果を十分発現するためには、NaCl及びKClであることがより好ましい。そして、高分子電解質を使用することによって、陽イオンとして、Mg2+、Ca2+等、陰イオンとして、SO4
2-、HCO3-等を微量に含む海水を中性塩化物水溶液としてそのまま利用することもでき、地球に無尽蔵に存在する資源を用いることができるという大きな利点を有する。
【0092】
水は、イオン交換水、蒸留水等のイオンを含まない純水であることが望ましいが、水道水であっても問題はない。また、水の供給を満たせば良い為、雨水等を集水した水、海水、尿等も代用することができる。特に、尿は、微量ながらアンモニア(NH3)を含み、後述する金属空気電池の全反応において、水酸化物の溶解に寄与し、中性水よりも好ましい上、災害時等に利用することができるという利点がある。
【0093】
高分子電解質は、特に限定されるものではないが、水に対する溶解性と、上記中性塩化物であるNaCl及びKClを溶解した水溶液との組合せによる種々の効果を十分発現するためには、アニオン性高分子電解質のNa塩及びK塩であることが好ましい。
【0094】
特に、アニオン性高分子電解質としては、ポリカルボン酸塩、ポリスルホン酸塩、ポリ(カルボン酸-スルホン酸)塩の中から選択されるいずれか一つ以上含有していれば、特に限定されるものではない。
【0095】
更に、ポリカルボン酸塩としては、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸共重合体塩、ポリメタクリル酸塩、ポリメタクリル酸共重合体塩、ポリ(アクリル酸-ポリメタクリル酸)共重合体塩、無水マレイン酸共重合体塩、カルボキシメチルセルロース塩、及び、アルギン酸塩であることが好ましく、ポリスルホン酸塩としては、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリスチレンスルホン酸共重合体塩、及び、ポリナフタレンスルホン酸塩であることが好ましい。
【0096】
そして、ポリアクリル酸共重合体塩、ポリメタクリル酸共重合体塩、ポリ(アクリル酸-ポリメタクリル酸)共重合体塩、無水マレイン酸共重合体塩、及び、ポリスチレンスルホン酸共重合体塩の共重合体成分としては、アクリル酸塩、アクリル酸、メタクリル酸塩、メタクリル酸、スチレンスルホン酸塩、スチレンスルホン酸、マレイン酸塩、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸エステル、フマル酸塩、フマル酸、フマル酸エステル、イタコン酸塩、イタコン酸、イタコン酸エステル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン、及び、酢酸ビニル等を挙げることができる。
【0097】
高分子電解質は、電極化学反応だけでなく、電解液を適度なゲル状にし、簡易な構造で、液漏れがなく、メカニカルチャージが容易な金属空気燃料電池を構成することができるという利点もある。
【0098】
以上、本発明のアニオン性高分子電解質を溶解した水系中性電解液、及び、それを用いた金属空気電池の特徴を説明してきた。しかし、本発明の技術的本質は、水系中性電解液に含有させるアニオン性高分子電解質の分子量及び濃度、並びに、アニオン性高分子電解質の解離基の種類が、電極化学反応を促進し、金属空気電池の性能を向上させることにあるので、以下、この点について具体例を挙げて説明する。
【0099】
アニオン性高分電解質は、段落[0034]、並びに、段落[0078]~[0083]に記載したような作用効果があり、これらを高めるためには、H+が結合したアニオン性高分子電解質の酸性度が高い程好ましいと考えられる。そのため、アニオン性高分子電解質の濃度を高める必要があるが、アニオン性高分子電解質の分子量が大き過ぎると、溶解性が低下して、濃度を高めることが困難になると共に、電解液の粘度が高くなり過ぎ、負極金属の溶解の弊害となる。しかし、電解液の粘度が低すぎると、水素ガスの発生及び解離したカチオンの移動を抑止する上で弊害となると共に、金属空気電池からの電解液の漏洩を促進することになる。従って、アニオン性高分子電解質には、最適な分子量と濃度が必要であり、種々検討した結果、アニオン性高分子電解質の分子量は、重量平均分子量で1,000~5,000であることが好ましく、その濃度は、3.0~10.0重量%であることが好ましいことを見出した。
【0100】
ここで、特に留意すべきことは分子量にある。既に、特許文献9及び10には、
「数平均分子量が、1,000~700,000程度のものを用いることができるが、上記ゲル状としてより好ましい数平均分子量としては、10,000~200,000で、20,000~80,000であることがより更に好ましい。」と記載されている。この記載から、本発明が特定する重量平均分子量1,000~5,000が、既に開示されているように誤解される可能性がある。
【0101】
しかしながら、以下の通り、本発明の特徴が、上記特許文献の記載によって損なわれるものではない。
【0102】
第一の理由は、高分子のように、多分子(多分散)性分子の場合、数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)との定義の違いに基づき、MnとMwとが同一の高分子物質であったとしても、その物質に占める分子量の異なる高分子の質量の割合が大きく異なるため、Mwで限定された高分子とMnで限定された高分子とは全く異なる分子量分布を持ち、全く異なる物性の高分子物質であることにある。[数1]に示すMn及びMwの定義から明らかなように、分子数が同じ高分子物質の場合、あるMnの高分子物質は、実際にその高分子物質を占める質量の割合が多い高分子の分子量は、あるMnよりも大きく、その高分子物質の物性を示す指標とはならない。逆に、あるMwの高分子物質は、実際にその高分子物質を占める質量の割合が多い高分子の分子量は、Mwと一致しており、その高分子物質の物性を示す指標となっている。
【0103】
【0104】
従って、特許文献9及び10のMwの下限値は、1,000よりはるかに大きな数値となり、不明確であるため、本発明の限定値は有効なものである。
【0105】
第二に、特許文献9及び10のMw不明確ではあるが、Mnの範囲の中で効果的な働きをするMnは、「10,000~200,000で、20,000~80,000であることがより更に好ましい。」という記載があり、これらは、Mwで表現すれば、これらの数値以上にシフトするため、本発明のMwとは全く異なる領域が開示されており、本発明によって初めて金属空気電池の電解液のアニオン性高分子電解質に最適な重量平均分子量の領域が見出されたと考えることが妥当である。
【0106】
一方、アニオン性高分子電解質の解離基の種類についても、段落[0034]、並びに、段落[0078]~[0083]に記載したような作用効果があり、この作用効果を高めるためには、H+が結合したアニオン性高分子電解質の酸性度が高い程好ましいと考えられる。従って、アニオン性高分子電解質の解離基としては、解離し易く、H+と結合した高分子電解質の酸性度が高いスルホン酸塩がカルボン酸塩よりも好ましい。特に、負極金属の溶解を促進するためには、酸性度の高いスルホン酸塩が多い程好ましい。
【0107】
このような本発明のアニオン性高分子電解質の分子量、濃度、及び、解離基の種類の効果を、以下の実施例で説明する。
【実施例】
【0108】
以下、本発明の金属空気電池用水系中性電解液及びそれを用いた金属空気電池の実施例として、負極A1としてA5052Al合金、正極A2として多孔質炭素シートA2-1と集電体A2-2との積層体を用いた場合の5つの具体例について説明する。しかし、本発明の金属空気電池用水系中性電解液及びそれを用いた金属空気電池は、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で、水系中性電解液、負極、正極等、種々変更して実施することが可能であり、実施例によって限定されるものではない。
【0109】
評価用水系中性電解液は、以下のようにして作製され、それぞれ、電解液1~6とした。
【0110】
(電解液1)
所定量のNaCl60.3gと純水939.7gとを混合し、NaClを溶解することにより、6.0重量%NaCl水溶液が作製された。この水溶液とMw=16,000のPAA-Naとを、重量比で95/5となるように混合し、PAA-Naを溶解することにより、電解液1が作製された。
【0111】
(電解液2)
上記6.0重量%NaCl水溶液とMw=2,000のPAA-Naとを、重量比で98/2となるように混合し、PAA-Naを溶解することにより、電解液2が作製された。
【0112】
(電解液3)
上記6.0重量%NaCl水溶液とMw=2,000のポリアクリル酸ナトリウムとを、重量比で97/3となるように混合し、PAA-Naを溶解することにより、電解液3が作製された。
【0113】
(電解液4)
上記6.0重量%NaCl水溶液とMw=2,000のPAA-Naとを、重量比で90/10となるように混合し、PAA-Naを溶解することにより、電解液4が作製された。
【0114】
(電解液5)
上記6.0重量%NaCl水溶液とMw=1,000のポリスチレンスルホン酸ナトリウムとを、重量比で95/5となるように混合し、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解することにより、電解液5が作製された。
【0115】
(電解液6)
上記6.0重量%NaCl水溶液とMw=4,600のポリスチレンスルホン酸ナトリウムとを、重量比で95/5となるように混合しポリスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解することにより、電解液6が作製された。
【0116】
(電解液7)
純水とMw=1,000のポリスチレンスルホン酸ナトリウムとを、重量比で95/5となるように混合しポリスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解することにより、電解液7が作製された。
【0117】
評価用Al空気電池は、以下のような手順で、
図3に示した形状となるように組み立てられた。
【0118】
(負極1の作製)
厚さ1mmのAl合金(A5052)板を縦50mm×横30mmに切断し、ワニ口クリップコードをリード線5として負極1を作製した。
【0119】
(正極2の作製)
厚さ0.1mmのチタン製エキスパンドメタル(日健ラス工業(株)製)を縦40mm×横30mmに切断した集電体2-2と、多孔質炭素シート(東洋炭素(株)製)を縦40mm×横30mmに切断した酸素吸着体2-1とを密着固定し、ワニ口クリップコードをリード線5として正極2を作製した。
【0120】
(Al空気電池Aの組立)
本発明の一実施形態に係るAl空気電池Aを
図3に示す。正極2は、直方体ポリエチレン(PE)製容器6の電極を固定しない両側面端から10mmのところにゴム系接着剤で固定された。負極1は、正極2に対峙し、正極2と30mmの間隔を設けてゴム系接着剤で固定した。そして、水系中性電解液3を注入してAl空気電池Aを作製した。
【0121】
(放電特性の評価)
各種電解液が注入されたAl空気電池Aの電極間に33Ωの抵抗を接続し、3日間の連続放電を行って得られた放電特性を評価した。その結果は表1に示す。
【0122】
<比較例1>
電解液1を注入したAl空気電池Aを用いた。
<比較例2>
電解液2を注入したAl空気電池Aを用いた。
≪実施例1≫
電解液3を注入したAl空気電池Aを用いた。
≪実施例2≫
電解液4を注入したAl空気電池Aを用いた。
≪実施例3≫
電解液5を注入したAl空気電池Aを用いた。
≪実施例4≫
電解液6を注入したAl空気電池Aを用いた。
≪実施例5≫
電解液7を注入したAl空気電池Aを用いた。
【0123】
【0124】
表1から明らかなように、比較例1のMw=16,000を5.0重量%を含有する水系中性電解液、及び、比較例2のMw=2,000を2.0重量%を含有する水系中性電解液を使用したAl空気電池よりも、本発明のアニオン性高分子電解質を用いた水系中性電解液を使用したAl空気電池の方が、20%以上の性能向上が認められた。特に、実施例3~5の解離基としてスルホン酸Naを有するアニオン性高分子電解質を用いた水系中性電解液は飛躍的にAl空気電池の性能を向上させることができた。
【0125】
次いで、本発明の金属空気電池を用いた、金属空気電池発電システム、電力自給自足システム、電力自給自足型据置式家電機器及び据置式大気水生成機器集積システム、及び、電力自給自足型携帯式家電機器及び携帯式大気水生成機器集積システムについて、図面を用い詳細に説明するが、図面に描かれた一実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想によってのみ限定されるものである。
【0126】
図4には、本発明の一実施形態に係る、金属空気電池発電システムB及び電力自給自足システムを利用した電力自給自足型据置式家電機器及び据置式大気水生成機器集積システムCが模式的に描かれている。
【0127】
そして、金属空気発電システムBは、発電及び蓄電システムB1と集水機器B2とが、集水機器から金属空気電池への給水制御部B3で接続されて構成されている。
【0128】
更に、この発電及び蓄電システムB1には、センサー部及び情報通信部B3が内設された金属空気電池B1-1とセンサー部及び情報通信部B3が内設された蓄電池B1-2とが、金属空気電池B1-1から蓄電池B1-2への給電制御部B1-3により接続され内設されていると共に、金属空気電池B1と蓄電池B2との給電切換制御部B4が内設されている。
【0129】
一方、集水機器B2は、センサー部及び情報通信部B4が内設された雨水を集水する第一の集水器B2-11、センサー部及び情報通信部B4が内設された大気中の水分を凝縮させて集水する第二の集水器B2-12、センサー部及び情報通信部B4が内設された水分吸着材を用いて空気中の水分を集水する第三の集水器B2―13が、それぞれ、第一の切換制御部B2-111、第二の切換制御部B2-121、及び、第三の切換制御部B2-131を介して、センサー部及び情報通信部B4が内設された第一の貯水部B2-1と接続されており、更に、第一の貯水部B2-1及び上水道1が、第四の切換制御部B2―21を介して、センサー部及び情報通信部B4が内設された第二の貯水部B2-2と接続されている。
【0130】
このように構成された金属空気発電システムBは、金属空気電池B1-1、蓄電池B1-2、第一の集水器B2-11、第二の集水器B2-12、及び、第三の集水器B2―13に内設されたセンサー部B4によって収集される金属空気電池関連状態情報の蓄積情報を(図示されていない)第一の機械学習コンピューターが学習した解析結果に基づき、金属空気電池B1-1及び蓄電池B1-2の給電量、蓄電池B1-2の蓄電量、並びに、各集水器B2-11~2-13の給水量及び各貯水部B2-1~2-2の貯水量を把握し、第一の切換制御部B2-111、第二の切換制御部B2-121、及び、第三の切換制御部B2-131が自動的に制御されると共に、集水機器B2から発電及び蓄電システムB1に供給される給水量も自動式制御で動作される。ただし、センサー部B4によって収集される金属空気電池関連状態情報全てが、(図示されていない)第一の携帯端末で把握できるように通信網が形成され、その携帯端末で管理されるので、上記全ての制御は手動式制御で行うことも可能である。
【0131】
この金属空気発電システムBと商用電源2との第一の切換制御部C1を介して電力供給網及び水力供給網の配設領域C3に配設される各種据置式家電機器C3-1~3-9及び据置式大気水生成機器C4とが有機的に接続され、電力自給自足型据置式家電機器及び据置式大気水生成機器集積システムCが構成される。
【0132】
このように、金属空気発電システムBと商用電源2との第一の切換制御部C1を介して電力供給網及び水力供給網の配設領域C3に配設される各種据置式家電機器C3-1~3-9及び据置式大気水生成機器C4とが接続されることによって、災害や工事等の不慮の停電及び断水に対し、手動式制御による金属空気発電システムBに切り換え、住宅内の各据置式家電機器C3-1~3-9及び据置式大気水生成機器C4に電力が供給されるので、電気及び飲料水を自給自足することができる。
【0133】
その上、各種据置式家電機器C3-1~3-9及び据置式大気水生成機器C4には、それぞれ、センサー部、情報通信部、及び、動作制御部C3-10、C4-1が内設されているので、金属空気発電システムBの各センサー部B4で収集された金属空気電池関連状態情報の蓄積情報と、据置式家電機器C3-1~3-9に内設された各センサー部C3-10及び据置式大気水生成機器C4に内設されたセンサー部C4-1で収集された据置式家電機器状態情報の蓄積情報とが、(図示されていない)第一又は第二の機械学習コンピュータに送信され、その機械学習コンピューターの解析結果に基づいて、金属空気発電システムBと商用電源2との第一の切換制御部C1が自動的に制御されることができ、各種据置式家電機器C3-1~3-9及び据置式大気水生成機器C4の使用状況に応じたクリーンエネルギーの有効利用が実現される。しかも、この機械学習コンピューターの解析は、各種据置式家電機器C3-1~3-9及び据置式大気水生成機器C4の使用状況を把握し、それらの使用条件を予測可能であるため、これらを稼働する日時、時間、及び、条件等を自動的に設定し、動作することができる。
【0134】
また、据置式家電機器C3-1~3-9に内設された各センサー部C3-10及び据置式大気水生成機器C4に内設されたセンサー部C4-1で収集された据置式家電機器状態情報の蓄積情報は、据置式家電機器C3-1~3-9に内設された各情報通信部C3-10及び据置式大気水生成機器C4に内設された情報通信部C4-1を介して、(図示されていない)第一又は第二の携帯端末に送信されるので、その携帯端末により手動式制御を行うこともでき、日常外の使用条件を設定することにも対応できる。
【0135】
電力自給自足型据置式家電機器及び据置式大気水生成機器集積システムCは、携帯式家電機器及び携帯式大気水生成機器にも応用することができる。
図5は、金属空気発電システムBと商用電源2との第二の切換制御部D1を介して、各種携帯機器D2~7とが接続される電力自給自足型携帯式家電機器及び携帯式大気水生成機器集積システムDの概要模式図である。
【0136】
この電力自給自足型携帯式家電機器及び携帯式大気水生成機器集積システムDの各種携帯機器D2~7にも、それぞれ、センサー部、情報通信部、及び、動作制御部D8が内設されており、(図示されていない)第一~三の携帯端末、並びに、(図示されていない)第一~三の機械学習コンピューターを利用して、電力自給自足型据置式家電機器及び据置式大気水生成機器集積システムCと全く同様の制御及び動作を行うことが可能である。
【0137】
特に、本発明の電力自給自足型携帯式家電機器及び携帯式大気水生成機器集積システムDは、災害時の避難場所等において、金属空気発電システムBから供給された電力が蓄電されたポータブル電源D2を用い、電気ランタンD3をはじめとして避難場所で必要とされるポータブル家電製品をD4~D7を使用することができる上、人間が生命を維持する上で最も重要な飲料水が、ポータブル大気水生成器D7-1で生成され、ポータブルウォーターサーバーD7から供給されることが可能となる。従って、このシステムは、避難場所の生活で必要とされるライフラインの中でも重要な電気、水、及び、通信を確保できる。
【0138】
一方、人間が本能的に求める屋外活動であるアウトドア・アクティビティにおいても同様に、電気及び水が供給され、様々な状況に応じたアウトドア・アクティビティを楽しむことができる。
【0139】
その上、電力自給自足型携帯式家電機器及び携帯式大気水生成機器集積システムDを、キャスター等を備えた可動式ラックに収容したシステムとすれば、避難場所での生活及びアウトドア・アクティビティに必要な機器を一括して持ち運ぶことができる。
【0140】
すなわち、据置式及び携帯式に関わらず、本発明の電力自給自足システムは、金属空気発電システムと商用電源との切換制御部が、手動式及び自動式いずれの方法によっても制御され動作が実行され、自然環境破壊から守り、持続可能な開発目標を達成するために貢献することができる。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明の金属空気電池によれば、自己放電や分極等の問題が解決され、エネルギー密度、電圧、寿命等の電池性能に優れており、メカニカルチャージに適している上、液漏れ、発火・爆発、火傷等の心配がない安全性の高い金属空気電池及び金属空気燃料電池が提供される。そのため、本発明の金属空気電池及び金属空気燃料電池は、一次電池だけでなく、リチウムイオン電池に代わる革新的二次電池として、パソコンや携帯電話等のあらゆる携帯機器等はいうまでもなく、電気自動車の電源、震災等の緊急時のライフライン確保のための非常用電源、定置用電力貯蔵等様々な用途に適用できる可能性がある。しかも、雨水等の集水された水、海水、尿等を利用できるためであり、特に、船舶や沿岸地域の電源として利用することが期待される。
【0142】
一方、本発明の金属空気電池を用いた金属空気発電システム、この金属空気発電システムを利用した住宅や各種施設の電力自給自足システム、更には、このシステムを活用し、住宅や各種施設における電力自給自足型機器集積システム、特に、住宅の家電機器及び大気水生成機器を家庭内外において効率的かつ効果的に使用することができるように構築された電力自給自足型家電機器及び大気水生成機器集積システムは、据置式及び携帯式に関わらず、地震及び台風等の天災、並びに、工事及び事故等の人災による不慮の停電や断水に対応することが可能である上、本発明の金属空気発電システムが創出するクリーンエネルギーを有効に利用できる電気及び水の自給自足システムを提供し、自然環境破壊から守り、持続可能な開発目標を達成するために貢献することができるので、これらの産業上の利用可能性は極めて高い。
【符号の説明】
【0143】
A Al空気電池
A1 負極(A5052合金)
A2 正極(空気極)
A2-1 酸素吸着体(多孔質炭素シート)
A2-2 集電体(チタン製エキスパンドメタル)
A3 PAA-Na水溶液
A4 電球
A5 リード線
A6 PE製容器
B 金属空気電池発電システム
B1 発電及び蓄電システム
B1-1 金属空気電池
B1-2 蓄電池
B1-3 金属空気電池から蓄電池への給電制御部
B1-4 金属空気電池と蓄電池との給電切換制御部
B2 集水機器
B2-1 第一の貯水部
B2-11 雨水を集水する第一の集水器
B2-111 第一の切換制御部
B2-12 大気中の水分を凝縮させて集水する第二の集水器
B2-121 第二の切換制御部
B2―13 水分吸着材を用いて空気中の水分を集水する第三の集水器
B2-131 第三の切換制御部
B2-2 第二の貯水部
B2―21 第四の切換制御部
B3 集水機器から金属空気電池への給水制御部
B4 金属空気電池、蓄電池、及び、各集水器のセンサー部及び情報通信部
C 電力自給自足型据置式家電機器及び据置式大気水生成機器集積システム
C1 金属空気発電システムと商用電源との第一の切換制御部
C2 配電盤
C3 電力供給網及び水力供給網の配設領域
C3-1 電灯
C3-2 冷蔵庫
C3-3 エアーコンディショナー
C3-4 テレビ兼パーソナルコンピューター
C3-5 コンポーネントステレオ
C3-6 空気清浄機
C3-7 洗濯機
C3-8 ドリンクサーバー
C3-9 風呂
C3-10 各家電及び風呂のセンサー部、情報通信部、及び、動作制御部
C4 大気水生成器
C4-1 大気水生成器のセンサー部、情報通信部、及び、動作制御部
D 電力自給自足型携帯式家電機器及び携帯式大気水生成機器集積システム
D1 金属空気発電システムと商用電源との第二の切換制御部
D2 ポータブル電源
D3 電気ランタン
D4 電気コンロ
D5 ポータブルステレオ
D6 ポータブル冷蔵庫
D7 ポータブルウォーターサーバー
D7-1 ポータブル大気水生成器
D8 携帯機器のセンサー部、情報通信部、及び、動作制御部
1 上水道
2 商用電源
【要約】 (修正有)
【課題】自己放電や分極等の問題を解決し、エネルギー密度や電圧等の電池性能に優れ、寿命が長く、安全性の高い金属空気電池となる水系中性電解液及びその電解液を用いた金属空気電池を提供する。
【解決手段】重量平均分子量が1,000~5,000のアニオン性高分子電解質が、水又は中性塩化物水溶液に3.0~10.0重量%溶解されていることを特徴とする金属空気電池用の水系中性電解液、該電解液を用いた金属空気電池を提供する。また、本発明の金属空気電池を蓄電池及び集水機器とを統合し、自給自足型発電システムを据置式及び携帯式の家電機器及び大気水生成機器と集積した、電力自給自足型機器集積システムを提供する。
【選択図】
図4