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特許6997483充電器を含む模擬電池制御システム及び模擬電池制御方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】充電器を含む模擬電池制御システム及び模擬電池制御方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/367 20190101AFI20220107BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20220107BHJP
   G01R 31/392 20190101ALI20220107BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20220107BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20220107BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
G01R31/367
G01R31/389
G01R31/392
H01M10/44 P
H01M10/48 P
H02J7/00 Q
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021093573
(22)【出願日】2021-06-03
(62)【分割の表示】P 2020007037の分割
【原出願日】2020-01-20
(65)【公開番号】P2021128172
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2021-06-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】595098011
【氏名又は名称】東洋システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宗像 一郎
(72)【発明者】
【氏名】庄司 秀樹
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-122917(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108241125(CN,A)
【文献】国際公開第2019/187264(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101908657(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0307572(US,A1)
【文献】特許第6842213(JP,B1)
【文献】特許第6887700(JP,B1)
【文献】特許第6944208(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36-31/396
H01M 10/48
H01M 10/44
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源としての二次電池が搭載される電子機器と、
前記電子機器に接続される充電器と、
を備えている模擬電池制御システムであって、
前記充電器が模擬電池と、
模擬電池制御装置との通信に基づき、前記二次電池の出力電圧の電流依存性を表わす二次電池モデルのパラメータの値を、前記模擬電池制御装置を構成する第1制御要素に同定させる第1充電器制御要素と、
前記模擬電池制御装置との通信に基づき、前記模擬電池制御装置を構成する第2制御要素に、前記電子機器が有する指定負荷の電流目標値である指令電流値の時系列を認識させ、前記第1制御要素により前記パラメータの値が認識された前記二次電池モデルに対して、当該指令電流値の時系列が入力された際に当該二次電池モデルから出力される電圧の変化態様としてのモデル出力電圧を算定させる第2充電器制御要素と、
前記模擬電池制御装置との通信に基づき、前記第2制御要素により算定された前記モデル出力電圧を前記模擬電池から前記電子機器の指定負荷に対して印加させる第3充電器制御要素と、を備えていることを特徴とする模擬電池制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の模擬電池制御システムにおいて、
模擬電池制御システムが前記模擬電池制御装置をさらに備え、
前記模擬電池制御装置が前記電子機器との通信に基づき、前記電子機器に電源として搭載されているまたは搭載される前記二次電池の出力電圧の電流依存性を表わす前記二次電池モデルのパラメータの値を同定する前記第1制御要素と、
前記電子機器との通信に基づき、前記電子機器が有する指定負荷の電流目標値である指令電流値の時系列を認識し、前記第1制御要素により前記パラメータの値が認識された前記二次電池モデルに対して、当該指令電流値の時系列が入力された際に当該二次電池モデルから出力される電圧の変化態様としてのモデル出力電圧を算定する前記第2制御要素と、
前記充電器との通信に基づき、前記充電器に搭載されている模擬電池に、前記第2制御要素により算定された前記モデル出力電圧を前記電子機器の指定負荷に対して印加させる第3制御要素と、を備えていることを特徴とする模擬電池制御システム。
【請求項3】
請求項に記載の模擬電池制御システムにおいて、
前記第1制御要素が、前記電子機器との通信に基づき、前記二次電池の劣化度を認識し、かつ、当該劣化度の相違に応じた値を前記二次電池モデルのパラメータの値として同定することを特徴とする模擬電池制御システム。
【請求項4】
請求項~3のうちいずれか1項に記載の模擬電池制御システムにおいて、
前記第1制御要素が、前記電子機器との通信に基づき、前記電子機器の温度の計測結果を認識し、または、前記充電器との通信に基づき、前記模擬電池の温度の計測結果を認識し、かつ、当該温度の計測結果の相違に応じた値を前記二次電池モデルのパラメータの値として同定することを特徴とする模擬電池制御システム。
【請求項5】
請求項~4のうちいずれか1項に記載の模擬電池制御システムにおいて、
前記電子機器の入力インターフェースを通じて第1指定操作があったことを要件として、前記第1制御要素が前記二次電池モデルのパラメータの値を同定し、かつ、前記第2制御要素が前記モデル出力電圧を算定することを特徴とする模擬電池制御システム。
【請求項6】
請求項5記載の模擬電池制御システムにおいて、
前記第1指定操作として前記電子機器の前記入力インターフェースを通じて電源OFF操作があったことを要件として、前記第1制御要素が前記二次電池モデルのパラメータの値を同定し、かつ、前記第2制御要素が前記モデル出力電圧を算定することを特徴とする模擬電池制御システム。
【請求項7】
請求項~6のうちいずれか1項に記載の模擬電池制御システムにおいて、
前記電子機器が前記充電器に対して接続されたことを要件として、前記第1制御要素が前記二次電池モデルのパラメータの値を同定し、かつ、前記第2制御要素が前記モデル出力電圧を算定することを特徴とする模擬電池制御システム。
【請求項8】
請求項~7のうちいずれか1項に記載の模擬電池制御システムにおいて、
前記第3制御要素が、前記模擬電池に前記第2制御要素により算定された前記モデル出力電圧を前記電子機器の前記指定負荷に対して印加させた際の、前記指定負荷の動作特性に関する情報を前記電子機器の出力インターフェースに出力させることを特徴とする模擬電池制御システム。
【請求項9】
請求項8記載の模擬電池制御システムにおいて、
前記電子機器の入力インターフェースを通じて第2指定操作があったことを要件として、前記第3制御要素が、前記電子機器との通信に基づき、前記出力インターフェースに前記指定負荷の動作特性に関する情報を出力させることを特徴とする模擬電池制御システム。
【請求項10】
請求項9記載の模擬電池制御システムにおいて、
前記電子機器の入力インターフェースを通じて、前記第2指定操作として前記出力インターフェースのスリープ状態の解除操作があったことを要件として、前記第3制御要素が、前記電子機器との通信に基づき、前記出力インターフェースに前記指定負荷の動作特性に関する情報を出力させることを特徴とする模擬電池制御システム。
【請求項11】
請求項~10のうちいずれか1項に記載の模擬電池制御システムにおいて、
前記模擬電池が、前記充電器に対して取り外し可能に搭載され、前記二次電池の代替電池として、前記電子機器に搭載可能に構成されていることを特徴とする模擬電池制御システム。
【請求項12】
電源としての二次電池が搭載される電子機器と、
前記電子機器に接続される充電器と、を備え、
前記充電器に模擬電池が搭載されている模擬電池制御システムにおいて、
前記充電器が実行する方法であって、
模擬電池制御装置との通信に基づき、二次電池の出力電圧の電流依存性を表わす二次電池モデルのパラメータの値を同定する第1充電器制御工程と、
前記模擬電池制御装置との通信に基づき、前記電子機器が有する指定負荷の電流目標値である指令電流値の時系列を認識し、前記第1充電器制御工程において前記パラメータの値が認識された前記二次電池モデルに対して、当該指令電流値の時系列が入力された際に当該二次電池モデルから出力される電圧の変化態様としてのモデル出力電圧を算定する第2充電器制御工程と、
前記模擬電池制御装置との通信に基づき、前記第2充電器制御工程において算定された前記モデル出力電圧を前記模擬電池から前記電子機器の指定負荷に対して印加させる第3充電器制御工程と、を備えていることを特徴とする模擬電池制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオンバッテリ等の二次電池の性能を模擬する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池の内部抵抗を抵抗RとキャパシタCの並列回路を多段に接続して等価回路を構成し、電流-電圧の挙動波形の変化を論じている。しかしながら電圧の数秒以上の過渡応答波形を説明するには時定数要素としてのキャパシタ容量値が数100Fから数1000Fの値を用いざるを得ない。このような値は、電池のAC特性の評価方法であるACインピーダンスとその等価回路モデルとは対応できない数値であり、電池の性状を再現しているとは言いがたい。
【0003】
二次電池の特性項目として内部抵抗がある。たとえばリチウムイオン二次電池(以下LIB二次電池)においては、電池内部における電極反応、SEI反応、イオンの拡散反応等複雑な化学反応が絡み合って生じているため、電池電圧の挙動も内部抵抗を単なる直流抵抗と見なしてオームの法則を適用できる類いではない。
【0004】
電池の内部抵抗を強化する方法としては、従来より周波数応答解析法(FRA: Frequency Response Analysis)に基づくACインピーダンス解析法がよく知られており、様々な内部反応を等価回路のモデルを適用して、いくつかの時定数要素に分解して解釈する方法が確立している。電池の秒のオーダーの挙動はワールブルグ(Warburg)抵抗としての拡散現象が支配的影響を占めており、このワールブルグ抵抗を如何に動作モデルとして組み込めるかが、モデルとしての性能を決定している。ACインピーダンス測定を行うには周波数応答アナライザ(FRA)のような専用装置が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5924617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、実用時には二次電池は負荷と接続されており、充電および放電の繰り返しが行われており、その場合には二次電池の状態を知るための基礎情報としては電圧、電流および温度のみが測定される。このような状況下において、電池の出力電圧は内部抵抗に影響され、また内部抵抗自体も温度条件または電池の劣化度によって変化しており、実動作状態の電池の特性を精度よく再現する手段が必要とされていた。
【0007】
そこで、本発明は、模擬電池による二次電池の特性の様々な条件下での再現の利便性の向上を図りうる装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
電源としての二次電池が搭載される電子機器と、
前記電子機器に接続される充電器と、
を備えている模擬電池制御システムであって、
前記充電器が模擬電池と、
模擬電池制御装置との通信に基づき、前記二次電池の出力電圧の電流依存性を表わす二次電池モデルのパラメータの値を、前記模擬電池制御装置を構成する第1制御要素に同定させる第1充電器制御要素と、
前記模擬電池制御装置との通信に基づき、前記模擬電池制御装置を構成する第2制御要素に、前記電子機器が有する指定負荷の電流目標値である指令電流値の時系列を認識させ、前記第1制御要素により前記パラメータの値が認識された前記二次電池モデルに対して、当該指令電流値の時系列が入力された際に当該二次電池モデルから出力される電圧の変化態様としてのモデル出力電圧を算定させる第2充電器制御要素と、
前記模擬電池制御装置との通信に基づき、前記第2制御要素により算定された前記モデル出力電圧を前記模擬電池から前記電子機器の指定負荷に対して印加させる第3充電器制御要素と、を備えていることを特徴とする模擬電池制御システム。
本発明に係る模擬電池制御装置は、電子機器との通信に基づき、前記電子機器に電源として搭載されているまたは搭載される二次電池の出力電圧の電流依存性を表わす二次電池モデルのパラメータの値を同定する第1制御要素と、前記電子機器との通信に基づき、指令電流値の時系列を認識し、前記第1制御要素により前記パラメータの値が認識された前記二次電池モデルに対して、当該指令電流値の時系列が入力された際に当該二次電池モデルから出力される電圧の変化態様としてのモデル出力電圧を算定する第2制御要素と、前記電子機器または前記二次電池の充電との通信に基づき、前記電子機器または前記充電器に搭載されている模擬電池に、前記第2制御要素により算定された前記モデル出力電圧を前記電子機器の指定負荷に対して印加させる第3制御要素と、を備えていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る模擬電池制御方法は、電子機器との通信に基づき、前記電子機器に電源として搭載されているまたは搭載される二次電池の出力電圧の電流依存性を表わす二次電池モデルのパラメータの値を同定する第1制御工程と、前記電子機器との通信に基づき、指令電流値の時系列を認識し、前記第1制御工程において前記パラメータの値が認識された前記二次電池モデルに対して、当該指令電流値の時系列が入力された際に当該二次電池モデルから出力される電圧の変化態様としてのモデル出力電圧を算定する第2制御工程と、前記電子機器または前記二次電池の充電用電源としての電源装置との通信に基づき、前記電子機器または前記電源装置に搭載されている模擬電池に、前記第2制御工程において算定された前記モデル出力電圧を前記電子機器の指定負荷に対して印加させる第3制御工程と、を備えていることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る電子機器は、電源としての二次電池が搭載される電子機器であって、模擬電池と、指定負荷と、模擬電池制御装置との通信に基づき、前記二次電池の出力電圧の電流依存性を表わす二次電池モデルのパラメータの値を、前記模擬電池制御装置を構成する第1制御要素に同定させる第1機器制御要素と、前記模擬電池制御装置との通信に基づき、前記模擬電池制御装置を構成する第2制御要素に、指令電流値の時系列を認識させ、前記第1構築処理要素により前記パラメータの値が認識された前記二次電池モデルに対して、当該指令電流値の時系列が入力された際に当該二次電池モデルから出力される電圧の変化態様としてのモデル出力電圧を算定させる第2機器制御要素と、前記模擬電池制御装置との通信に基づき、前記第2制御要素により算定された前記モデル出力電圧を前記模擬電池から前記指定負荷に対して印加させる第3機器制御要素と、を備えていることを特徴とする。
【0011】
本発明の電子機器において、前記第1機器制御要素が、前記模擬電池制御装置との通信に基づき、前記第1制御要素に前記二次電池の劣化度を認識させ、かつ、当該劣化度の相違に応じた値を前記二次電池モデルのパラメータの値として同定させることが好ましい。
【0012】
本発明の電子機器において、前記第1機器制御要素が、温度センサを用いて前記電子機器または前記模擬電池の温度を計測し、前記模擬電池制御装置との通信に基づき、前記第1制御要素に前記電子機器または前記模擬電池の温度の計測結果を認識させ、かつ、当該温度の計測結果の相違に応じた値を前記二次電池モデルのパラメータの値として同定させることが好ましい。
【0013】
本発明の電子機器において、前記電子機器の入力インターフェースを通じて第1指定操作があったことを要件として、前記第1機器制御要素が前記第1制御要素に前記二次電池モデルのパラメータの値を同定させ、かつ、前記第2機器制御要素が前記第2制御要素に前記モデル出力電圧を算定させることが好ましい。
【0014】
本発明の電子機器において、前記第1指定操作として前記電子機器の前記入力インターフェースを通じて電源OFF操作があったことを要件として、前記第1機器制御要素が前記第1制御要素に前記二次電池モデルのパラメータの値を同定させ、かつ、前記第2機器制御要素が前記第2制御要素に前記モデル出力電圧を算定させることが好ましい。
【0015】
本発明の電子機器において、前記電子機器が前記充電器に対して接続されたことを要件として、前記第1機器制御要素が前記第1制御要素に前記二次電池モデルのパラメータの値を同定させ、かつ、前記第2機器制御要素が前記第2制御要素に前記モデル出力電圧を算定させることが好ましい。
【0016】
本発明の電子機器において、前記第3機器制御要素が、前記模擬電池に前記第2制御要素により算定された前記モデル出力電圧を前記電子機器の前記指定負荷に対して印加させた際の、前記指定負荷の動作特性に関する情報を前記電子機器の出力インターフェースに出力させることが好ましい。
【0017】
本発明の電子機器において、前記電子機器の入力インターフェースを通じて第2指定操作があったことを要件として、前記第3機器制御要素が、前記模擬電池制御装置との通信に基づき、前記出力インターフェースに前記指定負荷の動作特性に関する情報を出力させることが好ましい。
【0018】
本発明の電子機器において、前記電子機器の入力インターフェースを通じて、前記第2指定操作として前記出力インターフェースのスリープ状態の解除操作があったことを要件として、前記第3機器制御要素が、前記模擬電池制御装置との通信に基づき、前記出力インターフェースに前記指定負荷の動作特性に関する情報を出力させることが好ましい。
【0019】
本発明の電子機器において、前記模擬電池を、前記二次電池の代替電池として搭載可能に構成されていることが好ましい。
【0020】
本発明に係る充電器は、電源としての二次電池が搭載される電子機器に接続される充電器であって、模擬電池と、模擬電池制御装置との通信に基づき、前記二次電池の出力電圧の電流依存性を表わす二次電池モデルのパラメータの値を、前記模擬電池制御装置を構成する第1制御要素に同定させる第1充電器制御要素と、前記模擬電池制御装置との通信に基づき、前記模擬電池制御装置を構成する第2制御要素に、指令電流値の時系列を認識させ、前記第1構築処理要素により前記パラメータの値が認識された前記二次電池モデルに対して、当該指令電流値の時系列が入力された際に当該二次電池モデルから出力される電圧の変化態様としてのモデル出力電圧を算定させる第2充電器制御要素と、前記模擬電池制御装置との通信に基づき、前記第2制御要素により算定された前記モデル出力電圧を前記模擬電池から前記電子機器の指定負荷に対して印加させる第3充電器制御要素と、を備えていることを特徴とする。
【0021】
本発明の充電器において、前記第1充電器制御要素が、前記模擬電池制御装置との通信に基づき、前記第1制御要素に前記二次電池の劣化度を認識させ、かつ、当該劣化度の相違に応じた値を前記二次電池モデルのパラメータの値として同定させることが好ましい。
【0022】
本発明の充電器において、前記第1充電器制御要素が、温度センサを用いて前記電子機器または前記模擬電池の温度を計測し、前記模擬電池制御装置との通信に基づき、前記第1制御要素に前記電子機器または前記模擬電池の温度の計測結果を認識させ、かつ、当該温度の計測結果の相違に応じた値を前記二次電池モデルのパラメータの値として同定させることが好ましい。
【0023】
本発明の充電器において、前記電子機器の入力インターフェースを通じて第1指定操作があったことを要件として、前記第1充電器制御要素が前記第1制御要素に前記二次電池モデルのパラメータの値を同定させ、かつ、前記第2充電器制御要素が前記第2制御要素に前記モデル出力電圧を算定させることが好ましい。
【0024】
本発明の充電器において、前記第1指定操作として前記電子機器の前記入力インターフェースを通じて電源OFF操作があったことを要件として、前記第1充電器制御要素が前記第1制御要素に前記二次電池モデルのパラメータの値を同定させ、かつ、前記第2充電器制御要素が前記第2制御要素に前記モデル出力電圧を算定させることが好ましい。
【0025】
本発明の充電器において、前記電子機器が前記充電器に対して接続されたことを要件として、前記第1充電器制御要素が前記第1制御要素に前記二次電池モデルのパラメータの値を同定させ、かつ、前記第2充電器制御要素が前記第2制御要素に前記モデル出力電圧を算定させることが好ましい。
【0026】
本発明の充電器において、前記第3充電器制御要素が、前記模擬電池に前記第2制御要素により算定された前記モデル出力電圧を前記電子機器の前記指定負荷に対して印加させた際の、前記指定負荷の動作特性に関する情報を前記電子機器の出力インターフェースに出力させることが好ましい。
【0027】
本発明の充電器において、前記電子機器の入力インターフェースを通じて第2指定操作があったことを要件として、前記第3充電器制御要素が、前記模擬電池制御装置との通信に基づき、前記出力インターフェースに前記指定負荷の動作特性に関する情報を出力させることが好ましい。
【0028】
本発明の充電器において、前記電子機器の入力インターフェースを通じて、前記第2指定操作として前記出力インターフェースのスリープ状態の解除操作があったことを要件として、前記第3充電器制御要素が、前記模擬電池制御装置との通信に基づき、前記出力インターフェースに前記指定負荷の動作特性に関する情報を出力させることが好ましい。
【0029】
本発明の充電器において、前記模擬電池が取り外し可能に搭載され、かつ、前記二次電池の代替電池として前記電子機器に搭載可能に構成されていることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の第1実施形態としての模擬電池制御システムの構成説明図。
図2】模擬電池の構成の一例に関する説明図。
図3】模擬電池制御方法の第1の手順を示すフローチャート。
図4】模擬電池制御方法の第2の手順を示すフローチャート。
図5】電流指令値から電圧指令値の計算結果に関する説明図。
図6】二次電池モデルの確立手順を示すフローチャート。
図7】二次電池のナイキストプロットに関する説明図。
図8】交流インピーダンス法に関する説明図。
図9A】二次電池の内部抵抗の等価回路の第1例示説明図。
図9B】二次電池の内部抵抗の等価回路の第2例示説明図。
図10A】IIRシステムの伝達関数を表わすダイヤグラム。
図10B】FIRシステムの伝達関数を表わすダイヤグラム。
図11】本発明の第2実施形態としての模擬電池制御システムの構成説明図。
図12A】インパルス電流に関する説明図。
図12B】二次電池および二次電池モデルの電圧応答特性に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(第1実施形態)
【0032】
(模擬電池制御システムの構成)
図1に示されている本発明の第1実施形態としての模擬電池制御システムは、ネットワークを介して相互通信可能な模擬電池制御装置100および電子機器200により構成されている。模擬電池制御装置100は、データベース10にアクセス可能な一または複数のサーバにより構成されている。模擬電池制御装置100は、電子機器200に電源として搭載されている二次電池240の性能を評価する。
【0033】
模擬電池制御装置100は、第1制御要素110、第2制御要素120および第3制御要素130を備えている。第1制御要素110、第2制御要素120および第3制御要素130のそれぞれは、プロセッサ(演算処理装置)、メモリ(記憶装置)およびI/O回路等により構成されている。
【0034】
メモリまたはこれとは別個の記憶装置には、電流(例えばインパルス電流)に対する二次電池240の電圧応答特性の測定結果などの様々なデータのほか、プログラムまたはソフトウェアが記憶保持されている。例えば、二次電池240またはこれが搭載されている電子機器200の種類(規格および諸元により特定される。)を識別するための複数の識別子のそれぞれと、複数の二次電池モデルのそれぞれとが対応付けられてメモリに記憶保持されている。プロセッサがメモリから必要なプログラムおよびデータを読み取り、当該データに基づき、当該プログラムにしたがった演算処理を実行することにより、各要素110、120および130のそれぞれに割り当てられた後述する演算処理またはタスクが実行される。
【0035】
電子機器200は、入力インターフェース202と、出力インターフェース204と、センサ群206と、機器制御装置220と、模擬電池230と、二次電池240と、指定負荷250と、を備えている。パソコン、携帯電話(スマートフォン)、家電製品または電動自転車等の移動体など、二次電池240を電源とするあらゆる機器が電子機器200に該当する。電子機器200が充電器400に対して、接続端子を介して接続され、または、ワイヤレス接続されることにより二次電池240が充電される。
【0036】
機器制御装置220は、第1機器制御要素221、第2機器制御要素222および第3機器制御要素223を備えている。第1機器制御要素221、第2機器制御要素222および第3機器制御要素223のそれぞれは、プロセッサ(演算処理装置)、メモリ(記憶装置)およびI/O回路等により構成されている。当該メモリまたはこれとは別個の記憶装置には、模擬電池識別子ID(m0)、模擬電池温度T(m1)および仮想劣化度D(m2)(図3/STEP214,216,218および220参照)などの様々なデータが記憶保持される。機器制御装置220は、二次電池240から供給電力に応じて作動し、通電状態において電子機器200の動作を制御する。
【0037】
各要素が情報を「認識する」とは、情報を受信すること、データベース10等の情報源から情報を検索することもしくは読み取ること、他の情報に基づいて情報を算定、推定等することなど、必要な情報を準備するあらゆる演算処理等を実行することを意味する。
【0038】
電子機器200の動作には、当該電子機器200を構成する指定負荷250としてのアクチュエータ(電動式アクチュエータなど)の動作が含まれる。機器制御装置220を構成するプロセッサがメモリから必要なプログラムおよびデータを読み取り、当該データに基づき、当該プログラムにしたがって割り当てられた演算処理を実行する。
【0039】
図2に示されているように、模擬電池230は、D/Aコンバータ231と、増幅器232と、を備えている。D/Aコンバータ231は、二次電池モデルから出力される電圧指令値Vcmd(t)が入力されると、これをD/A変換する。増幅器232は、D/Aコンバータ231からの出力に応じた電圧V(t)を電子機器200またはこれを構成する負荷に対して印加する。「(t)」は、時刻tにおける値または時系列を意味する。
【0040】
二次電池モデルに相当する計算器(第2制御要素120)は、計算器121と、モデルパラメータ設定要素122と、出力器123と、加算器124と、を備えている。計算器121は、電流指令値Icmd(t)が入力されると、模擬電池230の仮想的な内部抵抗に由来する出力電圧を算定する。計算器121の伝達関数Hを定義するパラメータの値は、模擬電池230により模擬される仮想的な二次電池の劣化度D(n2)に基づき、モデルパラメータ設定要素122により設定または変更される。出力器123は、模擬電池230の仮想的な開放電圧OCV(t)を出力する。加算器14は、計算器121および出力器123のそれぞれの出力を加算する。
【0041】
模擬電池230は、電子機器200が接続される商用電源などの外部電源によって構成されていてもよい。模擬電池230は、二次電池240に代えて電子機器200に搭載されてもよい。模擬電池230は、モデルパラメータ設定要素122を備えていてもよい。この場合、電子機器200を構成する制御装置220によりモデルパラメータ設定要素122が構成されていてもよい。
【0042】
二次電池240は、例えばリチウムイオンバッテリであり、ニッケル水素電池、ニッケル・カドミウム電池等のその他の二次電池であってもよい。センサ群206は、二次電池240の電圧応答特性および温度のほか、電子機器200の制御に必要なパラメータの値を測定する。センサ群206は、例えば二次電池240の電圧、電流および温度のそれぞれに応じた信号を出力する電圧センサ、電流センサおよび温度センサにより構成されている。
【0043】
模擬電池制御装置100は電子機器200に搭載されていてもよい。この場合、ソフトウェアサーバ(図示略)が、電子機器200が備えている機器制御装置220を構成する演算処理装置に対して劣化判定用ソフトウェアを送信することにより、当該演算処理装置に対して模擬電池制御装置100としての機能を付与してもよい。
【0044】
(模擬電池制御方法)
前記構成の第1実施形態の模擬電池制御システムにより実行される、模擬電池230の動作制御方法または構築方法について図3および図4に示されているフローチャートを用いて説明する。当該フローチャートにおいて「C●」というブロックは、記載の簡略のために用いられ、データの送信および/または受信を意味し、当該データの送信および/または受信を条件として分岐方向の処理が実行される条件分岐を意味している。
【0045】
電子機器200において、第1機器制御要素221により、当該電子機器200が充電器400に対して接続されたか否かが判定される(図3/STEP210)。当該判定結果が否定的である場合(図3/STEP210‥NO)、一連の処理が終了し、再び電子機器200が充電器400に対して接続されたか否かが判定される。
【0046】
その一方、当該判定結果が肯定的である場合(図3/STEP210‥YES)、第1機器制御要素221により、入力インターフェース202を通じた第1指定操作の有無がさらに判定される(図3/STEP212)。例えば、電子機器200の電源をON状態からOFF状態に切り替えるための操作、電子機器200の電源をOFF状態からON状態に切り替えるための操作、CPU使用率等の演算処理負荷が閾値以下に低下させるような所定のアプリケーションもしくは指定負荷250の動作停止のための操作、または、所定のアプリケーションもしくは指定負荷250を起動させるための操作が「第1指定操作」に該当する。
【0047】
当該判定結果が否定的である場合(図3/STEP212‥NO)、一連の処理が終了し、電子機器200の充電器400に対する接続有無の判定処理(図3/STEP210)以降の処理が実行される。
【0048】
その一方、第1指定操作があったと判定された場合(図3/STEP212‥YES)、第1機器制御要素221により、模擬電池230により模擬される仮想的な二次電池(または二次電池240)の種類を識別する電池識別子ID(m0)が認識される(図3/STEP214)。電子機器200の入力インターフェース202を通じて設定された仮想的な二次電池の種類に応じて電池識別子ID(m0)が第1機器制御要素221により認識されてもよい。
【0049】
第1機器制御要素221により、模擬電池230により模擬される仮想的な二次電池の温度T(m1)が認識される(図3/STEP216)。例えば、第1機器制御要素221により、当該電子機器200のセンサ群206を構成する温度センサにより測定された電子機器200の温度が仮想的な二次電池の温度T(m1)として認識されてもよい。また、第1機器制御要素221により、電子機器200の入力インターフェース202を通じて設定された温度が仮想的な二次電池の温度T(m1)として認識されてもよい。
【0050】
第1機器制御要素221により、模擬電池230により模擬される仮想的な二次電池の劣化度D(m2)が認識される(図3/STEP218)。例えば、第1機器制御要素221により、電子機器200の入力インターフェース202を通じて設定された劣化度が仮想的な二次電池の劣化度D(m2)として認識されてもよい。
【0051】
第2機器制御要素222により、電流指令値Icmd(t)が認識される(図3/STEP220)。例えば、第2認識要素112により、電子機器200のセンサ群206により測定された当該電子機器200の作動状況に応じて設定される指定負荷250への電流目標値が電流指令値Icmd(t)として認識されてもよい。また、第2機器制御要素222により、電子機器200の入力インターフェース202を通じて設定された電流目標値が電流指令値Icmd(t)として認識されてもよい。これにより、例えば、図5上段に実線で示されているように時間変化する電流指令値Icmd(t)が認識される。
【0052】
第1機器制御要素221により、仮想的な二次電池の種類を識別する識別子id(m0)、温度T(m1)および劣化度D(m2)が模擬電池制御装置100に対して送信され、かつ、第2機器制御要素222により、電流指令値Icmd(t)が模擬電池制御装置100に対して送信される(図3/STEP222)。
【0053】
模擬電池制御装置100において、第1制御要素110により、仮想的な二次電池の種類を識別する識別子id(m0)、温度T(m1)および劣化度D(m2)が認識された場合(図3/C11)、当該認識結果に基づき、データベース10に登録されている多数の二次電池モデルの中から、パラメータP(m0,m1,m2)により特定される一の二次電池モデルが決定される(図3/STEP110)。これは、図2に示されている計算器121の伝達関数Hを定義するパラメータP(m0,m1,m2)の値が、模擬電池230により模擬される仮想的な二次電池の劣化度D(n2)に基づき、モデルパラメータ設定要素122により設定または変更されることに相当する。二次電池モデルは、電流値I(t)が入力された際に、該当する二次電池が出力すると推定または予測される電圧値V(t)を出力するモデルである。二次電池モデルとしては、例えば、
特開2008-241246号公報、特開2010-203935号公報および特開2017-138128号公報に記載されているモデルなど、さまざまなモデルが適用されてもよい。
【0054】
第2制御要素120により、当該選定された二次電池モデルに対して、電流指令値Icmd(t)が入力され、当該二次電池モデルの出力として電圧指令値Vcmd(t)が算定される(図3/STEP120)。これにより、例えば、図5下段に細線で示されているように変化する電圧指令値Vcmd(t)が二次電池モデルの出力として計算される。
【0055】
続いて、第3制御要素130により、第2制御要素120により算定された電圧指令値Vcmd(t)が電子機器200に対して送信される(図4/STEP130)。これに応じて、電子機器200において、第3機器制御要素223により電圧指令値Vcmd(t)が認識された場合(図4/C21)、第3機器制御要素223により、当該電圧指令値Vcmd(t)に基づき、模擬電池230にて増幅器232によりゲイン倍された電圧V(t)が指定負荷250に対して印加される(図4/STEP224)。これにより、例えば、図5下段に太線で示されているように変化する電圧V(t)が指定負荷250に印加される。
【0056】
第3機器制御要素223により、電圧V(t)が印加された際の指定負荷250の動作特性OC(t)が認識される(図4/STEP226)。例えば、指定負荷250がアクチュエータである場合、センサ群206を構成する変位センサ等により測定された当該アクチュエータの変位量または仕事量の時系列が動作特性OC(t)として認識される。また、指定負荷250がCPU等の演算処理資源である場合、センサ群206を構成する温度センサにより測定された当該演算処理資源の温度の時系列が動作特性OC(t)として認識されてもよい。
【0057】
次に、第3機器制御要素223により、指定負荷250の動作特性OC(t)が、模擬電池制御装置100に対して送信される(図4/STEP228)。これに応じて、模擬電池制御装置100において、第3制御要素130により指定負荷250の動作特性OC(t)が認識された場合(図4/C12)、第3制御要素130により、当該動作特性OC(t)を表わす動作特性情報Info(OC(t))が生成される(図4/STEP132)。例えば、指定負荷250の動作特性OC(t)を表わすグラフまたはダイヤグラム、さらには動作特性OC(t)に鑑みて指定負荷250の動作の異常の有無などが含まれている動作特性情報Info(OC(t))が生成されてもよい。動作特性情報Info(OC(t))は、電子機器200を識別するための機器識別子に関連付けられてデータベース10に登録されてもよい。
【0058】
続いて、電子機器200において、第3機器制御要素223により、入力インターフェース202を通じた第2指定操作の有無が判定される(図4/STEP230)。例えば、電子機器200の出力インターフェース204をON状態からOFF状態に切り替えるための操作、電子機器200の出力インターフェース204をOFF状態(もしくはスリープ状態)からON状態(もしくはスリープ解除状態)に切り替えるための操作、CPU使用率等の演算処理負荷が閾値以下に低下させるような所定のアプリケーションもしくは負荷の動作停止のための操作、または、所定のアプリケーションもしくは負荷を起動させるための操作が「第2指定操作」に該当する。
【0059】
当該判定結果が否定的である場合(図4/STEP230‥NO)、一連の処理が終了し、電子機器200の充電器400に対する接続有無の判定処理(図3/STEP210)以降の処理が実行される。
【0060】
その一方、第2指定操作があったと判定された場合(図4/STEP230‥YES)、第3機器制御要素223により、動作特性情報要求が模擬電池制御装置100に対して送信される(図4/STEP232)。これに応じて、模擬電池制御装置100において第3制御要素130により動作特性情報要求が認識された場合(図4/C13)、第3制御要素130により、動作特性情報Info(OC(t))が電子機器200に対して送信される(図4/STEP134)。
【0061】
これに応じて、電子機器200において、第3機器制御要素223により動作特性情報Info(OC(t))が認識された場合(図4/C22)、第3制御要素130により、出力インターフェース204を通じて動作特性情報Info(OC(t))が出力される(図4/STEP234)。
【0062】
(二次電池モデルの確立方法)
二次電池モデルの確立方法の一実施形態について説明する。本実施形態では、識別子ID(n0)により種類が識別されるさまざまな種類の二次電池240を対象として、異なる劣化度D(n2)のそれぞれにおいて、異なる温度T(n1)のそれぞれにおける二次電池モデルのパラメータP(n0,n1,n2)が定められる。
【0063】
具体的には、まず、模擬電池制御装置100において、第1指数n1および第2指数n2のそれぞれが「0」に設定される(図6/STEP302)。第1指数n1は、二次電池240の温度Tの高低を表わす指数である。第2指数n2は、二次電池240の劣化度Dの評価回数または評価期間の順番を表わす指数である。
【0064】
二次電池240の温度Tが温度T(n1)に制御される(図6/STEP304)。二次電池240の温度調節に際して、二次電池240の近傍に配置された加熱器(電熱ヒータなど)および冷却器(冷却ファンなど)のほか、二次電池240の近傍に配置されたまたは二次電池240のハウジングに取り付けられた温度センサが用いられる。
【0065】
第1制御要素110により、二次電池240の複素インピーダンスZ(n0,n1,n2)の測定結果が認識される(図6/STEP306)。二次電池240の複素インピーダンスZ(n0,n1,n2)は、交流インピーダンス法により測定され、当該測定結果は二次電池240の種類を識別するための電池識別子ID(n0)と関連付けられてデータベース10に登録される。
【0066】
交流インピーダンス法によれば、図7に示されているように、周波数応答解析装置(FRA)241およびポテンショガルバノスタット(PGS)242の組み合わせが用いられる。FRA241を構成する発振器から任意の周波数の正弦波信号が出力され、当該正弦波信号に応じた二次電池240の電流信号I(t)および電圧信号V(t)がPGS242からFRA241に入力される。そして、FRA241において、電流信号I(t)および電圧信号V(t)が離散フーリエ周波数変換によって周波数領域のデータに変換され、周波数f=(ω/2π)における複素インピーダンスZ(n0,n1,n2)(ω)が測定される。
【0067】
例えば二次電池240の出荷直前等、電子機器200に搭載されていない状態における二次電池240の複素インピーダンスZ(n0,n1,n2)が測定される。そのほか、電子機器200に搭載されている状態における二次電池240の複素インピーダンスZ(n0,n1,n2)が測定されてもよい。この場合、制御装置210によりFRA241が構成され、センサ群206がPGSにより構成されていてもよい。例えば、電子機器200が二次電池240の充電のために商用電源等の外部電源または充電器400に接続され、当該外部電源または充電器400から供給される電力によって正弦波信号が出力されうる。
【0068】
図8には、二次電池240の複素インピーダンスZ(n0,n1,n2)の実測結果を表わすナイキストプロットの一例が、当該プロットの近似曲線とともに示されている。横軸は複素インピーダンスZの実部ReZであり、縦軸は複素インピーダンスZの虚部-ImZである。-ImZ>0の領域においてReZが大きくなるほど低周波数の複素インピーダンスZを表わしている。-ImZ=0におけるReZの値は二次電池240の電解液中の移動抵抗に相当する。-ImZ>0の領域における略半円形状の部分の曲率半径は、二次電池240の電荷移動抵抗に相当する。当該曲率半径は、二次電池240の温度Tが高温になるほど小さくなる傾向がある。-ImZ>0の領域の低周波数領域において約45°で立ち上がる直線状の部分には、二次電池240のワールブルグインピーダンスの影響が反映されている。
【0069】
模擬電池制御装置100において、第1制御要素110により、二次電池240の複素インピーダンスZの測定結果に基づき、二次電池モデルのパラメータP(n0,n1,n2)の値が同定される(図6/STEP308)。パラメータP(n0,n1,n2)は、計算器121(図2参照)の伝達関数Hを定義する。
【0070】
二次電池モデルは、電流I(t)が二次電池240に入力された際に当該二次電池240から出力される電圧V(t)を表わすモデルである。二次電池240の開放電圧OCVおよび内部抵抗の伝達関数H(t)を用いて関係式(01)により定義される。
【0071】
V(t)=OCV(t)+H(t)・I(t) ‥(01)。
【0072】
ここでOCV(t)は、電流I(t)の充電および/または放電に伴い開放電圧が増減することを表わしている。
【0073】
二次電池の内部抵抗の等価回路モデルの伝達関数H(z)は関係式(02)により定義される。
【0074】
H(z)=H0(z)+Σi=1-mi(z)+HW(z)+HL(z) ‥(02)。
【0075】
「H0(z)」、「Hi(z)」、「HW(z)」および「HL(z)」は、二次電池の内部抵抗の特性を表わすパラメータにより定義されている。
【0076】
図9Aには、二次電池240の内部抵抗の等価回路の一例が示されている。この例では、内部抵抗の等価回路は、電解液中の移動抵抗に相当する抵抗R0、電荷移動抵抗に相当する抵抗RiおよびキャパシタCiからなる第iのRC並列回路(i=1,2,‥,X)、ワールブルグインピーダンスに相当する抵抗W0、ならびに、コイルLの直列回路により定義されている。直列接続されるRC並列回路の数は、図9Aに示した実施例では「3」であったが、3より小さくてもよく、3より大きくてもよい。抵抗W0は、少なくともいずれか1つのRC並列回路において抵抗Rと直列接続されていてもよい。キャパシタCがCPE(Constant Phase Element)に置換されていてもよい。図9Bに示されているよう、ワールブルグ抵抗Wが少なくとも1つのRC並列回路(図5Bの例では第1のRC並列回路)の抵抗Rと直列接続されてもよい。
【0077】
抵抗R0の伝達関数H0(z)は関係式(03)により定義されている。
【0078】
0(z)=R0 ‥(03)。
【0079】
第iのRC並列回路の伝達関数Hi(z)はIIR(Infinite Impulse Response)システム(無限インパルス応答システム)の伝達関数として関係式(03)により定義されている。図10Aには、第iのRC並列回路の伝達関数Hi(z)を表わすブロックダイヤグラムが示されている。
【0080】
i(z)=(b0+bi-1)/(1+ai-1) ‥(03)。
【0081】
ワールブルグインピーダンスに相当する抵抗W0の伝達関数HW(z)はFIR(Finite Impulse Response)システム(有限インパルス応答システム)の伝達関数として関係式(04)により定義されている。図10Bには、ワールブルグインピーダンスに相当する抵抗W0の伝達関数HW(z)を表わすブロックダイヤグラムの一例が示されている。
【0082】
W(z)=Σk=0-nk-k ‥(04)。
【0083】
コイルLの伝達関数HL(z)は関係式(05)により定義されている。
【0084】
L(z)=(2L0/T)(1-z-1)/(1+z-1) ‥(05)。
【0085】
図8に実線で示されているナイキストプロットにより表わされる二次電池の複素インピーダンスZの近似曲線は、関係式(02)にしたがって二次電池の内部抵抗の等価回路モデルの伝達関数H(z)が定義されるという仮定下で求められる。これにより、パラメータP(n0,n1,n2)={R0,ai,b0,bi,hk,L0,T}の値が求められる(関係式(03)~(05)参照)。開放電圧OCV(n0,n1,n2)の測定値により二次電池モデルにおける出力器123から出力される開放電圧OCV(t)の値が同定される(関係式(01)参照)。そして、当該パラメータの値により二次電池モデルが様々な種類の二次電池240について確立される。
【0086】
第1指数n1が所定数N1以上であるか否かが判定される(図6/STEP310)。当該判定結果が否定的である場合(図6/STEP310‥NO)、第1指数n1の値が「1」だけ増加され(図6/STEP312)、その上で二次電池240の温度調節以降の処理が繰り返される(図6/STEP304→306→308→310)。
【0087】
(第2実施形態)
【0088】
(模擬電池制御システムの構成)
図11に示されている本発明の第2実施形態としての模擬電池制御システムは、模擬電池制御装置100、電子機器200および充電器400により構成されている。模擬電池制御装置100は、充電器400と相互通信可能である。
【0089】
充電器400は、充電器制御装置420と、模擬電池230を備えている。充電器制御装置420は、第1充電器制御要素421、第2充電器制御要素422および第3充電器制御要素423を備えている。第1充電器制御要素421、第2充電器制御要素422および第3充電器制御要素423のそれぞれは、プロセッサ(演算処理装置)、メモリ(記憶装置)およびI/O回路等により構成されている。当該メモリまたはこれとは別個の記憶装置には、模擬電池識別子ID(m0)、模擬電池温度T(m1)および仮想劣化度D(m2)ならびに電流指令値Icmd(t)(図3/STEP214,216,218および220参照)などの様々なデータが記憶保持される。第1充電器制御要素421、第2充電器制御要素422および第3充電器制御要素423のそれぞれは、電子機器200の第1機器制御要素221、第2機器制御要素222および第3機器制御要素223のそれぞれと同様の機能を発揮する。
【0090】
充電器400が模擬電池230を備えている一方、電子機器200において模擬電池230(図1参照)が省略されている。
【0091】
これら以外の点は、第1実施形態における模擬電池制御システム(図1参照)とほぼ同様の構成であるため、同一符号を付するとともに説明を省略する。
【0092】
(模擬電池制御方法)
前記構成の第2実施形態の模擬電池制御システムにより実行される、電子機器200に搭載される二次電池240の模擬電池制御方法について説明する。第2実施形態では、充電器400が、電子機器200に代わって模擬電池制御装置100との相互通信を担いながら、第1実施形態と同様の手順で模擬電池230の動作が制御される(図3図4参照)。
【0093】
具体的には、第1機器制御要素221による第1指定操作の有無の判定結果が、電子機器200から充電器400に無線または有線で送信され、第1充電器制御要素421により第1指定操作の有無の判定結果が認識される(図3/STEP212参照)。
【0094】
第1充電器制御要素421により、模擬電池230を用いて電圧V(t)が無線または有線方式で電子機器200に搭載されている二次電池240に対して入力される(図4/STEP224参照)。
【0095】
第1機器制御要素221により、模擬電池識別子ID(m0)、模擬電池温度T(m1)および仮想劣化度D(m2)が充電器400に無線または有線で送信され、第1充電器制御要素421により当該模擬電池識別子ID(m0)、模擬電池温度T(m1)および仮想劣化度D(m2)が認識される(図3/STEP214,216および218参照)。続いて、第1充電器制御要素421により、当該模擬電池識別子ID(m0)、模擬電池温度T(m1)および仮想劣化度D(m2)が充電器400から模擬電池制御装置100に対して送信される(図3/STEP222参照)。
【0096】
第2機器制御要素222により、電流指令値Icmd(t)が充電器400に無線または有線で送信され、第2充電器制御要素422により当該電流指令値Icmd(t)が認識される(図3/STE220参照)。続いて、第2充電器制御要素422により、当該電流指令値Icmd(t)が充電器400から模擬電池制御装置100に対して送信される(図3/STEP222参照)。
【0097】
第3充電器制御要素423により、電圧指令値Vcmd(t)に基づき、模擬電池230にて増幅器232によりゲイン倍された電圧V(t)が、充電器400に接続されている電子機器200の指定負荷250に対して印加される(図4/STEP224参照)。第3充電器制御要素423により、電子機器200との通信に基づき、電圧V(t)が印加された際の指定負荷250の動作特性OC(t)が認識される(図4/STEP226参照)。
【0098】
次に、第3充電器制御要素423により、指定負荷250の動作特性OC(t)が、模擬電池制御装置100に対して送信される(図4/STEP228参照)。
【0099】
続いて、第3機器制御要素223により、入力インターフェース202を通じた第2指定操作の有無が判定される(図4/STEP230参照)。そして、第2指定操作があったと判定された場合(図4/STEP230‥YES)、第3充電器制御要素423により、動作特性情報要求が模擬電池制御装置100に対して送信される(図4/STEP232)。
【0100】
さらに、第3充電器制御要素423により、動作特性情報Info(OC(t))が受信され、かつ、電子機器200に無線または有線で送信され、出力インターフェース204を通じて動作特性情報Info(OC(t))が出力される(図4/C22→STEP234参照)。
【0101】
(本発明の他の実施形態)
第1実施形態における機器制御装置220の機能が、第2実施形態における機器制御装置220および充電器制御装置420により分担されてもよい。
【0102】
例えば、第2実施形態において、第3機器制御要素223により模擬電池制御情報Info(D)が受信され、第2指定操作があったという判定結果に応じて、模擬電池制御情報Info(D)が出力インターフェース204を構成するディスプレイ装置に出力表示されてもよい(図3/STEP220→STEP222‥YES→STEP224参照)。この場合、第3充電器制御要素423は省略されてもよい。
【0103】
また、第2実施形態において、第2機器制御要素222により、電池識別子IDが模擬電池制御装置100に対して送信されてもよい(図3/STEP220参照)。この場合、第2充電器制御要素422は省略されてもよい。
【0104】
電圧応答特性V(T)の測定時における二次電池240または電子機器200の温度Tが勘案されたうえで二次電池モデルが選定され、当該二次電池240の性能が評価されたが、他の実施形態として、電圧応答特性V(T)の測定時の二次電池240の温度Tが勘案されずに、二次電池240の種類を表わす電池識別子IDに基づいて二次電池モデルが選定され、当該二次電池240の性能が評価されてもよい。
【0105】
本発明に係る模擬電池制御装置100およびこれにより実行される模擬電池制御方法によれば、電子機器200および/または当該電子機器200が接続される充電器400と、模擬電池制御装置100との相互通信に基づき、当該電子機器200に搭載されている二次電池240の性能が模擬電池制御装置100により評価される。そして、当該評価結果に応じた電池性能情報Info(D)が当該電子機器200の出力インターフェース204に出力される。このため、ユーザは電子機器200または二次電池240を専門機関等に持参する必要はなく、当該二次電池240の性能評価結果を把握できるため、電子機器200のユーザにとっての利便性の向上が図られる。
【0106】
(劣化度判定)
模擬電池230の仮想劣化度D(m2)として、二次電池240の劣化度の推定結果が認識されてもよい(図3/STEP218参照)。
【0107】
当該判定結果が肯定的である場合(図6/STEP310‥YES)、例えば、第1機器制御要素221により、二次電池240のインパルス電流I(t)に応じた電圧応答特性V(n0,n2)(t)(~V(n0,n2)(z))の測定結果が認識される(図6/STEP314参照)。当該測定に際して、第1機器制御要素221により、インパルス電流I(t)(~I(z))が二次電池240に対して入力される。例えば、図12Aに示されているようなインパルス電流I(t)が二次電池240に対して入力される。パルス電流発生器が駆動されることにより、当該パルス電流発生器において発生されたインパルス電流I(t)が二次電池240に対して入力される。二次電池240が電子機器200に搭載されている場合、パルス電流発生器が当該電子機器200に搭載され、外部電源または電子機器200に搭載されている補助電源からの供給電力により、当該電子機器200に搭載されているインパルス電流発生のために指定機器が駆動されてもよい。
【0108】
そして、センサ群206を構成する電圧センサの出力信号に基づき、第1機器制御要素221により、二次電池240の電圧応答特性V(n0,n2)(t)が測定される。これにより、例えば、図12Bに破線で示されているように変化する二次電池240の電圧応答特性V(n0,n2)(t)が測定される。図12(B)には、第2指数n2が0である場合における二次電池240の電圧応答特性V(n0,0)(t)の測定結果が実線で示されている。
【0109】
続いて、第1機器制御要素221により、二次電池240の電圧応答特性V(n0,n2)(t)およびV(n0,0)(t)の対比結果に基づき、電池識別子ID(n0)により種類が識別される当該二次電池240の劣化度D(n0,n2)が評価される(図6/STEP316参照)。例えば、二次電池240の電圧応答特性V(n0,n2)(t)およびV(n0,0)(t)のそれぞれを表わす曲線の類似度xが計算される。そして、類似度xを主変数とする減少関数fにしたがって、二次電池240の劣化度D(n0,n2)=f(x)が計算される。
【0110】
第2指数n2が所定数N2以上であるか否かが判定される(図6/STEP318参照)。当該判定結果が否定的である場合、第1指数n1の値が「0」にリセットされ、かつ、第2指数n2の値が「1」だけ増加される(図6/STEP320参照)。その上で二次電池240の温度調節以降の処理が繰り返される。
【0111】
前記実施形態では、電池識別子ID(n0)により種類が識別される二次電池240の劣化度D(n2)の相違に応じて、二次電池モデルのパラメータP(n0,n1,n2)の値が個別に定められていたが(図6/STEP308、STEP314、316参照)、他の実施形態として、二次電池240の劣化度D(n2)の相違が勘案されずに、二次電池モデルのパラメータP(n0,n1)の値が定められていてもよい。
【0112】
前記実施形態では、識別子ID(n0)により種類が識別される二次電池240の温度T(n1)の相違に応じて、二次電池モデルのパラメータP(n0,n1,n2)の値が個別に定められていたが(図6/STEP304、STEP314、316参照)、他の実施形態として、二次電池240の温度T(n1)の相違が勘案されずに、二次電池モデルのパラメータP(n0,n2)の値が定められていてもよい。
【0113】
本発明に係る模擬電池制御装置100およびこれにより実行される模擬電池制御方法によれば、電子機器200および/または当該電子機器200が接続される充電器400と、模擬電池制御装置100との相互通信に基づき、当該電子機器200に搭載されている模擬電池230の動作が制御され、指定負荷250に対して電流指令値Icmd(t)に応じた電圧V(t)が印加される。そして、当該印加電圧V(t)に応じた指定負荷250の動作特性OC(t)に応じた動作特性情報Info(OC(t))が当該電子機器200の出力インターフェース204に出力される。このため、ユーザは電子機器200を専門機関等に持参する必要はなく、当該電子機器200の指定負荷250に対して、電流指令値Icmd(t)に応じた電圧V(t)が印加された際の、当該指定負荷250の動作特性OC(t)を把握できるため、電子機器200のユーザにとっての利便性の向上が図られる。
【0114】
また、電池識別子ID(n0)により種類が識別される二次電池240を対象として、異なる劣化度D(n2)のそれぞれにおいて、異なる温度T(n1)のそれぞれにおける二次電池モデルのパラメータP(n0,n1,n2)が定められる。二次電池240の複素インピーダンスZの測定結果に基づき、二次電池モデルのパラメータP(n0,n1,n2)の値が同定される(図6/STEP304→306→308、図7図9図10Aおよび図10B参照)。二次電池モデルは、IIRシステムおよびFIRシステムのそれぞれを表わす伝達関数により二次電池240の内部抵抗のインピーダンスが表現されている(関係式(03)、(04)、図7図9図10Aおよび図10B参照)。
【0115】
さらに、模擬電池230により模擬される仮想的な二次電池の識別子ID(m)、温度T(m1)および劣化度D(m2)に基づき、パラメータP(m,m1,m2)を有する二次電池モデルが選定される(図2図4/STEP214→216→218→‥→110参照)。そして、電流指令値Icmd(t)が当該二次電池モデルに入力された際の出力である電圧指令値Vcmd(t)が算定され、これに応じた電圧V(t)が模擬電池230により電子機器200の指定負荷250に対して印加される(図3/STEP120、図4/STEP130→224、図5参照)。これにより、模擬電池230による二次電池240の特性の様々な条件下での再現精度の向上が図られる。
【符号の説明】
【0116】
10‥データベース、100‥模擬電池制御装置、110‥第1制御要素、120‥第2制御要素、130‥第3制御要素、200‥電子機器、202‥入力インターフェース、204‥出力インターフェース、206‥センサ群、220‥機器制御装置、221‥第1機器制御要素、222‥第2機器制御要素、223‥第3機器制御要素、230‥模擬電池、240‥二次電池、250‥指定負荷、400‥充電器、420‥充電器制御装置、421‥第1充電器制御要素、422‥第2充電器制御要素、423‥第3充電器制御要素。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11
図12A
図12B