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特許6997518改良型受動的モードロック同期半導体ディスクレーザ(SDL)
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  • 特許-改良型受動的モードロック同期半導体ディスクレーザ(SDL) 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】改良型受動的モードロック同期半導体ディスクレーザ(SDL)
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/098 20060101AFI20220107BHJP
   H01S 5/065 20060101ALI20220107BHJP
   H01S 5/14 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
H01S3/098
H01S5/065
H01S5/14
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2016562006
(86)(22)【出願日】2015-04-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2017-04-20
(86)【国際出願番号】 GB2015051176
(87)【国際公開番号】W WO2015159106
(87)【国際公開日】2015-10-22
【審査請求日】2018-04-09
【審判番号】
【審判請求日】2020-11-13
(31)【優先権主張番号】1407015.5
(32)【優先日】2014-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】514245096
【氏名又は名称】ソーラス テクノロジーズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SOLUS TECHNOLOGIES LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ハミルトン,クレイグ ジェームス
(72)【発明者】
【氏名】マルコム,グレーム ペーター アレクサンダー
【合議体】
【審判長】瀬川 勝久
【審判官】吉野 三寛
【審判官】野村 伸雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-253800(JP,A)
【文献】国際公開第2013/003239(WO,A1)
【文献】特表2003-523092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受動的モードロック同期レーザにおいて:
第1及び第2のミラーで終端し、第3及び第4のミラーで折りたたんだ共振器であって、前記第3のミラーが少なくとも一の量子井戸層を具える多層半導体利得媒体に搭載した反射器を具え、前記第2のミラーが強度飽和ミラーを具える共振器を具え、
前記共振器が、前記強度飽和ミラー上に、前記多層半導体利得媒体上のキャビティ内共振場の断面積より大きいキャビティ内共振場の断面積を提供するように構成されている、
ことを特徴とする受動的モードロック同期レーザ。
【請求項2】
請求項1に記載の受動的モードロック同期レーザにおいて、前記第4のミラーが凹の曲率半径を有することを特徴とする受動的モードロック同期レーザ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の受動的モードロック同期レーザにおいて、前記共振器がさらに、第5のミラーで折り曲げられており、当該第5のミラーが第1及び第3のミラーの間に配置されていることを特徴とする受動的モードロック同期レーザ。
【請求項4】
請求項3に記載の受動的モードロック同期レーザにおいて、前記第5のミラーが凹の曲率半径を有することを特徴とする受動的モードロック同期レーザ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の受動的モードロック同期レーザにおいて、前記第1のミラーが出力カプラ―を具えることを特徴とする受動的モードロック同期レーザ。
【請求項6】
請求項5に記載の受動的モードロック同期レーザにおいて、前記出力カプラ―が平面であることを特徴とする受動的モードロック同期レーザ。
【請求項7】
請求項5に記載の受動的モードロック同期レーザにおいて、前記出力カプラ―が凹の曲率半径を有することを特徴とする受動的モードロック同期レーザ。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の受動的モードロック同期レーザにおいて、前記レーザがさらに、連続波光学場源であって、その出力が前記利得媒体をポンピングするように構成されている光学場源を具えることを特徴とする受動的モードロック同期レーザ。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の受動的モードロック同期レーザにおいて、前記強度飽和ミラーが、飽和ブラッグ反射器(SBR)を具えることを特徴とする受動的モードロック同期レーザ。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の受動的モードロック同期レーザにおいて、前記レーザが超短パルスを具える出力場を提供することを特徴とする受動的モードロック同期レーザ。
【請求項11】
レーザを受動的モードロック同期させる方法において、
第1のミラーと、強度飽和ミラーを具える第2のミラーによって終端する共振器を提供するステップと;
第3のミラーと第4のミラーで前記共振器を折り曲げるステップであって、前記第3のミラーが多層半導体利得媒体に搭載した反射器を具えるステップと;
前記共振器を、前記強度飽和ミラー上に、前記多層半導体利得媒体上のキャビティ内共振場の断面積より大きいキャビティ内共振場の断面積を提供するよう構成するステップと;
を具えることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項11に記載のレーザを受動的モードロック同期させる方法がさらに第1及び第3のミラーの間に第5のミラーを提供することによって、前記共振器を折りたたむステップを具えることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項11又は12に記載のレーザを受動的モードロック同期させる方法がさらに、前記利得媒体をポンピングするように構成されている連続波(cw)光学場を提供するステップを具えることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、半導体レーザの分野に関連するものであり、特に、超短パルス放射線を発するように構成された半導体ディスクレーザ(SDL)に関する。
【0002】
SDLは、垂直外部共振キャビティ発光レーザ(Vertical External Cavity Emitting Lasers(VECSEL))または光励起半導体レーザ(Optically Pumped Semiconductor Lasers(OPSL))の分野でも知られている。したがって、本明細書を通して使用している半導体ディスクレーザ(SDL)の用語は、これらの各々のシステムを意味する。
【0003】
以下の記載で使用されている「超短」パルスの用語は、約100ピコ秒(ps)から数フェムト秒(fs)の時間のパルスを意味する。
【0004】
レーザ源によって発生した光放射の超短パルスは、厳正な範囲で、器具の使用及び非線形光学アプリケーションに使用されている。短又は超短パルスを発生するよく知られた技術はモードロック同期である。モードロック同期をレーザ共振器で行うと、レーザ共振器の複数のモードが位相ロック状態で接続され、結果として発生する電磁場は、短パルス又は共振器内で循環するキャビティモードを具えている。これは、各キャビティ往復時間内の一パルスについてのキャビティ内ロスによって生じる。この結果、特定の時間窓内でモジュレータを通過するとパルスが上昇するオープンネット利得窓となる。
【0005】
損失変調は、能動的にも受動的にも形成することができる。能動モードロック同期は、例えば、音響光学変調器をキャビティ往復時間に同期したキャビティ内要素として使用して達成される。しかしながら、超短パルス発生は、受動的モードロック同期技術に依存している。なぜなら、受動シャッタのみが、超短パルスを形成して安定させるのに十分に高速であるからである。受動モードロック同期は、通常、飽和アブソーバ機構に依存しており、これが、光強度を上げてロスを下げる。飽和アブソーバパラメータを、レーザシステムに対して正しく調整すると、安定した自己スタートモードロック同期が達成できる。
【0006】
飽和ブラッグ反射器(saturable Bragg reflector(SBR))を使用して、個体レーザを受動的モードロック同期させることは、知られている。例えば、Tsuda et al“Mode-Locking Ultrafast Solid-State Lasers with Saturable Bragg Reflectors”,IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronics Vol.2,No.3,September 1996 pp.454-463及び米国特許第5,627,854号参照。SBRは、標準的分布のブラッグ反射器(DBR)、すなわち四分の一波長の半導体材料の層を交互に重ねたスタック内に一またはそれ以上の半導体量子井戸を有する非線形ミラーである。結果として、SBRが示す反射率あるいは吸収率は、強度に依存している。すなわち、反射率は光強度が高ければより高くなる。Ti:サファイアまたはCr:LiCAF個体利得媒体を含む共振器のフェムト秒モードロック同期は、これらの技術の使用を明示している。
【0007】
米国特許公開第2004/0190567号及び米国特許第6,735,234B1号では、上述の概念を拡げて、共振器内に飽和ブラッグ反射器(SBR)を組み込むことによって、SDLをモードロック同期させるようにした。米国特許第6,735,234B1号は、動作中に、SDLのブラッグ反射器とフレネル反射器との間に、SDLの利得媒体の前面から接続されたキャビティ効果が形成されることを開示している。このサブキャビティがレーザ波長でほぼ共振するよう動作するため、これはレーザの有効利得飽和を、SBRの吸収飽和よりかなり下の値に下げる働きをする。補償するために、及びデバイスの利得飽和レベルを上げるために、光共振器の設計は、利得媒体上のキャビティ内共振場の断面が、確実に、SBRのキャビティ内共振場の断面より大きくなるように選択すべきであることを開示している。
【0008】
多くの科学的な器具の使用及び非線形光学アプリケーションでは、可能な限り安定したモードロック同期レーザの出力を得ることが望ましい。したがって、この分野で知られている受動的モードロック同期半導体ディスクレーザに比べて、高い安定性を示す受動的モードロック同期半導体ディスクレーザシステムを提供することが有利であることが認識されている。
【発明の概要】
【0009】
本発明の第1の態様によれば、受動的モードロック同期レーザであって、第1及び第2のミラーで終端し、第3及び第4のミラーで折り曲げた共振器であって、第3のミラーが、少なくとも一の量子井戸層を有する多層半導体利得媒体を載せており、第2のミラーが強度飽和ミラーを有するリフレクタを具える共振器を具え、この共振器が、多層半導体利得媒体上のキャビティ内共振場の断面積より大きいか、あるいはこれと等しい強度飽和ミラーのキャビティ内共振場の断面積を提供するように構成されている。
【0010】
上記の構成により、この分野で知られているこのようなシステムと比べて高い安定性を示す受動的モードロック同期半導体ディスクレーザ(SDL)を提供している。このモードロック同期は、強度飽和ミラーが、キャビティ内パルス又はキャビティモードのリーディングエッジをクリップするように動作する結果である。同時に、利得媒体上の断面積に対する強度飽和ミラー上のキャビティ内共振場の相対的断面積によって導入される利得飽和効果が、キャビティ内パルス又はキャビティモードのトレーリングエッジをクリップするように動作する。強度飽和ミラー上のキャビティ内共振場により大きな断面積を用いることで、この部分の信頼性、ひいてはレーザ全体の安定性が増すという更なる利点が生じる。
【0011】
第4のミラーは、凹曲率半径を有する。
【0012】
共振器は、さらに、第5のミラーで折り曲げることができ、この第5のミラーは、第1のミラーと第3のミラーとの間に配置されている。第5のミラーは、凹曲率半径を有することが好ましい。
【0013】
第1のミラーは、出力カプラを具えることが好ましい。この出力カプラは、平坦であるか、あるいは、凹曲率半径を有する。
【0014】
選択的に、このレーザは、連続波(cw)光場源を具え、この源からの出力は、利得媒体をポンピングするように構成されている。この(cw)光場源は、ファイバー結合レーザダイオードシステムを具えていてもよい。
【0015】
好ましくは、強度飽和ミラーは、飽和ブラッグリフレクタを(SBR)を具える。
【0016】
最も好ましくは、このレーザは、超短パルスを具える出力場を提供する。この超短パルスは、100psないし100fsの範囲のパルス幅を有する。
【0017】
本発明の第2の態様によれば、レーザを受動的モードロック同期させる方法が提供されており、この方法は:
強度飽和ミラーを具える第1及び第2のミラーで終端する共振器を提供するステップと;
この共振器を第3及び第4のミラーで折り曲げるステップであって、第3のミラーが多重半導体利得媒体に載せたリフレクタを具える、ステップと;
この共振器を、強度飽和ミラー上のキャビティ内共振場の断面積が、多重半導体利得媒体上のキャビティ内共振場の断面積より大きいか、あるいはこれと同じであるように構成するステップと;を具える。
【0018】
レーザを受動的モードロック同期させる方法がさらに、第1及び第3のミラーの間に第5のミラーを提供することで、共振器を折り曲げるステップを具える。
【0019】
レーザをセルフモードロック同期させる方法が、さらに、利得媒体をポンピングするように構成した連続波(cw)光場を提供するステップを具える。
【0020】
本発明の第2の態様による実施例は、本発明の第1の態様の好ましいあるいは選択的特徴を実施する特徴を具えており、その逆も同様である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
以下に例示のみによって、本発明の様々な実施例を図面を参照して説明する。
図1図1は、本発明の実施例による受動的モードロック同期半導体ディスクレーザ(SDL)を示す図である。
図2図2は、図1に示すレーザを用いた半導体ディスクレーザ(SDL)を示す図である。
図3図3は、図2に示すSDLと共働する冷却装置を示す図である。
図4図4は、図1に示すレーザを用いた飽和ブラッグ反射器(SBR)を示す図である。
図5図5は、本発明の代替の実施例による受動的モードロック同期半導体ディスクレーザ(SDL)を示す図である。
【0022】
以下の説明において、同じ部品は、明細書図面を通して同じ符号が付されている。図面は、スケール通りである必要はなく、所定の部品の比率は、本発明の実施例の詳細と特徴をより明確にするために拡大されている。
【発明を実施するための形態】
【0023】
最初に図1を参照すると、本発明の実施例による受動的モードロック同期半導体ディスクレーザ(SDL)1が示されている。理解を明確にするために、この図には軸が記載されている。以下に引用されているキャビティの平面は、x軸とz軸によって規定された平面である。
【0024】
受動的モードロック同期レーザ1は、第1ミラー3と第2ミラー4との間に形成されたレーザ共振器2を具え、多層光学ポンピング半導体ディスクレーザ(SDL)5を具える。これらの更なる詳細は、図2及び3を参照して以下に説明する。図に示すように、SDL5が、共振器2用の第1折りたたみミラーとして機能するように配置されている。更なる折りたたみミラー6は、共振器2の中に設けられており、したがって、共振器2は2回折りたたんだ共振器であると考えられる。
【0025】
折りたたみミラー6は、SDL5の中心波長λ(理解を容易にするために、この波長は980nmに選択されている)で高反射率になるように配置されており、一方、第1ミラー3は、この中心波長では光を一部反射、一部透過し、したがって、共振器2の出力カプラとして作用する。
【0026】
ミラー4と6を圧電制御ミラーマウント内に装填して、これらの部品のアラインメントの微調整手段を提供するようにしてもよい。さらに、ミラー3と6は、それぞれ曲率半径200mmの凹ミラーであり、ミラー4とSDL5は、実質的に平坦な反射エレメントであり、共振器2は光学的に安定している。図1に示す実施例では、150mmのスペースが共振器の各調整ミラー3、5、6及び4の間に設けられている。
【0027】
SDL5のポンピングに適した連続波(cw)光学ポンプフィールド7が、ファイバー結合レーザダイオードシステム8を用いて提供されている。ここに述べる実施例では、ファイバー結合レーザダイオードシステム8は、808nmでcw光学ポンプフィールドを発生するように構成されており、これは、ポンプ光学素子9によってSDL5の前面上に合焦されている。DILAS(登録商標)M1F4S22-808 30C-SS2.1は、このような適切なファイバー結合レーザダイオードシステム8の一例である。ポンプ光学素子9は、SDL5の全面上のポンプフィールド7の大きさを制御する手段を提供する。
【0028】
図1にみられるように、ファイバー結合レーザダイオードシステム8は、利得媒体15の表面に楕円形のポンピングスポットを提供するのに適した角度で利得媒体15をポンピングするように配置されている。本発明が限定されるものでないこと及び、ファイバー結合レーザダイオードシステム8が、SDL5に直交するポンプフィールドを提供して、利得媒体15の表面に円形ポンピングスポットを提供するようにできることは、当業者には自明である。
【0029】
図1では、キャビティ内共振場が符号10で表されており、レーザ共振器2からの超短パルス出力場は、符号11で示されている。
【0030】
SDL5が図2に示されている。SDL5は、GaAs基体13上に有機金属化学気相成長法(MOCVD)で成長させたウエハ構造12を具えている。ウエハ構造の蒸着は、この分野で知られている、例えば分子線エピタキシ-(MBE)成長技術などの代替技術で行うことができる。ウエハ構造12は、第1の分散ブラッグ反射器(DBR)領域14と、利得媒体15と、キャリア閉じ込め電位バリア16と、酸化防止層17とを具える。
【0031】
当業者には自明であるように、SDLsに組み込むウエハ構造には多くの変形があり、本発明は、特定のDBR14あるいは利得媒体15構造の使用に限定されるものではない。一般的に、利得媒体15は、半波構造間に均等にスペースを空けて配置した多数の量子井戸を具え、SDL5が都合の良いポンピング波長で光沢的にポンピングされ、一方、DBR14は一般的に、多数の四分の一波長層対を具え、出力場11に所望の波長で高反射率を提供する。
【0032】
例示のみにより、ここに記載した実施例は、半波GaAs構造間に均等にスペースを空けて配置したInGaAs量子井戸を有する利得媒体15を具え、SDL5が808nmで光学的にポンピングされつつ、980nmで出力を発生する。
【0033】
第1のDBR領域14は、30対のAlAs-GaAs四分の一波長層を具えており、980nmで99.9%より大きい反射率を示す。キャリア閉じ込め電位バリア16は、単一の波長厚Al0.3Ga0.7As層を具える。酸化防止層17は、薄いGaAsキャップを具えている。
【0034】
代替的に使用できる当業者に知られている代替の利得媒体には、670nmないし1300nmの出力波長が可能である代替のヒ化ガリウム(GaAs)構造、1350nmないし1600nmの出力波長が可能であるインジウム燐(InP)構造、及び、1800nmないし2700nmの出力波長が可能であるアンチモン化ガリウム(GaSb)構造がある。これらの利得媒体は、当業者に知られている量子井戸又は量子ドットに基づくものでもよい。
【0035】
図3は、SDL5の動作特性を改善するために使用した冷却装置の詳細を示す図である。特に、冷却装置18は、熱拡散器19と、標準型熱電冷却器又はウオータークーラ20を具える。熱拡散器19は、外側にくさび面21を具えるダイヤモンド単結晶を具える。高性能抗反射コーティングを、くさび面21の表面に施してもよい。
【0036】
ダイヤモンド単結晶熱拡散器19は、ウエハ構造12に光接触させて接合し、利得媒体15が熱拡散器19と第1のDBR14との間に位置するようにする。ウエハ構造12と熱拡散器19は、インジウムフォイル22の頂部において、熱電冷却器又はウォータークーラ20の上に固定される。
【0037】
ミラー4は、強度飽和ミラーであり、米国特許第5,627,854号に詳細に記載されており、図4に示すタイプの飽和型ブラッグ反射器(SBR)を具える。ここに記載した実施例では、この構成要素は、第2の分散ブラッグ反射器(DBR)24内に成長させた単一量子井戸23を具える。第2のDBR24は、GaAs基体27に取り付けた8対のAlAs25 AlGaAs26四分の一波長層を具え、950nmを中心として100nmあたりの反射率帯域幅ΔRを超えて99.9%より大きい反射率としている。上述の構成により、第2のブラッグ反射器(DBR)24のフリースペクトルレンジ(FSR)は、300nmのオーダーとなる。代替の実施例では、第2のDBR24は、30対のAlAs25AlGaAs26四分の一波長層を具えていてもよい。
【0038】
当業者には自明である通り、強度飽和ミラー4の温度制御も必要である。これは、SDLに関して上述したものと同様に標準熱電冷却器又はウォータークーラを用いることによって制御できる。
【0039】
上述した共振器2は、SBR4のキャビティ内共振場10の断面積が、利得媒体15のキャビティ内共振場の断面積より大きいか、これと同じであるように構成されている。当業者には自明であるように、このような構成は、利得飽和効果を増すものとして知られているため、この構成はこの分野で適用されている通常の方法とは逆である。
【0040】
この構成において、SDL1は、利得媒体15がポンピング場7によってポンピングされると、レーザー用として使用でき、受動的モードロック同期出力場11が発生する。このモードロック同期は、強度飽和ミラーが、共振場10を形成するキャビティ内パルス又はキャビティモードのリーディングエッジをクリップする様に作用するので、強度飽和ミラー4の使用によって支援される。さらに、SBR4上及び利得媒体15上のキャビティ内共振場10の相対断面積によって導入された利得飽和効果は、キャビティ内パルス又はキャビティモードのトレーリングエッジをクリップするよう作用するため、これもモードロック同期を支援する。
【0041】
追加の利点は、共振器2を使用することによって達成され、この分野で知られているシステムに比較して、SBR4上のキャビティ内共振場10の断面積がより大きくなる。これは、より大きい断面積がSBR4上のキャビティ内共振場の強度を下げて、その信頼性を高めるためである。
【0042】
全体的な効果は、100psないし数フェムト秒の範囲のパルス幅を有し、この分野で知られているこのようなシステムに比べて高い安定性を示す、受動的モードロック同期半導体ディスクレーザ(SDL)1を提供することである。
【0043】
図5は、本発明の代替の実施例による、図1に示すレーザ1と同様の受動的モードロック同期半導体ディスクレーザ(SDL)28を示す図である。この実施例では、SDL28では、共振器2bが実質的にM字型であり、第1ミラー(出力カプラー3a)と第2ミラー(SBR4)との間に形成されており、SDL5を具える。出力カプラ3aとSDL5との間には、折りたたみミラー6aが配置されている。同様の折りたたみミラー6aが、SDL5とSBR4との間に配置されている。共振器2bは、したがって、3回折りたたんだ共振器であると考えられる。
【0044】
ここに記載した実施例では、折りたたみミラー6sは凹ミラーであり、各々が200mmの曲率半径を有する。一方で、ミラー4と、SDL5、及び出力カプラ3aは、ほぼ平坦な反射エレメントであり、共振器2bは光学的に安定している。図5に示す実施例では、共振器2bの隣接するミラー3a、6a、5、6a、及び4の各々の間に150mmのスペースが設けられている。
【0045】
特に、共振器2bは、SBR4のキャビティ内共振場10の断面積が、利得媒体15のキャビティ内共振場の断面積より大きいか、あるいはこれと同じになるように構成されている。したがって、レーザ28は、図1ないし4を参照して上述したレーザと同様に作動する。図5の受動的モードロック同期SDL28は、図1に示す構成に比べて、出力カプラ3aが商業的により容易に入手できるため、平坦な出力カプラ3aを使用するという利点がある。
【0046】
多くの代替が、上述の実施例に組み込まれうることは自明である。例えば、SDL5の構造は、半導体レーザを使用する特別なアプリケーションに必要な代替の出力波長を提供するように変更できる。
【0047】
さらに、SBR4と利得媒体15のキャビティ内共振場10の断面積のサイズを変えることもできる。重要なことは、SBR4のキャビティ内共振場10の断面積が、利得媒体15のキャビティ内共振場の断面積より大きいか、これと同じであることである。
【0048】
熱拡散器は、代替的に、使用する材料が必要な熱拡散特性を示す限り、ダイヤモンド単結晶以外の材料を具えていてもよい。サファイヤ(Al)や、シリコンカーバイド(SiC)は、熱拡散を作るのに使用できる代替材料の例である。
【0049】
ここに述べた半導体レーザシステムは、したがって、波長670nmないし2700nmの間で、100mWないし5Wの範囲の電力を出力する、パルス幅が100psから100fsの受動的モードロック同期出力場を生成するのに使用できる。
【0050】
受動的モードロック同期レーザとこれに対応する方法について述べた。このレーザは、第1及び第2のミラーで終端し、第3及び第4ミラーで折りたたんだ共振器を具える。第3ミラーは、少なくとも1つの量子井戸層を具える多層半導体利得媒体に載せた反射器を具え、第2ミラーは、強度飽和ミラーを具える。共振器は、多層半導体利得媒体のキャビティ内共振場の断面積より大きいか、これと同じである、強度飽和ミラーのキャビティ内共振場の断面積を提供するように構成されている。この構成は、この分野で知られているこのようなシステムに比べて、安定性が高い受動的モードロック同期レーザを提供する。
【0051】
明細書を通じて、コンテキストが要求しない限り、用語「具える」又は「含む」、又はこれらの変形は、記載した数又は数群を含むものと解されるが、その他の数又は数群を排除するものではない。
【0052】
さらに、この記載の従来技術の参照は、従来技術が一般的な知識の一部を形成することを示すものとして考えるべきである。
【0053】
本発明の上述の説明は、説明と記述の目的でなされたものであり、本発明を開示した詳細な形に徹底する又は限定することを意図するものではない。記載した実施例は、本発明の原理を最もよく説明するために選んで描いたものであり、したがって、実際のアプリケーションは当業者が本発明を様々な実施例において最もよく利用できるようにするためのものであり、様々な変形は意図した特定の使用に適している。したがって、更なる変形又は改良を、特許請求の範囲で規定した本発明の範囲から外れることなく、ここに組み込むことができる。
図1
図2
図3
図4
図5