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特許6997535ヒータ制御機構、熱処理装置およびヒータ制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】ヒータ制御機構、熱処理装置およびヒータ制御方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/00 20060101AFI20220107BHJP
   F27D 19/00 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
H05B3/00 310D
F27D19/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017090554
(22)【出願日】2017-04-28
(65)【公開番号】P2018190555
(43)【公開日】2018-11-29
【審査請求日】2020-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】306039120
【氏名又は名称】DOWAサーモテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(72)【発明者】
【氏名】柴田 大樹
(72)【発明者】
【氏名】永石 昭浩
【審査官】吉澤 伸幸
(56)【参考文献】
【文献】実開昭51-061549(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2016/0216034(US,A1)
【文献】特開2009-231015(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/00
F27D 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの熱処理を行う熱処理装置に設けられた複数のヒータの動作を制御するヒータ制御機構であって、
全てのヒータのONとOFFを切り替える第1スイッチと、
前記複数のヒータのうち、一部のヒータのONとOFFを切り替える第2スイッチと、
前記ワークが収容される処理室内の温度情報に基づいて前記第1スイッチおよび前記第2スイッチにONとOFFを切り替える動作指示を与えるように構成された制御部とを備え、
前記制御部は、さらに前記ワークが収容される処理室内の温度情報に基づいて前記ヒータの作動時間を算出し、算出された作動時間に基づくONとOFFを切り替える動作指示を、前記第1スイッチおよび前記第2スイッチのうち、少なくとも前記第2スイッチに与えるように構成され、
前記第1スイッチと前記第2スイッチとがトランスを介して電気的に接続されるように構成されている、ヒータ制御機構。
【請求項2】
ワークの熱処理を行う熱処理装置に設けられた複数のヒータの動作を制御する、サイリスタが設けられていないヒータ制御機構であって、
全てのヒータのONとOFFを切り替える第1スイッチと、
前記複数のヒータのうち、一部のヒータのONとOFFを切り替える第2スイッチと、
前記ワークが収容される処理室内の温度情報に基づいて前記第1スイッチおよび前記第2スイッチにONとOFFを切り替える動作指示を与えるように構成された制御部とを備え、
前記制御部は、さらに前記ワークが収容される処理室内の温度情報に基づいて前記ヒータの作動時間を算出し、算出された作動時間に基づくONとOFFを切り替える動作指示を、前記第1スイッチおよび前記第2スイッチのうち、少なくとも前記第2スイッチに与えるように構成されている、ヒータ制御機構。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のヒータ制御機構を備えた、ワークの熱処理を行う熱処理装置。
【請求項4】
ワークの熱処理を行う熱処理装置に設けられた複数のヒータの動作を制御するヒータ制御方法であって、
全てのヒータのONとOFFを切り替える第1スイッチと、
前記複数のヒータのうち、一部のヒータのONとOFFを切り替える第2スイッチと、
前記ワークが収容される処理室内の温度情報に基づいて前記第1スイッチおよび前記第2スイッチにONとOFFを切り替える動作指示を与えるように構成された制御部とを備え、
前記第1スイッチと前記第2スイッチとがトランスを介して電気的に接続されるように構成されたヒータ制御機構を用い、
前記制御部で、前記ワークが収容される処理室内の温度情報に基づいて前記ヒータの作動時間を算出し、
算出された作動時間に基づく前記制御部からの動作指示により、前記第1スイッチおよび前記第2スイッチのうち、少なくとも前記第2スイッチのONとOFFを切り替える、ヒータ制御方法。
【請求項5】
ワークの熱処理を行う熱処理装置に設けられた複数のヒータの動作を制御するヒータ制御方法であって、
全てのヒータのONとOFFを切り替える第1スイッチと、
前記複数のヒータのうち、一部のヒータのONとOFFを切り替える第2スイッチと、
前記ワークが収容される処理室内の温度情報に基づいて前記第1スイッチおよび前記第2スイッチにONとOFFを切り替える動作指示を与えるように構成された制御部とを備えた、サイリスタが設けられていないヒータ制御機構を用い、
前記制御部で、前記ワークが収容される処理室内の温度情報に基づいて前記ヒータの作動時間を算出し、
算出された作動時間に基づく前記制御部からの動作指示により、前記第1スイッチおよび前記第2スイッチのうち、少なくとも前記第2スイッチのONとOFFを切り替える、ヒータ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒータの動作を制御するヒータ制御機構と、そのヒータ制御機構を備えた熱処理装置、およびヒータ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品やその他の機械部品等のワークの熱処理装置には、処理室内を加熱するためのヒータが設けられており、処理室が所定の温度になるように各ヒータの動作が制御されている。従来のヒータの制御機構として、特許文献1には制御部の制御命令により昇温室や浸炭室等の処理室ごとの温度を個別に調節できるようにヒータの出力(発熱量)を制御することが開示されている。また、特許文献2には、電源、温調計と協働するサイリスタ、トランス(変圧器)を用いたヒータ制御機構が開示されている。特許文献2のヒータ制御機構は、ヒータの温度が所定の温度に達するまで回路を導通状態とし、ヒータの温度が所定の温度に達すると、導通状態が解除されるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-91638号公報
【文献】特開2008-81781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
同一仕様の製品の熱処理を行う際には、ワークの熱処理後の品質ばらつきを抑えることが望ましい。このため、熱処理品質のばらつきを抑えるために処理室内の温度ばらつきを抑制してワークの温度をより均一にすることが求められる。しかし、従来の熱処理装置においては、処理室外部の環境温度の変動や、放熱部材とヒータとの距離の違いにより処理室内のホットゾーンで温度ばらつきが生じる場合があった。この温度ばらつきを解消するためにヒータの配置や仕様を変更することも考えられるが、一度、築炉した後にヒータの配置や仕様を変更することはヒータの付け替えといった非常に煩雑な作業を伴うことになり、その作業のために熱処理装置の運転を停止することが必要となる。したがって、処理室内の温度ばらつきを抑制するためには、ヒータの付け替えではなく、既設のヒータの温度制御を行うことで対応することが望まれる。
【0005】
しかしながら、従来のヒータ制御機構においては、処理室内の温度分布に応じて複数のヒータのうちの一部のヒータについてのみ温度を変更する場合、温度を変更するヒータごとに容量の異なるトランスを設けたり、トランスへの投入電圧を変えるためのサイリスタを用いる必要があった。図1は、処理室21内に設けられた同出力の4つのヒータ2a~2dのうち、2つのヒータ2a、2bの出力を変更して発熱温度を調節する場合を示す例であるが、従来のヒータ制御機構50では、温度を変更する2つのヒータ2a、2bと残りの2つのヒータ2c、2dで、それぞれ異なるトランス3とサイリスタ51を使用する必要があった。このようなヒータ制御機構は、構造が複雑になると共に、高価なサイリスタの使用により熱処理装置のコスト増加を招いてしまう。したがって、より簡易な構造のヒータ制御機構で温度ばらつきを改善することが求められる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、簡易な構造のヒータ制御機構で処理室内の温度ばらつきを改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明は、ワークの熱処理を行う熱処理装置に設けられた複数のヒータの動作を制御するヒータ制御機構であって、全てのヒータのONとOFFを切り替える第1スイッチと、前記複数のヒータのうち、一部のヒータのONとOFFを切り替える第2スイッチと、前記ワークが収容される処理室内の温度情報に基づいて前記第1スイッチおよび前記第2スイッチにONとOFFを切り替える動作指示を与えるように構成された制御部とを備え、前記制御部は、さらに前記ワークが収容される処理室内の温度情報に基づいて前記ヒータの作動時間を算出し、算出された作動時間に基づくONとOFFを切り替える動作指示を、前記第1スイッチおよび前記第2スイッチのうち、少なくとも前記第2スイッチに与えるように構成され、前記第1スイッチと前記第2スイッチとがトランスを介して電気的に接続されるように構成されていることを特徴としている。
また、別の観点による本発明は、ワークの熱処理を行う熱処理装置に設けられた複数のヒータの動作を制御する、サイリスタが設けられていないヒータ制御機構であって、全てのヒータのONとOFFを切り替える第1スイッチと、前記複数のヒータのうち、一部のヒータのONとOFFを切り替える第2スイッチと、前記ワークが収容される処理室内の温度情報に基づいて前記第1スイッチおよび前記第2スイッチにONとOFFを切り替える動作指示を与えるように構成された制御部とを備え、前記制御部は、さらに前記ワークが収容される処理室内の温度情報に基づいて前記ヒータの作動時間を算出し、算出された作動時間に基づくONとOFFを切り替える動作指示を、前記第1スイッチおよび前記第2スイッチのうち、少なくとも前記第2スイッチに与えるように構成されていることを特徴としている。
【0008】
別の観点による本発明は、ワークの熱処理を行う熱処理装置であって、上記ヒータ制御機構を備えていることを特徴としている。
【0009】
また、別の観点による本発明は、ワークの熱処理を行う熱処理装置に設けられた複数のヒータの動作を制御するヒータ制御方法であって、全てのヒータのONとOFFを切り替える第1スイッチと、前記複数のヒータのうち、一部のヒータのONとOFFを切り替える第2スイッチと、前記ワークが収容される処理室内の温度情報に基づいて前記第1スイッチおよび前記第2スイッチにONとOFFを切り替える動作指示を与えるように構成された制御部とを備え、前記第1スイッチと前記第2スイッチとがトランスを介して電気的に接続されるように構成されたヒータ制御機構を用い、前記制御部で、前記ワークが収容される処理室内の温度情報に基づいて前記ヒータの作動時間を算出し、算出された作動時間に基づく前記制御部からの動作指示により、前記第1スイッチおよび前記第2スイッチのうち、少なくとも前記第2スイッチのONとOFFを切り替えることを特徴としている。
また、別の観点による本発明は、ワークの熱処理を行う熱処理装置に設けられた複数のヒータの動作を制御するヒータ制御方法であって、全てのヒータのONとOFFを切り替える第1スイッチと、前記複数のヒータのうち、一部のヒータのONとOFFを切り替える第2スイッチと、前記ワークが収容される処理室内の温度情報に基づいて前記第1スイッチおよび前記第2スイッチにONとOFFを切り替える動作指示を与えるように構成された制御部とを備えた、サイリスタが設けられていないヒータ制御機構を用い、前記制御部で、前記ワークが収容される処理室内の温度情報に基づいて前記ヒータの作動時間を算出し、算出された作動時間に基づく前記制御部からの動作指示により、前記第1スイッチおよび前記第2スイッチのうち、少なくとも前記第2スイッチのONとOFFを切り替えることを特徴としている。
【0010】
本発明に係るヒータ制御によれば、複数のヒータのうちの一部のヒータの作動時間を調節することができ、複数のトランスやサイリスタを用いずに処理室内の温度ばらつきを改善することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡易な構造のヒータ制御機構で処理室内の温度ばらつきを改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】従来のヒータ制御機構の概略構成を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係るヒータ制御機構の概略構成を示す図である。
図3】本発明の実施形態に係る各ヒータの作動サイクルを示す図である。
図4】実施例における処理室内の温度測定点を示す図である。
図5】ヒータ作動時間と各温度測定点における測定温度のばらつきとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
図2は本実施形態の熱処理装置20に設けられたヒータ制御機構1の概略構成を示す図であり、ワークWが収容される処理室21を上方から見た図である。図2に示すように本実施形態のヒータ制御機構1は、ワークWが収容される処理室21に設けられた4つのヒータ2a~2dと、供給電力の変圧を行うトランス3(変圧器)と、トランス3への電力の供給と遮断を切り替える第1スイッチ4と、一部のヒータ2a、2bへのトランス3からの電力の供給と遮断を切り替える第2スイッチ5と、第1スイッチ4および第2スイッチ5に動作指示を与える制御部6とを備えている。
【0015】
4つのヒータ2a~2dは全て同出力のものであり、ワークWを挟み込むように対向して一対のヒータ2a、2bおよび2c、2dが図2の横方向に並んで配置されている。このうち、図2中の左側に配置された一対のヒータ2c、2dはトランス3に接続されている。一方、図2中の右側に配置された残りの一対のヒータ2a、2bは、第2スイッチ5を介してトランス3に接続されている。また、トランス3は第1スイッチ4を介して電源(不図示)に接続されている。すなわち、第1スイッチ4と第2スイッチ5とはトランス3を介して電気的に接続されるように構成されている。
【0016】
このため、第1スイッチ4および第2スイッチ5が共にON状態となる場合には、トランス3を介して全てのヒータ2a~2dに電力が供給され、各ヒータ2a~2dがON状態となる。一方、第2スイッチ5がON状態であっても第1スイッチ4がOFF状態となれば、トランス3への電力供給が遮断される。これにより全てのヒータ2a~2dに電力が供給されず、各ヒータ2a~2dがOFF状態となる。すなわち、第1スイッチ4は、全てのヒータ2a~2dのONとOFFを切り替える機能を有している。
【0017】
また、第1スイッチ4がONの状態で第2スイッチ5がOFF状態になると、ヒータ2a、2bへの電力供給が遮断され、ヒータ2a、2bがOFF状態となる。すなわち、第2スイッチ5は、複数のヒータ2a~2dのうちの一部のヒータ2a、2bのONとOFFを切り替える機能を有している。
【0018】
処理室21内には、処理室内温度の温度測定部の一例として熱電対7が設けられており、ここで測定された温度情報は、温調計8を介して制御部6へと送られる。なお、図2では熱電対7が1つだけ設けられているように図示されているが、複数設けられていても良い。熱電対7が複数設けられている場合には、各熱電対7で測定された温度情報は温調計8を介して制御部6へと送られる。制御部6は、温調計8から入力された温度情報に基づいて処理室21内の温度分布がより均一になるようなヒータ2a~2dの作動時間を算出する。なお、制御部6は、その情報に基づき、第1スイッチ4および第2スイッチ5に対してONまたはOFFに切り替わるための動作指示を与える。
【0019】
本実施形態のヒータ制御機構1は以上のように構成されている。なお、第1スイッチ4や第2スイッチ5としては、例えばマグネットスイッチが用いられるが、電力の供給と遮断を切り替えることができれば、他のスイッチであっても良い。また、制御部6は例えばPLC(プログラマブルロジックコントローラ)が用いられるが、処理室21内の温度情報に基づきヒータ2a~2dのON、OFFタイミングを設定し、第1スイッチ4および第2スイッチ5に動作指示を与えることができれば他の方法で制御部6を構成しても良い。
【0020】
本実施形態のヒータ制御機構1によれば、第1スイッチ4と第2スイッチ5により、複数のヒータ2a~2dのうちの一部のヒータ2a、2bの作動時間を変更することができる。これにより、所定のサイクル間におけるヒータ2a、2bの総発熱量をヒータ2c、2dよりも小さくすることができる。ヒータ2a、2bの総発熱量の調節方法について具体的に説明すると、例えば図3のようなサイクル間においてヒータ2a、2bの総発熱量をヒータ2c、2dの総発熱量の55%に調節する場合、本実施形態では導通時における各ヒータ2a~2dの出力が等しいことから、ヒータ2c、2dが60秒サイクルの最初のサイクルで作動し続ける際には、ヒータ2a、2bは60秒の55%の時間、すなわち33秒間作動すれば良い。これにより、ヒータ2a、2bの総発熱量はヒータ2c、2dの総発熱量の55%となる。
【0021】
なお、ヒータ2a、2bの総発熱量をヒータ2c、2dの総発熱量に対し、どの程度小さくするかについては、出荷用製品の熱処理の操業を開始する前に異なる条件の加熱試験を実施することであらかじめ決定される。具体的には加熱試験で、ヒータ2a、2bの作動時間を上記のように調節し、ヒータ2c、2dの総発熱量に対するヒータ2a、2bの総発熱量と処理室21内の温度分布の均一性について評価し、温度分布のばらつきが最も小さくなるヒータ2a、2bの総発熱量の割合を決定する。本実施形態においては、ヒータ2c、2dに対するヒータ2a、2bの最適な総発熱量の割合が55%である。
【0022】
本実施形態のヒータ制御機構1では、制御部6がヒータ2c、2dに対するヒータ2a、2bの総発熱量の割合に応じて上記のようにヒータ2a~2dの作動時間を算出し、これに基づいて第1スイッチ4および第2スイッチ5に動作指示を与える。具体的に説明すると、制御部6は、まず第1スイッチ4および第2スイッチ5にON信号を送る。これにより第1スイッチ4および第2スイッチ5がON状態となり、第1スイッチ4、トランス3、第2スイッチ5が導通した状態となり、全てのヒータ2a~2dがON状態となる。それから33秒後、制御部6は第2スイッチ5にOFF信号を送る。これにより第2スイッチ5がOFF状態となり、ヒータ2a、2bへの電力供給が停止する。それから更に27秒後、制御部6は第1スイッチ4にOFF信号を送る。これにより第1スイッチ4がOFF状態となり、ヒータ2c、2dへの電力供給も停止し、全てのヒータ2a~2dがOFF状態となる。これにより、所定のサイクル間におけるヒータ2a、2bの総発熱量がヒータ2c、2dの55%の総発熱量となり、処理室21内の温度分布に変化を与えることができる。
【0023】
すなわち、本実施形態のヒータ制御機構1によれば、処理室21内の温度分布がより均一になるように、処理室21内の温度情報に基づいて複数のヒータ2a~2dのうちの一部のヒータ2a、2bの作動時間を調節することができ、これにより複数のトランス3やサイリスタを用いない簡易な構造で処理室21内の温度ばらつきを改善することができる。
【0024】
ところで、従来のヒータ制御機構1では、処理室21内の温度分布を均一にできない場合に、ヒータの間引き又は追加や仕様変更、電流容量の変更等の対応が必要となっていた。前述の通り、築炉後のヒータの付け替え作業は非常に手間がかかると共に、付け替えたヒータの構成でも依然として処理室21内の温度分布を改善できないこともある。この場合、ヒータの配置や仕様の再検討や、再度ヒータの付け替え作業を行うことが必要となる。このため、熱処理対象となるワークWの形状、個数、配置や、熱処理温度の変更等に応じた最適な加熱条件の条件出しに時間とコストがかかっていた。
【0025】
一方、本実施形態のヒータ制御機構1によれば、処理室21の温度情報に基づいて複数のヒータ2a~2dのうちの一部のヒータ2a、2bの作動時間を調節できる構成であるため、例えばワークWの形状や個数、配置の変更、処理室21外部の環境温度の変動等が生じても、ヒータ2a~2dの付け替えを行うことなく、処理室21内の温度分布を調節することができる。したがって、本実施形態のヒータ制御機構1によれば、多様な熱処理条件に対し、既設のヒータ2a~2dをそのまま用いて処理室21内の温度ばらつきを改善することが可能となる。これにより従前の最適加熱条件の条件出しの際に費やされていた時間とコストを大きく削減することができる。
【0026】
なお、ヒータ2a~2dのONとOFFの切り替えを行うか否かの判定は例えば30~120秒サイクルで行われる。このサイクルが短すぎると、短時間で何度もスイッチングされることになり、スイッチ寿命が早まることが懸念される。一方、このサイクルが長すぎると、温度ばらつきが大きくなることが懸念される。スイッチ寿命と温度ばらつき軽減の両立を図るためには50~80秒サイクルでヒータ2a~2dのONとOFFの切り替えを行うか否かの判定を実施することが好ましい。
【0027】
また、本実施形態では一対のヒータ2c、2dと、残りの一対のヒータ2a、2bの動作を制御することとしたが、制御するヒータの組み合わせは本実施形態で説明したものに限定されない。例えば、ヒータのON、OFFを切り替えるスイッチを更に設け、各ヒータ2a~2dを個別に制御するようにしても良い。また、ヒータ2a~2dの個数や配置は本実施形態で説明したものに限定されず、処理室21の構造等に応じて適宜変更しても良い。また、ヒータ2a~2dは同一出力でなくても良い。また、ヒータ2a~2dが設けられる処理室21は、バッチ式の熱処理装置の処理室であっても良いし、処理室が連続して配置される連続式の熱処理装置の処理室であっても良い。また、ヒータ制御機構1が設けられる熱処理装置20としては、浸炭処理や窒化処理等の処理室21の加熱を要する熱処理を行う熱処理装置であれば特に限定されない。また、ヒータ2a~2dに供給する電力の変圧が必要なければ、トランスを用いなくても良い。
【0028】
いずれの場合であってもヒータ制御機構1に、全てのヒータのONとOFFを切り替える第1スイッチ4と、一部のヒータのONとOFFを切り替える第2スイッチ5と、処理室21内の温度情報に基づいてヒータの作動時間を算出し、算出された作動時間に基づく動作指示を、第1スイッチ4および第2スイッチ5のうちの少なくとも第2スイッチ5に与える制御部6が設けられていれば、処理室21内の温度分布を変えることができ、温度ばらつきを改善する効果を得ることができる。
【0029】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例
【0030】
本発明に係るヒータ制御機構が設けられたバッチ式熱処理装置で加熱試験を実施した。
【0031】
本実施例の熱処理装置は図4のように処理室21内の中央にワークWを載せる多段式の治具22が配置され、その治具22を挟み込むように対向して配置された一対の電熱式のヒータ2a、2bおよび2c、2dが並んで設けられている。また、治具22の上方には処理室21内の雰囲気を攪拌するファン23が設けられ、ファン23の回転数は1000rpmに設定されている。治具22は立方体形状を有しており、立方体の各頂点および各頂点を結ぶ対角線の交点の計11点で温度が測定できるように熱電対24が設置されている。ヒータ制御機構は、図2に示す構造と同一であり、図4の手前側の一対のヒータ2c、2dはトランスに接続され、同じトランスに図4の奥側の一対のヒータ2a、2bがマグネットスイッチからなる第2スイッチを介して接続されている。トランスはマグネットスイッチからなる第1スイッチを介して電源に接続されている。各ヒータ2a~2dは全て同出力のものである。
【0032】
また、処理室21内には、処理室温度測定用の熱電対7も設けられている。熱電対7で測定された処理室21内の温度情報は、温調計8を介して制御部6であるPLC(プログラマブルロジックコントローラ)へと送られる。制御部6は、処理室21内の温度情報に基づきヒータ2a~2dのON、OFFタイミングを設定し、第1スイッチ4および第2スイッチ5に動作指示を与えている。本実施例では図4の手前側に処理室21に隣り合うように設けられた油槽(不図示)があり、図4の奥側には処理室21の内壁に設けられた断熱材(不図示)がある。このため、本実施例の処理室21内においては図4の奥側の温度が図4の手前側の温度よりも下がりにくくなっており、温度が下がりにくい側のヒータ2a、2bの作動時間を調節できるようにヒータ2a、2bに第2スイッチが接続されている。第2スイッチはこのように処理室21内において相対的に温度が下がりにくくなる部分のヒータに接続することが好ましい。なお、本実施例におけるヒータの数や配置等の構成は、発明の効果を得る上で適した構成のうちの一つである。
【0033】
加熱試験は、設定温度を950℃として、上記熱処理装置を用いて処理室温度測定用の熱電対7で測定される温度が950℃となるまで処理室内を加熱することで行う。詳細には、処理室温度測定用の熱電対7からの温度情報により処理室21内の温度が950℃となるまで全てのヒータ2a~2dをONにして処理室21内を加熱する。その後、処理室21内の温度が950℃となると、制御部6がヒータ2a、2bの作動時間を調節するために、処理室21内の温度情報に基づいてヒータ2a、2bの作動時間を算出し、算出された作動時間に基づく動作指示を第2スイッチに与える。これによりヒータ2a、2bの作動時間経過後の、ヒータ2c、2dの総発熱量に対するヒータ2a、2bの総発熱量を抑えるようにしている。なお、第1スイッチおよび第2スイッチのONとOFFの切り替えを行うか否かの判定は60秒サイクルで行われる。その判定時に処理室温度測定用の熱電対7で測定された温度が950℃を超えている場合には第1スイッチがOFFに切り替えられ、その判定時に処理室温度測定用の熱電対7で測定された温度が950℃を下回っている場合には第1スイッチがONに切り替えられる。
【0034】
加熱試験は、ヒータ2a、2bの作動時間が異なる条件で複数回実施し、治具22上の熱電対24の計11点の温度測定点で測定された温度の平均温度と、それらの温度ばらつきRを記録した。また、比較例として、ヒータ2a、2bをヒータ2c、2dと同一の作動時間とした場合の加熱試験も実施した。その加熱試験の結果を下記表1および図5に示す。なお、下記表1および図5に記載された「ヒータ2a、2bの作動時間」とは、処理室内が950℃に到達した後のヒータ2c、2dの作動時間を基準としたヒータ2a、2bの作動時間の割合を示している。
【0035】
【表1】
【0036】
表1および図5に示されるように、ヒータ2a、2bの作動時間を調節することで、温度ばらつきRを大きく改善することができた。すなわち、本発明に係るヒータ制御機構によれば、複数のトランスやサイリスタを用いない簡易な構造で処理室の温度ばらつきRを改善することができる。また、本加熱試験では実施例3で示されるようにヒータ2a、2bの作動時間が55%になることで最も温度ばらつきが小さくなる。本発明に係るヒータ制御機構によれば、このような最適な加熱条件の条件出しをヒータ2a~2dの付け替え作業をせずに行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、ワークの熱処理を行う熱処理装置に設けられるヒータ制御機構に適用することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 ヒータ制御機構
2a ヒータ
2b ヒータ
2c ヒータ
2d ヒータ
3 トランス
4 第1スイッチ
5 第2スイッチ
6 制御部
7 熱電対
8 温調計
20 熱処理装置
21 処理室
22 治具
23 ファン
24 熱電対
50 従来のヒータ制御機構
51 サイリスタ
W ワーク
図1
図2
図3
図4
図5