(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】車両用空気調和装置
(51)【国際特許分類】
B60H 1/22 20060101AFI20220107BHJP
【FI】
B60H1/22 651C
B60H1/22 611D
(21)【出願番号】P 2017161056
(22)【出願日】2017-08-24
【審査請求日】2020-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】515134276
【氏名又は名称】サンデン・オートモーティブクライメイトシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】石関 徹也
(72)【発明者】
【氏名】宮腰 竜
(72)【発明者】
【氏名】山下 耕平
【審査官】安島 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-213765(JP,A)
【文献】特開2018-122653(JP,A)
【文献】特許第6855281(JP,B2)
【文献】国際公開第2011/086683(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0107505(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/00 - 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮する圧縮機と、
車室内に供給する空気が流通する空気流通路と、
前記冷媒を放熱させて前記空気流通路から前記車室内に供給する空気を加熱するための放熱器と、
車室外に設けられて前記冷媒を吸熱させるための室外熱交換器と、
制御装置を備え、
該制御装置により少なくとも、前記圧縮機から吐出された前記冷媒を前記放熱器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を減圧した後、前記室外熱交換器にて吸熱させる暖房運転を実行する車両用空気調和装置において、
車両に搭載された発熱機器に熱媒体を循環させて当該発熱機器の温度を調整するための発熱機器温度調整装置を備え、
該発熱機器温度調整装置は、前記熱媒体を加熱するための加熱装置と、前記冷媒と前記熱媒体とを熱交換させるための冷媒-熱媒体熱交換器を有し、
前記制御装置は、前記圧縮機から吐出された前記冷媒を前記放熱器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を減圧した後、前記冷媒-熱媒体熱交換器にて吸熱させる熱媒体吸熱/暖房モードを有し、
前記暖房運転から前記熱媒体吸熱/暖房モードに切り換える際、前記熱媒体の温度が所定の閾値T1以下である場合、前記熱媒体吸熱/暖房モードに切り換える前に、前記加熱装置により前記熱媒体を加熱し、当該熱媒体の温度を上昇させた後、前記熱媒体吸熱/暖房モードに切り換えることを特徴とする車両用空気調和装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記暖房運転において所定の外気吸熱不可予測判定条件が成立した場合、前記室外熱交換器で外気から吸熱できなくなる可能性ありと判定し、前記熱媒体の温度が前記閾値T1以下であるか否か判断して、当該閾値T1以下であれば前記加熱装置による前記熱媒体の加熱を開始し、当該熱媒体の温度が少なくとも前記閾値T1より高い温度に上昇するのを待って前記熱媒体吸熱/暖房モードに移行することを特徴とする請求項1に記載の車両用空気調和装置。
【請求項3】
前記外気吸熱不可予測判定条件は、前記圧縮機の吸込冷媒温度Tsが所定値Ts1以下に低下したこと、前記室外熱交換器への着霜量が所定値Fr1以上に増加したこと、前記室外熱交換器への着霜の進行速度が所定値X1以上に上昇したこと、外気温度Tamが所定値Tam1以下に低下したこと、外気温度Tamの低下速度が所定値Y1以上に上昇したこと、のうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項2に記載の車両用空気調和装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記放熱器の目標暖房能力TGQhp、前記車室内に吹き出される空気温度の目標値である目標吹出温度TAO、前記空気流通路に通風する室内送風機の電圧BLV、前記放熱器の風下側の空気の温度の目標値である目標ヒータ温度TCO、のうちの少なくとも一つに基づいて前記閾値T1を決定することを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちの何れかに記載の車両用空気調和装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記熱媒体吸熱/暖房モードを実行する際、所定の外気吸熱可能判定条件が成立した場合、前記室外熱交換器で外気からの吸熱が可能と判定し、前記放熱器にて放熱した冷媒を前記室外熱交換器と前記冷媒-熱媒体熱交換器にて吸熱させることを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちの何れかに記載の車両用空気調和装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記暖房運転において、前記圧縮機の吸込冷媒温度Tsが所定値Ts1以下に低下したこと、前記室外熱交換器への着霜量が所定値Fr1以上に増加したこと、前記室外熱交換器への着霜の進行速度が所定値X1以上に上昇したこと、外気温度Tamが所定値Tam1以下に低下したこと、外気温度Tamの低下速度が所定値Y1以上に上昇したこと、のうちの少なくとも一つを含む外気吸熱不可予測判定条件が成立した場合、前記室外熱交換器で外気から吸熱できなくなる可能性ありと判定し、前記熱媒体の温度が前記閾値T1以下であるか否か判断して、当該閾値T1以下であれば前記加熱装置による前記熱媒体の加熱を開始し、当該熱媒体の温度が少なくとも前記閾値T1より高い温度に上昇するのを待って前記熱媒体吸熱/暖房モードに移行すると共に、
前記外気吸熱可能判定条件は、前記圧縮機の吸込冷媒温度Tsが前記所定値Ts1より低い所定値Ts2以上であること、前記室外熱交換器への着霜量が前記所定値Fr1より多い所定値Fr2以下であること、前記室外熱交換器への着霜の進行速度が前記所定値X1より早い所定値X2以下であること、外気温度Tamが前記所定値Tam1より低い所定値Tam2以上であること、外気温度Tamの低下速度が前記所定値Y1より早い所定値Y2以下であること、のうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項5に記載の車両用空気調和装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車室内を空調するヒートポンプ方式の空気調和装置、特にバッテリ等の発熱機器を備えたハイブリッド自動車や電気自動車に好適な車両用空気調和装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の環境問題の顕在化から、バッテリから供給される電力で走行用の電動モータを駆動するハイブリッド自動車や電気自動車が普及するに至っている。そして、このような車両に適用することができる空気調和装置として、冷媒を圧縮して吐出する圧縮機と、車室内側に設けられて冷媒を放熱させる放熱器と、車室内側に設けられて冷媒を吸熱させる吸熱器と、車室外側に設けられて外気が通風されると共に、冷媒を吸熱又は放熱させる室外熱交換器が接続された冷媒回路を備え、圧縮機から吐出された冷媒を放熱器において放熱させ、この放熱器において放熱した冷媒を室外熱交換器において吸熱させる暖房モード(暖房運転)と、圧縮機から吐出された冷媒を室外熱交換器において放熱させ、吸熱器において吸熱させる冷房モード(冷房運転)を切り換えて実行するものが開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、車両に搭載された例えばバッテリ(発熱機器)は充電中、或いは、放電中の自己発熱で高温となる。このような状態で充放電を行うと、劣化が進行し、やがては作動不良を起こして破損する危険性がある。そこで、冷媒回路を循環する冷媒により冷却された空気(熱媒体)をバッテリに循環させることで二次電池(バッテリ)の温度を調整することができるようにしたものも開発されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-213765号公報
【文献】特開2016-90201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、熱媒体から冷媒が吸熱できるようにすることで、バッテリ等の発熱機器の熱を車室内の暖房に利用できるようにすれば、室外熱交換器への着霜の進行を遅延させることできるようになると共に、室外熱交換器が着霜して外気から吸熱することができなくなった場合にも、熱媒体からの吸熱で車室内の暖房を行うことが可能となる。
【0006】
しかしながら、室外熱交換器で外気から吸熱する運転状態から熱媒体から吸熱する運転状態に切り換わったとき、当該熱媒体の温度が冷えている場合、暖房能力が著しく低下して、車室内に吹き出される空気の温度が一時的に低下し、搭乗者に不快感や違和感を与える問題がある。
【0007】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、外気からの吸熱から熱媒体からの吸熱に切り換えるときの暖房能力の低下による不都合を解消することができる車両用空気調和装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の車両用空気調和装置は、冷媒を圧縮する圧縮機と、車室内に供給する空気が流通する空気流通路と、冷媒を放熱させて空気流通路から車室内に供給する空気を加熱するための放熱器と、車室外に設けられて冷媒を吸熱させるための室外熱交換器と、制御装置を備え、この制御装置により少なくとも、圧縮機から吐出された冷媒を放熱器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を減圧した後、室外熱交換器にて吸熱させる暖房運転を実行するものであって、車両に搭載された発熱機器に熱媒体を循環させて当該発熱機器の温度を調整するための発熱機器温度調整装置を備え、この発熱機器温度調整装置は、熱媒体を加熱するための加熱装置と、冷媒と熱媒体とを熱交換させるための冷媒-熱媒体熱交換器を有し、制御装置は、圧縮機から吐出された冷媒を放熱器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を減圧した後、冷媒-熱媒体熱交換器にて吸熱させる熱媒体吸熱/暖房モードを有し、暖房運転から熱媒体吸熱/暖房モードに切り換える際、熱媒体の温度が所定の閾値T1以下である場合、熱媒体吸熱/暖房モードに切り換える前に、加熱装置により熱媒体を加熱し、当該熱媒体の温度を上昇させた後、熱媒体吸熱/暖房モードに切り換えることを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明の車両用空気調和装置は、上記発明において制御装置は、暖房運転において所定の外気吸熱不可予測判定条件が成立した場合、室外熱交換器で外気から吸熱できなくなる可能性ありと判定し、熱媒体の温度が閾値T1以下であるか否か判断して、当該閾値T1以下であれば加熱装置による熱媒体の加熱を開始し、当該熱媒体の温度が少なくとも閾値T1より高い温度に上昇するのを待って熱媒体吸熱/暖房モードに移行することを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明の車両用空気調和装置は、上記発明において外気吸熱不可予測判定条件は、圧縮機の吸込冷媒温度Tsが所定値Ts1以下に低下したこと、室外熱交換器への着霜量が所定値Fr1以上に増加したこと、室外熱交換器への着霜の進行速度が所定値X1以上に上昇したこと、外気温度Tamが所定値Tam1以下に低下したこと、外気温度Tamの低下速度が所定値Y1以上に上昇したこと、のうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明の車両用空気調和装置は、上記各発明において制御装置は、放熱器の目標暖房能力TGQhp、車室内に吹き出される空気温度の目標値である目標吹出温度TAO、空気流通路に通風する室内送風機の電圧BLV、放熱器の風下側の空気の温度の目標値である目標ヒータ温度TCO、のうちの少なくとも一つに基づいて閾値T1を決定することを特徴とする。
【0012】
請求項5の発明の車両用空気調和装置は、上記各発明において制御装置は、熱媒体吸熱/暖房モードを実行する際、所定の外気吸熱可能判定条件が成立した場合、室外熱交換器で外気からの吸熱が可能と判定し、放熱器にて放熱した冷媒を室外熱交換器と冷媒-熱媒体熱交換器にて吸熱させることを特徴とする。
【0013】
請求項6の発明の車両用空気調和装置は、上記発明において制御装置は、暖房運転において、圧縮機の吸込冷媒温度Tsが所定値Ts1以下に低下したこと、室外熱交換器への着霜量が所定値Fr1以上に増加したこと、室外熱交換器への着霜の進行速度が所定値X1以上に上昇したこと、外気温度Tamが所定値Tam1以下に低下したこと、外気温度Tamの低下速度が所定値Y1以上に上昇したこと、のうちの少なくとも一つを含む外気吸熱不可予測判定条件が成立した場合、室外熱交換器で外気から吸熱できなくなる可能性ありと判定し、熱媒体の温度が閾値T1以下であるか否か判断して、当該閾値T1以下であれば加熱装置による熱媒体の加熱を開始し、当該熱媒体の温度が少なくとも閾値T1より高い温度に上昇するのを待って熱媒体吸熱/暖房モードに移行すると共に、外気吸熱可能判定条件は、圧縮機の吸込冷媒温度Tsが所定値Ts1より低い所定値Ts2以上であること、室外熱交換器への着霜量が所定値Fr1より多い所定値Fr2以下であること、室外熱交換器への着霜の進行速度が所定値X1より早い所定値X2以下であること、外気温度Tamが所定値Tam1より低い所定値Tam2以上であること、外気温度Tamの低下速度が所定値Y1より早い所定値Y2以下であること、のうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、冷媒を圧縮する圧縮機と、車室内に供給する空気が流通する空気流通路と、冷媒を放熱させて空気流通路から車室内に供給する空気を加熱するための放熱器と、車室外に設けられて冷媒を吸熱させるための室外熱交換器と、制御装置を備え、この制御装置により少なくとも、圧縮機から吐出された冷媒を放熱器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を減圧した後、室外熱交換器にて吸熱させる暖房運転を実行する車両用空気調和装置において、車両に搭載された発熱機器に熱媒体を循環させて当該発熱機器の温度を調整するための発熱機器温度調整装置を備え、この発熱機器温度調整装置は、熱媒体を加熱するための加熱装置と、冷媒と熱媒体とを熱交換させるための冷媒-熱媒体熱交換器を有し、制御装置が、圧縮機から吐出された冷媒を放熱器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を減圧した後、冷媒-熱媒体熱交換器にて吸熱させる熱媒体吸熱/暖房モードを有するので、この熱媒体吸熱/暖房モードに切り換えれば、発熱機器温度調整装置の熱媒体から吸熱して効率良く車室内の暖房を行い、例えば室外熱交換器への着霜を抑制しながら、適切に発熱機器の冷却を行い、或いは、室外熱交換器が着霜して外気から吸熱できなくなった場合にも、発熱機器温度調整装置の熱媒体から吸熱して車室内を暖房することができるようになる。
【0015】
特に、制御装置は、暖房運転から熱媒体吸熱/暖房モードに切り換える際、熱媒体の温度が所定の閾値T1以下である場合、熱媒体吸熱/暖房モードに切り換える前に、加熱装置により熱媒体を加熱し、当該熱媒体の温度を上昇させた後、熱媒体吸熱/暖房モードに切り換えるので、暖房運転から熱媒体吸熱/暖房モードに切り換わるときの暖房能力を十分に確保することができるようになる。これにより、熱媒体の温度が低い状態で熱媒体吸熱/暖房モードに切り換わり、吹出温度が一時的に低下して搭乗者が不快感や違和感を覚える不都合も解消することが可能となる。
【0016】
また、請求項2の発明の如く制御装置が、暖房運転において所定の外気吸熱不可予測判定条件が成立した場合、室外熱交換器で外気から吸熱できなくなる可能性ありと判定し、熱媒体の温度が閾値T1以下であるか否か判断して、当該閾値T1以下であれば加熱装置による熱媒体の加熱を開始し、当該熱媒体の温度が少なくとも閾値T1より高い温度に上昇するのを待って熱媒体吸熱/暖房モードに移行するようにすれば、暖房運転から熱媒体吸熱/暖房モードへの切り換えを円滑に行うことができるようになる。
【0017】
尚、この場合の外気吸熱不可予測判定条件としては、請求項3の発明の如く、圧縮機の吸込冷媒温度Tsが所定値Ts1以下に低下したこと、室外熱交換器への着霜量が所定値Fr1以上に増加したこと、室外熱交換器への着霜の進行速度が所定値X1以上に上昇したこと、外気温度Tamが所定値Tam1以下に低下したこと、外気温度Tamの低下速度が所定値Y1以上に上昇したこと、のうちの少なくとも一つを含むことが好適である。
【0018】
また、請求項4の発明の如く制御装置が、放熱器の目標暖房能力TGQhp、車室内に吹き出される空気温度の目標値である目標吹出温度TAO、空気流通路に通風する室内送風機の電圧BLV、放熱器の風下側の空気の温度の目標値である目標ヒータ温度TCO、のうちの少なくとも一つに基づいて閾値T1を決定するようにすれば、加熱装置により熱媒体を加熱する必要があるか否かを適切に判定し、不必要な加熱装置による加熱を回避することができるようになる。
【0019】
また、請求項5の発明の如く制御装置が、熱媒体吸熱/暖房モードを実行する際、所定の外気吸熱可能判定条件が成立した場合、室外熱交換器で外気からの吸熱が可能と判定し、放熱器にて放熱した冷媒を室外熱交換器と冷媒-熱媒体熱交換器にて吸熱させるようにすれば、室外熱交換器において外気からの吸熱が可能な場合、熱媒体からの吸熱と合わせて外気からも吸熱し、車室内を暖房することができるようになる。
【0020】
尚、この場合の外気吸熱可能判定条件としては、請求項6の発明の如く、圧縮機の吸込冷媒温度Tsが所定値Ts1より低い所定値Ts2以上であること、室外熱交換器への着霜量が所定値Fr1より多い所定値Fr2以下であること、室外熱交換器への着霜の進行速度が所定値X1より早い所定値X2以下であること、外気温度Tamが所定値Tam1より低い所定値Tam2以上であること、外気温度Tamの低下速度が所定値Y1より早い所定値Y2以下であること、のうちの少なくとも一つであることが好適である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明を適用した一実施形態の車両用空気調和装置の構成図である。
【
図2】
図1の車両用空気調和装置のコントローラの電気回路のブロック図である。
【
図3】
図2のコントローラによる暖房運転を説明する図である。
【
図4】
図2のコントローラによる除湿暖房運転を説明する図である。
【
図5】
図2のコントローラによる内部サイクル運転を説明する図である。
【
図6】
図2のコントローラによる除湿冷房運転を説明する図である。
【
図7】
図2のコントローラによる冷房運転を説明する図である。
【
図8】
図2のコントローラによる第1の熱媒体吸熱/暖房モードを説明する図である。
【
図9】
図2のコントローラによる第2の熱媒体吸熱/暖房モードを説明する図である。
【
図10】外気吸熱不可となる可能性があるときの
図2のコントローラによる暖房運転から第1の熱媒体吸熱/暖房モード、第2の熱媒体吸熱/暖房モードへの切換制御を説明するフローチャートである。
【
図11】
図2のコントローラが有する熱媒体吸熱移行可能熱媒体温度MAPを説明する図である。
【
図12】外気吸熱不可となる可能性があるに暖房運転から第2の熱媒体吸熱/暖房モードに切り換えるときの各部の温度変化を説明する図である。
【
図13】熱媒体予熱運転を実施する場合の冷媒回路のp-h線図である。
【
図14】熱媒体予熱運転を実施しない場合の冷媒回路のp-h線図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。
【0023】
図1は本発明の一実施例の車両用空気調和装置1の構成図を示している。本発明を適用する実施例の車両は、エンジン(内燃機関)が搭載されていない電気自動車(EV)であって、車両にバッテリ55が搭載され、このバッテリ55に充電された電力を走行用の電動モータ(図示せず)に供給することで駆動し、走行するものであり、本発明の車両用空気調和装置1も、バッテリ55の電力で駆動されるものとする。
【0024】
即ち、実施例の車両用空気調和装置1は、エンジン廃熱による暖房ができない電気自動車において、冷媒回路Rを用いたヒートポンプ運転により暖房運転を行い、更に、除湿暖房運転や内部サイクル運転、除湿冷房運転、冷房運転の各空調運転を選択的に実行することで車室内の空調を行うものである。
【0025】
尚、車両として電気自動車に限らず、エンジンと走行用の電動モータを供用する所謂ハイブリッド自動車にも本発明が有効であり、更には、エンジンで走行する通常の自動車にも適用可能であることは云うまでもない。
【0026】
実施例の車両用空気調和装置1は、電気自動車の車室内の空調(暖房、冷房、除湿、及び、換気)を行うものであり、冷媒を圧縮する電動式の圧縮機2と、車室内空気が通気循環されるHVACユニット10の空気流通路3内に設けられ、圧縮機2から吐出された高温高圧の冷媒が冷媒配管13Gを介して流入し、この冷媒を車室内に放熱させる放熱器4と、暖房時に冷媒を減圧膨張させる電動弁から成る室外膨張弁6と、冷房時には冷媒を放熱させる放熱器として機能し、暖房時には冷媒を吸熱させる蒸発器として機能すべく冷媒と外気との間で熱交換を行わせる室外熱交換器7と、冷媒を減圧膨張させる電動弁(機械式膨張弁でも良い)から成る室内膨張弁8と、空気流通路3内に設けられて冷房時及び除湿時に車室内外から冷媒に吸熱させる吸熱器9と、アキュムレータ12等が冷媒配管13により順次接続され、冷媒回路Rが構成されている。室外膨張弁6は放熱器4から出て室外熱交換器7に流入する冷媒を減圧膨張させると共に全閉も可能とされている。
【0027】
尚、室外熱交換器7には、室外送風機15が設けられている。この室外送風機15は、室外熱交換器7に外気を強制的に通風することにより、外気と冷媒とを熱交換させるものであり、これにより停車中(即ち、車速が0km/h)にも室外熱交換器7に外気が通風されるよう構成されている。また、図中23はグリルシャッタと称されるシャッタである。このシャッタ23が閉じられると、走行風が室外熱交換器7に流入することが阻止される構成とされている。
【0028】
また、室外熱交換器7の冷媒出口側に接続された冷媒配管13Aは、逆止弁18を介して冷媒配管13Bに接続されている。尚、逆止弁18は冷媒配管13B側が順方向とされている。この冷媒配管13Bは冷房時に開放される開閉弁としての電磁弁17を介して室内膨張弁8に接続されている。実施例では、これら電磁弁17及び室内膨張弁8が、吸熱器9への冷媒の流入を制御するための弁装置を構成する。
【0029】
また、室外熱交換器7から出た冷媒配管13Aは分岐しており、この分岐した冷媒配管13Dは、暖房時に開放される電磁弁21を介して吸熱器9の出口側に位置する冷媒配管13Cに連通接続されている。そして、冷媒配管13Dが合流した後の冷媒配管13Cは、逆止弁40を介してアキュムレータ12に接続され、アキュムレータ12は圧縮機2の冷媒吸込側に接続されている。尚、逆止弁40はアキュムレータ12側が順方向とされている。
【0030】
更に、放熱器4の出口側の冷媒配管13Eは室外膨張弁6の手前(冷媒上流側)で冷媒配管13Jと冷媒配管13Fに分岐しており、分岐した一方の冷媒配管13Jが室外膨張弁6を介して室外熱交換器7の冷媒入口側に接続されている。また、分岐した他方の冷媒配管13Fは除湿時に開放される電磁弁22を介して逆止弁18の冷媒下流側であって、電磁弁17の冷媒上流側に位置する冷媒配管13Aと冷媒配管13Bとの接続部に連通接続されている。
【0031】
これにより、冷媒配管13Fは室外膨張弁6、室外熱交換器7及び逆止弁18の直列回路に対して並列に接続されたかたちとなり、室外膨張弁6、室外熱交換器7及び逆止弁18をバイパスする回路となる。また、室外膨張弁6には電磁弁20が並列に接続されている。
【0032】
また、吸熱器9の空気上流側における空気流通路3には、外気吸込口と内気吸込口の各吸込口が形成されており(
図1では吸込口25で代表して示す)、この吸込口25には空気流通路3内に導入する空気を車室内の空気である内気(内気循環)と、車室外の空気である外気(外気導入)とに切り換える吸込切換ダンパ26が設けられている。更に、この吸込切換ダンパ26の空気下流側には、導入した内気や外気を空気流通路3に送給するための室内送風機(ブロワファン)27が設けられている。
【0033】
また、放熱器4の空気上流側における空気流通路3内には、当該空気流通路3内に流入し、吸熱器9を通過した後の空気流通路3内の空気(内気や外気)を放熱器4に通風する割合を調整するエアミックスダンパ28が設けられている。更に、放熱器4の空気下流側における空気流通路3には、FOOT(フット)、VENT(ベント)、DEF(デフ)の各吹出口(
図1では代表して吹出口29で示す)が形成されており、この吹出口29には上記各吹出口から空気の吹き出しを切換制御する吹出口切換ダンパ31が設けられている。
【0034】
更に、本発明の車両用空気調和装置1は、バッテリ55に熱媒体を循環させて当該バッテリ55の温度を調整するための発熱機器温度調整装置61を備えている。尚、実施例ではバッテリ55を本発明における発熱機器の一例として採り上げているが、発熱機器としてはそれに限らず、走行用の電動モータやそれを制御するインバータ等であってもよい。
【0035】
この実施例の発熱機器温度調整装置61は、バッテリ55(発熱機器)に熱媒体を循環させるための循環装置としての循環ポンプ62と、加熱装置としての熱媒体加熱ヒータ66と、冷媒-熱媒体熱交換器64を備え、それらとバッテリ55が熱媒体配管68にて環状に接続されている。
【0036】
実施例の場合、循環ポンプ62の吐出側に熱媒体加熱ヒータ66が接続され、熱媒体加熱ヒータ66の出口に冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Aの入口が接続され、この熱媒体流路64Aの出口にバッテリ55の入口が接続され、バッテリ55の出口が循環ポンプ62の吸込側に接続されている。
【0037】
この発熱機器温度調整装置61で使用される熱媒体としては、例えば水、HFO-1234fのような冷媒、クーラント等の液体、空気等の気体が採用可能である。尚、実施例では水を熱媒体として採用している。また、熱媒体加熱ヒータ66はPTCヒータ等の電気ヒータから構成されている。更に、バッテリ55の周囲には例えば熱媒体が当該バッテリ55と熱交換関係で流通可能なジャケット構造が施されているものとする。
【0038】
そして、循環ポンプ62が運転されると、循環ポンプ62から吐出された熱媒体は熱媒体加熱ヒータ66に至り、熱媒体加熱ヒータ66が発熱されている場合にはそこで加熱された後、次に冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Aに流入する。この冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Aを出た熱媒体はバッテリ55に至る。熱媒体はそこでバッテリ55と熱交換した後、循環ポンプ62に吸い込まれることで熱媒体配管68内を循環される。
【0039】
一方、冷媒回路Rの冷媒配管13Fの出口、即ち、冷媒配管13Fと冷媒配管13A及び冷媒配管13Bとの接続部には、逆止弁18の冷媒下流側(順方向側)であって、電磁弁17の冷媒上流側に位置して分岐回路としての分岐配管72の一端が接続されている。この分岐配管72には電動弁から構成された補助膨張弁73が設けられている。この補助膨張弁73は冷媒-熱媒体熱交換器64の後述する冷媒流路64Bに流入する冷媒を減圧膨張させると共に全閉も可能とされている。そして、分岐配管72の他端は冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Bに接続されており、この冷媒流路64Bの出口には冷媒配管74の一端が接続され、冷媒配管74の他端はアキュムレータ12の手前(アキュムレータ12の冷媒上流側であって、逆止弁40の冷媒下流側)の冷媒配管13Cに接続されている。そして、これら補助膨張弁73等も冷媒回路Rの一部を構成すると同時に、発熱機器温度調整装置61の一部をも構成することになる。
【0040】
補助膨張弁73が開いている場合、冷媒配管13Fや室外熱交換器7から出た冷媒(一部又は全ての冷媒)はこの補助膨張弁73で減圧された後、冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Bに流入し、そこで蒸発する。冷媒は冷媒流路64Bを流れる過程で熱媒体流路64Aを流れる熱媒体から吸熱した後、アキュムレータ12を経て圧縮機2に吸い込まれることになる。
【0041】
次に、
図2において32は制御装置としてのコントローラ(ECU)である。このコントローラ32は、プロセッサを備えたコンピュータの一例としてのマイクロコンピュータから構成されており、その入力には車両の外気温度(Tam)を検出する外気温度センサ33と、外気湿度を検出する外気湿度センサ34と、吸込口25から空気流通路3に吸い込まれる空気の温度を検出するHVAC吸込温度センサ36と、車室内の空気(内気)の温度を検出する内気温度センサ37と、車室内の空気の湿度を検出する内気湿度センサ38と、車室内の二酸化炭素濃度を検出する室内CO
2濃度センサ39と、吹出口29から車室内に吹き出される空気の温度を検出する吹出温度センサ41と、圧縮機2の吐出冷媒圧力(吐出圧力Pd)を検出する吐出圧力センサ42と、圧縮機2の吐出冷媒温度を検出する吐出温度センサ43と、圧縮機2の吸込冷媒温度Tsを検出する吸込温度センサ44と、放熱器4の温度(実施例では放熱器4を出た直後の冷媒の温度:放熱器温度TCI)を検出する放熱器温度センサ46と、放熱器4の冷媒圧力(放熱器4内、又は、放熱器4を出た直後の冷媒の圧力:放熱器圧力PCI)を検出する放熱器圧力センサ47と、吸熱器9の温度(吸熱器9を経た空気の温度、又は、吸熱器9自体の温度:吸熱器温度Te)を検出する吸熱器温度センサ48と、吸熱器9の冷媒圧力(吸熱器9内、又は、吸熱器9を出た直後の冷媒の圧力)を検出する吸熱器圧力センサ49と、車室内への日射量を検出するための例えばフォトセンサ式の日射センサ51と、車両の移動速度(車速)を検出するための車速センサ52と、設定温度や空調運転の切り換えを設定するための空調(エアコン)操作部53と、室外熱交換器7の温度(室外熱交換器7から出た直後の冷媒の温度、又は、室外熱交換器7自体の温度:室外熱交換器温度TXO。室外熱交換器7が蒸発器として機能するとき、室外熱交換器温度TXOは室外熱交換器7における冷媒の蒸発温度となる)を検出する室外熱交換器温度センサ54と、室外熱交換器7の冷媒圧力(室外熱交換器7内、又は、室外熱交換器7から出た直後の冷媒の圧力:室外熱交換器圧力PXO。室外熱交換器7における冷媒の蒸発圧力となる)を検出する室外熱交換器圧力センサ56の各出力が接続されている。
【0042】
また、コントローラ32の入力には更に、バッテリ55の温度(バッテリ55自体の温度、又は、バッテリ55を出た熱媒体の温度、或いは、バッテリ55に入る熱媒体の温度)を検出するバッテリ温度センサ76と、熱媒体加熱ヒータ66の温度(熱媒体加熱ヒータ66自体の温度)検出する熱媒体加熱ヒータ温度センサ77と、熱媒体加熱ヒータ66を出た熱媒体の温度(熱媒体温度Tw)を検出する熱媒体温度センサ80と、冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Aを出た熱媒体の温度を検出する第1出口温度センサ78と、冷媒流路64Bを出た冷媒の温度を検出する第2の出口温度センサ79の各出力も接続されている。
【0043】
一方、コントローラ32の出力には、前記圧縮機2と、室外送風機15と、室内送風機(ブロワファン)27と、吸込切換ダンパ26と、エアミックスダンパ28と、吹出口切換ダンパ31と、室外膨張弁6、室内膨張弁8と、電磁弁22(除湿)、電磁弁17(冷房)、電磁弁21(暖房)、電磁弁20(バイパス)の各電磁弁と、シャッタ23、循環ポンプ62、熱媒体加熱ヒータ66、補助膨張弁73が接続されている。そして、コントローラ32は各センサの出力と空調操作部53にて入力された設定に基づいてこれらを制御するものである。
【0044】
以上の構成で、次に実施例の車両用空気調和装置1の動作を説明する。コントローラ32は実施例では暖房運転と、除湿暖房運転と、内部サイクル運転と、除湿冷房運転と、冷房運転の各空調運転を切り換えて実行すると共に、バッテリ55の温度を所定の適温範囲内に調整する。先ず、冷媒回路Rの各空調運転について説明する。
【0045】
(1)暖房運転
最初に、
図3を参照しながら暖房運転について説明する。
図3は暖房運転における冷媒回路Rの冷媒の流れ(実線矢印)を示している。コントローラ32により(オートモード)、或いは、空調操作部53へのマニュアル操作(マニュアルモード)により暖房運転が選択されると、コントローラ32は電磁弁21(暖房用)を開放し、電磁弁17(冷房用)を閉じる。また、電磁弁22(除湿用)、電磁弁20(バイパス用)を閉じる。尚、シャッタ23は開放する。
【0046】
そして、圧縮機2、及び、各送風機15、27を運転し、エアミックスダンパ28は室内送風機27から吹き出された空気が放熱器4に通風される割合を調整する状態とする。これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は放熱器4に流入する。放熱器4には空気流通路3内の空気が通風されるので、空気流通路3内の空気は放熱器4内の高温冷媒により加熱され、一方、放熱器4内の冷媒は空気に熱を奪われて冷却され、凝縮液化する。
【0047】
放熱器4内で液化した冷媒は放熱器4を出た後、冷媒配管13E、13Jを経て室外膨張弁6に至る。室外膨張弁6に流入した冷媒はそこで減圧された後、室外熱交換器7に流入する。室外熱交換器7に流入した冷媒は蒸発し、走行により、或いは、室外送風機15にて通風される外気中から熱を汲み上げる(吸熱)。即ち、冷媒回路Rがヒートポンプとなる。そして、室外熱交換器7を出た低温の冷媒は冷媒配管13A及び冷媒配管13D、電磁弁21、逆止弁40を順次経て冷媒配管13Cからアキュムレータ12に入り、そこで気液分離された後、ガス冷媒が圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。放熱器4にて加熱された空気は吹出口29から吹き出されるので、これにより車室内の暖房が行われることになる。
【0048】
コントローラ32は、後述する目標吹出温度TAOから算出される目標ヒータ温度TCO(放熱器4の風下側の空気の温度である後述する加熱温度THの目標値)から目標放熱器圧力PCO(放熱器4の圧力PCIの目標値)を算出し、この目標放熱器圧力PCOと、放熱器圧力センサ47が検出する放熱器4の冷媒圧力(放熱器圧力PCI。冷媒回路Rの高圧圧力)に基づいて圧縮機2の回転数を制御すると共に、放熱器温度センサ46が検出する放熱器4の温度(放熱器温度TCI)及び放熱器圧力センサ47が検出する放熱器圧力PCIに基づいて室外膨張弁6の弁開度を制御し、放熱器4の出口における冷媒の過冷却度を制御する。前記目標ヒータ温度TCOは基本的にはTCO=TAOとされるが、制御上の所定の制限が設けられる。
【0049】
(2)除湿暖房運転
次に、
図4を参照しながら除湿暖房運転について説明する。
図4は除湿暖房運転における冷媒回路Rの冷媒の流れ(実線矢印)を示している。除湿暖房運転では、コントローラ32は上記暖房運転の状態において電磁弁22と電磁弁17を開放する。また、シャッタ23は開放する。これにより、放熱器4を経て冷媒配管13Eを流れる凝縮冷媒の一部が分流され、この分流された冷媒が電磁弁22を経て冷媒配管13Fに流入し、冷媒配管13Bから室内膨張弁8に流れ、残りの冷媒が室外膨張弁6に流れるようになる。即ち、分流された一部の冷媒が室内膨張弁8にて減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。
【0050】
コントローラ32は吸熱器9の出口における冷媒の過熱度(SH)を所定値に維持するように室内膨張弁8の弁開度を制御するが、このときに吸熱器9で生じる冷媒の吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着するので、空気は冷却され、且つ、除湿される。分流されて冷媒配管13Jに流入した残りの冷媒は、室外膨張弁6で減圧された後、室外熱交換器7で蒸発することになる。
【0051】
吸熱器9で蒸発した冷媒は、冷媒配管13Cに出て冷媒配管13Dからの冷媒(室外熱交換器7からの冷媒)と合流した後、逆止弁40及びアキュムレータ12を順次経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて除湿された空気は放熱器4を通過する過程で再加熱されるので、これにより車室内の除湿暖房が行われることになる。
【0052】
コントローラ32は目標ヒータ温度TCOから算出される目標放熱器圧力PCOと放熱器圧力センサ47が検出する放熱器圧力PCI(冷媒回路Rの高圧圧力)に基づいて圧縮機2の回転数を制御すると共に、吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度(吸熱器温度Te)に基づいて室外膨張弁6の弁開度を制御する。
【0053】
(3)内部サイクル運転
次に、
図5を参照しながら内部サイクル運転について説明する。
図5は内部サイクル運転における冷媒回路Rの冷媒の流れ(実線矢印)を示している。内部サイクル運転では、コントローラ32は上記除湿暖房運転の状態において室外膨張弁6を全閉とする(全閉位置)。但し、電磁弁21は開いた状態を維持し、室外熱交換器7の冷媒出口は圧縮機2の冷媒吸込側に連通させておく。即ち、この内部サイクル運転は除湿暖房運転における室外膨張弁6の制御で当該室外膨張弁6を全閉とした状態であるので、この内部サイクル運転も除湿暖房運転の一部と捉えることができる(シャッタ23は開)。
【0054】
但し、室外膨張弁6が閉じられることにより、室外熱交換器7への冷媒の流入は阻止されることになるので、放熱器4を経て冷媒配管13Eを流れる凝縮冷媒は電磁弁22を経て冷媒配管13Fに全て流れるようになる。そして、冷媒配管13Fを流れる冷媒は冷媒配管13Bより電磁弁17を経て室内膨張弁8に至る。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着するので、空気は冷却され、且つ、除湿される。
【0055】
吸熱器9で蒸発した冷媒は冷媒配管13Cを流れ、逆止弁40及びアキュムレータ12を順次経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて除湿された空気は放熱器4を通過する過程で再加熱されるので、これにより、車室内の除湿暖房が行われることになるが、この内部サイクル運転では室内側の空気流通路3内にある放熱器4(放熱)と吸熱器9(吸熱)の間で冷媒が循環されることになるので、外気からの熱の汲み上げは行われず、圧縮機2の消費動力分の暖房能力が発揮される。除湿作用を発揮する吸熱器9には冷媒の全量が流れるので、上記除湿暖房運転に比較すると除湿能力は高いが、暖房能力は低くなる。
【0056】
また、室外膨張弁6は閉じられるものの、電磁弁21は開いており、室外熱交換器7の冷媒出口は圧縮機2の冷媒吸込側に連通しているので、室外熱交換器7内の液冷媒は冷媒配管13D及び電磁弁21を経て冷媒配管13Cに流出し、アキュムレータ12に回収され、室外熱交換器7内はガス冷媒の状態となる。これにより、電磁弁21を閉じたときに比して、冷媒回路R内を循環する冷媒量が増え、放熱器4における暖房能力と吸熱器9における除湿能力を向上させることができるようになる。
【0057】
コントローラ32は吸熱器9の温度、又は、前述した放熱器圧力PCI(冷媒回路Rの高圧圧力)に基づいて圧縮機2の回転数を制御する。このとき、コントローラ32は吸熱器9の温度によるか放熱器圧力PCIによるか、何れかの演算から得られる圧縮機目標回転数の低い方を選択して圧縮機2を制御する。
【0058】
(4)除湿冷房運転
次に、
図6を参照しながら除湿冷房運転について説明する。
図6は除湿冷房運転における冷媒回路Rの冷媒の流れ(実線矢印)を示している。除湿冷房運転では、コントローラ32は電磁弁17を開放し、電磁弁21を閉じる。また、電磁弁22、電磁弁20を閉じる。そして、圧縮機2、及び、各送風機15、27を運転し、エアミックスダンパ28は室内送風機27から吹き出された空気が放熱器4に通風される割合を調整する状態とする。また、シャッタ23は開放する。これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は放熱器4に流入する。放熱器4には空気流通路3内の空気が通風されるので、空気流通路3内の空気は放熱器4内の高温冷媒により加熱され、一方、放熱器4内の冷媒は空気に熱を奪われて冷却され、凝縮液化していく。
【0059】
放熱器4を出た冷媒は冷媒配管13Eを経て室外膨張弁6に至り、開き気味で制御される室外膨張弁6を経て室外熱交換器7に流入する。室外熱交換器7に流入した冷媒はそこで走行により、或いは、室外送風機15にて通風される外気により空冷され、凝縮する。室外熱交換器7を出た冷媒は冷媒配管13A、逆止弁18を経て冷媒配管13Bに入り、更に電磁弁17を経て室内膨張弁8に至る。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着するので、空気は冷却され、且つ、除湿される。
【0060】
吸熱器9で蒸発した冷媒は冷媒配管13Cを経て逆止弁40を通過し、アキュムレータ12に至り、そこを経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて冷却され、除湿された空気は放熱器4を通過する過程でリヒート(再加熱:暖房時よりも放熱能力は低い)されるので、これにより車室内の除湿冷房が行われることになる。
【0061】
コントローラ32は吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度(吸熱器温度Te)とその目標値である目標吸熱器温度TEOに基づき、吸熱器温度Teを目標吸熱器温度TEOにするように圧縮機2の回転数を制御すると共に、放熱器圧力センサ47が検出する放熱器圧力PCI(冷媒回路Rの高圧圧力)と目標ヒータ温度TCOから算出される目標放熱器圧力PCO(放熱器圧力PCIの目標値)に基づき、放熱器圧力PCIを目標放熱器圧力PCOにするように室外膨張弁6の弁開度を制御することで放熱器4による必要なリヒート量を得る。
【0062】
(5)冷房運転
次に、
図7を参照しながら冷房運転について説明する。
図7は冷房運転における冷媒回路Rの冷媒の流れ(実線矢印)を示している。冷房運転では、コントローラ32は上記除湿冷房運転の状態において電磁弁20を開く(室外膨張弁6の弁開度は自由)。尚、エアミックスダンパ28は放熱器4に空気が通風される割合を調整する状態とする。また、シャッタ23は開放する。
【0063】
これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は放熱器4に流入する。放熱器4には空気流通路3内の空気は通風されるものの、その割合は小さくなるので(冷房時のリヒートのみのため)、ここは殆ど通過するのみとなり、放熱器4を出た冷媒は冷媒配管13Eを経て室外膨張弁6に至る。このとき電磁弁20は開放されているので冷媒は電磁弁20を経て冷媒配管13Jを通過し、そのまま室外熱交換器7に流入し、そこで走行により、或いは、室外送風機15にて通風される外気により空冷され、凝縮液化する。室外熱交換器7を出た冷媒は冷媒配管13A、逆止弁18を経て冷媒配管13Bに入り、更に電磁弁17を経て室内膨張弁8に至る。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着し、空気は冷却される。
【0064】
吸熱器9で蒸発した冷媒は冷媒配管13Cに出て逆止弁40を通過し、アキュムレータ12に至り、そこを経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて冷却され、除湿された空気は吹出口29から車室内に吹き出されるので、これにより車室内の冷房が行われることになる。この冷房運転においては、コントローラ32は吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度(吸熱器温度Te)に基づいて圧縮機2の回転数を制御する。
【0065】
(6)空調運転の切り換えとエアミックスダンパ28の制御
コントローラ32は下記式(I)から前述した目標吹出温度TAOを算出する。この目標吹出温度TAOは、吹出口29から車室内に吹き出される空気の温度の目標値である。
TAO=(Tset-Tin)×K+Tbal(f(Tset、SUN、Tam))
・・(I)
ここで、Tsetは空調操作部53で設定された車室内の設定温度、Tinは内気温度センサ37が検出する車室内空気の温度、Kは係数、Tbalは設定温度Tsetや、日射センサ51が検出する日射量SUN、外気温度センサ33が検出する外気温度Tamから算出されるバランス値である。そして、一般的に、この目標吹出温度TAOは外気温度Tamが低い程高く、外気温度Tamが上昇するに伴って低下する。
【0066】
そして、コントローラ32は起動時には外気温度センサ33が検出する外気温度Tamと目標吹出温度TAOとに基づいて上記各空調運転のうちの何れかの空調運転を選択する。また、起動後は外気温度Tamや目標吹出温度TAO等の環境や設定条件の変化に応じて前記各空調運転を選択し、切り換えていくものである。
【0067】
また、コントローラ32は、SW=(TAO-Te)/(TH-Te)の式で得られる風量割合SWでエアミックスダンパ28を制御する。この風量割合SWは吸熱器9を経た空気を、放熱器4に通風する割合であり、0(放熱器4に通風しない)から1(全ての空気を放熱器4に通風する)の間で変化する。
【0068】
このエアミックスダンパ28の風量割合SWを算出するTHは、前述した放熱器4の風下側の空気の温度(加熱温度)であり、コントローラ32が下記に示す一次遅れ演算の式(II)から推定する。
TH=(INTL×TH0+Tau×THz)/(Tau+INTL) ・・(II)
ここで、INTLは演算周期(定数)、Tauは一次遅れの時定数、TH0は一次遅れ演算前の定常状態における加熱温度THの定常値、THzは加熱温度THの前回値である。このように加熱温度THを推定することで、格別な温度センサを設ける必要がなくなる。尚、コントローラ32は前述した運転モードによって上記時定数Tau及び定常値TH0を変更することにより、上述した推定式(II)を運転モードによって異なるものとし、加熱温度THを推定する。
【0069】
(7)バッテリ55の温度調整
次に、
図8、
図9を参照しながらコントローラ32によるバッテリ55の温度調整制御について説明する。前述した如くバッテリ55は自己発熱等により温度が高くなった状態で充放電を行うと、劣化が進行する。そこで、実施例の車両用空気調和装置1のコントローラ32は、上記の如き空調運転を実行しながら、発熱機器温度調整装置61により、バッテリ55の温度を適温範囲内に冷却する。このバッテリ55の適温範囲は一般的には+25℃以上+45℃以下とされているため、実施例ではこの適温範囲内にバッテリ55の温度(バッテリ温度Tb)の目標値である目標バッテリ温度TBO(例えば、+35℃)を設定するものとする。
【0070】
(7-1)第1の熱媒体吸熱/暖房モード(熱媒体吸熱/暖房モード)
コントローラ32は、暖房運転(
図3)においては、例えば下記式(III)、(IV)を用いて放熱器4に要求される車室内の暖房能力である目標暖房能力TGQhpと、放熱器4が発生可能な暖房能力Qhpを算出している。
TGQhp=(TCO-Te)×Cpa×ρ×Qair ・・(III)
Qhp=f(Tam、NC、BLV、VSP、FANVout、Te)・・(IV)
ここで、Teは吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度、Cpaは放熱器4に流入する空気の比熱[kj/kg・K]、ρは放熱器4に流入する空気の密度(比体積)[kg/m
3]、Qairは放熱器4を通過する風量[m
3/h](室内送風機27のブロワ電圧BLVなどから推定)、VSPは車速センサ52から得られる車速、FANVoutは室外送風機15の電圧である。
【0071】
また、コントローラ32は、バッテリ温度センサ76が検出するバッテリ55の温度(バッテリ温度Tb)と上述した目標バッテリ温度TBOとに基づき、例えば下記式(V)を用いて発熱機器温度調整装置61に要求されるバッテリ55の冷却能力である要求バッテリ冷却能力Qbatを算出している。
Qbat=(Tb-TBO)×k1×k2 ・・(V)
ここで、k1は発熱機器温度調整装置61内を循環する熱媒体の比熱[kj/kg・K]、k2は熱媒体の流量[m3/h]である。尚、要求バッテリ冷却能力Qbatを算出する式は上記に限られるものでは無く、上記以外のバッテリ冷却に関連する他のファクターを加味して算出してもよい。
【0072】
バッテリ温度Tbが目標バッテリ温度TBOより低い場合(Tb<TBO)は、上記式(V)で算出される要求バッテリ冷却能力Qbatはマイナスとなるため、実施例ではコントローラ32は補助膨張弁73を全閉とし、発熱機器温度調整装置61も停止している。一方、前述した暖房運転中に、充放電等によりバッテリ温度Tbが上昇し、目標バッテリ温度TBOより高くなった場合(TBO<Tb)、式(V)で算出される要求バッテリ冷却能力Qbatがプラスに転じるので、実施例ではコントローラ32は補助膨張弁73を開き、発熱機器温度調整装置61を運転してバッテリ55の冷却を開始する。
【0073】
その場合、コントローラ32は上記目標暖房能力TGQhpと要求バッテリ冷却能力Qbatに基づき、両者を比較して、実施例ではここで説明する第1の熱媒体吸熱/暖房モードと、後述する第2の熱媒体吸熱/暖房モード(何れも本発明における熱媒体吸熱/暖房モード)を切り換えて実行する。
【0074】
先ず、車室内の暖房負荷が大きく(例えば内気の温度が低く)、且つ、バッテリ55の発熱量が小さい(冷却負荷が小さい)状況で、目標暖房能力TGQhpが要求バッテリ冷却能力Qbatよりも大きい場合(TGQhp>Qbat)、コントローラ32は第1の熱媒体吸熱/暖房モードを実行する。
図8はこの第1の熱媒体吸熱/暖房モードにおける冷媒回路Rの冷媒の流れ(実線矢印)と発熱機器温度調整装置61の熱媒体の流れ(破線矢印)を示している。
【0075】
この第1の熱媒体吸熱/暖房モードでは、コントローラ32は
図3に示した冷媒回路Rの暖房運転の状態で、更に電磁弁22を開き、補助膨張弁73も開いてその弁開度を制御する状態とする。そして、発熱機器温度調整装置61の循環ポンプ62を運転する。これにより、放熱器4から出た冷媒の一部が室外膨張弁6の冷媒上流側で分流され、冷媒配管13Fを経て電磁弁17の冷媒上流側に至る。冷媒は次に分岐配管72に入り、補助膨張弁73で減圧された後、分岐配管72を経て冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Bに流入して蒸発する。このときに吸熱作用を発揮する。この冷媒流路64Bで蒸発した冷媒は、冷媒配管74、冷媒配管13C及びアキュムレータ12を順次経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す(
図8に実線矢印で示す)。
【0076】
一方、循環ポンプ62から吐出された熱媒体は熱媒体加熱ヒータ66を経て熱媒体配管68内を冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Aに至り、そこで冷媒流路64B内で蒸発する冷媒により吸熱され、熱媒体は冷却される。冷媒の吸熱作用で冷却された熱媒体は、冷媒-熱媒体熱交換器64を出てバッテリ55に至り、当該バッテリ55を冷却した後、循環ポンプ62に吸い込まれる循環を繰り返す(
図8に破線矢印で示す)。
【0077】
このようにして第1の熱媒体吸熱/暖房モードでは、冷媒回路Rの冷媒が室外熱交換器7と冷媒-熱媒体熱交換器64にて蒸発し、外気から吸熱すると共に発熱機器温度調整装置61の熱媒体(バッテリ55)からも吸熱する。これにより、熱媒体を介してバッテリ55から熱を汲み上げ、バッテリ55を冷却しながら、汲み上げた熱を放熱器4に搬送し、車室内の暖房に利用することができるようになる。
【0078】
この第1の熱媒体吸熱/暖房モードにおいて、上記のように外気からの吸熱とバッテリ55から吸熱によっても前述した放熱器4の暖房能力Qhpにより目標暖房能力TGQhpを達成できない場合(TGQhp>Qhp)、コントローラ32は熱媒体加熱ヒータ66を発熱させる(通電)。
【0079】
熱媒体加熱ヒータ66が発熱すると、発熱機器温度調整装置61の循環ポンプ62から吐出された熱媒体は、熱媒体加熱ヒータ66で加熱された後、冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Aに流入するようになるので、熱媒体加熱ヒータ66の熱も冷媒流路64Bで蒸発する冷媒により汲み上げられるようになり、放熱器4による暖房能力Qhpが増大して目標暖房能力TGQhpを達成することができるようになる。尚、コントローラ32は暖房能力Qhpが目標暖房能力TGQhpを達成できるようになった時点で熱媒体加熱ヒータ66の発熱を停止する(非通電)。
【0080】
(7-2)第2の熱媒体吸熱/暖房モード
次に、車室内の暖房負荷とバッテリ55の冷却負荷が略同じ場合、即ち、目標暖房能力TGQhpと要求バッテリ冷却能力Qbatが等しいか、近似する場合(TGQhp≒Qbat)、コントローラ32は第2の熱媒体吸熱/暖房モードを実行する。
図9はこの第2の熱媒体吸熱/暖房モードにおける冷媒回路Rの冷媒の流れ(実線矢印)と発熱機器温度調整装置61の熱媒体の流れ(破線矢印)を示している。
【0081】
この第2の熱媒体吸熱/暖房モードでは、コントローラ32は電磁弁17、20、21を閉じ、室外膨張弁6を全閉とし、電磁弁22を開き、補助膨張弁73も開いてその弁開度を制御する状態とする。そして、圧縮機2及び室内送風機27を運転し、発熱機器温度調整装置61の循環ポンプ62も運転する。これにより、放熱器4から出た全ての冷媒が電磁弁22に流れ、冷媒配管13Fを経て電磁弁17の冷媒上流側に至るようになる。冷媒は次に分岐配管72に入り、補助膨張弁73で減圧された後、分岐配管72を経て冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Bに流入して蒸発する。このときに吸熱作用を発揮する。この冷媒流路64Bで蒸発した冷媒は、冷媒配管74、冷媒配管13C及びアキュムレータ12を順次経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す(
図9に実線矢印で示す)。
【0082】
一方、循環ポンプ62から吐出された熱媒体は熱媒体加熱ヒータ66を経て熱媒体配管68内を冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Aに至り、そこで冷媒流路64B内で蒸発する冷媒により吸熱され、熱媒体は冷却される。冷媒の吸熱作用で冷却された熱媒体は、冷媒-熱媒体熱交換器64を出てバッテリ55に至り、当該バッテリ55を冷却した後、循環ポンプ62に吸い込まれる循環を繰り返す(
図9に破線矢印で示す)。
【0083】
このようにして第2の熱媒体吸熱/暖房モードでは、冷媒回路Rの冷媒が冷媒-熱媒体熱交換器64にて蒸発し、発熱機器温度調整装置61の熱媒体(バッテリ55)のみから吸熱する。これにより、冷媒は室外熱交換器7に流入せず、冷媒は熱媒体を介してバッテリ55のみから熱を汲み上げることになるので、室外熱交換器7への着霜の問題を解消しながら、バッテリ55を冷却し、当該バッテリ55から汲み上げた熱を放熱器4に搬送して車室内を暖房することができるようになる。
【0084】
尚、前述した除湿暖房運転(
図4)、内部サイクル運転(
図5)、除湿冷房運転(
図6)及び冷房運転(
図7)の場合にも、補助膨張弁73を開いてその弁開度を制御し、循環ポンプ62を運転することにより、冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Bで冷媒を蒸発させ、熱媒体から吸熱することで、バッテリ55を冷却し、その温度を調整することができる。
【0085】
(8)外気吸熱不可となる可能性があるときの暖房運転から第1、第2の熱媒体吸熱/暖房モードへの切換制御
次に、
図10~
図14を参照しながら、暖房運転(
図3)において室外熱交換器7で外気から吸熱することができなくなる(外気吸熱不可)可能性があるときの暖房運転から第1、第2の熱媒体吸熱/暖房モードへの切換制御について説明する。
【0086】
コントローラ32は、
図10のステップS1で前述した暖房運転を開始した後、ステップS2で暖房運転を実行しているあいだ、ステップS3を実行して、室外熱交換器7で外気から冷媒が吸熱できなくなる可能性があるか否か判断している。このステップS3における判定条件を外気吸熱不可予測判定条件と称する。この外気吸熱不可予測判定条件は、例えば以下に示す(i)~(v)の何れか、又は、それらの組み合わせ、若しくは、それらの全てである。
(i)吸込温度センサ44が検出する圧縮機2の吸込冷媒温度Tsが所定値Ts1以下に低下したこと。
(ii)室外熱交換器7への着霜量が所定値Fr1以上に増加したこと。
(iii)室外熱交換器7への着霜の進行速度が所定値X1以上に上昇したこと。
(iv)外気温度センサ33が検出する外気温度Tamが所定値Tam1以下に低下したこと。
(v)外気温度センサ33が検出する外気温度Tamの低下速度が所定値Y1以上に上昇したこと。
【0087】
室外熱交換器7に着霜が成長した状態や外気温度Tamが低下する環境では室外熱交換器7で冷媒が外気から吸熱することができなくなる可能性が出てくる。尚、上記条件(i)は、外気温度Tamが低下し、或いは、室外熱交換器7に着霜が成長して外気からの吸熱が困難になると、圧縮機2の吸込冷媒温度Tsが低下してくることに基づく。また、上記条件(ii)、(iii)における着霜量や着霜の進行速度は、例えば室外熱交換器7の室外熱交換器温度TXOや室外熱交換器圧力PXOと、室外熱交換器7に着霜が無いときのそれらの値(無着霜時室外熱交換器温度TXObase、無着霜時室外熱交換器圧力PXObase。予め求めておく)との差から求めることができる。
【0088】
上記各所定値Ts1、Fr1、X1、Tam1、Y1は、室外熱交換器7で外気から吸熱できなくなる可能性が出て来る値として予め実験により求めておく。そして、コントローラ32は、ステップS3で上記条件(i)~(v)の何れか、又は、それらの組み合わせ、若しくは、それらの全てが成立する場合、外気吸熱不可予測判定条件が成立し、室外熱交換器7で冷媒が外気から吸熱できなくなる可能性があると判定し、ステップS4に進んで先ず発熱機器温度調整装置61の循環ポンプ62を運転し、熱媒体配管68に熱媒体を循環させる。
【0089】
次に、コントローラ32はステップS5で熱媒体温度センサ80の出力に基づき、熱媒体加熱ヒータ66を出た熱媒体の温度(熱媒体温度Tw)が、所定の閾値T1以下であるか否か判断する。この場合、コントローラ32は
図11に示す熱媒体吸熱移行可能熱媒体温度MAPを保有している。この熱媒体吸熱移行可能熱媒体温度MAPは、前述した目標暖房能力TGQhpと、それを達成することができない熱媒体温度Twである上記閾値T1との関係を示すものであり、放熱器4の目標暖房能力TGQhpが高くなる程、閾値T1も高くなる。
【0090】
尚、係る目標暖房能力TGQhp以外にも、前述した目標吹出温度TAOや室内送風機27のブロワ電圧BLV、前述した目標ヒータ温度TCOのうちの何れか、又は、それらと目標暖房能力TGQhpとの組み合わせ、或いは、これらの全てに基づいて閾値T1を決定してもよい。
【0091】
コントローラ32は、ステップS5でこの熱媒体吸熱移行可能熱媒体温度MAPとその時点の目標暖房能力TGQhpから閾値T1を決定し、熱媒体温度Twがこの閾値T1以下であるか否か判断する。そして、熱媒体温度Twが低く、閾値T1以下である場合は、コントローラ32は熱媒体からの吸熱では車室内を暖房することができないと判断し、ステップS5からステップS9に進み、熱媒体予熱運転を開始する。
【0092】
この熱媒体予熱運転では、コントローラ32は熱媒体加熱ヒータ66に通電して発熱させる。これにより、循環ポンプ62で循環される熱媒体は熱媒体加熱ヒータ66で加熱されるようになるので、熱媒体温度Twは上昇していく。そして、熱媒体温度Twが閾値T1(所定のヒステリシスα1を持たせた値(T1+α1)でもよい。)より高くなった場合、コントローラ32はステップS6に進む。
【0093】
このステップS6では、コントローラ32は未だ室外熱交換器7で外気から冷媒が吸熱することが可能か否か判断する。このステップS6における判定条件を外気吸熱可能判定条件と称する。この外気吸熱可能判定条件は、例えば以下に示す(vi)~(x)の何れか、又は、それらの組み合わせ、若しくは、それらの全てである。
(vi)吸込温度センサ44が検出する圧縮機2の吸込冷媒温度Tsが前記所定値Ts1より低い所定値Ts2以上であること。
(vii)室外熱交換器7への着霜量が前記所定値Fr1より多い所定値Fr2以下であること。
(viii)室外熱交換器7への着霜の進行速度が前記所定値X1より早い所定値X2以下であること。
(ix)外気温度センサ33が検出する外気温度Tamが前記所定値Tam1より低い所定値Tam2以上であること。
(x)外気温度センサ33が検出する外気温度Tamの低下速度が前記所定値Y1より早い所定値Y2以下であること。
【0094】
上記各所定値Ts2、Fr2、X2、Tam2、Y2は、未だ室外熱交換器7で外気から吸熱が可能な値として予め実験により求めておく。そして、コントローラ32は、ステップS6で上記条件(vi)~(x)の何れか、又は、それらの組み合わせ、若しくは、それらの全てが成立する場合、外気吸熱可能判定条件が成立し、未だ室外熱交換器7で冷媒が外気から吸熱することが可能であると判定し、ステップS7に進んで前述した第1の熱媒体吸熱/暖房モード(
図8)を実行する(第1の熱媒体吸熱/暖房モードに切り換える)。
【0095】
この第1の熱媒体吸熱/暖房モードでは、前述した如く冷媒回路Rの冷媒が室外熱交換器7と冷媒-熱媒体熱交換器64にて蒸発し、外気から吸熱すると共に発熱機器温度調整装置61の熱媒体からも吸熱するようになるので、熱媒体を介してバッテリ55や熱媒体加熱ヒータ66(通電されているとき)から熱を汲み上げ、汲み上げた熱を放熱器4に搬送し、車室内の暖房に利用することができるようになる。
【0096】
他方、ステップS6で外気吸熱可能判定条件が成立していない場合、室外熱交換器7における外気からの吸熱が不可であると判定し、ステップS8に進んで前述した第2の熱媒体吸熱/暖房モード(
図9)を実行する(第2の熱媒体吸熱/暖房モードに切り換える)。また、必要に応じて熱媒体加熱ヒータ66を発熱させる。これにより、バッテリ55や熱媒体加熱ヒータ66から汲み上げた熱を放熱器4に搬送して車室内を暖房することができるようになる。
【0097】
ここで、
図12は暖房運転から上記第2の熱媒体吸熱/暖房モードに移行したときの目標吹出温度TAO、加熱温度TH、熱媒体温度Twの変化を示している。また、NCは圧縮機2の回転数であり、L1は室外熱交換器7の着霜量、L2は圧縮機2の回転数NCの最大値MAXNCを示している。そして、
図12中の時刻t1は
図10のステップS9で熱媒体予熱運転を開始した時点、t2はステップS8で第2の熱媒体吸熱/暖房モードを開始した時点をそれぞれ示している。
【0098】
熱媒体温度Twが低い状態(前述した閾値T1以下の例えば0℃等)であって、実施例のステップS9のような熱媒体予熱運転を行わない場合、熱媒体温度Twは
図12中に破線で示すように時刻t1から上昇していくことになるため、
図14のp-h線図中のP1で示す如く、圧縮機2の吐出圧力は低くなり、時刻t2で第2の熱媒体吸熱/暖房モードを開始しても、加熱温度THは
図12中破線で示す如く一時的に低下してしまう(圧縮機2の回転数NCも低下する)。そのため、搭乗者は違和感を持つことになる。
【0099】
一方、本発明の如く暖房運転から第2の熱媒体吸熱/暖房モードに切り換える前に、ステップS9で熱媒体予熱運転を実行すると、時刻t1から熱媒体温度Twは上昇していき、時刻t2では閾値T1より高くなっているため(例えば、+20℃)、
図13のp-h線図中のP2で示す如く、圧縮機2の吐出圧力は高くなり、時刻t2で第2の熱媒体吸熱/暖房モードを開始することで、加熱温度THは
図12中実線で示す如く目標吹出温度TAOから大きく下がること無く、上昇していくようになる(圧縮機2の回転数NCも上昇する)。
【0100】
以上詳述した如く本発明では、車両に搭載されたバッテリ55(発熱機器に熱媒体を循環させて当該バッテリ55の温度を調整するための発熱機器温度調整装置61を備え、この発熱機器温度調整装置61は、熱媒体を加熱するための熱媒体加熱ヒータ66と、冷媒と熱媒体とを熱交換させるための冷媒-熱媒体熱交換器64を有し、コントローラ32が、圧縮機2から吐出された冷媒を放熱器4にて放熱させ、放熱した当該冷媒を減圧した後、冷媒-熱媒体熱交換器64にて吸熱させる第1、第2の熱媒体吸熱/暖房モードを有するようにしたので、第1、第2の熱媒体吸熱/暖房モードに切り換えれば、発熱機器温度調整装置61の熱媒体から吸熱して効率良く車室内の暖房を行い、例えば室外熱交換器7への着霜を抑制しながら、適切にバッテリ55の冷却を行い、或いは、室外熱交換器7が着霜して外気から吸熱できなくなった場合にも、発熱機器温度調整装置61の熱媒体から吸熱して車室内を暖房することができるようになる。
【0101】
特に、コントローラ32は、暖房運転から第1、第2の熱媒体吸熱/暖房モードに切り換える際、熱媒体温度Twが所定の閾値T1以下である場合、第1、第2の熱媒体吸熱/暖房モードに切り換える前に、熱媒体加熱ヒータ66により熱媒体を加熱し、当該熱媒体の温度を上昇させた後、第1、第2の熱媒体吸熱/暖房モードに切り換えるようにしたので、暖房運転から第1、第2の熱媒体吸熱/暖房モードに切り換わるときの暖房能力を十分に確保することができるようになる。これにより、熱媒体の温度が低い状態で第1、第2の熱媒体吸熱/暖房モードに切り換わり、吹出口29から車室内に吹き出される空気の温度(吹出温度。加熱温度THに一致する)が一時的に低下して搭乗者が不快感や違和感を覚える不都合も解消することが可能となる。
【0102】
また、実施例ではコントローラ32は、暖房運転において所定の外気吸熱不可予測判定条件が成立した場合、室外熱交換器7で外気から吸熱できなくなる可能性ありと判定し、熱媒体の温度が閾値T1以下であるか否か判断して、当該閾値T1以下であれば熱媒体加熱ヒータ66による熱媒体の加熱を開始し、当該熱媒体の温度が少なくとも閾値T1より高い温度(閾値T1より高いか、T1+α1より高い温度)に上昇するのを待って第1、第2の熱媒体吸熱/暖房モードに移行するようにしているので、暖房運転から第1、第2の熱媒体吸熱/暖房モードへの切り換えを円滑に行うことができるようになる。
【0103】
この外気吸熱不可予測判定条件は、実施例の如く圧縮機2の吸込冷媒温度Tsが所定値Ts1以下に低下したこと、室外熱交換器7への着霜量が所定値Fr1以上に増加したこと、室外熱交換器7への着霜の進行速度が所定値X1以上に上昇したこと、外気温度Tamが所定値Tam1以下に低下したこと、外気温度Tamの低下速度が所定値Y1以上に上昇したこと、のうちの少なくとも一つを含むことが好適である。
【0104】
また、実施例ではコントローラ32が、放熱器4の目標暖房能力TGQhp、車室内に吹き出される空気温度の目標値である目標吹出温度TAO、空気流通路3に通風する室内送風機27のブロワ電圧BLV、放熱器4の風下側の空気の温度(加熱温度TH)の目標値である目標ヒータ温度TCO、のうちの少なくとも一つに基づいて閾値T1を決定するようにしているので、熱媒体加熱ヒータ66により熱媒体を加熱する必要があるか否かを適切に判定し、不必要な熱媒体加熱ヒータ66による加熱を回避することができるようになる。
【0105】
また、実施例ではコントローラ32は、所定の外気吸熱可能判定条件が成立した場合、室外熱交換器7で外気からの吸熱が可能と判定し、放熱器4にて放熱した冷媒を室外熱交換器7と冷媒-熱媒体熱交換器64にて吸熱させる第1の熱媒体吸熱/暖房モードを実行するようにしているので、室外熱交換器7において外気からの吸熱が可能な場合、熱媒体からの吸熱と合わせて外気からも吸熱し、車室内を暖房することができるようになる。
【0106】
この外気吸熱可能判定条件としては、実施例の如く圧縮機2の吸込冷媒温度Tsが所定値Ts1より低い所定値Ts2以上であること、室外熱交換器7への着霜量が所定値Fr1より多い所定値Fr2以下であること、室外熱交換器7への着霜の進行速度が所定値X1より早い所定値X2以下であること、外気温度Tamが所定値Tam1より低い所定値Tam2以上であること、外気温度Tamの低下速度が所定値Y1より早い所定値Y2以下であること、のうちの少なくとも一つであることが好適である。
【0107】
尚、上記各実施例で説明した冷媒回路Rや発熱機器温度調整装置61の構成はそれに限定されるものでは無く、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能であることは云うまでもない。
【符号の説明】
【0108】
1 車両用空気調和装置
2 圧縮機
3 空気流通路
4 放熱器
6 室外膨張弁
7 室外熱交換器
8 室内膨張弁
9 吸熱器
17、20、21、22 電磁弁
27 室内送風機
28 エアミックスダンパ
32 コントローラ(制御装置)
55 バッテリ(発熱機器)
61 発熱機器温度調整装置
62 循環ポンプ
64 冷媒-熱媒体熱交換器
66 熱媒体加熱ヒータ(加熱装置)
72 分岐配管(分岐回路)
73 補助膨張弁
80 熱媒体温度センサ
R 冷媒回路