IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太平洋マテリアル株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】モルタル組成物及びモルタル
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20220107BHJP
   C04B 14/18 20060101ALI20220107BHJP
   C04B 14/28 20060101ALI20220107BHJP
   C04B 24/30 20060101ALI20220107BHJP
   E02D 3/12 20060101ALI20220107BHJP
   E21D 11/00 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B14/18
C04B14/28
C04B24/30 A
E02D3/12
E21D11/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017197478
(22)【出願日】2017-10-11
(65)【公開番号】P2019069881
(43)【公開日】2019-05-09
【審査請求日】2020-07-22
(73)【特許権者】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高山 浩平
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特公平06-102566(JP,B2)
【文献】特開平04-305044(JP,A)
【文献】特開2015-202964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00-32/02,
C04B40/00-40/06,
C04B103/00-111/94
E21D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性セメントと、石灰石微粉末と、かさ比重が0.05~0.8kg/Lである軽量骨材と、減水剤とを含み
前記石灰石微粉末の含有量が、前記水硬性セメント及び前記石灰石微粉末の合計100質量部に対し、60~95質量部であり、
前記軽量骨材の含有量が、前記水硬性セメント及び前記石灰石微粉末の合計100質量部に対し、8~35質量部である、空洞充填用モルタル組成物。
【請求項2】
減水剤の含有量が、水硬性セメント及び石灰石微粉末の合計100質量部に対し、0.01~2質量部である、請求項1に記載の空洞充填用モルタル組成物。
【請求項3】
更に増粘剤を、水硬性セメント及び石灰石微粉末の合計100質量部に対して0.01~2質量部の量で含む、請求項1又は2に記載の空洞充填用モルタル組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の空洞充填用モルタル組成物と、水とを含み、
前記水の含有量が、前記水硬性セメント及び前記石灰石微粉末の合計100質量部に対し、50~100質量部である、モルタル。
【請求項5】
単位容積質量が0.8~1.5kg/Lである、請求項4に記載のモルタル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モルタル組成物及びモルタルに関する。
【背景技術】
【0002】
構造物の空洞部を充填するモルタルは、シールド工法の二次施工でシールドトンネル内の上・下水管の固定、水平面を築くための充填、推進管と地山との間の隙間の充填、使用できなくなった水道管を埋設処分に供す為に必要な管内充填等に用いられる。このようなモルタルは、長距離圧送されることもあるため、その過程における材料分離(ブリーディング)の発生を抑制することが求められる。そこで、空洞充填に用いられるモルタルには材料分離を抑制することを期待して、多量の水を保持できるという性質を有するベントナイト等の粘土系鉱物がしばしば使用されている(例えば、特許文献1、特許文献2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-297274号公報
【文献】特開2013-049590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ベントナイトはアルカリに弱く、セメントとプレミクス化させた場合、時間経過とともに空気中の水分によりセメントからアルカリが溶出するとベントナイトの水固定化能力が低下し、ブリーディングが発生しやすくなる懸念がある。したがって、ベントナイトに代わる材料を用いたモルタルが求められている。
【0005】
本発明は、ブリーディングの発生が抑制された新たなモルタル組成物及びモルタルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、無機粉末に加えて軽量骨材を用いることで、その水固定化能力によりブリーディングの発生を抑制できることを見出し、発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明は、以下の[1]~[5]を提供するものである。
[1]水硬性セメントと、無機粉末と、軽量骨材とを含み、無機粉末の含有量が、水硬性セメント及び無機粉末の合計100質量部に対し、60~95質量部であり、軽量骨材の含有量が、水硬性セメント及び無機粉末の合計100質量部に対し、8~35質量部である、モルタル組成物。
[2]無機粉末が、炭酸カルシウム、フライアッシュ、シリカフューム、高炉スラグ及び珪石からなる群から選択される少なくとも一種の粉末である、[1]のモルタル組成物。
[3]軽量骨材のかさ比重が、0.05~0.8kg/Lである、[1]又は[2]のモルタル組成物。
[4]更に増粘剤を含む、[1]~[3]のいずれかのモルタル組成物。
[5][1]~[4]のいずれかのモルタル組成物と、水とを含み、水の含有量が、水硬性セメント及び無機粉末の合計100質量部に対し、50~100質量部である、モルタル。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ブリーディングの発生が抑制された新たなモルタル組成物及びモルタルを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0010】
本実施形態のモルタル組成物は、水硬性セメントと、無機粉末と、軽量骨材とを含む。
【0011】
水硬性セメントは、種々のものを使用することができ、例えば、普通、早強、超早強、低熱及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント、エコセメント、速硬性セメント等が挙げられる。水硬性セメントは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
速硬性セメントは、カルシウムアルミネート類を有効成分として含有するものがあり、11CaO・7Al23・CaX2(Xはハロゲン原子を示す)又は3CaO・3Al23・CaSO4(アウイン)を有効成分として含有するものも含まれる。
また、カルシウムアルミネート類と石膏等の無機塩類とを配合して調製された速硬性混和材を、ポルトランドセメントに添加したものも速硬性セメントとして用いることができる。カルシウムアルミネート類は結晶質又は非晶質のいずれであってもよいし、結晶質と非晶質の混合体であってもよい。
【0012】
無機粉末は、上記水硬性セメントとは異なる無機性物質の粉末である。無機粉末としては、例えば、炭酸カルシウム、フライアッシュ、シリカフューム、高炉スラグ、珪石等の粉末が挙げられる。これらの中でも、経済性の観点から、炭酸カルシウム、フライアッシュ、シリカフュームが好ましく、炭酸カルシウム、フライアッシュがより好ましく、炭酸カルシウムが更に好ましい。無機粉末は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。炭酸カルシウムは、炭酸カルシウムを主成分とするものであれば特に限定されず、化学的に精製された炭酸カルシウムであってもよく、石灰石を粉砕して微粉末に調製したものであってもよい。
【0013】
無機粉末の含有量は、水硬性セメント及び無機粉末の合計100質量部に対し、60~95質量部であり、65~95質量部が好ましく、70~90質量部がより好ましい。無機粉末の含有量が上記範囲内であれば、硬化時の強度を維持しつつ、可使時間が確保しやすく、水和熱の上昇を抑制しやすい。
【0014】
軽量骨材は特に限定されるものではなく、例えば、黒曜石、真珠岩等を焼成発泡させた無機系発泡性骨材であるパーライト、火力発電所で発生するフライアッシュバルーン、発泡ガラス粒(ガラスバルーン)等が挙げられる。軽量骨材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。軽量骨材の粒径は、0.05~5mmが好ましく、0.1~3mmがより好ましく、0.1~1.5mmが更に好ましく、0.1~1mmが特に好ましい。軽量骨材の粒径が上記範囲内であれば、ブリーディングの発生を抑制しやすく、より良好な流動性を確保しやすい。
【0015】
軽量骨材は、かさ比重が0.05~0.8kg/Lのものが好ましく、0.07~0.5kg/Lのものがより好ましく、0.1~0.3kg/Lのものが更に好ましい。かさ比重が上記範囲であれば、モルタルの単位容積質量をより軽量にし、またブリーディングの発生を抑制しやすく、モルタルポンプでの圧送がより容易であり、より良好な流動性を確保しやすい。ここでかさ比重とは、軽量骨材を一種類用いている場合はその軽量骨材のかさ比重を指し、二種以上を併せて用いる場合は軽量骨材の混合物のかさ比重を指す。
【0016】
軽量骨材の含有量は、水硬性セメント及び無機粉末の合計100質量部に対し、8~35質量部であり、10~30質量部が好ましく、10~25質量部がより好ましく、10~20質量部が更に好ましく、12~20質量部がより更に好ましく、12~17質量部が特に好ましい。軽量骨材の含有量が上記範囲内であれば、ブリーディングの発生を抑制しやすい。
【0017】
本実施形態のモルタル組成物は増粘剤を含んでもよい。増粘剤の種類は特に限定されず、セルロース系増粘剤、アクリル系増粘剤、グアーガム系増粘剤、スターチ系増粘剤等が挙げられる。増粘剤はセルロース系増粘剤が好ましく、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースが挙げられる。増粘剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。増粘剤は、その用途に応じて分子量を調整してもよく、例えば高分子量の増粘剤は、水がある環境下に用いる場合において材料分離抵抗性が一層優れるものとなる。
【0018】
増粘剤の含有量は、水硬性セメント及び無機粉末の合計100質量部に対し、0.01~2質量部が好ましく、0.01~1質量部がより好ましく、0.05~0.5質量部が更に好ましい。増粘剤の含有量が上記範囲内であれば、材料がより分離しにくく、ブリーディングを抑制しやすく、より良好な流動性を確保しやすい。
【0019】
本実施形態のモルタル組成物は減水剤を含んでもよい。減水剤は、高性能減水剤、高性能AE減水剤、AE減水剤及び流動化剤を含む。このような減水剤としては、JIS A 6204:2011「コンクリート用化学混和剤」に規定される減水剤が挙げられる。減水剤としては、例えば、ポリカルボン酸系減水剤、ナフタレンスルホン酸系減水剤、リグニンスルホン酸系減水剤、メラミン系減水剤、アクリル系減水剤が挙げられる。これらの中では、メラミン系減水剤が好ましい。減水剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0020】
減水剤の含有量は、水硬性セメント及び無機粉末の合計100質量部に対し、0.01~2質量部が好ましく、0.01~1質量部がより好ましく、0.05~0.5質量部が更に好ましい。減水剤の含有量が上記範囲内であれば、ブリーディングを抑制しやすく、より良好な流動性を確保しやすい。
【0021】
本実施形態のモルタル組成物は、本発明の効果が損なわれない範囲で各種混和剤を使用してもよい。混和剤としては、例えば、発泡剤、膨張材、石膏類、速硬剤、防水剤、防錆剤、収縮低減剤、保水剤、顔料、撥水剤、白華防止剤が挙げられる。
【0022】
本実施形態のモルタル組成物は、通常の用いられる混練器具により混合することで調製でき、その器具は特に限定されるものではない。混練器具としては、例えば、グラウトミキサ、ホバートミキサ、ハンドミキサ、傾胴ミキサ、2軸ミキサ等が挙げられる。
【0023】
本実施形態のモルタル組成物は、水と混合してモルタルとして調製することができ、その水の含有量は用途に応じて適宜調整すればよい。水の含有量は、水硬性セメント及び無機粉末の合計100質量部に対し、50~100質量部が好ましく、60~90質量部がより好ましく、65~85質量部が更に好ましい。水の含有量が上記範囲内であれば、ブリーディングを抑制しやすく、より良好な流動性を確保しやすい。
【0024】
本実施形態のモルタルは、単位容積質量が0.8~1.5kg/Lであることが好ましく、0.85~1.4kg/Lがより好ましく、0.9~1.3kg/Lが更に好ましい。単位容積質量が上記範囲内であれば、より一層軽量であるためモルタルの自重の影響が出にくく、施工箇所に負荷をかけにくい。
【0025】
本実施形態のモルタルの調製は、通常のモルタルと同様の混練器具を使用することができ、特に限定されるものではない。混練器具としては、例えば上述したものを用いることができる。
【0026】
本実施形態のモルタル組成物及びモルタルは、ブリーディングが発生しにくく、軽量でもあるため、通常の打設箇所に加え、より高度の高い打設箇所にも使用することができる。本実施形態のモルタル組成物及びモルタルは流動性(粘性)によって用途を適宜選択することができ、例えば、コンクリート構造物と鋼板との隙間等の狭所への充填、配管内の中込充填、シールド工法における裏込め、構造物背面充填、構造物床下空洞充填、道路下部の空隙充填等の各種空洞充填に好適に用いることができる。
【実施例
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0028】
実施例で用いる材料は以下のとおりである。
セメント:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
炭酸カルシウム:石灰石微粉末(近藤石灰工業社製)
フライアッシュ:フライアッシュ(太平洋セメント社製)
軽量骨材:真珠岩系パーライト(太平洋パーライト社製)、粒径0.6mm以下
増粘剤:ヒドロキシプロピルメチルセルロース系(信越化学社製)
減水剤:メラミンスルホン酸系減水剤(BASFポゾリス社製)
【0029】
[モルタルの作製]
20℃の環境下において、表1に示す配合割合で各種材料を円筒容器に添加し、水を加えハンドミキサで60秒間混練してモルタルを調製した。水の量は、セメント及び無機粉末の合計100質量部に対して75質量部とした。
【0030】
各項目については以下の方法で評価した。評価結果を表1に示す。
[ブリーディング率の測定]
JIS A 1123:2012「コンクリートのブリーディング試験方法」に準拠して練上りから3時間後のブリーディング率を測定した。
[フロー値の測定]
JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」12.フロー試験で規定されるフローコーンを用いたフローコーン取り去り後のフロー値(落下運動無し)に準拠し、練り混ぜ直後のモルタルについてフロー値を測定した。
[J漏斗流下値の測定]
土木学会基準JSCE-F 541-2013「充てんモルタルの流動性試験方法(案)」に準拠し、J14漏斗流下時間を測定した。
[単位容積質量の測定]
JIS A 1171:2016「ポリマーセメントモルタルの試験方法」6.4単位容積質量試験に準拠し、単位容積質量を測定した。
【0031】
【表1】
【0032】
表1より、水硬性セメント及び無機粉末の合計100質量部に対し、60~95質量部の無機粉末に加えて、8~35質量部の軽量骨材を配合したモルタル組成物は、ブリーディングの発生が顕著に抑制されており、構造物の空洞部等への充填性に優れることがわかる。なお、実施例4及び実施例8のモルタル組成物は、J14漏斗流下値の試験で閉塞したが、例えば圧送充填、振動充填等においては十分使用可能である。