(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両のパワーユニット
(51)【国際特許分類】
B60W 20/20 20160101AFI20220107BHJP
B60K 6/387 20071001ALI20220107BHJP
B60K 6/40 20071001ALI20220107BHJP
B60K 6/442 20071001ALI20220107BHJP
B60K 6/52 20071001ALI20220107BHJP
B60W 10/02 20060101ALI20220107BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20220107BHJP
B60K 23/08 20060101ALI20220107BHJP
B60K 17/348 20060101ALI20220107BHJP
B60K 17/356 20060101ALI20220107BHJP
B60K 17/04 20060101ALI20220107BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20220107BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
B60W20/20
B60K6/387 ZHV
B60K6/40
B60K6/442
B60K6/52
B60W10/02 900
B60W10/08 900
B60K23/08 C
B60K17/348 B
B60K17/356 B
B60K17/04 G
B60L50/16
B60L15/20 T
(21)【出願番号】P 2017203207
(22)【出願日】2017-10-20
【審査請求日】2020-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100122770
【氏名又は名称】上田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】井上 諭
(72)【発明者】
【氏名】青木 光夫
(72)【発明者】
【氏名】篤 幸太郎
(72)【発明者】
【氏名】湯澤 芳明
(72)【発明者】
【氏名】新沼 俊輝
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-065449(JP,A)
【文献】特開平09-095149(JP,A)
【文献】特開2017-087824(JP,A)
【文献】特開2016-048999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-20/50
B60K 6/20- 6/547
B60K 23/08
B60K 17/348
B60K 17/356
B60K 17/04
B60L 1/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、第1モータ・ジェネレータと、第2モータ・ジェネレータとを備えるハイブリッド車両のパワーユニットにおいて、
前記エンジンの出力軸、及び前記第1モータ・ジェネレータの回転軸とトルク伝達可能に接続された第1スプラインと、
前輪との間でトルクの伝達を行う前輪車軸とトルク伝達可能に接続された第2スプラインと、
前記第2モータ・ジェネレータの回転軸とトルク伝達可能に接続され、後輪との間でトルクの伝達を行う後輪車軸とトルク伝達可能に接続された第3スプラインと、
前記第1スプライン、前記第2スプライン、前記第3スプラインと嵌合可能に形成されたスプラインを有し、位置に応じて、前記第1スプライン、前記第2スプライン、前記第3スプラインの接続状態を切替えるスリーブと、
前記スリーブを摺動させるアクチュエータと、
前記後輪車軸に介装され、後輪側に伝達されるトルクを調節するトランスファクラッチと、
前記アクチュエータの駆動、及び前記トランスファクラッチの締結力を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、車両の走行状態に基づいて、
前記第1スプラインと前記第2スプラインとを接続し、前記第3スプラインを解放し、前記トランスファクラッチを解放するとともに、前記エンジン、前記第1モータ・ジェネレータを稼働して前記前輪車軸を駆動し、前記第2モータ・ジェネレータを停止する第1モードと、
前記第1スプラインと前記第2スプラインとを接続し、前記第3スプラインを解放し、前記トランスファクラッチを締結するとともに、前記エンジン、前記第1モータ・ジェネレータを稼働して前記前輪車軸を駆動し、前記第2モータ・ジェネレータを稼働して前記後輪車軸を駆動する第2モードと、
前記第2スプラインと前記第3スプラインとを接続し、前記第1スプラインを解放し、前記トランスファクラッチを締結するとともに、前記エンジン、前記第1モータ・ジェネレータを停止し、前記第2モータ・ジェネレータを稼働して前記前輪車軸及び後輪車軸を駆動する第3モードと、
前記第2スプラインと前記第3スプラインとを接続し、前記第1スプラインを解放し、前記トランスファクラッチを締結するとともに、前記エンジンで前記第1モータ・ジェネレータを駆動して発電し、前記第2モータ・ジェネレータを稼働して前記前輪車軸及び後輪車軸を駆動する第4モードと、
前記第1スプライン、前記第2スプライン、前記第3スプラインを接続し、前記トランスファクラッチを締結するとともに、前記エンジン、前記第1モータ・ジェネレータ、前記第2モータ・ジェネレータを稼働して前記前輪車軸及び後輪車軸を駆動する第5モードと、
を切替えるように、前記アクチュエータ及び前記トランスファクラッチを制御することを特徴とするハイブリッド車両のパワーユニット。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記第1モード、前記第2モードから、前記第5モード又は前記第5モードを介して前記第3モード、前記第4モードに切替える際に、前記第2モータ・ジェネレータの回転数を、前記スリーブと前記第3スプラインとを嵌合可能な回転数に調節し、その後、前記アクチュエータを駆動して、前記
第1スプライン、前記第2スプラインと前記第3スプラインとが接続されるように前記スリーブを動かし、
前記第3モード、前記第4モードから、前記第5モード又は前記第5モードを介して前記第1モード、前記第2モードに切替える際に、前記第1モータ・ジェネレータの回転数を、前記スリーブと前記第1スプラインとを嵌合可能な回転数に調節し、その後、前記アクチュエータを駆動して、前記第2スプライン、前記第3スプラインと前記第1スプラインとが接続されるように前記スリーブを動かすことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両のパワーユニット。
【請求項3】
前記制御手段は、
前記第1モード、前記第2モードから、前記第5モード又は前記第5モードを介して前記第3モード、前記第4モードに切替える際に、前記第1モータ・ジェネレータの出力トルクがゼロとなるようにゼロトルク制御を行い、
前記第3モード、前記第4モードから、前記第5モード又は前記第5モードを介して前記第1モード、前記第2モードに切替える際に、前記第2モータ・ジェネレータの出力トルクがゼロとなるようにゼロトルク制御を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッド車両のパワーユニット。
【請求項4】
前記制御手段は、
前記第1モード、前記第2モードから、前記第5モード又は前記第5モードを介して前記第3モード、前記第4モードに切替える際に、前記後輪車軸の回転数変動が所定回転数以上であるときには、前記後輪車軸の回転数変動を抑制するように前記第2モータ・ジェネレータを制御することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のハイブリッド車両のパワーユニット。
【請求項5】
前記第1スプライン、前記第2スプライン、前記第3スプライン、及び、前記スリーブは、同軸上に配設されており、
前記スリーブは、前記第1スプライン、前記第2スプライン、前記第3スプラインの外周上を、軸方向に摺動自在に構成されていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のハイブリッド車両のパワーユニット。
【請求項6】
前記第1スプライン、前記第2スプライン、前記第3スプラインは、互いに相対回転可能な外スプラインであり、
前記スリーブは、前記第1スプライン、前記第2スプライン、前記第3スプラインに外嵌可能な円筒状に形成され、内周面に沿って軸方向に延びる内スプラインが形成されていることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のハイブリッド車両のパワーユニット。
【請求項7】
前記第2モータ・ジェネレータから前記前輪車軸/後輪車軸へ伝達されるトルクの伝達経路の総ギヤ比は、前記エンジンから前記前輪車軸/後輪車軸へ伝達されるトルクの伝達経路の総ギヤ比よりもローギヤに設定されていることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載のハイブリッド車両のパワーユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力源としてエンジンとモータ・ジェネレータ(電動モータ)とを備えるハイブリッド車両のパワーユニットに関し、特に、全輪駆動(以下「AWD」ともいう)のハイブリッド車両のパワーユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジンとモータ・ジェネレータ(電動モータ)とを併用することで車両の燃料消費率(燃費)を効果的に向上させることができるハイブリッド自動車(HEV)が広く実用化されている。ところで、このようなハイブリッド自動車としては、従来から、例えば、モータ・ジェネレータの数、エンジンとモータ・ジェネレータとの組合せ方や切替え方などにより、シリーズHEV(以下「SHEV」ともいう)やパラレルHEV(以下「PHEV」ともいう)、ストロングHEVやマイルドHEVなど様々な形式のものが提案・開発されている。
【0003】
一方、従来から、急坂路や、凸凹の多い悪路、滑りやすい路面(例えば雪道や泥路)などでの走破性が優れている全輪駆動(AWD)車(又は4輪駆動(4WD)車)が広く実用化されている。
【0004】
ここで、特許文献1には、四輪駆動用に用いるハイブリッド車両の動力伝達装置が開示されている。より詳細には、このハイブリッド車両の動力伝達装置では、エンジンと発電機とが直結されるとともに、クラッチを介して前輪出力軸(前輪車軸)に接続されている。また、電動モータが前輪出力軸及び後輪出力軸(後輪車軸)に直結されており、後輪出力軸にはトランスファクラッチが介装されている。
【0005】
上述したように、この動力伝達装置が搭載されたハイブリッド車両は、エンジンと電動モータ(第2のモータ・ジェネレータ)と発電機(第1のモータ・ジェネレータ)を有し、車両の駆動が、走行状態に応じて、エンジンと電動モータのいずれか一方による駆動(エンジン走行/EV走行)と、両方による駆動(PHEV走行)とのいずれかに切り換えられる。例えば、駆動トルクが要求される発進時には電動モータを用いて車両が駆動(EV走行)され、車速が上昇するとエンジンによって車両が駆動(エンジン走行)され、登坂時などの高負荷時には電動モータとエンジンとによって車両が駆動(PHEV走行)される。また、エンジンの低負荷時には走行しながら発電機により発電し、発電された電力エネルギをバッテリに充電(又は第2のモータ・ジェネレータに供給(SHEV走行))することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、特許文献1に記載の動力伝達装置が搭載されたハイブリッド車両では、高速走行時にクラッチが係合されるとともにエンジンが稼働され、エンジンの駆動力と電動モータの駆動力とによってPHEV走行を行う。しかしながら、このハイブリッド車両では、電動モータが前輪出力軸及び後輪出力軸に直結されているため、電動モータを車両の駆動に利用する必要がないとき(エンジンのみで駆動するとき)に、例えば、電動モータのゼロトルク制御に伴う電気ロスや連れ回りによるフリクションロスが発生する。
【0008】
また、上記動力伝達装置が搭載されたAWD車では、例えば、発進時や低速走行時にステアリングホイールを大きく操舵した状態でアクセルペダルを踏込むと、駆動トルクによって駆動輪が滑らないように前後輪へのトルク(駆動力)配分を均等にするように、すなわちトランスファクラッチの締結力を強めるように制御が行われることにより、前後輪の差動を吸収し難くなり、その結果、所謂タイトコーナブレーキング現象が生じることがある。
【0009】
さらに、上記動力伝達装置が搭載されたAWD車では、例えば軸重や車輪の空気圧等の関係で前輪と後輪の回転速度が同じにならない場合がある。その場合、前輪と後輪との回転差に応じて、内部循環トルクが発生し、不要な抵抗(フリクション)となり、燃料消費率(燃費)が悪化するおそれがある。
【0010】
しかしながら、上述したような電動モータ(第2のモータ・ジェネレータ)に起因するロス(損失)の発生、及び、AWDに起因するタイトコーナブレーキング現象や内部循環トルクによるロスを解消するため、前輪車軸側(エンジン、第1のモータ・ジェネレータ)と後輪車軸側(第2のモータ・ジェネレータ)とを切離すクラッチを別途設けると(追加すると)、システムが複雑になって重量が増大し、コストも増大する。
【0011】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、エンジンと2個のモータ・ジェネレータとを備えるAWDのハイブリッド車両のパワーユニットにおいて、シンプルかつ低コストに、AWDでのSHEV走行モード、PHEV走行モード、EV走行モードを切替えることができ、モータ・ジェネレータを車両の駆動に利用しないときに、当該モータ・ジェネレータに起因するロスを低減することができ、かつ、AWDに起因するタイトコーナブレーキング現象や内部循環トルクによるロスを解消することが可能なハイブリッド車両のパワーユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るハイブリッド車両のパワーユニットは、エンジンと、第1モータ・ジェネレータと、第2モータ・ジェネレータとを備えるハイブリッド車両のパワーユニットにおいて、エンジンの出力軸及び第1モータ・ジェネレータの回転軸とトルク伝達可能に接続された第1スプラインと、前輪との間でトルクの伝達を行う前輪車軸とトルク伝達可能に接続された第2スプラインと、第2モータ・ジェネレータの回転軸とトルク伝達可能に接続され、後輪との間でトルクの伝達を行う後輪車軸とトルク伝達可能に接続された第3スプラインと、第1スプライン、第2スプライン、第3スプラインと嵌合可能に形成されたスプラインを有し、位置に応じて、第1スプライン、第2スプライン、第3スプラインの接続状態を切替えるスリーブと、スリーブを摺動させるアクチュエータと、後輪車軸に介装され、後輪側に伝達されるトルクを調節するトランスファクラッチと、アクチュエータの駆動及びトランスファクラッチの締結力を制御する制御手段とを備え、制御手段が、車両の走行状態に基づいて、
第1スプラインと第2スプラインとを接続し、第3スプラインを解放し、トランスファクラッチを解放するとともに、エンジン、第1モータ・ジェネレータを稼働して前輪車軸を駆動し、第2モータ・ジェネレータを停止する第1モードと、
第1スプラインと第2スプラインとを接続し、第3スプラインを解放し、トランスファクラッチを締結するとともに、エンジン、第1モータ・ジェネレータを稼働して前輪車軸を駆動し、第2モータ・ジェネレータを稼働して後輪車軸を駆動する第2モードと、
第2スプラインと第3スプラインとを接続し、第1スプラインを解放し、トランスファクラッチを締結するとともに、エンジン、第1モータ・ジェネレータを停止し、第2モータ・ジェネレータを稼働して前輪車軸及び後輪車軸を駆動する第3モードと、
第2スプラインと第3スプラインとを接続し、第1スプラインを解放し、トランスファクラッチを締結するとともに、エンジンで第1モータ・ジェネレータを駆動して発電し、第2モータ・ジェネレータを稼働して前輪車軸及び後輪車軸を駆動する第4モードと、
第1スプライン、第2スプライン、第3スプラインを接続し、トランスファクラッチを締結するとともに、エンジン、第1モータ・ジェネレータ、第2モータ・ジェネレータを稼働して前輪車軸及び後輪車軸を駆動する第5モードと、を切替えるように、アクチュエータ及びトランスファクラッチを制御することを特徴とする。
【0013】
本発明に係るハイブリッド車両のパワーユニットによれば、車両の走行状態に基づいて、
第1スプラインと第2スプラインとが接続され、第3スプラインが解放され、トランスファクラッチが解放されるとともに、エンジン、第1モータ・ジェネレータが稼働されて前輪車軸が駆動され、第2モータ・ジェネレータが停止される第1モード(FF(前輪駆動) PHEV走行モード)と、
第2スプラインと第3スプラインとが接続され、第3スプラインが解放され、トランスファクラッチが締結されるとともに、エンジン、第1モータ・ジェネレータが稼働されて前輪車軸が駆動され、第2モータ・ジェネレータが稼働されて後輪車軸が駆動される第2モード(AWD(前後独立) PHEV走行モード)と、
第2スプラインと第3スプラインとが接続され、第1スプラインが解放され、トランスファクラッチが締結されるとともに、エンジン、第1モータ・ジェネレータが停止され、第2モータ・ジェネレータが稼働されて前輪車軸及び後輪車軸が駆動される第3モード(AWD EV走行モード)と、
第2スプラインと第3スプラインとが接続され、第1スプラインが解放され、トランスファクラッチが締結されるとともに、エンジンで第1モータ・ジェネレータが駆動されて発電され、その電力によって第2モータ・ジェネレータが稼働されて前輪車軸及び後輪車軸が駆動される第4モード(AWD SHEV走行モード)と、
第1スプライン、第2スプライン、第3スプラインが接続され、トランスファクラッチが締結されるとともに、エンジン、第1モータ・ジェネレータ、第2モータ・ジェネレータが稼働されて前輪車軸及び後輪車軸が駆動される第5モード(AWD PHEV走行モード)と、が切替えられる。
【0014】
そのため、AWDでのEV走行(第3モード)、SHEV走行(第4モード)、PHEV走行(第2、第5モード)が可能となる。また、第2モータ・ジェネレータによる駆動力が不要な場合に、第1モード又は第2モードに切替えて、前輪車軸と後輪車軸とを切離すこと、すなわち第2モータ・ジェネレータを切離すことにより、第2モータ・ジェネレータに起因するロスを低減することができる。さらに、第2モードに切替えることにより前輪車軸と後輪車軸とが切離されるため、AWDでのタイトコーナブレーキング現象、及び、内部循環トルクによるロスを解消することができる。さらに、この構成によれば、第1スプライン、第2スプライン、第3スプライン、及びスリーブを有して構成されるドグクラッチの締結/解放とトランスファクラッチの締結/解放の組み合わせによって上記5つのモードを切替えて実現すことができる。なお、AWD車であればトランスファクラッチを元々備えている。その結果、シンプルかつ低コストに、AWDでのSHEV走行モード、PHEV走行モード、EV走行モードを切替えることができ、モータ・ジェネレータを車両の駆動に利用しないときに、当該モータ・ジェネレータに起因するロスを低減することができ、かつ、AWDに起因するタイトコーナブレーキング現象や内部循環トルクによるロスを解消することが可能となる。
【0015】
本発明に係るハイブリッド車両のパワーユニットでは、上記制御手段が、第1モード、第2モードから、第5モード又は第5モードを介して第3モード、第4モードに切替える際に、第2モータ・ジェネレータの回転数を、スリーブと第3スプラインとを嵌合可能な回転数に調節し、その後、アクチュエータを駆動して、1スプライン、第2スプラインと第3スプラインとが接続されるようにスリーブを動かし、第3モード、第4モードから、第5モード又は第5モードを介して第1モード、第2モードに切替える際に、第1モータ・ジェネレータの回転数を、スリーブと第1スプラインとを嵌合可能な回転数に調節し、その後、アクチュエータを駆動して、第2スプライン、第3スプラインと第1スプラインとが接続されるようにスリーブを動かすことが好ましい。
【0016】
この場合、第1モード、第2モードから、第5モード又は第5モードを介して第3モード、第4モードに切替えられる際に、第2モータ・ジェネレータの回転数が、スリーブと第3スプラインとを嵌合可能な回転数に調節され、その後、アクチュエータが駆動されて、1スプライン、第2スプラインと第3スプラインとが接続されるようにスリーブが動かされる。すなわち、第1、第2スプライン(前輪車軸)と第3スプライン(後輪車軸)との回転数合わせが行われた後(すなわち回転偏差が低減された後)、第1、第2スプラインと第3スプラインとが接続される。同様に、第3モード、第4モードから、第5モード又は第5モードを介して第1モード、第2モードに切替えられる際に、第1モータ・ジェネレータの回転数が、スリーブと第1スプラインとを嵌合可能な回転数に調節され、その後、アクチュエータが駆動されて、第2スプライン、第3スプラインと第1スプラインとが接続されるようにスリーブが動かされる。すなわち、第2、第3スプライン(前輪車軸、後輪車軸)と第1スプライン(エンジン、第1モータ・ジェネレータ)との回転数合わせが行われた後(すなわち回転偏差が低減された後)、第2、第3スプラインと第1スプラインとが接続される。よって、ショックを抑制しつつよりスムーズにモードを切替えることが可能となる。
【0017】
本発明に係るハイブリッド車両のパワーユニットでは、上記制御手段が、第1モード、第2モードから、第5モード又は第5モードを介して第3モード、第4モードに切替える際に、第1モータ・ジェネレータの出力トルクがゼロとなるようにゼロトルク制御を行い、第3モード、第4モードから、第5モード又は第5モードを介して第1モード、第2モードに切替える際に、第2モータ・ジェネレータの出力トルクがゼロとなるようにゼロトルク制御を行うことが好ましい。
【0018】
この場合、第1モード、第2モードから、第5モード又は第5モードを介して第3モード、第4モードに切替えられる際に、第1モータ・ジェネレータの出力トルクがゼロとなるようにゼロトルク制御が行われ、第3モード、第4モードから、第5モード又は第5モードを介して第1モード、第2モードに切替える際に、第2モータ・ジェネレータの出力トルクがゼロとなるようにゼロトルク制御が行われる。その結果、モードが切替えられる際に、スリーブが抜かれる側のスプラインに付与される駆動トルクが低減されるため、モードの切替えをよりスムーズに行うことが可能となる。
【0019】
本発明に係るハイブリッド車両のパワーユニットでは、上記制御手段が、第1モード、第2モードから、第5モード又は第5モードを介して第3モード、第4モードに切替える際に、後輪車軸の回転数変動が所定回転数以上であるときには、後輪車軸の回転数変動を抑制するように前記第2モータ・ジェネレータを制御することが好ましい。
【0020】
この場合、第1モード、第2モードから、第5モード又は第5モードを介して第3モード、第4モードに切替えられる際に、後輪車軸の回転数変動が所定回転数以上であるときには、後輪車軸の回転数変動を抑制するように第2モータ・ジェネレータが制御される。そのため、モードが切替えられる際に、ドグクラッチを構成する各要素が異なった回転数で接触・嵌合されることを抑制することが可能となる。
【0021】
本発明に係るハイブリッド車両のパワーユニットでは、第1スプライン、第2スプライン、第3スプライン、及び、スリーブが、同軸上に配設されており、スリーブが、第1スプライン、第2スプライン、第3スプラインの外周上を、軸方向に摺動自在に構成されていることが好ましい。
【0022】
この場合、第1スプライン、第2スプライン、第3スプライン及びスリーブが同軸上に配設されており、スリーブが、第1スプライン、第2スプライン、第3スプラインの外周上を、軸方向に摺動自在に構成されている。すなわち、スリーブに形成されたスプラインと、第1スプライン、第2スプライン、第3スプラインとによりドグクラッチが構成され、スリーブを軸方向に動かすことにより、ドグクラッチの締結・解放状態(すなわち、第1スリーブに形成されたスプラインと、第1スプライン、第2スプライン、第3スプラインとの嵌合状態)を切替えることができる。
【0023】
本発明に係るハイブリッド車両のパワーユニットでは、第1スプライン、第2スプライン、第3スプラインが、互いに相対回転可能な外スプラインであり、スリーブが、第1スプライン、第2スプライン、第3スプラインに外嵌可能な円筒状に形成され、内周面に沿って軸方向に延びる内スプラインが形成されていることが好ましい。
【0024】
この場合、第1スプライン、第2スプライン、第3スプラインそれぞれが、互いに相対回転可能な外スプラインであり、スリーブが、第1スプライン、第2スプライン、第3スプラインに外嵌可能な円筒状に形成され、その内周面に軸方向に延びる内スプラインが形成されている。そのため、円筒状のスリーブに形成された内スプラインと、外スプラインからなる第1スプライン、第2スプライン、第3スプラインとによって(すなわち比較的シンプル構成によって)ドグクラッチを構成することができる。
【0025】
また、本発明に係るハイブリッド車両のパワーユニットでは、第2モータ・ジェネレータから前輪車軸/後輪車軸へ伝達されるトルクの伝達経路の総ギヤ比が、エンジンから前輪車軸/後輪車軸へ伝達されるトルクの伝達経路の総ギヤ比よりもローギヤに設定されていることが好ましい。
【0026】
一般的に、電動モータはエンジンよりも高回転で使用できる。この場合、第2モータ・ジェネレータから前輪車軸/後輪車軸(駆動輪)へ伝達されるトルクの伝達経路の総ギヤ比が、エンジンから前輪車軸/後輪車軸(駆動輪)へ伝達されるトルクの伝達経路の総ギヤ比よりもローギヤに設定されている。そのため、エンジン及び第2モータ・ジェネレータそれぞれを効率よく運転することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、エンジンと2個のモータ・ジェネレータとを備えるAWDのハイブリッド車両のパワーユニットにおいて、シンプルかつ低コストに、AWDでのSHEV走行モード、PHEV走行モード、EV走行モードを切替えることができ、モータ・ジェネレータを車両の駆動に利用しないときに、当該モータ・ジェネレータに起因するロスを低減することができ、かつ、AWDに起因するタイトコーナブレーキング現象や内部循環トルクによるロスを解消することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】実施形態に係るAWDのハイブリッド車両のパワーユニットの構成を示すスケルトン図、及び、その制御システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】第1モード(FF PHEV走行モード)における、ドグクラッチ、トランスファクラッチを介したトルク伝達経路(太線)を示す図である。
【
図3】第2モード(AWD(前後独立) PHEV走行モード)における、ドグクラッチ、トランスファクラッチを介したトルク伝達経路(太線)を示す図である。
【
図4】第3モード(AWD EV走行モード)における、ドグクラッチ、トランスファクラッチを介したトルク伝達経路(太線)を示す図である。
【
図5】第4モード(AWD SHEV走行モード)における、ドグクラッチ、トランスファクラッチを介したトルク伝達経路(太線)を示す図である。
【
図6】第5モード(AWD PHEV走行モード)における、ドグクラッチ、トランスファクラッチを介したトルク伝達経路(太線)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0030】
まず、
図1を用いて、実施形態に係るハイブリッド車両のパワーユニット1の構成について説明する。
図1は、AWDのハイブリッド車両のパワーユニット1の構成を示すスケルトン図、及び、その制御システムの構成を示すブロック図である。
【0031】
ハイブリッド車両は、車両の駆動力源として、エンジン10と、第1モータ・ジェネレータ21と、第2モータ・ジェネレータ22とを備えている。エンジン10は、どのような形式のものでもよいが、例えば、高膨張比サイクルによって圧縮比を高めることにより、熱効率の向上を図ったエンジンなどが好適に用いられる。エンジン10は、エンジン・コントロールユニット(以下「ECU」という)81によって制御される。
【0032】
ECU81には、クランクシャフトの回転位置(エンジン回転数)を検出するクランク角センサ96等の各種センサが接続されている。ECU81は、取得したこれらの各種情報、及び後述するハイブリッド車・コントロールユニット(以下「HEV-CU」という)80からの制御情報に基づいて、燃料噴射量や点火時期、並びに電子制御式スロットルバルブ等の各種デバイスを制御することによりエンジン10を制御する。また、ECU81は、CAN(Controller Area Network)100を介して、エンジン回転数などの各種情報をHEV-CU80に送信する。
【0033】
エンジン10のクランクシャフト10a(出力軸に相当)には、エンジン10の回転変動を吸収するフライホイールダンパ11を介して、出力軸12が接続されている。出力軸12には、一対のギヤ23(ドライブギヤ23a及びドリブンギヤ23b)を介して、第1モータ・ジェネレータ21の回転軸(入出力軸)21aに接続されている。より具体的には、ギヤ対(歯車列)23を構成するドライブギヤ23aが、出力軸12の端部に取り付けられており、該ドライブギヤ23aと歯合するドリブンギヤ23bが第1モータ・ジェネレータ21の回転軸21aが取り付けられている。すなわち、エンジン10のクランクシャフト10aは、フライホイールダンパ11、出力軸12、ギヤ対(歯車列)23、回転軸21aを介して、第1モータ・ジェネレータ21及び後述する第1スプライン31とトルク伝達可能に接続されている。
【0034】
第1モータ・ジェネレータ21及び第2モータ・ジェネレータ22は、供給された電力を機械的動力に変換するモータとしての機能と、入力された機械的動力を電力に変換するジェネレータとしての機能とを兼ね備えた同期発電電動機として構成されている。すなわち、第1モータ・ジェネレータ21及び第2モータ・ジェネレータ22それぞれは、車両駆動時には駆動トルクを発生するモータとして動作し、回生時にはジェネレータとして動作する。なお、第1モータ・ジェネレータ21は、主にジェネレータとして動作し、第2モータ・ジェネレータ22は、主にモータとして動作する。
【0035】
第1モータ・ジェネレータ21の回転軸(入出力軸)21aには、その端部(又は該端部に取り付けられたハブ)の外周面に第1スプライン31が形成されている。上述したように、回転軸21aにはドリブンギヤ23bが取り付けられている。すなわち、エンジン10と第1モータ・ジェネレータ21とが、ギヤ対(歯車列)23を介してトルク伝達可能に接続されるとともに、第1スプライン31とトルク伝達可能に接続されている。なお、回転軸21aは中空に形成されており、その中空部(内部空間)には、フロントドライブシャフト40(前輪車軸に相当、以下「前輪車軸40」ということもある)が回転可能に配設されている。
【0036】
第1スプライン31と同軸上に並べて、第2スプライン32が配設されている。第2スプライン32は、フロントドライブシャフト40の一方の端部(又は該端部に取り付けられたハブ)の外周面に形成されている。すなわち、第2スプライン32は、フロントドライブシャフト40とトルク伝達可能に接続されている。
【0037】
第2モータ・ジェネレータ22の回転軸(入出力軸)22aには、プラネタリギヤ(モータ・リダクションギヤ)25が取り付けられている。プラネタリギヤ25は、サンギヤ25a、リングギヤ25b、ピニオンギヤ25c、及びプラネタリキャリア25dから構成される遊星歯車機構を有している。プラネタリギヤ25は、第2モータ・ジェネレータ22がモータとして機能するときには、第2モータ・ジェネレータ22から伝達された回転を減速して(トルクを増大して)プラネタリキャリア25dから出力する。一方、プラネタリギヤ25は、プラネタリキャリア25dに入力されたトルク(駆動力)による回転を加速して(トルクを低減させて)サンギヤ25aから出力することにより、第2モータ・ジェネレータ22をジェネレータとして機能させる。
【0038】
プラネタリギヤ25を構成するプラネタリキャリア25dは、プロペラシャフト60(後輪車軸に相当、以下「後輪車軸60」ということもある)と接続されている。プロペラシャフト60の一方の端部には、一対のギヤ28(ドライブギヤ28a及びドリブンギヤ28b)が取り付けられている。より具体的には、ギヤ対(歯車列)28を構成するドライブギヤ28aが、プロペラシャフト60の端部に取り付けられている。
【0039】
ドライブギヤ28aと歯合するドリブンギヤ28b(又はそのギヤコーン)には第3スプライン33が設けられている。すなわち、第3スプライン33は、ギヤ対28及びプラネタリギヤ25を介して、第2モータ・ジェネレータ22とトルク伝達可能に接続されている。また、第3スプライン33は、ギヤ対28を介して、プロペラシャフト60とトルク伝達可能に接続されている。なお、プラネタリギヤ25(サンギヤ25a)は中空に形成されており、その中空部(内部空間)には、プロペラシャフト60が回転可能に配設されている。
【0040】
フロントドライブシャフト40は、前輪(駆動輪)と接続されるフロントデファレンシャル(以下「フロントデフ」という)42との間でトルクを伝達する。フロントドライブシャフト40には、一対のギヤ26(ドライブギヤ26a及びドリブンギヤ26b)が介装されている。すなわち、前輪は、フロントドライブシャフト40及びギヤ対(歯車列)26を介して第2スプライン32とトルク伝達可能に接続されている。
【0041】
よって、フロントドライブシャフト40に伝達されたトルクは、フロントデフ42に伝達される。フロントデフ42は、例えば、ベベルギヤ式の差動装置である。フロントデフ42からのトルクは、左前輪ドライブシャフトを介して左前輪(図示省略)に伝達されるとともに、右前輪ドライブシャフトを介して右前輪(図示省略)に伝達される。
【0042】
プロペラシャフト60は、後輪(駆動輪)と接続されるリヤデファレンシャル(以下「リヤデフ」という)62との間でトルクを伝達する。プロペラシャフト60には、後輪側に伝達されるトルクを調節するトランスファクラッチ61が介装されている。トランスファクラッチ61は、4輪の駆動状態(例えば前輪のスリップ状態等)や駆動トルクなどに応じて締結力(すなわち後輪へのトルク分配率)を制御する。よって、プロペラシャフト60に伝達されたトルクは、トランスファクラッチ61の締結力に応じて分配され、後輪側にも伝達される。なお、トランスファクラッチ61としては、例えば、油圧式や電磁式のものを用いることができる。また、トランスファクラッチ61は、後述するHEV-CU80によって締結力(締結・解放)が制御される。
【0043】
プロペラシャフト60に伝達され、トランスファクラッチ61によって調節(分配)されたトルクは、リヤデフ62に伝達される。リヤデフ62には左後輪ドライブシャフト及び右後輪ドライブシャフト(図示省略)が接続されている。リヤデフ62からの駆動力は、左後輪ドライブシャフトを介して左後輪(図示省略)に伝達されるとともに、右後輪ドライブシャフトを介して右後輪(図示省略)に伝達される。
【0044】
上述したように、第1スプライン31、第2スプライン32、第3スプライン33それぞれは、互いに相対回転可能な軸(回転軸21a、フロントドライブシャフト40)やドリブンギヤ28b(又はそのギヤコーン)の外周に形成された外スプラインである。第1スプライン31(回転軸21a)、第2スプライン32(フロントドライブシャフト40)、第3スプライン33(ドリブンギヤ28b)は、同軸上に並べて配設されている。
【0045】
そして、第1スプライン31、第2スプライン32、第3スプライン33の外周上(外側)には、第1スプライン31、第2スプライン32、第3スプライン33と嵌合可能に形成されたスプライン37aを有し、当該スプライン37aの位置に応じて、第1スプライン31、第2スプライン32、第3スプライン33の接続状態を切り替えるスリーブ37が設けられている。すなわち、第1スプライン31、第2スプライン32、第3スプライン33、及びスリーブ37によりドグクラッチ30が構成される。
【0046】
ここで、スリーブ37は、第1スプライン31、第2スプライン32、第3スプライン33に外嵌可能な円筒状に形成され、内周面に沿って軸方向に延びる内スプライン37aが形成されている。すなわち、スリーブ37は、第1スプライン31、第2スプライン32、第3スプライン33の外周上を、軸方向に摺動自在(移動可能)に設けられている。
【0047】
スリーブ37は、アクチュエータ75によって摺動される。アクチュエータ75により、スリーブ37が動かされて、第1スプライン31、第2スプライン32、第3スプライン33の接続状態(接続・切離し)が切替えられることと、トランスファクラッチ61の締結・解放の組合せとにより、モード(走行モード)が、第1モード(FF PHEV走行モード)と、第2モード(AWD(前後独立) PHEV走行モード)と、第3モード(AWD EV走行モード)と、第4モード(AWD SHEV走行モード)と、第5モード(AWD PHEV走行モード)との間で切替えられる。
【0048】
アクチュエータ75により、スリーブ37が動かされて、第1モード(FF PHEV走行)のときには、第1スプライン31と第2スプライン32とが接続され、第3スプライン33が解放される。また、トランスファクラッチ61が解放される。
第2モード(AWD(前後独立) PHEV走行)のときには、第1スプライン31と第2スプライン32とが接続され、第3スプライン33が解放される。また、トランスファクラッチ61が締結される。
第3モード(AWD EV走行)のときには、第2スプライン32と第3スプライン33とが接続され、第1スプライン31が解放される。また、トランスファクラッチ61が締結される。
第4モード(AWD SHEV走行)のときには、第2スプライン32と第3スプライン33とが接続され、第1スプライン31が解放される。また、トランスファクラッチ61が締結される。
第5モード(AWD PHEV走行)のときには、第1スプライン31、第2スプライン32、第3スプライン33が接続される。また、トランスファクラッチ61が締結される。
なお、第1モード、第2モードと第3モード、第4モードとの間でモードを切替える際には、第5モードを経由する。第1モード、第2モード、第3モード、第4モード、第5モードの詳細については後述する。
【0049】
上述したスリーブ37は、その外周に形成された環状溝に、軸方向の断面がコの字状に形成されたシフトフォーク39が係合されており(把持されており)、シフトフォーク39の移動に伴って軸方向に移動する。このシフトフォーク39に上記アクチュエータ75が連結されており、アクチュエータ75によってシフトフォーク39(すなわちスリーブ37)が軸方向に動かされ、上述したようにモードが切替えられる。なお、アクチュエータ75としては、例えば電動モータ(ステッピングモータなど)が好適に用いられる。アクチュエータ75は、後述するHEV-CU80によって駆動制御される。
【0050】
ここで、第2モータ・ジェネレータ22からフロントドライブシャフト40/プロペラシャフト60(前輪車軸/後輪車軸)へ伝達されるトルクの伝達経路の総ギヤ比は、エンジン10からフロントドライブシャフト40/プロペラシャフト60へ伝達されるトルクの伝達経路の総ギヤ比よりもローギヤに設定されている。
【0051】
また、アクチュエータ75に電力を供給する電源系は、2重系とされている。より具体的には、上記電源系は、第1モータ・ジェネレータ21及び第2モータ・ジェネレータ22に電力を供給する数百V程度の高電圧バッテリ70からDC/DCコンバータ71を介して12Vに降圧された電力を供給する第1電力供給経路73と、高電圧バッテリ70よりも出力端子電圧が低い(例えば12V)低電圧バッテリ72から電力を供給する第2電力供給経路74とを有する2重系とされている。そして、第1電力供給経路73及び第2電力供給経路74のうちいずれか一方の電力供給経路(例えば第2電力供給経路74)に異常(フェイル)が発生した場合(例えば断線などが生じた場合)に、他方の電力供給経路(例えば第1電力供給経路73)から電力が供給されるように(すなわち、電力供給経路が切替えられるように)構成されている。
【0052】
車両の駆動力源であるエンジン10、第2モータ・ジェネレータ22、及び第1モータ・ジェネレータ21は、HEV-CU80によって総合的に制御される。また、HEV-CU80は、アクチュエータ75(スリーブ37)の駆動、及び、トランスファクラッチ61の締結・解放も制御する。
【0053】
HEV-CU80は、演算を行うマイクロプロセッサ、該マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM、その記憶内容が保持されるバックアップRAM、及び入出力I/F等を有して構成されている。
【0054】
HEV-CU80には、例えば、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルセンサ91、スロットルバルブの開度を検出するスロットル開度センサ92、車両の前後・左右の加速度を検出するGセンサ(加速度センサ)93、車輪の速度を検出する車速センサ94、及び、フロントドライブシャフト40の回転数を検出する回転数センサ95、第1モータ・ジェネレータ21の回転位置(回転数)を検出するレゾルバ97、第2モータ・ジェネレータ22の回転位置(回転数)を検出するレゾルバ98、プロペラシャフト60の回転数を検出する回転数センサ99などを含む各種センサが接続されている。また、HEV-CU80は、CAN100を介して、エンジン10を制御するECU81や、車両の横滑りなどを抑制して走行安定性を向上させるビークルダイナミック・コントロールユニット(以下「VDCU」という)85等と相互に通信可能に接続されている。HEV-CU80は、CAN100を介して、ECU81やVDCU85から、例えば、エンジン回転数や、ブレーキ操作量、ステアリングホイールの操舵角等の各種情報を受信する。
【0055】
HEV-CU80は、取得したこれらの各種情報に基づいて、エンジン10、第2モータ・ジェネレータ22、及び第1モータ・ジェネレータ21の駆動を総合的に制御するとともに、アクチュエータ75(スリーブ37)及びトランスファクラッチ61を駆動して、モードを、上述した第1モード~第5モードの間で切替える。HEV-CU80は、例えば、アクセルペダル開度(運転者の要求駆動力)、車両の運転状態(例えば車速や操舵角など)、高電圧バッテリ70の充電状態(SOC)、及びエンジン10のBSFCなどに基づいて、エンジン10の要求出力、及び第2モータ・ジェネレータ22、第1モータ・ジェネレータ21のトルク指令値を求めて出力するとともに、アクチュエータ75の駆動指令値(制御目標値)やトランスファクラッチ61の締結力(締結・解放)を制御する制御信号(例えばデューティ信号)を出力する。
【0056】
ECU81は、上記要求出力に基づいて、例えば、電子制御式スロットルバルブの開度を調節する。また、パワーコントロールユニット(以下「PCU」という)82は、上記トルク指令値に基づいて、インバータ82aを介して、第2モータ・ジェネレータ22、第1モータ・ジェネレータ21を駆動する。ここで、インバータ82aは、高電圧バッテリ70の直流電力を三相交流の電力に変換して第2モータ・ジェネレータ22、第1モータ・ジェネレータ21に供給する。一方、インバータ82aは、回生時などに、第2モータ・ジェネレータ22及び/又は第1モータ・ジェネレータ21で発電した交流電圧を直流電圧に変換して高電圧バッテリ70を充電する。
【0057】
HEV-CU80は、アクチュエータ75(スリーブ37)を駆動するとともに、トランスファクラッチ61を駆動して、モードを、第1モード、第2モード、第3モード、第4モード、第5モードの間で切替えるために、モード切替制御部(以下、単に「切替制御部」という)80aを機能的に有している。HEV-CU80では、ROMなどに記憶されているプログラムがマイクロプロセッサによって実行されることにより、切替制御部80aの機能が実現される。切替制御部80aは、特許請求の範囲に記載の制御手段として機能する。
【0058】
切替制御部80aは、主として要求駆動力や車速など(車両の走行状態)に基づいて、モードの切替え制御を行う。より具体的には、切替制御部80aは、例えば、発進時には、第3モード(AWD EV走行)、第4モード(AWD SHEV走行)を選択し、低・中速走行時には、第3モード(AWD EV走行)、第4モード(AWD SHEV走行)、又は第2モード(AWD(前後独立) PHEV走行)を選択する。なお、第3モード、第4モード、第2モードの選択は、例えば、要求駆動力やSOC、操舵角などに基づいて行われる。また、切替制御部80aは、高負荷走行時(急加速時)などでは、第2モード(AWD(前後独立) PHEV走行)、又は第5モード(AWD PHEV走行)を選択する。さらに、切替制御部80aは、高速走行時などでは、第1モード(FF PHEV走行)を選択する。
【0059】
第1モード(FF PHEV走行モード)を選択するときに、切替制御部80aは、第1スプライン31と第2スプライン32とを接続し、第3スプライン33を解放するとともに、トランスファクラッチ61を解放する。また、エンジン10、第1モータ・ジェネレータ21を稼働(駆動)する一方、第2モータ・ジェネレータ22を停止する。
第2モード(AWD(前後独立) PHEV走行モード)を選択するときに、切替制御部80aは、第1スプライン31と第2スプライン32とを接続し、第3スプライン33を解放するとともに、トランスファクラッチ61を締結する。また、エンジン10、第1モータ・ジェネレータ21を稼働(駆動/回生)するとともに、第2モータ・ジェネレータ22を稼働(駆動/回生)する。
第3モード(AWD EV走行モード)を選択するときに、切替制御部80aは、第2スプライン32と第3スプライン33とを接続し、第1スプライン31を解放するとともに、トランスファクラッチ61を締結する。また、エンジン10、第1モータ・ジェネレータ21を停止する一方、第2モータ・ジェネレータ22を稼働(駆動)する。
第4モード(AWD SHEV走行モード)を選択するときに、切替制御部80aは、第2スプライン32と第3スプライン33とを接続し、第1スプライン31を解放するとともに、トランスファクラッチ61を締結する。また、エンジン10で第1モータ・ジェネレータ21を駆動して発電し、その電力によって第2モータ・ジェネレータ22を駆動する。
第5モード(AWD PHEV走行モード)を選択するときに、切替制御部80aは、第1スプライン31、第2スプライン32、第3スプライン33を接続するとともに、トランスファクラッチ61を締結する。また、エンジン10、第1モータ・ジェネレータ21、第2モータ・ジェネレータ22を稼働(駆動)する。
【0060】
上述したように構成されることにより、
第1モード(FF PHEV走行モード)では、エンジン10、第1モータ・ジェネレータ21によりフロントドライブシャフト40が駆動される。
第2モード(AWD(前後独立) PHEV走行モード)では、エンジン10、第1モータ・ジェネレータ21によりフロントドライブシャフト40が駆動されるとともに、第2モータ・ジェネレータ22によりプロペラシャフト60が駆動される。
第3モード(AWD EV走行モード)では、第2モータ・ジェネレータ22によりフロントドライブシャフト40及びプロペラシャフト60が駆動される。
第4モード(AWD SHEV走行モード)では、エンジン10で第1モータ・ジェネレータ21が駆動されて発電が行われ、その電力を用いて第2モータ・ジェネレータ22が駆動されてフロントドライブシャフト40及びプロペラシャフト60が駆動される。
第5モード(AWD PHEV走行モード)では、エンジン10、第1モータ・ジェネレータ21、第2モータ・ジェネレータ22によりフロントドライブシャフト40及びプロペラシャフト60が駆動される。
【0061】
このように、ハイブリッド車両のパワーユニット1は、AWDでのEV走行機能、SHEV走行機能、PHEV走行機能を発揮する。また、AWDが不要な場合には、FF走行(前輪走行)でのPHEV走行も可能とされている。
【0062】
また、切替制御部80aは、第1モード、第2モードから、第5モード又は第5モードを介して第3モード、第4モードに切替える際に、第2モータ・ジェネレータ22の回転数を、スリーブ37と第3スプライン33とを嵌合可能な回転数に調節し、その後、アクチュエータ75を駆動して、1スプライン31、第2スプライン32と第3スプライン33とが接続されるようにスリーブ37を動かす。同様に、切替制御部80aは、第3モード、第4モードから、第5モード又は第5モードを介して第1モード、第2モードに切替える際に、第1モータ・ジェネレータ21の回転数を、スリーブ37と第1スプライン31とを嵌合可能な回転数に調節し、その後、アクチュエータ75を駆動して、第2スプライン32、第3スプライン33と第1スプライン31とが接続されるようにスリーブ37を動かす。
【0063】
さらに、切替制御部80aは、第1モード、第2モードから、第5モード又は第5モードを介して第3モード、第4モードに切替える際に、第1モータ・ジェネレータ21の出力トルクがゼロとなるようにゼロトルク制御を行うことが好ましい。同様に、第3モード、第4モードから、第5モード又は第5モードを介して第1モード、第2モードに切替える際に、第2モータ・ジェネレータ22の出力トルクがゼロとなるようにゼロトルク制御を行うことが好ましい。
【0064】
なお、切替制御部80aは、第1モード、第2モードから、第5モード又は第5モードを介して第3モード、第4モードに切替える際に、プロペラシャフト60の回転数変動が所定回転数以上であるときには、プロペラシャフト60の回転数変動を抑制するように第2モータ・ジェネレータ22を制御することが好ましい。
【0065】
ここで、第1モード(FF PHEV走行モード)における、ドグクラッチ30、トランスファクラッチ61を介したトルク伝達経路(太線で表示)を
図2に示す。同様に、第2モード(AWD(前後独立) PHEV走行モード)における、ドグクラッチ30、トランスファクラッチ61を介したトルク伝達経路(太線で表示)を
図3に示す。また、第3モード(AWD EV走行モード)における、ドグクラッチ30、トランスファクラッチ61を介したトルク伝達経路(太線で表示)を
図4に示す。さらに、第4モード(AWD SHEV走行モード)における、ドグクラッチ30、トランスファクラッチ61を介したトルク伝達経路(太線で表示)を
図5に示し、第5モード(AWD PHEV走行モード)における、ドグクラッチ30、トランスファクラッチ61を介したトルク伝達経路(太線で表示)を
図6に示す。
【0066】
図2に太線で示されるように、第1モード(FF PHEV走行モード)では、スリーブ37が(中央の位置から)図面左側方向に摺動されて、第1スプライン31と第2スプライン32とが接続され、第3スプライン33が解放される。また、トランスファクラッチ61が解放される。すなわち、エンジン10及び第1モータ・ジェネレータ21が、フロントドライブシャフト40と接続されるとともに、第2モータ・ジェネレータ22及びプロペラシャフト60と切離される。そして、エンジン10、第1モータ・ジェネレータ21が稼働(駆動)されてフロントドライブシャフト40が駆動される一方、第2モータ・ジェネレータ22の稼働が停止される。よって、この第1モードでは、エンジン10と第1モータ・ジェネレータ21とによって前輪が駆動される、FF(前輪駆動)のPHEV走行が行われる。
【0067】
なお、例えば高速走行時などでは、第1モータ・ジェネレータ21の駆動を停止して、エンジン10のみによる走行を行うこともできる。なお、このモードの場合、第2モータ・ジェネレータ22が切離されるため、第2モータ・ジェネレータ22のゼロトルク制御に伴う電気ロスや連れ回りによるフリクションロスが低減される。また、その際に、油圧クラッチを用いることなく第2モータ・ジェネレータ22が切離されるため、クラッチの引きずりロスが発生しない。
【0068】
第2モード(AWD(前後独立) PHEV走行モード)では、
図3に太線で示されるように、スリーブ37が(中央の位置から)図面左側方向に摺動されて、第1スプライン31と第2スプライン32とが接続され、第3スプライン33が解放される。また、トランスファクラッチ61が締結される。すなわち、エンジン10及び第1モータ・ジェネレータ21が、フロントドライブシャフト40と接続されるとともに、第2モータ・ジェネレータ22及びプロペラシャフト60と切離される。一方、第2モータ・ジェネレータ22は、プロペラシャフト60と接続されている。そして、エンジン10、第1モータ・ジェネレータ21、第2モータ・ジェネレータ22が稼働される。よって、この第2モードでは、エンジン10と第1モータ・ジェネレータ21によって前輪が駆動されるとともに、第2モータ・ジェネレータ22によって後輪が駆動される、AWD(前後独立)のPHEV走行が行われる。
【0069】
なお、このモードの場合、前輪の回生エネルギは第1モータ・ジェネレータ21で回生し、後輪の回生エネルギは第2モータ・ジェネレータ22で回生することができる。よって、トランスファクラッチ61の差回転を発生させることなく、回生することができる。また、このモードでは、前後独立とされているのでタイトコーナブレーキング現象が発生しない。そのため、タイトコーナブレーキング現象による振動発生や操縦性における失速感、抵抗感の発生を解消することができる。また、従来のトランスファクラッチ制御では旋回時のタイトコーナブレーキング現象を抑制するために、舵角が大きい場合は後輪側(リヤ側)への駆動力配分を下げているため、リヤ挙動が不安定になる傾向があるが、このモードでは、後輪側への駆動力配分を下げる必要がないため、旋回時の挙動安定性(旋回性能)が向上する。さらに、このモードでは、前後独立で制御することにより、前後輪の回転差が解消され、内部循環トルクの発生が防止される。なお、第2モードでは、エンジン出力の一部を用いて第1モータ・ジェネレータ21で発電しつつ、エンジン出力の残りと第2モータ・ジェネレータ22の駆動力とにより車両を駆動することもできる。
【0070】
第3モード(AWD EV走行モード)では、
図4に太線で示されるように、スリーブ37が(中央の位置から)図面右側方向に摺動され、第2スプライン32と第3スプライン33とが接続され、第1スプライン31が解放される。また、トランスファクラッチ61が締結される。すなわち、エンジン10及び第1モータ・ジェネレータ21が、フロントドライブシャフト40から切離されるとともに、第2モータ・ジェネレータ22が、プロペラシャフト60及びフロントドライブシャフト40と接続される。そして、エンジン10、第1モータ・ジェネレータ21の稼働が停止され、第2モータ・ジェネレータ22が稼働(駆動)される。よって、この第3モードでは、第2モータ・ジェネレータ22によって前輪及び後輪が駆動される、AWDのEV走行が行われる。
【0071】
第4モード(AWD SHEV走行モード)では、
図5に太線で示されるように、スリーブ37が(中央の位置から)図面右側方向に摺動され、第2スプライン32と第3スプライン33とが接続され、第1スプライン31が解放される。また、トランスファクラッチ61が締結される。すなわち、エンジン10及び第1モータ・ジェネレータ21が、フロントドライブシャフト40から切離されるとともに、第2モータ・ジェネレータ22が、プロペラシャフト60及びフロントドライブシャフト40と接続される。そして、エンジン10及び第2モータ・ジェネレータ22が稼働(駆動)される。よって、この第4モードでは、エンジン10の出力で第1モータ・ジェネレータ21が駆動されて発電が行われ、そこで生じた電力が第2モータ・ジェネレータ22に供給される。そして、第2モータ・ジェネレータ22によって前輪及び後輪が駆動される、AWDのSHEV走行が行われる。
【0072】
第5モード(AWD PHEV走行モード)では、
図6に太線で示されるように、スリーブ37が中央の位置に摺動され、第1スプライン31、第2スプライン32、第3スプライン33が接続される。また、トランスファクラッチ61が締結される。すなわち、エンジン10、第1モータ・ジェネレータ21、第2モータ・ジェネレータ22が、フロントドライブシャフト40及びプロペラシャフト60と接続される。そして、エンジン10、第1モータ・ジェネレータ21、第2モータ・ジェネレータ22が稼働(駆動)される。よって、この第5モードでは、エンジン10、第1モータ・ジェネレータ21、第2モータ・ジェネレータ22によって前輪及び後輪が駆動される、AWDのPHEV走行が行われる。なお、このモードの場合、油圧クラッチを用いることなく3つの要素を締結しているため、油圧によるロスが発生しない。また、この場合、エンジン10、第1モータ・ジェネレータ21、第2モータ・ジェネレータ22をすべて用いて車両を駆動できるため、力強い走行ができる。なお、エンジン出力の一部を用いて第1モータ・ジェネレータ21で発電しつつ、エンジン出力の残りと第2モータ・ジェネレータ22の駆動力とにより車両を駆動してもよい。
【0073】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によれば、車両の走行状態に基づいて、
第1スプライン31と第2スプライン32とが接続され、第3スプライン33が解放され、トランスファクラッチ61が解放されるとともに、エンジン10、第1モータ・ジェネレータ21が稼働されて前輪車軸40が駆動される一方、第2モータ・ジェネレータ22が停止される第1モード(FF PHEV走行モード)と、
第2スプライン32と第3スプライン33とが接続され、第3スプライン31が解放され、トランスファクラッチ61が締結されるとともに、エンジン10、第1モータ・ジェネレータ21が稼働されて前輪車軸40が駆動され、第2モータ・ジェネレータ22が稼働されて後輪車軸60が駆動される第2モード(AWD(前後独立) PHEV走行モード)と、
第2スプライン32と第3スプライン33とが接続され、第1スプライン31が解放され、トランスファクラッチ61が締結されるとともに、エンジン10、第1モータ・ジェネレータ21が停止され、第2モータ・ジェネレータ22が稼働されて前輪車軸40及び後輪車軸60が駆動される第3モード(AWD EV走行モード)と、
第2スプライン32と第3スプライン33とが接続され、第1スプライン31が解放され、トランスファクラッチ61が締結されるとともに、エンジン10の出力で第1モータ・ジェネレータ21が駆動されて発電され、その電力によって第2モータ・ジェネレータ22が駆動されて前輪車軸40及び後輪車軸60が駆動される第4モード(AWD SHEV走行モード)と、
第1スプライン31、第2スプライン32、第3スプライン33が接続され、トランスファクラッチ61が締結されるとともに、エンジン10、第1モータ・ジェネレータ21、第2モータ・ジェネレータ22が稼働されて前輪車軸40及び後輪車軸60が駆動される第5モード(AWD PHEV走行モード)と、が切替えられる。
【0074】
そのため、AWDでのEV走行(第3モード)、SHEV走行(第4モード)、PHEV走行(第2、第5モード)が可能となる。また、第2モータ・ジェネレータ22による駆動力が不要な場合に、第1モード又は第2モードに切替えて、前輪車軸40と後輪車軸60とを切離すこと、すなわち第2モータ・ジェネレータ22を切離すことにより、第2モータ・ジェネレータ22に起因するロスを低減することができる。さらに、第2モードに切替えることにより前輪車軸40と後輪車軸60とが切離されるため、AWDでのタイトコーナブレーキング現象、及び、内部循環トルクによるロスを解消することができる。さらに、この構成によれば、第1スプライン31、第2スプライン32、第3スプライン33、及びスリーブ37を有して構成されるドグクラッチ30の締結/解放とトランスファクラッチ61の締結/解放の組み合わせによって上記5つのモードを切替えて実現すことができる。なお、AWD車であればトランスファクラッチを元々備えている。その結果、シンプルかつ低コストに、AWDでのSHEV走行モード、PHEV走行モード、EV走行モードを切替えることができ、第2モータ・ジェネレータ22を車両の駆動に利用しないときに、当該第2モータ・ジェネレータ22に起因するロスを低減することができ、かつ、AWDに起因するタイトコーナブレーキング現象や内部循環トルクによるロスを解消することが可能となる。
【0075】
本実施形態によれば、第1モード、第2モードから、第5モード又は第5モードを介して第3モード、第4モードに切替えられる際に、第2モータ・ジェネレータ22の回転数が、スリーブ37と第3スプライン33とを嵌合可能な回転数に調節され、その後、アクチュエータ75が駆動されて、1スプライン31、第2スプライン32と第3スプライン33とが接続されるようにスリーブ37が動かされる。すなわち、第1,第2スプライン31,32(前輪車軸40)と第3スプライン33(後輪車軸60)との回転数合わせが行われた後(すなわち回転偏差が低減された後)、第1,第2スプライン31,32と第3スプライン33とが接続される。同様に、第3モード、第4モードから、第5モード又は第5モードを介して第1モード、第2モードに切替えられる際に、第1モータ・ジェネレータ21の回転数が、スリーブ37と第1スプライン31とを嵌合可能な回転数に調節され、その後、アクチュエータ75が駆動されて、第2スプライン32、第3スプライン33と第1スプライン31とが接続されるようにスリーブ37が動かされる。すなわち、第2,第3スプライン32,33(前輪車軸40、後輪車軸60)と第1スプライン31(エンジン10、第1モータ・ジェネレータ21)との回転数合わせが行われた後(すなわち回転偏差が低減された後)、第2,第3スプライン32,33と第1スプライン31とが接続される。よって、ショックを抑制しつつよりスムーズにモードを切替えることが可能となる。
【0076】
本実施形態によれば、第1モード、第2モードから、第5モード又は第5モードを介して第3モード、第4モードに切替えられる際に、第1モータ・ジェネレータ21の出力トルクがゼロとなるようにゼロトルク制御が行われ、第3モード、第4モードから、第5モード又は第5モードを介して第1モード、第2モードに切替える際に、第2モータ・ジェネレータ22の出力トルクがゼロとなるようにゼロトルク制御が行われる。その結果、モードが切替えられる際に、スリーブ37が抜かれる側のスプラインに付与される駆動トルクが低減されるため、モードの切替えをよりスムーズに行うことが可能となる。
【0077】
本実施形態によれば、第1モード、第2モードから、第5モード又は第5モードを介して第3モード、第4モードに切替えられる際に、後輪車軸60の回転数変動が所定回転数以上であるときには、後輪車軸60の回転数変動を抑制するように第2モータ・ジェネレータ22が制御される。そのため、モードが切替えられる際に、ドグクラッチを構成する各要素が異なった回転数で接触・嵌合されることを防止することが可能となる。
【0078】
本実施形態によれば、第1スプライン31、第2スプライン32、第3スプライン33及びスリーブ37が同軸上に配設されており、スリーブ37が、第1スプライン31、第2スプライン32、第3スプライン33の外周上を、軸方向に摺動自在に構成されている。すなわち、スリーブ37に形成されたスプライン37aと、第1スプライン31、第2スプライン32、第3スプライン33とによりドグクラッチ30が構成され、スリーブ37を軸方向に動かすことにより、ドグクラッチ30の締結・解放状態(すなわち、スリーブ37形成されたスプライン37aと、第1スプライン31、第2スプライン32、第3スプライン33との嵌合状態)を切替えることが可能となる。
【0079】
本実施形態によれば、第1スプライン31、第2スプライン32、第3スプライン33それぞれが、互いに相対回転可能な外スプラインであり、スリーブ37が、第1スプライン31、第2スプライン32、第3スプライン33に外嵌可能な円筒状に形成され、その内周面に軸方向に延びる内スプライン37aが形成されている。そのため、円筒状のスリーブ37に形成された内スプライン37aと、外スプラインからなる第1スプライン31、第2スプライン32、第3スプライン33とによって(すなわち比較的シンプル構成によって)ドグクラッチ30を構成することができる。
【0080】
本実施形態によれば、第2モータ・ジェネレータ22から前輪車軸40/後輪車軸60(駆動輪)へ伝達されるトルクの伝達経路の総ギヤ比が、エンジン19から前輪車軸40/後輪車軸60(駆動輪)へ伝達されるトルクの伝達経路の総ギヤ比よりもローギヤに設定されている。そのため、エンジン10及び第2モータ・ジェネレータ22それぞれを効率よく運転することができる。
【0081】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、複数のギヤやシャフトから構成される駆動系の構成は、上記実施形態には限られない。例えば、プラネタリギヤ25に代えて、ヘリカルギヤなどを用いることもできる。
【0082】
上記実施形態では、スリーブ37を動かすアクチュエータ75として電動式のアクチュエータを用いたが、電動式のものに代えて、例えば油圧式のアクチュエータを用いてもよい。また、アクチュエータ75(スリーブ37)の駆動制御を、HEV-CU80ではなく、他のECUで行う構成としてもよい。
【0083】
また、第1スプライン31と第2スプライン32との間に、第1スプライン31とスリーブ37との回転を同期させるシンクロ機構を設けてもよい。同様に、第3スプライン33と第2スプライン32との間に、第3スプライン33とスリーブ37との回転を同期させるシンクロ機構を設けてもよい。
【符号の説明】
【0084】
1 ハイブリッド車両のパワーユニット
10 エンジン
21 第1モータ・ジェネレータ
22 第2モータ・ジェネレータ
30 ドグクラッチ
31 第1スプライン
32 第2スプライン
33 第3スプライン
37 スリーブ
37a スプライン
39 シフトフォーク
40 フロントドライブシャフト(前輪車軸)
60 プロペラシャフト(後輪車軸)
61 トランスファクラッチ
70 高電圧バッテリ
71 DC-DCコンバータ
72 低電圧バッテリ
75 アクチュエータ
80 HEV-CU
80a 切替制御部
81 ECU
82 PCU
85 VDCU
91 アクセルペダルセンサ
92 スロットル開度センサ
93 Gセンサ(加速度センサ)
94 車速センサ(車輪速センサ)
95,99 回転数センサ
100 CAN