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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】ダイポールアンテナ
(51)【国際特許分類】
   H01Q 9/28 20060101AFI20220107BHJP
【FI】
H01Q9/28
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017205493
(22)【出願日】2017-10-24
(65)【公開番号】P2019080161
(43)【公開日】2019-05-23
【審査請求日】2020-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000226932
【氏名又は名称】日星電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山下 拓也
【審査官】鈴木 肇
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-114797(JP,A)
【文献】特開2006-254081(JP,A)
【文献】特開2011-250246(JP,A)
【文献】特開2016-171482(JP,A)
【文献】特開2013-128248(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0187820(US,A1)
【文献】特開2006-157845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 5/00-11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリント回路基板上に設けられ、該プリント回路基板の長手方向に沿って隣り合うよう形成された平面状かつ多角形状の第1素子と平面状かつ多角形状の第2素子を有するダイポールアンテナにおいて、
該第1素子と該第2素子とが隣り合う領域において、該第1素子と該第2素子とが近接して対向する領域が形成され、
該第1素子と該第2素子が対向する領域には、該第1素子の本体部から該第2素子の本体部に向かって延出する延出部が形成されることで、該第1素子の本体部と該第2素子の本体部とがなす間隙と、該間隙の距離よりも短い距離となっている該延出部の先端部と該第2素子の本体部とがなす間隙とが存在し、
該第1素子が有する辺の長さの和である第1の周長と、該第2素子が有する辺の長さの和である第2の周長とが異なっているとともに、該第1の周長と該第2の周長の平均値は、該ダイポールアンテナが対応する周波数帯域のうち、低周波側の周波数帯域に属する帯域の周波数信号の波長に略等しいことを特徴とする、ダイポールアンテナ。
【請求項2】
該第2素子の本体部から該第1素子の本体部に向かって延出する延出部も形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のアンテナ。
【請求項3】
該第1素子に形成された延出部の側辺が、該第2素子に形成された延出部の側辺に対向していることを特徴とする、請求項2に記載のダイポールアンテナ。
【請求項4】
該第2素子に形成された延出部が、該第2素子中に設けられた給電素子であることを特徴とする、請求項2または3に記載のダイポールアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信によって電子機器間で情報を送受信する電子機器に使用されるアンテナであって、特に複数の周波数帯域で動作するダイポールアンテナに関するものである。
【0002】
ビーコンや無線通信機能を有するデータロガーなど、無線通信によって電子機器間で情報を送受信する電子機器が公知である。このような電子機器は、例えば、温度、湿度、姿勢などを検出する各種センサ、Bluetooth(登録商標)規格等に準拠する無線通信回路などを備え、時には、無線通信を利用して電子機器の位置を特定するといった使い方もなされる。
加えて、近年はIoT(Internet of Things)やIoE(Internet of Everything)といった考え方が注目を集めており、上記のような無線通信機能を有する電子機器の需要が高まりつつある。
【0003】
上記のような無線通信機能を有する電子機器に対する要求としては、安定した通信特性に加え、小型化、薄型化、軽量化などが存在し、これらの要求は電子機器に使用されるアンテナにも存在する。
【0004】
このようなアンテナの小型化、薄型化に寄与する従来技術の一例として、プリント回路基板にプリント配線パターンでアンテナを構成する技術が存在する。(例えば特許文献1を参照)。当該従来技術によれば、無線通信の電波を送受信するアンテナをプリント回路基板にプリント配線パターンで構成することによって、無線通信機能を有する小型の電子機器のさらなる小型化、薄型化が可能になる。
【0005】
加えて、1つのアンテナで無線LAN、無線WAN、WiMAX(登録商標)、LTEなどに代表される種々の無線通信システムに対応したいという要求も存在するため、これに対応して種々の多周波アンテナが提案されている。
【0006】
一般的にアンテナを多周波に対応させるには、アンテナ内に所望する周波数帯域に対応するアンテナ素子を設けることで多周波に対応させるが、アンテナ素子の追加はアンテナの大型化に繋がるため、小型化の要求に相反することになる。
【0007】
ダイポールアンテナを多周波に対応させるには、特許文献1、2に記載に記載されたように、アンテナ素子を分岐させることで複数の周波数に対応させる設計がとられているが、アンテナの大型化に繋がってしまい、小型化の要求に十分に応えられない場合も存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-44207号公報
【文献】特開2011-10017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、アンテナの大型化を最小限に抑えつつ、複数の周波数帯域に対応するダイポールアンテナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、アンテナの大きさと特性に留意しつつ、アンテナ素子の配置方法を鋭意検討した結果、2つのアンテナ素子を有するダイポールアンテナにおいて、対向する2つのアンテナ素子間の間隙を変化させることで、アンテナを大型化することなく、複数の周波数帯域に対応するダイポールアンテナを実現した。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアンテナでは、以下の効果が期待できる。

・アンテナ素子の面積の増加を最小限に抑えつつ、アンテナの多周波化が可能であるためアンテナの小型化に寄与する。

・以上の効果の結果として、各種の電子機器に対して幅広く、好適に採用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の基本的構造である。
図2】本発明の基本的構造の変形例である。
図3】本発明の基本的構造の他の変形例である。
図4】本発明において、延出部の側辺を第2素子に対向させた場合の一例である。
図5】本発明において、延出部の側辺を第2素子に対向させた場合の他の例である。
図6】実施例のアンテナのVSWRである。
図7】比較例のアンテナのVSWRである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図1を参照しながら、本発明について説明する。
【0014】
図1において、1は第1素子、2は第2素子、E11は第1素子の第1部分、E12は第1素子の第2部分、E2は第2素子の1辺、Pは給電点である。
本発明において特徴的なことは、第1素子1は、視覚的に区別可能な第1部分E11、第2部分E12を少なくとも有し、この第1部分E11、第2部分E12は第2素子2の辺E2に対向しているとともに、第2部分E12と辺E2とがなす間隙の距離に、第1部分E11と辺E2とがなす間隙の距離と異なる部分が存在することである。
【0015】
このような、互いに対向する第1素子1と第2素子2との間の距離が場所によって変化する構成を採用することで、ダイポールアンテナが対応する周波数帯域を増やすことができ、アンテナの多周波化に寄与する。
【0016】
アンテナに給電した周波数の電流に加えて、その周波数の3倍の周波数を有する電流、いわゆる第3高調波がアンテナ内に発生する現象が知られている。本発明はこの第3高調波を利用して、アンテナの多周波化を行う。
【0017】
本発明は、図1に示したように、第1部分E11と辺E2とがなす間隙の距離と、第2部分E12と辺E2とがなす間隙の距離を変化させることで、第1素子1と第2素子2間で発生する容量結合の状態が変化する。容量結合の状態を変化させることで、アンテナ内に発生する第3高調波の発生状態が変化する。すなわち、本発明は、アンテナ内に発生する第3高調波を意識的に制御し、第3高調波を所望する周波数帯域に調整することで、アンテナが対応する周波数帯域を増やすことができる。
【0018】
本発明は、第2部分E12と辺E2とがなす間隙の距離が、第1部分E11と辺E2とがなす間隙の距離と異なる部分が存在するよう構成するために、アンテナ素子の形状を変更する必要があるが、所望する周波数帯域に対応するアンテナ素子を追加するまでの変更には至らないため、アンテナ素子の面積の増加を最小限に抑えつつ、アンテナの多周波化が可能である。結果として、アンテナの小型化に寄与する。
【0019】
第1部分E11と辺E2とがなす間隙の距離と、第2部分E12と辺E2とがなす間隙の距離を変化させた構成として、基本的な構成は図1である。図1では第1素子1の本体部1Aから延出部1Bを延出させ、その先端部を第2素子2の辺E2に対向させた場合である。すなわち、延出部1Bの先端部を第2部分E12とした場合である。
【0020】
図1の構成は、第2部分E12と辺E2が特に近接して対向しているため、対向部に強い容量結合が発生する。この容量結合を利用することで、所望する周波数帯域への第3高調波の調整が行える。
【0021】
図1を変形させた態様として図2が挙げられる。図2の態様は、第2部分E12から第1部分E11にかけて、傾斜した辺を有する延出部1Bを設けたものである。
延出部1Bの傾斜した辺の部分においては、第1素子1と第2素子2とが対向してなす間隙の距離が連続的に変化するため、この部分において容量結合の変化が発生し、この容量結合の変化を利用することで、所望する周波数帯域への第3高調波の調整が行える。
【0022】
図1を変形させた他の態様として図3が挙げられる。図2の態様は、第1素子1の本体部1Aから延出部1Bを延出させ、その先端部を第2素子2の辺E2に対向させると共に、第2素子2にも延出部2Bを設けて第1部分E11に対向させた場合である。
第2部分E12と辺E2が近接して対向する部分、第1部分E11と辺E2が対向する部分、第1部分E11と第2素子2の延出部2Bが対向する部分と、第1素子1と第2素子2が対向する間隙の距離が変化する3種の領域が存在し、これらの領域で変化する容量結合を利用することで、所望する周波数帯域への第3高調波の調整が行える。
【0023】
本発明において給電点Pは、アンテナが意図した特性で動作するよう、適宜位置を調整してアンテナ中に設けられる。
【0024】
本発明において給電点Pは、給電用同軸ケーブルの内部導体と外部導体を、第1素子1、第2素子2にそれぞれハンダ付で固定する、給電用回路を接続するといった形で設けられる。
給電用同軸ケーブルとしては、周知のフッ素樹脂被覆等の高周波同軸ケーブルが好適に利用できる。
【0025】
本発明においては、延出部1Bの側辺も第2素子2に対向するよう、本体部1Aから延出するよう構成するのが好ましい。
この構成を採用することで、延出部1Bの側辺と第2素子2との間でも容量結合が発生し、所望する周波数帯域への第3高調波の調整がより精度よく行える。
【0026】
延出部1Bの側辺を第2素子2に対向させた態様の一例として、図4を示す。図4では、延出部1Bの先端部と側辺が共に第2素子2に対向するよう、第2素子2から延出する素子を設け、その先端部に給電点Pを設けて給電素子2Cとしている。すなわち、第2部分E12を辺E2、延出部1Bの側辺を第2素子2中の給電素子2Cに、それぞれ対向させている。
【0027】
第1素子1、第2素子2の具体的形状は、第1部分E11と第2部分E12が第2素子2の辺E2に対向し、第2部分E12と辺E2とがなす間隙の距離に、第1部分E11と辺E2とがなす間隙の距離と異なる部分が存在する限り、特定の形状に制限されず、所望するアンテナの特性に合わせて適宜変形して良く、例えば、図5に示したような、第1素子1の先端が先細り形状となっている形状などを使用することができる。
【0028】
第2部分E12を辺E2に対向させる関係から、第1素子1は辺E2側が幅広になっている形状が好ましく、例えば、図5に示したような形状のものが特に好ましく使用できる。
【0029】
加えて本発明においては、第2部分E12と辺E2とがなす間隙の距離に、第1部分E11と辺E2とがなす間隙の距離と異なる部分が存在するよう構成する関係から、第1素子1が有する辺の長さの和である第1の周長と、第2素子2が有する辺の長さの和である第2の周長とが異なる構成となることが多い。
第1周長と第2周長とが異なる場合は、第1の周長と第2の周長の平均値を、アンテナが対応する周波数帯域のうち、低周波側の周波数帯域に属する帯域の周波数信号の波長に略等しくするよう、アンテナを構成するのが好ましい。
【0030】
このようにアンテナを構成することで、低周波側の通信特性が充分に確保され、これに付随して高周波側の通信特性も安定して得られる。
【実施例
【0031】
本発明のアンテナの実施例の1つとして、図5に示したアンテナについて述べる。
【0032】
1.アンテナの仕様

2.5GHz帯域と、5GHz帯域に対応する、2周波対応ダイポールアンテナを作製する。
【0033】
2.アンテナの構成

幅14mm×長さ46mm×厚さ0.5mmのガラスエポキシ基板に、銅箔によって図1に示した導電パターンを形成する。
【0034】
3.第1素子の構成

第1素子1は本体部1Aと延出部1Bとで構成し、延出部1Bの先端部を第2部分E12として、第1部分E11と視覚的に区別した。各部の寸法、形状は以下の通りである。この寸法、形状の場合、第1の周長は約57.8mmとなる。

本体部1A:幅12mm×長さ5mmの長方形と、上底3.2mm、下底12mm、高さ11mmの台形を組み合わせた六角形状。

延出部1B:幅4mm×長さ4.5mmの矩形状で、本体部1Aの幅方向上部から延出。
【0035】
4.第2素子の構成

第2素子2は本体部2Aと給電素子2Cとで構成される。各部の寸法、形状は以下の通りである。この寸法、形状の場合、第2の周長は78mmとなる。

本体部2A:幅12mm×長さ21mmの矩形状

給電素子2C:幅2mm×長さ6mmの矩形状で、本体部2Aの幅方向中心から延出。
【0036】
5.第1素子と第2素子の位置関係

給電素子2Cの先端部の辺と、第1部分E11との間隔を1mmに設定した。この結果、第2部分E12と辺E2との間隔は2.5mm、第1部分E11と辺E2との間隔は7mmとなり、第1部分E11と第2素子2の辺E2とがなす間隙の距離と、第2部分E12と第2素子2の辺E2とがなす間隙の距離と異なる部分が存在することになる。
【0037】
また、延出部1Bの側辺と、給電素子2Cの側辺との間隔は1mmに設定した。
【0038】
6.アンテナの組み立て

先端部が段剥ぎされ、反対側には接続する電子機器に対応する周知の同軸ケーブル用コネクタが設けられた給電用同軸ケーブルを用意し、外部導体を給電素子2C、内部導体を第1素子1の給電素子2Cに対向する部分に、それぞれ半田付けしアンテナを完成させた。
【0039】
使用した給電用同軸ケーブルの仕様は以下の通りである。

・内部導体の外径:0.15mm
・フッ素樹脂(PFA)製絶縁体の外径:0.4mm
・外部導体の外径:0.65mm
・フッ素樹脂(PFA)製外被の外径0.8mm
【0040】
7.比較例

比較例として実施例のアンテナから、延出部1Bを削除することで第1素子1の辺E1から第2部分E12を無くし、第1素子1の辺E1と第2素子2の辺E2との距離が一定のダイポールアンテナを作製した。
【0041】
8.アンテナの特性

図6は実施例のアンテナのVSWR、図7は比較例のアンテナのVSWRである。VSWRのピーク(値が小さい領域)がアンテナが対応する周波数帯域である。
比較例のアンテナは2.2~2.5GHz付近と、この周波数を有する電流の第3高調波に由来する5.4~6.3GHz付近にVSWRのピークが観察され、2.5GHz帯域では充分な通信特性を有するが、5GHz帯域での通信特性は不充分なアンテナとなった。
【0042】
実施例のアンテナは2.2~2.5GHz付近と、この周波数を有する電流の第3高調波に由来する4.3~5.7GHz付近にVSWRのピークが観察され、2.5GHz帯域、5GHz帯域でともに充分な通信特性を有する2周波対応アンテナとなった。
比較例のアンテナと比べると、第3高調波によるピークが低周波側に移動し、第1部分E11と第2素子2の辺E2とがなす間隙の距離と、第2部分E12と第2素子2の辺E2とがなす間隙の距離と異なる部分が存在することによる、第3高調波の変動効果が得られていることが確認できる。
【0043】
実施例のアンテナの第1周長と第2周長の和の平均値は67.9mmであり、この波長を有する高周波信号の周波数は約2.2GHzである。この周波数は実施例のアンテナが対応する周波数帯域に属する。
【0044】
以上、2.5GHz帯域と5GHz帯域に対応するアンテナについて説明したが、これは本発明の一例に過ぎず、本発明の思想の範囲内であれば、他の帯域に対応するアンテナにも適用できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のアンテナは、ビーコンや無線通信機能を有するデータロガーなど、無線通信によって電子機器間で情報を送受信する電子機器や、ノートパソコン、スマートフォン、タブレット端末に代表される、無線通信機能を有する小型携帯機器、通信機能を有した情報家電、更には自動車関連機器へも好適に利用できる。
【符号の説明】
【0046】
1 第1素子
1A 本体部
1B 延出部
E11 第1素子の第1部分
E12 第1素子の第2部分
2 第2素子
2A 本体部
2B 延出部
2C 給電素子
E2 第2素子の1辺
P 給電点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7