(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】透明導電性フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 7/025 20190101AFI20220107BHJP
B32B 27/38 20060101ALI20220107BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
B32B7/025
B32B27/38
C23C14/08 D
(21)【出願番号】P 2017205567
(22)【出願日】2017-10-24
【審査請求日】2020-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】松本 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】加藤 久登
(72)【発明者】
【氏名】岩松 祥平
(72)【発明者】
【氏名】安藤 豪彦
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-305791(JP,A)
【文献】特開2005-014572(JP,A)
【文献】特開2005-116515(JP,A)
【文献】特開2007-042283(JP,A)
【文献】特開2014-168938(JP,A)
【文献】特開2010-177015(JP,A)
【文献】国際公開第2013/011872(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C23C 14/08
H01B 5/00- 5/16;13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂基材と、光学調整層と、透明導電層とをこの順に備え、
前記光学調整層の、JIS Z 2255における硬さが、0.5GPa以上であり、
当該光学調整層の厚みが1nm以上200nm以下であり、
前記透明導電層の表面粗さRaが、40nm以下であることを特徴とする、透明導電性フィルム。
【請求項2】
前記透明導電層の表面粗さRaが、10nm以上であることを特徴とする、請求項1に記載の透明導電性フィルム。
【請求項3】
前記光学調整層の厚みが、10nm以上100nm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の透明導電性フィルム。
【請求項4】
前記光学調整層が、重量平均分子量が1500以上であるエポキシ樹脂を含有する樹脂組成物から形成されていることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の透明導電性フィルム。
【請求項5】
直径16mmのマンドレルに沿って前記透明導電性フィルムを180度に屈曲した際に、前記透明導電層にクラックが発生しないことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の透明導電性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電性フィルム、詳しくは、光学用途に好適に用いられる透明導電性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インジウムスズ複合酸化物(ITO)などからなる透明導電層が形成された透明導電性フィルムが、タッチパネルなどの光学用途に用いられる。
【0003】
例えば、透明樹脂フィルムと透明導電膜とを有し、これらの間に光学調整層を有する透明導電性フィルムが開示されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の透明導電性フィルムでは、透明導電膜が所定のパターンにエッチングされた際に、光学調整層によって、パターンと非パターンとの反射率差を小さく抑え、見栄えを良好にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、タッチパネルの多用途化に伴い、高温高湿環境下での使用において、透明導電性フィルムの性能が低下しにくい湿熱耐久性が求められている。具体的には、85℃85%RHの環境下に長時間放置しても、クラック(フィルム表面の割れ)が発生しないことが求められる。
【0006】
そこで、特許文献1の透明導電性フィルムにおいて、光学調整層を硬くすることにより、湿熱耐久性を向上することが検討される。
【0007】
しかし、光学調整層を硬くすると、脆くなり易い。そのため、製造時や使用時に透明導電性フィルムを折り曲げると、クラックが生じてしまい、屈曲性が劣る不具合が発生する。
【0008】
本発明は、湿熱耐久性および耐屈曲性が良好である透明導電性フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明[1]は、透明樹脂基材と、光学調整層と、透明導電層とをこの順に備え、前記光学調整層の、JIS Z 2255における硬さが、0.5GPa以上であり、前記透明導電層の表面粗さRaが、40nm以下である透明導電性フィルムを含んでいる。
【0010】
本発明[2]は、前記透明導電層の表面粗さRaが、10nm以上である、[1]に記載の透明導電性フィルムを含んでいる。
【0011】
本発明[3]は、前記光学調整層の厚みが、10nm以上100nm以下である、[1]または[2]に記載の透明導電性フィルムを含んでいる。
【0012】
本発明[4]は、前記光学調整層が、重量平均分子量が1500以上であるエポキシ樹脂を含有する樹脂組成物から形成されている、[1]~[3]のいずれか一項に記載の透明導電性フィルムを含んでいる。
【0013】
本発明[5]は、直径16mmのマンドレルに沿って前記透明導電性フィルムを180度に屈曲した際に、前記透明導電層にクラックが発生しない、[1]~[4]のいずれか一項に記載の透明導電性フィルムを含んでいる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の透明導電性フィルムによれば、透明樹脂基材と、光学調整層と、透明導電層とをこの順に備えており、光学調整層の硬さが、0.5GPa以上であるため、湿熱耐久性に優れる。また、透明導電層の表面粗さRaが、40nm以下であるため、耐屈曲性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の透明導電性フィルムの一実施形態の断面図を示す。
【
図2】
図2は、
図1に示す透明導電性フィルムがパターニングされている態様の断面図を示す。
【
図3】
図3は、透明導電性フィルムに対して、湿熱耐久性試験を実施する際の模式図を示す。
【
図4】
図4は、透明導電性フィルムに対して、耐屈曲性試験を実施する際の模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1を参照して、本発明の透明導電性フィルムの一実施形態を説明する。
【0017】
図1において、紙面上下方向は、上下方向(厚み方向、第1方向)であって、紙面上側が、上側(厚み方向一方側、第1方向一方側)、紙面下側が、下側(厚み方向他方側、第1方向他方側)である。また、紙面左右方向および奥行き方向は、上下方向に直交する面方向である。具体的には、各図の方向矢印に準拠する。
【0018】
1.透明導電性フィルム
透明導電性フィルム1は、所定の厚みを有するフィルム形状(シート形状を含む)を有し、厚み方向と直交する所定方向(面方向)に延び、平坦な上面および平坦な下面を有する。透明導電性フィルム1は、例えば、画像表示装置に備えられるタッチパネル用基材などの一部品であり、つまり、画像表示装置ではない。すなわち、透明導電性フィルム1は、画像表示装置などを作製するための部品であり、LCDモジュールなどの画像表示素子を含まず、後述するハードコート層2と透明樹脂基材3と光学調整層4と透明導電層5とを含み、部品単独で流通し、産業上利用可能なデバイスである。
【0019】
具体的には、
図1に示すように、透明導電性フィルム1は、ハードコート層2と、透明樹脂基材3と、光学調整層4と、透明導電層5とをこの順に備える。より具体的には、透明導電性フィルム1は、透明樹脂基材3と、透明樹脂基材3の下面(厚み方向他方面)に配置されるハードコート層2と、透明樹脂基材3の上面(厚み方向一方面)に配置される光学調整層4と、光学調整層4の上面に配置される透明導電層5とを備える。透明導電性フィルム1は、好ましくは、ハードコート層2と、透明樹脂基材3と、光学調整層4と、透明導電層5とからなる。
【0020】
2.ハードコート層
ハードコート層(硬化樹脂層)2は、複数の透明導電性フィルム1を積層した場合などに、透明導電性フィルム1の表面(すなわち、透明導電層5の上面)に擦り傷を生じにくくするための擦傷保護層である。また、透明導電性フィルム1に耐ブロッキング性を付与するためのアンチブロッキング層とすることもできる。
【0021】
ハードコート層2は、透明導電性フィルム1の最下層であって、フィルム形状を有している。ハードコート層2は、透明樹脂基材3の下面全面に、透明樹脂基材3の下面と接触するように、配置されている。
【0022】
ハードコート層2は、例えば、ハードコート組成物から形成される。ハードコート組成物は、樹脂を含有する。
【0023】
樹脂としては、例えば、硬化性樹脂、熱可塑性樹脂(例えば、ポリオレフィン樹脂)などが挙げられ、好ましくは、硬化性樹脂が挙げられる。
【0024】
硬化性樹脂としては、例えば、活性エネルギー線(具体的には、紫外線、電子線など)の照射により硬化する活性エネルギー線硬化性樹脂、例えば、加熱により硬化する熱硬化性樹脂などが挙げられ、好ましくは、活性エネルギー線硬化性樹脂が挙げられる。
【0025】
活性エネルギー線硬化性樹脂は、例えば、分子中に重合性炭素-炭素二重結合を有する官能基を有するポリマーが挙げられる。そのような官能基としては、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基(メタクリロイル基および/またはアクリロイル基)などが挙げられる。
【0026】
活性エネルギー線硬化性樹脂としては、具体的には、例えば、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレートなどの(メタ)アクリル系紫外線硬化性樹脂が挙げられる。
【0027】
また、活性エネルギー線硬化性樹脂以外の硬化性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、シロキサン系ポリマー、有機シラン縮合物などが挙げられる。
【0028】
これら樹脂は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0029】
ハードコート組成物は、樹脂に加えて、好ましくは、粒子をさらに含有する。これにより、ハードコート層2を、耐ブロッキング特性を有するアンチブロッキング層とすることができる。
【0030】
粒子としては、無機粒子、有機粒子などが挙げられる。無機粒子としては、例えば、シリカ粒子、例えば、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズなどからなる金属酸化物粒子、例えば、炭酸カルシウムなどの炭酸塩粒子などが挙げられる。有機粒子としては、例えば、架橋アクリル樹脂粒子などが挙げられる。粒子は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0031】
粒子の最頻粒子径は、例えば、0.5μm以上、好ましくは、1.0μm以上であり、また、例えば、2.5μm以下、好ましくは、1.5μm以下である。本明細書において、最頻粒子径とは、粒子分布の極大値を示す粒径をいい、例えば、フロー式粒子像分析装置(Sysmex社製、製品名「FPTA-3000S」)を用いて、所定条件(Sheath液:酢酸エチル、測定モード:HPF測定、測定方式:トータルカウント)にて、測定することによって求められる。測定試料としては、粒子を酢酸エチルで1.0重量%に希釈し、超音波洗浄機を用いて均一に分散させたものを用いる。
【0032】
粒子の含有割合は、樹脂100質量部に対して、例えば、0.01質量部以上、好ましくは、0.1質量部以上であり、また、例えば、10質量部以下、好ましくは、5質量部以下である。
【0033】
ハードコート組成物には、さらに、レベリング剤、チクソトロピー剤、帯電防止剤などの公知の添加剤を含有することができる。
【0034】
ハードコート層2の厚みは、耐擦傷性の観点から、例えば、0.5μm以上、好ましくは、1μm以上であり、また、例えば、10μm以下、好ましくは、3μm以下である。ハードコート層の厚みは、例えば、瞬間マルチ測光システムを用いて観測される干渉スペクトルの波長に基づいて算出することができる。
【0035】
3.透明樹脂基材
透明樹脂基材3は、透明導電性フィルム1の機械強度を確保するための透明な基材である。すなわち、透明樹脂基材3は、透明導電層5を、光学調整層4とともに支持している。
【0036】
透明樹脂基材3は、フィルム形状(シート形状を含む)を有している。透明樹脂基材3は、ハードコート層2の上面全面に、ハードコート層2の上面に接触するように、配置されている。より具体的には、透明樹脂基材3は、ハードコート層2と光学調整層4との間に、ハードコート層2の上面および光学調整層4の下面に接触するように、配置されている。
【0037】
透明樹脂基材3は、例えば、透明性を有する高分子フィルムである。透明樹脂基材3の材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル樹脂、例えば、ポリメタクリレートなどの(メタ)アクリル樹脂(アクリル樹脂および/またはメタクリル樹脂)、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー(COP)などのオレフィン樹脂、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース樹脂、ポリスチレン樹脂、ノルボルネン樹脂などが挙げられる。透明樹脂基材3は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0038】
透明性、湿熱耐久性、機械的強度などの観点から、好ましくは、ポリエステル樹脂が挙げられ、より好ましくは、PETが挙げられる。
【0039】
透明樹脂基材3の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、例えば、80%以上、好ましくは、85%以上である。
【0040】
透明樹脂基材3の厚みは、機械的強度、耐擦傷性、透明導電性フィルム1をタッチパネル用フィルムとした際の打点特性などの観点から、例えば、2μm以上、好ましくは、20μm以上であり、また、例えば、300μm以下、好ましくは、150μm以下である。透明樹脂基材3の厚みは、例えば、マイクロゲージ式厚み計を用いて測定することができる。
【0041】
透明樹脂基材3の上面の表面粗さRaは、例えば、1nm以上、好ましくは、10nm以上であり、例えば、1μm未満、好ましくは、0.5μm以下である。透明樹脂基材3の表面粗さを上記範囲とすることにより、透明導電層5の表面粗さを好適な範囲にすることができる。
【0042】
4.光学調整層
光学調整層4は、透明導電層5における配線パターンの視認を抑制しつつ、透明導電性フィルム1に優れた透明性を確保するために、透明導電性フィルム1の光学物性(例えば、屈折率)を調整する層である。
【0043】
光学調整層4は、フィルム形状(シート形状を含む)を有しており、透明樹脂基材3の上面全面に、透明樹脂基材3の上面に接触するように、配置されている。より具体的には、光学調整層4は、透明樹脂基材3と透明導電層5との間に、透明樹脂基材3の上面および透明導電層5の下面に接触するように、配置されている。
【0044】
光学調整層4は、光学調整組成物から形成されている。
【0045】
(1)光学調整組成物は、後述する光学調整層4における硬さが0.5GPa以上となるものであればよいが、光学調整層4の硬さの観点から、好ましくは、重量平均分子量が1500以上のエポキシ樹脂(以下、高分子量エポキシ樹脂)を含有する樹脂組成物(以下、高分子量エポキシ樹脂組成物)が挙げられる。
【0046】
高分子量エポキシ樹脂としては、好ましくは、飽和炭化水素環を有するエポキシポリマーが挙げられる。飽和炭化水素環としては、例えば、シクロヘキサン環、ノルボルネン環などが挙げられ、好ましくは、シクロヘキサン環が挙げられる。
【0047】
飽和炭化水素環を有するエポキシポリマーとしては、例えば、飽和炭化水素環を有するエポキシモノマーの重合体、飽和炭化水素環を有するエポキシモノマーと、エポキシモノマーと共重合可能なその他のモノマーとの共重合体などが挙げられる。
【0048】
飽和炭化水素環を有するエポキシモノマーとしては、例えば、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、水素添加ビスフェノールAジグリシルエーテルなどが挙げられる。これらモノマーは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0049】
その他のモノマーとしては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、ナフタレン型ジグリシジルエーテル、ビフェニル型ジグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレートなどの芳香族炭化水素環を有するエポキシモノマーなどが挙げられる。
【0050】
高分子量エポキシ樹脂は、好ましくは、ゴム変性されている。すなわち、好ましくは、ゴム変性エポキシ樹脂が挙げられる。
【0051】
変性させるゴムとしては、例えば、ポリブタジエン(1、2-ポリブタジエン、1,4-ポリブタジエンなど)、スチレン・ブタジエンゴム、ブチルゴム、ポリイソブチレンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴムなどが挙げられる。好ましくは、ポリブタジエンが挙げられる。
【0052】
高分子量エポキシ樹脂の重量平均分子量は、1500以上、好ましくは、1800以上であり、また、例えば、10000以下、好ましくは、5000以下である。重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定され、標準ポリスチレン換算値により求められる。
【0053】
高分子量エポキシ樹脂組成物における高分子量エポキシの含有量は、例えば、20質量%以上であり、好ましくは、40質量%以上であり、また、例えば、80質量%以下である。
【0054】
高分子量エポキシ樹脂組成物は、硬さの観点から、好ましくは、硬化剤をさらに含有する。
【0055】
硬化剤としては、例えば、三酸化アンチモン、ベンジルメチルp-メトキシカルボニルオキシフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ヘキサフルオロアンチモネートなどのアンチモン系硬化剤、例えば、p-メチルチオフェノール、ナフトール系化合物などが挙げられる。これら硬化剤は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0056】
高分子量エポキシ樹脂組成物は、高分子量エポキシ樹脂を主成分(最も含有割合が多い成分)とする限り、低分子量(重量平均分子量が1500未満)のエポキシ樹脂などのその他の樹脂を含有していてもよい。
【0057】
高分子量エポキシ樹脂組成物(光学調整組成物)が硬化剤を含有する場合、高分子量エポキシ樹脂100質量部に対する硬化剤の含有割合は、例えば、0.005質量部以上、好ましくは、0.01質量部以上であり、また、例えば、0.5質量部以下、好ましくは、0.1質量部以下である。
【0058】
(2)光学調整層4における硬さが0.5GPa以上となる光学調整組成物としては、上記高分子量エポキシ樹脂組成物以外にも、例えば、芳香環(例えば、ベンゼン環、ナフタレン環)を有するポリマーを含む樹脂組成物なども挙げられる。
【0059】
芳香環を有するポリマーを含む樹脂組成物としては、例えば、ポリフェニレンエーテル系組成物、アクリル系組成物、ポリシロキサン系組成物などが挙げられる。
【0060】
ポリフェニレンエーテル系組成物は、ポリフェニレンエーテルを含有する。
【0061】
このようなポリフェニレンエーテルとしては、例えば、フェニレンエーテル単位(例えば、2、6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル単位、2,3,6-トリメチル-1,4-フェニレンエーテル単位)を有するポリマーが挙げられる。ポリフェニレンエーテルは、主鎖末端または側鎖として、グリシジルエーテル骨格を有していてもよい。
【0062】
アクリル系組成物は、(メタ)アクリル酸エステルと、(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な芳香環を有するモノマーとを主成分とするモノマー成分の重合体(アクリルポリマー)を含有する。
【0063】
(メタ)アクリル酸エステルは、メタクリル酸エステルおよび/またはアクリル酸エステルであって、具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルへキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルなどの、直鎖状または分岐状の、炭素数1~14(好ましくは、1~4)のアルキル部分を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。
【0064】
芳香環を有するモノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼンなどのアルケニル芳香族単量体などが挙げられる。
【0065】
ポリシロキサン系組成物は、側鎖に芳香環を有するポリシロキサンを含有する。
【0066】
このようなポリシロキサンとしては、例えば、ヒドロシリル基を有するシロキサンと、アルケニル基を有する芳香族炭化水素化合物とのヒドロシリル化反応物が挙げられる。
【0067】
ヒドロシリル基を有するシロキサンとしては、例えば、メチルハイドロジェンシロキサン単位とジメチルシロキサン単位を有するポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン単位とメチルフェニルシロキサン単位を有するポリシロキサンなどが挙げられる。
【0068】
アルケニル基を有する芳香族炭化水素化合物としては、例えば、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0069】
芳香環を有するポリマーを含む樹脂組成物は、耐熱性、耐膨張性の観点から、上記成分に加えて、イソシアネート系化合物を含有していてもよい。イソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ビス(4-イソシアナトフェニル)メタン、2,2-ビス(4-イソシアナトフェニル)プロパン、アリルイソシアネート、これらのトリメチロールプロパンアダクト体およびイソシアヌレート体などが挙げられる。
【0070】
また、光学調整組成物は、上記成分に加えて、粒子を含有することもできる。粒子としては、光学調整層4の求める屈折率に応じて好適な材料を選択することができ、無機粒子、有機粒子などが挙げられる。無機粒子としては、例えば、シリカ粒子、例えば、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化亜鉛などからなる金属酸化物粒子、例えば、炭酸カルシウムなどの炭酸塩粒子などが挙げられる。有機粒子としては、例えば、架橋アクリル樹脂粒子などが挙げられる。
【0071】
光学調整組成物のゲル化時間は、90℃に加温した場合に、例えば、30秒以上、好ましくは、50秒以上であり、また、例えば、100秒以下、好ましくは、80秒以下である。ゲル化時間を上記範囲内とすることにより、加工速度を向上させることができる。ゲル化時間は、例えば、ゲル化試験機を用いて、90℃に表面温度が設定されたプレートに光学調整組成物を配置し、その光学調整組成物が硬化するまでの時間を測定ことにより、求めることができる。
【0072】
光学調整層4の硬さは、0.5GPa以上である。好ましくは、0.6GPa以上であり、また、例えば、1.0GPa以下、好ましくは、0.8GPa以下である。光学調整層4の硬さを上記下限以上とすることにより、透明導電性フィルム1の湿熱耐久性が優れる。特に、高湿高温環境下に長時間放置した場合であっても、クラックの発生を抑制しつつ、さらには、放置後の表面抵抗値の大幅な上昇を抑制することもできる。
【0073】
光学調整層4の硬さは、例えば、厚み50μmのPETフィルムに、厚み30nmの光学調整層4を配置した場合の光学調整層4の硬さであって、JIS Z 2255(2003年、超微小負荷硬さ試験方法)に準拠して測定することができる。
【0074】
光学調整層4の屈折率は、例えば、1.20以上、好ましくは、1.40以上であり、また、例えば、1.70以下、好ましくは、1.60以下である。光学調整層4の屈折率を上記範囲とすることにより、配線パターンの視認をより一層抑制することができる。
【0075】
光学調整層4の厚みは、例えば、1nm以上、好ましくは、10nm以上であり、また、例えば、200nm以下、好ましくは、100nm以下である。光学調整層4の厚みを上記範囲とすることにより、透明導電層5の表面粗さをより確実に好適な範囲にすることができる。光学調整層4の厚みは、例えば、瞬間マルチ測光システムを用いて測定することができる。
【0076】
5.透明導電層
透明導電層5は、後工程で配線パターンに形成して、透明なパターン部7を形成するための導電層である。
【0077】
透明導電層5は、透明導電性フィルム1の最上層であって、フィルム形状(シート形状を含む)を有している。透明導電層5は、光学調整層4の上面全面に、光学調整層4の上面に接触するように、配置されている。
【0078】
透明導電層5の材料としては、例えば、In、Sn、Zn、Ga、Sb、Ti、Si、Zr、Mg、Al、Au、Ag、Cu、Pd、Wからなる群より選択される少なくとも1種の金属を含む金属酸化物が挙げられる。金属酸化物には、必要に応じて、さらに上記群に示された金属原子をドープしていてもよい。
【0079】
透明導電層5の材料は、例えば、インジウムスズ複合酸化物(ITO)などのインジウム含有酸化物、例えば、アンチモンスズ複合酸化物(ATO)などのアンチモン含有酸化物などが挙げられ、好ましくは、インジウム含有酸化物、より好ましくは、ITOが挙げられる。
【0080】
透明導電層5の材料としてITOを用いる場合、酸化スズ(SnO2)含有量は、酸化スズおよび酸化インジウム(In2O3)の合計量に対して、例えば、0.5質量%以上、好ましくは、3質量%以上であり、また、例えば、15質量%以下、好ましくは、13質量%以下である。酸化スズの含有量を上記下限以上とすることにより、ITO層の耐久性をより一層良好にすることができる。酸化スズの含有量を上記上限以下とすることにより、ITO層の結晶転化を容易にし、透明性や表面抵抗の安定性を向上させることができる。
【0081】
本明細書中における「ITO」とは、少なくともインジウム(In)とスズ(Sn)とを含む複合酸化物であればよく、これら以外の追加成分を含んでもよい。追加成分としては、例えば、In、Sn以外の金属元素が挙げられ、具体的には、Zn、Ga、Sb、Ti、Si、Zr、Mg、Al、Au、Ag、Cu、Pd、W、Fe、Pb、Ni、Nb、Cr、Gaなどが挙げられる。
【0082】
透明導電層5の屈折率は、例えば、1.85以上、好ましくは、1.95以上であり、また、例えば、2.20以下、好ましくは、2.10以下である。
【0083】
透明導電層5の厚みは、例えば、10nm以上、好ましくは、15nm以上であり、また、例えば、30nm以下、好ましくは、25nm以下である。透明導電層5の厚みは、例えば、瞬間マルチ測光システムを用いて測定することができる。
【0084】
光学調整層4の厚みに対する、透明導電層5の厚みの比(透明導電層5/光学調整層4)は、例えば、0.1以上、好ましくは、0.5以上であり、また、例えば、1.2以下、好ましくは、0.8以下である。
【0085】
透明導電層5は、結晶質および非晶質のいずれであってもよく、また、結晶質および非晶質の混合体であってもよい。透明導電層5は、好ましくは、結晶質からなり、より具体的には、結晶質ITO層である。これにより、透明導電層5の透明性を向上させ、また、透明導電層5の表面抵抗をより一層低減させることができる。
【0086】
透明導電層5が結晶質膜であることは、例えば、透明導電層5がITO層である場合は、20℃の塩酸(濃度5質量%)に15分間浸漬した後、水洗・乾燥し、15mm程度の間の端子間抵抗を測定することで判断できる。本明細書においては、塩酸(20℃、濃度:5質量%)への浸漬・水洗・乾燥後に、15mm間の端子間抵抗が10kΩ以下である場合、ITO層が結晶質であるものとする。
【0087】
6.透明導電性フィルムの製造方法
次いで、透明導電性フィルム1を製造する方法を説明する。
【0088】
透明導電性フィルム1を製造するには、例えば、透明樹脂基材3の他方面に、ハードコート層2を設け、透明樹脂基材3の一方面に、光学調整層4および透明導電層5をこの順に設ける。すなわち、透明樹脂基材3の下面にハードコート層2を設け、次いで、透明樹脂基材3の上面に光学調整層4を設け、次いで、光学調整層4の上面に透明導電層5を設ける。以下、詳述する。
【0089】
まず、公知または市販の透明樹脂基材3を用意する。
【0090】
その後、必要に応じて、透明樹脂基材3と、ハードコート層2または光学調整層4との密着性の観点から、透明樹脂基材3の下面または上面に、例えば、スパッタリング、コロナ放電、火炎、紫外線照射、電子線照射、化成、酸化などのエッチング処理や下塗り処理を実施することができる。また、溶剤洗浄、超音波洗浄などにより透明樹脂基材3を除塵、清浄化することができる。
【0091】
次いで、透明樹脂基材3の下面に、ハードコート層2を設ける。例えば、透明樹脂基材3の下面にハードコート組成物を湿式塗工することにより、透明樹脂基材3の下面にハードコート層2を形成する。
【0092】
具体的には、例えば、ハードコート組成物を溶媒で希釈した希釈液(ワニス)を調製し、続いて、希釈液を透明樹脂基材3の下面に塗布して、希釈液を乾燥する。
【0093】
溶媒としては、例えば、有機溶媒、水系溶媒(具体的には、水)などが挙げられ、好ましくは、有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール化合物、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン化合物、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル化合物、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル化合物、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物などが挙げられる。これら溶媒は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0094】
希釈液における固形分濃度は、例えば、1質量%以上、好ましくは、10質量%以上であり、また、例えば、30質量%以下、好ましくは、20質量%以下である。
【0095】
塗布方法としては希釈液および透明樹脂基材3に応じて適宜選択することができる。例えば、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、エクストルージョンコート法などが挙げられる。
【0096】
乾燥温度は、例えば、50℃以上、好ましくは、70℃以上であり、例えば、200℃以下、好ましくは、100℃以下である。
【0097】
乾燥時間は、例えば、0.5分以上、好ましくは、1分以上であり、例えば、60分以下、好ましくは、20分以下である。
【0098】
この際、好ましくは、乾燥後の塗布膜の厚みが、含有されている粒子の直径よりも薄くなるようにハードコート組成物を塗布する。
【0099】
その後、ハードコート組成物が活性エネルギー線硬化性樹脂を含有する場合は、希釈液の乾燥後に、活性エネルギー線を照射することにより、活性エネルギー線硬化性樹脂を硬化させる。
【0100】
なお、ハードコート組成物が熱硬化性樹脂を含有する場合は、この乾燥工程により、溶媒の乾燥とともに、熱硬化性樹脂を熱硬化することができる。
【0101】
次いで、透明樹脂基材3の上面に、光学調整層4を設ける。例えば、透明樹脂基材3の上面に光学調整組成物を湿式塗工することにより、透明樹脂基材3の上面に光学調整層4を形成する。
【0102】
具体的には、例えば、光学調整組成物を溶媒で希釈した希釈液(ワニス)を調製し、続いて、希釈液を透明樹脂基材3の上面に塗布して、希釈液を乾燥する。
【0103】
光学調整組成物の調製、塗布、乾燥などの条件は、ハードコート組成物で例示した調製、塗布、乾燥などの条件と同一のものが挙げられる。
【0104】
また、光学調整組成物が活性エネルギー線硬化性樹脂を含有する場合は、希釈液の乾燥後に、活性エネルギー線を照射することにより、活性エネルギー線硬化性樹脂を硬化させる。
【0105】
なお、光学調整組成物が熱硬化性樹脂を含有する場合は、この乾燥工程により、溶媒の乾燥とともに、熱硬化性樹脂を熱硬化することができる。
【0106】
次いで、光学調整層4の上面に、透明導電層5を設ける。例えば、乾式方法により、光学調整層4の上面に透明導電層5を形成する。
【0107】
乾式方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などが挙げられる。好ましくは、スパッタリング法が挙げられる。この方法によって薄膜の透明導電層5を形成することができる。
【0108】
スパッタリング法を採用する場合、ターゲット材としては、透明導電層5を構成する上述の無機物が挙げられ、好ましくは、ITOが挙げられる。ITOの酸化スズ濃度は、ITO層の耐久性、結晶化などの観点から、例えば、0.5質量%以上、好ましくは、3質量%以上であり、また、例えば、15質量%以下、好ましくは、13質量%以下である。
【0109】
スパッタガスとしては、例えば、Arなどの不活性ガスが挙げられる。また、必要に応じて、酸素ガスなどの反応性ガスを併用することができる。反応性ガスを併用する場合において、反応性ガスの流量比は特に限定しないが、スパッタガスおよび反応性ガスの合計流量比に対して、例えば、0.1流量%以上5流量%以下である。
【0110】
スパッタリングは、真空下で実施される。具体的には、スパッタリング時の気圧は、スパッタリングレートの低下抑制、放電安定性などの観点から、例えば、1Pa以下、好ましくは、0.7Pa以下である。
【0111】
スパッタリング法に用いる電源は、例えば、DC電源、AC電源、MF電源およびRF電源のいずれであってもよく、また、これらの組み合わせであってもよい。
【0112】
また、所望厚みの透明導電層5を形成するために、ターゲット材やスパッタリングの条件などを適宜設定して複数回スパッタリングを実施してもよい。
【0113】
これにより、透明導電性フィルム1が得られる。
【0114】
次いで、必要に応じて、透明導電性フィルム1の透明導電層5に対して、結晶転化処理を実施する。
【0115】
具体的には、透明導電性フィルム1に大気下で加熱処理を実施する。
【0116】
加熱処理は、例えば、赤外線ヒーター、オーブンなどを用いて実施することができる。
【0117】
加熱温度は、例えば、100℃以上、好ましくは、120℃以上であり、また、例えば、200℃以下、好ましくは、160℃以下である。加熱温度を上記範囲内とすることにより、透明樹脂基材3の熱損傷および透明樹脂基材3から発生する不純物を抑制しつつ、結晶転化を確実にすることができる。
【0118】
加熱時間は、加熱温度に応じて適宜決定されるが、例えば、10分以上、好ましくは、30分以上であり、また、例えば、5時間以下、好ましくは、3時間以下である。
【0119】
これにより、結晶化された透明導電層5を備える透明導電性フィルム1が得られる。
【0120】
得られる透明導電性フィルム1の総厚みは、例えば、2μm以上、好ましくは、20μm以上であり、また、例えば、300μm以下、好ましくは、150μm以下である。
【0121】
透明導電性フィルム1における透明導電層5(すなわち、透明導電性フィルム1の上面)の表面粗さRaは、40nm以下であり、好ましくは、20nm以下である。上記表面粗さRaを上記上限以下とすることにより、湿熱耐久性に優れる。
【0122】
また、透明導電層5の表面粗さRaは、例えば、1nm以上、好ましくは、8nm以上、より好ましくは、10nm以上である。表面粗さRaを上記下限以上とすることにより、ロールトゥロール工程時において、ガイドロールとの接触に起因する透明導電層5の破損を抑制することができ、ロールトゥロールによる搬送性を良好にすることができる。
【0123】
表面粗さRaは、算術平均粗さRaであって、原子間力顕微鏡を用いて測定される。なお、透明導電性フィルム1における表面粗さRaは、透明導電層5の結晶化前後では実質的に変化しない。
【0124】
なお、必要に応じて、結晶転化処理の前または後に、公知のエッチング手法によって
図2に示すように、透明導電層5をストライプ状などの配線パターンに形成してもよい。
【0125】
エッチングは、例えば、非パターン部6およびパターン部7に対応するように、被覆部(マスキングテープなど)を透明導電層5の上に配置し、被覆部から露出する透明導電層5(非パターン部6)をエッチング液を用いてエッチングする。エッチング液としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、蓚酸、リン酸およびこれらの混酸などの酸が挙げられる。その後、被覆部を、透明導電層5の上面から、例えば、剥離などによって、除去する。
【0126】
また、上記製造方法では、ロールトゥロール方式にて、透明樹脂基材3を搬送させながら、その透明樹脂基材3に、ハードコート層2、光学調整層4および透明導電層5をこの順に形成してもよく、また、これらの層の一部または全部をバッチ方式(枚葉方式)にて形成してもよい。生産性の観点から、好ましくは、ロールトゥロール方式にて、透明樹脂基材3を搬送させながら、その透明樹脂基材3に、各層を形成する。
【0127】
7.作用効果
透明導電性フィルム1は、透明樹脂基材3と、光学調整層4と、透明導電層5とをこの順に備え、光学調整層4の硬さが、0.5GPa以上である。そのため、高温高湿環境下の使用においても、透明導電性フィルム1の性能低下を抑制することができ、湿熱耐久性に優れる。具体的には、85℃85%RHの環境下に長時間放置しても、透明導電層5に、クラックの発生を抑制することができる。
【0128】
また、透明導電性フィルム1では、透明導電層5の表面粗さRaが、40nm以下である。そのため、透明導電性フィルム1を折り曲げても、透明導電層5に、クラックの発生を抑制することができ、耐屈曲性に優れる。具体的には、直径16mm(好ましくは、12mm)のマンドレルに沿って透明導電性フィルム1を180度に屈曲した際に、透明導電層5にクラックの発生を抑制することができる。
【0129】
これは、以下のメカニズムによるものと推察される。透明導電性フィルム1の表面粗さが大きいと、厚みのバラつきが大きくなり、屈曲時にかかる膜応力にバラつきが生じる。そのため、膜応力が大きい箇所にクラックが発生し易い。また、一般的に、フィルムは、厚みが厚いほどクラックが発生し易い。透明導電性フィルム1の表面粗さが大きいと、厚みが大きい領域が増大し、クラックの発生確率が向上する。
【0130】
これに対し、本発明では、表面粗さRaを上記下限以下とすることにより、厚みのバラつきを低減している。このため、膜応力のバラつきを低減したり、厚みが局所的に大きくなる領域を低減させている。したがって、屈曲に対するクラックを抑制できていると推察される。
【0131】
また、透明導電性フィルム1では、好ましくは、透明導電層5の表面粗さRaが、10nm以上である。この場合、ロールトゥロール工程における搬送性(巻き取り性)に優れる。
【0132】
具体的には、ロールトゥロール工程では、光学調整層の上面に透明導電膜を形成した後、得られた透明導電性フィルムを、ガイドロールを用いて、巻き取りロールにガイド(誘導)して、最終的にロール状に巻き取られる。この際、ガイドロールは、透明導電膜に接触するように配置されるため、透明導電層5が過度に平滑であると、透明導電層5がガイドロール表面に過度に密着してしまい、透明導電層が光学調整層から剥離し、破損する不具合が生じる場合がある。この不具合は、ガイドロールに空気を噴射して透明導電性フィルム1の滑り性を向上させることができない条件下、具体的には、透明導電層5をスパッタリングなどの真空下で形成する条件において、特に発生し易い。
【0133】
これに対し、本発明の透明導電性フィルム1では、好ましくは、透明導電層5の表面粗さRaが、10nm以上とすることにより、ガイドロールと透明導電層5との密着を低減させることができる。そのため、ガイドロールによる透明導電層5の破損を抑制しながら、透明導電性フィルム1を円滑に搬送し、巻き取ることができる。
【0134】
透明導電性フィルム1は、例えば、光学装置に備えられる。光学装置としては、例えば、画像表示装置などが挙げられる。透明導電性フィルム1を画像表示装置(具体的には、LCDモジュールなどの画像表示素子を有する画像表示装置)に備える場合には、透明導電性フィルム1は、例えば、タッチパネル用基材として用いられる。タッチパネルの形式としては、光学方式、超音波方式、静電容量方式、抵抗膜方式などの各種方式が挙げられ、特に静電容量方式のタッチパネルに好適に用いられる。
【0135】
8.変形例
なお、
図1に示す実施形態では、透明導電性フィルム1は、透明樹脂基材3の下面に配置されるハードコート層2を備えているが、例えば、図示しないが、透明導電性フィルム1は、ハードコート層2を備えていなくてもよい。すなわち、透明導電性フィルム1の最下層は、透明樹脂基材3とすることができる。
【0136】
擦傷性およびアンチブロッキング性の観点から、好ましくは、透明導電性フィルム1は、ハードコート層2を備える。
【0137】
また、
図1に示す実施形態では、透明導電性フィルム1は、透明樹脂基材3の上側に、ハードコート層、光学調整層などの他の機能層を備えていないが、例えば、図示しないが、機能層を1種または2種以上備えていてもよい。
【実施例】
【0138】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、何ら実施例および比較例に限定されない。また、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0139】
実施例1
ロールトゥロール工程により、透明導電性フィルムを下記に従い製造した。
【0140】
透明樹脂基材として、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET、厚み50μm、三菱樹脂社製、上面の表目粗さRa0.3μm)を用意した。
【0141】
直径(最頻粒子径)1.45μmの複数個の粒子(架橋アクリル樹脂、単分散粒子)、バインダー樹脂(DIC社製、商品名「ユニディック、ウレタンアクリレート系樹脂)および溶媒(酢酸ブチル)を含有するハードコート組成物の希釈液を、グラビアコーターを用いて、PETフィルムの下面に塗布および乾燥し、その後、高圧水銀ランプにて紫外線を照射した。これにより、厚み1.5μmのハードコート層を形成した。
【0142】
次いで、ゴム変性エポキシ樹脂(「アデカフィルテラ BUR-12A」、ADEKA社製、重量平均分子量2000、シクロヘキサン環を有するエポキシポリマー)10質量部およびアンチモン系硬化剤(「アデカフィルテラ BUR-12B」、ADEKA社製)0.001質量部を混合して、光学調整組成物を調製した。光学調整組成物の90℃におけるゲル化タイムは、60秒であった。
【0143】
この光学調整組成物にメチルイソブチルケトン90質量部を混合して、光学調整組成物のワニスを調製した。光学調整組成物のワニスをPETフィルムの上面に塗布および乾燥した。これにより、厚み30nmの光学調整層を形成した。光学調整層の屈折率は、1.53であった。
【0144】
次いで、光学調整層の上面に、スパッタリングにより、厚みが20nmであるITO層(透明導電層)を形成した。具体的には、アルゴンガス98%および酸素ガス2%を導入した気圧0.4Paの真空雰囲気下で、90質量%の酸化インジウムおよび10質量%の酸化スズの焼結体からなるITOターゲットをスパッタリングした。その後、140分、90分で加熱を実施することにより、ITO層を結晶化させた。ITO層の屈折率は、2.00であった。
【0145】
このようにして、実施例1の透明導電性フィルムを製造した。
【0146】
実施例2~3
表面粗さが異なる透明樹脂基材を用意し、透明導電性フィルムの透明導電層側の表面粗さRaが表1となるように調整した以外は、実施例1と同様にして、透明導電性フィルムを製造した。
【0147】
比較例1
表面粗さが異なる透明樹脂基材を用意し、透明導電性フィルムの透明導電層側の表面粗さRaが表1となるように調整した以外は、実施例1と同様にして、透明導電性フィルムを製造した。
【0148】
比較例2~4
下記の光学調整組成物および表面粗さが異なる透明樹脂基材を用意し、透明導電性フィルムの透明導電層側の表面粗さRaが表1となるように調整した以外は、実施例1と同様にして、透明導電性フィルムを製造した。
【0149】
光学調整組成物:メトキシ化メチロールメラミン樹脂、イソフタル酸ユニットを有するポリエステル、マレイン酸エステルおよびシリコーンを混合して、光学調整組成物を調製した。
【0150】
透明導電性フィルムの各構成および評価は、以下のようにして測定した。
【0151】
(1)厚み
PETフィルムは、マイクロゲージ式厚み計(ミツトヨ社製)を用いて測定した。
【0152】
ハードコート層、光学調整層および透明導電層は、瞬間マルチ測光システム(「MCPD2000」、大塚電子社製)を用いて、干渉スペクトルの波形を基礎にして算出した。
【0153】
(2)屈折率
各層の屈折率は、アッベ屈折率計(アタゴ社製)を用い、25℃の条件下、測定面に対して測定光を入射させるようにして、屈折率計に示される規定の測定方法により測定を実施した。
【0154】
(3)光学調整層の硬さ
光学調整層の硬さをJIS Z 2255(2003年、超微小負荷硬さ試験方法)に準拠して測定した。
【0155】
具体的には、厚み50μmのPETフィルムの上面に、実施例または比較例に記載の厚み30nmの光学調整層を設けた硬さ測定用サンプルをそれぞれ用意した。これらサンプルの光学調整層の上面に、圧子を押し当てることにより、超微小負荷硬さ(HTL)を測定した。結果を表1に示す。
【0156】
装置:ナノインデンター(Hysitron inc社製、Triboindenter)
使用圧子:Verkovich(三角錐型)
使用方法:単一押し込み
測定温度:25℃
押し込み深さ:20nm
(4)表面粗さ
原子間力顕微鏡(Digital Instruments社製、Nonoscope IV)を用いて、透明導電性フィルムのITO層の表面の算術平均粗さRaを測定した。
【0157】
(5)湿熱耐久性試験
各実施例および各比較例の透明導電性フィルムにおいて、ITO層の上面に、幅2mmのマスキングテープを10mm間隔に貼着した後、マスキングテープの非貼着部分のITO層をエッチングして、ストライプ状(幅10mm)のITO層にパターニングした(
図3参照)。マスキングテープを剥離し、透明導電性フィルム1をさらに150℃で30分加熱した。
【0158】
次いで、透明導電性フィルム1のITO層5に、粘着剤8を介してガラス板9を配置した(
図3参照)。このガラス板付透明導電性フィルムを、高温恒湿機(「LHL-113」、エスペック社製)に投入し、85℃85%RHの環境下で240時間放置した(高温高湿試験)。その後、粘着剤8およびガラス板9を剥がした。
【0159】
試験後の透明導電性フィルムの表面をレーザー顕微鏡で10倍の倍率で観察した。クラックが明らかに観察された場合を×と評価し、クラックがほとんど観察されなかった場合を○と評価した。結果を表1に示す。
【0160】
(6)耐屈曲性試験
マンドレル試験(マンドレルの直径16mmまたは12mm)を実施した。具体的には、各実施例および各比較例の透明導電性フィルム1を長さ150mm×幅10mmに切断し、ITO層5がマンドレル10に接触するように各透明導電性フィルム1を配置し、次いで、マンドレル10に沿うように各透明導電性フィルム1を180度に屈曲させた(
図4参照)。屈曲の透明導電性フィルム1のITO層表面をレーザー顕微鏡で10倍の倍率で観察した。
【0161】
マンドレルの直径16mmおよび12mmの両方の場合において、折り曲げ部分にクラックが観察された場合を×と評価した。マンドレルの直径16mmを用いた場合には、折り曲げ部分に、クラックが観察されなかったが、マンドレルの直径12mmを用いた場合に、クラックが観察された場合を△と評価した。マンドレルの直径16mmおよび12mmの両方の場合において、クラックが観察されなかった場合を○と評価した。結果を表1に示す。
【0162】
(7)搬送性
透明導電性フィルムの製造時において、真空下でスパッタリングによりITO層を形成した後に、その真空下で、ガイドロールをITO層の表面に接触させて、透明導電性フィルムを巻き取りロールにガイドして、透明導電性フィルムをロール状に巻き取った。この透明導電性フィルムのITO層の表面を肉眼で観察した。
【0163】
ITO層の剥離が大きく観察された場合を×と評価し、ITO層の剥離が一部観察された場合を△と評価し、ITO層の剥離が観察されなかった場合を○と評価した。結果を表1に示す。
【0164】
【符号の説明】
【0165】
1 透明導電性フィルム
3 透明樹脂基材
4 光学調整層
5 透明導電層