(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】β型サイアロン蛍光体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 11/08 20060101AFI20220107BHJP
C09K 11/64 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
C09K11/08 B
C09K11/64
(21)【出願番号】P 2017236150
(22)【出願日】2017-12-08
【審査請求日】2020-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】近藤 良祐
(72)【発明者】
【氏名】國友 修
(72)【発明者】
【氏名】杉田 和也
(72)【発明者】
【氏名】小林 慶太
(72)【発明者】
【氏名】江本 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 真太郎
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/142289(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/134982(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
H01L 33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:Si
6-zAl
zO
zN
8-z:Eu(0<z<4.2)で示されるβ型サイアロン蛍光体の製造方法であって、
前記β型サイアロン蛍光体を得るための原料混合粉末を焼成して焼成物を得る焼成工程と、前記焼成物の粉末をアルコキシシランと混合処理する混合工程を含み、
前記混合工程は、混合工程前の前記焼成物の粉末100質量部に対し、前記アルコキシシランが1.0~10.0質量部の比率になるように混合する操作と、混合後に前記アルコキシシランが塊状になるまで乾燥する操作とを含み、
レーザー回折・散乱法にて測定した、前記β型サイアロン蛍光体の平均粒子径D50が、前記混合工程前の焼成物の粉末の平均粒子径D50に対し1.2倍以上であることを特徴とする、β型サイアロン蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記アルコキシシランが、一般式:R
1Si(OR
2)
3(R
1は炭素数が1~12の置換又は非置換の一価炭化水素基、R
2は炭素数が1~12の非置換の一価炭化水素基である。)、又は一般式:R
1Si(OR
2)
2R
3(R
1は炭素数が1~12の置換又は非置換の一価炭化水素基、R
2、R
3は炭素数が1~12の非置換の一価炭化水素基である。)で表されることを特徴とする請求項1記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法。
【請求項3】
レーザー回折・散乱法にて測定した、前記β型サイアロン蛍光体の平均粒子径D50が、前記混合工程前の焼成物の粉末の平均粒子径D50に対し8.0倍以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法。
【請求項4】
レーザー回折・散乱法にて測定した、前記混合工程前の焼成物の粉末の平均粒子径D50が1~25μmであることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法。
【請求項5】
前記アルコキシシランの1分子に含まれる炭素数が4以上であることを特徴とする請求項1~4いずれか一項記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法。
【請求項6】
前記アルコキシシランの1分子に含まれる炭素数が15以下であることを特徴とする請求項1~5いずれか一項記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β型サイアロン蛍光体の製造方法に関するものである。特に、一般式:Si6-zAlzOzN8-z:Eu(0<z<4.2)で示されるβ型サイアロン蛍光体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Eu2+を固溶したβ型サイアロンは、一般式:Si6-zAlzOzN8-z(0<z<4.2)で示されるβ型サイアロンをホスト結晶とし、発光中心としてEu2+を固溶した酸窒化物蛍光体であり、紫外から青色の光で励起され、緑色発光を示す(特許文献1)。Eu2+で付活したβ型サイアロン蛍光体は、温度上昇に伴う輝度低下が小さく、耐久性に優れていることから、発光装置における発光ダイオード(以下、LEDともいう)用の緑色発光蛍光体として広く用いられている。
【0003】
近年β型サイアロン蛍光体の発光強度を高めるために、複数回に分けた焼成工程の実施、アニール工程や酸処理工程の追加等、様々な方法を用いて製造方法が改良されてきた。具体的には、アルミニウム化合物と第一のユーロピウム化合物と窒化ケイ素とを含む混合物を熱処理して第一の熱処理物を得る第一熱処理工程と、第一の熱処理物と第二のユーロピウム化合物とを希ガス雰囲気中で熱処理して第二の熱処理物を得る第二熱処理工程と、を含み、前記第二熱処理工程の温度が、1300℃以上1600℃以下であるβサイアロン蛍光体の製造方法が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5730319号公報
【文献】特許第6024849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液晶ディスプレーのバックライトや照明等の発光装置では色再現性、演色性の改善、輝度の改善が常に求められている。また、各部材の特性向上が必要とされており、蛍光体も輝度の改善が必要である。ところが近年、新技術による発光強度の上がり幅は小さくなってきており、蛍光体そのもの自体の発光特性改善以外でLED高輝度化を実現できる手法が必要となってきている。
【0006】
本発明は、このような現状に鑑み、発光素子や発光装置として用いた時にも高輝度を発現させることができるβ型サイアロン蛍光体を得るための製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、β型サイアロン蛍光体を得る焼成工程で得られる焼成物の粉末と、アルコキシシランとを混合処理し、その平均粒子径D50を一定割合以上に大きくすることにより、このβ型サイアロン蛍光体が、例えば発光素子として用いる場合においても輝度の高さを保ち得ることを実証し、本発明のβ型サイアロン蛍光体の製造方法の完成に至った。即ち、蛍光体の組成変更やアニール処理や不純物除去処理等の複雑な処理を伴わずに、本発明者らは、同じβ型サイアロン蛍光体の粒子であっても、その粒子の凝集状態を変えることのみ、即ち平均粒子径D50を元の粒子に対して一定割合以上に大きくすることのみで、β型サイアロン蛍光体の実用特性を向上させうる製造方法を開発した。なお、本発明によるβ型サイアロンの特性向上は、必ずしも数値的な高い値ではないが、蛍光体を用いた発光素子や発光装置を利用する産業分野は、数%程度の特性向上を積み重ねて発展している分野でもあること、また本発明の製造方法は、β型サイアロン蛍光体そのもの自体は改変しないという、従来技術とは異なる発想に基づいていることが、本発明の肝要な部分である。
【0008】
そこで、本発明は、以下のように特定される。
(1)一般式:Si6-zAlzOzN8-z:Eu(0<z<4.2)で示されるβ型サイアロン蛍光体の製造方法であって、
前記β型サイアロン蛍光体を得るための原料混合粉末を焼成して焼成物を得る焼成工程と、前記焼成物の粉末をアルコキシシランと混合処理する混合工程を含み、JIS Z8825(2013)に準拠して、レーザー回折・散乱法にて測定した、前記β型サイアロン蛍光体の平均粒子径D50が、前記混合工程前の焼成物の粉末の平均粒子径D50に対し1.2倍以上であることを特徴とする、β型サイアロン蛍光体の製造方法。
(2)前記アルコキシシランが、一般式:R1Si(OR2)3(R1は炭素数が1~12の置換又は非置換の一価炭化水素基、R2は炭素数が1~12の非置換の一価炭化水素基である。)、又は一般式:R1Si(OR2)2R3(R1は炭素数が1~12の置換又は非置換の一価炭化水素基、R2、R3は炭素数が1~12の非置換の一価炭化水素基である。)で表されることを特徴とする前記(1)に記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法。なお前記Rに付いている各添字1、2、3は、元素の数を示す添字ではなく、以下同様である。
(3)レーザー回折・散乱法にて測定した、前記β型サイアロン蛍光体の平均粒子径D50が、前記混合工程前の焼成物の粉末の平均粒子径D50に対し8.0倍以下であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法。
(4)レーザー回折・散乱法にて測定した、前記混合工程前の焼成物の粉末の平均粒子径D50が1~25μmであることを特徴とする前記(1)~(3)のいずれかに記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法。
(5)前記アルコキシシランの1分子に含まれる炭素数が4以上であることを特徴とする前記(1)~(4)いずれかに記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法。
(6)前記アルコキシシランの1分子に含まれる炭素数が15以下であることを特徴とする前記(1)~(5)いずれかに記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法。
(7)前記混合工程は、混合工程前の前記焼成物の粉末100質量部に対し、前記アルコキシシランが1.0~10.0質量部の比率になるように混合する操作と、混合後に乾燥する操作とを含むことを特徴とする前記(1)~(6)いずれか一項記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施により、例えば発光素子や発光装置として用いた時に高輝度を発現させることができるβ型サイアロン蛍光体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について詳細を説明する。
【0011】
<β型サイアロン蛍光体>
本発明の実施により得られるβ型サイアロン蛍光体は、一般式Si6-zAlzOzN8-z(zは0より大きく4.2未満である)で示されるβ型サイアロンの母体結晶に、発光中心となるEu2+が固溶したものであり、前記特許文献1等に記載される周知のβ型サイアロン蛍光体である。
【0012】
発光効率の観点から、前記β型サイアロン蛍光体は、β型サイアロンの結晶相を高純度で極力多く含み、好ましくはβ型サイアロン蛍光体の単相から構成されていることが望ましいが、蛍光体の発光特性が著しく低下しない範囲であれば、不可避的な非晶質相又は他の結晶相を含んでいても良い。
【0013】
本発明のβ型サイアロン蛍光体の製造方法は、前記β型サイアロン蛍光体を得るための原料混合粉末を焼成して焼成物を得る焼成工程と、前記焼成物の粉末をアルコキシシランと混合処理する混合工程を含み、レーザー回折・散乱法にて測定した、前記β型サイアロン蛍光体の平均粒子径D50が、前記混合工程前の焼成物の粉末の平均粒子径D50に対し1.2倍以上であることを特徴とする。すなわち、上記混合工程により、β型サイアロン蛍光体の平均粒子径D50が1.2倍以上に増加することを特徴とする。
【0014】
ここで前記β型サイアロン蛍光体を得るための原料混合粉末としては、例えばシリコン、アルミニウム、ユーロピウムを含む酸化物や窒化物等の公知の化合物を好ましく用いることができる。また、前記原料混合粉末は公知の混合方法を用いて得ることができる。
【0015】
さらに、β型サイアロン蛍光体を得るために、原料混合粉末を焼成して焼成物を得る方法は特に限定されず、公知の方法を採用することができ、例えば、前記原料混合粉末を窒化ホウ素製の容器に収め、焼成炉を用いて焼成する焼成工程を経ることで、前記焼成物を得ることができる。なお焼成工程においては、その焼成温度のみならず、加熱や冷却の繰り返し回数や、また焼成工程の途中においてβ型サイアロン蛍光体の原料となる化合物を追加して添加すること、焼成工程における雰囲気ガスの種類やその圧力に特に限定はない。また焼成工程に得た焼成物に、必要に応じてアニール処理、酸処理、解砕処理、粉砕処理、分級処理等の処理を実施しても良い。前記処理を行った場合には、本発明ではそれら処理後に得た粉末を、混合工程前の焼成物の粉末とする。
【0016】
なおβ型サイアロン蛍光体は、その平均粒子径を小さくしていくと励起光を散乱しやすくなる傾向があり発光の効率が低下し、また、発光素子となすためにβ型サイアロン蛍光体を封止樹脂と混合した場合に、封止樹脂への均一分散も困難になる傾向がある。また焼成条件や解砕、粉砕処理の条件の調整のみで、その平均粒子径を大きくし、小粒子径のデメリットを解消しようとすると、蛍光体の内部量子効率自体が下がる傾向があり、また発光強度及び色調のバラツキを生じる傾向がある。そのため本発明者らは、内部量子効率の低下を伴わない程度の比較的小さい粒子同士を組み合わせて、見かけ上大粒子径化して発光効率を向上させると共に、封止樹脂への分散性も向上させて、発光素子や発光装置として用いた時にも高輝度を発現できるように改善することを着想し、本発明のβ型サイアロン蛍光体の製造方法の発明を完成させるに至った。ここでいう内部量子効率の低下を伴わない程度の比較的小さい粒子とは、平均粒子径D50(レーザー回折・散乱法により粒度分布を測定して得られる体積基準の積算分率における50%径)が、1~25μmの粒子であることが好ましく、D50が8~20μmであることがさらに好ましい。
【0017】
<アルコキシシラン>
本発明のβ型サイアロン蛍光体の製造方法で用いられるアルコキシシランは、一般式:R1Si(OR2)3(R1は炭素数が1~12の置換又は非置換の一価炭化水素基、R2は炭素数が1~12の非置換の一価炭化水素基である。)又は、一般式:R1Si(OR2)2R3(R1は炭素数が1~12の置換又は非置換の一価炭化水素基、R2、R3は炭素数が1~12の非置換の一価炭化水素基である。)で表される。R1の置換又は非置換の一価炭化水素基としては、炭素数が上前記範囲内であれば特に限定されず、例えば、アルキル基等の飽和脂肪族基、不飽和脂肪族基等であり得る。また、これらの脂肪族基は、水素原子の一部又は全部が、エポキシ基、アミノ基、その他の基で置換されていてもよい。
【0018】
前記一般式:R1Si(OR2)3又は一般式:R1Si(OR2)2R3において、それぞれのR2、R3で示される非置換の一価炭化水素基は特に限定されず、炭素数が1~12のアルキル基等の飽和脂肪族基等であり得る。R2、R3の炭素数は1~3であることがより好ましい。なお、R2の非置換の一価炭化水素基は、炭素数が多くなると、アルコキシ基の加水分解、縮合反応が遅くなるため、好ましくはメチル基又はエチル基、より好ましくはメチル基である。
【0019】
またLED-パッケージは、動作中のLEDチップからの発熱により温度が上がるため、使用する部材にも耐熱性が求められるという理由で、本発明で用いられるアルコキシシランの1分子に含まれる炭素数は4以上であることが好ましく、また15以下であることが好ましい。
【0020】
アルコキシシランの例としては、たとえば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメトキシジフェニルシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。アルコキシシランは、単一種を用いてもよいが、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0021】
本発明では、β型サイアロン蛍光体を得るための原料混合粉末を焼成して焼成物を得る焼成工程と、焼成物の粉末をアルコキシシランと混合処理する混合工程を含み、レーザー回折・散乱法にて測定した、前記β型サイアロン蛍光体の平均粒子径D50が、前記混合工程前の焼成物の粉末の平均粒子径D50に対し1.2倍以上であることが必要であり、1.4倍以上が好ましく、1.7倍以上がより好ましく、2.1倍以上がさらにより好ましく、2.5倍以上が最も好ましい。1.2倍未満である場合、得られる蛍光体を用いた発光素子の輝度が十分に向上しない傾向がある。一方、この倍率は高すぎても特性が低下する傾向があり、前記β型サイアロン蛍光体の平均粒子径D50が、前記アルコキシシランとの混合工程前の焼成物の粉末の平均粒子径D50に対し、8.0倍以下であることが、これを発光素子や発光装置として用いたときの発光特性の観点より好ましい。なお、前記β型サイアロン蛍光体の平均粒子径D50は、前記混合工程後、本発明の効果を妨げる例外的な巨大粒子を除去した後の測定値である。
【0022】
前記アルコキシシランとの混合工程により、β型サイアロン蛍光体の平均粒子径D50が増大する理由は、混合工程前の焼成物の粉末の凝集であると考えられる。本発明での凝集とは、アルコキシシランのメトキシ基やエトキシ基が加水分解して水酸基になり、β型サイアロン蛍光体粒子の表面に存在する水酸基と脱水縮合を起こして化学結合を形成することで、アルコキシシランを介してβ型サイアロン蛍光体がさらに大きな二次粒子となると推定される。
【0023】
<アルコキシシランとの混合工程>
本発明において、焼成物の粉末をアルコキシシランと混合処理する混合工程は、混合工程前の焼成物の粉末とアルコキシシランを混合すること、及び混合後又は混合途中でこれを乾燥することを含む。
【0024】
<混合>
焼成物の粉末とアルコキシシランを混合する方法については、これらを均一に混合することができれば、特に限定されるものではない。
また、アルコキシシランは、単独で使用してもよいが、焼成物の粉末との均一な混合を助けるために、アルコキシシランを溶解できる溶媒に混合して使用してもよい。このような溶媒としては、例えば、メタノールやエタノール等が挙げられる。更に、β型サイアロン蛍光体粒子とアルコキシシランとの脱水縮合反応を促進するために、アルコキシシランを水に溶解させて加水分解させてから混合に使用してもよい。
【0025】
β型サイアロン蛍光体粒子に対するアルコキシシランの添加量は特に限定はされない。混合工程後のβ型サイアロン蛍光体粒子の平均粒子径D50は、混合工程前の焼成物の粉末とアルコキシシランの混合比率を変えることによって調整することができる。アルコキシシランは、混合工程前の焼成物の粉末100質量部に対して1.0質量部以上、10.0質量部以下となるように混合することが望ましい。なお、添加割合が多すぎると、乾燥のために熱をかけた際にアルコキシシランが変色し、β型サイアロン蛍光体の耐熱性が低下する原因となることがある。十分な凝集を得るためには、アルコキシシランは混合工程前の焼成物の粉末100質量部に対して3.0質量部以上配合することがより好ましく、5.0質量部以上配合することがさらにより好ましい。
【0026】
<乾燥>
焼成物の粉末とアルコキシシランを混合した後に乾燥することで、アルコキシシランと焼成物の粉末との脱水縮合を促進させ、粉末同士がさらに一部凝集したβ型サイアロン蛍光体を得ることができる。この際、アルコキシシランが完全に乾燥して塊状になるまで十分乾燥することが必要となる。アルコキシシランの種類によるが、通常は100℃から200℃の温度範囲で乾燥することが好ましい。乾燥時間は特に制限されないが、2~24時間であることが好ましい。なお本発明のβ型サイアロン蛍光体の製造方法では、焼成物の粉末とアルコキシシランは均一に十分混合されることが好ましいが、乾燥が終了した段階において、多数の焼成物の粉末が凝集してしまい、粒子径が平均値から極端に外れて大きいβ型サイアロン蛍光体の粒子が微量存在している場合があるが、このような粒子は本発明の効果を妨げる例外的な巨大粒子として、例えば篩を用いるなどして、その混入が無いことの確認ができ、またはその混入を防止することができる。この場合、平均値から極端に外れて大きい粒子とは、混合工程前の焼成物の粉末の平均粒子径D50に対し、少なくとも5倍以上の目開きを有する篩上に残る大きさの粒子である。なおこの操作は、巨大粒子の除去が目的であるため、基本的に殆ど全ての粒子を篩下に落とす操作となる。
【0027】
本発明の製造方法により得られるβ型サイアロン蛍光体は、例えば励起源として発光半導体素子と、前記蛍光体を含む封止樹脂とを組み合わせた発光素子に用いることができ、前記発光素子は、さらに発光装置に用いることができる。発光装置としては、照明装置、バックライト装置、画像表示装置及び信号装置等がある。
前記半導体発光素子は、240~500nmの波長の光を発するものが望ましく、なかでも420nm以上500nm以下の青色LEDが好ましい。
【0028】
発光装置に使用する蛍光体としては、本発明の製造方法により得られるβ型サイアロン蛍光体に加えて、他の蛍光体を併用することができる。本発明の製造方法により得られるβ型サイアロン蛍光体と併用できる他の蛍光体は、特に限定されるものではなく、発光装置に要求される輝度や演色性等に応じて適宜選択可能である。本発明の製造方法により得られるβ型サイアロン蛍光体と他の発光色の蛍光体とを混在させることにより、昼白色~電球色の様々な色温度の白色を実現することができる。特に、赤色蛍光体として、半値幅の狭い発光スペクトルを有するK2SiF6:Mn4+(KSF)蛍光体を用い、励起源として青色LEDを用いると、高色域で高輝度な発光装置が得られるため好ましい。
【0029】
本発明の製造方法により得られるβ型サイアロン蛍光体は大きな二次粒子の状態になっているので、これを発光装置に用いる場合、高輝度を得ることができる。
【実施例】
【0030】
本発明を以下に示す実施例によってさらに詳しく説明する。なお、以下の実施例は、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0031】
<実施例1~8及び比較例1>
実施例1~8及び比較例1は、いずれも一般式がSi5.75Al0.25O0.25N7.75:Eu2+で表されるβ型サイアロン蛍光体に基づくものである。比較例1の蛍光体は、従来のβ型サイアロン蛍光体の製造方法、即ちアルコキシシランとの混合工程を有しない方法で得られたものである。一方、実施例1~8の蛍光体は、比較例1のβ型サイアロン蛍光体(即ち混合工程前の焼成物の粉末)をアルコキシシランで処理し、平均粒子径をさらに拡大させる製造方法で得られたものである。
【0032】
<比較例1>
比較例1のβ型サイアロン蛍光体は、以下に記載するように、原料混合粉末を焼成して焼成物を得る焼成工程を実施し、焼成工程後の焼成物に、さらに解砕粉砕処理、分級処理、アニール処理及び酸処理を施して製造した。
【0033】
(焼成工程、原料混合粉末と焼成)
α型窒化ケイ素(SN-E10グレード、酸素含有量1.0質量%、宇部興産社製)95.58質量%、窒化アルミニウム(Eグレード、酸素含有量0.8質量%、トクヤマ社製)2.89質量%、酸化アルミニウム(TM-DARグレード、大明化学社製)0.93質量%、及び酸化ユーロピウム(RUグレード、信越化学工業社製)0.60質量%となるように秤量した。当該原料の配合比は、β型サイアロンの一般式:Si6-zAlzOzN8-zにおいて、酸化ユーロピウムを除いて、z=0.25となるように設計した。この原料混合粉末をV型混合機(S-3、筒井理化学器械社製)で10分間乾式混合した。混合後の原料のうち、目開き250μmのナイロン製篩を通過したものを以下の工程に用いた。前記混合物を蓋付きの円筒型窒化ホウ素製容器(N-1グレード、デンカ社製)に充填し、カーボンヒーターの電気炉で0.8MPaの加圧窒素雰囲気中、2000℃で15時間放置して焼成を行った。焼成終了後、容器を取り出し、室温になるまで放置した。
【0034】
(焼成物の解砕、粉砕、分級処理)
得られた塊状の焼成物を、ロールクラッシャーで解砕し、目開き150μmの篩を通過させた粉体を以下の処理に用いた。
【0035】
(アニール処理)
前記焼成工程後の粉体を、アルゴンガス雰囲気下、雰囲気圧力0.15MPaで1450℃に8時間保持した。
【0036】
(酸処理)
アニール処理後の粉体を、フッ化水素酸と硝酸の混酸に30分間浸すことにより酸処理を行った。酸処理後の粉体から酸を分離するため、粉体を混酸ごと合成樹脂製フィルタに流し、フィルタ上に残った粉体を水洗いして比較例1のβ型サイアロン蛍光体を得た。
【0037】
<実施例1>
比較例1のβ型サイアロン蛍光体粒子と、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-403、信越化学工業社製)とを、β型サイアロン蛍光体粒子100質量部に対し3.0質量部の比率となるように配合し、10分間混合した。混合後に150℃で2時間乾燥し、乾燥後のβ型サイアロン蛍光体を目開き75μmの篩を用いて、巨大粒子を除去した。殆ど全ての粒子は篩下で回収され、処理後のβ型サイアロン蛍光体を得た。
【0038】
<実施例2~7>
実施例2~7は、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランの配合量、乾燥後の篩の目開きを、それぞれ以下のように変更したこと以外は実施例1と同じ条件で製造した。
【0039】
実施例2~4では、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランの配合量をβ型サイアロン蛍光体粒子100質量部に対してそれぞれ1.0質量部、5.0質量部、10.0質量部とし、乾燥後の篩の目開きを75μmとした。
【0040】
実施例5~7では、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランの配合量をβ型サイアロン蛍光体粒子100質量部に対してそれぞれ3.0質量部、5.0質量部、10.0質量部とし、乾燥後の篩の目開きを150μmとして、巨大粒子を除去した。殆ど全ての粒子は篩下で回収され、実施例5~7のβ型サイアロン蛍光体を得た。
【0041】
<実施例8>
実施例8では、アルコキシシランとして3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(KBE-503、信越化学工業社製)を使用し、配合量をβ型サイアロン蛍光体粒子100質量部に対して5.0質量部としたこと以外は実施例1と同じ条件で製造した。
【0042】
<β型サイアロン蛍光体の評価>
得られた実施例1~8、比較例1のβ型サイアロン蛍光体を以下の方法で評価した。評価結果を表1に示す。
【0043】
<平均粒子径D50>
表1に示す実施例1~8、比較例1の、混合工程前の焼成物の粉末の平均粒子径D50及びβ型サイアロン蛍光体の平均粒子径D50は、どちらも粒度分布測定装置(MT―3300EXII、マイクロトラック・ベル社製)を用いて、JIS Z8825(2013)に準拠して、レーザー回折・散乱法による粒子径分布測定により得られた体積基準の積算分率における50%粒子径(D50)である。測定の前処理として、分散剤(ヘキサメタリン酸ナトリウム)を0.2重量%加えた水溶媒中に蛍光体を分散させ、超音波ホモジナイザー(US-150E、日本精機製作所社製)で3分間分散処理を実施した。またこれらの値から、混合工程前後の比率(β型サイアロン蛍光体の平均粒子径D50/混合工程前の焼成物の粉末の平均粒子径D50)の値を併せて記載した。
【0044】
<量子効率>
得られた実施例1~8、比較例1のβ型サイアロン蛍光体の基本的な特性として、その吸収率、及び量子効率を、次の様な方法により、常温下で評価した。即ち、積分球(φ60mm)の側面開口部(φ10mm)に、反射率が99%の標準反射板(スペクトラロン、Labsphere社製)をセットし、この積分球内に、発光光源(Xeランプ)から455nmの波長に分光した単色光を光ファイバーにより導入し、反射光のスペクトルを分光光度計(MCPD-7000、大塚電子社製)により測定した。その際、450~465nmの波長範囲のスペクトルから励起光フォトン数(Qex)を算出した。次に、表面が平滑になるようにβ型サイアロン蛍光体を充填した凹型のセルを、積分球の開口部にセットし、波長455nmの単色光を照射し、励起反射光及び蛍光のスペクトルを分光光度計により測定した。得られたスペクトルデータから励起反射光フォトン数(Qref)及び蛍光フォトン数(Qem)を算出した。なお励起反射光フォトン数は、励起光フォトン数と同じ波長範囲で、蛍光フォトン数は、465~800nmの範囲で算出した。得られた三種類のフォトン数から、吸収率(=(Qex-Qref)/Qex×100(%))、内部量子効率(=Qem/(Qex-Qref)×100(%))、外部量子効率(=Qem/Qex×100(%))を求めた。
【0045】
<相対ピーク強度>
実施例1~8、比較例1で得られたβ型サイアロン蛍光体の発光特性を調べるため、それぞれの発光スペクトルのピーク強度を測定し、YAG:Ce蛍光体(P46Y3、化成オプトニクス社製)の発光スペクトルのピーク高さを100%としたときの相対ピーク強度(%)を求めた。即ち、実施例1~8、比較例1で得られたβ型サイアロン蛍光体の粉末を、それぞれ縦10mm×横10mm×高さ45mmの2面透明石英セルに入れ、50回タッピングした後、セルの方向を180度変え、更に50回タッピングした。その蛍光体粉末の入ったセルを分光蛍光光度計(F7000、日立ハイテクノロジーズ社製)の試料室内にあるセルホルダーに取り付けた。このセルに、発光光源(Xeランプ)から、455nmの波長に分光した単色光を照射した。この単色光を励起源として、前記分光蛍光光度計により各蛍光体の発光スペクトルのピーク強度を測定した。なお、前記各蛍光体の発光スペクトルのピーク強度の測定値は、それぞれ同測定によるYAG:Ce蛍光体(P46Y3、化成オプトニクス社製)の発光強度を100%とした相対ピーク強度(%)に換算し、表1に示した。
【0046】
<発光素子の製造>
実施例1~8、比較例1で得られたβ型サイアロン蛍光体を、発光素子に用いた場合の特性を評価するため、前記の実施例及び比較例のβ型サイアロン蛍光体を、それぞれKSF蛍光体(KR-2K01、波長455nmの励起光を受けた際の発光ピーク波長は631nm、デンカ社製)と共に硬化性シリコーン樹脂(KER-6150、信越化学工業社製)に添加し、脱泡、混練した後、ピーク波長450nmの青色発光半導体素子を接合した表面実装タイプのパッケージにポッティングし、更にそれを熱硬化させることによって白色LEDを作製した。KSF蛍光体とβ型サイアロン蛍光体との添加量比は、通電発光時に白色LEDの色度座標(x、y)が(0.28、0.27)になるように調整した。
【0047】
<相対全光束>
実施例1~8、比較例1のβ型サイアロン蛍光体を含む、前記白色LEDのうち、特に色度xが0.275~0.284、色度yが0.265~0.274の範囲内に収まる10個を選別し、それぞれ各白色LEDを通電発光させ、分光光度計(MCPD-9800、大塚電子社製)に直径300mm積分半球(大塚電子社製)とを組み合わせた全光束測定装置を用いた測定により各全光束を求め、それらの平均値を全光束の代表値とした。なお表1には、比較例1の全光束を100%としたときの相対値を相対全光束(%)として示した。この相対全光束が大きい程、発光素子としての輝度が高いことを示している。なお本発明では、元の実施例も比較例も、元は同じβ型サイアロン蛍光体の粒子を用いていることに鑑み、比較例1の相対全光束(100%)に対して、少なくとも1%以上向上すれば、本発明の製造方法の効果が明確に発現されている。
【0048】
【0049】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明であるβ型サイアロン蛍光体の製造方法の実施により、例えば実装したときにも輝度を保つβ型サイアロン蛍光体を得ることができる。本製造方法により得られたβ型サイアロン蛍光体は、青色光により励起され、高輝度の緑色発光を示すことから、例えば青色光を励起源とする白色LED用の蛍光体として好適に使用できるものであり、前記白色LEDは、照明器具、液晶テレビやスマートフォン等のバックライト用発光装置に好適に使用できる。