IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アロン化成株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】硬質塩化ビニル系樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20220107BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20220107BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20220107BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
C08L27/06
C08J5/00 CEV
C08K3/22
C08K5/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017240246
(22)【出願日】2017-12-15
(65)【公開番号】P2019108411
(43)【公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000505
【氏名又は名称】アロン化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】河村 学
(72)【発明者】
【氏名】堀 昌広
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-159774(JP,A)
【文献】特開2016-193978(JP,A)
【文献】国際公開第2018/143455(WO,A1)
【文献】特開2001-139698(JP,A)
【文献】特開2003-329176(JP,A)
【文献】特開2008-101142(JP,A)
【文献】特開2015-232629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
C08J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル樹脂と、該塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.05~5質量部の複合酸化物系無機顔料を含有する、硬質塩化ビニル樹脂成形体であって、前記複合酸化物系無機顔料が、酸化鉄(Fe )及び酸化クロム(Cr )より得られた複合酸化物、又は酸化チタン(TiO )、酸化アンチモン(Sb )、及び酸化クロム(Cr )より得られた複合酸化物であり、前記複合酸化物系無機顔料の面積基準のメジアン径が1.0~100μmであり、さらに、酸化チタン(TiO )を含む無機顔料を含有する、硬質塩化ビニル系樹脂成形体。
【請求項2】
さらに、有機顔料を含有する、請求項1記の硬質塩化ビニル系樹脂成形体。
【請求項3】
管、継手、又はマスである、請求項1又は2記載の硬質塩化ビニル系樹脂成形体。
【請求項4】
外表面側に請求項1~いずれか記載の硬質塩化ビニル系樹脂成形体からなる層を有する複層構造からなる、硬質塩化ビニル系樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水道管、排水管、継手、マス、雨どい等の流体輸送用材料、窓枠、屋根材等の屋外建材用材料等として用いられ得る硬質塩化ビニル系樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
屋外で用いられる硬質塩化ビニル樹脂成形体としては、水道管としての用途が広く知られているが、それ以外にも排水管や継手、マス、雨どい等の流体輸送用や、窓枠、屋根材等の屋外建材用等、屋外で太陽光に曝される用途も多く、特に夏場は、強烈な太陽光に照射された成形体の表面温度が高くなり、不可逆的な熱変形が起きてしまうことが問題となっている。
【0003】
特許文献1には、屋外建材用の塩化ビニル樹脂に、赤外線透過性の優れた有機着色剤と共に、平均粒径が1.0μm以下の炭酸カルシウムを配合した塩化ビニル系樹脂硬質成形品は、赤外線を散乱させずに透過させることができるので、成形品の表面温度の上昇が抑えられ、熱変形しにくい屋外建材用の成形品が得られることが開示されている。
【0004】
特許文献2は、硬質塩化ビニル系樹脂管に関する発明を開示しているが、やはり赤外線を吸収しにくいという観点から、有機系の黒色顔料を用いる硬質塩化ビニル系樹脂管は、赤外線が照射されても管の表面温度が上がりにくいことが開示されている。
【0005】
しかしながら、これらの有機系の着色剤は耐候劣化しやすく、太陽光の暴露によって変色してしまうという課題に対して、特許文献3には、複合酸化物からなる無機系顔料を用いた硬質塩化ビニル系樹脂管が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-139698号公報
【文献】特開2003-329176号公報
【文献】特開2013-159774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3においても、変色が起き難い実施例1では管温度の上昇を抑える効果が十分でなく、それよりは温度上昇を抑える効果が優れる実施例2では比較例1よりもΔb値が大きい、すなわち黄変してしまうことが示されている等の効果が不十分であるうえに、管の変形を抑える効果も不十分なものである。
【0008】
本発明の課題は、太陽光の照射による昇温や変形を抑制し、長期間太陽光下で屋外曝露された後も変色し難い、硬質塩化ビニル樹脂系成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
〔1〕 塩化ビニル樹脂と、該塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.05~5質量部の複合酸化物系無機顔料を含有する、硬質塩化ビニル樹脂成形体であって、前記複合酸化物系無機顔料の面積基準のメジアン径が1.0~100μmである、硬質塩化ビニル系樹脂成形体、並びに
〔2〕 外表面側に前記〔1〕記載の硬質塩化ビニル系樹脂成形体からなる層を有する複層構造からなる、硬質塩化ビニル系樹脂成形体
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の硬質塩化ビニル樹脂系成形体は、太陽光の照射による昇温や変形を抑制し、長期間太陽光下で屋外曝露された後も変色し難いという優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の硬質塩化ビニル系樹脂成形体は、塩化ビニル樹脂と大粒径の複合酸化物系無機顔料を含むものであり、大粒径の複合酸化物系無機顔料により、赤外線を反射するため、本発明の成形体を太陽光に暴露しても成形体の温度が上がりにくく、熱変形が抑制される。また、大粒径の複合酸化物系無機顔料は耐久性が高く、光劣化による変色も抑えることができる。
【0012】
光は電磁波の一種であり、波長が380~750nmの電磁波が可視光と呼ばれる一方で、可視光よりも波長が長く、上限が1mmまでの電磁波は赤外線と呼ばれ、目には見えないが物質を温める力が強い。物質に電磁波が照射されたとき、電磁波は反射、吸収、透過の少なくともいずれかの作用をもたらすが、物質の粒径が電磁波の波長に比べて十分に小さいとき電磁波は透過する傾向が強くなる。そのため、従来は、顔料を含む樹脂成形品では、太陽光による加熱変形を避けるために、粒径の小さい顔料を用いることで、太陽光に含まれる赤外線が樹脂組成物成形品を透過して成形品を加熱させないようにするのが技術常識であった。これに対し、本発明においては、赤外線を反射する効果が高い複合酸化物系無機顔料で、より大面積(大粒径)のものを用いることにより、赤外線を表面で反射して成形品の加熱を防ぐメカニズムを採用している点が従来技術とは異なる。
【0013】
なお、本発明において、本発明の効果を奏する複合酸化物系顔料の粒径として、後述のように面積基準のメジアン径を採用している。この理由は、複合酸化物系無機顔料は焼結体の粉砕工程を経て製造されるため、湿式又は乾式、粉砕機構の違い等によって粒子形状に違いが生じるが、赤外線反射効果については粒子の投影面積が最も影響するからである。工業的に生産販売される顔料の多くが、粒径の代表値としてレーザー回折式粒度分布計による平均粒径の値を表示しているが、通常は、粒子を真球状と仮定してその直径を数平均で表したものであるため、赤外線の反射効果とは必ずしも傾向が一致しない。
【0014】
本発明における塩化ビニル樹脂としては、塩化ビニル単独重合体、塩化ビニル単量体と塩化ビニルと共重合可能な単量体との共重合体(通常、塩化ビニル50質量%以上の共重合体)、任意の重合体に塩化ビニルモノマーをグラフト共重合したグラフト共重合体、塩化ビニル樹脂の少なくとも一部を塩素化した塩素化塩化ビニル共重合体等が挙げられる。
【0015】
塩化ビニルと共重合可能な単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、アクリル酸、アクリル酸エチル等のアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸エステル、エチレン、プロピレン等のオレフィンモノマー、アクリロニトリル、スチレン、塩化ビニリデン等の塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有する単量体等が挙げられる。
【0016】
塩化ビニル樹脂の平均重合度は、成形時の伸び特性、耐衝撃強、及び成形性の観点から、好ましくは600~2,500、より好ましくは800~1,400である。塩化ビニル樹脂の平均重合度は、JIS K 6720-2に準拠して測定することができる。
【0017】
本発明における複合酸化物系無機顔料は、通称CICP(Complex Inorganic Color Pigment)として知られている複数の金属酸化物の複合体であり、安定かつ均一な結晶構造を有する。
【0018】
複合酸化物系無機顔料の具体例としては、英国染料染色学会英国染料染色学会(The Society of Dyers and Colourists, SDC)と米国繊維化学技術・染色技術協会(The American Association of Textile Chemists and Colorists, AATTC)によって規定されたカラーインデックス番号として、Pigment Yellow 53(Ti-Ni-Sb系)、Pigment Yellow 119(Fe-Zn,Fe-Zn-Ti系)、Pigment Yellow 157(Ti-Ba-Ni系)、Pigment Blue 28(Co-Al系)、Pigment Blue 36(Co-Cr-Al系)、Pigment Green 19(Ti-Co-Ni-Zn系)、Pigment Green 26(Co-Zn-Cr-Ti系)、Pigment Green 50(Co-Zn-Ni-Ti系)、Pigment Brown 24(Ti-Cr-Sb系)、Pigment Brown 29(Cr-Fe系)、Pigment Brown 33(Fe-Zn-Cr系)、Pigment Black 17(Fe-Cr系)、Pigment Black 27(Co-Fe-Cr系)、Pigment Black 28(Cu-Cr-Mn系)等が挙げられ、1種または複数の複合酸化物系顔料を用いることができる。
【0019】
本発明における複合酸化物系無機顔料は、赤外線の反射及び耐久性の観点から、大粒径である点に特徴を有しており、面積基準のメジアン径(D50)として、1.0~100μmであり、好ましくは1.4~60μm、より好ましくは1.8~30μm、さらに好ましくは1.8~10μmである。面積基準のメジアン径は、走査型電子顕微鏡による測長解析で求められる。
【0020】
複合酸化物系無機顔料の含有量は、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.05~5質量部であり、好ましくは0.1~2質量部である。
【0021】
本発明の成形体は、複合酸化物系無機顔料以外の無機顔料を含んでいてよく、赤外線反射率が高いことから、金属元素を2種以上含んでいない無機顔料、即ち1種の金属元素を含む、無機顔料を含有することが好ましい。かかる無機顔料としては、Pigment White 4(ZnO)、Pigment White 6(TiO)、Pigment Red 101(Fe)、Pigment Green 17(Cr)、Pigment Black 11(Fe)等が挙げられ、これらは、単独であっても、2種以上を併用していてもよい。いずれも安価で入手しやすい点が優れているが、なかでも好ましいのは、安価でより赤外線反射率が高いPigment White 6(TiO)である。酸化チタン(TiO)にはアナタース、ルチル、ブルッカイト等の結晶系が知られているが、顔料として好ましいのは化学的に安定なルチルである。
【0022】
複合酸化物系無機顔料以外の無機顔料は、複合酸化物系無機顔料と同様に大面積であることが好ましいが、複合酸化物顔料に比べて結晶が硬い場合が多いため、特に酸化チタンなどでは大面積のものを用いると樹脂成型金型に傷がつきやすいため、面積基準のメジアン径(D50)として、好ましくは0.05~10μm、より好ましくは0.1~6μm、さらに好ましくは0.2~3μmである。ここで、面積基準のメジアン径は、電子顕微鏡による画像解析から算出する。
【0023】
1種の金属元素を含む無機顔料は、多いほど安価で赤外線反射率の効果を高めることができるが、多すぎて成形体全体の色目にこの無機顔料の色目に影響しすぎると用途によっては好ましくないこともある。そのため、1種の金属元素を含む無機顔料の含有量は、複合酸化物系無機顔料の、好ましくは20質量倍以下、より好ましくは0.1~10質量倍、さらに好ましくは0.5~5質量倍である。
【0024】
また、本発明の成形体は、有機顔料を含有していてもよく、無機顔料に比べてはるかに多種多様な色目のものがある有機顔料を配合することにより、成形体の色目を自由に調整することができる。有機顔料は、一般に無機顔料に比べて高価であり、赤外線の反射にはほとんど寄与せず、また無機顔料に比べて耐光性に劣るが、フタロシアニン系顔料は有機顔料のなかでも例外的に耐光性に優れるので好ましい。フタロシアニン系顔料の具体例としては、Pigment Green 15(銅フタロシアニン)、Pigment Blue 15(銅フタロシアニンブルー)、Pigment Green 7(銅フタロシアニングリーン)、Pigment Green 36(臭素化銅フタロシアニングリーン)等が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。
【0025】
有機顔料は、あくまでも成形体調色をするための添加剤であるため、その含有量は、複合酸化物系無機顔料を含む無機顔料の合計100質量部に対して、好ましくは10質量部以下、より好ましくは0.05~5質量部である。
【0026】
本発明の成形体は、熱安定剤、充填剤、滑剤等の添加剤を含有していてもよい。
【0027】
熱安定剤としては、三塩基性硫酸鉛、ステアリン酸鉛(II)等の鉛系安定剤;ジブチル錫マレート、ジブチル錫メルカプト、ジオクチル錫マレートポリマー等の錫系安定剤;ステアリン酸、ラウリン酸、リシノール酸等の高級脂肪酸の金属塩である金属セッケン;鉛白、塩基性亜硫酸鉛、三塩基性マレイン酸鉛等の鉛化合物;有機錫化合物、アンチモン化合物、エポキシ化合物、ホスファイト、β-ジケトン、ポリオール、フェノール系抗酸化剤等が挙げられ、これらの中では、熱安定剤としての効果が高い鉛系安定剤及び錫系安定剤が好ましく、熱安定剤と滑剤の複合効果を有するステアリン酸鉛(II)がより好ましい。
【0028】
熱安定剤の含有量は、成形加工性及び成形品の機械物性の観点から、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、好ましくは0.3~10質量部、より好ましくは0.5~3質量部である。
【0029】
充填剤としては、炭酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ、シリカ等の無機充填剤が挙げられる。
【0030】
無機充填剤もいくらか赤外線反射効果を有する場合があるが、もともと無色であるため、複合酸化物系無機顔料のように大粒径のものを選択することによる耐変色の効果はあまり期待できない。そのため、無機充填剤は、分散性の観点から、比較的小粒径のものの方が好ましい。分散性に関する粒径の判断基準は、数平均粒径の値で判断することが広く行われており、コールターカウンター等の方法で測定された平均粒径が市販品のカタログ値に表示されているから選択するうえでも簡便である。無機充填剤の数平均粒径は、好ましくは0.01~10μm、より好ましくは0.05~5μmである。
【0031】
充填剤の含有量は、組成物コンパウンドの流動性改良及び成形品表面の平滑性や機械的強度の観点から、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、好ましくは0.3~10質量部、より好ましくは0.5~5質量部である。
【0032】
滑剤としては、例えば、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス等の脂肪族炭化水素系、ステアリルアルコール等の高級脂肪族アルコール系、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ヒドロキシステアリン酸等の高級脂肪酸系、ブチルステアレート等のモノアルコール脂肪酸エステル系、グリセリンモノステアレート、グリセリントリステアレート等の多価アルコール脂肪酸エステル系の滑剤等が挙げられる。
【0033】
滑剤は塩化ビニル樹脂に単独で添加してもよく、いったん顔料や充填剤等と複合化したものを添加してもよいが、固体成分の飛散を防ぎ、溶融樹脂中での分散性を高める観点から、顔料や充填剤等と複合化して用いられるのが好ましい。
【0034】
滑剤の含有量は、成形性及び経済性の観点から、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、好ましくは0.05~10質量部、より好ましくは0.1~5質量部である。
【0035】
他の添加剤としては、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、アジピン酸-2-エチルヘキシル等の可塑剤、CPE系強化剤、MBS系強化剤、アクリル系強化剤等の改質剤、帯電防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、発泡剤等が挙げられる。
【0036】
本発明の成形体は、前記の塩化ビニル樹脂及び複合酸化物系無機顔料、及び必要に応じて用いられる他の顔料や添加剤を含む原料成分を混合し、混練して、常法により製造することができる。
【0037】
成形体の表面及び内部で原料成分の濃度分布が存在する場合、成形体が、主に光を受ける外表面と比較的受けにくい内表面とを有するときには、成形体の外表面付近で複合酸化物系無機顔料の濃度が高いものが好ましく、成形体の外表面付近で複合酸化物系無機顔料及び1種の金属元素を含む無機顔料の両方の濃度が高いものがより好ましい。このような濃度分布は、単相構造のなかであってもよく、複層構造であってもよい。また、外表面が本発明の効果を阻害しない保護層により被覆されていてもよい。
【0038】
成形体が複層構造からなる場合は、外表面側に本発明の成形体からなる層を有することが好ましく、その内層は、複合酸化物系無機顔料を有していない塩化ビニル樹脂層であってもよい。
【0039】
本発明の成形体はその用途に応じた形状に成形され、管、継手、マス、板、棒等として好適に用いることができる。
【実施例
【0040】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0041】
複合酸化物系無機顔料の製造例1
酸化鉄(Fe)800g及び酸化クロム(Cr)200gを秤量し、カワタ製のスーパーミキサーSMV-20Aを用いて均一に混合した。ついで、得られた混合物を匣鉢に入れ、電気炉で1000℃で6時間焼成し結晶化させて黒色に発色させ、Pigment Brown 29を製造した。焼成品をアルミナボールと共にアルミナ製のボールミルに入れて振動ミルで回転数300rpm、60分粉砕した後、日清エンジニアリング製の気流分級機AC-20型で分級し、表1に示す粒径(D50)を有する微粉、中粉、粗粉の3種に分類した。
【0042】
複合酸化物系無機顔料の製造例2
酸化チタン(TiO)750g、酸化アンチモン(Sb)100g、及び酸化クロム(Cr)150gを秤量し、カワタ製のスーパーミキサーSMV-20Aを用いて均一に混合した。ついで、得られた混合物を匣鉢に入れ、電気炉で1000℃で6時間焼成し結晶化させて茶色に発色させ、Pigment Brown 24を製造した。焼成品をアルミナボールと共にアルミナ製のボールミルに入れて振動ミルで回転数300rpm、60分粉砕した後、日清エンジニアリング製の気流分級機AC-20型で分級し、表1に示す粒径(D50)を有する微粉、中粉、粗粉の3種に分類した。
【0043】
有機顔料の製造例1
粗粉砕β型銅フタロシアニン238.5g、オキソバナジルフタロシアニン12.5g、及び硫酸ナトリウム250gをアルミナボールと共にアルミナ製のボールミルに入れて振動ミルで回転数300rpm、180分粉砕した後、得られた混合摩砕物を、80℃の脱イオン水5Lに投入し、1時間攪拌後遠心分離して上澄み液を捨てることを3回繰り返した後、固形分を120℃で6時間乾燥し、Pigment Blue 15を製造した。フリッチュ社製のロータスピードミルP-14で解砕後、日清エンジニアリング製の気流分級機AC-20型で分級し、表1に示す粒径(メジアン径D50)を有する微粉、中粉、粗粉の3種に分類した。
【0044】
粒径は、得られた顔料をシクロヘキサン中に超音波分散(100W、5分間)させてから、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、型式:SU-1510)により加速電圧10kVで適宜枚数を撮影した拡大写真にて、二次元画像上の一次粒子50個をランダムに選択して、個々の粒子の長径(最大長)と短径(最小長)を測定して、面積基準のメジアン径(D50)を算出した。
【0045】
【表1】
【0046】
実施例1~10及び比較例1~4(実施例6、7は参考例である)
表2に示す原料を用い、単層管を製造した。また、実施例1、2、4及び比較例1については、さらに二層管を製造した。
【0047】
表2に示す原料を、カワタ社製のスーパーミキサーLMI-Pに供給し、110℃になるまで昇温しながら均一に混合し、塩化ビニル系樹脂組成物を得た。
【0048】
【表2】
【0049】
塩化ビニル樹脂の重量平均重合度の測定は、JIS K-6720-2に準拠して行った。溶媒には特級のニトロベンゼンを用い、試料200mgをニトロベンゼン40mLに溶解させてから50mLに希釈し、ウベローデ型粘度計を用いて30℃の恒温水槽中にて粘度測定を行い、重量平均重合度を算出した。
【0050】
(1) 単層管の製造
実施例1~10及び比較例1~4で得られた単層管用の塩化ビニル系樹脂組成物を、二軸押出機(異方向回転、L/D=28、先端温度設定190℃)により、外径114mm、パイプ本体厚み3.3mm、長さ2.5mのパイプに成形した。
【0051】
(2) 二層管の製造
表2において、顔料組成物を使用しない以外は同じ原料を用い、内層用塩化ビニル系樹脂組成物を得た。
二層管用の塩化ビニル系樹脂組成物を斜軸異方向回転二軸押出機(三菱重工社製、KMD-60K)を用いて、内層用塩化ビニル系樹脂組成物を同軸異方向回転二軸押出機(ロレパール社製、REX400)を用いて、それぞれ混練し、2層成形ダイに導入することにより、金型部温度200℃、全押出量200kg/hrで二層押出成形を行い、外径114mm、パイプ本体厚み3.3mm、長さ2.5mのパイプに成形した。パイプは、二層管用の塩化ビニル系樹脂組成物からなる外表面層(厚み;0.7mm)と内層用の塩化ビニル系樹脂組成物の内層の二層構造を有する。
【0052】
得られた単層管及び二層管の加熱試験、パイプ変形試験、及び変色試験を行った。結果を表3、4に示す。加熱試験は、全ての単層管及び二層管について、変色試験は、実施例1、2、4、比較例1、4の単層管と実施例2、比較例1の二層管について、それぞれ行った。
【0053】
〔加熱試験〕
外径114mm、パイプ本体厚み3.3mm、長さ2.5mのパイプ2本を平坦なアルミ製基板上に並行に置き、パイプ表面から400mmの高さに投光器(100V-300W)を均等に10個並べて光照射し、パイプ表面温度は赤外線式表面温度計(キーエンス社製非接触ハンディ温度計IT2-80)を用いて、パイプ表面温度5点を測定し、最高温度を表面温度(℃)とした。パイプの表面温度の初期値は23.0℃、単層管では、照射開始後30分で表面温度はほぼ一定温度になったため、開始後60分で測定した。二層管では、単層管よりも早く表面温度が一定になったが、同様に開始後60分で測定した。
【0054】
〔パイプ変形試験〕
室温23℃±2℃の恒温室内で、光照射を6時間と、引き続き室温放置を6時間で1サイクルの加熱サイクルを累積10回、20回、50回行って加熱サイクル後のパイプ変形の程度を以下の方法により測定した。
パイプ変形試験に供したパイプの位置や角度が再現されるようにマーキングをしておき、加熱サイクル後のパイプを取り出し、両端の間に水糸として木綿糸を張って水糸とパイプ表面との間隙をノギスで測定し、パイプ全周、全長の中で最も間隙が広かった場所の間隙をパイプの最大湾曲量(cm)として記録した。加熱サイクルを継続する場合は、パイプの位置や角度が以前と全く同じになるようにセットして加熱サイクルを続けた。
【0055】
〔変色試験〕
パイプを屋外に並べて暴露し、暴露試験の開始前後の色度bを測定し、パイプ表面のCIE色差Δbを算出した。色度の測定には、日本電子工業株式会社製の色差計Σ80を用い、暴露試験前の管頂の色度bをbとし、暴露後の同じ位置の色度bとして、両者の差Δb(=b-b)を求めた。
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
【0058】
以上の結果より、実施例1~10では、比較例1~4に比べて、表面温度の上昇が抑制されており、パイプの変形、変色も抑制されていることが分かる。
実施例3~5の対比から、有機顔料では粒径が異なっても効果に実質的な差異はなく、粒径の調整による効果は、複合酸化物系無機顔料に特有のものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の硬質塩化ビニル系樹脂成形体は、水道管、排水管、継手、マス、雨どい等の流体輸送用材料、窓枠、屋根材等の屋外建材用材料等として
好適に利用できる。