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特許6997636メチシリン耐性ブドウ球菌属(MRS)検査用マイクロデバイスおよびMRSの検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】メチシリン耐性ブドウ球菌属(MRS)検査用マイクロデバイスおよびMRSの検査方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20220107BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20220107BHJP
   G01N 35/08 20060101ALI20220107BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
C12M1/34 B
C12Q1/06
G01N35/08 A
G01N37/00 101
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018007553
(22)【出願日】2018-01-19
(65)【公開番号】P2018113963
(43)【公開日】2018-07-26
【審査請求日】2020-09-03
(31)【優先権主張番号】P 2017007989
(32)【優先日】2017-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発表した刊行物:第45回薬剤耐性菌研究会 プログラム・抄録集、発行者名:薬剤耐性菌研究会、発行年月日:平成28年10月
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発表した刊行物:第86回日本感染症学会西日本地方会学術集会 第59回日本感染症学会中日本地方会学術集会 第64回日本化学療法学会西日本支部総会 合同開催 プログラム・抄録集2016、発行者名:琉球大学大学院 感染症・呼吸器・消化器内科学(第一内科)編集、発行年月日:平成28年10月13日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発表した刊行物:日本臨床微生物学雑誌、第27巻、Supplement 1、発行者名:一般社団法人日本臨床微生物学会、発行年月日:平成28年12月25日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 電気通信回線による発表: 掲載年月日:平成28年10月28日 掲載アドレス1: http://yakutai.dept.med.gunma-u.ac.jp/society/pdf/45th%20Kenkyukai%20Syourokusyu.pdf
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発表した研究集会:第45回薬剤耐性菌研究会、開催場所:安芸グランドホテル(広島県廿日市市宮島口西1丁目1-17)、主催者名:薬剤耐性菌研究会、開催日:平成28年10月21日~22日、発表日:平成28年10月22日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発表した研究集会:第86回日本感染症学会西日本地方会学術集会 第59回日本感染症学会中日本地方会学術集会 第64回日本化学療法学会西日本支部 総会、開催場所:沖縄コンベンションセンター(沖縄県宜野湾市真志喜4丁目3-1)、主催者名:一般社団法人日本感染症学会 公益社団法人日本化学療法学会 開催日:平成28年11月24日~26日 発表日:平成28年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000136354
【氏名又は名称】株式会社フコク
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100129137
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 ゆみ
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100194515
【弁理士】
【氏名又は名称】南野 研人
(72)【発明者】
【氏名】松本 佳巳
(72)【発明者】
【氏名】御子柴 孝晃
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 文章
【審査官】馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-177806(JP,A)
【文献】特開平05-227992(JP,A)
【文献】特開2006-345727(JP,A)
【文献】BioChip J.,2014年,vol.8, no.4,p.282-288
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/34
C12Q 1/06
G01N 35/08
G01N 37/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の開口部、複数の第2の開口部、前記第1の開口部といずれか1つの第2の開口部とを連通する複数の流路、および抗菌薬を含み、
前記各流路は、前記第1の開口部と前記第2の開口部との間において、前記抗菌薬と、被検菌懸濁液との混合液を培養する培養部を含み、
前記第1の開口部と前記培養部との間にネック部を含み、
前記培養部は、前記被検菌懸濁液由来のブドウ球菌の集落形成の有無、集落の大きさ、および/または集落の形態を検出可能に構成された観察部を含み、
前記抗菌薬は、前記各流路の混合液における、前記抗菌薬の種類および前記抗菌薬の濃度の少なくとも一方が異なるように、配置され
前記ネック部は、前記第1の開口部側から前記培養部側に向かって、ネック導入部、ネック最挟部、およびネック拡大部を含み、
前記ネック最挟部は、前記ネック導入部および前記ネック拡大部と連接して配置されており、
前記ネック導入部は、前記第1の開口部側から前記培養部側に向かって狭まるテーパ状であることを特徴とする、メチシリン耐性ブドウ球菌属(MRS)検査用マイクロデバイス。
【請求項2】
前記各流路の観察部の前記被検菌懸濁液由来のブドウ球菌の集落は、光学顕微鏡により観察可能に構成される、請求項1に記載のMRS検査用マイクロデバイス。
【請求項3】
前記ネック拡大部は、前記培養部に臨む対向面を有し、前記対向面は、前記流路の延在方向に直交して内側へ延びる面、または前記培養部に向かって前記流路の内側へ延びる面である、請求項1または2に記載のMRS検査用マイクロデバイス。
【請求項4】
前記各流路の観察部の少なくとも一部が、1つの評価領域内に収まるように配置されている、請求項1からのいずれか一項に記載のMRS検査用マイクロデバイス。
【請求項5】
前記複数の流路は、前記混合液における前記抗菌薬の濃度が、耐性基準濃度未満となるように、前記抗菌薬が配置されている流路を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のMRS検査用マイクロデバイス。
【請求項6】
前記複数の流路は、前記抗菌薬が配置されていないコントロールの流路を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のMRS検査用マイクロデバイス。
【請求項7】
RS検査用マイクロデバイスを用いたMRSの検査方法であって
前記MRS検査用マイクロデバイスは、第1の開口部、複数の第2の開口部、前記第1の開口部といずれか1つの第2の開口部とを連通する複数の流路、および抗菌薬を含み、
前記各流路は、前記第1の開口部と前記第2の開口部との間において、前記抗菌薬と、被検菌懸濁液との混合液を培養する培養部を含み、
前記培養部は、前記被検菌懸濁液由来のブドウ球菌を検出する観察部を含み、
前記抗菌薬は、前記各流路の混合液における、前記抗菌薬の種類および前記抗菌薬の濃度の少なくとも一方が異なるように、配置され、
前記MRS検査用マイクロデバイスの培養部で、抗菌薬と、被検菌懸濁液との混合液を培養する培養工程、
前記培養部の観察部における、前記被検菌懸濁液由来のブドウ球菌の集落形成の有無、集落の大きさ、および/または集落の形態を検出し、各流路の検出結果を比較して評価する検出工程を含むことを特徴とする、MRSの検査方法。
【請求項8】
前記各流路の観察部の前記被検菌懸濁液由来のブドウ球菌の集落は、光学顕微鏡により観察される、請求項7に記載のMRSの検査方法。
【請求項9】
前記MRS検査用マイクロデバイスは、前記第1の開口部と前記培養部との間にネック部を含み、
前記ネック部は、前記第1の開口部側から前記培養部側に向かって、ネック導入部、ネック最挟部、およびネック拡大部を含み、
前記ネック最挟部は、前記ネック導入部および前記ネック拡大部と連接して配置されており、
前記ネック導入部は、前記第1の開口部側から前記培養部側に向かって狭まるテーパ状である、請求項7または8に記載のMRSの検査方法。
【請求項10】
前記ネック拡大部は、前記培養部に臨む対向面を有し、前記対向面は、前記流路の延在方向に直交して内側へ延びる面、または前記培養部に向かって前記流路の内側へ延びる面である、請求項9に記載のMRSの検査方法。
【請求項11】
前記複数の流路は、前記混合液における前記抗菌薬の濃度が、耐性基準濃度未満となるように、前記抗菌薬が配置されている流路を含み、
前記耐性基準濃度未満となるように前記抗菌薬が配置されている流路の培養部の観察部における、前記被検菌懸濁液由来のブドウ球菌の検出結果に基づき、前記被検菌がMRSであるかを判定する判定工程を含む、請求項7から10のいずれか一項に記載のMRSの検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MRS検査用マイクロデバイスおよびMRSの検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、黄色ブドウ球菌および表皮ブドウ球菌等において、メチシリン耐性菌(MRS)が増加している。
【0003】
MRSAにおけるβ-ラクタム薬耐性の耐性因子は、細胞壁合成酵素(PBP2’(Penicillin Binding Protein 2 prime)またはPBP2a(Penicillin Binding Protein 2a))と呼ばれている。この耐性因子は、SCCmec遺伝子カセット内に存在するmecA遺伝子にコードされている。MRSAには、院内感染型(Health-care associated(H))MRSAおよび市中感染型(Community-acquired(CA))MRSAが存在することが知られている。また、SCCmec遺伝子は、複数のタイプ(I~V型)がありH-MRSAは、I、II、またはIII型であるのに対し、CA-MRSAはIVまたはV型が多いことが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
MRSの検査は、微量液体培地希釈法によるオキサシリンのMIC(最少発育阻止濃度)値により判定する方法、オキサシリン含有ディスクにより寒天培地に形成される培養後の阻止円のサイズから耐性を決定する方法(ディスク法)、オキサシリン含有平板への発育の有無によるスクリーニング等の一般的な薬剤感受性検査法を用いたMRSの検査方法により、現在行なわれている。しかしながら、これらの方法は、検査開始から感受性の判定まで、例えば、少なくとも18時間程度を要するため、さらなる迅速化が求められている。
【0005】
また、H-MRSAは、薬剤耐性のレベルが高いのに対し、CA-MRSAは、薬剤耐性のレベルが低い傾向にある。このため、前記一般的な薬剤感受性検査法を用いたMRSの検査方法では、CA-MRSAの検出感度が低いという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、簡便、かつ迅速であり、例えば、さらに、高い検出感度でCA-MRSA等の薬剤耐性のレベルが低いMRSも検出できるMRS検査用マイクロデバイスおよびMRSの検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明のメチシリン耐性ブドウ球菌属(MRS)検査用マイクロデバイス(以下、「MRS検査デバイス」ともいう)は、第1の開口部、複数の第2の開口部、前記第1の開口部といずれか1つの第2の開口部とを連通する複数の流路、および抗菌薬を含み、
前記各流路は、前記第1の開口部と前記第2の開口部との間において、前記抗菌薬と、被検菌懸濁液との混合液を培養する培養部を含み、
前記培養部は、前記被検菌懸濁液由来のブドウ球菌を検出する観察部を含み、
前記抗菌薬は、前記各流路の混合液における、前記抗菌薬の種類および前記抗菌薬の濃度の少なくとも一方が異なるように、配置されていることを特徴とする。
【0008】
本発明のMRSの検査方法(以下、「MRS検査方法」ともいう)は、前記本発明のMRS検査用マイクロデバイスを用い、
前記MRS検査用マイクロデバイスの培養部で、抗菌薬と、被検菌懸濁液との混合液を培養する培養工程、
前記培養部の観察部における、前記被検菌懸濁液由来のブドウ球菌を検出する検出工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のMRS検査デバイスにおいて、前記抗菌薬は、前記各流路の混合液における、前記抗菌薬の種類および前記抗菌薬の濃度の少なくとも一方が異なるように、配置されている。このため、本発明によれば、例えば、前記MRS検査デバイスの複数の流路に、被検菌懸濁液を導入し、前記複数の流路内で、前記抗菌薬および前記被検菌懸濁液との混合液を培養し、各流路における観察部を、例えば、顕微鏡等で観察することによって、MRSを簡便かつ迅速に確認できる。また、本発明によれば、例えば、耐性か否かを個々の細胞の増殖の有無で判別することから、CA-MRSA等の薬剤耐性レベルが低いMRSも高い検出感度で、例えば、簡易的に検査できる。本発明によれば、例えば、同時にベンジルペニシリン(PCG)やクリンダマイシンの感受性も検査することができ、治療薬の選択に有用な情報が、例えば、約3時間で取得できる。
【0010】
このため、本発明は、例えば、臨床検査、環境試験等において、極めて有用である。特に、臨床検査においては、例えば、対象となるブドウ球菌について、適切な抗菌薬の選択が早期に可能となるため、救命率の向上、不要な薬剤使用量の減少等の効果が期待でき、長期的に見れば、薬剤耐性菌の増加を抑制できる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A図1Aは、実施形態1の検査デバイスの一例を示す斜視図である。
図1B図1Bは、実施形態1の検査デバイスにおける上基板の一例を示す下面図である。
図1C図1Cは、実施形態1の検査デバイスにおいて、図1BのI-I方向からみた断面図である。
図1D図1Dは、実施形態1の検査デバイスにおいて、図1BのII-II方向からみた断面図である。
図1E図1Eは、実施形態1の検査デバイスにおいて、図1BのIII-III方向からみた断面図である。
図1F図1Fは、実施形態1の検査デバイスにおいて、図1Bの二点鎖線で囲った部分の拡大図である。
図2図2は、実施形態1における検査デバイスのネック部の他の例を示す下面図である。
図3図3は、実施形態1の検査デバイスの他の例を示す斜視図である。
図4図4は、実施形態1における検査デバイスに被検菌懸濁液を導入する導入方法の一例を示す概略図である。
図5図5は、実施例1における各流路の結果を示す写真であり、(A)は、条件Fにおける各流路を示す写真であり、(B)は、条件Gにおける各流路を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のMRS検査デバイスは、例えば、前記第1の開口部と前記培養部との間において、前記第1の開口部側に隣接する前記流路の内寸よりも狭く形成されたネック部を含む。
【0013】
本発明のMRS検査デバイスにおいて、前記ネック部は、例えば、前記第1の開口部側から前記培養部側に向かって、ネック導入部、ネック最挟部、およびネック拡大部を含み、
前記ネック最挟部は、前記ネック導入部および前記ネック拡大部と連接して配置されており、
前記ネック導入部は、前記第1の開口部側から前記培養部側に向かって狭まるテーパ状である。
【0014】
本発明のMRS検査デバイスにおいて、前記ネック拡大部は、前記培養部に臨む対向面を有し、前記対向面は、前記流路の延在方向に直交して内側へ延びる面、または前記培養部に向かって前記流路の内側へ延びる面であることが好ましい。
【0015】
本発明のMRS検査デバイスにおいて、前記流路は、前記第1の開口部と前記ネック部との間において、狭窄部を含み、
前記狭窄部は、前記第1の開口部側から前記ネック部側に向かって、狭窄導入部、狭窄最挟部および狭窄拡大部を含み、
前記狭窄最挟部は、前記狭窄導入部および前記狭窄拡大部と連接して配置されており、
前記狭窄導入部は、前記第1の開口部側から前記ネック部側に向かって狭まるテーパ状であり、
前記狭窄拡大部は、前記狭窄最挟部側から前記ネック部側に向かって広がる逆テーパ状である。
【0016】
本発明のMRS検査デバイスにおいて、前記観察部は、例えば、隣接する前記培養部の内寸よりも狭く形成されている。
【0017】
本発明のMRS検査デバイスにおいて、前記各流路の観察部の少なくとも一部が、1つの評価領域内に収まるように配置されていることが好ましい。
【0018】
本発明のMRS検査デバイスにおいて、前記複数の流路は、例えば、前記混合液における前記抗菌薬(例えば、オキサシリン)の濃度が、耐性基準濃度未満となるように、前記抗菌薬が配置されている流路を含む。
【0019】
本発明のMRS検査デバイスにおいて、前記抗菌薬は、例えば、ペニシリン系抗菌薬、セファマイシン系抗菌薬、セファロスポリン系抗菌薬、およびリンコマイシン系抗菌薬からなる群から選択された少なくとも1つを含む。前記抗菌薬は、オキサシリン、セフォキシチン、またはセフチゾキシムを含むことが好ましい。
【0020】
本発明のMRS検査デバイスにおいて、前記複数の流路は、例えば、前記抗菌薬が配置されていないコントロールの流路を含む。
【0021】
本発明のMRS検査方法は、例えば、前記各流路の観察部の少なくとも一部が、1つの評価領域内に収まるように配置されているMRS検査デバイスを用い、
前記検出工程において、前記評価領域の各流路における前記被検菌懸濁液由来のブドウ球菌について、数、形態および集落からなる群から選択された少なくとも1つを検出し、比較し、評価する。前記形態は例えば、前記ブドウ球菌の外観的な形でもよいし、前記ブドウ球菌の動きでもよい。また、前記ブドウ球菌が集落を形成する場合、前記形態は、例えば、集落外観、集落同士の結合状態、集落の動き等でもよい。
【0022】
本発明のMRS検査方法において、前記複数の流路は、例えば、前記混合液における前記抗菌薬の濃度が、耐性基準濃度未満となるように、前記抗菌薬が配置されている流路を含むMRS検査用マイクロデバイスを用い、
前記耐性基準濃度未満となるように前記抗菌薬が配置されている流路の培養部の観察部における、前記被検菌懸濁液由来のブドウ球菌の検出結果に基づき、前記被検菌がMRS(例えば、市中感染型MRS)であるかを判定する判定工程を含む。
【0023】
<MRS検査用マイクロデバイスおよびMRSの検査方法>
本発明のMRS検査用マイクロデバイスは、前述のように、第1の開口部、複数の第2の開口部、前記第1の開口部といずれか1つの第2の開口部とを連通する複数の流路、および抗菌薬を含み、
前記各流路は、前記第1の開口部と前記第2の開口部との間において、前記抗菌薬と、被検菌懸濁液との混合液を培養する培養部を含み、
前記培養部は、前記被検菌懸濁液由来のブドウ球菌を検出する観察部を含み、
前記抗菌薬は、前記各流路の混合液における、前記抗菌薬の種類および前記抗菌薬の濃度の少なくとも一方が異なるように、配置されていることを特徴とする。
【0024】
本発明のMRSの検査方法は、前述のように、前記本発明のMRS検査用マイクロデバイスを用い、
前記MRS検査用マイクロデバイスの培養部で、抗菌薬と、被検菌懸濁液との混合液を培養する培養工程、
前記培養部の観察部における、前記被検菌懸濁液由来のブドウ球菌を検出する検出工程を含むことを特徴とする。
【0025】
本発明のMRS検査デバイスにおいて、前記抗菌薬は、前記各流路の混合液における、前記抗菌薬の種類および前記抗菌薬の濃度の少なくとも一方が異なるように、配置されている。このため、本発明によれば、例えば、前記MRS検査デバイスの複数の流路に、被検菌懸濁液を導入し、前記複数の流路内で、前記抗菌薬および前記被検菌懸濁液との混合液を培養する。そして、MRSの検査においては、例えば、この培養時間が、実質的に、検査に要するトータルの時間を決定づける要因となる。本発明によれば、前記混合液の培養を短時間(例えば、2~3時間)で行うことができるため、総合的に、非常に短時間での検査が可能となる。したがって、本発明によれば、各流路における培養部の観察部を、例えば、顕微鏡等で観察することによって、MRSを簡便かつ迅速に確認できる。また、本発明によれば、例えば、耐性か否かを個々の細胞の増殖の有無で判別することから、CA-MRSA等の耐性レベルが低いMRSも高い検出感度で簡易的に検査できる。本発明によれば、例えば、同時にベンジルペニシリン(PCG)やクリンダマイシンの感受性も検査することができ、治療薬の選択に有用な情報が、例えば、約3時間で取得できる。さらに、本発明によれば、例えば、PBP2’をラテックス凝集法で検出する方法と比較して、高い検出感度で簡易的に検査できる。本発明によれば、例えば、mecA遺伝子をPCRで検出する方法と比較して、簡便な操作でMRSを検出できる。
【0026】
本発明のMRS検査デバイスは、前記本発明のMRS検査方法に使用するマイクロデバイスであり、後述する本発明のMRS検査方法における説明を援用できる。本発明において「検査」とは、例えば、定性検査(例えば、MRSの有無)を意味する。
【0027】
本発明において、メチシリン耐性ブドウ球菌属(MRS)は、メチシリンに耐性のブドウ球菌属でもよいし、多剤(複数の抗菌薬)耐性ブドウ球菌属でもよい。また、本発明において、院内感染型は、例えば、主に、I型、II型またはIII型SCCmec遺伝子を含むことが多く、市中感染型は、メチシリン耐性レベルが低く、IV型またはV型のSCCmec遺伝子を含むことが多い。
【0028】
本発明のMRS検査デバイスおよびMRS検査方法は、CA-MRSA等のMRSも検出できる。このため、本発明のMRS検査デバイスおよびMRS検査方法は、例えば、CA-MRS検査デバイスおよびCA-MRS検査方法、またはCA-MRSA検査デバイスおよびCA-MRSA検査方法ということもできる。
【0029】
本発明のMRS検査デバイスおよびMRS検査方法は、CA-MRSA等のMRSも検出できる。また、CA-MRSAを含むMRSは、一般的にmecA遺伝子を有すると考えられている。このため、本発明のMRS検査デバイスおよびMRS検査方法によれば、被検菌が、MRSか否かを判定することにより、mecA遺伝子を保有しているか否かを、間接的に推定することができる。したがって、本発明のMRS検査デバイスおよびMRS検査方法は、例えば、mecA遺伝子の検査デバイスおよびmecA遺伝子の検査方法、またはmecA遺伝子の保有推定デバイスおよびmecA遺伝子の保有推定方法ということもできる。
【0030】
以下、本発明のMRS検査デバイスおよびMRS検査方法について、図面を参照して詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の説明に限定されない。なお、以下の図1A~Fおよび図2~4において、同一部分には、同一符号を付し、その説明を省略する場合がある。また、図面においては、説明の便宜上、各部の構造は適宜簡略化して示す場合があり、各部の寸法比等は、実際とは異なり、模式的に示す場合がある。
【0031】
(実施形態1)
本実施形態は、MRS検査デバイスの一例である。図1に、本実施形態のMRS検査デバイスの構成の一例を示す。図1Aは、本実施形態のMRS検査デバイスの構成の一例を示す斜視図であり、図1Bは、本実施形態のMRS検査デバイスにおける上基板の一例を示す下面図であり、図1Cは、本実施形態のMRS検査デバイスの図1BにおけるI-I方向からみた断面図であり、図1Dは、本実施形態のMRS検査デバイスの図1BにおけるII-II方向からみた断面図であり、図1Eは、本実施形態のMRS検査デバイスの図1BにおけるIII-III方向からみた断面図であり、図1Fは、本実施形態のMRS検査デバイスの図1Bにおける二点鎖線で囲った部分の拡大図である。図1A~Fに示すように、本実施形態のMRS検査デバイス1は、上基板2aと下基板2bとからなる基板2を含む。上基板2aは、複数の貫通孔10、11と、下表面における凹部13、14、15とを含む凹部12を有し、これらは、上基板2aと、下基板2bとの積層により、それぞれ、第1の開口部10、複数の第2の開口部11、培養部13、ネック部14、および狭窄部15を含む流路12を形成している。第1の開口部10および複数の第2の開口部11は、下基板2bとの積層面側(以下、「下方向」ともいう)で、流路12と連通している。流路12は、第1の開口部10側から第2の開口部11側に向かって、狭窄部15、ネック部14、および培養部13を含む。また、各流路12は、第1の開口部10と、いずれか1つの第2の開口部11とを連通している。このため、各流路12は、例えば、その第1の開口部10側で互いに連通しているということもできる。培養部13は、第2の開口部11側において、第1の開口部10側から第2の開口部11側に向かって、観察導入部131、観察部132および観察導出部133を含む。観察導入部131は、第1の開口部10側から観察部132側に向かって狭まるテーパ状である。観察部132は、隣接する培養部13より内寸が狭くなるように形成されている。各流路12の観察部132は、その幅(長手方向Yおよび厚み方向Zに対して垂直方向Xの距離)および長さ(長手方向Yの距離)が略同一である。各流路12の観察部132は、略平行となるように配置されている。観察導出部133は、第2の開口部11側において、観察部132側から第2の開口部11側に向かって広がる逆テーパ状に形成されている。ネック部14は、第1の開口部10側に隣接する流路12よりも内寸(例えば、幅)が狭く形成されている。また、ネック部14は、第1の開口部10側から培養部13に向かって、ネック導入部141、ネック最狭部142、およびネック拡大部143を含む。ネック最狭部142は、ネック導入部141およびネック拡大部143と連接している、すなわち、ネック導入部141、ネック最狭部142およびネック拡大部143は、連続的に配置されている。ネック導入部141は、第1の開口部10側から培養部13側に向かって狭まるテーパ状である。ネック拡大部143は、培養部13に臨む対向面であり、前記対向面は、流路12の延在方向(Y方向)に略直交して内側へのびる面である。狭窄部15は、第1の開口部10側からネック部14側に向かって、狭窄導入部151、狭窄最狭部152および狭窄拡大部153を含む。狭窄最狭部152は、狭窄導入部151および狭窄拡大部153と連接している、すなわち、狭窄導入部151、狭窄最狭部152および狭窄拡大部153は、連続的に配置されている。狭窄導入部151は、第1の開口部10側からネック部14側に向かって狭まるテーパ状である。狭窄拡大部153は、狭窄最狭部152からネック部14に向かって広がる逆テーパ状である。
【0032】
本実施形態のMRS検査デバイス1において、流路12は、基板2に設けられているが、他の基材に設けられてもよい。また、本実施形態のMRS検査デバイス1は、2枚の基板を積層することで形成されているが、1枚の基板で形成されてもよいし、2枚以上の基板で形成されてもよい。また、MRS検査デバイス1が2枚の基板から構成される場合、上基板2aが、複数の貫通孔10および11を有し、複数の貫通孔10および11を除き、上基板2aの下表面が平らであり、下基板2bの上表面が、培養部13、ネック部14、および狭窄部15を含む流路12となる凹部を有してもよい。この場合、上基板2aと下基板2bとを積層することにより、上基板2aの複数の貫通孔10および11により、第1の開口部10および第2の開口部11が形成され、下基板2bの凹部と上基板2aの下表面とにより、培養部13、ネック部14、および狭窄部15を含む流路12が形成される。
【0033】
上基板2aおよび下基板2bの形成材料は、特に制限されず、例えば、顕微鏡等により観察可能であることから、透明基材が好ましい。前記透明基材の原料は、特に制限されず、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等のポリマー(シリコーンゴム)、ガラス等があげられる。検査対象のMRSが好気性の場合、前記基板は、例えば、通気性基板が好ましい。上基板2aは、例えば、PDMSで形成されており、下基板2bは、例えば、ガラスで形成されている。
【0034】
第1の開口部10は、例えば、被検菌懸濁液を導入可能な開口であり、導入口ということもできる。また、第1の開口部10および第2の開口部11は、例えば、前記被検菌懸濁液をMRS検査デバイス1に導入するときに、流路12内の空気を抜くことが可能な開口であることから、空気口ということもできる。第1の開口部10および第2の開口部11の形状は、特に制限されず、例えば、三角柱状、四角柱状等の多角柱状、真円柱状、楕円柱状等の円柱状、錐体状等があげられる。
【0035】
本実施形態のMRS検査デバイス1は、4つの流路12を含むが、流路12の数は、2つ以上であればよく、例えば、流路12に配置する抗菌薬の数、抗菌薬の濃度の数、後述するコントロール流路の数に応じて、適宜設定できる。具体例として、流路12の数は、例えば、2~25つ、4つである。流路12は、中空である。流路12の大きさは、特に制限されず、例えば、MRS検査デバイス1に導入する被検菌懸濁液の量、後述する培養部13、ネック部14、および狭窄部15の大きさに応じて、適宜設計できる。流路12の断面形状は、特に制限されず、例えば、円、真円、楕円等の円形;半円形;三角形、四角形、正方形および長方形等の多角形等があげられる。
【0036】
MRS検査デバイス1には、前記抗菌薬が配置されている(図1において図示せず)前記抗菌薬は、各流路12の混合液における、前記抗菌薬の種類および前記抗菌薬の濃度の少なくとも一方が異なるように、配置されている。MRS検査デバイス1において、前記抗菌薬の配置箇所は、特に限定されず、例えば、第1の開口部10、第2の開口部11、流路12等があげられる。前記抗菌薬は、例えば、複数箇所に配置されてもよい。
【0037】
MRS検査デバイス1において、各流路12が、それぞれ、前記抗菌薬を流路12内へ配置可能な第3の開口部を含み、前記第3の開口部は、対応する各流路12と連通されていてもよい。具体例として、MRS検査デバイス1において、各流路12は、培養部13と連通する第3の開口部を含んでもよい。この場合、MRS検査デバイス1において、例えば、前記第3の開口部の下方の流路内に前記抗菌薬を配置してもよい。さらに、前記第3の開口部を含む場合、前記第3の開口部は、ネック部14と観察部132との間で、流路12と連通するように設けることが好ましい。また、前記第3の開口部は、各流路12に独立して(別個に)設けることが好ましい。
【0038】
配置する抗菌薬の量は、特に制限されず、例えば、後述する被検菌懸濁液の量および推定臨床有効濃度(ブレイクポイント)等に応じて、適宜設定できる。各流路12の抗菌薬の量は、例えば、予め規定した量の被検菌懸濁液をMRS検査デバイス1に導入したときに、所望の抗菌薬の濃度となるように設定できる。前記抗菌薬の量は、例えば、前記抗菌薬の耐性基準濃度に基づき設定してもよい。前記耐性基準濃度は、例えば、CLSI(Clinical & Laboratory Standards Institute)または日本化学療法学会が公表するガイドラインを参照できる。CLSIのガイドラインは、例えば、CLSIのホームページ(http://em100.edaptivedocs.info/Login.aspx)からCLSI M100 S27の規格を参照できる。前記抗菌薬は、例えば、第2の開口部11または流路12の第2の開口部11端側に配置されることが好ましい。この場合、前記抗菌薬は、例えば、各流路12において、培養部13に配置される。このように配置することで、被検菌懸濁液をMRS検査デバイス1に導入した際に、培養部13において、第2の開口部11側から第1の開口部10側に向かって前記抗菌薬の濃度勾配が形成されるため、培養部13において、より第1開口部10に近い箇所へと観察場所を移動させて検査することにより、異なる抗菌薬の濃度における検査対象のブドウ球菌の状態を観察できる。前記抗菌薬は、特に制限されず、例えば、オキサシリン(MPIPC)、ベンジルペニシリン(PCG)等のペニシリン系抗菌薬、セフォキシチン(CFX)等のセファマイシン系抗菌薬、セファゾリン(CEZ)、セフチゾキシム(CZX)等のセファロスポリン系抗菌薬、クリンダマイシン(CLDM)等のリンコマイシン系抗菌薬、バンコマイシン(VCM)等のグリコペプチド系抗菌薬、アルベカシン(ABK)等のアミノ配糖体系抗菌薬、リネゾリド(LZD)等があげられる。前記抗菌薬は、例えば、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。後者の場合、各抗菌薬の量が、例えば、各抗菌薬の耐性基準濃度に基づき設定されてもよい。MRS検査デバイス1を用いてMRSAを検査する場合、前記抗菌薬は、オキサシリン(MPIPC)およびセフォキシチン(CFX)の少なくとも一方を含むことが好ましい。前記抗菌薬がMPIPCおよびCFXを含む場合、MRS検査デバイス1において、異なる流路12が、MPIPCおよびCFXをそれぞれ単独で含むことが好ましい。
【0039】
前記抗菌薬の配置方法は、特に制限されず、例えば、前記抗菌薬を含む抗菌薬液を流路12の所望の部位、例えば、第2の開口部11に供給し、乾燥することによって配置できる。また、第2の開口部11から流路12内に通液して、流路12内に前記抗菌薬を配置してもよい。MRS検査デバイス1に前記抗菌薬液を導入した後、例えば、MRS検査デバイス1を乾燥することが好ましい。
【0040】
各流路12は、前記抗菌薬が配置されていないコントロールの流路を含んでもよい。このようにコントロールの流路を含むことで、MRS検査デバイス1は、例えば、前記抗菌薬の効果をより簡便に確認できるため、より簡便にMRSの検査を実施できる。前記コントロールの流路の数は、特に制限されず、例えば、1つまたは2つ以上である。
【0041】
各流路12は、前記混合液における前記抗菌薬の濃度が、前記耐性基準濃度未満となるように、前記抗菌薬が配置されている流路(以下、「耐性基準濃度未満の流路」ともいう)を含んでもよい。また、各流路12は、例えば、前記耐性基準濃度未満の流路と、前記混合液における前記抗菌薬の濃度が、前記耐性基準濃度以上の濃度、好ましくは、前記ブレイクポイントMIC以上となるように、前記抗菌薬が配置されている流路(以下、「耐性基準濃度以上の流路」ともいう)を含んでもよい。前述のように、CA-MRSA等のCA-MRSは、薬剤耐性のレベルが低い傾向にある。このため、前記耐性基準濃度未満の流路を設けることで、MRS検査デバイス1は、例えば、より高い検出感度でCA-MRSA等の薬剤耐性レベルが低いCA-MRSも検出できる。前記耐性基準濃度未満の流路において、前記混合液における前記抗菌薬の濃度(PB)は、前記耐性基準濃度未満であればよく、例えば、前記耐性基準濃度(B)を基準として、1/4×B≦PB<Bであり、CA-MRSタイプを検出でき、かつ感受性の被検菌を耐性と誤判定する可能性を低減できることから、好ましくは、1/2×B≦PB<B、より好ましくは、1/2×B=PBである。前記耐性基準濃度未満の流路の流路の数は、特に制限されず、例えば、1つまたは2つ以上である。前記耐性基準濃度未満の流路を含むMRS検査デバイス1によれば、CA-MRSを簡便に検出できるため、例えば、CA-MRS検査デバイスということもできる。具体例として、CLSI M100 S27の規格を参照すると、前記抗菌薬がMPIPCの場合、前記耐性基準濃度未満の流路において、前記混合液における前記抗菌薬の濃度は、0.5~2μg/mL、好ましくは、1~2μg/mLである。また、CLSI M100 S27の規格を参照すると、前記抗菌薬がCFXの場合、前記耐性基準濃度未満の流路において、前記混合液における前記抗菌薬の濃度は、1~4μg/mL、好ましくは、2~4μg/mLである。
【0042】
培養部13は、流路12において、前記抗菌薬と、前記被検菌懸濁液との混合液を培養する領域である。培養部13は、第1の開口部10と第2の開口部11との間に配置されており、ネック部14の第2の開口部11側に配置されている。本実施形態のMRS検査デバイス1において、培養部13は、観察導入部131および観察導出部133を含むが、観察導入部131および観察導出部133は、任意の構成であり、あってもよいし、なくてもよい。
【0043】
観察導入部131は、観察部132の第1の開口部10側に隣接する流路12と観察部132とを接続する領域である。本実施形態のMRS検査デバイス1において、観察導入部131は、第1の開口部10側から観察部132側に向かって狭まるテーパ状であるが、その形状は、これに限定されず、観察部132の内寸および観察部132の第1の開口部10側の流路12の内寸に応じて適宜設定できる。
【0044】
観察部132は、例えば、前記混合液の培養後に、顕微鏡等により、前記混合液由来のブドウ球菌を観察する領域である。観察部132は、例えば、前記顕微鏡等による観察がより簡便になることから、各流路12の観察部132の少なくとも一部が、1つの評価領域内に収まるように収束して配置されていることが好ましい。前記評価領域は、各流路12の培養状況を観察するための各観察部132が、一視野で比較観察できるように配置した領域であって、例えば、図1Bにおいて破線で囲って示すように、各流路12の観察部132を並列配置した領域である。この評価領域の各観察部132は、各流路12において、それぞれの第1の開口部10から観察部132までの流路内距離がおおよそ等しく、かつ各流路12において、それぞれの第2の開口部11から観察部132までの流路内距離がおおよそ等しいことが好ましい。前記1つの評価領域は、例えば、前記顕微鏡の一視野、CCD(Charge Coupled Device)カメラ等により1回で撮像できる領域等があげられる。各流路12の観察部132の間隔、収束の程度等は、前記顕微鏡の倍率等に応じて適宜決定できる。また、各流路12の観察部132は、前記顕微鏡による観察がさらに簡便になることから、略平行に配置されていることが好ましい。さらに、各流路12における前記混合液の培養条件を均一化でき、MRSの検査のぶれを抑制できることから、各流路12の観察部132の内寸(例えば、幅)および長さは、同じであることが好ましい。
【0045】
観察導出部133は、観察部132の第2の開口部11側に隣接する流路12と観察部132とを接続する領域である。本実施形態のMRS検査デバイス1において、観察導出部133は、第2の開口部11側において、観察部132側から第2の開口部11側に向かって広がる逆テーパ状であるが、その形状は、これに限定されず、観察部132の内寸および観察部132の第2の開口部11側の流路12の内寸に応じて適宜設定できる。
【0046】
本実施形態のMRS検査デバイス1は、ネック部14を含むが、ネック部14は、任意の構成であり、あってもよいし、なくてもよい。ネック部14は、第1の開口部10側に隣接する流路12の内寸より狭く形成された領域である。ネック部14は、流路12において、第1の開口部10と培養部13との間に配置されている。本実施形態のMRS検査デバイス1は、ネック部14を含むことで、後述するように、例えば、毛細管現象により生じる前記混合液の第1の開口部10側への移動を抑止することができる。このため、各流路12内の混合液のコンタミネーションを抑止することができ、より正確にMRSを検査できる。本実施形態のMRS検査デバイス1において、ネック部14は、ネック導入部141、ネック最狭部142およびネック拡大部143を含むが、ネック導入部141、ネック最狭部142およびネック拡大部143は、任意の構成であり、あってもよいし、なくてもよい。
【0047】
ネック導入部141は、ネック最狭部142の第1の開口部10側に隣接する流路12とネック最狭部142とを接続する領域である。本実施形態のMRS検査デバイス1において、ネック導入部141は、第1の開口部10側からネック最狭部142側に向かって狭まるテーパ状であるが、その形状は、これに限定されず、ネック最狭部142の内寸およびネック最狭部142の第1の開口部10側の流路12の内寸に応じて適宜設定できる。ネック導入部141の他の例として、図2(a)に示すように、第1の開口部10側の流路12に臨む対向面とすることもできる。前記対向面は、例えば、流路12の延在方向に略直交して内側へのびる面、または第1の開口部10側の流路12に向かって流路12の内側へ延びる面があげられる。
【0048】
ネック最狭部142は、ネック部14において、最も内寸(例えば、幅)が狭い領域である。
【0049】
ネック拡大部143は、ネック最狭部142の第2の開口部11側に隣接する流路12とネック最狭部142とを接続する領域である。本実施形態のMRS検査デバイス1において、ネック拡大部143は、第2の開口部11側において、培養部13に臨む対向面であり、前記対向面は、流路12の延在方向に略直交して内側へのびる面であるが、その形状は、これに限定されず、ネック最狭部142の内寸およびネック最狭部142の第2の開口部11側の流路12の内寸に応じて適宜設定できる。ネック拡大部143の他の例として、図2(b)に示すように、前記対向面は、例えば、培養部13に向かって流路12の内側へ延びる面があげられる。この場合、培養部13の側面と前記対向面との角度θは、例えば、0<θ<90°等があげられる。
【0050】
本実施形態のMRS検査デバイス1は、狭窄部15を含むが、狭窄部15は、任意の構成であり、あってもよいし、なくてもよい。本実施形態のMRS検査デバイス1は狭窄部15を含むことで、後述するように、例えば、毛細管現象により生じる前記混合液の第1の開口部10側への移動をさらに効果的に抑止することができる。このため、各流路12内の混合液のコンタミネーションをさらに効果的に抑止することができ、さらに正確にMRSを検査できる。また、本実施形態のMRS検査デバイス1において、狭窄部15は、狭窄導入部151、狭窄最狭部152および狭窄拡大部153を含むが、狭窄導入部151、狭窄最狭部152および狭窄拡大部153は、任意の構成であり、あってもよいし、なくてもよい。
【0051】
狭窄導入部151は、狭窄最狭部152の第1の開口部10側に隣接する流路12と狭窄最狭部152とを接続する領域である。本実施形態のMRS検査デバイス1において、狭窄導入部151は、第1の開口部10側から狭窄最狭部152側に向かって狭まるテーパ状であるが、その形状は、これに限定されず、狭窄最狭部152の内寸および狭窄最狭部152の第1の開口部10側の流路12の内寸に応じて適宜設定できる。
【0052】
狭窄最狭部152は、狭窄部15において、最も内寸(例えば、幅)が狭い領域である。
【0053】
狭窄拡大部153は、狭窄最狭部152のネック部14側に隣接する流路12と狭窄最狭部152とを接続する領域である。本実施形態のMRS検査デバイス1において、狭窄拡大部153は、狭窄最狭部152側からネック部14側に向かって広がる逆テーパ状であるが、その形状は、これに限定されず、狭窄最狭部152の内寸および狭窄最狭部152のネック部14側の流路12の内寸に応じて適宜設定できる。
【0054】
本実施形態のMRS検査デバイス1の各構成の大きさは、特に制限されない。MRS検査デバイス1の大きさは、例えば、流路数や評価領域の大きさなどに応じて、適宜設定できる。本実施形態のMRS検査デバイス1においては、流路12の内寸は、幅500μm、高さ50μm、狭窄部(観察部132)の内寸は、幅100μm、高さ50μmとした。
【0055】
本実施形態のMRS検査デバイス1は、第1の開口部10と、複数の第2の開口部11と、第1の開口部10といずれか1つの第2の開口部11とを連通する複数の流路12とを1セットの流路群とした場合、基板2上に1セットの流路群が設けられているが、本実施形態のMRS検査デバイス1の基板2上には、図3に示すように、複数セットの流路群が設けられてもよい。具体例として、基板2に設けられる前記流路群の数は、例えば、5セットである。前記流路群の数は、例えば、試験上の要求、培養機器、顕微鏡等の計測機器の大きさ、ハンドリングの容易さ等の事由に応じて適宜変更することができる。
【0056】
つぎに、本実施形態のMRS検査デバイス1を用いたMRSの検査方法について、図面を参照し、説明する。
【0057】
本実施形態のMRSの検査方法において、検査対象のMRSは、例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、腐性ブドウ球菌(Staphylococcus saprophyticus)、その他コアグラーゼ陰性ブドウ球菌属(Coagulase-negative staphylococci、CNS)等のMRSがあげられる。
【0058】
まず、MRS検査デバイス1の培養部13で、前記抗菌薬と、被検菌懸濁液との混合液を培養する(培養工程)。前記被検菌懸濁液は、特に制限されず、例えば、臨床検体、臨床検体等から分離培養したコロニーから調製した分離培養検体等があげられる。前記臨床検体を用いる場合、前記臨床検体は、例えば、コンタミネーションの可能性が低い検体が好ましく、また、十分なブドウ球菌の密度(濃度)が確保できる検体が好ましい。また、前記臨床検体を使用する場合、例えば、前記臨床検体からのブドウ球菌の回収と、培地への再懸濁を行うことが好ましい。前記培地は、例えば、検査対象のブドウ球菌に応じて適宜決定できる。前記臨床検体は、例えば、微量液体希釈法等の他のMRSの検査方法によって、MRSでないと判定された臨床検体でもよい。前記被検菌懸濁液は、液体であることが好ましい。MRS検査デバイス1に導入する被検菌懸濁液の量は、特に制限されず、例えば、MRS検査デバイス1の容積、特に培養部13の容積に応じて適宜設定できる。前記被検菌懸濁液に含まれるブドウ球菌の濃度は、特に制限されず、例えば、その濁度(OD600)が、0.06~0.08、0.07前後である。
【0059】
前記培養工程において、前記混合液は、例えば、MRS検査デバイス1に、前記被検菌懸濁液を、第1の開口部10から導入することにより調製できる。このため、本実施形態のMRSの検査方法は、MRS検査デバイス1に、前記被検菌懸濁液を、第1の開口部10から導入する導入工程を含んでもよい。
【0060】
具体例として、MRS検査デバイス1への前記被検菌懸濁液の導入は、以下のように実施できる。図4(A)に示すように、MRS検査デバイス1の4本の流路12には、第2の開口部11(流路12の第2の開口部11端側)の下方向に、それぞれ、異なる抗菌薬111a~dが配置されている。まず、図4(B)に示すように、第1の開口部10から4本の流路12の内部に、例えば、マイクロピペッター等の分注手段を用いて、前記被検菌懸濁液(図中の斜線部)を導入する。すると、前記被検菌懸濁液は、例えば、毛細管現象により第2の開口部11側に移動する。つぎに、図4(C)に示すように、第1の開口部10から4本の流路12の内部に空気を圧入し、先に導入した被検菌懸濁液を4本の流路12における第2の開口部11側に押し込む。そして、これにより、各流路12の下流(第2の開口部11)側に連通された第2の開口部11内の一部が満たされるように、前記被検菌懸濁液を移動させる。このように、前記被検菌懸濁液の導入後に、前記空気を導入することで、前記被検菌懸濁液が流路12毎に独立する。前記空気により、各流路12の連通箇所を通じた各流路12内の混合液の移動を阻止できるため、コンタミネーションを防止することができ、例えば、より正確にMRSを検査できる。
【0061】
そして、各流路12において、前記被検菌懸濁液が、第2の開口部11の下方向に配置された抗菌薬111a~dと接触することにより、各流路において、抗菌薬111a~dと、前記抗菌薬と、前記被検菌懸濁液との混合液が調製される。また、MRS検査デバイス1にはネック部14および狭窄部15を含むため、図4(D)に示すように、前記混合液が、例えば、毛細管現象により第1の開口部10側に移動した際も、ネック部14および狭窄部15により、前記混合液の移動が抑止される。このため、各流路12内の混合液のコンタミネーションを抑制することができ、より正確にMRSを検査できる。
【0062】
前記培養工程における培養条件は、特に制限されず、例えば、対象となるブドウ球菌の至適生育条件に応じて、適宜選択できる。培養温度は、特に制限されず、例えば、30~37℃であり、具体例として、例えば、37℃である。培養時間は、特に制限されず、例えば、2~4時間、3時間である。培養時間は、これには制限されず、例えば、前記抗菌薬が非存在下での検査対象のブドウ球菌の増殖(コントロール)が、判定に十分なレベルに達した時点で終了してもよい。前記培養時の湿度は、例えば、95~100%、97~100%である。
【0063】
つぎに、培養部13の観察部132における前記被検菌懸濁液由来のブドウ球菌を検出する。観察部132において、前記ブドウ球菌を検出する位置は、特に制限されず、観察部132の任意の箇所とできるが、図1Bにおいて最も下の部分が望ましい。各流路12の観察部132の少なくとも一部が、一評価領域内に収まるように配置されている場合、例えば、前記顕微鏡等により、前記評価領域内の観察部132を一度に観察でき、より簡便に検査できることから、前記評価領域の各流路12の観察部132における前記被検菌懸濁液由来のブドウ球菌について、前記顕微鏡等により検出することが好ましい。前記ブドウ球菌の検出は、例えば、培養部13の観察部132における、前記ブドウ球菌の数、形態および集落(コロニー)からなる群から選択された少なくとも1つ、より具体的には、前記ブドウ球菌の数の増減、形態変化、および集落形成(例えば、集落形成の有無)からなる群から選択された少なくとも1つを検出することにより実施できる。前記検出工程では、例えば、数の増減、形態変化、および集落形成のいずれか1つを検出してもよいし、いずれか2つを検出してもよいし、全部を検出してもよいが、例えば、大腸菌等の他の細菌と比較して大きさが小さいブドウ球菌について、薬剤による影響をより顕著に検出でき、かつ前記顕微鏡等により検出しやすいことから、好ましくは、集落形成(例えば、集落形成の有無)による検出である。前記形態変化は、例えば、伸長化(例えば、膨化・縮小)、スフェロプラスト化等があげられる。前記集落形成は、例えば、集落形成の有無、集落の大きさ、集落群の形態等があげられる。前記形態は例えば、前記ブドウ球菌の外観的な形でもよいし、前記ブドウ球菌の動きでもよい。また、前記ブドウ球菌が集落を形成するまたは集落が成長する場合、前記形態は、例えば、集落外観、集落同士の結合状態、集落の動き等でもよい。前記検出工程において、例えば、前記ブドウ球菌の粗密度合を観察してもよい。前記検出工程において、例えば、前記ブドウ球菌の数、形態、集落および/または粗密度合について、培養工程の前後における変化または経時的な変化を観察してもよい。つぎに、各流路12の観察部132の検出結果を比較し、評価する。前記ブドウ球菌が前記抗菌薬に耐性を示す場合、例えば、前記培養を行うと、増殖によりブドウ球菌の数が増加する、すなわち集落を形成する、または集落が成長する。他方、前記ブドウ球菌が前記抗菌薬に感受性を示す場合、例えば、培養を行っても、前記ブドウ球菌の数が増加しない、すなわち、集落を形成せず、死滅により数が減少する、または形態が変化する等の徴候が見られる。また、一般的にメチシリン耐性のブドウ球菌は、他の抗菌薬、例えば、全てのβ-ラクタム薬に対しても耐性傾向を示すことが知られている。したがって、例えば、前記ブドウ球菌の数の増減、形態変化、および/または集落形成を観察することによって、前記ブドウ球菌がMRSか否かを判定できる。また、例えば、前記ブドウ球菌の数の増減、形態変化、集落形成および/または粗密度合を観察することによって同様に、前記ブドウ球菌の各抗菌薬への感受性を判定することもできる。このため、本実施形態のMRSの検査方法によれば、前記ブドウ球菌(例えば、MRS)に対して効果的な抗菌薬をスクリーニングできる。したがって、本実施形態のMRSの検査方法は、ブドウ球菌(例えば、MRS)の抗菌薬感受性の検査方法ということもできる。
【0064】
前記顕微鏡の種類は、特に制限されず、光学顕微鏡等があげられる。前記光学顕微鏡は、例えば、蛍光顕微鏡、位相差顕微鏡等があげられ、数および形態の検出が容易であることから、好ましくは、前記位相差顕微鏡である。前記顕微鏡は、例えば、小型化顕微鏡が好ましい。前記顕微鏡は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)を備えることが好ましい。前記顕微鏡は、例えば、CCDを備えるカメラを有してもよい。本実施形態のMRSの検査方法は、例えば、MRS検査デバイス1と前記顕微鏡とを使用することにより、例えば、高額な機器を使用する必要がなく、また、機器によって場所をとることも回避できる。このため、例えば、容易に既存の検査室および研究室に導入可能であり、非常に容易な実施が可能になる。また、前記顕微鏡による検出は、例えば、前記顕微鏡から出力した画像による検出の意味も含む。前記顕微鏡は、例えば、その視野における画像を得るために、出力手段に連結していることが好ましい。前記出力手段は、例えば、モニタ、プリンタ等があげられる。また、本実施形態のMRSの検査方法は、例えば、前記顕微鏡に代えて、電子スチルカメラ、ビデオカメラ等の撮像手段による観察、これらから得た電子データを電子処理した画像による観察、評価をしてもよい。
【0065】
本実施形態のMRSの検査方法は、さらに、前記培養工程後に加え、前記培養工程前に前記検出工程を実施してもよい(前検出工程)。この場合、MRS検査デバイス1に前記被検菌懸濁液を導入後に、前記前検出工程を実施することが好ましい。これによって、例えば、培養前の数と培養後の数、培養前の形態と培養後の形態、培養前の集落の数と培養後の集落の数とを比較できるため、例えば、より簡便にMRSを検査できる。
【0066】
本実施形態の検査方法は、例えば、MRS検査用デバイス1が前記耐性基準濃度未満の流路を含む場合、前記耐性基準濃度未満の流路の培養部の観察部における、前記被検菌懸濁液由来のブドウ球菌の検出結果に基づき、前記被検菌が市中感染型MRS(CA-MRS)タイプであるかを判定(推定)する判定工程(推定工程)を含むことが好ましい。この場合、例えば、前記検出工程では、前記耐性基準濃度未満の流路において、前記被検菌懸濁液由来のブドウ球菌を検出する。前記検出は、例えば、集落(例えば、集落形成の有無)の検出である。つぎに、前記判定工程では、前記耐性基準濃度未満の流路において、前記被検菌懸濁液由来のブドウ球菌が検出された場合、前記被検菌は、例えば、CA-MRSタイプであると判定する。また、前記耐性基準濃度未満の流路において、前記被検菌懸濁液由来のブドウ球菌が検出されない場合、前記被検菌は、例えば、CA-MRSタイプでない、例えば、感受性であると判定できる。各流路12がコントロールの流路を含む場合、前記耐性基準濃度未満の流路において、例えば、前記被検菌懸濁液由来のブドウ球菌が、コントロールの流路に比べると明らかに抑制されているように見えながらも集落形成が検出された場合、前記被検菌は、例えば、CA-MRSタイプであると判定する。また、各流路12がコントロールの流路を含む場合、前記耐性基準濃度未満の流路において、コントロールの流路とほぼ同等の前記被検菌懸濁液由来のブドウ球菌の増殖が検出された場合、前記被検菌は、例えば、H-MRSタイプと判定する。前記ブドウ球菌の検出は、例えば、集落(例えば、集落形成の有無)の検出であることが好ましい。なお、前記判定工程が推定工程である場合、前記判定工程は、例えば、前記被検菌がCA-MRSタイプであるかを推定する。MRS検査用デバイス1が前記耐性基準濃度以上の流路および前記耐性基準濃度未満の流路を含む場合、両流路の培養部の観察部における、前記被検菌懸濁液由来のブドウ球菌の検出結果に基づき、前記被検菌がCA-MRSタイプであるかを判定(推定)する判定工程(推定工程)を含むことが好ましい。この場合、例えば、前記検出工程では、両流路において、前記被検菌懸濁液由来のブドウ球菌を検出する。つぎに、前記判定工程では、前記耐性基準濃度未満の流路において、前記被検菌懸濁液由来のブドウ球菌が検出され、前記耐性基準濃度以上の流路において、前記被検菌懸濁液由来のブドウ球菌が検出されない場合、前記被検菌は、例えば、CA-MRSタイプであると判定する。さらに、前記耐性基準濃度以上の流路において、前記被検菌懸濁液由来のブドウ球菌が検出される場合、前記被検菌は、例えば、MRSであると判定してもよい。本実施形態の検査方法は、例えば、前記判定工程を含むことにより、前記耐性基準濃度未満の流路におけるブドウ球菌の検出結果に基づき、前記被検菌がCA-MRSタイプか否かを簡便に判定できる。また、前記判定工程を含む場合、本実施形態の検査方法は、CA-MRSタイプかを判定できるため、例えば、CA-MRSの判定方法ということもできる。具体例として、前記抗菌薬がMPIPCであり、MRS検査用デバイス1がMPIPC濃度0、2、4、または8μg/mLの流路を含む場合、例えば、以下のように判定できる。なお、MPIPC濃度2μg/mLの流路が、前記耐性基準濃度未満の流路であるとして説明するが、MPIPCおよびその他抗菌薬の耐性基準濃度は、これに限定されない。まず、MPIPC濃度0、2、4、または8μg/mLの流路の培養部の観察部における、前記被検菌懸濁液由来のブドウ球菌を検出する。つぎに、前記検出結果に基づき、MRSか否かを判定する。具体的には、2μg/mLの検出結果において耐性と判定された場合、前記被検菌は、例えば、MRSであると判定する。また、2μg/mLの流路の検出結果において、集落形成がみられ耐性と判定されたものの、コントロールの流路(MPIPC濃度0μg/mLの流路)の発育に比べて明らかな増殖抑制がみられた場合、前記被検菌は、例えば、CA-MRSAタイプと判定(推定)する。本実施形態の検査方法は、例えば、前記判定工程を含むことにより、前記耐性基準濃度未満の流路におけるブドウ球菌の検出結果に基づき、前記被検菌がCA-MRS(タイプ)か否かを簡便に判定(推定)できる。また、前記判定工程を含む場合、本実施形態の検査方法は、CA-MRSかを判定できるため、例えば、CA-MRSの判定方法ということもできる。
【0067】
本実施形態のMRS検査デバイス1の複数の流路12には、異なる種類の抗菌薬および異なる濃度の抗菌薬の少なくとも一方が配置されている。このため、本実施形態のMRS検査デバイスおよびMRSの検査方法によれば、例えば、MRS検査デバイス1の複数の流路12に、被検菌懸濁液を導入し、複数の流路12内で、前記抗菌薬および前記被検菌懸濁液との混合液を培養し、各流路12における培養部13を、例えば、顕微鏡等で観察することによって、MRSを簡便かつ迅速に確認できる。また、本実施形態のMRS検査デバイス1は、ネック部14および狭窄部15を含むため、例えば、毛細管現象により生じる前記混合液の第1の開口部10側への移動を効果的に抑止することができる。このため、本実施形態のMRS検査デバイス1によれば、各流路12内の混合液のコンタミネーションを抑止することができ、正確にMRSを検査できる。さらに、本実施形態のMRS検査デバイス1は、耐性か否かを個々の細胞の増殖の有無で判別することから、CA-MRSA等の耐性レベルが低いCA-MRSも高い検出感度で簡易的に検査できる。本実施形態のMRS検査デバイス1によれば、例えば、同時にベンジルペニシリン(PCG)やクリンダマイシンの感受性も検査することができ、治療薬の選択に有用な情報が、例えば、約3時間で取得できる。
【実施例
【0068】
つぎに、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、下記の実施例により制限されない。
【0069】
[実施例1]
(1)検査デバイス
図3に示す検査デバイス1’を以下に示すようにして作製した。検査デバイス1’の上基板2aは、PDMS製、下基板2bは、ガラス製とした。検査デバイス1’の大きさは、以下の通りとした。なお、検査デバイス1’は、1枚のガラス製の下基板2b上に、図1に示す検査デバイス1の上基板2aが、連接して5つ配置された形態である。検査デバイス1’における各流路群の寸法は、実施形態1の検査デバイス1の寸法とした。
【0070】
(1-1)鋳型の作製
1) 40mm×50mmのカバーガラス(No.5、厚み1mm、Matsunami Glass Ind., Ltd.,)、または、シリコンウェハー(3inch、Ferrotec Co.,)に、コーティング剤(商品名オムニコート、MicroChem)を、4000rpm、10秒でスピンコートし、180℃で1分焼成。
2) フォトレジスト(SU8-25、MicroChem)を、2000rpm、30秒でスピンコート。膜厚は、16~17μm。
3) 65℃、3分および95℃、7分でプリベーク。
4) マスクアライナー(商品名、ES20、Nanomeric Technology Inc.,)で、11秒間、マイクロパターンを露光。
5) 露光後、65℃、1分および95℃、3分で、ベーク。
6) SU8-Developer(商品名、マイクケム社)で、2分現像。
7) 固く焼き付けるため、180℃、30分でハードベーク。
8) 後述するPDMSが剥がれやすいように、0.84wt%のCytop809ME(商品名、Asahi Glass Co., Ltd.,)を、4000rpmでスピンコートし、180℃で1時間処理。
【0071】
(1-2)PDMS流路の成型
1) ポリジメチルシロキサン(PDMS)(商品名Silpot 184、Dow Corning Toray Co., Ltd.,)と重合触媒とを、重量比10:1で混合し、30分脱気。
2) モールドにディップし、100℃、30分で焼き固める。
【0072】
(1-3)ガラス基板とPDMSの張り合わせ
1) 固めたPDMS基材を剥がす。予めエタノールで洗浄したカバーガラス(No.1、厚み0.12~0.17mm、Matsunami Glass Ind., Ltd.,)とともに、前記PDMSを、リアクティブイオンエッチング装置(商品名RIE-10NR、Samco)に入れる。
2) 前記カバーガラスと前記PDMS基材を、酸素流量100standard cubic/分(sccm)、圧力50Pa、RF power 30Wの条件の酸素プラズマに、20秒さらす。
3) 前記カバーガラスと前記PDMS基材とを、プラズマ処理した面で張り合わせ、ボンディングを行う。
4) 前記ボンディングした積層体に、パンチャー(商品名BP-15F、Kai Industries Co., Ltd.,)で、第1の開口部10および第2の開口部11となる貫通孔をあける。
【0073】
(2)抗菌薬の配置
前記抗菌薬としては、下記の5種類の抗菌薬を使用した。
・抗菌薬
MPIPC
CFX
CEZ
PCG
CLDM
【0074】
前記抗菌薬をPBSに混合(溶解)し、抗菌薬液を調製した。そして、検査デバイス1’の5つの流路群が、それぞれ、下記条件F~Jを満たし、かつ各流路群における各流路12が、それぞれ、下記条件F~Jの(i)~(iv)を満たすように、前記抗菌薬液を、対応する第2の開口部11から配置した。以下、下記条件F~Jの配置を行なった検査デバイス1’の流路群を、それぞれ、検査デバイスF~Jともいう。前記配置後、検査デバイス1’を室温で約15分乾燥させた。なお、下記条件F~Jにおける濃度は、2.5μLの被検菌懸濁液を検査デバイス1’の流路12に導入したと仮定した場合の濃度である。下記条件FおよびGの(ii)が、前記耐性基準濃度未満の流路であり、下記条件FならびにGの(iii)および(iv)が、前記耐性基準濃度以上の流路である。
条件F:(i)なし、(ii)MPIPC 2μg/mL、(iii)MPIPC 4μg/mL、(iv)MPIPC 8μg/mL
条件G:(i)なし、(ii)CFX 4μg/mL、(iii)CFX 8μg/mL、(iv)CFX 16μg/mL
条件H:(i)なし、(ii)CEZ 1μg/mL、(iii)CEZ 2μg/mL、(iv)CEZ 4μg/mL
条件I:(i)なし、(ii)PCG 1μg/mL、(iii)PCG 2μg/mL、(iv)PCG 4μg/mL
条件J:(i)なし、(ii)CLDM 0.5μg/mL、(iii)CLDM 1μg/m、(iv)CLDM 2μg/mL
【0075】
(3)被検菌懸濁液の調製
被検菌懸濁液の調製には、mecA遺伝子をPCRにより検出する方法でCA-MRSAと判定された臨床分離のCA-MRSA21株を用いた。まず、各株について、ハート・インヒュージョン寒天培地を用いて、37℃で一晩、前培養した。コロニーを、Mueller-Hinton培地(栄研化学社製)に懸濁し、OD600=約0.07(0.062~0.076)に調製した。
【0076】
(4)培養
前記実施例1(3)で調製した各株の懸濁液を、それぞれ、図4に示す手順で、前記検査デバイスF~Jに導入した。各流路12に導入された懸濁液は、約2.5μLである。そして、シャーレに検査デバイス1’を入れ、さらに、密閉容器に前記シャーレを入れた。なお、前記シャーレおよび前記密閉容器には、それぞれ、水を含ませたキムワイプを入れた。前記密閉容器を37℃のインキュベーターに入れ、検査デバイス1’を、3時間培養した。前記密閉容器および前記シャーレ内の相対湿度は、97%であった。
【0077】
(5)判定
前記密閉容器から検査デバイス1’を取り出し、位相差顕微鏡により、検査デバイスF~Jの観察部132について、コントロール(各条件の(i)の流路)に対する集落形成を確認した。条件FおよびGの結果を図5に示す。図5は、各流路の結果を示す写真であり、(A)は、条件Fにおける各流路を示す写真であり、(B)は、条件Gにおける各流路を示す写真である。また、図5(A)のMPIPC濃度2、4、または8μg/mL、または図5(B)のCFX濃度4、8、または16μg/mLにおいて、図中の円で囲った領域が、ブドウ球菌の集落が形成されている領域の代表例である。なお、図5に示すように、コントロールでは、多数の集落形成が観察されたため、集落形成がされている領域は円で囲って示していない。図5に示すように、条件FおよびGにおいては、(ii)および(iii)において、集落が形成されており、被検菌がMPIPCおよびCFXに対して耐性であった。また、条件H~Jについても、同様にして耐性の有無を判定し、前記条件FおよびGと同様の結果を得た。
【0078】
そして、条件FおよびJについて、以下の判定基準に基づき、CA-MRSAであると判定した。
・CA-MRSAの判定基準
検査デバイスFにおいて、(ii)が耐性(R)であり、(i)の発育に比べて明らかな増殖抑制がみられた場合
検査デバイスGにおいて、(ii)が耐性(R)であり、(i)の発育に比べて明らかな増殖抑制がみられた場合
【0079】
また、比較例として、全菌株について、標準法CLSI基準に則った微量液体希釈法により、MPIPC、CFX、CEZ、PCG、およびCLDMのMIC(最少発育阻止濃度)を測定し、MICに基づき、CA-MRSAの判定を実施した。
【0080】
この結果、微量液体培地希釈法では、mecA遺伝子をPCRにより検出する方法でCA-MRSAと判定されたMRSAのうち38.1%について、CA-MRSAと判定できた。これに対し、本発明のMRSAの検査デバイスを用いたCA-MRSAの検査方法では、全株について、CA-MRSAであると判定できた。このため、本発明のMRSAの検査デバイスおよびMRSAの検査方法によれば、CA-MRSAを高い検出感度で簡易的に検査できることが分かった。また、前述のように、前記被検菌懸濁液の調製に用いた各株は、mecA遺伝子を有していることをPCRにより確認している。このため、MRSを検出することにより、mecA遺伝子を保有していることが推定できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
以上のように、本発明のMRS検査デバイスおよびMRSの検査方法によれば、例えば、前記MRS検査デバイスの複数の流路に、被検菌懸濁液を導入し、前記複数の流路内で、前記抗菌薬および前記被検菌懸濁液との混合液を培養し、各流路における培養部の観察部を、例えば、顕微鏡等で観察することによって、MRSを簡便かつ迅速に確認できる。また、本発明によれば、例えば、耐性か否かを個々の細胞の増殖の有無で判別することから、CA-MRSA等の耐性レベルが低いCA-MRSも高い検出感度で簡易的に検査できる。本発明によれば、例えば、同時にベンジルペニシリン(PCG)やクリンダマイシンの感受性も検査することができ、治療薬の選択に有用な情報が、例えば、約3時間で取得できる。
【0082】
このため、本発明は、例えば、臨床検査、環境試験等において、極めて有用である。特に、臨床検査においては、例えば、対象となる微生物について、適切な抗菌薬の選択が早期に可能となるため、救命率の向上、不要な薬剤使用量の減少等の効果が期待でき、長期的に見れば、薬剤耐性菌の増加を抑制できる可能性がある。
【0083】
この出願は、2017年1月19日に出願された日本出願特願2017-007989を基礎とする優先権を主張し、その開示のすべてをここに取り込む。
【符号の説明】
【0084】
1、1’ MRS検査デバイス、検査デバイス
2 基板
2a 上基板
2b 下基板
10 第1の開口部
11 第2の開口部
111a~d 抗菌薬
12 流路
13 培養部
131 観察導入部
132 観察部
133 観察導出部
14 ネック部
141 ネック導入部
142 ネック最狭部
143 ネック拡大部
15 狭窄部
151 狭窄導入部
152 狭窄最狭部
153 狭窄拡大部

図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2
図3
図4
図5