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特許6997650車両用のアッパーマウント及びサスペンション
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】車両用のアッパーマウント及びサスペンション
(51)【国際特許分類】
   B60G 15/06 20060101AFI20220107BHJP
   F16F 9/54 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
B60G15/06
F16F9/54
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018024839
(22)【出願日】2018-02-15
(65)【公開番号】P2019137355
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2020-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】394016106
【氏名又は名称】株式会社キャロッセ
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 努
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-264779(JP,A)
【文献】特表平06-508583(JP,A)
【文献】登録実用新案第3162111(JP,U)
【文献】特開2014-170846(JP,A)
【文献】特開2005-227638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 15/06
F16F 9/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショックアブソーバー及び車体を連結するためのアッパーマウントであって、
前記ショックアブソーバーの上端部に連結されるジョイントと、
前記ショックアブソーバーの軸方向と直交する面内で前記ジョイントを移動させるガイド面を含むガイドと、
前記ジョイントを前記車体に固定するためのロックナットと、を有し、
前記ジョイントは、
前記ガイド面に沿って摺動可能であり、前記ロックナットと共に前記車体及び前記ガイドを挟むスライド部と、
前記スライド部から上方に延びて前記ガイドを貫通し、先端に前記ロックナットが締め付けられるスリーブ部と、を有し、
前記ガイドは、前記ガイド面から上方に延びて前記スリーブ部を貫通させ、前記ジョイントの移動に伴う前記スリーブ部の移動を許容する穴部と、凹部と、を有し、
前記凹部は、前記ガイド面と、前記ガイド面から下方に突出して所定方向に延びる一対の第1ガイド部側面と、を含み、
前記スライド部は、前記一対の第1ガイド部側面に沿った平坦面で構成された一対のスライド部側面を有し、前記一対のスライド部側面が前記一対の第1ガイド部側面と当接することにより前記ジョイントの移動方向を前記所定方向に規制することを特徴とするアッパーマウント。
【請求項2】
前記所定方向における前記スライド部の両端面は、前記軸方向と直交する平面内において互いに離れる方向に凸となる曲面で構成されており、
前記凹部は、前記ガイド面から下方に突出して前記所定方向の両端に形成され、前記軸方向と直交する平面内において互いに離れる方向に凸となる曲面で構成された一対の第2ガイド部側面を含んでおり、
前記第2ガイド部側面の曲率半径は、前記スライド部の前記端面の曲率半径よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載のアッパーマウント。
【請求項3】
前記ガイドは、前記ショックアブソーバーの軸周りに回転可能に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のアッパーマウント。
【請求項4】
前記ジョイントは、前記スライド部の上面よりも前記軸方向の下方に凹む溝部を有しており、
前記溝部の一部は、前記スリーブ部の基端領域を構成することを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載のアッパーマウント。
【請求項5】
前記ガイドは、前記穴部及び前記ガイド面の境界に形成された切欠き部を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載のアッパーマウント。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載のアッパーマウントと、
前記アッパーマウントに連結されるショックアブソーバーと、を有することを特徴とするサスペンション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショックアブソーバーを車体に取り付けるアッパーマウントであって、ショックアブソーバーの取付け位置を調整可能なアッパーマウントの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のサスペンションにおいて、ショックアブソーバーの上端部にはアッパーマウントが取り付けられており、このアッパーマウントを車体に固定することにより、ショックアブソーバーが車体に取り付けられる。ここで、アッパーマウントとして、車体に対するショックアブソーバーの取付け位置を調整可能な構造を有するものがある。この構造によれば、キャスター角やキャンバー角の調整を行うことが可能となる。
【0003】
特許文献1には、取付け手段により車体に取り付けられる取付けプレートと、取付け手段とは異なる固定ねじによって取付けプレートに固定される固定部材と、取付けプレート及び固定部材の間に挟まれて固定される調整部材と、を備えたアッパーマウントが開示されている。このアッパーマウントでは、固定ねじを緩めて、取付けプレート、固定ねじ及び固定部材に対する調整部材の位置を調整した後、固定ねじを締め付けることでキャスター角やキャンバー角の調整が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-264779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている構造のアッパーマウントを備えたサスペンションを車体に取り付ける場合、取付け手段によって取付けプレートを車体に取り付ける作業と、固定ねじによって固定部材を取付けプレートに固定する作業と、を独立して別個に行う必要があるため、サスペンションの脱着作業が煩雑となる。また、キャスター角やキャンバー角を調整する際には、複数本の固定ねじを緩める作業及び締め付ける作業を行う必要があり、調整作業が煩雑となる。
【0006】
そこで、本発明は、車体との脱着作業と、キャスター角やキャンバー角の調整作業と、が容易なアッパーマウントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するために、本発明のアッパーマウントは、(1)ショックアブソーバー及び車体を連結するためのアッパーマウントであって、前記ショックアブソーバーの上端部に連結されるジョイントと、前記ショックアブソーバーの軸方向と直交する面内で前記ジョイントを移動させるガイド面を含むガイドと、前記ジョイントを前記車体に固定するためのロックナットと、を有し、前記ジョイントは、前記ガイド面に沿って摺動可能であり、前記ロックナットと共に前記車体及び前記ガイドを挟むスライド部と、前記スライド部から上方に延びて前記ガイドを貫通し、先端に前記ロックナットが締め付けられるスリーブ部と、を有し、前記ガイドは、前記ガイド面から上方に延びて前記スリーブ部を貫通させ、前記ジョイントの移動に伴う前記スリーブ部の移動を許容する穴部を有することを特徴とする。
【0008】
(2)前記ガイドが、前記ガイド面と、前記ガイド面から下方に突出する一対の第1側面とを含む凹部を有しており、前記一対の第1側面は、前記スライド部と当接することにより前記ジョイントの移動方向を所定方向に規制することを特徴とする(1)に記載のアッパーマウント。
【0009】
(3)前記所定方向における前記スライド部の両端面は、前記軸方向と直交する平面内において互いに離れる方向に凸となる曲面で構成されており、前記凹部は、前記ガイド面から下方に突出して前記所定方向の両端に形成され、前記軸方向と直交する平面内において互いに離れる方向に凸となる曲面で構成された一対の第2側面を含んでおり、前記第2側面の曲率半径は、前記スライド部の前記端面の曲率半径よりも大きいことを特徴とする(2)に記載のアッパーマウント。
【0010】
(4)前記ガイドは、前記ショックアブソーバーの軸周りに回転可能に形成されていることを特徴とする(2)又は(3)に記載のアッパーマウント。
【0011】
(5)前記ジョイントは、前記スライド部の上面よりも前記軸方向の下方に凹む溝部を有しており、前記溝部の一部は、前記スリーブ部の基端領域を構成することを特徴とする(1)から(4)のいずれか1つに記載のアッパーマウント。
【0012】
(6)前記ガイドは、前記穴部及び前記ガイド面の境界に形成された切欠き部を有することを特徴とする(1)から(5)のいずれか1つに記載のアッパーマウント。
【0013】
(7)(1)から(6)のいずれか1つに記載のアッパーマウントと、前記アッパーマウントに連結されるショックアブソーバーと、を有することを特徴とするサスペンション。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ロックナットを緩めるだけで、スライド部をガイド面に摺動させてダンパの軸方向と直交する面内でジョイントを移動させることができる。また、ジョイントのスリーブ部からロックナットを外すだけで、ジョイント及びショックアブソーバーを車体から取り外したり、スリーブ部にロックナットを締め付けるだけで、ジョイント及びショックアブソーバーを車体に取り付けたりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係るサスペンションの分解斜視図である。
図2】本実施形態に係るサスペンションにおける、アッパーマウントを含む上端部をZX平面で切断した拡大断面図である。
図3図2に示すサスペンションのA―A断面図である。
図4図2に示すサスペンションにおけるスライド部を、スライド外ガイド部におけるX軸方向の端までスライドさせた状態を示す図である。
図5図4に示すサスペンションのA´―A´断面図である。
図6図4に示す破線で囲まれた領域Bの拡大図であって、サスペンションに設けられた溝部及び切欠き部を示す図である。
図7】溝部及び切欠き部を省略した場合において、図4に示す領域Bに相当する領域の拡大図である。
図8】溝部を設けるとともに、切り欠き部を省略した場合において、図4に示す領域Bに相当する領域の拡大図である。
図9】溝部を省略するとともに、切欠き部を設けた場合において、図4に示す領域Bに相当する領域の拡大図である。
図10】スライド外ガイド部をXY平面で切断したときの断面図であって、第1実施形態と異なる形状を有するスライド外ガイド部を示す図である。
図11】スライド外ガイド部をXY平面で切断したときの断面図であって、さらに他の形状を有するスライド外ガイド部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
以下、図面を参照しながら、本実施形態に係るサスペンションの構成について説明する。図1は、本実施形態に係るサスペンションの分解斜視図である。図2は、本実施形態に係るサスペンションにおける、アッパーマウントを含む上端部をZX平面で切断した拡大断面図である。図3は、図2に示すサスペンションのA―A断面図である。X軸は、後述するスライド部の長手方向を示す。Y軸は、後述するスライド部の短手方向を示す。Z軸は、サスペンションの軸方向を示す。図1乃至図3を参照して、本実施形態におけるサスペンション1は、アッパーマウント2、ショックアブソーバーユニット3及びショックアブソーバーナット4を備え、ショックアブソーバーユニット3は、ショックアブソーバー5及びロワーブラケットケース6を備える。ショックアブソーバーナット4がショックアブソーバー5(後述する軸部51)に締め付けられることにより、ショックアブソーバーユニット3がアッパーマウント2(後述するスライドジョイント7)に取り付けられる。
【0017】
以下、ショックアブソーバーユニット3を構成する各部分について、詳細に説明する。まず、ショックアブソーバー5は、軸部51と、シリンダーケース52と、アッパーシート53と、カラー54と、パイプ55と、ロワーシート56と、ロックナット57と、を備える。
【0018】
軸部51は、シリンダーケース52のZ軸方向上端部からZ軸方向上方に突出して、後述するスライドジョイント7を挿通する。軸部51の内部には、Z軸方向に沿って延びるピストンロッド(不図示)が収容される。ピストンロッドのZ軸方向下端部には、シリンダーケース52に収容され、Z軸方向に延びるシリンダー(不図示)が設けられている。
【0019】
カラー54は、略円筒形状を有しており、アッパーシート53からZ軸方向上方に延びて、カラー54の内周面の一部が軸部51の外周面と嵌合している。カラー54の外周面は、後述するピロボール74と嵌合すると共に、カラー54の外周面に形成された段差部がピロボール74のピロボール底面742に当接する。
【0020】
アッパーシート53は、第1アッパーシート531と、第2アッパーシート532と、を備える。第1アッパーシート531は、第1アッパーシート本体531aと、第1アッパーシート本体531aからZ軸方向下方に延びる第1アッパーシート延出部531bと、を備える。第1アッパーシート本体531aの中央に形成された開口部には、カラー54のZ軸方向下端部が嵌合している。第1アッパーシート延出部531bは、円筒形状を有しており、シリンダーケース52のZ軸方向上部の外周面に沿って配置されて、シリンダーケース52のZ軸方向上部と嵌合する。
【0021】
第2アッパーシート532は、第2アッパーシート本体532aと、第2アッパーシート本体532aからZ軸方向下方に延びる第2アッパーシート延出部532bと、を備える。第2アッパーシート本体532aは、XY平面内に配置されており、Z軸方向視において環状に形成されている。第2アッパーシート本体532aの上面は、第1アッパーシート本体531aのうち、第1アッパーシート延出部531bより径方向外側に位置する底面と当接している。第2アッパーシート延出部532bは、円筒形状を有し、第2アッパーシート延出部532bの内周面には、第1アッパーシート延出部531bの外周面が当接している。
【0022】
パイプ55の外周面には、図示しないねじ部が形成されており、このねじ部には、ロワーシート56の内周面に形成されたねじ部と、ロックナット57の内周面に形成されたねじ部とが噛み合っている。パイプ55の内部には、パイプ55のZ軸方向上端から、シリンダーケース52の少なくとも下端部が挿入されている。
【0023】
ロックナット57の上面にはロワーシート56が配置されており、第2アッパーシート本体532aの底面とロワーシート56の上面との間には、Z軸方向に伸縮するコイルスプリング(不図示)が配置されている。ロワーシート56及びロックナット57を回転させてロワーシート56のZ軸方向位置を調節することにより、コイルスプリングのばね力を変更することができる。ロックナット57を用いることにより、パイプ55のねじ部に対するロワーシート56の緩みを防止している。
【0024】
ショックアブソーバーナット4は、ナット本体41と、フランジ部42とを備え、ナット本体41及びフランジ部42は一体的に形成されている。ナット本体41は、Z軸方向に延びる円筒形状を有する。軸部51の外周面に形成されたねじ部は、ナット本体41の内周面に形成されたねじ部と噛み合っており、軸部51は、ショックアブソーバーナット4を挿通している。フランジ部42は、ナット本体41の外周面から径方向外側に突出している。フランジ部42の底面は、ピロボール74のピロボール上面741と当接する。
【0025】
ピロボール74は、Z軸方向において、ショックアブソーバーナット4(フランジ部42)及びカラー54の外周面に形成された段差部によって挟まれるため、ショックアブソーバーナット4を軸部51に締め付けることにより、ショックアブソーバーユニット3をピロボール74に固定することができる。これにより、ショックアブソーバーユニット3はスライドジョイント7に固定され、ショックアブソーバーユニット3とスライドジョイント7とは一体として移動可能となる。
【0026】
ロワーブラケットケース6は、ケース本体61と、アジャストロックナット62と、を備える。ケース本体61は、Z軸方向に延びており、ケース本体61の外周面に固定されるブラケット(不図示)を介してナックルアーム(不図示)に連結される。ケース本体61の内部には、パイプ55のねじ部と噛み合うねじ部(不図示)が形成されている。このため、アジャストロックナット62を緩めた後、ケース本体61及びパイプ55を相対的に回転させることにより、サスペンション1(すなわち、ショックアブソーバーユニット3)のZ軸方向長さを変更することができ、車高が調整可能となる。車高の調整後は、アジャストロックナット62を締め付けることにより、ロワーブラケットケース6の回り止めが行われる。
【0027】
次に、アッパーマウント2を構成する各部分について、詳細に説明する。アッパーマウント2は、スライドジョイント7、スライドガイド8、及び上部ロックナット9を備える。車体10に形成された取付け穴部11に、Z軸方向にスライドガイド8(後述するスリーブガイド部81)及びスライドジョイント7(後述するスリーブ部72)を挿通させて、スライドジョイント7(後述するスリーブ部72)のうち取付け穴部11から突出した部分に上部ロックナット9を締め付ける。この締結力により、スライドジョイント7がスライドガイド8に固定されて、サスペンション1が車体10に固定される。ここで、スライドジョイント7の後述するスライド部71及び上部ロックナット9によって、車体10及びスライドガイド8が挟まれる。
【0028】
スライドジョイント7は、上部ロックナット9が緩んだ状態において、スライドガイド8に対して、XY平面内においてスライド可能に配置されている。スライドジョイント7は、スライド部71と、スリーブ部72と、リング部73と、ピロボール74と、ボール受け部75と、抜け止め部76と、溝部77と、を備える。スライド部71と、スリーブ部72と、リング部73と、は一体的に形成されている。
【0029】
スライド部71は、スライド部側面711と、スライド部上面712と、スライド穴部713と、を備える。スライド部側面711は、一対の第1スライド部側面711aと、一対の第2スライド部側面711bと、を備える。一対の第1スライド部側面711aは、Y軸方向におけるスライド部71の両端に形成されており、ZX平面に沿った平坦な面で構成されている。一対の第2スライド部側面711bは、X軸方向におけるスライド部71の両端に形成されており、XY平面内で互いに離れる方向に凸となる曲面で構成されている。一対の第2スライド部側面711bのそれぞれは、一対の第1スライド部側面711aと繋がっている。図3に示すように、第2スライド部側面711bは、XY平面内において曲率半径R1を有する。
【0030】
スライド部上面712はXY平面内に位置している。溝部77は、スライド部上面712よりもZ軸方向下方に凹んでおり、後述する基端領域720を構成している。溝部77を設けることの効果については、詳細に後述する。スライド穴部713は、Z軸方向でスライド部71を貫通しており、Z軸方向に沿って段差部が形成されている。
【0031】
スリーブ部72は、スライド部71からZ軸方向上方に延びる円筒形状を有する。スリーブ部72の基端領域720は、スリーブ部72の径方向外側に向かって一定の曲率で広がっている。スリーブ部72の先端部の外周面にはねじ部(不図示)が形成されており、このねじ部は、上部ロックナット9の内周面に形成されたねじ部と噛み合う。リング部73は、スライド部71からZ軸方向下方に延びる円筒形状を有する。
【0032】
ピロボール74は、環状に形成されており、ピロボール上面741と、ピロボール底面742と、球体側面743と、ボール穴744と、を備える。ピロボール上面741及びピロボール底面742は、Z軸方向におけるピロボール74の両端にそれぞれ形成されており、XY平面に沿った平坦な面で構成されている。球体側面743は、ピロボール74の外側に向かって凸の曲面で構成されている。ボール穴744は、Z軸方向でピロボール74を貫通しており、ボール穴744には、ショックアブソーバー5のカラー54が嵌め込まれている。
【0033】
ボール受け部75は、環状に形成されており、スライドジョイント7のリング部73の内側に位置する。ボール受け部75の内周面は、ピロボール74の球体側面743と当接しており、球体側面743に沿った形状を有する。この構造によれば、ピロボール74の球体側面743がボール受け部75に沿って転動することにより、ピロボール74がボール受け部75に転動可能に支持される。ボール受け部75の外周面は、リング部73の内周面に当接する。
【0034】
抜け止め部76は、スライドジョイント7のリング部73の内周面に固定されており、ボール受け部75がリング部73から脱落することを阻止する。ここで、ボール受け部75の下端面が抜け止め部76に当接するとともに、ボール受け部75の上端面が、スライド部71のスライド穴部713に形成された段差部に当接することにより、ボール受け部75はZ軸方向で位置決めされる。
【0035】
スライドガイド8は、環状に形成されており、車体10及び取付け穴部11に当接して設けられている。スライドガイド8は、スリーブガイド部81と、ガイド穴部82と、ガイド凹部83と、を備える。スリーブガイド部81は、Z軸方向に沿って延びる円筒形状を有する。スリーブガイド部81の外周面は、取付け穴部11に嵌合している。また、スリーブガイド部81を除いたスライドガイド8の外面は、車体10に沿った形状に形成されており、車体10の内壁面に当接している。ここで、車体10は円錐面に沿った側面を有しており、スリーブガイド部81を除いたスライドガイド8の外面を車体10の側面に沿った形状に形成することにより、スライドガイド8をZ軸周りに回転させることができる。ガイド穴部82は、Z軸方向視においてガイド上面830の中央に形成されており、Z軸方向でスライドガイド8を貫通している。ガイド穴部82の内側には、スライドジョイント7のスリーブ部72が位置しており、ガイド穴部82の径は、スライドジョイント7の移動に伴うスリーブ部72の移動を許容する大きさに形成されている。
【0036】
ガイド凹部83の内側には、スライドジョイント7のスライド部71が位置する。ガイド凹部83は、ガイド上面830と、ガイド上面830からZ軸方向の下方に突出するガイド側面831と、を備える。ガイド上面830はXY平面内に位置し、ガイド上面830の一部は、スライド部上面712の一部と当接する。
【0037】
本実施形態において、ガイド側面831は、一対の第1側面831aと、一対の第2側面831bとを備え、一対の第1側面831aのそれぞれは、一対の第2側面831bと繋がっている。一対の第1側面831aは、この全面がY軸方向で対向する位置にそれぞれ配置されており、ZX平面に沿った平坦面で構成されている。
【0038】
一対の第2側面831bは、XY平面内で互いに離隔する方向に凸となる曲面で構成されている。図3に示すように、第2側面831bは、XY平面内において、曲率半径R2を有する。曲率半径R2は、上述した第2スライド部側面711bの曲率半径R1よりも大きい。
【0039】
一対の第1スライド部側面711aは、一対の第1側面831aとそれぞれ当接している。また、一対の第2側面831bには、スライド部71の一対の第2スライド部側面711bがそれぞれ当接可能である。
【0040】
ガイド穴部82及びガイド上面830の境界部分には、切欠き部811が形成されている。切欠き部811を設けることの効果については、詳細に後述する。切欠き部811は、Z軸方向下方に向かうにしたがって径が大きくなる形状(テーパー形状)を有する。
【0041】
上部ロックナット9には、スリーブ部72が貫通する締結穴91が設けられており、締結穴91に形成されたねじ部は、スリーブ部72の外周面に形成されたねじ部と噛み合う。
【0042】
次に、車体10に取り付けられたサスペンション1におけるキャスター角及び/又はキャンバー角の調整方法について、図2乃至図5を参照して説明する。図4は、スライドジョイント7を、図2に示す位置から、スライドガイド8のガイド凹部83におけるX軸方向の一端までスライドさせた状態を示す図である。図5は、図4に示すサスペンションのA´―A´断面図である。以下、一例として、キャスター角及びキャンバー角を調整するために、図2及び図3に示す位置から図4及び図5に示す位置までスライドジョイント7を移動させる場合を考える。スリーブ部72を締め付けている上部ロックナット9を緩めることにより、車体10に対する上部ロックナット9の締結力が低下して、スライド部71がスライドガイド8のガイド凹部83に沿ってX方向にスライド可能となる。ここで、スライドジョイント7のスライド部上面712は、ガイド凹部83の上面830上を摺動する。なお、上部ロックナット9を緩めることにより、スライドガイド8をZ軸周りに回転させることもでき、これによりキャスター角やキャンバー角を調整する調整範囲を変更することができるが、ここではスライドガイド8をZ軸周りに回転させない。
【0043】
図2及び図3に示す位置から図4及び図5に示す位置までスライドジョイント7をスライドさせることに伴い、スライドジョイント7に固定されたショックアブソーバーユニット3もスライドジョイント7と共にスライドする。ここで、ショックアブソーバーユニット3の下部(具体的には、ロワーブラケットケース6の下部)はナックルアーム(不図示)に連結されているため、スライドジョイント7をスライドさせると、この連結部分を基点としてショックアブソーバーユニット3が傾くことになる。このとき、ピロボール74がボール受け部75に対して転動することにより、ショックアブソーバーユニット3の傾きが許容される。そして、スライドガイド8によってスライドジョイント7をスライドさせる方向(言い換えれば、ショックアブソーバーユニット3を傾かせる方向)を規定することにより、キャスター角やキャンバー角を調整することができる。スライドジョイント7をスライドさせた後、スリーブ部72に上部ロックナット9を締め付けることによって、スライドジョイント7(スライド部71)がスライドガイド8に固定されて、サスペンション1は図4及び図5に示す位置で車体10に固定される。
【0044】
本実施形態によれば、サスペンション1を車体10に取り付ける際には上部ロックナット9のみを締め付ければよいとともに、サスペンション1を車体10から取り外す際には上部ロックナット9のみを緩めればよいため、サスペンション1と車体10との脱着作業が容易となる。また、本実施形態によれば、上部ロックナット9を緩めて、ガイド凹部83の上面830上を摺動するようにスライド部上面712(スライドジョイント7)をスライドさせるだけで、キャスター角やキャンバー角を容易に調整することができる。
【0045】
上述のように、一対の第1スライド部側面711aは、一対の第1側面831aとそれぞれ当接している。この構造によれば、スライドジョイント7をスライドさせる方向を一方向に設定(請求項2における「所定方向に規制」に相当)することができるため、設定したスライド方向において、スライドジョイント7の位置を調整しやすくなる。
【0046】
溝部77及び切欠き部811を設けることの効果について、図6乃至図9を参照して以下に詳細に説明する。図6は、図4に示す破線で囲まれた領域Bの拡大図であって、溝部77及び切欠き部811を示す図である。図7は、溝部77及び切欠き部811を省略した場合において、図4に示す領域Bに相当する領域の拡大図である。図8は、溝部77を設けるとともに、切り欠き部811を省略した場合において、図4に示す領域Bに相当する領域の拡大図である。図9は、溝部77を省略するとともに、切欠き部811を設けた場合において、図4に示す領域Bに相当する領域の拡大図である。
【0047】
製造上の理由により、図7に示すように、スリーブ部72の基端に曲面部70が形成されることがある。溝部77を省略した場合において、スライド部71をガイド凹部83に沿ってスライドさせると、スライドガイド8の角部(ガイド穴部82及びガイド上面830の境界部分)が曲面部70と接触することにより、ガイド穴部82及びスリーブ部72の間に空隙T1(デッドスペース)が生じる。この空隙T1においては、スライドジョイント7をスライドさせることができないため、空隙T1の分だけ、スライドジョイント7のスライド方向においてアッパーマウント2が大型化してしまう。
【0048】
一方、図8に示すように溝部77を設けた場合には、基端領域720の曲率半径を図7に示す曲面部70の曲率半径よりも大きくできる。そのため、図7に示す場合と比べて、スライドジョイント7のスライド方向において、スリーブ部72をガイド穴部82に近づけることができる。すなわち、図8に示す空隙T2の幅(スライドジョイント7のスライド方向の長さ、以下同様)を図7に示す空隙T1の幅よりも狭くすることができる。これにより、スライドジョイント7の最大のスライド距離を確保しながら、デッドスペースとなる空隙T2を狭めた分だけ、スライドジョイント7のスライド方向においてアッパーマウント2を小型化することができる。なお、本実施形態では、溝部77及び切欠き部811を設けているが、図8に示すように、溝部77を設けるだけでもよい。
【0049】
また、図9に示すように切欠き部811を設けた場合には、図7に示す場合と比べて、スライドガイド8の角部(ガイド穴部82及びガイド上面830の境界部分)及び曲面部70の当接を回避しやすくなる。そのため、スライドジョイント7のスライド方向において、スリーブ部72をガイド穴部82に近づけることができる。すなわち、図9に示す空隙T3の幅を図7に示す空隙T1の幅よりも狭くすることができる。これにより、スライドジョイント7の最大のスライド距離を確保しながら、デッドスペースとなる空隙T3を狭めた分だけ、スライドジョイント7のスライド方向においてアッパーマウント2を小型化することができる。なお、本実施形態では、溝部77及び切欠き部811を設けているが、図9に示すように、切欠き部811を設けるだけでもよい。また、切欠き部811は、スリーブ部72の曲面部70と干渉しない形状であればよく、上述したテーパー形状以外の形状であってもよい。
【0050】
上述したように、第2側面831bの曲率半径R2を、第2スライド部側面711bの曲率半径R1よりも大きくすることにより、図5に示すように、第2スライド部側面711bの頂部711cだけを、第2側面831bの頂部831cだけに当接させることができる。ここで、曲率半径R1,R2を等しくすることも考えられるが、この場合には、第2スライド部側面711b及び第2側面831bの製造誤差により、第2スライド部側面711bの全体を第2側面831bの全体に当接させにくくなる。また、第2スライド部側面711b及び第2側面831bの当接位置にばらつきが発生しやすくなり、第2スライド部側面711b及び第2側面831bの当接位置によっては、スライドジョイント7の最大のスライド距離を確保しにくくなる。本実施形態のように、曲率半径R2を曲率半径R1よりも大きくすれば、第2スライド部側面711bの頂部711cを第2側面831bの頂部831cに当接させやすくなり、スライドジョイント7の最大のスライド距離を確保しやすくなる。
【0051】
(変形例1)
上述した説明では、Z軸周りにおけるスライドガイド8の回転位置を固定しているが、上述の通り、スライドガイド8をZ軸周りに回転させることができる。これにより、スライドガイド8の回転位置に応じて、XY平面内におけるスライドジョイント7のスライド方向を変更することができ、キャスター角及びキャンバー角を調整したり、キャスター角だけを調整したり、キャンバー角だけを調整したりすることができる。
【0052】
(変形例2)
上記実施形態では、スライドジョイント7においてピロボール74を用いているが、これに限るものではなく、上述したように、スライドジョイント7のスライドに伴うショックアブソーバーユニット3の傾きを許容できる構造であればよい。例えば、ピロボール74に代えて、ゴム、ウレタン、ボールジョイント、ベアリング等を用いることができる。
【0053】
(変形例3)
ガイド凹部83のガイド側面831の形状は、上記実施形態で説明した形状に限られるものではなく、スライド部71をスライドさせることができればよい。例えば、図10に示すように、Z軸方向視において、ガイド凹部83を十字形状に形成したり、図11に示すように、Z軸方向視において、ガイド凹部83を円形状に形成したりしてもよい。図10に示す構造によれば、スライドガイド8をZ軸周りで回転させなくても、スライドジョイント7をX軸方向やY軸方向に移動させることができる。図11に示す構造によれば、スライドガイド8をZ軸周りで回転させなくても、スライドジョイント7をXY平面内の任意の方向にスライドさせることができる。
【符号の説明】
【0054】
1:サスペンション 2:アッパーマウント 3:ショックアブソーバーユニット 4:ショックアブソーバーナット 5:ショックアブソーバー 7:スライドジョイント 8:スライドガイド 9:上部ロックナット 10:車体 11:取付け穴部 71:スライド部 72:スリーブ部 77:溝部 711:スライド部側面 712:スライド部上面 713:スライド穴部 711a:第1スライド部側面 711b:第2スライド部側面 81:スリーブガイド部 82:ガイド穴部 83:ガイド凹部 811:切欠き部 830:ガイド上面 831:ガイド側面 831a:第1側面 831b:第2側面
図1
図2
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図8
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図11