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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】バルブ装置、及び緩衝器
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/06 20060101AFI20220107BHJP
   F16F 9/34 20060101ALI20220107BHJP
   F16F 9/46 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
F16K31/06 305L
F16F9/34
F16F9/46
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018045347
(22)【出願日】2018-03-13
(65)【公開番号】P2019158000
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-08-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100067367
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 泉
(72)【発明者】
【氏名】加藤 秀昌
【審査官】篠原 将之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/015358(WO,A1)
【文献】特開平11-037199(JP,A)
【文献】実開平01-100941(JP,U)
【文献】特開2019-158001(JP,A)
【文献】特開2019-160994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/06
F16F 9/34
F16F 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力導入通路と、
前記圧力導入通路の下流に接続される第一通路及び第二通路と、
通電時に前記第一通路を開いて上流側の圧力を制御するとともに前記第二通路を閉じ、非通電時に前記第一通路を閉じるとともに前記第二通路を開く電磁弁と、
前記第二通路の前記電磁弁よりも下流に設けられたパッシブ弁とを備える
ことを特徴とするバルブ装置。
【請求項2】
前記電磁弁は、前記第一通路と前記第二通路を開閉する開閉弁弁体と、前記第一通路における前記開閉弁弁体よりも下流側を開閉する圧力制御弁弁体とを含む電磁弁弁体を有し、
前記電磁弁の通電時には、前記開閉弁弁体が前記第一通路を開くとともに前記第二通路を閉じ、前記圧力制御弁弁体の開弁圧が制御される
ことを特徴とする請求項1に記載のバルブ装置。
【請求項3】
内周側に前記開閉弁弁体が摺動自在に挿入される筒状のバルブケースを備え、
前記バルブケースの軸方向にずらした位置に、前記第一通路における前記開閉弁弁体の開閉部となる第一ポートと、前記第二通路における前記開閉弁弁体の開閉部となる第二ポートが形成されており、
前記バルブケースの第一ポート側の端部に、前記圧力制御弁弁体が離着座する圧力制御弁弁座が設けられており、
前記電磁弁は、前記圧力制御弁弁体と前記圧力制御弁弁座を離間させる方向へ前記電磁弁弁体を附勢するばねと、前記ばねの附勢力とは反対方向の推力を前記電磁弁弁体に与えるソレノイドとを有する
ことを特徴とする請求項2に記載のバルブ装置。
【請求項4】
前記バルブケースの第二ポート側の端部には、パッシブ弁弁座が設けられており、
前記パッシブ弁は、前記パッシブ弁弁座に離着座するパッシブ弁弁体と、前記パッシブ弁弁体を前記パッシブ弁弁座へ向けて附勢する附勢ばねとを有する
ことを特徴とする請求項3に記載のバルブ装置。
【請求項5】
一方室と他方室とを連通する主通路と、
内周側を前記主通路が通る環状の弁座部材と、
前記弁座部材に離着座して前記主通路を通過する液体の流れに抵抗を与える主弁体とを備え、
前記圧力導入通路は、前記一方室の圧力を減圧して前記主弁体の背面に背圧として導くものであり、
前記主弁体は、前記弁座部材に離着座する環状の第一弁体部材と、前記第一弁体部材の反弁座部材側に積層されて前記第一弁体部材に離着座する第二弁体部材とを有し、
前記バルブケースと前記パッシブ弁は、前記第二弁体部材に取り付けられており、
前記第一弁体部材と前記第二弁体部材は、前記一方室の圧力により前記弁座部材から離れる方向へ附勢され、
前記第二弁体部材は、前記第一弁体部材の内周側の圧力により前記第一弁体部材から離れる方向へ附勢される
ことを特徴とする請求項3又は4に記載のバルブ装置。
【請求項6】
シリンダと、
前記シリンダ内に摺動自在に挿入されるピストンと、
請求項1から5の何れか一項に記載のバルブ装置とを備え、
前記バルブ装置は、前記シリンダ内を前記ピストンが移動する際に生じる液体の流れに抵抗を与える
ことを特徴とする緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブ装置と、バルブ装置を備えた緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
バルブ装置は、例えば、車両の車体と車軸との間に介装される緩衝器の減衰力を可変にする減衰弁として利用されている。
【0003】
このような減衰弁の中には、緩衝器の伸縮時に生じる液体の流れに抵抗を与える主弁体と、この主弁体の背面に主弁体より上流側の圧力を減圧して導く圧力導入通路と、圧力導入通路の下流に接続される第一通路と、この第一通路を開く際の開弁圧制御する圧力制御弁弁体及びそれよりも下流を開閉する開閉弁弁体を含む電磁弁と、第一通路における圧力制御弁弁体と開閉弁弁体の間に接続される第二通路と、この第二通路に設けられるパッシブ弁とを備え、電磁弁の通電時に、開閉弁弁体を開いて圧力制御弁弁体の開弁圧を制御するとともに、電磁弁の非通電時に開閉弁弁体を閉じてパッシブ弁へ液体を流すものがある(例えば、特許文献1)。
【0004】
上記構成によれば、電磁弁へ電力供給をする正常時には、圧力制御弁弁体の開弁圧を制御して、主弁体の背圧を圧力制御弁弁体の開弁圧に制御できる。主弁体の背圧を大小調節すると主弁体による抵抗が変わるので、背圧を制御すれば緩衝器の発生する減衰力を大小させて減衰力特性を変更できる。その一方、電磁弁への電力供給を断つフェール時には液体がパッシブ弁を通る。このため、フェール時には主弁体の背圧がパッシブ弁の設定により決まる。つまり、電磁弁への電力供給が断たれても緩衝器が所定の減衰力を発揮できるので、フェールセーフとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-173716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した従来の減衰弁に利用される電磁弁の弁体(電磁弁弁体)は、圧力制御弁弁体とその下流側を開閉する開閉弁弁体が一体化された構成であり、これらが同時に同方向へ直線運動するようになっている。そして、電磁弁弁体が一方へ動くと圧力制御弁弁体が対応する弁座(圧力制御弁弁座)に近づくとともに開閉弁弁体が対応する弁座(開閉弁弁座)から離れる。反対に、電磁弁弁体が他方へ動くと圧力制御弁弁体が圧力制御弁弁座から離れるとともに開閉弁弁体が開閉弁弁座に近づく。
【0007】
また、電磁弁は、圧力制御弁弁体と圧力制御弁弁座を離間して開閉弁弁体を開閉弁弁座に着座させる方向へ電磁弁弁体を押し上げるばねと、このばねとは反対方向の推力を電磁弁弁体に与えるソレノイドとを有する。そして、電磁弁の通電時には、ソレノイドの推力により電磁弁弁体がばねの附勢力に抗して押し下げられて開閉弁弁体が開き、圧力制御弁弁体の開弁圧が通電量に応じて大小調節される。その一方、電磁弁の非通電時には、ばねの附勢力により電磁弁弁体が最大限に押し上げられて、開閉弁弁体が閉じる。
【0008】
このように、従来、通電時における圧力制御用の圧力制御弁弁体と、非通電時に液体を第二通路へ流すための開閉弁弁体を一体化して、単一のソレノイドで圧力制御と通路の開閉の両方をできるようにしている。しかし、従来のように、第一通路における圧力制御弁弁体と開閉弁弁体の間にパッシブ弁を設けた第二通路を接続したのでは、次のような問題を指摘される虞がある。
【0009】
従来の構造では、電磁弁へ供給する電流量を小さくして減衰力特性をソフトにした状態で第一通路の流量が増えた場合、開閉弁弁体の上流側と下流側の差圧が大きくなって開閉弁弁体と圧力制御弁弁体との間の圧力が上昇し、その圧力で電磁弁弁体が押し上げられることがある。そして、このように電磁弁弁体が押し上げられると正常時にも関わらず開閉弁弁体が閉じてフェール時の状態(フェール状態)になってしまう可能性があり、正常時であっても減衰弁がフェール状態になれば減衰力特性がフェール時の特性に移行してしまう。
【0010】
このような現象は、流量が減れば自然と解消されて正常な状態に戻るのではあるが、それまでの間、主弁体の背圧がパッシブ弁に支配されていて電磁弁による圧力制御が効かない。このため、正常状態に戻るまでの間は減衰力の調整ができなくなる。
【0011】
そうかといって、上記問題を解決するため、第一通路における圧力制御弁弁体より上流に単に第二通路を接続し直したのでは、パッシブ弁の開弁圧を圧力制御弁弁体の開弁圧の上限圧力より高く設定せざるをえなくなる。なぜなら、上記した構成ではパッシブ弁の開弁圧を圧力制御弁弁体の開弁圧の上限圧力より高く設定しておかないと、圧力制御弁弁体の開弁圧の調整幅が狭まって正常時の減衰力調整幅を狭めてしまうためである。このようにパッシブ弁の設定が制限されると、フェール時の減衰力特性を自由に設定できない。
【0012】
そして、このような問題は、電磁弁で圧力制御されるのが主弁体の背圧である場合、及びバルブ装置が緩衝器の減衰弁に利用される場合に限らず起こり得る。そこで、本発明は、このような問題を解決するために創案されたものであり、電磁弁で圧力制御と通路の開閉の両方をする場合であっても、正常時にフェール状態になるのを防止できるとともにパッシブ弁を自由に設定できるバルブ装置、及び緩衝器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するバルブ装置は、圧力導入通路の下流に接続される第一通路及び第二通路と、通電時に第一通路を開いて上流側の圧力を制御するとともに第二通路を閉じ、非通電時に第一通路を閉じるとともに第二通路を開く電磁弁と、第二通路の電磁弁よりも下流に設けられたパッシブ弁とを備える。
【0014】
上記構成によれば、電磁弁で圧力制御と通路の開閉の両方をする場合であっても、通電時にはパッシブ弁の上流を電磁弁で閉じているので、バルブ装置が正常時にフェール状態になるのを防止できる。さらに、電磁弁の通電時と非通電時とで、圧力導入通路側からの液体が通過できる通路が切換るので、パッシブ弁を自由に設定できる。
【0015】
また、上記バルブ装置では、電磁弁の弁体である電磁弁弁体が第一通路と第二通路を開閉する開閉弁弁体と、第一通路における開閉弁弁体よりも下流側を開閉する圧力制御弁弁体とを含み、電磁弁の通電時に開閉弁弁体が第一通路を開くとともに第二通路を閉じ、圧力制御弁弁体の開弁圧が制御されるとよい。
【0016】
上記構成によれば、通電時に圧力制御するための圧力制御弁弁体と、非通電時に液体を第二通路へ流すための開閉弁弁体を一体化して、単一のソレノイドで圧力制御と通路の開閉の両方をできるようにした場合であっても、バルブ装置が正常時にフェール状態になるのを防止できるとともにパッシブ弁を自由に設定できる。
【0017】
また、上記バルブ装置が内周側に開閉弁弁体が摺動自在に挿入される筒状のバルブケースを備えていて、そのバルブケースの軸方向にずらした位置に第一通路における開閉弁弁体の開閉部となる第一ポートと、第二通路における開閉弁弁体の開閉部となる第二ポートが形成されており、バルブケースの第一ポート側の端部に圧力制御弁弁体が離着座する圧力制御弁弁座が設けられており、電磁弁が圧力制御弁弁体と圧力制御弁弁座を離間させる方向へ電磁弁弁体を附勢するばねと、ばねの附勢力とは反対方向の推力を電磁弁弁体に与えるソレノイドとを有するとよい。当該構成によれば、電磁弁の通電時に開閉弁弁体で第一通路を開くとともに第二通路を閉じ、圧力制御弁弁体の開弁圧を制御するのが容易である。
【0018】
また、上記バルブ装置では、バルブケースの第二ポート側の端部にパッシブ弁弁座が設けられていて、パッシブ弁がパッシブ弁弁座に離着座するパッシブ弁弁体と、パッシブ弁弁体をパッシブ弁弁座へ向けて附勢する附勢ばねとを有するとよい。当該構成によれば、バルブケースとパッシブ弁弁座を一体化できるので、これらを一部品として一体成形すれば、バルブ装置の部品数を減らしてコストを低減できる。さらに、バルブケースとパッシブ弁をコンパクトに配置できるので、バルブ装置を小型化できる。
【0019】
また、上記バルブ装置が一方室と他方室とを連通する主通路と、内周側を主通路が通る環状の弁座部材と、弁座部材に離着座して主通路を通過する液体の流れに抵抗を与える主弁体とを備えていて、圧力導入通路が一方室の圧力を減圧して主弁体の背面に背圧として導くものであり、主弁体が弁座部材に離着座する環状の第一弁体部材と、第一弁体部材の反弁座部材側に積層されて第一弁体部材に離着座する第二弁体部材とを有するとともに、この第二弁体部材にバルブケースとパッシブ弁が取り付けられていて、第一弁体部材と第二弁体部材が一方室の圧力により弁座部材から離れる方向へ附勢され、第二弁体部材が第一弁体部材の内周側の圧力により第一弁体部材から離れる方向へ附勢されるとよい。
【0020】
上記構成によれば、正常時に一方室の圧力が高まる場合には、主弁体の背圧とソレノイドの推力を制御することで主弁体による抵抗を変更できる。反対に、正常時に他方室の圧力が高まる場合には、ソレノイドの推力を制御することで主弁体による抵抗を変更できる。
【0021】
また、シリンダと、シリンダ内に摺動自在に挿入されるピストンと、上記バルブ装置とを備える緩衝器であって、バルブ装置がシリンダ内をピストンが移動する際に生じる液体の流れに抵抗を与える減衰弁であるとよい。当該構成によれば、前述のようにバルブ装置が正常時にフェール状態になるのを防止できると、正常時の減衰力特性がフェール時の特性になるのを防止できる。さらに、前述のようにパッシブ弁を自由に設定できると、フェール時の減衰力特性を自由に設定できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のバルブ装置及び緩衝器によれば、電磁弁で圧力制御と通路の開閉の両方をする場合であっても、正常時にフェール状態になるのを防止できるとともに、パッシブ弁を自由に設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施の形態に係るバルブ装置である減衰弁を備えた緩衝器の縦断面図である。
図2図1の減衰弁部分の拡大縦断面図である。
図3図2の一部をさらに拡大して示した縦断面図である。
図4】本発明の一実施の形態に係るバルブ装置である減衰弁の電磁弁部分の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。いくつかの図面を通して付された同じ符号は、同じ部品を示す。
【0025】
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係るバルブ装置は、緩衝器Dの減衰弁Vとして利用されている。その緩衝器Dは、本実施の形態では車両のサスペンションに利用されており、シリンダ1と、このシリンダ1内に摺動自在に挿入されるピストン10と、一端がピストン10に連結されて他端がシリンダ1外へ突出するピストンロッド11とを備える。
【0026】
そして、車両における車体と車軸の一方にシリンダ1が連結され、他方にピストンロッド11が連結される。このようにして緩衝器Dは車体と車軸との間に介装される。また、車両が凹凸のある路面を走行する等して車輪が上下に振動すると、ピストンロッド11がシリンダ1に出入りして緩衝器Dが伸縮し、ピストン10がシリンダ1内を図1中上下(軸方向)に移動する。
【0027】
シリンダ1の軸方向の一端部には、ピストンロッド11の挿通を許容する環状のヘッド部材12が装着されている。このヘッド部材12は、ピストンロッド11を摺動自在に支持するとともにシリンダ1の一端を塞ぐ。その一方、シリンダ1の他端はボトムキャップ13で塞がれている。このようにしてシリンダ1内は密閉されており、そのシリンダ1内に液体と気体が封入されている。
【0028】
より詳しくは、シリンダ1内には、ピストン10から見てピストンロッド11とは反対側にフリーピストン14が摺動自在に挿入されている。そして、そのフリーピストン14のピストン10側に、作動油等の液体が充填された液室Lが形成される。その一方、フリーピストン14から見てピストン10とは反対側に、圧縮気体が封入されたガス室Gが形成される。
【0029】
このように、緩衝器Dでは、シリンダ1内の液室Lとガス室Gとがフリーピストン14で仕切られている。さらに、液室Lは、ピストン10でピストンロッド11側の伸側室L1とその反対側(反ピストンロッド側)の圧側室L2とに区画されている。また、ピストン10には減衰弁Vが取り付けられている。そして、その減衰弁Vは、伸側室L1と圧側室L2との間を行き交う液体の流れに抵抗を与える。
【0030】
上記構成によれば、緩衝器Dの伸長時に、ピストン10がシリンダ1内を図1中上側へ移動して伸側室L1を圧縮すると、伸側室L1の液体が減衰弁Vを通って圧側室L2へ移動するとともに、当該液体の流れに減衰弁Vによって抵抗が付与される。このため、緩衝器Dの伸長時には伸側室L1の圧力が上昇し、緩衝器Dがその伸長作動を妨げる伸側の減衰力を発揮する。
【0031】
反対に、緩衝器Dの収縮時に、ピストン10がシリンダ1内を図1中下側へ移動して圧側室L2を圧縮すると、圧側室L2の液体が減衰弁Vを通って伸側室L1へ移動するとともに、当該液体の流れに減衰弁Vによって抵抗が付与される。このため、緩衝器Dの収縮時には圧側室L2の圧力が上昇し、緩衝器Dがその収縮作動を妨げる圧側の減衰力を発揮する。
【0032】
さらに、緩衝器Dが伸縮する際、フリーピストン14が動いてガス室Gを拡大したり縮小したりして、シリンダ1に出入りするピストンロッド11の体積分を補償する。
【0033】
しかし、緩衝器Dの構成は、図示する限りではなく、適宜変更できる。例えば、ガス室Gに替えて液体と気体を収容するリザーバを設け、緩衝器の伸縮時にシリンダとリザーバとの間で液体をやり取りするようにしてもよい。さらに、緩衝器Dを両ロッド型にして、ピストンの両側にピストンロッドを設けてもよく、その場合には、ピストンロッド体積を補償するための構成を省略できる。
【0034】
つづいて、図2に示すように、減衰弁Vは、伸側室L1と圧側室L2とを連通する主通路P1と、内周側を主通路P1が通る環状の弁座部材2と、この弁座部材2に離着座して主通路P1を開閉する主弁体3と、途中に絞りOが形成されて主弁体3の背面に伸側室L1の圧力を減圧して導く圧力導入通路P2と、この圧力導入通路P2の絞りOより下流(反伸側室側)に接続される第一通路P3及び第二通路P4と、これら第一通路P3と第二通路P4を開閉する電磁弁4と、第二通路P4の電磁弁4より下流に設けられるパッシブ弁5と、主通路P1における主弁体3よりも圧側室L2側を開閉する伸側バルブ6及び圧側バルブ7とを備える。
【0035】
また、ピストン10とピストンロッド11は、これらをつなぐ筒状のガイド8とともに減衰弁VのハウジングHとして機能する。より詳しくは、ピストン10は、有底筒状であり、筒部10aをピストンロッド11側へ向けている。また、ピストンロッド11の先端には、有天筒状のケース部11aが設けられており、このケース部11aは、筒部11bをピストン10側へ向けている。このように、ピストン10とケース部11aは、互いの筒部10a,11bが向かい合うように配置されている。
【0036】
そして、ケース部11aにおける筒部11bの先端部内周にガイド8の軸方向の一端部が螺合され、ピストン10における筒部10aの先端部内周にガイド8の軸方向の他端部が螺合されている。このようにしてケース部11a、ガイド8、及びピストン10が一体化されて減衰弁VのハウジングHとして機能し、そのハウジングHの内側に弁座部材2、主弁体3、電磁弁4、パッシブ弁5、及び圧側バルブ7が収容される。また、ハウジングHの外側に、伸側バルブ6が装着される。
【0037】
以下、減衰弁Vにおいて、そのハウジングHに収容又は装着される各部材について、詳細に説明する。以下の説明では、説明の便宜上、特別な説明がない限り、図2,3中上下を単に「上」「下」という。
【0038】
ピストン10の筒部10aの内周には、突起10bが設けられている。弁座部材2は、その外周部突起10bとガイド8との間に挟まれて固定されている。前述のように、弁座部材2は環状であり、その上端内周部に環状の第一弁座2aが形成されている。そして、その第一弁座2aに主弁体3が離着座する。この主弁体3は、上下に分割されており、下側(弁座部材2側)の第一弁体部材30と、この第一弁体部材30に積層される上側の第二弁体部材31とを有して構成されている。
【0039】
第一弁体部材30は、環状であり、その上端に第二弁体部材31が離着座する環状の第二弁座30aが形成されている。さらに、第一弁体部材30の外周と内周には、それぞれテーパ面30b,30cが形成されている。テーパ面30b,30cの形状は、それぞれ下端へ向かうに従って径が徐々に小さくなるように円錐台形状となっている。そして、第一弁体部材30は、外周にテーパ面30bが形成された部分を弁座部材2の内側へ挿入し、テーパ面30bを第一弁座2aに離着座させる。
【0040】
その一方、第二弁体部材31は、頭部31aと、この頭部31aの下側に連なり外径が頭部31aの外径よりも大きい環状のフランジ部31bと、このフランジ部31bの下端内周部から下側へ突出して第二弁座30aに離着座する環状の脚部31cとを有し、ガイド8の内側に摺動自在に挿入されている。より詳しくは、ガイド8の内径は下側が上側よりも大きくなっている。ガイド8において、内径の小さい部分を小内径部8a、大きい部分を大内径部8bとすると、小内径部8aの内周に第二弁体部材31の頭部31aが摺接し、大内径部8bの内周に第二弁体部材31のフランジ部31bが摺接する。
【0041】
つづいて、図3に示すように、第二弁体部材31の脚部31c及び第一弁体部材30の外周であってフランジ部31bの下側には環状隙間Kが形成されている。この環状隙間Kは、ガイド8に形成された連通孔8cにより伸側室L1と連通されており、環状隙間K内の圧力が伸側室L1の圧力と略等しくなる。そして、その伸側室L1の圧力は、主弁体3における外周側のテーパ面30b、フランジ部31bの下側面等に作用し、第一弁体部材30と第二弁体部材31が伸側室L1の圧力により上向きに附勢される。
【0042】
より詳しくは、第一弁体部材30のテーパ面30bにおける第一弁座2aへの接触部の外径を直径a、第二弁体部材31のフランジ部31bにおける大内径部8bへの摺接部の外径を直径bとする。すると、直径bは直径aより大きく(b>a)、伸側室L1の圧力を受ける主弁体3の受圧面積は、直径bの円の面積から直径aの円の面積を除いた面積となる。そして、主弁体3は、伸側室L1の圧力にその受圧面積を乗じた力により、第一弁体部材30を第一弁座2aから離座させる方向(開く方向)へ附勢される。
【0043】
このため、緩衝器Dの伸長時に伸側室L1の圧力が上昇し、その圧力によって第一弁体部材30と第二弁体部材31が押し上げられて第一弁体部材30が開くと、伸側室L1の液体が第一弁体部材30と第一弁座2aとの間を通ってピストン10の底部10c(図2)側へと向かう。そして、第一弁体部材30は、当該液体の流れに抵抗を与えるようになっている。
【0044】
図2に示すように、ピストン10の底部10cには、当該底部10cを上下に貫通する伸側通路10dと圧側通路10eが形成されている。つまり、第二弁体部材31の頭部31aとピストン10の底部10cとの間であって、フランジ部31b、脚部31c、第一弁体部材30、弁座部材2、及びピストン10の筒部10aの内周側を中央室L3とすると、伸側通路10dと圧側通路10eはその中央室L3と圧側室L2とを連通できるようになっている。
【0045】
伸側通路10dの入口は常に中央室L3と連通され、伸側通路10dの出口は底部10cの下側に積層された伸側バルブ6で開閉される。この伸側バルブ6は、緩衝器Dの伸長時に開弁して伸側通路10dを中央室L3から圧側室L2へ向かう液体の流れに抵抗を与えるとともに、収縮時には閉じてその逆方向の流れを阻止する。
【0046】
その一方、圧側通路10eの入口は常に圧側室L2と連通され、圧側通路10eの出口は底部10cの上側に積層された圧側バルブ7で開閉される。この圧側バルブ7は、緩衝器Dの収縮時に開弁して圧側通路10eを圧側室L2から中央室L3へ向かう液体の流れに抵抗を与えるとともに、伸長時には閉じてその逆方向の流れを阻止する。そして、緩衝器Dの収縮時に圧側室L2から中央室L3へ流入した液体は、主弁体3側へと向かう。
【0047】
中央室L3の圧力は、第二弁体部材31における脚部31cの下側面等に作用し、第二弁体部材31が中央室L3の圧力により上向きに附勢される。さらに、中央室L3の圧力は、第一弁体部材30の内周側のテーパ面30c等に作用し、第一弁体部材30が中央室L3の圧力により下向きに附勢される。このように、第一弁体部材30と第二弁体部材31は、中央室L3の圧力によって逆向きに附勢される。
【0048】
より詳しくは、第二弁体部材31の頭部31aの上下は、後述する縦孔31fにより連通されていて、これらの圧力が等しくなる。そして、図3に示すように、第二弁体部材31の頭部31aにおける小内径部8aへの摺接部の外径を直径c、第二弁体部材31の脚部31cにおける第二弁座30aへの接触部の内径を直径dとする。すると、直径dは直径cより大きく(d>c)、中央室L3の圧力を受ける第二弁体部材31の受圧面積は、直径dの円の面積から直径cの円の面積を除いた面積となる。そして、第二弁体部材31は、中央室L3の圧力にその受圧面積を乗じた力により、第二弁座30aから離座する方向(開く方向)へ附勢される。
【0049】
また、第一弁体部材30の外周側のテーパ面30bにおける第一弁座2aへの接触部の内径を直径eとすると、前述の直径dは直径eより大きく(d>e)、中央室L3の圧力を受ける第一弁体部材30の受圧面積は、直径dの円の面積から直径eの円の面積を除いた面積となる。そして、第一弁体部材30は、中央室L3の圧力にその受圧面積を乗じた力により、第一弁座2aへ着座する方向(閉じる方向)へ附勢される。
【0050】
このため、緩衝器Dの収縮時に圧側バルブ7(図2)が開いて液体が圧側室L2から中央室L3へ流入してその圧力が上昇し、この圧力によって第二弁体部材31が押し上げられて第一弁体部材30から離れると、中央室L3の液体が第二弁体部材31と第二弁座30aとの間を通って伸側室L1へ移動する。そして、第二弁体部材31は、当該液体の流れに対して抵抗を与えるようになっている。
【0051】
以上からわかるように、連通孔8c、環状隙間K、中央室L3、並びに、伸側通路10d及び圧側通路10eは、それぞれ伸側室L1と圧側室L2とを連通する主通路P1の一部となっており、その主通路P1を主弁体3で開閉する。さらに、主通路P1における主弁体3の開閉部よりも圧側室L2側が伸側通路10dと圧側通路10eに分岐して、それぞれに伸側バルブ6又は圧側バルブ7が設けられている(図2)。換言すると、伸側バルブ6と圧側バルブ7は、主弁体3の圧側室L2側に並列に接続されている。
【0052】
そして、緩衝器Dの伸長時には、主通路P1を伸側室L1から圧側室L2へ向かう液体の流れに第一弁体部材30と伸側バルブ6で抵抗を与え、緩衝器Dがその抵抗に起因する伸側の減衰力を発揮する。反対に、緩衝器Dの収縮時には、主通路P1を圧側室L2から伸側室L1へ向かう液体の流れに第二弁体部材31と圧側バルブ7で抵抗を与え、緩衝器Dがその抵抗に起因する圧側の減衰力を発揮する。
【0053】
また、本実施の形態では、第二弁体部材31の脚部31cの下端に切欠き31d(図3)が形成されている。そして、当該切欠き31dによりオリフィスが形成されている。このため、主弁体3が閉じた状態、即ち、第一弁体部材30と第二弁体部材31の両方が閉じた状態であっても、伸側室L1と中央室L3がオリフィスを介して連通される。
【0054】
つづいて、第二弁体部材31における頭部31aとガイド8の大内径部8bとの間であってフランジ部31bの上側には、環状の背圧室L4が形成されている。この背圧室L4と伸側室L1は、ガイド8に形成された圧力導入通路P2により連通されている。この圧力導入通路P2には絞りOが設けられており、伸側室L1の圧力が減圧されて背圧室L4へと導かれるようになっている。
【0055】
そして、背圧室L4の圧力は、伸側室L1の圧力が高まる緩衝器Dの伸長時に上昇して主弁体3の背面となるフランジ部31bの上側面に作用し、第一弁体部材30と第二弁体部材31が背圧室L4の圧力により下向きに附勢される。より詳しくは、背圧室L4の圧力を受ける主弁体3の受圧面積は、前述の直径b(図3)の円の面積から直径c(図3)の円の面積を除いた面積となる。そして、主弁体3は、背圧室L4の圧力にその受圧面積を乗じた力により、第一弁体部材30と第二弁体部材31をそれぞれ第一弁座2aと第二弁座30aに着座させる方向(閉じる方向)へ附勢される。
【0056】
また、図3に示すように、第二弁体部材31の頭部31aには、その頭部31aの中心部を上下に貫通する取付孔31eと、この取付孔31eの外周側に形成されて頭部31aの上下を連通する縦孔31fと、一端が背圧室L4に開口するとともに他端が取付孔31eに開口する横穴31gが形成されている。さらに、取付孔31eには、第一ポート9aと第二ポート9bを含むバルブケース9が装着されている。そして、第一ポート9aと第二ポート9bが電磁弁4で開閉される。
【0057】
より詳しくは、バルブケース9は、軸方向の一端を上側へ向けて配置される筒状のガイド部9cと、このガイド部9cの上端から径方向外側へ張り出す環状の鍔部9dと、この鍔部9dの上端から上側へ突出する環状の圧力制御弁弁座9eとを有する。このように、バルブケース9の形状は、全体として略筒状となっている。
【0058】
前述の第一ポート9aと第二ポート9bは、ガイド部9cの上下(軸方向)にずれた位置に、ガイド部9cの肉厚をそれぞれ貫通するように形成されている。そして、第一ポート9aは、第二ポート9bより上側(圧力制御弁弁座9e側)に位置する。また、ガイド部9cの外径は、取付孔31eの径よりも小さく、ガイド部9cの外周に上下閉塞された環状の隙間が形成される。そして、その環状の隙間に横穴31gが開口している。このため、背圧室L4の液体は、横穴31gと、第一ポート9a又は第二ポート9bを通ってガイド部9cの内周側へ流入できる。
【0059】
つづいて、電磁弁4は、第一ポート9aと第二ポート9bを開閉するとともに圧力制御弁弁座9eに離着座する電磁弁弁体40を有する。この電磁弁弁体40は、バルブケース9のガイド部9c内に摺動自在に挿入されて第一ポート9aと第二ポート9bの一方を開放して他方を閉塞する開閉弁弁体40aと、この開閉弁弁体40aからバルブケース9の上側へ突出し、外径が開閉弁弁体40aの外径より小さい軸部40bと、バルブケース9外へ突出した軸部40bの上端から横方向へ張り出して圧力制御弁弁座9eに離着座する圧力制御弁弁体40cと、この圧力制御弁弁体40cからさらに横方向へ張り出すばね受け部40dを含む。
【0060】
さらに、電磁弁4は、電磁弁弁体40を上向き、即ち、圧力制御弁弁体40cを圧力制御弁弁座9eから離座させる方向へ附勢するばね41を有する。なお、このばね41は、如何なるばねでもよいが、本実施の形態ではコイルばねである。そして、このばね41の上端は、電磁弁弁体40のばね受け部40dで支えられている。その一方、ばね41の下端は、バルブケース9の鍔部9dにおける圧力制御弁弁座9eよりも外周側で支えられている。このようにしてばね41は電磁弁弁体40とバルブケース9との間に介装されている。
【0061】
また、電磁弁4は、電磁弁弁体40に下向き、即ち、圧力制御弁弁体40cを圧力制御弁弁座9eへ着座させる方向へ推力を与えるソレノイドSを有する。このソレノイドSは、図2に示すように、ピストンロッド11のケース部11a内に収容されており、巻線42とその巻線42に通電するハーネス43とをモールド樹脂で一体化したモールドステータ44と、このモールドステータ44の内周に嵌合される有天筒状の第一固定鉄心45と、モールドステータ44の下端に積層される環状の第二固定鉄心46と、第一固定鉄心45と第二固定鉄心46との間に介装されてこれらの間に磁気的な空隙を形成するフィラーリング47と、第一固定鉄心45と第二固定鉄心46の内周側に軸方向移動可能に配置される筒状の可動鉄心48と、この可動鉄心48の内周に固定されて先端が電磁弁弁体40に当接するシャフト49とを有する。
【0062】
そして、巻線42が励磁されると、磁路が第一固定鉄心45、可動鉄心48、第二固定鉄心46、及びケース部11aを通過するように形成されて、可動鉄心48が第二固定鉄心46側へ吸引されるようになっている。このように可動鉄心48が吸引されると、電磁弁弁体40がシャフト49で下向きに押される。つまり、通電時においてソレノイドSは、ばね41の附勢力とは反対方向の推力を電磁弁弁体40に与えるようになっている。
【0063】
このようなソレノイドSからの推力を電磁弁弁体40が受けると、電磁弁弁体40がばね41を圧縮しつつ下向きに進み、開閉弁弁体40aが第一ポート9aの下側へ移動して第一ポート9aを開放するとともに第二ポート9bを閉塞する。また、開閉弁弁体40aで第一ポート9aを開放した状態では、圧力制御弁弁体40cが圧力制御弁弁座9eに着座又は接近するとともに、背圧室L4の圧力が第一ポート9aを通じて圧力制御弁弁体40cの下側面に作用して、電磁弁弁体40を上向きに附勢する。
【0064】
このため、ソレノイドSの通電時において、電磁弁弁体40を上向きに附勢する背圧室L4の圧力による力とばね41の附勢力の合力が、電磁弁弁体40を下向きに附勢するソレノイドSの推力を上回るようになると圧力制御弁弁体40cが圧力制御弁弁座9eから離れる。そして、このように圧力制御弁弁体40cが開くと、液体が圧力制御弁弁体40cと圧力制御弁弁座9eとの間を通って頭部31aの上側へ移動し、縦孔31fを通って頭部31aの上側から中央室L3へと移動する。圧力制御弁弁体40cの開弁圧は、ソレノイドSへ供給する電流量に比例し、供給電流量を大きくすればするほど圧力制御弁弁体40cの開弁圧が大きくなる。
【0065】
その一方、ソレノイドSへの通電を断つと、電磁弁弁体40がばね41の附勢力により最大限に押し上げられる。すると、開閉弁弁体40aが第二ポート9bの上側へ移動して第二ポート9bを開放するとともに第一ポート9aを閉塞する。図2,3には、非通電時における電磁弁弁体40の状態を示している。
【0066】
また、取付孔31eにおけるバルブケース9の下側には、パッシブ弁5が装着されている。このパッシブ弁5は、図3に示すように、バルブケース9におけるガイド部9cの下端に設けた環状のパッシブ弁弁座9fに離着座してガイド部9cの下端を開閉するパッシブ弁弁体50と、このパッシブ弁弁体50をパッシブ弁弁座9fに着座させる方向(閉じ方向)へ附勢する附勢ばね51とを有する。
【0067】
そして、開閉弁弁体40aにより第二ポート9bが開放されるソレノイドSの非通電時には、背圧室L4の圧力が第二ポート9bを通じてパッシブ弁弁体50の上側面に作用して、パッシブ弁弁体50を下向き、即ち、パッシブ弁弁体50をパッシブ弁弁座9fから離座させる方向へ附勢する。このため、ソレノイドSの非通電時には、背圧室L4の液体が第二ポート9bから開閉弁弁体40aの下側へ流入し、附勢ばね51の附勢力に抗してパッシブ弁弁体50を押し開くと、パッシブ弁弁体50とパッシブ弁弁座9fとの間を通って中央室L3へ移動する。
【0068】
以上からわかるように、第一ポート9a、頭部31aの上側、及び縦孔31fは、それぞれ圧力導入通路P2の下流に接続される第一通路P3の一部となっている。そして、ソレノイドSの通電時には開閉弁弁体40aが第一ポート9aを開き、第一通路P3と背圧室L4とを連通するとともに、圧力制御弁弁体40cの開弁圧が制御される。このため、背圧室L4の圧力が高まる緩衝器Dの伸長時に電磁弁4への通電がなされている場合、背圧室L4の圧力が圧力制御弁弁体40cの開弁圧に制御される。
【0069】
その一方、第二ポート9b、及び取付孔31eにおけるバルブケース9の下側は、それぞれ圧力導入通路P2の下流に接続される第二通路P4の一部となっている。そして、ソレノイドSの非通電時には開閉弁弁体40aが第二ポート9bを開き、第二通路P4と背圧室L4とを連通する。この第二通路P4にはパッシブ弁5が設けられている。このため、背圧室L4の圧力が高まる緩衝器Dの伸長時に電磁弁4への通電が断たれている場合、背圧室L4の圧力がパッシブ弁5の開弁圧となる。
【0070】
前述のように、背圧室L4の圧力は、主弁体3を閉じる方向へ作用する。加えて、電磁弁4の通電時にはソレノイドSの推力も電磁弁弁体40とバルブケース9を介して主弁体3を閉じる方向へ作用する。このため、電磁弁4へ通電する正常時において緩衝器Dが伸長する場合、主弁体3の第一弁体部材30を開く方向へ附勢する伸側室L1の圧力による力が、主弁体3を閉じる方向へ附勢する背圧室L4の圧力による力と、ソレノイドSの推力の合力を上回るようになると第一弁体部材30が開く。
【0071】
そして、正常時において緩衝器Dが伸長する場合、ソレノイドSの推力を調整するとともに電磁弁4で背圧室L4の圧力を制御すれば、主弁体3を閉じ方向へ附勢する力を調整し、主通路P1を伸側室L1から中央室L3へ向かう液体の流れに付与される第一弁体部材30による抵抗が変更される。このため、正常時には、緩衝器Dの伸長時の減衰力(伸側の減衰力)を調節できる。
【0072】
具体的には、電磁弁4へ供給する電流量を増やすと、伸長時にはソレノイドSの推力が大きくなるとともに背圧室L4の圧力が高くなり、主弁体3を閉じ方向へ附勢する力が大きくなるので、伸側の減衰力を大きくして減衰力特性をハードにできる。反対に、電磁弁4へ供給する電流量を減らすと、伸長時にはソレノイドSの推力が小さくなるとともに背圧室L4の圧力が低くなり、主弁体3を閉じ方向へ附勢する力が小さくなるので、伸側の減衰力を小さくして減衰力特性をソフトにできる。
【0073】
その一方、電磁弁4への電力供給を断つフェール時において緩衝器Dが伸長する場合、背圧室L4の圧力がパッシブ弁5の開弁圧になる。このため、フェール時の伸側の減衰力は、パッシブ弁5の設定により決定される。さらに、正常時には、パッシブ弁5を設けた第二通路P4と背圧室L4との連通が遮断されているので、正常時にも関わらず緩衝器Dの減衰力特性がフェール時の特性になることがない。
【0074】
なお、背圧室L4の圧力が高まらない緩衝器Dの収縮時には、第一ポート9aが開いていても圧力制御弁弁体40cが開かず、電磁弁4による背圧室L4の圧力制御が効かなくなる。とはいえ、通電時には、ソレノイドSの推力が電磁弁弁体40とバルブケース9を介して主弁体3を閉じる方向へ作用している。このため、ソレノイドSの推力を調整すれば、主通路P1を中央室L3から伸側室L1へ向かう液体の流れに付与される第二弁体部材31による抵抗が変更されるので、正常時には緩衝器Dの収縮時の減衰力(圧側の減衰力)も調整できる。
【0075】
具体的には、電磁弁4へ供給する電流量を増やすと、収縮時にもソレノイドSの推力が大きくなり、主弁体3を閉じ方向へ附勢する力が大きくなるので、圧側の減衰力を大きくして減衰力特性をハードにできる。反対に、電磁弁4へ供給する電流量を減らすと、収縮時にもソレノイドSの推力が小さくなり、主弁体3を閉じ方向へ附勢する力が小さくなるので、圧側の減衰力を小さくして減衰力特性をソフトにできる。
【0076】
その一方、ソレノイドSの非通電時には、ばね41の附勢力を受けて電磁弁弁体40が最大限に後退する。このとき、主弁体3は、バルブケース9とともにばね41で閉じ方向へ附勢されるのみとなる。このため、緩衝器Dの圧側の減衰力はフェール時に最も小さくなり、減衰力特性がフルソフトになる。
【0077】
以下、本実施の形態に係るバルブ装置である減衰弁Vの作用効果について説明する。
【0078】
本実施の形態において、減衰弁(バルブ装置)Vは、圧力導入通路P2と、この圧力導入通路P2の下流に接続される第一通路P3及び第二通路P4と、通電時に第一通路P3を開いて上流側の圧力を制御するとともに第二通路P4を閉じ、非通電時に第一通路P3を閉じるとともに第二通路P4を開く電磁弁4と、第二通路P4の電磁弁4よりも下流に設けられたパッシブ弁5とを備える。
【0079】
上記構成によれば、電磁弁4で圧力制御と通路の開閉の両方をする場合であっても、通電時にはパッシブ弁5の上流を電磁弁4で閉じているので、減衰弁(バルブ装置)Vが正常時にフェール状態になるのを防止できる。さらに、電磁弁4の通電時と非通電時とで、圧力導入通路P2側からの液体が通過できる通路が切換るので、パッシブ弁5を自由に設定できる。
【0080】
また、本実施の形態の減衰弁(バルブ装置)Vでは、図4に示すように、電磁弁4の弁体である電磁弁弁体40が第一通路P3と第二通路P4を開閉する開閉弁弁体40aと、第一通路P3における開閉弁弁体40aよりも下流側を開閉する圧力制御弁弁体40cとを含む。そして、電磁弁4の通電時に開閉弁弁体40aが第一通路P3を開くとともに第二通路P4を閉じ、圧力制御弁弁体40cの開弁圧が制御される。
【0081】
上記電磁弁4によれば、通電時に上流側の圧力を圧力制御弁弁体40cの開弁圧に制御できる。また、電磁弁4では、電磁弁弁体40の開閉弁弁体40aが圧力制御弁弁体40cよりも上流側を開閉する。つまり、従来のように圧力制御弁弁体より下流を開閉弁弁体で開閉する構成になってはいない。このため、開閉弁弁体40aと圧力制御弁弁体40cを一体化してこれらを単一のソレノイドSで駆動し、電磁弁4で圧力制御と通路の開閉の両方をする場合であっても、減衰弁(バルブ装置)Vが正常時にフェール状態になるのを防止できる。
【0082】
さらに、パッシブ弁5が機能する非通電時には開閉弁弁体40aで第一通路P3が閉じられていて圧力制御弁弁体40cが作動せず、圧力制御弁弁体40cが作動する通電時には第二通路P4が閉じられていてパッシブ弁5が機能しない。このため、開閉弁弁体40aと圧力制御弁弁体40cを一体化してこれらを単一のソレノイドSで駆動し、電磁弁4で圧力制御と通路の開閉の両方をする場合であっても、圧力制御弁弁体40cの開弁圧を考慮してパッシブ弁5を設定する必要がなく、パッシブ弁5を自由に設定できる。
【0083】
また、本実施の形態において、本発明に係るバルブ装置は緩衝器Dの減衰弁Vとして利用されており、シリンダ1内をピストン10が移動する際に生じる液体の流れに抵抗を与える。このため、緩衝器Dは、減衰弁Vの抵抗に起因する減衰力を発揮できる。
【0084】
そして、電磁弁4の通電時に圧力制御弁弁体40cの開弁圧を大小させると減衰力を大きくしたり小さくしたりできる。このため、前述のように、減衰弁Vが正常時にフェール状態になるのを防止すれば、正常時にも関わらず減衰力特性がフェール時の特性になって減衰力が調整されなくなるのを防止できる。さらに、フェール時の減衰力特性は、パッシブ弁5の設定により決まる。よって、前述のように、パッシブ弁5を自由に設定できると、フェール時の減衰力特性を自由に設定できる。
【0085】
また、本実施の形態の減衰弁(バルブ装置)Vは、内周側に開閉弁弁体40aが摺動自在に挿入される筒状のバルブケース9を備えている。そして、このバルブケース9の軸方向にずらした位置に、第一通路P3における開閉弁弁体40aの開閉部となる第一ポート9aと、第二通路P4における開閉弁弁体40aの開閉部となる第二ポート9bが形成されている。
【0086】
さらに、バルブケース9の第一ポート9a側の端部には、圧力制御弁弁体40cが離着座する圧力制御弁弁座9eが設けられている。そして、電磁弁4は、圧力制御弁弁体40cと圧力制御弁弁座9eを離間させる方向へ電磁弁弁体40を附勢するばね41と、ばね41の附勢力とは反対方向の推力を電磁弁弁体40に与えるソレノイドSとを有する。
【0087】
上記構成によれば、電磁弁4の通電時に開閉弁弁体40aで第一通路P3を開くとともに第二通路P4を閉じ、圧力制御弁弁体40cの開弁圧を制御するのが容易である。さらに、上記構成によれば、電磁弁4の非通電時に開閉弁弁体40aで第一通路P3を閉じるとともに第二通路P4を開くのも容易である。
【0088】
とはいえ、電磁弁4の構成は上記の限りではなく、通電時に第一通路P3を開いて上流側の圧力を制御するとともに第二通路P4を閉じ、非通電時に第一通路P3を閉じるとともに第二通路P4を開くようになっている限り、適宜変更できる。
【0089】
また、本実施の形態において、バルブケース9の第二ポート9b側の端部にはパッシブ弁弁座9fが設けられている。そして、パッシブ弁5は、パッシブ弁弁座9fに離着座するパッシブ弁弁体50と、このパッシブ弁弁体50をパッシブ弁弁座9fへ向けて附勢する附勢ばね51とを有する。
【0090】
上記構成によれば、バルブケース9とパッシブ弁弁座9fを一体化できるので、これらを一部品として一体成形すれば、減衰弁(バルブ装置)Vの部品数を減らしてコストを低減できる。さらに、バルブケース9とパッシブ弁5をコンパクトに設置できるので、本実施の形態の減衰弁Vのようにバルブケース9とパッシブ弁5を主弁体3に装着する場合にその主弁体3が嵩張らず、ひいては減衰弁(バルブ装置)Vを小型化できる。
【0091】
とはいえ、パッシブ弁弁座9fをバルブケース9とは別に設けてもよい。また、パッシブ弁5は、通過する流量に対して一義的に圧力損失が決まる圧力流量特性を備えていれば如何なる構造であってもよく、その構成は図示する限りではない。例えば、本実施の形態では、パッシブ弁弁体50の形状がマッシュルーム状であるが、球状又は板状であってもよい。さらに、本実施の形態では、附勢ばね51が板ばねであるが、コイルばね、又はその他のばねであってもよい。そして、これらの変更は、電磁弁4の構成によらず可能である。
【0092】
また、本実施の形態の減衰弁(バルブ装置)Vは、伸側室L1と圧側室L2とを連通する主通路P1と、内周側を主通路P1が通る環状の弁座部材2と、この弁座部材2に離着座して主通路P1を通過する液体の流れに抵抗を与える主弁体3とを備える。そして、圧力導入通路P2により、伸側室L1の圧力が減圧されて主弁体3の背面に背圧として導かれるようになっている。
【0093】
さらに、主弁体3は、弁座部材2に離着座する環状の第一弁体部材30と、この第一弁体部材30の反弁座部材側に積層されて第一弁体部材30に離着座する第二弁体部材31とを備え、この第二弁体部材31にバルブケース9とパッシブ弁5が取り付けられている。そして、第一弁体部材30と第二弁体部材31は、伸側室L1の圧力により弁座部材2から離れる方向へ附勢される。その一方、第二弁体部材31は、第一弁体部材30の内周側の圧力により第一弁体部材30から離れる方向へ附勢される。
【0094】
上記構成によれば、電磁弁4の通電時において、緩衝器Dが伸長して伸側室L1の圧力が高まる場合には、主弁体3の背圧を圧力制御弁弁体40cの開弁圧に制御でき、その背圧とソレノイドSの推力を制御することで、主通路P1を伸側室L1から圧側室L2へ向かう液体の流れに付与される第一弁体部材30による抵抗を変更できる。
【0095】
また、電磁弁4の通電時において、緩衝器Dが収縮して圧側室L2の圧力が高まる場合には、ソレノイドSの推力を制御することで主通路P1を圧側室L2から伸側室L1へ向かう液体の流れに付与される第二弁体部材31による抵抗を変更できる。
【0096】
その一方、電磁弁4の非通電時において、緩衝器Dが伸長して伸側室L1の圧力が高まる場合には、主弁体3の背圧がパッシブ弁5の設定により決まるので、パッシブ弁5の設定により第一弁体部材30による抵抗を決められる。また、電磁弁4の非通電時において、緩衝器Dが収縮して圧側室L2の圧力が高まる場合には、ばね41の設定により第二弁体部材31による抵抗を決められる。
【0097】
なお、本実施の形態では、主通路P1により連通される一方室と他方室が、それぞれ緩衝器Dの伸側室L1と圧側室L2である。しかし、主通路P1により連通する部屋は、必ずしも伸側室L1と圧側室L2に限られない。例えば、前述のように、緩衝器がリザーバを備える場合には、主通路P1が伸側室又は圧側室とリザーバとを連通する通路であってもよい。
【0098】
さらに、本実施の形態では、伸側室L1の圧力が圧力導入通路P2を通じて背圧室L4へ導かれるようになっていて、正常時に緩衝器Dが伸長する場合に、主弁体3の背圧が圧力制御弁弁体40cの開弁圧に制御されるようになっている。しかし、緩衝器Dの伸長時と収縮時の両方で主通路P1における主弁体3の上流側の圧力が背圧室L4へ導かれるようにしてもよい。
【0099】
また、本発明に係るバルブ装置は、主通路P1及び主弁体3を必ずしも備えていなくてもよい。さらに、本実施の形態では、主通路P1における主弁体3の圧側室L2側に伸側バルブ6と圧側バルブ7を並列に接続しているが、これらを廃してもよい。加えて、本発明に係るバルブ装置の用途は、緩衝器Dの減衰弁に限られず、適宜変更できる。そして、これらの変更は、電磁弁4の構成、及びパッシブ弁5の構成によらず可能である。
【0100】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0101】
D・・・緩衝器、L1・・・伸側室(一方室)、L2・・・圧側室(他方室)、P1・・・主通路、P2・・・圧力導入通路、P3・・・第一通路、P4・・・第二通路、S・・・ソレノイド、V・・・減衰弁(バルブ装置)、1・・・シリンダ、2・・・弁座部材、3・・・主弁体、4・・・電磁弁、5・・・パッシブ弁、9・・・バルブケース、9a・・・第一ポート、9b・・・第二ポート、9e・・・圧力制御弁弁座、9f・・・パッシブ弁弁座、10・・・ピストン、30・・・第一弁体部材、31・・・第二弁体部材、40・・・電磁弁弁体、40a・・・開閉弁弁体、40c・・・圧力制御弁弁体、41・・・ばね、50・・・パッシブ弁弁体、51・・・附勢ばね
図1
図2
図3
図4