(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】制動力調整装置
(51)【国際特許分類】
H02K 49/10 20060101AFI20220107BHJP
F16D 65/16 20060101ALI20220107BHJP
F16D 61/00 20060101ALI20220107BHJP
H02K 49/06 20060101ALI20220107BHJP
H02K 11/215 20160101ALI20220107BHJP
【FI】
H02K49/10 B
F16D65/16
F16D61/00
H02K49/06 B
H02K11/215
(21)【出願番号】P 2018061832
(22)【出願日】2018-03-28
【審査請求日】2021-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000185248
【氏名又は名称】小倉クラッチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】三ツ橋 隆史
(72)【発明者】
【氏名】松本 益幸
(72)【発明者】
【氏名】周東 信行
(72)【発明者】
【氏名】堀田 達也
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-295675(JP,A)
【文献】特開昭52-119747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 49/10
F16D 65/16
F16D 61/00
H02K 49/06
H02K 11/215
F16D 121/24
F16D 125/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制動の対象となる回転軸と、
前記回転軸に設けられて前記回転軸と一体に回転するヒステリシス板と、
前記ヒステリシス板の一方の主面と対向する端面を有する固定部材と、
前記ヒステリシス板の他方の主面と対向する端面を有し、前記回転軸と同一軸線上で前記固定部材に対して回動自在に構成された可動部材と、
前記ヒステリシス板の回転方向に並ぶ状態で前記固定部材の前記端面に固定され、極性が前記回転方向に交互に変えられた複数の第1の永久磁石と、
前記ヒステリシス板の回転方向に並ぶとともに前記第1の永久磁石と対向する状態で前記可動部材の前記端面に固定され、極性が前記回転方向に交互に変えられた複数の第2の永久磁石と、
前記可動部材に設けられて前記回転方向に所定の長さだけ延びる円弧状のラックを有し、このラックにステッピングモータの回転を伝達して前記可動部材を駆動する駆動装置とを備え
、
前記可動部材は、前記回転軸と同一軸線上に位置する円筒部を有し、
前記円筒部の内周面には、周方向に延びる溝が形成され、
前記ラックは、前記溝に収容され、
前記円筒部の軸線方向における前記ラックの位置決めは前記溝の一対の側壁によって行われ、
前記円筒部の周方向における前記ラックの位置決めは、前記ラックの一端部が当接するように前記可動部材に設けられた第1の移動規制部材と、前記ラックの他端部が当接するように前記可動部材に設けられた第2の移動規制部材とによって行われていることを特徴とする制動力調整装置。
【請求項2】
請求項1記載の制動力調整装置に
おいて、
前記ラックは、内歯車として形成され
、
前記第1の移動規制部材と第2の移動規制部材とのうちいずれか一方の移動規制部材は、前記円筒部の軸線方向に延びる支軸と、この支軸が嵌合する貫通孔および前記貫通孔とは偏心した外周面を有する円筒状のカラーとを備えていることを特徴とする制動力調整装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の制動力調整装置において、
前記ステッピングモータは、前記可動部材に対して前記ヒステリシス板とは反対側に位置するモータ取付部材に支持され、
前記モータ取付部材は、前記可動部材に向けて突出して前記可動部材の回動範囲を制限するための回転規制部を有していることを特徴とする制動力調整装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちいずれか一つに記載の制動力調整装置において、
前記ステッピングモータは、PM型ステッピングモータによって構成されていることを特徴とする制動力調整装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちいずれか一つに記載の制動力調整装置において、
さらに、
前記可動部材に設けられた位置検出用の永久磁石と、
前記永久磁石を検出する磁気センサーとを用いて前記可動部材の前記回転方向の位置を検出する位置検出装置を備えていることを特徴とする制動力調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキトルクを発生させる永久磁石の位置を変えてブレーキトルクの大きさを変える制動力調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、永久磁石の磁気吸引力で回転部材にブレーキトルクを付与する装置としては、例えば特許文献1や特許文献2などに記載された制動力付与装置がある。
これらの特許文献1,2に開示された制動力付与装置は、制動力が付与される回転軸に設けられた円板と、この円板の一方の面と対向する複数の第1の永久磁石と、この円板の他方の面と対向する複数の第2の永久磁石とを備えている。複数の第1および第2の永久磁石は、それぞれ極性が円板の周方向に交互に変わるように円板の周方向に並べられている。
【0003】
これらの特許文献1,2に示す制動力付与装置においては、第1の永久磁石と第2の永久磁石との間で円板が回転して磁束を横切ることによって、円板にブレーキトルクが作用する。そして、この制動力付与装置においては、第1の永久磁石と第2の永久磁石とのうちいずれか一方を他方に対して回転軸を中心にして回すことによって、円板に作用するブレーキトルクの大きさが変化する。
【0004】
この種の制動力付与装置においては、ブレーキトルクが所望の大きさになるように第1の永久磁石に対する第2の永久磁石の位置を設定した後は、電力を使用することなく一定のブレーキトルクが発生する。このため、この制動力付与装置は、電力を供給し難い回転体や運動部に搭載されることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第2887338号公報
【文献】特開昭52-119747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や特許文献2に記載された制動力付与装置は、ブレーキトルクの大きさを遠隔操作で調整することができないという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、ブレーキトルクの大きさを遠隔操作で調整可能な制動力調整装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために、本発明に係る制動力調整装置は、制動の対象となる回転軸と、前記回転軸に設けられて前記回転軸と一体に回転するヒステリシス板と、前記ヒステリシス板の一方の主面と対向する端面を有する固定部材と、前記ヒステリシス板の他方の主面と対向する端面を有し、前記回転軸と同一軸線上で前記固定部材に対して回動自在に構成された可動部材と、前記ヒステリシス板の回転方向に並ぶ状態で前記固定部材の前記端面に固定され、極性が前記回転方向に交互に変えられた複数の第1の永久磁石と、前記ヒステリシス板の回転方向に並ぶとともに前記第1の永久磁石と対向する状態で前記可動部材の前記端面に固定され、極性が前記回転方向に交互に変えられた複数の第2の永久磁石と、前記可動部材に設けられて前記回転方向に所定の長さだけ延びる円弧状のラックを有し、このラックにステッピングモータの回転を伝達して前記可動部材を駆動する駆動装置とを備えているものである。
【0009】
本発明は、前記制動力調整装置において、前記可動部材は、前記回転軸と同一軸線上に位置する円筒部を有し、前記円筒部の内周面には、周方向に延びる溝が形成され、前記ラックは、内歯車として形成されて前記溝に収容され、前記円筒部の軸線方向における前記ラックの位置決めは前記溝の一対の側壁によって行われ、前記円筒部の周方向における前記ラックの位置決めは、前記ラックの一端部が当接するように前記可動部材に設けられた第1の移動規制部材と、前記ラックの他端部が当接するように前記可動部材に設けられた第2の移動規制部材とによって行われ、前記第1の移動規制部材と第2の移動規制部材とのうちいずれか一方の移動規制部材は、前記円筒部の軸線方向に延びる支軸と、この支軸が嵌合する貫通孔および前記貫通孔とは偏心した外周面を有する円筒状のカラーとを備えていてもよい。
【0010】
本発明は、前記制動力調整装置において、前記ステッピングモータは、前記可動部材に対して前記ヒステリシス板とは反対側に位置するモータ取付部材に支持され、前記モータ取付部材は、前記可動部材に向けて突出して前記可動部材の回動範囲を制限するための回転規制部を有していてもよい。
【0011】
本発明は、前記制動力調整装置において、前記ステッピングモータは、PM型ステッピングモータによって構成されていてもよい。
【0012】
本発明は、前記制動力調整装置において、さらに、前記可動部材に設けられた位置検出用の永久磁石と、前記永久磁石を検出する磁気センサーとを用いて前記可動部材の前記回転方向の位置を検出する位置検出装置を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、駆動装置が可動部材を駆動することによって、可動部材が固定部材に対して一方または他方に回り、第2の永久磁石が第1の永久磁石に対して可動部材の回転方向に変位してブレーキトルクが増大あるいは減少する。
駆動装置のステッピングモータが通電状態で停止すると、ステッピングモータの自己保持力で可動部材が停止した位置に保持され、ブレーキトルクが一定になる。
このように、本発明に係る制動力調整装置によれば、可動部材の回転角が所望の角度になるように駆動装置の動作を制御することによって、ブレーキトルクの大きさを遠隔操作によって変えることができる。
したがって、本発明によれば、ブレーキトルクの大きさを遠隔操作で調整可能な制動力調整装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る制動力調整装置の断面図である。
【
図3】回転軸とヒステリシス板の組立体の断面図である。
【
図7】
図6におけるVII-VII線断面図であり、減速機構部の断面図である。
【
図8】
図6におけるVIII-VIII線断面図であり、ラック押圧部の断面図である。
【
図9】
図6におけるIX-IX線断面図であり、ストッパ機構部の断面図である。
【
図10】固定ベースのヒステリシス板側から見た背面図である。
【
図11】可動ベースのヒステリシス板側から見た正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る制動力調整装置の一実施の形態を
図1~
図11を参照して詳細に説明する。
<制動力調整装置の概略の説明>
図1に示す制動力調整装置1は、
図1において中央部に位置するハウジング2と、このハウジング2の一端(
図1においては左端)から
図1において左方に突出する回転軸3と、ハウジング2の端部に取付けられたステッピングモータ4とを備えている。この制動力調整装置1は、回転軸3を制動の対象とし、回転軸3に付与されるブレーキトルクの大きさをステッピングモータ4によって調整する装置である。以下においては、便宜上、ハウジング2から回転軸3が突出する方向を制動力調整装置1の前方とし、この方向とは反対方向を制動力調整装置1の後方として説明する。
【0016】
ハウジング2は、複数の部材を組み合わせて前後方向を軸線方向とする円柱状に形成されている。ハウジング2を構成する複数の部材とは、前端部に位置する円板状の固定ベース5と、後端部に位置する円板状のモータ取付板6と、これらの固定ベース5とモータ取付板6との間に挟まれた円筒状のケース7である。これらの部材は、ハウジング2の外周部で前後方向に延びる複数の固定用ボルト8によって互いに結合されている。固定用ボルト8は、固定ベース5の外周部の貫通孔5aに挿通され、ケース7の内周面に沿って前後方向に延びる状態でモータ取付板6のねじ孔6aに螺着されている。
【0017】
<回転軸の説明>
回転軸3は、ハウジング2の固定ベース5を前後方向に貫通し、固定ベース5に二つの前側軸受11を介して回転自在に支持されている。前側軸受11は、固定ベース5の軸心部の貫通孔12に嵌合して固定されている。
回転軸3の前端部には、図示してはいないが、被制動部材が接続されている。被制動部材は、例えばリールやボビンなどである。これらのリールやボビンは、テープやケーブル、糸などの長尺材料が巻き付けられており、この長尺材料が引かれて消費されることによって回転する。
この実施の形態による制動力調整装置1は、この被制動部材が回転するときにブレーキトルクを付与するとともに、このブレーキトルクを調整して長尺材料の張力を調整する。
【0018】
回転軸3におけるハウジング2内に挿入された後端部には、二つの後側軸受13が取付けられている。これらの後側軸受13は、後述する可動ベース14を回転自在に支持するためのものである。回転軸3における後側軸受13と固定ベース5との間の部位にはハブ15が取付けられている。この実施の形態によるハブ15は、
図3に示すように、回転軸3が圧入されて回転軸3に固定された円板状のハブ本体16と、このハブ本体16の前面に固定用ねじ17によって固定されたリング18とを有している。ハブ本体16の外周部は、環状のヒステリシス板19の内周部が嵌合するとともに、ヒステリシス板19の内周部に後方から当接する形状に形成されている。リング18は、ハブ本体16と協働してヒステリシス板19を前後方向において挟持している。ハブ本体16とヒステリシス板19とは、回転軸3の回転に伴って互いに一体に回転するように、前後方向に延びる複数のピン20によって互いに結合されている。ピン20は、
図1および
図3においては1本のみが図示されている。
【0019】
ヒステリシス板19の前端面21は、固定ベース5の後端面22に所定の間隔をおいて対向している。この実施の形態においては、ヒステリシス板19の前端面21が本発明でいう「ヒステリシス板の一方の主面」に相当し、固定ベース5が本発明でいう「固定部材」に相当する。また、固定ベース5の後端面22が本発明でいう「ヒステリシス板の一方の主面と対向する端面」に相当する。
【0020】
<固定ベースの説明>
固定ベース5の後端面22には、
図2に示すように、複数の第1の永久磁石23がそれぞれ固着されている。これらの第1の永久磁石23は、
図10に示すように、固定ベース5の周方向(ヒステリシス板19の回転方向)に並ぶ状態で固定ベース5の後端面22に接着剤(図示せず)によって固定されている。これらの第1の永久磁石23の磁極23aは、回転軸3の軸線方向において、第1の永久磁石23の両端部に設けられている。この磁極23aの極性は、固定ベース5の周方向に交互に変えられている。
【0021】
<ステッピングモータの説明>
ステッピングモータ4は、
図1に示すように、出力軸24が前後方向に延びてハウジング2内に挿入される状態でモータ取付板6の後端面25に複数の固定用ボルト26によって固定されている。モータ取付板6は、可動ベース14に対してヒステリシス板19とは反対側に位置している。この実施の形態においては、モータ取付板6が請求項3記載の発明でいう「モータ取付部材」に相当する。
【0022】
この実施の形態によるステッピングモータ4は、PM型のステッピングモータで、制御装置27に接続されており、この制御装置27によりオープンループ制御によって制御されて動作する。なお、ステッピングモータ4の種類はPM型に限定されることはなく、適宜変更することができる。
ステッピングモータ4の出力軸24には、後述する減速機構31の一部を構成するピニオン歯車32が固定されている。モータ取付板6には、出力軸24およびピニオン歯車32が挿入される貫通孔33が穿設されている。
【0023】
モータ取付板6の後端面25には、
図2および
図5に示すように、ステッピングモータ4の他にプリント基板34が取付けられている。このプリント基板34は、磁気センサー35を含む検出回路36を有している。磁気センサー35は、後述する可動ベース14に設けられている位置検出用の永久磁石37(
図1参照)の磁束を検出する。検出回路36は、磁気センサー35の検出結果に基づいて可動ベース14の回転方向における絶対位置を検出し、信号としてリード線(図示せず)を介して制御装置27に送る。この実施の形態においては、この検出回路36が請求項5に記載した発明でいう「位置検出装置」に相当する。
【0024】
<可動ベースの説明>
可動ベース14は、
図4に示すように、二つの後側軸受13が内部に嵌合する内側円筒部41と、この内側円筒部41の前端から径方向の外側に延びる環状の円板部42と、この円板部42の外周部から後方に延びる外側円筒部43とによって環状に形成されている。この実施の形態においては、この可動ベース14が本発明でいう「可動部材」に相当する。
円板部42は、ヒステリシス板19の後端面44と対向する前端面45を有している。この実施の形態においては、ヒステリシス板19の後端面44が本発明でいう「ヒステリシス板の他方の主面」に相当する。
【0025】
円板部42の前端面45には、複数の第2の永久磁石46がそれぞれ固着されている。この実施の形態においては、この前端面45が本発明でいう「ヒステリシス板の他方の主面と対向する端面」に相当する。
これらの第2の永久磁石46は、
図11に示すように、可動ベース14の周方向(ヒステリシス板19の回転方向)に並ぶとともに上述した第1の永久磁石23と対向する状態で可動ベース14の前端面45に接着剤(図示せず)によって固定されている。これらの第2の永久磁石46の磁極46aは、回転軸3の軸線方向において、第2の永久磁石46の両端部に設けられている。この磁極46aの極性は、可動ベース14の周方向に交互に変えられている。
【0026】
円板部42の後端面47には、
図4に示すように、複数の支柱48が回転軸3の軸線方向に延びる状態で立設されている。これらの支柱48の後端部には、板状のステー49が固定されている。ステー49は、回転軸3の軸線方向とは直交する方向に延びており、上述した位置検出用の永久磁石37を支持している。
可動ベース14の外側円筒部43は、回転軸3と同一軸線上に位置している。この実施の形態においては、この外側円筒部43が請求項2記載の発明でいう「円筒部」に相当する。
【0027】
また、この外側円筒部43は、
図6および
図7に示すように、上述したステッピングモータ4の出力軸24に減速機構31を介して接続されている。
図6の破断位置は、
図1に示すVI-VI線によって切断された位置である。
図7の破断位置は、
図6に示すVII-VII線によって切断された位置である。
減速機構31は、ステッピングモータ4と協働して駆動装置51を構成するものである。この実施の形態による減速機構31は、いわゆるスター型の遊星歯車減速機構で、外側円筒部43の内周部に設けられたラック52に出力軸24の回転が減速されて伝達される構成が採られている。
【0028】
ラック52は、
図6に示すように、外側円筒部43の周方向において所定の長さだけ延びる円弧状に形成されており、外側円筒部43の内周面に形成された環状溝53に嵌合している。ラック52は、可撓性を有するプラスチック材料によって形成されている。環状溝53は、外側円筒部43の内周面に周方向の全域にわたって延びるように形成されている。この実施の形態においては、環状溝53が請求項2記載の発明でいう「溝」に相当する。
【0029】
ラック52は、
図7に示すように、内歯車として形成されて環状溝53に収容されている。外側円筒部43の軸線方向(
図7においては左右方向)におけるラック52の位置決めは、環状溝53の一対の側壁53a,53bによって行われている。
外側円筒部43の周方向におけるラック52の位置決めは、
図6に示すように、ラック52の長手方向の両端と隣接するように外側円筒部43に設けられた第1および第2の移動規制部材54,55によって行われている。
【0030】
図6においてラック52の左側の端部と隣接する第1の移動規制部材54は、回転軸3の軸線方向に延びる円柱状のピンによって構成され、
図9に示すように、環状溝53を横切るように可動ベース14の円板部42に立てて設けられている。
図9の破断位置は、
図6に示すIX-IX線によって破断された位置である。第1の移動規制部材54は、可動ベース14の円板部42に穿設された貫通孔56に圧入されており、ラック52が第1の移動規制部材54を越えて外側円筒部43の周方向に移動することができないように、ラック52の一端と接触している。
【0031】
この実施の形態による第1の移動規制部材54は、ラック52の一端の移動を規制する機能の他に、可動ベース14の回動範囲を制限するためのストッパーピンとしての機能を有している。可動ベース14の回動範囲を制限するためには、
図6に示すように、外側円筒部43の周方向において第1の移動規制部材54の両側に位置する2本のストッパエンドピン61,62が用いられる。これらのストッパエンドピン61,62は、
図9に示すように、回転軸3の軸線方向(
図9においては左右方向)に延びる円柱状のピンによって形成されている。このストッパエンドピン61,62は、モータ取付板6の貫通孔63に圧入され、モータ取付板6から可動ベース14に向けて突出するようにモータ取付板6に立てて設けられている。
【0032】
これらのストッパエンドピン61,62と、第1の移動規制部材54とは、外側円筒部43の周方向から見て先端部どうしが互いに重なるように構成されている。このため、可動ベース14は、第1の移動規制部材54が一方のストッパエンドピン61と接触する一方の回動端と、第1の移動規制部材54が他方のストッパエンドピン62と接触する他方の回動端との間で回動する。この実施の形態においては、これら2本のストッパエンドピン61,62が請求項3記載の発明でいう「回転規制部」に相当する。
【0033】
図6においてラック52の右側の端部と隣接する第2の移動規制部材55は、
図8に示すように、複数の部材を組合わせて構成されている。この第2の移動規制部材55は、ラック52の端部と接触する円筒状のカラー64と、このカラー64を可動ベース14に固定する固定用ボルト65とによって構成されている。
カラー64と固定用ボルト65は、外側円筒部43の軸線方向(
図8においては上下方向)に延びている。カラー64は、固定用ボルト65が嵌合する貫通孔66と、この貫通孔66とは偏心した外周面67とを有している。
【0034】
固定用ボルト65は、カラー64の貫通孔66に挿通され、可動ベース14の円板部42に形成されたねじ孔68に螺着されている。この実施の形態においては、この固定用ボルト65が請求項2に記載した発明でいう「支軸」に相当する。
外側円筒部43の軸線方向におけるカラー64の長さは、カラー64の後端が外側円筒部43より後方(
図8においては上方)に突出する長さである。このカラー64の突出部には、工具(図示せず)が係合する複数の平坦面69が形成されている。
図5においては一つの平坦面69のみが描かれている。
【0035】
この第2の移動規制部材55においては、固定用ボルト65を緩めた状態でカラー64を固定用ボルト65に対して回すことによって、カラー64の外周面67が偏心カムとして機能し、ラック52の端部を押す量が増減する。ラック52は、この第2の移動規制部材55により押圧されることによって、環状溝53の底部に押し付けられて密着した状態で固定される。
この実施の形態による固定用ボルト65は、可動ベース14の回転方向の位置を目視で確認するための目印として用いられている。この実施の形態によるモータ取付板6には、固定用ボルト65をハウジング2の外から見るために、固定用ボルト65と対向する位置に貫通孔70が穿設されている。
【0036】
<減速機構の説明>
減速機構31は、
図7に示すように、ステッピングモータ4の出力軸24に固定されたピニオン歯車32と、可動ベース14のラック52と、ピニオン歯車32とラック52との間に設けられた減速歯車71とによって構成されている。減速歯車71は、ピニオン歯車32と噛合する環状の大歯車72と、この大歯車72の中空部内に圧入された小歯車73とによって構成されており、支軸74に軸受75によって回転自在に支持されている。小歯車73は、ラック52と噛合している。
【0037】
支軸74は、モータ取付板6の貫通孔76に圧入され、モータ取付板6から可動ベース14に向けて突出するようにモータ取付板6に立てて設けられている。大歯車72は、
図6に示すように、回転軸3の軸線方向から見てその一部が外側円筒部43と重なるように形成されている。
この減速機構31によれば、ステッピングモータ4の出力軸24が回転することにより、この回転がピニオン歯車32から減速歯車71に減速して伝達され、さらに、減速歯車71から減速してラック52(可動ベース14)に伝達される。
【0038】
<制動力調整装置の動作の説明>
このように構成された制動力調整装置1においては、回転軸3が被制動部材とともに回転し、ヒステリシス板19が第1および第2の永久磁石23,46に対して回転することによって、ヒステリシス板19にブレーキトルクが付与される。ブレーキトルクの大きさは、可動ベース14の周方向における第1の永久磁石23に対する第2の永久磁石46の位置に依存して増減する。
【0039】
ブレーキトルクは、第1の永久磁石23と第2の永久磁石46とが回転軸3の軸線方向から見て同一の位置であって、これらの第1および第2の永久磁石23,46の互いに対向する磁極23a,45aの極性が異なる状態で最小になる。すなわち、第1の永久磁石23のN(S)極と、第2の永久磁石46のS(N)極とが互いに対向するときにブレーキトルクが最小になる。このブレーキトルクは、第2の永久磁石46が上述したようにブレーキトルクが最小になる位置から第1の永久磁石23に対して可動ベース14の周方向に変位することにより増大する。そして、このブレーキトルクは、第1の永久磁石23と第2の永久磁石46とが回転軸3の軸線方向から見て同一の位置であって、これらの第1および第2の永久磁石23,46の同じ極性の磁極23a,46aどうしが対向する状態で最大になる。
【0040】
この実施の形態による制動力調整装置1において、ステッピングモータ4が停止している状態においては、ステッピングモータ4の自己保持力で可動ベース14が停止した位置に保持される。
被制動部材から引き出されている長尺材料の張力が不足している場合、制御装置27は、ステッピングモータ4の出力軸24がブレーキトルク増大方向に目標とする回転角だけ回るように、ステッピングモータ4の動作を制御する。なお、ブレーキトルクを減少させる場合には、制御装置27は、出力軸24が目標とする回転角だけ上記とは逆方向に回るようにステッピングモータ4の動作を制御する。
【0041】
このようにステッピングモータ4の出力軸24が回ると、この回転が減速機構31を介して可動ベース14に伝達され、可動ベース14が出力軸24の回転角に応じた回転角だけ固定ベース5に対して回る。
ステッピングモータ4の回転力で可動ベース14が固定ベース5に対して回ると、この回転に伴って第2の永久磁石46が第1の永久磁石23に対して回る。この結果、ブレーキトルクの大きさが変化する。制御装置27は、ブレーキトルクが目標値に達するような回転角だけ可動ベース14が変位したときにステッピングモータ4を停止させる。
【0042】
このため、可動ベース14の回転角が所望の角度になるように駆動装置51の動作を制御することによって、ブレーキトルクの大きさを遠隔操作によって変えることができる。
したがって、この実施の形態によれば、ブレーキトルクの大きさを遠隔操作で調整可能な制動力調整装置を提供することができる。特にこの実施の形態によれば、専ら可動ベース14を停止位置に保持するブレーキは不要であるから、構造が簡単で安価な制動力調整装置を実現できる。
【0043】
<実施の形態による効果の説明>
この実施の形態による可動ベース14は、回転軸3と同一軸線上に位置する外側円筒部43を有している。外側円筒部43の内周面には、周方向に延びる環状溝53が形成されている。ラック52は、内歯車として形成されて環状溝53に収容されている。外側円筒部43の軸線方向におけるラック52の位置決めは環状溝53の一対の側壁53a,53bによって行われている。外側円筒部43の周方向におけるラック52の位置決めは、ラック52の一端部が当接するように可動ベース14に設けられた第1の移動規制部材54と、ラック52の他端部が当接するように可動ベース14に設けられた第2の移動規制部材55とによって行われている。
【0044】
第2の移動規制部材55は、外側円筒部43の軸線方向に延びる固定用ボルト65と、この固定用ボルト65が嵌合する貫通孔66およびこの貫通孔66とは偏心した外周面67を有する円筒状のカラー64とを備えている。
このため、この実施の形態によれば、可撓性を有するプラスチックによって形成された既製品のラック52を外側円筒部43の内周部に精度良く固定することができる。したがって、ブレーキトルクを調整するうえで精度が高い制動力調整装置を低い価格で提供することができる。
【0045】
この実施の形態によるステッピングモータ4は、可動ベース14に対してヒステリシス板19とは反対側に位置するモータ取付板6に支持されている。モータ取付板6は、可動ベース14に向けて突出して可動ベース14の回動範囲を制限するためのストッパエンドピン61,62を有している。
このため、可動ベース14が過度に大きく回ることを確実に防ぐことができる。また、ステッピングモータ4の動作を制御する際に使用する可動ベース14の基準となる位置をストッパエンドピン61,62を使用して簡単に設定することができる。
【0046】
この実施の形態によるステッピングモータ4は、PM型ステッピングモータによって構成されている。このため、ステッピングモータ4への給電を絶った状態であっても、ステッピングモータ4の自己保持力が可動ベース14に作用し、可動ベース14を停止した位置に保持することができる。したがって、この制動力調整装置11は、ブレーキトルクを調整するとき以外はステッピングモータ4への給電を停止させることが可能で電力を消費することがないから、電力消費量を可及的少なく抑えることができる。
【0047】
この実施の形態による制動力調整装置1は、可動ベース14に設けられた位置検出用の永久磁石37と、この永久磁石37を検出する磁気センサー35とを用いて可動ベース14の回転方向の位置を検出する検出回路36を備えている。
このため、可動ベース14の絶対位置を検出回路36によって検出できるから、制御装置27によって制御されている可動ベース14の相対位置を修正することができる。
したがって、可動ベース14の位置の制御をオープンループ制御によって簡単に行うにもかかわらず、ブレーキトルクの精度が高い制動力調整装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0048】
1…制動力調整装置、3…回転軸、4…ステッピングモータ、5…固定ベース(固定部材)、6…モータ取付板(モータ取付部材)、14…可動ベース(可動部材)、19…ヒステリシス板、21,45…前端面、22,44…後端面、23…第1の永久磁石、35…磁気センサー、36…検出回路(位置検出装置)、37…位置検出用の永久磁石、46…第2の永久磁石、51…駆動装置、52…ラック、43…外側円筒部(円筒部)、53…環状溝(溝)、53a,53b…側壁、54…第1の移動規制部材、55…第2の移動規制部材、61,62…ストッパエンドピン(回転規制部)、64…カラー、65…固定用ボルト(支軸)、66…貫通孔、67…外周面。