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特許6997693摩擦板及び摩擦板を備えた湿式多板クラッチ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】摩擦板及び摩擦板を備えた湿式多板クラッチ
(51)【国際特許分類】
   F16D 13/62 20060101AFI20220107BHJP
   F16D 13/52 20060101ALI20220107BHJP
   F16D 13/72 20060101ALI20220107BHJP
   F16D 25/0638 20060101ALI20220107BHJP
   F16D 25/064 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
F16D13/62 A
F16D13/52 Z
F16D13/72 B
F16D25/0638
F16D25/064
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018186390
(22)【出願日】2018-10-01
(62)【分割の表示】P 2014120249の分割
【原出願日】2014-06-11
(65)【公開番号】P2018200114
(43)【公開日】2018-12-20
【審査請求日】2018-10-16
【審判番号】
【審判請求日】2020-08-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000102784
【氏名又は名称】NSKワーナー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100107401
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】遠山 和幸
(72)【発明者】
【氏名】前田 英俊
【合議体】
【審判長】田村 嘉章
【審判官】平田 信勝
【審判官】尾崎 和寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-214595(JP,A)
【文献】特開2001-343061(JP,A)
【文献】実開昭63-14032(JP,U)
【文献】国際公開第2011/118347(WO,A1)
【文献】特開2008-175354(JP,A)
【文献】特開2006-125507(JP,A)
【文献】特開2008-14493(JP,A)
【文献】特開2001-295859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 13/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ほぼ環状のコアプレートに複数の摩擦材セグメントを環状に固定して形成された摩擦面を有する摩擦板であって、
前記摩擦材セグメント間には、前記コアプレートの内径側から外径側に貫通する貫通溝が形成され、
前記摩擦材セグメントには、前記貫通溝に開口し、前記摩擦材セグメント内で終端する前記コアプレートの周方向に延びる周溝が形成され、
前記貫通溝に油が通過し、前記周溝に流入した油が前記周溝内で回転することで前記貫通溝を通過する油を加速し、前記回転した油は、前記摩擦面を乗り上げ、
前記貫通溝は、前記周方向の幅が一定である第1の貫通溝と、前記第1の貫通溝の前記幅より広い第2の貫通溝とが前記周方向に交互に配置されるように形成されていることを特徴とする摩擦板。
【請求項2】
前記摩擦材セグメントは径方向に長尺であり、前記径方向の長さが前記周方向の長さより長くなっていることを特徴とする請求項1に記載の摩擦板。
【請求項3】
前記周溝は、前記第1の貫通溝に連通し、前記第2の貫通溝には連通していないことを特徴とする請求項1又は2に記載の摩擦板。
【請求項4】
前記周溝は、前記摩擦材セグメントの前記周方向の両端部に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の摩擦板。
【請求項5】
隣接する前記摩擦材セグメントの前記周溝は、前記第1の貫通溝を挟んで互いに対向していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の摩擦板。
【請求項6】
前記対向する前記周溝は、径方向の同じ位置に配置されていることを特徴とする請求項5に記載の摩擦板。
【請求項7】
前記周溝は、径方向の異なる位置に配置されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の摩擦板。
【請求項8】
隣接する前記摩擦材セグメントの前記周溝は、前記貫通溝に対して非対称に設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の摩擦板。
【請求項9】
前記周溝の前記周方向の長さは前記周溝の径方向の幅より長くなっており、前記周溝の径方向の幅は前記周溝の開放端から閉口端まで前記周溝の前記周方向の長さに沿ってほぼ同じであることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の摩擦板。
【請求項10】
前記摩擦板は、密封された油溜環境で用いられることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の摩擦板。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の摩擦板と、前記摩擦板と軸方向で交互に配置されたセパレータプレートとを備えた湿式多板クラッチ。
【請求項12】
前記摩擦板は、軸方向の片面に前記摩擦材セグメントが固定されていることを特徴とする請求項11に記載の湿式多板クラッチ。
【請求項13】
前記摩擦板は、軸方向の両面に前記摩擦材セグメントが固定されていることを特徴とする請求項11に記載の湿式多板クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機用トルクコンバータ内などの密封された油溜環境下で使用される摩擦板及び摩擦板を備えた湿式多板クラッチに関する。より詳細には、密封された油溜環境下におけるすべり制御時の耐熱性及び耐久性に優れた摩擦板及び摩擦板を備えた湿式多板クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、湿式多板クラッチは、クラッチもしくはブレーキのドラムとハブ間に摩擦板(フリクションプレート)と、セパレータプレートとが交互に配置されており、クラッチピストンの押圧と解除によりクラッチの係合と解除が行われる。
【0003】
このような湿式多板クラッチにおいて、密封された油溜環境下で使用するに際して、湿式多板クラッチを係合させるまでに一定のすべり状態で使用することがある。
【0004】
特に自動変速機用トルクコンバータ用のロックアップクラッチについては、低燃費要求のためにすべり制御が必須であり、これが可能となる摩擦板への要求が近年の傾向となっている。
【0005】
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては次のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-51759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
密封された油溜環境下での使用条件下では、湿式多板クラッチの摩擦板の摩擦材へのダメージが大きく、冷却させて蓄熱ダメージを低減させることが課題である。
【0008】
一般的に、蓄熱の影響を抑え、冷却性を高めるためには、クラッチの摩擦材に溝を設け、油の排出性を上げ冷却性を向上させる手法がある。しかし、これらは相手面との接触(内圧)が強くなるため引き摺りトルク増となる問題がある。また、引き摺りトルクを低減させるため、特許文献1に記載のように内径に開口した溝を用いると、摩擦材の面積が減少することになり、耐熱許容度が低下する問題がある。
【0009】
また近年、自動車の低燃費の要求は、ますます増大しており、クラッチの非係合時における動力損失を軽減させるため、摩擦板とセパレータプレート間の引き摺りトルクの低減が一層求められている。従って、引き摺りトルクを低減しつつ、摩擦材を冷却できる摩擦板及び摩擦板を用いた湿式多板クラッチが求められていた。
【0010】
従って、本発明の目的は、密封された油溜環境下で使用する湿式多板クラッチの摩擦板において、油の排出性を向上させることで摩擦材の冷却性を向上させた摩擦板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の摩擦板は、
ほぼ環状のコアプレートに複数の摩擦材セグメントを環状に固定して形成された摩擦面を有する摩擦板であって、
前記摩擦材セグメント間には、前記コアプレートの内径から外径に貫通する貫通溝が形成され、
前記摩擦材セグメントには、前記貫通溝に開口し、前記摩擦材セグメント内で終端する周方向に延びる周溝が形成され、
前記周溝は、前記摩擦材セグメントの周方向の一端部の外径寄りに1つ、他端部の内径寄りに1つそれぞれ形成されていることを特徴としている。



【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下のような効果が得られる。
【0013】
周方向に延びる周溝が油の排出性を加速させ、排出向上となることにより冷却性が上がり、摩擦材への蓄熱ダメージを低減できる。
【0014】
周溝からあふれ出た油が軸方向に流動することで摩擦面に圧力を発生させることにより、引き離し効果が生まれ引き摺りトルクを低減できる。
【0015】
また、周溝は面積を小さく形成すればよいので、摩擦材面積が大きく取れ耐熱性が向上でき、引き離し効果をあわせもつことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の摩擦板を備えた湿式多板クラッチの軸方向部分断面図である。
図2】本発明の第1実施例を示す摩擦板の部分正面図である。
図3】本発明の第1実施例の摩擦材セグメントを示す正面図である。
図4】本発明の第2実施例を示す摩擦材セグメントの正面図である。
図5】本発明の第3実施例を示す摩擦材セグメントの正面図である。
図6】本発明の第4実施例を示す摩擦材セグメントの正面図である。
図7】本発明の第5実施例を示す摩擦材セグメントの正面図である。
図8】本発明の第6実施例を示す摩擦材セグメントの正面図である。
図9】本発明の他の摩擦板を備えた湿式多板クラッチの軸方向部分断面図である。
図10】本発明の第1実施例と比較例の摩擦板における、摺動時間(sec)と摩擦面温度(℃)の関係を表すグラフである。
図11】本発明の第1実施例と比較例の摩擦板における、相対回転数(rpm)と引き摺りトルク(Nm)の関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書において、「周溝」とは、円周方向に延びる溝を示すが、円周方向にわずかに角度をもった方向に延びる溝も含む。また、「密封された油溜環境」とは、例えば、トルクコンバータなど外部から油の供給がなく、油密な構造体内で大きな油量の油が循環する環境を指す。油密であれば、トルクコンバータ以外の用途にも好適である。
【0018】
以下、添付図面を参照して本発明を詳細に説明する。尚、図面において同一部分は同一符号にて示してある。
【0019】
図1は、本発明の摩擦板を備えた湿式多板クラッチ10の軸方向部分断面図である。
【0020】
湿式多板クラッチ10は、軸方向の一端部で開放したほぼ円筒形のクラッチドラム1と、クラッチドラム1の内周に配置され、同軸上で相対回転するハブ4と、クラッチドラム1の内周に設けられたスプライン8に軸方向で移動自在に配置された環状のセパレータプレート2と、ハブ4の外周に設けられたスプライン5にセパレータプレート2と軸方向で交互に配置され、摩擦材セグメントが軸方向の両面に接着剤などで固定された摩擦面を有する環状の摩擦板3とからなっている。セパレータプレート2はスプライン8に係合するスプライン部2aを、また摩擦板3は、スプライン5に係合するスプライン部3aをそれぞれ備えている。摩擦板3とセパレータプレート2はそれぞれ複数個設けられている。
【0021】
湿式多板クラッチ10は、セパレータプレート2と摩擦板3とを押圧し締結させるピストン6と、セパレータプレート2及び摩擦板3を軸方向の一端で固定状態に保持するため、クラッチドラム1の内周に設けられたバッキングプレート7とそれを保持する止め輪17とを備えている。
【0022】
図1に示すように、ピストン6は、クラッチドラム1の閉口端内で軸方向摺動自在に配置されている。ピストン6の外周面とクラッチドラム1の内面との間にはOリング9が介装されている。また、ピストン6の内周面とクラッチドラム1の内周円筒部(不図示)の外周面との間にもシール部材(不図示)が介装されている。従って、クラッチドラム1の閉口端の内面とピストン6との間に油密状態の油圧室11が画成される。
【0023】
ハブ4に軸方向摺動自在に保持された摩擦板3は、その両面に所定の摩擦係数を有する摩擦材セグメント12及び13が固定されている。しかしながら、摩擦材セグメント12及び13は、摩擦板3の片面のみに設けることもできる。また、ハブ4には径方向に貫通した潤滑油供給口15が設けられ、この潤滑油供給口15を介して湿式多板クラッチ10の内径側から外径側へと潤滑油が供給されている。
【0024】
以上のように構成された湿式多板クラッチ10は、次のようにクラッチの係合(締結)及び解除をする。図1の状態は、クラッチ解除状態を示しておりセパレータプレート2と摩擦板3とはそれぞれ離れている。解除状態では、不図示のリターンスプリングの付勢力により、ピストン6はクラッチドラム1の閉口端側に当接している。
【0025】
この状態で湿式多板クラッチ10を係合させるには、ピストン6とクラッチドラム1との間に画成された油圧室11に油圧を供給する。油圧の上昇に伴い、リターンスプリング(不図示)の付勢力に抗して、ピストン6は、図1において軸方向右に移動し、セパレータプレート2と摩擦板3とを密着させる。これにより湿式多板クラッチ10が係合される。
【0026】
湿式多板クラッチ10の係合後、湿式多板クラッチ10を再度解除するには、油圧室11の油圧を解除する。油圧が解除されると、ピストン6はリターンスプリング(不図示)の付勢力により、クラッチケース1の閉口端に当接する位置まで移動する。すなわち、湿式多板クラッチ10が解除される。
【0027】
(第1実施例)
図2は、本発明の第1実施例を示す摩擦板3の部分正面図である。摩擦板3は、ほぼ環状のコアプレート20に摩擦材セグメント12及び13を接着剤などで環状に固定し形成された摩擦面25を備えている。コアプレート20は、ハブ4のスプライン5に係合するスプライン20aを内周に備えている。
【0028】
図2に示すように、摩擦板3には一対の摩擦材セグメント12及び13が環状に配置されている。摩擦材セグメント12と13の間には、コアプレート20の内径から外径に貫通し、放射状に延びる貫通溝21と22が形成されている。
【0029】
摩擦材セグメント12と13のそれぞれには、貫通溝21に開口し、摩擦材セグメント内で終端する周方向に延びる周溝12a及び13aが形成されている。周溝12a及び13aは摩擦材セグメントの径方向のほぼ中間に対称的に設けられている。周溝12a及び13aは、貫通溝21に対して対称的に設けられ、貫通溝21を挟んで互いに対向している。また、径方向の同じ位置に配置されている。
【0030】
摩擦材セグメント12の周溝12aは、貫通溝21に開口し、摩擦材セグメント12の周方向の内部で終端して閉じている。同様に、摩擦材セグメント13の周溝13aは、貫通溝21に開口し、摩擦材セグメント13の周方向の内部で終端して閉じている。
【0031】
摩擦材セグメント12の周溝12aは、摩擦材セグメント12の周方向の一端部に設けられ、他端部には設けられていない。また、同様に、摩擦材セグメント13の周溝13aは、摩擦材セグメント13の周方向の一端部に設けられ、他端部には設けられていない。
周溝の設けられていない摩擦材セグメント12と摩擦材セグメント13の間には別の貫通溝22が形成されている。
【0032】
以上のように、第1実施例では、一対の摩擦材セグメント12と13が環状に配置され、周溝12aと13aと連通する貫通溝21と連通しない貫通溝22とが交互に配列されている。周溝12aと周溝13aはそれぞれ摩擦材セグメント12及び13の径方向の中間に形成されているが、径方向の同一位置であれば他の位置に形成することも可能である。
【0033】
図3は、本発明の第1実施例の摩擦材セグメントを示す正面図であり、摩擦材セグメントに設けた周溝の機能を説明するための図である。上述したように、隣接する一対の摩擦材セグメント12及び13は、貫通溝21を挟んで対向する周溝12a及び13aを備えている。
【0034】
一対の摩擦材セグメント12及び13は、図示の組み合わせで周方向等配に環状にコアプレート20に固定される。これは以下説明する第2乃至6実施例においても同様である。
【0035】
周溝12aは貫通溝21に開口する開口部12cと摩擦材セグメント12内で終端する終端部12bとを備えている。また同様に、周溝13aは貫通溝21に開口する開口部13cと摩擦材セグメント13内で終端する終端部13bとを備えている。図3に示すように、貫通溝21を挟んで周溝12aの開口部12cと周溝13aの開口部13cとが周方向で対向している。
【0036】
次に周溝の機能を説明する。図3に示すように、摩擦板3を保持しているハブ4の潤滑油供給口15などから摩擦板3に内径方向から供給される潤滑油の一部は、クラッチ部を通過する貫通溝21及び22を通過して外径側に流れる。この流れを矢印Rで示している。貫通溝21及び22を通過する油は、潤滑機能のみでなく、摩擦板3とセパレータプレート4との摩擦係合面に蓄積した熱を下げる冷却材として働く。
【0037】
貫通溝21の油は矢印Rのように内径側から外径側へ流れる。このとき、貫通溝21から周溝12a及び13aに入った油が、周溝内でそれぞれ矢印A及びBのように回転する。この回転する油の回転エネルギーが、貫通溝21を通る油に伝達され、貫通溝21を通過する油の流速を加速する働きをする。この結果、貫通溝21の油を外径方向へ排出する排出性が向上する。従って、摩擦板3とセパレータプレート4などから構成されるクラッチ部の冷却性が向上する。
【0038】
以上のように冷却性が上がるため、摩擦材セグメント12、13への蓄熱ダメージを低減することができる。また、周溝12a及び13aに入った油が軸方向に流動し、図3に示す複数の矢印Cのように摩擦面25に乗り上げることで生まれる引き離し効果により引き摺りトルクを低減することができる。また、周溝は面積を小さく形成すればよいので、摩擦面25の面積が大きく取れ摩擦材の耐熱性を向上でき、引き離し効果をあわせもつことができる。
【0039】
以下説明する第2乃至第6実施例の周溝も、図3について説明した周溝が貫通溝の油の流速を加速する機能を有することは言うまでもない。
【0040】
(第2実施例)
図4は、本発明の第2実施例を示す摩擦材セグメントの正面図である。一対の摩擦材セグメント32と33は、同一の形状を有する。摩擦材セグメント32は周方向の両端部に周溝32aが設けられている。同様に摩擦材セグメント33も周方向の両端部に周溝33aが設けられている。本実施例では一つの摩擦材セグメントに二つの周溝が径方向の同一位置に形成されている。周溝32a及び33aは摩擦材セグメントの径方向のほぼ中間に設けられている。周溝32a及び33aは、貫通溝21に対して対称的に設けられている。
【0041】
第2実施例では、摩擦材セグメント32と摩擦材セグメント33との間の貫通溝21と貫通溝22の全ての貫通溝を流れる油を加速することができる。従って、第1実施例の場合より冷却効率が上がり、摩擦材セグメントの蓄熱ダメージがより有効に解消できる。
【0042】
(第3実施例)
図5は、本発明の第3実施例を示す摩擦材セグメントの正面図である。一対の摩擦材セグメント42と43は、同一の形状を有する。摩擦材セグメント42は周方向の一端部に周溝42aが設けられている。同様に摩擦材セグメント43も周方向の一端部に周溝43aが設けられている。図5に示すように、周溝42aと周溝43aは同一方向に開口している。周溝42a及び43aは摩擦材セグメントの径方向のほぼ中間に設けられている。しかしながら、周溝42a及び43aは、貫通溝21に対して非対称的に設けられている。
【0043】
第3実施例では、第2実施例と同様に、摩擦材セグメント42と摩擦材セグメント43との間の貫通溝21と貫通溝22の全ての貫通溝を流れる油を加速することができる。一つの貫通溝について周溝が一つ設けられることになり、第1実施例の場合に近い効果が得られる。
【0044】
(第4実施例)
図6は、本発明の第4実施例を示す摩擦材セグメントの正面図である。一対の摩擦材セグメント52と53は、同一の形状を有する。摩擦材セグメント52は周方向の一端部に周溝52aが設けられている。同様に摩擦材セグメント53も周方向の一端部に周溝53aが設けられている。図6に示すように、周溝52aと周溝53aは同一方向に開口している。第3実施例の周溝とは周方向で反対の方向に開口している。周溝52a及び53aは摩擦材セグメントの径方向のほぼ中間に設けられている。しかしながら、周溝52a及び53aは、貫通溝21に対して非対称的に設けられている。
【0045】
第4実施例では、第2実施例と同様に、摩擦材セグメント52と摩擦材セグメント53との間の貫通溝21と貫通溝22の全ての貫通溝を流れる油を加速することができる。一つの貫通溝について周溝が一つ設けられることになり、第1実施例の場合に近い効果が得られる。
【0046】
(第5実施例)
図7は、本発明の第5実施例を示す摩擦材セグメントの正面図である。第2実施例と同様に、一対の摩擦材セグメント62と63は、それぞれ周方向の両端部に二つの周溝が形成されている。但し、二つの周溝の径方向の位置が異なる。
【0047】
摩擦材セグメント62は、周方向の一端部の外径寄りに周溝62aが、また他端部の内径寄りに周溝62bが形成されている。一方、摩擦材セグメント63は、周方向の一端部の外径寄りに周溝63aが、また他端部の内径寄りに周溝63bが形成されている。周溝62a及び63aは、貫通溝21に対して非対称的に設けられている。
【0048】
貫通溝21を挟んで、周溝62aと周溝63aとが外径寄りであって径方向の同一位置で対向している。また、図7では示していない貫通溝22を挟んで、周溝62bと周溝63bとが内径寄りであって径方向の同一位置で対向している。
【0049】
第5実施例では、第2実施例と同様に、摩擦材セグメント62と摩擦材セグメント63との間の貫通溝21と貫通溝22の全ての貫通溝を流れる油を加速することができる。従って、第1実施例の場合より冷却効率が上がり、摩擦材セグメントの蓄熱ダメージをより有効に解消できる。
【0050】
(第6実施例)
図8は、本発明の第6実施例を示す摩擦材セグメントの正面図である。第2実施例と同様に、一対の摩擦材セグメント72と73は、それぞれ周方向の両端部に二つの周溝が形成されている。但し、二つの周溝の径方向の位置が異なる。周溝72a及び73aは、貫通溝21に対して非対称的に設けられている。
【0051】
摩擦材セグメント72は、周方向の一端部の外径寄りに周溝72aが、また他端部の内径寄りに周溝72bが形成されている。一方、摩擦材セグメント73は、周方向の一端部の外径寄りに周溝73aが、また他端部の内径寄りに周溝73bが形成されている。
【0052】
貫通溝21を挟んで、周溝72bと周溝73bとが内径寄りであって径方向の同一位置で対向している。また、図8では示していない貫通溝22を挟んで、周溝72bと周溝73bとが外径寄りであって径方向の同一位置で対向している。
【0053】
第6実施例では、第2実施例と同様に、摩擦材セグメント72と摩擦材セグメント73との間の貫通溝21と貫通溝22の全ての貫通溝を流れる油を加速することができる。従って、第1実施例の場合より冷却効率が上がり、摩擦材セグメントの蓄熱ダメージをより有効に解消できる。
【0054】
貫通溝21と貫通溝22とを全く同一の形状として構成すると、第5実施例と第6実施例とは実質的に同一の構成となる。
【0055】
以上説明した各実施例において、第1乃至第4実施例の周溝は、摩擦材セグメントの径方向のほぼ中間に設けているが、その他の位置に設けることも可能である。また、摩擦材セグメントの一端部において径方向に複数の周溝を設けることも可能であるが、摩擦材セグメントの面積、つまり摩擦面の面積の減少を招くため、できるだけ少ない数を設けることが良い。
【0056】
各摩擦材セグメントは、コアプレート20に接着剤を塗布して貼着するが、裏面に接着剤を塗布したシール状の摩擦材セグメントをコアプレート20上に載置し、押圧加熱することで貼着することもできる。
【0057】
図9は、本発明の他の摩擦板を備えた湿式多板クラッチの軸方向部分断面図である。図9に示す摩擦板3は、図1に示す摩擦板3と異なり、軸方向の片面にのみ摩擦材セグメント12が固定されている。一方で、摩擦材セグメント12の固定されていない摩擦板3の面に対向するセパレータプレート2に軸方向の面に摩擦材セグメント12が固定されている。上記説明では摩擦材セグメント12で摩擦材セグメントを代表しているが、その他の摩擦材セグメント13、32、33、42、43、52、53、62、63、72、73も同様に用いることができる。
【0058】
図10は、本発明の第1実施例と比較例(従来例)の摩擦板における、摺動時間(sec)と摩擦面温度(℃)の関係を表すグラフである。周溝を形成した本発明の各実施例の摩擦板においては、周溝を形成していない比較例に比べて摩擦面温度が低く推移していることが分かる。
【0059】
図11は、本発明の第1実施例と比較例(従来例)の摩擦板における、相対回転数(rpm)と引き摺りトルク(Nm)の関係を表すグラフである。周溝を形成した本発明の各実施例の摩擦板においては、周溝を形成していない比較例に比べて引き摺りトルクが低く推移していることが分かる。特に、相対回転数が1000rpmより大きい回転域では従来に比べてかなり低くなっている。
【0060】
図10及び図11に示すグラフにおいて、「実施例」とは、図2に示す本発明の第1実施例による摩擦板に対応し、「比較例」とは、図2の摩擦材セグメントに周溝を設けない場合の摩擦板に対応している。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上のように、密封された油溜環境での使用に好適な本発明は、トルクコンバータ内のロックアップクラッチ、あるいは自動変速機を搭載する車両などにおいて利用できる。
【符号の説明】
【0062】
1 クラッチドラム
2 セパレータプレート
3 摩擦板
4 ハブ
5 スプライン
6 ピストン
8 スプライン
10 湿式多板クラッチ
20 コアプレート
21 貫通溝
22 貫通溝
25 摩擦面
12,13、32、33、42、43 摩擦材セグメント
52、53、62、63、72、73 摩擦材セグメント
12a、13a、32a、33a、42a、43a 周溝
53a、53a、62a、63a、72a、73a 周溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11