(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】プリカーサ化合物の再利用を伴うDLI-MOCVDによる皮膜の成膜方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/448 20060101AFI20220128BHJP
C23C 16/44 20060101ALI20220128BHJP
H01L 21/31 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
C23C16/448
C23C16/44 E
H01L21/31 B
(21)【出願番号】P 2018531355
(86)(22)【出願日】2016-12-17
(86)【国際出願番号】 FR2016053541
(87)【国際公開番号】W WO2017103546
(87)【国際公開日】2017-06-22
【審査請求日】2019-12-09
(32)【優先日】2015-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513155611
【氏名又は名称】コミサーリャ ア レナジー アトミック エー オー エナジー アルタナティブ
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
【住所又は居所原語表記】25 rue Leblanc, Batiment Le Ponant D, F-75015 Paris France
(74)【代理人】
【識別番号】100133503
【氏名又は名称】関口 一哉
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】シュスタ,フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】ムーリー,フランシス
(72)【発明者】
【氏名】ミショ,アレキサンドラ
(72)【発明者】
【氏名】ポン,ミッシェル
(72)【発明者】
【氏名】ブワショ,ラファエル
(72)【発明者】
【氏名】ロメロ,フェルナンド
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-151564(JP,A)
【文献】特開平04-012525(JP,A)
【文献】特開2010-037631(JP,A)
【文献】特開2014-154792(JP,A)
【文献】G.Boisselier, et al,Growth of Chromium Carbide in a Hot Wall DLICVD Reactor,Journal of Nanoscince and Nanotechnology,2011年04月28日,Vo.11,pp.8289-8293
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/448
C23C 16/44
H01L 21/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の層で構成されており、該層の少なくとも1つが、カーバイド、合金または金属から選択される少なくとも1種類の保護材の形態の遷移金属Mを含むものである保護層である保護皮膜を基材上に成膜するための方法であって、以下の工程:
a)供給槽内において:
- 酸素原子がない炭化水素溶剤、
- 300℃~600℃の分解温度を有し、前記遷移金属Mを含むビス(アレーン)型のプリカーサで構成された有機金属化合物、および
- 適切な場合は、炭素取込み阻害剤
を含有しているマザー溶液を利用可能にする工程;
b)前記マザー溶液をエバポレータ内で気化させ、次いでこれを、被覆対象の前記基材がある化学気相蒸着反応器内に導入する工程;成膜温度が300℃~600℃であり低い成膜圧力下の雰囲気の前記反応器のチャンバ内で、前記基材上において前記保護層の成膜を行なうため;
c)前記反応器の排出口で、未消費のプリカーサ、プリカーサの芳香族の副生成物および前記溶剤を含むガス状流出物
の画分を収集する工程、これらの存在物は一緒に、標準条件下で、ドーター溶液を形成している、ならびに;
d)工程a)で使用することができる新たなマザー溶液を得るために、このようにして得られた前記ドーター溶液を前記供給槽内に注入する工程
を含むダイレクトリキッドインジェクション(DLI-MOCVD)による有機金属化合物の化学気相蒸着のための方法である成膜方法。
【請求項2】
工程b)の気化および成膜ならびに工程c)の前記
ガス状流出物の前記画分の収集が、前記反応器の前記チャンバの雰囲気が133Pa~6666Paの低い成膜圧力となるように行なわれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記遷移金属Mが、Cr、Nb、V、W、Mo、MnまたはHfから選択される、請求項1~2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記遷移金属Mの酸化状態がゼロである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記遷移金属Mがクロムである、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記保護材を構成する前記遷移金属MのカーバイドがCrC、WC、NbC、MoC、VCもしくはHfC型のものであるか、または化学量論式Cr
7C
3、Cr
3C
2、Mo
2C、Mn
3C、V
2CもしくはV
4C
3を有するものである、請求項3~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記保護材を構成する前記遷移金属Mの合金が前記遷移金属Mのベース合金である、請求項3~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記保護材を構成する金属が天然形態の前記遷移金属Mである、請求項3~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ビス(アレーン)型のプリカーサが、酸素原子がないものであり、一般式(Ar)(Ar’)Mを有するものであり、式中、Mは酸化状態がゼロの遷移金属であり、
(Ar
)および
(Ar’
)は、各々が、ベンゼン型または少なくとも1つのアルキル基によって置換されているベンゼン型の芳香族基を表す、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
芳香族基
である(Ar
)および
(Ar’
)が各々、ベンゼン原子団またはメチル、エチルもしくはイソプロピル基から選択される1~3個の同一の基もしくは異なる基によって置換されているベンゼン原子団を表す、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記溶剤が、標準条件下で液状であり、150℃より低い沸点および600℃より高い分解温度を有する一般式C
xH
yの単環式の芳香族炭化水素である、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記遷移金属Mまたは前記遷移金属Mの前記合金で構成された前記保護材を得るために、前記マザー溶液がさらに、炭素取込み阻害剤として、酸素原子がなく、600℃より高い分解温度を有する塩素含有またはイオウ含有添加剤を含有しているものである、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
工程c)において、
前記ガス状流出物の前記画分の収集が、前記反応器の排出口での、前記
ガス状流出物中に存在している前記存在物の選択的凝縮の作業を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記画分の収集工程c)の後に、得られた前記ドーター溶液中の前記プリカーサの濃度測定の工程c1)を行ない、工程d)が、前記供給槽内に注入された前記ドーター溶液の前記プリカーサの濃度の関数として、前記プリカーサの濃度を調整する作業d0)を含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
工程a)~c)を逐次N回反復し、N回分のドーター溶液を確保し、次いで、工程a)で使用することができる新たなマザー溶液を得るために、工程d)を、前記N回分のドーター溶液を前記供給槽内に注入することにより行なう、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
工程c)で得られた前記ドーター溶液を、化学気相蒸着プロセス中に前記供給槽内に連続的に注入する、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記保護皮膜が1μm~50μmの平均厚さを有するものである、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
工程c)における収集する工程が、未消費のプリカーサ、プリカーサの芳香族の副生成物および未消費の溶剤を凝縮する、ガス状流出物画分の選択的凝縮の作業を含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、摩耗、腐食および/または高温での酸化に抗して苛酷な条件下で動作する構造パーツの保護のための処理の分野に属する。より詳しくは、保護対象の表面上に皮膜を化学気相蒸着するための方法に関する。
【0002】
本発明の主題は、減圧下で低温での金属層またはセラミック層の乾式経路による成膜方法であって、反応器内に、成膜させる金属のプリカーサ分子の溶液を直接噴射し、この反応による流出物を、このプロセスにプリカーサの再利用溶液を供給するために回収することによる方法である。
【背景技術】
【0003】
技術的背景
エンジニアリング業界(工具、工業設備のアイテム、自動車業界、航空機業界など)およびエレクトロニクス業界(半導体、太陽光発電)では、苛酷な生産条件および/または使用条件に耐える素材の必要性が高まってきている。抵抗性を改善して寿命を延ばすため、セラミック製、スチール製または合金製のパーツに、カーバイド型、窒化物型または炭窒化物型の非酸化物系セラミック素材または単独または合金化された金属元素で構成された数ミクロンの厚さを有する層が皮膜形成される。この皮膜により、このようなパーツの機械的特性が、また、その耐摩耗性および耐食性も改善される。これは、モノリシック形態またはナノ構造形態で同じまたは異なる性質の多層として作製され得る。
【0004】
クロムまたは同様の特性を有する他の遷移金属ベースの皮膜は、摩耗および腐食に対してパーツを保護するために広く使用されている。エレクトロニクス業界では、成膜させた皮膜をさらに薄い膜にし、これは、系に必須の機能特性に寄与する。
【0005】
このような皮膜の作製にはいろいろな手法が使用され得る。長い間、冶金的皮膜(金属、カーバイド、窒化物など)、とりわけクロムベースの被膜が電気めっき浴(electroplating bath)法(または”galvanoplasty”)によって本質的に得られている。この方法は、あらゆるサイズのパーツの非常に低温(100℃より下)における順方向進行での処理のために行なうことは容易であったが、皮膜に微小亀裂が生じ、これは腐食に対して弱かった。特に、湿式経路による成膜方法は、使用される六価クロム溶液の発癌性効果のため、2007年に欧州環境基準によって禁止された。現在もなお使用されている三価クロムを使用する方法に関しても、すぐに禁止されるはずである。
【0006】
クリーン手法として知られる乾式経路による成膜の代替手法、例えば化学蒸着手法、例えば化学気相蒸着(「CVD」英語でと略記される)が提供されており、これはコントロールされており、一部の特定の皮膜の作製において既に使用されている。
【0007】
例えば、揮発性の還元性化合物と接触させた金属粉末で構成されたセメントからの金属、金属元素の窒化物、カーバイドまたは炭窒化物の化学気相蒸着が知られている。この方法は大気圧で操作されるが、成膜は、ハロゲン化物型の金属源が使用される結果、高温でしか得られない。慣用的なCVD法では、ハロゲン化物の気化物が直接、金属源として使用され、その一部に対して動的真空および高温下(1000℃単位)で操作がなされる。
【0008】
環境および安全性の条件の観点から、熱的にロバストで毒性で腐食性で揮発性が限定的であり、高い成膜温度で使用されるハロゲン化物プリカーサの使用は、このような方法の大きな不都合点の一因である。さらに、苛酷な熱的条件により、皮膜形成対象となる基材の可能な多様性が制限される。
【0009】
成膜温度を低くするために、有機金属プリカーサ分子が使用されており(英語で“Metal Organic CVD(有機金属CVD)”の「MOCVD」と略記される方法)、これを以下にさらに詳細に記載する。しかしながら、このような化合物(これは多くの場合、粉末である)の低揮発性および熱的不安定性に鑑みると、減圧下で操作することが必要である。昇華ゾーン(固体の場合)または気化ゾーン(液体の場合)内では、低温であっても、プリカーサの長時間の加熱により反応体が成膜ゾーンに到達する前に損傷される場合があり得、したがってプリカーサスループットの再現性、初期の反応性ガス組成、したがって成膜の品質の問題が引き起こされ得る。
【0010】
このような問題は、“Direct Liquid Injection-Metal Organic Chemical Vapor Deposition(直接液体噴射-有機金属CVD)”の英語の頭文字のDLI-MOCVDとして知られる、化学気相蒸着の原則および成膜させる金属化合物の有機金属プリカーサの液体噴射を含む方法のおかげで解決されている。
【0011】
このDLI-MOCVD法では、低温および減圧下(またはさらには大気圧)で操作されるという利点が示されるが、金属またはこの金属のカーバイドベースの、均質性およびロバスト性という必要とされる特性を有する保護層の成膜のためには非常に特別な反応条件が強いられる。これに関して、金属元素(クロムまたは他の遷移金属)の硬質皮膜に関する国際公開第2008/009714号に記載された手法、また、金属元素の非酸化物系セラミック型の皮膜の成膜に関する国際公開第2008/009715号に記載のものを参照され得る。
【0012】
このような動的合成法(解放系)では一定の利点が示されるが、反応の際に完全に消費されるにはほど遠い反応体(例えば、ハロゲン化物、水素化物、炭化水素、有機金属化合物など)が使用される。したがって、反応体、溶剤およびその副生成物が反応器の排出口において再度みられ、製造業者には、このようなガス状および液状の流出物を処理するための措置をとることが求められる。これは高級な生成物の無駄であり、環境問題、また相当な経済的損失となる。
【0013】
このような損失は、必要とされる抵抗性特性を付与する微構造の厚さ(とりわけ密度)の均一性に関して良好な品質の皮膜を得るために、穏和な成膜速度を使用しなければならないため、いっそう大きくなる。そのため、この方法の歩留りは比較的低い。
【0014】
実際、環境にやさしい工業的方法の設計は、とりわけ2001年のヨーテボリサミットの際に起草された欧州指令に対応した現在の研究の主要目的の1つである。したがって、CVD法および非常に特別にはDLI-MOCVD法の開発は、環境への影響(流出物、例えば、ガス、溶剤、重金属の排出)および経済的影響(エネルギーコスト、プリカーサ(とりわけ有機金属化合物)、基材など)の制約を受ける。
【0015】
大容量のガスならびに複雑な有機金属化合物および有機化合物を使用するCVD法は影響を受ける。
【0016】
この観測結果を発端として、エネルギーの消費、プリカーサ分子の消費およびガス(反応器内において良好な流体力学をもたらすキャリアガスであれ、反応体であれ)の消費に影響を及ぼすために、いくつかの経路が考えられ得る。
【0017】
現在最も利用されている第1の経路は、成膜時間を短くするためにDLI-MOCVD法のパラメータを変更する歩留りの最適化である。しかしながら、皮膜の品質要件は成膜条件に対して非常に重大で非常に敏感なため、作製パラメータにおける変動枠が狭すぎてすべての制約に折り合いをつけることができない。
【0018】
第2の経路は、反応体およびプロセスガス(当該プロセスにおいて使用されるが反応体としては関与しないガス、例えばキャリアガス)の消費を低減させることであろう。反応器内に噴射する反応体量を低減させるために反応条件を修正しようとする試みでは、残念ながら、所望の皮膜を得ることが可能になっていない。上記の理由で、プロセスパラメータを変更する可能性は、ここでも大きく縮小される。
【0019】
この課題に対処するため、本発明の筆者らは、反応器内に噴射する反応体の総量を低減させることによって反応条件そのものを修正するのではなく、反応器の排出口に排出される化合物を、プロセス内で再利用するために再使用することを考えた。
【0020】
再利用工程を使用するCVD法は既に提供されている。例えば、グラフェン/Cu基材が再利用され、この金属が触媒でもあるCVD法が知られている(Wang,Y.,et al.,ACS Nano,2011,5(12),pp9927-9933)。また、流出物中の金属またはプリカーサいずれかの形態の電子機器に使用された貴金属(Pt、Ru、Auなど)を回収し、適切な化学処理後、その後の使用に再利用することも知られている(International,R.2010;サイトhttp://www.recyclinginternational.com/recycling-news/3464/research-and-legislation/japan/japanese-recycling-process-ruthenium-precursorsにおいてアクセス可能)。このような技術的解決策は、全体コストの削減を目標にしたものであり、非常に限定的で、DLI-MOCVDには適用可能でない。
【0021】
大量のガスおよび反応体が消費される一部のCVD法で、例えばカーボンナノチューブの工業生産で解決策が示されている。比較的単純な炭化水素混合物H2/C2H4で生じる副生成物(例えば、揮発性有機化合物(VOC)および多環芳香族炭化水素(PAH))は45種類以上である(Plata,D.L.,et al.,Environmental Science&Technology,2009,43(21),pp8367-8373)。このような化合物の捕捉および再利用により、これをその後に使用することが可能になるが、このような化合物をプロセス自体において、例えば、該化合物のCVD反応器内への再噴射を伴う閉鎖ループまたは半閉鎖ループ内で直接ではなく間接的に再利用する目的のため、複雑で費用がかかる処理をCVD成膜方法と平行して行なうという犠牲をはらう。
【0022】
また、再利用の系は、太陽光発電用途およびマイクロエレクトロニクス用途のための多結晶シリコンのCVDによる大量生産においても使用される。例えば、管型反応器内で低圧CVDにより反応体混合物SiH4/H2を用いて得られる多結晶シリコン膜の厚さの均一性に対する再利用ループの有益な効果が知られている。ガスが連続的に完全に撹拌されるため、膜厚はいっそう均一になり、この再利用は生産性に寄与する(Collingham,M.E.,et al.,Journal of the Electrochemical Society,1989,136(3),pp787-794)。
【0023】
ソーラー業界では、CVD法においてSiCl4とH2が大過剰に使用され、コンバータにより、より速やかなSi成長のためにSiCl4がHSiCl3に変換される。HSiCl3のうち20%だけが消費され、副生成物が形成される(クロロシラン、HCl、H2)。流出物は回収され、分離され、さらなる使用のために保存されるが、未消費のHSiCl3はプロセスにおいて再利用される(Project,P.P.2010;Vent Gas Recovery and Recycle Process Technology Package,サイト:www.polyplantproject.com/offgasrecoveryrecycling.htmlにおいてアクセス可能)。塩化物を伴うこのCVD法では、化学物質の系のストリッピング/成膜の平衡を変更することにより、ならびに熱力学的および速度論的シミュレーションに依存することにより、事実上閉鎖されたループの系が提供される(Noda,S.,et al.,Conference Record of the Twenty-Ninth IEEE,2002)。さらに、SiH4/H2を使用する方法に組み込まれた系によるH2の再利用が最近、開発された(V.Revankar and S.Lahoti,2015,Savi Research Inc.)。
【0024】
しかしながら、再利用ループを示すCVDによるシリコンの成膜のための技術ではすべて、反応副生成物がわずかに存在する。これは、SiH4に由来する水素化物、SiCl4に由来するハロゲン化物または炭素の成膜の場合にCH4に由来する炭化水素であり、これらはすべて、操作温度においてガス状であり、最初のプリカーサと同じ熱的挙動を有する。これらは、成長機構または反応速度論に対して事実上、効果を有しない成膜の反応性源の一因となる。
【0025】
文献国際公開第2007/106462号には、MOCVD成膜方法によって生成する流出物の少なくとも一部分を再利用することとともに、未反応の有機金属プリカーサを反応副生成物から分離することを特に目標とした、このような流出物の精製工程が推奨されることが示されている。
【0026】
したがって、今までのところ、DLI-MOCVDによる膜の成膜方法に関与した化合物の満足のいく再利用を可能にする方法は無いようである。高い反応性および有機金属プリカーサの分解機構の複雑性のため、数多くの非常に異なる副生成物が生じる。再利用される生成物は最初の必要条件を満たしていないこと、ならびに皮膜の純度、微構造および成長速度論はそれにより有意に影響を受けることが予測される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【文献】国際公開第2008/009714号
【文献】国際公開第2008/009715号
【文献】国際公開第2007/106462号
【非特許文献】
【0028】
【文献】Wang,Y.,et al.,ACS Nano,2011,5(12),pp9927-9933
【文献】Plata,D.L.,et al.,Environmental Science&Technology,2009,43(21),pp8367-8373
【文献】Collingham,M.E.,et al.,Journal of the Electrochemical Society,1989,136(3),pp787-794
【文献】Noda,S.,et al.,Conference Record of the Twenty-Ninth IEEE,2002
【文献】V.Revankar and S.Lahoti,2015
【発明の概要】
【0029】
発明の説明
したがって、本発明の目的の1つは、上記の不都合点のうちの1つ以上を回避または緩和すること、特に、機械パーツまたは他のパーツ上における保護皮膜の調製の際に、環境に有害な物質の使用、発生および排出を低減すること、実にさらには解消することである。
【0030】
これとの関連において、本発明の目的の1つは、化学蒸着反応によって生じる廃棄物を、その除去に投資するのではなく、できる限りその生成を回避することによる、環境にやさしい化学蒸着法を提供することである。
【0031】
本発明の別の目的は、方法の経済的および環境への影響が限定的となるように産業上の制約および必要エネルギーを最小限にする成膜方法を提供することである。
本発明の別の目的は、形成された化合物および/または未消費の化合物を再使用することである。
【0032】
これらの目的は、慣用的な技術で得られる皮膜の品質および性能レベルが、改善されないとしても維持されることを模索するものである。
【0033】
これらの目的のうちの1つ以上を満足させるため、本発明の主題は、DLI-MOCVD手法による基材上への保護皮膜の成膜方法であって、反応器の排出口に存在している一部の流出物が回収され、次いで、その性能レベルまたは成膜品質を損なうことなく該成膜方法に再利用される方法である。
【0034】
したがって、本発明は、1つ以上の層で構成されており、該層の少なくとも1つが、カーバイド、合金または金属から選択される少なくとも1種類の保護材の形態の遷移金属Mを含むものである保護層である保護皮膜を基材上に成膜するための方法であって、以下の工程:
a)供給槽内において:
- 酸素原子がない炭化水素溶剤、
- 300℃~600℃の分解温度を有し、該遷移金属Mを含むビス(アレーン)型のプリカーサで構成された前記有機金属化合物、および
- 適切な場合は、炭素取込み阻害剤
を含有しているマザー溶液(mother solution)を利用可能にする工程;
b)前記マザー溶液をエバポレータ内で気化させ、次いでこれを、被覆対象の前記基材がある化学気相蒸着反応器内に導入する工程;成膜温度が300℃~600℃であり低い成膜圧力下の雰囲気の該反応器のチャンバ内で、前記基材上において該保護層の成膜を行なうため;
c)該反応器の排出口で、未消費のプリカーサ、プリカーサの芳香族の副生成物および該溶剤を含むガス状流出物画分を収集する工程、これらの存在物は一緒に、標準条件下で、ドーター溶液(daughter solution)を形成している、ならびに;
d)工程a)で使用することができる新たなマザー溶液を得るために、このようにして得られた該ドーター溶液を該供給槽内に注入する工程
を含むダイレクトリキッドインジェクション(DLI-MOCVD)による有機金属化合物の化学気相蒸着のための方法である成膜方法に関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
図1は、トルエン単独(ビス(エチルベンゼン)クロムプリカーサなし)の噴射時における成膜物なしの石英スライド(ブランク)の500℃、600℃、750℃および800℃での処理後の透過率のUV/可視スペクトルを示す。
【
図2】
図2は、
図1の透過率のスペクトルに関して測定した、波長500nmにおける吸光度の強度の熱分解温度の関数としての変化を示す。
【
図3】
図3は、UV/可視分光測光法でのBEBCの検量線である。
【
図4】
図4は、新しいプリカーサおよび再利用プリカーサを用いて得られた皮膜の微構造の比較(断面図)を示す。
【
図5】
図5は、新しいプリカーサおよび再利用分を用いて得られた皮膜の微構造の比較(平面図)を示す。
【
図6】
図6は、新しいプリカーサ(上側)および再利用分(下側)を用いて得られた皮膜のエネルギー分散スペクトル(Energy-Dispersive Spectra(EDS))の比較を示す。
【
図7】
図7は、新しいプリカーサ(上側)および再利用プリカーサ(下側)を用いて得られた非晶質クロムカーバイドで作製された皮膜のX線ディフラクトグラムの比較を示す。
【
図8】
図8は、本発明の成膜方法の実施に適したDLI-MOCVDデバイスの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
発明の詳細な説明
本発明の本記載において、“to comprise(~を含む)”、“to incorporate(~を組み込む)”、“to include(~を含む)”、“to contain(~を含む)”、“composed of(~で構成された)”などの動詞およびその活用形は包含的用語であり、したがって、これらの用語に続いて示された最初の要素または工程に追加される1つ以上の補助的な要素または工程の存在を排除しない。これらの包含的用語は、さらに、任意の他のものを排除した最初の要素(1つまたは複数)および/または工程(1つまたは複数)のみが対象である具体的な実施形態も対象とする;この場合、該包含的用語は、さらに、限定的用語“to consist of”、“to be constituted of”およびその活用形も対象とする。
【0037】
要素または工程に対する不定冠詞“a”または“an”の使用は、特に記載のない限り、複数の要素または工程の存在を排除しない。
【0038】
さらに、特に記載のない限り、上下限の値は、表示されたパラメータ範囲に含まれる。
【0039】
さらに本記載において、任意の合金が一般的にベース合金である。とりわけ、保護層または被覆対象の基材の組成に関与する金属の「ベース合金」は、合金の金属の金属含有量が少なくとも50重量%、より特別には90%より多い、実にさらには95%より多い該金属ベースの任意の合金を表す。ベース金属はより特別には、好ましくはCr、Nb、V、W、Mo、MnまたはHfから選択される遷移金属Mであり、これらは遷移金属Mの対応するベース合金を形成する。
【0040】
また、混合合金を構成するために、合金に他の化学元素(例えば、0.5原子%より多い含有量で)、特に、第2の金属元素(例えば、第2の遷移金属Mなど)を含有させてもよい。
【0041】
合金中に挿入された炭素元素は、該合金(これはまた、第2の金属元素(例えば、第2の遷移金属M)が存在している場合、混合型であってもよい)のカーバイドを形成する。
【0042】
本発明による成膜方法は、本質的に成膜工程a)およびb)ならびに再利用工程c)およびd)を含むものである。
【0043】
成膜工程はDLI-MOCVD手法に従って行なわれる。この方法は、例えば、以下の文献:“F.Maury,A.Douard,S.Delclos,D.Samelor and C.Tendero;Multilayer chromium based coatings grown by atmospheric pressure direct liquid injection CVD;Surface and Coatings Technology,204(2009),983-987”、“A.Douard and F.Maury;Nanocrystalline chromium-based coatings deposited by DLI-MOCVD under atmospheric pressure from Cr(CO)6;Surface and Coatings Technology,200(2006),6267-6271”、国際公開第2008/009714号および国際公開第2008/009715号に記載されている。
【0044】
DLI-MOCVD手法において使用されるCVD反応器は一般的に、この分野で慣用的に使用されており減圧下で操作するホットウォール型反応器である。この反応器は、その全体が成膜に必要とされる温度まで加熱され、そのため、壁、反応器内を循環する反応性ガス相、したがって反応器の雰囲気、および被覆対象の基材が同じ温度である。この型の反応器は、「等温」(またはいくつかの温度勾配が存在する場合は「擬等温」)としても知られている。
【0045】
また、コールドウォール型反応器を使用してもよい。コールドウォール型反応器では基材のみが加熱され、反応は加熱された基材でのみ行なわれるという結果になる。そのため、反応器の歩留り(プリカーサの消費量から測定)は低く、これにより反応体の再利用の利点が大きくなる。
【0046】
DLI-MOCVD手法の原則は、化学気相蒸着反応器のチャンバ内に連続条件下またはパルス化条件で、成膜させる金属のプリカーサを気化形態で直接導入することである。これを行なうため、前記プリカーサを溶剤中に含有させた金属プリカーサの分子溶液を供給槽からエバポレータ内に、圧力下(例えば3バールの不活性ガス(N2)、すなわち3.105Pa下)で導入する。このマザー溶液を、エーロゾルを形成させるために微小液滴に分裂させ、該エーロゾルはフラッシュ様式で気化される。「フラッシュ」蒸発は、飽和蒸気圧則によって予測される圧力条件および温度条件の範囲外での化合物の急速な気化を本質とする。エバポレータは、プリカーサと溶剤が気化されるがこの段階では分解がもたらされないような温度まで加熱される。気化温度は一般的に、溶剤の沸点とプリカーサ(および付随の溶剤)の分解温度の間、典型的には100℃~250℃、例えば150℃付近、実にさらには200℃である。
【0047】
プリカーサ溶液の噴射のパラメータは、好ましくはコンピュータプログラムを用いて固定される。該パラメータは、減圧下で満足のいくフラッシュ蒸発を得るために非常に微細な数多くの液滴のミストが得られるように調整される。したがって、液体噴射は、皮膜の成膜方法のパラメータの最適化の可能性を制限しない充分に制御された有機金属プリカーサ源を構成する。
【0048】
気化されたプリカーサおよび気化された溶剤は、中性ガス(または一般的に、CVD反応器内に存在している化学的存在物に対して化学的に不活性なガス)流により、エバポレータから反応器の成膜ゾーンに向かって送られる。被覆対象の基材は、反応器内に配置されたサンプルホルダー上に置く、または置かない。使用されるキャリアガスは好ましくは、有効な気化を得るために、最大でエバポレータの温度まで予熱される。低コストのため一般的には窒素が選択されるが、ヘリウム(より良好な熱伝導性の恩恵を被る)またはアルゴン(保護能がより大きい)もまた使用され得る。
【0049】
本発明の方法によれば、成膜させる遷移金属Mは典型的にはクロム、またはケミストリーおよび冶金学がクロムのものと同様である任意の他の金属である。当業者には、冶金学に必要とされる硬度特性および化学的不活性の特性が得られる元素がわかるであろう。遷移金属Mはさらに、ビス(アレーン)化合物を形成し得るものである。
【0050】
したがって、本発明によれば、成膜させる遷移金属Mは、Cr、Nb、V、W、Mo、MnまたはHfから選択され得、その酸化状態がゼロであってもよい。より特別には、該遷移金属は、Cr、Nb、VまたはMoから選択され、それは、これらのカーバイドが非常に安定だからである。
【0051】
もたらされる成膜物は一般的に、セラミック皮膜(例えば、カーバイド型のもの)または金属皮膜(金属もしくは合金)である。遷移金属Mは一般的に、成膜させた保護皮膜においてその酸化度を保持しており、それは、プリカーサが、例えば酸化/還元反応などの、数多くの副生成物を生じる複雑な反応を伴わずに熱分解するためである。
【0052】
好ましくは、遷移金属M(より特別には、クロム)は、ビス(アレーン)型のプリカーサにおいて、また、本発明の方法によって成膜させる保護材においても酸化状態がゼロのものである。これは、例えば具体的にカーバイド(後者は挿入カーバイドである)の場合において、遷移金属Mが一般的に酸化状態ゼロを保持しているからである。
【0053】
本発明の成膜方法において使用されるマザー溶液は、遷移金属Mを含むビス(アレーン)型のプリカーサ、酸素原子がない炭化水素溶剤および、適切な場合は炭素取込み阻害剤を含有しているものである。
【0054】
プリカーサ有機金属化合物は、基材上に保護皮膜を形成させるために反応させることが意図された遷移金属Mが、ビス(アレーン)型のプリカーサを形成させるために、2つのアレーン基である有機配位子と錯体形成されている分子化合物である。このような配位子は、プリカーサに対して、選択された温度範囲において所望の熱的安定性を付与する。保護層が数種類の遷移金属Mを含むものである場合(例えば、混合カーバイドの場合または合金の場合)、マザー溶液は、各々が独自に遷移金属Mを含むビス(アレーン)型のプリカーサの混合物を含むものである。
【0055】
本発明によれば、プリカーサは好ましくは、酸素原子がない一般式(Ar)(Ar’)M(式中、Mは、酸化状態がゼロの遷移金属であり、(Ar)および(Ar’)は、同一または異なっており、各々が、ベンゼン型または少なくとも1つのアルキル基によって置換されているベンゼン型の芳香族基を表す)のビス(アレーン)型のサンドイッチ型化合物である。
【0056】
金属-配位子間の結合の安定性は、ベンゼン環の置換基の数とともにかなり増大する。プリカーサの分解を促進させるためには、(Ar)および(Ar’)が2つの低置換芳香族配位子を表すものであるプリカーサが選択され得る。したがって、本発明によれば、芳香族基(Ar)および(Ar’)は各々、好ましくは、ベンゼン原子団またはメチル、エチルもしくはイソプロピル基から選択される1~3個の同一の基もしくは異なる基によって置換されているベンゼン原子団を表す。
【0057】
特に好都合には、マザー溶液は、当該プロセスにマイナスの影響を及ぼすことなく、いろいろなプリカーサとの反応をもたらし得ることが起こる。特に、遷移金属Mの芳香族配位子の厳密な性質は重要ではない。ただし、このような配位子は、低置換の単環式芳香族化合物の同じ化学物質群に属しているものとする。好都合には、その場合、最初の反応体に由来するCVD反応の副生成物を反応器内に再導入することが可能であり、これは、反応器の排出口で回収された生成物がいろいろな化学構造を有する場合であってもそうである。最初のマザー溶液の純度もまた重要なポイントではなく、これにより、10%までの誘導化合物を含有していてもよい市販の溶液を使用することが可能になる。このような誘導化合物をプロセス自体に再利用することが可能であるため、その後の成膜に使用される再利用マザー溶液は、プリカーサとしていろいろなビス(アレーン)を含有している。
【0058】
したがって、本発明の好ましい特徴の1つによれば、前記マザー溶液は、金属Mを含む異なる一般式(Ar)(Ar’)M、特に、異なる一般式(Ar)(Ar’)M0の数種類のビス(アレーン)型のプリカーサの混合物を含有しているものであり得る。
【0059】
一例として、金属がクロム、特に、酸化状態がゼロのものである場合、プリカーサは、サンドイッチ型クロム化合物、例えばビス(ベンゼン)クロム(BBCとして知られる、式Cr(C6H6)2のもの)、ビス(エチルベンゼン)クロム(BEBCとして知られる、式Cr(C6H5Et)2のもの)、ビス(メチルベンゼン)クロム(式Cr(C6H5Me)2のもの)およびビス(クメン)クロム(式Cr(C6H5iPr)2のもの)またはその混合物であり得る。また、式中のArとAr’が異なっている式(Ar)(Ar’)Crの非対称の誘導体;またはこのようなビス(アレーン)クロム化合物の混合物(該化合物のうちの1種類が高含有であってもよい)であってもよい。このようなプリカーサはすべて、およそ300℃から分解し始める。600℃より高い分解温度を示すプリカーサは、溶剤の分解を防ぐため、後で説明する理由で除外する。先のクロムプリカーサの化学式は、そのクロムをその他の1種類の遷移金属M、特に、酸化状態がゼロのもので置き換えることにより、遷移金属Mを含むプリカーサに置き換えられ得る。したがって、元素M0を含むビス(アレーン)型のプリカーサは、式M0(C6H6)2、M0(C6H5Et)2、M0(C6H5Me)2またはM0(C6H5iPr)2の少なくとも1種類の化合物から選択され得る。
【0060】
BBCのみが粉末の形態で存在する。これを溶液の形態で噴射してもよいが、その場合、濃度は、炭化水素溶剤中における溶解度が低いことによって急速に制限される。
【0061】
一例として挙げたその他のプリカーサは液状であり、溶剤なしで直接噴射するこができるが、その場合、成膜物の微構造を制御することがより困難になる。したがって、前記マザー溶液の濃度の広範な多様性が可能になり、より良好な噴射条件の調整、その結果、物性の調整が可能になるため、溶液状態での使用が好ましい。
【0062】
遷移金属Mを含むビス(アレーン)型のプリカーサのマザー溶液中の濃度は、0.1mol.l-1~4.4mol.l-1(純粋なプリカーサの濃度)、一般的に0.1mol.l-1~1mol.l-1、典型的には0.35mol.l-1であり得る。
【0063】
プリカーサ化合物の溶剤は、本発明による成膜方法の満足のいく実施において重要な役割を果たす。溶剤は好ましくは、以下の化学的および物理的基準:
- エバポレータ内でのフラッシュ蒸発を可能にするために、沸点がエバポレータの温度より低い。
- 成膜ゾーン内で使用される溶剤の分解による成膜物の酸化を回避するために、酸素を含有していない。
- 溶液中のプリカーサに対して化学的に不活性であり、標準条件の温度および圧力下で液状である。本記載において、標準条件は大気圧および温度25℃である。
- プリカーサを効率的に溶解させるものであり、芳香族の性質のものである場合はプリカーサと化学的に近いものである。
- 反応器の排出口の流出物中において、回収の目的物への溶剤の混入(あれば)をできる限り限定的にするために、反応器内で有意に分解されない。
のすべてを満たすものである。
【0064】
したがって、溶剤は好ましくは、標準条件下で液状であり、150℃より低い沸点および600℃より高い分解温度を有する一般式CxHyの単環式の芳香族炭化水素である。
【0065】
溶剤は好都合には、プリカーサ化合物の配位子のものに近い化学物質群、すなわち、「アレーン」としても知られる芳香族炭化水素群に属するものである。これは、反応器内を通過中、プリカーサは熱分解し、次々にその配位子を放出するからである。したがって、反応の副生成物には本質的にアレーンがなく、アレーンは、溶剤を化学的に近く、実にさらには同一であるため、ますます溶剤と混合される。この理由のため、反応器の排出口で回収される流出物中の化合物(プリカーサ、CVD反応の副生成物および溶剤)は一般的に、すべて芳香族炭化水素である。2~4個の炭素原子を含むものであり、芳香族溶剤の分解により生じるアルカン/アルケン型の脂肪族の副生成物がおそらく少量で存在している。あとで詳細に説明するように、標準条件下でガス状であるこのような化合物は本方法の工程c)では回収されないのに対して、回収される化合物は、その一部が液状である。
【0066】
したがって、本発明によれば、溶剤は好ましくは、ベンゼンまたはメチル、エチルもしくはイソプロピル基から選択される1個以上の同一の基もしくは異なる基によって置換されているベンゼンから選択される。
【0067】
本発明の特に好ましい一実施形態によれば、溶剤はベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、メシチレン(1,3,5-トリメチルベンゼン)またはその混合物である。しかしながら、実際面では、ベンゼンは、その高い毒性のため、とりわけ発癌性物質として知られているため除外される。
【0068】
基材上に硬質の金属皮膜(すなわち、金属型または合金型のもの)の成膜物を得ることが所望される場合、好ましくは炭素取込み阻害剤がマザー溶液に、例えば、マザー溶液中のビス(アレーン)型のプリカーサのモル濃度の1%~10%に等しい濃度、例えば2%で添加される。
【0069】
この添加剤、好ましくは、塩素含有またはイオウ含有添加剤は、プリカーサの芳香族配位子の不均一な分解を防止または制限する役割を有する。これは、金属-配位子間の結合の解離の際、一部の炭化水素配位子が基材表面の触媒効果の下で分解され、その炭素が遷移金属と結合してカーバイド型または混合カーバイド型のセラミックを形成することに寄与するからである。また、該阻害剤が存在している場合であっても、工程b)の間に少量の炭素が遷移金属Mとともに成膜される場合があり得るが、カーバイドは形成されない。
【0070】
これが、本発明による方法の択一的な一実施形態において、遷移金属Mまたは遷移金属Mの合金で構成された保護材を得るために、前記マザー溶液にさらに、酸素原子がなく、600℃より高い分解温度を有する塩素含有またはイオウ含有添加剤を含有させる理由である。標準条件下では、この添加剤はさらに、マザー溶液と混和性である。
【0071】
上記のように、反応器内に導入した化合物を、DLI-MOCVDによる成膜のための反応に影響を及ぼすことなく再利用できること(それ自体またはその副生成物)は好都合である。したがって、該添加剤は好ましくは、チオール基または少なくとも1個の塩素によって置換されている単環式の芳香族炭化水素である。より好ましくは、該添加剤はチオフェノール(C6H5SH)またはヘキサクロロベンゼン(C6Cl6)である。
【0072】
本発明の方法の成膜条件に関して、反応器のチャンバは、溶剤は分解させないがビス(アレーン)金属型のプリカーサは分解させるために300℃~600℃の成膜温度まで加熱される:これにより、反応器内およびその壁上、実にさらには基材上における望ましくない副生成物の生成および成膜が妨げられるか、または最低限でも制限される
【0073】
被覆対象の基材が金属(例えば、合金またはそのままの金属で構成されたもの)製のものである場合、成膜温度は一般的に、超えると金属基材の機械的強度が低下する温度(例えば、耐温度550℃)を超えない。この予防措置により、起こり得る金属基材の変形または相変態が妨げられる。
【0074】
反応器は、プリカーサを含有しているマザー溶液の気化から、ガス状流出物画分の収集工程c)での流出物の抽出に至るまでの成膜の主要工程を行なうために減圧下に置かれる。減圧は、一般的に数トール~数十トールである。したがって、これは、高真空設備のアイテムに必要とされる工業的PVD法のおよそ10-3トール~10-4トールの圧力からみると穏和な減圧である。
【0075】
したがって、本発明の好ましい特徴の1つによれば、工程b)の気化および成膜ならびに工程c)の該流出物の前記画分の収集は、反応器のチャンバの雰囲気が1トール~50トール(すなわち、SI単位では133Pa~6666Pa)、あるいはまた13Pa~7000Paの低い成膜圧力となるように行なわれる。
【0076】
本発明の成膜方法の工程a)およびb)の終了時、保護材で構成された保護皮膜によって基材が被覆される。この保護材は、カーバイド、合金または金属の形態の1種類以上の遷移金属Mを含有しているものであり得る。
【0077】
保護材を構成する遷移金属Mのカーバイドは、マザー溶液中に炭素取込み阻害剤が存在しない場合に得られる。これは、CrC、WC、NbC、MoC、VCもしくはHfC型または化学量論式Cr7C3、Cr3C2、Mo2C、Mn3C、V2CもしくはV4C3のカーバイドであり得る。化学量論の添え字を含むものでない場合(CrC、WC、NbC、MoC、VCまたはHfC型のカーバイドの場合)、このような表示は、遷移金属Mのこのようなカーバイドは炭素の量が当業者に知られている範囲内でさまざまであり得る挿入カーバイドであるため、明確な化学量論式ではなく共通表記に対応する。例えば、CrCは一般的にクロムカーバイドを表し、これはまた、「CrCx」と表すこともできる:係数xは、該カーバイドが3種類の安定なクロムカーバイド化合物(Cr23C6;Cr7C3;Cr3C2)のうちの1つの厳密な化学量論を有していないことを示す。その組成は、Cr7C3に近いがCr3C2との中間であり得る。
【0078】
また、遷移金属Mを含むカーバイドは、本記載において挙げたような、遷移金属Mの合金のカーバイド、任意選択で混合カーバイドであってもよい。
【0079】
保護材を構成する遷移金属Mの合金は、好ましくは遷移金属Mのベース合金である。
【0080】
遷移金属Mの合金またはそのベース合金は、Cr、Nb、V、W、Mo、Mn、Hfまたはその混合物から選択される遷移金属Mを含む当業者に知られた任意の合金であり得る。好ましくは、合金は、より特別にはクロム/バナジウム合金、クロム/ニオブ合金、クロム/バナジウム/ニオブ合金またはクロム/モリブデン合金から選択されるクロムベースの合金である。
【0081】
遷移金属Mの合金は、いろいろな有機金属プリカーサをマザー溶液中で混合することにより得られ得る:例えば、クロム/バナジウム合金を得るためには、マザー溶液は、クロムを含むビス(アレーン)型のプリカーサとバナジウムを含むビス(アレーン)型のプリカーサの混合物を含むものであり、各プリカーサは、例えばマザー溶液中に、対応するクロム/バナジウム合金中のクロム/バナジウムの化学量論比に対応するこれらの2種類のプリカーサのモル比に従って存在している。
【0082】
保護材を構成する金属は、一般的に天然形態(または事実上、純粋な形態)の遷移金属Mであり、好ましくはクロム、バナジウム、ニオブまたはモリブデンであり得る。
【0083】
遷移金属Mを含むものである保護材は、製造過程の不純物を含有している場合があり得る。このような不純物の性質および含有量は一般的に、工業用の金属素材またはセラミック素材の不純物に典型的な性質および含有量である。一般的に、不可避の不純物の含有量は200ppm未満、好ましくは100ppm未満、より好ましくは、さらに50ppm未満である。
【0084】
反応器内を通過させるガスは、上流で導入したものである。反応器の排出口において、ガス状流出物には、消費されなかった、または熱分解されなかったプリカーサ分子、溶剤(および適宜、塩素含有またはイオウ含有添加剤)が含まれている。また、流出物には、プリカーサの芳香族の副生成物、特に、プリカーサに由来し、溶剤と同じ芳香族群のものである解離した遊離配位子も含まれている。これは、ベース溶剤中に組み込まれ、該ベース溶剤と完全に混和性であり、その場合、それ自体が溶剤としての機能を果たす。
【0085】
驚くべきことに特に好都合には、低温の反応器の排出口の化合物の大部分は、プリカーサまたは溶剤である最初の化合物のものと同様または同一の化学構造を有する単環式の芳香族分子である。したがって、これを確保しておくこと、すなわち、これを工程c)で回収することが好都合である。これは、反応器の排出口では温度条件および圧力条件の結果、ガス状であるが、標準条件下では液状である。このようにして回収された混合物は、ドーター溶液として知られる溶液を形成し、これが反応器の供給槽内に、皮膜形成プロセスの工程a)で使用することができる新たなマザー溶液として導入され得る。
【0086】
しかしながら、流出物にはまた、熱的断片化によって芳香族分子から誘導された化合物およびプリカーサと基材との反応の副生成物も含まれている。C6芳香族化合物の分解によって生じるこのような断片は本質的に軽質のC2~C4のアルカン、アルケンまたはアルキン型の脂肪族炭化水素である。ドーター溶液を形成することが意図された化合物を効率的に回収するために、芳香族化合物と軽質炭化水素の凝縮温度の差を利用することが可能である。好都合な存在物(したがって、本質的にアレーン)は、その融点によって識別され得る:したがって、これは工程c)において、所定の温度区間内でその凝縮をもたらすことができるデバイスによって回収され得る。次いで、軽質炭化水素が(付随量ではあるが)除去され得る。
【0087】
したがって、本発明の好ましい一実施形態によれば、工程c)において、反応器の排出口での前記画分の収集は、反応器の排出口での、流出物中に存在している該存在物の選択的凝縮の作業を含む。
【0088】
選択的凝縮による未消費のプリカーサおよび未消費の溶剤、また、CVD反応の芳香族の副生成物の捕捉のための好適なデバイスは、例えば極低温トラップである。この型のトラップは、液体窒素の沸点までも下げることができるものであり、気相をパイプ内に強制通過させ、このような存在物の凝縮が引き起こされるのに充分に冷却されたパーツからなる。これは、再利用するガス状存在物の凝縮および凝固に適切な温度範囲内、好ましくは-200℃~-50℃で調整され得る。この温度は、選択される極低温浴に依存し(過冷却エタノールトラップでは-100℃および液体窒素トラップではおよそ-200℃)、調整可能である(例えば、著作物“Handbook of Chemistry and PHysics、CRC Press”に公表されたデータの表を参照するとよい。)。
【0089】
好ましくは、本発明によれば、流出物中に存在している存在物の選択的凝縮は、-200℃~-50℃の温度での極低温トラップによって行なわれる。
【0090】
この極低温トラップ作業は系内で優勢な減圧で行なわれるため、続いて、不活性ガス供給口から真空を解除すること、および周囲温度に戻すことが得策であり、これは、当業者に知られた方法によって行なうことができる。したがって、ドーター溶液である液状画分が確保される。
【0091】
したがって、本発明によれば、前記凝縮画分を標準温度/標準圧力条件に戻し、液相中に残留している存在物(これはドーター溶液を形成する)を保持する。ガス状存在物は、その一部が除去される:これは、軽質で非常に揮発性の脂肪族炭化水素であるため、極低温トラップではその他の存在物よりもトラップ効率がずっと低いからである。これは、選択的凝縮中に一部除去される。次いで、標準条件下ではガス状態であるため、極低温トラップに取り付けられた真空ポンプによって容易に送られる。
【0092】
これは、流出物の大部分の物質が再利用のためにトラップされるため、重要な利点を示す。また、再利用される該存在物のトラップは、例えば、その後の解析(ex situ分析)を行なうために、サンプリング目的で行なってもよい。
【0093】
反応中に形成される小サイズの存在物は、量および性質において多くはない。反応器の排出口でトラップされる流出物は、a)未消費のプリカーサ、b)熱分解されなかったマザー溶液の溶剤、およびc)遊離配位子(任意選択で、塩素含有またはイオウ含有添加剤とともに)の混合物であることが実験で確認されている。該配位子の分解によって誘導された数種類の有機化合物が非常に少量で存在する場合があり得る。
【0094】
本発明の方法の工程c)の終了時、マザー溶液のものより明らかにプリカーサ/溶剤比が小さいことを特徴とするドーター溶液が得られるが、事実上、成膜機構に影響を及ぼし得る他の有機金属源はない。この結果は、一般的に、有機金属化合物、例えばビス(アレーン)型のプリカーサの分解により数多くの副生成物の形成がもたらされ、その一部のものは、放出された金属と再結合して、とりわけ熱的挙動が非常に異なる新たな化合物をもたらし得ることが認められているため、予測不可能であった。一般的な場合とは反対に、プリカーサの分解によって生じた金属がすべて、反応器内で形成された化合物と反応せずに皮膜の成膜に関与することは注目に値する。したがって、反応中に新たな有機金属誘導体は形成されない。
【0095】
成膜作業(本質的に本発明の成膜方法の工程a)およびb)によって構成される)の終了時、トラップされたドーター溶液は、第2の成膜作業(非連続様式)または自動化され得る再利用ループ系(連続様式)において再使用され得る。
【0096】
これは、回収されたドーター溶液にプリカーサが含有されており、これが本発明の成膜方法において再使用および再利用され得るからであり、これは、ドーター溶液中のプリカーサの最終濃度がマザー溶液中のその初期濃度より低い場合であってもそうである。
【0097】
確保されたドーター溶液中のプリカーサのこの最終濃度を知るため、分光比色法、続いて検量線との比較が、任意選択でCVD設備のアイテム内に組み込まれたインラインデバイスの形態で使用され得る。
【0098】
したがって、本発明の好ましい一実施形態によれば、反応器の排出口での前記画分の収集工程c)の後に、得られたドーター溶液中のプリカーサの濃度測定の工程c1)が行なわれる。
【0099】
この測定結果に応じて、例えば、本発明の成膜方法の工程b)による保護層の成膜速度を修正するために、マザー溶液中のプリカーサの濃度が調整され得る。この濃度の調整は、純粋なプリカーサをドーター溶液に添加することからなるもの(この溶液が、マザー溶液を再構成するために導入される)、または新たなマザー溶液を補給するために純粋なプリカーサを直接、供給槽に添加することからなるものであり得る。
【0100】
したがって、本発明による方法は、工程d)において、供給槽内に注入されたドーター溶液の濃度の関数として、プリカーサの濃度を調整する作業d0)を含むものであり得る。
【0101】
あるいはまた、濃度ではなく、回収されたプリカーサの量に基づいて行なうことも可能である。この場合、所望の量の反応体が導入される容量のドーター溶液が供給槽内に導入される。この最後の進行様式は簡便である。これは、プリカーサ濃度が反応動力学の極めて重要なパラメータでないことが示されている試験を行なうことによって可能となる。
【0102】
本発明の具体的な一実施形態によれば、成膜方法はバッチ形式で非連続様式にて行なわれ得る。この場合、工程c)の終了時に回収されたドーター溶液が確保され、続いて、新たな基材の処理のために供給槽内に注入される。この処理がすぐに行なわれない場合は、該溶液を、満足のいく貯蔵条件を有する貯蔵槽内に入れる:その場合、前記画分の収集工程c)の後に、得られたドーター溶液の貯蔵の工程C2)が行なわれ得る。この貯蔵は理想的には、遮光状態の冷蔵容器内で不活性雰囲気下、例えば、アルゴン圧力下または別の乾燥ガス(例えば、N2)(ただし、酸化性でないものであるものとする)の圧力下で行なわれる。
【0103】
確保されたドーター溶液は、プリカーサが、最初に使用されたマザー溶液ときよりも濃度が低く、そのため、回収されたプリカーサの量は一般的に、新たな成膜作業を行なうには不充分である。そのため、プリカーサは、最初のマザー溶液の使用時に得られたものと同様の厚さ(これは一般的に少なくとも1μm厚である)を有する新たな成膜物のための充分なドーター溶液を得るために、少なくとも2回のCVD成膜作業用にトラップされなければならない(例えば、選択的凝縮によって)。異なる成膜作業時に得られたドーター溶液は好都合には、新たな成膜作業のためにマザー溶液の槽に供給される充分な量のプリカーサを蓄積させるために確保され得る。
【0104】
好都合には、本発明による成膜方法の工程a)~c)は逐次N回、反復され得、その終了時にN回分のドーター溶液を確保した。次いで、工程a)で使用することができる新たなマザー溶液を得るために、工程d)を、前記N回分のドーター溶液を供給槽内に注入することにより行なう。
【0105】
あるいはまた、本発明の別の具体的な実施形態によれば、成膜方法は、上記のような非連続様式に従って行なわれ、この場合、該N回分の溶液は、回収されたときに保存され得る:続いて、工程d)が次いで行なわれる。
【0106】
確保された新たなマザー溶液が、ほぼ所望の量に達したら、そのプリカーサ濃度が定量解析によって測定され得、任意選択で調整され得る。続いて、新たな成膜作業のために、新たなマザー溶液が入った槽が直接、噴射系に接続され得る。適切な場合は、CVD成膜反応器を事前に、噴射系に接続された槽内に存在している純粋な溶剤で洗浄する。したがって、本発明の成膜方法の工程c)およびd)の利点の1つは有機金属プリカーサのロスが最小限になることであり、これにより、環境への影響が改善され、全体的にDLI-MOCVD法のコストが削減される。
【0107】
非連続様式では、保護皮膜は好都合には、不均一系の多層保護皮膜を作製するために、いろいろな組成または性質のいくつかの層で構成されたものであり得る。その場合、この皮膜は一般的に、成膜プロセスサイクルにおいて成膜させる各単層の成膜シーケンスを行なう方法によって得られる。したがって、各層の成膜は、例えば1分間~10分間の一時停止時間によって間隔があけられ得る。この一時停止は、化学気相蒸着反応器にパージすることを利用してもよい。
【0108】
工業的観点から特に好都合である別の実施形態によれば、本発明の成膜方法は連続的に行なわれる。この場合、回収された存在物から特に選択的凝縮によって得られたドーター溶液はループ内で再使用される。これは、このような存在物が、とりわけ芳香族配位子の分解の副生成物と比べて揮発性が低い化合物であるため、工程c)で回収されたガス状流出物画分中において連続的に抽出され得るからである。この理由で、これは、例えば極低温トラップ内での選択的凝縮によって容易に分離され得る。
【0109】
この択一形態によれば、工程c)で得られたドーター溶液は供給槽内に、化学気相蒸着プロセス中に連続的に注入される。循環ループを確実にするために、工程c)およびd)を自動システムによって制御してもよい。デバイスにより、圧力変動「ライン」によって、極低温トラップの低圧ゾーンから加圧供給槽までの通過が可能になる。
【0110】
再利用は、使用される化学物質の系と関係しているため、CVD成膜方法において普遍的に適用可能ではない。これは、本発明の成膜方法において、DLI-MOCVD型の成膜と関連している、プリカーサ分子の特定の賢明な選択によってのみ可能となる。
【0111】
得られた満足のいく結果は、成膜された皮膜の化学的および構造的特性が、プリカーサの組成または噴射されるマザー溶液の溶剤に関係なく同一または非常に近い(これは実験により確認されている)ため、いっそう驚くべきことである。また、このような皮膜の物理的および機械的特性は、同様でないとしても少なくとも同等である。最後に、予想外なことには、本発明の成膜方法の歩留りを事実上、100%まで、非常に大きく高めることが可能であることが示された。かかる歩留りのおかげで本発明の方法により、非常に厚い保護皮膜を形成するために保護層が基材上に連続的に成膜され得る。
【0112】
したがって、保護皮膜は、とりわけ基材の保護を向上させるために、1μm~50μm、好ましくは10μm~50μmの平均厚さを有するものであり得る。
【0113】
本発明の成膜方法により、単層または多層(組成は均一もしくは不均一)の保護皮膜が成膜され得る。単層または多層の保護皮膜において、各保護層は、1μm~50μm、より好ましくはさらに1μm~25μm、実にさらには1μm~15μmの厚さを有するものであり得る。あるいはまた、少なくとも1つの保護層が10μm~50μmの厚さを有するものであり得る。
【0114】
保護皮膜は1~50の保護層を備えたものであり得る。
【0115】
有機金属化合物の事実上ゼロ排出によってもたらされる環境への影響における改善の他に、有機金属プリカーサの節減によって当該方法のコストが大きく削減され、これは全体コストに有意に寄与する。
【0116】
本発明の成膜方法の終了時に回収される流出物から得られた溶液を経済的に利用することが好都合な場合があり得る。これは、このような溶液が複雑な組成であり、DLI-MOCVDによる表面処理のためのプリカーサ源となるからである。上記のように、これは、最初に使用されたプロセスのループ内で直接使用されるか、またはその後の使用のために保存されるかのいずれかであり得る。したがって、既に記載した利点を超えて、特定の商業的利点が呈示される。これは、特に、空気や湿気に敏感であることが予想されるビス(アレーン)クロム型の有機金属プリカーサに関してそうである。他方において、これは、溶液状態である場合、雰囲気に対して反応性が低い。したがって、再利用される溶液は、この理由のため、プリカーサに対して保護的効果を有する。
【0117】
本発明の方法により、モノリシック形態またはナノ構造形態で同じ性質または異なる性質の多層として作製され得る保護皮膜を成膜することが可能になる。該保護皮膜は、いろいろな金属(合金など)、セラミック(カーバイド)もしくは半金属(例えば、多結晶シリコン)の基材上、またはまた他の素材(ただし、300℃~600℃もしくは少なくともおよそ550℃の温度での熱処理に耐え得るものであるものとする)の基材上に成膜させることができる。このような基材は、種々の産業分野、例えば、工具分野、自動車業界、航空機業界、マイクロエレクトロニクス業界、またはエネルギー関連の技術(例えば、太陽光発電業界など)などのために意図される。
【0118】
したがって、本発明によれば、被覆対象の前記基材は、金属(すなわち、一般的に、そのままの金属で完全に、もしくは本質的に構成されたもの)製、合金製、セラミック製またはシリコン製のパーツであり得る。また、基材は、およそ550℃での熱処理に耐える別の素材製のものであってもよい。
【0119】
次に、本発明の他の主題、特性および利点を、例示の目的で示した限定されない本発明の方法の具体的な実施形態の以下の説明において、添付の図を参照しながら明確に述べる。
【0120】
具体的な実施形態の説明
本発明の方法の具体的な実施形態は、溶剤として採用したトルエン中での2種類のプリカーサBBCまたはBEBCの分解によるクロム(クロムカーバイドまたは金属クロム)ベースの皮膜の成膜に関するものである。
【0121】
(実施例1)
実施例1:クロムカーバイドの成膜
クロムカーバイドCrC皮膜の成膜を以下の条件下で行なった:
噴射条件:
-インジェクタの開放時間:0.5ms
-周波数:10Hz
反応体:BEBC(5g)
溶剤:トルエン(50ml)
キャリアガス:N2(500sccm、すなわち標準条件下で500cm3/分の流速)
成膜の持続時間:20分間
反応器内の成膜温度:450℃
成膜圧力:50トール
エバポレータ内の気化温度:200℃
極低温トラップの温度:-120℃
回収されたドーター溶液の量:30ml
【0122】
2回の実験N1およびN2を、BEBCマザー溶液を用いて行なった。これらの実験の終了時、CVD反応器の排出口で回収されたガス状流出物画分の極低温トラップによって2回分のドーター溶液を回収する。
【0123】
第3の実験において、再利用マザー溶液を形成するために、回収されたこの2回分のドーター溶液を合わせる。この再利用マザー溶液を、第3の成膜作業N3を行なうためのプリカーサ源として使用した。
【0124】
N1およびN2では、成膜物の厚さは典型的には5μmである。N3の終了時では、およそ1.5μmの厚さを有する成膜物が得られる。N1およびN2について、BEBCの濃度を測定し、歩留りを計算した(表1参照)。
【0125】
【0126】
(実施例2)
実施例2:プリカーサの再利用を伴う金属クロムの成膜
金属クロムCr皮膜の成膜を以下の条件下で行なった:
噴射条件:
- インジェクタの開放時間:0.5ms
- 周波数:10Hz
反応体:BEBC(5g)
溶剤:トルエン(50ml)
添加剤:チオフェノールC6H5SH(添加剤/プリカーサのモル比=2%)
キャリアガス:N2(流速500sccm)
成膜の持続時間:1時間
反応器内の成膜温度:450℃
成膜圧力:50トール
エバポレータ内の気化温度:200℃
極低温トラップの温度:-100℃
回収されたドーター溶液の量:30ml
【0127】
60mlのドーター溶液を回収するために2回の実験が必要であった。同じ条件下で第3の成膜作業を行なうために、このようにして再利用したマザー溶液をCVD反応器内に再噴射した:およそ1μmの保護皮膜が得られる。
【0128】
(実施例3)
実施例3:溶剤の選択:トルエン
本発明による方法における溶剤としてトルエンを使用できるかどうかを試験するため、これが、該方法での吹き抜け温度範囲内およびDLI-MOCVDによる真の成膜条件と同等の流体力学的条件下で分解しないことを確認した。
【0129】
試験は、トルエンのみをCVD反応器内に噴射することによって行なった。石英スライドをサンプルホルダー上のCVD反応器のチャンバ内に置き、各成膜後、UV/可視透過率のスペクトルを記録した。500℃~800℃のいくつかの反応器温度で試験した。得られたスペクトルを
図1に示す。また、炭素成膜に供しなかった対照スライドのスペクトルも示す(ブランク)。
【0130】
500nmの波長における平均透過率を、いろいろな反応器温度に対してプロットした。600℃より上では、石英スライドが炭素薄膜の形成後に不透明になるため、平均透過率は低下する。トルエンがこの温度で分解し始めると考えることは正当であり、
図2に示されるように、750℃で目立ち、さらに800℃に向かってより顕著になる。
【0131】
結果として、トルエンは、温度が600℃を超えない成膜に適切な溶剤である。
【0132】
さらに、この結果により、ビス(アレーン)クロムプリカーサがベンゼン配位子の放出を伴って分解する場合、後者も、均一相において600℃より下では分解しないと考えることができる。
【0133】
(実施例4)
実施例4:プリカーサのアッセイ
使用した溶液のプリカーサ濃度を測定するための数多くの手法が存在しており、すべて、多かれ少なかれ信頼性があり、実施には問題がある。CVD成膜反応器内に最初に噴射されるマザー溶液のプリカーサ濃度は既知である。再利用ドーター溶液の濃度が測定される。
【0134】
このため、BBCおよびBEBCの濃度を、分光測光法によってモニタリングされるUV範囲の315nmにおける吸収バンドの変化によって測定する(Douard,A.,in Institut Carnot CIRIMAT.2006,INP Toulouse)。この吸収バンドは、プリカーサ分子のクロム-配位子間の結合(この結合は皮膜の成長機構の初期相で切断される)によってもたらされるM(4e2g)→L(5e2g)電荷移動遷移に対応する。
【0135】
その原則は以下のとおりである。濃度と吸光度に関するベール・ランベルトの法則は:
A=ε*C*l
であり、ここで
A:315nmにおける溶液の吸光度;
ε:プリカーサのモル吸光係数;
C:プリカーサ濃度;
l:セルの長さ。
【0136】
検量線を作成するため、BEBC溶液またはBBC溶液の既知濃度を吸光度の測定値に関連させる(
図3参照)。続いて、任意の溶液の濃度がUV/可視分光測光法によって測定され得る:測定された吸光度を、検量線を用いて濃度と直接関連させる。
【0137】
また、CVD反応器の極低温トラップの歩留りを利用することも可能である。小容量のドーター溶液を反応器の排出口において抜き取ることにより、必要であれば、続いて系内に再噴射するためにドーター溶液のプリカーサを富化させることを決定するために、濃度を測定することができる。また、ドーター溶液の吸光度は、光学セルをドーター溶液の回収のための回路内に組み込むことにより、インラインで測定することもできる:これは、非破壊的分析方法である。
【0138】
(実施例5)
実施例5:種々の基材上において得た皮膜
BBCまたはBEBCプリカーサの分解によるクロムカーバイドまたは金属クロムの成長を説明するための明確な基本的機構は提示されておらず、反応機構におけるトルエンの存在の影響も説明されていない。さらに、600℃より下の操作温度について入手可能なデータはほとんどない。
【0139】
本発明の方法では、所望の特性を示す保護膜および皮膜を成膜させることが可能であることが実験によって実証された。
【0140】
A)膜の特性は、噴射する溶液のプリカーサ濃度に依存しない。
パラメータにおける数多くの変動は、噴射する溶液のプリカーサ濃度の変動を引き起こし得、拡大解釈すると、反応器内に送られる反応性ガス相のものを引き起こし得る。本発明の方法によって成膜される膜は、それにもかかわらず遜色ない。したがって、以下のパラメータを試験した:
-使用するプリカーサ:BEBCの性質;
-キャリアガスの流速に対して噴射される溶液の割合が変更される噴射パラメータ:周波数1Hz~20Hz;開放時間0.5ms~5ms;
-プリカーサと溶剤の相対量:プリカーサ濃度1.0×10-2mol.l-1~5.0×10-1mol.l-1。
【0141】
新しいプリカーサベースの溶液および再利用プリカーサベースの溶液を噴射するという事実は膜の特性を変化させない(下記参照)。これは、Cr7C3に近い組成を有する非晶質クロムカーバイド型の得られる保護皮膜の組成が常に同様であるからである。また、形態構造も同等であり、典型的な微構造の均一な非晶質膜、完全緻密体で非常に平滑な保護層である。
【0142】
分光測光法による比色分析アッセイにより、再利用プリカーサベースのマザー溶液が新しいプリカーサベースのマザー溶液よりプリカーサ濃度がおよそ60%少ないことを測定することができたが、成膜される膜の品質に影響はなかった。
【0143】
さらに、このような特性がプリカーサ/溶剤比とは無関係であるという事実は、ちょうどトルエンの代わりにシクロヘキサンを用いたDLI-MOCVD成膜物(溶剤あり)のように、MOCVD成膜物(溶剤なし)も遜色ないことが示された先の結果と整合している。これは、溶剤がプリカーサの分解機構に関与していないという事実、およびこれ自体、該プロセス中に分解しないという事実と整合している。
【0144】
B)形態構造,微構造(SEM,粗さ)
新しいマザー溶液または再利用マザー溶液から得られた保護皮膜の微構造は、走査型電子顕微鏡検査(SEM)による観測時、あらゆる点で同様である。各皮膜は、
図4に示されるように、緻密、圧密で、サンプルの全表面領域において厚さが均一である。
【0145】
Si基材との境界面は明確である。さらに、平面図(
図5参照)において、これらは、大きな不均一性のない同じ非常に平滑な外観を有するが、少数の表面混入元素を有する。新しいプリカーサで得られる最大厚さは再利用プリカーサでのものより有意に大きく、これは、再利用溶液の濃度の方が低いためであった。大量のプリカーサが反応器内で消費されるため、極低温トラップを用いて回収されるのはごく少量部分である。
【0146】
C)組成(EDS、EPMA)
EDSスペクトルもまた遜色なく、新しいプリカーサまたは再利用プリカーサのどちらの場合も、わずかに酸素の混入が視認される。クロムおよび炭素のピークは
図6のスペクトルによって示されるように同一の強度を有する。
【0147】
電子プローブ微小分析(英語の頭文字“EPMA”で知られる)解析でみられる元素組成では、新しいプリカーサまたは再利用プリカーサを用いて調製したサンプル間に、なんら特に目立つ差異は示されない:
- BEBC - 500℃(非晶質):Cr0.65C0.32O0.03,Cr0.67C0.33およびC/Cr=0.49で標定
- BEBC - 450℃(非晶質):Cr0.64C0.33O0.03,Cr0.66C0.34およびC/Cr=0.52で標定
- 再利用BEBC - 450℃(非晶質):Cr0.64C0.30O0.05,Cr0.68C0.32およびC/Cr=0.48で標定
【0148】
念のため、C/Cr比は、Cr7C3では0.43、Cr3C2では0.66の値を有する。したがって、観察された平均的な組成はCr7C3に非常に近い。
【0149】
D)構造(XRD)
X線回折(XRD)による解析は、中心がおよそ2θ=42°である幅広のこぶによって証明されるように、皮膜が常に非晶質であることを示す。新しいプリカーサおよび再利用プリカーサから始めた成膜で得られたディフラクトグラムの例を
図7に示す。中心が2θ=69°あたりである幅広のこぶは、シリコン基材上のバリアとしての機能を果たす非晶質a-Si
3N
4 層に特徴的なものである。これは裸の基材上に存在し、その寄与は、成膜物が薄い場合(再利用プリカーサを含有しているマザー溶液の場合)の方が大きい。
【0150】
E)機械的特性:硬度(ナノインデンテーション)
バーコビッチ型(三角錐であって、垂線とこの三角錐の面のうちの1つの高さの角度が65.27°である)圧子を有するナノインデンテーションデバイスを準備する。測定は、10分の1ルール(rule of the tenth)に従って行なう:圧子は皮膜の厚さの10分の1未満で押し込む。測定サイクルは3工程で行なう:
- 最大負荷までの負荷の増大,30秒間で;
- 30秒間、最大負荷の維持;
- 30秒間、負荷解除.
【0151】
ナノインデンテーション測定は、新しいプリカーサ(厚さ3.5μm)および再利用プリカーサ(厚さ1μm)から始めて皮膜形成したサンプルにおいて行なった。測定および解析ソフトウェアによって行なわれる計算では、皮膜のポアソン比0.2を考慮する。硬度およびヤング率の測定値を表2に示す。
【0152】
再利用プリカーサから始めて成膜した皮膜でみられた値の方が、硬度は高いがヤング率に関しては低い。該値は、いずれの場合も、非常に硬質の皮膜で予測される値と整合しているままである。
【0153】
【0154】
(実施例6)
実施例6:DLI-MOCVDによる成膜のためのデバイス
本発明の方法の成膜工程a)およびb)の実施に適したものであり得るDLI-MOCVDによる成膜のためのデバイスは、例えば、その主な特性が文献国際公開第2008/009714号に記載されている。
【0155】
本発明の成膜方法の工程a)~d)による保護皮膜の成膜に使用され得るDLI-MOCVDデバイスは、主として、供給槽、エバポレータ、インジェクタ、CVD反応器および再利用の目的でドーター溶液を収集するためのユニットをデバイス内に備えているものである。このDLI-MOCVDデバイスを、
図8を参照しながら、より具体的に説明する。
【0156】
加圧供給槽1からインジェクタ2にマザー溶液が供給される。インジェクタ2は一般的に、市販のパルス化噴射系、例えばディーゼル自動車用インジェクタで構成される。
【0157】
インジェクタ2の開閉はコンピュータ制御され得、これにより、エバポレータ3内へのマザー溶液の噴射が可能になる。
【0158】
エバポレータ3は、一般的に縦型のCVD成膜チャンバ10の上部に同軸上に配置され、チャンバ内にエバポレータが出ている。
【0159】
キャリアガス供給ライン4が、インジェクタ2の排出口の隣のエバポレータ3内に出ている。キャリアガスの流れにより、気化したマザー溶液がエバポレータ3からCVD成膜チャンバ10に向かって噴流する。後者の供給口では、エバポレータ3の排出口において未気化の存在し得る液滴がバッフル8で止められ、均一に穿孔されたスクリーン9によりガス流が分配される。このスクリーン9によりCVD成膜チャンバ10内へのガス流の良好な分布が可能になり、これが、皮膜の良好な表面状態および得られる厚さの均一性に寄与する。
【0160】
スライドバルブ5によりエバポレータ3がCVD成膜チャンバ10の残部から隔てられ得る:したがって、スライドバルブ5の下方の画定された容積が厳密なCVD反応器を構成し、その内部にはサセプター13が見られ、この上面に被覆対象の基材が配置される。
【0161】
スライドバルブ5の上部のさらなるパイプ6により、反応性ガス、例えば炭素取込み阻害剤などの到達が可能になる。スライドバルブ5の上部のさらなるパイプ7により、パージサイクル中または洗浄サイクル中に、エバポレータ3が後者を吐出することが可能になる。さらなるパイプ6および7の接続がなされるカラー14が設けられ、また、CVD反応器の供給口のスライドバルブ5が、エバポレータ3に近い温度まで加熱される。
【0162】
CVD反応器内では、気化したマザー溶液から始めた保護層が基材上に成膜される。
【0163】
DLI-MOCVDによる成膜のこの反応の終了時、CVD成膜チャンバ10の排出口の排出パイプ12で、反応中に生成したガス状流出物画分が回収される。この画分には、未消費のビス(アレーン)型のプリカーサ、プリカーサの芳香族の副生成物および溶剤、実にさらには、適切な場合は炭素取込み阻害剤が含まれている。
【0164】
排出パイプ12が選択的凝縮ユニット14(例えば、極低温トラップなど)に出ており、該ユニット内で、ドーター溶液を生成させるためにガス状流出物画分の主な望ましくない化合物(特に、軽質炭化水素)が除去される。
【0165】
本発明の成膜方法が連続的に行なわれる場合、このようにして生成させたドーター溶液が、供給槽1内で再利用するためにパイプ15によって連続的に送出される。次いで、新たなマザー溶液が、本発明の成膜方法の新たなサイクルで使用する目的のために形成される。
【0166】
補助ポンプ11は、例えば新たな成膜の前に、DLI-MOCVDデバイス全体にパージするために使用され得る。