(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】膜構造の土砂留潜堤
(51)【国際特許分類】
E02B 3/06 20060101AFI20220111BHJP
【FI】
E02B3/06 301
(21)【出願番号】P 2019058119
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2021-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】318002770
【氏名又は名称】増田 裕弘
(74)【代理人】
【識別番号】100083633
【氏名又は名称】松岡 宏
(72)【発明者】
【氏名】増田 裕弘
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-319843(JP,A)
【文献】国際公開第03/016639(WO,A1)
【文献】特開2004-204609(JP,A)
【文献】特開2001-182031(JP,A)
【文献】実開昭47-012027(JP,U)
【文献】特開昭48-078755(JP,A)
【文献】特開昭46-000136(JP,A)
【文献】特開昭59-179920(JP,A)
【文献】特開平01-071912(JP,A)
【文献】特開昭61-078907(JP,A)
【文献】実開昭56-029450(JP,U)
【文献】特開昭63-247618(JP,A)
【文献】特開2012-180670(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底に投入配置され、内部に漂砂の進入や充填物の充填が可能な土砂留潜堤を形成するための膜構造の土砂留潜堤であって、
海水を通すが漂砂や前記充填物を通さない2枚の膜部材が海中で立設して対向する縦帯体(1)と、
前記縦帯体(1)の各上端に設けた浮体(2)と、
前記縦帯体(1)の各下端に設けた錘(3)と、
対向する前記縦帯体(1)の下端部間あるいは前記錘(3)間を連結する複数の間隔保持材(4)と、
対向する前記縦帯体(1)の上部間あるいは浮体(2)間を連結すると共に、前記漂砂や前記充填物が通過可能な上部連結体(5)と、
対向する前記縦帯体(1)の少なくとも片側の側端部間に設けた側帯体(6)と、
から少なくとも構成したことを特徴とする膜構造の土砂留潜堤。
【請求項2】
前記縦帯体(1)の下部間に設けた底帯体(7)を有する請求項1記載の膜構造の土砂留潜堤。
【請求項3】
前記上部連結体(5)の幅が前記間隔保持材(4)の長さの1/4~4/5である請求項1又は2に記載の膜構造の土砂留潜堤。
【請求項4】
前記上部連結体(5)が前記漂砂や前記充填物を通す網材である請求項1、2又は3に記載の膜構造の土砂留潜堤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に漂砂の進入や充填物を充填できると共に、波の作用で漂砂を貯留でき、自然に潜堤を形成させる膜構造の土砂留潜堤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、海岸における前浜の消失が著しく、その対策として、離岸堤、突堤、ヘッドランド、潜堤、人工リーフ等の施設整備に加え、養浜工を継続的に実施し、海浜の保全に努めてきた。
しかし、離岸堤、人工リーフ(潜堤)等といった従来の主流の構造物は、消波を主目的とすることから、沖合方向に移動する漂砂を直接貯留できる構造になっていない。
また、ヘッドランドや突堤などは、限定したエリアでの海浜の安定は図られるが、深海へと移動する漂砂を制御できていない。
【0003】
そして、従来の海浜土砂の流出防止技術として、例えば、特許文献1(特開2000-319843)では、フトン籠及び蛇籠等と称する詰石籠を多数積み重ねて設置する保安性の優れた海中構築物に関するもの、特許文献2(WO2003-016639―A1)では、海底地盤上に捨石基礎地盤を造成し、その捨石基礎地盤上に、消波ブロック等で構築される剛構造流砂防止海底ダムに関するもの、特許文献3(特開2004-204609)の膜構造潜堤、特許文献4(特開2001-182031)の膜等を立設する自立型潜堤フェンスといった柔構造な潜堤、特許文献5(実開昭47-12027)では、適宜間隔をおいて海中に並列させる多数本のロープの各中間部分を海表面近傍に浮上させるよう、それぞれ浮子を適宜間隔に結着し、そのロープの両側部分は緩やかな傾斜角度で下方を拡げて海底に向かいたれ下げ、各ロープの端末部分は鎖を介しておもい碇と連結し、これら多数本のロープ群によって海表面および海中に形成された上面、全面、後フィルム製網体をとりつけてなる波浪の静穏化装置等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-319843
【文献】WO2003-016639
【文献】特開2004-204609‐A1、
【文献】特開2001-182031
【文献】実開昭47-12027
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記特許文献の先行技術には、次のような問題点がある。
特許文献1、2の充填物を充填した篭やブロック等による海底ダム工法は、篭やブロックの製作、運搬、据付と、施工が複雑で、建設に工期と費用がかさみ、しかも、構造物の沈下や散乱、変状による機能低下が懸念され、高度な維持管理が求められる。
【0006】
また、特許文献3~5のフェンスや膜構造による潜堤工法は、施工が簡単で、建設費用も安価であるが、波や水流の激しい海中での安定性が懸念され、しかも、この技術は汚濁水の拡散防止あるいは消波が主な目的であり、沖合方向に移動する漂砂を直接貯留できる機能を有していない。
【0007】
すなわち、従来技術では、沖合へ移動する沿岸漂砂を制御できておらず、海浜土砂の流出防止の抜本的な解決に至っていない。
【0008】
本発明は、施工や維持管理が容易で、波浪や水流の激しい海底でも安定性が確保され、漂砂を直接貯留し、漂砂の沖合への移動を制御できる膜構造の土砂留潜堤を低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、海底に投入配置され、内部に漂砂の進入や充填物の充填が可能な膜構造の土砂留潜堤であって、
海水を通すが前記漂砂や前記充填物を通さない2枚の膜部材が海中で立設して対向する縦帯体(1)と、
前記縦帯体(1)の各上端に設けた浮体(2)と、
前記縦帯体(1)の各下端に設けた錘(3)と、
対向する前記縦帯体(1)の下端部間あるいは前記錘(3)間を連結する複数の間隔保持材(4)と、
対向する前記縦帯体(1)の上部間あるいは浮体(2)間を連結すると共に、前記漂砂や前記充填物が通過可能な上部連結体(5)と、
対向する前記縦帯体(1)の少なくとも片側の側端部間に設けた側帯体(6)と、
から少なくとも構成したことを特徴とする。
【0010】
前記縦帯体(1)の下部間に設けた底帯体(7)を有するのがよい。
【0011】
前記上部連結体(5)の幅が前記間隔保持材(4)の長さの1/4~4/5であるのがよい。
【0012】
前記上部連結体(5)が前記漂砂や前記充填物を通す網材であるのがよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、少なくとも、浮体(2)と錘(3)とで海底から立設する2枚が対向する縦帯体(1)と、この縦帯体(1)の側端部間に設けた側帯体(6)とで、海中でもって、上部開口の部屋状あるいは略袋状の膜構造体を構築でき、この膜構造の土砂留潜堤は漂砂を潜堤内外に直接貯留できる連続海底堤防を形成するため、深海への漂砂の移動が効率よく抑制され、前浜の消失を抑止できる。
【0014】
また、本発明の土砂留潜堤は、全体が主として膜構造であるから、定尺の土砂留潜堤を延長方向に順次連結して巻込み又は折畳んで、船上から漁網投入方式で投入すれば、海中に簡単に配置できる。
【0015】
海中に投入した土砂留潜堤は、上部連結体(5)の網目や開口部等から前記膜構造体の内部に全充填量の充填物(近隣の海底土砂等)を充填して膜構造の土砂留潜堤が完成でき、あるいは、土砂留潜堤内に充填物を充填する際に、全充填量の内の一部の充填物を充填して暫定的に土砂留潜堤を形成し、その後、波の作用により前記土砂留潜堤の内部に漂砂が侵入堆積して、自然に膜構造の土砂留潜堤が形成される利点がある。
この充填物の充填や漂砂の堆積により、土砂留潜堤の自重がより増大し、波等の外力による土砂留潜堤の滑動を抑制できる。
【0016】
また、本発明の土砂留潜堤は折畳みできるように、延長方向に柔軟性を有し、海底地形の変化に追従できると共に、漂砂を直接貯留して、堆積土砂で覆われるため、大規模な沈下や変状、損傷を受け難く、維持管理が容易である。
更に、養浜工を併用することで膜構造の土砂留潜堤の陸側に養浜材を捕捉し、養浜の効果を向上させ、浸食抑制海浜を創造することができる。
【0017】
更に、上部連結体(5)の幅が前記間隔保持材(4)の長さの1/4~4/5であるから、海中で土砂留潜堤が浮体(2)と錘(3)により、土砂留潜堤が波の作用で柔軟になびくように台形状に立設することで、水流の衝撃を抑え、漂砂を膜構造体内外に堆積させる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】本発明の縦帯体の実施形態を示す説明図である。
【
図4】本発明の浮体の実施形態を示す斜視図である。
【
図6】本発明の土砂留潜堤の波に対する作用を示す説明図である。
【
図7】本発明の土砂留潜堤の試験模型を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図を基に、本発明を実施するための形態について説明する。
(1)は、
図1及び
図2に示すように、海水を通すが漂砂や充填物を通さない2枚の膜部材が海中で立設して対向する横長な縦帯体(1)であり、この縦帯体(1)の膜部材は、海水を通すが漂砂や充填物を通さない網目シート状のものであり、その素材としては、水流に柔軟になびく重量(比重)、強度、耐久性を備えた樹脂形成布であり、例えばポリエステル織布で形成されるがこれ以外の樹脂形成布でもよい。
この縦帯体(1)の膜部材の網目は、海岸の漂砂や充填物の粒径によるが、例えば、粒径が2mmの場合15~20メッシュが目安である。
また、
図3に示すように、縦帯体(1)の膜部材の外周には、多数の連結穴(1b)を有する連結ベルト(1a)を装着するのがよく、この連結ベルト(1a)の連結穴(1b)に通した紐で、縦帯体(1)同士や縦帯体(1)と他の浮体(2)、錘(3)等を連結するのが好ましいが、紐に限定されず、縦帯体(1)の連結ベルト(1a)と他のものとの連結は、例えばファスナーでもよい。
この連結ベルト(1a)は縦帯体(1)の破れを防止し補強的な役目も成している。
【0020】
(2)は、
図4、
図5に示すように、縦帯体(1)の上端部のほぼ全長にわたって連なって設けた浮体であり、この浮体(2)は、発泡スチロール製やポリエチレン製などの樹脂製の浮子(2a)を、帯状の繊維ベルト(2b)に一定間隔で装着させているが、布や樹脂ケースで被覆した浮子(2a)自体を紐で多数連結させてもよい(図示せず)。
また、繊維ベルト(2b)の下部あるいは上部には、縦帯体(1)あるいは上部連結体(5)と連結するための連結穴(2c)を設けている。
この浮体(2)により、海中で縦帯体(1)を全長に亘って均等に立設させ、浮力を線状に均等に分散させることで波力に対する弱点箇所を作らないと共に、
離れた2枚の縦帯体(1)が縦方向に対向して立設し、上部の開口部から漂砂の進入や充填物の充填が可能となる。
また、浮体(2)は、浮子(2a)を連続した構造の浮体(2)であるため、延長方向に巻き込み又は折畳んで船上に収納が可能となり、運搬や船上からの投入時に作業が容易になる。
【0021】
(3)は、各縦帯体(1)の下端部に設けた錘であり、この錘(3)は、
図3に示すように、縦帯体(1)の下端部のほぼ全長に亘って設けられた鎖又は数珠繋ぎした金属製の錘が特に好ましく、これにより、錘(3)の荷重を均等に分散して縦帯体(1)の全長を海底に隙間なく定着できるようにしている。
また、錘(3)が鎖又は数珠繋ぎした金属製の錘にすることにより、浮体(2)と同様に、延長方向に折畳めて収納が可能となる。
尚、錘(3)として使用する鎖の具体例としては、太さ40mm程度、重さ30~40kg/m程度のリンクチェーンを縦帯体(1)の各下端に1本づつ使用すればよいが、施工場所によっては、重さや本数等はこの限りでない。
【0022】
(4)は、対向する縦帯体(1)の下端部間を連結する複数の間隔保持材であり、対向する縦帯体(1)の下端部間を、常時一定の離隔に確保し、縦帯体(1)の延長方向に適宜間隔で複数本を連結する。
また、間隔保持材(4)は、対向する縦帯体(1)の下端部の設けた錘(3)
間に設けてもよい。
この間隔保持材(4)は、平鋼又は丸鋼など棒鋼部材として、前記錘(3)と連結することで、錘(3)と一体化させて、土砂留潜堤を海底に均等に留まらせる錘の役割も兼ねることができる。
また、間隔保持材(4)は、長さが縦帯体(1)の縦幅の約1.5~3倍程度で、両端に折戻したフック構造をもつ、後付けタイプが良いが、これに限定されない。
鎖の錘(3)に連結する間隔保持材(4)としては、例えば、両端を折戻した丸鋼で太さ25mm、長さ2mとし、それを対向する両錘(3)にフック掛けし、鎖の錘(3)のほぼ全長にわたって約3~5mの間隔で点連結するのがよいが、間隔保持材(4)と錘(3)との連結方法は、錘(3)の種類によって溶接、紐等他の連結方法でもよい。
【0023】
(5)は、縦帯体(1)の上部間を連結すると共に、漂砂や充填物が通過可能な上部連結体であり、これは対向する縦帯体(1)の上端部を一定の間隔で連結して全長に亘って連なって設けられ、水流になびく両浮体(3)の離隔を確保しつつ動きに連動できる樹脂製軽量ネット又は細長な複数の膜帯材で、上部連結体(5)の全部又は一部に漂砂の進入や充填物の充填のための網目や開口部を有している。
上部連結体(5)が前記膜帯材では、縦帯体(1)の長手方向に一定間隔で複数連結し、その間隔が前記開口部を形成する。
【0024】
この上部連結体(5)は、その網目や開口部から潜堤内の一部又は全部に充填物を充填することで、台風来襲時や波浪や水流の激しい海底でも、膜構造の土砂留潜堤を早期に安定化させることができる。
しかも、上部連結体(5)は、土砂留潜堤を延長方向に折畳み等の収納ができ、縦帯体(1)間を連結するため、運搬や船上からの投入時に作業が容易となる。
【0025】
また、前記上部連結体(5)の開口部は、膜構造の縦帯体(1)内への漂砂の進入や前記充填物の充填を妨げないが、漂砂以外の浮遊物(海藻や塵等)の侵入や引掛かりを抑制できる網目構造が好ましく、水流になびく両浮体(1)の動きに連動できるポリエステル製、高強度プラスチック製などの樹脂製軽量ネットとすると良い。
【0026】
更に、上部連結体(5)の連結する長さは、間隔保持材(4)の長さの1/4~4/5程度、より好ましくは、3/4程度に短くすることで立設する両縦帯体(1)が上方に向かって内側に傾き、土砂留潜堤を台形状に立設することができ、これにより、水流や漂砂の移動する圧力を縦帯体(1)が直角に受けず斜面で受けるため、その衝撃力が軽減され土砂留潜堤の寿命を長く確保できる。
また、上部連結体(5)の長さが間隔保持材(4)の長さの1/4以下では、上部連結体(5)の幅が狭く、そこからの充填物や漂砂の侵入が悪く、4/5以上では、立設する両縦帯体(1)の傾きが小さく、水流や漂砂の移動に対する抵抗が大きく土砂留潜堤の流出や損傷を招く虞がある。
上部連結体(5)の一例として、1.5m幅の少なくとも延長方向には折畳み可能で、しかも、縦帯体(1)間方向に於いて、伸びが極めて少ない糸径3.0mm、網目50mmのポリエステル樹脂製ネット(重量0.58kg/m2、引張強度290N//m2)を使用するとよい。
尚、上部連結体(5)はネット状で伸びの少ない柔軟性のものでもよく、これは土砂留潜堤を台形状に立設した場合、立設する両縦帯体(1)が上方に向かって傾いた状態では、両縦帯体(1)には浮体(2)の浮力で垂直に戻す作用が働き、それに伴って、両縦帯体(1)の上部開口部は拡張し、上部連結体(5)には常時張力が作用し引っ張られた状態を保つからである。
【0027】
(6)は、縦帯体(1)と同様な膜部材で、対向する縦帯体(1)の少なくとも一方の端部側の側面を覆う側帯体であり、延長方向に連結される土砂留潜堤を側帯体(6)で個々の部屋に仕切ることで、土砂や貯留した充填物の移動や流出を抑制すると共に縦帯体(1)の損傷の拡大を防止でき、維持管理が軽減される。
尚、定尺の土砂留潜堤を延長方向に連結する際は、側帯体(6)がない側とある側を順次連結させる。
また、側帯体(6)が対向する縦帯体(1)の両側面に設けた土砂留潜堤の場合は、通常連結せずに定尺の土砂留潜堤が単独で使用される。
【0028】
(7)は、縦帯体(1)と同様な膜部材で、対向する縦帯体(1)の下端間を封鎖する底帯体であり、これと縦帯体(1)と側帯体(6)とで部屋状あるいは略溝形の袋状に形成することで充填物の流出を防止し貯留を容易にすると共に、充填材や標砂の堆積により自重を増大させ外力による土砂留潜堤の滑動を抑制する。
要するに、この底帯体(7)を有することで、土砂留潜堤が波に揺れたり移動しても、その内部に収容した充填物や漂砂を完全に貯留でき、波での流出を防止し土砂留潜堤の機能が維持される。
尚、底帯体(7)は縦帯体(1)と同等品が望まれるが流水の影響を受け難いので、これ以外の樹脂形成布でもよい。
【0029】
次に、土砂留潜堤の設置方法について説明する。
定尺の土砂留潜堤を延長方向に連結し、折畳み、船上から漁網投入方式で海底に投入配置した後、上部連結体(5)の網目や開口部から内部に全充填量の1/4~3/4程度の充填物を充填し、暫定的に土砂留潜堤を海底に設置させる。
その後、土砂留潜堤は波の作用により、内部に漂砂が侵入堆積して自然に形成されるので、施工費用を縮減できる。
この充填物の充填は、台風の来襲など早期に暫定的な土砂留潜堤の安定を図りたい場合にも有効であって、且つ、対象海岸の特徴や施工時期、施工費などを考慮して充填量を選択できる利点がある
充填物の充填方法としては、台船上に搭載したサンドポンプやエアーリフトで近隣の海底土砂等を吸引して充填する工法があるが、これに限らず充填物を他から船で運び充填してもよい。
【0030】
上記したように、本発明の土砂留潜堤は設置方法が極めて簡単であるから、厳しい波浪条件の海岸や大水深の海浜等で、早期に土砂留潜堤の安定又は土砂留効果の発現を図りたい場合に、有効な土砂留潜堤である。
また、漂砂移動が少なく波の作用による土砂留潜堤の自然形成が難しい場合であっても、内部に充填物を充填し、養浜工と併用することで、土砂留潜堤を形成できる。
【0031】
土砂留潜堤の海底設置においては、砕波帯以深の海底に配置すれば、干潮時でも土砂留潜堤の天端より上に、十分な水深を確保できるので、砕波や波浪の衝撃を抑えることができると共に、船舶の航行、海浜の利用、環境等に支障となり難い。
【0032】
また、砕波帯付近の海底に水深や方向を変えて配置すると、一つの砕波点が移動しつつ砕波が持続するサーフィンに適した海底棚を有する海岸や、複数の異なった水深の浅瀬を有する海水浴に適した遠浅の海岸などを創出できるため、海岸利用の利便性や有効性が向上する。
【0033】
土砂留潜堤の大水深での海底設置においては、砕波帯付近より沖合の大水深(例えば6m)の海底に連続又は分離して配置し、配置された土砂留潜堤の効果が発現され、海底地形が上昇した後に、その陸側(例えば5m)に次の土砂留潜堤を連続又は分離して配置し、土砂留潜堤を形成するとよい。
さらには、養浜工を併用し、土砂留潜堤の配置を繰り返すことにより、階段状に海底地形を上昇させ、大規模な砂州の造成や前浜の復元ができる。
【0034】
一方、土砂留潜堤の高さを低く抑えて台形状に立設すると、縦帯体(1)が柔軟になびくことで、波浪の衝撃を抑え、縦帯体(1)等の部材の疲労や損傷を軽減できる。よってその高さは、1m~1.5m程度とすると良い。
また、土砂留潜堤の高さを3m程度としないのは、高さ1m~1.5m程度の土砂留潜堤を形成し、その堆砂状況に応じて2段目、3段目と形成してゆく方が費用対効果にも優れ、一度に3mの高さの土砂留潜堤を形成するより、土砂溜潜堤に入る充填物の充填量も少量となり、経済性、安定性、作業性からも有利となるからである。
【0035】
ここで、上記土砂留潜堤が海底に配置された後、波の作用により土砂溜潜堤が
形成される原理について説明する。
海中での土砂留潜堤は、
図2に示す通り、高さを低く抑えた膜状の縦帯体(1)が対向して立設し、間隔保持材(4)、上部連結体(5)により連結された略台形形状が基本形状であるが、砕波帯付近の海底に配置された土砂留潜堤は、これを通過する沖波、引き波による水流に対し、両縦帯体(1)が柔軟になびくことにより、
図6に示すように、略三角形状に変形し、水流は、縦帯体(1)の上をスムーズに通過し、漂砂の一部は縦帯体(1)に衝突し、土砂留潜堤の内外に沈降堆積する。
【0036】
更に、沖波の流れと漂砂の流れにつき、
図6(a)を基に説明する。
土砂留潜堤を配置した砕波帯付近の海底では、砕波により巻き上げられた沿岸漂砂等が、波の往来と共に浮遊している。
図6(a)に示すように、波浪により沖合から陸側に打ち寄せられる漂砂の一部は、沖合からの水流(Ff)により沖側の縦帯体(1)に衝突し、その沖側の縦帯体(1)の外側下部に堆積物(S1)が堆積する。
また、残りの漂砂の一部は沖側の縦帯体(1)の上部を乗り越え、網目状の上部連結体(5)を通過し、陸側の縦帯体(1)の内面に衝突し、土砂留潜堤の本体内部に沈降し堆積物(S2)が堆積する。
【0037】
次に、引波の流れと漂砂の流れにつき、
図6(b)を基に説明する。
沖波と同様に、引波によって沖合に向かい運ばれる漂砂の一部は、陸側からの水流(Fr)により陸側の縦帯体(1)に衝突し、その陸側の縦帯体(1)の外側下部に堆積物(S3)が堆積する。
また、残りの漂砂の一部は、陸側の縦帯体(1)の上部を乗り越え、網目状の上部連結体(5)を通過し、沖側の縦帯体(1)の内面に衝突し、土砂留潜堤の本体内部に沈降し堆積物(S2)が堆積する。
上記のように、波の作用が繰り返され、潜堤内部及び潜堤外側に漂砂の堆積が繰り返されることで、土砂で満たされた膜構造の土砂留潜堤が自然に形成される。
【実施例】
【0038】
本発明の土砂留潜堤につき、
図7に示す模型(縮尺1/20)を使用し、海底勾配1/10の砂底を模した移動床水槽にて通常時と異常時を想定した波浪を発生させて試験を実施し、潜堤の有効性を検証した。
<試験基本条件>
模型の縮尺:1/20、
模型海浜勾配:1/10、
設置水深:30cm(想定水深6m)
<潜堤模型形状>
以下の2タイプ
底帯有型:h=5cm、a=7.5cm、b=10cm、L=100cm
(想定形状:h=1m、a=1.5m、b=2m、L=20m)
底帯無型:h=5cm、a=7.5cm、b=10cm、L=50cm
(想定形状:h=1m、a=1.5m、b=2m、L=10m)
<内部土砂充填率>
以下の3ケース
底帯有型潜堤(充填50%、75%)
底帯無型潜堤(充填75%)
<試験波高>
以下の4ケース
有義波高:5cm、10cm、15cm、17.5cm
(想定有義波高:1m、2m、3m、3.5m)
(想定最大波高:1.5m、3m、4.5m、5.3m)
【0039】
上記条件で、底帯有型潜堤と底帯無型潜堤で試験を実施し、その結果は、次の通りである。
<結果1>
水深30cm(想定6m)に設置した底帯無型潜堤(充填75%)は、有義波高10cm(想定2m)の波浪で、内部土砂がすべて流出し、設置個所に定着できない。尚、土砂無状態となった潜堤はで水深35cm(想定7m)の沖合位置に移動し定着した。
このことから、水深35cm(想定7m)程度以深の海底では、潜堤への波浪の影響は、非常に小さくなると推察される。
<結果2>
底帯有型潜堤(充填率50%、75%)は、全試験波浪である有義波高5~17.5cm(想定有義波高1~3.5m、最大波高1.5~5.3m)において、水深30cm(想定水深6m)の海底での安定は確保される。
と同時に、底帯有型潜堤(充填率50%、75%)の内部土砂は概ね100%に補足され、土砂流出は発生しない。
このことから、台風の接近に伴う波高の変化に同調して、内部土砂も捕捉されると推察されることから、当初の土砂充填率の軽減が期待される。
<結果3>
有義波高10cm(想定有義波高2m、最大波高3m)において、模型錘重量が、片側100g/m(想定40kg/m)あれば、延長1m(想定20m)の単体潜堤でも水深30cm(想定6m)の海底での安定性が確保される。
同様に、有義波高17.5cm(想定有義波高3.5m、最大波高5.3m)において、模型錘重量が、片側200g/m(想定80kg/m)あれば、延長1m(想定20m)の単体潜堤でも水深30cm(想定6m)の海底での安定性が確保される。
尚、土砂留潜堤は長手方向に連結することで、更に安定性の向上が見込まれるので錘重量の軽減が期待される。
<結果4>
全試験波浪である有義波高5~17.5cm(想定有義波高1~3.5m、最大波高1.5~5.3m)において、潜堤設置位置(想定水深6m)以浅には、砂れんが形成され、沖方向に土砂の移動が推察されるなか、模型土砂留潜堤の内部及びその陸側には、土砂が堆積し、丘が形成されるなど、潜堤による土砂の補足効果が確認された。
【符号の説明】
【0040】
1 縦帯体
2 浮体
3 錘
4 間隔保持材
5 上部連結体
6 側帯体
7 底帯体