(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】電子顕微鏡法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/28 20060101AFI20220128BHJP
G01N 1/42 20060101ALI20220128BHJP
H01J 37/20 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
G01N1/28 F
G01N1/28 N
G01N1/42
G01N1/28 W
H01J37/20 A
(21)【出願番号】P 2019503570
(86)(22)【出願日】2017-07-28
(86)【国際出願番号】 EP2017069240
(87)【国際公開番号】W WO2018020036
(87)【国際公開日】2018-02-01
【審査請求日】2020-07-22
(32)【優先日】2016-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】518160355
【氏名又は名称】ユナイテッド キングダム リサーチ アンド イノベーション
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100113860
【氏名又は名称】松橋 泰典
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】レイマース メインデルト ヒューゴ
(72)【発明者】
【氏名】フェルナンデス-レイロ ラファエル
(72)【発明者】
【氏名】ファーマン ヨシュア
【審査官】瓦井 秀憲
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-068832(JP,A)
【文献】特開2014-056785(JP,A)
【文献】特開2007-163447(JP,A)
【文献】特開2008-267889(JP,A)
【文献】国際公開第2010/004275(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00- 1/44
H01J 37/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子顕微鏡法試料支持体を受け取るように構成された支持体ホルダであって、前記電子顕微鏡法試料支持体が流体試料を受け取るように構成される、前記支持体ホルダと、
前記電子顕微鏡法試料支持体により支持された余剰な流体試料を除去することにより前記流体試料を調節するように、ガスの流れが動作可能であるように選択された入射角度で、前記電子顕微鏡法試料支持体の表面に向かって
前記ガスの流れを送るように構成されたガス出口と
を備える、電子顕微鏡法試料調製装置。
【請求項2】
前記ガスの流れが表面に対し
て平行になるように、前記ガスの流れが前記表面に向かって送られ得るようにガス出口が構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
ガス流が、
前記表面に向かう
前記ガスの流れに対して調節可能な入射角度を有するように可動であるようにガス出口が構成される、請求項1
又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記電子顕微鏡法試料支持体により支持された
前記流体
試料を調節することが、前記電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体
試料の不均一な蒸発を引き起こすことにより、前記試料支持体中にわたる流体
試料厚さ勾配を実現すること
、
前記電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体試料の均一な蒸発を引き起こすことにより、前記試料支持体中にわたり均一な流体試料厚さを実現すること;及び
前記電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体試料を冷却することにより、前記試料支持体上の前記流体試料をガラス化することの、1又は2以上をさらに含む、請求項1~3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
前記電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体
試料を調節するために、前記電子顕微鏡法試料支持体の両表面に向かっ
て対称的に
前記ガスの流れを送るように構成された
少なくとも1つのガス出口を備える、請求項1~
4のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
試料支持体へと
前記流体試料を導入するように構成された流体源を備える、請求項1~
5のいずれかに記載の装置。
【請求項7】
試料支持体への流体
試料の導入とガス出口からのガス流の作動との間の待機期間を実装するように構成されたタイミングユニットを備える、請求項1~
6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
ガス出口からのガス流の作動と停止との間の作動期間を実装するように構成されたタイミングユニットを備える、請求項1~
7のいずれかに記載の装置。
【請求項9】
ガス出口からのガス流の停止と試料ホルダ内に保持された試料支持体に対してなされるさらなる動作との間の弛緩期間を実装するように構成されたタイミングユニットを備える、請求項1~
8のいずれかに記載の装置。
【請求項10】
タイミングユニットが、待機期間、作動期間、又は弛緩期間の中の1又は2以上を調節するように構成可能である、請求項
7~
9のいずれかに記載の装置。
【請求項11】
ガス出口が、
前記試料支持体上に受け取られた
前記流体試料を分割するために
前記ガスの流れを送るように構成される、請求項1~
10のいずれかに記載の装置。
【請求項12】
ガス出口が、
前記試料支持体上に受け取られた
前記流体試料を前記試料支持体上に保持された前記流体試料の保持部分と前記試料支持体から除去された前記流体試料の除去部分とに分割するためにガス流を送るように構成される、請求項1~
11のいずれかに記載の装置。
【請求項13】
前記試料支持体上に
前記流体試料を供給するように動作可能である流体試料供給器を備え
、かつ、処理期間内に前記流体試料を供給し、前記流体試料を分割し、保持部分をガラス化するために、前記流体試料供給器、ガス出口、及び冷却デバイスを制御するように動作可能である制御ユニットを備える、請求項1~12のいずれかに記載の装置。
【請求項14】
処理期間が、保持部分中に選択された割合を上回る検体が存在することにより解離及び整列配向への再配向の少なくとも一方が生じてしまうことを防止するための期間を含む、請求項
13に記載の装置。
【請求項15】
電子顕微鏡法試料調製
物を調製する方法であって、
支持体ホルダ中に電子顕微鏡法試料支持体を挿入するステップと、
前記電子顕微鏡法試料支持体に流体試料を供給するステップと、
前記電子顕微鏡法試料支持体により支持された
余剰な流体試料を除去することにより前記流体試料を調節するように、ガスの流れが動作可能であるように選択された入射角度で、前記電子顕微鏡法試料支持体の表面に向かって
前記ガスの流れを送るステップと
を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡法試料調製装置と、電子顕微鏡法試料を調製する方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
顕微鏡法技術は、検体を撮像するために利用され得る。顕微鏡法技術には電子顕微鏡法が含まれる。かかる技術によれば、電子ビームが検体を「照明」するために利用される。電子ビーム中に検体が存在することにより、結果としてこのビームに変化が生じる。検体の拡大画像を生成するために、試料により誘発されたビームのこの変化が調査され得る。
【0003】
正常な撮像をするためには、検体が撮像用に十分に調製されなければならない。試料又は検体の正常且つ再現可能な調製が、顕微鏡法技術から有用な結果を得るために非常に重要な点となり得る。検査用検体の不正確又は不調な調製が、結果として検体に対する損傷、結果の不良、及び/又は結果の再現不能性をもたらし得ることが理解されよう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既知の調製技術の特徴の一部に対処し得る、顕微鏡法試料の調製において使用するための装置及び方法を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の態様は、電子顕微鏡法試料調製装置を提供する。この装置は、電子顕微鏡法試料支持体を受け取るように構成された支持体ホルダであって、電子顕微鏡法試料支持体が流体試料を受け取るように構成される、支持体ホルダと、電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体を調節するために電子顕微鏡法試料支持体の表面に向かってガス流を送るように構成されたガス出口とを備える。
【0006】
説明される装置及び方法は、様々な顕微鏡法試料調製方法との関連において有用となり得るが、電子顕微鏡法、特に、透過型電子顕微鏡が極低温での検体の調査のために使用される、低温電子顕微鏡法又はcryo-EMとしても知られる低温顕微鏡法との関連において特に関連性を有し得る。電子低温顕微鏡法は、ガラス化された水和生物検体の調査において特に有用であり得る。再現可能且つ信頼性の高い調製技術の重要性は、低温電子顕微鏡法のユーザにとって特に重要なものとなり得る。なぜならば、試料は、電子顕微鏡を使用する予定枠の数週間前に調製される場合があり、調製された試料が使用可能ではないときには、さらなる試料(これもまた使用可能ではない場合がある)の調製と電子顕微鏡を使用するためのさらなる予定枠待ちとによって時間のロスになり得るからである。
【0007】
第1の態様は、電子顕微鏡法試料調製装置を提供し得る。この電子顕微鏡法試料調製装置は、低温電子顕微鏡法試料調製装置を備えてもよい。前記装置は、独立型装置を備えてもよく、又はより大きな調製機の一部を形成してもよい。
【0008】
第1の態様の装置は、電子顕微鏡法試料支持体を受け取るように構成された支持体ホルダを備え得る。電子顕微鏡法試料支持体は、流体試料を受け取るように構成され得る。流体試料は、生物検体を含む溶液を含んでもよい。試料支持体は、電子顕微鏡法試料支持体グリッドを備え得る。
【0009】
この装置は、電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体を調節するために電子顕微鏡法試料支持体の表面に向かってガス流を送るように構成されたガス出口を備え得る。このガスは、圧縮空気、窒素、又は流体内の検体と有害な相互作用を行わない別の同様の不活性ガスを含んでもよい。いくつかの実施形態では、ガス出口の構成は、結果的に得られる送り可能なガス流の所望の特性に応じて選択され得る。いくつかの実施形態では、ガス流量が調節可能であってもよく、ガス流は適宜開始及び停止されてもよい。いくつかの実施形態では、ガス流量は、ガス流の最中に、換言すればガスが出口から流れている間に調節され得る。ガス流は、実質的に層流状であってもよい。出口は、試料支持体が試料支持体ホルダ内において定位置に位置するときに、結果的に得られるガス流が試料支持体の幅中にわたり実質的に均一になるように配置又は構成され得る。
【0010】
第1の態様は、試料支持体上に配置された流体試料を調節するためのガス流の使用により、再現可能な試料調製が可能となり得ることを認識している。さらに、試料支持体上に配置された流体試料を調節するためのガス流の使用により、ガス流のパラメータの微調節、及びしたがって試料支持体上に供給された試料の様々な特性の微調節が可能となり得る。
【0011】
いくつかの実施形態では、ガス出口は、ガスの流れが表面に対して実質的に平行になるようにガスの流れが表面に向かって送られ得るように構成される。いくつかの実施形態では、ガス出口は、ガスの流れが電子顕微鏡法試料支持体上に受け取られた余剰な流体試料を除去するように動作可能になるように選択された入射角度でガスの流れが表面に向かって送られ得るように構成される。ガス流が、試料支持体から余剰流体を「押す」ように動作し得ることが理解されよう。試料支持体上の余剰流体は、効果的に撮像するには厚すぎる試料を結果としてもたらし得る。
【0012】
支持体表面に対して実質的に平行であるガス流が、支持体表面中にわたる流体内に勾配を形成するように動作し得る。いくつかの実施形態では、ガス出口は、ガスの流れが支持体表面中にわたる流体内に勾配を形成するように動作可能になるように選択された入射角度にて表面に向かって送られ得るように構成される。勾配の形成により、支持体表面中にわたる何らかの箇所において電子顕微鏡法撮像にとって最適な流体厚さが生じることが可能となり得る。その最適な厚さは、支持体表面中にわたる複数の位置において生じてもよい。支持体が、例えばグリッドである場合には、その最適な厚さは、支持体試料表面上において生じる複数のグリッド正方形状部において生じ得る。最適な厚さは、電子顕微鏡法により撮像されることとなる、及び試料支持体上に配置された流体内に懸濁される検体により決定され得る。
【0013】
いくつかの実施形態では、ガス出口は、ガスの流れが表面に対して実質的に垂直になるようなガスの流れを結果的にもたらす表面に向かって送られ得るように構成される。いくつかの実施形態では、ガス出口は、結果的に得られるガスの流れが、ガスの流れの断面が電子顕微鏡法試料支持体表面の表面エリア中にわたって実質的に均一に通過するように構成されるように選択された入射角度にて表面に向かって送られるように構成される。かかるガス流は、試料支持体の表面エリア全体に均一な蒸発が生じることを結果としてもたらし得る。いくつかの実施形態では、ガス流の方向が試料支持体表面に対して実質的に垂直である場合に、試料支持体中にわたる流体勾配の形成を回避させ、後の撮像のためにより均一な試料を実現することが可能となり得ることが認識される。
【0014】
またいくつかの実施形態では、実質的に垂直なガス流が、例えば試料支持体中にわたり試料流体の「液滴」を広げるために使用され得る。いくつかの実施形態では、ガス出口は、ガスの流れが試料支持体中にわたり試料流体の「液滴」を広げるように動作可能になるように選択された入射角度にて表面に向かって送られ得るように構成される。
【0015】
適切に選択された入射角度、断面積、及び/又は流量を有する適切に選択された垂直、平行、及び/又は横方向のガス流が、適切なガスと共に試料の調製に関する様々な動作を実装するために使用され得る点が理解されよう。特に、ガス流が、試料支持体上に用意された流体を調節するために使用され得る。その調節は、余剰流体の除去、流体を広げること、試料支持体からの流体の蒸発、試料流体の冷却、及び/又は試料流体のガラス化の中の1又は2以上を含み得る。いくつかの実施形態では、同一のガス流が、2又は3以上の動作又は調節を行うために使用され得る。いくつかの実施形態では、ガス流の1又は2以上の物理的特性が、様々な動作を達成するために変更され得る。例えば、ガス流の流量、ガス、湿度、温度、入射角度、及び/又は同様の特性が、適切に変更されてもよい。
【0016】
いくつかの実施形態では、ガス流が、試料支持体上の流体試料を冷却、極低温冷却、又はガラス化するために使用され得る。いくつかの実施形態では、極低温冷却は、約-175℃にまで流体試料及び試料支持体を冷却することを含み得る。その冷却又はガラス化は、ガス流の「フローフロント」が試料支持体表面に一様に且つ均一に衝突するように構成される場合には、試料支持体中にわたり均一な冷却、極低温冷却、又はガラス化が達成されるように構成され得る。この文脈における「均一な冷却」とは、冷却プロセスが、支持体上の流体エリア同士の間においてガス流の適用により重大な温度差がまったく誘発されないようなものとなり得ることを意味する。温度差は、支持体上の流体試料に対する物理的不利益を結果的にもたらし、後の電子顕微鏡法撮像に問題を生じさせる恐れがある。
【0017】
いくつかの実施形態では、ガス出口は、ガス流が表面に向かうガスの流れに対して調節可能な入射角度を有するように可動となるように構成され得る。したがって、いくつかの装置構成が、固定位置ガス出口を備えてもよく、他の構成が、可動ガス出口が可能となるように設計されてもよい。可動である場合には、試料支持体表面との間のガス流の入射角度は、調節可能であってもよい。いくつかの実施形態では、ガス流の入射角度は、試料支持体へのガス流の適用中に調節可能であり得る。いくつかの実施形態では、1つの入射角度が、余剰流体の除去及び試料支持体からの試料流体の蒸発を実施するために利用されてもよい。換言すれば、同一のガス流入射角度が、両動作を実施するために利用され得る。ガス流の他の物理的特性が、調節されても又は同一のままに留まってもよい。いくつかの実施形態では、1つの入射角度が、余剰流体の除去を実施するために利用されてもよく、別の入射角度が、試料支持体上の流体の蒸発を実現するために利用されてもよい。いくつかの実施形態では、ガス流の入射角度は、試料支持体へのガス流の適用同士の間で調節可能であってもよい。
【0018】
先述したように、様々な実施形態によれば、ガス流は、試料支持体上に配置された流体のある範囲の調節を実現するために使用され得る。いくつかの実施形態では、この実現される調節は、ガス流の性質により決定され得る。例えば、ガス流の適用方向、ガス流の断面積、ガス流に使用されるガス、ガス流の湿度、ガス流の温度、並びにガス流の他の同様の物理的特性及び特徴など。ガス流の特性は、ガス出口の構成により決定されてもよい。ガス出口は、特定の物理的特徴を有するガス流を形成するように形状設定されたノズルを備え得る。いくつかの実施形態では、電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体を調節することは、電子顕微鏡法試料支持体により支持された余剰流体を除去することを含む。いくつかの実施形態では、電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体を調節することは、電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体の不均一な蒸発を引き起こすことにより、試料支持体中にわたる流体厚さ勾配を実現することを含む。いくつかの実施形態では、電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体を調節することは、電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体の均一な蒸発を引き起こすことにより、試料支持体中にわたり均一な流体厚さを実現することを含む。いくつかの実施形態では、電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体を調節することは、電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体を冷却させることを含む。いくつかの実施形態では、電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体を調節することは、電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体を極低温冷却させることを含む。いくつかの実施形態では、電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体を調節することは、電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体をガラス化することを含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、装置は、電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体を調節するために電子顕微鏡法試料支持体の両表面に向かって実質的に対称的にガスの流れを送るように構成された単一のガス出口を備える。かかる構成により、試料支持体に対するガス流の適用時に試料支持体が撓まされない又は他の様式で物理的に損傷を被らないことが確保され得る。いくつかの実施形態では、単一のガス出口が、試料支持体の一方の表面のみに向かって送られるガス流を形成し、試料支持体の一方の側面又は表面のみから試料支持体上の流体を調節するために利用され得る。
【0020】
いくつかの実施形態では、装置は、電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体を調節するために電子顕微鏡法試料支持体の両表面に向かって実質的に対称的にガス流を送るように構成された少なくとも1つのガス出口を備える。いくつかの実施形態では、装置は、電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体を調節するために電子顕微鏡法試料支持体の両表面に向かって実質的に対称的に及び同時にガス流を送るように構成された少なくとも2つのガス出口を備える。いくつかの実施形態では、装置は、電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体を調節するために電子顕微鏡法試料支持体の両表面に向かって実質的に対称的に及び同時にガスの流れを送るように構成された2つのガス出口を備える。
【0021】
上述のような様々な対称的構成は、試料支持体に対するガス流の適用時に試料支持体が撓まされない又は他の様式で物理的に損傷を被らないことを確保するのを助け得る。
【0022】
いくつかの実施形態では、装置は、ガス流の湿度を調節するように構成されたガス湿度調節器を備える。したがって、ガス流の湿度は、試料支持体により支持された流体に対してガス流により誘発される蒸発率に対する影響を有し得る。いくつかの実施形態では、装置は、ガス流の温度を制御又は調節するように構成されたガス流温度調整デバイスを備え得る。いくつかの実施形態では、装置は、ハウジングをさらに備えてもよい。前記ハウジング内の温度は、試料支持体からの流体の蒸発を制御するためにモニタリング及び制御され得る。
【0023】
いくつかの実施形態では、装置は、試料支持体へ流体試料を導入するように構成された流体源を備える。いくつかの実施形態では、流体が、装置試料支持体ホルダ内に保持された試料支持体上に手動により導入され得る。他の実施形態では、装置試料支持体ホルダ内に保持された試料支持体上に流体を導入するように動作可能となるように構成された、例えばロボットディスペンサアームなどのディスペンサが設けられ得る。流体ディスペンサを設けることにより、電子顕微鏡法試料調製のより完全な自動化が可能となり得、より再現性の高い電子顕微鏡法試料が、及び/又はより少量の試料流体の使用がもたらされ得る。検体が限定され得る場合には、電子顕微鏡法試料の調製時により少量の試料流体を使用することが有利となり得る。
【0024】
いくつかの実施形態では、装置は、冷却デバイス、極低温冷却デバイス、及び/又はガラス化デバイスを備える。そのデバイスは、試料支持体上の試料流体を冷却、極低温冷却、及び/又はガラス化するように構成され得る。デバイスは、試料支持体及び試料流体を受け取り、試料支持体上の流体を冷却、極低温冷却、及び/又はガラス化するように構成され得る。したがって、装置は、最終撮像の前に試料支持体が保管される前に試料流体をガラス化するための手段を備えてもよい。いくつかの実施形態では、冷却デバイスは、試料支持体を受け取るように構成された液体エタン槽を備える。いくつかの実施形態では、冷却デバイスは、電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体を冷却、極低温冷却、及び/又はガラス化するために、電子顕微鏡法試料支持体の表面に向かって冷却ガスの流れ、極低温冷却ガスの流れ、又はガラス化ガスの流れを送るように構成されたガス出口を備える。したがって、例えば、液体窒素又は同様のものが、冷却窒素ガス流を生成するために使用されてもよい。いくつかの実施形態では、ガス出口及び冷却ガス出口は、同一のガス出口を備える。したがって、ガス源は、試料支持体上の流体の位置を調節するためのガス流の形成と、試料支持体上の流体を冷却又はガラス化するためのガス流の形成との間において変更されてもよい。
【0025】
いくつかの実施形態では、装置は、試料支持体への流体の導入とガス出口からのガス流の作動との間の待機期間を実装するように構成されたタイミングユニットを備える。したがって、実装される待機時間により、流体液滴が試料支持体を「湿らせる」ことが可能となり得る。
【0026】
いくつかの実施形態では、装置は、出口からのガス流の作動と停止との間の作動期間を実装するように構成されたタイミングユニットを備える。したがって、余剰試料除去により及び/又は試料支持体からの流体の蒸発により除去される流体量が、ガス流に対する試料支持体上の流体の曝露時間(作動期間)の調節により調節され得る。
【0027】
いくつかの実施形態では、装置は、出口からのガス流の停止と、試料ホルダ内に保持された試料支持体上に配置された試料流体に関して実施される例えば冷却、極低温冷却、又はガラス化などのさらなる動作との間の弛緩期間を実装するように構成されたタイミングユニットを備える。したがって、試料支持体上に支持された試料流体の均一性は、さらなる動作が実施される前に、試料支持体上においてより長い又はより短い期間にわたり流体試料が弛緩することを可能にするように弛緩期間を調節することによって調節され得る。
【0028】
いくつかの実施形態では、タイミングユニットは、待機期間、作動期間、又は弛緩期間の中の1又は2以上を調節するように構成可能である。したがって、試料支持体上の試料流体及び結果として得られる電子顕微鏡法試料の特性が制御され得る。
【0029】
いくつかの実施形態では、装置は、試料ホルダの電子顕微鏡法試料支持体を撮像するように構成された撮像装置を備える。その撮像装置は、視覚的リアルタイム撮像装置を備えてもよい。かかる撮像装置を設けることにより、試料調製プロセスをリアルタイムでモニタリング及び調節することが可能となり得る。
【0030】
一実施形態では、流体試料は、流体中に懸濁した複数の検体を含む。したがって、流体試料は、例えば流体中に懸濁した若しくは流体に含まれた1又は2以上の巨大分子などの、1又は2以上の個別の検体又は試料を有し得る。
【0031】
一実施形態では、複数の検体が、流体内においてある単位体積当たり検体濃度を有する。したがって、検体は、ある特定の濃度又は密度にて流体内に供給されてもよい。例えば、ある特定個数の検体が、流体の単位当たり体積に供給されてもよい。
【0032】
一実施形態では、検体濃度は、試料支持体の各撮像開口内に選択された個数の検体を提供する。したがって、流体内の検体の密度又は濃度は、試料支持体上の各開口内にてある個数の検体を与えるように選択されてもよい。例えば、密度は、各撮像開口内に4以下の検体を供給するように選択されてもよい。
【0033】
一実施形態では、ガス出口は、試料支持体上に受け取られた流体試料を分割するためにガスの流れを送るように構成される。したがって、ガス出口からのガスの流れは、試料支持体上の試料を分割、区分、分離、仕分け、又は配分し得る。
【0034】
一実施形態では、ガス出口は、試料支持体上に受け取られた流体試料を試料支持体上に保持された流体試料の保持部分と試料支持体から除去された流体試料の除去部分とに分割するためにガスの流れを送るように構成される。したがって、ガスの流れは、保持部分及び除去部分へと流体試料を分割、区分、配分、仕分け、又は分離し得る。保持部分は試料支持体上に保持される一方で、除去部分は試料支持体から切り離され得る。
【0035】
一実施形態では、ガス出口は、保持部分が検体濃度を有する状態において試料支持体上に受け取られた流体試料を分割するようにガスの流れを送るように構成される。したがって、保持部分は、同一の検体濃度又は検体密度を保持し得る。換言すれば、検体濃度又は検体密度は、除去部分の除去中に上昇し得ない。
【0036】
一実施形態では、除去部分は検体を含む。したがって、除去部分は、検体及び流体を含み得る。
【0037】
一実施形態では、除去部分は検体濃度を有する。したがって、除去部分はまた、元の流体試料と同一の検体濃度を維持し得る。
【0038】
一実施形態では、装置は、試料支持体上に流体試料を供給するように動作可能である流体試料供給器を備える。したがって、機構が、試料支持体上に流体試料を供給又は提供するために設けられ得る。
【0039】
一実施形態では、装置は、処理期間内に流体試料を供給し、流体試料を分割し、保持部分をガラス化するために、流体試料供給器、ガス出口、及び冷却デバイスを制御するように動作可能である制御ユニットを備える。したがって、制御ユニットは、試料の供給、試料の分割、及び保持部分のガラス化の全てが選択された処理期間内に行われるように、これらの全てを制御し得る。
【0040】
一実施形態では、処理期間は、保持部分中に選択された又は有意な割合を上回る検体が存在することにより解離及び整列配向への再配向の少なくとも一方が生じてしまうことを防止するための期間を含む。したがって、流体試料の供給からそのガラス化までの期間は、選択された検体量の解離が生じ得る時間未満内において行われるように選択され得る。同様に、期間は、試料支持体上に供給された場合に、選択された検体量が再配向され得る時間未満以内となるように選択され得る。これは、検体が完全状態に留まることと、流体内における検体のほぼランダムな配向が保持されることとを確保するのを助ける。
【0041】
一実施形態では、期間は、流体の蒸発を最小限に抑える。したがって、期間は、流体の蒸発が最小限に抑えられるか又は実質的に解消されるようなものであり得る。
【0042】
一実施形態では、期間は約1秒未満である。
【0043】
一実施形態では、期間は約100ミリ秒未満である。
【0044】
一実施形態では、期間は、試料供給期間、分割期間、及びガラス化期間を含む。
【0045】
一実施形態では、試料供給期間は、約10ミリ秒~約30ミリ秒の間である。
【0046】
一実施形態では、分割期間は、約10ミリ秒~約20ミリ秒の間である。
【0047】
一実施形態では、期間は約50ミリ秒未満である。
【0048】
第2の態様が、電子顕微鏡法試料調製を調製する方法を提供する。この方法は、支持体ホルダ中に電子顕微鏡法試料支持体を挿入するステップと、電子顕微鏡法試料支持体に流体試料を供給するステップと、電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体を調節するためにガス出口から電子顕微鏡法試料支持体の表面に向かってガスの流れを送るステップとを含む。
【0049】
いくつかの実施形態では、この方法は、ガスの流れが表面に対して実質的に平行になるように表面に向かってガスの流れを送るステップを含む。
【0050】
いくつかの実施形態では、この方法は、ガスの流れが電子顕微鏡法試料支持体上に受け取られた余剰な流体試料を除去するように動作可能となるように選択された入射角度にて表面に向かってガスの流れを送るステップを含む。
【0051】
いくつかの実施形態では、この方法は、ガスの流れが表面に対して実質的に垂直になるように表面に向かってガスの流れを送るステップを含む。
【0052】
いくつかの実施形態では、この方法は、ガスの流れが電子顕微鏡法試料支持体表面に均一に衝突するように構成されるように選択された入射角度にて表面に向かってガスの流れを送るステップを含む。
【0053】
いくつかの実施形態では、この方法は、表面に向かうガスの流れに関して入射角度を調節するためにガス出口を調節するステップを含む。
【0054】
いくつかの実施形態では、電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体を調節するステップは、電子顕微鏡法試料支持体により支持された余剰流体を除去するステップを含む。
【0055】
いくつかの実施形態では、電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体を調節するステップは、電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体の不均一な蒸発を引き起こすことにより、試料支持体中にわたる流体厚さ勾配を実現するステップを含む。
【0056】
いくつかの実施形態では、電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体を調節するステップは、電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体の均一な蒸発を引き起こすことにより、試料支持体中にわたり均一な流体厚さを実現するステップを含む。
【0057】
いくつかの実施形態では、電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体を調節するステップは、電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体の冷却を引き起こすことにより、試料支持体上の流体をガラス化するステップを含む。
【0058】
いくつかの実施形態では、方法は、電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体を調節するために、電子顕微鏡法試料支持体の両表面に向かって実質的に対称的にガスの流れを送るために単一のガス出口を構成するステップを含む。
【0059】
いくつかの実施形態では、方法は、電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体を調節するために電子顕微鏡法試料支持体の両表面に向かって実質的に対称的にガスの流れを送るように少なくとも1つのガス出口を構成するステップを含む。
【0060】
いくつかの実施形態では、方法は、ガス流の湿度を調節するようにガス湿度調節器を構成するステップを含む。
【0061】
いくつかの実施形態では、流体を供給するステップは、試料支持体に流体試料を導入するように流体源を構成するステップを含む。
【0062】
いくつかの実施形態では、方法は、試料支持体及び流体を受け取るように冷却デバイスを構成するステップと、試料支持体上の流体を冷却、極低温冷却、及び/又はガラス化するステップとを含む。
【0063】
いくつかの実施形態では、方法は、試料支持体を受け取り、試料支持体上の流体を冷却、極低温冷却、及び/又はガラス化するように液体エタン槽を構成するステップを含む。
【0064】
いくつかの実施形態では、方法は、冷却ガス出口を設けるステップと、電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体を冷却、極低温冷却、及び/又はガラス化するために電子顕微鏡法試料支持体の表面に向かって冷却ガスの流れを送るように冷却ガス出口を構成するステップとを含む。
【0065】
いくつかの実施形態では、方法は、試料支持体に流体を導入することとガス出口からのガス流を作動させることとの間に待機期間を実装するステップを含む。
【0066】
いくつかの実施形態では、方法は、出口からのガス流を作動させることと停止させることとの間に作動期間を実装するステップを含む。
【0067】
いくつかの実施形態では、方法は、出口からのガス流を止めることと試料ホルダ内に保持された試料支持体に関して実施されるさらなる動作との間に弛緩期間を実装するステップを含む。
【0068】
いくつかの実施形態では、方法は、待機期間、作動期間、又は弛緩期間の中の1又は2以上を調節するステップを含む。
【0069】
いくつかの実施形態では、方法は、試料ホルダ内の電子顕微鏡法試料支持体を撮像するステップを含む。
【0070】
一実施形態では、方法は、流体中に懸濁された複数の検体を流体試料に供給するステップを含む。
【0071】
一実施形態では、方法は、ある単位体積当たり検体濃度で流体内に複数の検体を供給するステップを含む。
【0072】
一実施形態では、方法は、試料支持体の各撮像開口内に選択された個数の検体を供給するように検体濃度を選択するステップを含む。
【0073】
一実施形態では、方法は、ガス出口により供給されたガスの流れを用いて試料支持体上に受け取られた流体試料を分割するステップを含む。
【0074】
一実施形態では、方法は、試料支持体上に受け取られた流体試料を、試料支持体上に受け取られた流体試料の保持部分と試料支持体から除去された流体試料の除去部分とに分割するステップをさらに含む。
【0075】
一実施形態では、方法は、保持部分が検体濃度を有する状態において、試料支持体上に受け取られた流体試料を分割するステップを含む。
【0076】
一実施形態では、除去部分は検体を含む。
【0077】
一実施形態では、除去部分は検体濃度を有する。
【0078】
一実施形態では、方法は、流体試料供給器を用いて試料支持体上に流体試料を供給するステップを含む。
【0079】
一実施形態では、方法は、流体試料を供給するための流体試料供給器と、流体試料を分割するためのガス出口と、選択された処理期間内に全ての保持部分をガラス化するための冷却デバイスとを制御するステップを含む。
【0080】
一実施形態では、処理期間は、保持部分中に選択された割合を下回る検体が存在することにより解離及び整列配向への再配向の少なくとも一方が生じてしまうことを防止するための選択された期間を含む。
【0081】
一実施形態では、期間は、流体の蒸発を最小限に抑えるように選択される。
【0082】
一実施形態では、期間は約1秒未満である。
【0083】
一実施形態では、期間は約100ミリ秒未満である。
【0084】
一実施形態では、期間は、試料供給期間、分割期間、及びガラス化期間を含む。
【0085】
一実施形態では、試料供給期間は約10ミリ秒~約30ミリ秒の間である。
【0086】
一実施形態では、分割期間は約10ミリ秒~約20ミリ秒の間である。
【0087】
一実施形態では、ガラス化期間は約50ミリ秒未満である。
【0088】
さらなる具体的な及び好ましい態様が、添付の独立請求項及び従属請求項に示される。従属請求項の特徴は、適宜、及び特許請求の範囲内に明確に示されるもの以外の組合せにおいて、独立請求項の特徴と組み合わされてもよい。
【0089】
装置特徴が、ある機能を実装するように動作可能であるものとして説明される場合に、これは、その機能を実装する又はその機能を実装するように適合化若しくは構成された装置特徴を備えることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0090】
以下、添付の図面を参照として本発明の実施形態をさらに説明する。
【
図1a-1b】顕微鏡法試料支持体の概略図である。
【
図2a-2e】様々な拡大レベルにおける、
図1に示したものなどの試料支持体上において調製された検体の撮像を示す図である。
【
図3】一構成によるデバイスの主要構成要素を示す図である。
【
図4a-4c】顕微鏡法試料を調製する場合の
図3のデバイスの主要構成要素の動作を概略的に示す図である。
【
図5】
図3に示したものなどのデバイスにより受け取られた試料支持体への試料流体又は検体流体の導入を示す図である。
【
図6】
図3に示したものなどのデバイス内に含まれる撮像装置により記録されるような試料支持体を示す図である。
【
図7a-7c】
図3に示したものなどのデバイス内において使用される試料支持体上の試料の挙動を示す図である。
【
図8a-8b】グリッド支持体上における流体試料の挙動を概略的に示す図である。
【
図9】
図3に示したものなどのデバイスの構成要素を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0091】
1つの可能な構成を詳細に説明する前に、一般概要を提示する。
【0092】
顕微鏡法技術は、検体を撮像するために利用され得る。顕微鏡法技術には電子顕微鏡法が含まれる。かかる技術によれば、電子ビームが検体を「照明」するために利用される。電子ビーム中に検体が存在することにより、結果としてこのビームに変化が生じる。検体の拡大画像を生成するために、試料により誘発されたビームのこの変化が調査され得る。
【0093】
低温電子顕微鏡法(cryo-EM、cryo-electron microscopy)に使用される直接電子検出器の近年の発展により、過去5年においてこの方法により決定された構造数は、2009年に130個であったものが2014年には521個にまで急増しており、高分解能構造(9Å超の優れた分解能)についてはなおさらその傾向にあり、2009年に40個であったものが2015年(1月~10月)には229個となっている。この技術がさらにより優れた顕微鏡、検出器、及びソフトウェアと共に発展したことによって、構造決定プロセスにおける制限的要素が試料の調製となり得ることが認識されている。さらに、多大な時間を要する条件最適化をますます必要とするより困難な試料が撮像対象になりつつあることが、認識されている。しかし、試料を調製するための現行の方法は、巨大分子複合体の再現可能性において劣るものであり、しばしば不利益をもたらす。したがって、cryo-EM用の試料を調製するためのより優れた方法の差し迫った必要性が存在すると考えられる。
【0094】
態様及び実施形態は、正常な撮像を行うためには、検体が撮像用に十分に調製されなければならない点を認識したものである。試料又は検体の正常且つ再現可能な調製が、顕微鏡法技術から有用な結果を得るために非常に重要な点となり得る。検査用検体の不正確又は不調な調製が、結果として検体に対する損傷、結果の不良、及び/又は結果の再現不能性をもたらし得ることが理解されよう。
【0095】
図1a及び
図1bは、典型的な顕微鏡法試料支持体を概略的に示す。図示するように、cryo-EM用途の場合に、試料支持体は、例えば数十マイクロメートルなどのグリッド間隔を有する金属グリッドを典型的に備え得る点が理解されよう。このグリッドは、正方形グリッド穴を有するグリッドを備え得る。支持体は、これらの正方形グリッド穴にわたって載架された、0.5~10マイクロメートルの間の直径の孔を有する例えば穴の開いた炭素フィルムなどの多孔性フィルムをさらに備え得る。撮像対象のタンパクを含む流体が、多孔性フィルム及びグリッド(これらが共に試料支持体を形成する)の上に配置され得る。タンパク検体を含む流体は、穴の開いた炭素の孔に進入する。
図1bは、典型的な試料支持体の構造をさらに詳細に示す。複数のグリッド部材にわたり穴の開いた炭素のフィルムが配置されることが分かる。
【0096】
図2a~
図2eは、様々な拡大レベルにおける、
図1に示されるものなどの試料支持体上に調製された検体の撮像を示す。
図2aは、試料支持体の一部を形成するグリッドの顕微鏡構造を示す。
図2aでは、グリッドにわたり何らかの損傷又はばらつきが存在し得ることが分かる。示されるように、いくつかの暗色のグリッド正方形状部が存在する。
図2bは、
図2aの試料支持体のいくつかのグリッド正方形状部の画像であり、この多孔性フィルムの構造を理解し始めることが可能となる。
図2cは、単一のグリッド正方形状部内における穴の開いた炭素の構造を示す。
図2dは、穴の開いた炭素の複数の孔を示す。
図2eは、穴の開いた炭素の単一の孔内におけるタンパクの画像を示す。
【0097】
従来の試料調製技術によれば、電子顕微鏡法試料又は電子顕微鏡法検体が、以下の方法において撮像のために調製される。撮像対象の試料又は検体を含む流体が、例えばピペットなどにより金属グリッド試料支持体の上に手動により配置される。この流体は、グリッドを湿らせ及び飽和させて、グリッド正方形状部を、より具体的にはグリッド穴内の穴の開いた炭素内の孔を充填する。余剰流体が除去され、試料支持体は、試料を含む流体がガラス化されるように冷却される。次いで、試料流体を備える試料支持体は、電子顕微鏡におけるイメージング枠が利用可能になるまで保管される。
【0098】
現行では、例えばcryo-EMなどのために試料を調製するためのあらゆる方法が、試料を保持するcryo-EMグリッドから余剰液体を「ブロット」除去するためにフィルタペーパを使用する。このブロットプロセスは、試料支持体グリッドの一方又は両方の表面に対して適切なブロットペーパを押し付けることにより実現される。ブロットプロセスは、試料グリッド又はグリッド上に支持された試料に対して物理的損傷を引き起こし得る。ブロットプロセスにより、試料支持体上に残された試料流体に関して可変的な結果がもたらされる。いくつかのグリッド正方形状部が完全に空になり、いくつかが多くの流体を含むようなことになり得る。隣接し合うグリッド正方形状部は、それらの孔中において非常に異なる流体厚さをもたらし得る。試料支持体グリッドにわたるこのような可変性は、可変的な画像品質をもたらし得る。ブロット方法にしたがって調製された「良好な」グリッド(すなわち試料が明瞭に撮像され得るもの)の場合の典型的な成功率は、調製された各10個のグリッドあたり1~2個となる。さらに、余剰試料流体を除去するためのブロット技術による試料調製の最終結果は、ハイスループット解析に適さない機器である電子顕微鏡においてのみ評価し得ることが理解されよう。換言すれば、調製されるグリッドの品質管理は、グリッドが実際の撮像のために電子顕微鏡に到着するまでは実施されないということである。結果として、現在では、試料グリッド調製は、cryo-EM構造決定において最も重大なボトルネックの中の1つとなっている。
【0099】
構成は、より一貫性及び再現可能性のある試料グリッドを結果的にもたらす試料グリッドを調製する方法の差し迫った必要性が存在することを認識している。また、試料が完全撮像に到着する前に、すなわち低温電子顕微鏡の必要性を伴わずに、試料グリッドの品質の示度の決定を可能にする方法を提供することが望ましい場合があることが認識されている。
【0100】
概要
構成は、試料を調製するためのより再現性の高い方法を実現することが可能であるデバイスを生み出すことが可能であることを認識している。それらの試料としては、例えば単一の粒子又は単一のタンパクのcryo-EM用の試料などが含まれ得る。デバイスは、例えば試料グリッドから余剰液体などを除去するためにおそらくは短期バーストすなわち「パフ」の形態で制御されたガスの流れを利用する方法を実現し得る。ガスの流れの利用により、ブロットのためにフィルタペーパを使用する方法と比較して複数の利点を得ることができる。特に、例えばガスのパフの圧力及び時間などのガス流の物理的特徴を正確に規定することが可能であることにより、サンプル調製からより再現性の高い結果を得ることが可能となる。さらに、ガス流の有向性により、グリッドの幅にわたって形成された試料層の厚さにおける良好な勾配が結果としてもたらされ、したがって調製される試料を各グリッド上のどこかの点において支持する適切な流体厚さを得られる可能性が上昇し得る点が判明している。制御されたガスの流れを利用する方法は、試料グリッドを不明瞭化するフィルタペーパを使用しないため、いくつかの構成においては、調製プロセス中にグリッド及び試料をモニタリング及び記録するために高解像度カメラを使用することが可能となる。かかるモニタリングにより、ユーザは、調製中のグリッドの可視特性を低温電子顕微鏡において観察されるようなグリッドの最終品質に結び付けることが可能となる。このようにすることで、準最適条件が試料グリッドの調製中に利用されることが判明した場合に、どの調製パラメータを変更すべきかがより明確になり得る。かかるオプションにより、グリッド調製方法が「いい加減な」処置となることがより軽減され、代わりにcryo-EM技術を含む顕微鏡法技術のための試料調製から不確実性を排除した正確に規定された技術がもたらされ得る。
【0101】
ガス流試料調製技術もまた、より小さい試料体積を必要とすることが可能であること、いくつかの実施形態では代替的な冷凍/ガラス化技術(液体エタン中への浸漬に依拠しない技術)を利用することが可能であること、並びに試料調製及び試料撮像が同一のプロセスになるように顕微鏡に調製デバイスを組み込むことを含む、複数のさらなる利点を有する。最終的に、ユーザは、試料を用意することのみが必要となり、その後に後のステップがユーザの干渉を伴わずに実施され得ることが可能となり得る。
【0102】
試料調製に対して全包括的アプローチをとることにより、一実施形態では、ガス流試料調製技術は、cryo-EM用の試料グリッドをガラス化するための浸漬-冷凍/ガラス化構成を利用する試料調製デバイスの一部を備え得る。
【0103】
この試料調製デバイスは、試料グリッドから余剰試料流体を除去してcryo-EM撮像に適した薄層のみを残すために、圧縮ガスの短期バーストすなわち「パフ」を利用するように構成され得る。
【0104】
従来の試料調製デバイスは、ブロット方法により余剰試料を除去するためにフィルタペーパを使用し、再現不能であることで有名である。試料調製に関連してガス流を利用することにより、試料の品質に影響を及ぼし得る、そしてひいてはそれによってより確実な顕微鏡法結果をもたらし得る様々な要素に対してより優れた制御がもたらされ得ることが認識されている。
【0105】
デバイスのいくつかの実施形態が、調製プロセス中に試料グリッドをモニタリング及び記録するように構成されたビデオカメラなどの撮像装置を備えてもよい。かかる記録は、試料の見込まれる品質に関する即時的フィードバックをユーザに提供し得る。「ブロット」するためにフィルタペーパを使用する従来の方法は、同様の直接的なモニタリングを行うことが不可能である。なぜならば、フィルタペーパが、試料グリッドの視界を妨げ、したがって結果的に得られる試料グリッドの品質は、試料グリッドを調製した数時間又はさらには数日後に低温電子顕微鏡内に取り付けられた場合にのみ適切にモニタリングされることが可能となるからである。
【0106】
例示のデバイス
図3は、一構成によるデバイスの主要構成要素を示す。図示するデバイスは、電子顕微鏡法試料調製装置1を備える。この装置は、電子顕微鏡法試料支持体10を受け取るように構成された支持体ホルダを備える。電子顕微鏡法試料支持体(
図3に図示せず)は、
図1及び
図2に示されるものなどの試料支持体を備え得る。特に、この試料支持体は、流体試料を受け取るように構成され得る。流体試料は、例えば流体中に懸濁された状態で調査されることとなるタンパクなどを含み得る。この装置は、前記電子顕微鏡法試料支持体の表面に向かってガスの流れを送るように構成されたガス出口20をさらに備えてもよい。ガス出口20は、電子顕微鏡法試料支持体により支持された流体試料を調節するガスの流れを生成するように構成されたノズルを備えてもよい。
図3に示すこの例示の構成において装置は、支持体ホルダ10の周囲に実質的に対称的に配置された2つのガス出口20を備える。
【0107】
図3に示す装置は、本明細書において説明されるガス流構成による調製後の流体試料を備える試料支持体をガラス化するための浸漬-冷凍デバイスを備える。したがって、図示する構成は、装置が、ノズル20からのガスの短期バーストにより試料支持体から除去された流体を受け取るように構成されたシールド30をさらに備えるようなものである。図示する構成では、このシールドは、試料(図示せず)が試料支持体上で原位置において撮像されることとなる検体を含む流体をガラス化するために液体エタン(やはり図示せず)中に浸漬される場合に、シールドがガス出口の領域から液体エタンへの試料支持体の移動を妨げないように、可動である。
【0108】
図3に示す装置は、試料支持体ホルダ10内に配置された支持体の1又は2以上の画像を記録するように構成されたカメラ40をさらに備える。
【0109】
図3に示されるものなどの構成の動作は、試料グリッドが試料支持体ホルダ10内に配置されるようなものである。ユーザが、ピペットを使用して、試料支持体上に流体試料を移送又は供給し得る。2つの圧縮ガス流が、支持体ホルダにより支持された試料グリッドの表面に対して若干の角度(約20度)にて図示する例示の装置内に配置されたガス出口20から放出される。入射ガス流は、試料支持体から余剰流体試料を除去するために利用される。余剰流体の除去は、支持体グリッド上に支持された試料流体の薄層を形成するのを助け得る。
図3に示す例では、出口20は、圧縮窒素ガス流を放出するように構成されるが、他の概して不活性であるガスが適宜利用されてもよい点が理解されよう。さらに、以下において詳細に論じるように、いくつかの構成及び実装形態は、余剰流体の除去後のガス流に対する継続的曝露に基づき試料支持体からの流体の蒸発率を制御するために、ガス流の湿度の管理が可能であってもよい。
【0110】
図示する構成では、2つのガスノズルが、グリッドの表面へとガスの流れを(各側に1つを)同時に送達して、試料支持体が所望位置に留まることを、及びガス流による試料流体調節が実質的に対称的になることを確保する。ガスの流れに対して曝露された後に、試料グリッドは、液体エタン中へと放出又は移動され得る。
図3に示す構成では、試料グリッドが放出又は移送されると、2つのガスノズル20は、浸漬トリガに連結され、2つのガスノズル20及びシールド30が、試料が液体エタン(図示せず)に向かって浸漬する場合の経路から外れて移動するように構成される。
【0111】
図3に示す構成で撮像装置40を用意することは、ビデオ録画装置を用意することを含む。EM試料グリッドのビデオ録画により、試料の継続的なリアルタイムモニタリングが可能となり得、それによりグリッドによって支持された流体試料の見込まれる結果的に得られる品質に関する直接フィードバックが得られる。
【0112】
図4a~
図4cは、顕微鏡法試料を調製する場合の
図3のデバイスの主要構成要素の動作を概略的に示す。
図4aに示すように、2つのガスノズル20が、
図3に示す例示の装置内の試料ホルダ10を形成する鉗子の先端部の近傍に位置する。試料ホルダは、装置の使用時には、試料グリッド(図示しないが
図4にわたりAで示される領域に位置する)を保持する。シールド30が、グリッドの下方に設けられ、除去された試料流体が典型的には試料支持体ホルダの下方に位置する液体エタン槽(図示せず)内へと最終的に行き着くのを防止する。
図3及び
図4の構成では、機構50が、試料ホルダ10に対してガス出口20及びシールド30を移動させるために、したがってガスノズル及びシールドが定位置から移動され、鉗子が妨げられることなく液体エタン(図示せず)中へと浸漬し得ることを確保するために設けられる。
図4aは、試料の余剰分の除去及び制御されたガスの流れを利用した試料支持体上の流体の後の調節などの流体試料調節中にある場合の閉状態においてデバイスを示す。
図4bは、試料グリッドを保持する鉗子10が垂直方向又は水平方向において自由に移動し得るように、ガスノズル20及びシールド30が機構50により変位される開状態においてデバイスを示す。
図4cは、迅速な試料支持体ガラス化(図示せず)を達成するために試料支持体が液体エタン槽に向かって及びその中に移動され得るように、鉗子10が機構50により下方に移動された開状態においてデバイスを示す。
【0113】
図5は、
図3に示されるものなどのデバイスにより受け取られる試料支持体への試料流体又は検体流体の導入を示す。
図5に示す例では、ピペット60が、支持体グリッド80上に試料流体70を配置するために使用される。いくつかの構成は、グリッド上への試料の自動供給を可能にしてもよい点が理解されよう。
【0114】
図6は、
図3に示されるものなどのデバイス内に備えられる撮像装置により記録されるような試料支持体の図である。試料支持体80は、試料流体70が供給されたグリッドを備える。撮像デバイス40を用意することにより、流体試料がグリッド80を「湿らせる」のを見ることが可能である待機期間中にわたり、ガス流が試料支持体の表面に対して適用され余剰流体が除去され、適用されたガス流が停止するまで蒸発が発生し得る作動期間にわたり、及び流体が「弛緩し」試料支持体上で再び伸び広がることができる、ガス流の停止と試料支持体上の流体試料のガラス化との間の弛緩期間にわたり、グリッド80上に供給された後の試料流体70の挙動の解析が可能となる。
【0115】
例えば、
図7a~
図7cは、試料がグリッド80上に供給されノズル20からガス流に対して曝露された後の、撮像装置40を使用してキャプチャされた試料流体70の画像に基づく、
図3に示されるものなどのデバイスにおいて使用される試料支持体上の試料の挙動を示す。特に、
図7a~
図7cは、グリッド上に配置された流体がガス流にさらされた場合のグリッド中にわたる波面の移動を示す、ビデオを使用してキャプチャされた画像の一例を提示する。
【0116】
流体-グリッド-ガスの相互作用:概要
図3に示されたものと同様の装置の動作のビデオ解析は、支持体上へと配置された流体と試料支持体に向かって送られたガスの流れとの間の相互作用に関連して様々な段階が発生することを示す。
【0117】
特に、以下の現象が観察された。
【0118】
グリッドへの流体試料の導入が発生する。最初は、表面張力が、液滴という一般形態に流体試料を保持する傾向を有する。一定期間(「待機」期間)を置くことにより、流体試料はグリッド穴内へと弛緩することが可能となり得る。換言すれば、流体試料が初期導入後に試料を「湿らせる」ことが観察され得る。
【0119】
ガスの層流が支持体表面の表面に対して実質的に平行に適用され得る「作動」期間中に、最初に、ガス流は、余剰試料流体を除去するように動作する。換言すれば、支持体の表面上に存在する流体試料の残留ビードが除去される。グリッド空間を湿らせた/グリッド空間に進入した流体試料は、ガスの流れの方向が適切に選択される場合には、典型的には除去されない。
【0120】
支持体の表面に対して実質的に平行に適用されたガスの層流の継続適用により、ガス流出口のより近くにおいて蒸発率がより高くなる結果として、グリッドの支持体正方形状部内における流体試料の「勾配」が結果的に形成され得る。換言すれば、ガス出口又はガス流源から最も遠くに位置するグリッド正方形状部は、より多くの流体を収容する傾向となる。
図8aは、グリッド支持体バー90同士の間における流体試料70の典型的な挙動を断面図において概略的に示す。試料支持体中にわたり達成されるかかる勾配は、支持体上のどこかの位置において、流体内の検体を撮像するための最適流体厚さが実現され得る可能性が高くなることが確保され得るため、有利となり得る。
【0121】
ガスの層流の適用を停止しいわゆる「緩和」期間にわたり待機することにより、さらなる動作(例えばガラス化など)が試料支持体に関して実施される前に、グリッド支持体バー同士の間の流体試料が、「弛緩する」ことが可能となる。緩和時間により、グリッド正方形状部内の流体は、ガス流の適用により生じた非対称表面張力を安静化し相殺することが可能となる。結果として、各グリッド又は孔の中の流体は、さらに均一になることが可能となる。
図8bは、ガス流の除去後のグリッド支持体バー90同士の間の流体試料70の典型的な挙動を断面図において概略的に示す。
【0122】
最終的に、流体試料を備える試料支持体がガラス化され得る。典型的には、ガラス化は、液体エタン槽内に試料支持体を浸漬することにより達成される。いくつかの構成では、ガラス化の達成のために適切に選択されたさらなるガス流を利用することが可能であってもよいことが認識される。
【0123】
図9は、
図3に示されるものなどのデバイスの構成要素を示す。試料支持体との流体の相互作用に関する以前の観察に基づき、装置が、試料調製プロセス中に行われる種々のステップに関連する種々の可変的時間設定を実装するための手段を備えてもよい。
図9は、i)流体試料が例えばグリッドと相互作動し得るような支持体への流体試料の塗布とガス流の開始との間の待機時間(「待機期間」)、ii)ガス流適用継続時間(「作動期間」)、及びiii)ガス流停止と試料支持体が例えば液体エタン中へのグリッドの浸漬などによりガラス化される時点との間の「弛緩」待機時間(「弛緩期間」)に関してそれぞれ異なる時間設定が電子スイッチにより可能となることを示す。
【0124】
代替的な実施形態
図3のデバイスの一般的動作が、電子顕微鏡法試料の調製においてガスの流れを使用する一般的原理の1つの具体的実施形態にすぎないものを示すことが理解されよう。
【0125】
特に、説明される構成に対する様々な代替及び追加が当業者には明らかであろう。
【0126】
試料支持体に対して適用されるガス流に関して、流れ方向が重要となり得ることが理解されよう。試料支持体の表面に対して実質的に平行であるガス流が、余剰流体試料の効率的な除去を実現する。試料支持体の表面に対して実質的に垂直なガス流の適用により、試料液滴が試料支持体にわたり均一に広がることが可能となり得る、及び/又は所望に応じてより均一な蒸発若しくは冷却が可能となり得る。試料支持体表面に対するガス流の入射角度は、固定されてもよく、又は調節可能であってもよい。試料に対して適用されるガス流の方向は、種々の調製段階の最中に調節されてもよい。
【0127】
ガス流量、ガス流幅、及びガス流特性(例えば層流又は他の様式のなど)がデバイスの動作に影響を及ぼし得ることがさらに理解されよう。ガス流量は調節可能であってもよい。いくつかの構成では、ノズル又は出口が、均一なガス層流が試料支持体の表面中にわたって入射することを確保するように形状設定されてもよい。
【0128】
使用されるガスのタイプは、制御されてもよい。特に、支持体上の流体試料の調節用に1つのガスを使用し、試料支持体上の流体試料の冷却又はガラス化を実現するガス流に関して第1のガスとは異なり得るさらなるガスを使用することが望ましい場合がある。同様に、ガス流の湿度が、例えば試料流体蒸発などを制御するために調節されてもよい。
【0129】
いくつかの構成では、デバイス及び雰囲気環境の温度が、電子顕微鏡法試料調製の再現性を確保するためにやはり制御されてもよい。
【0130】
いくつかの構成では、対称ガス流が、試料支持体の両表面に対して適用されてもよい(
図3の構成においてなど)。いくつかの構成では、単一のガス出口が設けられてもよい。また、この単一のガス出口は、例えば試料支持体の両表面に対して対称的にガス流を適用するように構成されてもよい。いくつかの構成では、単一のガス流出口が、流体試料を調節するために試料支持体の単一表面に対してガス流を適用するように構成されてもよい。いくつかの構成では、単一のガス流出口が、流体試料を冷却するために試料支持体の単一表面に対してガス流を適用するように構成されてもよい。
【0131】
様々な代替構成が、電子顕微鏡法試料調製デバイス内にさらなる機能を設けてもよい。いくつかの構成では、100ケルビンの低温窒素ガス流が、試料グリッド及びグリッド上に支持された流体をガラス化するために試料支持体表面に対して適用されてもよい。いくつかの構成は、ユーザが試料支持体上の定位置に試料流体を手動でピペット分注することを必要とせずに、試料支持体への自動的な流体試料塗布を可能にし得る。流体塗布の自動化により、より少量の試料体積の使用が可能となり得る。試料の手動塗布では、約3マイクロリットルの体積がグリッド上に供給されることを余儀なくされる。典型的には、試料の大半がガスパフ中に除去される。タンパク結晶化ロボット工学で利用されるものなどのリットル供給技術を利用することにより、約1/10だけ所要試料体積を削減することが可能となり、それにより貴重な試料が節減され得る。
【0132】
いくつかの実施形態では、流体試料は、上述の検体を含み、特にリボソーム小サブユニット、ポリメラーゼDNA複合体、転写因子-DNA複合体、タンパク試料、生物検体、巨大分子等を含む。これらの検体は、典型的には約3~10マイクロモル濃度で懸濁流体内に用意される。この検体濃度は、試料支持体中の各開口内に典型的には数個の検体(巨大分子など)が存在することが実現されるように選択される。
【0133】
いくつかの実施形態は、検体(巨大分子など)の正確な画像を構築することを可能にするためには、検体は、複数の検体の撮像から3次元画像を構築することが可能になるように、自然に近い形態で及び複数の配向で極低温で懸濁される必要があることを認識している。特に、いくつかの実施形態は、流体試料が試料支持体上に受け取られると、巨大分子複合体、下位複合体、リガンド、補因子等の解離が生じ得ることを認識している。また、流体の蒸発は、流体試料が支持体ホルダにより受け取られると、緩衝液条件を変化させ得るため、これが巨大分子に対して有害となる場合がある(塩濃度上昇、pH変化等)。さらに、流体試料が試料支持体により受け取られると、巨大分子は、気液界面と相互作動し、好ましい配向に拘束された状態になり得る。したがって、いくつかの実施形態は、流体試料が試料支持体上に供給されることと、流体の解離及び/又は蒸発の度合いを、及び/又は好ましい配向への再配向を解消又は最小限に抑えるために次いで流体試料が処理期間内でガラス化されることとの間において、全てのプロセスを完了することを求める。さらに、試料支持体上で流体試料を処理することは、試料内の検体の濃度変化を最小限に抑えることを求める。流体内における検体の濃度は、適切な個数の検体が試料支持体の各開口内に存在するように選択される。十分な個数の検体を自然に近い形態で及び複数の配向でランダムに懸濁させることにより、種々の検体の画像を取得し、組み合わせてこれらの検体の三次元像を形成することが可能となる。
【0134】
いくつかの実施形態では、流体試料を迅速に供給、分割、及びガラス化するための自動構成が用意される。典型的な検体の場合に、グリッド上への供給からガラス化までの時間は、1秒未満の範囲内であるべきであり、典型的には約100ms未満であるべきである。自動構成は、上述のものと同様であるが、電子機械インジェクタ(小体積(25~100マイクロリットル)シリンジなど)が、ピペット60の代わりに、支持体グリッド80上に試料流体70を射出するために支持体グリッドから約10mmの位置にて使用される。
【0135】
図10は、自動構成のタイミングを示すタイミング図である。一実施形態では、3マイクロリットル試料流体が、約20~30msの間の及びより典型的には約10~15msの間の供給期間にわたり電子機械インジェクタにより供給される。最大10msまでの任意遅延が、この供給後に生じてもよい。この任意遅延期間が切れると、次いでガス流が、約10~20msの分割期間の間に約2~4バールの間の典型圧力にてガスノズル20から適用される。これは、試料流体を分割し、余剰試料流体が、支持体グリッド80上に残る試料流体の他の部分から区別又は分離される。分割が完了すると、次いで支持体グリッド80が移送されて、ガラス化が行われる間の約50ms未満のガラス化期間内に冷却槽内に受け取られる。
【0136】
したがって、実施形態は、試料塗布(射出)と、試料分割(パフ)と、試料ガラス化(浸漬)との間の時間をミリ秒時間スケールにまで短縮化することが分かる。このようにすることで、総ハンドリング時間が、調査下における巨大分子が気液界面と相互作用し好ましい配向に拘束された状態に留まる頻度にアプローチする。時間短縮により、気液界面相互作用の回数が最小限に抑えられ、これにより好ましい配向に拘束される分子の個数が最小限に抑えられる。さらに、ミリ秒時間スケールで作動することにより、試料の蒸発寄与が極めて低減される。これは、巨大分子に有害となり得る(塩濃度上昇、pH変化など)緩衝液条件の変化を防止する。また、このアプローチにより、より高い開始濃度の試料を使用することが可能となり(グリッド調製プロセス中に濃縮されることがなくなるため)、これは、より低い濃度において分離する弱結合複合体にとっては有利となる。
【0137】
流体試料の粘性に基づきタイミングを変更する必要がある場合があり、より高い粘性の試料は、ガスノズル20のより長いパフを必要とし得ることが理解されよう。代替的には、支持体グリッド80は、プラズマチャンバ(すなわちグロー放電)内での処理時間を短縮化することによって親水性をより低下させることが可能である。特に、分割を実現するためのガス流の特徴は、装置の物理的構成及び流体試料の特性に基づき調節されてもよい。
【0138】
いくつかの実施形態では、上述のパラメータが2~3倍に変更され得ることが理解されよう。
【0139】
一実施形態では、支持体グリッド80は、試料供給及び試料分割後に高解像度/高速カメラによりモニタリングされる。試料グリッド80の最終品質は、低温電子顕微鏡法によりモニタリングされる。
【0140】
一実施形態では、ガス弁は、ガスノズル20の直前に位置するように配置される。
【0141】
一実施形態では、ガスの強力な(2~4MBar)ブラスト(パフ)が、cryo-EMグリッドから力(蒸気ではない)により余剰試料を除去するために利用される。このガス流は、cryo-EMグリッドの表面に対して平行であっても、角度を有しても、又は垂直であってもよい。グリッドのいずれかの側にて動作する1又は2以上のガス流があってよい。試料供給、余剰試料除去、及び試料のガラス化は、1)調査下において試料/巨大分子の優先配向を防止/軽減する、及び/又は2)巨大分子複合体、下位複合体、リガンド、補因子等の解離を防止/軽減する、及び/又は3)試料の蒸発を防止/軽減するために、1秒未満の時間枠にて処置全体が実施されるように行われる。
【0142】
本明細書においては、添付の図面を参照として本発明の例示の実施形態を詳細に開示したが、本発明はその厳密な実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲及びその均等物によって定義されるような本発明の範囲から逸脱することなく様々な変更及び修正が本明細書において当業者により行われ得ることが理解される。