(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】主軸装置
(51)【国際特許分類】
F16C 37/00 20060101AFI20220111BHJP
F16C 35/12 20060101ALI20220111BHJP
B23B 19/02 20060101ALI20220111BHJP
B23Q 11/12 20060101ALI20220111BHJP
F16C 35/067 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
F16C37/00 B
F16C35/12
B23B19/02 B
B23Q11/12 C
F16C35/067
(21)【出願番号】P 2019508059
(86)(22)【出願日】2017-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2017013401
(87)【国際公開番号】W WO2018179280
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2019-06-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130133
【氏名又は名称】曽根 太樹
(72)【発明者】
【氏名】川田 毅
(72)【発明者】
【氏名】根深 鉄平
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-087704(JP,A)
【文献】特開2010-023158(JP,A)
【文献】特開2003-056582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 35/06-35/078
F16C 35/12
F16C 37/00
B23B 19/02
B23Q 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械に取り付けられ、工具またはワークを回転する主軸装置であって、
工具またはワークを支持する主軸と、
前記主軸を回転させる主軸モータと、
内輪、転動体、および外輪を有し、内輪にて前記主軸を支持する転がり軸受と、
転がり軸受の外輪を固定する軸受支持部と、
前記軸受支持部に第1の冷却液を供給する第1の冷却液供給装置と、
前記第1の冷却液供給装置にて供給される第1の冷却液の温度を調整するように該第1の冷却液供給装置を制御する制御装置と、を備え、
前記軸受支持部は、前記主軸よりも熱膨張係数が大きい材質にて形成されており、第1の冷却液が流れる第1の流路を有し、
第1の流路は、前記転がり軸受の外輪の側方に配置されており、
前記第1の冷却液供給装置は、第1の冷却液の温度を調整する機能を有し、第1の流路に第1の冷却液を供給し、
前記制御装置は、前記主軸モータの回転速度が予め定められた判定値以下の場合に第1の冷却液の温度を一定に維持する制御と、前記主軸モータの回転速度が前記判定値よりも大きい場合に前記主軸モータの回転速度が高くなるほど第1の冷却液の温度を上昇させる制御とを実施することを特徴とする、主軸装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械に取り付けられる主軸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械は、工具またはワークを回転する主軸装置を備える。例えば、工作機械が工具を回転する主軸装置を備える場合には、工作機械は、工具を軸線の周りに回転させることができる。工作機械は、工具をワークに接触させて、ワークに対して工具を相対的に移動することにより、所望の形状にワークを加工することができる。主軸装置は、工具が連結された主軸を備える。主軸は、軸受を介してハウジングに支持されている。主軸が回転することにより、工具またはワークが回転する。
【0003】
工作機械では、切削の種類に応じて工具またはワークを高速で回転させる場合がある。主軸が高速で回転する主軸装置には、主軸を支持する軸受として転がり軸受を採用することができる。
【0004】
特開2003-056582号公報には、軸心の冷却液通路およびハウジングの冷却液通路を備える回転軸装置が開示されている。この回転軸装置は、軸心の冷却液通路およびハウジングの冷却液通路に供給する冷却液の温度を制御して、軸受の外輪を軸受の内輪よりもわずかに膨張させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
転がり軸受を備える主軸装置では、転がり軸受に主軸の径方向に予め定められた圧力が加えられる。すなわち、主軸装置は、転がり軸受に予圧が加えられるように組み立てられる。転がり軸受に与圧を与えることにより、所望の転がり軸受の特性が得られる。適正な予圧の大きさの範囲は予め定められている。
【0007】
主軸装置が駆動して主軸が回転すると、転がり軸受の転動体と内輪との摩擦および転動体と外輪との摩擦により、転がり軸受の温度が上昇する。主軸およびハウジングは、同じ材質で形成されていても、体積が異なるために熱容量が異なる。ハウジングよりも体積が小さい主軸は、熱容量が小さいために温度が上昇しやすい。一方で、主軸よりも体積の大きいハウジングは、熱容量が大きいために温度が上昇しにくい。このために、主軸の膨張量はハウジングの膨張量よりも大きくなる。特に、主軸の径方向の膨張量は、ハウジングの径方向の膨張量よりも大きくなる。このために、主軸が回転すると、軸受に加わる圧力は増大する。主軸の回転速度が大きくなるほど、軸受の温度は上昇する。このために、主軸の高速で回転すると、軸受に作用する圧力が大きくなる。
【0008】
また、軸受の内輪は主軸と共に回転するために、内輪には遠心力が作用する。更に、内輪の周りを回転する転動体にも遠心力が作用する。内輪および転動体の遠心力により、軸受に作用する圧力が増大する。特に、主軸が高速で回転すると、軸受に作用する圧力が大きくなる。
【0009】
このように、主軸が回転して軸受に加わる圧力が大きくなると、軸受の寿命が短くなったり、軸受が破損したりする場合がある。特に、主軸が高速で回転すると、軸受の寿命が短くなったり、軸受が破損したりする虞がある。
【0010】
本発明は、運転期間中に転がり軸受に加わる圧力を抑制する主軸装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の主軸装置は、工作機械に取り付けられ、工具またはワークを回転する。主軸装置は、工具またはワークを支持する主軸と、主軸を回転させる主軸モータとを備える。主軸装置は、内輪、転動体、および外輪を有し、内輪にて主軸を支持する転がり軸受と、転がり軸受の外輪を固定する軸受支持部とを備える。主軸装置は、軸受支持部に第1の冷却液を供給する第1の冷却液供給装置と、第1の冷却液供給装置にて供給される第1の冷却液の温度を調整するように第1の冷却液供給装置を制御する制御装置とを備える。軸受支持部は、主軸よりも熱膨張係数が大きい材質にて形成されている。軸受支持部は、第1の冷却液が流れる第1の流路を有する。第1の流路は、転がり軸受の外輪の側方に配置されている。第1の冷却液供給装置は、第1の冷却液の温度を調整する機能を有し、第1の流路に第1の冷却液を供給する。制御装置は、主軸モータの回転速度が予め定められた判定値以下の場合に第1の冷却液の温度を一定に維持する制御と、主軸モータの回転速度が判定値よりも大きい場合に主軸モータの回転速度が高くなるほど第1の冷却液の温度を上昇させる制御とを実施する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、運転期間中に転がり軸受に加わる圧力を抑制する主軸装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施の形態における主軸装置の概略断面図である。
【
図2】実施の形態における工作機械のブロック図である。
【
図3】実施の形態における主軸モータの回転速度と転がり軸受に加わる圧力との関係を示すグラフである。
【
図4】実施の形態における主軸モータの回転速度と第1の冷却液の目標温度との関係を示すグラフである。
【
図5】実施の形態における主軸モータの回転速度と第2の冷却液の目標温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1から
図5を参照して、実施の形態における主軸装置について説明する。本実施の形態の主軸装置は、工作機械に取り付けられている。本実施の形態の工作機械は、加工プログラムに基づいて工具とワークとを相対的に移動させて自動的に加工を行う数値制御式の工作機械である。
【0019】
図1に、本実施の形態の主軸装置の概略断面図を示す。本実施の形態では、工具18が配置されている方向を主軸装置10の前側と称し、工具18が配置されている側と反対側を後側と称する。主軸装置10は、中空状のハウジング12と、ハウジング12に支持された主軸14とを含む。主軸14は、円柱状に形成されている。主軸14は、工具ホルダ19を介して工具18を支持している。主軸14は、フロントベアリングとしての軸受16a,16bと、リアベアリングとしての軸受17を介して回転自在に支持されている。本実施の形態の軸受16a,16b,17は、転がり軸受である。転がり軸受は、内輪、外輪、および内輪と外輪との間に配置された転動体を含む。軸受16a,16b,17の内輪は、主軸14を支持する。
【0020】
主軸装置10は、軸受16a,16b,17の外輪を固定する軸受支持部を備える。軸受16a,16bの外輪は、ハウジング12の内面に固定されている。ハウジング12の軸受16a,16bに接触する部分が軸受支持部として機能する。また、主軸装置10は、ハウジング12の内面に固定されたリアハウジング13を含む。リアハウジング13は、軸受17を支持する。軸受17の外輪は、リアハウジング13に固定されている。リアハウジング13は、軸受支持部として機能する。
【0021】
主軸装置10は、主軸14を回転させる主軸モータ35を含む。本実施の形態の主軸モータ35は、ビルトインタイプのモータである。主軸モータ35は、主軸14の外面に固定されたロータ32と、ハウジング12の内面に固定されたステータ34とを含む。主軸装置10は、主軸モータ35に電気を供給する電気供給装置としてのアンプ94を含む。
【0022】
主軸14の内部は、工具ホルダ19を保持したり解放したりする機構が配置されている。ワークの加工時には、主軸14は、工具ホルダ19を介して工具18を保持する。主軸モータ35が駆動することにより、工具18が主軸14と共に回転する。
【0023】
主軸装置10は、主軸14の回転速度を検出するための回転角検出器としてのエンコーダ36を含む。本実施の形態のエンコーダ36は、ギヤ36aとエンコーダセンタ36bとを含む。本実施の形態のギヤ36aは、主軸14の後側の端部に配置されている。エンコーダセンタ36bは、ギヤ36aと対向するようにリアハウジング13に固定されている。
【0024】
本実施の形態における主軸装置10は、軸受16a,16b,17を冷却液にて冷却可能に形成されている。冷却液としては、冷却水または冷却オイルを用いることができる。
【0025】
ハウジング12は、第1の冷却液が流れる第1の流路21,23を有する。流路21は、軸受16a,16bの位置に対応して形成されている。流路21は、軸受16a,16bの側方に配置されている。流路21は、軸受16a,16bの近傍に形成されている。本実施の形態の流路21は、軸受16a,16bを取り囲むように形成されている。リアハウジング13は、第1の冷却液が流れる第1の流路23を有する。流路23は、軸受17の位置に対応して形成されている。流路23は、軸受17の側方に配置されている。流路23は、軸受17の近傍に形成されている。本実施の形態の流路23は、軸受17を取り囲むように形成されている。
【0026】
また、本実施の形態における第1の冷却液は、主軸モータ35を冷却するように形成されている。ハウジング12とステータ34を支持する部材との間には、第1の冷却液が流れる第1の流路22が形成されている。
【0027】
主軸14は、第2の冷却液が流れる第2の流路25,26を含む。流路25は、軸受16a,16bの位置に対応して形成されている。流路25は、軸受16a,16bの側方に配置されている。流路25は、軸受16a,16bの近傍に形成されている。流路26は、軸受17の位置に対応して形成されている。流路26は、軸受17の側方に配置されている。流路26は、軸受17の近傍に形成されている。
【0028】
主軸装置10は、軸受支持部に第1の冷却液を供給する第1の冷却液供給装置41を備える。第1の冷却液供給装置41は、ハウジング12およびリアハウジング13に形成された第1の流路21,22,23に、第1の冷却液を供給する。第1の冷却液供給装置41は、第1の冷却液の温度を調整できるように形成されている。本実施の形態の第1の冷却液供給装置41は、冷却液を供給するためのポンプと、冷却液を冷却するためのチラーユニットと、冷却液を加熱するためのヒータとを含む。チラーユニットは、圧縮機、膨張弁、および熱交換器を含む。第1の流路23から第1の冷却液供給装置41に戻る流路の途中には、第1の温度センサ43が配置されている。第1の温度センサ43は、ハウジング12およびリアハウジング13を冷却した後の冷却液の温度を検出する。
【0029】
第1の流路21に第1の冷却液が供給されることにより、軸受16a,16bが冷却される。第1の流路23に第1の冷却液が供給されることにより、軸受17が冷却される。また、第1の流路22に第1の冷却液が供給されることにより、主軸モータ35が冷却される。なお、主軸モータ35を冷却するための第1の流路22には、他の冷却液供給装置から冷却液が供給されていても構わない。すなわち、主軸モータ35を冷却する装置は、軸受を冷却する装置とは別に形成されていても構わない。
【0030】
主軸装置10は、主軸14に第2の冷却液を供給する第2の冷却液供給装置42を備える。第2の冷却液供給装置42は、主軸14に形成された第2の流路25,26に、第2の冷却液を供給する。第2の冷却液供給装置42は、第2の冷却液の温度を調整できるように形成されている。本実施の形態の第2の冷却液供給装置42は、第1の冷却液供給装置41と同様に、冷却液を供給するためのポンプと、冷却液を冷却するためのチラーユニットとを含む。第2の流路25から第2の冷却液供給装置42に戻る流路の途中には、第2の温度センサ44が配置されている。第2の温度センサ44は、主軸14を冷却した後の冷却液の温度を検出する。
【0031】
本実施の形態の温度センサ43,44は、主軸14、ハウジング12、およびリアハウジング13を冷却した後の冷却液の温度を検出するように形成されているが、この形態に限られない。温度センサは、冷却液の温度を検出可能な任意の位置に配置することができる。例えば、温度センサは、冷却液供給装置41,42から流出する冷却液の温度を検出するように配置されていても構わない。または、温度センサは、それぞれの流路21,22,23,25,26を流れる冷却液の温度を検出するように配置されていても構わない。
【0032】
図2に、本実施の形態における工作機械のブロック図を示す。
図1および
図2を参照して、工作機械80は、機械本体81と制御装置82とを備える。機械本体81は、主軸装置10と、ワークに対して工具18を相対移動させる移動装置91とを含む。機械本体81には、たとえば、直線送り軸として互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸が設定されている。移動装置91は、工具をX軸方向に移動させる装置および工具をY軸方向に移動させる装置を含む。また、移動装置91は、ワークが固定されたテーブルをZ軸方向に移動させる装置を含む。移動装置91としては、この形態に限られず、ワークに対して工具を相対的に移動させる任意の装置を採用することができる。
【0033】
制御装置82は、例えば、バスを介して互いに接続されたCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、およびROM(Read Only Memory)等を備えるデジタルコンピュータにて構成されている。工作機械80には、ワークを加工する手順が設定された加工プログラム78が入力される。制御装置82は、加工プログラム78に基づいて、機械本体81を制御する。
【0034】
制御装置82は、数値制御部83を含む。数値制御部83は、加工プログラム78に基づいて送り軸に関する送り指令を移動装置91に送出する。移動装置91は、送り指令に基づいてワークと工具18との相対移動を行う。制御装置82は、主軸装置10を制御するための主軸制御部84を含む。数値制御部83は、加工プログラム78に基づいて、主軸を制御する主軸指令を主軸制御部84に送出する。加工プログラム78には、主軸モータ35の回転速度が定められている。主軸指令には、例えば主軸モータ35の回転速度に関する指令および冷却液の流量および温度に関する指令が含まれる。
【0035】
主軸制御部84は、主軸指令に基づいて、主軸装置10を制御する。主軸制御部84は、主軸モータ35を制御する主軸モータ制御部86を含む。主軸モータ制御部86は、主軸指令に基づいて、主軸モータ35の動作指令をアンプ94に送出する。主軸モータ35の動作指令には、主軸モータ35の回転速度が含まれる。アンプ94は、主軸モータの動作指令に基づいて、主軸モータ35に電気を供給する。主軸モータ35が駆動することにより、主軸14が回転する。主軸14の回転速度は、エンコーダ36にて検出される。エンコーダ36の出力は、主軸モータ制御部86に送信される。主軸モータ制御部86は、エンコーダ36の出力に基づいて主軸モータ35の動作指令を修正することができる。
【0036】
主軸制御部84は、冷却液供給装置41,42を制御する冷却液制御部87を含む。冷却液制御部87は、動作指令を第1の冷却液供給装置41および第2の冷却液供給装置42に送出する。また、冷却液制御部87は第1の温度センサ43から第1の冷却液の温度を取得する。冷却液制御部87は、第2の温度センサ44から第2の冷却液の温度を取得する。
【0037】
冷却液制御部87は、主軸モータ制御部86から主軸モータ35の回転速度(主軸14の回転速度)を取得する。冷却液制御部87は、主軸モータ35の回転速度に応じた冷却液の温度となるように、第1の冷却液供給装置41および第2の冷却液供給装置42を制御する。例えば、温度センサ43,44から取得した冷却液の温度が予め定められた目標温度よりも高い場合に、冷却液制御部87は、冷却液の温度を下げるように冷却液供給装置41,42を制御する。
【0038】
制御装置82は、工作機械80に関する情報を記憶する記憶部85を含む。例えば、記憶部85は、加工プログラム78、冷却液の目標温度、および冷却液の目標流量を記憶する。特に、記憶部85は、主軸モータ35の回転速度に対応する第1の冷却液の目標温度および第2の冷却液の目標温度を記憶する。主軸モータ35の回転速度と冷却液の目標温度との関係は、数式で予め定められている。記憶部85は、この数式を記憶する。または、主軸モータ35の回転速度と冷却液の目標温度との関係は、対応表にて予め定められていても構わない。記憶部85は、この対応表を記憶しても構わない。
【0039】
図1を参照して、本実施の形態の主軸装置10の軸受支持部は、主軸14よりも熱膨張係数が大きい材質にて形成されている。本実施の形態においては、ハウジング12の熱膨張係数は、主軸14の熱膨張係数よりも大きい。また、リアハウジング13の熱膨張係数は、主軸14の熱膨張係数よりも大きい。本実施の形態では、主軸14は炭素鋼にて形成され、ハウジング12およびリアハウジング13は、アルミニウム合金にて形成されている。主軸14の材質および軸受支持部の材質は、この形態に限られない。軸受支持部の熱膨張係数が主軸の熱膨張係数よりも大きくなる任意の材質を採用することができる。例えば、主軸の材質として炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を採用し、ハウジングの材質としてアルミニウム合金を採用することができる。
【0040】
図3に、主軸の回転速度と運転時に軸受に加わる圧力との関係のグラフを示す。ここでは、フロントベアリングとしての軸受16a,16bに加わる圧力を例示するが、リアベアリングとしての軸受17に加わる圧力も同様の傾向を有する。主軸装置10は、転がり軸受に予め定められた圧力(予圧)が加わるように組み立てられる。主軸装置10が停止している状態において、転がり軸受には圧力が加えられている。
【0041】
図3には、主軸の材質および軸受支持部の材質が同一の比較例の主軸装置のグラフが示されている。比較例の主軸装置は、例えば、主軸、ハウジング、およびリアハウジングが炭素鋼にて形成されている。比較例の主軸装置は、第1の冷却液供給装置および第2の冷却液供給装置を備える。
【0042】
図4に、第1の冷却液の目標温度のグラフを示す。
図5に、第2の冷却液の目標温度のグラフを示す。
図4および
図5に示すグラフでは、横軸は主軸モータ35の回転速度を示し、縦軸は冷却液の目標温度を示している。グラフの冷却液の目標温度は、制御装置82の記憶部85に記憶された目標温度に対応する。
【0043】
図4を参照して、比較例の主軸装置では、回転速度に関わらずに、第1の冷却液の温度が一定になるように第1の冷却液供給装置41を制御する。
図5を参照して、比較例の主軸装置では、回転速度に関わらずに、第2の冷却液の温度が一定になるように第2の冷却液供給装置42を制御する。本実施の形態では、このような一定に維持する温度を基準温度Trと称する。基準温度Trは、例えば、工作機械が配置されている部屋の気温または工作機械のベッドの温度等を採用することができる。第1の冷却液供給装置41の基準温度Trと第2の冷却液供給装置42の基準温度Trは、同じ値であっても異なる値であっても構わない。以後、第1の冷却液供給装置41の基準温度をTr1にて示し、第2の冷却液供給装置42の基準温度をTr2にて示す。
【0044】
主軸が回転することにより、軸受の内輪と転動体と摩擦および外輪と転動体との摩擦により、軸受の温度が上昇する。
図3を参照して、比較例の主軸装置では、第1の冷却液の温度および第2の冷却液の温度を一定に維持しているが、冷却液の流路21,23,25,26は、軸受16a,16b,17から離れている。このために、冷却液の温度と軸受16a,16b,17の温度とに差が生じる。主軸モータ35の回転速度が上昇すると、軸受16a,16b,17の温度は上昇する。さらに、主軸14が回転すると、軸受16a,16b,17の内輪に対して外側に向かう方向の遠心力が作用する。外輪は固定されているために、主軸モータ35の回転速度が上昇すると軸受16a,16b,17に加わる圧力が増大する。
【0045】
このように、主軸モータ35の回転速度が大きくなるほど、軸受16a,16b,17の温度が上昇して膨張量が大きくなる。また、主軸14の回転速度が大きくなるほど遠心力が大きくなる。このために、主軸モータ35の回転速度が大きくなるほど、軸受16a,16b,17に加わる圧力が増大する。
【0046】
特に、本実施の形態における主軸装置10および比較例の主軸措置では、主軸が高速にて回転する。高速の回転速度としては、例えば、20000rpm以上を例示することができる。比較例の主軸装置では、高速の領域において軸受に加わる圧力の上昇幅は大きくなる。
【0047】
図3には、比較例から材質を変更した主軸装置の実施例が示されている。この主軸装置では、冷却液制御部87は、比較例の主軸装置と同様に、第1の冷却液の温度および第2の冷却液の温度を一定に維持する制御を実施している。本実施の形態における主軸装置10では、ハウジング12の熱膨張係数およびリアハウジング13の熱膨張係数が、主軸14の熱膨張係数よりも大きい。すなわち、軸受支持部の熱膨張係数は、主軸の熱膨張係数よりも大きい。同一の上昇幅にて温度が上昇すると、軸受支持部の膨張量は、主軸14の膨張量よりも大きくなる。
【0048】
軸受16a,16b,17の温度が上昇したときに、軸受支持部の径方向の膨張量は、主軸14の径方向の膨張量よりも大きくなる。このために、軸受16a,16b,17に加わる圧力の上昇を抑制することができる。材質を変更した主軸装置における軸受に加わる圧力は、比較例の主軸装置における軸受に加わる圧力よりも小さくなる。特に、主軸14を高速にて回転させた時に、軸受16a,16b,17に加わる圧力の上昇を抑制することができる。この結果、軸受16a,16b,17の破損を抑制したり、軸受16a,16b,17の寿命が短くなることを抑制したりすることができる。
【0049】
本実施の形態における主軸装置10は、軸受16a,16b,17が、ハウジング12およびリアハウジング13に固定されている装置に好適である。例えば、フロントベアリングに加わる圧力を調整する為のばねが主軸装置の内部に配置されている場合がある。このような主軸装置では、軸受の温度が上昇したときに、ばねにより軸受に加わる圧力の上昇を抑制することができる。一方で、軸受が軸受支持部に固定されている主軸装置では、主軸装置の運転に伴って軸受に加わる圧力が上昇しやすい。このために、本発明の効果が顕著になる。
【0050】
図1および
図2を参照して、本実施の形態においては、第1の冷却液供給装置41により、ハウジング12およびリアハウジング13に供給する第1の冷却液の温度を調整することができる。冷却液制御部87は、第1の流路21~23に供給する冷却液の温度を変化させる第1の温度制御を実施することができる。なお、本実施の形態では、第1の冷却液の流量を一定に制御しているが、この形態に限られず、第1の冷却液の流量を変化させても構わない。
【0051】
主軸モータ35の回転速度が低い領域では、軸受が受ける圧力の上昇幅が小さいために、冷却液の温度が一定の基準温度Tr1になるように制御することができる。
図4を参照して、第1の温度制御において、冷却液制御部87は、主軸モータ35の回転速度がNt以下の領域では、回転速度に依存せずに、第1の冷却液の温度を一定に維持する制御を実施する。ここでの例では、第1の冷却液の温度が基準温度Tr1に維持される。回転速度Ntは、予め定められている。回転速度Ntは、例えば、軸受16a,16b,17が損傷する虞のある回転速度を採用することができる。
【0052】
主軸モータ35の回転速度がNtよりも大きな領域では、冷却液制御部87は、主軸モータ35の回転速度が大きくなるほど第1の冷却液の温度が高くなるように制御する。すなわち、冷却液制御部87は、主軸モータ35の回転速度が大きくなるほど、基準温度Tr1からの温度上昇幅を大きくする制御を行うことができる。このように、第1の温度制御は、主軸モータ35の回転速度に応じて第1の冷却液の温度を上昇させる制御を含む。
【0053】
図1、
図2、および
図4を参照して、主軸制御部84の冷却液制御部87は、主軸モータ35の回転速度(主軸14の回転速度)を主軸モータ制御部86から取得する。冷却液制御部87は、アンプ94に送信する主軸モータ35の動作指令の回転速度を取得する。または、冷却液制御部87は、エンコーダ36の出力値を取得しても構わない。冷却液制御部87は、第1の温度センサ43から第1の冷却液の温度を取得する。
【0054】
冷却液制御部87は、第1の冷却液の温度が回転速度に基づく目標温度に近づくように、第1の冷却液の温度を調整する。冷却液制御部87は、第1の冷却液供給装置41を制御する。たとえば、第1の冷却液の温度を上げる場合には、冷却液制御部87は、第1の冷却液供給装置41の冷却能力を低下させる制御を実施することができる。または、ヒータを駆動して第1の冷却液の温度を上昇させても構わない。
【0055】
第1の温度制御により、回転速度がNtよりも大きな領域において、主軸モータ35の回転速度が大きくなるほど、ハウジング12およびリアハウジング13の温度を上昇させることができる。ハウジング12およびリアハウジング13の膨張量を大きくすることができる。
【0056】
図3には、本実施の形態の主軸装置10において第1の温度制御を実施した時の実施例のグラフが示されている。この実施例では、回転速度がNtよりも大きな領域において、第1の冷却液の温度を変化させる一方で、第2の冷却液の温度を基準温度Tr2に維持する制御が実施されている。回転速度がNtよりも大きな領域において、ハウジング12およびリアハウジング13の膨張を促進することができる。第1の温度制御を実施することにより、回転速度がNtよりも大きな領域で、軸受16a,16b,17に加わる圧力の上昇を効果的に抑制できることが分かる。
【0057】
図1および
図2を参照して、本実施の形態においては、第2の冷却液供給装置42により、主軸14に供給する第2の冷却液の温度を調整することができる。冷却液制御部87は、第2の流路25,26に供給する冷却液の温度を変化させる第2の温度制御を実施することができる。なお、本実施の形態では、第2の冷却液の流量を一定に制御しているが、この形態に限られず、第2の冷却液の流量を変化させても構わない。
【0058】
図5を参照して、第2の温度制御において、冷却液制御部87は、主軸モータ35の回転速度がNt以下の領域では、回転速度に依存せずに、第2の冷却液の温度を一定に維持する制御を実施する。ここでの例では、第2の冷却液の目標温度が基準温度Tr2に維持される。
【0059】
主軸モータ35の回転速度がNtよりも大きな領域では、冷却液制御部87は、主軸モータ35の回転速度が大きくなるほど第2の冷却液の温度が低くなるように制御する。すなわち、冷却液制御部87は、主軸モータ35の回転速度が大きくなるほど、基準温度Tr2からの温度低下幅を大きくする制御を行うことができる。このように、第2の温度制御は、主軸モータ35の回転速度に応じて第2の冷却液の温度を低下させる制御を含む。
【0060】
図1、
図2、および
図5を参照して、冷却液制御部87は、第2の温度センサ44から第2の冷却液の温度を取得する。冷却液制御部87は、第2の冷却液の温度が目標温度に近づくように、第2の冷却液の温度を調整する。冷却液制御部87は、第2の冷却液供給装置42を制御する。例えば、第2の冷却液の温度を下げる場合には、冷却液制御部87は、第2の冷却液供給装置42の冷却能力を上昇させる制御を実施することができる。
【0061】
図3には、本実施の形態の主軸装置10において、第1の温度制御および第2の温度制御を実施した時の実施例のグラフが示されている。この実施例では、回転速度がNtよりも大きな領域において、第1の冷却液の温度を上昇させると共に第2の冷却液の温度を低下させている。回転速度が大きくなるほど、第1の冷却液の温度と第2の冷却液の温度との差が大きくなる。回転速度がNtよりも大きな領域において、ハウジング12およびリアハウジング13の膨張を促進することができる。また、回転速度がNtよりも大きな領域において、主軸14の膨張を抑制することができる。この結果、軸受16a,16b,17に加わる圧力の上昇を効果的に抑制することができる。
【0062】
本実施の形態の主軸装置10は、第1の冷却液供給装置41および第2の冷却液供給装置42を備えるが、この形態に限られず、主軸装置は、第1の冷却液供給装置および第2の冷却液供給装置のうち、少なくとも一方を備えることができる。第1の冷却液供給装置を備える主軸装置は、第1の温度制御を実施することができる。第2の冷却液供給装置を備える主軸装置は、第2の温度制御を実施することができる。または、主軸装置は、冷却液供給装置を備えていなくても構わない。
【0063】
上記の第1の温度制御および第2の温度制御においては、主軸モータ35の回転速度がNtよりも大きな領域において冷却液の目標温度を変化させているが、この形態に限られず、任意の回転速度の領域において冷却液の目標温度を変化させることができる。例えば、第1の温度制御では、全ての回転速度の領域において、回転速度が大きくなるほど第1の冷却液の目標温度を大きくしても構わない。第2の温度制御では、全ての回転速度の領域において、回転速度が大きくなるほど第2の冷却液の目標温度を小さくしても構わない。
【0064】
主軸を支持する転がり軸受としては、任意の種類の転がり軸受を採用することができる。例えば、アンギュラー軸受およびコロ軸受などの転がり軸受を採用することができる。
【0065】
本実施の形態の主軸装置は、工具を保持するが、この形態に限られない。主軸装置は、ワークを保持しても構わない。主軸装置がワークを保持する工作機械としては、旋盤を例示することができる。旋盤では、主軸装置がワークを保持して回転させる一方で、移動装置がワークに対して工具を相対的に移動させることができる。
【0066】
上記の実施の形態は、適宜組み合わせることができる。上述のそれぞれの図において、同一または相等する部分には同一の符号を付している。なお、上記の実施の形態は例示であり発明を限定するものではない。また、実施の形態においては、請求の範囲に示される形態の変更が含まれている。
【符号の説明】
【0067】
10 主軸装置
12 ハウジング
13 リアハウジング
14 主軸
16a,16b,17 軸受
18 工具
21,23,25,26 流路
35 主軸モータ
36 エンコーダ
41,42 冷却液供給装置
43,44 温度センサ
82 制御装置
86 主軸モータ制御部
87 冷却液制御部