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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】炎症性障害の治療療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20220128BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20220128BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20220128BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220128BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220128BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220128BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20220128BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20220128BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20220128BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20220128BHJP
   A61P 25/32 20060101ALI20220128BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220128BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20220128BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20220128BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20220128BHJP
   C07K 16/24 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
A61K39/395 D ZNA
A61K47/42
A61K47/02
A61K9/08
A61P43/00 111
A61P29/00
A61P31/04
A61P1/04
A61P31/00
A61P37/06
A61P25/32
A61P9/10
A61P37/08
A61K47/46
A23L33/18
C07K16/24
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2019533211
(86)(22)【出願日】2018-01-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-05
(86)【国際出願番号】 GB2018050244
(87)【国際公開番号】W WO2018138524
(87)【国際公開日】2018-08-02
【審査請求日】2019-09-11
(31)【優先権主張番号】1701404.4
(32)【優先日】2017-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】511203226
【氏名又は名称】マイクロファーム・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】MICROPHARM LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ランドン,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】コクソン,ルース エリザベス
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-527957(JP,A)
【文献】国際公開第2001/030373(WO,A1)
【文献】特表平08-511015(JP,A)
【文献】特開2011-024581(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0071795(US,A1)
【文献】Expert Opin. Investig. Drug, 2011, Vol.20, No.11, pp.1555-1564
【文献】Journal of Chromatography B, 2007, Vol.848, pp.2-7
【文献】Veterinary Immunology and Immunopathology, 2016, Vol.174, pp.50-63
【文献】Nutrition Journal, 2015, Vol.14, Article No.22, pp.1-8
【文献】American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine, 1995, Vol.152, No.2, pp.480-488
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
A61K 38/00-38/58
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A23L 33/00-33/29
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト腫瘍壊死因子α(TNFα)に結合するインタクトな血液由来ポリクローナル抗体と、胃腸通過時の前記抗体の保護手段と、を含み、前記インタクトな血液由来ポリクローナル抗体がヒツジインタクトな血液由来ポリクローナル抗体であり、前記抗体の保護手段が少なくともプロテアーゼ阻害剤及び/又は1もしくは複数の制酸剤を含む、経口投与用抗体組成物。
【請求項2】
前記プロテアーゼ阻害剤がタンパク質のボーマン・バーク阻害剤ファミリーから選択される1種以上である、請求項1に記載の抗体組成物。
【請求項3】
前記組成物が液体剤として製剤化される、請求項1又は2に記載の抗体組成物。
【請求項4】
前記抗体の前記保護手段が、卵白から取得可能な手段を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体組成物。
【請求項5】
前記抗体の前記保護手段が、卵白、好ましくは粉末卵白を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体組成物。
【請求項6】
前記抗体の前記保護手段が、
a.トリプシン及び/又はキモトリプシンに特異的に結合し、それらのタンパク質分解活性を抑制又は不活性化するポリペプチド、及び/又は
b.トリプシン及び/又はキモトリプシンに結合し、前記トリプシン及び/又はキモトリプシンのプロテアーゼ活性を抑制又は不活性化する抗体、及び/又は
c.制酸剤
の1つ以上を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の抗体組成物。
【請求項7】
前記組成物が、制酸剤及び、
a.トリプシン及び/又はキモトリプシンに特異的に結合し、それらのタンパク質分解活性を抑制又は不活性化するポリペプチド、及び/又は
b.トリプシン及び/又はキモトリプシンに結合し、前記トリプシン及び/又はキモトリプシンのプロテアーゼ活性を不活性化する抗体
を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体組成物。
【請求項8】
前記手段が、オボムコイド、オボスタチン、オボマクログロブリン、又はそれらの組合せの1つ以上を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体組成物。
【請求項9】
前記組成物に存在する全抗体の少なくとも5%がTNFαに結合する、請求項1~8のいずれか一項に記載の抗体組成物。
【請求項10】
前記組成物に存在する全抗体の少なくとも10%がTNFαに結合する、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体組成物。
【請求項11】
経口投与用抗体組成物の製造方法であって、
a.ヒト腫瘍壊死因子α(TNFα又はその断片を含む免疫原が投与されたヒツジ非ヒト哺乳動物から得られた血液サンプルであって、ヒト腫瘍壊死因子α(TNFα)に結合するインタクトな血液由来ポリクローナル抗体を含む血液サンプルを提供すること;
b.前記血液サンプルをさらに処理して血清をること;
c.インタクトな血液由来ポリクローナル抗体を前記血清から得ること;及び
d.血液由来ポリクローナル抗体と、胃腸通過時の前記抗体の保護手段であって、少なくともプロテアーゼ阻害剤及び/又は1もしくは複数の制酸剤を含む保護手段とを混和すること、
を含む、方法。
【請求項12】
硫酸ナトリウム沈殿又はカプリル酸沈殿を用いて抗体を精製することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記抗体組成物が被験体に経口投与される、炎症性障害の治療に使用するための請求項1~10のいずれか一項に記載の抗体組成物。
【請求項14】
前記抗体及び前記抗体の前記保護手段が同時に投与される、請求項13に記載の使用のための抗体組成物。
【請求項15】
前記抗体及び前記抗体の前記保護手段が個別に投与される、請求項13又は14に記載の使用のための抗体組成物。
【請求項16】
前記炎症性障害が敗血症性ショックである、請求項13~15のいずれか一項に記載の使用のための抗体組成物。
【請求項17】
前記炎症性障害が胃腸障害、好ましくは腸障害である、請求項13~16のいずれか一項に記載の使用のための抗体組成物。
【請求項18】
前記炎症性障害が、炎症性腸疾患、腸感染症、移植片対宿主障害、次の原因:非ステロイド系抗炎症薬剤、ストレス、アルコール、腸手術、虚血・再灌流、食物アレルギー、又はそれらの組合せに起因する障害である、請求項13~17のいずれか一項に記載の使用のための抗体組成物。
【請求項19】
前記炎症性障害が、潰瘍性結腸炎、クローン病、又はそれらの組合せから選択される炎症性腸疾患である、請求項13~18のいずれか一項に記載の使用のための抗体組成物。
【請求項20】
前記抗体組成物が1日2g以下の用量で被験体に投与される、請求項13~19のいずれか一項に記載の使用のための抗体組成物。
【請求項21】
前記抗体組成物が1日1g以下の用量で被験体に投与される、請求項13~20のいずれか一項に記載の使用のための抗体組成物。
【請求項22】
炎症性障害を治療するための医薬の製造における請求項1~10記載の抗体組成物の使用であって、前記抗体組成物が被験体に経口投与される、使用。
【請求項23】
請求項1~10いずれか一項に記載の抗体組成物とその使用説明書とを含むキット。
【請求項24】
請求項1~10いずれか一項に記載の抗体組成物を含む食材。
【請求項25】
前記食材が、酪農産物、好ましくはヨーグルト、チーズ、又はミルクから選択される酪農産物である、請求項24に記載の食材。
【請求項26】
プロバイオティック及び任意選択的にプレバイオティックをさらに含む、請求項24又は25に記載の食材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性障害の治療に使用するのに好適な抗体療法剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍壊死因子α(TNFα)は、全身性炎症を媒介する主なサイトカインであり、敗血症性ショックをはじめとするいくつかの疾患及び障害さらには炎症性腸疾患などの胃腸障害に関与する。
【0003】
慢性炎症性腸疾患(IBD)の2つの主要な形態は、潰瘍性結腸炎(UC)及びクローン病(CD)である。UC及びCDは、欧州及び北米で500万を超える人々に罹患し、それらの発生率は地球規模で増加しつつある。両方とも、腸壁における可溶性TNFα及び膜結合TNFαの両方のレベルの著しい上昇により特徴付けられる腸免疫恒常性の調節不全の結果である。これらの疾患の慢性性が理由で、長期療法が必要となる。このことを考慮して、現在の抗体療法剤は、TNFαに対するモノクローナル抗体の全身投与に依拠する。かかるモノクローナル抗体は、患者の体液性免疫反応の誘導を回避するという視点から、典型的にはキメラであるか又はヒト化される。動物由来のポリクローナル抗体の使用は、かかる反応をトリガーするリスクがあるため回避されてきた。現在広範に使用されている3種のモノクローナル抗体は、キメラのネズミインフリキシマブ並びに完全ヒト化されたアダリムマブ及びエタネルセプトである。インフリキシマブは静脈内に注入されるが、他の2種は静脈内に注入される。
【0004】
抗体の全身使用は注入反応を伴うものあり、静脈内注入は、通常、病院での短期滞在を必要とするので、かかる治療は外来患者にとって不便である。そのほか、全身投与されたMcAb(分子量約150,000Da)が血液から組織液に移ってから胃腸管の層を横切って上皮の炎症内層に達する効率にも問題がある。さらに、TNFαは、感染から患者を保護するうえで全身的に重要な炎症誘発の役割を果たすサイトカインであるので、抗TNFα抗体の長期全身投与は、結核、日和見感染、脱髄疾患の再活性化、及びリンパ腫の長期リスクをはじめとする重篤な副作用の発生率の増加を伴う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した問題の少なくとも1つを解決する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、驚くべきことに、TNFαに結合するインタクトな血液由来抗体が、経口投与に供すべく好適に製剤化された場合、IBDなどの炎症性障害に対する改善された療法剤になることを見いだした。
【0007】
本発明の組成物で製剤化された血液由来のポリクローナルTNFα抗体は、驚くべきことに、経口投与された場合、従来法で製造された抗体(たとえば、乳由来の抗体)と比較して改善された有効性を呈するとともに改善された特異的力価を呈する。
【0008】
特定的には、ヒツジ宿主又はウマ宿主(好ましくはヒツジ宿主)で製造された且つ本発明の組成物で製剤化されたポリクローナルTNFα抗体は、驚くべきことに、経口投与された場合、従来法で製造された抗体と比較して改善された有効性及び改善された特異的力価を呈する。
【0009】
追加的又は代替的に、本発明のポリクローナル抗体は、被験体に経口投与された場合、全身投与された従来の抗体(たとえばモノクローナル抗体)と比較して副作用(たとえば体液性免疫反応副作用)をまったく引き起こさないか又は大幅に低減する。そのため、本発明の組成物は、全身投与される抗体組成物とは異なり、長期の治療的使用に好適である。
【0010】
さらなる利点として、前記ポリクローナル抗体の製造は、従来のモノクローナル抗体よりもはるかに経費がかからない。そのため、本発明は、スケーラブルな及び/又は費用効率の高い療法剤を提供する。
【0011】
次に、添付の図面を参照しながら、単なる例として、本発明の実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】カプリル酸(▲)又は硫酸ナトリウム(■)のいずれかで精製されたインタクトな抗TNFαによるウシトリプシンの阻害を示す。TNFα抗血清(●)は対照として使用した。
図2】抗血清(●)中の抗TNFαIgG及びカプリル酸沈殿(▲)により精製されたIgGを検出する直接ELISAの結果を示す。
図3】L929細胞を用いて抗TNFα断片(■)、インタクトな抗TNFα(▲)、及びTNFα抗血清(●)の中和活性を試験する免疫細胞傷害性アッセイ(ICTA)の結果を示す。開始濃度:抗TNFα断片-50mg/ml、インタクトな抗TNFα-210mg/ml、TNFα抗血清タンパク質濃度-86mg/ml。
図4】インタクトなヒツジ血液由来PcAb(抗ヒトTNFαIgG)及びモノクローナル抗体インフリキシマブによるネズミTNFαへの結合を比較したELISAの結果を示す。抗ヒトTNFαIgG(●)、インフリキシマブ(■)、及び陰性対照(PCB)(▲)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
一態様では、本発明は、ヒト腫瘍壊死因子α(TNFα)に結合するインタクトな血液由来ポリクローナル抗体を含む経口投与用抗体組成物及び胃腸通過時の抗体の保護手段を提供する。
【0014】
有利には、TNFαに対する血液由来ポリクローナル抗体は、同一の宿主の血液から前記宿主を屠殺することなく複数回得ることが可能である。このことは、限られた期間(たとえばある一時期)にのみ抗体を産生するにすぎないウシ初乳などの供給源を用いた従来の方法とは対照的である。
【0015】
血液由来抗体は、非ヒト哺乳動物から取得可能でありうる。
【0016】
本明細書で用いられる「取得可能」という用語は、「得られる」という用語も包含する。一実施形態では、「取得可能」という用語は、得られることを意味する。
【0017】
好ましくは、抗体は、ヒツジ又はウマのポリクローナル抗体である。
【0018】
より好ましくは、抗体は、ヒツジポリクローナル抗体である(たとえば、ヒツジから取得可能である)。
【0019】
そのため、一態様では、ヒト腫瘍壊死因子α(TNFα)に結合するインタクトなヒツジポリクローナル抗体を含む経口投与用抗体組成物及び胃腸通過時の抗体の保護手段が提供される。
【0020】
本発明の抗体は、ヒト腫瘍壊死因子α(TNFα)に結合して中和する。抗体は、非ヒトTNFα又は代替抗原に対するよりも高い結合親和性でヒトTNFαに結合する。一実施形態では、本発明の抗体は、少なくとも10-4M又は少なくとも10-5Mの親和性(解離定数:Kにより測定される)でヒトTNFαに結合する。一実施形態では、本発明の抗体、少なくとも10-6M又は10-7Mの親和性(K)でヒトTNFαに結合しうる。好適には、本発明の抗体、少なくとも10-8M又は10-9Mの親和性(K)でヒトTNFαに結合しうる。
【0021】
代替的又は追加的に、抗体結合親和性は、会合定数(K)を介して測定しうる。一実施形態では、本発明の抗体は、少なくとも10Mの親和性(会合定数:Kにより測定される)でヒトTNFαに結合する。好適には、本発明の抗体は、少なくとも少なくとも10M(たとえば、少なくとも10M)の親和性(会合定数:Kにより測定される)でヒトTNFαに結合する。
【0022】
抗体結合は、実施例3に記載のアッセイを用いて試験可能である。中和は、実施例4に記載のアッセイを用いて試験可能である。より詳細には、抗体組成物は、L929マウス線維肉腫細胞系に及ぼすTNFαの細胞傷害作用の中和を試験するためにアッセイ可能である。
【0023】
驚くべきことに、ヒトTNFα(又はその精製画分)で免疫された非ヒト哺乳動物(好ましくは、ヒツジ及び/又はウマ非ヒト哺乳動物)から取得可能な血液由来抗体は、他の非血液由来源(たとえば、トリ源[たとえば卵黄由来]又はウシ源、たとえば乳)と比較してヒトTNFαに特異的な抗体をはるかに高濃度で含有する。いくつかの場合には、前記血液(たとえば、血清若しくは血漿)中又はそれらの精製画分中の特異的抗体の濃度は100倍高い。
【0024】
一実施形態では、ヒトTNFα(又はその精製画分)で免疫された宿主(たとえば非ヒト哺乳動物)から取得可能な血液サンプルに含まれる全抗体の少なくとも5%(好適には少なくとも10%)は、ヒトTNFαに結合する。他の一実施形態では、ヒトTNFα(又はその精製画分)で免疫された宿主(たとえば非ヒト哺乳動物)から取得可能な血液サンプルに含まれる全抗体の少なくとも15%又は20%(好適には少なくとも25%又は少なくとも30%)は、ヒトTNFαに結合する。
【0025】
一実施形態では、ヒトTNFα(又はその精製画分)で免疫されたヒツジから取得可能な抗血清に含まれる全抗体の少なくとも5%(好適には少なくとも10%)は、ヒトTNFαに結合する。他の一実施形態では、ヒトTNFα(又はその精製画分)で免疫されたヒツジから取得可能な抗血清に含まれる全抗体の少なくとも15%又は20%(好適には少なくとも25%又は少なくとも30%)は、ヒトTNFαに結合する。
【0026】
一実施形態では、ヒトTNFα(又はその精製画分)で免疫されたウマから取得可能な血漿に含まれる全抗体の少なくとも5%(好適には少なくとも10%)は、ヒトTNFαに結合する。他の一実施形態では、ヒトTNFα(又はその精製画分)で免疫されたウマから取得可能な血漿に含まれる全抗体の少なくとも15%又は20%(好適には少なくとも25%又は少なくとも30%)は、ヒトTNFαに結合する。
【0027】
一実施形態では、抗体組成物は、5~100g/L又は10~75g/Lの濃度でインタクトなポリクローナル抗体を含む。一実施形態では、抗体組成物は、20~75g/L又は35~60g/Lの濃度でインタクトなポリクローナル抗体を含む。好適には、抗体組成物は、少なくとも約20又は50g/Lのインタクトなポリクローナル抗体を含みうる。参照される濃度は、インタクトな全ポリクローナル抗体、好適にはインタクトな全ポリクローナルIgG(すなわち、TNFαに結合する抗体さらには結合しない抗体を含む)の濃度でありうる。一実施形態では、以上の実施形態は、TNFαに結合するインタクトなポリクローナル抗体に関する。好ましくは、参照される抗体はヒツジポリクローナル抗体である。
【0028】
「抗体」とは、少なくとも1つ又は2つの重(H)鎖可変領域(本明細書ではVHCと略記される)と、少なくとも1つ又は2つの軽(L)鎖可変領域(本明細書ではVLCと略記される)と、を含むタンパク質のことである。VHC及びVLCの領域は、「フレームワーク領域」(FR)と称されるより保存された領域が介在する「相補性決定領域」(「CDR」)と称される超可変性領域にさらに細分可能である。フレームワーク領域及びCDRの範囲は、正確に定義されている(Kabat, E.A., et al. Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, U.S. Department of Health and Human Services, NIH Publication No. 91-3242, 1991、及びChothia, C. et al, J. MoI. Biol. 196:901-917, 1987(参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。好ましくは、各VHC及びVLCは、3つのCDR及び4つのFRで構成され、アミノ末端からカルボキシ末端の方向に次の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配置される。
【0029】
抗体のVHC又はVLCの鎖は、重鎖又は軽鎖の定常領域の全部又は一部をさらに含みうる。一実施形態では、抗体は、2つの免疫グロブリン重鎖及び2つ免疫グロブリン軽鎖のテトラマーであり、免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖は、たとえばジスルフィド結合により相互接続される。重鎖定常領域は、3つのドメインCH1、CH2、及びCH3を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメインCLで構成される。重鎖及び軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含有する。抗体の定常領域は、典型的には、免疫系の各種細胞(たとえばエフェクター細胞)及び古典補体系の第1成分(CIq)をはじめとする宿主組織又は因子への抗体の結合を媒介する。「抗体」という用語は、タイプIgA、IgG、IgE、IgD、IgM(さらにはそれらのサブタイプ)のインタクトな免疫グロブリンを含み、免疫グロブリンの軽鎖は、タイプκ又はλでありうる。好ましくは、本発明の抗体はインタクトなIgGである。
【0030】
「インタクトな抗体」という用語は、本明細書では、本発明の抗体と抗体フラグメント(たとえば、抗体Fab、F(ab)、又はFc)とを識別するために用いられる。したがって、「インタクトな抗体」は、完全長抗体(たとえば、ヒツジから取得可能なもの)に存在する抗体領域/ドメインの各々を含む(又はそれらからなる)。「インタクトな抗体」のモノマーは、2つの重鎖及び2つの軽鎖を含む(又はそれらからなる)。重鎖は各々、VHドメイン、CH1ドメイン、CH2ドメイン、及びCH3ドメインを含む(又はそれらからなる)。軽鎖は各々、CLドメイン及びVLドメインを含む(又はそれらからなる)。
【0031】
そのため、本発明の抗体組成物は、抗体フラグメント(たとえば、Fab、F(ab)、又はFcフラグメント)をまったく又は実質的にまったく含まない。これに関連して用いられる「実質的にまったく~ない」という用語は、本発明の組成物に含まれる抗体の全濃度の5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、又は0.01%未満が抗体フラグメントであることを意味する。逆に言えば、一実施形態では、組成物に含まれる抗体の全濃度の少なくとも95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%、99.99%、又は100%(好適には100%)は、インタクトな抗体である。一実施形態では、ポリクローナル抗体は、汚染抗体フラグメントから精製及び/又は単離しうる。
【0032】
有利には、本発明のインタクトな抗体は、改善されたTNFα結合能(実施例3)及び/又は中和能(実施例4)により実証されるように、抗体フラグメントと比較して改善されたTNFα結合及び/又は中和を実証する。さらに、本発明のインタクトな抗体は、追加の処理工程及び/又は精製工程を必要とする抗体フラグメントよりもはるかに製造経費がかからない。
【0033】
一態様では、本発明は、ヒト腫瘍壊死因子α(TNFα)に結合するインタクトな血液由来ポリクローナル抗体の製造方法を提供し、前記方法は、ヒトTNFα又はその断片を含む免疫原が投与された非ヒト哺乳動物から血液サンプルを得ることを含む。血液サンプルは、ヒトTNFαに結合するインタクトなポリクローナル抗体を含む。発明はまた、前記方法により取得可能な抗体に関する。
【0034】
血液サンプルは、たとえば、血清又は血漿を得るためにさらに処理しうる。したがって、抗体は、血清又は血漿から取得可能でありうる。非ヒト哺乳動物がヒツジである実施形態では、抗体は、血清から取得可能でありうる。非ヒト哺乳動物がウマである実施形態では、抗体は、血漿から取得可能でありうる。
【0035】
本明細書で用いられる「血液由来」という用語は、抗体が前記抗体の産生に使用される宿主(たとえば非ヒト哺乳動物)の血液から得られることを意味する。典型的には、血液由来抗体は、ヒトTNFα又はその断片を前記宿主(たとえば非ヒト哺乳動物)の皮下、筋肉内、腹腔内、及び/又は静脈内に投与することにより得られうる。
【0036】
一実施形態では、血液サンプル(たとえば血清)は、ヒトTNFαに結合する抗体を少なくとも1、2、3、4、5、6、7、又は8g/L、好ましくはヒトTNFαに結合する抗体を少なくとも3又は少なくとも5g/L含む。
【0037】
一実施形態では、血液サンプル(たとえば血清)は、ヒトTNFαに結合する抗体を約1~約12g/L、たとえばヒトTNFαに結合する抗体を約3~約9g/L含む。
【0038】
本方法は、血液由来ポリクローナル抗体と胃腸通過時に前記抗体の保護手段とを混和することをさらに含みうる。
【0039】
一実施形態では、血液サンプルは、少なくとも1×10L/mol、好ましくは少なくとも1×1010L/molの結合活性でヒトTNFαに結合する抗体を含む。
【0040】
好ましくは、非ヒト哺乳動物はヒツジ非ヒト哺乳動物である。
【0041】
ヒツジ抗体とは、ヒツジで産生された抗体のことである。ヒトTNFαに結合する血液由来抗体の産生宿主としてヒツジを使用すると、いくつかの利点がもたらされる。ヒツジ血液(たとえば血清)に存在するヒトTNFαに結合する抗体の濃度は、時間が経っても実質的に一定の状態を維持し、特異的抗体の最大濃度を得てから濃度が半分になるまでに典型的には約6ヶ月かかることを、本発明者らは見いだした。そのため、ヒトTNFαで頻繁に再免疫する必要性は回避/最小化される。そのほか、特異的抗体の濃度が実質的に一定であるので、高収率の血液由来抗体が毎年得られるようになる。これとは対照的に、乳(たとえばウシ乳)、卵、又は初乳を使用すると、毎年の抗体収率がかなり低くなることを、本発明者らは見いだした。さらに、免疫化スケジュールの実質的に任意の時点で(最大抗体濃度に達した後)、高濃度の特異的抗体を毎年得ることが可能である。このことは、血中の特異的抗体の濃度が変動する他の非ヒト哺乳動物とは対照的であり、その場合には、抗体濃度を測定して、特異的抗体濃度が高いときにのみ血液サンプルが得られることを確認することが必要である。したがって、産生宿主としてヒツジを使用することにより、この追加の工程の除去及び/又は製造方法の予測不能性の除去がなされる。
【0042】
そのほか、本発明者らは、ヒツジ間の特異的血液由来抗体の濃度に一貫性があることを示した。
【0043】
さらに、ヒツジは、先進世界では豊富であり、他の非ヒト哺乳動物と比較して作業が容易である。
【0044】
そのため、一実施形態では、非ヒト哺乳動物は、前記非ヒト哺乳動物にヒトTNFα又はその断片を含む免疫原が投与された後、ヒトTNFαに結合するポリクローナル抗体の血中濃度が実質的に一定である非ヒト哺乳動物(たとえばヒツジ)である。
【0045】
これに関連して用いられる「実質的に一定」という用語は、ヒトTNFαに結合するポリクローナル抗体の血中濃度が、前記抗体の最高血中濃度に達した後、6ヶ月以内に及び/又はそれまでに(好ましくは6ヶ月以内に及びそれまでに)、前記抗体の最高血中濃度(100%)の75%以下(好ましくは70%、65%、又は60%以下、より好ましくは55%以下(たとえば50%以下))の減少を示すことを意味する。
【0046】
代替的又は追加的に、これに関連して用いられる「実質的に一定」という用語は、ヒトTNFαに結合するポリクローナル抗体の最高血中濃度(100%)に達した後、6ヶ月以内に及び/又はそれまでに(好ましくは6ヶ月以内に及びそれまでに)、前記ポリクローナル抗体の血中濃度は、最高値の少なくとも20%、好ましくは少なくとも25%、30%、35%、又は40%、より好ましくは少なくとも45%(たとえば約50%)であることを意味しうる。
【0047】
一実施形態では、ヒトTNFαに結合するポリクローナル抗体の最高血中濃度は、免疫化の少なくとも10週間後、たとえば、免疫化の少なくとも11週間後に生じる。好ましくは、ヒトTNFαに結合するポリクローナル抗体の最高血中濃度は、免疫化の約12週間後に生じる。
【0048】
そのため、本発明は、本発明の組成物に使用されるヒツジ抗体の産生方法を含む。前記方法は、典型的には、
i. ヒトTNFα又はその断片を含む免疫原をヒツジに投与することと、
ii. 十分な時間をかけてヒツジで抗体を発生させることと、
iii. ヒツジから抗体を得ることと、
を含む。
【0049】
本明細書で用いられる「ヒツジ(sheep)」という用語は、「ヒツジ(ovine)」という用語と同義である。本明細書で用いられる場合、ヒツジは、オビス(Ovis)属(たとえば、オビス・アンモン(Ovis ammon)、オビス・オリエンタリス・アリエス(Ovis orientalis aries)、オビス・オリエンタリス・オリエンタリス(Ovis orientalis orientalis)、オビス・オリエンタリス・ビグネイ(Ovis orientalis vignei)、オビス・カナデンシス(Ovis Canadensis)、オビス・ダリ(Ovis dalli)、オビス・ニビコラ(Ovis nivicola))に含まれる任意の種を含む。
【0050】
本明細書で用いられる「ヒツジ抗体」という用語は、ヒツジで産生された抗体に対して少なくとも85%、90%、95%、又は99%のアミノ酸配列同一性を有する抗体である。好ましくは、本明細書で用いられる「ヒツジ抗体」は、ヒツジで産生された抗体に対して100%のアミノ酸配列同一性を有する抗体である。
【0051】
一実施形態では、本発明の組成物は、ヒツジ抗体のみを含むので、非ヒツジ源からの抗体を除外する。
【0052】
抗体は、典型的には、ヒツジ血清から取得可能である。そのため、本明細書に記載のヒツジ抗体の産生方法は、ヒトTNFαへの結合及び/又はその中和が可能な抗体を含むヒツジ抗血清を生成する。一実施形態では、抗体は、単離及び/又は精製され、たとえば、ヒツジ抗血清から単離及び/又は精製される。
【0053】
好ましくは、非ヒト哺乳動物はウマ非ヒト哺乳動物である。
【0054】
ウマ抗体とは、ウマで産生された抗体のことである。有利には、ヒトTNFαに結合する血液由来抗体は、産生宿主としてウマを用いることにより、高収率で毎年得ることが可能である。さらに、ウマ血液細胞は、サンプル採取時に迅速に沈降するので、血漿を得るときに時間のかかる遠心分離工程を必要としないことが判明した。
【0055】
非ヒト哺乳動物がウマ非ヒト哺乳動物である実施形態では、製造方法は、血液サンプルから血漿を得ることと、前記サンプルからの血液細胞を前記ウマ非ヒト哺乳動物に戻すことと、を含みうる。好適には、血液細胞は、血液サンプルを得た後、24時間未満、12時間未満、6時間未満、1時間、又は30分間未満で戻しうる。
【0056】
そのため、本発明は、本発明の組成物に使用されるウマ抗体の産生方法を含む。前記方法は、典型的には、
i. ヒトTNFα又はその断片を含む免疫原をウマに投与することと、
ii. 十分な時間をかけてウマで抗体を発生させることと、
iii. ウマから抗体を得ることと、
を含む。
【0057】
本明細書で用いられる「ウマ(horse)」という用語は、「ウマ(equine)」という用語と同義である。本明細書で用いられる場合、ウマは、エクウス(Equus)属に含まれる任意の種を含む。好ましくは、ウマは、エクウス・フェルス(Equus ferus)種の1つ以上の亜種、たとえば、エクウス・フェルス・カバルス(Equus ferus caballus)である。
【0058】
本明細書で用いられる「ウマ抗体」という用語は、ウマで産生された抗体に対して少なくとも85%、90%、95%、又は99%のアミノ酸配列同一性を有する抗体である。
【0059】
好ましくは、本明細書で用いられる「ウマ抗体」は、ウマで産生された抗体に対して100%のアミノ酸配列同一性を有する抗体である。
【0060】
一実施形態では、本発明の組成物は、ウマ抗体のみを含むので、非ウマ源からの抗体を除外する。
【0061】
抗体は、典型的には、ウマ血漿から取得可能である。そのため、本明細書に記載のウマ抗体の産生方法は、ヒトTNFαへの結合及び/又はその中和が可能な抗体を含むウマ血漿を生成する。一実施形態では、抗体は、単離及び/又は精製され、たとえば、ウマ血漿から単離及び/又は精製される。
【0062】
本発明の抗体の発生に使用される免疫原は、任意選択的に精製されたヒトTNFαである。本明細書で用いられる「ヒトTNFα」という用語は、全長ヒトTNFα、その変異体、又はそれらの断片を包含する。好ましくは、「ヒトTNFα」という用語は、全長ヒトTNFαを意味する。好適には、ヒトTNFαは、組換えヒトTNFαでありうる。
【0063】
免疫原は、配列番号1を含む(又はそれからなる)ヒトTNFαでありうる。一実施形態では、免疫原は配列番号1の断片である。一実施形態では、免疫原は、配列番号1に対して少なくとも70%(好適には少なくとも80%)の配列同一性を有するヒトTNFα変異体(又はその断片)である。好適には、免疫原は、配列番号1に対して少なくとも90%(好適には少なくとも95%)の配列同一性を有するヒトTNFα変異体(又はその断片)である。
【0064】
免疫原は、配列番号2を含む(又はそれからなる)ヒトTNFαでありうる。一実施形態では、免疫原は配列番号2の断片である。一実施形態では、免疫原は、配列番号2に対して少なくとも70%(好適には少なくとも80%)の配列同一性を有するヒトTNFα変異体(又はその断片)である。好適には、免疫原は、配列番号2に対して少なくとも90%(好適には少なくとも95%)の配列同一性を有するヒトTNFα変異体(又はその断片)である。
【0065】
一実施形態では、免疫原は配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、若しくは配列番号13、又はそれらに対して少なくとも70%の配列同一性(たとえば、それらに対して少なくとも80%の配列同一性)を有する配列を含む(又はそれらからなる)。一実施形態では、免疫原は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、又は配列番号13に対して少なくとも90%(たとえば、少なくとも95%)の配列同一性を有する配列を含む(又はそれらからなる)。一実施形態では、免疫原は、1つ以上の前記配列の断片又は変異体である。
【0066】
一実施形態では、「変異体」は、ペプチド又はペプチド断片のミミックでありうるとともに、ミミックは、ペプチド又はペプチド断片のエピトープを少なくとも1つ再生する。他の一実施形態では、「変異体」は、本明細書に記載の配列と比較して少なくとも1つのアミノ酸の突然変異又は改変を有するペプチド又はペプチド断片でありうる。一実施形態では、変異体は配列番号13である。
【0067】
本明細書で参照される「断片」は、1~156の任意の数のアミノ酸を有する配列番号1の断片でありうる。代替的又は追加的に、本明細書で参照される「断片」は、1~232の任意の数のアミノ酸を有する配列番号2の断片でありうる。断片は、好ましくは、ヒトTNFαのエピトープを少なくとも1つ含む。「断片」はまた、共通の抗原交差反応性及び/又はその由来源のヒトTNFαと実質的に同一のin vivo生物学的活性を有しうる。たとえば、断片に結合可能な抗体は、その由来源のヒトTNFαにも結合可能であろう。代替的に、断片は、ヒトTNFαの抗原成分にあらかじめ暴露されたTリンパ球の「リコール反応」を誘導する共通の能力を共有しうる。
【0068】
一実施形態では、断片は、配列番号1、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、若しくは配列番号12、又はそれらに対して少なくとも70%の配列同一性(たとえば、それらに対して少なくとも80%の配列同一性)を有する配列を含む(又はそれらからなる)。一実施形態では、断片は、配列番号1、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、又は配列番号12に対して少なくとも90%(たとえば少なくとも95%)の配列同一性を有する配列を含む(又はそれらからなる)。
【0069】
一実施形態では、免疫原又はその断片は、ヒトTNFαのN末端又はN末端断片(たとえば、配列番号1又は配列番号2)を含む(又はそれらからなる)。一実施形態では、N末端又はN末端断片は配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、若しくは配列番号7、又はそれらに対して少なくとも70%の配列同一性(たとえば、それらに対して少なくとも80%の配列同一性)を有する配列を含む(又はそれらからなる)。一実施形態では、N末端又はN末端断片は、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、又は配列番号7に対して少なくとも90%(たとえば少なくとも95%)の配列同一性を有する配列を含む(又はそれらからなる)。
【0070】
いくつかの実施形態では、本発明のポリクローナル抗体は、ネズミTNFαの交差反応性及び/又は中和を呈する。
【0071】
有利には、ヒトTNFαのN末端断片に結合する抗体は、改善された中和性を呈しうる。
【0072】
理論により拘束されることを望むものではないが、ヒトTNFαは、複数のエピトープを含む(又はそれらからなる)と考えられる。たとえば、ヒトTNFαモノマーは、少なくとも2つ又は3つのエピトープを含みうる。ヒトTNFαはまた、トリマー構造をとると考えられる。そのため、ヒトTNFαトリマーは、さらなるエピトープを含みうる。理論により拘束されることを望むものではないが、組成物の少なくとも5~15種の抗体(たとえば、10~15種の抗体)は、ヒトTNFαトリマーに結合しうると考えられる。好適には、組成物の約12種の抗体は、ヒトTNFαトリマーに結合しうる。
【0073】
本発明の抗体組成物はポリクローナル抗体を含むので、好ましくは、前記抗体組成物は抗体の集団を含み、集団は、ヒトTNFαの複数のエピトープ(好ましくは全エピトープ)に結合可能である。
【0074】
一実施形態では、本発明の抗体組成物は、ヒトTNFαの第1のエピトープに結合する第1の抗体と、ヒトTNFαの第2のエピトープに結合する第2の抗体と、を含む。好ましくは、本発明の抗体組成物は、ヒトTNFαの第3のエピトープに結合する第3の抗体を含む。好適には、本発明の抗体組成物は、ヒトTNFαの異なるさらなるエピトープに各々結合するさらなる抗体を含みうる。
【0075】
本発明の抗体組成物は、好適には、配列番号1及び/又は配列番号2に結合する抗体を含む。好適には、本発明の抗体組成物は、配列番号13に結合する抗体を含みうる。
【0076】
一実施形態では、抗体組成物は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、若しくは配列番号13、又はそれらに対して少なくとも70%の配列同一性(たとえば、それらに対して少なくとも80%の配列同一性)を有する配列の1つ以上(たとえば複数)に結合する抗体を含む。一実施形態では、抗体組成物は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、又は配列番号13に対して少なくとも90%(たとえば少なくとも95%)の配列同一性を有する1つ以上(たとえば複数)の配列に結合する抗体を含む。
【0077】
一実施形態では、抗体組成物は、ヒトTNFαのN末端に結合する抗体(たとえば、配列番号1又は配列番号2)を含む。一実施形態では、前記抗体は、1つ以上(たとえば、複数)の配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、若しくは配列番号7、又はそれらに対して少なくとも70%の配列同一性(たとえば、それらに対して少なくとも80%の配列同一性)を有する配列に結合する。一実施形態では、前記抗体は、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、又は配列番号7に対して少なくとも90%(たとえば少なくとも95%)の配列同一性を有する1つ以上(たとえば複数)の配列に結合する。
【0078】
複数の配列とは、前記配列の少なくとも2種(たとえば、少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は12種)を意味する。好適には、複数の配列という用語は、列挙された配列のすべてを意味する。
【0079】
抗原は、アジュバントと共に製剤化しうる。好適なアジュバントとしては、ミョウバン(リン酸アルミニウム又は水酸化アルミニウム)、サポニン(及びその精製成分キルA)、フロイント完全及び不完全アジュバント、RIBBIアジュバント、並びに研究及び獣医学的用途に使用される他のアジュバントが挙げられうる。
【0080】
本発明は、多種多様な免疫化スケジュールを企図する。一実施形態では、非ヒト哺乳動物(たとえば、ヒツジ又はウマ)は、0日目に免疫原が投与され、その後、続いて、インターバルを置いて免疫原を摂取する。必要とされるインターバル範囲及び投与量範囲は、とくに、免疫原の正確な性質、投与経路、及び製剤の性質に基づいて当業者であれば決定可能である。これらの投与量レベルの変動は、標準的な経験的最適化ルーチンを用いて調整可能である。同様に、本発明は、抗体採取のためにいずれかの特定のスケジュールに限定することが意図されるものではない。採集時点は、典型的には、56日目の後でありうる。特異的抗体のレベル、すなわち、免疫原に結合するレベルは、少なくとも2g/リットル血液、血清、又は血漿(たとえば、少なくとも3g/リットル血液、血清、又は血漿)で存在しうる。
【0081】
非ヒト哺乳動物(たとえば、ヒツジ又はウマ)から得られた抗体は、続いて精製しうるので、本明細書で参照される「精製画分」を提供する。一実施形態では、抗体は、沈殿、クロマトグラフィー、濾過、又はそれらの組合せにより精製しうる。選択される精製方法は、IgGの溶解状態の維持、阻害剤(たとえばα1-抗トリプシン)の共単離、アルブミンの共単離、又はそれらの組合せが可能なものでありうる。
【0082】
沈殿は、硫酸ナトリウム沈殿又はカプリル酸沈殿でありうる。好適には、沈殿は硫酸ナトリウム沈殿である。有利には、硫酸ナトリウム沈殿は、α1-抗トリプシンの共単離を可能にする。
【0083】
本発明のインタクトなポリクローナル抗体は、好適には、緩衝液を用いて製剤化される。緩衝液は、クエン酸ナトリウム及び/又はクエン酸などの生理的塩を含みうる。生理的塩は、100~200mM又は125~175mMの濃度で緩衝液中に存在しうる。好適には、緩衝液中の生理的塩は、約150mM(好ましくは153mM)の濃度で存在しうる。
【0084】
本発明の抗体組成物は、経口投与に供すべく製剤化される。経口投与される本発明の抗体組成物は、以下の予想外の利点の1つ以上を伴うことが判明した。
・ 抗体は、経口投与した場合、抗体製剤を静脈内とりわけ皮下又は筋肉内に投与した場合と比較して、より迅速に有効濃度で胃腸管の所望の領域に達する。
・ ポリクローナル抗体は、大部分がその標的に達するので、たとえば、ほとんどの抗体が血中及び生体の細胞外液区画内に残留する全身投与と比較して、有意により低い濃度(たとえば10%未満)の投与を可能にする。
・ 経口投与されたポリクローナル抗体は、体循環にまったく入ることなく胃腸管の管腔及び壁に限局されると考えられる。これには次の3つの主な利点がある。i.経口投与は、全身性免疫反応を引き起こさないので、本発明の組成物の投与は、体液性免疫反応を引き起こすことなく制限なく継続可能である。ii.同一の理由で、急性過敏性反応のリスクも遅延過敏性反応のリスクもない。また、iii.本発明のポリクローナル抗体は、全身に位置するTNFαを中和しないであろうから、悪性病変を含めて結核などの感染症及び他の合併症のリスクを回避する。
・ 経口製品は、精査の規制を受けることがかなり少ない。実際に、たとえば、ウマ、ヒツジ、又はウシの血漿の栄養サプリメント飲料としての消費は、経口投与時のその安全性に関するさらなる証拠を提供する。さらに、いくつかの経口抗体ベースの製品は、食品として扱われる。
・ 経口投与用抗体は、全身投与されるものほど精製及び安全性試験を必要としない。
・ 製造は、クリーンルーム設備の使用を必要としない。
・ 療法のコストは、本発明のポリクローナル抗体の比較的低い製造コスト、経口投与時に必要とされる抗体のより低い濃度、日帰り入院の必要性の回避、及び全身(たとえばIV)投与に必要とされる看護師/ヘルスケア専門家の時間の必要性の回避をはじめとする理由で、有意に削減される。及び/又は
・ 経口製剤は、改善された患者利便性を提供することにより、被験体自体の家庭及び被験体に便利な時間での投与を可能にする。また、被験体の大多数(とりわけ小児グループ)は、全身投与製品よりも心地よい風味付きの経口製品を受け入れやすい。
【0085】
経口送達に好適な組成物は、溶液剤、懸濁液剤、又は使用前に好適な媒体に溶解若しくは懸濁される乾燥粉末剤の形態でありうる。
【0086】
医薬製剤の調製時、抗体は、媒体に溶解し、そして、たとえば、無菌技術を用いて滅菌フィルターに通して濾過することにより滅菌し、その後、好適な無菌バイアル又はアンプルに充填し、そして密閉することが可能である。有利には、緩衝剤、可溶化剤、安定化剤、保存剤又は殺菌剤又は懸濁化剤、及び/又は局所麻酔剤などの添加剤を媒体に溶解させうる。
【0087】
使用前に好適な媒体に溶解又は懸濁される乾燥粉末剤は、無菌領域で無菌技術を用いて無菌容器にあらかじめ滅菌された成分を充填することにより調製しうる。代替的に、成分は、無菌領域で無菌技術を用いて好適な容器に溶解導入しうる。容器は無菌状態で密封されている。
【0088】
とくに好ましい実施形態では、経口投与用組成物は、液体剤として製剤化される。
【0089】
経口投与に伴う問題は、十分な濃度の機能性抗体が胃腸管を介してその標的(たとえば、小腸又は結腸)に輸送されることを保証することである。最適量の機能性抗体が消化管に達するのを阻害するおそれのある因子としては、抗体分子を分解する消化分泌物に存在するタンパク質分解酵素が挙げられる。そのため、本発明の抗体組成物は、胃腸通過時の抗体の保護手段を含む。かかる手段は、抗体組成物が通過時に遭遇する望ましくない作用を相殺及び/又は低減する。望ましくない作用は、たとえば、胃腸酵素(たとえば、ペプシンなどの胃酵素)及び化学的環境(たとえば胃酸)に帰属可能でありうる。
【0090】
本明細書で用いられる「胃腸通過時の抗体の保護手段」という用語は、抗体ポリペプチド自体の保護/安定化アミノ酸修飾(たとえば、点突然変異、置換、付加、又は欠失)、又は抗体の保護/安定化翻訳後修飾(たとえばグリコシル化)を包含することを意図するものではない。しかしながら、例外として、一実施形態では、手段は、本発明の抗体に共有結合されたPEG化部分を含みうるが、代替実施形態では、PEG化もPEG化部分も除外される。実際に、アミノ酸修飾及び翻訳後修飾を介する抗体の保護/安定化方法は、製造プロセスの複雑化及び製造コストの増加を伴うので不利である。疑問を生じないように述べておくが、以上のことは、本明細書に記載される胃腸通過時の抗体の保護手段の存在に加えて、抗体ポリペプチドの保護/安定化アミノ酸修飾又は抗体の保護/安定化翻訳後修飾の存在を除外するものではない。
【0091】
好ましくは、抗体の保護手段は、レクチンを含まない。より好ましくは、抗体の保護手段は、本発明の抗体と複合体化されない。
【0092】
限定されるものではないが、前記手段のさまざまな実施形態を続いて記載する。前記実施形態の各々は、単独で又は互いに組み合わせて利用しうる。当業者に公知の追加の手段は、本発明に包含され、また単独で又は以下の実施形態のいずれかと組み合わせて利用しうる。
【0093】
とくに好ましい実施形態では、本明細書に記載される抗体の保護手段は、少なくともプロテアーゼ阻害剤を含む。有利なことに、本発明者らは、ヒト腫瘍壊死因子α(TNFα)に結合する血液由来ポリクローナル抗体とプロテアーゼ阻害剤とを含む組成物が、炎症性障害を治療する場合、予想外の相乗効果を呈することを発見した(すなわち、抗体及びプロテアーゼ阻害剤を単独で用いた被験体の治療の観察から得られる予想される相加効果を超える)。
【0094】
理論により拘束されることを望むものではないが、炎症性障害の被験者の胃腸管の上皮表面は、その保護粘液の正常層を失うと考えられる。本発明者らは、この損失がタンパク質分解酵素による前記上皮表面の攻撃を引き起こし、恒常性破壊及び/又は継続/悪化病変をもたらすことを見いだした。本発明の抗体組成物は、驚くべきことに、前記タンパク質分解酵素からの胃腸管の保護のほか、TNFα結合を介する炎症の低減及び他の症状の治療も可能にする。
【0095】
(以下に記載の通り)任意のプロテアーゼ阻害剤を本発明に使用可能であるが、一実施形態では、プロテアーゼ阻害剤はダイズ由来プロテアーゼ阻害剤である。
【0096】
タンパク質のボーマン・バーク阻害剤ファミリーから選択されるプロテアーゼ阻害剤は、とりわけ好ましい。ボーマン・バーク阻害剤は、典型的にはジスルフィド結合された短いβシート領域である露出表面ループを介してプロテアーゼと相互作用しそれを阻害するセリンプロテアーゼ阻害剤である。好適なボーマン・バーク阻害剤は、マメ(たとえば、ダイズ、ライマメ、リョクトウ、ソラマメ、アズキ)、コムギ(たとえば、トリチカム・アエスチバム(Triticum aestivum))、オオムギ(たとえば、ホルデウム・ブルガレ(Hordeum vulgare))、コメ(たとえば、オリザ・サチバ(Oryza sativa))、ナッツ(たとえば、アラキス・ヒポガエア(Arachis hypogaea))、コイクス・ラクリマ・ジョビ(Coix lachryma jobi)、セタリア・イタリカ(Setaria italica)、マクロチロマ・アキシラリス(Macrotyloma axillaris)、ロンコカルプス・カルパッサ(Lonchocarpus carpassa)、ビキア・アングスチフォリア(Vicia angustifolia)、及びアルファルファをはじめとする複数の供給源から得ることが可能である。好適には、ボーマン・バーク阻害剤は、1つ以上の前記供給源の種子から得られうる。
【0097】
一実施形態では、胃腸通過時の組成物の抗体の保護手段は、トリプシン及び/又はキモトリプシンに特異的に結合してそのタンパク質分解活性を抑制及び不活性化するポリペプチドを含む。かかる手段は、トリプシン-1及び/又はトリプシン-2の阻害剤でありうる。代替的又は追加的に、前記手段は、キモトリプシンBの阻害剤でありうる。
【0098】
一実施形態では、前記阻害剤は、ポリペプチドベースの阻害剤などのマクロ分子阻害剤(たとえば、少なくとも5kDaの分子量を有するマクロ分子阻害剤)である。例として、前記阻害剤は、ポリペプチドループを含有しうるとともに、このループは、トリプシン又はキモトリプシンのいずれかにより切断されたとき、阻害剤をプロテアーゼに非常に強く結合させることにより、トリプシン及び/又はキモトリプシンのさらなる作用を阻害する。
【0099】
一実施形態では、胃腸通過時の抗体の保護手段は、メンドリ(ニワトリ)卵などの卵から取得可能な手段を含む。より具体的には、胃腸通過時の抗体の保護手段は卵白でありうる。好適には、卵白は粉末卵白でありうる。そのため、一実施形態では、本発明は、インタクトなポリクローナル抗体と卵(好適には卵白、好ましくは粉末卵白)とを混和することを含む。
【0100】
卵(たとえば卵白)から取得可能な手段は、トリプシン阻害剤、キモトリプシン阻害剤、又はそれらの組合せでありうる。そのため、手段は、卵由来(たとえば卵白由来)トリプシン阻害剤及び/又はキモトリプシン阻害剤を含みうる。
【0101】
一実施形態では、卵(たとえば卵白)に存在する手段は、オボムコイド、オボスタチン、オボマクログロブリン、又はそれらの組合せの1つ以上である。オボムコイド(Mw28,500±3,500)は、トリ卵白の糖タンパク質プロテアーゼ阻害剤である。前記阻害剤は、ウシのトリプシン及びキモトリプシンに対して試験したときに活性を有する。オボスタチン及びオボマクログロブリンは、生のトリ卵白に見いだされるプロテアーゼ阻害剤である。
【0102】
卵から取得可能な手段は、任意の好適な濃度で使用しうる。手段が乾燥卵(たとえば粉末卵白)である場合、前記乾燥卵は、少なくとも25g/L又は少なくとも35g/Lの濃度で組成物中に存在しうる。一実施形態では、乾燥卵は、少なくとも45g/L又は少なくとも55g/Lの濃度で組成物中に存在しうる。いくつかの実施形態では、乾燥卵は、40g/L~80g/L(好適には50g/L~70g/L)の濃度で組成物中に存在しうる。
【0103】
一実施形態では、胃腸通過時の抗体の保護手段はα1-抗トリプシンを含む。
【0104】
他の一実施形態では、手段はダイズトリプシン阻害剤である。
【0105】
一実施形態では、阻害剤カクテルは、便宜上、初乳(たとえばウシ)の形態で提供しうる。代替的に(又は追加的に)、その活性成分を利用しうる。初乳は、経口投与に好適な製剤を提供するために抗体と容易に組合せ可能である。
【0106】
一実施形態では、トリプシン阻害剤は、膵外分泌部で天然に合成される低分子タンパク質(たとえば、Mw5~25kDa)であり、これは、トリプシノーゲンからトリプシンへの変換を防止することによりそれ自体をトリプシン消化から保護する。膵トリプシン阻害剤は、トリプシンの活性部位に競合的に結合し、非常に低濃度でそれを不活性化する。本発明で使用するのに好適なトリプシン阻害剤の例としては、天然に産生される分子及び組換え産生される分子の両方が挙げられる。たとえば、以下の通りである。
【0107】
【表1】
【0108】
天然膵トリプシン阻害剤は、腺房細胞により産生され、偶発的なトリプシノーゲン活性化及び派生的な抑制のきかないタンパク質分解に対する防衛手段を提供する。例として、細胞内塩基性トリプシン阻害剤(BPTI)は、1936年にKunitz及びNorthropにより最初に結晶化された。塩基性膵トリプシン阻害剤(BPTI)は、pH3~10でウシトリプシンと非常に安定な1:1複合体を形成し、ヒトトリプシンに対しても同様である。キモトリプシンもまた、BPTIにより阻害される。Kunitz(1945年)により最初に結晶化されたダイズトリプシン阻害剤(SBTI)は、ダイズに見いだされるいくつかのトリプシン阻害剤の1つである。最もよく知られている調製物は、Kunitzのもの(Mw21,500±800、等電点:4.5)である。クニッツダイズ阻害剤は、2つのジスルフィド架橋により架橋された単一ポリペプチド鎖からなり、等モルでトリプシンを阻害し、より少ない程度でキモトリプシンを阻害する。ライマメトリプシン阻害剤(LBI)は、等モルの複合体を形成することによりトリプシン及びキモトリプシンの両方に作用する。トリプシン感受性結合部位はLys-Serペプチド結合であるが、キモトリプシン作用部位はLeu-Ser結合である(Krahn and Stevens 1970)。ライマメトリプシン阻害剤(Mw8,000~10,000)は、クロマトグラフィーにより6種程度の変異体に分離しうる。それらはすべて、同一ではないが類似したアミノ酸組成を有し、6つ又は7つのジスルフィド結合を含み、且つメチオニン及びトリプトファンを欠如している。
【0109】
さらなる例として、ボーマンバークプロテアーゼ阻害剤は、ダイズ類及びある範囲内のマメ科植物により産生されるキモトリプシン阻害剤及びトリプシン阻害剤のグループである。それらは、ヒトに対して非毒性で耐容性が良好な7~10kdaの低分子のジスルフィドリッチなタンパク質である。pHの極限値にきわめて安定なキモトリプシンペプチド阻害剤は、カメ卵白で生じる。これらの低分子ペプチド阻害剤(約13kDa)は、キモトリプシンと安定な複合体を形成する(Guha et al (1984) J. Bioscience 6: 155-163)。
【0110】
一実施形態では、トリプシン阻害剤成分及び/又はキモトリプシン阻害剤成分は、トリプシン及び/又はキモトリプシンに結合し(たとえば特異的に結合し)、その酵素活性を不活性化する抗体(その断片を含む)でありうる。かかる抗体ベースの阻害剤は、以上の非抗体ベースの阻害剤の代わりに又はそれに加えて使用しうる。そのため、抗体ベースの阻害剤と非抗体阻害剤との組合せ阻害剤を利用しうる。例として、非抗体阻害剤(たとえば卵白由来阻害剤)は、抗体がキモトリプシン(及び/又はトリプシン)を阻害する抗体阻害剤と組み合わせて使用しうる。同様に、非抗体キモトリプシン阻害剤は、抗体がトリプシン(及び/又はキモトリプシン)を阻害する抗体阻害剤と組み合わせて使用しうる。かかる抗体はルーチンで調製しうる。
【0111】
一実施形態では、トリプシン阻害剤及び/又はキモトリプシン阻害剤は、少なくとも25g/L又は少なくとも35g/Lの濃度で組成物中に存在しうる。一実施形態では、トリプシン阻害剤及び/又はキモトリプシン阻害剤は、少なくとも45g/L又は少なくとも55g/Lの濃度で組成物中に存在しうる。いくつかの実施形態では、トリプシン阻害剤及び/又はキモトリプシン阻害剤は、40g/L~80g/L(好適には50g/L~70g/L)の濃度で組成物中に存在しうる。
【0112】
代替的又は追加的に(好ましくは追加的に)、胃腸通過時の抗体の保護手段は制酸剤を含む。使用時、前記制酸剤成分は、被験体内に存在する高酸性胃環境から抗体成分を保護するのに役立つ。
【0113】
制酸剤は、任意の物質、一般的には、胃酸性度を打ち消す塩基又は塩基性塩である。言い換えると、制酸剤は、限られた時間にわたり胃pHを理想的にはpH5.0超に上昇させる胃酸中和剤である。制酸剤は中和反応を実施する。すなわち、胃酸を緩衝してpHを上昇させることにより胃内の酸性度を低減する。
【0114】
本発明で使用される好適な制酸剤の例としては、水酸化アルミニウム(たとえば、Amphojel、AlternaGEL)、水酸化マグネシウム(たとえば、Phillips’ Milk of Magnesia)、水酸化マグネシウムを含む水酸化アルミニウム(たとえば、Maalox、Mylanta、Diovol)、塩基性炭酸アルミニウムゲル(たとえば、Basaljel)、炭酸カルシウム(たとえば、Alcalak、TUMS、Quick-Eze、Rennie、Titralac、Rolaids)、重炭酸ナトリウム(たとえば、重炭酸ソーダ、Alka-Seltzer)、炭酸マグネシウム、三ケイ酸マグネシウム、ヒドロタルサイト(たとえば、MgAl(CO)(OH)16・4(HO)、Talcid)、次サリチル酸ビスマス(たとえば、Pepto-Bismol)、アルギネート(たとえば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸)、シメチコンを含むマガルドレート(たとえば、Pepsil)、シメチコンと組み合わされた以上のいずれか、たとえば、3つの活性成分、すなわち、酸を中和して疼痛の原因を除く水酸化アルミニウム及び酸化マグネシウムとジメチコンとを有するAsiloneが挙げられる。
【0115】
一実施形態では、制酸剤は、水酸化マグネシウム及び/又は水酸化アルミニウムである。水酸化アルミニウムは、乾燥水酸化アルミニウムゲルの形態で組成物に添加しうる。好ましくは、本発明の組成物は、水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムを含む。
【0116】
制酸剤は、任意の好適な濃度で使用しうる。一実施形態では、制酸剤は、少なくとも5g/L又は少なくとも10g/Lの濃度で存在しうる(たとえば、使用される制酸剤に基づいて)。他の一実施形態では、制酸剤は、少なくとも15g/L又は少なくとも20g/Lの濃度で存在しうる(たとえば、使用される制酸剤に基づいて)。いくつかの実施形態では、5g/L~40g/L(好適には10g/L~30g/L)の制酸剤を使用しうる(たとえば、使用される制酸剤に基づいて)。
【0117】
好ましい実施形態では、本発明の組成物は、5g/L~40g/L(好適には10g/L~30g/L)の塩化マグネシウム及び/又は5g/L~40g/L(好適には10g/L~30g/L)の水酸化アルミニウムを含む。
【0118】
一実施形態では、抗体組成物は、制酸剤分子、及びトリプシン及び/又はキモトリプシンに特異的に結合し、それらのタンパク質分解活性を抑制又は不活性化するポリペプチド、及び/又はトリプシン及び/又はキモトリプシンに結合し、前記トリプシン及び/又はキモトリプシンのプロテアーゼ活性を不活性化する抗体を含む。
【0119】
本発明の組成物は、1種以上の抗微生物剤を含みうる。一実施形態では、抗微生物剤は、メチルパラベン(E218)及び/又はプロピルパラベン(E216)である。好適には、本発明の組成物は、メチルパラベン(E218)とプロピルパラベン(E216)との組合せを含む。
【0120】
抗微生物剤(たとえば各抗微生物剤)は、少なくとも0.2g/L又は少なくとも0.4g/Lの濃度で組成物中に存在しうる。一実施形態では、抗微生物は、少なくとも0.6g/L又は少なくとも1.0g/Lの濃度で組成物に存在する。好適には、抗微生物剤は、少なくとも1.5g/L又は少なくとも2.0g/Lの濃度で存在しうる。いくつかの実施形態では、抗微生物剤は、0.2g/L~1.0g/Lの濃度で存在する。他の実施形態では、抗微生物剤は、1.0g/L~3.0g/L(たとえば、1.5g/L~2.5g/L)の濃度で存在する。
【0121】
本発明の組成物は、懸濁安定性剤、たとえばグリシンを含みうる。懸濁安定性剤(たとえば200mMグリシン)は、少なくとも5g/L又は少なくとも10g/Lの濃度で存在しうる。他の実施形態では、懸濁安定性剤(たとえば200mMグリシン)は、10g/L~20g/Lの濃度で存在する。
【0122】
代替的又は追加的に、本発明の組成物は、シメチコンなどの消泡剤を含みうる。前記消泡剤は、少なくとも5g/L又は少なくとも10g/Lの濃度で存在しうる。一実施形態では、消泡剤は、5g/L~25g/L(好適には10g/L~20g/L)で存在する。
【0123】
以上のほかに、本発明の組成物は、甘味剤及び/又は風味剤、たとえば、バニラエッセンス、シュガー(たとえば、グルコース、スクロースなど)、シュガーアルコール、ハチミツ、フルーツ、シロップ(たとえば、メープルシロップ、コメシロップ、カバシロップ、パインシロップ、ヒッコリーシロップ、ポプラシロップ、パームシロップ、シュガービートシロップ、ソルガムシロップ、コーンシロップ、サトウキビシロップ、ゴールデンシロップ、オオムギモルトシロップ)、モラセス(トリークル)、ゲンマイシロップ、アガベシロップ、ヤーコンシロップ、アセスルファムカリウム(Sunettとしても知られる)、アリテーム(aclameとしても知られる)、アスパルテーム(Equal又はNutrasweetとしても知られる)、アネトール、シクラメート、グリチルリチン、ラカンカ、ネオテーム、ペリラルチン、サッカリン(Sweet ’n’ Lowとしても知られる)、ステビオシド、スクラロース(SucraPlus及びSplendaとしても知られる)又はイヌリンを含みうる。一実施形態では、甘味剤としては、サッカリンナトリウム及びマンニトールが挙げられる。一実施形態では、風味剤としてはペパーミント油が挙げられる。
【0124】
甘味剤及び/又は風味剤は、0.1g/L~40g/L、たとえば0.1g/L~30g/Lの濃度で本発明の組成物中に存在しうる。
【0125】
本発明の組成物は、キサンタンガムなどの懸濁化剤を含みうる。前記懸濁化剤は、少なくとも1g/L又は2g/Lの濃度で存在しうる。好適には、前記懸濁化剤は、1g/L~10g/L、たとえば3g/L~5g/Lの濃度で存在しうる。
【0126】
一実施形態では、本発明の組成物は、以下の表に従って製剤化しうる。
【0127】
【表2】
【0128】
任意選択的に、組成物は、以下をさらに含みうる。
【0129】
【表3】
【0130】
好ましい実施形態では、本発明の組成物は、以下の表に従って製剤化しうる。
【0131】
【表4】
【0132】
好ましい実施形態では、本発明の組成物は、任意選択的に、以下をさらに含みうる。
【0133】
【表5】
【0134】
以上に記載の製剤成分に加えて(又はその代わりに)、組成物は、活性抗体が最終的に腸(たとえば結腸)作用部位に送達されるように、胃の酸性環境から抗体を保護するための物理的及び/又は化学的な手段を含みうる。
【0135】
例として、抗体は、カプセル化しうる(たとえば、ペレット、顆粒状マトリックス、ビーズ、マイクロスフェア、ナノ粒子、又はリポソーム)、及び/又は化学的に保護しうる(たとえば、PEG化により)。
【0136】
本発明で使用するのに好適な従来のカプセル化技術としては、以下のものが挙げられる。
【0137】
【表6】
【0138】
回腸末端部及び結腸(上行結腸を除く)のpHは、胃腸(GI)管のいずれの他の領域よりも高い。そのため、高pHレベルで優先的には崩壊する製剤は、この領域への部位特異的送達に最適である。pH依存多微粒子状結腸特異的送達系を設計する最も単純な方法の1つは、腸溶性コーティング顆粒である。腸溶性コーティングは、上部GI管での薬剤放出を防止するために伝統的に使用されてきた。腸溶性コーティングポリマーは、結合剤及び顆粒用コーティング材料の両方で使用しうる。コーティング及び/又は錠剤マトリックスへのクエン酸の取込みは、酸の存在に起因してコア系の崩壊時間を延長させるので、in vitro放出及びin vivo吸収を遅延させるのに役立つ。経口送達に供すべく最も一般的に使用されるpH依存コーティングポリマーは、メタクリル酸コポリマーのEudragit L100及びEudragit S100であり、それぞれ、pH6.0及び7.0で溶解する。これらの2種のポリマーを各種比で組み合わせることにより、6.0~7.0のpH範囲内で薬剤放出を操作することが可能である。これらのポリマーを含むカプセル剤は、ポリメタクリレートの溶液でさらにコーティングしうる。
【0139】
同様に、コーティング材料としての水性ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネートやpH調整剤としてのクエン酸などの添加剤を添加しうる。グリセリルパルミトステアレートは、制御放出マトリックスを製剤化するために遅延材料として使用しうる。
【0140】
コーティング製剤(たとえば、Eudragit S100)は、キトサンHCl層でさらに覆いうる。水和させると、カプセルシェルは溶解し、キトサン層はゲル(内部pH4.5)を形成するので、上行結腸で溶解しないようにEudragitフィルムの周りに酸性環境を発生させる。上行結腸では、キトサンHClゲルは結腸微生物叢により分解され、それにより、Eudragitフィルムを結腸環境に暴露する。しかし、上行結腸は、7.0未満のpHを有して弱酸性であるので、フィルムコートは、依然としてインタクトな状態を維持する。しかしながら、pHが7超の下行結腸に到着すると、Eudragitフィルムコートは溶解し、薬剤は制御下でマトリックスから放出される。多層コートは、たとえば、内側コート(Eudragit RL/RSの組合せ)及び外側コート(Eudragit FS 30D)に基づいて利用しうる。Eudragit FS 30Dは、メチルアクリレートとメチルメタクリレートとメタクリル酸とのイオン性コポリマーでpH感受性であり、6.5超のpHで溶解する。
【0141】
結腸微生物叢のユニーク酵素能に依拠する微生物制御送達系も利用しうる。このタイプの送達系は、GI管に沿ったpH変動に依存することなく、より特異的な標的化を可能にする。コンドロイチン硫酸、ペクチン、デキストラン、グアーガムなどの多くの天然多糖を利用しうる。ヒドロゲルビーズ(キトサン及びトリポリホスフェート(TPP))を含む多微粒子状系は、1つの選択肢であり、TPPは、正荷電キトサンに対してカウンターイオンとして作用し、ゲルビーズを形成する。GI管の上部で分解を受けやすいタンパク質のウシ血清アルブミン(BSA)をビーズに担持し、キトサンとTPPとの架橋によりキトサンの溶解度を低下させ、それにより、上部GI通過時、より少ないタンパク質(抗体)放出をもたらす。アミロースは、とくに良好なフィルム形成性ポリマーであり(ゲル化による)、Eudragit RS/RL 30D水性ディスパージョンとも混合しうる。同様に、2価カチオン(たとえば、カルシウム又は亜鉛)により剛性ゲルを形成するアミド化低メトキシペクチンは、結腸送達用カルシウムペクチネートゲルビーズを生成するために利用しうる。ペクチンは、カルシウム塩と組み合わせうる。この場合、カルシウムペクチネート(ペクチンの不溶性塩)は、胃酵素又は腸酵素により分解されないが、結腸ペクチン分解酵素による分解可能である。不溶性塩を形成するための可溶性多糖の架橋の代わりとして、多糖ベースの系は、pH感受性ポリマーでコーティングしうる。例として、キトサンマイクロコアを調製して、Eudragit L100やEudragit S100などのアクリル系ポリマーでそれぞれコーティングしうる。Eudragit P-4135Fは、結腸送達用マイクロ粒子の調製に利用しうる好適なpH感受性ポリマーのさらなる例である。
【0142】
pH感受性送達と結腸環境での生分解とを組み合わせた多微粒子状系を利用しうる。例として、スプレードライなどの技術を用いてキトサンマイクロコアの内側封入マトリックを調製し、続いて、油中油型溶媒蒸発などの技術によりEudragitポリマー内にマイクロカプセル化されたキトサンマイクロコアを適用しうる。適切なpHで外側Eudragitコートを溶解させると、アルカリpHに暴露されたキトサンマイクロコアは、腫脹してゲル状バリアを形成し、結腸領域では、キトサンは、分解を受けて放出を促進する。類似の結腸送達多微粒子状系は、Eudragit L100又はS100でコーティングされたキトサンマイクロスフェアに基づきうる。好適な調製技術としては、エマルジョン溶媒蒸発が挙げられる。キトサンは、グルタルアルデヒドで架橋しうる。
【0143】
ポリアクリレートは、本発明で使用するのに好適な送達媒体のさらなる例である。例として、二官能性アゾ化合物で架橋されたスチレンとヒドロキシエチルメタクリレートとのターポリマーを利用しうる。系は、結腸内微生物叢によるアゾ結合の切断によりポリマーの分解をもたらすことに依存する。同様に、pH応答性ポリ(メタクリル系-g-エチレングリコール)ヒドロゲルを経口送達媒体として利用しうる。小腸の塩基性及び中性の環境に入ると、ゲルは迅速に腫脹して解離する。
【0144】
他の一実施形態では、マイクロカプセル製剤は、経口結腸特異的送達に利用しうる。より詳細には、エチルアクリレート/メチルメタクリレート/2-ヒドロキシルエチルメタクリレート(ポリ(EA/MME/HEMA)の水性コロイドターポリマー、たとえば、乳化重合技術により合成されたものを利用しうる。これらのポリマーは、長い遅延時間及び後続の封入部分の迅速放出により特徴付けられる遅延放出プロファイルを呈する。
【0145】
他の一実施形態では、経口投与ナノ粒子は、好適な送達媒体として機能しうる。例として、担持ナノ粒子は、取り込まれたナノ粒子を所望の結腸作用部位に送達する働きをするpH感受性マイクロスフェアに封入しうる。ナノ粒子は、生物学的表面との高い相互作用能の指標となる大きな比表面積を有する。そのため、バイオ接着は、さまざまな分子をナノ粒子に結合させることにより誘導可能である。例として、コムギグルテン由来のグリアジンタンパク質単離物からナノ粒子を調製し、次いで、レクチン(特異的バイオ接着を提供する非免疫源の糖タンパク質)をコンジュゲートさせうる。したがって、腸との高い非特異的相互作用能と、結腸粘膜に対してより大きな特異性を備えたレクチンの結合と、を有するナノ粒子が提供される。
【0146】
一実施形態では、アルブミン-キトサン混合マトリックスマイクロスフェア充填コーティングカプセル製剤に基づく送達媒体を利用しうる。これに関連して、本発明の抗体調製物は、硬質ゼラチンカプセルに充填され、腸溶性コーティングが施される。
【0147】
一実施形態では、経口送達系としてアルブミンマイクロスフェアを利用しうる。
【0148】
一実施形態では、スクアラン油含有マルチプルエマルジョンを利用しうる。
【0149】
一実施形態では、経口送達媒体としてポリ(ラクチド-co-グリコリド)マイクロスフェアを利用しうる。
【0150】
一実施形態では、単層マトリックスフィルム中にpH応答性腸ポリマー(Eudragit S)と生分解性多糖(レジスタントスターチ)との混合物を含む結腸送達コーティングを利用しうる。こうした送達媒体の例は、たとえば、Encap Drug Delivery (Livingston, UK)から市販されており、特定の実施形態としては、PHLORAL(商標)及びENCODE(商標)が挙げられる。
【0151】
以上の送達媒体の実施形態に加えて(又はその代わりに)、本発明の抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)によるPEG化により酸侵蝕から保護しうる。各種分子量(500~40000Da)のPEGは、たとえば、2~20PEG分子/抗体分子の比でIgGに結合させうる。Greenwald, R.B et al (2003) “Effective drug delivery by PEGylated drug conjugates”, Advanced Drug Delivery Reviews 55, pp.217-250を参照されたい。この刊行物は、その全体が参照により組み込まれる。
【0152】
一実施形態では、リポソーム、マイクロカプセル、ナノカプセル(たとえばキトサンナノカプセル)などの送達カプセルは、ポリ(エチレングリコール)(PEG)で化学修飾しうる。典型的PEG化度は、0.1%~5%、たとえば、0.5%~2%の範囲内、たとえば、0.5%又は1%である。PEGの存在は、単独であるかキトサンにグラフトされるかにかかわらず、胃腸液中の送達カプセルの安定性を改善する。
【0153】
一実施形態では、本発明の抗体は、シアヌル酸クロリド、スクシンイミジルスクシネート、及びトレシルクロリドにより活性化されたモノメトキシポリ(エチレン)グリコールで処理しうる。
【0154】
PEG化送達媒体、たとえば、リポソーム、マイクロカプセル、又はナノカプセルは、疾患部位に蓄積する固有の能力を有し、標的細胞のトランスフェクションを促進する。多くのウイルスベクターとは異なり、PEG化リポソームは、非免疫原性であると一般に考えられる。
【0155】
一実施形態では、分岐状PEG保護基が線状PEG分子よりも有効であるため、分岐状PEG化試薬が利用される。
【0156】
一態様では、本発明は、炎症性障害の治療に使用される本発明の抗体組成物を提供する。抗体組成物は、被験体に経口投与される。また、炎症性障害を治療するための医薬の製造における抗体組成物の関連使用、さらには本発明の抗体組成物を被験体に経口投与することを含む炎症性障害の治療方法も提供される。
【0157】
本明細書で用いられる「障害」という用語は、「疾患」も包含する。一実施形態では、障害は疾患である。
【0158】
本明細書で用いられる「被験体」という用語は、哺乳動物、たとえば、ヒト又は他の動物を意味する。好ましくは、「被験体」とは、ヒト被験体を意味する。
【0159】
胃腸通過時の抗体の保護手段は、本発明の抗体と逐次的に(たとえば個別の成分として)又は同時に経口投与しうる。投与が逐次的である場合、好ましくは、保護手段は、本発明の抗体の前に投与される。好ましい実施形態では、保護手段は、本発明の抗体と同時に投与される。
【0160】
本発明にかかる抗体組成物は、敗血症性ショック、胃腸障害(たとえば腸障害)、炎症性腸疾患、移植片対宿主障害から選択される炎症性障害、及び/又は腸感染、非ステロイド系抗炎症薬剤、ストレス、アルコール、腸手術、虚血及び再灌流、食物アレルギー、若しくはそれらの組合せにより引き起こされる/増悪する炎症性障害を治療するために使用しうる。
【0161】
好ましい実施形態では、炎症性障害は、潰瘍性結腸炎、クローン病、又はそれらの組合せから選択される炎症性腸疾患である。
【0162】
とくに好ましい実施形態では、炎症性障害は潰瘍性結腸炎であり、且つ抗体はヒツジ又はウマのポリクローナル抗体(より好ましくはヒツジポリクローナル抗体)である。
【0163】
炎症性腸疾患は、典型的には、頻繁な下痢などの症状を伴う。腸内への療法剤の保持が低減されるため、炎症性腸疾患の治療には高濃度の抗体が必要とされる。したがって、モノクローナル抗体療法は非実用的である(たとえば、モノクローナル抗体の製造にかかるコストが高いため)。有利なことに、本発明のポリクローナル抗体組成物は、炎症性腸疾患の治療の問題に対する解決策を提供する。前記ポリクローナル抗体組成物は、製造費用が比較的安いため、実用的な療法剤を提供する。
【0164】
好適な療法剤は、ヒトTNFαに対する高い特異性を呈することが必要とされる。有利なことに、(たとえばヒツジ又はウマ)血液由来ポリクローナル抗体は(製造方法に起因して)、非血液由来(及び/又は、たとえば非ヒツジ又は非ウマ)抗体及び/又はモノクローナル抗体と比較して、ヒトTNFαに対する高い特異性を呈する。さらに、定義によれば、モノクローナル抗体を含む組成物は、単一エピトープに結合するにすぎないが、ポリクローナル抗体を含む組成物は、いくつかに結合することによりヒトTNFαを中和する有効性を増加させるであろう。
【0165】
本明細書で用いられる「治療」という用語は、予防治療(たとえば、疾患の発症の予防)さらには矯正治療(すでに疾患に罹患している被験体の治療)を包含する。好ましくは、本明細書で用いられる「治療」とは、矯正治療を意味する。
【0166】
本明細書で用いられる「治療」という用語は、障害及び/又はその症状を対象とする。
【0167】
したがって、本発明の組成物は、治療有効量又は予防有効量で被験体に投与しうる。
【0168】
「治療有効量」とは、炎症性障害(又はその症状)を治療すべく単独又は組合せで被験体に投与した場合に障害又はその症状のかかる治療を行うのに十分な任意の抗体量のことである。
【0169】
「予防有効量」とは、単独又は組合せで被験体に投与した場合に炎症性障害(又はその症状)の発症又は再発を阻害又は遅延する任意の抗体量のことである。いくつかの実施形態では、予防有効量は、炎症性障害の発症又は再発を完全に予防する。発症の「阻害」とは、炎症性障害(又はその症状)の発症の尤度を低減するか又は発症を完全に予防するかのいずれかを意味する。
【0170】
適切な投与量範囲とは、所望の治療効果を生じる投与量範囲のことである(たとえば、抗体/組成物が治療有効量又は予防有効量で投与される場合)。典型的投与レジメンは、本発明の組成物を週1回、2回、3回、4回、5回、6回、又は7回投与することを含みうる。一実施形態では、投与レジメンは、本発明の組成物を毎日、たとえば、1日1回又は2回投与することを含む。
【0171】
一実施形態では、本発明の組成物は、治療の最初の4週間は1日2回被験体に投与される。いくつかの実施形態では、後続治療では、組成物が1日1回投与される。
【0172】
適切な1用量は、ポリクローナル抗体2g以下(たとえば1g以下)でありうる。一実施形態では、1用量は、ポリクローナル抗体0.5g以下又は0.25g以下である。
【0173】
一実施形態では、インタクトなポリクローナル抗体は、1日2g以下の用量で投与される。他の一実施形態では、用量は、1日1g以下(たとえば、1日0.5g又は0.25g以下)である。
【0174】
好適には、以上の用量は、本発明の組成物に含まれるインタクトなポリクローナル抗体の全量、好適には、インタクトな全ポリクローナルIgG(すなわち、TNFαに結合する抗体及びTNFαに結合しない抗体を含む)を意味する。インタクトなポリクローナル抗体は、血液サンプル(たとえば抗血清)又はその精製画分から直接得られうる。好ましくは、インタクトなポリクローナル抗体は、抗血清などの血液サンプル(たとえばヒツジ血液サンプル)から精製されたものである。たとえば、サンプルは、沈殿(たとえば硫酸ナトリウム沈殿)及び濾過に付されたものである。好適には、組成物に含まれるインタクトな全ポリクローナル抗体の少なくとも5%(たとえば少なくとも10%)は、TNFαに結合する。より好ましくは、組成物に含まれるインタクトな全ポリクローナル抗体の少なくとも15%又は少なくとも20%(たとえば、少なくとも25%又は少なくとも30%)は、TNFαに結合する。
【0175】
かかる低用量のインタクトな全血液由来ポリクローナル抗体で治療/予防効果が観測されることは、驚くべきことであり、乳などの非血液由来源と比較して高濃度の特異的抗体(すなわち、TNFαに結合するもの)が産生されることを実証する。かかる低用量のインタクトな全ヒツジ又はウマ(好ましくはヒツジ)ポリクローナル抗体で治療/予防効果が観測されることは、さらに驚くべきことであり、ヒツジ又はウマ(好ましくはヒツジ)宿主を用いて高濃度の特異的抗体(すなわち、TNFαに結合するもの)が産生されることを実証する。
【0176】
一実施形態では、典型的一日投与量は、インタクトなポリクローナル抗体5~20mg(たとえば8~15mg又は約10mg)/kg体重の範囲内である。単位投与量は、100mg未満からさまざまでありうるが、典型的には250~500mg/用量の範囲内である。前記用量は毎日投与しうる(たとえば、1回、2回、3回、又は4回/日)。
【0177】
いくつかの実施形態では、本発明の抗体組成物は、1種以上のさらなる療法剤との組合せで被験体に投与しうる。前記1種以上のさらなる療法剤は、本発明の抗体組成物と逐次的又は同時に投与しうる。
【0178】
一実施形態では、抗体組成物は、炎症性障害(たとえば、本明細書で参照される炎症性障害)を治療する療法剤との組合せで投与される。好適には、抗体組成物は、炎症性腸障害(たとえば炎症性腸疾患)を治療する療法剤との組合せで投与しうる。
【0179】
一実施形態では、療法剤は、アミノサリチレート(5-ASA)、コルチコステロイド、免疫モジュレーター、抗生物質、又は生物学的療法剤(たとえば治療用抗体)でありうる。
【0180】
好適な療法剤の例は、プレドニゾン、リン酸プレドニゾロンナトリウム、ブデソニド、メサラミン、スルファサラジン、コルチコトロピン、アザチオプリン、インフリキシマブ、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム、メルカプトプリン、デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、酢酸ベタメタゾン、リン酸ベタメタゾンナトリウム、シクロスポリン、クロモリン、ミコフェノール酸モフェチル、コハク酸ヒドロコルチゾンナトリウム、酢酸ヒドロコルチゾン、トリアムシノロンアセトニド、コルチゾン、酢酸メチルプレドニゾロン、若しくはそれらの組合せ、又はそれらの薬学的に許容可能な塩が挙げられうる。
【0181】
一実施形態では、抗体組成物は、1種以上のプロバイオティックと共に投与しうる。本明細書で用いられる「プロバイオティック」という用語は、たとえば、十分な数で摂取又は局所適用された場合に宿主生物に有益な影響を及ぼす(すなわち、宿主生物に1つ以上の実証可能な健康上の有益性を付与することにより)任意の生存微生物(たとえば細菌又は酵母を含む)を意味する。プロバイオティックは、1つ以上の粘膜表面の微生物バランスを改善しうる。たとえば、粘膜表面は胃腸管(たとえば腸)でありうる。
【0182】
本発明はまた、本発明の抗体組成物とその使用説明書とを含むキットを提供する。説明書は、医療における抗体組成物の使用、好適には、炎症性障害の治療における抗体組成物の使用を対象とする。一実施形態では、説明書は、被験体への抗体組成物の経口投与について記載する。説明書は、代替的又は追加的に、適切な投与レジメン、たとえば、本明細書に記載の任意の投与レジメンについて記載する。
【0183】
一実施形態では、キットは、本発明の抗体を含む第1の容器と、胃腸通過時の前記抗体の保護手段を含む第2の容器と、説明書と、を含む。好ましくは、説明書は、抗体を製剤化する方法と、本発明の組成物を得る手段と、について記載する。
【0184】
一実施形態では、キットは、本明細書に記載の1種以上のさらなる療法剤を含む。
【0185】
他の態様では、本発明は、本発明の抗体組成物を含む食材に関する。食材は、抗体組成物に含まれる抗体が機能性を維持するか又は実質的濃度の前記抗体がヒトTNFαへの結合能及びその中和能を維持する任意の食材でありうる。これに関連して用いられる「実質的濃度」という用語は、出発抗体の少なくとも90%、たとえば、少なくとも95%又は98%がヒトTNFαへの結合能及びその中和能を維持することを意味する。
【0186】
食材は酪農産物でありうる。一実施形態では、酪農産物は、ヨーグルト、チーズ、又はミルクから選択される。
【0187】
食材は、プロバイオティックと任意選択的に1種以上のプレバイオティックとを含みうる。本明細書で用いられる「プレバイオティック」という用語は、1種以上の有益細菌の成長及び/又は活性を選択的に刺激することにより宿主に有益な影響を及ぼす非消化性食品成分を意味する。
【0188】
配列比較
配列比較では、典型的には、1つの配列は、試験配列と比較しうる参照配列として作用する。配列比較アルゴリズムを使用する場合、試験配列及び参照配列をコンピューターに入力し、続いて所要により座標を指定し、そして配列アルゴリズムのプログラムパラメーターを指定する。次いで、指定されたプログラムパラメーターに基づいて、配列比較アルゴリズムにより参照配列に対する試験配列のパーセント配列同一性を計算する。
【0189】
比較に最適な配列アライメントは、たとえば、Smith and Waterman [Adv. Appl. Math. 2: 484 (1981)]の局所相同性アライメントアルゴリズムにより、Needleman & Wunsch [J. Mol. Biol. 48: 443 (1970)]のアルゴリズムにより、Pearson & Lipman [Proc. Nat’l. Acad. Sci. USA 85: 2444 (1988)]の類似性検索法により、これらのアルゴリズムのコンピューター実装(GAP, BESTFIT, FASTA, and TFASTA - Sequence Analysis Software Package of the Genetics Computer Group, University of Wisconsin Biotechnology Center, 1710 University Avenue, Madison, Wis. 53705)により、又は目視検査[Current Protocols in Molecular Biology, F.M. Ausbel et al, eds, Current Protocols, a joint venture between Greene Publishing Associates, In. And John Wiley & Sons, Inc. (1995 Supplement) Ausbubelを参照されたい]により行いうる。
【0190】
パーセント配列類似性の決定に好適なアルゴリズムの例は、BLAST及びBLAST2.0アルゴリズム[Altschul (1990) J. Mol. Biol. 215: pp. 403-410、及びNational Center for Biotechnology Information の“http://www.ncbi.nlm.nih.gov/”を参照されたい]である。
【0191】
一相同性比較では、同一性は、少なくとも10又は20又は30又は40又は50アミノ酸残基長の配列領域にわたり存在する。他の一相同性比較では、同一性は、少なくとも60又は70又は80又は90又は100アミノ酸残基長の配列領域にわたり存在する。
【0192】
限定されるものではないが、グローバル法、ローカル法、及びハイブリッド法、たとえば、セグメントアプローチ法を含めて、さまざまな配列アライメント法のいずれかを用いて同一性パーセントを決定可能である。同一性パーセントの決定プロトコルは、当業者の範囲内のルーチン手順である。グローバル法では、分子の最初から最後まで配列をアライメントし、そして個別残基対のスコアを加算するとともにギャップペナルティーを課すことにより最良のアライメントを決定する。限定されるものではないが、方法としては、たとえば、CLUSTAL W(たとえば、Julie D. Thompson et al., CLUSTAL W: Improving the Sensitivity of Progressive Multiple Sequence Alignment Through Sequence Weighting, Position- Specific Gap Penalties and Weight Matrix Choice, 22(22) Nucleic Acids Research 4673-4680 (1994)を参照されたい)、及び繰返しリファインメント(たとえば、Osamu Gotoh, Significant Improvement in Accuracy of Multiple Protein. Sequence Alignments by Iterative Refinement as Assessed by Reference to Structural Alignments, 264(4) J. MoI. Biol. 823-838 (1996)を参照されたい)が挙げられる。ローカル法では、入力配列のすべてが共有する1つ以上の保存モチーフを同定することにより配列をアライメントする。限定されるものではないが、方法としては、たとえば、Match-box(たとえば、Eric Depiereux and Ernest Feytmans, Match-Box: A Fundamentally New Algorithm for the Simultaneous Alignment of Several Protein Sequences, 8(5) CABIOS 501 -509 (1992)を参照されたい)、Gibbsサンプリング(たとえば、C. E. Lawrence et al., Detecting Subtle Sequence Signals: A Gibbs Sampling Strategy for Multiple Alignment, 262(5131 ) Science 208-214 (1993)を参照されたい)、Align-M(たとえば、Ivo Van WaIIe et al., Align-M - A New Algorithm for Multiple Alignment of Highly Divergent Sequences, 20(9) Bioinformatics:1428-1435 (2004)を参照されたい)が挙げられる。
【0193】
そのため、パーセント配列同一性は従来の方法により決定される。たとえば、Altschul et al., Bull. Math. Bio. 48: 603-16, 1986 and Henikoff and Henikoff, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915-19, 1992を参照されたい。簡潔に述べると、ギャップオープニングペナルティー10、ギャップエクステンションペナルティー1、及び以下に示されるHenikoff and Henikoff (ibid.)の「blosum62」スコアリング行列(アミノ酸は標準的1文字コードにより示される)を用いてアライメントスコアを最適化するように、2つのアミノ酸配列をアライメントする。
【化1】
【0194】
次いで、同一性パーセントを次のように計算する。
【数1】
【0195】
実質的に相同なポリペプチドは、1つ以上のアミノ酸置換、欠失、又は付加を有するものとして特徴付けられる。これらの変化は、好ましくは、副次的性質、すなわち、保存的アミノ酸置換(以下を参照されたい)及びポリペプチドのフォールディング又は活性に有意な影響を及ぼさない他の置換、小さな欠失、典型的には1~約30アミノ酸の欠失、並びに小さなアミノ末端伸長又はカルボキシル末端伸長、たとえば、アミノ末端メチオニン残基、約20~25残基の小さなリンカーペプチド、又はアフィニティータグである。
【0196】
保存的アミノ酸置換としては、以下のものが挙げられうる。
【0197】
【表7】
【0198】
20種の標準アミノ酸のほか、非標準アミノ酸(たとえば、4-ヒドロキシプロリン、6-N-メチルリシン、2-アミノイソ酪酸、イソバリン、及びα-メチルセリン)で本発明のポリペプチドのアミノ酸残基を置換しうる。限られた数の非保存的アミノ酸、遺伝暗号によりコードされないアミノ酸、及び非天然アミノ酸でポリペプチドのアミノ酸残基を置換しうる。本発明のポリペプチドはまた、天然に存在しないアミノ酸残基も含みうる。
【0199】
天然に存在しないアミノ酸としては、限定されるものではないが、trans-3-メチルプロリン、2,4-メタノ-プロリン、cis-4-ヒドロキシプロリン、trans-4-ヒドロキシプロリン、N-メチルグリシン、allo-トレオニン、メチル-トレオニン、ヒドロキシ-エチルシステイン、ヒドロキシエチルホモ-システイン、ニトロ-グルタミン、ホモグルタミン、ピペコリン酸、tert-ロイシン、ノルバリン、2-アザフェニルアラニン、3-アザフェニル-アラニン、4-アザフェニル-アラニン、及び4-フルオロフェニルアラニンが挙げられる。天然に存在しないアミノ酸残基をタンパク質に組み込むいくつかの方法は、当技術分野で公知である。たとえば、化学的アミノアシル化サプレッサーtRNAを用いてナンセンス突然変異を抑制するin vitro系を利用可能である。アミノ酸の合成法及びtRNAのアミノアシル化法は、当技術分野で公知である。ナンセンス突然変異を含有するプラスミドの転写及び翻訳は、E.コリ(E. coli)S30抽出物及び市販の酵素及び他の試薬を含む細胞フリーの系で行われる。タンパク質はクロマトグラフィーにより精製される。たとえば、Robertson et al., J. Am. Chem. Soc. 113:2722, 1991、Ellman et al., Methods Enzymol. 202:301, 1991、Chung et al., Science 259:806-9, 1993、及びChung et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:10145-9, 1993)を参照されたい。第2の方法では、翻訳は、突然変異mRNA及び化学的アミノアシル化サプレッサーtRNAのマイクロインジェクションによりツメガエル卵母細胞で行われる(Turcatti et al., J. Biol. Chem. 271:19991-8, 1996)。第3の方法内では、置き換えられる天然アミノ酸(たとえば、フェニルアラニン)の不在下且つ所望の天然に存在しないアミノ酸(たとえば、2-アザフェニルアラニン、3-アザフェニルアラニン、4-アザフェニルアラニン、又は4-フルオロフェニルアラニン)の存在下で、E.コリ(E. coli)細胞が培養される。天然に存在しないアミノ酸は、その対応する天然アミノ酸の代わりのポリペプチドに取り込まれる。Koide et al., Biochem. 33:7470-6, 1994を参照されたい。天然に存在するアミノ酸残基は、in vitro化学修飾により天然に存在しない種に変換可能である。置換の範囲をさらに拡大するために、化学修飾と部位指向突然変異誘発とを組み合わせることが可能である(Wynn and Richards, Protein Sci. 2:395-403, 1993)。
【0200】
限られた数の非保存的アミノ酸、遺伝暗号によりコードされないアミノ酸、天然に存在しないアミノ酸、及び非天然アミノ酸で本発明のポリペプチドのアミノ酸残基を置換しうる。
【0201】
本発明のポリペプチド中の不可欠なアミノ酸は、当技術分野で公知の手順、たとえば、部位指向突然変異誘発又はアラニンスキャニング突然変異誘発に従って同定可能である(Cunningham and Wells, Science 244: 1081-5, 1989)。また、推定接触部位アミノ酸の突然変異と組み合わせて、核磁気共鳴、結晶解析、電子回折、光親和性標識などの技術により決定されるように、生物学的相互作用部位は、構造の物理分析により決定可能である。たとえば、de Vos et al., Science 255:306-12, 1992、Smith et al., J. Mol. Biol. 224:899-904, 1992、Wlodaver et al., FEBS Lett. 309:59-64, 1992を参照されたい。また、不可欠なアミノ酸の同一性は、本発明のポリペプチドの関連成分(たとえば、転座又はプロテアーゼの成分)との相同性分析から推測可能である。
【0202】
Reidhaar-Olson and Sauer (Science 241:53-7, 1988)又はBowie and Sauer (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:2152-6, 1989)により開示されたような突然変異誘発及びスクリーニングの公知の方法を用いて、複数のアミノ酸置換を行って試験することが可能である。簡潔に述べると、これら著者らは、ポリペプチドの2つ以上の位置を同時にランダム化し、機能性ポリペプチドを選択し、次いで、突然変異ポリペプチドをシーケンスすることにより、各位置で許容可能な一群の置換を決定する方法を開示している。使用可能な他の方法としては、ファージディスプレイ(たとえば、Lowman et al., Biochem. 30:10832-7, 1991、Ladnerらの米国特許第5,223,409号、HuseのWIPO国際公開第92/06204号)及び領域指向突然変異誘発(Derbyshire et al., Gene 46:145, 1986、Ner et al., DNA 7:127, 1988)が挙げられる。
【0203】
Reidhaar-Olson and Sauer (Science 241:53-7, 1988)又はBowie and Sauer (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:2152-6, 1989)により開示されたような突然変異誘発及びスクリーニングの公知の方法を用いて、複数のアミノ酸置換を行って試験することが可能である。簡潔に述べると、これら著者らは、ポリペプチドの2つ以上の位置を同時にランダム化し、機能性ポリペプチドを選択し、次いで、突然変異ポリペプチドをシーケンスすることにより、各位置で許容可能な一群の置換を決定する方法を開示している。使用可能な他の方法としては、ファージディスプレイ(たとえば、Lowman et al., Biochem. 30:10832-7, 1991、Ladnerらの米国特許第5,223,409号、HuseのWIPO国際公開第92/06204号)及び領域指向突然変異誘発(Derbyshire et al., Gene 46:145, 1986、Ner et al., DNA 7:127, 1988)が挙げられる。
【0204】
とくに定義がない限り、本明細書で用いられる科学技術用語はすべて、本開示が属する技術分野の当業者により一般に理解されているものと同一の意味を有する。Singleton, et al., DICTIONARY OF MICROBIOLOGY AND MOLECULAR BIOLOGY, 20 ED., John Wiley and Sons, New York (1994)、及びHale & Marham, THE HARPER COLLINS DICTIONARY OF BIOLOGY, Harper Perennial, NY (1991)は、本開示で用いられる用語の多くを含む一般的辞書を当業者に提供する。
【0205】
本開示は、本明細書に開示された例示的な方法及び材料により限定されるものではなく、本明細書で説明されたものと類似の又は等価な方法及び材料はいずれも、本開示の実施形態の実施又は試験に使用可能である。数値の範囲は、範囲を規定する数を包含する。とくに指定がない限り、核酸配列はいずれも、5’から3’の方向に左から右に記載され、アミノ酸配列は、アミノからカルボキシの方向に左から右に、それぞれ記載されている。本明細書に提供される見出しは、本開示の各種態様や実施形態を限定するものではない。アミノ酸は、本明細書では、アミノ酸の名称、三文字略号、又は一文字略号を用いて参照される。「タンパク質」という用語は、本明細書で用いられる場合、タンパク質、ポリペプチド、及びペプチドを含む。本明細書で用いられる場合、「アミノ酸配列」という用語は、「ポリペプチド」という用語及び/又は「タンパク質」という用語と同義である。いくつかの場合、「アミノ酸配列」という用語は、「ペプチド」という用語と同義である。いくつかの場合、「アミノ酸配列」という用語は、「酵素」という用語と同義である。「タンパク質」及び「ポリペプチド」という用語は、本明細書では同義的に用いられる。本開示及び特許請求の範囲では、アミノ酸残基に対して従来の一文字コード及び三文字コードを使用しうる。アミノ酸の三文字コードは、IUPACIUB Joint Commission on Biochemical Nomenclature(JCBN)に準拠して定義される。また、ポリペプチドは、遺伝暗号の縮重に基づいて2種以上のヌクレオチド配列によりコード可能であると理解される。
【0206】
用語の他の定義が、本明細書全体にわたり現れることもありうる。本開示は、記載の特定の実施形態に限定されるものではなく、したがって、変更を加えうることを理解すべきである。また、本開示の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ規定されるので、本明細書で用いられる用語は特定の実施形態を説明することだけを目的としたものにすぎず、限定することを意図したものではないことも理解すべきである。
【0207】
値の範囲が提供された場合、その範囲の上限と下限との間の各介在値もまた、文脈上明らかに異なる記載がない限り下限の1/10単位まで、特定的に開示されたものと理解される。指定範囲内の任意の指定値又は介在値と、その指定範囲内の任意の他の指定値又は介在値と、の間の各より小さい範囲は、本開示に包含される。これらのより小さい範囲の上限及び下限は、独立して、その範囲内に包含可能又は除外可能であり、皆無、又は両方の限界値がより小さい範囲内に包含された各範囲もまた、指定範囲内の任意の特定的に除外された限界値に従って、本開示に包含される。指定範囲が一方又は両方の限界を含む場合、それらの含まれる一方又は両方の限界を除外した範囲もまた、本開示に含まれる。本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いられる場合、文脈上明らかに異なる場合を除いて、単数形の「a」、「an」、及び「the」には、複数形の参照語が包含されることに留意しなければならない。したがって、たとえば、「抗体(an antibody)」の参照対象は、複数のそのような候補物を包含し、「抗体(the antibody)」の参照対象は、1つ以上の抗体及び当業者に公知のその等価物の参照対象を包含し、他の場合も同様である。本明細書で考察される刊行物は、単に本出願の出願日前に開示されたものとして提供されているにすぎない。本明細書の記載内容は、そのような出版物が、本明細書に添付されている特許請求の範囲に対して先行技術を構成することを容認するとみなされるべきものではない。
【0208】
次に、以下の図面及び実施例を参照して、単なる例として、本発明を説明する。
【実施例
【0209】
実施例1
ヒトTNFαに対するヒツジ抗血清の調製
成熟ヒトTNFα(hTNFα)(UniProtKBアクセッション番号:P01375)をR&D Systems, Boehringerから入手した。アミノ酸配列は配列番号1として示される。
【0210】
メリノ去勢ヒツジの一次免疫用免疫原は、フロイント完全アジュバント及び100μgのhTNFα/ヒツジを含んでいた。腋窩、鼠径部、及び前肩甲骨のドレナージリンパ腺に近接して選択された6つの注射部位に等しくタンパク質:アジュバント混合物を皮下注射した。動物保護のための厳しい州及び国の倫理ガイドラインに準拠して、Turretfield Research Centre (Rosedale, South Australia, Australia)の処理施設で、100μgのhTNFα及びフロイント不完全アジュバントを用いて28日間のインターバルで各ヒツジを再免疫し、そして14日後に約4週間のインターバルで血液サンプルを採取した。最終的に動物に出血はなかった。動物に損傷を与えることなく外頸静脈から合計10mLの血液/kg体重を採取可能である。続いて、ヒツジ抗血清を-20℃で貯蔵した。
【0211】
実施例2
ヒトTNFαに対するポリクローナルヒツジ抗体の精製(インタクトな抗TNFα)
ヒツジPcAbを精製する2つの異なる方法を用いて、どちらの方法がより多くヒトトリプシンの効率的阻害剤α1-抗トリプシンを共単離するかを決定した。アルブミンを沈殿させIgGを溶液中に維持するカプリル酸沈殿又はIgGを沈殿させる硫酸ナトリウム沈殿のいずれかを用いた。精製されたIgGを濾過し、経口投与又はさらなる特徴付けのために提案された製剤に組み込める状態で-20℃で貯蔵した。
【0212】
抗血清中及びカプリル酸又は硫酸ナトリウムのいずれかを用いて精製された2つのIgG画分中のプロテアーゼ阻害剤の存在は、比色アッセイによりトリプシン及びキモトリプシンに対してアッセイした。アッセイは、Kakade ML et al. Determination of trypsin inhibitor activity of soy products: a collaborative analysis of an improved procedure. Cereal Chem 51: 376-381, 1974(参照により本明細書に組み込まれる)の方法に基づくものであり、トリプシンによるNa-ベンゾイル-DL-アルギニン-p-ニトロアニリド溶液(L-BAPNA)(無色)からp-ニトロアニリン(黄色基質)への切断を測定した。
【0213】
阻害剤サンプルの二倍希釈液は、96ウェルプレート(Grenier UV-Star)全体にわたり20mM CaCl(最終体積100μl)を含有する50mMトリス緩衝液pH8.2で希釈した。各ウェルに100μlのトリプシン(1mM HCLで0.2mg/mlに希釈した)溶液又はキモトリプシン(WFI中1mg/ml)溶液を添加し、続いて、トリプシン又はキモトリプシンに対して、それぞれ、100μlのL-BAPNA又はNSLPN(DMSO中2mM)のいずれかを添加した。トリプシンアッセイでは5分後及びキモトリプシンアッセイでは60分後に50μlの停止液(30%v/v酢酸)を添加して反応を終了し、そしてOmega PolarStarを用いて分光測光法で410nmの測定吸光度を測定した。基質溶液の前に停止液を添加することによりブランクサンプルを調製した。次いで、平均吸光度値を希釈度に対してプロットし、用量応答曲線を得た。代表的な曲線は図1に示される。この図から、硫酸ナトリウム精製がカプリル酸沈殿手順よりもかなり良好にα1-抗トリプシン阻害剤を維持することが実証される。
【0214】
また、これらの2つの方法を用いて、シミュレートされた胃液及び腸液におけるインキュベーション後の経口製剤中のプロテアーゼ阻害剤の残存を評価することが可能である。
【0215】
実施例3
抗体結合を特徴付けるための酵素結合免疫吸着アッセイ
産生された特異的抗体は、組換えヒトTNFα(rhTNFα)の表面上の複数のエピトープに結合したが、組換え齧歯動物TNFαには結合しなかった。結合の結合活性はきわめて高かった。
【0216】
ヒツジ抗血清中及びこの抗血清に由来するIgGの精製画分(カプリル酸沈殿により精製した)(インタクトな抗TNFα)中の抗TNFαIgGの検出のために、直接ELISAアッセイを開発した。Immulon 4HBxマイクロタイタープレートを1μg/mLのhTNFαでコーティングした。0.1%Tween 20(PBST)を含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を3回交換してプレートを洗浄し、ブロッキング緩衝液(PBSで希釈された2.5%ウシ胎仔血清)を用いて37℃で1時間ブロックした。プレートを洗浄し、1:1000の初期希釈度及び続いて1:2の段階希釈度を用いて抗血清と共に37℃で1時間インキュベートし、PBSTで洗浄し、そしてロバ抗ヒツジIgGホースラディッシュペルオキシダーゼコンジュゲートと共に37℃で1時間インキュベートした。さらなる洗浄の後、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)液体基質溶液を添加し、約10分後に1.0M HCLの添加により反応を停止し、その後、450nmで光学濃度を読み取った。
【0217】
免疫前ヒツジ血清を用いて試験した発色アッセイは、非常に低いバックグラウンドを示した(図2)。
【0218】
実施例4
抗体中和を特徴付けるための免疫細胞傷害性アッセイ
L929マウス線維肉腫細胞系(Sigma-Aldrich, The Old Brickyard, New Road, Gillingham, Dorset, SP8 4XT, UKから市販されている)を用いて、TNFαの細胞傷害作用さらにはTNFαに対する抗体の中和能力を試験した。したがって、抗血清中のヒツジPcAbによる及び抗血清から精製されたIgG(インタクトな抗TNFα)による及びその断片(抗TNFα断片)によるrhTNFαの細胞傷害作用の中和を試験するために、アッセイを開発した。
【0219】
実施例1のヒツジ抗血清のストックの一部分をパパイン消化に付すことにより、抗TNFα断片を調製した。Fabは、10g/Lの濃度で存在し、全Fabの約10%は、TNFαに特異的であった。その製造にアフィニティークロマトグラフィー工程を含めなかった。過剰のFabの存在下で、約12分子のFabは、各TNFαトリマーに装着された状態になる。
【0220】
チャレンジ用量として、我々は、細胞傷害性アッセイから決定された13ng/mlのIC90 hTNFα濃度を使用した(データは示されていない)。簡潔に述べると、DMEM中に必要チャレンジ用量の2倍を含有するL929細胞を、等体積の各種希釈度のhTNFα抗血清又は抗TNFα断片又はインタクトな抗TNFαと共に、24時間共インキュベートした。陽性対照(最大死滅)として、2.5μg/ml hTNFαを使用した。ニュートラルレッドによる細胞染色に基づく比色アッセイにより、抗体毒素中和力価を推定した。
【0221】
ニュートラルレッドによる細胞染色に基づく比色アッセイにより、抗体毒素中和力価を推定した(代表的な曲線は図3に示される)。
【0222】
特異的抗体濃度は、以下のように計算した。
特異的Ab濃度[g/L]=[CCD(μg/L)×LC50(μg/L)]×[MW Ab/(MW Ag×BS)]×EC50×10-6
・ CCD(μg/L)-チャレンジ用量=13μg/L(L929細胞に及ぼすTNFα細胞傷害性から決定されたLC90)
・ LC50(μg/L)=0.3μg/L(L929細胞に及ぼすTNFα細胞傷害性から決定された)
・ BS結合部位=全IgGに対して2
・ MW Ab=160000Da
・ MW Ag(TNFα)=51000Da
【0223】
以上を考慮に入れて、抗血清中の特異的PcAb濃度は、2.9g/Lと計算された。
【0224】
実施例5
インタクトな抗TNFαの製剤
本発明のPcAb(インタクトな抗TNFα)を消化から保護するためのプロテアーゼ阻害剤の選択さらには胃液中及び腸液中の阻害剤の残存は、Kakade ML et al. Determination of trypsin inhibitor activity of soy products: a collaborative analysis of an improved procedure. Cereal Chem 51: 376-381, 1974の方法に基づいて、比色アッセイを用いて、トリプシン及びキモトリプシンに対して評価した。トリプシンアッセイは、以上に記載した通りである。キモトリプシンアッセイは、黄色を生じる無色NSLPN基質を利用した。
【0225】
表1の2種の制酸剤、水酸化マグネシウム、及び水酸化アルミニウムゲルを添加して低い胃pHを中和することにより、胃の中でペプシンがインタクトな抗TNFαの活性成分、すなわち、TNFαに対するヒツジIgG、並びに卵白のトリプシン阻害剤及びキモトリプシン阻害剤を分解するのを防止した。他の成分は、低い生物汚染度を維持すると考えられる抗微生物剤のメチルパラベン及びプロピルパラベンであった。使用前にサスペンジョンを混合するときにタンパク質の変性を防止するために、消泡剤のシメチコンを添加した。甘味剤は、サッカリンナトリウム及びマンニトールの形態であり、2種の制酸剤の苦味を低減する。風味剤のペパーミント油は、味を改善するために使用した。懸濁化剤のキサンタンガムは、すべての以上の成分を懸濁状態に維持するために添加した。
【0226】
製剤に200mMグリシンを添加することによりサスペンジョンの安定性が有意に改善されることを実験的に確認した。
【0227】
【表8】
【0228】
実施例6
経口送達に供すべく製剤化された組成物の物理化学的特徴付け
目視検査を注意深く実施することにより、サスペンジョンの物理的外観及びその純度を保証した。50mlの製剤を100mlのメスシリンダーに注加して、沈降体積をモニターするとともにさまざまな時間インターバルで記録することにより、サスペンジョンの沈降体積を決定した。
【0229】
デュプリケートの結果を得て、式:
F=Vu/Vo
に従って沈降体積を計算した。ただし、Fは沈降体積であり、Vuは沈降物の最終高さであり、且つVoは全サスペンジョンの初期高さである。
【0230】
沈降実験の開始から48時間以内では、沈降は観測されなかった(Vu=0)。したがって、医薬サスペンジョンは、なんら分離することなく48時間以内で非常に安定な状態を維持した。さらに、48時間後、サスペンジョンの入ったシリンダーを上下逆さまにしたところ、シリンダーの底に溜まった層はまったく観測されなかった。このことから、サスペンジョン内に層はまったく形成されないことが実証される。言い換えれば、実験の48時間にわたり、調製されたサスペンジョン内に観測される凝集はなかった。
【0231】
実施例7
事例研究
緊急入院した27歳の白人男性は、結腸内視鏡検査及び生検により確認される急性重症潰瘍性結腸炎に罹患していると診断される。ただちに、ヒドロコルチゾンが静脈内経路で被験体に投与されるが、その後6日間にわたり奏功しない。結腸全摘除を必要とすることが懸念されるため、本発明の製剤(たとえば、実施例5によるもの)が経口投与される。最初の2週間にわたり50mlを1日2回摂取し、その後、さらに12週間にわたり50mlを毎日摂取する。
【0232】
患者は、英国腸疾患アンケート(UK-IBDQ)への回答及び各種臨床パラメーターに基づいて迅速且つ良好に回復する。そのほか、C反応性タンパク質などの測定パラメーターは正常値に戻り、重篤な悪影響は受けない。研究終了時、2回目の結腸内視鏡検査及び生検による評価で有意な粘膜治癒が見られる。
【0233】
実施例8
経口送達に供すべく製剤化された組成物の相乗効果
以下の製剤を提供する。
・ 製剤A:インタクトな抗TNFα、
・ 製剤B:卵白乾燥プロテアーゼ阻害剤、
・ 製剤C:ボーマン・バーク阻害剤(ダイズ)、
・ 製剤D:インタクトな抗TNFα+卵白乾燥プロテアーゼ阻害剤、及び
・ 製剤E:インタクトな抗TNFα+ボーマン・バーク阻害剤(ダイズ)。
【0234】
25名の潰瘍性結腸炎患者及び25名のクローン病患者は、製剤A~Eの有効性を試験する研究に関与することに同意を示す。患者は5つのグループに分けられ、製剤A~Eの1つが投与される(すなわち、5名の潰瘍性結腸炎患者は製剤Aが投与され、5名のクローン病患者は製剤Aが投与され、5名の潰瘍性結腸炎患者は製剤Bが投与され、5名のクローン病患者は製剤Bが投与されるなど)。投与レジームは、20ml(1gのインタクトな抗TNFαと等価である)で4週間にわたり1日2回、その後、1日1回である。
【0235】
医師は、製剤D及びEが投与された両方の疾患グループの患者が、製剤A~Cが投与された患者と比較してより大きな改善及び症状の低減を示すことを確認する。結腸内視鏡検査は、治療後の腸管表面層の改善を示す。製剤D及びEが投与された患者の改善は、製剤A~Cが投与された患者の改善よりもはるかに大きく、製剤A+B及び製剤A+Cの予想される組み合われた改善よりもはるかに大きい(結腸内視鏡検査法により決定される)。そのため、PcAbとプロテアーゼ阻害剤(たとえば、EWDプロテアーゼ阻害剤及び/又はボーマン・バーク阻害剤)との組合せは、予想外の相乗効果を生じる。
【0236】
比較実施例9
ヒツジ血清及び鶏卵に基づく特異的抗体力価の比較分析
ヒツジ抗血清に基づく特異的抗体濃度と比較して、鶏卵から得られる特異的IgYの濃度及び結合活性を評価する研究を行った。
【0237】
10匹のニワトリと5匹のヒツジとからなるグループをヒトインターロイキン-6(TNFαのような炎症誘発性サイトカインのhIL-6)で免疫し、得られた特異的PcAbの力価及び結合活性を比較した。平均結合活性定数は、ヒツジ抗体では3.1×1010L/molであったのに対してニワトリIgYでは1.3×1010L/molであった。しかしながら、ヒツジで達成された特異的PcAbのレベル(≧1:200,000の平均力価を有する)は、卵黄で見いだされた力価(≦1:20,000)の10倍超であった。ヒツジ及びメンドリをいくつかの他の免疫原で免疫したときにも、特異的PcAbの濃度のこの10倍以上の差を生じた。
【0238】
以上の実験は、血液に由来する抗体、とくにヒツジ源の抗体の利点を示す。
【0239】
実施例10
ヒツジ血清及び牛乳に基づく特異的抗体力価の比較分析
好適に免疫されたウシに由来する初乳及び乳のPcAb源としての潜在能力を評価する研究を行った。
【0240】
ウシをヒトTNFαで免疫し、得られた特異的PcAbの力価を最初に初乳で、次いで乳の逐次サンプルで決定した。初乳で得られた最大力価は1:275,000であり(ヒツジ抗血清の1:800,000と比較される)、最初の搾乳の後、レベルは急速に約1:27,500に低下した。
【0241】
そのため、血液由来源は、乳/初乳由来源と比較して、ヒトTNFαに結合する抗体をより高濃度で生成することが示された。
【0242】
実施例11
経口抗体製剤の安定性
約12ヶ月間の貯蔵後、抗体結合及び中和活性に関して実施例5の経口製剤を試験した。プロテアーゼ阻害剤活性の劣化がまったくなく且つ製剤の物理的安定性の変化がまったくないことから、抗体結合及び中和活性を維持することが示された。
【0243】
実施例12
経口抗体製剤に含まれる抗微生物剤の有効性
実施例5の経口製剤中の抗微生物剤、すなわち、メチルパラベン(E218)(濃度2g/L)及びプロピルパラベン(E216)(0.6g/L)を、S.アウレウス(S. aureus)、P.アエルギノサ(P. aeruginosa)、E.コリ(E. coli)、C.アルビカンス(C. albicans)、及びA.ブラジリエンシス(A. brasiliensis)などの生物に対する欧州薬局方規格の外部抗微生物試験に付した。完全無菌性が示された。
【0244】
実施例13
血液由来ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体との比較
ヒトTNFαに結合する血液由来(ヒツジ)ポリクローナル抗体と、ヒトTNFαに結合するモノクローナル抗体のインフリキシマブ(Schering-Plough Ltd)と、を用いて、比較抗原結合アッセイを実施した。
【0245】
モノクローナル抗体のインフリキシマブはネズミTNFαに結合しないが、ヒトTNFαに対して産生されたヒツジ由来ポリクローナル抗体はそれに結合することが、図4から示される。
【0246】
本発明の血液由来ポリクローナル抗体は、ヒトTNFαを中和するのに必要とされる濃度の約100倍の濃度であるとはいえ、ネズミTNFαに結合してそれを中和することが示された。ネズミTNFαの中和は、インフリキシマブでは観測されなかったことから、本発明の抗体と比較して中和能が全体的に低減されることが示唆される。
【0247】
配列
配列番号1
【化2】
配列番号2
【化3】
配列番号3
【化4】
配列番号4
【化5】
配列番号5
VRSSSRTP
配列番号6
HVVANPQAEGQLQWLNRR
配列番号7
NGVELR
配列番号8
VPSEG
配列番号9
CPSTHVL
配列番号10
ISRIAVSYQTK
配列番号11
PCQRETPEGAEAK
配列番号12
DRLSAEINRPDYLDFA
配列番号13(変異体ヒトTNFαP84L)
【化6】
【0248】
以上の明細書に挙げた刊行物はすべて、参照により本明細書に組み込まれる。記載の本発明の方法及びシステムの種々の修正形態及び変更形態は、本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく当業者に自明なものであろう。特定の好ましい実施形態との関連で本発明を説明してきたが、特許請求された本発明がかかる特定の実施形態に不当に限定されるべきではないことを理解すべきである。実際には、バイオ化学及びバイオ技術又は関連分野の当業者に自明である記載の本発明の実施形態の各種修正形態は、以下の特許請求の範囲内にあることが意図される。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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