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特許6997810組織試料を調製する、特に組織試料を含むワックスブロックを作製する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】組織試料を調製する、特に組織試料を含むワックスブロックを作製する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/36 20060101AFI20220111BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
G01N1/36
G01N1/28 J
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019569359
(86)(22)【出願日】2018-07-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-06
(86)【国際出願番号】 EP2018070002
(87)【国際公開番号】W WO2019020607
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2019-12-13
(31)【優先権主張番号】102017116760.9
(32)【優先日】2017-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】500113648
【氏名又は名称】ライカ ビオズュステムス ヌスロッホ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 潔人
(72)【発明者】
【氏名】マルシュ、トーマス
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103543058(CN,A)
【文献】国際公開第96/029866(WO,A1)
【文献】特開平07-151659(JP,A)
【文献】国際公開第2016/190111(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0087945(US,A1)
【文献】特開平08-285744(JP,A)
【文献】国際公開第2016/131859(WO,A1)
【文献】特開2001-124679(JP,A)
【文献】特開2014-182137(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00 - 1/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織試料(1)を調製するための装置であって、組織試料(1)が配される容器(4)と、前記容器(4)に化学物質(8)を投与するための投与装置(10)と、を備える装置において、
前記容器(4)は唯一の組織試料(1)を収容するよう構成されており、
前記装置は前記容器(4)を空にするための排出装置(23)を備えること、及び、
複数の連続するサイクルにおいて、それぞれ、前記物質(8)のうちの少なくとも1つが前記容器(4)に投与され、前記容器(4)が所定の期間後に再び空にされるように前記投与装置(10)と前記排出装置(23)とを制御するよう構成されている制御ユニット(22)が設けられていること
それぞれただ1つの組織試料(1)が配される複数の容器(4)を備えること
を特徴とする装置。
【請求項2】
前記排出装置(23)は前記容器(4)を自動的に傾動させるための傾動装置(24)として構成されていること
を特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記排出装置(23)は前記容器(4)を自動的に開閉するための閉鎖装置(25)として構成されていること
を特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記排出装置(23)は前記容器(4)に入った物質を自動的に吸い出すための吸出装置(18)として構成されていること
を特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記容器(4)から流れ出す物質を収容する少なくとも1つの廃棄物容器(11)が設けられていること
を特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
前記廃棄物容器(11)は閉鎖可能な蓋(13)を有すること
を特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記蓋(13)を自動的に開閉する開閉装置が設けられていること
を特徴とする請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記容器内の物質(8)を蒸発させることが可能な加熱装置(31)が設けられていること
を特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の装置。
【請求項9】
前記容器(4)は、組織試料を、または前記組織試料(1)とともにカセット(20)を収容するよう構成されており、及び、前記容器(4)が空にされる場合に前記組織試料または前記組織試料を有する前記カセット(20)が前記容器(4)から脱落しないよう構成されている保持手段をさらに有すること
を特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の装置。
【請求項10】
前記保持手段は係止機構(7)を含むこと
を特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記投与装置(10)はそれぞれ1つの特定の物質を含む複数の投与容器(10a~10d)を備えること
を特徴とする請求項1~10のいずれかに記載の装置。
【請求項12】
前記投与装置(10)は複数の投与容器(10a~10d)を備え、前記複数の投与容器のうちの少なくとも1つは前記組織試料(1)を脱水するための物質が充填され、かつ、少なくとも別の1つはワックスが充填されること
を特徴とする請求項1~11のいずれかに記載の装置。
【請求項13】
前記投与装置(10)は複数の投与容器(10a~10d)を備え、前記複数の投与容器(10a~10)は共通のカートリッジに組み込まれていること
を特徴とする請求項1~12のいずれかに記載の装置。
【請求項14】
前記投与装置(10)は複数の投与容器(10a~10d)を備えること、及び、前記複数の投与容器(10a~10d)のうちの少なくとも1つを加熱するための加熱装置(21)が設けられていること
を特徴とする請求項1~13のいずれかに記載の装置。
【請求項15】
前記カセット(20)上のコードを読み取り可能なカメラを含むこと、及び、前記制御ユニット(22)は前記コードに含まれる情報に応じて個別の脱水手順を実行するよう構成されていること
を特徴とする請求項に記載の装置。

【請求項16】
前記投与装置(10)は、1つの容器(4)から次の容器(4)へ順次的に移動できるよう、可動に構成されていること
を特徴とする請求項1~15のいずれかに記載の装置。
【請求項17】
組織試料(1)を調製する方法であって、以下のステップ:
・複数の組織試料(1)を複数の容器(4)に配すること、但し、前記複数の組織試料(1)のそれぞれ1つが前記複数の容器(4)のそれぞれ1つに配されること;
・その後、複数の連続するサイクルにおいてそれぞれ以下のステップが実行されること:
・前記容器(4)の各々に少なくとも1つの化学物質(8)を投与すること;
・前記容器(4)を空にすること
を含むこと
を特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、とりわけ異なった組織試料間の相互汚染を防止する、組織試料を調製するための、特に組織試料を含むワックスブロックを作製するための、装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の組織または細胞の疾患が疑われる場合、通常、生検によって患者から組織試料が採取される。後から顕微鏡で検査するために、組織試料は化学的に前処理され、次いでワックスブロックに包埋され、その後、ミクロトームを用いて薄い切片に切断される。特定の細胞タイプを可視化するために、組織試料の個々の切片をカラーマーキングすることができる。切片は、最終的に顕微鏡を用いて考えられる異常もしくは疾患がないか検査される。同様に、PCR、シーケンシング、Maldi-TOF等のようなさらなる検査のためにワックスブロックから試料材料を取り出すこともできる。
【0003】
ワックスブロックに組織試料を包埋する基本的な方法は、100年以上前から使用されている。今日では、このようなワックスブロックを作製するために、通常、例えばSakura社、Leica社、Thermo社等のもののような自動装置が用いられる。
【0004】
組織ワックスブロックを作製するために、通常、次の方法が実施される。まず、組織試料を生検によって採取し、次いで、組織が壊れないよう保つために固定溶液が入った試料収容器に組織試料を入れる。次いで、試料収容器が検査室へ送られ、そこで組織試料は試料収容器から取り出されて、例えばいわゆるパラフォルム(Paraform)(登録商標)カセットのようなカセットに挿入され、次いで、(例えばSakura社の)自動脱水装置に入れられる。自動脱水装置は、組織試料を脱水及び調製するための異なった化学物質を有する複数の槽を備えている。
【0005】
自動脱水装置において、組織試料の脱水が終わるまで組織試料を有するカセットが異なった槽に次々と浸漬される。代替的に、カセットがチャンバ内にとどまり、チャンバ内の液体が流入流出システムによって交換される自動脱水装置もある。その後、組織試料を有するカセットは注入モールド(ベースモールド:Ausgiessform)に入れられ、高温の液状ワックスが流し込まれる。こうした流し込みまたは「ブロック化」のステップは、手動で行われてもよいし、またはこれのために設けられた例えばSakura社の装置によって、切断可能な生検ブラケット(生検ホルダ)を利用して、行われてもよい。これら(の生検ブラケット)は、Warren P.Williamson et al.による特許US7156814B1、US8383067B2からとりわけ知られており、Sakura社によって「Tissue-Tek(登録商標)Paraform(登録商標)Kassettensystem」の名称で販売されている。冷却後に生じるワックスブロックは、次いで、ミクロトームで薄切片に切断され、その後、これらの薄切片は顕微鏡で検査される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】US7156814B1
【文献】US8383067B2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
組織試料を含むワックスブロックを作製するための従来技術から知られるこの方法は、まず、組織試料が検査室へ送られ、自動脱水装置で脱水及び調製され、最終的にベースモールドにおいてワックスで浸潤させてワックスブロックを作製することを必要とする。その際に使用される自動脱水装置の本質的な欠点は、組織試料を個々の槽に次々と続けて浸漬する場合に、異なった組織試料間で組織変位(Gewebeverschleppung)もしくは相互汚染が生じ得ること、すなわち処理槽に浸漬する際に組織部分がある組織試料から剥がれ、そして、次の組織試料を槽に浸漬したときにこの次の組織試料に再び付着することである。加えて、試料ごとに個別の脱水手順を実行することは、組織及び試料が種々異なるタイプの場合に有利であるかもしれないが、不可能である。さらに、脱水された組織試料を自動脱水装置から取り出すこと、及び、ワックスブロックを作製するためにベースモールドに入れることが必要である。これには比較的手間がかかる。
【0008】
したがって、本発明の課題は、複数の異なる組織試料間の相互汚染を実質的に排除するとともに簡単かつ確実に操作可能な、組織試料を調製するための、特に組織試料を含むワックスブロックを作製するための、装置及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、本発明により、独立請求項に記載された特徴によって解決される。
本発明の第1の視点により、組織試料を調製するための装置が提供される。該装置は、組織試料が配される容器と、前記容器に化学物質を投与するための投与装置と、を備え、該装置において、
前記容器は唯一の組織試料を収容するよう構成されており、
前記装置は前記容器を空にするための排出装置を備えること、及び、
複数の連続するサイクルにおいて、それぞれ、前記物質のうちの少なくとも1つが前記容器に投与され、前記容器が所定の期間後に再び空にされるように前記投与装置と前記排出装置とを制御するよう構成されている制御ユニットが設けられていること、それぞれただ1つの組織試料が配される複数の容器を備えることを特徴とする(形態1)。
本発明の第2の視点により、組織試料を調製する方法が提供される。該方法は、以下のステップ:
・複数の組織試料を複数の容器に配すること、但し、前記複数の組織試料のそれぞれ1つが前記複数の容器のそれぞれ1つに配されること;
・その後、複数の連続するサイクルにおいてそれぞれ以下のステップが実行されること:
・前記容器の各々に少なくとも1つの化学物質を投与すること;
・前記容器を空にすること
を含むことを特徴とする(形態17)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の他の実施形態は従属請求項から明らかになる。
ここに、本発明の好ましい実施の形態を示す。
(形態1)上記第1の視点参照。
(形態2)形態1の装置において、前記排出装置は前記容器を自動的に傾動させるための傾動装置として構成されていることが好ましい。
(形態3)形態1の装置において、前記排出装置は前記容器を自動的に開閉するための閉鎖装置として構成されていることが好ましい。
(形態4)形態1の装置において、前記排出装置は前記容器に入った物質を自動的に吸い出すための吸出装置として構成されていることが好ましい。
(形態5)形態1~4のいずれかの装置において、前記容器から流れ出す物質を収容する少なくとも1つの廃棄物容器が設けられていることが好ましい。
(形態6)形態5の装置において、前記廃棄物容器は閉鎖可能な蓋を有することが好ましい。
(形態7)形態6の装置において、前記蓋を自動的に開閉する開閉装置が設けられていることが好ましい。
(形態8)形態1~7のいずれかの装置において、前記容器内の物質を蒸発させることが可能な加熱装置が設けられていることが好ましい。
(形態9)形態1~8のいずれかの装置において、前記容器は、組織試料を、または前記組織試料とともにカセットを収容するよう構成されており、及び、前記容器が空にされる場合に前記組織試料または前記組織試料を有する前記カセットが前記容器から脱落しないよう構成されている保持手段をさらに有することが好ましい。
(形態10)形態9の装置において、前記保持手段は係止機構を含むことが好ましい。
(形態11)形態1~10のいずれかの装置において、前記投与装置はそれぞれ1つの特定の物質を含む複数の投与容器を備えることが好ましい。
(形態12)形態1~11のいずれかの装置において、前記投与装置は複数の投与容器を備え、前記複数の投与容器のうちの少なくとも1つは前記組織試料を脱水するための物質が充填され、かつ、少なくとも別の1つはワックスが充填されることが好ましい。
(形態13)形態1~12のいずれかの装置において、前記投与装置は複数の投与容器を備え、前記複数の投与容器は共通のカートリッジに組み込まれていることが好ましい。
(形態14)形態1~13のいずれかの装置において、前記投与装置は複数の投与容器を備えること、及び、前記複数の投与容器のうちの少なくとも1つを加熱するための加熱装置が設けられていることが好ましい。
(形態15)形態1~14のいずれかの装置において、前記カセット上のコードを読み取り可能なカメラを含むこと、及び、前記制御ユニットは前記コードに含まれる情報に応じて個別の脱水手順を実行するよう構成されていることが好ましい
形態16)形態1~15のいずれかの装置において、前記投与装置は、1つの容器から次の容器へ順次的に移動できるよう、可動に構成されていることが好ましい。
(形態17)上記第2の視点参照。
【0011】
本発明によれば、組織試料を調製するための装置が提案される。該装置は1つ以上のチャンバないし容器(以下「容器」という)を備え、該容器にはそれぞれ丁度1つの組織試料が配され、該装置は、さらに、異なった物質を容器に投与するための投与装置を含む。1つ以上の容器は、それぞれ、唯一の組織試料を収容するためにのみ構成されていることが好ましい。本発明による装置は、さらに、当該装置が容器を空にするための排出装置を含み、かつ、複数の連続するサイクルにおいて、それぞれ、物質のうちの少なくとも1つを容器へ投与し、容器は所定の期間後に再び空にされるように、投与装置及び排出装置を制御する制御ユニットが設けられている。すなわち、本発明による装置は、(複数の)ステップ:「投与すること及び空にすること」を少なくとも2回相前後して実施する。その間、組織試料は、好ましくは容器にとどまるか、または少なくとも別の容器には移送されない(portiert)。これらの容器の幾つかが並べられるが、互いに分離されて配置されることによって装置の収容量を増大されることができる。それとともに、異なった組織試料間の相互汚染は実質的に排除(不可能に)される。
【0012】
組織試料は容器に直接配されることも可能であり、または、組織試料はまずカセットに配され、次いでこのカセットが容器に装着されることも可能である。組織試料が容器に直接配される実施形態では、組織試料が入ったチャンバを覆う蓋または中間底部を設けることが好ましい。更に、組織試料をチャンバにおいて固定可能にする固定エレメント設けることも可能である。固定エレメントは、弾性材料からなることが好ましく、例えば、上方から組織試料を押さえるスポンジ(Schwamm)であり得る。
【0013】
特別な一実施形態では、組織試料を調製するための本発明の装置は、カセット上にあるデータ、特にバーコードを読み取ることができ、かつこのデータを制御ユニットに送信するカメラを含むことができる。次いで、制御ユニットによって、バーコードに含まれる試料情報に応じて個別の処理手順を実行することができる。さらに、これらのプロセスデータは、例えば検査室情報システムなどの上位のITシステムに送信することができる。
【0014】
本発明の一実施形態では、排出装置は、例えば容器の自動的な傾動のための傾動装置として構成されることができる。この場合、1つ又は複数の容器が傾動可能に支承されていることが好ましい。1つ又は複数の容器のための傾動装置は、1つ又は複数の容器が各処理[浴処理]後に空にされるように制御されることが好ましい。その後、各容器は次の物質が充填される。
【0015】
代替的に、排出装置は、容器を自動的に開閉するための閉鎖装置として構成されることも可能である。最も簡単な例では、容器の底部に、カバー(Verschluss)によって自動的に開閉される開口部を設けることができる。本発明の別の一実施形態では、容器を開閉するために、容器の一部が可動に構成されることも可能である。
【0016】
本発明のさらに別の一実施形態では、排出装置は、容器に含まれている物質を自動的に吸い出すための吸出装置として構成されることも可能である。排出装置は、この目的で、例えば、上方から1つ又は複数の容器に浸漬される吸引管(Saugrussel)またはそれに類するものを有することができる。
【0017】
容器を空にすることは、基本的に、容器に含まれている液体の蒸発によっても達成されることができる。容器に含まれている液体が蒸発される相応の一実施形態では、加熱装置が設けられていることが好ましい。この場合、加熱装置は、排出装置として機能し、及び、有利には、容器に含まれている液体が所望の時間内に部分的にまたは完全に蒸発させるよう構成されている。加熱装置は、例えば容器に直接的にまたは容器の近傍に配置されることができる。加熱装置は、例えば容器の下方に配置されること、または容器に組み込まれることも可能である。加熱装置は、例えばヒートコイルを有する電気的加熱装置のような従来技術から既知の任意の技術であり得る。加熱装置は、原理的に、唯一又は複数の容器に割り当てられることができる。冒頭で述べた排出装置は、この場合、関連する制御ユニットを有する加熱装置として理解することができるであろう。
【0018】
プロセス条件が許す限り、加熱装置を省略することもできよう。この場合、容器内の物質は、とりわけ液体の温度と沸点とに依存する予め設定される蒸発速度で自発的に蒸発するであろう。次いで、次の物質が追加投与可能になるまで、僅かに少々より長く待つ必要があるであろう。この場合、冒頭で述べた排出装置は、蒸発プロセスを計算するかまたは容器内の物質の残量を検知し、次の物質を再充填する時点を相応に決定することができる制御ユニットとして理解することができるであろう。
【0019】
蒸発技術を使用してワックスブロックを作製する場合、次の物質が供給されるまで、容器内の物質は完全にまたは部分的に蒸発されることができる。好ましい一実施形態では、次の物質は、その前の液体の残りがまだ容器に存在するときにすでに追加的に投与される。その前の液体のこの残りは、次のプロセスにおいて、少なくとも部分的に引き続き蒸発される。新たな物質の再充填の適正な時点は、計算されることまたはセンサを用いて、例えば計量(Wiegen)によって、測定されることができる。
【0020】
本発明の更なる一実施形態では、新たな液体を供給することにより、容器が過充填されることによって、該容器を空にすることも可能である。新たな液体が十分に追加的に投与されると、容器は溢れ、それまで容器に入っていた液体は新たに追加投与された液体によって押し出されるか、または少なくとも十分に大きく希釈される。本発明の相応の更なる一実施形態では、排出装置は、この場合、従前の液体がほぼ完全にないし十分に洗い流されるまでのあいだ、新たな液体を容器に投与する制御ユニットを有する投与装置を含む。溢れ出る液体は、容器に捕捉されることが好ましく、場合によっては蒸発されるかまたは他の仕方で(廃棄)処理されることができる。投与装置は、冒頭で記載された装置と同一の装置であることが好ましい。
【0021】
組織試料は、脱水プロセスの間中、場合によっては組織ワックスブロックの完成まで、同一容器にとどまり続けることが好ましい。
【0022】
本発明による装置は、容器から流れ出す物質を収容する廃棄物容器を含むことが好ましい。廃棄物容器は、容器から流出する物質が直接的に廃棄物容器内へ落ちるよう、1つ又は複数の容器の直下に配置されることが好ましい。
【0023】
廃棄物容器はとりわけ不快な臭いを遮断するために役立つ閉鎖可能な蓋を含むことが好ましい。蓋は自動的に作動されることが好ましい。この目的で、例えば、蓋を自動的に開閉する開閉装置を設けることができる。開閉装置は、例えば、制御ユニットによって制御される電磁石を有することができる。
【0024】
容器は、組織試料が当該組織試料が入っているカセットと一緒にその中に格納できる大きさに寸法設定されていることが好ましい。組織試料を有するカセットが容器を空にする際に-容器が例えば逆さまに傾動される場合に-脱落することを防ぐために、容器は、カセットの脱落を防ぐ適切な保持手段を含むことが好ましい。最も簡単な例では、適切な保持手段は、カセットを少なくとも部分的に嵌め込むことが可能な容器の底部の凹部とすることができる。代替的にまたは付加的に、係止手段、形状結合的保持手段、または従来技術から既知の他の保持手段を備えることも可能である。
【0025】
本発明の好ましい一実施形態では、組織試料を調製するための装置は、組織試料を脱水するよう、かつ、組織ワックスブロック(以下「ワックスブロック」という)を作製するよう構成されている。この場合、ワックスブロックは、組織試料がその前に脱水されたのと同一の容器において作製される。このことは、組織試料を別の収容器に移し替える必要がなく、かつ作製方法全体を1つの装置内で行うことができるという利点を提供する。
【0026】
本発明の好ましい一実施形態では、容器は加熱装置を含む。したがって、容器内のワックスは、これが完全に組織試料に浸透するまで液状に維持されることができる。加熱装置は、容器の底部に組み込まれていることが好ましいが、別の箇所に設けられることも可能である。加熱装置は、好ましくは、容器にワックスを導入する前にスイッチオンされ、予め設定される時間後に再びスイッチオフされ、それによってワックスは十分に冷えて、組織試料を含むワックスブロックを形成する。
【0027】
本発明による投与装置は、組織試料を化学処理のためのそれぞれ1つの所定の物質を、場合によってはワックスブロックを作製するためのワックスを含む複数の投与容器を備えることが好ましい。投与装置は、さらに、投与容器を操作するための1つまたは複数の駆動ユニットを含む。それによって、投与容器内の物質の少量をその都度容器に投与することができる。
【0028】
個々の物質を投与容器から容器へ導くために、例えば、例えばチューブのような供給管路を設けることができる。尤も、本発明の好ましい一実施形態では、投与装置は、投与容器から吐出された物質がその下方に位置する容器へ直接落下するよう構成されている。この場合、投与装置は、容器の直ぐ上方に配置されているか、ないしは相応の位置へ搬送可能に構成されている。
【0029】
個々の投与容器は、共通のカートリッジに組み込まれていることが好ましい。それにより、カートリッジは、構造ユニット(構成単位)として、装置に嵌め込まれるか又は装置から取り出されることができる。
【0030】
投与容器の少なくとも1つは、ワックスブロックを作製するためのワックスを含むことが好ましい。ワックスが硬化することを回避するために、この投与容器は加熱装置を含むことが好ましい。最も簡単な例では、加熱装置として、ヒートコイルを備えることができる。他の加熱装置は従来技術から十分に知られている。
【0031】
本発明の好ましい一実施形態では、本装置は組織試料を収容するための複数の容器を含み、それにより、複数の組織試料を同時に処理することが可能になる。好ましくは、全ての容器が共通の容器ユニットに組み込まれる。
【0032】
個々の容器は、順次的にまたは場合によっては必要な化学物質と同時に、充填されることができる。第1のケースでは、投与装置は、可動に配置されておりかつ1つの容器から次の容器へ次々と移動される投与ユニットを含むことができる。第2のケースでは、複数の容器が同時に充填されることができるよう、各容器に固有の投与ユニットが割り当てられることができる。
【0033】
排出装置は、全ての容器が同時にまたは実質的に同時に空にされることができるよう構成されていることが好ましい。第1実施形態では、全ての容器は、全体として傾動可能に配されている1つの容器ユニットに組み込まれている。第2実施形態では、容器(複数)は、夫々、当該容器内の液体を排出可能にする開口部を開閉するための閉鎖装置を含むことができる。個々の閉鎖装置は同時に制御されることが好ましい。
【0034】
1つまたは複数の容器は、カセットが夫々容器に幅狭の面を下にしてのみ装着可能であるが、水平には装着できないよう、寸法設定されることができる。
【0035】
投与装置、排出装置、及び場合によっては更に廃棄物容器の蓋を制御するために、従来技術から一般に既知であるような制御ユニットが設けられていることが好ましい。
【0036】
個々のプロセスステップは、従来技術から既知の方法によって加速されることができる。これらの方法には、とりわけ真空、マイクロ波、超音波、撹拌、圧力等が含まれる。
【0037】
本発明は、組織試料を調製するための方法にも関し、この場合、組織試料は、容器に直接的に配され、または、まずカセットに配され、次いでカセットが組織試料が処理される容器に入れられる。本発明によれば、異なる組織試料間の相互汚染を回避するために、容器ごとにただ1つの組織試料が配される。そして、組織試料が配された後、複数の連続するサイクルにおいて、組織試料を処理するために、夫々以下のステップが実行される:
・少なくとも1つの化学物質を容器に投与すること;及び
・容器を空にすること。
【0038】
以下に、本発明を添付の図面を用いて例示的に詳しく説明する。
なお、特許請求の範囲に付記した図面参照符号は専ら発明の理解を助けるためのものに過ぎず、本発明を図示の態様に限定することは意図していない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】その中に組織試料が配されたパラフォルムカセットの一例の側面図。
図2図1のカセットを収容するための、加熱底部を有する容器の一例の側面図。
図3】本発明の一実施形態に係る組織試料の調製のための装置の一例の模式図。
図4】逆さまに傾動された状態の図2の容器及び容器の下方に配置された廃棄物容器の一例の図。
図5】1つの軸の周りで一緒に旋回可能に支承されている複数の容器を有する容器ユニットの一例の側面図。
図6】複数の容器を有する容器ユニットの一例、及びその上方に配置され、水平方向及び垂直方向に位置調節可能な投与装置の一例の側面図。
図7】開閉可能な可動の容器底部を有する容器の一例の種々の図。
図8】容器内の液体を吸い出すための吸出装置を有する容器の一例の種々の図。
図9】本発明による装置に関連する電子制御装置の一例の模式図(ブロック図)。
図10】組織ワックスブロックの一例の模式図。
図11図11aは組織試料1を有する容器の簡略化した側面図。該容器は化学的液体が充填されている。図11bは、図11aと同じ容器において、化学的液体の液面レベルが図11aのものより低い状態を示す。図11cは、図11aと同じ容器において、該容器に更なる液体が充填されている様子を示す。
図12図12aは、図11aと同じ容器において、該容器に化学的液体が充填されている状態を示す。図12bは、図12aと同じ容器において、更なる液体が充填され、該容器から溢れ出す様子を示す。図12cは、図12bと同じ容器において、第2の液体が第1の液体をオーバーフロー(Ueberlauf)によってほとんど追い出した/置換した様子を示す。
【実施例
【0040】
図1は、組織試料1がその中に配されたカセット20の一例を側面図で示す。カセット20は、例えば、実質的にカセットフレーム2と、組織試料1が配される交換可能な底インレイないし組織ホルダ3とからなるいわゆるパラフォルム(Paraform)(登録商標)カセットであってもよい。尤も、選択的に、市販されている他の任意のカセット20も使用可能である。以下に説明される方法では、カセット20は、注入成形されて(eingegossen)ワックスブロックになり、そして、その内部にある組織試料1と一緒に切断されて薄切片になる。薄切片は、最終的に顕微鏡によって、考えられる異常ないし疾患がないか検査されることができる。
【0041】
図2は、図1のカセット20を収容するための加熱底部5を有する容器4の一例を側面図で示す。この実施形態では、容器4は軸6を含み、容器4はこの軸の周りで旋回することができる。それによって、容器4内の液体は単に傾動により排出されることができる。
【0042】
容器4を空にする際に-容器を例えば傾けて逆さまにする場合に-組織試料1を有するカセット20が脱落することを防止するために、容器4は、カセットの脱落を防止する保持手段を含む。図示の実施例において、保持手段は係止手段7として、特に係止突出部として形成されている。代替的にまたは追加的に、従来技術から既知の他の保持手段を設けることも可能である。
【0043】
図3は、本発明の一実施形態に係る組織試料1も調製装置の一例を模式的に示す。図示の装置は、組織試料1の脱水のために役立ち、場合によっては、図10に例示的に示されている組織ワックスブロック27を作製するためにも役立つ。組織試料1の脱水は、通常、複数の連続するステップで行われる。そして、組織試料1の脱水後、最後の作業ステップにおいてワックスブロック27の作製が行われる。
【0044】
図3の紙面中央部に、組織試料1が存在するカセット20が嵌め込まれている容器4が見て取れる。容器4は軸6の周りで旋回可能に支承されている。容器4の上方には、複数の投与容器10a~10dを含む投与装置10がある。図示の実施例では、投与容器10a~10dについては、放出ノズルのみが見て取れる(図示されている)。
【0045】
個々の投与容器10a~10cは、組織試料1を脱水するためのそれぞれ1つの化学物質を含む;さらに、投与容器10dはワックスブロック27を作製するための液状ワックスを含む。
【0046】
各投与容器10a~10dには、それぞれの投与容器10a~10dを操作するための固有の駆動ユニット(図示せず)を割り当てることができる。個々の駆動ユニットは(1つの)制御ユニット22によって-投与容器10a~10dがそれぞれ個別にまたは場合によっては複数同時に-制御され、それにより、投与容器はその内部に含まれている物質の所定量を放出する。
【0047】
図示の実施例では、投与容器10aが操作され、それにより、その内部に含まれている化学物質8が一滴ずつ流出し、その直下に配置された容器4内へ落下する。
【0048】
投与容器10a~10cは、すでに述べたように、組織試料1を脱水するためのそれぞれ1つの化学的液体を含んでいる。これに対して、投与容器10dは、ワックスブロック27を作製するためのワックスを含んでいる。投与容器10dに含まれているワックスを溶かすないしは液体状態に維持するために、ワックスを加熱する加熱装置21が設けられている。
【0049】
組織試料1を収容するための容器4は、上述のように、同様に底部5に組み込まれた加熱装置31を含む。加熱装置31を用いて、容器4内のワックスは、組織試料1に完全に浸透するまで液状に維持される。その後、加熱装置31はスイッチオフされ、それにより、ワックスは冷まされて凝固し、図10に示されるようなワックスブロック27になる。
【0050】
容器4を傾動するための傾動装置は参照符号24で模式的に示されている。傾動装置24は、容器4を空にするための一般的な排出装置23の第1変形例である。この傾動装置は、例えば、容器4に設けられたレバーを操作し、それによって容器4を軸6の周りで旋回させる電気的駆動装置を有することができる。
【0051】
容器4の下方には、閉鎖可能な蓋13を有する廃棄物容器11が配置されている。組織ワックスブロック27の作製中、容器4は、容器4が傾動されることによって、好ましくは数回にわたって空にされる(操作が行われる)。次いで、容器4から流出する液体は下方に配置された廃棄物容器11に到達し、そこに収集される。その際、蓋13の開閉装置は蓋13の開閉を制御する。空にするために、容器4は、好ましくは少なくとも90度、特に少なくとも120度傾動される(傾けられる)。
【0052】
本発明による装置を用いて組織ワックスブロック27を作製するために、例えば以下の方法を実行することができる:組織試料1も採取後、この組織試料はカセット20に配され、次いでカセットは本装置の容器4に入れられる。ブロックの全作製プロセスは、場合によっては組織採取の現場で行うことができる。
【0053】
必要ならば、投与装置10には、作製のために必要な化学物質が含まれている複数の投与容器10a~10dを有するカートリッジが装着される。次いで、本装置はスタートボタンで始動され、それにより、いくつかの異なる作業ステップが順次実行される。第1ステップにおいて、例えばホルマリン水溶液(例えばホルマリン10%)が充填されている第1投与容器10aが操作される。それにより、ホルマリン溶液は投与容器10aから押し出され、その下方に配置された組織試料1をその内部に含む容器4内に入り込む。その後、例えば30分間の待ち時間が続く。次いで、容器4は、例えば90度以上傾動され、それにより、その内部に存在する液体は容器4からその下方に位置する廃棄物容器11内へ流れ込む。その際、廃棄物容器11の蓋13は、例えば電磁石によって自動的に開かれ、予め設定される期間後に再び閉じられる。
【0054】
次いで、第2ステップにおいて、例えばエタノールが充填された第2投与容器10bが操作され、それにより、エタノール溶液が投与容器10bから押し出され、その下方に配置された組織試料1をその内部に含む容器4へ流れ込む。その後、エタノール溶液が作用する例えば30分間の待ち時間が続く。
【0055】
待ち時間の経過後、容器4は再び傾動され、それによって、その内部の液体は流出し、その下方に位置する廃棄物容器11へ流れ込む。廃棄物容器11の蓋13は、再び開閉装置によって開かれ、予め設定される時間後に再び閉じられる。
【0056】
第3作業段階において、例えばキシロールまたはキシロール置換体が充填された第3投与容器10cが操作される。それにより、投与容器10cから相応量の液体が流出し、その下方に配置された組織試料1を内部に含む容器4内へ流れ込む。その後、液体が組織試料1に作用し得る例えば30分間の待ち時間が続く。
【0057】
待ち時間の経過後、容器4は再び傾動され、それにより、液体は容器4から流出し、その下方に位置する廃棄物容器11内へ流れ込む。廃棄物容器11の蓋13は再び開閉装置によって開かれ、予め設定される時間後に再び閉じられる。これをもって、組織試料1の脱水工程は終了する。
【0058】
次に、投与容器10dを加熱するための加熱装置21が約70℃に熱せられる。それによって、投与容器10d内に含まれているワックスは液状になり、そのため、ワックスは投与されることができる。
【0059】
次いで、第4作業段階において、液状ワックス(パラフィン)が充填された第4投与容器10dが制御される。それにより、適正量の液状ワックスが投与容器10dから押し出され、その下方に配置された組織試料1が含まれている容器4内へ流れ込む。その後、ワックスが組織試料1に浸透し得る例えば30分間の待ち時間が続く。さらに、容器4に配設された加熱装置が加熱される。
【0060】
ここに例示的に記載した投与すること及び空にすることの個々のステップは、例えば洗い流し効果(Spueleffekt)を得るためまたは化学物質を供給するために、それぞれ数回にわたって順次的に実行することも可能である。
【0061】
待ち時間の経過後、両方の加熱装置がスイッチオフされ、例えば送風器のような冷却システム(図示せず)がスイッチオンされ、それにより、容器4内に存在するワックスは凝固してワックスブロック27になる。予め設定される期間の経過後、例えば緑色LEDが点灯し、組織ワックスブロック27が今や完成して取り出し可能であることをユーザに通知する。
【0062】
図4は、図3の組織試料1の調製装置において、容器4が逆さまに傾動された状態を示す。容器4に含まれている液体は容器4から流出し、その下方に位置する廃棄物容器11内へ直接落下する(滴14参照)。液体が廃棄物容器11の脇に滴下することを回避するために、廃棄物容器はその上端部にホッパー(Auffangtrichter)12を有する。蓋13は開かれ、傾けて液体を吐出した後、再び閉じられる。廃棄物容器11に収集された液体は参照符号15で示されている。
【0063】
図5は、上方から見た、組織試料1を有するカセット20が夫々装着されている複数の容器4を有する容器ユニットの一例を示す。容器ユニットは、全体として軸6の周りで旋回可能である。そのような容器ユニットは、全容器4を同時に空にすることができるという利点を有する。
【0064】
図6は、複数の容器4を有する容器ユニットの一例と、その上方に配置された水平面(x、y方向)において及び垂直方向(z)に位置調節可能な投与装置10の一例とを、側面図で示す。投与装置10のための関連する駆動ユニットは図示されていない。
【0065】
図7a及び図7bは、排出装置23の第2変形例を有する容器4の一例の複数の異なる状態を示す。図示された例では、排出装置23は、関節(継手)16によって旋回可能に支承されておりかつ容器4を空にするために開閉可能に構成された可動の容器底部17を含む。このメカニズムは、容器4の自動的開閉のための閉鎖装置25の可能な一実施形態である。容器4は、さらに、容器底部17が開かれているときに、カセット20が脱落しないよう構成されている。このために、例えば適切な突出部または係止手段を設けることができる。
【0066】
図8a及び図8bは、容器4内の液体を吸い出すための吸出装置18を有する容器4の一例の複数の異なる状態を示す。吸出装置18は、容器4を空にするための一般的な排出装置23の別の可能性である。この場合、図8aは、吸出装置18が容器4の上方に配置されている状態を示し、図8bは、吸出装置18が容器4内に沈降されて液体を吸い出す状態を示す。ここで、吸い出された液体は参照符号19で示されている。
【0067】
図9は、本発明による装置に属する電子制御ユニット22の一例を模式的に示す。見て取れるように、制御ユニット22は、投与装置10、排出装置23及び廃棄物容器11の蓋13の駆動装置に、場合によっては更に加熱装置31にも接続されており、これらのユニットをユーザ設定に従って制御することができる。組織ワックスブロック27を作製するためのプロセスフローは、ソフトウェアアプリケーションによってユーザ専用に調整可能である。この場合、ユーザは、入力ユニット(図示せず)で所望の設定(調整)を行うことができる。
【0068】
図10は、その内部に閉じ込められ切断可能なパラフォルム組織ホルダ3と、この組織ホルダに接して配された薄いワックス層28とを有する組織ワックスブロック27の一例を模式的に示す。ワックス層28は、組織ホルダ3と、最後のプロセスステップにおいてベースモールドとしても役立つ容器4との間に生じる。ワックス層28の段状の輪郭推移において見て取れるように、この例では、相応の段状の底部輪郭を有する容器4が使用されている。
【0069】
図11a~図11cは、容器4が加熱され、それにより容器内に含まれている液体が蒸発する、組織ワックスブロック27を作製するための特別な一方法での容器4の一例の複数の異なる状態を示す。この目的で、容器4の下方に、加熱装置31が配置されており、この加熱装置によって、容器4内の物質8を加熱することができる。加熱装置31は、関連する制御ユニット22と一緒に、この例では、冒頭で述べた排出装置23の一変形例を構成する。
【0070】
容器4は、この実施例では、桶(ないし槽)状に形成されており、桶状容器4の底部に形成された第1チャンバ32と、その上方に位置し第1チャンバ32よりも大きい体積を有する第2チャンバ33とを含む。容器4は、さらに、第1チャンバ32及び第2チャンバ33を空間的に互いに分離する中間底部35を含み、中間底部は、両者のチャンバ32、33間での流体交換の実行を可能にする少なくとも1つの開口部を有する。組織試料1は、第1チャンバ32に配されており、スポンジ34またはそれに類するものによってこの第1チャンバに固定されている。
【0071】
中間底部35は、例えば蓋として形成可能であり、それにより第1チャンバ32は開閉されることができる。この例では、中間底部35ないしはこの中間底部によって閉鎖可能な開口部は、組織試料1が上方から第2チャンバ33を通り抜けて、第1チャンバ32に配されることができるよう寸法設定されていることが好ましい。
【0072】
図11aでは、容器4は、物質8ないしは液体がほとんど上縁まで充填されている。制御ユニット22は、1つ又は複数の容器4に含まれている液体が所望の速度で蒸発するよう加熱装置31を制御する。蒸発速度は、例えば加熱出力によって調節することができる。図11bでは、液面はすでに略半分まで下がっている。
【0073】
所定の待ち時間の後に、次の物質8が容器4ないしはカセット20に、しかも好ましくは容器4内に残り液体がまだ存在する状態で追加的に投与される(図11b、図11c参照)。次いで、従前の液体の残りは、次のプロセスでさらに蒸発される。これは既知のパラメータを用いるコントロールされる蒸発プロセスであるので、再充填の適切な時点はかなり良好に計算されることができる。選択的に、新たな物質8を供給するための適切な時点は、センサによって、例えば計量によって、測定可能である。
【0074】
プロセスにおいて用いられる化学物質もしくは物質8の沸点は次第に(ステップごとに)上昇するので、付加的な加熱装置31なしで済ませることさえ可能であろう。この場合、第1物質8が充填された後、第1物質8が次の物質8を追加投与できるほど少なくなるまで、ある程度の時間待機する。その際、待ち時間は、とりわけ、それぞれの物質8の温度及び沸点に依存する。待ち時間の後には、残留液体は、後続のプロセスで完全にまたは少なくともほぼ完全に蒸発するほど少なくなっている。再充填の適切な時点は、この場合も、算出可能であり、または、センサを用いて測定可能である。
【0075】
図12a~図12cは、組織ワックスブロック27の作製方法において、容器4が新たな液体の供給によって過充填される場合における容器4の複数の異なる状態を示す。新たな液体が十分に追加的に投与される場合、容器4は溢れ(オーバーフローし)、容器4に従前に含まれていた液体は、新たに追加的に投与される液体によって追い出されるか、または少なくとも十分に大きく希釈される。この場合、制御ユニット22は、従前の液体が実質的に完全に洗い流されるまで、投与装置10が新たな液体を1つ又は複数の容器4に投与するよう、該投与装置10を制御する。溢れ出る液体は、容器に捕捉されることが好ましい。
【0076】
排出装置23ないしは排出方法の個々の実施形態は、当業者が有意義とみなす範囲内で任意に組み合わせられることができる。
以下に本発明の可能な態様を付記する。
[付記1]組織試料を調製するための装置。該装置は、組織試料が配される容器と、前記容器に化学物質を投与するための投与装置と、を備える。
前記容器は唯一の組織試料を収容するよう構成されている。
前記装置は前記容器を空にするための排出装置を備えている。
複数の連続するサイクルにおいて、それぞれ、前記物質のうちの少なくとも1つが前記容器に投与され、前記容器が所定の期間後に再び空にされるように前記投与装置と前記排出装置とを制御するよう構成されている制御ユニットが設けられている。
[付記2]上記の装置において、前記排出装置は前記容器を自動的に傾動させるための傾動装置として構成されている。
[付記3]上記の装置において、前記排出装置は前記容器を自動的に開閉するための閉鎖装置として構成されている。
[付記4]上記の装置において、前記排出装置は前記容器に入った物質を自動的に吸い出すための吸出装置として構成されている。
[付記5]上記の装置において、前記容器から流れ出す物質を収容する少なくとも1つの廃棄物容器が設けられている。
[付記6]上記の装置において、前記廃棄物容器は閉鎖可能な蓋を有する。
[付記7]上記の装置は、前記蓋を自動的に開閉する開閉装置が設けられている。
[付記8]上記の装置は、前記容器内の物質を蒸発させることが可能な加熱装置が設けられている。
[付記9]上記の装置において、前記容器は、組織試料を、または前記組織試料とともにカセットを収容するよう構成されており、及び、前記容器が空にされる場合に前記組織試料または前記組織試料を有する前記カセットが前記容器から脱落しないよう構成されている保持手段をさらに有する。
[付記10]上記の装置において、前記保持手段は係止機構を含む。
[付記11]上記の装置において、前記投与装置はそれぞれ1つの特定の物質を含む複数の投与容器を備える。
[付記12]上記の装置において、前記投与装置は複数の投与容器を備え、前記複数の投与容器のうちの少なくとも1つは前記組織試料を脱水するための物質が充填され、かつ、少なくとも別の1つはワックスが充填される。
[付記13]上記の装置において、前記投与装置は複数の投与容器を備え、前記複数の投与容器は共通のカートリッジに組み込まれている。
[付記14]上記の装置において、前記投与装置は複数の投与容器を備え、及び、前記複数の投与容器のうちの少なくとも1つを加熱するための加熱装置が設けられている。
[付記15]上記の装置は、前記カセット上のコードを読み取り可能なカメラを含み、及び、前記制御ユニットは前記コードに含まれる情報に応じて個別の脱水手順を実行するよう構成されている。
[付記16]上記の装置は、それぞれただ1つの組織試料が配される複数の容器を備える。
[付記17]上記の装置において、前記投与装置は、1つの容器から次の容器へ順次的に移動できるよう、可動に構成されている。
[付記18]組織試料を調製する方法。該方法は、以下のステップ:
・複数の組織試料を複数の容器に配すること、但し、前記複数の組織試料のそれぞれ1つが前記複数の容器のそれぞれ1つに配されること;
・その後、複数の連続するサイクルにおいてそれぞれ以下のステップが実行されること:
・前記容器の各々に少なくとも1つの化学物質を投与すること;
・前記容器を空にすること
を含む。






図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7a
図7b
図8a
図8b
図9
図10
図11a
図11b
図11c
図12a
図12b
図12c