(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】熱伝導性樹脂組成物及びこれを用いた熱伝導性シート
(51)【国際特許分類】
C08L 83/07 20060101AFI20220111BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20220111BHJP
C08K 5/5415 20060101ALI20220111BHJP
C08K 3/28 20060101ALI20220111BHJP
C08K 5/29 20060101ALI20220111BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20220111BHJP
C08L 79/00 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08K5/5415
C08K3/28
C08K5/29
C08K3/22
C08L79/00 Z
(21)【出願番号】P 2020110874
(22)【出願日】2020-06-26
【審査請求日】2021-08-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113424
【氏名又は名称】野口 信博
(74)【代理人】
【識別番号】100185845
【氏名又は名称】穂谷野 聡
(72)【発明者】
【氏名】松島 昌幸
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-053278(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103665850(CN,A)
【文献】国際公開第2017/043070(WO,A1)
【文献】特開2005-029643(JP,A)
【文献】国際公開第2004/058896(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/002474(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
付加反応型シリコーン樹脂と、
熱伝導性充填剤と、
アルコキシシラン化合物と、
副成分が上記アルコキシシラン化合物に対して不活性の状態にあるカルボジイミド化合物とを含有し、
上記カルボジイミド化合物が、常温で固体のカルボジイミド化合物であり、
上記熱伝導性充填剤を55~85体積%含有する、熱伝導性樹脂組成物。
【請求項2】
上記熱伝導性充填剤が、熱伝導率が60W/m・K以上である窒素化合物を含有する、請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項3】
上記熱伝導性充填剤が、窒化アルミニウムを含有する、請求項1又は2に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項4】
上記アルコキシシラン化合物が、アルキルアルコキシシラン化合物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項5】
上記カルボジイミド化合物が、環状のカルボジイミド化合物である、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項6】
上記熱伝導性充填剤が、窒化アルミニウムとアルミナと酸化マグネシウムとの混合物である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項7】
上記熱伝導性充填剤が、窒化アルミニウム、金属水酸化物、金属酸化物及び炭素繊維の少なくとも1種を含有する、請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項8】
付加反応型シリコーン樹脂と、
熱伝導性充填剤と、
アルコキシシラン化合物と、
副成分が上記アルコキシシラン化合物に対して不活性の状態にあるカルボジイミド化合物とを含有し、
上記カルボジイミド化合物が、常温で固体のカルボジイミド化合物であり、
硬化後の熱伝導率が5W/m・K以上を示す、熱伝導性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物の硬化物からなる、熱伝導性シート。
【請求項10】
200℃、24時間の条件でエージングしたときの下記式3で示す熱伝導率の維持率が70%以上である、請求項
9に記載の熱伝導性シート。
式3:(エージング処理後の熱伝導性シートの熱伝導率/エージング処理前の熱伝導性シートの熱伝導率)×100
【請求項11】
発熱体と放熱部材との間に、請求項1~
8のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物の硬化物が挟持されている、放熱構造。
【請求項12】
発熱体と放熱部材との間に、請求項
9又は
10に記載の熱伝導性シートが挟持されている、放熱構造。
【請求項13】
請求項
11又は
12に記載の放熱構造を備える、物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、熱伝導性樹脂組成物及びこれを用いた熱伝導性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスのパワー密度上昇に伴い、デバイスに使用される材料には、より高度な放熱特性が求められている。より高度な放熱特性を実現するために、サーマルインターフェースマテリアルと呼ばれる、半導体素子から発生する熱を、ヒートシンクまたは筐体等に逃がす経路の熱抵抗を緩和するための材料が、シート状、ゲル状、グリース状など多様な形態で用いられている。
【0003】
一般に、サーマルインターフェースマテリアルは、例えば、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂に、熱伝導性充填材を分散した複合材料(熱伝導性樹脂組成物)が挙げられる。熱伝導性充填材としては、金属酸化物や金属窒化物が多く用いられている。また、樹脂の一例であるシリコーン樹脂は、耐熱性や柔軟性の観点から、広く用いられている。
【0004】
近年、半導体素子等の高密度実装や発熱量の増大により、熱伝導性シートには、高い熱伝導率が求められている。この課題に対して、例えば、熱伝導性樹脂組成物中の熱伝導性充填剤の添加量を増やすことが考えられる。
【0005】
しかし、例えば、付加反応型シリコーン樹脂をバインダ成分とした熱伝導性樹脂組成物において、熱伝導性充填剤中の不純物(例えば、イオン成分、N,P,S等の元素を含む有機化合物、Sn,Pb,Hg,Sb,Bi,As等の金属)により、付加反応型シリコーン樹脂の付加反応に用いる触媒(例えば白金触媒)が阻害されやすい。
【0006】
また、熱伝導性充填剤の添加量をより増やすためには、例えば、アルキル基や反応性官能基を有する所謂シランカップリング剤をはじめとしたアルコキシシラン化合物を、熱伝導性樹脂組成物に配合することが有効である。このアルコキシシラン化合物は、加水分解を経てシラノールとなり、このシラノールが熱伝導性充填剤の表面と結合して、熱伝導性樹脂組成物中における熱伝導性充填剤の分散性に寄与する。一方で、アルコキシシラン化合物は、熱伝導性充填剤の表面と結合しない残余のアルコキシシラン化合物同士の加水分解や、シラノール同士の脱水縮合(縮重合)も生じうる。
【0007】
そのため、付加反応型シリコーン樹脂をバインダ成分とした熱伝導性樹脂組成物中の熱伝導性充填剤の含有量が増加すると、付加反応型シリコーン樹脂の硬化が十分に進まない傾向にあることに加えて、付加反応型シリコーン樹脂の含有量が相対的に減少するため、高温状態では付加反応型シリコーン樹脂の酸化作用が進みやすくなる。また、上述した残余のアルコキシシラン化合物同士の加水分解や、シラノール同士の脱水縮合も含めた作用により、付加反応型シリコーン樹脂をバインダ成分とした熱伝導性樹脂組成物を用いた熱伝導性シートでは、高温下での長期使用時に初期の柔軟性が失われ、熱源との接触面の密着性も低下しやすくなる結果、接触抵抗が増大し、熱伝導性シートとしての本来の機能が低下してしまうおそれがある。
【0008】
したがって、付加反応型シリコーン樹脂をバインダ成分とした熱伝導性樹脂組成物において、高温状態での付加反応型シリコーン樹脂の酸化作用を抑制しつつ、シート状にしたときの柔軟性を維持するためには、熱伝導性樹脂組成物中の熱伝導性充填剤の含有量の上限は、熱伝導性樹脂組成物の硬化物からなる熱伝導性シートの熱伝導率が3W/m・K程度を示す程度に制限されてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2017/002474号
【文献】特許6008706号
【文献】特許6194861号
【文献】特許3290127号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本技術は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、高い熱伝導性を維持できる熱伝導性樹脂組成物及びこれを用いた熱伝導性シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本件発明者が鋭意検討したところ、付加型シリコーン樹脂と、熱伝導性充填剤と、アルコキシシラン化合物とを含有する熱伝導性樹脂組成物において、副成分がアルコキシシラン化合物に対して不活性の状態にあるカルボジイミド化合物をさらに含有させることで、熱伝導性樹脂組成物の劣化を抑制でき、上述した課題を解決できることを見出した。
【0012】
すなわち、本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、付加反応型シリコーン樹脂と、熱伝導性充填剤と、アルコキシシラン化合物と、副成分がアルコキシシラン化合物に対して不活性の状態にあるカルボジイミド化合物とを含有し、熱伝導性充填剤を55~85体積%含有する。
【0013】
本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、付加反応型シリコーン樹脂と、熱伝導性充填剤と、アルコキシシラン化合物と、副成分がアルコキシシラン化合物に対して不活性の状態にあるカルボジイミド化合物とを含有し、硬化後の熱伝導率が5W/m・K以上を示す。
【0014】
本技術に係る熱伝導性シートは、上記熱伝導性樹脂組成物の硬化物からなる。
【発明の効果】
【0015】
本技術によれば、高い熱伝導性を維持できる熱伝導性樹脂組成物及びこれを用いた熱伝導性シートを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<熱伝導性樹脂組成物>
本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、付加反応型シリコーン樹脂と、熱伝導性充填剤と、アルコキシシラン化合物と、副成分がアルコキシシラン化合物に対して不活性の状態にあるカルボジイミド化合物(以下、「特定のカルボジイミド化合物」とも称する)とを含有し、熱伝導性充填剤を55~85体積%含有する。
【0017】
このように、本技術に係る熱伝導性樹脂組成物では、付加型シリコーン樹脂と、熱伝導性充填剤と、アルコキシシラン化合物とを含有する熱伝導性樹脂組成物において、特定のカルボジイミド化合物をさらに含有させることで、熱伝導性充填剤を55~85体積%含有する熱伝導性樹脂組成物を熱伝導性シートとしたときにも高い熱伝導性を維持することができる。
【0018】
本技術の効果が得られる理由は、次のように推定される。付加型シリコーン樹脂と、熱伝導性充填剤と、アルコキシシラン化合物と、特定のカルボジイミド化合物とを含有する熱伝導性樹脂組成物において、アルコキシシラン化合物等に起因したシラノールが存在すると、シラノールによる縮重合が起こり、また、高温下で熱伝導性充填剤の不純物等による酸化反応とともに、付加反応型シリコーン樹脂の劣化に関与すると考えられる。そこで、本技術に係る熱伝導性樹脂組成物において、アルコキシシラン化合物等に起因したシラノールに、特定のカルボジイミド化合物を作用させることで、特定のカルボジイミド化合物がシラノールの縮合剤(-Si-O-Si-の形成)として機能して、シラノールに由来する熱伝導性樹脂組成物の劣化を抑制し、結果として、熱伝導性樹脂組成物を熱伝導性シートとしたときに高い熱伝導性を維持できると考えられる。
【0019】
以下、熱伝導性樹脂組成物を構成する各成分の詳細について説明する。
【0020】
<付加反応型シリコーン樹脂>
本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、成形加工性及び耐候性に優れるとともに、電子部品に対する密着性及び追従性が良好である理由から、バインダ樹脂としてシリコーン樹脂を用いる。特に、成形加工性、耐候性、密着性を良好にする観点から、液状シリコーンゲルの主剤と、硬化剤とから構成されるシリコーン樹脂を用いることが好ましい。そのようなシリコーン樹脂としては、例えば、付加反応型シリコーン樹脂、過酸化物を加硫に用いる熱加硫型ミラブルタイプのシリコーン樹脂(ミラブルゴム)等が挙げられる。特に、熱伝導性樹脂組成物を、発熱体と放熱部材との間に挟持される熱伝導性シートに適用する場合には、例えば、電子部品の発熱面とヒートシンク面との密着性が要求されるため、付加反応型シリコーン樹脂(付加反応型液状シリコーン樹脂)が好ましい。
【0021】
付加反応型シリコーン樹脂としては、例えば、(i)アルケニル基を有するシリコーンを主成分とし、(ii)硬化触媒を含有する主剤と、(iii)ヒドロシリル基(Si-H基)を有する硬化剤とからなる、2液型の付加反応型シリコーン樹脂が挙げられる。
【0022】
(i)アルケニル基を有するシリコーンとしては、例えば、ビニル基を有するオルガノポリシロキサンを用いることができる。(ii)硬化触媒は、(i)アルケニル基を有するシリコーン中のアルケニル基と、(iii)ヒドロシリル基を有する硬化剤中のヒドロシリル基との付加反応を促進するための触媒である。(ii)硬化触媒としては、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒として周知の触媒が挙げられ、例えば、白金族系硬化触媒、例えば白金、ロジウム、パラジウムなどの白金族金属単体や塩化白金などを用いることができる。(iii)ヒドロシリル基を有する硬化剤としては、例えば、ヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサンを用いることができる。
【0023】
ここで、ヒドロシリル基を有する硬化剤のSi-H基の部分は、水分や触媒(例えば白金)が存在すると、Si-H基部分がSi-OH基になり、シラノールが縮合する可能性がある。本技術に係る熱伝導性樹脂組成物において、2液型の付加反応型シリコーン樹脂を用いた場合、ヒドロシリル基を有する硬化剤に起因するシラノールと、アルコキシシラン化合物に起因するシラノールとの縮合が起きると、3次元的な硬い硬化物になる恐れがあり、熱伝導性樹脂組成物全体の劣化に与える影響が大きくなる可能性がある。そこで、本技術に係る熱伝導性樹脂組成物において、アルコキシシラン化合物等に起因したシラノールに、特定のカルボジイミド化合物を作用させることで、ヒドロシリル基を有する硬化剤に起因するシラノールとアルコキシシラン化合物に起因するシラノールとが反応する前に、アルコキシシラン化合物に起因するシラノールの縮合を特定のカルボジイミド化合物で促進させて、熱伝導性樹脂組成物の劣化を抑制することができる。
【0024】
付加反応型シリコーン樹脂としては、熱伝導性樹脂組成物を硬化させた硬化物が有する硬度などを考慮して、所望の市販品を用いることができる。例えば、CY52-276、CY52-272、EG-3100、EG-4000、EG-4100、527(以上、東レ・ダウコーニング社製)、KE-1800T、KE-1031、KE-1051J(以上、信越化学工業社製)などが挙げられる。付加反応型シリコーン樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
<熱伝導性充填剤>
熱伝導性充填剤は、所望とする熱伝導率や充填性を鑑み、公知の物から選択することができる。例えば、熱伝導性充填剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物、アルミニウム、銅、銀などの金属、アルミナ、酸化マグネシウムなどの金属酸化物、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化珪素などの金属窒化物、カーボンナノチューブ、金属シリコン、繊維フィラー(ガラス繊維、炭素繊維)が挙げられる。熱伝導性充填剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、例えば良好な難燃性を実現する観点では、熱伝導性充填剤として無機フィラーを含有することが好ましく、窒素化合物を含有することがより好ましく、熱伝導率が60W/m・K以上である窒素化合物を含有することがさらに好ましい。このような窒素化合物としては、窒化アルミニウムや窒化ホウ素が好ましく、窒化アルミニウムがより好ましい。また、本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、熱伝導性充填剤として、窒化アルミニウム、金属水酸化物、金属酸化物及び炭素繊維の少なくとも1種を含有してもよい。金属水酸化物及び金属酸化物としては、水酸化アルミニウム、アルミナ、窒化アルミニウム、酸化マグネシウムなどが挙げられる。例えば、熱伝導性充填剤としては、アルミナのみ、窒化アルミニウムのみ、又は炭素繊維のみを用いてもよい。特に、本技術に係る熱伝導性樹脂組成物では、熱伝導性充填剤として、難燃性と熱伝導性の観点から、少なくとも窒化アルミニウムを含有することが好ましく、窒化アルミニウムとアルミナと酸化マグネシウムとの混合物を用いることがより好ましく、この混合物に炭素繊維をさらに含有させたものを用いてもよい。また、熱伝導性充填剤として、窒化アルミニウムと炭素繊維と酸化亜鉛との混合物を用いてもよい。熱伝導性充填剤は、アルコキシシラン化合物の加水分解に寄与する程度の水分を含有することが好ましい。具体的には、熱伝導性充填剤が空気中の水分等を吸着した吸着水程度の含有量が好ましい。ここで、熱伝導性充填剤の一例であるアルミナは、日本における年間の吸湿変動域が最大で0.3%弱(平衡水分量)と報告されている。そのため、本技術で用いる熱伝導性充填剤における水分含有量は、例えば0.3%以下であることが好ましい。
【0027】
熱伝導性樹脂組成物中の熱伝導性充填剤の含有量は、所望の熱伝導率などに応じて適宜決定することができ、熱伝導性樹脂組成物中における体積含有量として55~85体積%とすることができる。熱伝導性樹脂組成物中の熱伝導性充填剤の含有量が55体積%未満であると、十分な熱伝導率を得るのが難しい傾向にある。また、熱伝導性樹脂組成物中の熱伝導性充填剤の含有量が85体積%を超えると、熱伝導性充填剤の充填が難しい傾向にある。熱伝導性樹脂組成物中の熱伝導性充填剤の含有量は、70体積%以上とすることもでき、80体積%以下とすることもできる。熱伝導性充填剤を2種以上併用するときは、その合計量が上記含有量の範囲を満たすことが好ましい。
【0028】
また、熱伝導性充填剤が窒化アルミニウムを含有する場合、熱伝導性充填剤中の窒化アルミニウムの含有量は、1~100体積%とすることができる。
【0029】
<アルコキシシラン化合物>
熱伝導性樹脂組成物は、アルコキシシラン化合物を含有する。アルコキシシラン化合物は、熱伝導性樹脂組成物中において、例えば、熱伝導性充填剤に含まれる程度の水分と加水分解して、熱伝導性充填剤に結合し、熱伝導性充填剤の分散に寄与する。アルコキシシラン化合物は、ケイ素原子(Si)が持つ4個の結合のうち、1~3個がアルコキシ基と結合し、残余の結合が有機置換基と結合した構造を有する化合物である。
【0030】
アルコキシシラン化合物が有するアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロトキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基、及びヘキサトキシ基が挙げられる。アルコキシシラン化合物は、入手容易性の観点では、メトキシ基又はエトキシ基を有するアルコキシシラン化合物が好ましい。アルコキシシラン化合物の有するアルコキシ基の数は、無機物としての熱伝導性充填材との親和性をより高める観点では、2つ以上が好ましく、3つがより好ましい。アルコキシシラン化合物の具体例としては、トリメトキシシラン化合物及びトリエトキシシラン化合物から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0031】
アルコキシシラン化合物の有する有機置換基に含まれる官能基は、例えば、アクリロイル基、アルキル基、カルボキシル基、ビニル基、メタクリル基、芳香族基、アミノ基、イソシアネート基、イソシアヌレート基、エポキシ基、ヒドロキシル基、メルカプト基が挙げられる。ここで、上述した付加反応型シリコーン樹脂の前駆体として、例えば白金触媒を含む付加反応型のオルガノポリシロキサンを用いる場合、アルコキシシラン化合物は、オルガノポリシロキサンの硬化反応に影響を与え難いものが好ましい。具体的には、白金触媒を含む付加反応型のオルガノポリシロキサンを用いる場合、アルコキシシラン化合物の有機置換基は、アミノ基、イソシアネート基、イソシアヌレート基、ヒドロキシル基、又はメルカプト基を含まないことが好ましい。
【0032】
熱伝導性充填剤の分散性をより高めて、熱伝導性充填剤をより高充填し易くする観点では、ケイ素原子に結合したアルキル基を有するアルキルアルコキシシラン化合物、すなわち、アルキル基含有アルコキシシラン化合物が好ましい。アルキル基含有アルコキシシラン化合物において、ケイ素原子に結合したアルキル基の炭素数は4以上であることが好ましく、6以上であってもよく、8以上であってもよく、10以上であってもよい。また、熱伝導性樹脂組成物の粘度をより低く抑える観点では、アルキル基含有アルコキシシラン化合物においてケイ素原子に結合したアルキル基の炭素数は、16以下であることが好ましく、14以下であってもよく、12以下であってもよい。アルキル基含有アルコキシシラン化合物において、ケイ素原子に結合したアルキル基は、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよいし、環状であってもよい。
【0033】
アルコキシシラン化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。アルコキシシラン化合物の具体例としては、アルキル基含有アルコキシシラン化合物以外に、ビニル基含有アルコキシシラン化合物、アクリロイル基含有アルコキシシラン化合物、メタクリル基含有アルコキシシラン化合物、芳香族基含有アルコキシシラン化合物、アミノ基含有アルコキシシラン化合物、イソシアネート基含有アルコキシシラン化合物、イソシアヌレート基含有アルコキシシラン化合物、エポキシ基含有アルコキシシラン化合物、メルカプト基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。
【0034】
アルキル基含有アルコキシシラン化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、n-デシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシランなどが挙げられる。アルキル基含有アルコキシシラン化合物の中でも、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、n-デシルトリメトキシシラン、及び、ヘキサデシルトリメトキシシランから選ばれる少なくとも1種が好ましく、n-デシルトリメトキシシラン及びヘキサデシルトリメトキシシランの少なくとも1種がより好ましい。
【0035】
ビニル基含有アルコキシシラン化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0036】
アクリロイル基含有アルコキシシラン化合物としては、例えば、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0037】
メタクリル基含有アルコキシシラン化合物としては、例えば、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0038】
芳香族基含有アルコキシシラン化合物としては、例えば、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0039】
アミノ基含有アルコキシシラン化合物としては、例えば、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0040】
イソシアネート基含有アルコキシシラン化合物としては、例えば、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。イソシアヌレート基含有アルコキシシラン化合物としては、例えば、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートなどが挙げられる。
【0041】
エポキシ基含有アルコキシシラン化合物としては、例えば、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0042】
メルカプト基含有アルコキシシラン化合物としては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0043】
熱伝導性樹脂組成物中のアルコキシシラン化合物の含有量は、特に限定されないが、例えば、熱伝導性充填剤100重量部に対して、0.1~2.0重量部、より好ましくは0.2~1.0重量部とすることができる。アルコキシシラン化合物を2種以上併用するときは、その合計量が上記含有量の範囲を満たすことが好ましい。
【0044】
<カルボジイミド化合物>
熱伝導性樹脂組成物は、特定のカルボジイミド化合物、すなわち、副成分が上述したアルコキシシラン化合物に対して不活性の状態にあるカルボジイミド化合物を含有する。上述のように、熱伝導性樹脂組成物中で、シラノールに特定のカルボジイミド化合物を反応させることで、熱伝導性樹脂組成物を熱伝導性シートとしたときに高い熱伝導性を維持することに寄与すると考えられる。
【0045】
副成分がアルコキシシラン化合物に対して不活性の状態にあるカルボジイミド化合物に関して、「カルボジイミド化合物」とは、カルボジイミド基(-N=C=N-)を有する化合物である。また、「副成分」とは、例えば水分(水溶液または水)や、アルコキシシラン化合物に対して活性である水分以外のものが挙げられる。そして、「副成分がアルコキシシラン化合物に対して不活性の状態」とは、カルボジイミド化合物が副成分を実質的に含有しないことを意味する。
【0046】
上述のように、本技術で用いるアルコキシシラン化合物は、熱伝導性充填剤との反応に水分を必要とする。一方で、アルコキシシラン化合物は、それ自体も水分を介して相互に反応しうる。市販のカルボジイミド化合物の中には、例えば、水溶液または水に対してエマルジョンを形成させた状態で提供されるカルボジイミド化合物も存在する。このような、水溶液または水に対してエマルジョンを形成させた状態で提供されるカルボジイミド化合物を用いると、熱伝導性樹脂組成物を硬化するまでの放置時間が長くなったときに、カルボジイミド化合物に起因する水分によって悪影響のおそれがある。
【0047】
そのため、本技術の熱伝導性樹脂組成物の用途を考慮すると、カルボジイミド化合物が副成分として多量の水分を含有しないことが好ましい。例えば、特定のカルボジイミド化合物における副成分の含有量は、45重量%以下であることが好ましく、30重量%以下であってもよく、10重量%以下であってもよく、5重量%以下であってもよく、実質的に0重量%であってもよい。すなわち、特定のカルボジイミド化合物は、常温で固体のカルボジイミド化合物が好ましく、固形分100%であるカルボジイミド化合物がより好ましい。本明細書において、「常温」とは、JIS K 0050:2019(化学分析方法通則)に規定される15~25℃の範囲をいう。
【0048】
常温で液状のカルボジイミド化合物は、常温で固体のカルボジイミド化合物と比べて反応性が高い。そのため、常温で液状のカルボジイミド化合物を用いると、例えば、熱伝導性樹脂組成物の混錬時に上述したシラノールの縮合が進み、熱伝導性樹脂組成物をシート化する前に硬化が進んでしまう傾向にある。一方、常温で固体のカルボジイミド化合物は、嵩高く、常温で液体のカルボジイミド化合物と比べて反応性が低い。そのため、常温で固体のカルボジイミド化合物を用いると、熱伝導性樹脂組成物の混錬時に、常温で液体のカルボジイミド化合物を用いたときと比べて硬化が遅くなる傾向にあるので、熱伝導性樹脂組成物をシート化した後に本技術の効果をより効果的に発揮することができる。また、熱伝導性樹脂組成物が後述する酸化防止剤をさらに含有する場合、常温で固体のカルボジイミド化合物を用いると、常温で液状のカルボジイミド化合物を用いたときと比べて、硬化系への影響が少ない傾向にある。
【0049】
また、例えば熱伝導性充填剤として、熱伝導率が60W/m・K以上である窒素化合物(例えば窒化アルミニウム)を含有する熱伝導性樹脂組成物において、副成分(多量の水分)を含有するカルボジイミド化合物を用いると、カルボジイミド化合物が含有する副成分によって、下記式1のようにアンモニアガスが発生するとともに水酸化アルミニウムが発生してしまい、熱伝導性樹脂組成物を熱伝導性シートとしたときの熱伝導性の低下や、配合作業における環境悪化のおそれがある。
【0050】
【0051】
一方、本技術のように、特定のカルボジイミド化合物、すなわち、副成分がアルコキシシラン化合物に対して不活性の状態にあるカルボジイミド化合物を用いることで、副成分に起因したアンモニアガスの発生を抑制して、熱伝導性樹脂組成物の劣化をより効果的に抑制でき、熱伝導性樹脂組成物を熱伝導性シートとしたときに高い熱伝導性をより効果的に維持できる。また、特定のカルボジイミド化合物の一例である常温で固体のカルボジイミド化合物は、常温で液状のカルボジイミドよりも分子量が相対的に大きく、常温で液状のカルボジイミド化合物よりも反応性が相対的に低いと考えられるため、組成物の混錬時の作業性の観点でも好ましい。
【0052】
特定のカルボジイミド化合物において、カルボジイミド基に結合する基は、特に制限されず、例えば、脂肪族基、脂環族基、芳香族基、又はこれらの有機基が結合した基(例えば、ベンジル基、フェネチル基、1,4-キシリレン基等)等が挙げられる。
【0053】
特定のカルボジイミド化合物の市販品としては、上述のようにカルボジイミド化合物が副成分として多量の水分を含有しない観点で、カルボジスタ(帝人社製)、溶剤可溶型のポリカルボジイミド樹脂(固形分100%)であるカルボジライトV-05(日清紡ケミカル社製)、Elastostab H01(BASF Polyurethanes GmbH社製)などが好ましい。
【0054】
また、特定のカルボジイミド化合物は、カルボジイミド基の反応に伴うイソシアネートガスの発生が抑制される観点では、環状構造内にカルボジイミド基を有する環状のカルボジイミド化合物が好ましい。このような環状のカルボジイミド化合物を用いることにより、熱伝導性樹脂組成物を混錬する際などの作業環境をより改善できる。環状のカルボジイミド化合物の具体例は、例えば、WO2010/071212号公報の第13~17頁に記載された環状のカルボジイミド化合物(a)、同公報の第18~19頁に記載された環状のカルボジイミド化合物(b)、同公報の第22~23頁に記載された環状のカルボジイミド化合物(c)が挙げられ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。このようなカルボジイミド化合物の構造は、耐熱性、低温での反応性により優れたものであり、本技術の熱伝導性樹脂組成物の使用温度領域における安定性や、上述のようなアルコキシシラン化合物同士の加水分解の抑制に対して、より効果的に寄与する。本技術で用いることができる、環状のカルボジイミド化合物の市販品としては、例えば上述したカルボジスタ(帝人社製)が挙げられる。
【0055】
熱伝導性樹脂組成物中のカルボジイミド化合物の含有量は、特に限定されないが、例えば、上述のように熱伝導性充填剤の表面と結合しない残余のアルコキシシラン化合物同士の加水分解によって発生するシラノールに反応する量を考慮することが好ましい。例えば、熱伝導性樹脂組成物中のカルボジイミド化合物の含有量は、熱伝導性充填剤以外の成分100重量部に対して、0.1~2.0重量部とすることができる。カルボジイミド化合物を2種以上併用するときは、その合計量が上記含有量の範囲を満たすことが好ましい。
【0056】
<酸化防止剤>
本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、本技術の効果をより高める観点で、上述した成分に加えて酸化防止剤をさらに含有してもよい。酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を用いてもよいし、ヒンダードフェノール系酸化防止剤とチオール系酸化防止剤とを併用してもよい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、例えば、ラジカル(パーオキシラジカル)を捕捉して、付加反応型シリコーン樹脂の酸化劣化の抑制により効果的に寄与する。チオール系酸化防止剤は、例えば、ヒドロオキサイドラジカルを分解して、付加反応型シリコーン樹脂の酸化劣化の抑制により効果的に寄与する。
【0057】
<ヒンダードフェノール系酸化防止剤>
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール骨格として下記式2で表される構造を有するものが挙げられる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、下記式2で表される骨格を1つ以上有することが好ましく、下記式2で表される骨格を2つ以上有していてもよい。
【0058】
【0059】
式2中、R1及びR2がt-ブチル基を表し、R3が水素原子を表す場合(ヒンダードタイプ)、R1がメチル基を表し、R2がt-ブチル基を表し、R3が水素原子を表す場合(セミヒンダードタイプ)、R1が水素原子を表し、R2がt-ブチル基を表し、R3がメチル基を表す場合(レスヒンダードタイプ)が好ましい。高温環境下での長期熱安定性の観点からは、セミヒンダードタイプ又はヒンダードタイプが好ましい。また、ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、1分子中に、上述した式2で表される骨格を3つ以上有し、3つ以上の式2で表される骨格が、炭化水素基、又は、炭化水素基と-O-と-CO-との組み合わせからなる基で連結された構造であることが好ましい。炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよい。炭化水素基の炭素数は、例えば3~8とすることができる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の分子量は、例えば300~850とすることができ、500~800とすることもできる。
【0060】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、その構造中に、エステル結合を有するものも好ましい。エステル結合を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤を用いることにより、付加反応型シリコーン樹脂の酸化をより効果的に防止することができる。このようなフェノール系酸化防止剤としては、3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル、テトラキス[3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、2,2’-ジメチル-2,2’-(2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン-3,9-ジイル)ジプロパン-1,1’-ジイル=ビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロパノアート]などが挙げられる。また、ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、その構造中に、エステル結合を有しないもの、例えば1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタンなどを用いることもできる。
【0061】
フェノール系酸化防止剤の市販品としては、アデカスタブAO-30、アデカスタブAO-50、アデカスタブAO-60、アデカスタブAO-80(以上、ADEKA社製)、イルガノックス1010、イルガノックス1035、イルガノックス1076、イルガノックス1135(以上、BASF社製)などが挙げられる。フェノール系酸化防止剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0062】
熱伝導性樹脂組成物中にフェノール系酸化防止剤を含有させる場合、フェノール系酸化防止剤の含有量の下限値は、例えば、付加反応型シリコーン樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上とすることができ、好ましくは0.5重量部以上である。また、フェノール系酸化防止剤の含有量の上限値は、例えば、付加反応型シリコーン樹脂100重量部に対して、10重量部以下とすることができ、好ましくは5重量部以下である。フェノール系酸化防止剤を2種以上併用するときは、その合計量が上記含有量の範囲を満たすことが好ましい。
【0063】
<チオール系酸化防止剤>
チオール系酸化防止剤としては、チオエーテル骨格を有するタイプや、ヒンダードフェノール骨格を有するタイプなどが挙げられる。例えば、チオール系酸化防止剤としては、3,3’-チオビスプロピオン酸ジトリデシル、テトラキス[3-(ドデシルチオ)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール等が挙げられる。
【0064】
チオール系酸化防止剤の市販品としては、アデカスタブAO-412S、アデカスタブAO-503、アデカスタブAO-26(以上、ADEKA社製)、スミライザーTP-D(住友化学社製)、Irganox1520L(BASFジャパン社製)などが挙げられる。これらのチオール系酸化防止剤の中でも、より硬化阻害が少ない点から、テトラキス[3-(ドデシルチオ)プロピオン酸]ペンタエリトリトール(市販品:アデカスタブAO-412S、スミライザーTP-D(住友化学社製)、Irganox1520Lが好ましい。チオール系酸化防止剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0065】
熱伝導性樹脂組成物中にチオール系酸化防止剤を含有させる場合、熱伝導性樹脂組成物中のチオール系酸化防止剤の含有量は、フェノール系酸化防止剤と同量程度とするか、フェノール系酸化防止剤よりも多くすることが好ましい。例えば、チオール系酸化防止剤の含有量の下限値は、例えば、付加反応型シリコーン樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上とすることができる。また、チオール系酸化防止剤の含有量の上限値は、例えば、付加反応型シリコーン樹脂100重量部に対して、20重量部以下とすることができ、好ましくは10重量部以下である。チオール系酸化防止剤を2種以上併用するときは、その合計量が上記含有量の範囲を満たすことが好ましい。
【0066】
以上のように、本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、付加反応型シリコーン樹脂と、熱伝導性充填剤を55~85体積%と、アルコキシシラン化合物と、特定のカルボジイミド化合物とを含有する。このように、付加反応型シリコーン樹脂と、熱伝導性充填剤と、アルコキシシラン化合物と、特定のカルボジイミド化合物とを併用することにより、その相乗効果で、熱伝導性充填剤を55~85体積%含有する熱伝導性樹脂組成物を熱伝導性シートとしたときに、高い熱伝導性を維持することができる。また、本技術に係る熱伝導性樹脂組成物では、高温状態での付加反応型シリコーン樹脂の酸化作用を抑制しつつ、シート状にしたときの柔軟性を維持することもできる。
【0067】
また、本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、付加反応型シリコーン樹脂と、熱伝導性充填剤と、アルコキシシラン化合物と、特定のカルボジイミド化合物とを含有し、硬化後の熱伝導率が5W/m・K以上を示すものであってもよい。このような態様でも本技術の効果を奏することができる。
【0068】
なお、本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、本技術の効果を損なわない範囲で、上述した成分以外の他の成分をさらに含有してもよい。
【0069】
本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、例えば、上述した各成分を混錬機(遊星式混錬機、ボールミル、ヘンシェルミキサーなど)を用いて混錬して得ることができる。なお、バインダ樹脂である付加反応型シリコーン樹脂として、2液型の付加反応型シリコーン樹脂を用いる場合は、主剤と硬化剤と熱伝導性充填剤を一度に混合するのではなく、熱伝導性充填剤の所要量を主剤と硬化剤それぞれに分割して混合しておき、使用時に主剤を含む成分と硬化剤を含む成分とを混合するようにしてもよい。
【0070】
<熱伝導性シート>
本技術に係る熱伝導性シートは、上述した熱伝導性樹脂組成物の硬化物からなる。本技術に係る熱伝導性シートは、上述した熱伝導性樹脂組成物を用いることで、熱伝導率を3.0W/m・K以上とすることもでき、3.5W/m・K以上とすることもでき、4.0W/m・K以上とすることもでき、4.5W/m・K以上とすることもでき、5.0W/m・K以上とすることもでき、6.0W/m・K以上とすることもできる。熱伝導性シートの熱伝導率の上限値は、特に限定されないが、例えば、15.0W/m・K以下とすることができ、7.0W/m・K以下とすることもできる。
【0071】
また、本技術に係る熱伝導性シートは、例えば、200℃、24時間の条件でエージングしたときの下記式3で示す熱伝導率の維持率を70%以上とすることができ、75%以上とすることもでき、80%以上とすることもでき、90%以上とすることもできる。
式3:(エージング処理後の熱伝導性シートの熱伝導率/エージング処理前の熱伝導性シートの熱伝導率)×100
【0072】
本技術に係る熱伝導性シートは、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、ポリオレフィン、ポリメチルペンテン、グラシン紙等から形成された剥離フィルム上に、熱伝導性樹脂組成物を所望の厚みで塗布し、加熱することで、バインダ樹脂(付加反応型シリコーン樹脂)を硬化させて得られる。熱伝導性シートの厚みは、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、0.05~5mmとすることができる。
【0073】
以上のように、本技術に係る熱伝導性シートは、上述した熱伝導性樹脂組成物からなるため、付加反応型シリコーン樹脂と、熱伝導性充填剤と、アルコキシシラン化合物と、特定のカルボジイミド化合物との相乗効果で、熱伝導性充填剤を55~85体積%含有する熱伝導性樹脂組成物からなるものであっても、高い熱伝導性を示すことができる。
【0074】
本技術に係る放熱構造は、発熱体と放熱部材との間に、上述した熱伝導性樹脂組成物の硬化物、例えば熱伝導性シートが挟持されている。発熱体としては、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、フラッシュメモリなどの集積回路素子、トランジスタ、抵抗器など、電気回路において発熱する電子部品等が挙げられる。また、発熱体には、通信機器における光トランシーバー等の光信号を受信する部品も含まれる。放熱部材としては、例えば、ヒートシンクやヒートスプレッダなど、集積回路素子やトランジスタ、光トランシーバー筐体などと組み合わされて用いられるものが挙げられる。また、電気回路が収納されている筐体そのものを放熱部材としてもよい。本技術に係る放熱構造は、例えば、集積回路素子とヒートスプレッダとの間、ヒートスプレッダとヒートシンクとの間の各々に、上述した熱伝導性樹脂組成物の硬化物、特に熱伝導性シートが挟持されていてもよい。
【0075】
本技術に係る物品は、上述した放熱構造を備える。このような放熱構造を備える物品としては、例えば、パーソナルコンピュータ、サーバ機器、携帯電話、無線基地局、自動車等輸送機械のエンジン、動力伝達系、操舵系、エアコンなど電装品の制御に用いられるECU(Electronic Control Unit)が挙げられる。
【実施例】
【0076】
以下、本技術の実施例について説明する。本実施例では、表1に示す原料からなる熱伝導性樹脂組成物を得た。そして、熱伝導性樹脂組成物から得られた熱伝導性シートについて、表1に示す試験を実施した。なお、本技術は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0077】
<熱伝導性樹脂組成物の作製>
本実施例で用いた原料は、以下の通りである。
【0078】
[バインダ樹脂]
付加反応型シリコーン樹脂:アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと、白金触媒と、ヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサンとの混合物からなる付加反応型シリコーン樹脂
【0079】
[分散剤]
アルキルトリアルコキシシラン:n-デシルトリメトキシシラン(Z-6210、東レ・ダウコーニング社製)
アルキルトリアルコキシシラン:ヘキサデシルトリメトキシシラン(Dynasylan 9116、エボニック・ジャパン社製)
【0080】
[加水分解抑制剤]
カルボジイミド化合物:カルボジスタTCC-FP20M(帝人社製、固形分100%(微粉状))
オキサゾリン基含有ポリマー:エポクロスw-500(日本触媒社製、不揮発分39%)
ポリイソシアネート:コロネートHX(東ソー社製、固形分100%)
カルボジイミド化合物:カルボジライト(日清紡社製、不揮発分40%)
【0081】
[酸化防止剤]
フェノール系酸化防止剤(製品名:AO-80(ADEKA社製))
硫黄系酸化防止剤(製品名:SUMILIZER(登録商標) TP-D(住友化学社製))
【0082】
[熱伝導性充填剤]
窒化アルミニウムと、アルミナ(球状アルミナ)と、酸化マグネシウムとの混合物
炭素繊維と、窒化アルミニウムと、酸化亜鉛との混合物
【0083】
<実施例1~4、比較例1~8>
熱伝導性充填剤は、シリコーン樹脂に一種ずつ添加するごとに攪拌した。攪拌には遊星撹拌機を用い、回転数は1200rpmとした。次に、バーコーターを用いて熱伝導性樹脂組成物を厚み2mmとなるように塗布し、80℃で6時間加熱して熱伝導性シートを得た。熱伝導性充填剤について、例えば、比較例1では、シリコーン樹脂100重量部に対して、窒化アルミニウム550重量部と、アルミナ365重量部と、酸化マグネシウム650重量部との混合物を用いた。
【0084】
<実施例5、比較例9>
実施例5及び比較例9では、押出成形法により、攪拌後の熱伝導性樹脂組成物を、直方体状の内部空間を有する金型(開口部:30mm×30mm)中に流し込み、100℃のオーブンで4時間加熱させて成形体ブロックを形成した。なお、金型の内面には、剥離処理面が内側となるように剥離ポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り付けておいた。得られた成形体ブロックを超音波カッターで1mm厚のシート状にスライスすることにより、炭素繊維がシートの厚み方向に配向した熱伝導性シートを得た。
【0085】
[分散性]
熱伝導性充填剤を除く成分を混合した熱伝導性樹脂組成物中に、熱伝導性充填剤を一種ずつ添加して攪拌した。攪拌には、市販の自転公転撹拌機(自公転式真空撹拌脱泡ミキサー(装置名:V-mini 300、EME社製)を用い、回転数を1200rpmとした。熱伝導性樹脂組成物中に全ての熱伝導性充填剤が分散するまでの時間について評価した。結果を表1に示す。
A:2分以内
B:2分超、4分以内
C:4分超、6分以内
D:6分超、10分以内
E:10分超攪拌しても全く混合できず
【0086】
[初期熱伝導率]
ASTM-D5470に準拠した熱抵抗測定装置を用いて、荷重1kgf/cm2をかけて熱伝導性シートの厚み方向の初期熱伝導率(W/m・K)を測定した。測定時のシート温度は45℃であった。結果を表1に示す。
【0087】
[200℃、24時間エージング後の熱伝導率]
200℃、24時間のエージング(超加速試験)処理後の熱伝導性シートの厚み方向の熱伝導率(W/m・K)を測定した。結果を表1に示す。
【0088】
[初期熱伝導率維持率]
エージング処理により熱伝導性シートが劣化すると、熱伝導性シートが硬くなり、シート表面の接触抵抗が大きくなるため、見かけ上の熱伝導率が低下する。そのため、熱伝導性シートの熱伝導性及び柔軟性の観点から、初期熱伝導率維持率が高いことが重要である。初期熱伝導率維持率(%)は、上述した式3で示すように、エージング処理前の熱伝導性シートの熱伝導率(初期熱伝導率)と、エージング処理後の熱伝導性シートの熱伝導率とから求めた。結果を表1に示す。実用上、初期熱伝導率維持率は、70%以上であることが好ましい。
【0089】
【0090】
実施例1~5では、付加反応型シリコーン樹脂と、熱伝導性充填剤を55~85体積%と、アルコキシシラン化合物と、特定のカルボジイミド化合物とを含有する熱伝導性樹脂組成物を用いたため、初期熱伝導率維持率が良好な熱伝導性シートが得られることが分かった。また、実施例1~5では、付加反応型シリコーン樹脂と、熱伝導性充填剤と、アルコキシシラン化合物と、特定のカルボジイミド化合物とを含有し、硬化後の熱伝導率が5W/m・K以上を示す熱伝導性樹脂組成物を用いたため、初期熱伝導率維持率が良好な熱伝導性シートが得られることが分かった。このように、実施例1~5で得られた熱伝導性シートは、高温環境下であっても、高い熱伝導性及び柔軟性を維持できることが分かった。
【0091】
特に、実施例1~4では、熱伝導性樹脂組成物中の熱伝導性充填剤の含有量が80体積%であり、熱伝導性シートの初期熱伝導率が5W/m・K以上を示す場合でも、熱伝導性シートの初期熱伝導率維持率が75%以上と良好であることが分かった。
【0092】
一方、比較例1~9では、特定のカルボジイミド化合物を含有しない熱伝導性樹脂組成物を用いたため、初期熱伝導率維持率が良好ではないことが分かった。具体的には、比較例3~5,7では、特定のカルボジイミド化合物に替えて、アルコールやカルボン酸等と反応する架橋剤であるオキサゾリン基含有ポリマー、ポリイソシアネート、又は、不揮発分が40%である水溶性のカルボジイミド化合物(副成分がアルコキシシラン化合物に対して活性の状態にあるカルボジイミド化合物)を用いたが、初期熱伝導率維持率が良好ではないことが分かった。
【0093】
また、実施例3と比較例8の結果から、本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、初期熱伝導率維持率を良好にすることができる効果の他に、熱伝導性樹脂組成物が硫黄系酸化防止剤(二次酸化防止剤)を含有する場合にシート化できる効果もあることが分かった。具体的に、比較例8は、付加反応型シリコーン樹脂と、80体積%の熱伝導性充填剤と、アルコキシシラン化合物と、フェノール系酸化防止剤(一次酸化防止剤)と、硫黄系酸化防止剤を含有し、特定のカルボジイミド化合物を含有しない熱伝導性樹脂組成物を用いたところ、硬化阻害(硬化不良)を起こしてしまい、熱伝導性樹脂組成物をシート化することができなかった。一方、実施例3の熱伝導性樹脂組成物は、比較例8の熱伝導性樹脂組成物に特定のカルボジイミド化合物をさらに含有させたところ、比較例8の熱伝導性樹脂組成物と比べて硬化阻害が緩和され、シート化するとともに、初期熱伝導率維持率を良好にすることができた。
【要約】
【課題】高い熱伝導性を維持できる熱伝導性樹脂組成物及びこれを用いた熱伝導性シートの提供。
【解決手段】熱伝導性樹脂組成物は、付加反応型シリコーン樹脂と、熱伝導性充填剤と、アルコキシシラン化合物と、副成分がアルコキシシラン化合物に対して不活性の状態にあるカルボジイミド化合物とを含有し、熱伝導性充填剤を55~85体積%含有する。また、熱伝導性樹脂組成物は、付加反応型シリコーン樹脂と、アルコキシシラン化合物と、熱伝導性充填剤と、副成分がアルコキシシラン化合物に対して不活性の状態にあるカルボジイミド化合物とを含有し、硬化後の熱伝導率が5W/m・K以上を示す。
【選択図】なし