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特許6997853自己保形性食品組成物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】自己保形性食品組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/20 20160101AFI20220111BHJP
   A23L 29/256 20160101ALI20220111BHJP
   A23L 29/269 20160101ALI20220111BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20220111BHJP
【FI】
A23L29/20
A23L29/256
A23L29/269
A23L33/10
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020214888
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2020-12-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508274828
【氏名又は名称】株式会社ヤヨイサンフーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100097102
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 敬夫
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】村田 舞羽
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-074700(JP,A)
【文献】特開2017-038530(JP,A)
【文献】特開2021-094013(JP,A)
【文献】国際公開第2013/187283(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一ゲル化剤と、水と、保形剤と、食品素材とを少なくとも含んでなる、自己保形性の食品組成物であって、
前記第一ゲル化剤が、アルギン酸ナトリウムおよびジェランガムからなる群から選択される一種以上であり、
前記保形剤が、でんぷん、増粘多糖類、食物繊維およびタンパクからなる群から選択される一種以上であり、
前記第一ゲル化剤を、当該食品組成物を基準として、0.2~5.0重量%含んでなり、
当該食品組成物が、前記第一ゲル化剤による微細なゲルであって、前記水の一部をその内部に保持する微細なゲルを含み、前記保形剤によって当該食品組成物全体の形状が保持されてなり、前記微細なゲルがフルイドゲルであることを特徴とする、食品組成物。
【請求項2】
第一ゲル化剤が、熱または金属イオンによりゲル化するものである、請求項1に記載の食品組成物。
【請求項3】
日本介護食品協議会規格UDF区分の「舌でつぶせる」に分類される硬さ、または舌でつぶせる程度の硬さを備える、請求項1または2に記載の食品組成物。
【請求項4】
前記食品素材が、野菜ペースト 、野菜パウダー、たんぱく、油脂、デンプン、肉、魚、果物、米飯、または惣菜である、請求項1~のいずれか一項に記載の食品組成物。
【請求項5】
食品組成物が介護用食品である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
自己保形性の食品組成物の製造方法であって、
(1)アルギン酸ナトリウムおよびジェランガムからなる群から選択される一種以上の第一ゲル化剤と水とを混合し、分散液または溶液を得る工程(ここで、前記第一ゲル化剤は、当該食品組成物を基準として、0.2~5.0重量%となる量添加される)、
(2)前記工程(1)で得られた分散液または溶液をゲル化して第一ゲルを得る工程、
(3)前記工程(2)で得られた第一ゲルに、保形剤および食品素材を混合し、同時に前記第一ゲルが粉砕され、フルイドゲルとされた混合物を得る工程、または前記工程(2)で得られた第一ゲルを粉砕し、フルイドゲルとされた当該粉砕物に、保形剤および食品素材を混合し、混合物を得る工程(ここで、前記保形剤は、でんぷん、増粘多糖類、食物繊維およびタンパクからなる群から選択される一種以上である)、
(4)前記工程(3)で得られた混合物の保形剤により全体の形状が保持された食品組成物を得る工程
とを少なくとも含んでなる、方法。
【請求項7】
第一ゲル化剤が、熱または金属イオンによりゲル化するものである、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記工程(2)のゲル化が、前記工程(1)で得られた分散液または溶液を加熱するか、または前記工程(1)で得られた分散液または溶液に金属イオンを添加することにより行われる、請求項またはに記載の方法。
【請求項9】
前記保形剤が、熱によりゲル化するもの、水分を吸収し存在する系の粘度を上げるもの、金属イオンまたは酸若しくはアルカリによりゲル化するものである、請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記保形剤が、単独で若しくは組み合わせて、またはエマルジョンの形態で混合される、請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記食品素材が、野菜ペースト、野菜パウダー、たんぱく、油脂、デンプン、肉、魚、果物、米飯、または惣菜である、請求項10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記工程(4)の前に成形するか、またはその後に成形する、請求項11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
食品組成物が介護用食品である、請求項12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好ましくは介護用食品とすることができる食品組成物およびその製造方法に関し、詳細には一定の流動性を備えながら、形状を保持する自己保形性を備えた食品組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、とりわけ介護用食品は、その硬さが重要な性質となり、また公の定義(例えば、日本介護食品協議会規格UDF区分)においても硬さの基準を含む。介護用食品の製造は、やわらかく流動性のある生地を型に充填し、加熱してたんぱく、でんぷん、またはゲル化剤などを反応させることにより行われ、これら固化またはゲル化成分の種類、その量、製造条件などを調整して所定の硬さを実現している。また、所定の硬さを得ながら、食品としての保形性も確保するものとされている。
【0003】
近時の環境への配慮の高まりとコスト削減などを理由として、プラスチックなどの容器を用いずに食品を提供する試みもなされているが、上記したような製法にあっては、容器への充填は省略し難く、また製造後の保形性を、容器を必要としない程度のものとすることにも技術的困難が伴うのが一般的である。
【0004】
魚や肉ムースに代表されるようなタンパクが多量に含まれる介護用食では、タンパクの結着により、容器充填を必要としない保形性のある生地物性を実現することは場合により可能であるが、野菜ムースや、肉、魚のムースであってもそのタンパクの含有量が比較的少ない場合、タンパクの結着により保形性を確保できないムース類では難しい場合が多い。また、得られた食品において、恐らくは食品中の水の存在状態に変化が生じ、ふくらみやひび割れ等が生じて保形性に悪影響を与える。さらに保形性と、耐熱性や食感などの良好な諸物性との両立も難しい。
【0005】
以上のような状況にあって、優れた食品、とりわけ介護用食品への希求が依然として存在しているといえる。
【0006】
微細なゲルの集合体であって、液体のような流動性を示すゲルが、フルイドゲルと呼ばれ知られている。例えば、特開2012-161259号(特許文献1)は、このフルイドゲルに対し、さらにその全体をゲル化させ、芳香成分、消臭成分等が凝集、分離することなく均一に溶解または分散状態を維持したまま固定したゲル状組成物を開示している。しかし、この公報に記載のゲル状組成物は、界面活性剤を用いずに「非水溶性液状成分」を安定的に分散させることを課題としており(段落0004等)、水溶性の成分の添加を前提とした技術ではない。また、この公報には食品の用途の一般記載はあるが(段落0027)、その形状維持性、さらに特定の物性を備えた食品、とりわけ介護用食品の開示・示唆はない。
【0007】
また特開2003-78740号(特許文献2)は、脱アシル型ジェランガムおよび/または寒天と、サイリウムシードガムとを含む咀嚼・嚥下困難者用食品を開示する。この公報に記載の食品は、「サイリウムシードガム」の添加によって流動性が適度に抑制され、且つ口腔及び咽頭相への付着性が小さく、経時的な物性変化が少ないという作用効果を得ているとされている。
【0008】
またWO2012/114995号(特許文献3)は、特定の貯蔵弾性率の嚥下・咀嚼困難者用食品の摂食補助用オルガノゲルを開示する。この公報に記載のオルガノゲルは、「キザミ食」と混合して用いることを前提とするものであり、またオルガノゲルの連続相は液状油または有機溶媒であり、水が主ではない。
【0009】
また特表2003-506061号(特許文献4)は、ミクロゲルを、マヨネーズやスプレッド等のペーストに物性保持のために添加する技術を開示する。しかし、この公報には、形状維持性、さらに特定の物性を備えた食品、とりわけ介護用食品の開示・示唆はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2012-161259号公報
【文献】特開2003-78740号公報
【文献】WO2012/114995号公報
【文献】特表2003-506061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、今般、二つのゲルを組み合わせることで、一定の流動性を備えながら、形状を保持する性質を備え、好ましくは介護用食品とすることができる食品組成物が実現できるとの知見を得た。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0012】
従って、本発明は、一定の流動性を備えながら、形状を保持する性質を備え、好ましくは介護用食品とすることができる食品組成物およびその製造方法の提供をその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そして、本発明による食品組成物は、第一ゲル化剤と、水と、保形剤と、食品素材とを少なくとも含んでなる自己保形性の食品組成物であって、
当該食品組成物が、前記第一ゲル化剤による微細なゲルであって、前記水の一部をその内部に保持する微細なゲルを含み、前記保形剤によって当該食品組成物全体の形状が保持されてなることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明による上記食品組成物の製造方法は、
(1)第一ゲル化剤と水とを混合し、分散液または溶液を得る工程、
(2)前記工程(1)で得られた分散液または溶液をゲル化して第一ゲルを得る工程、
(3)前記工程(2)で得られた第一ゲルに、保形剤および食品素材を混合し、同時に前記第一ゲルが粉砕された混合物を得る工程、または前記工程(2)で得られた第一ゲルを粉砕し、当該粉砕物に、保形剤および食品素材を混合し、混合物を得る工程、
(4)前記工程(3)で得られた混合物の保形剤により全体の形状が保持された食品組成物を得る工程
とを少なくとも含んでなるものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
食品組成物
本発明により提供される食品組成物は、それ自体直ちに食品として供することができる物に加え、食品の素材としてさらに何らかの調理の上で食品に供されるもののいずれも意味する。本発明による食品組成物は、好ましくは咀嚼・嚥下機能の低下した高齢者等が誤嚥なく喫食できる介護用食品である。本発明により提供される食品組成物は「自己保形性」の性質を有する。本発明において「自己保形性」とは、一定の流動性、例えば型に充填し、またはドラム成形機のドラムに充填可能な程度の流動性を有しながら、型に充填され、またはドラム成形機のドラムで成形された後は、その形状を引き続き保持する、すなわち自重で大きく形を変えないとの性質を意味する。また、ゲル組成物を所定の厚さの生地として、型抜きにより成形することも可能である性質を意味する。
【0016】
この「自己保形性」の性質によって、製品を流通過程において最終消費のときまで容器に収納しておく必要がなくなる。容器利用による環境負荷がなく、ごみの削減などの利点が得られる。また生産流通コストの面でも有利となる。
【0017】
さらに、生産においても、従来一般的に行われていた、やわらかく流動性のある生地を型に充填し、その後固化する製法にあっては、型から取り出す工程が生産過程または利用の直前に必要となるが、本発明により提供される食品組成物は、生産効率の面で有利であり、さらに最終的な利用の場面において、家庭や施設職員が容器から出す作業の簡略化が実現できる点でも有利である。
【0018】
本発明の一つの好ましい態様によれば、本発明により提供される食品組成物を介護用食品とする場合、日本介護食品協議会規格UDF区分の「舌でつぶせる程度の固さ」のものとすることができる。本発明によれば、製造時に、型に充填し、またはドラム成形機のドラムに充填可能な程度の流動性を有しながら、成形後、その形状を保持し、かつ介護食に適した物性を備える食品組成物からなる介護用食品が提供される。好ましい態様によれば、咀嚼・嚥下機能の低下した高齢者等が誤嚥なく喫食できる、咀嚼・嚥下困難者に適した食品、すなわち咀嚼・嚥下困難者用食品もまた提供される。
【0019】
本発明により提供される食品組成物が備える上記性質は多面的に評価され得るものであり、例えば、消費者庁「えん下困難者用食品の表示許可基準」における硬さ、付着性、及び凝集性において、許可基準I乃至IIIを満たすものであることが好ましい。一つの指標として、本発明による食品組成物は、舌でつぶせる程度の固さとして、上記基準における「硬さ」が2.0×10N/m以下であるものとされることが好ましい。
【0020】
本発明の一つの態様によれば、本発明により提供される食品組成物はその表面のべたつきが抑えられたものとなり、その取扱いが容易であるとの利点が得られる。
【0021】
本発明の一つの態様によれば、本発明により提供される食品組成物は、加熱時に膨張せず、冷却時にも硬くならない物性を備える。
【0022】
本発明により提供される食品組成物が有する「自己保形性」および上記した利点は、食品組成物が特定の物理的構成を取ることから得られるものと考えられる。すなわち、本発明により提供される食品組成物は、第一ゲル化剤と、水と、保形剤と、食品素材とを少なくとも含んでなる食品組成物であって、
・食品組成物が、第一ゲル化剤による微細なゲルであって、水の一部をその内部に保持する微細なゲルと、
・保形剤によって全体がゲル状態またはその形状を保持する、すなわち自重で大きく形を変えない性質の状態にあり、
・食品素材が微細なゲルの内部または周囲に存在している
構成により得られるものと考えられる。より具体的には、食品組成物の主たる成分である水の一部、好ましくは多くが、第一ゲル化剤による微細なゲルの内部に安定的に保持されていることが「自己保形性」および上記した利点を主として生じさせているものと考えられる。水が安定的に存在することができる結果、成型時の流動性を保形性の高い状態で維持し、加熱時に膨張せず、冷却時にも硬くならない物性を可能としたと考えられる。また、水を含む微細なゲルが、その細かな構造から、日本介護食品協議会規格UDF区分の「舌でつぶせる」に分類される適度な柔らかさを可能にしているものと考えられる。なお、以上の説明はあくまで仮説であって、これにより本発明が限定的に解釈されることを意図するものではない。
【0023】
本発明の好ましい態様によれば、第一ゲル化剤により形成される微細なゲルは、フルイドゲルと分類されるゲルであってよい。したがって、本発明による食品組成物を、その水の一部、好ましくは多くが、フルイドゲルの内部に安定的に保持され、その周囲に食品素材の一部、好ましくはその多くが存在し、組成物全体が「自己保形性」を備えるものと表現することができる。
【0024】
食品組成物の製造方法
本発明による食品組成物の製造方法は、以下に示す工程(1)から工程(4)を基本的に含んでなる。
【0025】
工程(1)
第一ゲル化剤
第一ゲル化剤と水とを混合し、分散液または溶液を得る工程である。ここで、第一ゲル化剤は、上記した水をその内部に保持する微細なゲルを形成可能なものを意味し、本発明にあっては、好ましくは、熱、金属イオンまたは酸若しくはアルカリによりゲル化するものである。その具体例としては、アルギン酸ナトリウム、カードラン、ジェランガム、およびグルコマンナンからなる群から選択される一種以上が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
本発明の好ましい態様によれば、第一ゲル化剤は、アルギン酸ナトリウム、カードラン、ジェランガムが好ましい。また、第一ゲル化剤は、単独で用いてもよいが、組み合わせて用いることもできる。
【0027】
本発明の方法において、第一ゲル化剤の量は、最終的な食品組成物を基準として、0.2~5.0重量%程度が好ましく、より好ましくは下限が1.0重量%以上であり、さらに好ましくは2.0重量%以上であり、また、より好ましくは上限が4.5重量%以下であり、さらに好ましくは4.0重量%以下である。
【0028】
この工程(1)において混合されるのは第一ゲル化剤と水であるが、例えば、この工程において第一ゲル化剤以外の成分を添加してもよい。例えば、第一ゲル化剤を均一に分散させるための分散剤(例えば、トレハロース)を加えてもよく、また後記する食品素材の一部をこの工程(1)において添加してもよい。
【0029】
本発明において、第一ゲル化剤と水との混合は、その後の第一ゲル化剤のゲル化が可能な程度に水に溶解または分散させればよい。
【0030】
工程(2)
工程(1)で得られた分散液または溶液をゲル化して第一ゲルを得る工程である。ゲル化は、第一ゲル化剤をゲル化する条件に付して行う。例えば、熱によりゲル化するゲル化剤の場合は加熱により、金属イオンによりゲル化するゲル化剤の場合は、金属イオンの添加により行われる。
本発明にあって、このようにして得られた第一ゲルは、微細なゲルの集合体であって、液体のような流動性を示すゲル、すなわちフルイドゲルに分類される性質を備えるものである。
【0031】
工程(3)
工程(2)で得られた第一ゲルに、保形剤および食品素材を混合し、同時に第一ゲルが粉砕された混合物を得るか、または、工程(2)で得られた第一ゲルを粉砕し、この粉砕物に、保形剤および食品素材を混合し、混合物を得る工程である。ここで、粉砕された第一ゲルを含む混合物は、微細なゲルの集合体であって、液体のような流動性を示すゲル、すなわちフルイドゲルに分類される性質を備えるものである。
【0032】
保形剤
この工程において用いられる保形剤は、工程(2)で得られた第一ゲルおよび食品素材と混合され、後記する工程(4)において、その全体の形状が保持されうるものとされ、すなわち「自己保形性」を備えるものとする作用のものを意味する。すなわち、本発明において「保形剤」とは、工程(4)を経た後、一定の流動性、例えば型に充填し、またはドラム成形機のドラムに充填可能な程度の流動性を有しながら、型に充填され、またはドラム成形機のドラムで成形された後は、その形状を引き続き保持する性質を実現できるものを意味する。
【0033】
本発明において、「保形剤」としては、熱によりゲル化するもの、水分を吸収し存在する系の粘度を上げるもの、金属イオンまたは酸若しくはアルカリによりゲル化するものなどが挙げられる。より具体的には、でんぷん、増粘多糖類(例えば、サクシノグルカン)、食物繊維、タンパク、からなる群から選択される一種以上が挙げられる。また、「保形剤」はエマルジョンの形態で添加されてもよい。
【0034】
食品素材
本発明による食品組成物は、食品、特に介護用食品である場合、それを食することで栄養源を摂取できるものとされ、そのための主たる成分として「食品素材」を含有する。ここで「食品素材」とは、野菜ペースト、野菜パウダー、たんぱく、油脂、デンプン、肉、魚、果物等に加え、米飯、惣菜等を挙げることができる。とりわけ、野菜ペースト、野菜パウダー、果物などには、熱などにより凝固するようなタンパク成分が少ないことから、それ自体で固化させることが難しく、食品組成物のような食品として提供することが容易とは言い難いが、本発明によれば、このような野菜を食品素材として含む食品、介護用食品を提供することが可能となる。
【0035】
本発明の一つの態様にあっては、食品素材と保形剤とが同一の成分であってもよい。例えば、本発明にあって、デンプンや食物繊維は、それ自体エネルギーの供給、あるいは食品に機能を得られたり、味風味を与えたりする成分であるから食品素材としてされるが、同時に、第一ゲルを含む組成物全体を「自己保形性」を備えるものとするものとする機能も有する。本発明にあっては、このように食品素材と保形剤とが同一の成分である態様を排除するものではない。
【0036】
他の成分
工程(3)において、食品素材以外の成分を添加してもよく、その具体例としては、調味料、着色料、香料、食品添加物などが挙げられる。
【0037】
工程(4)
工程(3)で得られた混合物中の保形剤により、組成物全体に「自己保形性」を付与する工程である。具体的には、熱によりゲル化するものであれば加熱し、金属イオンまたは酸若しくはアルカリによりゲル化するものであれば、金属イオンまたは酸若しくはアルカリを添加して組成物全体をゲル化する。また、水分を吸収し存在する系の粘度を上げるものであれば、水分を吸収するよう撹拌または静置し、さらに水を吸収する時間を確保するために、この撹拌または静置を一定時間継続することで実施される。またこの場合、この工程(4)における反応は、実質的に工程(3)と区別されずに実施されてよい。
【0038】
成形工程
本発明により提供される食品組成物は、「自己保形性」を有するため、工程(4)を経た後に成形することができることは無論のこと、工程(4)の前に成形してもよい。工程(4)を経た後に成形する手段としては、型に充填する、またはドラム成形機のドラムで成形するなどが挙げられる。また、食品組成物を所定の厚さの生地として、型抜きにより成形することも可能である。
【0039】
成形された本発明により食品組成物からなる食品は、その後、そのまま、好ましくは冷蔵・冷凍されて保存、運搬される。その後食品は、そのまま、あるいは冷蔵または冷凍して保存した後室温もしくはそれ以上の温度まで昇温または自然解凍して食する。本発明による食品は、解凍した後も性質および物性を示す。さらに、食品組成物からなる食品は、加熱調理されてもよい。
【実施例
【0040】
本発明を以下の例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下単に%とあるのは特に断りのない限り質量%をいうものとする。
【0041】
実施例1~13
下記の表1に記載の組成の原料を用意した。
【表1】
表中、保形剤・食品素材の欄の「エマルジョン」は、サクシノグルカン、水、粉末卵白、大豆たんぱく及び菜種油を表1に記載の成分量で混合し、エマルジョン化したものである。
【0042】
表1に記載の原料のうち、第一ゲルの欄に記載の成分を混合し、アルギン酸ナトリウムの場合は混合により、カードランおよびLAジェランガムの場合は加熱(85~95℃程度)して第一ゲルを得た。続いて、この第一ゲルと、保形剤・食品素材の欄に記載の成分を混合した。ここで、第一ゲルが微細なゲルとなるように、フードプロセッサーMK-K81を使用し2900rpmにて30秒攪拌した。その後、撹拌した組成物を中心75℃以上に加熱し保形剤をゲル化して、食品組成物を得た。
【0043】
比較例1
保形剤・食品素材の添加を行わなかった以外は、実施例1と同様にして食品組成物を得た。
【0044】
比較例2
第一ゲル化剤であるLAジェランガム(脱アシル型ジェランガム)を含まないエマルジョンを用いた以外は、すなわち第一ゲルを形成しなかった以外は、実施例1と同様にして食品組成物を得た。
【0045】
食品組成物の評価
成形後高さ
直径58mm、高さ14.5mmのカップに得られた食品組成物を約33g充填し、型を抜いた。型抜き後の成形組成物の高さを測定し、生地ダレの有無を確認した。測定値は表2、「成形後」として示される通りであった。
【0046】
加熱後の高さ測定
型抜きして得られた上記食品組成物を蒸煮装置にて100℃で分間(中心温度75℃以上)加熱し、加熱後の成形組成物の高さを測定した。測定値は表2、「加熱後」として示される通りであった。
【0047】
調理加熱後の高さ測定
調理による加熱を想定して、型抜きして得られた上記食品組成物を、スチームコンベンションオーブンにて100℃5分間(中心温度75℃以上)加熱した。オーブンから取り出した直後に、その高さを測定した。測定値は表2、「調理加熱後」として示される通りであった。
【0048】
破断値の測定
調理による加熱を想定して、型抜きして得られた上記食品組成物を、スチームコンベンションオーブンにて100℃5分間(中心温度75℃以上)加熱した。調理後のサンプルを恒温器(20℃)に静置し、調温後これらを測定機器(クリープメータ RE-33005S、株式会社山電)に充填し、直径20mm(高さ8mm樹脂製)のプランジャーで圧縮速度10mm/秒、クリアランス5mmで圧縮測定した。測定は20±2℃で行った。測定値は表2、「破断値」として示される通りであった。
【0049】
【表2】
【0050】
表2に示されるとおり、「成形後」の生地ダレは、実施例および比較例ともに顕著には発生しない。しかし、「加熱後」にあっては、実施例の多くは高さの変化を生じないか、または高さの変化が80%未満(11.6mm以上]であったが、比較例1は溶解して形をとどめず、また比較例2は高さが8mmと大きく形を崩した。
【0051】
また、調理加熱後は、実施例11がわずかに80%を超えて高さを失ったが、他の実施例は依然として80%未満の高さの変化にとどまった。
【0052】
総合評価
破断値については表1より、実験例1~12についてはUDF区分「舌でつぶせる程度の固さ」の基準値(2.0×10N/m)内であり、舌でつぶせる硬さであることが確認された。「舌でつぶせる」区分の代表例としては、魚のほぐしみ(とろみあんかけ)、スクランブルエッグが挙げられ、一つ軽度の「歯茎でつぶせる」区分の代表例としては、煮魚、だし巻き卵が挙げられる。このように同食材であっても調理方法や喫食時の温度により硬さは容易に変化が起こりうる。そのため実験例13についてはスチームコンベクションオーブン調理後20℃の状態では基準値外であったが、例えば自然解凍での喫食時には基準値内に置くことが可能と考えられる。

【要約】
【課題】 一定の流動性を備えながら、形状を保持する性質を備え、好ましくは介護用食品とすることができる食品組成物およびその製造方法の提供。
【解決手段】 第一ゲル化剤と、水と、保形剤と、食品素材とを少なくとも含んでなる自己保形性の食品組成物であって、当該食品組成物が、前記第一ゲル化剤による微細なゲルであって、前記水の一部をその内部に保持する微細なゲルを含み、前記保形剤によって当該食品組成物全体の形状が保持されてなる食品組成物。
【選択図】 なし