IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ローム株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-位置検出システム 図1
  • 特許-位置検出システム 図2
  • 特許-位置検出システム 図3
  • 特許-位置検出システム 図4
  • 特許-位置検出システム 図5
  • 特許-位置検出システム 図6
  • 特許-位置検出システム 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】位置検出システム
(51)【国際特許分類】
   G01S 5/02 20100101AFI20220111BHJP
【FI】
G01S5/02 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020525382
(86)(22)【出願日】2019-05-21
(86)【国際出願番号】 JP2019020061
(87)【国際公開番号】W WO2019244543
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2020-12-02
(31)【優先権主張番号】P 2018118683
(32)【優先日】2018-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】特許業務法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 匡
(72)【発明者】
【氏名】百田 淳
(72)【発明者】
【氏名】久保 天外
(72)【発明者】
【氏名】西山 秀樹
【審査官】渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-050345(JP,A)
【文献】特開2016-217943(JP,A)
【文献】特開2013-148486(JP,A)
【文献】特開2015-220678(JP,A)
【文献】特開2011-117943(JP,A)
【文献】特開2017-138116(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0247186(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00 - 5/14
19/00 - 19/55
H04B 7/24 - 7/26
H04W 4/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビーコン信号を送信する移動局と、
前記ビーコン信号を受信する複数の固定局と、
前記複数の固定局における前記ビーコン信号の受信強度に基づき前記複数の固定局から前記移動局の距離を算出して三点測量又は三角測量により前記移動局の位置推定を行うことにより前記移動局の位置情報を取得する位置解析装置と、
を有し、
前記移動局は、静止判定を行うための動き検出部を含み、
前記位置解析装置は、前記移動局が静止している間、前記三点測量又は前記三角測量による前記移動局の位置推定を停止して前記位置情報を固定位置に保持するものであって、前記移動局が静止しているときには、前記三点測量又は前記三角測量による前記移動局の位置推定を停止した後、前記複数の固定局における前記ビーコン信号の受信強度を複数回測定し、その測定結果に基づいて前記複数の固定局の中から単一の固定局を特定し、前記単一の固定局の位置を前記移動局の前記固定位置として決定し、前記移動局が再び移動し始めない限り前記三点測量又は前記三角測量による前記移動局の位置推定を停止し続けて前記位置情報を前記固定位置に保持する、位置検出システム。
【請求項2】
前記位置解析装置は、前記複数の固定局のうち、最も高い頻度で前記ビーコン信号の受信強度が最大となる固定局を前記単一の固定局として特定する、請求項1に記載の位置検出システム。
【請求項3】
前記位置解析装置は、前記複数の固定局のうち、前記ビーコン信号の平均受信強度が最大となる固定局を前記単一の固定局として特定する、請求項1に記載の位置検出システム。
【請求項4】
前記動き検出部は、加速度を検出する加速度センサを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の位置検出システム。
【請求項5】
前記動き検出部は、地磁気を検出する地磁気センサを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の位置検出システム。
【請求項6】
前記移動局は、前記加速度センサで得られた検出信号から前記移動局を携帯している者の歩数を逐次導出し、前記歩数の更新状況に応じて前記静止判定を行う、請求項4に記載の位置検出システム。
【請求項7】
前記移動局は、前記動き検出部で得られた検出信号の生値、平均値、及び、分散値の少なくとも一つを用いて前記静止判定を行う、請求項4又は5に記載の位置検出システム。
【請求項8】
前記移動局は、前記加速度センサで得られた検出信号を周波数解析し、その解析結果に応じて前記静止判定を行う、請求項4に記載の位置検出システム。
【請求項9】
前記移動局は、前記ビーコン信号と共に前記静止判定の結果を送信する、請求項1~8のいずれか一項に記載の位置検出システム。
【請求項10】
前記複数の固定局は、屋内の異なる位置に設けられている、請求項1~9のいずれか一項に記載の位置検出システム。
【請求項11】
ビーコン信号を送信する移動局が静止していないときには、複数の固定局における前記ビーコン信号の受信強度に基づき前記複数の固定局から前記移動局の距離を算出して三点測量又は三角測量により前記移動局の位置推定を行うことにより前記移動局の位置情報を取得し、前記移動局が静止しているときには、前記三点測量又は前記三角測量による前記移動局の位置推定を停止して前記位置情報を固定位置に保持する位置解析装置であって、
前記移動局が静止しているときには、前記三点測量又は前記三角測量による前記移動局の位置推定を停止した後、前記複数の固定局における前記ビーコン信号の受信強度を複数回測定し、その測定結果に基づいて前記複数の固定局の中から単一の固定局を特定し、前記単一の固定局の位置を前記移動局の前記固定位置として決定し、前記移動局が再び移動し始めない限り前記三点測量又は前記三角測量による前記移動局の位置推定を停止し続けて前記位置情報を前記固定位置に保持する、位置解析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書中に開示されている発明は、位置検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビーコンを用いた屋内における位置検出技術の活用事例が続々と登場している。例えば、iBeacon(登録商標)は、スマートフォン(iphone(登録商標))のBLE[Bluetooth(登録商標) Low Energy]通信を用いた屋内測位技術利用例の一つであり、店舗前に配置されたビーコンが出力する信号をその近くを通った人のスマートフォンが検知したときに店舗毎のクーポンX及びYをプッシュ通知するなど、既に実用化されている(図5)。
【0003】
一方、オフィス内や工場内などでは、スマートフォンによる情報取得だけではなく、ビーコンを人に持たせることにより、作業員の位置情報を監視して作業効率の向上を狙う用途に使われている。例えば、オフィス内や工場内の固定点にビーコン受信機(=アクセスポイントAP)を用意し、ビーコンを持つ人がアクセスポイントに接近したときに、そのアクセスポイントの周辺に人がいることが分かるようにするシステムがある(図6)。特に、GPS[Global Positioning System]信号が及ばない屋内において、ビーコンは、絶対位置を検出することのできる有効な手段であると考えられている。
【0004】
なお、上記に関連する従来技術の一例としては、特許文献1や特許文献2を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-156195号公報
【文献】特開2018-36165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、図6のシステムでは、アクセスポイントを空間内に複数準備し、1つのビーコンが出力する信号を複数のアクセスポイントが検知し、これら複数のアクセスポイントを制御するサーバが各アクセスポイントにおけるビーコンの受信強度を解析することによりビーコンの位置を推定する技術が使われている(三点測量や三角測量など)。
【0007】
この方法では、ビーコンの大体の位置を割り出すことは可能であるが、受信強度のばらつきや障害物の存在による信号減衰・変化の影響から、GPSが導き出すような精度の位置検出は難しいことが分かっている。
【0008】
例えば、図7で示す状況において、ビーコンの出力する信号をアクセスポイントA及びBの両方が検知し、かつ、アクセスポイントBで受信される信号の強度がアクセスポイントAで受信される信号の強度よりも大きい場合、アクセスポイントAの設置された室内ではなく、アクセスポイントBの設置された室内にビーコンが存在する、と誤認識してしまうおそれがある。
【0009】
本明細書中に開示されている発明は、本願の発明者らにより見出された上記の課題に鑑み、より精度の高い位置検出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書中に開示されている位置検出システムは、ビーコン信号を送信する移動局と、前記ビーコン信号を受信する複数の固定局と、各固定局における前記ビーコン信号の受信強度から前記移動局の位置推定を行うことにより前記移動局の位置情報を取得する位置解析装置と、を有し、前記移動局は、静止判定を行うための動き検出部を含み、前記位置解析装置は、前記移動局が静止している間、前記移動局の位置推定を停止して前記位置情報を固定位置に保持する構成(第1の構成)とされている。
【0011】
なお、上記第1の構成から成る位置検出システムにおいて、前記位置解析装置は、前記移動局の位置推定を停止した後、各固定局における前記ビーコン信号の受信強度を複数回測定し、その測定結果から前記固定位置を決定する構成(第2の構成)にするとよい。
【0012】
また、上記第2の構成から成る位置検出システムにおいて、前記位置解析装置は、前記複数の固定局のうち、最も高い頻度で前記ビーコン信号の受信強度が最大となる固定局を特定し、その特定結果から前記固定位置を決定する構成(第3の構成)にするとよい。
【0013】
また、上記第2の構成から成る位置検出システムにおいて、前記位置解析装置は、前記複数の固定局のうち、前記ビーコン信号の平均受信強度が最大となる固定局を特定し、その特定結果から前記固定位置を決定する構成(第4の構成)にするとよい。
【0014】
また、上記第1~第4いずれかの構成から成る位置検出システムにおいて、前記動き検出部は、加速度を検出する加速度センサを含む構成(第5の構成)にするとよい。
【0015】
また、上記第1~第5いずれかの構成から成る位置検出システムにおいて、前記動き検出部は、地磁気を検出する地磁気センサを含む構成(第6の構成)にするとよい。
【0016】
また、上記第5の構成から成る位置検出システムにおいて、前記移動局は、前記加速度センサで得られた検出信号から前記移動局を携帯している者の歩数を逐次導出し、前記歩数の更新状況に応じて前記静止判定を行う構成(第7の構成)にするとよい。
【0017】
また、上記第5または第6の構成から成る位置検出システムにおいて、前記移動局は、前記動き検出部で得られた検出信号の生値、平均値、及び、分散値の少なくとも一つを用いて前記静止判定を行う構成(第8の構成)にするとよい。
【0018】
また、上記第5の構成から成る位置検出システムにおいて、前記移動局は、前記加速度センサで得られた検出信号を周波数解析し、その解析結果に応じて前記静止判定を行う構成(第9の構成)にするとよい。
【0019】
また、上記した第1~第9いずれかの構成から成る位置検出システムにおいて、前記移動局は、前記ビーコン信号と共に前記静止判定の結果を送信する構成(第10の構成)にするとよい。
【0020】
また、上記第1~第10いずれかの構成から成る位置検出システムにおいて、前記複数の固定局は、屋内の異なる位置に設けられている構成(第11の構成)にするとよい。
【0021】
また、本明細書中に開示されている位置解析装置は、ビーコン信号を送信する移動局が静止していないときには、複数の固定局における前記ビーコン信号の受信強度から前記移動局の位置推定を行うことにより前記移動局の位置情報を取得し、前記移動局が静止しているときには、前記移動局の位置推定を停止して前記位置情報を固定位置に保持する構成(第12の構成)とされている。
【0022】
また、本明細書中に開示された移動局は、静止判定を行うための動き検出部を含み、ビーコン信号と共に前記静止判定の結果を送信する構成(第13の構成)とされている。
【発明の効果】
【0023】
本明細書中に開示されている発明によれば、より精度の高い位置検出システムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】位置検出システムの全体構成を示す図
図2】移動局の動作例を示すフローチャート
図3】位置解析装置の動作例を示すフローチャート
図4】固定位置決定処理の一例を示す図
図5】ビーコンを用いた屋内における位置検出技術の第1活用事例を示す図
図6】ビーコンを用いた屋内における位置検出技術の第2活用事例を示す図
図7】位置の誤検出が生じる様子を示す図
【発明を実施するための形態】
【0025】
<位置検出システム>
図1は、位置検出システムの全体構成を示す図である。本構成例の位置検出システム1は、屋内(オフィス内、工場内、若しくは、店舗内など)を移動する人や物の位置を監視するために用いられる屋内測位システムの一種であり、移動局100と、複数の固定局200と、位置解析装置300と、を有する。
【0026】
移動局100は、所定のインターバル周期T(例えばT=1s)でビーコン信号Sbを定期的に送信する無線通信端末(いわゆるビーコン)であり、制御部110と、通信部120と、動き検出部130と、記憶部140を含む。移動局100としては、例えば、監視対象となる人が携帯する情報処理端末(スマートフォンなど)を用いてもよいし、他のウェアラブルデバイス(スマートウォッチや通信機能付きの名札など)を用いてもよい。また、移動局100は、店舗内で用いられる買物カートや商品に付されるICタグなどの形態も取り得る。
【0027】
制御部110は、移動局100の動作を統括的に制御する主体であり、例えば、CPU[Central Processing Unit]を好適に用いることができる。特に、制御部110は、動き検出部130で得られた各種検出信号に基づいて、移動局100の静止判定(詳細は後述)を行う機能を備えている。
【0028】
通信部120は、制御部110からの指示に基づき、所定の近距離無線通信規格(例えばBLE)に準拠してビーコン信号Sbのブロードキャスト送信を行う。なお、ビーコン信号Sbには、移動局100(またはその携帯者)を識別するためのID情報が含まれている。また、移動局100(特に通信部120)は、ビーコン信号Sbと共に静止判定フラグSTB(=移動局100の静止判定の結果に相当)を送信するが、その技術的意義については後ほど詳述する。
【0029】
動き検出部130は、制御部110で移動局100の静止判定を行うためのセンサ手段であり、例えば、加速度を検出する加速度センサ131と、地磁気を検出する地磁気センサ132と、を含む。なお、加速度センサ131及び地磁気センサ132としては、それぞれ、2軸検出型(x軸/y軸)を用いてもよいし、或いは、3軸検出型(x軸/y軸/z軸)を用いてもよい。
【0030】
記憶部140は、制御部110により実行される制御プログラムの格納領域として用いられるほか、動き検出部130で得られた検出値の一時格納領域としても用いられる。
【0031】
複数の固定局200は、それぞれ、移動局100からブロードキャスト送信されたビーコン信号Sbを受信するアクセスポイント(またはゲートウェイ)であり、屋内の異なる位置に設けられている。ビーコン信号Sbを受信した固定局200は、ビーコン信号Sbに含まれる情報(=移動局100のID情報や静止判定フラグSTBなど)に、自身のID情報、自身の位置情報、ビーコン信号Sbの受信強度(いわゆる、RSSI[Received Signal Strength Indicator])などを付与して位置解析装置300に送出する。
【0032】
位置解析装置300は、各固定局200におけるビーコン信号Sbの受信強度から移動局100の位置推定を行うことにより、移動局100の位置情報を取得する。なお、位置解析装置300としては、ローカルサーバを用いてもよいし、或いは、クラウドサーバを用いてもよい。
【0033】
本構成例の位置検出システム1によれば、例えば、監視対象に移動局100を付帯させることにより、GPS信号が及ばない屋内でも監視対象の位置情報を取得し、その動線解析などを行うことが可能となる。以下では、移動局100及び位置解析装置300それぞれの動作について詳述する。
【0034】
<移動局(ビーコン)>
図2は、移動局100の動作例を示すフローチャートである。まず、ステップS101では、移動局100の静止判定処理(=移動局100が静止しているか否かの判定処理)が行われる。なお、本ステップにおける静止判定処理については、後ほど詳述する。
【0035】
ここで、移動局100が静止していると判定された場合(=ステップS102でY判定が下された場合)には、フローがステップS103に進められて、静止判定フラグSTBが「1」(=静止時の論理値)に設定される。
【0036】
一方、移動局100が静止していないと判定された場合(=ステップS102でN判定が下された場合)には、フローがステップS104に進められて、静止判定フラグSTBが「0」(=非静止時の論理値)に設定される。
【0037】
続くステップS105では、ビーコン信号Sb(及び静止判定フラグSTB)のブロードキャスト送信が行われる。
【0038】
その後、ステップS106では、所定のインターバル周期Tが経過したか否かの判定が行われる。ここで、インターバル周期Tが経過したと判定された場合(S106=Y)には、フローがステップS101に戻されて、上記一連の処理が繰り返される。一方、インターバル周期Tが経過していないと判定された場合(S106=N)には、フローがステップS106に戻されて、インバータバル周期Tの経過が待機される。
【0039】
<位置解析装置(サーバ)>
図3は、位置解析装置300の動作例を示すフローチャートである。まず、ステップS111では、各固定局200におけるビーコン信号Sbの受信強度に基づき、各固定局200から移動局100の距離(=近接度)が算出され、移動局100の位置推定処理(三点測量や三角測量など)が行われる。
【0040】
次に、ステップS112では、静止フラグSTBが「1」であるか否か、すなわち移動局100が静止しているか否かの判定が行われる。ここで、静止フラグSTBが「1」であると判定された場合(S112=Y)には、フローがステップS113に進められる。一方、静止フラグSTBが「1」でないと判定された場合(S112=N)には、フローがステップS111に戻されて、移動局100の位置推定処理が継続される。
【0041】
このように、本構成例の位置検出システム1では、移動局100が自らの静止判定処理を行い、その判定結果(=静止判定フラグSTB)が位置解析装置300に送信される。従って、位置解析装置300は、静止判定フラグSTBの論理値を確認するだけで、移動局100が静止しているか否かを知ることができる。
【0042】
なお、静止判定フラグSTBに代えて、動き検出部130の検出値(生値、平均値、または、分散値、若しくは、これらを所定のアルゴリズムで圧縮した値)を位置解析装置300に送信し、位置解析装置300で移動局100の静止判定処理(図2のステップS101を参照)を行うことも理論的には可能である。ただし、検出値自体の送信に必要な消費電力や通信帯域を鑑みると、このような構成は現実的でないと言える。
【0043】
ステップS112でイエス判定が下された場合、ステップS113では、静止している移動局100の固定位置決定処理が行われる。なお、本ステップにおける固定位置決定処理については、後ほど詳述する。
【0044】
続くステップS114では、移動局100の位置推定処理が停止されて、移動局100の位置情報が固定位置に保持される。すなわち、移動局100は、ステップS113で決定された固定位置に静止しているものと看做される。
【0045】
その後、ステップS115では、静止フラグSTBが「0」であるか否か、すなわち、移動局100が再び移動し始めたか否かの判定が行われる。ここで、静止フラグSTBが「0」であると判定された場合(S115=Y)には、フローがステップS111に戻されて、移動局100の位置推定処理が再開される。一方、静止フラグSTBが「0」でないと判定された場合(S115=N)には、フローがステップS114に戻されて、移動局100の位置推定停止及び固定位置保持が継続される。
【0046】
このように、位置解析装置300は、移動局100が静止している間、移動局100の位置推定を停止して移動局100の位置情報を固定位置に保持する。すなわち、移動局100が静止しているときには、各固定局200におけるビーコン信号Sbの受信強度が不安定であっても、移動局100の位置情報に不要な変動が生じない。従って、移動局100の位置検出精度を向上させることが可能となる。
【0047】
<静止判定処理>
次に、移動局100の静止判定処理(=図2のステップS101)について詳述する。
【0048】
まず、第1の静止判定処理としては、加速度センサ131による歩数計機能を活用した判定手法、すなわち、加速度センサ131で得られた検出信号から移動局100を携帯している者の歩数を逐次導出し、歩数の更新状況に応じて移動局100が静止しているか否かを判定する手法が考えられる。
【0049】
例えば、所定の静止判定期間に亘って歩数がインクリメントされない場合(若しくは、そのインクリメント値が所定の閾値に満たない場合)には、移動局100(及びその携帯者)が静止していると判定することができる。
【0050】
なお、第1の静止判定処理は、最も簡単な判定手法の一つであり、移動局100への実装も容易である。ただし、移動局100の携帯者が摺り足で移動している場合や、移動局100が買物カートに付帯されている場合など、歩数を正しく検出することのできない状況では、移動局100が静止しているか否かを適切に判定することが難しい。
【0051】
次に、第2の静止判定手法としては、動き検出部130で得られた検出信号の生値、平均値、及び、分散値の少なくとも一つを用いて移動局100が静止しているか否かを判定する手法が考えられる。
【0052】
例えば、加速度センサ131及び地磁気センサ132それぞれの検出値をN個ロギングする毎に、各軸の分散値(例えば、x軸加速度、y軸加速度、z軸加速度、x軸地磁気、y軸地磁気、及び、z軸地磁気それぞれの分散値)を算出し、これが所定の閾値以下である場合には、移動局100(及びその携帯者)が静止していると判定することができる。
【0053】
なお、検出信号の平均値または分散値を算出するためには、加速度センサ131及び地磁気センサ132それぞれの検出値について、現在の出力値だけでなく、過去の出力値も保持しておく必要がある。その際、検出値の一時格納領域としては、記憶部140を用いてもよいし、制御部110のレジスタ(不図示)などを用いてもよい。
【0054】
第2の静止判定処理であれば、第1の静止判定処理と比べて、より厳密に移動局100の静止判定を行うことが可能となる。
【0055】
なお、各軸の分散値とそれぞれ対比される閾値は、例えば、加速度センサ131及び地磁気センサ132それぞれの仕様に規定された分散値(=ノイズ起因の最小分散値)に所定の係数を乗じて設定すればよい。このような閾値設定手法によれば、アプリケーション毎に静止判定処理の閾値を調整することが可能となる。もちろん、加速度センサ131及び地磁気センサ132自体のノイズが小さければ、正確な静止判定処理を行うことができるのは言うまでもない。
【0056】
また、移動局100の静止判定基準については、任意に定めることが可能である。例えば、全ての軸で分散値が閾値以下であるときにのみ静止と判定してもよいし、過半数の軸で分散値が閾値以下であれば静止と判定してもよい。また、さらに静止判定基準を引き下げて、1軸でも分散値が閾値以下ならば静止と判定することも可能である。
【0057】
特に、動き検出部130には、加速度センサ131だけでなく、地磁気センサ132が含まれている。屋内で地磁気を測定する際には、地磁気の測定位置(=移動局100の位置)が少し変化するだけで、測定環境の違い(=鉄筋の磁化状態や壁面素材などの違い)から地磁気の検出値が顕著に変動する。従って、動き検出部130の一構成要素として、地磁気センサ132を導入することにより、屋内における地磁気の環境依存性を利用して移動局100の静止判定処理を行うことが可能となる。
【0058】
ただし、外部磁場が著しく変動することが分かっている場所(モータ近傍など)では、地磁気センサ132による静止判定処理を正しく実行できない場合もあり得る。そのような場合には、加速度センサ131の検出値のみに基づいて静止判定処理を行えばよい。
【0059】
また、第3の静止判定手法としては、加速度センサ131で得られた検出信号の周波数解析を行い、その解析結果に応じて移動局100が静止しているか否かを判定する手法が考えられる。
【0060】
移動局100の携帯者が水平方向に移動(歩行または走行)しているときには、加速度センサ131の検出信号が周期的に変動する。そのため、加速度センサ131の検出信号を周波数解析すると、特定の周波数成分(数Hz)にピークが現れる。一方、移動局100の携帯者が水平方向に移動していないとき(例えば着座してデスクワークを行っている場合や立ち止まってストレッチを行っている場合)には、歩行時や走行時と異なり、加速度センサ131の検出信号が不規則に変動する。そのため、加速度センサ131の検出信号を周波数解析しても、特定の周波数成分にピークが現れることはない。従って、上記の違いから、移動局100が静止しているか否かを判定することが可能となる。
【0061】
なお、上記では、第1~第3の静止判定手法をそれぞれ個別に実施する例を挙げたが、移動局100の静止判定処理では、これらを適宜組み合わせて実施してもよい。また、これら以外の静止判定手法を採用しても構わない。
【0062】
<固定位置決定処理>
次に、移動局100の固定位置決定処理(=図3のステップS113)について、図4を参照しながら具体的に説明する。図4は、固定位置決定処理の一例を示す図である。
【0063】
アクセスポイントA及びBの双方でビーコン信号Sbが受信されている状況において、仮に、移動局100の静止中にもビーコン信号Sbの受信強度による位置推定処理(図3のステップS111)を続けると、本図の上段で示したように、受信強度のばらつきや障害物の存在による信号減衰・変化の影響から、移動局100の位置情報に不要な変動が生じる。具体的には、移動局100がアクセスポイントAの設置された室内に存在するにも関わらず、移動局100がアクセスポイントBの設置された室内に存在するかのような誤検出が断続的に生じてしまう。
【0064】
一方、本図の下段には、移動局100の静止判定を受けて、移動局100の固定位置決定処理(一点鎖線枠を参照)が行われた後、移動局100の位置情報が固定位置(本図では固定位置「A」)に保持される様子が描写されている。
【0065】
なお、移動局100の固定位置決定処理としては、例えば、移動局100が静止しているという判定結果に基づき、受信強度による移動局100の位置推定を停止した後、各固定局200(本図ではアクセスポイントA及びB)におけるビーコン信号Sbの受信強度を複数回測定し、その測定結果から移動局100の固定位置を決定するとよい。
【0066】
例えば、位置解析装置300は、複数の固定局200のうち、最も高い頻度でビーコン信号Sbの受信強度が最大となる固定局(=移動局100に最も近い固定局)を特定し、その特定結果から移動局100の固定位置を決定するとよい。
【0067】
なお、本図の下段では、移動局100の固定位置決定処理として、ビーコン信号Sbの受信強度が5回測定されており、そのうち4回の測定でアクセスポイントAの受信強度の方がアクセスポイントBの受信強度よりも大きくなっている。従って、移動局100に最も近い固定局200としてアクセスポイントAが特定され、その特定結果から移動局100の固定位置(本図では固定位置「A」)が決定されている。
【0068】
また、例えば、上記5回の測定におけるビーコン信号Sbの平均受信強度が最大となる固定局(=移動局100に最も近い固定局)を特定し、その特定結果から移動局100の固定位置を決定することもできる。なお、アクセスポイントAにおけるビーコン信号Sbの平均受信強度が大きいほど、移動局100とアクセスポイントAとの平均距離dAが短いことを意味する。同様に、アクセスポイントBにおけるビーコン信号Sbの平均受信強度が大きいほど、移動局100とアクセスポイントBとの平均距離dBが短いことを意味する。従って、dA≦dBであるときには、移動局100がアクセスポイントAの周辺に存在することを意味し、逆に、dAdBであるときには、移動局100がアクセスポイントBの周辺に存在することを意味する。
【0069】
本図の下段では、移動局100がアクセスポイントAの設置された室内に存在していることから、dA≦dBという比較結果が得られると想定される。このような場合には、移動局100に最も近い固定局200としてアクセスポイントAが特定され、その特定結果から移動局100の固定位置(本図では固定位置「A」)が決定されることになる。
【0070】
なお、固定位置「A」については、例えば、上記5回分の受信強度(または、アクセスポイントAの受信強度の方がアクセスポイントBの受信強度よりも大きいと判定された4回分の受信強度)から移動局100の位置座標を算出してもよいし、或いは、アクセスポイントAの周辺位置として予め設定しておいた位置座標を用いてもよい。
【0071】
このように、移動局100が静止していると判定されたときには、各固定局200におけるビーコン信号Sbの受信強度が変化しても、移動局100が物理的に移動しているわけではないと考え、移動局100の位置情報を固定位置に保持することにより、移動局100の位置情報に不要な変動が生じない。従って、移動局100の位置検出精度を向上させることが可能となる。
【0072】
具体的には、移動局100がアクセスポイントAの設置された室内に存在するにも関わらず、移動局100がアクセスポイントBの設置された室内に存在するかのような誤検出が断続的に生じる状況(本図の上段を参照)を回避することができる。
【0073】
なお、本図では、説明を簡単とするために、ビーコン信号Sbを受信している固定局200として、2つのアクセスポイントA及びBを例に挙げたが、3つ以上の固定局200でビーコン信号Sbが受信されている場合でも、上記と同様の固定位置決定処理を実施することが可能である。また、逆に、ビーコン信号Sbを受信している固定局200が1つしか存在しない場合には、その固定局200の周辺に移動局100が存在するものとして固定位置を決定すればよい。
【0074】
<その他の変形例>
また、本明細書中に開示されている種々の技術的特徴は、上記実施形態のほか、その技術的創作の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。すなわち、上記実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきであり、本発明の技術的範囲は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内に属する全ての変更が含まれると理解されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本明細書中に開示されている位置検出システムは、例えば、オフィス内や工場内で作業員の位置を監視するために利用することが可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 位置検出システム
100 移動局(ビーコン)
110 制御部
120 通信部
130 動き検出部
131 加速度センサ
132 地磁気センサ
140 記憶部
200 固定局(アクセスポイント)
300 位置解析装置(サーバ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7