(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】立体造形硬化物
(51)【国際特許分類】
C08J 5/00 20060101AFI20220111BHJP
【FI】
C08J5/00
(21)【出願番号】P 2021097640
(22)【出願日】2021-04-26
【審査請求日】2021-06-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】594072063
【氏名又は名称】上坂 且
(72)【発明者】
【氏名】上坂 且
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-63403(JP,A)
【文献】特開2005-272766(JP,A)
【文献】特開平4-202380(JP,A)
【文献】特開2001-31829(JP,A)
【文献】特開2006-330412(JP,A)
【文献】特開2000-219804(JP,A)
【文献】特開2001-234081(JP,A)
【文献】特開平1-285982(JP,A)
【文献】特開2007-177563(JP,A)
【文献】実開昭55-2613(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J5/00-5/02;5/12-5/22
C09C1/00-3/12
C09D15/00-17/00
G09B19/10
B44D2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主剤A及び硬化剤Bを混合・固化した立体造形硬化物であって、
前記主剤Aが、水性樹脂エマルジョンと体質顔料と分散剤を含み、
前記水性樹脂エマルジョンの樹脂が、アクリル系樹脂、アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル系樹脂、アルキド系樹脂、フタル酸系樹脂、ウレタン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
硬化剤Bが、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、ミョウバン、塩化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、当該硬化剤Bの添加量は、主剤Aが100質量部に対して、当該硬化剤Bが2~20質量部であることを特徴とする、立体造形硬化物。
【請求項6】
主剤Aが、水性樹脂エマルジョンと体質顔料と分散剤を含み、
前記水性樹脂エマルジョンの樹脂が、アクリル系樹脂、アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル系樹脂、アルキド系樹脂、フタル酸系樹脂、ウレタン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
硬化剤Bが、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、ミョウバン、塩化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
主剤Aが100質量部に対して、当該硬化剤Bが2~20質量部を混合した塗布剤を、
(i)金属・非鉄金属・プラスチックの線材、金属・非鉄金属・プラスチックの網目材、或いは竹、木材の条材から選ばれる立体部材、或いは当該部材に紙、布、不織布、アルミ箔などの面材で表面を覆った部材;又は
(ii)
金属・非鉄金属、ガラス、カーボン、合成樹脂、竹、木材、紙、布などによる線状あるいはリボン状(薄い一定幅を持った条材)または網、面状の芯材を用い、鋼線もしくはアルミ・銅などの金属・非鉄金属線材を一定の径に複数回巻き、それを円の軸方向に引き伸ばし、巻き線の外形がラセン状となり、当該ラセンの周りに布または合成樹脂による不織布を巻付けたパイプの部材;又は
(iii)木材又は竹の薄い板あるいは紙の片面あるいは両者の部材;
の表面もしくは面の間に塗布し、硬化させ、変形できる硬化物とすることを特徴とする立体造形物の制作方法。
【請求項7】
主剤Aが、水性樹脂エマルジョンと体質顔料と分散剤を含み、
前記水性樹脂エマルジョンの樹脂が、アクリル系樹脂、アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル系樹脂、アルキド系樹脂、フタル酸系樹脂、ウレタン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
硬化剤Bが、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、ミョウバン、塩化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
主剤Aが100質量部に対して、当該硬化剤Bが2~20質量部を混合した塗布剤を、キャンバスに塗布し、削除や変形が自由にでき、或いは塗り重ねができることにより絵画またはレリーフを形成することを特徴とする絵画の制作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固化後の硬さをコントロールするとともに、面材や骨材などとの接合性に優れ、硬化後自由に屈曲できる柔軟性に優れた立体的な造形可能な硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
芸術分野で立体を表現する方法には絵画と彫刻がある。絵画では絵具を用いて色調の明暗や濃淡で眼の錯覚を応用してキャンバスなどの平面上において立体を表現する方法があるが、それは三次元上でいう立体ではない。
一方、彫刻の分野では、木、石、土や金属などの固まりを彫り刻んで、物の形を立体的に表す技法や、可塑性の素材を盛りつけて形を作る彫塑という技法がある。また、立体的な造形ができる従来の素材には、古代から用いられている粘土や乾漆造がある。粘土は層状ケイ酸塩鉱物からなり、捏ねると固まりになり伸ばしたり細工することができ、また火に耐える性質がある。
乾漆造とは、漆工の技法の一つである。それは麻布や和紙を漆で張り重ね漆と木粉を練り合わせたものを盛り上げて形作る方法であり、おもに器物や棺、彫像などの製作に用いられている。
また、造形素材として合成樹脂が登場してからは繊維強化プラスチックや光造形などの造形方法が用いられている。繊維強化プラスチックはFRPとも呼ばれ、エポキシ樹脂やフェノール樹脂などに、ガラス繊維や炭素繊維などの繊維を複合して強度を向上させた強化プラスチックである。光造形とは、液状の紫外線硬化樹脂を光造形装置の紫外線レーザーを使用して硬化させ、積層することで3Dのデーターと寸分違わぬ精密な立体物を、作成する技術である。
上記の各種の技法で造形された立体造形物はいずれも柔軟性に欠け、制作に時間がかかり、また誰でも容易に扱えないという欠点がある。
【0003】
立体造形法のひとつとして、従来から建造物には「漆喰」が用いられている。漆喰は消石灰と砂に水を加えながら混ぜて練り上げたものであり、紀元前よりメソポタミア、ギリシャ、ローマなどの遺跡にも用いられていた。この時代からあるフレスコ画は、漆喰を壁などの下地に塗り、それが乾かないうちに水に溶かした水性絵の具で絵を描いて染み込ませる手法であり、フレスコとは「新鮮な」という意味で、漆喰がまだ生乾きの状態で絵を仕上げる手法である。この製法には制作時間が短いという制約がある。
日本の漆喰は、消石灰を主成分に骨材、すさ(麻)、海藻のりなどの有機物を混ぜて練り上げたものである。防水性があり不燃素材であるため土壁の外部保護材料として、古くから城郭や寺社、商家、民家、土蔵など、木や土で造られた建物の内外壁の上塗り材としても用いられてきた。漆喰は主成分の水酸化カルシウムが空気中の二酸化炭素を吸収しながら硬化(炭酸化)する、いわゆる気硬性の素材であるため、施工後の水分乾燥以降において長い年月をかけて硬化していく素材でもある。その炭酸カルシウムは水に不溶であるため、漆喰の保存性は高い。
この消石灰(水酸化カルシウム)が硬化した漆喰は、一定の耐力はあるが柔軟性に欠けるため脆く、外圧や衝撃には耐えられない。漆喰は主な用途が壁であり、一部に「コテ絵」と称するレリーフ状の壁の飾り物があるが、独立した立体造形物に使用された例はない。
【0004】
立体的な表現が出来る造形材料において一例を挙げると、特許文献1では、所定形状を有する絞り口を介して容易に絞りだすことができる程度の流動性と、絞り口の所定形状をそのまま保持することができる程度の保形性に優れ、しかも膨張問題を解消して、優れた保管性が得られるクリーム状の軽量造形材料が国際公開第2007/055257号公報(特許文献1)に開示されている。しかし、この材料では、乾燥後の造形材料の硬さや柔軟性は、造形材料の組成で決まってしまい、硬さや柔軟を自由にコントロールすることが出来ないという問題がある。
【0005】
古代から用いられている粘土は、ケイ酸塩鉱物からなる微粒子で構成され、水を加えて捏ねることで立体造形には極めて優れている。しかし、乾燥後の強度は引張りや衝撃には極めて脆弱なため、一般的には高温で焼き固めて陶器や陶磁器として用いられている。
近年では、小麦粉、かんてん、蜜蝋などを原料としたものも普及しはじめている。これらの粘土はいずれも造形性には優れているが弾性がないため、小さな衝撃にも耐え得ない欠点がある。
【0006】
漆も古来から用いられている造形素材で、漆を用いた技法の一つである乾漆造は、麻布や和紙を漆で張り重ね漆と木粉を練り合わせたものを盛り上げて形作る方法であり、仏像や器の造形に用いられていた。硬化後はかなり固く強靱ではあるが柔軟性は求められない。この方法は漆が固化するための時間が長いため制作に長期間を要することや、漆という素材が現代においては産出量が限られていることから高額なものとなる欠点がある。
また合成樹脂を硬化させて造形する方法の一つであるFRPは制作時に合成樹脂特有の強烈な悪臭を放ち、耐衝撃性は大きいが柔軟性に欠ける欠点が有り、光造形法は、特殊な装置を必要とし、データーを入力しなければならないので装置を扱うには一定の技術取得を必要とするなど誰でも自由に扱えるものではない。
【0007】
一方、油絵具で立体感を出すために、顔料としてフレーク状ガラスを金属などで被覆された構造にすることが特許第4548631号公報(特許文献2)に開示されている。しかし、この方法では、立体感が大きくなく、費用も高いという問題がある。また、硬化した絵具は、弾力性が無いものであり、硬い質感を有するものである。
【0008】
また、乾燥時間が早く、匂いがないため作業性に優れ、油絵のような厚みのある質感を出す方法が特開2007-9040号公報(特許文献3)に開示されているが、乾燥後の絵具の弾力性はあるものの、油絵具を大幅に超える立体感はなかった。
【0009】
立体的な絵画の複製物の製造方法に関するものとして、基板シート上に有機バインダーと特定の粒子径(10μm)以下の水酸化カルシウムと特定の粒子径(5.0μm)以下の無機粉体とを含有するスラリー状の混合物を用いて、原画となる絵画の凹凸を反映した凹凸を有する凹凸再現層を形成し、その上に絵画をインクジェットにより印刷する技術が、国際公開第2016/039354号公報(特許文献4)に開示されている。一般的には、絵画においては凹凸層に関して外圧がかかる状況は生じにくいため、この特許文献4には凹凸層の強度面の性状に関する明確な記載はないが、その強度に関連する表現として、〔0025〕に、「基材シート1は可撓性を有しており(一部略)この基材シート1上に設けられる凹凸再現層3に割れ目が形成されるなどの不都合を有効に抑制することができる」と記載がある。当該表現から、文献4の凹凸層は割れが生じやすい脆い性質と推測される。
【0010】
建築用仕上塗材に関するもので、下塗りにアクリル樹脂エマルジョンに水と反応性を有するアルカリ土類金属酸化物を添加して乾燥時間を短縮する壁面仕上方法が、特開2012-81388号公報(特許文献5)に開示されている。特許文献5では、壁面を形成することが対象範囲であり、当該組成物の性状については乾燥を促進すること以外には開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2007/055257号公報
【文献】特許第4548631号公報
【文献】特開2007-9040号公報
【文献】国際公開第2016/039354号公報
【文献】特開2012-81388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、固化後の硬さをコントロールするとともに、面材や骨材などとの接合性に優れ、硬化後自由に屈曲できる柔軟性に優れた立体的な造形可能な硬化物を提供することであり、またその制作方法を提供するものである。
また、油絵以上に厚みのある質感を形成し、また、乾燥後の絵具の硬さをコントロールすることにより、立体的な絵画やレリーフ状の造形物ができる硬化物を提供することであり、またその制作方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記した課題を解決するべき鋭意検討を行った結果、水性樹脂エマルジョン、体質顔料及び分散剤とを含む主剤Aに、特定の硬化剤Bを特定量調整し混合することで、硬化後の硬度だけでなく、引張試験における最大点伸度や最大点加重等を調整でき、曲げや引っ張りに対しても表面割れせず、自由な屈曲が可能な柔軟性に優れた立体造形硬化物を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明は、[1]主剤A及び硬化剤Bを混合・固化した立体造形硬化物であって、
前記主剤Aが、水性樹脂エマルジョンと体質顔料と分散剤を含み、
前記水性樹脂エマルジョンの樹脂が、アクリル系樹脂、アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル系樹脂、アルキド系樹脂、フタル酸系樹脂、ウレタン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
硬化剤Bが、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、ミョウバン、塩化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、当該硬化剤Bの添加量は、主剤Aが100質量部に対して、当該硬化剤Bが2~20質量部であることを特徴とする、立体造形硬化物である。
【0015】
また、本発明は、[2]前記体質顔料が、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、シリカ、タルク、アルミナシリケート、酸化チタン、酸化亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、当該体質顔料の添加量は、主剤A全体に対して30~70質量%であることを特徴とする、[1]に記載の硬化物である。
【0016】
また、本発明は、[3]前記分散剤が、ポリアクリル酸系分散剤であり、添加量が主剤A全体に対して1~10質量%であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の硬化物である。
【0017】
また、本発明は、[4]前記硬化物の引張試験における最大点伸度(%GL)が30%~100%であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1項に記載の硬化物である。
【0018】
また、本発明は、[5]前記硬化物の硬さが、デュロメータ硬さ試験(タイプC)で、20~50であることを特徴とする、[1]~[4]のいずれか1項に記載の硬化物である。
物である。
【0019】
また、本発明は、[6]主剤Aが、水性樹脂エマルジョンと体質顔料と分散剤を含み、
前記水性樹脂エマルジョンの樹脂が、アクリル系樹脂、アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル系樹脂、アルキド系樹脂、フタル酸系樹脂、ウレタン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
硬化剤Bが、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、ミョウバン、塩化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
主剤Aが100質量部に対して、当該硬化剤Bが2~20質量部を混合した塗布剤を、
(i)金属・非鉄金属・プラスチックの線材、金属・非鉄金属・プラスチックの網目材、或いは竹、木材の条材から選ばれる立体部材、或いは当該部材に紙、布、不織布、アルミ箔などの面材で表面を覆った部材;又は
(ii)
金属・非鉄金属、ガラス、カーボン、合成樹脂、竹、木材、紙、布などによる線状あるいはリボン状(薄い一定幅を持った条材)または網、面状の芯材を用い、鋼線もしくはアルミ・銅などの金属・非鉄金属線材を一定の径に複数回巻き、それを円の軸方向に引き伸ばし、巻き線の外形がラセン状となり、当該ラセンの周りに布または合成樹脂による不織布を巻付けたパイプの部材;又は
(iii)木材又は竹の薄い板あるいは紙の片面あるいは両者の部材;
の表面もしくは面の間に塗布し、硬化させ、変形できる硬化物とすることを特徴とする立体造形物の制作方法である。
【0020】
また、本発明は、[7]主剤Aが、水性樹脂エマルジョンと体質顔料と分散剤を含み、
前記水性樹脂エマルジョンの樹脂が、アクリル系樹脂、アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル系樹脂、アルキド系樹脂、フタル酸系樹脂、ウレタン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
硬化剤Bが、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、ミョウバン、塩化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
主剤Aが100質量部に対して、当該硬化剤Bが2~20質量部を混合した塗布剤を、キャンバスに塗布し、削除や変形が自由にでき、或いは塗り重ねができることにより絵画またはレリーフを形成することを特徴とする絵画の制作方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の立体造形硬化物は、主剤Aと硬化剤Bを混合し、硬化することで得られる。主剤Aと硬化剤Bとの混合直後の状態(この状態を本発明の「塗布剤」と称する)では、スラリー状ないし柔らかい粘土の硬さであり、それを一定の型に練り込み、あるいはそれ自体を重ね塗りした後、固化することで所望の厚みを持った硬化物となり、適宜、硬度だけでなく、最大点伸度や最大点加重等を調整でき、曲げや引っ張りに対しても表面割れせず、自由な屈曲が可能な柔軟性に優れた立体造形物として成形することが可能である。
また、金属・非鉄金属、プラスチックスなどの線材や網目材、竹、木材などへぎ(条材)の比較的強度のある材料で作られた大まかな立体部材に、紙、布、不織布、アルミ箔などの面材でその表面を被い、その上に一定の厚みに本発明に係る塗布剤を塗り、それを硬化させて立体造形物として外観形状を作り出すことも可能である。
【0022】
従来の造形方法では造形したものを変形させることはできないが、本発明の硬化物或いは制作方法を用いれば、いったん硬化させた後に自由に変形して造形することが可能である。例えば、金属・非鉄金属を骨材とする場合は、その塑性変形を生かして、硬化物の表面を曲面のあるヘラなどでこする(圧力をかけ変形させる)ことで所望の形状に凹凸を形成できる。
ショーやイベントあるいは演劇の舞台装置などの仮設で使用される装飾物や道具等の中で、例えば、大きな岩などの立体造形物を製作する場合、立体化するための骨組みやその上に面を作り出すことも可能となる。
【0023】
また、本発明の硬化物を用いることで、例えば合成樹脂パイプの場合であれば、鋼線もしくはアルミ・銅などの金属・非鉄金属線材を一定の径に複数回巻き、それを円の軸方向に引き伸ばすと巻き線の外形はラセン状になり、そのラセンの周りに布(または合成樹脂による不織布)を巻付け、さらにその上に本発明の硬化剤を用いることで、簡単にパイプを造形することができる。
このパイプは、様々な活用が想定される。例えば、舞台装飾などでは樹木の幹として、あるいは蛇のように曲がった装飾として、またパイプの側面を変形させた芸術品として、また機能部材としては送水管や送風ダクトとして用いることができる。
【0024】
また、本発明の硬化物は、例えば、防水性の物では防水用手袋・長靴、水槽などがあり、柔軟性を求めるものでは、木材、竹の薄い板あるいは紙の片面あるいは両者の間に塗布すれば極めて柔軟性のある面を製作することへ応用が可能である。
【0025】
主剤Aは、それ自体に強い粘着性を付与しているため、塗布面への密着性が良好であり、主剤Aに硬化剤Bを添加することにより硬化させた素材は、ややゴムに似た弾性を付与しているため、割れや剥離が生じることが無く、屈曲に耐えられるため構造物に塗布した場合にその構造物に追随した造形物を形成させることが出来る。また、塗布剤は、硬化前は接触する物に対して強い粘着性と接着力を有するが、硬化後の表面には全く粘着性がなくなる性質を有している。また硬化後は優れた防水性を備えている。
【0026】
更に、絵画においては、立体的な波の部分や岩の部分において、主剤Aと硬化剤Bとの混合比の異なる塗布剤を用いることで、波のうねりの形を表現する場合や鋭利な凹凸のある岩の形を表現したりする場合を使い分けることで、波の部分、岩の部分ともペインティングナイフで、各々所望の形状の特徴を表現する造形が可能となる。例えば、主剤Aと硬化剤Bの混合開始から約2時間まではまだ硬化開始時点にあり、削除や変形が自由にでき、6時間後は変形しない程度の半硬化状態にあるため、塗り重ねができるので自由な表現が行なえ、主剤Aと硬化剤Bの混合開始から6時間後は表面の粘着性は失われ、従来の油絵と変わりない保存状態が保つことが可能である。
【0027】
更に、主剤Aは水性であるため市販のアクリル絵具や水性絵具を混合することが出来るため、表現目的に適合した色調を自由に作り出すことが出来る。また、硬化剤Bの添加量に対応した硬化速度と弾性の異なる素材を自由に得ることが出来るため、レリーフ状の絵画や立体造形を形成することができるため表現豊かな硬化物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】硬化剤Bの添加量と硬さ〔デュロメータ〕の経時変化を示す図
【
図2】硬化剤Bの添加量と主剤A中の水分の減少率の経時変化を示す図
【
図3】主剤A中の水分蒸発量と硬さ〔デュロメータ〕の関係における硬化剤Bの影響を示す図
【
図4】主剤Aと硬化剤Bをパレット上に配置した工程図
【
図5】主剤Aと硬化剤BをペインティングナイフCで混合している状態を示す工程図
【
図6】主剤Aと硬化剤Bを混合したものを鋼線で組まれた造形物にペインティングナイフDで塗りつけている工程図
【
図8】
図7の造形物が硬化した後に、任意の形状に形を整えた造形物
【
図9】主剤Aと硬化剤Bを混合したものを鋼線で組まれた正20面体の造形物にペインティングナイフDで塗りつけた造形物
【
図12】金網に布(不織布)を付し、塗布剤を塗った例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、水性樹脂エマルジョン、体質顔料及び分散剤とを含む主剤Aに、特定の硬化剤Bを特定量調整し混合することで、硬化後の硬度だけでなく、最大点伸度や最大点加重等を調整でき、曲げや引っ張りに対しても表面割れせず、自由な屈曲が可能な柔軟性に優れた立体造形硬化物に関する。以下、本発明を実施するための形態について説明する。本発明は、以下の記載に限定されない。
【0030】
〔1〕本発明の第1の態様は、主剤A及び硬化剤Bを混合・固化した立体造形硬化物であって、
前記主剤Aが、水性樹脂エマルジョンと体質顔料と分散剤を含み、
前記水性樹脂エマルジョンの樹脂が、アクリル系樹脂、アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル系樹脂、アルキド系樹脂、フタル酸系樹脂、ウレタン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
硬化剤Bが、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、ミョウバン、塩化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、当該硬化剤Bの添加量は、主剤Aが100質量部に対して、当該硬化剤Bが2~20質量部であることを特徴とする、立体造形硬化物である。
【0031】
〔1-1〕本発明の第1―1の態様は、前記水性樹脂エマルジョンが、スチレン-ブタジエン系重合体、スチレン-アクリル共重合体、メチルメタアクリレ-ト・ブタジエン系重合体、酢酸ビニル-アクリル共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種である、前記態様〔1〕記載の立体造形硬化物である。
【0032】
〔1-2〕本発明の第1―2の態様は、前記水性樹脂エマルジョンの添加量が、5~40質量%である、前記態様〔1〕記載の立体造形硬化物である。
【0033】
〔1-3〕本発明の第1―3の態様は、前記水性樹脂エマルジョンの添加量が、主剤A全体に対して10~30質量%である、前記態様〔1〕記載の立体造形硬化物である。
【0034】
〔1-4〕本発明の第1―4の態様は、前記水性樹脂エマルジョンの添加量が、主剤A全体に対して15~25質量%である、前記態様〔1〕記載の立体造形硬化物である。
【0035】
〔1-5〕本発明の第1―5の態様は、前記体質顔料が、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、シリカ、タルク、アルミナシリケート、酸化チタン、酸化亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種である、前記態様〔1〕記載の立体造形硬化物である。
【0036】
〔1-6〕本発明の第1―6の態様は、前記体質顔料が、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、シリカ、酸化チタン、酸化亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種である、前記態様〔1〕記載の立体造形硬化物である。
【0037】
〔1-7〕本発明の第1―7の態様は、前記体質顔料の添加量が、主剤A全体に対して25~75質量%である、前記態様〔1〕記載の立体造形硬化物である。
【0038】
〔1-8〕本発明の第1―8の態様は、前記体質顔料の添加量が、主剤A全体に対して30~70質量%である、前記態様〔1〕記載の立体造形硬化物である。
【0039】
〔1-9〕本発明の第1―9の態様は、前記体質顔料の添加量が、主剤A全体に対して50~70質量%である、前記態様〔1〕記載の立体造形硬化物である。
【0040】
〔1-10〕本発明の第1―10の態様は、前記態様〔1-1〕~〔1-9〕の任意の態様の組み合わせである、前記態様〔1〕記載の立体造形硬化物である。
【0041】
〔2〕本発明の第2の態様は、前記分散剤が、ポリアクリル酸系分散剤であることを特徴とする、前記態様〔1〕~〔1-10〕のいずれかの態様に記載の立体造形硬化物である。任意の態様の組み合わせることが可能である。
【0042】
〔2-1〕本発明の第2-1の態様は、前記分散剤の添加量が主剤A全体に対して1~10質量%であることを特徴とする、前記態様〔1〕~〔1-10〕のいずれかの態様に記載の立体造形硬化物である。
【0043】
〔2-2〕本発明の第2-2の態様は、前記分散剤の添加量が主剤A全体に対して2~5質量%であることを特徴とする、前記態様〔1〕~〔1-10〕のいずれかの態様に記載の立体造形硬化物である。
【0044】
〔3〕本発明の第3の態様は、引張試験における最大点伸度(%GL)が30%~100%であることを特徴とする、前記態様〔1〕~〔1-10〕、及び〔2〕~〔2-2〕いずれかの態様に記載の立体造形硬化物である。任意の態様の組み合わせることが可能である。
【0045】
〔4〕本発明の第4の態様は、引張試験における最大点荷重(N)が55N~100Nであることを特徴とする、前記態様〔1〕~〔1-10〕、〔2〕~〔2-2〕、及び〔3〕のいずれかの態様に記載の立体造形硬化物である。任意の態様の組み合わせることが可能である。
【0046】
〔5〕本発明の第5の態様は、デュロメータ硬さ試験(タイプC)で、20~50であることを特徴とする、前記態様〔1〕~〔1-10〕、〔2〕~〔2-2〕、〔3〕、及び〔4〕のいずれかの態様に記載の立体造形硬化物である。任意の態様の組み合わせることが可能である。
【0047】
〔6〕本発明の第6の態様は、主剤A及び硬化剤Bからなり、
前記主剤Aが、水性樹脂エマルジョンと体質顔料と分散剤を含み、前記水性樹脂エマルジョンの樹脂が、アクリル系樹脂、アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル系樹脂、アルキド系樹脂、フタル酸系樹脂、ウレタン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、当該水性樹脂エマルジョンの添加量が主剤A全体に対して5~40質量%であり;
前記体質顔料が、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、シリカ、タルク、アルミナシリケート、酸化チタン、酸化亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、当該体質顔料の添加量は、主剤A全体に対して30~70質量%であり;
硬化剤Bが、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、ミョウバン、塩化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、当該硬化剤Bの添加量は、主剤Aが100質量部に対して、当該硬化剤Bが2~20質量部であることを特徴とする、立体造形硬化物である。
【0048】
〔6-1〕本発明の第6-1の態様は、前記態様〔1〕~〔1-10〕、〔2〕~〔2-2〕、〔3〕、〔4〕及び〔5〕のいずれかの態様の任意の態様と組み合わせた、立体造形硬化物である。
【0049】
〔7〕本発明の第7の態様は、前記態様〔1〕~〔1-10〕、〔2〕~〔2-2〕のいずれか1態様に記載の主剤Aと硬化剤Bを混合した塗布剤を、
(i)金属・非鉄金属・プラスチックの線材、金属・非鉄金属・プラスチックの網目材、或いは竹、木材の条材から選ばれる立体部材、或いは当該部材に紙、布、不織布、アルミ箔などの面材で表面を覆った部材;又は
(ii)
金属・非鉄金属、ガラス、カーボン、合成樹脂、竹、木材、紙、布などによる線状あるいはリボン状(薄い一定幅を持った条材)または網、面状の芯材を用い、鋼線もしくはアルミ・銅などの金属・非鉄金属線材を一定の径に複数回巻き、それを円の軸方向に引き伸ばし、巻き線の外形がラセン状となり、当該ラセンの周りに布または合成樹脂による不織布を巻付けたパイプの部材;又は
(iii)木材又は竹の薄い板あるいは紙の片面あるいは両者の部材;
の表面もしくは面の間に塗布し、硬化させ、変形できる硬化物とすることを特徴とする立体造形物の制作方法である。
【0050】
〔8〕本発明の第8の態様は、前記態様〔1〕~〔1-10〕、〔2〕~〔2-2〕のいずれか1態様に記載の前記主剤Aと硬化剤Bを混合した塗布剤を、
キャンバスに塗布し、削除や変形が自由にでき、或いは塗り重ねができることにより絵画またはレリーフを形成することを特徴とする絵画の制作方法である。
【0051】
〔9〕本発明の第9の態様は、前記態様〔1〕~〔1-10〕、〔2〕~〔2-2〕、〔3〕~〔8〕の態様に記載の主剤Aが、更に、湿潤剤を含有し、当該添加量が、5質量%以下であることを特徴とする、立体造形硬化物、又は制作方法である。
【0052】
〔9―1〕本発明の第9-1の態様は、湿潤剤の添加量が、3質量%以下であることを特徴とする、立体造形硬化物、又は制作方法である。
【0053】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において、「立体造形硬化物」とは、硬化後の硬度だけでなく、最大点伸度や最大点加重等を調整でき、曲げや引っ張りに対しても表面割れせず、自由な屈曲が可能な柔軟性に優れた硬化物を意味する。
【0054】
本発明において、「塗布剤」とは、主剤Aと硬化剤Bとの混合物、とりわけ混合直後の状態を意味し、スラリー状ないし柔らかい粘土の硬さであり、それを一定の型に練り込み、あるいはそれ自体を重ね塗りすることで所望の厚みとすることが可能である。また、主剤Aに対する硬化剤Bの量を調整することで、硬度だけでなく、最大点伸度や最大点加重等を調整でき、当該混合物が硬化した後、曲げや引っ張りに対しても表面割れせず、自由な屈曲が可能なであり、柔軟性に優れた立体造形物となる。当該塗布剤が所望の柔軟性に優れた立体造形硬化物とするには、混合後、24時間以上経過することが好ましく、さらに48時間以上経過することがより好ましい。
【0055】
本発明の硬化物の柔軟性を生みだすための不可欠の要素は、主剤Aと硬化剤Bとの混合割合にあり、当該硬化剤Bの添加量は、主剤Aが100質量部に対して、当該硬化剤Bが2~20質量部であることにある。当該2質量部未満の場合は、硬化時間が長く、また当該20質量部より多い場合は、柔軟性が劣り、割れ(引張強度が著しく劣る)が生じるなどの不都合が生じ実用性が低い。
【0056】
本発明において、「美術」とは、造形芸術あるいは造形美術と同じ意味であり、絵画、版画、彫刻、建築、工芸などを総括した意味である。より狭義には絵画、版画、彫刻のみをさすが、その特性は、(1)物的材料ないし手段により、(2)空間の上に成立し、(3)その形成される空間形象は静止と並列の状態における可視的なものとなる(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)である。
【0057】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化する際の一形態であって、本発明をその範囲内に限定するものでない。
〈実施形態1〉
1.実施形態1に係る材料
(水性樹脂エマルジョン)
「水性樹脂エマルジョン」とは、分子内に親水基を多く持つ樹脂化合物が、水中に合成樹脂の粒子が分散したもの(O/W型エマルジョン)を意味する。当該エマルジョンに用いられる樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、アクリル酸エステル共重合体〔スチレン-アクリル共重合体、メチルメタアクリレ-ト・ブタジエン系重合体、酢酸ビニル-アクリル共重合体〕、スチレン-ブタジエン系重合体、酢酸ビニル系樹脂、アルキド系樹脂、フタル酸系樹脂、ウレタン樹脂などがある。アクリル樹脂は合成樹脂の中で極めて高い耐候性と透明性を持つ素材(非晶質の合成樹脂)であり、基本的な骨格はアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルの重合体である。
体質顔料の分散性、耐水性や密着性の観点から、スチレン-ブタジエン系重合体、スチレン-アクリル共重合体、メチルメタアクリレート・ブタジエン系重合体、酢酸ビニル-アクリル共重合体が好適に使用される。
水性樹脂エマルジョンの添加量は、通常、固形分換算にて、主剤A全体に対して5~40質量%であり、好ましくは、10~30質量%であり、より好ましくは15~25質量%である。添加量が5質量%未満の場合は、主剤Aの粘着性や質顔料の分散性が劣り、また、造形物が乾燥するとクラックの発生する場合がある。また、柔軟性にも問題が生じる。一方、40質量%超える場合は、発色性が低下することがあり、また、造形物の耐久性が劣る場合がある。
【0058】
水性樹脂エマルジョンを安定化するために、湿潤剤を添加する場合がある。湿潤剤としては、例えば、水溶性多価アルコールが使用されるが、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンが好適に使用される。
湿潤剤の添加量は、主剤A全体に対して5質量%以下であり、好ましくは、3質量%以下である。5質量%以上では、本発明の硬化物の乾燥性が遅くなる場合がある。
【0059】
(体質顔料)
体質顔料は、増量剤として使われる白色ないし無色の顔料である。例えば、白色顔料としては、水酸化アルミウム、炭酸カルシウム(軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム)、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、シリカ、タルク、アルミナシリケート、酸化チタン、酸化亜鉛等が使用される。これらの体質顔料は、それぞれ単独で、あるいは2種類以上を併用してもよい。より好ましくは、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム(軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム)、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、シリカ、酸化チタン、酸化亜鉛が使用される。添加量は、主剤A全体に対して25~75質量%であり、好ましくは、30~70質量%であり、より好ましく50~70質量%である。
【0060】
(分散剤)
界面活性剤は、水性樹脂エマルジョンに添加されている体質顔料等の無機化合物の溶液中での分散に寄与する。無機化合物の濃度が高すぎると水性樹脂エマルジョン中で無機化合物が凝集してしまう。したがって、これらの無機化合物の水溶液中での凝集を防止するために界面活性剤を添加する。
このような分散剤の例としてポリアクリル酸が挙げられる。ポリアクリル酸系分散剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボン酸系共重合体(ナトリウム塩)、スルホン酸系共重合体(ナトリウム塩)、ポリカルボン酸ナトリウム、ポリアクリル酸アンモニウム、またはポリアクリル酸系重合体等が挙げられる。より好ましくは、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリアクリル系重合体が挙げられる。無機化合物の粒子径が、サブミクロンであり、比表面積が大きい無機化合物の場合には、ポリアクリル酸系重合体を用いることができる。
これら分散剤の添加量は、主剤A全体に対して1~10質量%であることが好ましく、2~5質量%であることがより好ましい。
【0061】
(抗菌・抗カビ剤)
本実施形態では抗菌・抗カビ対策として主剤Aに酸化亜鉛を添加した。酸化亜鉛は防カビ剤および抗菌剤として作用する。したがって、本発明硬化物やその造形物を設置する環境の湿度が高い場所であっても、硬化物や造形物のカビの発生を抑制することができる。この効果は、粒径が小さいほど高く、平均粒子径が1μm未満のものが好適に使用される。また、酸化亜鉛は、白色性が高く、体質顔料としての機能もある。
【0062】
(紫外線カット剤)
また、本実施形態に係る主剤Aに、紫外線カット対策として酸化チタンを添加した。酸化チタンは防カビ剤および抗菌剤として作用する他に、紫外線カット機能もあり造形物の耐久性向上にも寄与する。この効果は、粒径が小さいほど高く、平均粒子径が1μm未満のものが好適に使用される。また、酸化チタンは、白色性が高く、体質顔料としての機能(チタン白、チタニウムホワイト(英:titanium white)と呼ばれる)もある。
酸化チタンは、光触媒としての活性が低く熱安定性等に優れるルチル型が用いられ、高い紫外線隠蔽力を持つ。硬化物、造形物、日光に長期間さらされると光触媒の作用によって脱色したり、造形物が割れてしまったりする場合があるが、この問題を防ぐため酸化チタンの表面を無機材料によりコーティングが施される。
【0063】
(電解質)
本実施形態に係る主剤Aに、硬化作用を促す電解質を本実施形態に係る硬化剤Bに使用した。電解質は,水に溶解され,溶液中でイオンに解離(電離)して電気伝導性を示す物質のことである。水性樹脂エマルジョンに電解質を加えると塩析と呼ばれる現象を起こし、水性樹脂エマルジョンの硬化や水の分離を起こす。
電解質としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、酸化カルシウム〔生石灰〕、水酸化カルシウム〔消石灰〕、炭酸水素ナトリウム〔重曹〕、ミョウバン、塩化マグネシウム、にがり等が使用されるが、硬化特性、経済的、安全性等の観点から、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム〔重曹〕、ミョウバン、塩化マグネシウムが好適である。
硬化作用を促す電解質である硬化剤Bの添加量は、各電解質の種類によって異なるが、主剤Aが100質量部に対して、1~30質量部の範囲で使用され、より好ましくは2~20質量部である。電解質がカルシウムイオンのような多価金属塩の場合は、添加量が2~20質量部が好適で使用される。
【0064】
本発明の硬化物の硬度は、デュロメータ〔Cタイプ〕の硬さの値は、15.5~52.5であることが好ましく、20~50であることがより好ましい。
【0065】
本発明の硬化物の引張試験における最大点伸度(%GL)は、曲げや引張に対しても良好で、自由な屈曲が可能な柔軟性の観点から30%~100%であることが好ましい。
【0066】
本発明の硬化物の引張試験における最大点荷重(N)は、55N~100Nであることが好ましく、57N~99Nであることがより好ましい。
【実施例】
【0067】
次に、本発明をさらに詳細に説明するために実施例、比較例、及び試験例を挙げるが、これらの例は単なる実施であって、本発明を限定するものではなく、また本発明の範囲を逸脱しない範囲で変化させてもよい。
【0068】
(水性樹脂エマルジョン、湿潤剤)
主剤Aを組成する水性樹脂エマルジョンは、スチレン・ブタジエン系重合体エマルジョン(SBR;日本エイアドエル株式会社製「ナルスタ-SR116」、固形分51%)とメチルメタアクリレ-ト・ブタジエン系重合体エマルジョン(MBR;日本エイアドエル株式会社製「ナルスタ-MR171」、固形分49%)を使用した。
湿潤剤は、ポリエチレングリコール(林純薬工業株式会社「特級」)を使用した。
【0069】
(体質顔料)
主剤Aを構成する体質顔料として、重炭酸カルシウム(株式会社カルファイン「aACE-30」、平均粒子径:0,9μm)、酸化亜鉛(ハクスイテック株式会社「ZINCOX SUPER F1」、平均粒子径0.1μm)、及び酸化チタン(堺化学工業株式会社「CTR-100」、平均粒子径0.26μm、表面処理ZrO2・Al2O3)を使用した。酸化亜鉛は抗菌・抗カビ剤、酸化チタンは紫外線カット剤でもある。
【0070】
(分散剤)
重炭酸カルシウムの分散剤は、ポリアクリル酸アンモニウ (東亜合成株式会社製「アロンA-30SL、固形分40%」)を使用した。また、酸化亜鉛と酸化チタンの分散剤は、ポリアクリル酸系重合体(東亜合成株式会社製「アロンSD-10、固形分40%」)を使用した。
【0071】
(電解質)
硬化剤Bは、水酸化カルシウム(林純薬工業株式会社「試薬」)、焼ミョウバン(硫酸アルミニウムカリウム・乾燥、大洋製薬株式会社)、及び炭酸水素ナトリウム〔重曹〕(試薬)を使用した。
【実施例1】
【0072】
<主剤Aに係る炭酸カルシウムの調整>
重炭酸カルシウム(302.5g)とポリアクリル酸アンモニウム(13.75g)と蒸留水(300g)を、ホモミキサー(プライミックス株式会社「mark-II」、2000rpmで10分混合し、その後、108℃で2時間乾燥させ、その後、ビーズミル(アイメックス株式会社「RMB」)により15分解砕して、炭酸カルシウム処理粉とした。
<主剤Aに係る酸化亜鉛と酸化チタンの調整>
酸化亜鉛(16.5g)及び酸化チタン(16.5g)を準備し、各々にポリアクリル酸系重合体(13.75g)と蒸留水(120g)をホモミキサー、4000rpmで20分混合し、その後、108℃で2時間乾燥させ、その後、ビーズミル(アイメックス株式会社「RMB」)により30分解砕して、酸化亜鉛と酸化チタンの各々の処理粉とした。
【0073】
<主剤Aの調整>
スチレン・ブタジエン系重合体エマルジョン(95g)とメチルメタアクリレ-ト・ブタジエン系重合体エマルジョン(95g)とポリエチレングリコール(5g)と炭酸カルシウム処理粉(275g)、酸化亜鉛処理粉(15g)と酸化チタン処理粉(15g)をホモミキサー、2000rpmで30分混合し、主剤Aを調整した。
<主剤Aと硬化剤Bとの混合>
硬化剤Bは、水酸化カルシウムとし、添加量は主剤Aに100質量部対して2質量部とした。主剤Aと硬化剤B混合は、
図4に示すようにパレット上に主剤Aと硬化剤Bとを配置し、
図5に示すようにペインティングナイフCを使用して1分間添加混合した。混合後、実施例1の硬化物を得た。
【実施例3】
【0074】
硬化剤Bは、水酸化カルシウムとし、添加量は主剤A100質量部に対して10質量部とした。
【実施例4】
【0075】
硬化剤Bは、ミョウバンとし、添加量は主剤A100質量部に対して10質量部とした。
【実施例5】
【0076】
硬化剤Bは、重曹(炭酸水素ナトリウム)とし、添加量は主剤A100質量部に対して10質量部とした。
【実施例6】
【0077】
硬化剤Bは、水酸化カルシウムとし、添加量は主剤A100質量部に対して20質量部とした。
【実施例7】
【0078】
硬化剤Bは、水酸化カルシウムとし、添加量は主剤A100質量部に対して28質量部とした。
【実施例8】
【0079】
硬化剤Bは、水酸化カルシウムとし、添加量は主剤A100質量部に対して30質量部とした。
【実施例9】
【0080】
硬化剤Bは、水酸化カルシウムとし、添加量は主剤A100質量部に対して35質量部とした。
【0081】
(比較例1)
主剤Aの組成は、実施例1と同じであり、硬化剤Bは、水酸化カルシウムとし、添加量は主剤A100質量部に対して0.5質量部とした。
【0082】
(比較例2)
主剤Aの組成は、実施例1と同じであり、硬化剤Bは、水酸化カルシウムとし、添加量は主剤A100質量部に対して50質量部とした。この配合は、主剤Aと水酸化カルシウムの混合が難しいため、水酸化カルシウム50質量部に対して、蒸留水5質量部を混合したものを使用した。
【0083】
(試験例1)各試験用サンプルの硬度の測定
(1)硬度測定用テストサンプルの調整方法
測定用テストサンプルは、5mm厚の発泡スチロール板に、100mm角の穴開け、底面に紙を敷き、その凸部に、主剤Aと硬化剤Bを添加混合したものを流し込んで固めたものを用いた。
【0084】
(2)硬度の経時変化と測定
測定用テストサンプルの硬さは、DuroMeter(ASKER「型式CL-150」)で測定した。この測定装置はC型であり、A型(JIS K 6253-3準拠)で測定される値が20以下の場合に使用される。値が高いほど、硬さが高くなり、柔軟性が低くなる。
測定は、テストサンプル制作後、3時間、6時間、12時間、24時間、48時間、96時間ごとに測定した。測定箇所は決められた10ケ所を計測し、その平均値を測定値とした。なお、測定環境は、室内温度23℃、湿度50%とした。結果を
図1に示した。
【0085】
(試験例2)各テストサンプルの水分量の測定
(1)水分量の経時変化
各テストサンプルの水分量は、試験用サンプル制作後、12時間、24時間、36時間、2日、3日、4日、6日、11日、16日ごとに重量変化測定することで計測した。水分量の変化量は、主剤A中に含有される水分量(トータル水分量:18質量%)の減少率を計算した。結果を
図2に示した。
【0086】
各実施例並びに比較例の配合、試験例1と試験例2の結果を表1に示す。
【0087】
【0088】
硬化剤Bの電解質が、水酸化カルシウムの場合、その添加量が2から30質量部の場合の48時間後の硬化物には、弾力性があり、かつ、自由に変形できる可塑性が発現している。この時の、デュロメータ〔Cタイプ〕の硬さの値は、15.5から52.5であった。この時の、表面状態は、ひび割れやしわの発生はなかったが、水酸化カルシウムの添加量が30質量部の場合、細かいしわの発生が認められた。
一方、水酸化カルシウムの添加量が0.5質量部の場合は、まだ表面に粘着性が残り、デュロメータ〔Cタイプ〕での計測は出来なかった。また、水酸化カルシウムの添加量が50質量部〔少量の水を添加〕の場合は、弾力性が無く、また、表面にひび割れが発生していた。
【0089】
図1に、主剤Aに硬化剤B〔水酸化カルシウム〕を添加後の経過時間に対する主剤Aの硬さ〔デュロメータ(Cタイプ)〕の変化を示した。各添加量とも経過時間に伴って硬さの値が高くなるが、48時間程度で硬さの値が飽和してくる。また、硬化剤Bの添加量が増加するほど、硬化する速度が早くなり、また、硬さの値が高くなることを示している。
【0090】
図2に、主剤Aに硬化剤B〔水酸化カルシウム〕を添加後の経過時間に対する主剤A中の水分の蒸発量の変化を示した。各添加量とも経過時間に伴って水分の蒸発量が高くなり、硬化剤Bの添加量が多くなると、水分の蒸発量が多少低くなる傾向がある。硬化剤の添加量が、50質量部の場合、30質量部より水分の蒸発量が大きくなっているが、これは、硬化の初期段階から、ひび割れが発生し、主剤Aの表面積が多くなったためと推定される。
【0091】
図3に、主剤A中の水分蒸発量と主剤Aの関係を示す。硬化剤Bの各添加量に対応して、主剤A中の水分の蒸発量が高くなると主剤Aの硬さが高くなっている。
しかし、主剤A中の水分の蒸発量と主剤Aの硬さが直接関係するのではなく、硬化剤Bの添加量が、主剤Aの硬さを決定していることが分かる。
【0092】
表1の結果から、硬化剤Bがミョウバンや重曹の場合も、硬化剤Bが水酸化カルシウムの場合と同様の効果が確認された。また、表1には記載しなかったが塩化マグネシウムも同程度の効果が確認された。
【0093】
(試験例3)各試験サンプルの曲げによる状態確認
(1)曲げによる状態確認用テストサンプルの調整方法
曲げによる状態確認用テストサンプルは、10mm厚の発泡スチロール板に、220mm×90mmの穴を開け、底面にも発泡スチロール板を敷き、その凸部に、主剤Aと硬化剤Bを添加混合したものを練り込んで固め、硬化後5日経過したものをカッターナイフで長辺に平行に15mm幅に切断し、更に長辺を二等分したものを試験片として用いた。厚さ寸法は、練り込んだ当初は10mmであったが、硬化後経過時間と共に水分蒸発のため減少し、平均値は8.3mmであった。
(2)曲げによる状態確認による硬化物の変化
本発明硬化物の試験片(幅15mm、厚さ8.3mm(平均値)、長さ110mm)の各10本をアールゲージ(90°の角にRを設けたもの)に沿わせて曲げ、そのアール部の外周においてひび割れや折れが生じるかどうかを目視観察した。その結果を表2に示した。
【0094】
【0095】
表2の曲げによる表面状態確認の結果から、硬化剤Bが主剤A100質量部に対して、2~20質量部では、表面状態はしわの発生もなく、外周部にひび割れもなく、また折れもなかった。この結果は、2R、5Rゲージでも同様であった。
硬化剤Bが28質量部の場合には、十分な曲げ特性を有していたが、外周部にややひび割れが生じた。また、2Rと5Rゲージでは全数折れが確認された。硬化剤Bは35質量部の場合には、テストサンプルの折れが確認された。また、2R、5Rでも全て折れが確認された。表2中には示さなかったが、硬化剤Bが主剤A100質量部に対して、1質量部の場合、2~20質量部のような時間では、試験が可能な状態までに固まらなかった。
【0096】
(試験例4)各試験サンプルの引張試験
(1)引張試験用テストサンプルの調整方法
テストサンプルは、10mm厚の発泡スチロール板に、220mm×90mmの四角い穴を開け、底面にも発泡スチロール板を敷き、その凸部に、主剤Aと硬化剤Bを添加混合したものを練り込んで固め、硬化7日経過したものをカッターナイフで長辺に平行に15mm幅に切断し、更に長辺を二等分したものを試験片として用いた。試験片は、幅15mm、厚さ10mm、長さ110mmで、クランプ部の長さを上下各30mmと設定し、55mm長さの部分において硬化物の引張強度測定に用いた。
厚さ寸法は、練り込んだ当初は10mmであったが、硬化後経過時間と共に水分蒸発のため減少し、平均値は8.3mmであった。
さらにテストサンプルの両端の引張試験クランプ部に相当する部分に補強板を設けた。その寸法は長さ方向30mm×20mm×厚さ0.8mmのステンレス板であり、30mmを長さ方向にしてサンプルの両側から挟んだ状態でそれぞれのサンプルと同剤で接着した。
(2)引張強度の測定
試験片の引張強度は、引張試験機(株式会社エー・アンド・デイ社製、型番:RTF-1250)で測定した。引張試験の結果として、最大点荷重〔N〕と最大点伸度〔%GL〕を表2に示した。試験規格は、JIS L 1096に対応する。
最大点荷重は、試験片への最大の応力を表す。また、最大点伸度は、引張強度の測定を行った際に引張強度が最も大きな値を示した際の引張伸びを初期試験長さに対する百分率として求め、最大点伸度とした。最大点伸度は、数値が大きい程伸び特性に優れることを示す。
(測定条件)つかみ具間隔:55mm、湿度65%RH、温度20℃、動作モード;単一動作、動作方向:Up、移動速度:100mm/分、初荷重除去動作:なし、目標荷重:5N、クリープ速度10mm/分、保持時間:3秒
【0097】
表2の引張試験の結果より、最大点伸度(%GL)が30%~100%ある場合、非常に良好な伸び特性を示しており、主剤A100質量部に対して、硬化剤Bが2~20質量部であることが優れた特性を有することが明らかとなった。その際の硬度(硬さ)は20~50、最大点荷重(N)は、55N~100Nであることが示された。
【0098】
(試験例5)各試験用サンプルの硬度の測定(別法)
(1)硬度測定用テストサンプルの調整方法
テストサンプルは、10mm厚の発泡スチロール板に、220mm×90mmの四角い穴を開け、底面にも発泡スチロール板を敷き、その凸部に、主剤Aと硬化剤Bを添加混合したものを練り込んで固め、硬化7日経過したものをカッターナイフで長辺に平行に15mm幅に切断し、更に長辺を二等分したものを試験片として用いた。
【0099】
(2)硬度の経時変化と測定
試験用サンプルの硬さは、DuroMeter(ASKER「型式CL-150」)で測定した。測定位置は、各サンプル端部より10mmの位置の中央部とした。結果を表2に示した。
【0100】
表2の結果から、デュロメータ〔Cタイプ〕の硬度は、20~50である場合には、本発明の硬化物が良好となることが示され、より好ましくは、22~46である。
【0101】
(試験結果)
(1)表1の結果から、主剤Aに対する硬化剤Bの添加量を、主剤A100質量部に対するして2~20質量部とすると、本発明の硬化物の表面状態も良く、硬化することが明らかとなった。
(2)表2の結果から、主剤Aに対する硬化剤Bの添加量を、主剤A100質量部に対するして2~20質量部とすると、本発明の立体造形硬化物が「曲げ」に対して適した特性を有することが明らかとなった。
以上、各試験結果から、本発明の立体造形硬化物は、硬度だけでなく、最大点伸度や最大点加重等を調整でき、曲げや引っ張りに対しても表面割れしない、自由な屈曲が可能な柔軟性に優れた特性を有する硬化物であることが示された。また、当該特性を活用して、後述する使用状態のように有用であること明らかとなった。
【0102】
本発明に係る主剤Aと硬化剤Bの混合直後の状態(この状態を本発明の「塗布剤」と称する)では、スラリー状ないし柔らかい粘土の硬さであり、それを一定の型に練り込み、あるいはそれ自体を重ね塗りすることで所望の厚みを持った本発明の硬化物となり、適宜、造形物を成形することができる。また、金属・非鉄金属、プラスチックスなどの線材や条材、竹、木材などへぎ(条材)の比較的強度のある材料で作られた大まかな立体造形物に、紙、布、不織布、アルミ箔などの面材でその表面を被い、その上に一定の厚みに本発明に係る塗布剤を塗り、それを硬化させて立体造形物の外観形状を作り出すことも可能である。
【0103】
従来の造形方法では造形したものを変形させることはできないが、本発明の硬化物或いは造形方法を用いれば、いったん硬化させた後に自由に変形して造形できる点に本発明の特徴がある。その特徴をもとに、金属・非鉄金属を骨材とする場合は、その塑性変形を生かして、硬化物の表面を曲面のあるヘラなどでこする(圧力をかけ変形させる)ことで所望の形状に凹凸を形成することが可能である。
【0104】
(実施形態の使用例1)
主剤Aとして、スチレン・ブタジエン系重合体エマルジョン(95g)とメチルメタアクリレ-ト・ブタジエン系重合体エマルジョン(95g)とポリエチレングリコール(5g)と炭酸カルシウム処理粉(275g)、酸化亜鉛処理粉(15g)と酸化チタン処理粉(15g)をホモミキサー、2000rpmで30分混合したものを用いた。この主剤Aを質量部100とし、硬化剤Bに水酸化カルシウム質量部10を加え、
図5に示すようにペインティングナイフCで約1分練り合わせた。
あらかじめ0.8mm径の鋼線を使用して造形した造形物6(
図6)に、前記主剤Aと硬化剤Bとの混合物(塗布剤)を
図6に示すようペインティングナイフCで塗りつけた。約12時間後塗布剤が硬化した様子を
図7に示した。当該硬化物は
図8に示すように手でその形を整えることができた。
図8の状態において、すでにその時点では主剤Aの表面の粘着性は失われ、手に付着することなく骨材である鋼線と共に自由に屈曲することができた。
【0105】
(実施形態の使用例2)
主剤Aと硬化剤Bは前記(実施形態の使用例1)と同材料を用いた。骨材は、0.5mm径の鋼線を用いてあらかじめ六角形の輪を20個作り、さらに接着剤で球状に組むと正20面体ができあがり、それに前記の使用例1と同様にペインティングナイフDで塗りつけ、造形物としたものを
図9に示した。当該造形物をを約12時間放置した後、手によって極端に歪めてみた状態を
図10に示した。このように主剤Aと硬化剤Bとの混合物(塗布剤)は、どのような繰り返しの屈曲においても骨材の屈曲に追随し、割れや剥離が生じることはなかった。
【0106】
(実施形態の使用例3)
ショーやイベントあるいは演劇の舞台装置などの仮設で使用される装飾物や道具等の中で、例えば、大きな岩などの立体造形物を製作する場合の従来の方法は、板や段ボールなどで骨組みを整え、その上に紙を貼り重ねて作られていた。しかし、その方法では立体化するための骨組みやその上に面を作り出すことがかなり困難で有り、多くの時間と人件費がかけられてきた。
また、従来の造形方法にはFRPといわれるグラスファイバーに合成樹脂を塗布して強靱な造形物を作る方法があるが、成形後の形状の変更・修正は、一部を削るか破壊して再造形することになるが、材質が固いため容易に修正できるものではない。
そこで本発明を用い径約2mの岩を製作した例を
図11で示す。
通常、ロール状に巻かれて市販されている金網(太さ0.8mmの鋼線を用い対角が約2cmの六角に編まれたもの)を、適宜の大きさ(約60cm×90cm)に切り、それを一部重ね合せてドーム状に組む。金網の場合、端は細い線材がほぐれているので重なる部分との貼り合わせは容易に行える。また金網の場合は、金網の面を重ね合わせることでかなりの外圧に耐えるシェル型ドーム状の造形物が出来上がり、その表面に木綿のガーゼを被せていき全体の表面を覆った。
次に、本発明のA剤100質量部とB剤20質量部とをよく練り合わせ、コテなどでドームの表面に2mm~5mmの厚みで塗り付けた。
本発明の硬化物は硬化後に自由に変形することができるため、塗布から2日後、金網の塑性変形を活用して指やスプーンのような曲面のあるヘラを使って前記ドームの表面に細かな風合いの凹凸を作り、
図11に示すような岩独特のゴツゴツしたテクスチャーをつけることができた。
【0107】
本発明を用い150mm径、厚み約5mmのパイプを製作した例を
図13に示す。
従来例えば合成樹脂パイプ製造の場合であれば、押出機および周辺設備とダイス(金型)を用いるため、1回の生産にはかなりの生産量(最低数百m)が必要とされていた。それはダイス製作費、設備使用料、稼働のための人件費等で採算がとれるにはかなりの生産量が必要であるからである。
本発明の方法を用いれば、所望の径のパイプを所望の量、単時間で製作できる。製作の一例として、パイプ外形を形成する芯材に太さ2.6mmアルミ合金線材を用いた例を示す。この線材を一定の径(径約150mm)に複数回巻き、それを円の軸方向に引き伸ばすと巻き線の外形はラセン状となり、そのラセンの周りに布(または合成樹脂による不織布)を巻付け、さらにその上に本発明の造形剤を塗布することで簡単にパイプを造形することができる。
このパイプは、様々な活用が想定される。例をあげると、舞台装飾などでは樹木の幹として、角、あるいは蛇のように曲がった装飾として、またパイプの側面を変形させた芸術品として、また機能部材としては送水管や送風ダクトとして用いることができる。
【0108】
また、本発明は次に挙げる各種のものに応用できる。例えば、防水性の物では防水用手袋・長靴、水槽などがあり、柔軟性を求めるものでは、木材、竹の薄い板(1mm~0.1mm)あるいは紙の片面あるいは両者の間に塗布すれば極めて柔軟性のある面が製作できる。
【0109】
図14は絵画の例である。主剤Aと硬化剤Bは前記実施形態の使用例1と同材料を用いた。波の部分と岩の部分においては、造形する場合のしやすさから主剤Aと硬化剤Bとは配合比率が異なる。波の表現では、うねりの形を表現するには混合物の柔らかさが求められるため、主剤A100質量部に対し硬化剤Bは10質量部、岩の表現では、鋭利な凹凸のある岩の形を表現するには混合物に硬さが求められるため、主剤A100質量部に対し硬化剤Bは30質量部とした。波の部分、岩の部分ともペインティングナイフを用い、
図11に示すようにその形状の特徴を表現する造形ができた。主剤Aと硬化剤Bの混合開始から約2時間まではまだ硬化開始時点にあり、削除や変形が自由にでき、6時間後は変形しない程度の半硬化状態にあるため、塗り重ねができるので自由な表現が行なえた。主剤Aと硬化剤Bの混合開始から6時間後は表面の粘着性は失われ、従来の油絵と変わりない保存状態が保たれている。
【0110】
また、前記使用例では、主剤Aと硬化剤Bの所定の比率で混合した後に、市販のアクリル製絵具〔ターナー色彩社製「アクリル絵具 ゴールデンアクリックス」〕と混合することにより、希望する色に均質に着色することが出来る。これは、アクリル絵の具が、バインダーにアクリル樹脂(アクリルエマルション)と顔料とを練り合わせることにより作られているため、前記主剤Aと硬化剤Bの所定の比率で混合した混合物と親和性が高いためである。
【0111】
<産業上の利用の可能性>
本発明の立体造形硬化物は、適宜、硬度だけでなく、最大点伸度や最大点加重等を調整でき、曲げや引っ張りに対しても表面割れせず、自由な屈曲が可能な柔軟性に優れた立体造形物として成形することができ有用である、
また、金属・非鉄金属、プラスチックスなどの線材や条材、竹、木材などへぎ(条材)の比較的強度のある材料で作られた大まかな立体物に、紙、布、不織布、アルミ箔などの面材でその表面を被い、その上に一定の厚みに本発明に係る塗布剤を塗り、それを硬化させて立体造形物として外観形状を作り出すこともでき有用である。
【0112】
従来の造形方法では造形したものを変形させることはできないが、本発明の硬化物或いは制作方法を用いれば、いったん硬化させた後に自由に変形して造形することが可能である。例えば、金属・非鉄金属を骨材とする場合は、その塑性変形を生かして、硬化物の表面を曲面のあるヘラなどでこする(圧力をかけ変形させる)ことで所望の形状に凹凸を形成でき、またショーやイベントあるいは演劇の舞台装置などの仮設で使用される装飾物や道具等の中で、例えば、大きな岩などの立体造形物を製作する場合、立体化するための骨組みやその上に面を作り出すことも可能となり有用である。
【0113】
また、本発明の硬化物を用いることで、例えば合成樹脂パイプの場合であれば、鋼線もしくはアルミ・銅などの金属・非鉄金属線材を一定の径に複数回巻き、それを円の軸方向に引き伸ばすと巻き線の外形はラセン状になり、そのラセンの周りに布(または合成樹脂による不織布)を巻付け、さらにその上に本発明の硬化剤を用いることで、簡単にパイプを造形することができる。
このパイプ外形を形成する芯材としては、金属・非鉄金属を問わず、ガラス、カーボン、合成樹脂、竹、木材、紙、布などによる線状あるいはリボン状(薄い一定幅を持った条材)または網、面状のものであれば芯材として使用できる。また、パイプの形状においても、円錐、紡錘、あるいは断面が楕円、多角形に形成することもできる。
このパイプは、様々な活用が想定される。例えば、舞台装飾などでは樹木の幹として、角あるいは蛇のように曲がった装飾として、またパイプの側面を変形させた芸術品として、また機能部材としては送水管や送風ダクトとして用いることができ、有用である。
【0114】
また、本発明の硬化物は、例えば、防水性の物では防水用手袋・長靴、水槽などがあり、柔軟性を求めるものでは、木材、竹の薄い板あるいは紙の片面あるいは両者の間に塗布すれば極めて柔軟性のある面を製作することなどへの応用が可能であり有用である。
【0115】
主剤Aは、それ自体に強い粘着性を付与しているため、塗布面への密着性が良好であり、主剤Aに硬化剤Bを添加することにより硬化させた素材は、ゴムに似た弾性を付与しているため、割れや剥離が生じることが無く、屈曲に耐えられるため構造物に塗布した場合にその構造物に追随した造形物を形成させることが出来、また、塗布剤は、硬化前は接触する物に対して強い粘着性と接着力を有するが、硬化後の表面には全く粘着性がなくなる性質を有しており、また硬化後は優れた防水性を備えていることから有用である。
【0116】
更に、絵画においては、立体的な波の部分や岩の部分において、主剤Aと硬化剤Bとの混合比の異なる塗布剤を用いることで、波のうねりの形を表現する場合や鋭利な凹凸のある岩の形を表現したりする場合を使い分けることで、波の部分、岩の部分ともペインティングナイフで、各々所望の形状の特徴を表現する造形が可能となり、例えば、主剤Aと硬化剤Bの混合開始から約2時間まではまだ硬化開始時点にあり、削除や変形が自由にでき、6時間後は変形しない程度の半硬化状態にあるため、塗り重ねができるので自由な表現が行なえ、主剤Aと硬化剤Bの混合開始から6時間後は表面の粘着性は失われ、従来の油絵と変わりない保存状態が保つことが可能となり、有用である。
【0117】
更に、主剤Aは水性であるため市販のアクリル絵具や水性絵具を混合することが出来るため、表現目的に適合した色調を自由に作り出すことが出来、また、硬化剤Bの添加量に対応した硬化速度と弾性の異なる素材を自由に得ることが出来るため、レリーフ状の絵画や立体造形を形成することができるため表現豊かな硬化物を提供することができ、有用である。
【符号の説明】
【0118】
1 主剤A
2 硬化剤B
3 パレット
4 混合物
5 ペインティングナイフC
6 鋼線を用いた造形物の骨材
7 ペインティングナイフD
8 骨材に塗りつけた造形物
9 骨材に混合物の塗りつけを終えた造形物
10 形を整えた造形物
11 鋼線を用いた正20面体の骨材に混合物を塗りつけた造形物
12 変形させた11の造形物
13 岩の造形
14 岩の表面の凹凸
15 金網
16 布(ガーゼ)
17 塗布剤(主剤Aと硬化剤Bの混合物)
18 芯材(アルミ合金線材)
19 布(不織布)
20 塗布剤(主剤Aと硬化剤Bの混合物)
21 波の表現
22 岩の表現
【要約】
【課題】固化後の硬さをコントロールするとともに、面材や骨材などとの接合性に優れ、硬化後自由に屈曲できる柔軟性に優れた立体的な造形可能な硬化物の提供。
【課題手段】水性樹脂エマルジョン、体質顔料及び分散剤とを含む主剤Aに、特定の硬化剤B(硬化剤Bが、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、ミョウバン、塩化マグネシウム等)を、主剤Aが100質量部に対して、当該硬化剤Bが2~20質量部で混合するにより得られる立体造形硬化物。
【選択図】
図8