IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ テイ・エス テック株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-乗り物用シート装置 図1
  • 特許-乗り物用シート装置 図2
  • 特許-乗り物用シート装置 図3
  • 特許-乗り物用シート装置 図4
  • 特許-乗り物用シート装置 図5
  • 特許-乗り物用シート装置 図6
  • 特許-乗り物用シート装置 図7
  • 特許-乗り物用シート装置 図8
  • 特許-乗り物用シート装置 図9
  • 特許-乗り物用シート装置 図10
  • 特許-乗り物用シート装置 図11
  • 特許-乗り物用シート装置 図12
  • 特許-乗り物用シート装置 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】乗り物用シート装置
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/809 20180101AFI20220128BHJP
   B60N 2/879 20180101ALI20220128BHJP
   B60N 2/891 20180101ALI20220128BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
B60N2/809
B60N2/879
B60N2/891
F16F15/02 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020115875
(22)【出願日】2020-07-03
(62)【分割の表示】P 2019071780の分割
【原出願日】2012-07-06
(65)【公開番号】P2020179847
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2020-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002192
【氏名又は名称】特許業務法人落合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大久保 拓也
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-226255(JP,A)
【文献】特開2012-086715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/809
B60N 2/879
B60N 2/891
B60N 2/90
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クッション部材を有して乗り物に設置されるシートのフレームに、ダイナミックダンパを付設してなる、乗り物用シート装置において、
前記ダイナミックダンパが、互いに分離可能に結合された第1及び第2ケース半体よりなるダンパケースと、前記ダンパケース内に収容される重錘と、前記クッション部材とは別部材で形成されて、前記重錘の振動を許容するように該重錘と前記ダンパケースとの間に介装される弾性部材とで構成され、
前記フレームは、上下方向に伸びる左右一対の縦骨部材とそれら縦骨部材間を結ぶ横骨部材とを有するようにパイプ材を屈曲させて形成され、
前記ダンパケースには、前記重錘および前記弾性部材を収容する本体部と、前記フレームの前記縦骨部材に左右の2箇所で取り付けられる取り付け部とが形成され、前記本体部の左右方向の外端は、前記一対の縦骨部材の間に位置することを特徴とする、乗り物用シート装置。
【請求項2】
前記ダンパケースの前記取り付け部は、前記一対の縦骨部材それぞれ前後方向前側の部分に取り付けられていることを特徴とする、請求項1に記載の乗り物用シート装置。
【請求項3】
前記ダンパケースは、前記2箇所の取り付け部とは別に、前記フレームの前記横骨部材に取り付けられる第3の取り付け部を有しており、該第3の取り付け部は、上下方向において前記重錘と重なる位置で前記フレームに取り付けられることを特徴とする、請求項1又は2に記載の乗り物用シート装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗り物に設置されるシートのフレームにダイナミックダンパを付設してなる、乗り物用シート装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
かゝる乗り物用シート装置において、ダイナミックダンパを、ハウジングと、このハウジング内に振動可能に収容される重錘と、この重錘及びハウジング間に介装される弾性部材とで構成したものが、下記特許文献1に開示されるように知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-242986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示される乗り物用シート装置におけるダイナミックダンパでは、ハウジングは、重錘及び弾性部材の収容後、全体が分解不能に一体化されるので、ダイナミックダンパが一旦組み立てられると、制振特性を調整あるいは変更する必要がある場合でも、重錘及び弾性部材を特性の異なるものと交換することができず、新規にダイナミックダンパを製作しなければならず、不経済である。しかも上記ハウジングには、シートへの取り付け部が設けられていないので、シートへの取り付けに際しては、バンド等の特別な取り付け器具を使用しなければならず、その取り付け作業も面倒となる。
【0005】
本発明は、かゝる事情に鑑みてなされたもので、制振特性の調整あるいは変更のための重錘及び弾性部材の交換を可能にし、またダンパケース(ハウジング)のシートへの取り付け性も良好な前記乗り物用シート装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、クッション部材を有して乗り物に設置されるシートのフレームに、ダイナミックダンパを付設してなる、乗り物用シート装置において、前記ダイナミックダンパが、互いに分離可能に結合された第1及び第2ケース半体よりなるダンパケースと、前記ダンパケース内に収容される重錘と、前記クッション部材とは別部材で形成されて、前記重錘の振動を許容するように該重錘と前記ダンパケースとの間に介装される弾性部材とで構成され、前記フレームは、上下方向に伸びる左右一対の縦骨部材とそれら縦骨部材間を結ぶ横骨部材とを有するようにパイプ材を屈曲させて形成され、前記ダンパケースには、前記重錘および前記弾性部材を収容する本体部と、前記フレームの前記縦骨部材に左右の2箇所で取り付けられる取り付け部とが形成され、前記本体部の左右方向の外端は、前記一対の縦骨部材の間に位置することを第1の特徴とする。
【0007】
また本発明は、第1の特徴に加えて、前記ダンパケースの前記取り付け部は、前記一対の縦骨部材それぞれ前後方向前側の部分に取り付けられていることを第2の特徴とする。
【0008】
さらに本発明は、第1又は第2の特徴に加えて、前記ダンパケースは、前記2箇所の取り付け部とは別に、前記フレームの前記横骨部材に取り付けられる第3の取り付け部を有しており、該第3の取り付け部は、上下方向において前記重錘と重なる位置で前記フレームに取り付けられることを第3の特徴とする。
【0009】
尚、前記シートは後述する本発明の実施形態中の自動車用シートSに、前記フレームはヘッドレストフレーム12に、前記縦骨部材は前縦骨部材12cに、前記横骨部材は前横骨部材12dに、前記弾性部材は弾性シート16に、前記2箇所の取り付け部は第1,第2弾性支持部24A,24Bに、前記第3の取り付け部は弾性支持部24C又は位置決め支持部30に、前記本体部の左右方向の外端は第1,第2ケース半体17A,17Bの左右両側壁の外端にそれぞれ対応する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1~第3の特徴によれば、制振特性の調整あるいは変更のための重錘及び弾性部材の交換を可能にし、またダンパケースのシートへの取り付け性も良好な前記乗り物用シート装置を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1実施形態に係る自動車用シート装置の側面図。
図2図1の2部(ヘッドレスト周辺部)の拡大図。
図3図2の3矢視図。
図4図2の4矢視図。
図5図3の5-5線断面図。
図6図3に対応した斜視図。
図7図6中のダイナミックダンパの分解斜視図。
図8】ヘッドレストのクッション部材の発泡材による成形方法説明図。
図9】本発明の第2実施形態を示す、図3に対応する正面図。
図10】本発明の第1参考形態を示すヘッドレストの斜視図。
図11】本発明の第参考形態を示す、自動車用シート装置の斜視図。
図12】本発明の第参考形態を示す、自動車用シート装置の斜視図。
図13】本発明の第参考形態を示す、自動車用シート装置の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
先ず、図1図8に示す本発明の第1実施形態より説明する。尚、以下の説明中、前後、左右とは、本発明を適用する自動車を基準にしていうことにする。
【0013】
図1において、自動車用シートSは、シートクッション2、シートバック3及びヘッドレスト4とよりなっている。シートクッション2は、下部に複数の支持脚7、7を形成したシートクッションフレーム6を有しており、その支持脚7、7が自動車の床Fに固着される。
【0014】
シートクッションフレーム6の後端部には上方に突出する左右一対のブラケット8が連設され、これらブラケット8に、シートバック3が有するシートバックフレーム10が枢軸9を介してリクライニング可能に連結される。
【0015】
またシートバックフレーム10の上端部には、左右一対の支持筒11、11が固設されており、これら支持筒11、11によってヘッドレスト4が昇降及び固定可能に支持される。
【0016】
図2図6に示すように、ヘッドレスト4は、ヘッドレストフレーム12と、それに支持される発泡ウレタン製のクッション部材13と、その表面を被覆する表皮14とよりティアドロップ型に構成され、そのヘッドレストフレーム12にダイナミックダンパDが取り付けられる。
【0017】
ヘッドレストフレーム12は、パイプ材を屈曲させてなるもので、前記一対の支持筒11、11に支持される左右一対の主骨部材12a、12aと、これら主骨部材12a、12aの上端から前方へ屈曲した上骨部材12b、12bと、これら上骨部材12b、12bの前端から下方へ屈曲して延びる左右一対の前縦骨部材12c、12cと、これら前縦骨部材12c、12cの下端部を相互に一体に連結する前横骨部材12dとで構成され、左右の前縦骨部材12c、12cには、上記パイプ材より小径の補強用クロスバー19が橋渡されるように溶接される。而して、主骨部材12a、12aの上部から前横骨部材12dまでに亙りヘッドレストフレーム12を包むようにクッション部材13が形成され、このクッション部材13は表皮14で被覆される。
【0018】
このクッション部材13の形成前に、前縦骨部材12c、12cと前横骨部材12dを利用してダイナミックダンパDが取り付けられる。そのダイナミックダンパDは、重錘15と、この重錘15を、その全面に重なるように包む弾性シート16と、これら重錘15及び弾性シート16を収容するダンパ室17Cを有するダンパケース17とよりなっており、ヘッドレストフレーム12は、ダンパケース17の上面と、その上面と対向する表皮14の内面との間の部分を避けて配置されている。また重錘15は、その全方向で弾性シート16を介してダンパケース17に支持される。
【0019】
図2図5及び図7に明示するように、上記重錘15は鋳鉄製で、前後方向に偏平な六面体をなしており、その前面15fは、平面に近い凸状の湾曲面に形成され、後面15rは、後方へ前面15fより大きく突出した湾曲面に形成される。さらに重錘15は、その前後方向の肉厚及び/又は左右方向の横幅が上方に向かって漸増するように形成され、これによって重錘15の重心Gは、重錘15の中心Cよりも上方位置を占めることになる。
【0020】
弾性シート16はウレタンフォーム製であって、重錘の後面15rに対応する方形の中央部16aから四枚のシート片16b~16eを張り出してなるもので、この弾性シート16により重錘15を包むに当たっては、弾性シート16の中央部16aに重錘15の前面15fを載せた後、四枚のシート片16b~16eをそれぞれ起立させてから重錘15の後面15r側に折って、その前面15fに両面接着テープ18を介して接着する。こうして弾性シート16で包んだ重錘15は、前後二つ割りのダンパケース17内に収容される。その際、弾性シート16は、重錘15の外面と、その外面と対向するダンパ室17Cの内面との間に圧縮状態で介装される。これにより、ダンパ室17C内での弾性シート16のずれを防いで重錘15を常に所定位置に保持し、重錘15の無用な動きを抑えて、所定の制振機能を確保することができる。
【0021】
ダンパケース17は、重錘15および弾性シート16を収容する本体部と、該本体部をヘッドレストフレーム12に取り付ける取り付け部とを有している。図2図7に示すように、ダンパケース17の本体部は、上記重錘15の外形に相似する形状をなすもので、したがって前後方向に偏平な箱型をなしており、その前壁17fは、重錘15の前面15fに対応して平面に近い湾曲面に形成され、後壁17rは、重錘15の後面15rに対応して後方へ大きく突出するように湾曲した湾曲面に形成される。
【0022】
このダンパケース17の本体部は、前側の第1ケース半体17Aと、後側の第2ケース半体17Bとに二分割され、これら第1及び第2ケース半体17A、17B間に、弾性シート16で包んだ重錘15を収容し得るダンパ室17Cが画成される。各ケース半体17A、17Bは、それぞれ合成樹脂で成形される。
【0023】
第1及び第2ケース半体17A、17Bは、重錘15の鉛直方向に沿う側面と、この側面に弾性シート16を挟んで対向するダンパ室17Cの内側面との間隔A(図2参照)が上方に向かって増加するように形成される。即ち、上記間隔Aは、シートバック3及びヘッドレスト4よりなる振動系の支持点9から離れるにつれて増加することになる。図示例の場合、上記振動系の前後振動の制振を重視するため、第1及び第2ケース半体17A、17Bは、重錘15とダンパ室17C内面との間の前後方向の間隔Aが支持点9から離れる方向、即ち上方に向かって増加するように形成される。
【0024】
また両ケース半体17A、17Bの合わせ面の一方と他方には、ダンパ室17Cを囲んで互いに嵌合し得る嵌合溝20と嵌合突壁21とがそれぞれ形成され、また嵌合突壁21の先端部には、外側方へ突出する複数の弾性連結爪22、22…が形成され、これら弾性連結爪22、22…が弾性的にスナップ係合し得る複数の連結孔23、23…が嵌合溝20の底部に形成される。而して、複数組の弾性連結爪22、22…及び連結孔23、23…は、重錘15を挟んで対向する第1及び第2ケース半体17A、17Bの左右側壁に配設され、また第1及び第2ケース半体17A、17Bの上側壁にも配設される。
【0025】
連結孔23、23…を有する側のケース半体、図示例では第1ケース半体17Aの外側面には、連結孔23、23…に係合した弾性連結爪22、22…の爪部を受容する複数の凹部23a、23a…が、第1ケース半体17Aを左右両側及び上方からそれぞれ内向きに凹ませて形成される。したがって、弾性連結爪22、22…がダンパケース17の本体部の外面からの突起物とはならず、ダイナミックダンパDの取り扱いが容易となる。
【0026】
第2ケース半体17Bの左右両側壁に、ヘッドレストフレーム12の左右2箇所への取り付け部として、第1及び第2弾性支持部24A、24Bが一体に形成され、これら第1,第2弾性支持部24A,24Bにより、ダンパケース17の本体部の左右方向の外端である第1,第2ケース半体17A,17Bの左右両側壁が、ヘッドレストフレーム12の前縦骨部材12c、12cの間に位置せしめられる。これら第1及び第2弾性支持部24A、24Bは、それぞれ第2ケース半体17Bの左右両側壁から外方へ突出する板状のアーム25a、25bと、このアーム25a、25bの先端に連設されて前記前縦骨部材12c、12cに、それを把持するようにスナップ係合し得る優弧状の把持爪26a、26bとで構成される。即ち、優弧状の把持爪26a、26bは、前縦骨部材12c、12cを、それぞれの半周を超えて弾性的に把持することができる。この優弧状の把持爪26a、26bは、前縦骨部材12c、12cのそれぞれ前後方向前側の部分に前方から係合するように、各開口部27a、27bを後方へ向けている。したがって、乗員の頭部からの後向き荷重は、第1及び第2弾性支持部24A、24Bの把持爪26a、26bを前縦骨部材12c、12cに係合させる方向に作用することになり、把持爪26a、26bの離脱を防ぐことができる。またアーム25a、25bの長さの選定により、両把持爪26a、26bの中心間距離を、両前縦骨部材12c、12cの中心間距離に一致させ、把持爪26a、26bの前縦骨部材12c、12cへの係合を的確に行わせることができる。
【0027】
優弧状の把持爪26a、26bは、それらの内径D1、D2が互いに異なるように形成される。図示例では、第2弾性支持部24Bの把持爪26bの内径D2は、第1弾性支持部24Aの把持爪26aの内径D1より大きく設定される。また優弧状の把持爪26a、26bは、それらの剛性が互いに異なるように形成される。図示例では、第1弾性支持部24Aの把持爪26aの剛性を、第2弾性支持部24Bの把持爪26bより低くするように、第1弾性支持部24Aの把持爪26aの先端部に切欠き28が設けられ、或いは把持爪26aの肉厚が把持爪26bより薄く設定される。また上記第1及び第2弾性支持部24A、24Bは、前記重錘15の重心Gを挟むように配置される。
【0028】
また各把持爪26a、26bには窓孔29が設けられ、この窓孔29から、各把持爪26a、26bと前縦骨部材12c、12cとの係合状態を目視で確認し得るようになっている。
【0029】
一方、第1ケース半体17Aの下側壁には、ヘッドレストフレーム12への第3の取り付け部としての位置決め支持部30が一体に形成される。この位置決め支持部30は、第1ケース半体17Aの下側壁から下方へ突出する板状のアーム30aと、このアーム30aの下端に連設されて前記前横骨部材12dに当接係合し得るU字状の当接爪30bとで構成され、この当接爪30bが、前横骨部材12dに後方から当接係合することで、前記把持爪26a、26bと左右の前縦骨部材12c、12cとの係合位置が規定される。位置決め支持部30は上下方向において重錘15と重なる位置で前記前横骨部材12dに取り付けられており、こうしてヘッドレストフレーム12上でのダンパケース17の取り付け位置が決定される。
【0030】
第1、第2弾性支持部24B及び位置決め支持部30のアーム25a、25bの根元には、その根元の剛性を強化する増肉部31が形成され、さらに、第1、第2弾性支持部24A、24Bのアーム25a、25bに当接してそれらの前方への撓み、即ち把持爪26a、26bの開口部27a、27bと反対側へアーム25a、25bの撓みを規制する一対のストッパ32、32が第1ケース半体17Aの左右両側壁に形成される。各ストッパ32は、対応する把持爪26a、26bの背面に直線的に当接する中央壁部32aと、この中央壁部32aの両側端に連なっていて対応するアーム25a、25bから把持爪26a、26bの背面にわたる湾曲面に当接する一対の側壁部32b、32bとで、断面コ字状に構成される。このような構成のストッパ32は、剛性が高い上、対応するアーム25a、25bから把持爪26a、26bにわたる背面との当接面積を広く確保し得るので、集中応力を極力回避しつゝ、アーム25a、25bの撓みを効果的に規制することができる。したがって、乗員の頭部からダンパケース17に大きな後向きの荷重が作用しても、ストッパ32、32がアーム25a、25bの前面に当接して、アーム25a、25bの前方への撓みを規制することになり、ダンパケース17の無用な後方移動を規制することができる。
【0031】
また上記ストッパ32は、前記嵌合溝20の外側壁に一体に連結されるので、嵌合溝20の外側壁の剛性強化に寄与することにもなる。
【0032】
また位置決め支持部30のアーム部30aには、第1ケース半体17Aの下側壁と当接爪30bとの間を連結する複数条の補強リブ33が形成される。
【0033】
次に、上記ダイナミックダンパDの、ヘッドレスト4への埋設方法について図8により説明する。
【0034】
機台35の下面には、ヘッドレストフレーム12を除くヘッドレスト4の外形に対応するキャビティ36を形成する、上下開閉可能な成形型37a、37bが取り付けられており、そのキャビティ36の内面には、予めヘッドレスト4の表皮14を張設しておく。
【0035】
表皮14には、その上面に開口する発泡性合成樹脂流し込み口38が設けられており、成形台35の上面に固定される支持板39には、発泡材流し込み口38に挿入されるノズルガイド筒40が設けられる。また支持板39には、ノズルガイド筒40にノズル41を挿入させる発泡材供給装置40を取り付ける。さらに支持板39上に設けられるブラケット43には、ノズルガイド筒40内に配置されるヘッドレストフレーム12の主骨部材12a、12aを支持させる。而して、表皮14内において、ヘッドレストフレーム12の前縦骨部材12c、12cに支持されるダイナミックダンパDは、発泡材流し込み口38の一側方へオフセットして配置されることになる。
【0036】
而して、発泡材供給装置40からノズル41を通してウレタン等の発泡材44をキャビティ36内面に密着した袋状の表皮14内に注入し、それを発泡させることにより、表皮14内に、ヘッドレストフレーム12及びダイナミックダンパDを包むクッション部材13を形成することができる。その際、前縦骨部材12c、12cに支持されるダイナミックダンパDは、発泡材流し込み口38の一側方にオフセットして配置されることで、発泡材流し込み口38への発泡材44の流し込み圧力がダイナミックダンパDに直接作用することはなく、したがってその流し込み圧力によるダイナミックダンパDの弾性支持部24A、24Bの前縦骨部材12c、12cからの離脱の心配はない。また第1及び第2ケース半体17A、17Bは、その結合に際して、それらの合わせ面の嵌合溝20及び嵌合突壁21を互いに嵌合させているので、発泡材44が両ケース半体17A、17Bの接合面から浸入することをラビリンス効果により確実に阻止することができ、ダイナミックダンパDの適正な制振機能を維持することができる。
【0037】
こうして製造されたヘッドレスト4は、成形型37a、37bを上下に開くことにより、型外に取り出すことができる。
【0038】
この第1実施形態の作用について説明する。
【0039】
ダイナミックダンパDの組み立てに当たっては、前述のように弾性シート16で包んだ重錘15をダンパケース17の第1ケース半体17A又は第2ケース半体17Bに嵌め込んでから、両ケース半体17A、17Bの開口部を合わせて、一方の開口部の嵌合溝20に他方の開口部の嵌合突壁21を深く嵌入すると、弾性連結爪22、22…と係止孔23、23…との係合により、両ケース半体17A、17Bをねじ類を用いることなく、簡単に結合することができ、同時に重錘15を、その全方向において弾性シート16を介してダンパケース17に支持させることができる。
【0040】
また第1及び第2ケース半体17A、17Bの結合後も、弾性連結爪22、22…を弾性変形させることにより、それを連結孔23、23…から離脱させて、両ケース半体17A、17Bの分離してダンパ室17Cを開放することも行うことができる。したがって、ダンパ室17Cから重錘15及び弾性シート16を取り出し、それらと異なる特性のものと交換することで、ダイナミックダンパDの制振特性の調整及び変更を容易に行うことができる。
【0041】
こうして組み立てたダイナミックダンパDをヘッドレストフレーム12に取り付けるに当たっては、先ず、第1及び第2弾性支持部24A、24Bの把持爪26a、26bをヘッドレストフレーム12の左右の前縦骨部材12c、12cに対して前方から押圧すると、左右の把持爪26a、26bは、左右の前縦骨部材12c、12cにスナップ係合して前縦骨部材12c、12cを把持することができる。したがって、ねじ類やバンド等の特別は取り付け器具を使用せずに用いることなく、ダンパケース17をヘッドレストフレーム12に簡単、容易に取り付けることができ、しかも把持爪26a、26bのスナップ係合のために、左右の前縦骨部材12c、12cに特別な加工を施す必要もない。
【0042】
その際、第1弾性支持部24Aの把持爪26aの内径D1よりも、第2弾性支持部24Bの把持爪26bの内径D2が大きく設定され、把持爪26a、26bは、その剛性が互いに異なっているので、左右の前縦骨部材12c、12cの中心間距離と、左右の把持爪26a、26bの中心間距離との製作誤差を、左右の把持爪26a、26bの比較的少ない弾性変形により吸収することができ、したがって前記製作誤差にも拘らず、両把持爪26a、26bを両前縦骨部材12c、12cに容易、確実に取り付けることができる。
【0043】
自動車の走行中、自動車の床Fからシートクッション2及び枢軸9を経てシートバック3及びヘッドレスト4に振動が伝達したとき、ダイナミックダンパDにおいて重錘22が弾性シート16の弾性変形を伴って共振して、シートバック3及びヘッドレスト4の振動エネルギを代替吸収することになり、シートバック3及びヘッドレスト4を制振することができる。
【0044】
しかもダイナミックダンパDは、互いに分離可能に結合される第1及び第2ケース半体17A、17Bよりなるダンパケース17の本体部に、弾性シート16で包んだ重錘15を収容して構成され、第2ケース半体17Bに、この第2ケース半体17Bの位置と反対方向、即ち前方から前縦骨部材12c、12cに係合する前記第1及び第2弾性支持部24A、24Bが形成され、第1ケース半体17Aに、この第1ケース半体17Aの位置と反対方向、即ち後方から前横骨部材12dに当接する位置決め支持部30が形成されるので、重錘15が前後方向に激しく振動し、後向きの振動衝撃力が第2ケース半体17Bに作用すると、その振動衝撃力は、第2ケース半体17Bから延びる第1及び第2弾性支持部24A、24Bを介して左右の前縦骨部材12c、12cによって支承される。また前向きの振動衝撃力が第1ケース半体17Aに作用すると、その振動衝撃力は、第1ケース半体17Aから延びる位置決め支持部30を介して前横骨部材12dによって支承される。したがって、前後何れの方向の振動衝撃力も、第1及び第2ケース半体17A、17Bを分離する方向には作用しないので、重錘15の振動衝撃力によるダンパケース17の分解を阻止することができる。また重錘15の振動は、ダンパケース17によってクッション部材13への伝達が抑えられので、乗員に違和感を与えない。
【0045】
また上記第1及び第2弾性支持部24A、24Bは、重錘15の重心Gを挟むように配置されるので、重錘15の振動衝撃力を第2ケース半体17Bを介して安定良く支承することができる。また第1及び第2ケース半体17A、17Bに形成される複数組の弾性連結爪22、22…及び連結孔23、23…は、重錘15を挟む位置に配置されるので、重錘15の振動衝撃力を互いに係合状態の複数の複数組の弾性連結爪22、22…及び連結孔23、23…に有効に支承させ、第1及び第2ケース半体17A、17Bの変形を効果的に防ぐことができる。
【0046】
また重錘15は、その重心Gが、重錘15の中心Cより上方に来るように形成されるので、重錘22の重心Gは、シートクッション2及びヘッドレスト4よりなる振動系の支持点より極力離れた位置を占めることになり、したがって比較的小質量の重錘22をもってダイナミックダンパDの制振機能を付与することができる。しかも重錘15の側面と、この側面に弾性シート16を挟んで対向するダンパ室17Cの内側面との間隔Aを、シートバック3及びヘッドレスト4よりなる一つの振動系の支持点9から離れる方向に向かって増加させてあるので、重錘15の振幅が支持点9から離れるに応じて増加することになり、制振効果を合理的に高めることができる。
【0047】
またダンパケース17の本体部は、重錘15の外形に対応して前後方向に偏平な箱型をなし、その前壁17fは、重錘15の前面15fに対応して平面に近い湾曲面に形成され、後壁17rは、重錘15の後面15rに対応して後方に凸側を向けて前壁17fより大きく湾曲した湾曲面に形成されるので、乗員の頭部がクッション部材13を介してダンパケース17の前壁17fに強く押しつけられるときでも、ダンパケース17の前壁17fの比較的広い面積で乗員の頭部を支承することになり、乗員に違和感を与えない。しかも前壁17f及び後壁17rの湾曲形状は、ダンパケース17の剛性強化に寄与する。さらに大きく湾曲した重錘15の後面及びダンパケース17の後壁17rは、ヘッドレスト4内のスペースを有効に利用して重錘15の肉厚増を許容し、ダイナミックダンパDの制振機能の向上に寄与し得る。
【0048】
次に、図9に示す本発明の第2実施形態について説明する。
【0049】
この第2実施形態では、ヘッドレストフレーム12に支持される三個以上の弾性支持部24A~24Cが重錘15の重心Gを囲む多角形34の頂点に位置するようにダンパケース17に形成されるもので、具体的には、ダンパケース17に、三個の第1~第3弾性支持部24A~24Cが逆三角形34の三頂点に配置されるように形成され、その逆三角形34の領域に重錘15の重心Gが位置するように重錘15が形成される。第3弾性支持部24Cは、基本的には第1及び第2弾性支持部24A、24Bと同様に、アーム25cと優弧状の把持爪26cとで構成される。なお、ヘッドレストフレーム12は、ダンパケース17の上面を避けて配置されている。
【0050】
第1及び第2弾性支持部24A、24Bは、前実施形態と同様に、第2ケース半体17Bに形成されていて、ヘッドレストフレーム12の左右の前縦骨部材12c、12cに前方からスナップ係合するようになっており、第3弾性支持部24Cは、第1ケース半体17Aに形成されていて、前横骨部材12dに後方からスナップ係合するようになっている。
【0051】
その他の構成は、前実施形態と同様であるので、図9中、前実施形態と対応する部分には同一の参照符号を付して、重複する説明を省略する。なお、第3弾性支持部24Cは上下方向において重錘15と重なる位置で前記前横骨部材12dに取り付けられて、ダンパケースの第3の取り付け部を構成する。
【0052】
この第2実施形態によれば、ヘッドレストフレーム12に支持される三個以上の弾性支持部24A~24Cが重錘15の重心Gを囲む多角形34の頂点に位置するようにダンパケース17に形成されることで、重錘15の振動衝撃力をダンパケース17を介して全部の弾性支持部24A~24Cに略均等に分散させて、ダンパケース17の振動を効果的に小さく抑え、乗り心地の向上に寄与し得る。
【0053】
次に、図10に示す本発明の第1参考形態について説明する。
【0054】
この第1参考形態では、前記第1実施形態中のダイナミックダンパDがヘッドレストフレーム12の左右の上骨部材12b、12bに取り付けられる。即ち、ダンパケース17の第1及び第2弾性支持部24A、24Bは、左右の上骨部材12b、12bに上方からスナップ係合され、位置決め支持部30は、左右の上骨部材12b、12bの後端部間を連結するクロスメンバ46に下方から当接係合されて、ダンパケース17の上面には、ヘッドレストフレーム12が配置されない。その他の構成は、前記第1実施形態と同様であるので、図10中、第1実施形態と対応する部分には同一の参照符号を付して、重複する説明を省略する。
【0055】
この第1参考形態によれば、左右の上骨部材12b、12b間のスペースをダイナミックダンパDの設置に有効利用することで、ヘッドレスト4のクッション部材13において、乗員の頭部が当接する前部の肉厚を充分に確保すると共に、シートクッション2及びヘッドレスト4よりなる振動系の支持点から重錘22の重心Gまでの距離を充分に得て、ダイナミックダンパDの制振機能を高めることができる。
【0056】
次に、図11に示す本発明の第参考形態について説明する。
【0057】
この第参考形態では、シートバック3において、そのシートバックフレーム10の上部の左右の角部の内隅に、正面視で略直角三角形状のダンパケース17を備えたダイナミックダンパDを配置し、そのダンパケース17の上面及び一側面に形成される一対の弾性支持部24A、24Bがシートバックフレーム10の縦骨部材10a及び横骨部材10bにそれぞれスナップ係合される。ダイナミックダンパDの構造は、ダンパケース17及びそれに収容される重錘15の形状が第1実施形態のものと異なるのみで、基本的には同一である。
【0058】
この第参考形態によれば、シートバックフレーム10の最上部に配置されるダイナミックダンパDの作用により、シートバック3の制振を効果的に行うことができる。しかもシートバックフレーム10の上部角部の内隅のデッドスペースをダイナミックダンパDの設置に有効利用することができる。尚、上記ダイナミックダンパDは、シートバックフレーム10の上部の左右何れか一方の角部の内隅のみに配設することもある。
【0059】
次に、図12に示す本発明の第参考形態について説明する。
【0060】
この第参考形態では、シートバックフレーム10の左右の縦骨部材10a、10aの上部間を一体に連結する波状骨部材49の中央部で互いに反対方向へ傾斜した一対の傾斜骨部49a、49aに、ダンパケース17の左右両側面に形成される一対の弾性支持部24A、24Bがそれぞれスナップ係合される。その際、一対の弾性支持部24A、24Bは、一対の傾斜骨部49a、49aに対応して斜めに配置され、これにより一対の弾性支持部24A、24Bは、一対の傾斜骨部49a、49aでの上下動が阻止される。ダイナミックダンパDの基本構造は、第1実施形態のものと同じである。こうしてシートバックフレーム10の上部且つ中央部に取り付けられる一個のダイナミックダンパDの作用により、シートバック3の制振を効果的に行うことができる。
【0061】
最後に、図13に示す本発明の第参考形態について説明する。
【0062】
この第参考形態では、シートクッション2の制振のために、シートクッションフレーム6の前部に溶接されて左右方向に延びる前部補強板6aにダイナミックダンパDのダンパケース17が取り付けられる。この場合のダンパケース17には、その上面に一対の弾性支持部50、50が形成される。各弾性支持部50は、ダンパケース17の外側面から突出する軸部50aと、この軸部50aの先端に形成される矢尻状の係止突起50bとで構成され、係止突起50bの弾性的な縮径を可能にすべく、係止突起50bの先端から軸部50aに亙りスリット50cが設けられる。また軸部50aには、ゴム製の弾性カラー52が嵌装される。一方、前部補強板6aには、上記一対の弾性支持部50、50に対応して一対の係止孔51、51が穿設され、これら係止孔51、51に弾性支持部50、50の係止突起50bを下方から押し込むことで、各係止突起50bは弾性的に縮径しないが対応する係止孔51を通過した後、原形に拡径し、即ちスナップ係合して係止孔51からの離脱が阻止される。その際、軸部50aに嵌装された弾性カラー52が前部補強板6aとダンパケース17との間で圧縮され、その反発力により、係止突起50bは前部補強板6aの前面にガタ無く保持される。上記弾性支持部50、50以外、ダンパケース17及びそれに収容される重錘15及びそれを包む弾性シート16の構造は、前記第1実施形態のものと基本的に同一である。したがって、図12中、第1実施形態と対応する部分には同一の参照符号を付して、重複する説明を省略する。
【0063】
この第参考形態によれば、シートクッションフレーム6の前端部に配置されるダイナミックダンパDの作用により、シートクッション2の制振を効果的に行うことができる。しかもシートクッションフレーム6の前端の前部補強板6a下方のデッドスペースをダイナミックダンパDの設置に有効利用することができ、さらに単純な押し込み操作により弾性支持部50、50を前部補強板6aの係止孔51、51にスナップ係合させることができ、ダンパケース17の取り付けを容易に行うことができる。
【0064】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば、第1~第実施形態に、第及び第参考形態を併用することもできる。またダンパケース17を構成する第1及び第2半体17A、17Bの一方を、開口部を有する箱状に、他方を、上記開口部を閉鎖する蓋状に形成することもできる。また本発明のシート装置は、自動車用に限らず、鉄道車両、航空機等用にも適用可能である。またシートSは、乗り物の壁面から張り出して設置することもできる。
【符号の説明】
【0065】
D・・・・・・ダイナミックダンパ
S・・・・・・シート
12・・・・・ヘッドレストフレーム(フレーム)
15・・・・・重錘
16・・・・・弾性部材(弾性シート)
17・・・・・ダンパケース
17A・・・・第1ケース半体
17B・・・・第2ケース半体
24A、24B、24C・・・取り付け部(弾性支持部)
30・・・・・取り付け部(位置決め支持部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13