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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/095 20120101AFI20220111BHJP
   B60W 40/04 20060101ALI20220111BHJP
   B60W 40/105 20120101ALI20220111BHJP
   G08G 1/09 20060101ALI20220111BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
B60W30/095
B60W40/04
B60W40/105
G08G1/09 H
G08G1/16 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018030454
(22)【出願日】2018-02-23
(65)【公開番号】P2019142428
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-12-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080768
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100106644
【弁理士】
【氏名又は名称】戸塚 清貴
(72)【発明者】
【氏名】大村 博志
(72)【発明者】
【氏名】立畑 哲也
(72)【発明者】
【氏名】西條 友馬
(72)【発明者】
【氏名】粟根 梨絵
(72)【発明者】
【氏名】片山 翔太
【審査官】佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/024318(WO,A1)
【文献】特開2016-189074(JP,A)
【文献】特開2017-094922(JP,A)
【文献】特開2007-140938(JP,A)
【文献】特開2013-199963(JP,A)
【文献】国際公開第2012/114478(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の周辺に対象車両を検知する対象車両検知手段と、
前記対象車両の周辺領域の各地点に対して規定される前記自車両と前記対象車両の相対速度の複数の上限値の分布である速度上限値分布を設定する速度上限値分布設定手段と、
前記自車両と前記対象車両の相対速度が前記自車両の走行地点における前記速度上限値分布の上限値を上回ることがないように、前記対象車両の周辺領域を走行する前記自車両の速度又は/及び操舵を制御する走行制御手段と
を備えた車両用制御装置において、
前記対象車両が停止している場合に前記対象車両の発進可能性を推定する発進可能性推定手段と、
前記発進可能性推定手段により推定された前記対象車両の発進可能性が低い場合には、そうでないときに比べて前記速度上限値分布の各地点における前記自車両と前記対象車両の相対速度の上限値が大きくなるように前記速度上限値分布の前記複数の上限値の分布を変更する速度上限値分布変更手段と
を備えた車両用制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用制御装置において、
前記対象車両との通信手段を備え、
前記発進可能性推定手段は、前記通信手段により取得された情報に基づいて前記対象車両の発進可能性を推定する車両用制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両用制御装置において、
前記発進可能性推定手段は、前記対象車両のレンジ位置がPレンジであるときには、前記対象車両の発進可能性を低く推定する車両用制御装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の車両用制御装置において、
前記発進可能性推定手段は、前記対象車両のレンジ位置がPレンジであり、且つ前記対象車両のブレーキが踏まれているときには前記対象車両の発進可能性を高く推定する車両用制御装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車両用制御装置において、
前記発進可能性推定手段は、前記対象車両のウィンカー操作がなされているときには、前記対象車両のレンジ位置に関わらず、前記対象車両の発進可能性を高く推定する車両用制御装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の車両用制御装置において、
前記発進可能性推定手段は、前記対象車両のドライバが不在であるときには、前記対象車両の発進可能性を低く推定する車両用制御装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の車両用制御装置において、
前記発進可能性推定手段は、前記対象車両のハザードランプが点滅しているときには、前記対象車両の発進可能性を低く推定する車両用制御装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の車両用制御装置において、
前記発進可能性推定手段は、前記対象車両のドアが開いているときには、前記対象車両の発進可能性を低く推定する車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行を支援する車両用制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等の車両においては、自車両と他車両の衝突が適切に回避されるように車両の走行を支援する車両用制御装置が用いられて来ている。例えば、特許文献1(特開2006-218935号公報)には、自車と対象物との間に安全距離が確保されるように走行支援を行う車両用走行支援装置において、対象物の向きに応じて安全距離を設定するようにした発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-218935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、車両用制御装置においては、自車両と対象車両の間には、衝突を回避するための車両間隔が確保されるような運転支援がなされ、車両走行の安全性が確保される。しかしながら、車両の好適な走行のためには、自車両と対象車両の車両間隔は、ただ単に安全性が確保されるだけではなく、快適な走行を行えるような適切な間隔(運転者の通常の運転間隔に沿った安全/安心を感じる間隔)へと制御される必要がある。さらに、このような車両間隔の制御は、対象車両の状態(例えば、対象車両が走行中であるか停止しているか)に応じて、きめ細やかに実行される必要がある。
【0005】
本発明は、以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、停止車両に対する追い抜き又は追い越しを行う際に、安全かつ快適な走行を可能とする車両用制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明にあっては、次のような解決方法を採択している。すなわち、請求項1に記載のように、
自車両の周辺に対象車両を検知する対象車両検知手段と、
前記対象車両の周辺領域の各地点に対して規定される前記自車両と前記対象車両の相対速度の複数の上限値の分布である速度上限値分布を設定する速度上限値分布設定手段と、
前記自車両と前記対象車両の相対速度が前記自車両の走行地点における前記速度上限値分布の上限値を上回ることがないように、前記対象車両の周辺領域を走行する前記自車両の速度又は/及び操舵を制御する走行制御手段と
を備えた車両用制御装置において、
前記対象車両が停止している場合に前記対象車両の発進可能性を推定する発進可能性推定手段と、
前記発進可能性推定手段により推定された前記対象車両の発進可能性が低い場合には、そうでないときに比べて前記速度上限値分布の各地点における前記自車両と前記対象車両の相対速度の上限値が大きくなるように前記速度上限値分布の前記複数の上限値の分布を変更する速度上限値分布変更手段と
を備えている。
【0007】
上記解決手法によれば、対象車両(停止車両)の発進可能性が高いと推定される場合には、対象車両の周辺を走行する際に、発進してきた対象車両との衝突(接触)の危険度が大きいので、許容される相対速度の上限値は小さく設定され、自車両は低速で対象車両の周辺を通り抜ける(追い越し又は追い抜きをする)ことになり、走行の安全性が適切に確保される。一方、対象車両の発進可能性が低いと推定される場合には、対象車両との衝突の危険度が小さいので、相対速度の上限値は大きく設定され、自車両は比較的高速で対象車両の周辺を通り抜けることが可能となり、運転の快適性が高められる。したがって、対象車両の発進可能性の推定に基づいて、運転における安全性と快適性がバランスよく高められ、好適な走行制御を行うことができる。
【0008】
上記解決手法を前提とした好ましい態様は、特許請求の範囲における請求項2以下に記載の通りである。すなわち、前記対象車両との通信手段を備え、前記発進可能性推定手段は、前記通信手段により取得された情報に基づいて前記対象車両の発進可能性を推定する
(請求項2対応)。この場合、対象車両との通信手段(車車間通信)を通じて、対象車両の正確な情報を取得できるので、対象車両の発進可能性を適切に推定できる。
【0009】
前記発進可能性推定手段は、前記対象車両のレンジ位置がPレンジであるときには、前記対象車両の発進可能性を低く推定する(請求項3対応)。この場合、対象車両のレンジ位置によって、発進可能性を適切に推定できる。
【0010】
前記発進可能性推定手段は、前記対象車両のレンジ位置がPレンジであり、且つ前記対象車両のブレーキが踏まれているときには前記対象車両の発進可能性を高く推定する(請求項4対応)。この場合、対象車両のドライバが、レンジ位置をPレンジとしたままで、ブレーキを踏んで発進準備している場合に、高い発進可能性を適切に推定できる。
【0011】
前記発進可能性推定手段は、前記対象車両のウィンカー操作がなされているときには、前記対象車両のレンジ位置に関わらず、前記対象車両の発進可能性を高く推定する(請求項5対応)。この場合、対象車両のドライバが、レンジ位置をPレンジとしたままで、ウィンカー操作をして発進をしようとしているとき、高い発進可能性を適切に推定できる。
【0012】
前記発進可能性推定手段は、前記対象車両のドライバが不在であるときには、前記対象車両の発進可能性を低く推定する(請求項6対応)。この場合、ドライバが不在であって、対象車両を発進させることができない場合に、発進可能性が低いことを適切に推定できる。
【0013】
前記発進可能性推定手段は、前記対象車両のハザードランプが点滅しているときには、前記対象車両の発進可能性を低く推定する(請求項7対応)。この場合、ハザードランプを点滅させることにより停車の意思を示している対象車両に対して、低い発進可能性を適切に推定できる。
【0014】
前記発進可能性推定手段は、前記対象車両のドアが開いているときには、前記対象車両の発進可能性を低く推定する(請求項8対応)。この場合、対象車両のドアが開いており、直ちに発信する可能性が小さい場合に、低い発進可能性を適切に推定できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、停止車両の周辺を走行する場合に、停止車両の発進可能性にしたがって、自車両と対象車両の相対速度の許容上限値が適切に調整されるので、運転における安全性と快適性をバランスよく高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の制御系の一例を示すブロック構成図。
図2】本発明の実施形態における車両制御を説明するための説明図。
図3】自車両と対象物間の横方向間隔と相対速度の許容上限値の関係の一例を示すグラフ。
図4】停止車両の発進可能性に応じた速度上限値分布の変更例を示す図。
図5】自車両と停止車両間の横方向間隔と相対速度の許容上限値の関係の一例を示すグラフ。
図6】本発明の車両制御の一例の制御手順を示すフローチャート。
図7】速度上限値分布設定処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面に基づいて本発明の実施形態について説明する。
【0018】
図1には、本発明の制御系(車両制御システム)の一例をブロック構成図で示す。図示されるように、制御系は、自車両1(図2参照)に搭載されるもので、ECU10と、複数の情報提供手段(センサ)と、複数の制御システムとを備えている。情報提供手段には、例えば、車載カメラ21、ミリ波レーダ22、車速センサ23、測位システム24、ナビゲーションシステム25、車車間通信ユニット26が含まれる。また、制御システムには、エンジン制御システム31、ブレーキ制御システム32、ステアリング制御システム33が含まれる。
【0019】
ECU10は、CPU、各種プログラムを記憶するメモリ、入出力装置等を備えたコンピュータにより構成され、上記各センサから受け取った信号に基づき、上記各制御システムに対して制御信号を出力可能となっている。
【0020】
車載カメラ21は、車両1の周囲を撮像し、撮像した画像データを出力する。ECU10は、画像データに基づいて対象物(例えば、自車両1の前方に存在する車両)を特定する。ミリ波レーダ22は、対象物の位置及び速度を測定する測定装置であり、自車両1の前方へ向けて電波(送信波)を送信し、対象物により送信波が反射された反射波(受信波)を受信することにより、送信波と受信波に基づいて、自車両1と対象物との間の距離(例えば、車間距離)や、自車両1に対する対象物の相対速度を測定する。なお、対象物の位置及び速度を測定する測定装置としては、ミリ波レーダ22に代えて、レーザレーダや超音波センサ等、任意の測定装置を用いることができる。
【0021】
車速センサ23は、自車両1の絶対速度を検出するセンサである。測位システム24は、自車両1の位置を算出する手段であり、例えばGPSシステムやジャイロシステムから構成される。ナビゲーションシステム25は、ECU10に地図情報を提供する手段である。
【0022】
車車間通信ユニット26は、自車両1と他の車両間での各種情報交換のための通信手段であり、無線通信のための通信機等から構成される。詳しくは後述するように、本発明においては、対象物である停止車両の発進可能性を推定するのに際して、停止車両についての情報を取得するために用いられる。
【0023】
エンジン制御システム31は、自車両1のブレーキ装置を制御するためのコントローラである。ECU10は、自車両1を加速又は減速させる必要がある場合に、エンジン制御システム31に対して、エンジン出力の変更を要求する信号を出力する。
【0024】
ブレーキ制御システム32は、自車両1のブレーキ装置を制御するためのコントローラである。ECU10は、自車両1を減速させる必要がある場合に、ブレーキ制御システム32に対して、自車両1への制動力の発生を要求する信号を出力する。
【0025】
ステアリング制御システム33は、自車両1のステアリング装置を制御するコントローラである。ECU10は、自車両1の進行方向を変更するする必要がある場合に、ステアリング制御システム33に対して、操舵方向の変更を要求する信号を出力する。
【0026】
図2は、本実施形態の車両制御を説明するために、制御が行なわれる一場面を例示する図である。図示されるように、本発明の車両用制御装置を備えた自車両1は、走行路2上を走行しており、自車両1の前方(進行方向)に存在する対象物3を追い抜こうとしている。なお、本例において、対象物3は、走行路2の道路脇に駐車された停止車両であるが、対象物3は停止車両3に限られず、例えば、走行中の他車両も対象物3となり得る。
【0027】
車両用制御装置は、対象物3の周囲の所定領域に、速度上限値分布40を設定する。速度上限値分布40は、自車両1と対象物3間の相対速度の許容される上限値を規定する2次元分布であり、速度上限値分布40の各地点には、許容される相対速度の上限値Vlimが設定されている。図2においては、理解の便宜のため、速度上限値分布40を、同一の上限値Vlimが設定された地点を結んだ等高線a、b、c、dで示している。なお、本例において、等高線dは、速度上限値分布40が設定される領域の外縁を示している。
【0028】
車両用制御装置は、自車両1が対象物3の周囲(速度上限値分布40内)を走行する際に、自車両1と対象物3の相対速度Vが、自車両1の走行地点における速度上限値Vlimを上回ることがないように、自車両1の速度及び/又は操舵(走行ルート)を制御する。図2には、自車両1の走行ルート例として、自車両1の直進走行を維持して速度Vを速度上限値Vlim以下に制限する走行ルートR1と、自車両1の速度が制限されないように速度上限値分布40の外側を迂回する走行ルートR2と、走行ルートR1と走行ルートR2の中間となる走行ルートR3(ある程度速度を制限しつつ、対象物3を迂回するルート)が、それぞれ破線で示されている。
【0029】
速度上限値分布40は、対象物3からの横方向距離及び縦方向距離が小さくなるほど(対象物に近づくほど)、速度上限値Vlimが小さくなるように設定される。図2においては、等高線a、b、c、dの順で、速度上限値Vlimが大きくなる。これにより、自車両1が対象物3とすれ違う(停止車両を追い抜く)際に、自車両1と対象物3との横方向間隔Dが小さくなるほど自車両1の速度が制限され、走行の安全性が確保されるようになっている。これは、自車両1のドライバにとっては、通常の運転間隔に合致した速度での走行を実現するものでもある。
【0030】
なお、速度上限値分布40は、必ずしも対象物3の全周にわたって設定されなくてもよく、例えば、対象物3の自車両1の存在する側(図の右側)にのみ設けるようにしてもよい。また、速度上限値分布40を走行路2上のみに設定するようにしてもよい。
【0031】
走行の制御は、車両用制御装置による自動運転で実行されるようにしてもよいし、自車両1のドライバによる運転操作(アクセル、ブレーキ、操舵の操作)を許容しつつ、車両用制御装置による運転のアシストがなされるようにしてもよい。
【0032】
ドライバによる運転操作が行われない場合(自動運転の場合)、車両制御装置は、予め設定されたモードにしたがって自車両1の車速及び/又は操舵を制御する。モードは、例えば、(A)直線優先モード、(B)中間モード、(C)速度優先モードの3種類のモードから選択される。
【0033】
直線優先モードにおいては、自車両1の直進走行維持を優先するする制御がなされ、自車両1は、走行ルートR1に沿って走行する。速度優先モードにおいては、自車両1の車速維持を優先する制御がなされ、自車両1は、例えば走行ルートR2に沿って走行する。中間モードにおいては、自車両1の直進走行維持と車速維持のバランスをとった制御(例えば車速変化と操舵のいずれをも必要最小限とする制御)がなされ、自車両1は、例えば走行ルートR3に沿って走行することになる。
【0034】
図3は、速度上限値Vlimの設定例を示すグラフ(マップ)である。グラフには、自車両1が対象物3の側方に並んだ際における自車両1と対象物3の横方向間隔D(自車両1と停止車両4の対向する側部間の距離)と速度上限値Vlimの関係が示されている。
【0035】
図示されるように、横方向間隔D(m)が安全距離D0(m)未満であるときには、速度上限値Vlim(km/h)は、0(km/h)に設定される(図2における等高線aの内側の領域内に自車両1が侵入した場合に相当する)。つまり、横方向間隔Dが安全距離D0以下の領域においては、自車両1の走行は禁止される。なお、安全距離D0は、例えば0.2mに設定される。
【0036】
一方、横方向間隔Dが安全距離D0以上であるときには、速度上限値Vlimは、以下の式(1)に示すように、横方向間隔Dが増加するのにしたがって2次関数の関係で増加するように設定される。
lim=k(D-D02 …(1)
これにより、対象物3からの横方向間隔Dが大きくなるほど、自車両1の速度制限が緩やかとなるようになっている。ここで、kはゲイン係数であり、通常は基準値(例えば、k=20)に設定されている。
【0037】
次に、図4及び図5を用いて、本発明の特徴となる制御、すなわち対象物3が停止車両4である場合における制御(自車両1が停止車両4を追い越し又は追い抜きする際の制御)について説明する。この制御は、各種センサ(例えば、車載カメラ21、ミリ波レーダ22)からの検出情報に基づいて、自車両1の前方に停止車両4が検知されたときに開始される。
【0038】
停止車両4が検知されたならば、車両用制御装置(ECU10)は、停止車両4に関する情報を取得し、停止車両4の発進可能性(停止状態から発進する確率)を推定する。この場合、停止車両4に関する情報は、車車間通信ユニット26による通信によって停止車両4から直接的に取得してもよいし、車載カメラ21等による停止車両4の観察に基づいて間接的に取得してもよい。
【0039】
停止車両4の発進可能性の推定は、例えば、以下のようになされる。
【0040】
まず、停止車両4のドライバが不在か否かの情報に基づいて、ドライバが不在であるときには、ドライバによる運転操作がなされないことから、発進可能性は低く推定される。
【0041】
また、停止車両4のハザードランプが点滅しているか否かの情報に基づいて、ハザードランプが点滅している場合には、ドライバが発進しない意思を表示していると考えられることから、発進可能性は低く推定される。
【0042】
また、停止車両4のドアが開いているか否かの情報に基づいて、ドアが開いているときには、ドアが開いた状態でドライバが発進操作を行う可能性は小さいと考えられるから、発進可能性は低く推定される。
【0043】
また、車車間通信ユニット26を用いて取得された停止車両4のレンジ位置に関する情報に基づいて、停止車両4のレンジ位置がPレンジでない場合(例えばDレンジにある場合)には、直ちに発進操作がなされる可能性があるため、発進可能性は高く推定される。
【0044】
また、停止車両Sのレンジ位置がPレンジにあったとしても、停止車両のウィンカー操作がなされているとき(ウィンカーが点滅しているとき)には、ドライバに発進意思があると考えられることから、発進可能性は高く推定される。
【0045】
また、停止車両Sのレンジ位置がPレンジにあったとしても、停止車両のブレーキが踏まれているときには、ドライバが発進の準備をしていると予想されるので、発進可能性は高く推定される。
【0046】
車両用制御装置は、停止車両4の発進可能性に応じて、停止車両4の周囲に設定される速度上限値分布40を変更する。詳しく説明すると、停止車両4の発進可能性が高いと推定される場合には、停止車両4の周辺には、停止していない車両と同様の危険度を想定できるので、基準の速度上限値分布40(図4には破線で示す)が設定される。
【0047】
一方、停止車両4の発進可能性が低いと推定される場合には、停止車両4の周辺における危険度は、発進可能性が高い場合よりも小さくなると考えられる。したがって、基準となる速度上限値分布40を、分布内の同一地点における速度上限値Vlimがより大きな値である速度上限値分布41(図4には実線で示す)に変更する。
【0048】
速度上限値分布41においては、変更前の速度上限値分布40における等高線b、c、dと同一の速度上限値Vlimを示す等高線b1、c1、d1が、それぞれ等高線b、c、dよりも停止車両4に対して横方向に近い位置へ移動している。これにより、停止車両4に対して横方向間隔Dが比較的小さい地点を、自車両1が走行する場合においても、比較的高速走行が許容されるので、自車両1は、速度や走行ルートを大きく変更することなく停止車両4の側方を通り抜けることができ、快適な走行が可能となる。
【0049】
図5には、停止車両4の発進可能性に応じた速度上限値Vlimの変更例を示す。グラフ(マップ)には、図3のグラフと同様に、自車両1が停止車両4の側方に並んだ際における自車両1と対象物3の横方向間隔D(自車両1と停止車両4の対向する側部間の距離)と速度上限値Vlimの関係が示されている。
【0050】
本例においては、速度上限値Vlimの決定式として上記式(1)を用いるとともに、対象物が停止車両4である場合には、停止車両4の発進可能性に応じて、式(1)におけるゲイン係数kを変更することにより、停止車両4の周辺における速度上限値Vlimの分布を変更する。
【0051】
具体的に、停止車両4の発進可能性が低いと推定される場合には、ゲイン係数kは、発進可能性が高い場合よりも大きな値(例えば、k=20)に設定される。これにより、横方向間隔Dと速度上限値Vlimの関係は、特性曲線A2に示される様な関係となり、速度上限値Vlimは、横方向間隔Dが小さな地点においても比較的大きな値に設定される。よって、自車両1が停止車両4と比較的近接した位置を走行する場合でも、自車両1の車速の減速や走行ルートの変更を小さくできるので、走行の快適性を確保できる。
【0052】
一方、停止車両4の発進可能性が高いと推定される場合には、ゲイン係数kは、発進可能性が低い場合よりも小さな値(例えば、k=10)に設定される。これにより、横方向間隔Dと速度上限値Vlimの関係は、特性曲線A1に示される様な関係となり、速度上限値Vlimは、横方向間隔Dが大きな地点においても比較的小さな値に設定される。よって、停止車両4と近接した位置を走行する場合には、自車両1の車速は低速に制限され、走行の安全性を確保できる。なお、本例では、発進可能性が高い場合のゲイン係数kは、一般の対象物3(例えば走行中の他車両)と同様の基準値(k=20)に設定されるが、基準値と異なる値に設定することも可能である。
【0053】
また、本実施形態においては、発進可能性を高低の2段階で評価したが、本発明はこのような形態に限られず、発進可能性は、数値等を用いて複数段階で評価することもできる(例えば、ドライバが不在のときには、発進可能性を最も低い段階に評価する等)。この場合、発進可能性の高さの段階に応じて、速度上限値分布40(式(1)におけるゲイン係数k)を段階的に変更していけばよい。
【0054】
次に、図6のフローチャートにしたがって、本発明の車両制御について説明する。
【0055】
制御においては、まずステップS1において、自車両1のECU10は、複数のセンサから種々のデータを取得する。続くステップS2においては、ECU10は、各種センサから取得したデータに基づいて、対象物(対象車両)を検知する。
【0056】
ステップS3においては、検知された各対象物に対して、速度上限値分布の設定がなされる。ステップS4においては、設定された速度上限値分布に適合するように、予め設定されたモードに応じて、自車両1の走行ルート及び走行ルートの各地点における車速を算出する。ステップS5においては、ステップS4で算出された走行ルート及び車速に基づいて、車両の走行の制御(加減速制御及び/又は操舵制御)を実行する。
【0057】
図7は、対象物が車両である場合における各対象車両に対する速度上限値分布設定処理(図6のステップS3における処理)の処理手順を示すフローチャートである。速度上限値分布設定処理においては、まずステップS11において、対象車両が停車中であるか否かの判定がなされ、停車中でなければ、ステップ12に進み、対象車両に基準の(発進可能性の高い停止車両に対する)速度上限値分布を設定して(式(1)におけるゲイン係数kを10に設定して)、一巡の処理を終了する。
【0058】
ステップS11において、対象車両が停車中である(停止車両である)と判定された場合には、ステップS13に進み、対象車両のドライバが不在か否かの判定がなされる。この判定で、ドライバが不在であるときには、ステップS19に進み、対象車両に対して、変更された速度上限値分布、すなわち、発進可能性の低い停止車両に対する速度上限値分布(速度上限値Vlimが大きく設定された速度上限値分布)を設定して(式(1)におけるゲイン係数kを10に設定して)、一巡の処理を終了する。
【0059】
ステップS13において、ドライバが不在ではないと判定された場合には、ステップS14に進み、対象車両のハザードランプが点滅しているか否かの判定がなされ、ハザードランプが点滅しているときには、ステップS19に進み、変更された速度上限値分布を対象車両に設定して、一巡の処理を終了する。一方、ハザードランプが点滅してないと判定された場合には、ステップS15に進む。
【0060】
ステップS15においては、対象車両のドアが開いているか否かの判定がなされ、ドアが開いている場合には、ステップS19に進み、変更された速度上限値分布を対象車両に設定して、一巡の処理を終了する。一方、ドアが開いていないと判定された場合には、ステップS16に進む。
【0061】
ステップS16においては、対象車両のレンジ位置がPレンジであるか否かの判定がなされ、Pレンジでない場合(例えばDレンジである場合)には、停止車両の発進可能性が高いと判断して、ステップS12に進み、対象車両に対して基準の速度上限値分布を設定して、一巡の処理を終了する。一方、Pレンジであると判定された場合には、ステップS17に進む。
【0062】
ステップS17においては、対象車両のウィンカー操作がなされているか否かの判定がなされ、ウィンカー操作がされているときには、ステップS12に進み、対象車両に対して基準の速度上限値分布を設定して、一巡の処理を終了する。一方、ウィンカー操作がなされていると判定された場合には、ステップS17に進む。

ステップS17においては、対象車両のブレーキが踏まれているか否かの判定がなされ、ブレーキが踏まれているときには、ステップS12に進み、対象車両に対して基準の速度上限値分布を設定して、一巡の処理を終了する。一方、ブレーキが踏まれていないと判定された場合には、ステップS19に進み、変更された速度上限値分布を対象車両に対して設定して、一巡の処理を終了する。
【0063】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲において適宜の変更が可能である。例えば、上記実施形態における速度上限値分布の設定は一例であり、制御に求められる条件に応じて、様々な設定を採用できる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、自動車等の車両において安全且つ快適な走行を支援するための車両用制御装置として利用できる。
【符号の説明】
【0065】
1 自車両
2 走行路
3 対象物
4 停止車両
10 ECU
21 車載カメラ
22 ミリ波レーダ
23 車速センサ
24 測位システム
25 ナビゲーションシステム
26 車車間通信ユニット
31 エンジン制御システム
32 ブレーキ制御システム
33 ステアリング制御システム
40 速度上限値分布
41 変更された速度上限値分布
D 自車両と停止車両の横方向間隔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7