(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/095 20120101AFI20220111BHJP
B60W 40/04 20060101ALI20220111BHJP
B60W 40/105 20120101ALI20220111BHJP
B60W 40/076 20120101ALI20220111BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
B60W30/095
B60W40/04
B60W40/105
B60W40/076
G08G1/16 C
(21)【出願番号】P 2018030455
(22)【出願日】2018-02-23
【審査請求日】2020-12-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080768
【氏名又は名称】村田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100106644
【氏名又は名称】戸塚 清貴
(72)【発明者】
【氏名】大村 博志
(72)【発明者】
【氏名】立畑 哲也
(72)【発明者】
【氏名】西條 友馬
(72)【発明者】
【氏名】粟根 梨絵
(72)【発明者】
【氏名】片山 翔太
【審査官】佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/024318(WO,A1)
【文献】特開2016-022804(JP,A)
【文献】国際公開第2012/114478(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の周辺に対象車両を検知する対象車両検知手段と、
前記対象車両の周辺領域
の各地点に対して規定される前記自車両と前記対象車両の相対速度の
複数の上限値
の分布である速度上限値分布を設定する速度上限値分布設定手段と、
前記自車両と前記対象車両の相対速度が前記自車両の走行地点における前記速度上限値分布の上限値を上回ることがないように、前記対象車両の周辺領域を走行する前記自車両の速度又は/及び操舵を制御する走行制御手段と
を備えた車両用制御装置において、
前記自車両が走行している路面の勾配を検知する勾配検知手段と、
前記勾配検知手段により検知された前記路面の勾配に応じて前記速度上限値分布
における前記複数の上限値の分布を変更する速度上限値分布変更手段と
を備えた車両用制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用制御装置において、
速度上限値分布変更手段は、前記路面の勾配が上り勾配であるときには、前記路面が平坦路であるときよりも、分布内の各地点における前記相対速度の上限値が大きくなるように前記速度上限値分布を変更する車両用制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両用制御装置において、
速度上限値分布変更手段は、前記路面の勾配が下り勾配であるときには、前記路面が平坦路であるときよりも、分布内の各地点における前記相対速度の上限値が小さくなるように前記速度上限値分布を変更する車両用制御装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の車両用制御装置において、
速度上限値分布変更手段は、前記路面の勾配の絶対値が大きくなるほど、前記相対速度の上限値の変更度合いを大きくする車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行を支援する車両用制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等の車両においては、自車両と他車両の衝突が適切に回避されるように車両の走行を支援する車両用制御装置が用いられて来ている。例えば、特許文献1(特開2006-218935号公報)には、自車と対象物との間に安全距離が確保されるように走行支援を行う車両用走行支援装置において、対象物の向きに応じて安全距離を設定するようにした発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、車両用制御装置においては、自車両と対象車両の間には、衝突を回避するための車両間隔が確保されるような運転支援がなされ、車両走行の安全性が確保される。しかしながら、車両の好適な走行のためには、自車両と対象車両の車両間隔は、ただ単に安全性が確保されるだけではなく、快適な走行を行えるような適切な間隔(運転者の通常の運転間隔に沿った安全/安心を感じる間隔)へと制御される必要がある。さらに、このような車両間隔の制御は、自車両の走行環境(例えば、走行している路面がどのような勾配を有しているか)に応じて、きめ細やかに実行される必要がある。
【0005】
本発明は、以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、車両が走行している路面の勾配状況に応じて、安全かつ快適な走行を可能とする車両用制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明にあっては、次のような解決方法を採択している。すなわち、請求項1に記載のように、
自車両の周辺に対象車両を検知する対象車両検知手段と、
前記対象車両の周辺領域の各地点に対して規定される前記自車両と前記対象車両の相対速度の複数の上限値の分布である速度上限値分布を設定する速度上限値分布設定手段と、
前記自車両と前記対象車両の相対速度が前記自車両の走行地点における前記速度上限値分布の上限値を上回ることがないように、前記対象車両の周辺領域を走行する前記自車両の速度又は/及び操舵を制御する走行制御手段と
を備えた車両用制御装置において、
前記自車両が走行している路面の勾配を検知する勾配検知手段と、
前記勾配検知手段により検知された前記路面の勾配に応じて前記速度上限値分布における前記複数の上限値の分布を変更する速度上限値分布変更手段と
を備えた。
【0007】
上記解決手法によれば、自車両の走行している路面の勾配の変化に対応した自車両の制動距離の変化に応じて、速度上限値分布が適切に設定されるので、安全かつ快適な走行を実現できる。
【0008】
上記解決手法を前提とした好ましい態様は、特許請求の範囲における請求項2以下に記載の通りである。すなわち、速度上限値分布変更手段は、前記路面の勾配が上り勾配であるときには、前記路面が平坦路であるときよりも、分布内の各地点における前記相対速度の上限値が大きくなるように前記速度上限値分布を変更する(請求項2対応)。この場合、勾配が上り勾配であるため、平坦路に比べて制動距離が短くなり、対象車両の周辺を比較的高速で走行したとしても、素早く制動を行うことができるのに対して、相対速度の上限値が大きく設定されるので、不必要に遠い位置からブレーキアシストがかかるのを防止でき、ドライバの違和感を抑制できる。
【0009】
速度上限値分布変更手段は、前記路面の勾配が下り勾配であるときには、前記路面が平坦路であるときよりも、分布内の各地点における前記相対速度の上限値が小さくなるように前記速度上限値分布を変更する(請求項3対応)。この場合、
勾配が下り勾配であるため、平坦路に比べて制動距離が長くなり、自車両を素早く制動するのが難しくなるのに対して、相対速度の上限値が小さく設定されるので、対象車両の周囲での自車両の速度が低速に制限され、適切な安全性を確保できる。
【0010】
速度上限値分布変更手段は、前記路面の勾配の絶対値が大きくなるほど、前記相対速度の上限値の変更度合いを大きくする(請求項4対応)。この場合、勾配の変化による制動距離の変化(勾配の絶対値が大きくなるにしたがって制動距離も長くなる)に対して、より緻密に対応できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、自車両が走行している路面の勾配に応じて、安全且つ快適な走行を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の制御系の一例を示すブロック構成図。
【
図3】平坦路において先行車両がある場合の速度上限値分布の設定を示す図。
【
図4】自車両と先行車両間の前後方向距離と相対速度上限値の関係の一例を示すグラフ。
【
図5】上り勾配において先行車両がある場合の速度上限値分布の設定を示す図。
【
図6】下り勾配において先行車両がある場合の速度上限値分布の設定を示す図。
【
図7】平坦路、上り勾配、下り勾配のそれぞれにおける自車両と先行車両間の前後方向距離と相対速度上限値の関係の一例を示すグラフ。
【
図8】上り勾配における補正係数の設定方法を示すグラフ。
【
図9】下り勾配における補正係数の設定補法を示すグラフ。
【
図10】本発明の車両制御の一例の制御手順を示すフローチャート。
【
図11】速度上限値分布設定処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面に基づいて本発明の実施形態について説明する。
【0014】
図1には、本発明の制御系(車両制御システム)の一例をブロック構成図で示す。図示されるように、制御系は、自車両1(
図2参照)に搭載されるもので、ECU10と、複数の情報提供手段(センサ)と、複数の制御システムとを備えている。情報提供手段には、例えば、車載カメラ21、ミリ波レーダ22、車速センサ23、測位システム24、ナビゲーションシステム25、路車間通信ユニット26が含まれる。また、制御システムには、エンジン制御システム31、ブレーキ制御システム32、ステアリング制御システム33が含まれる。
【0015】
ECU10は、CPU、各種プログラムを記憶するメモリ、入出力装置等を備えたコンピュータにより構成され、上記各センサから受け取った信号に基づき、上記各制御システムに対して制御信号を出力可能となっている。
【0016】
車載カメラ21は、車両1の周囲を撮像し、撮像した画像データを出力する。ECU10は、画像データに基づいて対象物(例えば、自車両1の前方に存在する車両)を特定する。ミリ波レーダ22は、対象物の位置及び速度を測定する測定装置であり、自車両1の前方へ向けて電波(送信波)を送信し、対象物により送信波が反射された反射波(受信波)を受信することにより、送信波と受信波に基づいて、自車両1と対象物との間の距離(例えば、車間距離)や、自車両1に対する対象物の相対速度を測定する。なお、対象物の位置及び速度を測定する測定装置としては、ミリ波レーダ22に代えて、レーザレーダや超音波センサ等、任意の測定装置を用いることができる。
【0017】
車速センサ23は、自車両1の絶対速度を検出するセンサである。測位システム24は、自車両1の位置を算出する手段であり、例えばGPSシステムやジャイロシステムから構成される。ナビゲーションシステム25は、ECU10に地図情報を提供する手段である。
【0018】
路車間通信ユニット26は、道路インフラとの通信により各種情報を取得するための通信手段であり、無線通信のための通信機等から構成される。本実施形態においては、路車間通信ユニット26によって、特に、自車両1が走行している路面の勾配情報が取得される。なお、路面の勾配情報は、Gセンサ等の他の検出手段を用いて取得するようにしてもよい。
【0019】
エンジン制御システム31は、自車両1のブレーキ装置を制御するためのコントローラである。ECU10は、自車両1を加速又は減速させる必要がある場合に、エンジン制御システム31に対して、エンジン出力の変更を要求する信号を出力する。
【0020】
ブレーキ制御システム32は、自車両1のブレーキ装置を制御するためのコントローラである。ECU10は、自車両1を減速させる必要がある場合に、ブレーキ制御システム32に対して、自車両1への制動力の発生を要求する信号を出力する。
【0021】
ステアリング制御システム33は、自車両1のステアリング装置を制御するコントローラである。ECU10は、自車両1の進行方向を変更するする必要がある場合に、ステアリング制御システム33に対して、操舵方向の変更を要求する信号を出力する。
【0022】
図2は、本実施形態の車両制御を説明するために、制御が行なわれる一場面を例示する図である。図示されるように、本発明の車両用制御装置を備えた自車両1は、走行路2上を走行しており、自車両1の前方(進行方向)に存在する対象物3を追い抜こうとしている。なお、本例において、対象物3は、走行路2の道路脇に駐車された停止車両である。
【0023】
車両用制御装置は、対象物3の周囲の所定領域に、速度上限値分布40を設定する。速度上限値分布40は、自車両1と対象物3間の相対速度の許容される上限値を規定する2次元分布であり、速度上限値分布40の各地点には、許容される相対速度の上限値V
limが設定されている。
図2においては、理解の便宜のため、速度上限値分布40を、同一の上限値V
limが設定された地点を結んだ等高線a、b、c、dで示している。なお、本例において、等高線dは、速度上限値分布40が設定される領域の外縁を示している。
【0024】
車両用制御装置は、自車両1が対象物3の周囲(速度上限値分布40内)を走行する際に、自車両1と対象物3の相対速度Vが、自車両1の走行地点における速度上限値V
limを上回ることがないように、自車両1の速度及び/又は操舵(走行ルート)を制御する。
図2には、自車両1の走行ルート例として、自車両1の直進走行を維持して速度Vを速度上限値V
lim以下に制限する走行ルートR1と、自車両1の速度が制限されないように速度上限値分布40の外側を迂回する走行ルートR2と、走行ルートR1と走行ルートR2の中間となる走行ルートR3(ある程度速度を制限しつつ、対象物3を迂回するルート)を、それぞれ破線で示されている。
【0025】
速度上限値分布40は、対象物3からの横方向距離及び縦方向距離が小さくなるほど(対象物に近づくほど)、速度上限値V
limが小さくなるように設定される。
図2においては、等高線a、b、c、dの順で、速度上限値V
limが大きくなる。これにより、自車両1が対象物3とすれ違う(停止車両を追い抜く)際に、自車両1と対象物3との前後方向距離Dが小さくなるほど自車両1の速度が制限され、走行の安全性が確保されるようになっている。これは、自車両1のドライバにとっては、通常の運転間隔に合致した速度での走行を実現するものでもある。
【0026】
なお、速度上限値分布40は、必ずしも対象物3の全周にわたって設定されなくてもよく、例えば、対象物3の自車両1の存在する側(図の右側)にのみ設けるようにしてもよい。また、速度上限値分布40を走行路2上のみに設定するようにしてもよい。
【0027】
走行の制御は、車両用制御装置による自動運転で実行されるようにしてもよいし、自車両1のドライバによる運転操作(アクセル、ブレーキ、操舵の操作)を許容しつつ、車両用制御装置による運転のアシストがなされるようにしてもよい。
【0028】
ドライバによる運転操作が行われない場合(自動運転の場合)、車両制御装置は、予め設定されたモードにしたがって自車両1の車速及び/又は操舵を制御する。モードは、例えば、(A)直線優先モード、(B)中間モード、(C)速度優先モードの3種類のモードから選択される。
【0029】
直線優先モードにおいては、自車両1の直進走行維持を優先するする制御がなされ、自車両1は、走行ルートR1に沿って走行する。速度優先モードにおいては、自車両1の車速維持を優先する制御がなされ、自車両1は、例えば走行ルートR2に沿って走行する。中間モードにおいては、自車両1の直進走行維持と車速維持のバランスをとった制御(例えば車速変化と操舵のいずれをも必要最小限とする制御)がなされ、自車両1は、例えば走行ルートR3に沿って走行することになる。
【0030】
図3には、平坦な路面4を走行している自車両1に対して、対象物として先行車両5があるときに、先行車両5の周囲に設定される速度上限値分布41を示す。図示の状態において、自車両1は速度上限値分布41が設定される領域の外側(等高線dよりも外側)にあるが、自車両1が先行車両5に追いついていき、自車両1と先行車両5間の前後方向距離D(自車両1の走行方向の車両間隔であり、先行車両5の後端から自車両1の前端までの距離)が狭まっていくと、やがて自車両1は等高線dの内側に入り、自車両1の先行車両5に対する相対速度が、速度上限値分布41によって設定された速度上限値を超えないように速度制御がなされ、先行車両5への衝突の危険が適切に回避される。
【0031】
図4は、
図3のように自車両1に対して先行車両5がある場合の速度上限値分布41における速度上限値V
limの設定例を示すグラフ(マップ)である。本グラフには、自車両1と先行車両5の前後方向距離Dに対する速度上限値V
lim(先行車両5に対する自車両1の相対速度の許容される上限値)の関係が示されている。
【0032】
図示されるように、前後方向距離D(m)が安全距離D0(m)未満であるときには、速度上限値Vlim(km/h)は、0(km/h)に設定される(等高線aの内側の領域内に自車両1が侵入した場合に相当する)。つまり、前後方向距離Dが安全距離D0以下の領域においては、自車両1の走行は禁止される。なお、安全距離D0は、例えば2mに設定される。
【0033】
一方、前後方向距離Dが安全距離D
0以上であるときには、速度上限値V
limは、以下の式(1)に示すように、前後方向距離Dが増加するのにしたがって2次関数の関係で増加するように設定される。
V
lim=αK×(D-D
0)
2/Vs …(1)
ここで、Vs(km/h)は、現在の自車両1の車速である。また、Kは定数であるゲイン係数であり、αは補正係数である。詳しくは後述するように、補正係数αは自車両が走行している路面の勾配にしたがって変更されるもので、
図3のように自車両1が平坦路を走行している場合には、α=1に設定されている。このように速度上限値V
limを設定することにより、先行車両5からの前後方向距離Dが短くなるほど、自車両1の速度制限が厳しくなるようになっている。
【0034】
次に、
図5及び
図6を用いて、本発明の特徴となる制御、すなわち自車両1が勾配のある路面を走行する場合における制御について説明する。この制御において、車両用制御装置(ECU10)は、例えば路車間通信システム26から自車両1が走行している路面の勾配に関する情報を取得し、路面の勾配に応じて、速度上限値分布を適切に変更する。すなわち、走行している路面の勾配によって、自車両1の制動距離が変わってくるので、この制動距離の変化を適切に反映するように、速度上限値分布が修正される。
【0035】
図5に示すように、自車両1が走行している路面4Aが上り勾配である場合には、自車両1の制動距離は平坦路よりも短くなるので、平坦路よりも先行車両5への追突回避をし易くなる。したがって、速度上限値分布を、平坦路における速度上限値分布41(
図5には破線で示す)と比較して、分布内の同一地点における速度上限値V
limがより大きな値である速度上限値分布42(
図5には実線で示す)に変更する。
【0036】
図示されるように、上り勾配における速度上限値分布42は、平坦路における速度上限値分布41における等高線b、c、dと同一の速度上限値Vlimを示す等高線b1、c1、d1が、それぞれ等高線b、c、dよりも先行車両5側に狭まる。これにより、自車両1は、先行車両5に近い位置(前後方向距離Dが短い位置)まで、比較的高速で走行することが許容され、不必要に遠い位置からブレーキアシストがかかってしまうことが防止されるので、ブレーキアシストによってドライバに生じる違和感が抑制され、快適な走行が可能となる。
【0037】
一方、
図6に示すように、自車両1が走行している路面4Bが下り勾配である場合には、自車両1の制動距離は平坦路よりも長くなるので、先行車両5への追突回避のためには、平坦路よりも相対速度制限を厳しくする必要がある。したがって、速度上限値分布を、平坦路における速度上限値分布41(
図6には破線で示す)と比較して、分布内の同一地点における速度上限値V
limがより小さな値である速度上限値分布43(
図6には実線で示す)に変更する。
【0038】
図示されるように、下り勾配における速度上限値分布43は、平坦路における速度上限値分布41における等高線b、c、dと同一の速度上限値Vlimを示す等高線b2、c2、d2が、それぞれ等高線b、c、dよりも自車両1側に拡がってくる。これにより、自車両1は、先行車両5と遠い位置(前後方向距離Dが長い位置)においても、厳しい速度制限がなされ、高い安全性が確保される。
【0039】
次に、
図7から
図9を用いて、自車両1の走行路面の勾配に応じた速度上限値V
limの変更例を示す。本例においては、上り勾配及び下り勾配においても、上記式(1)を用いて、先行車両5との前後方向距離Dに対する速度上限値V
limを設定する。この場合、式(1)における補正係数αを、上り勾配においては1よりも大きな値に設定し、下り勾配においては1よりも値に設定することにより、適切な速度上限値V
limが設定される。
【0040】
図7には、車両1と先行車両5の前後方向距離Dに対する速度上限値V
limの関係が、自車両1の走行路面の勾配が変わったときにどのように変化するかを示す。図示されるように、上り勾配のときの特性曲線A2は、平坦路のときの特性曲線A1よりも大きな傾きを有するものとなり、前後方向距離Dが短いときでも、平坦路の場合よりも高速走行が許容される。一方、下り勾配のときの特性曲線A3は、平坦路のときの特性曲線A1よりも傾きが緩やかなものとなり、前後方向距離Dが長くなっても、平坦路の場合よりも厳しく速度制限がなされることが分かる。
【0041】
図8及び
図9に一例を示すように、式(1)における補正係数αは、勾配の大きさにしたがって細かく変更するようにしてもよい。本例において、上り勾配の場合の補正係数αは、
図7に示すように、勾配が大きくなるにしたがって、1から1.5まで、勾配に対して線形の関係で大きくなる。また、下り勾配の場合の補正係数αは、
図8に示すように、勾配(の絶対値)が大きくなるにしたがって、1から0.5まで、勾配に対して線形の関係で小さくなる。これにより、補正係数αを、勾配の変化による自車両1の制動力の変化により細かく適合するように設定することができ、より適切な速度上限値分布の設定を行うことができる。
【0042】
次に、
図10のフローチャートにしたがって、本発明の車両制御について説明する。
【0043】
制御においては、まずステップS1において、自車両1のECU10は、複数のセンサから種々のデータを取得する。続くステップS2においては、ECU10は、各種センサから取得したデータに基づいて、対象物(対象車両)を検知する。
【0044】
ステップS3においては、検知された各対象物に対して、速度上限値分布の設定がなされる。ステップS4においては、設定された速度上限値分布に適合するように、予め設定されたモードに応じて、自車両1の走行ルート及び走行ルートの各地点における車速を算出する。ステップS5においては、ステップS4で算出された走行ルート及び車速に基づいて、車両の走行の制御(加減速制御及び/又は操舵制御)を実行する。
【0045】
図11は、自車両1が走行している路面の勾配に応じた速度上限値分布設定(
図10のステップS3における処理に相当)の処理手順を示すフローチャートである。速度上限値分布の設定においては、まずステップS11において、自車両1が走行している路面の勾配情報を取得する。続くステップS12においては、走行路面が上り勾配であるか否かの判定がなされ、上り勾配であるときには、ステップS13に進み、上り勾配用の速度上限値分布を設定して(式(1)における補正係数αを1よりも大きな値に設定して)、一巡の処理を終了する。
【0046】
一方、ステップS12において、上り勾配ではないとの判定がなされたときには、ステップS14に進み、走行路面が下り勾配であるか否かの判定を行い、下り勾配であるときには、ステップS15に進み、下り勾配用の速度上限分布を設定して(式(1)における補正係数αを1よりも小さな値に設定して)、一巡の処理を終了する。
【0047】
一方、ステップS14において、下り勾配でないと判定された場合には、走行路面が平坦路であることになるので、ステップS16において、平坦路用の速度上限値分布を設定して(式(1)における補正係数αを1に設定して)、一巡の処理を終了する。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲において適宜の変更が可能である。例えば、上記実施形態における速度上限値分布の設定は一例であり、制御に求められる条件に応じて、様々な設定を採用できる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、自動車等の車両において安全且つ快適な走行を支援するための車両用制御装置として利用できる。
【符号の説明】
【0050】
1 自車両
2 走行路
3 対象物(停止車両)
4 平坦な路面
4A 上り勾配を路面
4B 下り勾配の路面
5 先行車両
10 ECU
21 車載カメラ
22 ミリ波レーダ
23 車速センサ
24 測位システム
25 ナビゲーションシステム
26 路車間通信ユニット
31 エンジン制御システム
32 ブレーキ制御システム
33 ステアリング制御システム
40 速度上限値分布
41 平坦路において先行車両に設定される速度上限値分布
42 上り勾配において先行車両に設定される速度上限値分布
43 下り勾配において先行車両に設定される速度上限値分布
D 自車両と先行車両の前後方向距離