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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】ハロゲン化不飽和炭素化合物の分離方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/389 20060101AFI20220111BHJP
   C07C 21/185 20060101ALI20220111BHJP
   B01D 53/04 20060101ALI20220111BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20220111BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
C07C17/389
C07C21/185
B01D53/04
B01J20/26 A
B01J20/28 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017535270
(86)(22)【出願日】2016-06-15
(86)【国際出願番号】 JP2016067831
(87)【国際公開番号】W WO2017029868
(87)【国際公開日】2017-02-23
【審査請求日】2019-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2015160401
(32)【優先日】2015-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】森川 達也
(72)【発明者】
【氏名】下川 真奈
(72)【発明者】
【氏名】藤原 克樹
(72)【発明者】
【氏名】徳野 敏
(72)【発明者】
【氏名】樋口 雅一
(72)【発明者】
【氏名】北川 進
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-113336(JP,A)
【文献】特開昭51-105006(JP,A)
【文献】特開昭51-076203(JP,A)
【文献】特開2012-228667(JP,A)
【文献】特開2012-017268(JP,A)
【文献】特開2013-184892(JP,A)
【文献】特開2004-161675(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0172412(US,A1)
【文献】特開昭52-122310(JP,A)
【文献】特公昭48-024366(JP,B1)
【文献】国際公開第2011/045559(WO,A1)
【文献】特開2001-302551(JP,A)
【文献】特開昭53-018504(JP,A)
【文献】国際公開第2014/028574(WO,A2)
【文献】特表2014-509359(JP,A)
【文献】特開2014-211092(JP,A)
【文献】特開2013-111563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01D
B01J
C08G
C07F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が2~3の不飽和炭化水素と、炭素数が2~3のハロゲン化不飽和炭素化合物とを分離する方法であって、
多孔性配位高分子に、前記不飽和炭化水素または前記ハロゲン化不飽和炭素化合物のいずれか一方を選択的に吸着させ、
前記多孔性配位高分子が、組成式[CrO(OH)(bdc)](式中、bdcは1,4-ベンゼンジカルボキシラートである)、[Zr(OH)(bpdc)](式中、bpdcは4,4’-ビフェニルジカルボキシラートである)または[Ni(dhtp)](式中、dhtpは2,5-ジヒドロキシテレフタラートである)で表され、
前記ハロゲン化不飽和炭素化合物が、ジフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンおよびヘキサフルオロプロピレンからなる群から選択される1以上の化合物である、方法。
【請求項2】
炭素数が2~3のハロゲン化不飽和炭素化合物を精製する方法であって、
前記ハロゲン化不飽和炭素化合物および炭素数が2~3の不飽和炭化水素を含む混合物を、多孔性配位高分子に導入して、前記不飽和炭化水素または前記ハロゲン化不飽和炭素化合物のいずれか一方を前記多孔性配位高分子に選択的に吸着させ、前記不飽和炭化水素または前記ハロゲン化不飽和炭素化合物の他方を取り出すことを含み、
前記多孔性配位高分子が、組成式[CrO(OH)(bdc)](式中、bdcは1,4-ベンゼンジカルボキシラートである)、[Zr(OH)(bpdc)](式中、bpdcは4,4’-ビフェニルジカルボキシラートである)または[Ni(dhtp)](式中、dhtpは2,5-ジヒドロキシテレフタラートである)で表され、
前記ハロゲン化不飽和炭素化合物が、ジフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンおよびヘキサフルオロプロピレンからなる群から選択される1以上の化合物である、方法。
【請求項3】
前記不飽和炭化水素がエチレンである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記多孔性配位高分子が、前記[Ni(dhtp)]であり、
前記多孔性配位高分子の比表面積が1000~2000m/gであり、
吸着ガス圧力50kPa(絶対圧)以下の条件の下で、前記不飽和炭化水素または前記ハロゲン化不飽和炭素化合物のいずれか一方を選択的に前記多孔性配位高分子に吸着させる、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記多孔性配位高分子が、前記[CrO(OH)(bdc)]または前記[Zr(OH)(bpdc)]であり、
前記多孔性配位高分子の比表面積が2000~3000m/gであり、
吸着ガス圧力50~250kPa(絶対圧)の条件の下で、前記不飽和炭化水素または前記ハロゲン化不飽和炭素化合物のいずれか一方を選択的に前記多孔性配位高分子に吸着させる、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
互いに異なる炭素数が2~3の複数のハロゲン化不飽和炭素化合物を分離する方法であって、
多孔性配位高分子に、前記複数のハロゲン化不飽和炭素化合物のいずれか1つを選択的に吸着させ、
前記多孔性配位高分子が、組成式[CrO(OH)(bdc)](式中、bdcは1,4-ベンゼンジカルボキシラートである)、[Zr(OH)(bpdc)](式中、bpdcは4,4’-ビフェニルジカルボキシラートである)または[Ni(dhtp)](式中、dhtpは2,5-ジヒドロキシテレフタラートである)で表され、
前記複数のハロゲン化不飽和炭素化合物が、テトラフルオロエチレンと、フッ化ビニリデンまたはトリフルオロエチレンとを含む、方法。
【請求項7】
炭素数が2~3のハロゲン化不飽和炭素化合物を精製する方法であって、
互いに異なる複数の前記ハロゲン化不飽和炭素化合物を含む混合物を、多孔性配位高分子に導入して、前記複数のハロゲン化不飽和炭素化合物のいずれか1つを前記多孔性配位高分子に選択的に吸着させ、その他の前記ハロゲン化炭素化合物を取り出すことを含み、
前記多孔性配位高分子が、組成式[CrO(OH)(bdc)](式中、bdcは1,4-ベンゼンジカルボキシラートである)、[Zr(OH)(bpdc)](式中、bpdcは4,4’-ビフェニルジカルボキシラートである)または[Ni(dhtp)](式中、dhtpは2,5-ジヒドロキシテレフタラートである)で表され、
前記複数のハロゲン化不飽和炭素化合物が、テトラフルオロエチレンと、フッ化ビニリデンまたはトリフルオロエチレンとを含む、方法。
【請求項8】
前記フッ化ビニリデンまたは前記トリフルオロエチレンが前記多孔性配位高分子に選択的に吸着される、請求項6または7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化不飽和炭素化合物の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラフルオロエチレン(TFE)等のハロゲン化不飽和炭素化合物は、ポリマー材料等の種々の化学製品の原料として広く用いられており、産業上極めて重要な工業製品である。TFEは通常、加圧状態で貯蔵される。しかし、TFEは重合しやすいため非常に不安定であり、爆発性を有するので、貯蔵および輸送の際に特別な注意を払う必要がある。
【0003】
TFEを安全に貯蔵および運搬するために、従来、様々な技術が開発されてきた。例えば、特許文献1には、四弗化エチレンを三弗化三塩化エタンに加圧溶解することを特徴とする四弗化エチレンの安全な貯蔵並びに輸送方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、テトラフルオロエチレンに炭素数1~5のパーフルオロアルカンを混合することを特徴とするテトラフルオロエチレンの安定化方法が記載されている。
【0005】
特許文献3には、圧力下で容器中の液体テトラフルオロエチレンを輸送する方法であって、液体二酸化炭素及び液体テトラフルオロエチレンをお互いに合わせること、二酸化炭素が、生成した液体混合物から蒸発されたテトラフルオロエチレンが+25℃までの温度で爆発するのを防止するために効果的な量で存在することを含んで成る改善を含む方法が記載されている。
【0006】
特許文献4には、テトラフルオロエチレンの長期保存用の船積または貯蔵コンテナであって、コンテナは、テトラフルオロエチレンと35~65モル%のヘキサフルオロプロピレンとを含む液体混合物の形でのテトラフルオロエチレンと、液体混合物の上の気体空間とを含有し、気体空間は、液体混合物からのテトラフルオロエチレンおよびヘキサフルオロプロピレンの蒸気の混合物を含有することを特徴とするテトラフルオロエチレンの長期保存用の船積または貯蔵コンテナが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特公昭45-39082号公報
【文献】特開昭55-111425号公報
【文献】特表平8-511521号公報
【文献】特開平11-222449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1~4に記載されているように、従来技術においては、TFEを安全に貯蔵および輸送するためには、添加剤を加えてTFEを安定化する必要があり、TFEを単独で安全に貯蔵および輸送することはできなかった。一方、TFE等のハロゲン化不飽和炭素化合物をポリマー材料等の原料として使用するためには、ハロゲン化不飽和炭素化合物と、ハロゲン化不飽和炭素化合物に含まれる不純物とを分離する必要がある。従来、ハロゲン化不飽和炭素化合物と不純物との分離は一般に蒸留により行われており、非常に高段数の精留塔が不可欠であり、加熱および冷却等のために大量のエネルギーが必要であった。
【0009】
本発明の目的は、ハロゲン化不飽和炭素化合物と、それに含まれる不純物とを少ないエネルギーで効率よく分離する方法、ならびにハロゲン化不飽和炭素化合物を安全に吸着する方法および貯蔵する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従来、活性炭およびゼオライト等の、多数の細孔を有する多孔性材料が、吸着、脱臭、イオン交換等の様々な用途で用いられている。近年、新しい多孔性材料として、多孔性配位高分子(Porous Coordination Polymer、PCP)が注目されている。PCPは、金属-有機構造体(Metal-Organic Framework、MOF)または多孔性金属錯体ともよばれている。PCPは、金属イオンと有機配位子とで構成される金属錯体分子が集積することにより形成される構造体であり、内部に細孔構造を有する。PCPは、活性炭およびゼオライト等の従来の多孔性材料と比較して、より均一な細孔の設計および制御が可能であると考えられている。
【0011】
本発明者らは、特定のPCPが、不飽和炭化水素およびハロゲン化不飽和炭素化合物のいずれか一方を選択的に吸着し得ること、ならびに特定のPCPがハロゲン化不飽和炭素化合物を吸蔵可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明者らは更に、特定のPCPが、分子量の異なる複数のハロゲン化不飽和炭素化合物のいずれか1つを選択的に吸着し得ることを見出した。
【0012】
本発明の第1の要旨によれば、炭素数が2~3の不飽和炭化水素と、炭素数が2~3のハロゲン化不飽和炭素化合物とを分離する方法であって、
2~4価の金属イオンと、1~6の芳香環を有する芳香族アニオンとを含む多孔性配位高分子に、不飽和炭化水素またはハロゲン化不飽和炭素化合物のいずれか一方を選択的に吸着させる、方法が提供される。
【0013】
本発明の第2の要旨によれば、2~4価の金属イオンと、1~6の芳香環を有する芳香族アニオンとを含む多孔性配位高分子に、炭素数が2~3のハロゲン化不飽和炭素化合物を吸着させる方法が提供される。
【0014】
本発明の第3の要旨によれば、炭素数が2~3のハロゲン化不飽和炭素化合物を貯蔵する方法であって、
貯蔵は、2~4価の金属イオンと、1~6の芳香環を有する芳香族アニオンとを含む多孔性配位高分子に、ハロゲン化不飽和炭素化合物を吸着させることにより行われる、方法が提供される。
【0015】
本発明の第4の要旨によれば、炭素数が2~3のハロゲン化不飽和炭素化合物が吸蔵された多孔性配位高分子であって、多孔性配位高分子は、2~4価の金属イオンと、1~6の芳香環を有する芳香族アニオンとを含む、多孔性配位高分子が提供される。
【0016】
本発明の第5の要旨によれば、炭素数が2~3のハロゲン化不飽和炭素化合物を精製する方法であって、
ハロゲン化不飽和炭素化合物および炭素数が2~3の不飽和炭化水素を含む混合物を、2~4価の金属イオンと1~6の芳香環を有する芳香族アニオンとを含む多孔性配位高分子に導入して、不飽和炭化水素またはハロゲン化不飽和炭素化合物のいずれか一方を多孔性配位高分子に選択的に吸着させ、不飽和炭化水素またはハロゲン化不飽和炭素化合物の他方を取り出すことを含む、方法が提供される。
【0017】
本発明の第6の要旨によれば、互いに異なる炭素数が2~3の複数のハロゲン化不飽和炭素化合物を分離する方法であって、
2~4価の金属イオンと、1~6の芳香環を有する芳香族アニオンとを含む多孔性配位高分子に、複数のハロゲン化不飽和炭素化合物のいずれか1つを選択的に吸着させる、方法が提供される。
【0018】
本発明の第7の要旨によれば、炭素数が2~3のハロゲン化不飽和炭素化合物を精製する方法であって、
互いに異なる複数のハロゲン化不飽和炭素化合物を含む混合物を、2~4価の金属イオンと1~6の芳香環を有する芳香族アニオンとを含む多孔性配位高分子に導入して、複数のハロゲン化不飽和炭素化合物のいずれか1つを多孔性配位高分子に選択的に吸着させ、その他のハロゲン化炭素化合物を取り出すことを含む、方法が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ハロゲン化不飽和炭素化合物と、それに含まれる不純物とを効率よく分離する方法、ならびにハロゲン化不飽和炭素化合物を安全に吸着する方法および貯蔵する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、例1~4のPCPの298Kにおけるテトラフルオロエチレンの吸着等温線である。
図2図2は、例1~4のPCPの298Kにおけるテトラフルオロエチレンおよびエチレンの吸着等温線である。
図3図3は、例3および4のPCPの298Kにおけるテトラフルオロエチレンおよびエチレンの吸着等温線である。
図4図4は、例1~4のPCPにおけるガス吸着の選択性を示すグラフである。
図5図5は、例3および4のPCPの260K、273Kおよび298Kにおけるテトラフルオロエチレンの吸着等温線である。
図6図6は、例3および例4のPCPの298Kにおけるフッ化ビニリデンの吸着等温線である。
図7図7は、例3のPCPの298Kにおけるフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレンおよびエチレンの吸着等温線である。
図8図8は、例4のPCPの298Kにおけるフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレンおよびエチレンの吸着等温線である。
図9図9は、例3および4のPCPにおけるフッ化ビニリデンとエチレンとのガス吸着の選択性を示すグラフである。
図10図10は、例3および4のPCPにおけるフッ化ビニリデンとテトラフルオロエチレンとのガス吸着の選択性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は一例に過ぎず、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0022】
(第1の実施形態)
本実施形態は、本発明の第1の要旨に係るハロゲン化不飽和炭素化合物の分離方法に関する。本実施形態に係る分離方法は、炭素数が2~3の不飽和炭化水素と、炭素数が2~3のハロゲン化不飽和炭素化合物とを分離する方法であって、2~4価の金属イオンと、1~6の芳香環を有する芳香族アニオンとを含む多孔性配位高分子に、不飽和炭化水素またはハロゲン化不飽和炭素化合物のいずれか一方を選択的に吸着させる、方法である。本明細書において、「不飽和炭化水素」は、炭素原子間の2重結合を少なくとも1つ含む炭素骨格を有する炭化水素化合物であって、ヘテロ原子を含まない化合物を意味する。不飽和炭化水素は、例えばエチレン、プロピレン等であってよい。本明細書において、「ハロゲン化不飽和炭素化合物」は、炭素原子間の2重結合を少なくとも1つ含む炭素骨格を有する炭素化合物であって、炭素原子間の2重結合を構成する炭素原子の少なくとも1つが、1以上のハロゲン原子と結合しており、かつヘテロ原子を含まない炭素化合物を意味する。本実施形態において、「ハロゲン化不飽和炭素化合物」は、「不飽和炭化水素」に含まれる水素原子の1以上をハロゲン原子で置換したものであってよい。ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素のいずれかであってよい。ハロゲン化不飽和炭素化合物は、例えば、フッ化ビニリデン等のジフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等であってよい。
【0023】
本実施形態に係るハロゲン化不飽和炭素化合物の分離方法は、いかなる理論によっても拘束されるものではないが、以下に説明するメカニズムに基づくものであると考えられる。本実施形態において用いられるPCPは、多数の細孔が形成された細孔構造を有する。PCPは、PCPを構成する金属イオンおよび配位子の組み合わせに応じて様々な構造を取り得る。特定のPCPにおいては、細孔の表面に金属イオンが存在し、それにより細孔表面がプラスの電荷を有する場合がある。一方、不飽和炭化水素における炭素原子間の2重結合は、マイナスの電荷の偏り(δ-)を有する。これに対し、ハロゲン化不飽和炭素化合物における炭素原子間の2重結合は、電子吸引性基であるハロゲン原子と結合しているので、よりマイナスの電荷の偏り(δ-)が少ない、またはプラスの電荷の偏り(δ+)を有する。そのため、PCPの細孔表面がプラスの電荷を有する場合、プラスの電荷を有する細孔の表面と、マイナスの電荷の偏りを有する不飽和炭化水素の2重結合とが相互作用することにより、不飽和炭化水素はPCPに吸着されやすくなる。これに対し、ハロゲン化不飽和炭素化合物の2重結合はプラスの電荷の偏りを有するので、不飽和炭化水素と比較して、PCPに吸着されにくい。このようにPCPが不飽和炭化水素を選択的に吸着し得ることを利用することにより、ハロゲン化不飽和炭素化合物と、不飽和炭化水素とを分離することができる。例えば、PCPの細孔表面がプラスの電荷を有する場合、エチレン(不飽和炭化水素)は、テトラフルオロエチレン(ハロゲン化不飽和炭素化合物)よりもPCPに吸着されやすい。このようなエチレンの選択的吸着を利用することにより、テトラフルオロエチレンとエチレンとを分離することが可能である。上述のようなPCPの選択的吸着、およびPCPの選択的吸着を利用した分離方法は従来知られていなかったものであり、驚くべき効果を奏するものである。更に、PCPによる分離方法は、従来の蒸留による分離方法と比較して、少ないエネルギーで且つ低い圧力で効率よく実施することができる。
【0024】
細孔表面に電荷を有し、不飽和炭化水素を選択的に吸着するPCPとしては、例えば、組成式[Cu(btc)](式中、btcは1,3,5-ベンゼントリカルボキシラート(1,3,5-benzenetricarboxylate)である)で表されるPCP、および組成式[Ni(dhtp)](式中、dhtpは2,5-ジヒドロキシテレフタラート(2,5-dihydroxyterephthalate)である)で表されるPCP等が挙げられる。なお、本実施形態において利用可能なPCPの詳細については後述する。
【0025】
しかし、PCPの細孔表面がプラスの電荷を有する場合であっても、細孔のサイズが比較的大きい場合、PCPによるガス吸着において、上述したような細孔表面のプラス電荷と、不飽和炭化水素の2重結合におけるマイナスの電荷の偏りとの相互作用の寄与は小さくなる傾向にある。この場合、沸点の高い物質ほど、細孔の表面との相互作用が大きくなる傾向にある。炭素骨格が同じである場合、ハロゲン化不飽和炭素化合物は通常、不飽和炭化水素よりも高い沸点を有する。そのため、PCPの細孔のサイズが比較的大きい場合、ハロゲン化不飽和炭素化合物は、不飽和炭化水素よりもPCPに吸着されやすい。このようなハロゲン化不飽和炭素化合物の選択的吸着を利用することによっても、不飽和炭化水素と、ハロゲン化不飽和炭素化合物とを分離することができる。例えば、テトラフルオロエチレン(沸点:-76.3℃)はエチレン(沸点:-104℃)よりも沸点が高いので、テトラフルオロエチレンはエチレンよりもPCPに吸着されやすい傾向にある。このようなテトラフルオロエチレンの選択的吸着を利用することにより、テトラフルオロエチレンとエチレンとを分離することが可能である。
【0026】
上述のように細孔径が比較的大きく、ハロゲン化不飽和炭素化合物を選択的に吸着するPCPとしては、例えば、組成式[CrO(OH)(bdc)](式中、bdcは1,4-ベンゼンジカルボキシラート(1,4-benzenedicarboxylate)である)で表されるPCP等が挙げられる。なお、[CrO(OH)(bdc)]の細孔径は2.7nmおよび3.4nmであり、上述の[Cu(btc)]の細孔径は1.3nm、[Ni(dhtp)]の細孔径は1.3nmである。
【0027】
一方、特定のPCPにおいては、細孔の表面に金属イオンが存在せず、従って細孔表面が電荷を有しない場合がある。この場合、沸点の高い物質ほど、細孔表面との相互作用が大きくなる傾向にある。上述のように、炭素骨格が同じである場合、ハロゲン化不飽和炭素化合物は、不飽和炭化水素よりも高い沸点を有する。そのため、PCPの細孔表面が電荷を有しない場合、PCPは、不飽和炭化水素と比較して、ハロゲン化不飽和炭素化合物を選択的に吸着する。このようなハロゲン化不飽和炭素化合物の選択的吸着を利用することによっても、不飽和炭化水素と、ハロゲン化不飽和炭素化合物とを分離することができる。
【0028】
細孔表面に電荷を有しないPCPとしては、例えば、組成式[Zr(OH)(bpdc)](式中、bpdcは4,4’-ビフェニルジカルボキシラート(4,4'-biphenyldicarboxylate)である)で表されるPCP等が挙げられる。
【0029】
本実施形態において利用可能なPCPは、2~4価の金属イオンを含む。PCPに含まれる金属イオンは、配位子が配位可能な部位を2つ以上有することが好ましく、例えば、Zn2+、Cu2+、Mg2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+およびTi2+等の2価金属イオン、Al3+、Mn3+、Fe3+、Co3+、Cr3+、La3+、Ce3+、Pr3+、Nd3+、Sm3+、Eu3+、Gd3+、Tb3+、Dy3+、Ho3+、Er3+、Tm3+、Yb3+、Lu3+、Y3+およびGa3+等の3価金属イオン、ならびにMn4+、Zr4+およびTi4+等の4価イオンからなる群から選択される少なくとも1つであってよい。本実施形態において、PCPは1種類の金属イオンのみを含んでよく、あるいは2以上の金属イオンを含んでもよい。PCPは、上述の金属イオンを含むことにより、配位結合およびイオン結合によって良好な多孔質構造体を形成することができる。
【0030】
本実施形態において利用可能なPCPは、1~6の芳香環を有する芳香族アニオンを配位子として含む。PCPに含まれる芳香族アニオンは、特に限定されるものではなく、例えば、ベンゼンジカルボキシラートアニオン、ベンゼントリカルボキシラートアニオン、ジオキシドベンゼンジカルボキシラートアニオン、ビフェニルジカルボキシラートアニオン等の芳香族カルボキシラートアニオンからなる群から選択される少なくとも1つであってよい。本実施形態において、PCPは1種類の芳香族アニオンのみを含んでよく、あるいは2以上の芳香族アニオンを含んでもよい。本実施形態において利用可能なPCPは、上述の芳香族アニオンに加えて、O2-、OH等の配位子を含んでもよい。
【0031】
本実施形態において利用可能なPCPとしては、例えば、[Cu(btc)]、[Ni(dhtp)]、[CrO(OH)(bdc)]、[Zr(OH)(bpdc)]、および組成式[Zr(OH)(bdc)]で表されるPCP等が挙げられる。
【0032】
上述のPCPは、既知の常套的な製造方法に準じて製造することができる。具体的には、例えば、溶媒中で金属イオンと配位子とを混合し、場合により加熱および/または加圧することより、PCPを合成することができる。合成時にマイクロ波または超音波を照射してもよい。また、PCPの合成時に酢酸を添加してもよい。酢酸を添加することにより、結晶性がより高く、細孔表面積がより大きいPCPを得ることができる。なお、本実施形態において、酢酸の添加は必須ではなく、目的に応じて適宜添加することができる。
【0033】
本実施形態に係る方法において用いられるPCPは、使用前に、細孔内に存在する溶媒分子等を除去するために前処理をすることが好ましい。前処理は、例えば、PCPが分解しない程度の温度でPCPを乾燥させることによって行ってよい。
【0034】
本実施形態に係るPCPの構造は、粉末X線回折測定(XRD)によって同定することができる。また、PCPの熱重量分析(TG)を行うことにより、PCPの細孔内部に吸着している溶媒の重量を測定することができる。
【0035】
本実施形態に係る方法において、低圧条件下で吸着を行う場合、PCPの比表面積が小さいほど、吸着量が多くなる傾向にある。従って、低圧条件下で吸着を行う場合、PCPの比表面積は小さいことが好ましい。本実施形態に係る方法は、低圧条件で行う場合、爆発性を有するTFE等のハロゲン化不飽和炭素化合物の分離をより安全に行うことができるという利点を有する。具体的には、PCPの比表面積が1000~2000m/gであり、吸着ガス圧力50kPa(絶対圧)以下の条件の下で、不飽和炭化水素またはハロゲン化不飽和炭素化合物のいずれか一方を選択的にPCPに吸着させることが好ましい。上述の比表面積を有するPCPとしては、例えば、[Cu(btc)](比表面積:1451m/g)、または[Ni(dhtp)](比表面積:1011m/g)等が挙げられる。
【0036】
しかし、PCPの比表面積が小さい場合、吸着ガス気圧が増大するに従って、吸着量が飽和に達してしまう。これに対し、本実施形態に係る方法において、高圧条件下で吸着を行う場合、PCPの比表面積が大きい方が、吸着量が多くなる傾向にある。従って、高圧条件下で吸着を行う場合、PCPの比表面積は大きいことが好ましい。本実施形態に係る方法は、高圧条件で行う場合、吸着量をより一層増大させることができ、ハロゲン化不飽和炭素化合物の分離をより一層効率よく行うことができるという利点を有する。具体的には、PCPの比表面積が2000~3000m/gであり、吸着ガス圧力50~250kPa(絶対圧)の条件の下で、不飽和炭化水素またはハロゲン化不飽和炭素化合物のいずれか一方を選択的にPCPに吸着させることが好ましい。上述の比表面積を有するPCPとしては、例えば、[CrO(OH)(bdc)](比表面積:2996m/g)、または[Zr(OH)(bpdc)](比表面積:2220m/g)等が挙げられる。
【0037】
本実施形態に係る方法によって分離可能な不飽和炭化水素は、炭素数が2~3の不飽和炭化水素であれば特に限定されるものではなく、例えば、エチレン、プロピレン等が挙げられる。本実施形態に係る方法によって分離可能な不飽和炭化水素は、好ましくはエチレンである。本実施形態に係る方法によって分離可能なハロゲン化不飽和炭素化合物は、2~3のハロゲン化不飽和炭素化合物であれば特に限定されるものではなく、例えば、フッ化ビニリデン等のジフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等が挙げられる。ハロゲン化不飽和炭素化合物は1種類の化合物を単独で含んでよく、あるいは2種類以上の化合物を含む混合物であってもよい。本実施形態に係る方法によって分離可能なハロゲン化不飽和炭素化合物は、好ましくはテトラフルオロエチレンである。
【0038】
本実施形態に係る分離方法は、例えば、PCPを充填した吸着管に、不飽和炭化水素およびハロゲン化不飽和炭素化合物を含む混合ガスを流すことによって行うことができる。本実施形態に係る方法をこのような手順で行うことにより、吸着管に充填されたPCPに不飽和炭化水素またはハロゲン化不飽和炭素化合物のいずれか一方が選択的に吸着され、吸着管の出口において、吸着管に通す前の混合ガスよりも他方のガス濃度が高くなったガスが得られる。
【0039】
(第2の実施形態)
本実施形態は、本発明の第2の要旨に係るハロゲン化不飽和炭素化合物の吸着方法に関する。本実施形態に係る吸着方法は、2~4価の金属イオンと、1~6の芳香環を有する芳香族アニオンとを含む多孔性配位高分子に、炭素数が2~3のハロゲン化不飽和炭素化合物を吸着させる方法である。
【0040】
本実施形態において、上述の第1の実施形態において使用可能なPCPを同様に用いることができる。なお、上述の第1の実施形態において不飽和炭化水素を選択的に吸着し得るPCPとして例示したPCPもまた、本実施形態に係るハロゲン化不飽和炭素化合物の吸着方法において好適に用いることができる。本実施形態に係る方法は、活性炭およびゼオライト等の従来の吸着剤を用いた吸着方法と比較して、より多くのハロゲン化不飽和炭素化合物を吸着することが可能である。更に、本実施形態に係る方法は、化学的に不安定で爆発性を有するテトラフルオロエチレン等のハロゲン化不飽和炭素化合物を安全に吸着可能であるという利点を有する。
【0041】
本実施形態に係る方法において、低圧条件下で吸着を行う場合、PCPの比表面積が小さいほど、吸着量が多くなる傾向にある。従って、低圧条件下で吸着を行う場合、PCPの比表面積は小さいことが好ましい。本実施形態に係る方法は、低圧条件で行うことにより、爆発性を有するTFE等のハロゲン化不飽和炭素化合物の吸着をより安全に行うことができる。具体的には、PCPの比表面積が1000~2000m/gであり、吸着ガス圧力100kPa(絶対圧)以下の条件の下で、ハロゲン化不飽和炭素化合物をPCPに吸着させることが好ましい。上述の比表面積を有するPCPとしては、例えば、[Cu(btc)](比表面積:1451m/g)または[Ni(dhtp)](比表面積:1011m/g)等が挙げられる。
【0042】
しかし、PCPの比表面積が小さい場合、吸着ガス気圧が増大するに従って、吸着量が飽和に達してしまう。これに対し、本実施形態に係る方法において、高圧条件下で吸着を行う場合、PCPの比表面積が大きい方が、吸着量が多くなる傾向にある。従って、高圧条件下で吸着を行う場合、PCPの比表面積は大きいことが好ましい。本実施形態に係る方法は、高圧条件で行うことにより、吸着量をより一層増大させることができ、ハロゲン化不飽和炭素化合物の吸着をより一層効率よく行うことができる。具体的には、PCPの比表面積が2000~3000m/gであり、吸着ガス圧力100~800kPa(絶対圧)の条件の下で、ハロゲン化不飽和炭素化合物をPCPに吸着させることが好ましい。上述の比表面積を有するPCPとしては、例えば、[CrO(OH)(bdc)](比表面積:2996m/g)、または[Zr(OH)(bpdc)](比表面積:2220m/g)等が挙げられる。
【0043】
本実施形態に係る方法によって吸着可能なハロゲン化不飽和炭素化合物は、炭素数が2~3のハロゲン化不飽和炭素化合物であれば特に限定されるものではなく、例えば、フッ化ビニリデン等のジフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等が挙げられる。ハロゲン化不飽和炭素化合物は1種類の化合物を単独で含んでよく、あるいは2種類以上の化合物を含む混合物であってもよい。本実施形態に係る方法によって吸着可能なハロゲン化不飽和炭素化合物は、好ましくはテトラフルオロエチレンである。本実施形態に係る吸着方法は、ハロゲン化不飽和炭素化合物が化学的に不安定で爆発性を有する場合であっても安全に吸着することが可能であり、安定剤の添加が不要である。従って、本実施形態に係る吸着方法は、テトラフルオロエチレン等の爆発性ガスの吸着に特に好都合である。本実施形態に係る吸着方法により、PCPの重量およびハロゲン化不飽和炭素化合物の重量の合計を基準として、25~35重量%のハロゲン化不飽和炭素化合物を吸着することができる。
【0044】
本実施形態に係る吸着方法は、例えば、PCPを充填したガスボンベにハロゲン化不飽和炭素化合物を加圧充填することによって行うことができる。本実施形態に係る方法をこのような手順で行うことにより、PCPを充填していないガスボンベにハロゲン化不飽和炭素化合物を充填する場合と比較して約25倍以上の吸着量を達成することができる。
【0045】
(第3の実施形態)
本実施形態は、本発明の第3の要旨に係るハロゲン化不飽和炭素化合物の貯蔵方法に関する。本実施形態に係る貯蔵方法は、炭素数が2~3のハロゲン化不飽和炭素化合物を貯蔵する方法であって、貯蔵は、2~4価の金属イオンと、1~6の芳香環を有する芳香族アニオンとを含む多孔性配位高分子に、前記ハロゲン化不飽和炭素化合物を吸着させることにより行われる、方法である。本実施形態において、多孔性配位高分子によるハロゲン化不飽和炭素化合物の吸着は、上述の第2の実施形態に係る吸着方法により行うことができる。
【0046】
本実施形態に係る方法において、上述の第1および第2の実施形態において使用可能なPCPを同様に用いることができる。本実施形態に係る方法は、活性炭およびゼオライト等の従来の吸着剤を用いた貯蔵方法と比較して、より多くのハロゲン化不飽和炭素化合物を貯蔵することが可能である。更に、本実施形態に係る方法は、化学的に不安定で爆発性を有するテトラフルオロエチレン等のハロゲン化不飽和炭素化合物を安全に貯蔵可能であるという利点を有する。
【0047】
本実施形態に係る方法によって貯蔵可能なハロゲン化不飽和炭素化合物は、炭素数が2~3のハロゲン化不飽和炭素化合物であれば特に限定されるものではなく、上述の第2の実施形態において吸着可能なハロゲン化不飽和炭素化合物を貯蔵することが可能である。本実施形態に係る貯蔵方法は、ハロゲン化不飽和炭素化合物が化学的に不安定で爆発性を有する場合であっても安全に貯蔵することが可能であり、安定剤の添加が不要である。従って、本実施形態に係る貯蔵方法は、テトラフルオロエチレン等の爆発性ガスの貯蔵に特に好都合である。本実施形態に係る貯蔵方法により、PCPの重量およびハロゲン化不飽和炭素化合物の重量の合計を基準として、25~35重量%のハロゲン化不飽和炭素化合物を貯蔵することができる。本実施形態に係る貯蔵方法は、例えば、PCPを充填したガスボンベにハロゲン化不飽和炭素化合物を加圧充填することによって行うことができる。本実施形態に係る方法をこのような手順で行うことにより、PCPを充填していないガスボンベにハロゲン化不飽和炭素化合物を充填する場合と比較して約25倍以上の貯蔵量を達成することができる。
【0048】
(第4の実施形態)
本実施形態は、本発明の第4の要旨に係るハロゲン化不飽和炭素化合物が吸蔵された多孔性配位高分子に関する。本実施形態に係る多孔性配位高分子は、炭素数が2~3のハロゲン化不飽和炭素化合物が吸蔵された多孔性配位高分子であって、多孔性配位高分子は、2~4価の金属イオンと、1~6の芳香環を有する芳香族アニオンとを含む、多孔性配位高分子である。本実施形態に係るPCPとしては、上述の第1~第3の実施形態において使用可能なPCPを同様に用いることができる。
【0049】
本実施形態に係るPCPに吸蔵されるハロゲン化不飽和炭素化合物は、2~3のハロゲン化不飽和炭素化合物であれば特に限定されるものではなく、例えば、フッ化ビニリデン等のジフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等が挙げられる。ハロゲン化不飽和炭素化合物は1種類の化合物を単独で含んでよく、あるいは2種類以上の化合物を含む混合物であってもよい。本実施形態に係るPCPに吸蔵されるハロゲン化不飽和炭素化合物は、好ましくはテトラフルオロエチレンである。本実施形態に係るPCPは、ハロゲン化不飽和炭素化合物が化学的に不安定で爆発性を有する場合であっても、かかるハロゲン化不飽和炭素化合物を安全に吸蔵することが可能であり、安定剤の添加が不要である。本実施形態に係るPCPにおいて、温度298K、吸着ガス圧力100kPa(絶対圧)におけるハロゲン化不飽和炭素化合物の吸蔵量は、PCPの重量およびハロゲン化不飽和炭素化合物の重量の合計を基準として、25~35重量%とすることができる。本実施形態に係るPCPは、活性炭およびゼオライト等の従来の吸着剤と比較して、低圧条件で大量のハロゲン化不飽和炭素化合物を貯蔵可能である。
【0050】
(第5の実施形態)
本実施形態は、本発明の第5の要旨に係るハロゲン化不飽和炭素化合物の精製方法に関する。本実施形態に係る方法は、炭素数が2~3のハロゲン化不飽和炭素化合物を精製する方法である。方法は、炭素数が2~3のハロゲン化不飽和炭素化合物および炭素数が2~3の不飽和炭化水素を含む混合物を、2~4価の金属イオンと1~6の芳香環を有する芳香族アニオンとを含む多孔性配位高分子に導入して、不飽和炭化水素またはハロゲン化不飽和炭素化合物のいずれか一方を多孔性配位高分子に選択的に吸着させ、不飽和炭化水素またはハロゲン化不飽和炭素化合物の他方を取り出すことを含む。
【0051】
本実施形態において、上述の第1の実施形態において使用可能なPCPを同様に用いることができる。ハロゲン化不飽和炭素化合物は、不純物として不飽和炭化水素を含み得る。PCPは、上述したように、不飽和炭化水素またはハロゲン化不飽和炭素化合物のいずれか一方を選択的に吸着することができる。不飽和炭化水素をPCPに選択的に吸着させた場合、上述の方法により、精製されたハロゲン化不飽和炭素化合物を得ることができる。ハロゲン化不飽和炭素化合物をPCPに選択的に吸着させた場合には、その後、PCPからハロゲン化不飽和炭素化合物を取り出すことにより、精製されたハロゲン化不飽和炭素化合物を得ることができる。
【0052】
本実施形態に係る方法は、例えば、PCPを充填した吸着管に、不飽和炭化水素およびハロゲン化不飽和炭素化合物を含む混合ガスを流すことによって行うことができる。混合ガスを吸収管に流すと、不飽和炭化水素またはハロゲン化不飽和炭素化合物のいずれか一方が、吸着管に充填されたPCPに選択的に吸着され、吸着管の出口において、不飽和炭化水素またはハロゲン化不飽和炭素化合物の他方が精製ガスとして取り出される。ハロゲン化不飽和炭素化合物がPCPに選択的に吸着された場合には、その後、吸着管からハロゲン化不飽和炭素化合物を精製ガスとして取り出すことができる。
【0053】
本実施形態に係る方法により精製可能なハロゲン化不飽和炭素化合物は、2~3のハロゲン化不飽和炭素化合物であれば特に限定されるものではなく、例えば、上述の第1の実施形態において分離可能なハロゲン化不飽和炭素化合物であってよい。また、本実施形態に係る方法において不純物として含まれてよい不飽和炭化水素は、炭素数が2~3の不飽和炭化水素であれば特に限定されるものではなく、例えば、上述の第1の実施形態において分離可能な不飽和炭化水素であってよい。
【0054】
本実施形態に係る方法の一例として、以下に説明する手順により、フッ化ビニリデン(VdF)およびエチレンを含む混合物から、精製されたフッ化ビニリデンを得ることができる。この例において、PCPとして、例えば[CrO(OH)(bdc)]または[Zr(OH)(bpdc)]を用いてよい。フッ化ビニリデンおよびエチレンを含む混合物を、上述のPCPに導入すると、フッ化ビニリデンが選択的にPCPに吸着され、不純物であるエチレンが取り出される。これは、フッ化ビニリデンの沸点(-83℃)が、エチレンの沸点(-104℃)よりも高いことに起因すると推測される。その後、PCPからフッ化ビニリデンを取り出すことにより、精製されたフッ化ビニリデンを得ることができる。
【0055】
上述の手順と同様の手順により、トリフルオロエチレンおよびエチレンを含む混合物から、精製されたトリフルオロエチレンを得ることができる。トリフルオロエチレンおよびエチレンを含む混合物を、上述のPCPに導入すると、トリフルオロエチレンが選択的にPCPに吸着され、不純物であるエチレンが取り出される。これは、トリフルオロエチレンの沸点(-51℃)がエチレンの沸点よりも高いことに起因すると推測される。その後、PCPからトリフルオロエチレンを取り出すことにより、精製されたフッ化ビニリデンを得ることができる。
【0056】
(第6の実施形態)
本実施形態は、本発明の第6の要旨に係る、互いに異なる複数のハロゲン化不飽和炭素化合物の分離方法に関する。本実施形態に係る方法は、異なる種類のハロゲン化不飽和炭素化合物を分離する点で、ハロゲン化炭素化合物と不飽和炭化水素とを分離する第1の実施形態と異なる。本実施形態に係る方法は、互いに異なる炭素数が2~3の複数のハロゲン化不飽和炭素化合物を分離する方法であって、2~4価の金属イオンと、1~6の芳香環を有する芳香族アニオンとを含む多孔性配位高分子に、複数のハロゲン化不飽和炭素化合物のいずれか1つを選択的に吸着させる、方法である。
【0057】
本実施形態において、上述の第1の実施形態において使用可能なPCPを同様に用いることができる。本実施形態に係る方法は、異なる種類の複数のハロゲン化不飽和炭素化合物のうち、いずれか1つをPCPに選択的に吸着させることにより、ハロゲン化不飽和炭素化合物同士を分離することができる。PCPを用いることによりハロゲン化不飽和炭素化合物同士を分離することができるメカニズムは、いかなる理論によっても拘束されるものではないが、凡そ以下に説明するとおりであると推測される。上述の第1の実施形態において述べたように、PCPによるハロゲン化不飽和炭素化合物の吸着されやすさは、PCPの細孔表面における電荷の有無、ハロゲン化不飽和炭素化合物における電荷の偏りおよびハロゲン化不飽和炭素化合物の沸点等によって変化し得ると考えられる。ハロゲン化不飽和炭素化合物は、その種類によって電荷の偏りや沸点等の物性が異なる。そのため、異なる種類の複数のハロゲン化不飽和炭素化合物のうち、いずれか1つをPCPに選択的に吸着させることが可能であると考えられる。
【0058】
本実施形態に係る分離方法は、例えば、PCPを充填した吸着管に、異なる種類の複数のハロゲン化不飽和炭素化合物を含む混合ガスを流すことによって行うことができる。本実施形態に係る方法をこのような手順で行うことにより、吸着管に充填されたPCPにいずれか1つのハロゲン化不飽和炭素化合物が選択的に吸着され、吸着管の出口において、吸着管に通す前の混合ガスよりも他方のハロゲン化不飽和炭素化合物の濃度が高くなったガスが得られる。
【0059】
本実施形態に係る方法により分離可能なハロゲン化不飽和炭素化合物は、2~3のハロゲン化不飽和炭素化合物であれば特に限定されるものではなく、例えば、上述の第1の実施形態において分離可能なハロゲン化不飽和炭素化合物を互いに分離することができる。
【0060】
本実施形態に係る方法の一例として、以下に説明する手順により、フッ化ビニリデン(VdF)およびテトラフルオロエチレン(TFE)を含む混合物から、フッ化ビニリデンと、テトラフルオロエチレンとを分離することができる。この例において、PCPとして、例えば[CrO(OH)(bdc)]または[Zr(OH)(bpdc)]を用いてよい。フッ化ビニリデンおよびテトラフルオロエチレンを含む混合物を、上述のPCPに導入すると、フッ化ビニリデンが選択的にPCPに吸着され、それにより、フッ化ビニリデンとテトラフルオロエチレンとが分離される。上述したように、[CrO(OH)(bdc)]および[Zr(OH)(bpdc)]は、沸点がより高い物質を選択的に吸着する傾向にある。しかし、フッ化ビニリデンの沸点(-83℃)は、テトラフルオロエチレンの沸点(-76.3℃)よりも低い。そのため、[CrO(OH)(bdc)]および[Zr(OH)(bpdc)]がフッ化ビニリデンを選択的に吸着することは、驚くべきことであり、特異な吸着現象であると考えられる。これらのPCPがフッ化ビニリデンを選択的に吸着するメカニズムの詳細は不明であるが、TFEにおける電荷の偏りが対称であるのに対し、VdFにおける電荷の偏りが非対称であることに起因すると推測される。
【0061】
上述の手順と同様の手順により、トリフルオロエチレンおよびテトラフルオロエチレンを含む混合物から、トリフルオロエチレンと、テトラフルオロエチレンとを分離することができる。トリフルオロエチレンおよびテトラフルオロエチレンを含む混合物を、上述のPCPに導入すると、トリフルオロエチレンが選択的にPCPに吸着され、それにより、トリフルオロエチレンとテトラフルオロエチレンとが分離される。トリフルオロエチレンの選択的吸着は、トリフルオロエチレンにおける電荷の偏りが非対称であること、およびトリフルオロエチレンの沸点(-51℃)がテトラフルオロエチレンの沸点よりも高いことに起因すると推測される。
【0062】
(第7の実施形態)
本実施形態は、本発明の第7の要旨に係るハロゲン化不飽和炭素化合物の精製方法に関する。本実施形態に係る方法は、精製すべきハロゲン化不飽和炭素化合物とは異なる種類のハロゲン化不飽和炭素化合物を不純物として除去する点で、不飽和炭化水素を不純物として除去する第5の実施形態と異なる。本実施形態に係る方法は、炭素数が2~3のハロゲン化不飽和炭素化合物を精製する方法である。方法は、互いに異なる複数のハロゲン化不飽和炭素化合物を含む混合物を、2~4価の金属イオンと1~6の芳香環を有する芳香族アニオンとを含む多孔性配位高分子に導入して、複数のハロゲン化不飽和炭素化合物のいずれか1つを多孔性配位高分子に選択的に吸着させ、その他のハロゲン化炭素化合物を取り出すことを含む。
【0063】
本実施形態において、上述の第1の実施形態において使用可能なPCPを同様に用いることができる。ハロゲン化不飽和炭素化合物は、不純物として異なる種類のハロゲン化不飽和炭素化合物を含み得る。PCPは、上述したように、互いに異なる複数のハロゲン化不飽和炭素化合物のうち、いずれか1つを選択的に吸着することができる。不純物であるハロゲン化不飽和炭素化合物をPCPに選択的に吸着させた場合、上述の方法により、目的とする精製されたハロゲン化不飽和炭素化合物を得ることができる。目的とするハロゲン化不飽和炭素化合物をPCPに選択的に吸着させた場合には、その後、PCPからハロゲン化不飽和炭素化合物を取り出すことにより、目的とする精製されたハロゲン化不飽和炭素化合物を得ることができる。
【0064】
本実施形態に係る方法は、例えば、PCPを充填した吸着管に、互いに異なる複数のハロゲン化不飽和炭素化合物を含む混合ガスを流すことによって行うことができる。混合ガスを吸収管に流すと、いずれか1つのハロゲン化不飽和炭素化合物が、吸着管に充填されたPCPに選択的に吸着され、吸着管の出口において、その他のハロゲン化不飽和炭素化合物が精製ガスとして取り出される。目的とするハロゲン化不飽和炭素化合物がPCPに選択的に吸着された場合には、その後、目的とするハロゲン化不飽和炭素化合物を、精製ガスとして吸着管から取り出すことができる。
【0065】
本実施形態に係る方法により精製可能なハロゲン化不飽和炭素化合物および不純物として含まれてよいハロゲン化不飽和炭素化合物はいずれも、2~3のハロゲン化不飽和炭素化合物であれば特に限定されるものではなく、例えば、上述の第1の実施形態において分離可能なハロゲン化不飽和炭素化合物であってよい。
【0066】
本実施形態に係る方法の一例として、以下に説明する手順により、フッ化ビニリデン(VdF)およびテトラフルオロエチレン(TFE)を含む混合物から、精製されたテトラフルオロエチレンを得ることができる。この例において、PCPとして、例えば[CrO(OH)(bdc)]または[Zr(OH)(bpdc)]を用いてよい。フッ化ビニリデンおよびテトラフルオロエチレンを含む混合物を上述のPCPに導入すると、フッ化ビニリデンが選択的にPCPに吸着され、精製されたテトラフルオロエチレンが取り出される。フッ化ビニリデンが選択的にPCPに吸着されるメカニズムは、上述したとおりである。その後、PCPに吸着されたフッ化ビニリデンを取り出すことにより、精製されたフッ化ビニリデンを得ることができる。
【0067】
同様の手順により、トリフルオロエチレンおよびテトラフルオロエチレン(TFE)を含む混合物から、トリフルオロエチレンを選択的にPCPに吸着させることにより、精製されたテトラフルオロエチレンを得ることができる。その後、PCPに吸着されたトリフルオロエチレンを取り出すことにより、精製されたトリフルオロエチレンを得ることができる。
【実施例
【0068】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0069】
[例1]
例1のPCPとして、[Cu(btc)]を下記の手順で調製した。硝酸銅(II)三水和物2.11gおよび1,3,5-ベンゼントリ(カルボン酸メチル)1.01gに50体積%エタノール水溶液57.6mLを加えて10分間撹拌し、マイクロ波を照射して140℃で60分間反応させた。吸引ろ過により回収した固体にエタノールを加え、超音波洗浄した。洗浄後、吸引ろ過により回収した固体を真空乾燥して、1.24gの例1のPCPを得た。
【0070】
[例2]
例2のPCPとして、[Ni(dhtp)]を下記の手順で調製した。硝酸ニッケル(II)六水和物3.63gおよび2,5-ジヒドロキシテレフタル酸0.72gにN,N-ジメチルホルムアミド72mLおよび水3.6mLを加え、超音波を照射して溶解させた。得られた溶液を、オートクレーブにおいて110℃で21時間30分間反応させた。吸引ろ過により回収した固体を真空乾燥して、2.44gの固体を得た。この固体をメタノールで洗浄した後、吸引ろ過により回収した固体を真空乾燥して、1.91gの例2のPCPを得た。
【0071】
[例3]
例3のPCPとして、[CrO(OH)(bdc)]を下記の手順で調製した。塩化クロム(III)六水和物2.97gおよびテレフタル酸1.85gに水50mLを加えて撹拌し、オートクレーブにおいて210℃で6時間反応させた。遠心分離後、上澄み液を除去し、真空乾燥した。得られた固体にN,N-ジメチルホルムアミドを加えて超音波洗浄した後、上澄み液を除去した。これにエタノールを加えて超音波洗浄した後、上澄み液を除去し、真空乾燥して、1.59gの例3のPCPを得た。
【0072】
[例4]
例4のPCPとして、[Zr(OH)(bpdc)]を下記の手順で調製した。なお、例4の[Zr(OH)(bpdc)]は、その合成時に酢酸を添加したもの(以下、「[Zr(OH)(bpdc)]+AcOH」ともよぶ)である。塩化ジルコニウム(IV)0.93gおよび4,4’-ビフェニルジカルボン酸0.98gに、N,N-ジメチルホルムアミド50mL、水100μgおよび酢酸6.86mLを撹拌しながら加えた。得られた溶液を、オートクレーブにおいて120℃で48時間反応させた。これにN,N-ジメチルホルムアミドを加えた後、吸引ろ過により固体を回収した。回収された固体を真空乾燥して、2.06gの例4のPCPを得た。
【0073】
(比表面積測定)
上述のように調製し、前処理を行った例1~4のPCPについて、比表面積の測定を行った。比表面積は、マイクロトラック・ベル株式会社製の自動比表面積/細孔分布測定装置「BELSORP-miniII」を用いて測定し、BET法により算出した。結果を下記の表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
(吸着量測定)
上述のように前処理を行った例1~4のPCPについて、エチレンおよびTFEの吸着量の測定を行った。吸着量測定装置として、測定圧力範囲に応じて下記の表2に示す2種類の装置を用いた。
【0076】
【表2】
【0077】
図1に、例1~4のPCPについて298KにおけるTFEの吸着量を測定して得られた吸着等温線を示す。図1より、例1のPCPにおけるTFE吸着量が最も多かったことがわかる。また、TFEガス気圧が80kPa以下の場合、例2のPCPにおけるTFE吸着量が、例3および4のPCPにおけるTFE吸着量よりも多かったことがわかる。一方、TFEガス気圧が80kPaを超えると、例3および4のPCPにおけるTFE吸着量が、例2のPCPにおけるTFE吸着量よりも多くなった。
【0078】
図2(a)、(b)、(c)および(d)はそれぞれ、例1、例2、例3および例4のPCPについて298KにおけるエチレンおよびTFEの吸着量をそれぞれ測定して得られた吸着等温線である。図2(a)および(b)より、例1および2のPCPは、TFEよりもエチレンを選択的に吸着したことがわかる。また、例1および2のPCPにおいては、298Kの温度条件の下で、吸着ガス圧力が100kPaに近づくにつれて、TFEの吸着量が飽和量に近づいたことがわかる。一方、図2(c)および(d)より、例3および4のPCPは、エチレンよりもTFEを選択的に吸着したことがわかる。また、例3および4のPCPにおいては、100kPa以下の圧力範囲において、吸着ガス圧力が上昇するに従ってエチレンおよびTFEの吸着量が増大したことがわかる。
【0079】
図3(a)および(b)はそれぞれ、例3および4のPCPについて298KにおけるエチレンおよびTFEの吸着量をそれぞれ測定して得られた吸着等温線である。図3(a)および(b)より、例3および4のPCPにおいては、298Kの温度条件の下で、吸着ガス圧力が400kPaに近づくにつれて、TFEの吸着量が飽和量に近づいたことがわかる。
【0080】
図4に、温度298Kにおける例1~4のPCPによるガス吸着の選択性を示すグラフを示す。図4に示すように、例1および2のPCPは、エチレンを選択的に吸着した。これは、PCPにおける細孔表面に存在する金属イオンのプラス電荷と、エチレンの2重結合におけるマイナスの電荷の偏り(δ-)とが相互作用したことによると考えられる。一方、例3のPCPは、TFEを選択的に吸着した。これは、例3のPCPは細孔径が比較的大きいので、エチレン(沸点:-104℃)よりも沸点の高いTFE(沸点:-76.3℃)が選択的に吸着されたことによると考えられる。以上の結果より、例1~4のPCPはいずれも、エチレンとTFEとを分離するのに用いることができることが確認された。例4のPCPもまた、TFEを選択的に吸着した。これは、例2のPCPの細孔表面が電荷を有しないので、エチレンよりも沸点の高いTFEが選択的に吸着されたことによると考えられる。
【0081】
図5(a)、(b)および(c)はそれぞれ、例3および4のPCPについて、260K、273Kおよび298KにおけるTFEの吸着量をそれぞれ測定して得られた吸着等温線である。図5(a)~(c)より、例3および4のPCPはいずれも、吸着ガス圧力が高いほどTFE吸着量が増大し、温度が低いほどTFE吸着量が増大したことがわかる。また、例3のPCPにおけるTFEの吸着量は、例4のPCPにおけるTFEの吸着量よりも多く、温度が低いほどその差は顕著であった。
【0082】
例3および4のPCPについて、フッ化ビニリデン(VdF)の吸着量の測定を行った。吸着量測定装置として、測定圧力範囲に応じて表2に示す2種類の装置を用いた。図6に、例3および4のPCPについて298KにおけるVdFの吸着量を測定して得られた吸着等温線を示す。図6より、例3のPCPにおいては、298Kの温度条件の下で、400kPa以下の圧力範囲において、吸着ガス圧力が上昇するに従ってVdFの吸着量が増大したことがわかる。また、図6より、例4のPCPにおいては、298Kの温度条件の下で、吸着ガス圧力が上昇するに従ってVdFの吸着量が増大し、吸着ガス圧力が400kPaに近づくにつれて、VdFの吸着量が飽和量に近づいたことがわかる。
【0083】
図7に、例3のPCPについて298KにおけるVdF、エチレンおよびTFEの吸着量をそれぞれ測定して得られた吸着等温線を示す。図8に、例4のPCPについて298KにおけるVdF、エチレンおよびTFEの吸着量をそれぞれ測定して得られた吸着等温線を示す。図7および図8に示すように、例3および例4のいずれのPCPについても、VdFの吸着量は、エチレンおよびTFEの吸着と比較して、最も高い値となった。
【0084】
図9および図10に、温度298Kにおける例3および4のPCPによるガス吸着の選択性を示すグラフを示す。図9は、VdFおよびエチレンのガス吸着の選択性を示しており、図10は、VdFおよびTFEのガス吸着の選択性を示している。図9に示すように、例3および4のPCPは、エチレンと比較してVdFを選択的に吸着した。これは、VdFの沸点(-83℃)が、エチレンの沸点(-104℃)よりも高いことに起因すると推測される。
【0085】
また、図10に示すように、例3および4のPCPは、TFEと比較してVdFを選択的に吸着した。これは、TFEにおける電荷の偏りが対称であるのに対し、VdFにおける電荷の偏りが非対称であることに起因すると推測される。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の方法は、化学的に不安定で爆発性を有するTFE等のハロゲン化不飽和炭素化合物を安全に分離および貯蔵することが可能である。
図1
図2(a)】
図2(b)】
図2(c)】
図2(d)】
図3
図4
図5(a)】
図5(b)】
図5(c)】
図6
図7
図8
図9
図10