(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】味付米菓の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23G 3/34 20060101AFI20220111BHJP
A21D 13/24 20170101ALI20220111BHJP
【FI】
A23G3/34 104
A21D13/24
(21)【出願番号】P 2017185621
(22)【出願日】2017-09-27
【審査請求日】2020-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】310010575
【氏名又は名称】地方独立行政法人北海道立総合研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】517339589
【氏名又は名称】株式会社北海道米菓フーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110002480
【氏名又は名称】特許業務法人IPアシスト特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳原 哲司
(72)【発明者】
【氏名】山田 加一朗
(72)【発明者】
【氏名】廣島 俊郎
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-028533(JP,A)
【文献】特開平07-255383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 3/34
A21D 13/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂を使用せずに焼成した米菓に、
アミログラムにおいて最高粘度に到達した後であって最終粘度に到達する前の状態である米粉懸濁液を噴霧する噴霧工程、及び米粉懸濁液噴霧後の米菓に粉状又は粒状の固形調味料を付着させる味付け工程を含む、油脂無添加の味付米菓を製造する方法。
【請求項2】
米粉懸濁液以外のバインダを使用しない、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
米粉懸濁液が、アミログラムにおいて最低粘度に到達した状態である、請求項1
又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
噴霧工程が、もち米を原料とする、油脂を使用せずに焼成した米菓に、もち米を原料とする米粉懸濁液を噴霧する工程、又はうるち米を原料とする、油脂を使用せずに焼成した米菓に、うるち米を原料とする米粉懸濁液を噴霧する工程である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
味付け工程の固形調味料がシーズニングパウダーである、請求項1~
4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
油脂を含まない焼成米菓と、焼成米菓の表面を覆う平均厚みが0.5μm~100μmである
米粉から形成される米粉バインダ層と、該米粉バインダ層の表面に付着した粉状又は粒状の固形調味料と
からなる、油脂無添加の味付米菓。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、味付米菓を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
煎餅やおかき等に代表される米菓は、主に、米又は米デンプンを蒸練して餅生地とし、所望の形状に成形した後に乾燥させ、これを焼成する又は油で揚げることで製造されるが、多くの場合、消費者の嗜好に応じて様々な味付けがなされる。
【0003】
上記の製造方法において米菓を味付けする方法は、餅生地の調製時に呈味成分を練り込む方法、液状調味料を米菓に含浸させる方法、粉状又は粒状の固形調味料を米菓に付着させる方法とに大別される。このうち、粉状又は粒状の固形調味料を米菓に付着させる方法は、最終工程で味付けするため味毎に異なる餅生地を用意する必要がない、及び付着させ得る程度の大きさであるかぎり任意の固形調味料が使用可能であり味付けのバリエーションが広い等の利点を有する。
【0004】
粉状又は粒状の固形調味料を米菓に付着させる方法では、付着にバインダが用いられ、典型的なバインダとして、糖蜜液及び油脂類を挙げることができる。しかしながら、糖蜜液はそれ自体が甘味を呈するために、使用できる調味料が甘味と適合するものに実質的に制限されるという問題を有する。また油脂類は保存中の酸化いわゆる油焼けによって風味が劣化し易いという問題、及びこの風味劣化による短い賞味期限という問題を有する。
【0005】
また、糖蜜類及び油脂類は、いずれも米菓の原材料である米とは異なる物質であることから、食品表示法に基づく原材料表示が義務づけられている。特に添加物としての原材料表示が要求されるバインダの使用は、自然食を求める消費者の健康指向に合わず、嗜好性食品である米菓において好ましいものではない。
【0006】
さらに、加工デンプン、還元デンプン分解物、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース等をバインダとする場合(例えば特許文献1)も、食品表示法に基づく原材料表示義務を省略することはできないばかりでなく、米菓の生産コストを高める原因となり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、多様な味を楽しむことができ、賞味期限が長く、かつ消費者の健康指向にも応えることのできる味付米菓を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、米粉懸濁液が味付米菓の製造におけるバインダとして好ましいことを見いだし、以下の各発明を完成させた。
【0010】
(1)油脂を使用せずに焼成した米菓に米粉懸濁液を噴霧する噴霧工程、及び米粉懸濁液噴霧後の米菓に粉状又は粒状の固形調味料を付着させる味付け工程を含む、油脂無添加の味付米菓を製造する方法。
(2)米粉懸濁液以外のバインダを使用しない、(1)に記載の製造方法。
(3)米粉懸濁液が、アミログラムにおいて最高粘度に到達した後であって最終粘度に到達する前の状態である、(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4)米粉懸濁液が、アミログラムにおいて最低粘度に到達した状態である、(1)~(3)のいずれか一項に記載の製造方法。
(5)噴霧工程が、もち米を原料とする、油脂を使用せずに焼成した米菓に、もち米を原料とする米粉懸濁液を噴霧する工程、又はうるち米を原料とする、油脂を使用せずに焼成した米菓に、うるち米を原料とする米粉懸濁液を噴霧する工程である、(1)~(4)のいずれか一項に記載の製造方法。
(6)味付け工程の固形調味料がシーズニングパウダーである、(1)~(5)のいずれか一項に記載の製造方法。
(7)平均厚みが0.5μm~100μmである米粉バインダ層と、該米粉バインダ層の表面に付着した粉状又は粒状の固形調味料とを有する、油脂無添加の味付米菓。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、バインダとして米粉懸濁液を使用することで、糖蜜類や油脂その他のバインダを使用せずに味付米菓を製造することができる。本発明にかかる味付米菓は、味の種類に制限を受けることがなく、様々な味を楽しむことができる。またバインダとして油脂を使用しないことから油焼けの心配がなく、6ヶ月以上という長い賞味期限を設定することができる。さらに、米粉は米菓の原材料である米と同一物であることから加工助剤として扱われることになり、食品表示法に基づく原材料表示が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明において用いられる米粉並びに市販の米粉及び米デンプンのアミログラムである。
【
図2】米粉懸濁液噴霧前、噴霧後、シーズニング粉末付着後及びザラメ糖付着後のおかきの顕微鏡観察写真(上段)、並びに全体写真(下段)である。
【
図3】米粉懸濁液噴霧後のおかきを横方向から撮影した写真である。図中、右側の写真は、左側の写真をさらに部分的に拡大したものである。
【
図4】ザラメ糖を付着させたおかきを横方向から撮影した写真である。図中、右側の写真は、左側の写真をさらに部分的に拡大したものである。
【
図5】米粉懸濁液を噴霧した真鍮製試料台表面の電子顕微鏡観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の第1の態様は、油脂を使用せずに焼成した米菓に米粉懸濁液を噴霧する噴霧工程、及び米粉懸濁液噴霧後の米菓に粉状又は粒状の固形調味料を付着させる味付け工程を含む、油脂無添加の味付米菓を製造する方法に関する。
【0014】
本発明における米菓としては、せんべい類、ライスクラッカー類、あられ類、おかき類、かきもち、ライススナック等及びこれらの派生食品等を挙げることができる。米菓の形状、大きさに特に制限はないが、いわゆるおかきの形状にあるものが好ましい。
【0015】
本発明における米菓は、うるち米若しくはもち米又は米デンプンを主原料とし、小麦、そば、とうもろこしその他の穀粉を原料の一部として含むものでもよく、また穀粉以外に豆類、胡麻、ナッツ類等を含むものでもよいが、うるち米又はもち米以外の原材料を含まない米菓が好ましい。原材料となるうるち米又はもち米の品種には特別な制限はない。
【0016】
本発明の第1の態様は、油脂を使用せずに焼成した米菓に米粉懸濁液を噴霧する噴霧工程を含む。本工程において使用される米菓は、上述の原材料を蒸練して餅生地とし、所望の形状に成形した後に乾燥させ、これを揚げ油等の油脂を使用せずに焼成することで調製することができる。蒸練、成形、乾燥及び焼成の各操作は、一般的な米菓の各工程条件の下で行うことができ、各工程において特別な操作又は条件は特に必要とはされない。
【0017】
米粉懸濁液は、食用米、好ましくはうるち米又はもち米を粉砕して調製される米粉の水性懸濁液である。米粉の種類としては、上新粉、上用粉、かるかん粉、乳児穀粉等のうるち米由来のもの、白玉粉、餅粉、求肥粉、道明寺粉、寒梅粉、落雁粉、微塵粉等のもち米由来のもの等の旧来の米粉に加えて、近年製造が増えている精白米を直接乾式粉砕する米粉を挙げることができる。本発明においては、粉砕の前処理として糊化工程を経ない平均粒径40~100μm程度の乾式粉砕方式による米粉の使用が特に好ましい。米粉は、媒体に懸濁する際に速やかに吸水・糊化が進むように300μm以上の粒子を含まないことが望ましい。
【0018】
また、もち米を原料とする焼成米菓に対してはもち米を原料とする米粉懸濁液の使用が、うるち米を原料とする焼成米菓に対してはうるち米を原料とする米粉懸濁液の使用が好ましい。
【0019】
米粉懸濁液における米粉の懸濁量は0.01~0.50 w/v %、好ましくは0.10~0.30 w/v %、より好ましくは0.15~0.25 w/v %であればよい。また、米粉の懸濁を妨げない限り、米粉を懸濁する媒体は、水以外の液体例えばエタノールを少量含んでいてもよい。
【0020】
米粉を媒体に懸濁した後に静置すると沈殿物と上清とに分離することがあるが、噴霧工程において用いられる米粉懸濁液は、噴霧することが可能であるかぎり、上記の量の米粉を懸濁して得られる懸濁状態の懸濁液及びこれを静置した後に生じる上清のいずれであってもよい。本明細書においてはこれらの両方を米粉懸濁液と称する。
【0021】
米粉懸濁液の噴霧量は、米菓1kgの単位表面積(11,700cm2)当たり5~30mL、好ましくは10~20mL、より好ましくは14~16mLの範囲とすればよい。ここにいう米菓の面積とは、味付け前の焼成米菓の表面が平滑面であると仮定したときの面積を意味する。上記の範囲を下回るときは、焼成米菓表面への懸濁液の噴霧がむらになって米菓から調味料が剥がれやすくなる傾向が認められ、逆に上回るときは、必要以上に米粉を消費する等して無駄が生じたり、米菓が過剰に湿潤してしまい作業効率や品質が低下したりする等の傾向が認められる。
【0022】
米粉を水中で加熱したとき、液の粘度は米粉に含まれる澱粉の糊化と共に上昇してピーク(最高粘度)に達し、その後、澱粉粒の崩壊と共に一定の粘度(最低粘度:ブレークダウン粘度、ホールディングストレングスともいう)にまで急速に低下するが、加熱が止まり液の温度が下がると澱粉の老化が始まり、液の粘度は再び上昇して一定の値(最終粘度)になることが知られている。このような時間と粘度との関係を示す曲線をアミログラムという。噴霧工程において用いられる米粉懸濁液は、アミログラムにおいて最高粘度に到達した後であって最終粘度に到達する前の状態であることが好ましく、最低粘度に到達した状態であることがより好ましい。
【0023】
最高粘度に到達した後であって最終粘度に到達する前の状態である米粉懸濁液は、米粉を前述の懸濁量となるように90℃以上の熱水に加える又は室温程度の水に加えて90℃以上にまで熱した後に加熱を止める又は冷却することにより調製することができる。また、最低粘度に到達した状態である米粉懸濁液は、米粉を前述の懸濁量となるように90℃以上の熱水に加える又は室温程度の水に加えて90℃以上にまで熱した後に放冷し、懸濁液の温度を30~50℃とすることで調製することができる。
【0024】
なお、噴霧工程で使用される米粉懸濁液の好ましい状態を指すときの「最高粘度に到達した後であって最終粘度に到達する前の状態」は、懸濁液に含まれる糊化澱粉粒が崩壊した後であって老化が完了する前までの状態であり、この状態の米粉懸濁液の粘度は最低粘度から最高粘度までの間にある。同様に、「最低粘度に到達した状態」は、懸濁液に含まれる糊化澱粉粒が崩壊した後であって実質的な老化が認められない状態であり、この状態の米粉懸濁液の粘度は最低粘度に相当する。ここで最低粘度は、上述の一般的な用語における下限値ただ一点のみを指すものではなく、下限値を多少上回るものであっても噴霧効率が実質的に異ならない粘度も包含するものである。
【0025】
後述の試験例に示されるように、米粉は、市販の精製米デンプン等と比べ、最終粘度が高く、最低粘度と最終粘度の差(セットバック値)が大きい。この最終粘度の高さは固形調味料の付着に十分な付着力に与え、またセットバック値の大きさは噴霧時の作業性を向上させており、これらの特性がバインダとしての米粉の優位性に寄与していると考えられる。
【0026】
なお、噴霧工程において用いられる米粉懸濁液は、その中に含まれる澱粉粒の全てが崩壊していることは必要とされず、固形調味料の付着に必要な粘度を確保できるかぎり、一部が粒状構造を維持した澱粉であってもよい。
【0027】
噴霧工程は、糖蜜液や油脂等の従来のバインダを米菓に噴霧する作業に倣い、それら作業において一般的に用いられる機器、例えばドラムコーティング装置、スプレーコーティング装置等を用い、各機器の通常の運転操作及び条件に従って行うことができる。例えば、焼成米菓の適当量をドラムコーティング装置に投入し、ドラムを適当な速度で回転させながら機器に備え付けられたノズルから米粉懸濁液をドラム内に噴霧することで、噴霧工程を行うことができる。
【0028】
本発明の第1の態様は、米粉懸濁液噴霧後の米菓に粉状又は粒状の固形調味料を付着させる味付け工程を含む。
【0029】
粉状又は粒状の固形調味料としては、シーズニングパウダー、ハーブ粉末、醤油やソース等の液体調味料を粉末状にしたもの、きな粉等の穀粉、粉糖、ザラメ糖、粒塩、岩塩、フレーク等を挙げることができるが、これらには限定されない。特に好ましい固形調味料はシーズニングパウダーである。また、粉及び粒の大きさや形状は、米菓の味付けに使用可能なものであればよい。固形調味料の付着量は、調味料の種類や味付けの濃さ等を考慮して適宜定めることができる。
【0030】
噴霧された米粉懸濁液の粘度は、懸濁液の温度低下によって上昇して最終粘度に達する。この懸濁液粘度の上昇は、固形調味料の米菓への付着に有利である。このように、最低粘度に到達した状態の米粉懸濁液の噴霧とその後の粘度上昇は、バインダを噴霧するときの作業効率を改善し、同時に米菓への固形調味料の付着をより強くすることを可能とする。
【0031】
また、米粉に含まれる澱粉粒は、市販の精製デンプンとは異なり、粒度が不均一であって、大きいもので200μm以上、小さいものでは10μm未満の大小様々な粒子径を有する。この粒度の不均一性は、懸濁液噴霧後に米菓表面に形成される米粉バインダ層に微小な凹凸を与えることで固形調味料が付着する表面積を増加させ、ひいては米菓への固形調味料の付着量を増加させるものと考えられる。
【0032】
本発明の第1の態様における味付け工程は、糖蜜液や油脂等を噴霧した米菓に粉状又は粒状の固形調味料を付着させる作業に倣って行うことができる。例えば、ドラムコーティング装置、スプレーコーティング装置等の中で米粉懸濁液を噴霧した米菓に対して、ドラム内に適当量の粉末調味料を投入することで、味付け工程を行うことができる。味付け工程後の米菓は、さらに乾燥させ、最終製品とすることが好ましい。
【0033】
本発明の第1の態様にかかる製造方法では、米粉懸濁液以外のバインダを使用しないことが好ましい。先に説明したように、糖蜜液、油脂その他のバインダの使用を控えることで、米菓に様々な味付けを行うことが可能となると共に、調味の幅の制限、風味劣化、コスト高、食品表示法に基づく原材料表示等を回避することができる。バインダとして油脂を使用せずに得られた味付米菓は油脂無添加となり、賞味期限を6ヶ月以上と長く設定することができる。
【0034】
本発明の別の態様は、平均厚みが0.5μm~100μmである米粉バインダ層と、該米粉バインダ層の表面に付着した粉状又は粒状の固形調味料とを有する、油脂無添加の味付米菓に関する。この味付米菓は、本発明の第1の態様にかかる製造方法によって製造することができる。
【0035】
上記態様における米粉バインダ層は、肉眼でむらを見いだせない程度に米菓表面全体を覆う米粉から形成される層であり、その平均厚みは0.5μm~100μm、好ましくは0.5μm~50μm、より好ましくは0.5μm~20μmである。上述のように米粉は大小様々な粒子径で構成されていることから、これらの米粉粒子が糊化後、老化して形成される米粉バインダ層は、平均厚みは上記の通りであるものの局所的に見ると厚みは不均一であり、微小な凹凸を有するものと考えられる。したがって、上記態様における米粉バインダ層の表面積は、市販の精製デンプンのように粒子径の揃った澱粉粒が糊化後、老化して形成される比較的均一な澱粉層と比べて大きく、この不均一性により米菓への固形調味料付着量のいっそうの増加が可能になる。
【0036】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0037】
実施例1.シーズニング粉末を用いた味付おかきの製造
(1)米粉懸濁液の調製
もち米(「風の子もち」)を原料とした米粉1.0g(平均粒度74μm)を温度90℃の熱水500mLに加えて5分間撹拌した。その後、室温に静置して懸濁液の温度を40℃に冷やして、米粉懸濁液を調製した。
【0038】
(2)米菓の調製
もち米(「風の子もち」)を蒸練して得た餅生地を賽の目状に成形し、水分含量が35%になるまで乾燥させた後、200℃のオーブンで焼いて、一粒が概ね2.5×2.5×1.0cmの長方体のおかき5kgを調製した。
【0039】
(3)米粉懸濁液の噴霧及び味付け
5kgのおかきをドラムコーティング機に投入し、(1)で調製した米粉懸濁液75mLを5mL/秒の速度で噴霧した後、一部のおかきをサンプリングした。次いで、コーン風味のシーズニング粉末100gをドラムに投入して回転させ、味付けを行った。味付け後のおかきをドラムコーティング機から乾燥機に移し、水分含量が5%になるまで乾燥して、コーン風味の油脂無添加おかきを得た。
【0040】
実施例2.ザラメ糖を用いた味付おかきの製造
実施例1の(3)におけるシーズニング粉末をザラメ糖500gに換えることで、ザラメ糖が付着した油脂無添加おかきを製造した。
【0041】
試験例1.米粉及び市販米デンプンの粘度特性分析
実施例1及び2で使用したもち米(品種:「風の子もち」)を原料とした米粉(もち米粉)、うるち米(品種:「ななつぼし」)を原料とした米粉(うるち米粉、平均粒径70μm)、並びに対照として市販のもち米加水分解物(市販品A)、市販のうるち米加水分解物(市販品B)及び市販の米菓添着用アルファー化加工デンプン(市販品C)の5つの試料について粘度特性を分析した。各試料3.5gをそれぞれ水25gに懸濁し、0分:25℃→1分:25℃→10分:95℃→15分:95℃→26分:25℃→30分:25℃の温度経過プログラムに伴う回転粘度をラピッドビスコアナライザー(ニューポートサイエンティフィック社、3D型)を用いて測定した。
【0042】
各試料のアミログラムを
図1に示す。もち米粉及びうるち米粉は、糊化に伴う最高粘度、その後のデンプン粒崩壊に基づく最低粘度、デンプンの老化に伴う最終粘度ピークが観察され、粘度の変動幅、特に最低粘度と最終粘度の幅(セットバック値)が大きかった。一方、市販品A~Cはいずれも明瞭な粘度変化は観察されず、温度変化にかかわらず極めて低い粘度で推移した。上記の結果から、米菓に固形調味料を付着させるための粘弾性は、市販品A~Cよりも本発明で使用する米粉の方が優れていることが確認された。
【0043】
試験例2.おかきの表面観察
実施例1の(3)で米粉懸濁液を噴霧したおかきをそのまま乾燥させて、味付けをしていないおかきを調製した。また、実施例1の(2)で調製したおかきの片面に米粉懸濁液を噴霧し、さらにコーン風味のシーズニング粉末をその片面に付着させたおかきを調製した。
【0044】
上記のようにして新たに調製した2種類のおかき(米粉懸濁液噴霧後に乾燥したおかき、片面にシーズニング粉末を付着させたおかき)に加えて、実施例1の(2)で調製した米粉懸濁液噴霧前のおかき及び実施例2で製造したザラメ糖を付着させたおかきの各々について、表面を実体顕微鏡で拡大して撮影した写真を
図2上段に、おかきの全体写真を
図2下段に示す。シーズニング粉末及びザラメ糖を付着させたおかきにおいて、シーズニング粉末及びザラメ糖がおかきの表面に付着していること、特にシーズニング粉末は米粉懸濁液を噴霧した部分にまんべんなく付着していることが確認された。
【0045】
また、米粉懸濁液を噴霧後そのまま乾燥させた味付けをしていないおかきを横方向から撮影した拡大写真を
図3に示す。米粉懸濁液を噴霧したおかきの表面に光沢のある米粉バインダ層が形成されており、その表面に凹凸が生じていることが確認された。
【0046】
さらに、ザラメ糖を付着させたおかきを横方向から撮影した拡大写真を
図4に示す。ザラメ糖が米粉バインダ層に一部埋没するようにして米菓に付着していることが確認された。また、画像解析により、ザラメ糖の縁周辺の盛り上がっている米粉バインダ層の厚さは約20μm程度、ザラメ糖から離れた位置にある米菓表面の米粉バインダ層の厚さは平均約2μm程度と推定された。
【0047】
試験例3.米粉懸濁液を噴霧した真鍮製試料台の表面観察
実施例1の(1)で調製した米粉懸濁液を、実施例1の(3)における米粉懸濁液の噴霧量とおかきの表面積との比率を維持されるようにして真鍮製試料台に噴霧し、乾燥させた。この真鍮製試料台の表面を走査電子顕微鏡で撮影した写真を
図5に示す。
【0048】
上記条件下での噴霧により、真鍮製試料台上に約0.5μmの厚みの米粉バインダ層が形成されることが確認された。