(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】シリカグラウトおよびそれを用いた地盤注入工法
(51)【国際特許分類】
C09K 17/12 20060101AFI20220128BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20220128BHJP
C01B 33/141 20060101ALI20220128BHJP
C01B 33/18 20060101ALI20220128BHJP
C09K 103/00 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
C09K17/12 P ZAB
E02D3/12 101
C01B33/141
C01B33/18 Z
C09K103:00
(21)【出願番号】P 2021109218
(22)【出願日】2021-06-30
【審査請求日】2021-07-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000162652
【氏名又は名称】強化土エンジニヤリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】角田 百合花
(72)【発明者】
【氏名】田井 智大
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 隆光
(72)【発明者】
【氏名】島田 俊介
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特許第6796305(JP,B1)
【文献】特開2019-011473(JP,A)
【文献】特表2018-524256(JP,A)
【文献】特許第6910045(JP,B1)
【文献】特開平10-102058(JP,A)
【文献】特開平09-003871(JP,A)
【文献】特開平08-333570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 17/00 -17/52
E02D 3/12
C01B 33/141
C01B 33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地熱水中のシリカを収集して得られたシリカコロイドを有効成分とするシリカグラウトであって、該シリカコロイド中に含まれる重金属の含有量が地盤注入の目的に対応した環境基準値以下であ
り、
前記シリカコロイドとして、シリカ濃度2~50w/v%の範囲で、コロイドの生成にあたって生ずる粒子径ごとの粒子数のばらつきが大きく幅広い粒子径分布幅を有し、かつSiO
2
以外の溶存物の種類および濃度のばらつきが大きい原料シリカコロイドを、粒子径分布幅が2~20nmの範囲で粒子径分布幅の標準偏差が10以下、尖度が7~50となるようにして、粒子径を揃えて粒子径分布幅を狭めることで、地盤注入材としてのばらつきを低減したものを用いることを特徴とするシリカグラウト。
【請求項2】
前記シリカコロイドおよび/またはシリカグラウト中に含まれる重金属の含有量が、ゲル化物を蒸留水中に浸漬して溶出した重金属の分析値で、地盤注入の目的に対応した環境基準値以下である請求項1記載のシリカグラウト。
【請求項3】
前記シリカコロイドの粒子径分布幅の領域が、シリカ濃度が2~50wt%の範囲で、シリカ濃度が高ければ粒径の大きい領域に存在し、シリカ濃度が低くなると粒径の小さい領域に移行する請求項1または2記載のシリカグラウト。
【請求項4】
前記シリカコロイドの、シリカ濃度が2~50w/v%であって粒子径分布幅が2.0~14.5nmの範囲であり、体積平均径が2~15nmの範囲である請求項1~
3のうちいずれか一項記載のシリカグラウト。
【請求項5】
前記シリカコロイドのpHが8.5~10.5である請求項1~
4のうちいずれか一項記載のシリカグラウト。
【請求項6】
前記シリカコロイドとともに酸および/または塩を有効成分として含み、pHが1.0~10.5の範囲にある請求項1~
5のうちいずれか一項記載のシリカグラウト。
【請求項7】
前記シリカコロイドとともに水ガラスと酸性反応剤および/または塩とを有効成分として含み、シリカ濃度が0.4~50.0w/v%であって、pHが1.0~10.0の範囲にある請求項1~
6のうちいずれか一項記載のシリカグラウト。
【請求項8】
請求項1~
7のうちいずれか一項記載のシリカグラウトを地盤に注入して地盤を改良することを特徴とする地盤注入工法。
【請求項9】
前記シリカグラウトのpH(pH0)を地盤のpH値(pHs0)よりも酸性側である1~4の範囲とした上で、該シリカグラウトを地盤に注入することにより、該シリカグラウトの土中pH(pHs)を中性方向に移行させ、土中ゲルタイム(GTs)を短縮させて地盤を固結する請求項
8記載の地盤注入工法。
【請求項10】
一次注入材を注入して地盤の粗詰を行ってから、前記シリカグラウトを二次注入材として該地盤に注入する請求項
8または9記載の地盤注入工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地熱水由来のシリカコロイドを有効成分とするシリカグラウトおよびそれを用いた地盤注入工法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤を固結する耐久性に優れた地盤注入材として、本出願人によるコロイダルシリカを用いた注入材がすでに知られている(特許文献1)。コロイダルシリカはそれ自体が安定性に優れ、固結性がないため、塩および/または酸を加えて不安定化させてゲル化させるか、あるいは、さらに水ガラスを加えて強度発現を速くしたり、長い浸透性をもつ酸性~弱アルカリ性のpHに調整して、シリカグラウトに用いられる。
【0003】
これらのコロイダルシリカは、水ガラスのアルカリをイオン交換法により除去した弱酸性のシリカゾルを弱アルカリ性のpH領域で増粒させてつくるか、または、金属シリカを溶解して製造される。これらのシリカコロイドは、製造にあたって多くのエネルギーとコストを要するため、近年の地球温暖化を防ぐための脱CO2の社会的要求から、低エネルギーですむ地盤改良材および地盤注入工法が望まれている。
【0004】
一方で、近年、火山地帯の地熱エネルギーを利用した地熱発電が注目されており、これに伴い、地熱水由来のシリカコロイドの収集方法が提案されている(特許文献2)。地熱発電は、蒸気や熱水からなる地熱流体を地下から取り出して、発電に用いるものである。地下は高温高圧であり、地盤中の岩石の成分であるシリカも溶解しており、この地熱水由来のシリカコロイドは、水ガラスを用いて高エネルギーを要するイオン交換法により得られる従来のコロイドに比べて、地球温暖化の原因であるCO2ガスを低減でき、環境保全性や製造コストの低減の点で優れたシリカコロイドということができる。
【0005】
また、特許文献3,4には、地熱水由来のシリカを用いた地盤注入用固結材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特公平6-62953号公報
【文献】特表2018-524256号公報
【文献】特開2019-11473号公報
【文献】特許第6796305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、地盤注入用固結材として、イオン交換法によるシリカコロイドを用いたシリカグラウトは、本発明者らによる発明(特許文献1)等で使用されている。また、地熱水由来のシリカコロイドを用いる地盤注入技術は、すでに知られている(特許文献3,4)。しかし、本発明者らによる研究では、地熱水由来のシリカコロイドは地熱水中の場所の条件やコロイド化の条件により組成のばらつきが大きく、地盤注入工法に用いる場合、従来使用されている、SiO2以外の不純物をほとんど含まないイオン交換法によるシリカコロイドと比べて粒子径分布幅が広く(6~90nm)、あるいはばらついており、製造から現場使用に至るまでの安定性が不十分であり、また、施工にあたってのゲルタイムが不安定であり、粘性が高く、注入目的に要求される所定の設計強度や浸透性を得るための浸透固結性が不安定であり、かつ、細粒土地盤への浸透が阻害されて好ましくないことが判った。なぜならば、液状化対策に用いる場合は、現場土を用いて室内試験および浸透固結試験を行い、所定の強度が得られる配合を設定して本施工に適用するため、シリカコロイドの品質が一定でないと、現場適用した場合に室内試験で得られた所定の浸透固結性が現場で確保できず、注入設計が難しくなるからである。
【0008】
地熱水由来のシリカコロイドを用いた地盤注入材(特許文献3)によれば、地熱水から収集されるシリカコロイドは粒子径幅が6~90nmと広く、その尖度が0~6.0と低く(すなわち、粒子径分布幅が広く粒子径分布のピークが低い)、また、特許文献2によれば、地熱水にはSiO2の他に、Ca、K、Al、Na、S、Cl、Asなどが溶解されているという特性がある。このように地熱水由来のシリカコロイドの粒子径分布幅が広く、溶存物が種々の濃度で含まれている理由は、地熱水は地殻中に岩石由来の多くのイオン類などの溶存物質を含むため、地熱水を85~200℃の初期温度から25~70℃まで冷却するとこれらの溶存物質の溶解度が低下し、溶存物が析出してシリカコロイドの成長が開始し、これを沈殿材を用いたり限外ろ過やダイヤフィルトレーションを用いてコロイダルシリカ濃縮物を生成させることで、このシリカコロイドが得られるためである。また、地熱水中の溶存物の種類や濃度は、地熱水が噴出する場所や濃さ、岩盤の種類や地熱によって異なることも理由となる。
【0009】
また、特許文献2には、地熱水中に含まれるヒ素、アンチモン、水銀およびホウ素等はシリカコロイド内に結合されておらず、よってシリカコロイドを生成した濃縮物から限界ろ過およびダイヤフィルトレーションを組み合わせて得る際に、ICPおよびXRFによる化学分析で重金属を検出限界以下に除去できる旨、記載されている。但し、その環境基準値は、土壌溶出基準または地下水基準、第二溶出基準、一律排水基準があり、それぞれ異なった値である(特許文献4)。したがって、検出限界値が地盤注入目的に対応した環境基準値以下を一律排水基準とすれば、その基準値以下ならばそのまま地盤注入に使用できるし、それを超えればさらに精製するか不溶化剤を用いて基準値以下にすればよい。
【0010】
地熱水から生成するコロイドの粒径や粒子径分布幅、濃度は、冷却温度や熱処理、その後のpHなどによって異なる。これらの条件によって種々の粒子径分布を有するシリカコロイドを生成させることができる(特許文献2)。しかし、従来このように地熱水からのシリカコロイドの物性については記載されているが、それを地盤注入に適用した場合の問題点およびその解決方法については、何ら知られていなかった。本発明者らは、地熱水由来のシリカコロイドの地盤注入のための実用化研究を進めた結果、以下のことがわかった。
【0011】
地熱水中に含まれるシリカ材を地盤注入に用いる場合の課題は、以下のとおりである。
すなわち、地熱水中に含まれるシリカ材には、SiO2以外にCa、K、Al、Fe、As等が含まれている。また、地熱水からコロイダルシリカ濃縮物を生成させるための沈殿材として、NaCl、CaCl2、FeCl3、MgCl、ポリ塩化アルミニウム等が使用されている。これらの溶存物はシリカコロイドの安定性のみならずシリカグラウトのゲル化に影響をもつ成分である(特許文献1参照)。地熱水の噴出箇所は、場所や深度や岩石の成分によって異なる。従って、採取された地熱水の場所や濃度、地熱によって、これらのSiO2以外の溶存物の種類や濃度も異なる。また、これらの溶存物は、シリカ溶液のゲル化や安定性に影響をもつイオンであるため、地盤注入に適用する場合、シリカコロイド製造後、使用に至るまでの貯蔵期間(可使期間)の材料としての安定性や注入材の配合、強度設計時におけるゲル化にバラつきが生じたり、あるいは、多様な地盤に注入した場合に地盤中の組成物と反応して土中におけるゲル化にバラつきが生じたり、また、現場貯蔵中に温度によってゲル化が進行して注入材として不安定が生ずる可能性がある。
【0012】
以上の課題を解決するために、本発明者らは、地熱水中に含まれるシリカ材を地盤注入に適用するにあたって上述した溶存物の違いが地盤注入の実際に影響を及ぼさないように、後述するように品質を一定にすることにより貯蔵中あるいは施工中における品質を安定せしめ、ならびに、注入材そのもののゲルタイムおよびpH、すなわち、気中ゲルタイム(GT0)、気中pH(pH0)、それを地盤に注入した場合の土中pH(pHs)、および、土中ゲルタイム(GTs)を確認して、注入方式および注入設計から得られた注入時間(H)との関連を確認し、注入液中の溶存物のばらつきによる影響を抑え、注入目的を満たす配合設計を行うことができるようにして、地熱水由来のシリカ材を用いたシリカグラウトの実用化を可能にした。
【0013】
また、注入目的を達するためには、注入対象地盤からの注入材の逸脱を防ぎ、粗い層に対し懸濁液または瞬結性グラウトを一次注入して地盤を均質化してから、本発明のシリカグラウトを注入すれば、対象となる地盤を確実に固結することができる。
【0014】
本発明者らの研究によれば、地熱水由来のシリカコロイドを有効成分とするシリカグラウトは、上記溶存物の影響で、シリカコロイドの粒子径分布幅が大きいほど、また大きな粒径のシリカコロイドを含有するほど、品質のばらつきによる上記問題が大きくなることがわかった。また、粒径が小さすぎると、金属イオンの含有物の存在によりシリカコロイドが不安定になる。さらに、地盤注入を目的とするシリカコロイドの観点からみる場合、施工現場では冬期は低温になり、夏場は直射日光により貯蔵槽や配合槽は高温になる。従って、夏場は高温でシリカコロイド溶液は反応が進行し、冬場は凝結現象も生じる。そのため、地盤注入工法としては、シリカコロイドそのものの品質の安定化が望ましい。また、上記溶存物が多ければ粘度が高くなり、ゲル化時間や浸透固結性が不安定になり、浸透距離を長くするには注入圧が上昇することが判った。さらに、溶存物を含むシリカコロイドが大きな粒径のシリカを含むと、土粒子間における間隙充填率が低下して、固結強度がばらつきやすく、問題が生ずることが判った。さらにまた、不均質な地盤に注入する場合、粘性が高くゲルタイムが短いと粗い部分から注入対象外へ逸脱して、細かい部分に浸透しにくいため、地盤注入目的には適用しにくいことが判った。
【0015】
従来技術では、地熱水由来のコロイドを地盤注入に適用する場合のSiO2以外の溶存物の存在も、その問題点も知られていなかった。また、特許文献3には、地熱水由来のシリカコロイドはイオン交換法によるシリカコロイド(粒子径分布幅が10~20nm)に比べて、粒子径分布幅が大きく(6~90nm)、尖度が小さく(0~6.0)、イオン交換法のコロイドと同等かやや低い固結効果があると記載されているが、これらの溶存物を含むシリカコロイドを地盤注入に適用した場合に、ゲル化や浸透固結が不安定になる問題点も、それを解決する地盤注入工法についても、また重金属の問題についても、何ら記載されていない。
【0016】
また、特許文献2では、単に地熱水由来のシリカコロイド並びにその製造方法について記載されているだけであって、それを注入材として用いることも、注入材として用いる場合の問題点も、それを解決することができる地盤注入工法の記載もない。
【0017】
本発明は、上述した課題を解決し、地熱水由来のシリカコロイドを地盤注入工法に適用することを可能にすることを目的とする。また、引用文献4は、本出願人による発明であって、シリカを含有する地熱水そのものにおける重金属の含有量が不溶化材を用いて環境基準値以下または一律排水基準値以下に低減された注入材を用いる地盤注入工法であり、不溶化材を加えた地熱水をそのまま注入材として注入するのに対して、本発明は、地熱水から収集したシリカを所定のシリカ濃度で粒子径分布幅を狭く調整して溶存物のばらつきによる影響を少なくし、品質を一定化したコロイドを有効成分としたシリカグラウトである。本発明のシリカグラウトは、地熱水由来のシリカコロイドが注入目的に対応した環境基準値以下を満たせば、そのまま注入できるし、または、シリカコロイドに不溶化材を加えて基準値以下に調整して注入するものであって、不溶化材は少なくて済み、地熱水そのものを地盤に注入するものではない。従って、特許文献2,4も、本発明とは異なる注入材である。
【0018】
そこで本発明の目的は、注入材としての品質のばらつきを低減することにより、シリカコロイドの製造から現場施工に至るまでの安定性に優れ、かつ、現場注入にあたってのシリカグラウトのゲル化が安定であり、浸透固結性も安定した環境負荷の少ないシリカグラウトおよびそれを用いた地盤注入工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
地熱水由来のシリカコロイドは、特許文献3には粒子径分布幅が6~90nmと記載され、特許文献2には、製造方法にもよるが種々の粒子径範囲のコロイドが得られると記載されている。このように地熱水由来のシリカコロイドはSiO2濃度も粒子径分布幅も広く製造法によって粒子径分布幅が異なり、かつ、SiO2以外の溶存物が含有しており、これらの溶存物は、地盤注入に用いる場合の品質のばらつきによる施工にいたるまでの注入材としての安定性や注入した場合のゲル化と地盤における浸透固結性や現場施工における所定の効果を得るための配合設計に影響する。
【0020】
本発明者らは、以上述べたような、従来の地熱水由来のシリカコロイドを用いたシリカグラウトの課題を解決するために、地熱水由来のシリカコロイドが本来、粒子径分布幅が大きく、あるいは粒子径分布幅のばらつきが大きく、また、組成の濃度や種類のばらつきが大きく、かつ、コロイドの安定性やゲル化に影響をもつSiO
2以外の溶存物を含むことに着目し、
図1に示すように粒子径を小さくかつ最大粒子径と最小粒子径との粒子径分布幅を小さく(すなわち、粒子径分布における標準偏差を小さく、或いは尖度を大きく)することで、品質を一定にしたシリカコロイドを有効成分として含むシリカグラウトを用いることにより、上述の貯蔵中や施工中の現場における品質を安定化させ、コロイドのゲル化と浸透固結性の安定性や配合設計の問題を解決して、細粒土への浸透固結性と長い浸透距離を得ることが可能になることを見出した。また、このように品質を一定化することにより、溶存物の金属イオンが強度増加に寄与するものと思われ、イオン交換法によるシリカコロイドに比べて固結砂強度が大幅に増加するという極めて優れた効果が得られることが判った。その結果、地熱水由来のシリカコロイドの地盤注入への適用を可能にし、かつ、注入工事にあたって品質のばらつきによる地盤注入への影響を抑えて安定したゲル化と固結性を得、高い強度を得、注入目的に要求される設計強度を可能にし、所定の浸透性を得るための浸透固結性を確実にして液状化対策工等の広範囲の地盤改良に適合することが可能になった。特に、
図2に記載されているように、特許文献3における地熱水から収集したシリカコロイドは、6~90nmの大きな粒子径分布幅と低い尖度3.29(特許請求の範囲では0~6)をもつ。これに対し、イオン交換法によるシリカコロイドでは、粒子径分布幅がそれよりも小さく、大きな尖度で14.51である。ここで尖度とは、正規分布に対する分布形態を表す指標である。また、両者の強度試験では、上記地熱水由来のシリカコロイドを用いたシリカグラウトによる固結砂の強度は、イオン交換法のそれに比べてやや低い結果となる。これに対し、本発明者らは、粒子径の小さい方向に粒子径分布の幅を狭めることで、大きな粒径のシリカ粒子を含まず、品質を一定にした地熱水由来のシリカコロイドを用いて、イオン交換法によるシリカコロイドを用いた強度と比較することにより、シリカグラウトの強度が大幅に増加することを見出した。
【0021】
また、
図1に係る上記粒子径を小さい方向に粒子径分布幅(粉体、つまり集合体としての粒子の大きさは、多数個の測定結果を大きさ(粒子径)毎の存在比率の分布として表すのが一般的である。これを粒子径分布という。)をせばめた本発明に係るシリカコロイドについて、
図2~7より標準偏差を求め表2に示し、また、尖度も示した。標準偏差とは、平均値からのバラツキ具合を表す指標の一つであり、ここではこの値が大きい場合、粒度の分布幅が大きくなる。表2の標準偏差は、特許文献3のシリカコロイドは11.7であり、コロイド1は4.24である。本発明に用いるシリカコロイドでは、コロイド2は1.44、コロイド3は1.93であった。本発明者らによれば、粒子径の小さい方向に粒子径分布の幅を狭めることで大きな粒径のシリカ粒子を含まず、品質が一定となった本発明に用いる地熱水由来のシリカコロイドでは、標準偏差が10以下と小さくなり、地盤注入材として優れた効果が得られることがわかった。
【0022】
本発明者らは、地熱水由来のシリカコロイドは地熱水が湧出した場所、岩石の種類、温度やコロイドの生成方法によってシリカ濃度や粒子径分布、溶存物の種類および濃度が異なることから、地盤注入の目的としてどのような粒子径分布のシリカコロイドが適切かという研究を行った。
【0023】
本発明に用いる表4,5のシリカコロイド2,シリカコロイド3の粒子径分布を、動的光散乱法またはシアーズ法で測定した。また、このシリカコロイドを希釈して塩や酸、水ガラスと共に使用する場合に対応して、10倍希釈液を用いて、シリカ濃度3w/v%の粒子径分布を
図6,7に示した。また、参考のために、表3のシリカコロイド1の粒子径分布を
図2に、その10倍希釈液である3w/v%の粒子径分布幅を
図5に、それぞれ示す。また、各コロイドの粒子径分布を
図2にまとめた。表2に
図2,3,4,5,6,7の粒子径分布測定結果による体積平均径(nm)を示す。
さらに、表2に、物性および粒子径、尖度、標準偏差、体積平均径(体積の平均径の値である)をまとめた。
【0024】
図1に、粒子径分布のパターンをまとめる。本発明におけるシリカコロイドは、
図1中に本発明として示すように、粒子径が小さく粒が揃っていることが特徴である。そして、地熱水由来のシリカコロイドにおいて、このようなパターンのシリカコロイドを用いることによって、地盤注入材としてのばらつきの少ない地盤注入材が得られることがわかった。
【0025】
研究の結果、地熱水由来のシリカコロイドはコロイド生成にあたって生ずるシリカ濃度や粒子径分布幅が広く、あるいはばらつきが大きく(標準偏差は11より大きく、尖度が0~6)、地盤注入材としては品質の安定性に欠けるという問題があった。そこで、本発明者らは、シリカコロイドをシリカ濃度2~50w/v%の範囲で粒子径を小さく粒子径分布幅を狭めて品質を一定にすることにより、地盤注入材としてのばらつきを低減したシリカコロイドを用いるシリカグラウトを開発した。好適には、シリカコロイドの濃度が2~50w/v%の範囲で粒子径分布幅を狭く粒子径分布の体積平均径が粒径の小さい方向に移行するように狭めることにより、地盤注入材としてのばらつきを低減したシリカコロイドを用いるシリカグラウトであって、さらに好適には、粒子径分布幅2~20nmの範囲で、粒子径分布幅を狭めて品質を一定にすることにより、上記効果を得られることがわかった。本発明に用いるシリカコロイドは、
図2、表4のシリカコロイド2、
図2,
図4、表5のシリカコロイド3であり、
図3のシリカコロイドを10倍希釈したシリカコロイドを
図6に、
図4のシリカコロイドを10倍希釈したシリカコロイドを
図7に、それぞれ示す。実際のシリカグラウトは、水ガラスや反応剤と共に用いることにより表4,
図3のシリカコロイドが希釈されてシリカコロイドのシリカ濃度を3%濃度にして用いる場合があるからである。
図2のシリカコロイド2,3,4、
図3、
図4、
図6,
図7、表4,表5より、本発明に係るシリカコロイドは標準偏差が10以下、粒子径分布幅は2~20nm、尖度は6よりも大きい。すなわち、特許文献3の粒子径分布幅が大きく尖度が小さいシリカコロイドを用いたシリカグラウトは、固結強度がイオン交換法(
図2のコロイド1、
図5、表3)による固結強度より低いかほぼ同一であるのに対し、本発明者らによる地熱水由来のシリカコロイドを用いたシリカグラウトは、イオン交換法によるシリカグラウト(シリカコロイド1)よりも固結強度が高くなることが判った(表2,表6、表7)。
図2からわかるように、本発明者らによる地熱水由来のシリカコロイド(シリカコロイド2、3,4)は、粒子径分布幅がイオン交換法のコロイド(シリカコロイド1)よりも小さく、かつ、その粒子径分布曲線の傾きが立っている。すなわち、
図1に示すように粒子径分布において粒子径が小さく、当然、特許文献3のコロイドよりも粒子径分布幅が小さく、尖度は6よりも大きく、好ましくは7~50である。このように本発明は、シリカコロイドの粒子径分布幅を狭くかつ粒径を小さく揃えて品質を一定にすることにより、地盤注入に用いてゲル化と浸透固結性が安定し、耐久性に優れ、強度が高く浸透性に優れ、安定した所定の設計強度が得られ、環境にも優れたシリカグラウトおよび注入工法を実現したものである。以下に具体的に説明する。
【0026】
すなわち、本発明のシリカグラウトは、地熱水中のシリカを収集して得られたシリカコロイドを有効成分とするシリカグラウトであって、該シリカコロイド中に含まれる重金属の含有量が地盤注入の目的に対応した環境基準値以下であり、
前記シリカコロイドとして、シリカ濃度2~50w/v%の範囲で、コロイドの生成にあたって生ずる粒子径ごとの粒子数のばらつきが大きく幅広い粒子径分布幅を有し、かつSiO2以外の溶存物の種類および濃度のばらつきが大きい原料シリカコロイドを、粒子径分布幅が2~20nmの範囲で粒子径分布幅の標準偏差が10以下、尖度が7~50となるようにして、粒子径を揃えて粒子径分布幅を狭めることで、地盤注入材としてのばらつきを低減したものを用いることを特徴とするものである。
【0027】
本発明のシリカグラウトにおいては、前記シリカコロイドの粒子径分布幅の領域が、シリカ濃度が2~50wt%の範囲で、シリカ濃度が高ければ粒径の大きい領域に存在し、シリカ濃度が低くなると粒径の小さい領域に移行することが好ましい。
【0030】
本発明のシリカグラウトにおいては、好ましくは、前記シリカコロイドのシリカ濃度が2~50w/v%の範囲であって粒子径分布幅が2~20nmの範囲、好適には2.0~14.5nmの範囲であり、好適には前記シリカコロイドの体積平均径が2~15nmの範囲である。また、前記シリカコロイドのpHは、好適には8.5~10.5である。さらに、粒子径分布において尖度は7以上、好ましくは7~50である。さらにまた、粒子径分布幅の標準偏差は10以下である。
【0032】
本発明のシリカグラウトにおいては、前記シリカコロイドおよび/またはシリカグラウト中に含まれる重金属の含有量が、ゲル化物を蒸留水中に浸漬して溶出した重金属の分析値で、地盤注入の目的に対応した環境基準値以下であることが好ましい。
【0033】
本発明のシリカグラウトは、前記シリカコロイドとともに酸および/または塩と配合水とを有効成分として含み、pHが1.0~10.5の範囲にあることが好ましい。また、本発明のシリカグラウトは、前記シリカコロイドとともに水ガラスと酸性反応剤および/または塩と配合水とを有効成分として含み、シリカ濃度が0.4~50.0w/v%であって、pHが1.0~10.0の範囲にあることも好ましい。上記において配合水は、通常は地盤注入に用いる水道水、河川水あるいは海水などである。
【0034】
本発明の地盤注入工法は、上記本発明のシリカグラウトを地盤に注入して地盤を改良することを特徴とするものである。
【0035】
本発明の地盤注入工法においては、前記シリカグラウトのpH(pH0)を地盤のpH値(pHs0)よりも酸性側である1~4の範囲とした上で、該シリカグラウトを地盤に注入することにより、該シリカグラウトの土中pH(pHs)を中性方向に移行させ、土中ゲルタイム(GTs)を短縮させて地盤を固結することが好ましい。
【0036】
また、本発明の地盤注入工法においては、一次注入材を注入して地盤の粗詰を行ってから、前記シリカグラウトを二次注入材として該地盤に注入することも好ましい。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、ばらつきの大きい地熱水由来のシリカコロイドを用いて、シリカコロイドの製造から現場施工に至るまでの安定性に優れ、かつ、現場注入にあたってのシリカグラウトのゲル化が安定であり、浸透固結性も安定した環境負荷の少ないシリカグラウトおよびそれを用いた地盤注入工法を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】粒子径分布パターンおよび本発明に用いるシリカコロイドを示す説明図である。
【
図2】各コロイドの累積頻度分布を示すグラフである。
【
図3】シリカコロイド2(蝶理(株)による)の粒子径分布測定結果を示すグラフである。
【
図4】シリカコロイド3(蝶理(株)による)の粒子径分布測定結果を示すグラフである。
【
図5】シリカコロイド1(10%希釈)の粒子径分布測定結果を示すグラフである。
【
図6】シリカコロイド2(10%希釈)の粒子径分布測定結果を示すグラフである。
【
図7】シリカコロイド3(10%希釈)の粒子径分布測定結果を示すグラフである。
【
図9】浸透法による固結供試体の作製状況を示す写真図である。
【
図10】浸透試験の試験装置(一次元注入試験、モールド長1m)を示す写真図である。
【
図11】浸透法による一軸圧縮強さを示すグラフである。
【
図12】浸透距離および一軸圧縮強さを示すグラフである。
【
図13】各シリカコロイドを用いたサンドゲル(6%および10%)の強度と経過日数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0040】
本発明のシリカグラウトは、地熱水中のシリカを収集して得られたシリカコロイドを有効成分とする。本発明においては、このシリカコロイドとして、コロイドの生成にあたって生ずる粒子径ごとの粒子数のばらつきが大きく幅広い粒子径分布幅を有する原料シリカコロイド、または、粒子径ごとの粒子数のばらつきが大きい原料シリカコロイドを、シリカ濃度2~50w/v%の範囲で、粒子径を小さくするとともに粒子径を揃えて粒子径分布幅を狭めた、地盤注入材としてのばらつきを低減したもの、または、シリカ濃度が2~50w/v%の範囲で、コロイドの生成にあたって生ずる粒子径ごとの粒子数のばらつきが大きく幅広い粒子径分布幅を有する原料シリカコロイドの、粒子径分布幅の標準偏差を10以下に狭めることにより、地盤注入材としてのばらつきを低減したもの、または、シリカ濃度2~50w/v%の範囲で、コロイドの生成にあたって生ずる粒子径ごとの粒子数のばらつきが大きく幅広い粒子径分布幅を有する原料シリカコロイドを、粒子径分布幅が2~20nmの範囲で粒子径分布幅の標準偏差が10以下、尖度が7~50となるようにして、地盤注入材としてのばらつきを低減したものを用いる。または、シリカコロイド中に含まれる重金属の含有量が、地盤注入の目的に対応した環境基準値以下であるものを用いる。
【0041】
これにより、地盤注入材としての品質を一律にして、地熱水中に含まれる溶存物のばらつきに起因する問題を解消し、製造から現場施工に至るまでの安定性を確保して、現場注入の際のシリカグラウトのゲル化および浸透固結性を安定させて、所定の地盤改良を可能にしつつ、地盤汚染がなく環境負荷の少ないシリカグラウトおよびそれを用いた地盤注入工法を提供することができる。
【0042】
排水基準と環境基準の例を、下記の表1に示す。第二種特定有害物質の基準として、土壌溶出量基準または地下水基準、第二溶出量基準、さらに、自然的要因の上限値の目安、および、一律排水基準を一覧にした。環境基準としては、地下水の水質汚濁に係る環境基準、および、土壌環境基準を記載した。
【0043】
【0044】
特許文献2に記載されているように、地熱水由来のシリカコロイド中の重金属はシリカコロイド内に結合されておらず、シリカコロイド生成中にシリカ成分の濃縮物から限外ろ過およびダイヤフィルトレーションを組み合わせることによってICPおよびXRFによる化学分析の検出限界以下に除去できる。また、目的に応じ、不溶化剤を加えることによって基準値を満たすことができる。
【0045】
以下に、汚染重金属の不溶化の例を説明する。
複合汚染土に対する不溶化として、宇部マテリアルズ株式会社製のマグネシウム系の不溶化材である「グリーンライムMP-S」を使用した不溶化の一例を示す。配合量30kg/m3を用いた試験では、ヒ素とセレンの含有量が約0.03mg/Lであったものが、養生6時間後には、土壌溶出量基準0.01mg/L以下まで低減している。マグネシウム系薬剤がヒ素を不溶化した事例である。よって、同様にして、地熱水中に含まれるヒ素やセレンなどの重金属を、環境基準値以下に不溶化することが可能であることがわかる。
【0046】
地盤注入を目的とする場合、通常、一律排水基準が用いられている。従って、シリカグラウトは、ICPやXRFなどによる化学分析によって、地盤注入の目的に対応した基準値以下を満足していればよい(特許文献4)。また、シリカコロイドおよび/またはシリカグラウト中に含まれる重金属の含有量が地盤注入の目的に対応した値以下であるか否かの判断は、そのゲル化物を蒸留水中に浸漬して溶出した重金属の分析値で判断すればよい。
【0047】
(シリカコロイドの物性)
図2に、各シリカコロイドの粒径加積曲線を示す。表2に、各シリカコロイドの物性を示す。
図3,
図4はそれぞれ、表4,表5のシリカ濃度がほぼ30wt%の粒子径分布測定結果(粒子径分布幅が9.0~14.5nm)を示す。
図6,7はそれぞれ、表4,5のシリカコロイドの10%希釈液であり、すなわち、シリカ濃度3wt%の粒子径分布測定結果を示す。本発明の実施にあたっては、シリカコロイドの使用濃度は2wt%~50wt%の範囲で用いられるので、
図6,7はそれぞれ、シリカコロイドの使用濃度が3wt%の場合の粒子径分布に相当すると見なすことができる。その場合の粒子径分布は、ほぼ2~7nmの範囲にある。以上より、本発明におけるシリカコロイドはシリカ濃度2~50wt%で、粒子径分布幅を狭めて用いることができる。なお、シリカコロイドの濃度は最大50wt%であるので、本発明に係るシリカコロイドのシリカ濃度は、2~50wt%とした。表2中、特許文献3の地熱水由来のコロイドの粒径および尖度は、特許文献3中に記載されている。また、
図3~
図7に、シリカコロイドの粒子径分布測定結果を示す。
図3はシリカコロイド2,
図4はシリカコロイド3、
図5はシリカコロイド1の10%希釈液、
図6はシリカコロイド2の10%希釈液、
図7はシリカコロイド3の10%希釈液の、粒子径分布測定結果である。シリカコロイド1は、表3のイオン交換法による従来のシリカコロイドであって、その尖度は特許文献3の従来のコロイダルシリカの尖度である。また、コロイド2,3,4の尖度は、本発明者らによる推定値である。また、表2のコロイド2,3の物性は、蝶理(株)による(表4、表5)。コロイド4は、コロイド2とコロイド3を1:1で混合したコロイドである。また、イオン交換法によるシリカコロイドの物性は、関東珪曹ガラス(株)による(表3)。
【0048】
【0049】
文献3のシリカコロイド:特許文献3の地熱水由来のシリカコロイドであって、粒子径分布幅は広く(6~90nm)、尖度3.29であって0~6.0の範囲にあるシリカコロイドである。シリカコロイドは粒子径分布幅が広く、粒子径分布図のピークは低い。
【0050】
シリカコロイド1:水ガラスからイオン交換法によって製造したものであって、粒子径分布幅が10~20nm、尖度は14.51であって10以上のシリカコロイドである(特許文献3参照)。いずれにせよ、イオン交換法におけるシリカコロイドは、粒子径分布幅が地熱水由来のシリカコロイドよりも小さく、粒子径分布のピークが高く、尖度は7以上である(特許文献3では14,51)。
【0051】
本発明のシリカコロイド:粒子径分布幅は、
図2よりイオン交換法のコロイド(シリカコロイド1)の粒子径分布幅よりも狭く、粒子径分布図のピークも特許文献3のシリカコロイドや特許文献1のシリカコロイドよりも高い。なお、表2のシリカコロイド2、3、4の尖度は、本発明者らによる推測値である。本発明のシリカコロイドは、地盤注入目的のシリカグラウトに用いる地熱水由来のシリカコロイドであって、地熱水から収集したシリカコロイドの粒子径分布幅を、粒子径分布の最大粒径と最小粒径との平均値を中心値としたとき、中心値が小さくなるように狭め、かつ、粒径を小さくすることにより、コロイドの品質を一定にして、含有する金属イオンのコロイドの安定性やゲル化への影響を抑制して施工現場への適用性を高め、配合にあたってゲル化を安定にし、浸透性を向上させ、固結砂の強度増加および固結の安定化を図り、現場における設計強度を得られるようにしたものである。本発明のシリカグラウトに用いる地熱水由来のシリカコロイドの標準偏差が10以下であって、特許文献3のシリカコロイドの粒子径分布幅よりも狭く、尖度は大きい。尖度は7~100、好ましくは7~50である。
【0052】
シリカコロイド2,3(表4,5)は、本発明に用いる地熱水由来のシリカコロイドであって、シリカコロイド2は粒子径分布幅を9~11nmに、シリカコロイド3は粒子径分布幅を12.5~14.5nmに、それぞれ粒子径分布幅を狭くして調整したものであり、シリカコロイド4は、シリカコロイド2,3を1:1に混合したものである。シリカコロイド2,3,4は、本発明のシリカグラウトに用いるシリカコロイドであって、シリカコロイドのシリカ濃度が2~50wt%の範囲で(
図3,4,6,7)、さらに好ましくは、シリカ濃度30wt%では9~14.5nmの範囲内で粒子径分布幅を狭く調整したものである。さらに、標準偏差は10以下であり、尖度は7以上のシリカコロイドになる。
【0053】
このように本発明に係る地熱水由来のシリカコロイドは、特許文献3の地熱水由来のシリカコロイドの幅広いシリカ粒子径分布を、粒径の狭い方向へ粒子径分布幅を狭めて、粒子径分布幅を狭くかつ注入に適した粒径の範囲に一定に品質を揃えたものである。これによって、地盤注入に適用した場合、粒径の大きなシリカ粒子を含まず、かつ、粒径の小さすぎるシリカ粒子を含まず、地盤注入材として浸透性およびゲル化が安定して品質が一定になることにより、SiO2と溶存イオンのばらつきによるゲル化の不安定を改善したものである。これにより、ゲル化が安定し、浸透性が向上し、また、コロイドの粒径を小さくすることによりコロイドの比表面積が大きくなるため、シリカ同士あるいはコロイドと土粒子との反応性が大きくなるため、固結砂の強度が大きくなることがわかった。その理由は、コロイドの粒径が小さくなると比表面が大きくなり、したがってコロイドの表面のシラノール基(Si-OH)が多くなり、その結果シロキサン結合(-Si-O-Si-)が多くなり、これによりコロイド同士の結合が多くなり、ゲルの強度が高くなるものと思われる。粒径がこれ以下になると、ゲル化が速くなりコロイドの凝集が起きやすく、貯蔵における安定性や注入作業における注入液が不安定になるので好ましくない。また、粒径がこれ以上になると、比表面積が小さくなり、コロイド表面のシラノール基が少なくなり、従ってゲルの強度が小さくなる。また、シリカ溶液中にCa、Al等の反応性成分が含まれていると、貯蔵中に反応が進行し、シリカが析出しやすくなり、不安定になり、かつ、注入などにおける細粒土への浸透が不十分になりやすい。
【0054】
シリカコロイド2,3は、
図2,表4,5より、シリカ粒子径分布幅がシリカコロイド1に比べて小さい。また、シリカコロイド1よりも粒子径分布のピークは高くなり、尖度もシリカコロイド1よりも大きくなる。シリカコロイド4も同様である。シリカコロイド4はシリカコロイド2と3を1:1で混合したものであるので、シリカコロイド4は、シリカコロイド2,3の平均的な特徴をもつ。
【0055】
本発明のシリカグラウトに用いるシリカコロイドは、原料シリカコロイドの粒子径分布幅を狭めたものであり、好ましくは粒子径分布幅を2~20nmの範囲に狭めることにより地盤注入材としてのばらつきを低減したものを用いるものであり、より好ましくは粒子径分布幅が9~14.5nmであって、いずれもシリカコロイド1よりも狭い粒子径範囲にあり、本発明者らの推定ではそれぞれ尖度は36.0~42.9であって、尖度は7~100の範囲にあり、7~50の範囲が好ましい。
【0056】
従って、本発明に係るシリカコロイドを含むシリカグラウトは、特許文献3のシリカコロイドとは異なるシリカグラウトである。特許文献3のシリカコロイドは、シリカコロイド1よりも強度はやや低いと記載されている。このため、本発明に用いるシリカコロイドとしてシリカコロイド2,3を用いて、シリカコロイド1との比較を行った。その結果、本発明に係るシリカコロイドはシリカコロイド1よりも高い固結強度を得ることがわかり、粒径を小さくかつ粒子径分布幅を狭めて品質を一定にすることによる本発明の効果を実証することができた。
【0057】
表3に、イオン交換法によるシリカコロイドの物性を示す。
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
(各シリカコロイドの粒度特性)
図2に、シリカコロイド1,2,3および特許文献3のシリカコロイドの累積頻度分布を示す。また、一般に、注入材の注入可能限界は粒子径分布曲線の粒径の大きい領域が細粒土に対する浸透性を阻害することがわかっている。表2より、およそ20nmよりも大きな粒径のシリカコロイドを含まないシリカコロイド2,3,4は、細粒土に対する浸透固結性が優れていることがわかる。従って、本発明では、本シリカコロイドを有効成分とするシリカグラウトの粒径および粒子径分布幅に着目して品質を一定にして固結性と浸透性とに優れた地盤注入材に関するものであって、その実験例を以下に示すものとする。
【0062】
本発明における地熱水由来のシリカコロイドを用いたシリカグラウトの注入材としての性能について、シリカコロイド2は、特許文献3のシリカコロイドと比較して大きな粒径のシリカを含まず、かつ、粒径および粒子径分布幅が小さい。これより、比表面積が大きく、シリカ表面のシラノール基の数が多いことより、ホモゲルおよび固結砂(サンドゲル)の一軸圧縮強度が大きくなる。また、浸透性に関しても、
図2より、90%粒径の関係が「特許文献3のシリカコロイド>シリカコロイド1>シリカコロイド3>シリカコロイド4>シリカコロイド2」であることより、シリカコロイド2,3が最も浸透性に優れ、シリカコロイド1よりも浸透性に優れた結果が得られることがわかる。本発明において使用する地熱水由来のシリカコロイドは、シリカ濃度2~50wt%で粒子径分布幅を狭めたものとすることで、地盤注入に適したシリカコロイドを得ることができる。
【0063】
本発明者らの研究の結果、地熱水由来のシリカコロイドの粒子径分布幅の領域はシリカ濃度によって変化し、シリカ濃度が2~50wt%の範囲では、シリカ濃度が高ければ粒径の大きい領域に粒子径分布を有し、シリカ濃度が低くなると、粒子径分布は粒径の小さい領域に移行することを見出した(
図3~6)。
図6,7は、シリカ濃度が30wt%のコロイド溶液の粒子径分布曲線であって、これを10倍希釈液(シリカ濃度3wt%)で測定して得られた結果である。シリカ濃度が2~50wt%でも、同様の結果が得られる。このような現象は従来知られておらず、本発明者らが初めて見出したものである。これによって、地盤条件および注入目的に対応したシリカ濃度を用いても、要求される改良効果が得られる信頼性のある設計および安定した改良工効果を得ることができる。
【0064】
本発明者らの研究では、シリカ濃度2~50wt%の範囲でシリカ濃度30wt%の粒子径分布が9.0~14.5nmのシリカコロイドは、シリカ濃度を10倍薄めてシリカ濃度3wt%とすると、粒子径分布が2~7nm付近を呈する。すなわち、シリカコロイドの粒子径分布幅は、シリカ濃度が薄くなると粒径が小さい方へと移動して分布することがわかった。
【0065】
また、本発明のシリカコロイドは、シリカコロイドの、シリカ濃度が2~50w/v%であって粒子径分布幅が2.0~14.5nmの範囲であり、体積平均径が2~15nmの範囲であることが好ましい。
【0066】
本発明のシリカグラウトは、上記地熱水に含まれるシリカを収集したシリカコロイドと、酸および/または塩とを有効成分として含み、pHが1.0~10.5の範囲にあるものとするか、または、上記地熱水に含まれるシリカを収集したシリカコロイドと、水ガラスと酸性反応剤および/または塩とを有効成分として含み、シリカ濃度が0.4~50.0w/v%であって、pHが1.0~10.0の範囲にあるものとすることができる。また、本発明のシリカグラウトは、上記地熱水に含まれるシリカを収集したシリカコロイドと、水ガラスと、酸、塩およびアルカリのうちのいずれか一種または複数種とを有効成分として含む、非アルカリ性シリカグラウトとすることもできる。本発明のシリカグラウトのその他の構成については限定されず、水ガラスや酸成分、塩などは、通常、地盤注入材で用いられるものであれば、幅広く使用できる。
【0067】
具体的には、酸としては、例えば、硫酸、リン酸、硝酸、塩酸、スルファミン酸等の無機酸、および、これらの混酸を用いることができる。その他の鉱酸等、クエン酸、グリコール酸、リンゴ酸、酒石酸、その他の有機酸等も幅広く使用することができるが、その中でも硫酸、リン酸および有機酸のうちの少なくとも一種が好ましい。塩としては、例えば、多価金属の無機塩、例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化鉄、塩化アルミニウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硝酸アルミニウム、リン酸アルミニウムなどが挙げられる。アルカリとしては、例えば、消石灰、苛性アルカリ等が挙げられる。本発明の注入材には、さらに、多価金属化合物や無機または有機の金属イオン封鎖材を配合することもできる。また、本発明に係るシリカコロイドのpHは、好適には8.5~10.5の範囲である。
【0068】
本発明のシリカグラウトは、地盤改良(補強)、液状化防止、耐震補強、住宅持ち上げなどに、幅広く適用できる。
【0069】
本発明において用いるシリカを含む地熱水としては、発電方式はフラッシュ式でもバイナリー式でもよく、その他の地熱発電方式を使った地熱水でもよい。本発明において、地熱水中のシリカの回収方法としては、限外ろ過やダイヤフィルトレーション、濃縮などを用いることができる。
【0070】
また、地熱水中のシリカを収集したシリカ材に由来するシリカ濃度は30%、コロイダルシリカとしての平均粒径は1~100nmであるが、本発明においては粒子径分布幅を狭めて品質を一定にすることが、地盤注入における耐久地盤の形成と注入材としての安定性から好ましい。
【0071】
本発明のシリカコロイドと塩または酸+酸の配合においては、シリカ含有量はシリカ濃度2~50wt%を用いることができる。また、本発明のシリカコロイドと水ガラスと酸または酸+塩の場合は、シリカ濃度0.4%~50%の配合を用いることができる。
【0072】
本発明の地盤注入工法は、本発明のシリカグラウトを地盤に注入して地盤を改良することを特徴とする。
【0073】
本発明の地盤注入工法においては、シリカグラウトのpH(pH0)を地盤のpH値(pHs0)よりも酸性側である1~4の範囲とした上で、このシリカグラウトを地盤に注入することにより、シリカグラウトの土中pH(pHs)を中性方向に移行させ、土中ゲルタイム(GTs)を短縮させて地盤を固結することができる。これにより、地熱水由来のシリカを用いたシリカグラウトの品質がばらつくことによって浸透固結がばらつくことに対する問題を、粒子径分布を狭めて品質を一定にすることができることに加え、施工法の改良によっても、多様な地盤中でも所定の効果が得られる地盤注入を行うことが可能となる。
【0074】
また、本発明に係るシリカコロイドは、地熱水中に反応性イオンを含むため粘性が高く、従って、シリカグラウトも粘性が高くなる。本発明は、シリカコロイドの粒度分布を狭くかつ小さい値になるようにして品質を一定にしたことにより浸透固結性を改善したものであるが、粘性が高いと、地盤が不均一の場合、浸透性の大きい層から注入液が逸脱しやすく、細粒土部分には浸透しにくく、地盤改良が不十分になりやすい。これを防ぐためには、対象地盤に対し、瞬結性グラウトや懸濁グラウトからなる一次注入材を注入して地盤の粗詰を行って地盤を拘束状態にしてから、本発明のシリカグラウトを二次注入材として地盤に注入することにより、注入液の粘性が高くても逸脱することなく、細かい土層にも浸透させることができる。
【0075】
実施例として、シリカコロイド1、シリカコロイド2、シリカコロイド3を用いたシリカグラウトの実験例を、以下に示す。実験の結果、粒径が小さくかつ粒子径分布幅が小さいシリカコロイドを用いた本発明のシリカグラウトは、粒子径分布幅の大きいシリカコロイドより浸透性も強度も良い結果が得られることがわかった。地熱水由来のシリカコロイドは、イオン交換法によるシリカコロイドと比べると初期粘度が高くなるが、これは、地熱水由来のシリカコロイドにはSiO2の他にCl、K、Ca、Fe、Asなどが含有されていることによると考えられる。本発明では、粒径を小さく粒子径分布幅を狭くして尖度を大きくすることによって、地熱水由来の粒子径分布幅の大きいシリカコロイドより安定した浸透性および強度を保持し、さらに、イオン交換法によるシリカコロイド1よりも高い安定した浸透性および強度を保持し、浸透固結性を改善している。シリカコロイド1は、SiO2の他の溶存物を含まないため品質が安定し、かつ、粘度が低いため土木用製品として施工性が優れている。これに対し、地熱水由来のシリカコロイドにおける上述した地盤注入用製品としての問題を、本発明では、粒径を小さく粒子径分布幅を狭くして品質を一定値にすることにより解決したものである。さらに、品質を一定化して用いることにより、ゲル化が安定し、かつ、地熱水中に含まれるK、Ca、Fe、Alの存在が、むしろ強度増加に役立っているものと思われる。
【実施例】
【0076】
(使用したシリカコロイド)
1)シリカコロイド1:イオン交換法によるシリカコロイド、表3参照。
2)シリカコロイド2:地熱水由来のシリカコロイド、表4参照。
3)シリカコロイド3:地熱水由来のシリカコロイド、表5参照。
4)シリカコロイド4:シリカコロイド2+シリカコロイド3(1:1で混合)。
【0077】
(使用した材料の物性値)
5号水ガラス:モル比3.75、SiO2=25.5w/w%、
硫酸:75%濃度、比重1.675、
リン酸:75%濃度、比重1.58、
混酸:比重1.63(上記リン酸と硫酸との体積比1:1の混合物)、
塩化カリウム:比重2.0、
イオン交換法によるシリカコロイド(シリカコロイド1):比重(25℃)1.212、シリカ濃度30.6wt%、Na2O濃度0.39%、pH10.0、平均粒径10~20nm、
3号水ガラス:比重(20℃)1.412、SiO2:28.29wt%、Na2O:2.94、nモル比:2.94
【0078】
以下に、各シリカコロイドを有効成分とするシリカグラウトの試験例を示す。
1.シリカコロイド+塩(+酸性反応剤)
1)配合液の特性
表6に、配合例(シリカ濃度29w/v%)の粘性、pH、ゲルタイム(20℃)を示す。表6より、(シリカコロイド+(塩+酸))を有効成分とするシリカグラウトは、シリカ濃度が同一でpHがほぼ同一の場合、濃度が同一のとき、シリカコロイド1のゲルタイムが他よりも長くなる。このことは、イオン交換法によるシリカコロイドはSiO2以外の他のイオンをほとんど含まず、これに対し地熱水由来のシリカコロイドは上述した他のイオンが含まれるため、ゲル化が速くなると考えられる。
【0079】
また、上記の試験で、100mlの水に14gのKCL、または、14gのKCLと1gのNaHSO4を溶解した硬化液を、20℃で混合した。この混合液のpHは、KCLが14gの場合は、pHが8.4、ゲルタイムが2分45秒であり、KCLが14gとNaHSO4が1gの場合は、混合液のpHはほぼ6.9であり、30分後に均質なゲル化物が得られた。これより、酸性反応剤NaHSO4の存在により酸性側になると、ゲルタイムが長くなることがわかった。従って、ゲル化時間を長くするには、pHを酸性側に振ればよいことがわかった。なお、ここで酸は、硫酸でなくリン酸でもよいし、また、NaHSO4のような酸性反応剤でもよい。また、酸を用いなくても、塩のみでもよい。
【0080】
2)固結砂の強度
表6に、7号珪砂、相対密度60%、混合法にて作製したサンドゲルの強度特性を、併せて示す。表6より、シリカコロイド1よりもシリカコロイド2,3,4の強度が高く、特に、シリカコロイド2の強度が大幅に高いことがわかった。その理由は上述した通りである。
【0081】
【0082】
3)ホモゲル強度と体積変化率
表6より、シリカコロイド1よりもシリカコロイド2,3,4の強度が高く、特に、シリカコロイド2の強度が高い。以上より、粒子径分布幅が狭く粒径の小さいシリカコロイドの強度が高いことがわかった。これは、粒径が小さいシリカコロイドの方が比表面積が大きいことと、粒径が小さく大きな粒径のシリカコロイドが少ないことから土粒間隙への浸透性が優れているためであると思われる。また、体積変化率は、シリカコロイド1もシリカコロイド2,3,4も同様に小さいことが判った。
【0083】
2.シリカコロイド+水ガラス+酸(または酸+塩)
1)配合および強度
表7に、配合例(シリカ濃度6w/v%、シリカ濃度10w/v%)の粘性、pH、ゲルタイム(20℃)、および、各シリカグラウト(シリカコロイド+水ガラス+酸)の7号珪砂を用いて作製したサンドゲルの強度および経過日数との関係を示す。
【0084】
供試体作製方法:径φ5cm、高さ10cmのモールド中に、相対密度60%になるように7号珪砂を入れたところに、配合液を充填する。
【0085】
【0086】
表7より、シリカコロイドを用いた(シリカコロイド+水ガラス+酸または(酸+塩))を有効成分とするシリカグラウトのゲルタイムは、シリカ濃度が同一で反応剤の量を調整して、pHによってゲルタイムをコントロールできることがわかった。サンドゲルの強度は、本発明のシリカコロイドの強度がシリカコロイド1よりも高いか、ほぼ同一であることがわかった。
【0087】
以上より、粒子径分布幅が狭くかつ粒子径分布幅が小さいシリカコロイドを含む地熱水由来のシリカコロイドを含むシリカグラウトは、イオン交換法によるシリカコロイドを含むシリカグラウトよりも、固結砂の強度が高くなることがわかった。その理由は、反応性の溶存物である金属イオンが含まれることによると思われる。
【0088】
図13(a),(b)に、各シリカコロイドを用いたサンドゲル(6%および10%)の強度と経過日数との関係を示す。
【0089】
特許文献3の表1に記載と同一の配合である表8の配合で、各シリカコロイドの固結豊浦砂の一軸圧縮試験の比較を行った。相対密度は50%で作製し、一週強度の結果を表9に示す。その結果、粒子径分布幅が小さくかつ粒径の小さい本発明のシリカグラウト(シリカコロイド2,3,4)は、特許文献3の実施例1の強度よりも高くなることがわかった。また、同じくイオン交換法のシリカグラウト(特許文献3の比較例1)よりも強度が高くなることがわかった。
【0090】
【0091】
【0092】
以上より、粒子径分布幅が狭くかつ粒径の小さい本発明の地熱水由来のシリカコロイドを用いたシリカグラウトの方が、特許文献3の粒子径分布幅の大きい地熱水由来のシリカグラウトよりも、固結砂強度が高いことがわかった。
【0093】
また、特許文献3のイオン交換法によるシリカコロイドを用いたシリカグラウトよりも、本発明の地熱水由来のシリカグラウトの方が強度が高くなることがわかった。
【0094】
以下に、本発明のシリカグラウトの現場採取土を用いた配合設計の例を示す。
【0095】
3.シリカコロイド2を用いた現場採取土による固結砂強度
1)使用薬液
表10に、使用材料の物性値を示す。
【0096】
【0097】
2)配合
表11に、配合の一覧を示す。
【0098】
【0099】
3)強度試験
図8に供試体作製装置、
図9に固結体作製方法をそれぞれ示す。
【0100】
モールド1は、砂などの試料を円柱状の供試体に形作るための型であり、図示するようなアクリルを素材に円筒状に形成され、上端部と下端部がそれぞれ支持体の上部フランジ6aと下部フランジ6bに固定されている。
【0101】
そして、これと同時に試料内の残留空気や水は中空ロッド9を介してモールド1の外に排出され、廃水槽11に放出される。
【0102】
また、モールド1の下部には薬液注入装置3、炭酸ガス注入装置4、脱気水注入装置5からそれぞれ送られてくる薬液、炭酸ガスおよび脱気水を注入するバルブ12が接続され、さらに、モールド1内の底部と天井部にはモールド1内の試料に薬液と脱気水が一様に浸透するように多孔質の通水層13がそれぞれ設置されている。
【0103】
圧力管理装置は、モールド1内の試料に積荷板を介し、空圧によって必要な拘束圧を与える装置であって、一台のコンプレッサー14を分岐し、数種類のレギュレータ15によりモールド1内の供試体にさまざまな拘束圧を一度に与えることができるように構成されている。
【0104】
また、圧力管理装置2は、数種類の試験条件の下であっても一度に供試体の作製と養生を行えるように構成されている。
【0105】
薬液注入装置3は、モールド1内に薬液を送り、モールド1内の供試体に薬液を浸透注入させるための装置であり、スクリュージャッキ16によってレギュレータ15が駆動し、レギュレータ15の先端に取り付けられた載荷板17が薬液タンク18内の注入材を押すことにより注入材をモールド1内に送り、モールド1内の供試体に薬液を一定の速度で浸透注入させるように構成されている。
【0106】
なお、スクリュージャッキ16はインバーターの働きによりその速度をコントロールすることができ、これにより注入材の注入速度、注入量および注入圧を調整できるようになっている。
【0107】
炭酸ガス注入装置4は、供試体作製用モールド1内に炭酸ガスを注入するための装置である。この場合、モールド1内に炭酸ガスを注入することで、その後、脱気水注入装置5から脱気水を注入してモールド1内の試料を完全な飽和状態にすることができ、これによりモールド1内の供試体に薬液を均等に浸透させることができる。
【0108】
また、脱気水注入装置5の水槽内と薬液注入装置3の薬液タンク18内は、真空ポンプにより事前に水と薬液の脱気処理を行うことにより高品質の薬液注入供試体を作製することができる。
【0109】
次に、本発明の装置および方法による薬液注入供試体の作製方法を説明する。
【0110】
最初に、モールド1の内周に作製後の供試体の脱型を容易にすべくグリスを塗り、モールド1の底部には多孔質の通水層を設置する。また、モールド1内に試料を投入し、所定密度になるように締め固め、その上に通水層を設置する。そして、モールド1の上端部を上フランジに固定する。
【0111】
なお、試料の密度は、原地盤より採取した不攪乱試料の湿潤密度と含水比を用いるか、不攪乱試料が得られない場合には,Meyerhofの提案する標準貫入試験のN値と最大最少密度試験より予測を行う。
【0112】
次に、こうしてモールド1内の試料を所定の密度に締め固めて供試体を作製したら、
図8に示すようにモールド1を圧力管理装置2、薬液注入装置3、炭酸ガス注入装置4、脱気水注入装置5にそれぞれ接続する。
【0113】
4)シリカグラウトの設定配合の決定
相対密度38.0%、現場採取土、現場土のpH4.44、設計強度qu=145kN/m
2、室内目標強度qu=145×2=290kN/m
2とした。
以上の条件で、表11の配合で強度試験を行った。その結果を、
図11に示す。これより、設計強度をqu=145kN/m
2、安全率を2として、室内目標強度を290kN/m
2を満たすためには、シリカ濃度を9%にすればよいことがわかった。この結果より、シリカグラウトの設定配合を表12とした。また、配合液の配合は、表13より、現場土のpH(pH4.44)よりも酸性側で設定することにより、充分な浸透固結性が得られることが判った。また、以上より、現場採取土を用いて複数の配合による室内試験を行い、そのデータに基づいて、現場の実際において目標とする設計強度を得て、配合設計ができることがわかった。
【0114】
【0115】
5)配合液の土中ゲルタイムと気中ゲルタイムと気中pH
表13に示す。
【0116】
【0117】
4.シリカコロイド2を用いたシリカグラウトの浸透試験
1)使用薬液
上記「3.シリカコロイド2を用いた現場採取土による固結砂強度」で設定した配合を用いた。
【0118】
2)試験条件
試験装置:
図10の長さ1.0m、直径0.05mのアクリルモールド中に相対密度38.0%になるように現場砂を充填し、水で飽和した後に透水係数を求める目的で水圧50kPaで水を注水した。その結果、透水係数k=3.23
-5m/secを得た。その後、上記シリカグラウトを50kPaで注入した結果を、
図12に示す。以上より、上記「3.シリカコロイド2を用いた現場採取土による固結砂強度」と同様の現場採取土を用いた室内試験によって設置した配合処方(表12)により浸透試験を行った結果、浸透長1mで設計強度134kN/m
2、室内目標強度290kN/m
2を得られることがわかった。
【0119】
5.強度試験結果のまとめ
1)配合が「シリカコロイド+(塩および/または酸)」である場合において、シリカ濃度を一定にした場合の固結砂の強度を調べた。
これより、粒子径分布幅を狭くかつ粒径を小さく調整したコロイド2の方が、粒子径分布幅が広いコロイド1よりも、固結砂の強度が高くなることが判った。また、シリカコロイド3はシリカコロイド2と同等であった。シリカコロイド4はシリカコロイド2とシリカコロイド3の中間であった。シリカコロイド1よりも本発明のシリカグラウトの強度が大きい理由は、粒子径分布幅の狭いシリカコロイドはコロイド粒子の比表面積が大きいため、ゲルの強度が大きく、従って固結砂の強度が大きくなるため、および、地熱水中に含まれる金属イオンが強度増加に貢献しているためと思われる。
【0120】
2)配合が「コロイド+水ガラス+(酸および/または塩)」である場合において、シリカ濃度を一定にした場合の強度を調べた。水ガラスの粒径は0.1nm、水ガラスと酸を混合した酸性水ガラス、すなわち、酸性シリカゾルの粒径は1nmと考えられているので、シリカ濃度が一定のとき、水ガラスを加えた方が、全シリカの比表面積が大きくなるため、ゲルの強度が高く、固結砂の強度が大きくなる。本発明に係るホモゲルは、シリカコロイド2,3,4はいずれも、シリカコロイド1よりも強度が高かった。サンドゲルの強度は、シリカコロイド1よりも高いか、ほぼ同一であった。従って、含まれているシリカコロイドの粒子径分布幅が小さく、かつ、粒径が小さい方の強度が、大きくなることがわかった。以上より、地熱水中に含まれているSiO2以外のイオンなどの溶存物が、本来注入液のゲル化の安定性に好ましくなかったのが、粒子径分布幅を狭くして品質を一定にすることによって、むしろ強度増加に付与するという注入工法としての新たな効果を発現したものである。
【0121】
6.浸透試験結果のまとめ
シリカコロイド2を用いた表11の配合で、現場土を用いた
図10の浸透試験では、浸透距離1m区間で強度の低減が少なく、全長にわたって十分な浸透固結強度が得られることがわかった。また、要求される設計強度に対応する室内目標強度が得られることがわかった。これによって、本発明のシリカグラウトが、実施工において所定の設計強度を得られるものであることがわかった。
【0122】
7.発明の効果
本発明者らは、地熱水由来のシリカコロイドの特性を研究した結果、地熱水由来のシリカコロイドの、粒子径分布幅が広くSiO2以外に溶存物が多く含まれていることによる品質の不安定性に係る欠点を、粒子径分布幅の大きい側のシリカコロイドを除去して粒子径分布幅を小さく調整し、品質を一定にしたシリカコロイドを用いることにより解消することができ、浸透性に優れるとともに強度および環境性に優れるシリカグラウトおよびそれを用いた地盤注入工法が得られることを見出した。
【符号の説明】
【0123】
1 モールド(供試体作製用モールド)
2 圧力管理装置
3 薬液注入装置
4 炭酸ガス注入装置
5 脱気水注入装置
6a 支持体の上部フランジ
6b 支持体の下部フランジ
8 バルブ
9 中空ロッド
11 廃水槽
12 バルブ
13 多孔質の通水層
14 コンプレッサー
15 レギュレータ
16 スクリュージャッキ
17 載荷板
18 薬液タンク
19 変位計
【要約】
【課題】注入材としての品質のばらつきを低減することにより、シリカコロイドの製造から現場施工に至るまでの安定性に優れ、かつ、現場注入にあたってのシリカグラウトのゲル化が安定であり、浸透固結性も安定した環境負荷の少ないシリカグラウトおよびそれを用いた地盤注入工法を提供する。
【解決手段】地熱水中のシリカを収集して得られたシリカコロイドを有効成分とするシリカグラウトであって、シリカコロイド中に含まれる重金属の含有量が、地盤注入の目的に対応した環境基準値以下である。
【選択図】なし