(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】負熱膨張性材料、複合体、及び使用方法
(51)【国際特許分類】
C01G 31/00 20060101AFI20220111BHJP
C04B 35/497 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
C01G31/00
C04B35/497
(21)【出願番号】P 2018110575
(22)【出願日】2018-06-08
【審査請求日】2021-01-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 The 2nd International Symposium on Negative Thermal Expansion and Related Materials(ISNTE-II)、平成29年12月12日(発行日) [刊行物等] The 2nd International Symposium on Negative Thermal Expansion and Related Materials(集会名)、平成29年12月13日(開催日) [刊行物等] 公益社団法人日本セラミックス協会 2018年年会 講演予稿集、平成30年3月1日(発行日) [刊行物等] 公益社団法人日本セラミックス協会 2018年年会(集会名)、平成30年3月17日(開催日) [刊行物等] 日本物理学会第73回年次大会 概要集 http://w4.gakkai-web.net/(掲載アドレス)、平成30年3月1日(掲載日) [刊行物等] 日本物理学会 第73回年次大会(集会名)、平成30年3月22日(開催日) [刊行物等] Angewandte Chemie International Edition,DOI:10.1002/anie.201804082 https://doi.org/10.1002/anie.201804082(掲載アドレス)、平成30年5月11日(掲載日)
(73)【特許権者】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】酒井 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】東 正樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 孟
(72)【発明者】
【氏名】今井 孝
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-056830(JP,A)
【文献】国際公開第2014/030293(WO,A1)
【文献】特開2018-002577(JP,A)
【文献】ZHAO Pan et al.,Colossal Volume Contraction in Strong Polar Perovskites of Pb(Ti,V)O3,J. Am. Chem. Soc.,2017年,139,pp. 14865-14868
【文献】CHEN Xing-Yuan et al.,The magnetoelectric properties of A- or B-site-doped PbVO3 films: A first-principles study,Chin. Phys. B,2013年,Vol. 22, No. 8,pp. 087703-1 - 087703-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 31/00
C01G 21/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負の熱膨張性を有する負熱膨張性材料であって、
下記式(1)で表される化合物を含むことを特徴とする負熱膨張性材料。
Pb
1-x-yM
yBi
xVO
3 ・・・(1)
[式(1)中、Mは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Yからなる群より選択される1種の元素を示し、
0.05≦x≦0.4を満たし、
0.025≦y≦0.1を満たす。]
【請求項2】
MがLaであることを特徴とする請求項1に記載の負熱膨張性材料。
【請求項3】
180K~480Kのいずれかの温度で負熱膨張を示すことを特徴とする請求項1または2に記載の負熱膨張性材料。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の負熱膨張性材料と、正の熱膨張性を有する樹脂材料または金属材料と、を含むことを特徴とする複合体。
【請求項5】
450K~750Kのいずれかの温度で負熱膨張を示す負熱膨張性材料としての下記式(2)で表される化合物の使用方法。
Pb
1-xBi
xVO
3 ・・・(2)
[式(2)中、xは0.05≦x≦0.4を満たす。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負熱膨張性材料、複合体、及び使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペロブスカイト型化合物PbVO3は、Pb2+の6s2孤立電子対の立体化学的活性とPb-Oの共有結合性、V4+(3d1)のピラミッド型ヤーン・テラー変形により、巨大な正方晶歪み(c/a比1.23)をもつ。3GPaの高圧力印加により、正方晶から立方晶への相転移が起こり、10%以上の巨大な体積収縮と絶縁体-金属転移が起こる(非特許文献1参照)。V4+への電子ドープを行ったPb1-xBixVO3では、PbVO3よりも正方晶歪み(c/a比)と正方晶-立方晶転移圧力が低下することが報告されている(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】A.Belik,M.Azuma et al,Chem.Mater.17,269,2005.
【文献】山本孟等、日本セラミックス協会 第30回秋季シンポジウム講演予稿集、3D07.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、上述した化合物について鋭意研究を重ねた結果、Pb1-xBixVO3が巨大な負熱膨張性を示すこと、また、Pb1-xBixVO3のPb2+サイトにLa3+を置換することで、室温付近での負熱膨張を実現できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的のひとつは、新規な負熱膨張性材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、負熱膨張性材料である。該負熱膨張性材料は、下記式(1)で表される化合物を含む。
Pb1-x-yMyBixVO3 ・・・(1)
[式(1)中、Mは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Yからなる群より選択される1種の元素を示し、
0.05≦x≦0.4を満たし、
0.025≦y≦0.1を満たす。]
【0007】
本発明の他の態様は、複合体である。該複合体は、上記の態様の負熱膨張性材料と、樹脂材料と、を含む。
【0008】
本発明の他の態様は、450K~750Kのいずれかの温度で負熱膨張性を示す負熱膨張性材料としての下記式(2)で表される化合物の使用方法である。
Pb1-xBixVO3 ・・・(2)
[式(2)中、xは0.05≦x≦0.4を満たす。]
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、新規な負熱膨張性材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1の負熱膨張性材料の単位格子体積の温度依存性を示すグラフである。
【
図2】実施例2の負熱膨張性材料の単位格子体積の温度依存性を示すグラフである。
【
図3】実施例3の負熱膨張性材料の単位格子体積の温度依存性を示すグラフである。
【
図4】実施例4の負熱膨張性材料の単位格子体積の温度依存性を示すグラフである。
【
図5】実施例5の負熱膨張性材料の単位格子体積の温度依存性を示すグラフである。
【
図6】実施例6の負熱膨張性材料の単位格子体積の温度依存性を示すグラフである。
【
図7】実施例7の負熱膨張性材料の単位格子体積の温度依存性を示すグラフである。
【
図8】実施例8の負熱膨張性材料の単位格子体積の温度依存性を示すグラフである。
【
図9】実施例5の負熱膨張性材料の線熱膨張率の温度依存性を示すグラフである。
【
図10】実施例8の負熱膨張性材料の線熱膨張率の温度依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態1)
実施形態1に係る負熱膨張性材料は、母物質であるPbVO3において、Pbの一部が金属元素MとBiで同時置換された化合物である。具体的には、実施形態1に係る負熱膨張性材料は、負の熱膨張性を有し、下記式(1)で表される化合物を含む。
Pb1-x-yMyBixVO3 ・・・(1)
[式(1)中、Mは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Yからなる群より選択される1種の元素を示し、
0.05≦x≦0.4を満たし、
0.025≦y≦0.1を満たす。]
【0012】
上記式(1)で表される化合物の母物質であるPbVO3は、巨大な正方晶歪み(c/a比1.23)をもつペロブスカイト型化合物である。圧力印加で非常に大きな体積変化ΔV/V=-10.6%を伴う正方晶(P4mm)から立方晶(Pm-3m)への構造相転移が起きるが、常圧下での昇温による構造相転移は起こらない。2価の鉛イオンを、一部が3価のビスマスイオンと元素Mのイオンで置換して電子ドープを行うことで、室温を挟む180K~550Kの温度域で巨大な負熱膨張(最大でΔV/V=-8.8%)が実現できる。
【0013】
上記式(1)において、元素Mは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Yからなる群より選択され、好ましくはLaである。
【0014】
本実施形態に係る負熱膨張性材料は、180K~550Kのいずれかの温度で負熱膨張を示す。上記式(1)の化合物において元素Mの比率(すなわちy)を変化させることで、負の熱膨張性を示す温度範囲を変化させることができる。より大きな負熱膨張を達成するという観点から、xは0.1~0.2であることが好ましく、yは0.06以下であることが好ましい。
【0015】
本実施の形態の負熱膨張性材料をエンジニアリングプラスチックなどの樹脂材料中に分散させ、樹脂材料の熱膨張が負熱膨張性材料の負の熱膨張で相殺するように材料の選択や各成分の含有量を設定することにより、ゼロ熱膨張材料を得ることができる。
【0016】
(負熱膨張性材料の製造方法)
上記式(1)で表される化合物の作製方法は特に限定されないが、各金属元素が均一に固溶した複合金属酸化物を合成して任意の形状に成形できる方法であると好ましい。例えば、Pb、Bi、M、Vの各酸化物を目的物と同じモル比で混合して高圧(例えば2GPa以上)を付与しながら焼結すると、各金属元素が均一に固溶した複合金属酸化物が得られる。得られた酸化物を粉砕してから、成形して前記焼結の温度以下で焼き固めると、上記一般式(1)で表される化合物からなる熱膨張抑制部材が得られる。この他、本実施の形態に係る負熱膨張性材料は、上述した作製方法に限られず、スパッタ法、化学溶液法、レーザアブレ-ション法などによる、単結晶基板上の薄膜育成によっても作製することができる。
【0017】
(実施形態2)
実施形態2に係る使用方法は、450K~750Kのいずれかの温度で負熱膨張を示す負熱膨張性材料として下記式(2)で表される化合物を使用する方法である。
Pb1-xBixVO3 ・・・(2)
[式(2)中、xは0.05≦x≦0.4を満たす。]
【0018】
上記式(2)で表される化合物の母物質であるPbVO3は、上述したように巨大な正方晶歪みを有し、圧力印加により巨大な体積収縮が起こるが、昇温による負熱膨張は見られない。Pb2+の一部をBi3+へ置換することで、正方晶歪みが大きく減少し、常圧下での昇温により、450K~750Kの温度域で巨大な負熱膨張が起きる。したがって、上記式(2)で表される化合物は、450K~750Kのいずれかの温度で負熱膨張を示す負熱膨張性材料として有用である。そのような負熱膨張性材料も本発明の実施形態の一つである。
【0019】
(実施形態3)
実施形態3に係る複合体は、上述したいずれかの実施形態に係る負熱膨張性材料と、正の熱膨張性を有する樹脂材料または金属材料と、を含む。複合体に用いられる樹脂材料は特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート等が挙げられる。複合体に用いられる金属材料は特に限定されないが、銅、アルミニウム等が挙げられる。
【0020】
負熱膨張性材料と、樹脂材料または金属材料との混合比(体積比)は、使用する負熱膨張性材料、及び樹脂材料あるいは金属材料の熱膨張係数にもよるが、例えば5:95~80:20である。本実施の形態によれば、樹脂材料または金属材料の正の熱膨張を、負熱膨張性材料の負の熱膨張によって相殺することができる。これにより、温度変化に対する寸法変化の割合が小さい材料を提供することができる。
【0021】
本発明は、上述の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態を組み合わせたり、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能であり、そのような、組み合わせられた又は変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれる。例えば、上記式(1)で表される化合物と上記式(2)で表される化合物とをともに含む負熱膨張性材料も、本発明の範囲に含まれる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施例を説明するが、これら実施例は、本発明を好適に説明するための例示に過ぎず、なんら本発明を限定するものではない。
【0023】
(実施例1~8)
アルゴン充填グローブボックス内にて、出発原料PbO、Bi2O3、La2O3、V2O3、V2O5を化学量論比で混合し、Ptカプセル内に封入した。その後、試料を、キュービックアンビル型高圧合成装置を用いて6GPa、1200℃、1時間の条件で処理して、実施例1~8の負熱膨張性材料を作製した。実施例1~8の材料の組成はそれぞれ下記の通りである。
実施例1:Pb0.85La0.05Bi0.1VO3
実施例2:Pb0.84La0.06Bi0.1VO3
実施例3:Pb0.82La0.08Bi0.1VO3
実施例4:Pb0.775La0.025Bi0.2VO3
実施例5:Pb0.76La0.04Bi0.2VO3
実施例6:Pb0.75La0.05Bi0.2VO3
実施例7:Pb0.8Bi0.2VO3
実施例8:Pb0.7Bi0.3VO3
【0024】
実施例1~8の各負熱膨張性材料について、SPring-8のBL02B2ビームラインに設置された大型デバイ-シェラーカメラを用いて、λ=0.42Åで、シンクロトロンX線回折(SXRD)パターンを測定し、RIETAN-FPソフトウェアを用いて分析した(S.Kawaguchi,et al.,Rev.Sci.Instrum.2017,88,085111;F.Izumi,K.Momma,Appl.Crystallogr.2007,130,15-20)。実施例5、実施例8の負熱膨張性材料の直径3mm、高さ1mmの焼結体において線熱膨張率を、熱機械分析装置(TMA8310,Rigaku)を用いて150K~460Kにて測定した。
図1~
図8のそれぞれに、実施例1~8の各負熱膨張性材料の単位格子体積の温度依存性を示す。
図9に実施例5の負熱膨張性材料の線熱膨張率の温度依存性を示し、
図10に実施例8の負熱膨張性材料の線熱膨張率の温度依存性を示す。表1に実施例1~8の各負熱膨張性材料の負熱膨張性を示す温度範囲および格子体積変化率を示す。
【表1】
【0025】
図1~
図6に示すように、実施例1~6では、Pbの一部をBiおよびLaで同時置換することにより、室温を挟む温度域で大きな負の熱膨張が起きることを確認した。
図7、
図8に示すように、実施例7、8では、Pbの一部をBiで置換することにより、450K~750Kの温度域で大きな負の熱膨張が起きることを確認した。
【0026】
図9に示すように、実施例5では、280~310Kの温度域でマクロな負熱膨張を確認した。実施例5の焼結体の膨張計測値から概算した体積変化(ΔV/V~3ΔL/L)は、約8.5%であった。これは、表1に示す実施例5の負熱膨張性材料のX線回折から得られた格子体積変化(ΔV/V=-6.7%)よりも大きかった。
図10に示すように、実施例8では、460~500Kの温度域でマクロな負熱膨張を確認した。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、負の熱膨張性を有する材料に利用可能である。