(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】熱交換器
(51)【国際特許分類】
F28D 7/16 20060101AFI20220203BHJP
F28F 27/02 20060101ALI20220203BHJP
F28D 7/10 20060101ALI20220203BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20220203BHJP
H01M 8/0606 20160101ALN20220203BHJP
【FI】
F28D7/16 C
F28F27/02 C
F28D7/10 Z
H01M8/04 N
H01M8/0606
(21)【出願番号】P 2018153777
(22)【出願日】2018-08-20
【審査請求日】2020-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000103921
【氏名又は名称】オリオン機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104787
【氏名又は名称】酒井 伸司
(72)【発明者】
【氏名】中根 孝浩
(72)【発明者】
【氏名】久保田 敦
(72)【発明者】
【氏名】荒川 伸慎
(72)【発明者】
【氏名】高牟禮 英治
【審査官】礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0182561(US,A1)
【文献】実開平06-084167(JP,U)
【文献】特開2017-150733(JP,A)
【文献】実開昭60-189770(JP,U)
【文献】特開2011-214786(JP,A)
【文献】特開2015-059493(JP,A)
【文献】特開2003-279194(JP,A)
【文献】特開平08-261691(JP,A)
【文献】特開平10-288480(JP,A)
【文献】特開2014-214928(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 1/00 - 13/00
F28F 1/00 - 99/00
H01M 8/04
H01M 8/0606
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象の気体を多段圧縮する多段圧縮装置に接続可能に構成されると共に、前記多段圧縮装置によって圧縮された前記気体と冷却用流体との熱交換によって当該気体を冷却可能に構成された熱交換器であって、
前記多段圧縮装置における第Ma段圧縮行程(Maは、自然数)によって圧縮された前記気体を前記冷却用流体と熱交換させる第1熱交換部から、当該多段圧縮装置における第Mb段圧縮行程(Mbは、(Ma+1)以上の自然数)によって圧縮された前記気体を当該冷却用流体と熱交換させる第N熱交換部(Nは、2以上Mb以下の自然数)までのN個の当該熱交換部と、
前記冷却用流体を導入可能な流体導入部、および当該冷却用流体を排出可能な流体排出部が設けられると共に前記N個の熱交換部が収容された容器体とを備え、
前記各熱交換部は、前記気体の通過が可能な管体が螺旋状に巻回された伝熱コイルをそれぞれ備え
、かつ当該各伝熱コイルの当該管体が同じ材料で形成されると共に、前記多段圧縮装置における第L段圧縮行程(Lは、Ma以上(Mb-1)以下の各自然数)によって圧縮された前記気体を前記冷却用流体と熱交換させる当該熱交換部の前記伝熱コイルにおける前記管体の断面開口面積が、当該多段圧縮装置における当該L段圧縮行程よりも後段側の圧縮行程によって圧縮された前記気体を当該冷却用流体と熱交換させる当該熱交換部の前記伝熱コイルにおける前記管体の断面開口面積以上となり、かつ前記第1熱交換部の前記伝熱コイルにおける前記管体の断面開口面積が少なくとも前記第N熱交換部の前記伝熱コイルにおける前記管体の断面開口面積よりも大きくなるようにそれぞれ形成され
、前記多段圧縮装置における第K段圧縮行程(Kは、(Ma+1)以上Mb以下の各自然数)によって圧縮された前記気体を前記冷却用流体と熱交換させる当該熱交換部の前記伝熱コイルにおける前記管体の厚みが、当該第K段圧縮行程よりも前段側の圧縮行程によって圧縮された前記気体を当該冷却用流体と熱交換させる当該熱交換部の前記伝熱コイルにおける前記管体の厚み以上となり、かつ前記第N熱交換部の前記伝熱コイルにおける前記管体の厚みが少なくとも前記第1熱交換部の前記伝熱コイルにおける前記管体の厚みよりも厚くなるようにそれぞれ形成され、
前記各熱交換部のうちの少なくとも1つが、前記容器体内において分岐合流用金具を介して並列接続された複数の前記伝熱コイルを備えて構成されている熱交換器。
【請求項2】
前記気体としての水素ガスを冷却可能に構成されている請求項
1記載の熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理対象の気体を多段圧縮する多段圧縮装置によって圧縮された気体と冷却用流体との熱交換によって気体を冷却可能に構成された熱交換器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、水素ガス燃料電池自動車等の給気対象に水素ガスを給気する水素ガスステーションにおいては、給気対象に対して十分な量の水素ガスを短時間で効率よく給気するために、給気する水素ガスが圧縮された状態で貯留されている。
【0003】
具体的には、オンサイト型水素ガスステーション、およびオフサイト型水素ガスステーションのいずれにおいても、ディスペンサーを介して給気対象に給気する水素ガスを貯留しておくための水素ガスタンク(蓄圧器)に水素ガス源から水素ガスを移送する際に圧縮装置によって圧縮することで、高圧の水素ガスを水素ガスタンクに貯留することが可能となる。この場合、水素ガスタンクから給気対象への給気に適した十分に高い圧力まで水素ガスを1回で圧縮するのは困難である。このため、圧縮装置としては、複数回の圧縮行程によって水素ガスを段階的に圧縮する多段圧縮装置が使用されている。
【0004】
例えば、下記の特許文献に開示されている圧縮機ユニット(水素圧縮機システム)では、改質器やガスボンベカードル等の水素ガス源から供給される水素ガスを任意の圧力まで段階的に圧縮(昇圧)した状態で蓄圧器ユニットに送気する構成が採用されている。この圧縮機ユニットは、モータの出力軸に接続されたクランクシャフトと、クランクシャフトに取り付けられた第1段ピストンシャフトから第5段ピストンシャフトまでの5つのピストンシャフトと、各ピストンシャフトがストローク可能に収容された第1段シリンダから第5段シリンダまでの5つのシリンダとを備え、水素ガスを5段階で圧縮(昇圧)することができるように構成されている。なお、以下の説明においては、ピストンシャフトおよびシリンダからなる構成要素を「圧縮要素」ともいう。
【0005】
この場合、各圧縮要素による断熱圧縮時には、圧縮された水素ガスが温度上昇する。また、高温の圧縮ガスは、その圧縮効率が低下すると共に、圧縮要素に動作不良を生じさせるおそれもある。したがって、この圧縮機ユニットでは、各圧縮要素による圧縮を完了した水素ガスを、次の圧縮行程による圧縮を行う前に温度低下させるための第1段インタークーラから第4段インタークーラ4までの4つのインタークーラを備えている。また、この圧縮機ユニットでは、第5段の圧縮要素によって圧縮した水素ガスを蓄圧器ユニットに給気する前に冷却する(多段圧縮行程の完了後に水素ガスを冷却する)アフタークーラを備えている。これにより、この圧縮機ユニットでは、蓄圧器ユニットに貯留する水素ガスを、給気に適した十分に高い圧力まで好適に昇圧することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-263245号公報(第5-8頁、第1-2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記の特許文献に開示されている圧縮機ユニットには、以下のような問題点が存在する。具体的には、上記の圧縮機ユニットでは、各圧縮要素による圧縮行程を完了する都度、断熱圧縮によって温度上昇した水素ガスをインタークーラやアフタークーラ(以下、総称して「冷却器」ともいう)によって冷却する構成が採用されている。この場合、上記の特許文献には明示されていないが、この種の圧縮装置では、各圧縮要素毎に別個独立した冷却器を接続して水素ガスをそれぞれ冷却する構成が採用されている。すなわち、上記の特許文献に開示されている5段圧縮の圧縮機ユニットは、5つの冷却器を備えて構成されている。このため、上記の特許文献に開示されている圧縮機ユニットには、複数の冷却器(熱交換器)を設置するスペースの分だけ、ユニット全体の占有スペースが大きくなっているという問題点がある。
【0008】
また、この種の圧縮装置による断熱圧縮時には、水素ガスの温度が非常に高い温度となるため、大気との熱交換によって水素ガスを十分に冷却するには、非常に大きな冷却器が必要となる。また、大きな冷却器では、水素ガスの流路長が長くなることに起因して、冷却器を通過する際の圧力損失が大きくなる。このため、この種の圧縮装置では、冷却用流体(水等)との熱交換によって水素ガスを効率良く冷却する構成が採用されている。したがって、各圧縮要素毎に別個独立した冷却器(熱交換器)を複数備えた圧縮機ユニットでは、各冷却器に対して冷却用流体を供給する配管、および各冷却器から冷却用流体を回収する配管の数も複数となることから、ユニット全体の占有スペースがさらに大きくなっているという問題点がある。
【0009】
さらに、各圧縮要素毎に別個独立した冷却器を複数備えた圧縮機ユニットでは、施工時に設置すべき冷却器の数が多く、また、各冷却器に接続すべき配管の数も多いため、その設置作業が煩雑となっており、冷却装置の導入コストを低減するのが困難となっているという問題点もある。
【0010】
一方、上記の特許文献においては具体的に説明されていないが、水素ガスを段階的に圧縮したときには、前段側の圧縮行程によって圧縮された水素ガスの方が圧縮率が低いため、後段側の圧縮行程によって圧縮された水素ガスよりも体積が大きく、例えば同じ断面開口面積の配管内を通過させたときには、前段側の圧縮行程によって圧縮された水素ガスの配管内の流速が、後段側の圧縮行程によって圧縮された水素ガスの配管内の流速よりも速くなる傾向がある。また、同じ断面開口面積の配管内を通過させられるときには、流速が速いほど、通過抵抗が大きくなり、大きな圧力損失が生じることが知られている。
【0011】
したがって、水素ガスを多段圧縮する装置、およびその周辺の機器においては、圧力損失の影響を考慮して、水素ガスが通過させられる配管の断面開口面積や流路長を最適化する必要がある。このため、各圧縮要素毎に別個独立した冷却器を複数備えた圧縮機ユニットでは、各冷却器内の配管の断面開口面積や流路長を互いに異ならせる必要があることから、各冷却器の大きさ(外形サイズ)を一致させるのが困難となっている。このため、上記の特許文献に開示の圧縮機ユニットでは、同じ大きさで同じ形の冷却器を複数設置する構成と比較して、各冷却器の設置作業が一層煩雑になっているという問題点がある。
【0012】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、多段圧縮装置によって圧縮された水素ガスの冷却時に生じる圧力損失を十分に抑え、かつ冷却のために必要な機器による占有スペースを十分に小さくすると共に、その導入コストを十分に低減し得る熱交換器を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成すべく、請求項1記載の熱交換器は、処理対象の気体を多段圧縮する多段圧縮装置に接続可能に構成されると共に、前記多段圧縮装置によって圧縮された前記気体と冷却用流体との熱交換によって当該気体を冷却可能に構成された熱交換器であって、前記多段圧縮装置における第Ma段圧縮行程(Maは、自然数)によって圧縮された前記気体を前記冷却用流体と熱交換させる第1熱交換部から、当該多段圧縮装置における第Mb段圧縮行程(Mbは、(Ma+1)以上の自然数)によって圧縮された前記気体を当該冷却用流体と熱交換させる第N熱交換部(Nは、2以上Mb以下の自然数)までのN個の当該熱交換部と、前記冷却用流体を導入可能な流体導入部、および当該冷却用流体を排出可能な流体排出部が設けられると共に前記N個の熱交換部が収容された容器体とを備え、前記各熱交換部は、前記気体の通過が可能な管体が螺旋状に巻回された伝熱コイルをそれぞれ備え、かつ当該各伝熱コイルの当該管体が同じ材料で形成されると共に、前記多段圧縮装置における第L段圧縮行程(Lは、Ma以上(Mb-1)以下の各自然数)によって圧縮された前記気体を前記冷却用流体と熱交換させる当該熱交換部の前記伝熱コイルにおける前記管体の断面開口面積が、当該多段圧縮装置における当該L段圧縮行程よりも後段側の圧縮行程によって圧縮された前記気体を当該冷却用流体と熱交換させる当該熱交換部の前記伝熱コイルにおける前記管体の断面開口面積以上となり、かつ前記第1熱交換部の前記伝熱コイルにおける前記管体の断面開口面積が少なくとも前記第N熱交換部の前記伝熱コイルにおける前記管体の断面開口面積よりも大きくなるようにそれぞれ形成され、前記多段圧縮装置における第K段圧縮行程(Kは、(Ma+1)以上Mb以下の各自然数)によって圧縮された前記気体を前記冷却用流体と熱交換させる当該熱交換部の前記伝熱コイルにおける前記管体の厚みが、当該第K段圧縮行程よりも前段側の圧縮行程によって圧縮された前記気体を当該冷却用流体と熱交換させる当該熱交換部の前記伝熱コイルにおける前記管体の厚み以上となり、かつ前記第N熱交換部の前記伝熱コイルにおける前記管体の厚みが少なくとも前記第1熱交換部の前記伝熱コイルにおける前記管体の厚みよりも厚くなるようにそれぞれ形成され、前記各熱交換部のうちの少なくとも1つが、前記容器体内において分岐合流用金具を介して並列接続された複数の前記伝熱コイルを備えて構成されている。
【0016】
請求項2記載の熱交換器は、請求項1記載の熱交換器において、前記気体としての水素ガスを冷却可能に構成されている。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載の熱交換器では、容器体内に収容されたN個の熱交換部が、気体の通過が可能な管体が螺旋状に巻回された伝熱コイルをそれぞれ備えると共に、多段圧縮装置における第L段圧縮行程によって圧縮された気体を冷却用流体と熱交換させる熱交換部の伝熱コイルにおける管体の断面開口面積が、L段圧縮行程よりも後段側の圧縮行程によって圧縮された気体を冷却用流体と熱交換させる熱交換部の伝熱コイルにおける管体の断面開口面積以上となり、かつ第1熱交換部の伝熱コイルにおける管体の断面開口面積が少なくとも第N熱交換部の伝熱コイルにおける管体の断面開口面積よりも大きくなるようにそれぞれ形成されている。
【0018】
したがって、請求項1記載の熱交換器によれば、処理対象の気体をN段階の圧縮行程毎に冷却するためのN個の熱交換部を容器体内に収容して一体化したことにより、別個独立したN個の熱交換器(冷却器)によって処理対象の気体をN段階の圧縮行程毎に冷却する構成と比較して、気体の冷却のために必要な機器の占有スペースを十分に小さくすることができる。また、冷却用流体の配管の数を少数とすることができるため、設置作業が容易となり、導入コストを低減することができる。また、各熱交換部を構成する伝熱コイルの断面開口面積を最適化したことで気体の冷却時における圧力損失を十分に抑えることができる。
【0019】
また、請求項1記載の熱交換器では、各熱交換部における各伝熱コイルの管体が同じ材料で形成されると共に、多段圧縮装置における第K段圧縮行程によって圧縮された気体を冷却用流体と熱交換させる熱交換部の伝熱コイルにおける管体の厚みが、第K段圧縮行程よりも前段側の圧縮行程によって圧縮された気体を冷却用流体と熱交換させる熱交換部の伝熱コイルにおける管体の厚み以上となり、かつ第N熱交換部の伝熱コイルにおける管体の厚みが少なくとも第1熱交換部の伝熱コイルにおける管体の厚みよりも厚くなるようにそれぞれ形成されている。
【0020】
したがって、請求項1記載の熱交換器によれば、処理対象の気体の圧力が高くなっている後段側の圧縮行程後の気体を冷却する熱交換部については、変形や破損(気体の漏洩)を招くことのない十分な厚みの管体によって伝熱コイルを形成しつつ、圧力がそれほど高くない前段側の圧縮行程後の気体を冷却する熱交換部については、その厚みが薄い管体によって伝熱コイルを形成することで、伝熱コイルを容易に製作することができ、また、材料コストも低減できることから、熱交換器の製造コストを十分に低減することができる。
【0021】
さらに、請求項1記載の熱交換器によれば、各熱交換部のうちの少なくとも1つを、並列接続した複数の伝熱コイルを備えて構成したことにより、圧力損失を抑えることが可能な十分な広さの断面開口面積を得るために太い管体で形成した伝熱コイルを採用したときには、その伝熱コイルの製作(管体の曲げ加工等)が困難となるのに対し、複数の伝熱コイルを並列接続して必要な断面開口面積を得ることで、各伝熱コイルの管体として細い管体を使用することができるため、伝熱コイルを容易に製作することができる結果、熱交換器の製造コストを十分に低減することができる。また、複数の熱交換部において、伝熱コイルを構成する管体として、同じ管体を使用しても断面開口面積を異ならせることができるため、同じ管体で複数の熱交換部の伝熱コイルを製作した場合には、使用する管体の種類数が少数となる分だけ、材料コスト、すなわち、熱交換器の製造コストを一層低減することができる。
【0022】
また、請求項2記載の熱交換器によれば、気体としての水素ガスを冷却可能に構成したことにより、水素ガス燃料電池自動車等に水素ガスを給気する水素ガスステーションのように機器の設置可能スペースが狭い場所であっても、熱交換器を設置することができ、これにより、多段圧縮装置によって圧縮される水素ガスを好適に冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】水素ガス給気システム100の構成を示す構成図である。
【
図2】水素ガス給気システム100における多段圧縮装置1および水素ガス冷却用熱交換器5の構成を示す構成図である。
【
図3】水素ガス給気システム100における水素ガス冷却用熱交換器5の構成について説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して、熱交換器の実施の形態について説明する。
【0025】
図1に示す水素ガス給気システム100は、一例として、水素ガス燃料電池自動車等の給気対象X2に対して「処理対象の気体」の一例である水素ガスを給気する水素ガスステーション用の設備であって、別所で生成されて運搬用のガスタンク(図示せず)に充填された状態で搬送された水素ガスや、水素ガス給気システム100の設置場所において水素ガス生成装置(図示せず)によって生成される水素ガスなどを貯留可能に構成されると共に、貯留している水素ガスを給気対象X2に給気することができるように構成されている。具体的には、水素ガス給気システム100は、多段圧縮装置1、ガスタンク2、ディスペンサー3およびクーリングタワー4などを備えて構成されている。なお、以下の説明においては、上記の「運搬用のガスタンク」や「水素ガス生成装置」を総称して水素ガス源X1ともいう。
【0026】
多段圧縮装置1は、「多段圧縮装置」の一例であって、水素ガス源X1から水素ガス配管20を介して供給される水素ガスをガスタンク2に貯留する際に、給気対象X2への給気に適した十分な圧力まで水素ガスを圧縮することができるように構成されている。具体的には、本例の水素ガス給気システム100における多段圧縮装置1は、
図2に示すように、一例として、第1段圧縮機11、第2段圧縮機12、第3段圧縮機13、第4段圧縮機14、および第5段圧縮機15の5つの「圧縮機」を備えて水素ガス源X1からの水素ガスを5段階で多段圧縮可能に構成されている。
【0027】
なお、本例の多段圧縮装置1では、第1段圧縮機11が「第Ma=1段圧縮行程」の圧縮を行う圧縮機に相当し、かつ第5段圧縮機15が「第Mb=5段圧縮行程」の圧縮を行う圧縮機に相当する。また、実際の多段圧縮装置1は、上記の各圧縮機11~15以外の各種の構成要素を備えているが、水素ガス給気システム100についての理解を容易とするために、多段圧縮装置1における各圧縮機11~15以外の構成要素についての図示および説明を省略する。
【0028】
この場合、本例の水素ガス給気システム100では、後述するように、多段圧縮装置1の各圧縮機11~15による圧縮行程が完了する都度、断熱圧縮によって温度上昇した水素ガスを水素ガス冷却用熱交換器5において冷却する構成が採用されている。ガスタンク2は、給気対象X2への給気に必要な十分な量の水素ガスを貯留可能に構成されると共に、多段圧縮装置1によって水素ガスに加えられた圧力を維持可能に構成された大容量圧力容器であって、
図1に示すように、後述の水素ガス配管25bを介して水素ガス冷却用熱交換器5に接続されている。
【0029】
ディスペンサー3は、水素ガス配管26を介してガスタンク2に接続されると共に、水素ガス配管27を介して接続した給気対象X2に対してガスタンク2に貯留されている水素ガスを給気可能に構成されている。なお、実際の水素ガス給気システム100では、給気対象X2に対する給気時にディスペンサー3において水素ガスを冷却するが、水素ガス給気システム100の構成についての理解を容易とするために、ディスペンサー3における水素ガスを冷却するための構成要素に関する図示および説明を省略する。
【0030】
クーリングタワー4は、水素ガス給気システム100の各種設備に対して冷却水Wを供給可能な冷却水供給源であって、本例の水素ガス給気システム100では、「冷却用流体」としての冷却水Wをクーリングタワー4から冷却水配管4aを介して水素ガス冷却用熱交換器5に供給して水素ガスと熱交換させることで水素ガスを冷却する構成が採用されている。また、本例の水素ガス給気システム100では、水素ガス冷却用熱交換器5において水素ガスとの熱交換によって温度上昇した冷却水Wを、冷却水配管4bを介してクーリングタワー4に回収して再利用する構成が採用されている。なお、冷却水Wを回収する構成に代えて、クーリングタワー4から水素ガス冷却用熱交換器5に供給した冷却水Wを、水素ガスとの熱交換が完了した後(水素ガス冷却用熱交換器5から排出されたとき)に回収せずに排水する構成を採用することもできる。
【0031】
水素ガス冷却用熱交換器5は、「熱交換器」の一例である「シェル&コイル式熱交換器」であって、
図3に示すように、第1熱交換部41、第2熱交換部42、第3熱交換部43、第4熱交換部44および第5熱交換部45のN=5個の「熱交換部」が容器体30内に収容されて冷却水Wとの熱交換によって水素ガスを冷却可能に構成されている。この場合、容器体30は、「容器体」に相当し、一例として、前述の冷却水配管4aを接続可能な配管接続部51a(「流体導入部」の一例)、および冷却水配管4bを接続可能な配管接続部51b(「流体排出部」の一例)が設けられた筒状部31と、筒状部31の両端部を閉塞する蓋部32a,32bとを備えて各熱交換部41~45を収容可能な密閉空間を形成する。
【0032】
第1熱交換部41は、「第1熱交換部」の一例であって、
図2に示すように、多段圧縮装置1の第1段圧縮機11によって圧縮された水素ガス(第2段圧縮機12による第2段圧縮前の水素ガス)を冷却水Wとの熱交換によって冷却する。この第1熱交換部41は、
図1,2に示すように、第1段圧縮機11の吐出口に接続された水素ガス配管21aを接続可能な配管接続部61aに一端部(水素ガスの導入部)が接続されると共に、第2段圧縮機12の給気口に接続された水素ガス配管21bを接続可能な配管接続部61bに他端部(水素ガスの排出部)が接続されている。
【0033】
また、第2熱交換部42は、
図2に示すように、多段圧縮装置1の第2段圧縮機12によって圧縮された水素ガス(第3段圧縮機13による第3段圧縮前の水素ガス)を冷却水Wとの熱交換によって冷却する。この第2熱交換部42は、
図1,2に示すように、第2段圧縮機12の吐出口に接続された水素ガス配管22aを接続可能な配管接続部62aに一端部(水素ガスの導入部)が接続されると共に、第3段圧縮機13の給気口に接続された水素ガス配管22bを接続可能な配管接続部62bに他端部(水素ガスの排出部)が接続されている。
【0034】
さらに、第3熱交換部43は、
図2に示すように、多段圧縮装置1の第3段圧縮機13によって圧縮された水素ガス(第4段圧縮機14による第4段圧縮前の水素ガス)を冷却水Wとの熱交換によって冷却する。この第3熱交換部43は、
図1,2に示すように、第3段圧縮機13の吐出口に接続された水素ガス配管23aを接続可能な配管接続部63aに一端部(水素ガスの導入部)が接続されると共に、第4段圧縮機14の給気口に接続された水素ガス配管23bを接続可能な配管接続部63bに他端部(水素ガスの排出部)が接続されている。
【0035】
また、第4熱交換部44は、
図2に示すように、多段圧縮装置1の第4段圧縮機14によって圧縮された水素ガス(第5段圧縮機15による第5段圧縮前の水素ガス)を冷却水Wとの熱交換によって冷却する。この第4熱交換部44は、
図1,2に示すように、第4段圧縮機14の吐出口に接続された水素ガス配管24aを接続可能な配管接続部64aに一端部(水素ガスの導入部)が接続されると共に、第5段圧縮機15の給気口に接続された水素ガス配管24bを接続可能な配管接続部64bに他端部(水素ガスの排出部)が接続されている。
【0036】
さらに、第5熱交換部45は、「第N=5熱交換部」の一例であって、
図2に示すように、多段圧縮装置1の第5段圧縮機15によって圧縮された水素ガス(ガスタンク2に貯留させる水素ガス)を冷却水Wとの熱交換によって冷却する。第5熱交換部45は、
図1,2に示すように、第5段圧縮機15の吐出口に接続された水素ガス配管25aを接続可能な配管接続部65aに一端部(水素ガスの導入部)が接続されると共に、ガスタンク2に接続された水素ガス配管25bを接続可能な配管接続部65bに他端部(水素ガスの排出部)が接続されている。
【0037】
また、本例の水素ガス冷却用熱交換器5では、上記の各熱交換部41~45が、水素ガスの通過が可能な管体(一例として、丸管)が螺旋状に巻回された「伝熱コイル」をそれぞれ備えて構成されている。また、本例の水素ガス冷却用熱交換器5では、一例として、第1熱交換部41および第2熱交換部42の2つの熱交換部が、並列接続された複数の「伝熱コイル」を備えて構成されている(「各熱交換部のうちの少なくとも1つ」が「第1熱交換部41および第2熱交換部42の2つ」の構成の例)。
【0038】
具体的には、
図3に示すように、第1熱交換部41は、蓋部32aに取り付けられた配管接続部61a,61bの間に、直列接続された伝熱コイル71a1,71b1と、直列接続された伝熱コイル71a2,71b2とが分岐合流用金具71ta,71tbを介して並列接続されている。この場合、この第1熱交換部41では、分岐合流用金具71taから伝熱コイル71a1,71b1を介して分岐合流用金具71tbに至る水素ガス流路と、分岐合流用金具71taから伝熱コイル71a2,71b2を介して分岐合流用金具71tbに至る水素ガス流路とが等しい長さとなるように構成されている。
【0039】
また、第2熱交換部42は、蓋部32bに取り付けられた配管接続部62a,62bの間に、直列接続された伝熱コイル72a1,72b1と、直列接続された伝熱コイル72a2,72b2とが分岐合流用金具72ta,72tbを介して並列接続されている。この場合、この第2熱交換部42では、分岐合流用金具72taから伝熱コイル72a1,72b1を介して分岐合流用金具72tbに至る水素ガス流路と、分岐合流用金具72taから伝熱コイル72a2,72b2を介して分岐合流用金具72tbに至る水素ガス流路とが等しい長さとなるように構成されている。
【0040】
さらに、第3熱交換部43は、蓋部32bに取り付けられた配管接続部63a,63bの間に、伝熱コイル73a,73bが直列接続され、第4熱交換部44は、蓋部32bに取り付けられた配管接続部64a,64bの間に、伝熱コイル74a,74bが直列接続され、第5熱交換部45は、蓋部32aに取り付けられた配管接続部65a,65bの間に、伝熱コイル75a,75bが直列接続されている。
【0041】
また、本例の水素ガス冷却用熱交換器5では、各熱交換部41~45の伝熱コイルにおける管体の断面開口面積が、その熱交換部よりも後段側の熱交換部の伝熱コイルにおける管体の断面開口面積以上となるように構成されている。
【0042】
具体的には、伝熱コイル71a1,71b1および伝熱コイル72a2,72b2が並列接続されている第1熱交換部41では、断面開口面積が等しい管体で各伝熱コイル71a1,71b1,71a2,71b2が形成されている。また、伝熱コイル72a1,72b1および伝熱コイル72a2,72b2が並列接続されている第2熱交換部42では、断面開口面積が等しい管体で各伝熱コイル72a1,72b1,72a2,72b2が形成されている。さらに、第3熱交換部43では、断面開口面積が等しい管体で両伝熱コイル73a,73bが形成され、第4熱交換部44では、断面開口面積が等しい管体で両伝熱コイル74a,74bが形成され、第5熱交換部45では、断面開口面積が等しい管体で両伝熱コイル75a,75bが形成されている。
【0043】
また、第1熱交換部41(「多段圧縮装置における第L=1段圧縮行程によって圧縮された気体を冷却用流体と熱交換させる熱交換部」の一例)では、伝熱コイル71a1(または、伝熱コイル71b1)を構成する管体の断面開口面積と、伝熱コイル71a2(または、伝熱コイル71b2)を構成する管体の断面開口面積との和(以下、単に「管体の断面開口面積」ともいう)が、第2熱交換部42(「多段圧縮装置におけるL=1段圧縮行程よりも後段側の圧縮行程によって圧縮された気体を冷却用流体と熱交換させる熱交換部」の一例)の伝熱コイル72a1(または、伝熱コイル72b1)を構成する管体の断面開口面積と、第2熱交換部42の伝熱コイル72a2(または、伝熱コイル72b2)を構成する管体の断面開口面積との和(以下、単に「管体の断面開口面積」ともいう)以上となるように形成されている。
【0044】
さらに、第2熱交換部42(「多段圧縮装置における第L=2段圧縮行程によって圧縮された気体を冷却用流体と熱交換させる熱交換部」の一例)では、管体の断面開口面積が、第3熱交換部43(「多段圧縮装置におけるL=2段圧縮行程よりも後段側の圧縮行程によって圧縮された気体を冷却用流体と熱交換させる熱交換部」の一例)の伝熱コイル73a(または、伝熱コイル73b)を構成する管体の断面開口面積(以下、単に「管体の断面開口面積」ともいう)以上となるように形成されている。
【0045】
また、第3熱交換部43(「多段圧縮装置における第L=3段圧縮行程によって圧縮された気体を冷却用流体と熱交換させる熱交換部」の一例)では、管体の断面開口面積が、第4熱交換部44(「多段圧縮装置におけるL=3段圧縮行程よりも後段側の圧縮行程によって圧縮された気体を冷却用流体と熱交換させる熱交換部」の一例)の伝熱コイル74a(または、伝熱コイル74b)を構成する管体の断面開口面積(以下、単に「管体の断面開口面積」ともいう)以上となるように形成されている。
【0046】
さらに、第4熱交換部44(「多段圧縮装置における第L=4段圧縮行程によって圧縮された気体を冷却用流体と熱交換させる熱交換部」の一例)では、管体の断面開口面積が、第5熱交換部45(「多段圧縮装置におけるL=4段圧縮行程よりも後段側の圧縮行程によって圧縮された気体を冷却用流体と熱交換させる熱交換部」の一例)の伝熱コイル75a(または、伝熱コイル75b)を構成する管体の断面開口面積(以下、単に「管体の断面開口面積」ともいう)以上となるように形成されている。
【0047】
より具体的には、本例の水素ガス冷却用熱交換器5では、一例として、「第1熱交換部41の管体の断面開口面積」>「第2熱交換部42の管体の断面開口面積」>「第3熱交換部43の管体の断面開口面積」>「第4熱交換部44の管体の断面開口面積」>「第5熱交換部45の管体の断面開口面積」との関係が満たされるように各熱交換部41~45が構成されている。これにより、本例の水素ガス冷却用熱交換器5では、「第1熱交換部41の管体の断面開口面積」が「第5熱交換部45(「第N熱交換部」の一例)の管体の断面開口面積」よりも大きくなるとの条件が満たされている。
【0048】
また、本例の水素ガス冷却用熱交換器5では、各熱交換部41~45の伝熱コイルにおける管体の厚みが、その熱交換部よりも前段側の熱交換部の伝熱コイルにおける管体の厚み以上となるように構成されている。
【0049】
具体的には、本例の水素ガス冷却用熱交換器5では、各熱交換部41~45の各「伝熱コイル」が同じ材料で形成されている。また、伝熱コイル71a1,71b1および伝熱コイル72a2,72b2が並列接続されている第1熱交換部41では、厚みが等しい管体で各伝熱コイル71a1,71b1,71a2,71b2が形成されている。また、伝熱コイル72a1,72b1および伝熱コイル72a2,72b2が並列接続されている第2熱交換部42では、厚みが等しい管体で各伝熱コイル72a1,72b1,72a2,72b2が形成されている。さらに、第3熱交換部43では、厚みが等しい管体で両伝熱コイル73a,73bが形成され、第4熱交換部44では、厚みが等しい管体で両伝熱コイル74a,74bが形成され、第5熱交換部45では、厚みが等しい管体で両伝熱コイル75a,75bが形成されている。
【0050】
また、第2熱交換部42(「多段圧縮装置における第K=2段圧縮行程によって圧縮された気体を冷却用流体と熱交換させる熱交換部」の一例)では、伝熱コイル72a1(または、伝熱コイル72b1)や伝熱コイル72a2(または、伝熱コイル72b2)を構成する管体の厚み(以下、単に「管体の厚み」ともいう)が、前段側の第1熱交換部41(「第K段圧縮行程よりも前段側の圧縮行程によって圧縮された気体を冷却用流体と熱交換させる熱交換部」の一例)の伝熱コイル71a1(または、伝熱コイル71b1)や伝熱コイル71a2(または、伝熱コイル71b2)を構成する管体の厚み(以下、単に「管体の厚み」ともいう)以上となるように形成されている。
【0051】
さらに、第3熱交換部43(「多段圧縮装置における第K=3段圧縮行程によって圧縮された気体を冷却用流体と熱交換させる熱交換部」の一例)では、伝熱コイル73a1(または、伝熱コイル73b1)や伝熱コイル73a2(または、伝熱コイル73b2)を構成する管体の厚み(以下、単に「管体の厚み」ともいう)が、前段側の第2熱交換部42(「第K段圧縮行程よりも前段側の圧縮行程によって圧縮された気体を冷却用流体と熱交換させる熱交換部」の一例)の管体の厚み以上となるように形成されている。
【0052】
また、第4熱交換部44(「多段圧縮装置における第K=4段圧縮行程によって圧縮された気体を冷却用流体と熱交換させる熱交換部」の一例)では、伝熱コイル74a(または、伝熱コイル74b)を構成する管体の厚み(以下、単に「管体の厚み」ともいう)が、前段側の第3熱交換部43(「第K段圧縮行程よりも前段側の圧縮行程によって圧縮された気体を冷却用流体と熱交換させる熱交換部」の一例)の管体の厚み以上となるように形成されている。
【0053】
さらに、第5熱交換部45(「多段圧縮装置における第K=5段圧縮行程によって圧縮された気体を冷却用流体と熱交換させる熱交換部」の一例)では、伝熱コイル75a(または、伝熱コイル75b)を構成する管体の厚み(以下、単に「管体の厚み」ともいう)が、前段側の第4熱交換部44(「第K段圧縮行程よりも前段側の圧縮行程によって圧縮された気体を冷却用流体と熱交換させる熱交換部」の一例)の管体の厚み以上となるように形成されている。
【0054】
より具体的には、本例の水素ガス冷却用熱交換器5では、一例として、「第1熱交換部41の管体の厚み」<「第2熱交換部42の管体の厚み」=「第3熱交換部43の管体の厚み」<「第4熱交換部44の管体の厚み」<「第5熱交換部45の管体の厚み」との関係が満たされるように各熱交換部41~45が構成されている。これにより、本例の水素ガス冷却用熱交換器5では、「第5熱交換部45(「第N熱交換部」の一例)の管体の厚み」が「第1熱交換部41の管体の厚み」よりも厚くなるとの条件が満たされている。
【0055】
なお、本例の、水素ガス冷却用熱交換器5では、第2熱交換部42の伝熱コイル72a1,72b1や伝熱コイル72a2,72b2が第3熱交換部43の伝熱コイル73a,73bを構成する管体と同じ管体で形成されている。これにより、上記の「第2熱交換部42の管体の厚み」は、第2熱交換部42に求められる耐圧性能を超える耐圧性能を備えた状態となっているが、同じ管体を使用して第2熱交換部42および第3熱交換部43が形成されている分だけ、水素ガス冷却用熱交換器5の製造に必要な管体の種類数が少数となっており、その製造コストが低減されている。
【0056】
また、本例の水素ガス冷却用熱交換器5では、クーリングタワー4から冷却水配管4aを介して供給されて配管接続部51aから容器体30内に導入されて配管接続部51bから冷却水配管4bを介してクーリングタワー4に回収される冷却水Wが、各熱交換部41~45において水素ガスとの熱交換によって温度上昇する熱量を考慮して、容器体30内における各熱交換部41~45の配置が最適化されている。
【0057】
具体的には、本例の水素ガス冷却用熱交換器5では、一例として、容器体30内における配管接続部51a寄りの位置(
図3における上側:冷却水Wの温度が十分に低い部位)に第2熱交換部42、第3熱交換部43および第4熱交換部44が配置されると共に、容器体30内における配管接続部51b寄りの位置(
図3における下側:冷却水Wの温度が配管接続部51a寄りの部位よりも高くなる部位)に第1熱交換部41および第5熱交換部45が配置されている。したがって、本例の水素ガス冷却用熱交換器5では、上記の配管接続部61a,61bおよび配管接続部65a,65bが蓋部32aに配設されると共に、上記の配管接続部62a,62b、配管接続部63a,63bおよび配管接続部64a,64bが蓋部32bに配設されている。
【0058】
この場合、多段圧縮装置1における第1段圧縮機11による圧縮行程では、第2段圧縮機12から第5段圧縮機15による後段側の各圧縮行程とは異なり、多段圧縮装置1による圧縮が行われていない低圧の水素ガスを対象とする圧縮処理が実行される。したがって、第1段圧縮機11による圧縮行程では、その圧縮効率(圧力の上昇率)が非常に高くなっており、第1段圧縮機11から圧送される水素ガスは、非常に高い温度となる傾向がある。このため、第1段圧縮機11から圧送される水素ガスを冷却する第1熱交換部41を容器体30内における配管接続部51a寄りの位置(容器体30内における冷却水Wの流路の上流側の位置)に配置した場合には、高温の水素ガスの冷却によって高い温度まで温度上昇した冷却水Wが配管接続部51bに向かって容器体30内を流動させられることとなる。
【0059】
この結果、第1熱交換部41を容器体30内における配管接続部51a寄りの位置に配置した場合には、配管接続部51b寄りの位置(容器体30内における冷却水Wの流路の下流側の位置)に配置した他の熱交換部によって水素ガスを好適に冷却するのが困難となるおそれがある。しかしながら、第1熱交換部41に導入される水素ガスのように温度が高い水素ガスであれば、冷却水Wの温度がやや高くても十分に冷却することができる。したがって、第1段圧縮機11から圧送される高温の水素ガスを冷却する第1熱交換部41については、本例の水素ガス冷却用熱交換器5のように、配管接続部51b寄りの位置(容器体30内における冷却水Wの流路の下流側の位置)に配置するのが好ましい。
【0060】
一方、多段圧縮装置1における第5段圧縮機15による圧縮行程では、第1段圧縮機11から第4段圧縮機14による前段側の各圧縮行程において圧縮された高圧の水素ガスが圧縮される。したがって、多段圧縮装置1における第5段圧縮機15による圧縮行程では、前段側の各圧縮行程と比較して圧縮効率がやや低くなっており、第5段圧縮機15から圧送される水素ガスは、過剰に高い温度とはならない傾向がある。このため、第5段圧縮機15から圧送される水素ガスを冷却する第5熱交換部45を容器体30内における配管接続部51a寄りの位置(容器体30内における冷却水Wの流路の上流側の位置)に配置し、他の熱交換部における水素ガスの冷却に伴ってやや温度上昇した冷却水と熱交換させるようにしたとしても、水素ガスを十分に冷却することができる。したがって、第5段圧縮機15から圧送される水素ガスを冷却する第5熱交換部45については、本例の水素ガス冷却用熱交換器5のように、他の熱交換部(第2熱交換部42~第4熱交換部44)において水素ガスを低温の冷却水Wと熱交換させることができるように、配管接続部51b寄りの位置(容器体30内における冷却水Wの流路の下流側の位置)に配置するのが好ましい。
【0061】
なお、各熱交換部41~45における水素ガスの冷却に伴う冷却水Wの温度上昇量は、導入される水素ガス(処理対象の水素ガス)の温度および流速や、各熱交換部41~45の「管体」の直径(内径および外径)などの相違によって異なる。したがって、各熱交換部41~45の配置(各配管接続部61a~65a,61b~65bの配置)については、多段圧縮装置1(各圧縮機11~15)の仕様等に応じて適宜変更することができる。
【0062】
また、
図3では、水素ガス冷却用熱交換器5の構成についての理解を容易とするために、各熱交換部41~45の「伝熱コイル」を並べて図示しているが、実際の水素ガス冷却用熱交換器5では、各「伝熱コイル」の一部、またはすべてが、巻径が異なる「伝熱コイル」で構成されて同心状に重ねて配置される。このような構成においては、巻径が大きいほど水素ガスの流路長が長くなり、かつ巻径が小さいほど水素ガスの流路長が短くなるため、各熱交換部41~45に求められる熱交換能力に応じて、必要な流路長が確保されるように各「伝熱コイル」の配置が最適化されている。
【0063】
次に、水素ガス給気システム100において水素ガス源X1からガスタンク2に水素ガスを貯留する際の圧縮行程で水素ガスを冷却する方法について説明する。
【0064】
水素ガス源X1から供給される水素ガスをガスタンク2に貯留する際には、ガスタンク2から給気対象X2への給気に適した圧力となるように多段圧縮装置1によって水素ガスを圧縮した状態でガスタンク2に貯留する。この際に、水素ガス源X1から供給される水素ガスが定圧のため、この水素ガスを、給気に適した十分な圧力まで1段階で昇圧するのは困難となっている。したがって、本例の水素ガス給気システム100においても、多段圧縮装置1における各圧縮機11~15によって多段階(本例では、5段階)に水素ガスを圧縮する構成が採用されている。
【0065】
また、各圧縮機11~15による圧縮行程では、断熱圧縮によって水素ガスの温度が上昇する。したがって、後段側の圧縮行程(本例では、第2段圧縮行程から第5段圧縮行程)における圧縮効率の向上、後段側の圧縮行程を行う圧縮機(本例では、圧縮機12~15)の動作不良の回避、およびガスタンク2への充填効率の向上を図るには、各圧縮行程が完了する都度、水素ガスを十分に冷却する必要がある。したがって、本例の水素ガス給気システム100においても、多段圧縮装置1における各圧縮機11~15による圧縮行程が完了する都度、断熱圧縮によって温度上昇した水素ガスを水素ガス冷却用熱交換器5によって冷却する構成が採用されている。
【0066】
具体的には、水素ガス源X1からガスタンク2への水素ガスの貯留に際して多段圧縮装置1によって水素ガスを圧縮する際には、図示しない送水ポンプを動作させてクーリングタワー4から冷却水配管4aを介して冷却水Wを供給する。この際に、供給された冷却水Wは、容器体30の配管接続部51aから容器体30内に導入され、配管接続部51bから冷却水配管4bに排水されてクーリングタワー4に回収される。すなわち、この水素ガス給気システム100では、送水ポンプによる冷却水Wの送水を開始した際に、クーリングタワー4と水素ガス冷却用熱交換器5との間で冷却水Wが循環される。なお、クーリングタワー4における冷却水Wの冷却(放熱)の処理については公知のため、詳細な説明を省略する。これにより、後述のように水素ガスを十分に冷却可能な十分に温度が低い冷却水Wが水素ガス冷却用熱交換器5における各熱交換部41~45の周囲(容器体30内)に継続的に供給される状態となる。
【0067】
一方、水素ガス源X1から水素ガス配管20を介して多段圧縮装置1の第1段圧縮機11に供給された水素ガスは、第1段圧縮機11における第1段圧縮行程において圧縮されることで温度上昇した状態で水素ガス配管21aを介して水素ガス冷却用熱交換器5に送気される。また、水素ガス配管21aを介して送気された水素ガスは、配管接続部61aから第1熱交換部41に導入されて冷却水Wとの熱交換によって冷却される。
【0068】
具体的には、第1段圧縮機11から水素ガス配管21aを介して送気された水素ガスは、配管接続部61aから容器体30内に進入させられて水素ガス配管を介して分岐合流用金具71taに到達し、分岐合流用金具71taおいて二手に分流される。また、一方の流れの水素ガスは、伝熱コイル71a1,71b1を通過させられると共に、他方の流れの水素ガスは、伝熱コイル71a2,71b2を通過させられた後に、分岐合流用金具71tbにおいて合流して配管接続部61bに到達する。この際には、第1熱交換部41(各伝熱コイル71a1,71b1,71a2,71b2等)を通過させられる水素ガスが、容器体30内を配管接続部51aから配管接続部51bに向かって流動させられている冷却水Wとの熱交換によって冷却される。これにより、十分に温度低下した水素ガスが配管接続部61bから水素ガス配管21bを介して第2段圧縮機12に送気される。
【0069】
また、水素ガス配管21bを介して第2段圧縮機12に送気された水素ガスは、第2段圧縮機12における第2段圧縮行程において圧縮されることで温度上昇した状態で水素ガス配管22aを介して水素ガス冷却用熱交換器5に送気される。また、水素ガス配管22aを介して送気された水素ガスは、配管接続部62aから第2熱交換部42に導入されて冷却水Wとの熱交換によって再び冷却される。
【0070】
具体的には、第2段圧縮機12から水素ガス配管22aを介して送気された水素ガスは、配管接続部62aから容器体30内に進入させられて水素ガス配管を介して分岐合流用金具72taに到達し、分岐合流用金具72taおいて二手に分流される。また、一方の流れの水素ガスは、伝熱コイル72a1,72b1を通過させられると共に、他方の流れの水素ガスは、伝熱コイル72a2,72b2を通過させられた後に、分岐合流用金具72tbにおいて合流して配管接続部62bに到達する。この際には、第2熱交換部42(各伝熱コイル72a1,72b1,72a2,72b2等)を通過させられる水素ガスが、容器体30内を流動させられている冷却水Wとの熱交換によって冷却される。これにより、十分に温度低下した水素ガスが配管接続部62bから水素ガス配管22bを介して第3段圧縮機13に送気される。
【0071】
さらに、水素ガス配管22bを介して第3段圧縮機13に送気された水素ガスは、第3段圧縮機13における第3段圧縮行程において圧縮されることで温度上昇した状態で水素ガス配管23aを介して水素ガス冷却用熱交換器5に送気される。また、水素ガス配管23aを介して送気された水素ガスは、配管接続部63aから第3熱交換部43に導入されて冷却水Wとの熱交換によって再び冷却される。
【0072】
具体的には、第3段圧縮機13から水素ガス配管23aを介して送気された水素ガスは、配管接続部63aから容器体30内に進入させられ、水素ガス配管および伝熱コイル73a,73bを通過させられた後に配管接続部63bに到達する。この際には、第3熱交換部43(各伝熱コイル73a,73b等)を通過させられる水素ガスが、容器体30内を流動させられている冷却水Wとの熱交換によって冷却される。これにより、十分に温度低下した水素ガスが配管接続部63bから水素ガス配管23bを介して第4段圧縮機14に送気される。
【0073】
また、水素ガス配管23bを介して第4段圧縮機14に送気された水素ガスは、第4段圧縮機14における第4段圧縮行程において圧縮されることで温度上昇した状態で水素ガス配管24aを介して水素ガス冷却用熱交換器5に送気される。また、水素ガス配管24aを介して送気された水素ガスは、配管接続部64aから第4熱交換部44に導入されて冷却水Wとの熱交換によって再び冷却される。
【0074】
具体的には、第4段圧縮機14から水素ガス配管24aを介して送気された水素ガスは、配管接続部64aから容器体30内に進入させられ、水素ガス配管および伝熱コイル74a,74bを通過させられた後に配管接続部64bに到達する。この際には、第4熱交換部44(各伝熱コイル74a,74b等)を通過させられる水素ガスが、容器体30内を流動させられている冷却水Wとの熱交換によって冷却される。これにより、十分に温度低下した水素ガスが配管接続部64bから水素ガス配管24bを介して第5段圧縮機15に送気される。
【0075】
さらに、水素ガス配管24bを介して第5段圧縮機15に送気された水素ガスは、第5段圧縮機15における第5段圧縮行程において圧縮されることで温度上昇した状態で水素ガス配管25aを介して水素ガス冷却用熱交換器5に送気される。また、水素ガス配管25aを介して送気された水素ガスは、配管接続部65aから第5熱交換部45に導入されて冷却水Wとの熱交換によって再び冷却される。
【0076】
具体的には、第5段圧縮機15から水素ガス配管25aを介して送気された水素ガスは、配管接続部65aから容器体30内に進入させられ、水素ガス配管および伝熱コイル75a,75bを通過させられた後に配管接続部65bに到達する。この際には、第5熱交換部45(各伝熱コイル75a,75b等)を通過させられる水素ガスが、容器体30内を流動させられている冷却水Wとの熱交換によって冷却される。これにより、十分に温度低下した水素ガスが配管接続部65bから水素ガス配管25bを介してガスタンク2に送気されてガスタンク2に貯留される。
【0077】
この場合、多段圧縮装置1による水素ガスの多段圧縮時には、圧縮行程の進行に伴って水素ガスの圧縮率が高まり、その体積が減少する。このため、本例の構成とは異なるが、例えば、多段圧縮装置1における各圧縮機11~15による圧縮後の水素ガスを、同じ断面開口面積の配管にそれぞれ吐出させた場合には、前段側の圧縮行程用の圧縮機から吐出される水素ガスの方が体積が大きいため、配管内の移動速度が高くなる。また、圧縮機から吐出される水素ガスが、同じ断面開口面積の配管内を通過させられる場合には、移動速度が高いときほど圧力損失が大きくなる。
【0078】
したがって、例えば水素ガス冷却用熱交換器5における各熱交換部41~45の配管の断面開口面積を等しくした場合には、第1熱交換部41の通過時の圧力損失が、第2熱交換部42の通過時の圧力損失よりも大きくなり、第2熱交換部42の通過時の圧力損失が、第3熱交換部43の通過時の圧力損失よりも大きくなり、第3熱交換部43の通過時の圧力損失が、第4熱交換部44の通過時の圧力損失よりも大きくなり、かつ第4熱交換部44の通過時の圧力損失が、第5熱交換部45の通過時の圧力損失よりも大きくなることとなる。
【0079】
このため、本例の水素ガス冷却用熱交換器5では、前段側の圧縮行程によって圧縮した水素ガスを冷却する際に水素ガス冷却用熱交換器5内で生じる圧力損失を低減するために、前述したように、前段側の熱交換部ほど管体の断面開口面積が大きくなるように各熱交換部41~45が構成されている。これにより、水素ガス源X1から供給される水素ガスをガスタンク2に貯留する際の圧縮効率が十分に向上している。
【0080】
また、本例の水素ガス冷却用熱交換器5では、第2熱交換部42の伝熱コイル72a1,72b1や伝熱コイル72a2,72b2を、第3熱交換部43の伝熱コイル73a,73bを構成する管体と同じ管体で形成しつつ、「第2熱交換部42の管体の断面開口面積」>「第3熱交換部43の管体の断面開口面積」との条件を満たすために、伝熱コイル72a1,72b1と伝熱コイル72a2,72b2とが分岐合流用金具72ta,72tbによって並列接続されて第2熱交換部42が構成されている。これにより、第2熱交換部42における圧力損失の低減を図るべく、伝熱コイル73a,73bを構成する管体よりも断面開口面積が広い管体で「伝熱コイル」を形成する構成と比較して、水素ガス冷却用熱交換器5の製造に必要な管体の種類数を少数としつつ、第2熱交換部42における圧力損失が十分に低減されている。
【0081】
さらに、本例の水素ガス冷却用熱交換器5では、第1熱交換部41についても、伝熱コイル71a1,71b1と伝熱コイル71a2,71b2とが分岐合流用金具71ta,71tbによって並列接続されて構成されている。この場合、「伝熱コイル」を並列接続せずに第1熱交換部41を構成しようとしたときには、第1熱交換部41における圧力損失を低減するために、断面開口面積が十分に広い太径の管体を使用する必要がある。しかしながら、太径の管体を螺旋形に巻回した「伝熱コイル」を製作するのは、管体の巻回が困難となることから、製作コストが高騰するおそれがある。したがって、本例の水素ガス冷却用熱交換器5では、上記のように、細径の管体で形成した「伝熱コイル」を並列接続して第1熱交換部41を構成することで、その製造コストが十分に低減されている。
【0082】
この場合、前述したように、第1熱交換部41や第2熱交換部42では、導入される水素ガスの量が多く、水素ガスの流速が速いため、大きな圧損が生じることのないように、十分に広い断面開口面積を確保する必要がある。しかしながら、十分な広さの断面開口面積を確保するために十分に太径の管体を使用した場合には、「伝熱コイル」の製造(管体の曲げ加工)が困難となる。そこで、本例の水素ガス冷却用熱交換器5では、上記のように、導入される水素ガスの量が多く水素ガスの流速が速い第1熱交換部41や第2熱交換部42において、伝熱コイル71a1,71b1と伝熱コイル71a2,71b2とを並列接続したり、伝熱コイル72a1,72b1と伝熱コイル72a2,72b2とを並列接続したりすることで、第1熱交換部41や第2熱交換部42を構成する「伝熱コイル」を細径の管体で形成する構成が採用されている。この結果、第1熱交換部41を構成する伝熱コイル71a1,71b1,71a2,71b2や、第2熱交換部42を構成する伝熱コイル72a1,72b1,72a2,72b2を容易に製造することが可能となっている。
【0083】
また、同じ「断面開口面積」を確保し、かつ「耐圧性能」を一致させる場合には、内径が太い管体で構成した1本の流路(伝熱コイル)の「熱交換部」よりも、内径が細い管体で構成した複数本の流路(並列接続された伝熱コイル)の「熱交換部」の方が、「伝熱コイル」を構成する管体の厚みを薄くすることができる。したがって、本例の水素ガス冷却用熱交換器5では、第1熱交換部41を構成する伝熱コイル71a1,71b1,71a2,71b2や、第2熱交換部42を構成する伝熱コイル72a1,72b1,72a2,72b2を薄厚の管体で形成することができる分だけ、各伝熱コイル71a1,71b1,71a2,71b2,72a1,72b1,72a2,72b2を一層容易に製造することが可能となっている。
【0084】
さらに、太い管体で構成した1本の流路(伝熱コイル)の「熱交換部」よりも、細い管体で構成した複数本の流路(並列接続された伝熱コイル)の「熱交換部」の方が「伝熱コイル」において冷却水Wに接する面積(管体の外表面の総面積)が広くなる。したがって、本例の水素ガス冷却用熱交換器5のように、導入される水素ガスの温度が高い第1熱交換部41や第2熱交換部42について、並列接続した複数個の「伝熱コイル(管体)」で構成することで、水素ガスの冷却効率を十分に向上させて十分に冷却することが可能となっている。
【0085】
また、本例の水素ガス冷却用熱交換器5では、前述したように、「第1熱交換部41の管体の厚み」<「第2熱交換部42の管体の厚み」=「第3熱交換部43の管体の厚み」<「第4熱交換部44の管体の厚み」<「第5熱交換部45の管体の厚み」との関係が満たされるように各熱交換部41~45が構成されている。
【0086】
この場合、上記のように、前段側の熱交換部ほど、通過する水素ガスの圧力損失を低減するために断面開口面積を大きくする必要があることから、各熱交換部41~45における「伝熱コイル」のすべてを同じ厚みの管体で形成した場合には、前段側の熱交換部の「伝熱コイル」の管体の外径が非常に大きくなる。このため、前段側の熱交換部における「伝熱コイル」の製造(管体の巻回)が困難となり、製造コストが高騰するおそれがあるだけでなく、必要以上に厚い管体を使用することで、「伝熱コイル」の重量、すなわち、水素ガス冷却用熱交換器5の総重量が過剰に増加して設置作業が困難となるおそれがある。
【0087】
これに対して、各熱交換部の管体の厚みを上記のようにした本例の水素ガス冷却用熱交換器5では、前段側の熱交換部の「伝熱コイル」を容易に製作することができ、また、処理対象の水素ガスの圧力が低いことで大きな耐圧性を有している必要がない前段側の熱交換部における「伝熱コイル」を薄厚とした分だけ、水素ガス冷却用熱交換器5の総重量も十分に小さくなっている。これにより、水素ガス冷却用熱交換器5の設置作業も容易となっている。
【0088】
また、本例では、各熱交換部41~45の「伝熱コイル」が容器体30内に収容されて一体化された「シェル&コイル式熱交換器」の水素ガス冷却用熱交換器5によって冷却水Wと熱交換させて水素ガスを冷却する構成が採用されている。この場合、「シェル&コイル式熱交換器」に代えて「プレート式熱交換器」によって水素ガスを冷却する際には、冷却水Wが、冷却水プレートに形成された冷却水通過溝内を通過させられることとなる。しかしながら、クーリングタワー4等で冷却した冷却水Wを「冷却用流体」として使用する場合には、冷却水Wに含まれる小さな異物の存在に起因して冷却水通過溝に詰まりが生じるおそれがある。このため、「プレート式熱交換器」を使用する場合には、冷却水Wの浄化処理(異物を除去する処理)が必要となり、その運用コストが高騰するおそれがある。
【0089】
これに対して、「シェル&コイル式熱交換器」である上記の水素ガス冷却用熱交換器5では、水素ガスを冷却するための冷却水Wが容器体30内において各熱交換部41~45の周囲を通過するだけであるため、たとえ小さな異物が混入していたとしても、冷却水Wの流路に詰まりが生じる事態を招くことがない。また、冷却水Wに含まれる異物の付着に起因する熱交換効率の低下を阻止するために冷却水Wの流路をクリーニングする際にも、「プレート式熱交換器」と比較して,付着した異物を確実かつ容易に除去することができる。これにより、必要に応じてクリーニングを行うことで、水素ガスと冷却水Wとの熱交換効率(水素ガスの冷却効率)を十分に高いレベルに維持することが可能となっている。したがって、使用する冷却水Wの浄化処理も不要となることから運用コストの高騰も回避することができる。
【0090】
一方、上記のように水素ガス源X1からガスタンク2に水素ガスが貯留された状態においては、ガスタンク2内の水素ガスの圧力が十分に高くなっているため、ディスペンサー3を介してガスタンク2内の水素ガスを給気対象X2に対して効率よく給気することができる。なお、ガスタンク2から給気対象X2への水素ガスの給気については公知のため、詳細な説明を省略する。
【0091】
このように、この水素ガス冷却用熱交換器5では、容器体30内に収容されたN=5個の熱交換部41~45が、水素ガスの通過が可能な管体が螺旋状に巻回された「伝熱コイル」をそれぞれ備えると共に、多段圧縮装置1における第1段圧縮行程から第4段圧縮行程によって圧縮された水素ガスを冷却水Wと熱交換させる熱交換部41~44の「伝熱コイル」における管体の断面開口面積が、後段側の第2段圧縮行程から第5段圧縮行程によって圧縮された水素ガスを冷却水Wと熱交換させる熱交換部42~45の「伝熱コイル」における管体の断面開口面積以上となり、かつ第1熱交換部41の「伝熱コイル」における管体の断面開口面積が第5熱交換部45の「伝熱コイル」における管体の断面開口面積よりも大きくなるようにそれぞれ形成されている。
【0092】
したがって、この水素ガス冷却用熱交換器5によれば、水素ガスをN=5段階の圧縮行程毎に冷却するためのN=5個の熱交換部41~45を容器体30内に収容して一体化したことにより、別個独立したN=5個の熱交換器(冷却器)によって水素ガスをN=5段階の圧縮行程毎に冷却する構成と比較して、水素ガスの冷却のために必要な機器の占有スペースを十分に小さくすることができる。また、冷却水Wの配管の数を少数とすることができるため、設置作業が容易となり、導入コストを低減することができる。また、各熱交換部41~45を構成する「伝熱コイル」の断面開口面積を最適化したことで水素ガスの冷却時における圧力損失を十分に抑えることができる。
【0093】
また、この水素ガス冷却用熱交換器5では、各熱交換部41~45における各「伝熱コイル」の管体が同じ材料で形成されると共に、多段圧縮装置1における第2段圧縮行程から第5段圧縮行程によって圧縮された水素ガスを冷却水Wと熱交換させる熱交換部42~45の「伝熱コイル」における管体の厚みが、前段側の第1段圧縮行程から第4段圧縮行程によって圧縮された水素ガスを冷却水Wと熱交換させる熱交換部41~44の「伝熱コイル」における管体の厚み以上となり、かつ第5熱交換部45の「伝熱コイル」における管体の厚みが第1熱交換部41の「伝熱コイル」における管体の厚みよりも厚くなるようにそれぞれ形成されている。
【0094】
したがって、この水素ガス冷却用熱交換器5によれば、処理対象の水素ガスの圧力が高くなっている後段側の圧縮行程後の水素ガスを冷却する「熱交換部」については、変形や破損(水素ガスの漏洩)を招くことのない十分な厚みの「管体」によって「伝熱コイル」を形成しつつ、圧力がそれほど高くない前段側の圧縮行程後の水素ガスを冷却する「熱交換部」については、その厚みが薄い「管体」によって「伝熱コイル」を形成することで、「伝熱コイル」を容易に製作することができ、また、材料コストも低減できることから、水素ガス冷却用熱交換器5の製造コストを十分に低減することができる。
【0095】
さらに、この水素ガス冷却用熱交換器5によれば、各熱交換部41~45のうちの少なくとも1つ(本例では、第1熱交換部41および第2熱交換部42の2つ)を、並列接続した複数の「伝熱コイル」を備えて構成したことにより、圧力損失を抑えることが可能な十分な広さの断面開口面積を得るために太い「管体」で形成した「伝熱コイル」を採用したときには、その「伝熱コイル」の製作(「管体」の曲げ加工等)が困難となるのに対し、複数の「伝熱コイル」を並列接続して必要な断面開口面積を得ることで、各「伝熱コイル」の「管体」として細い「管体」を使用することができるため、「伝熱コイル」を容易に製作することができる結果、水素ガス冷却用熱交換器5の製造コストを十分に低減することができる。また、複数の「熱交換部」において、「伝熱コイル」を構成する「管体」として、同じ「管体」を使用しても断面開口面積を異ならせることができるため、同じ「管体」で複数の「熱交換部」の「伝熱コイル」を製作した場合には、使用する「管体」の種類数が少数となる分だけ、材料コスト、すなわち、水素ガス冷却用熱交換器5の製造コストを一層低減することができる。
【0096】
また、この水素ガス冷却用熱交換器5によれば、「気体」としての水素ガスを冷却可能に構成したことにより、水素ガス燃料電池自動車等に水素ガスを給気する水素ガスステーションのように機器の設置可能スペースが狭い場所であっても、水素ガス冷却用熱交換器5を設置することができ、これにより、多段圧縮装置1によって圧縮される水素ガスを好適に冷却することができる。
【0097】
なお、「熱交換器」の構成は、上記の水素ガス冷却用熱交換器5の構成の例に限定されない。例えば、多段圧縮装置1における第1段圧縮行程から第5段圧縮行程までの5段階の圧縮行程後の水素ガスを冷却可能に第1熱交換部41から第5熱交換部45までの5個の(5段階分)の「熱交換部」を備えて構成した水素ガス冷却用熱交換器5を例に挙げて説明したが、「熱交換部」の数(対応する圧縮行程の段階数)は、2個(2段階)、3個(3段階)、4個(4段階)、および6個以上(6段階以上)とすることができる(図示せず)。
【0098】
また、多段圧縮装置1における第1段圧縮機11による第1段圧縮行程後の水素ガスから第5段圧縮機15による第5段圧縮行程後の水素ガスまでのすべてを冷却可能に第1熱交換部41から第5熱交換部45までのN=5個の熱交換部を備えて構成した水素ガス冷却用熱交換器5を例に挙げて説明したが、このような構成に代えて、「多段圧縮装置」による各圧縮行程の一部について、圧縮後の水素ガスを他の「熱交換器」において冷却する構成を採用することができる。
【0099】
一例として、3段階の多段圧縮が可能な「多段圧縮装置」によって圧縮される水素ガスのうち、第1段圧縮行程後の水素ガスおよび第2段圧縮行程後の水素ガスをそれぞれ冷却可能に2段階分のN=2個の「熱交換部」を備えて「熱交換器」を構成したり(第3段圧縮行程後の水素ガスを他の熱交換器で冷却する構成)、第2段圧縮行程後の水素ガスおよび第3段圧縮行程後の水素ガスをそれぞれ冷却可能に2段階分のN=2個の「熱交換部」を備えて「熱交換器」を構成したり(第1段圧縮行程後の水素ガスを他の熱交換器で冷却する構成)することができる。
【0100】
「各熱交換部のうちの少なくとも1つが、並列接続された複数の伝熱コイルを備えて構成されている」との構成の一例として、伝熱コイル71a1,71b1と伝熱コイル71a2,71b2とが並列接続された第1熱交換部41、および伝熱コイル72a1,72b1と伝熱コイル72a2,72b2とが並列接続された第2熱交換部42を備えた水素ガス冷却用熱交換器5の構成を例に挙げて説明したが、「伝熱コイル」の並列数は、水素ガス冷却用熱交換器5の例のような「2」に限定されず、「3」以上の複数の「伝熱コイル」を並列接続して1つの「熱交換部」を構成することができる。
【0101】
また、伝熱コイル73a,73bを直列接続した第3熱交換部43、伝熱コイル74a,74bを直列接続した第4熱交換部44、および伝熱コイル75a,75bを直列接続した第5熱交換部45などを備えた水素ガス冷却用熱交換器5の構成を例に挙げて説明したが、1つの「伝熱コイル」だけで1つの「熱交換部」を構成したり、3つ以上の複数の「伝熱コイル」を直列接続して1つの「熱交換部」を構成したりすることもできる。さらに、「管体」としての「丸管」で構成した「伝熱コイル」を備えた例について説明したが、「管体」は「丸管」に限定されず、「楕円管」や「角管」を「管体」として採用して「伝熱コイル」を製作することもできる。
【0102】
加えて、「処理対象の気体」の一例である水素ガスと、「冷却用流体」の一例である冷却水Wとの熱交換によって水素ガスを冷却する水素ガス冷却用熱交換器5の構成を例に挙げて説明したが、冷却水W以外の任意の流体(任意の液体、および任意の気体)を「冷却用流体」として「処理対象の気体」と熱交換させる構成(図示せず)や、水素ガス以外の任意の気体を「処理対象の気体」として「冷却用流体」と熱交換させる構成(図示せず)を採用することができる。
【符号の説明】
【0103】
100 水素ガス給気システム
1 多段圧縮装置
2 ガスタンク
3 ディスペンサー
4 クーリングタワー
4a,4b 冷却水配管
5 水素ガス冷却用熱交換器
11 第1段圧縮機
12 第2段圧縮機
13 第3段圧縮機
14 第4段圧縮機
15 第5段圧縮機
20,21a~25a,21b~25b,26,27 水素ガス配管
30 容器体
41 第1熱交換部
42 第2熱交換部
43 第3熱交換部
44 第4熱交換部
45 第5熱交換部
51a,51b,61a~65a,61b~65b 配管接続部
71a1,71b1,71a2,71b2,72a1,72b1,72a2,72b2,73a~75a,73b~75b 伝熱コイル 71ta,71tb,72ta,72tb 分岐合流用金具
W 冷却水
X1 水素ガス源
X2 給気対象