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  • 特許-金属ナノワイヤー 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】金属ナノワイヤー
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20220111BHJP
   B22F 9/24 20060101ALI20220111BHJP
   H01B 5/00 20060101ALI20220111BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20220111BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20220111BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20220111BHJP
   B22F 1/054 20220101ALI20220111BHJP
   B22F 1/0545 20220101ALI20220111BHJP
【FI】
B22F1/00 M
B22F1/00 R
B22F9/24 Z
H01B5/00 H
H01B1/00 H
H01B1/22 A
H01B13/00 501Z
B22F1/054
B22F1/0545
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018542548
(86)(22)【出願日】2017-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2017034497
(87)【国際公開番号】W WO2018062090
(87)【国際公開日】2018-04-05
【審査請求日】2020-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2016188720
(32)【優先日】2016-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100103115
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 康廣
(72)【発明者】
【氏名】竹田 裕孝
(72)【発明者】
【氏名】嘉村 由梨
(72)【発明者】
【氏名】吉永 輝政
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-242620(JP,A)
【文献】特表2008-523565(JP,A)
【文献】特開2016-135920(JP,A)
【文献】特表2014-531519(JP,A)
【文献】米国特許第08304089(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00
B22F 9/24
H01B 5/00
H01B 1/00
H01B 1/22
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素ガス吸着法による比表面積が15m/g以上である金属ナノワイヤーであって、
前記金属がニッケルであり、
前記金属ナノワイヤーが50~300nmの平均繊維径を有し、
前記金属ナノワイヤーが5~100μmの平均長さを有する、金属ナノワイヤー。
【請求項2】
請求項1に記載の金属ナノワイヤーを含むことを特徴とする分散液。
【請求項3】
請求項1に記載の金属ナノワイヤーを含むことを特徴とする構造体。
【請求項4】
窒素ガス吸着法による比表面積が15m/g以上である金属ナノワイヤーの製造方法であって、
前記金属がニッケルであり、
1質量%水溶液の粘度が1000~9000mPa・sであるカルボキシメチルセルロース塩を0.5質量%以上1.0質量%未満の濃度で含む水溶液中で、10mT以上の磁場を印加しながら、金属イオンを還元することを特徴とする金属ナノワイヤーの製造方法。
【請求項5】
前記金属ナノワイヤーが50~300nmの平均繊維径を有することを特徴とする請求項4に記載の金属ナノワイヤーの製造方法。
【請求項6】
前記金属ナノワイヤーが5~100μmの平均長さを有することを特徴とする請求項4または5に記載の金属ナノワイヤーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノワイヤー、特に比表面積が広い金属ナノワイヤーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属には、触媒機能、脱臭機能、抗菌機能等を有するものがあり、近年、これらのナノ材料は、触媒、脱臭剤、抗菌剤等として利用することが検討されている。また、金属は酸化還元能を有し、導電性を有するので、金属ナノ材料は電極およびセンサー等として利用することが検討されている。これらの用途では、その機能を高めるため、比表面積が広いことが求められている。
【0003】
ニッケルは、触媒機能を有する金属として知られており、ニッケルのナノ材料としては、例えば、特許文献1~3に、磁場を印加しながら金属イオンを還元したニッケルナノワイヤーが開示されている。しかしながら、引用文献1~3のニッケルナノワイヤーは、比表面積が十分ではなく、用途が限定されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/147885号パンプレット
【文献】国際公開第2015/163258号パンフレット
【文献】特開2016-135920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、比表面積が十分に広い金属ナノワイヤーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討の結果、特定の粘度のカルボキシメチルセルロースを特定濃度で含有した水中、磁場を印加しながら、金属イオンを還元することにより、比表面積が広い金属ナノワイヤーを得ることができることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
本発明の要旨は、下記のとおりである。
<1> 窒素ガス吸着法による比表面積が15m/g以上であることを特徴とする金属ナノワイヤー。
<2> 前記金属がニッケルであることを特徴とする<1>に記載の金属ナノワイヤー。
<3> 前記金属ナノワイヤーが50~300nmの平均繊維径を有することを特徴とする<1>または<2>に記載の金属ナノワイヤー。
<4> 前記金属ナノワイヤーが5~100μmの平均長さを有することを特徴とする<1>~<3>のいずれかに記載の金属ナノワイヤー。
<5> <1>~<4>のいずれかに記載の金属ナノワイヤーを含むことを特徴とする分散液。
<6> <1>~<4>のいずれかに記載の金属ナノワイヤーを含むことを特徴とする構造体。
<7> カルボキシメチルセルロース塩の水溶液中で金属イオンを還元することを特徴とする<1>~<4>のいずれかに記載の金属ナノワイヤーの製造方法。
<8> 前記カルボキシメチルセルロース塩は、1質量%水溶液の粘度が1000~9000mPa・sであるカルボキシメチルセルロース塩であることを特徴とする<7>に記載の金属ナノワイヤーの製造方法。
<9> 前記カルボキシメチルセルロース塩の濃度が0.5質量%以上1.0質量%未満である<7>または<8>に記載の金属ナノワイヤーの製造方法。
<10> 1質量%水溶液の粘度が1000~9000mPa・sであるカルボキシメチルセルロース塩を0.5質量%以上1.0質量%未満の濃度で含む水溶液中、磁場を印加しながら、金属イオンを還元する金属ナノワイヤーの製造方法によって得られた金属ナノワイヤー。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、比表面積が広い金属ナノワイヤーを提供することができる。本発明の金属ナノワイヤーは、触媒、脱臭剤、抗菌剤として好適に用いることができ、センサー、電池電極にも好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1で得られた金属ナノワイヤーを走査型電子顕微鏡で撮影した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[金属ナノワイヤー]
本発明の金属ナノワイヤーは、表面に多数の突起部を備えた突起構造を有するため、広い比表面積を有する。当該多数の突起部の突出方向は特に限定されない。多数の突起部の突出方向は、それぞれ独立して、例えば、金属ナノワイヤーの長手方向に対する垂直断面における金属ナノワイヤーの略半径方向であってもよいし、または当該略半径方向と金属ナノワイヤーの長手方向との合力方向であってもよい。多数の突起部の突出長さもまた特に限定されない。多数の突起部の突出長さは通常、それぞれ独立して、後述の平均繊維径をR(nm)としたとき、R(nm)以下である。
【0011】
本発明の金属ナノワイヤーの比表面積は15m/g以上であり、好ましくは20m/g以上、より好ましくは30m/g以上、さらに好ましくは40m/g以上、最も好ましくは50m/g以上である。なお、比表面積は、後述する分析方法にしたがって測定することができる。比表面積が50m/g以上になると、マグネシア、チタニア等の吸着剤と同程度の比表面積となるため、触媒等として最も好適に用いることできる。本発明の金属ナノワイヤーの比表面積の上限は特に限定されず、当該比表面積は通常、200m/g以下、特に100m/g以下である。
【0012】
本発明の金属ナノワイヤーの平均繊維径は、通常50~300nmであり、好ましくは50~200nm、より好ましくは60~150nm、さらに好ましくは65~150nm、特に好ましくは65~100nm、最も好ましくは65~95μmである。平均繊維径が50nm未満の場合、切断しやすくなるので、長さが一定なものとならず、各種性能への影響が生じる場合がある。また、本発明の金属ナノワイヤーの平均長さは、通常5~100μm程度であり、好ましくは5~50μm、より好ましくは6~50μm、さらに好ましくは6~40μm、最も好ましくは6~30μmである。平均長が5μm未満の場合、成形体(特に不織布)とした場合に、強度が弱くなる場合がある。なお、金属ナノワイヤーの平均繊維径、平均長さは、後述する分析方法にしたがって測定することができる。
【0013】
本発明において繊維径は、突起部の突出高さを含むナノワイヤーの直径であって、ナノワイヤーの長手方向に対する垂直断面における直径を意味し、ナノワイヤーのSEM画像(走査型電子顕微鏡画像(写真))において読み取ることができる。突起部の突出高さはナノワイヤーの長手方向に対する垂直断面における突起部の高さのことである。本発明の金属ナノワイヤーにおいては表面に多数の突起部が隙間なく存在するため、上記画像上、上記直径を示す線分を規定する2点は通常、突起部の輪郭線上の点である。詳しくは、1本のナノワイヤーにおいて端部ではないところで上記直径の最小値を最小繊維径として測定し、任意の300本のナノワイヤーの最小繊維径の平均値を、平均繊維径とする。端部とはナノワイヤーの端から100nm以内のところである。
【0014】
本発明の金属ナノワイヤーを構成する金属は特に限定されないが、本発明においては金属ナノワイヤーを磁場中で製造することから、ニッケル、鉄、コバルト、ガドリニウム等の強磁性金属が好ましく、安価で実用性が高いことから、ニッケルがより好ましい。
【0015】
[金属ナノワイヤーの製造方法]
本発明の金属ナノワイヤーは、特定の粘度のカルボキシメチルセルロース塩を特定濃度で含有した水溶液中、磁場(磁気回路)を印加しながら、金属イオンを還元することにより製造することができる。
【0016】
例示する製造方法は、金属粒子の生成、ナノワイヤーへの成長、および突起構造の構築の三段階の工程により成立する。金属粒子の生成は、還元剤による金属粒子核の自然発生、あるいはパラジウム核、白金核を利用した粒子形成により起こる。生成した金属粒子は、磁場などの外的要因により連結しながらナノワイヤーへと成長する。そして、ナノワイヤーの表面で金属イオンの還元反応が起こり突起構造を構築する。特許文献1~3との違いは、三段階目の工程である。本発明においては、突起構造の構築のために、一部の金属イオンの還元反応を遅延させる錯形成技術と、ナノワイヤー間の結合および凝集を抑制する反応溶媒の粘度コントロールが重要である。そのため、特定のカルボキシメチルセルロース塩を特定濃度で含有した反応溶媒が必要となる。
【0017】
カルボキシメチルセルロース塩は、当該カルボキシメチルセルロース塩を水に1質量%の濃度で溶解した水溶液を25℃でB型粘度計を用いて測定した際の粘度の下限が1000mPa・s以上であるカルボキシメチルセルロース塩である。カルボキシメチルセルロース塩の上記粘度は、金属ナノワイヤーの比表面積のさらなる増大の観点から、2000mPa・s以上であることが好ましく、2500mPa・s以上であることがより好ましく、3000mPa・s以上であることがさらに好ましい。前記粘度が1000mPa・s未満の場合、比表面積が広い金属ナノワイヤーを生成することができない場合がある。一方、当該カルボキシメチルセルロース塩を水に1質量%の濃度で溶解した水溶液を25℃でB型粘度計を用いて測定した際の粘度の上限は、9000mPa・s以下であり、金属ナノワイヤーの比表面積のさらなる増大の観点から、8500mPa・s以下であることが好ましく、8000mPa・s以下であることがより好ましく、5000mPa・s以下であることがさらに好ましい。前記粘度が9000mPa・sを超える場合、ナノワイヤーを生成できない場合がある。
【0018】
カルボキシメチルセルロース塩の濃度は、反応溶液全量に対して0.5質量%以上1.0質量%未満であり、金属ナノワイヤーの比表面積のさらなる増大の観点から、0.5~0.98質量%とすることが好ましく、0.6~0.98質量%とすることがより好ましく、0.7~0.98質量%とすることがさらに好ましく、0.7~0.8質量%とすることが最も好ましい。カルボシキセルロース塩の濃度が、0.5質量%未満である場合、および1質量%以上である場合、いずれの場合も、比表面積が広い金属ナノワイヤーが生成しない場合がある。
【0019】
カルボキシメチルセルロース塩としては、例えば、ナトリウム塩、カルシウム塩が挙げられ、中でも、安価で実用性が高く、塩交換が起こりやすいことから、ナトリウム塩がより好ましい。
【0020】
金属イオンの供給元としては、水溶媒に溶解しやすいことから金属塩が好ましい。金属塩としては、例えば、金属の塩化物、硫酸塩、硝酸塩、および酢酸塩が挙げられる。
【0021】
金属イオンの濃度は、金属種によって好ましい範囲が異なるが、反応溶液全量に対して通常は10~50μmol/gである。金属が特にニッケルの場合、金属イオンの濃度は、金属ナノワイヤーの比表面積のさらなる増大の観点から、反応溶液全量に対して20~30μmol/gとすることが好ましく、23~27μmol/gとすることがより好ましい。金属がニッケルの場合、金属イオンの濃度が、20μmol/g未満である場合、および30μmol/gを超える場合、いずれの場合も、比表面積が広い金属ナノワイヤーが生成しにくい。「μmol/g」は反応溶液1gあたりのモル数を意味する(以下、同様である)。
【0022】
後述する還元剤の種類および/または濃度等でも制御可能であるが、ナノワイヤーへの成長に使用される金属イオン量をコントロールするため、カルボキシメチルセルロース塩以外にも金属イオンと錯体を形成する錯形成剤を添加するのが好ましい。この錯形成剤の添加により、金属粒子となる金属イオン、ナノワイヤーへの成長で消費される金属錯体、突起構造の構築に使われるカルボキシメチルセルロースとの金属錯体の3種の成分が形成されるため、各工程がより一層、適切に進行する。
【0023】
錯形成剤としては、例えば、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、ニトリロ三酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ヒドロキシイミノジコハク酸、アミノトリメチレンホスホン酸、ヒドロキシエタンホスホン酸およびそれらの塩が挙げられる。中でも、反応液への溶解性等から、クエン酸三ナトリウム二水和物がより好ましい。錯形成剤を用いる場合、その濃度は、金属ナノワイヤーの比表面積のさらなる増大の観点から、反応溶液全量に対して0.001μmol/g以上とすることが好ましく、より好ましくは0.001~50μmol/g、さらに好ましくは1~20μmol/gである。
【0024】
反応溶液には、核形成剤を、反応溶液全量に対して0.07μmol/g未満で含有していてもよい。核形成剤は、数nm径程度の貴金属ナノ粒子核を生成し、金属粒子の生成を促す。核形成剤としては、例えば、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウム等の貴金属の塩が挙げられる。貴金属塩としては、例えば、塩化白金酸、塩化金酸、塩化パラジウムが挙げられる。例えば、ニッケルイオンを還元する場合、パラジウムのナノ粒子を生成させる塩化パラジウムや、白金のナノ粒子を生成させる塩化白金酸などが好ましい。中でも、金属ナノワイヤーの生成に適した核を形成しやすいことから、塩化白金酸が好ましい。核形成剤を用いる場合、その濃度は、金属ナノワイヤーの比表面積のさらなる増大の観点から、反応溶液全量に対して0.01μmol/g以上とすることが好ましく、より好ましくは0.01~0.06μmol/gである。
【0025】
金属イオンを還元する方法としては、還元剤を用いることが好ましい。還元剤としては、例えば、ヒドラジン、ヒドラジン一水和物、塩化第一鉄、次亜リン酸、水素化ホウ素塩、アミノボラン類、水素化アルミニウムリチウム、亜硫酸塩、ヒドロキシルアミン類(例えば、ジエチルヒドロキシルアミン)、亜鉛アマルガム、水素化ジイソブチルアルミニウム、ヨウ化水素酸、アスコルビン酸、シュウ酸、ギ酸、塩化第一鉄、次亜リン酸、水素化ホウ素塩、アミノボラン類、アスコルビン酸、シュウ酸、ギ酸が挙げられる。金属イオンがニッケルイオンの場合、還元力が高いことから、ヒドラジン、ヒドラジン一水和物が好ましい。
【0026】
還元剤の濃度は、用いる還元剤の種類および/または還元する金属により異なるが、例えば、ヒドラジン一水和物を用いてニッケルイオンを還元する場合、金属ナノワイヤーの比表面積のさらなる増大の観点から、反応溶液全量に対して1~500μmol/gとすることが好ましく、1~300μmol/gとすることがより好ましく、200~300μmol/gとすることがさらに好ましい。
【0027】
反応溶媒は、水を主成分とすることが好ましい。水が主成分でない場合、カルボキシセルロース塩が溶解しない場合がある。なお、本発明において、「水を主成分とする」とは、反応溶媒のうち、水が80質量%以上であることをいう。反応溶媒には、必要に応じて、メタノール、イソプロパノール等のアルコールを加えてもよい。
【0028】
金属イオンを還元する際、pHおよび反応温度を制御することが好ましい。好ましいpHおよび反応温度は、用いる還元剤により異なるが、例えば、ヒドラジン一水和物を用いる場合、金属ナノワイヤーの比表面積のさらなる増大の観点から、pHは11~12とすることが好ましく、反応温度は70~100℃、特に75~90℃とすることが好ましい。
【0029】
金属イオンの還元に要する時間は特に限定されないが、通常10分~1時間程度であり、金属ナノワイヤーの比表面積のさらなる増大の観点から好ましくは15~30分である。
【0030】
金属イオンを還元する際に印加する磁場(磁束密度)としては、金属ナノワイヤーの比表面積のさらなる増大の観点から、反応容器の中心磁場が10mT以上とすることが好ましく、10mT~1Tとすることがより好ましく、50~180mTとすることがより好ましい。反応容器の中心磁場が10mT未満の場合、金属ナノワイヤーが生成しない場合がある。
【0031】
還元反応終了後、遠心分離、ろ過、磁石による吸着等により金属ナノワイヤーを精製回収することで、金属ナノワイヤーを得ることができる。
【0032】
[用途]
精製回収した金属ナノワイヤーは、水等の極性が高い溶媒を主成分とする溶媒に添加し撹拌することにより、金属ナノワイヤーを分散させた分散液を得ることができる。分散液の溶媒は水を主成分とする水系溶媒が好ましい。「水を主成分とする」とは、全溶媒のうち、水が80質量%以上であることをいう。水系溶媒には、必要に応じて、メタノール、イソプロパノール等のアルコールを加えてもよい。分散液中の金属ナノワイヤーの濃度は特に限定されないが、分散性の観点から、0.01~2.0質量%とすることが好ましい。
【0033】
本発明の金属ナノワイヤー分散液は、バインダー、酸化防止剤、濡れ剤、レベリング剤等の添加剤を含んでもよい。
【0034】
本発明の金属ナノワイヤー分散液は、濾過および/または乾燥等を行うことにより、不織布状の構造体を作製することができる。不織布状の構造体は、金属ナノワイヤーからなる不織布であってよい。本発明の金属ナノワイヤー分散液はまた、成形体にコーティングすることにより、二次元または三次元の構造体を作製することができる。成形体は、ポリマーからなる成形体のことであり、いわゆる支持体または基板であってよい。このとき二次元または三次元の構造体は、成形体および当該成形体の表面に形成された金属ナノワイヤー含有層を含む複合体であってよい。金属ナノワイヤー含有層は、金属ナノワイヤーからなる不織布層であってもよいし、金属ナノワイヤーが分散されたポリマー層であってもよいし、または金属ナノワイヤー不織布が含有されたポリマー層であってもよい。また、本発明の金属ナノワイヤーは、樹脂にコンパウンドすることもできる。「コンパウンドする」とは、樹脂ポリマー中に含有・分散させるという意味である。
【0035】
本発明の金属ナノワイヤーは、比表面積が広いため、比表面積が広いほど性能が向上する用途に有用である。例えば、本発明の金属ナノワイヤーは、触媒、触媒用担体、脱臭剤、および抗菌剤として好適に用いることができ、センサー、および電池電極にも好適に用いることができる。
【0036】
本発明の金属ナノワイヤーを触媒、触媒用担体、脱臭剤、および抗菌剤として用いる場合、本発明の金属ナノワイヤーは、金属ナノワイヤーを構成する金属とは異なる他の金属で表面をメッキしてもよいし、または前記他の金属を担持させてもよい。また、酸化等により半導体性を付加してもよい。例えば、本発明の金属ナノワイヤーに、鉄、クロム、モリブテン等のナノ粒子を担持させることにより、プロモーター(助触媒)機能を有する触媒とすることができる。
【0037】
本発明の金属ナノワイヤーを特に電池電極として用いる場合、例えば、上記した金属ナノワイヤー分散液を用いて以下の方法により、電池電極を得ることができる。まず、金属ナノワイヤー分散液を濾過および乾燥することにより、金属ナノワイヤー不織布を得る。金属ナノワイヤー不織布を得た後、所望により、プレスすることにより、不織布の厚さを調整することができる。次いで、金属ナノワイヤー不織布の表面(各金属ナノワイヤーの表面)に電極活物質層を形成することにより、電池電極を得ることができる。このような電池電極はフレキシブル電極として用いることができる。
【0038】
電極活物質層の形成方法は特に限定されず、公知の電極活物質層の形成方法を用いることができる。例えば、金属ナノワイヤー不織布の表面を酸化して金属酸化物皮膜を形成し、これを電極活物質層として用いることができる。本発明の金属ナノワイヤーを構成する金属の酸化物、例えば、ニッケル、鉄、コバルト、ガドリニウムの酸化物は、従来のカーボン材料と比較して、高い容量でリチウムと反応することが知られている。本発明の金属ナノワイヤーは比表面積が十分に大きいため、本発明の金属ナノワイヤー(不織布)を用いた電池電極は、酸化還元反応をより効率良く行うことができる。本発明の金属ナノワイヤー(不織布)を用いた電池電極は、例えば、リチウムイオン二次電池の負極または正極(特に負極)として有用である。
【実施例
【0039】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0040】
1.評価方法
(1)金属ナノワイヤーの平均繊維径
実施例および比較例のそれぞれで得られた金属ナノワイヤーを、走査型電子顕微鏡を用いて、観察倍率50,000倍で撮影した。
得られた画像から、3μm×3μmの任意の10視野においてランダムに選択した300個の金属ナノワイヤーについて各金属ナノワイヤーの最小の繊維径を測定し、それらを平均して、平均繊維径を求めた。実施例1で得られた金属ナノワイヤーの走査型電子顕微鏡画像を図1に示す。
【0041】
(2)金属ナノワイヤーの平均長さ
実施例および比較例のそれぞれで得られた金属ナノワイヤーを、走査型電子顕微鏡を用いて、1000~4000倍で撮影した。
得られた画像から、ランダムに選択した200個の金属ナノワイヤーについて長さを測定し、それらを平均して平均長さを求めた。
【0042】
(3)金属ナノワイヤーの比表面積
実施例および比較例のそれぞれで得られた金属ナノワイヤー約100mgを用いて、窒素ガス吸着法により、窒素ガスの吸着量を測定し、その吸着量からBETの式により比表面積を算出した。
【0043】
2.原料
(1)カルボキシメチルセルロースナトリウム塩
・セロゲンMP-60
第一工業製薬社製、水に1質量%の濃度で溶解した溶液を25℃でB型粘度計を用いて測定した際の粘度=10000~15000mPa・s
・セロゲンBSH-12
第一工業製薬社製、水に1質量%の濃度で溶解した溶液を25℃でB型粘度計を用いて測定した際の粘度=6000~8000mPa・s
・セロゲンBSH-6
第一工業製薬社製、水に1質量%の濃度で溶解した溶液を25℃でB型粘度計を用いて測定した際の粘度=3000~4000mPa・s
・セロゲンBS
第一工業製薬社製、水に1質量%の濃度で溶解した溶液を25℃でB型粘度計を用いて測定した際の粘度=350~500mPa・s
【0044】
実施例1
塩化ニッケル六水和物0.59g(2.48mmol)、クエン酸三ナトリウム二水和物0.28g(0.93mmol)、塩化白金酸六水和物0.29mg(5.00μmol)、セロゲンBSH-6 0.75gを水に溶解した。さらに、5%水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、pHを11.5に調整して、全量が75gになるように水を添加し、ニッケルイオン溶液を作製した。
一方、ヒドラジン一水和物1.25g(25.0mmol)を水と混合し、さらに、5%水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、pHを11.5に調整して、全量が25gになるように水を添加し、還元剤溶液を作製した。
ニッケルイオン溶液と還元剤溶液をいずれも80~85℃に加熱した後、温度を維持したまま混合し、100mTの磁場を印加し、20分間還元反応を行った。
その後、濾過にて洗浄回収し、真空乾燥を行い、ニッケルナノワイヤーを得た。
【0045】
実施例2~3ならびに比較例2~3、5および7~9
カルボキシメチルセルロース塩の種類および濃度を表1のように変更する以外は実施例1と同様の操作を行い、ニッケルナノワイヤーを得た。
【0046】
比較例1
塩化ニッケル六水和物1.19g(5.00mmol)、クエン酸三ナトリウム二水和物0.55g(1.86mmol)、塩化白金酸六水和物5.18mg(0.01mmol)を水に溶解した。さらに、5%水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、pHを12.5に調整して、全量が75gになるように水を添加し、ニッケルイオン溶液を作製した。
一方、ヒドラジン一水和物2.50g(50.0mmol)を水と混合し、さらに、5%水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、pHを12.5に調整して、全量が25gになるように水を添加し、還元剤溶液を作製した。
ニッケルイオン溶液と還元剤溶液をいずれも80~85℃に加熱した後、温度を維持したまま混合し、100mTの磁場を印加し、15分間還元反応を行った。
その後、濾過にて洗浄回収し、真空乾燥を行い、ニッケルナノワイヤーを得た。
【0047】
比較例4および6
カルボキシメチルセルロース塩の種類および濃度を表1のように変更する以外は実施例1と同様の操作を行ったが、高粘度の反応場のため、生成したニッケル粒子の移動が束縛され、ニッケルナノワイヤーを得ることができなかった。
【0048】
実施例および比較例のそれぞれで得られた金属ナノワイヤーの製造条件および評価結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
実施例1~3のニッケルナノワイヤーは、表面に多数の突起を有し、比表面積は15m/g以上であった。そのため、触媒、脱臭剤、抗菌剤、センサー、電池電極等に好適に使用できると考えられる。さらに、実施例1は、比表面積が50m/g以上であり、ナノワイヤーの繊維長も十分であり、ナノワイヤーで構成される不織布は水に浸漬しても脱離等が起き難く、強度の優れたものであった。
【0051】
比較例1は、特許文献1の実施例1の追試である。カルボキシメチルセルロース塩を添加していなかったため、比表面積が15m/g未満であった。
比較例2、3は、それぞれ、特許文献3の実施例1、2の追試である。
比較例2、5、7は、添加したカルボキシメチルセルロース塩の粘度が低すぎたため、比表面積が15m/g未満であった。
比較例3は、カルボキシメチルセルロース塩の添加濃度が高かったため、粘度によるナノワイヤーの成長阻害が起き、突起構造の構築が不十分となり、比表面積が15m/g未満となった。
比較例8は、カルボキシメチルセルロース塩の添加濃度が低かったため、突起構造の構築にニッケルイオンが不足したと考えられ、比表面積が15m/g未満となった。
比較例9は、添加したカルボキシメチルセルロース塩の粘度が高すぎたため、比表面積が15m/g未満となり、ナノワイヤーの平均長が短かった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の金属ナノワイヤーは、例えば、触媒、触媒用担体、脱臭剤、および抗菌剤の製造に有用である。
図1