(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】生産設計支援装置、生産設計支援方法及び生産設計支援プログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 19/418 20060101AFI20220111BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20220111BHJP
G06Q 50/04 20120101ALI20220111BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
G06N20/00
G06Q50/04
(21)【出願番号】P 2019108281
(22)【出願日】2019-06-10
【審査請求日】2021-10-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596148881
【氏名又は名称】株式会社レクサー・リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100109243
【氏名又は名称】元井 成幸
(72)【発明者】
【氏名】中村 昌弘
【審査官】牧 初
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-32113(JP,A)
【文献】特開平10-187799(JP,A)
【文献】国際公開第2020/053991(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/418
G06Q 50/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設備要素の諸元で構成される設備要素情報を記憶する設備要素情報記憶部と、
必要な作業要素の惹起条件と作業完了後の出力先を含む作業要素の諸元で構成される作業要素情報を記憶する作業要素情報記憶部と、
前記設備要素と前記作業要素を関係付けるリンク情報と前記設備要素情報と前記作業要素情報で構成されるコンポーネントの組み合わせで定義される生産ラインモデル、若しくは前記コンポーネントとしてリンク情報を設定可能な作業要素と設備要素の組み合わせを含む前記生産ラインモデルの基礎データを記憶する生産ラインモデル記憶部を備え、
前記設備要素情報の中の変更可能な諸元、前記作業要素情報の中の変更可能な諸元、変更可能な前記リンク情報のうちのいずれかの複数種を複数の独立変数の変動パラメータとして、前記変動パラメータの各々に対応する次元軸で構成される問題空間を生成し、
前記問題空間を境界条件として学習処理部が生産設計の最適解若しくは最適解群を取得する解析処理を実行することを特徴とする生産設計支援装置。
【請求項2】
生産ラインとして実行可能な前記設備要素と前記作業要素の組み合わせ方に対応するだけ前記コンポーネントの組み合わせで定義される生産ラインモデルの複数を前記生産ラインモデル記憶部が記憶し、
前記設備要素情報の中の変更可能な諸元を前記複数の独立変数の変動パラメータとし、若しくは前記作業要素情報の中の変更可能な諸元を前記複数の独立変数の変動パラメータとし、若しくはその双方を前記複数の独立変数の変動パラメータとして、前記変動パラメータの各々に対応する次元軸で構成される問題空間を生成することを特徴とする請求項1記載の生産設計支援装置。
【請求項3】
前記設備要素情報の中の変更可能な諸元、前記作業要素情報の中の変更可能な諸元、変更可能な前記リンク情報のそれぞれを複数の独立変数の変動パラメータとして、前記変動パラメータの各々に対応する次元軸で構成される問題空間を生成することを特徴とする請求項1記載の生産設計支援装置。
【請求項4】
完成品の情報と変更可能な諸元を有する生産計画情報を記憶部に記憶し、
前記生産計画情報の変更可能な諸元を変動パラメータとして、前記生産計画情報の変動パラメータの各々に対応する次元軸で構成される問題空間を生成することを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の生産設計支援装置。
【請求項5】
前記設備要素情報の中の所要の変更可能な諸元に分解能を設定し、
前記分解能が設定された前記設備要素情報の中の変更可能な諸元を独立変数の変動パラメータとして、前記設備要素情報の中の変更可能な諸元の分解能を付加情報として有する前記問題空間を生成することを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の生産設計支援装置。
【請求項6】
前記作業要素情報の中の所要の変更可能な諸元に分解能を設定し、
前記分解能が設定された前記作業要素情報の中の変更可能な諸元を独立変数の変動パラメータとして、前記作業要素情報の中の変更可能な諸元の分解能を付加情報として有する前記問題空間を生成することを特徴とする請求項1~5の何れかに記載の生産設計支援装置。
【請求項7】
前記問題空間を境界条件として前記学習処理部が最適解若しくは最適解群を取得し、前記最適解若しくは前記最適解群を利用者に提示すると共に、
前記問題空間の基である前記生産ラインモデルの前記コンポーネントについて、前記設備要素と前記リンク情報で関係付けされている前記作業要素の前記作業要素情報の惹起条件の充足に応じて、前記設備要素が作業を実行し、前記作業要素の前記作業要素情報の作業完了後の出力先に出力するようにして模擬処理を実行し、
前記問題空間に対応する前記模擬処理の結果を利用者に提示することを特徴とする請求項1~6の何れかに記載の生産設計支援装置。
【請求項8】
前記問題空間を境界条件として前記学習処理部が最適解群を取得すると共に、
前記問題空間の基である前記生産ラインモデルの前記コンポーネントについて、前記設備要素と前記リンク情報で関係付けされている前記作業要素の前記作業要素情報の惹起条件の充足に応じて、前記設備要素が作業を実行し、前記作業要素の前記作業要素情報の作業完了後の出力先に出力するようにして模擬処理を実行し、
前記問題空間を境界条件とし且つ前記模擬処理の結果に対応する追加条件に応じて前記学習処理部が絞込最適解若しくは絞込最適解群を取得する処理を実行することを特徴とする請求項1~7の何れかに記載の生産設計支援装置。
【請求項9】
前記問題空間の基である前記生産ラインモデルの前記コンポーネントについて、前記設備要素と前記リンク情報で関係付けされている前記作業要素の前記作業要素情報の惹起条件の充足に応じて、前記設備要素が作業を実行し、前記作業要素の前記作業要素情報の作業完了後の出力先に出力するようにして模擬処理を実行し、
前記問題空間の少なくとも一部に対応する前記模擬処理の結果に基づき前記問題空間の特性条件を取得し、
前記問題空間を境界条件とし且つ前記特性条件に応じて学習処理部が生産設計の最適解若しくは最適解群を取得する解析処理を実行することを特徴とする請求項1~8の何れかに記載の生産設計支援装置。
【請求項10】
コンピュータで実行される生産設計支援方法であって、
設備要素の諸元で構成される設備要素情報と、
必要な作業要素の惹起条件と作業完了後の出力先を含む作業要素の諸元で構成される作業要素情報と、
前記設備要素と前記作業要素を関係付けるリンク情報と前記設備要素情報と前記作業要素情報で構成されるコンポーネントの組み合わせで定義される生産ラインモデル若しくは前記コンポーネントとしてリンク情報を設定可能な作業要素と設備要素の組み合わせを含む前記生産ラインモデルの基礎データに基づき、
前記設備要素情報の中の変更可能な諸元、前記作業要素情報の中の変更可能な諸元、変更可能な前記リンク情報のうちのいずれかの複数種を複数の独立変数の変動パラメータとして、前記変動パラメータの各々に対応する次元軸で構成される問題空間を生成し、
前記問題空間を境界条件として学習処理部が生産設計の最適解若しくは最適解群を取得する解析処理を実行することを特徴とする生産設計支援方法。
【請求項11】
生産設計支援装置としてコンピュータを機能させる生産設計支援プログラムであって、
前記コンピュータに、
設備要素の諸元で構成される設備要素情報を記憶させ、
必要な作業要素の惹起条件と作業完了後の出力先を含む作業要素の諸元で構成される作業要素情報を記憶させ、
前記設備要素と前記作業要素を関係付けるリンク情報と前記設備要素情報と前記作業要素情報で構成されるコンポーネントの組み合わせで定義される生産ラインモデル、若しくは前記コンポーネントとしてリンク情報を設定可能な作業要素と設備要素の組み合わせを含む前記生産ラインモデルの基礎データを記憶させ、
前記設備要素情報の中の変更可能な諸元、前記作業要素情報の中の変更可能な諸元、変更可能な前記リンク情報のうちのいずれかの複数種を複数の独立変数の変動パラメータとして、前記変動パラメータの各々に対応する次元軸で構成される問題空間を生成させ、
前記問題空間を境界条件として学習処理部が生産設計の最適解若しくは最適解群を取得する解析処理を実行させることを特徴とする生産設計支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば製造業の生産に係るモノ、製造機械、製造作業者、物流に係る搬送作業者、フォークリフト等の搬送手段のような要素で構成される生産ラインの設計をはじめとして、土木工事、建設作業、化学プラント、農業プラント、チェーン・レストラン、倉庫業務等の、定められた多様な作業を複数の要素が関係して実施される有形、無形の生産物を創出する業務に係り、最適な生産設計の認識や実行を支援する生産設計支援装置、生産設計支援方法及び生産設計支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、最適な生産設計を支援する支援装置として特許文献1の生産システムシミュレーション装置がある。この装置は、離散的に発生する事象の連鎖による状態推移をシミュレーションする装置であり、設備要素の諸元である設備要素情報と、作業要素の惹起条件と作業完了後の出力先を含む作業要素情報と、設備要素と作業要素とのリンク情報を記憶し、設備要素とリンク情報でリンクされている作業要素の作業要素情報の惹起条件の充足に応じて、設備要素が作業を実行し、作業要素の作業要素情報の作業完了後の出力先に出力するようにして模擬的に処理するものである。
【0003】
特許文献1の装置は、設備要素の能力、数に拘わらずに不変な作業要素の作業要素情報を設備要素情報と独立して設定し、所望のリンクを設定してシミュレーション処理することにより、作業を担う設備要素を容易且つ柔軟に設定、変更することを可能とし、多様なシミュレーション、最適な工程条件の探求を低コストで迅速に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、人工知能(AI)と呼ばれている機械学習、強化学習、深層強化学習の技術を用いて様々な分野で最適解を導こうとする試みがなされているが、この人工知能による学習技術を適用するには問題空間を定義することが必要となる。問題空間とは、問題の枠組みとしての境界条件、運用ルール、各要素の特徴データ等である。問題空間が無ければ人工知能による学習の適用は不可能であるため、これまではデータサイエンティストと呼ばれるエンジニアが問題空間の情報を補完したうえで、学習の処理を実行させている。
【0006】
問題空間が明らかにされている場合、当該問題を人工知能による学習技術で処理させやすい。例えば有名な「アルファ碁」が先行して開発できた理由は、「碁盤の目」という碁の世界の辺境、運用ルールとして「順番に石を打つ」、「相手の石と自分の石は区分されている」、「相手の石を囲うことで相手の石を取ことができる」、「目を造れば相手石の侵入が不可能で目が活きる」等の定義が、そもそも碁の世界のフレームとして与えられていたためである。即ち、当該問題を学習系に搭載する場合に必要となる、解を解くための問題空間がそもそも与えられている。
【0007】
しかしながら、製造業の生産ラインにおいては、問題空間は各企業、各生産ラインにおいて個別的であることが通常である。また、そもそも問題空間が定義されていないため、製造業の生産ラインの問題に人工知能による学習技術を適用しようとすると、データサイエンティストの属人的な処理で問題空間を新たに定義する必要がある。これらの問題は、人工知能技術においては「フレーム問題」と呼ばれている。そのため、製造業においては、人工知能による学習系の導入は、対象となる機械設備の動作履歴から破壊予測を行う予知保全など、問題空間が容易に定義される限定的な範囲に留まっている。
【0008】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、通常定義されていない生産ラインの問題空間を、データサイエンティストの属人的な定義処理に寄らずに、容易且つ的確に定義することができ、問題空間に基づく人工知能による学習でより的確な最適解若しくは最適解群を得ることを可能にする生産設計支援装置、生産設計支援方法及び生産設計支援プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の生産設計支援装置は、設備要素の諸元で構成される設備要素情報を記憶する設備要素情報記憶部と、必要な作業要素の惹起条件と作業完了後の出力先を含む作業要素の諸元で構成される作業要素情報を記憶する作業要素情報記憶部と、前記設備要素と前記作業要素を関係付けるリンク情報と前記設備要素情報と前記作業要素情報で構成されるコンポーネントの組み合わせで定義される生産ラインモデル、若しくは前記コンポーネントとしてリンク情報を設定可能な作業要素と設備要素の組み合わせを含む前記生産ラインモデルの基礎データを記憶する生産ラインモデル記憶部を備え、前記設備要素情報の中の変更可能な諸元、前記作業要素情報の中の変更可能な諸元、変更可能な前記リンク情報のうちのいずれかの複数種を複数の独立変数の変動パラメータとして、前記変動パラメータの各々に対応する次元軸で構成される問題空間を生成し、前記問題空間を境界条件として学習処理部が生産設計の最適解若しくは最適解群を取得する解析処理を実行することを特徴とする。
これによれば、通常定義されていない生産ラインの問題空間を、データサイエンティストの属人的な定義処理に寄らずに、容易且つ的確に定義することができ、問題空間に基づく人工知能による学習でより的確な最適解若しくは最適解群を得ることができる。また、個別性が高い生産ラインの問題空間を、高い柔軟性で適切に対応して定義することができ、汎用性に優れる。例えば設備要素の能力、数に拘わらずに不変な作業要素の作業要素情報を設備要素情報と独立して設定し、所望のリンク情報を動的に設定して連携させてコンポーネントを構成できることから、設備要素の数が異なる場合にも作業要素の作業を担う設備要素、コンポーネントを容易且つ柔軟に設定し、問題空間に反映させることができる。
【0010】
本発明の生産設計支援装置は、生産ラインとして実行可能な前記設備要素と前記作業要素の組み合わせ方に対応するだけ前記コンポーネントの組み合わせで定義される生産ラインモデルの複数を前記生産ラインモデル記憶部が記憶し、前記設備要素情報の中の変更可能な諸元を前記複数の独立変数の変動パラメータとし、若しくは前記作業要素情報の中の変更可能な諸元を前記複数の独立変数の変動パラメータとし、若しくはその双方を前記複数の独立変数の変動パラメータとして、前記変動パラメータの各々に対応する次元軸で構成される問題空間を生成することを特徴とする。
これによれば、複数の工場の連携で実行される生産ライン、単独の工場全体で実行される生産ライン、若しくは単独の工場の一部で実行される生産ラインなど、生産ラインで実行可能な生産ラインモデルを網羅して問題空間を設定することができ、多様な可能性或いは全ての可能性を踏まえて生産ラインに対する問題空間をより的確に定義することができ、問題空間に基づく人工知能による学習でより一層的確な最適解若しくは最適解群を得ることができる。また、多様な可能性或いは全ての可能性を踏まえた内容で、生産ラインの個別性を非常に正確に反映した問題空間を設定することができる。例えば、コンポーネントを構成する設備要素情報、作業要素情報には、様々な変更可能な諸元、変動パラメータ(設備の数、設備の能力、要素作業の時間、当該作業に関わる作業者の数等)を設定することが可能であり、対象となる生産ラインの個別性を非常に正確に反映した問題空間を設定することができる。
【0011】
本発明の生産設計支援装置は、前記設備要素情報の中の変更可能な諸元、前記作業要素情報の中の変更可能な諸元、変更可能な前記リンク情報のそれぞれを複数の独立変数の変動パラメータとして、前記変動パラメータの各々に対応する次元軸で構成される問題空間を生成することを特徴とする。
これによれば、複数の工場の連携で実行される生産ライン、単独の工場全体で実行される生産ライン、若しくは単独の工場の一部で実行される生産ラインなど、生産ラインで実行可能な生産ラインモデルを網羅して問題空間を設定し、多様な可能性を踏まえて生産ラインに対する問題空間をより的確に定義することが可能となり、問題空間に基づく人工知能による学習でより一層的確な最適解若しくは最適解群を得ることができる。更に、多様な可能性を踏まえた内容で、生産ラインの個別性を非常に正確に反映した問題空間を設定することが可能となる。例えば、コンポーネントを構成する設備要素情報、作業要素情報には、様々な変更可能な諸元、変動パラメータ(設備の数、設備の能力、要素作業の時間、当該作業に関わる作業者の数等)を設定することが可能であり、対象となる生産ラインの個別性を非常に正確に反映した問題空間を設定することができる。また、例えば所定の生産性基準を上回る生産ラインモデルだけに対応するリンク情報を設定して、問題空間を生成、設定するなど、最適解、最適解群の取得に当たって効率性が高い問題空間を生成、設定することも可能となる。
【0012】
本発明の生産設計支援装置は、完成品の情報と変更可能な諸元を有する生産計画情報を記憶部に記憶し、前記生産計画情報の変更可能な諸元を変動パラメータとして、前記生産計画情報の変動パラメータの各々に対応する次元軸で構成される問題空間を生成することを特徴とする。
これによれば、生産計画情報を有する問題空間も学習処理の対象として処理することができ、学習処理の結果である最適解若しくは最適解群に基づき、生産計画の変更可能な諸元、変動パラメータの最適化を図ることができると共に、適宜の生産計画を前提とする生産計画情報、設備要素情報、作業要素情報、設備要素と作業要素のリンク情報の各変動パラメータの最適化を図ることができる。また、適宜或いは特定の生産計画に対応する問題空間を生成し、これに対応する非常に的確な最適解若しくは最適解群を取得することができる。
【0013】
本発明の生産設計支援装置は、前記設備要素情報の中の所要の変更可能な諸元に分解能を設定し、前記分解能が設定された前記設備要素情報の中の変更可能な諸元を独立変数の変動パラメータとして、前記設備要素情報の中の変更可能な諸元の分解能を付加情報として有する前記問題空間を生成することを特徴とする。
これによれば、設備要素情報の中の変更可能な諸元の分解能を付加情報として有する問題空間を生成することにより、最適解、最適解群を取得する演算処理量を低減することができると共に、最適解、最適解群を取得する際に不要、無駄な演算処理が行われることを回避することができる。
【0014】
本発明の生産設計支援装置は、前記作業要素情報の中の所要の変更可能な諸元に分解能を設定し、前記分解能が設定された前記作業要素情報の中の変更可能な諸元を独立変数の変動パラメータとして、前記作業要素情報の中の変更可能な諸元の分解能を付加情報として有する前記問題空間を生成することを特徴とする。
これによれば、作業要素情報の中の変更可能な諸元の分解能を付加情報として有する問題空間を生成することにより、最適解、最適解群を取得する演算処理量を低減することができると共に、最適解、最適解群を取得する際に不要、無駄な演算処理が行われることを回避することができる。
【0015】
本発明の生産設計支援装置は、前記問題空間を境界条件として前記学習処理部が最適解若しくは最適解群を取得し、前記最適解若しくは前記最適解群を利用者に提示すると共に、前記問題空間の基である前記生産ラインモデルの前記コンポーネントについて、前記設備要素と前記リンク情報で関係付けされている前記作業要素の前記作業要素情報の惹起条件の充足に応じて、前記設備要素が作業を実行し、前記作業要素の前記作業要素情報の作業完了後の出力先に出力するようにして模擬処理を実行し、前記問題空間に対応する前記模擬処理の結果を利用者に提示することを特徴とする。
これによれば、従来のAI処理で問題となっていた「ブラックボックス化(どのような背景で最終解が導出されたかが不明)で、その結果を受け入れることが難しい」という問題に対応し、最適解群の抽出根拠をシミュレーション結果を通じて利用者が理解できるようにすることができ、利用者に十分な判断材料を与え、利用者が自身の持つ確定的な判断基準をもって最終的な最適解を決定することが可能となる。
【0016】
本発明の生産設計支援装置は、前記問題空間を境界条件として前記学習処理部が最適解群を取得すると共に、前記問題空間の基である前記生産ラインモデルの前記コンポーネントについて、前記設備要素と前記リンク情報で関係付けされている前記作業要素の前記作業要素情報の惹起条件の充足に応じて、前記設備要素が作業を実行し、前記作業要素の前記作業要素情報の作業完了後の出力先に出力するようにして模擬処理を実行し、前記問題空間を境界条件とし且つ前記模擬処理の結果に対応する追加条件に応じて前記学習処理部が絞込最適解若しくは絞込最適解群を取得する処理を実行することを特徴とする。
これによれば、人工知能の学習処理部の精度を補完し、より高い精度の絞込最適解若しくは絞込最適解群を得ることができる。また、学習処理を行う場合に、実際に実施してない生産活動を作業要素情報の惹起条件の充足等の生産条件を考慮した生産シミュレーション、模擬処理を利用して仮想的に実現することにより、生産に関する実績のない条件を新たに学習させることができる。また、機械学習、強化学習、深層強化学習では、解候補群を導きだす場合に経験値や評価値を用い、経験値や評価値を基にした実行結果(出力)に基づき解候補群を導出しており、これらの情報は生産ラインにおける複雑な振る舞い(モノの流れや様々な生産条件等)を分析的に反映しているわけではないが、問題空間を境界条件とし且つ模擬処理の結果に対応する追加条件に応じて学習処理部が絞込最適解若しくは絞込最適解群を取得することにより、生産ラインの構成や内部の振る舞いを改めて評価し、精度を高めて信頼に値する絞込最適解若しくは絞込最適解群を得ることができる。
【0017】
本発明の生産設計支援装置は、前記問題空間の基である前記生産ラインモデルの前記コンポーネントについて、前記設備要素と前記リンク情報で関係付けされている前記作業要素の前記作業要素情報の惹起条件の充足に応じて、前記設備要素が作業を実行し、前記作業要素の前記作業要素情報の作業完了後の出力先に出力するようにして模擬処理を実行し、前記問題空間の少なくとも一部に対応する前記模擬処理の結果に基づき前記問題空間の特性条件を取得し、前記問題空間を境界条件とし且つ前記特性条件に応じて学習処理部が生産設計の最適解若しくは最適解群を取得する解析処理を実行することを特徴とする。
これによれば、問題空間の枠組みを事前に作業要素情報の惹起条件の充足等の生産条件を考慮した生産シミュレーションで分析して、学習処理部の解析処理の条件をより最適なものとし、人工知能による学習の効率と正確性を高めることができる。また、機械学習、強化学習、深層強化学習では、解候補若しくは解候補群を導きだす場合に経験値や評価値を用い、経験値や評価値を基にした実行結果(出力)に基づき解候補群を導出しており、これらの情報は生産ラインにおける複雑な振る舞い(モノの流れや様々な生産条件等)を分析的に反映しているわけではないが、問題空間と模擬処理による問題空間の特性を条件として学習処理部が最適解若しくは最適解群を取得することにより、生産ラインの構成や内部の振る舞いを改めて評価し、最適解若しくは最適解群の精度を高めて信頼に値する最適解若しくは最適解群を得ることができる。
【0018】
本発明の生産設計支援方法は、コンピュータで実行される生産設計支援方法であって、設備要素の諸元で構成される設備要素情報と、必要な作業要素の惹起条件と作業完了後の出力先を含む作業要素の諸元で構成される作業要素情報と、前記設備要素と前記作業要素を関係付けるリンク情報と前記設備要素情報と前記作業要素情報で構成されるコンポーネントの組み合わせで定義される生産ラインモデル若しくは前記コンポーネントとしてリンク情報を設定可能な作業要素と設備要素の組み合わせを含む前記生産ラインモデルの基礎データに基づき、前記設備要素情報の中の変更可能な諸元、前記作業要素情報の中の変更可能な諸元、変更可能な前記リンク情報のうちのいずれかの複数種を複数の独立変数の変動パラメータとして、前記変動パラメータの各々に対応する次元軸で構成される問題空間を生成し、前記問題空間を境界条件として学習処理部が生産設計の最適解若しくは最適解群を取得する解析処理を実行することを特徴とする。尚、生産設計支援装置の各発明で適用した構成に対応する内容は本発明の生産設計支援方法の構成として適用しても好適である。
これによれば、通常定義されていない生産ラインの問題空間を、データサイエンティストの属人的な定義処理に寄らずに、容易且つ的確に定義することができ、問題空間に基づく人工知能による学習でより的確な最適解若しくは最適解群を得ることができる。また、個別性が高い生産ラインの問題空間を、高い柔軟性で適切に対応して定義することができ、汎用性に優れる。例えば設備要素の能力、数に拘わらずに不変な作業要素の作業要素情報を設備要素情報と独立して設定し、所望のリンク情報を動的に設定して連携させてコンポーネントを構成できることから、設備要素の数が異なる場合にも作業要素の作業を担う設備要素、コンポーネントを容易且つ柔軟に設定し、問題空間に反映させることができる。
【0019】
本発明の生産設計支援プログラムは、生産設計支援装置としてコンピュータを機能させる生産設計支援プログラムであって、前記コンピュータに、設備要素の諸元で構成される設備要素情報を記憶させ、必要な作業要素の惹起条件と作業完了後の出力先を含む作業要素の諸元で構成される作業要素情報を記憶させ、前記設備要素と前記作業要素を関係付けるリンク情報と前記設備要素情報と前記作業要素情報で構成されるコンポーネントの組み合わせで定義される生産ラインモデル、若しくは前記コンポーネントとしてリンク情報を設定可能な作業要素と設備要素の組み合わせを含む前記生産ラインモデルの基礎データを記憶させ、前記設備要素情報の中の変更可能な諸元、前記作業要素情報の中の変更可能な諸元、変更可能な前記リンク情報のうちのいずれかの複数種を複数の独立変数の変動パラメータとして、前記変動パラメータの各々に対応する次元軸で構成される問題空間を生成させ、前記問題空間を境界条件として学習処理部が生産設計の最適解若しくは最適解群を取得する解析処理を実行させることを特徴とする。尚、生産設計支援装置の各発明で適用した構成に対応する内容は本発明の生産設計支援プログラムの構成として適用しても好適である。
これによれば、通常定義されていない生産ラインの問題空間を、データサイエンティストの属人的な定義処理に寄らずに、容易且つ的確に定義することができ、問題空間に基づく人工知能による学習でより的確な最適解若しくは最適解群を得ることができる。また、個別性が高い生産ラインの問題空間を、高い柔軟性で適切に対応して定義することができ、汎用性に優れる。例えば設備要素の能力、数に拘わらずに不変な作業要素の作業要素情報を設備要素情報と独立して設定し、所望のリンク情報を動的に設定して連携させてコンポーネントを構成できることから、設備要素の数が異なる場合にも作業要素の作業を担う設備要素、コンポーネントを容易且つ柔軟に設定し、問題空間に反映させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、通常定義されていない生産ラインの問題空間を、データサイエンティストの属人的な定義処理に寄らずに、容易且つ的確に定義することができ、問題空間に基づく人工知能による学習でより的確な最適解若しくは最適解群を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明による第1実施形態の生産設計支援装置の全体構成を示すブロック図。
【
図2】第1実施形態の生産設計支援装置による生産設計支援処理を示すフローチャート。
【
図3】第2実施形態の生産設計支援装置による生産設計支援処理を示すフローチャート。
【
図4】本発明による第3実施形態の生産設計支援装置の全体構成を示すブロック図。
【
図5】第3実施形態の生産設計支援装置による生産設計支援処理を示すフローチャート。
【
図6】(a)は第1実施形態の実施例における製品例を示す説明図、(b)は同実施例における生産工程の流れを示す説明図。
【
図7】(a)は第1実施形態の実施例における設備要素を示す説明図、(b)は同実施例における作業要素による生産工程の流れを示すフローチャート。
【
図8】第1実施形態の実施例における設備要素情報記憶部に記憶される設備要素情報の例を示す図。
【
図9】第1実施形態の実施例における作業要素情報記憶部に記憶される作業要素情報の例を示す図。
【
図10】(a)は第1実施形態の実施例における生産ラインモデル記憶部に記憶される生産ラインモデルの基礎データの例を示す図、(b)はその生産ラインモデルの例を示す図。
【
図11】第1実施形態の実施例における問題空間の説明図。
【
図12】第1実施形態の実施例における学習処理部の解析処理で求められた最適解群の例を示す図。
【
図13】(a)~(c)は動作ログデータベースに記録されたログによる中間在庫の経時的推移をグラフ化した例を示す説明図。
【
図14】第2実施形態の実施例における圧縮空間の説明図。
【
図15】第3実施形態の実施例における圧縮空間の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〔第1実施形態の生産設計支援装置及び生産設計支援方法〕
本発明による第1実施形態の生産設計支援装置1は、
図1に示すように、MPU、CPU等の演算制御部2と、HDD、フラッシュメモリ、EEPROM、ROM、RAM等で構成される記憶部3と、マウス、キーボード、タッチパネル等の入力部4と、ディスプレイ、プリンター等の出力部5を備え、単独のコンピュータ或いは通信接続のネットワークで接続された複数のコンピュータ端末の集合体で構成されるコンピュータで実現される。
【0023】
記憶部3は、演算制御部2に所定処理を実行させる生産設計支援プログラム等の制御プログラムを記憶し、生産設計支援プログラムを記憶する生産設計支援プログラム記憶部31を有する。生産設計支援プログラムは、問題空間生成プログラムと学習処理プログラムと模擬処理プログラムから構成され、それぞれ機能的に区分された生産設計支援プログラム記憶部31の問題空間生成プログラム記憶部311、学習処理プログラム記憶部312、模擬処理プログラム記憶部313に格納される。尚、生産設計支援プログラムを問題空間生成プログラムと模擬処理プログラムとから構成し、或いは生産設計支援プログラムを問題空間生成プログラムだけで構成し、これらの生産設計支援プログラムとは別の学習処理プログラムと併用し、本発明の生産設計支援の処理を実行するようにすることも可能である。
【0024】
演算制御部2は、生産設計支援プログラム記憶部31の生産設計支援プログラムに従って所定の処理を実行する。第1実施形態における演算制御部2は、記憶部3の問題空間生成プログラムに従って問題空間生成部211としての処理を実行し、学習処理プログラムに従って学習処理部212としての処理を実行し、模擬処理プログラムに従って模擬処理部213としての所定の処理を実行する。
【0025】
記憶部3は、設備要素の諸元で構成される設備要素情報を記憶する設備要素情報記憶部32と、作業要素の惹起条件と作業完了後の出力先を含む作業要素の諸元で構成される作業要素情報を記憶する作業要素情報記憶部33と、設備要素と作業要素を関係付けるリンク情報と設備要素情報と作業要素情報で構成されるコンポーネントの組み合わせで定義される生産ラインモデルを記憶する生産ラインモデル記憶部34を備える。
【0026】
設備要素情報として設定される設備要素の諸元には、設備要素自体に起因する或いは関連する適宜の諸元を設定することが可能であり、例えば生産設備要素のサイクルタイム、位置情報等の諸元が設定される。設備要素情報の諸元の一部或いは全部は、変更可能な変動パラメータとされ、例えば生産設備要素の位置情報等の諸元が変更可能な諸元、変動パラメータとして設定される。設備要素情報の変更可能な諸元或いは変更可能な変動パラメータは、当該諸元或いは当該変動パラメータの変更可能な範囲として設定すると良好である。また、設備要素自体、換言すれば設備要素情報自体を追加、削除、変更するようにして設備要素情報記憶部32の記憶されたデータを記述、修正することも可能であり、設備要素を追加、変更した場合には、それに対応する設備要素の諸元を追加し、或いは設備要素の諸元に変更して設備要素情報が設備要素情報記憶部32に記憶される。即ち、存在させる設備要素とこれに対応する設備要素情報の定義自体も変更可能な情報或いは変動パラメータとして設定される。また、設備要素情報の中の全部又は所要の変更可能な諸元には分解能を対応設定して設備要素情報記憶部32に記憶すると良好である(
図8参照)。
【0027】
作業要素情報には、設備要素に依存しない情報で特定の作業に関連する適宜の諸元が設定され、例えば特定の製品を生産する作業に関する諸元として、作業要素の惹起条件としての必要部品数、作業完了後の出力先や出力される部品数等が設定される。尚、作業要素情報に対応する特定の作業には、特定の製品を生産する一連の作業の一部或いは一連の作業の全体が含まれ、設備要素の設備要素情報の内容等に合わせて、特定の製品を生産する一連の作業の一部或いは一連の作業の全体を作業要素情報として設定することが可能であるが、特定の製品を生産する一連の作業の一部とすると好適である。作業要素情報の諸元の一部或いは全部は、変更可能な変動パラメータとされ、例えば作業完了後の出力先等の諸元が変更可能な諸元、変動パラメータとして設定される。作業要素情報の変更可能な諸元或いは変更可能な変動パラメータは、当該諸元或いは当該変動パラメータの変更可能な範囲として設定すると良好である。また、作業要素自体、換言すれば換言すれば作業要素情報自体を追加、削除、変更するようにして作業要素情報記憶部33の記憶されたデータを記述、修正することも可能であり、作業要素を追加、変更した場合には、それに対応する作業要素の諸元を追加し、或いは作業要素の諸元に変更して作業要素情報が作業要素情報記憶部33に記憶される。即ち、作業要素とこれに対応する作業要素情報の定義自体も変更可能な情報或いは変動パラメータとして設定される。また、作業要素情報の中の全部又は所要の変更可能な諸元には分解能を対応設定して作業要素情報記憶部33に記憶すると良好である(
図9参照)。尚、生産工程全体など全体の工程において、例えば最初の工程の作業要素で、惹起条件に相当するものが開始入力であるもの等、惹起条件が設定記憶されない作業要素の作業要素情報が、全ての作業要素の作業要素情報中に、いくつか含まれていてもよい。
【0028】
生産ラインモデル記憶部34等に記憶される生産ラインモデルは、設備要素の設備要素情報と、作業要素の作業要素情報と、当該設備要素と当該作業要素を関係付けるリンク情報で構成されるコンポーネントを組み合わせて定義され(
図10参照)、生産ラインモデルを構成する設備要素と作業要素のリンク情報は、設備要素と作業要素を関係付けるように設定される。設備要素と作業要素を関係付けるリンク情報、或いは設備要素と作業要素を関係付ける初期条件のリンク情報は、例えば生産設計支援プログラムと協働する演算制御部2の制御により、出力部5のディスプレイで所定の設定画面を表示し、この設定画面における入力部4からの入力に応じて設定することが可能であり、これに応じて生産ラインモデルが生成され、記憶される。この設定画面における入力でリンク情報を設定する場合、設備要素が二次元配置された画面と、生産プロセス・ネットワークを構成する作業要素がネットワークとして配置された画面を表示し、2つの画面のそれぞれの要素を選択して関係付けのコマンドの実行或いはドラッグ&ドロップ等で関係付けることにより、リンク情報を入力設定可能にすると、リンク設定を直感的で使いやすいものとすることができて好ましい。
【0029】
また、別の構成例として、生産設計支援プログラムと協働する演算制御部2が、設定画面における入力部4からの入力に応じて、コンポーネントとしてリンク情報を設定可能な作業要素と設備要素の組み合わせを基礎データとして生産ラインモデル記憶部34に記憶させ、入力部4からの「全組み合わせの生産ラインモデルの生成」ボタンの指定入力等により、演算制御部2が、生産ラインモデル記憶部34のコンポーネントとしてリンク情報を設定可能な作業要素と設備要素の組み合わせを用い、生産ラインとして実行可能な設備要素と作業要素の組み合わせ方に対応するだけコンポーネントの組み合わせで定義される生産ラインモデルの複数を生成し、生産ラインモデル記憶部34或いは記憶部3の所定記憶領域に記憶させる構成としても良好である。
【0030】
生産ラインとして実行可能な設備要素と作業要素の組み合わせ方に対応するだけコンポーネントの組み合わせで定義される生産ラインモデルを生成し、記憶する場合、生産ラインモデル記憶部34に記憶される生産ラインモデルは、複数の工場の連携で実行される生産ライン、単独の工場全体で実行される生産ライン、若しくは単独の工場の一部で実行される生産ラインとして実行可能な設備要素と作業要素の組み合わせ方に対応するだけ設定して記憶すると良好である。
【0031】
また、更に別の構成例として、生産設計支援プログラムと協働する演算制御部2が、設定画面における入力部4からの入力に応じて、コンポーネントとしてリンク情報を設定可能な作業要素と設備要素の組み合わせを基礎データとして生産ラインモデル記憶部34に記憶させ、入力部4からの「リンク情報の設定」又は「問題空間の生成」等の所定入力により、演算制御部2が、変更可能なリンク情報を変動パラメータとして変動させて設定することにより、生産ラインモデルPL1、PL2、…等を生成し、生成した生産ラインモデルを記憶部3の所定記憶領域に一次的或いは継続的に記憶する構成としても良好である。この際、例えば遊休設備となる設備要素が発生しない組み合わせの生産ラインモデルだけを生成或いは抽出する等、生産設計支援装置1或いはその演算制御部2が、所定の生産性基準を上回る生産ラインモデルだけを生成する或いは抽出する構成としても良好である。この構成例では、リンク情報は変更可能になっており、換言すれば関係付けされる設備要素と作業要素は変更可能になっている。
【0032】
記憶部3は、問題空間生成部211で生成された問題空間(多次元の解空間)を記憶する問題空間記憶部35を備える。問題空間生成プログラムと協働する演算制御部2の問題空間生成部211は、生産ラインモデル記憶部34に記憶された1又は複数の生産ラインモデル、或いはコンポーネントとしてリンク情報を設定可能な作業要素と設備要素の組み合わせを含む生産ラインモデルの基礎データに基づき、生産ラインモデルを構成するコンポーネントの設備要素情報の変更可能な諸元である独立変数の変動パラメータと、作業要素情報の変更可能な諸元である独立変数の変動パラメータの各々に対応する次元軸で構成される問題空間、又は、生産ラインモデルを構成するコンポーネントの設備要素情報の変更可能な諸元である独立変数の変動パラメータと、作業要素情報の変更可能な諸元である独立変数の変動パラメータと、設備要素と作業要素を変更可能に関係付けるリンク情報の独立変数の変動パラメータの各々に対応する次元軸で構成される問題空間を生成し、問題空間記憶部35に記憶させる。
【0033】
記憶部3は、例えば稼働率向上、製造時間短縮等のデータを含む生産ラインに関するデータによって学習された学習済みモデル或いは学習モデルのデータを記憶する学習データ記憶部36を備える。この学習済みモデル或いは学習モデルは、強化学習(Qラーニング、ディープQラーニング等)やアンサンブル学習等の機械学習や、深層学習等の手法を用いて人工知能による適宜の学習を行ったモデル、学習を行うモデルで構成される。
【0034】
学習処理プログラムと協働する演算制御部2の学習処理部212は、学習データ記憶部36の学習済みモデル或いは学習モデルを用いて人工知能による学習を実行することにより、問題空間を境界条件として、学習データ記憶部36の学習済みモデルを修正、更新或いは学習モデルを生成、修正、更新しながら生産設計の最適解若しくは最適解群を取得する解析処理を実行する。例えば学習処理部212における人工知能の学習が強化学習のQラーニングの場合には、境界条件の問題空間に対応する生産ラインモデルに対する模擬生産(Qラーニングの学習処理における模擬生産)の結果で得られた評価値(Q値)を元に報酬を算出して、これらをエージェントと呼ばれるQネットワークに蓄積していき、蓄積した累積報酬を基準にして、学習済みモデル或いは学習モデルを修正、更新しながら生産設計の最適解若しくは最適解群を取得する解析処理を実行する。例えば学習処理部212における人工知能の学習が深層強化学習のディープQラーニングの場合には、入力層、中間層(畳み込み層、プーリング層)、全結合層、出力層から構成される多層構造のニューラルネットワークを用いる畳み込みニューラルネットワークによるディープラーニングを用い、境界条件の問題空間に対応する生産ラインモデルに対する模擬生産(ディープQラーニングの学習処理における模擬生産)の結果から報酬を算出して蓄積していき、蓄積した累積報酬を基準にして、学習データ記憶部36の学習済みモデル或いは学習モデルを生成、修正、更新しながら生産設計の最適解若しくは最適解群を取得する解析処理を実行する。尚、これらの処理で複数の最適解で構成される最適解群を取得する場合には、例えば蓄積した累積報酬の高い順に記憶部3に設定記憶された設定個数だけ解を抽出し、これらの最適解群として取得する処理等とすることが可能である。また、前述の学習処理部212によるQラーニングやディープQラーニングの学習処理における模擬生産の処理には、後述する模擬処理部213に模擬生産の処理と同様の処理や、例えば所定の一部の変動パラメータを変動させない等により、これを簡易化した模擬生産の処理で実行しても良好である。
【0035】
また、生産設計支援装置1に、入力部4からの入力等により、例えば完成品の種別等の情報と、完成品の生産順番・生産開始日時等の変更可能な諸元を有する生産計画情報を問題空間生成プログラム記憶部311など記憶部3の所定記憶領域に記憶させ、問題空間生成部211が、生産計画情報の変更可能な諸元を変動パラメータとして、生産計画情報の変動パラメータの各々に対応する次元軸を有して構成される問題空間を生成し、この問題空間を境界条件として学習処理部212が学習処理を実行する構成としても良好である。これにより、生産計画情報を有する問題空間も学習処理の対象として処理することができ、学習処理の結果である最適解若しくは最適解群に基づき、生産計画の変更可能な諸元、変動パラメータの最適化を図ることができると共に、適宜の生産計画を前提とする生産計画情報、設備要素情報、作業要素情報、設備要素と作業要素のリンク情報の各変動パラメータの最適化を図ることができる。また、適宜或いは特定の生産計画に対応する問題空間を生成し、これに対応する非常に的確な最適解若しくは最適解群を取得することができる。
【0036】
尚、問題空間に対して学習処理部212が学習処理を実行する場合、所定の数値範囲の各変動パラメータ毎に対応設定された分解能で分割された粒度(細かさ)で各変動パラメータを変動させて学習処理を実行する、或いは所定の分解能で分割された粒度(細かさ)毎に記憶部3の所定記憶領域に設定記憶された数値の各変動パラメータを粒度毎に変動させて学習処理を実行する構成とすると好適であるが、全ての或いは複数の変動パラメータに対して同一の分解能を設定、適用して学習処理を実行するようにしても良好である。また、過去に有効であると判断された値に基づく基準値を所要の変動パラメータに対する基準値として問題空間記憶部35など記憶部35の所定記憶領域に記憶すると共に、当該基準値対応する分解能と当該基準値を中心とする前後の数値範囲を問題空間記憶部35など記憶部35の所定記憶領域に記憶し、当該基準値を有する変動パラメータに対して学習処理部212が学習処理を実行する際には、この基準値と対応する分解能、前後の数値範囲を優先して適用し、この変動パラメータに対して基準値の前後の数値範囲で対応設定された分解能による演算処理を実行するようにしても良好である。これによれば、過去に実施して有効であると判断された値を基準値として使用することにより、問題空間を探索する場合の有効な手段、手掛かりとして利用することができ、学習処理部212が処理する問題空間の範囲を狭くして処理量を削減しながら、効果的に最適解、最適解群を得ることが可能となる。
【0037】
記憶部3は、出力部5のディスプレイで表示する所定画面のデータを記憶する画面データ記憶部37、各設備要素での状態変化の動作ログを時刻に対応して記憶する動作ログデータベース38を有し、更に、問題空間生成部211による問題空間生成処理、学習処理部212による学習処理、模擬処理部213による離散的シミュレーションの所定の模擬処理を行うのに必要なデータを記憶する領域を備える。
【0038】
模擬処理プログラムと協働する演算制御部2の模擬処理部213は、離散的に発生する事象の連鎖による生産工程の状態推移を模擬的に演算処理するものであり、問題空間記憶部35に記憶されている問題空間の基である生産ラインモデルを構成するコンポーネント(設備要素と作業要素を関係付けるリンク情報と、当該設備要素の設備要素情報と、当該作業要素の作業要素情報)について、設備要素とリンク情報で関係付けされている作業要素の作業要素情報の惹起条件の充足に応じて、設備要素が作業を実行し、作業要素の作業要素情報の作業完了後の出力先に出力するようにして模擬処理を実行する。即ち、作業要素の作業要素情報として惹起条件と作業完了後の出力先が設定されていることを前提にして、模擬処理部213は、設備要素とリンク情報で関係付けされている作業要素の作業要素情報の惹起条件の充足に応じて、当該設備要素が当該作業要素の作業要素情報で規定されている作業を実行するように当該設備要素の動作を惹起し、当該作業要素情報の出力先に作業完了後の中間品を出力して演算を進行する。
【0039】
この模擬処理部213の演算処理の際には、例えば演算中に設備要素に関係付けされている作業要素の作業要素情報の惹起条件と出力先を参照し、惹起条件の充足に応じて当該設備要素の動作を惹起して出力するように演算する、或いは演算前に、設備要素に関係付けされている作業要素の作業要素情報の惹起条件と出力先を当該設備要素の付加情報として記憶部3に記憶させ、付加情報とされている作業要素情報の惹起条件の充足に応じて当該設備要素の動作を惹起して出力するように演算する等とすることが可能である。また、模擬処理部213の生産に対する模擬的な演算処理は、問題空間の基である一又は複数の生産ラインモデルのコンポーネント或いはそのコンポーネントとしてリンク情報を設定可能な作業要素と設備要素の組み合わせを含む基礎データについて、設備要素情報の変更可能な諸元や、作業要素情報の変更可能な諸元である各変動パラメータを、又は設備要素情報の変更可能な諸元や、作業要素情報の変更可能な諸元や、変更可能な設備要素と作業要素を関係付けるリンク情報の各変動パラメータを変更可能な範囲で且つ分解能が設定されている場合には分解能に応じて変動させ、実行可能な生産に対して網羅的に模擬処理を実行すると正確性の観点から好適であるが、問題空間の基に複数の生産ラインモデルがある場合に、一部の生産ラインモデルだけに対応して実行するなど、問題空間の一部に対応して実行しても演算処理の効率性や模擬処理の目的に応じた処理の効率性の観点から好適である。
【0040】
更に、設備要素の諸元として設備要素の位置情報を設備要素情報記憶部32に記憶し、模擬処理部213の演算処理において、第1の設備要素の位置情報と第1の設備要素の出力先である第2の設備要素の位置情報に基づく第1の設備要素から第2の設備要素までの搬送時間を取得し、第1の設備要素の作業完了時刻から搬送時間が経過した時刻に、第2の設備要素に第1の設備要素の作業完了後の中間品を出力するようにして模擬的に処理すると、搬送時間を加味したより正確な工程のシミュレーション結果を得ることができて好ましい。
【0041】
この搬送時間の取得は、例えば記憶部3の所定領域に、生産工場等のエリア全体を規定する座標系と、設定速度を記憶し、模擬処理部213の演算処理において、第1の設備要素の位置情報と第2の設備要素の位置情報と設定速度から搬送時間を演算取得する、或いは既存の経路推測技術を利用し、記憶部3の所定領域に記憶される所定データを用いて、模擬処理部213の演算処理において移動経路を推測し、この移動経路に基づいて第1の設備要素から第2の設備要素までの搬送時間を演算取得する等とすることが可能である。
【0042】
第1実施形態の生産設計支援装置1による生産設計支援処理では、
図2に示すように、生産ラインモデル記憶部34に、コンポーネントとしてリンク情報を設定可能な作業要素と設備要素の組み合わせを、設備要素と作業要素を関係付けるリンク情報と設備要素情報と作業要素情報で構成されるコンポーネントの組み合わせで定義される生産ラインモデルの基礎データとして記憶させる(S11)。そして、生産設計支援プログラムと協働する演算制御部2が、この基礎データを用い、設備要素の設備要素情報と、作業要素の作業要素情報と、当該設備要素と当該作業要素を関係付けるリンク情報で構成されるコンポーネントの組み合わせで定義される生産ラインモデルを生成し、記憶させる(S12)。この処理は、例えば演算制御部2或いは問題空間生成部211が、生産ラインで実行可能な設備要素と作業要素の組み合わせ方に対応するだけコンポーネントの組み合わせで定義される生産ラインモデルの複数を生成し、生産ラインモデル記憶部34など記憶部3に記憶させる処理、或いは、変更可能なリンク情報を変動パラメータとして変動させて設定することにより、生産ラインモデルを生成し、記憶部3の所定記憶領域に一次的或いは継続的に記憶する処理等として実行することが可能である。
【0043】
この処理の後又はこの処理と並行して、問題空間生成部211は、生産ラインモデル記憶部34に記憶された1又は複数の生産ラインモデル、或いはコンポーネントとしてリンク情報を設定可能な作業要素と設備要素の組み合わせを含む生産ラインモデルの基礎データに基づき、生産ラインモデルを構成するコンポーネントの設備要素情報の変更可能な諸元である独立変数の変動パラメータと、作業要素情報の変更可能な諸元である独立変数の変動パラメータの各々に対応する次元軸で構成される問題空間、又は、生産ラインモデルを構成するコンポーネントの設備要素情報の変更可能な諸元である独立変数の変動パラメータと、作業要素情報の変更可能な諸元である独立変数の変動パラメータと、設備要素と作業要素を変更可能に関係付けるリンク情報の独立変数の変動パラメータの各々に対応する次元軸で構成される問題空間を生成し、問題空間記憶部35に記憶させる(S13)。この際、設備要素情報、作業要素情報の中の全部又は所要の変更可能な諸元に分解能が対応設定して設備要素情報記憶部32、作業要素情報記憶部33に記憶されている場合には、設備要素情報、作業要素情報の中の変更可能な諸元の分解能を付加情報として有する問題空間を生成し、分解能の付加情報を対応する変動パラメータの次元軸に対応設定して問題空間記憶部35に記憶させる。そして、学習処理部212は、生成された問題空間記憶部35に記憶された問題空間を境界条件として、学習済みモデルを修正、更新しながら生産設計の最適解若しくは最適解群を取得する解析処理を実行し、取得した最適解若しくは最適解群を記憶部3の所定記憶領域に記憶するS14)。演算制御部2は、取得した最適解若しくは最適解群を出力部5から出力して利用者に提示する(S15)。
【0044】
また、模擬処理部213は、問題空間の基である一又は複数の生産ラインモデルのコンポーネントについて、設備要素とリンク情報で関係付けされている作業要素の作業要素情報の惹起条件の充足に応じて、設備要素が作業を実行し、作業要素の前記作業要素情報の作業完了後の出力先に出力するようにして模擬処理を実行し、模擬処理の結果を取得し、記憶部3の所定記憶領域に記憶し(S16)、演算制御部2或いは模擬処理部213は、問題空間に対応する模擬処理の結果を出力部5から出力して利用者に提示する(S17)。
【0045】
第1実施形態によれば、通常定義されていない生産ラインの問題空間を、データサイエンティストの属人的な定義処理に寄らずに、容易且つ的確に定義することができ、問題空間に基づく人工知能による学習でより的確な最適解若しくは最適解群を得ることができる。また、個別性が高い生産ラインの問題空間を、高い柔軟性で適切に対応して定義することができ、汎用性に優れる。例えば設備要素の能力、数に拘わらずに不変な作業要素の作業要素情報を設備要素情報と独立して設定し、所望のリンク情報を動的に設定して連携させてコンポーネントを構成できることから、設備要素の数が異なる場合にも作業を担う設備要素、コンポーネントを容易且つ柔軟に設定し、問題空間に反映させることができる。
【0046】
また、複数の工場の連携で実行される生産ライン、単独の工場全体で実行される生産ライン、若しくは単独の工場の一部で実行される生産ラインなど、生産ラインで実行可能な生産ラインモデルを網羅して問題空間を設定することができ、多様な可能性或いは全ての可能性を踏まえて生産ラインに対する問題空間をより的確に定義することができ、問題空間に基づく人工知能による学習でより一層的確な最適解若しくは最適解群を得ることができる。また、多様な可能性或いは全ての可能性を踏まえた内容で、生産ラインの個別性を非常に正確に反映した問題空間を設定することができる。例えば、コンポーネントを構成する設備要素情報、作業要素情報には、様々な変更可能な諸元、変動パラメータ(設備の数、設備の能力、要素作業の時間、当該作業に関わる作業者の数等)を設定することが可能であり、対象となる生産ラインの個別性を非常に正確に反映した問題空間を設定することができる。また、リンク情報を変動パラメータとして問題空間を生成する場合には、例えば所定の生産性基準を上回る生産ラインモデルだけに対応するリンク情報を設定して、問題空間を生成、設定するなど、最適解、最適解群の取得に当たって効率性が高い問題空間を生成、設定することも可能となる。
【0047】
また、設備要素情報、作業要素情報の中の変更可能な諸元の分解能を付加情報として有する問題空間を生成することにより、最適解、最適解群を取得する演算処理量を低減することができると共に、最適解、最適解群を取得する際に不要、無駄な演算処理が行われることを回避することができる。また、「ブラックボックス化(どのような背景で最終解が導出されたかが不明)で、その結果を受け入れることが難しい」の問題に対応し、最適解群の抽出根拠をシミュレーション結果を通じて利用者が理解できるようにすることができ、利用者に十分な判断材料を与え、利用者が自身の持つ確定的な判断基準をもって最終的な最適解を決定することが可能となる。
【0048】
〔第2実施形態の生産設計支援装置及び生産設計支援方法〕
本発明による第2実施形態の生産設計支援装置1の基本的な構成は第1実施形態と同様であるが(
図1参照)、学習処理プログラムと協働する演算制御部2の学習処理部212は、第1実施形態と同様のディープQラーニングなど適宜の人工知能による学習技術を用い、一又は複数の生産ラインモデルに基づく問題空間を境界条件として学習済みモデルを修正、更新しながら生産設計の解候補群である最適解群を取得する解析処理を実行し、最適解群を取得するようになっている。この学習処理部212の複数の最適解で構成される最適解群を取得する処理は、基本的に第1実施形態と同様の学習処理による演算を行い、例えば蓄積した累積報酬の高い順に記憶部3に設定記憶された設定個数だけ解を抽出し、或いは蓄積した累積報酬が記憶部3に設定記憶された閾値を上回る解を抽出し、これらを最適解群として取得する処理等で実行する。更に、学習処理部212は、基本的に第1実施形態と同様の学習処理による演算を行い、問題空間を境界条件とし且つ模擬処理の結果を追加条件として絞込最適解若しくは絞込最適解群を取得する処理を実行するようになっている。
【0049】
第2実施形態の生産設計支援装置1による生産設計支援処理では、
図3に示すように、生産設計支援プログラムと協働する演算制御部2が、問題空間を生成し、記憶させ、問題空間を境界条件として生産設計の解候補群である最適解群を取得する解析処理を実行し、記憶部3の所定記憶領域に記憶し(S21)、取得した最適解群を利用者に提示する処理を行う(S22)。ここまでの演算制御部2による生産設計支援処理は第1実施形態と同様の処理で行い、その前提となるハードウェア資源の構成も第1実施形態と同様である。
【0050】
また、模擬処理部213は、第1実施形態の模擬処理と同様に、問題空間の基である一又は複数の生産ラインモデルのコンポーネントについて、設備要素とリンク情報で関係付けされている作業要素の作業要素情報の惹起条件の充足に応じて、設備要素が作業を実行し、作業要素の前記作業要素情報の作業完了後の出力先に出力するようにして模擬処理を実行し、模擬処理の結果を取得し、記憶部3の所定記憶領域に記憶し(S23)、演算制御部2或いは模擬処理部213は、問題空間に対応する模擬処理の結果を出力部5から出力して利用者に提示する(S24)。尚、この模擬処理の前提となるハードウェア資源の構成も第1実施形態と同様である。
【0051】
その後、学習処理部212は、問題空間を境界条件とし且つ模擬処理の結果に対応する追加条件に応じて、学習済みモデル或いは学習済みモデルを修正、更新しながら絞込最適解若しくは絞込最適解群を取得する処理を実行し、記憶部3の所定記憶領域に記憶する(S25)。演算制御部2は、取得した絞込最適解若しくは絞込最適解群を出力部5から出力して利用者に提示する(S26)。この模擬処理の結果に対応する追加条件は、例えば模擬処理の結果に基づき、入力部4からの入力等で生産設計支援装置1の記憶部3の所定記憶領域に設定すると良好であるが、生産設計支援装置1の記憶部3の所定記憶領域に、上限や下限の閾値、又は単位時間当たりの上限や下限の閾値を設定しておき、生産設計支援装置1の生産設計支援プログラムと協働する演算制御部2が、この閾値を超える又は下回る設備稼働率、中間在庫の変動、中間在庫の変動の時間的推移等の指標を模擬処理の結果で検出した場合、当該指標が閾値以内であることを追加条件として設定するなど、生産設計支援装置1の演算制御部2が自動的に模擬処理の結果に対応する追加条件を設定するようにしても良好である。追加条件を自動的に設定する場合には、最適解群と模擬処理の結果の利用者への提示、或いは模擬処理の結果の利用者への提示を省略しても好適である。尚、複数の絞込最適解で構成される絞込最適解群を演算取得し、提示する処理及びその前提となるハードウェア構成には、最適解群を演算取得し、提示する処理及びその前提となるハードウェア構成と対応する学習処理、構成を用いることができる。また、絞込最適解、絞込最適解群は、模擬処理の結果に対応する追加条件がない場合の最適解群の中の解でも良いし、その一部又は全部が最適解群の外側の解になってもよい。
【0052】
第2実施形態によれば、第1実施形態と対応する構成から対応する効果が得られると共に、人工知能の学習処理部212の精度を補完し、より高い精度の絞込最適解若しくは絞込最適解群を得ることができる。また、学習処理を行う場合に、実際に実施してない生産活動を作業要素情報の惹起条件の充足等の生産条件を考慮した生産シミュレーション、模擬処理を利用して仮想的に実現することにより、生産に関する実績のない条件を新たに学習させることができる。また、機械学習、強化学習、深層強化学習では、解候補群を導きだす場合に経験値や評価値を用い、経験値や評価値を基にした実行結果(出力)に基づき解候補群を導出しており、これらの情報は生産ラインにおける複雑な振る舞い(モノの流れや様々な生産条件等)を分析的に反映しているわけではないが、問題空間を境界条件とし且つ模擬処理の結果に対応する追加条件に応じて学習処理部212が絞込最適解若しくは絞込最適解群を取得することにより、生産ラインの構成や内部の振る舞いを改めて評価し、精度を高めて信頼に値する絞込最適解若しくは絞込最適解群を得ることができる。
【0053】
〔第3実施形態の生産設計支援装置及び生産設計支援方法〕
本発明による第3実施形態の生産設計支援装置1の基本的な構成は第1実施形態と同様であるが、
図4に示すように、生産設計支援プログラムが、問題空間生成プログラムと学習処理プログラムと模擬処理プログラムと特性条件取得プログラムから構成され、それぞれ機能的に区分された生産設計支援プログラム記憶部31の問題空間生成プログラム記憶部311、学習処理プログラム記憶部312、模擬処理プログラム記憶部313、特性条件取得プログラム記憶部314に格納されていると共に、記憶部3に特性条件記憶部39が設けられている。尚、生産設計支援プログラムを問題空間生成プログラムと模擬処理プログラムと特性条件取得プログラムとから構成し、この生産設計支援プログラムとは別の学習処理プログラムと併用し、本発明の生産設計支援の処理を実行するようにすることも可能である。
【0054】
演算制御部2は、生産設計支援プログラム記憶部31の生産設計支援プログラムに従って所定の処理を実行する。第3実施形態における演算制御部2は、第1実施形態と同様の処理を実行可能であると共に、特性生成プログラムに従って特性条件取得部214としての所定の処理を実行する。そして、模擬処理部213は、問題空間の少なくとも一部に対応する問題空間の基である一又は複数の生産ラインモデルのコンポーネントについて、設備要素とリンク情報で関係付けされている作業要素の作業要素情報の惹起条件の充足に応じて、設備要素が作業を実行し、作業要素の前記作業要素情報の作業完了後の出力先に出力するようにして模擬処理を実行し、模擬処理の結果を取得し、模擬処理の結果を記憶部3の所定記憶領域に記憶する。尚、この模擬処理では、例えば設備要素情報の変更可能な諸元、作業要素情報の変更可能な諸元のうちの任意の変動パラメータを固定した状態にし、残りの変動パラメータを変動させて模擬処理を実行するなど、問題空間の部分的な領域に対して模擬処理を実行しても良好である。
【0055】
更に、特性条件取得プログラムと協働する演算制御部2の特性条件取得部214は、問題空間の少なくとも一部に対応する模擬処理の結果に基づき問題空間の特性条件を生成し、特性条件記憶部39に記憶させる。模擬処理の結果に基づく問題空間の特性の生成に際しては、例えば生産設計支援装置1の記憶部3の所定記憶領域に、上限や下限の閾値、又は単位時間当たりの上限や下限の閾値を設定しておき、特性条件取得部214が、この閾値を超える又は下回る設備稼働率、中間在庫の変動、中間在庫の変動の時間的推移等の指標を模擬処理の結果で検出した場合、当該指標が閾値以内であることを特性条件として取得し、特性条件記憶部39に設定記憶する構成等とすると良好である。
【0056】
また、別例として、例えば生産設計支援装置1の記憶部3の所定記憶領域に、模擬処理の結果の所要指標の相違度や変動率に対する閾値範囲を設定しておき、模擬処理部213で、設備要素情報の変更可能な諸元や作業要素情報の変更可能な諸元の変動パラメータを段階的に変更した複数の模擬処理の結果を取得し、特性条件取得部214が、複数の模擬処理結果における中間在庫の変動の時間的推移のグラフの相違度など所要指標の相違度や変動率が閾値以内となり、且つ最も変動パラメータの数値が近い2個の模擬処理の結果にそれぞれ対応する変動パラメータの組み合わせを取得し、この2つの変動パラメータの組み合わせの変動パラメータの値の相違を各々の変動パラメータの分解能とする特性条件を取得し、特性条件記憶部39に設定記憶し、分解能の特性条件を問題空間の付加情報とする構成等としても良好である。また、必要に応じて、模擬処理の結果に基づく前述した各特性条件など所要の特性条件を入力部4から入力し、特性条件取得部214が入力された特性条件を認識して取得し、この特性条件を特性条件記憶部39に記憶させる構成としても良好である。
【0057】
学習処理プログラムと協働する演算制御部2の学習処理部212は、学習データ記憶部36の学習済みモデルを用いて人工知能による学習を実行することにより、問題空間を境界条件とし且つ特性条件に応じて、学習データ記憶部36の学習済みモデル或いは学習済みモデルを修正、更新しながら生産設計の最適解若しくは最適解群を取得する解析処理を実行する。学習処理部212は、特性条件に応じて解析処理を実行する以外は、第1実施形態と同様の処理を実行する。
【0058】
第3実施形態の生産設計支援装置1による生産設計支援処理では、
図5に示すように、第1、第2実施形態と同様の処理を行って問題空間生成部211が問題空間を生成し、問題空間記憶部35に記憶させる(S31)。そして、模擬処理部213は、問題空間の少なくとも一部に対応する問題空間の基である一又は複数の生産ラインモデルのコンポーネントについて、設備要素とリンク情報で関係付けされている作業要素の作業要素情報の惹起条件の充足に応じて、設備要素が作業を実行し、作業要素の前記作業要素情報の作業完了後の出力先に出力するようにして模擬処理を実行し、模擬処理の結果を取得し、模擬処理の結果を記憶部3の所定記憶領域に記憶する(S32)。この模擬処理の仕方は第1実施形態と同様の処理で実行することが可能である。
【0059】
その後、特性条件取得部214が、問題空間の少なくとも一部に対応する模擬処理の結果に基づき問題空間の特性条件を取得し、特性条件記憶部39に記憶させる(S33)。そして、学習処理部212は、問題空間を境界条件とし且つ特性条件に応じて、学習データ記憶部36の学習済みモデルを修正、更新しながら生産設計の最適解若しくは最適解群を取得する解析処理を実行し、取得した最適解若しくは最適解群を記憶部3の所定記憶領域に記憶する(S34)。最適解群を取得する処理には第1実施形態と同様の処理を実行することが可能である。更に、演算制御部2は、取得した最適解若しくは最適解群を出力部5から出力して利用者に提示する(S35)。
【0060】
第3実施形態によれば、第1実施形態と対応する構成から対応する効果が得られると共に、問題空間の枠組みを事前に生産シミュレーションで分析して、学習処理部212の解析処理の条件をより最適なものとし、人工知能による学習の効率と正確性を高めることができる。また、機械学習、強化学習、深層強化学習では、解候補若しくは解候補群を導きだす場合に経験値や評価値を用い、経験値や評価値を基にした実行結果(出力)に基づき解候補群を導出しており、これらの情報は生産ラインにおける複雑な振る舞い(モノの流れや様々な生産条件等)を分析的に反映しているわけではないが、問題空間と模擬処理による問題空間の特性を条件として学習処理部212が最適解若しくは最適解群を取得することにより、生産ラインの構成や内部の振る舞いを改めて評価し、最適解若しくは最適解群の精度を高めて信頼に値する最適解若しくは最適解群を得ることができる。
【実施例】
【0061】
〔第1実施形態の実施例〕
次に、第1実施形態の生産設計支援装置1を高圧ガス容器を製品として製造する生産工程、生産作業に適用した実施例について説明する。
図6に示すように、実施例においては、高圧ガス容器は本体(Body)と両側の側部(Side)を固着して構成され、本体(Body)と両側の側部(Side)をそれぞれ鍛造した後、本体(Body)と両側の側部(Side)を溶接し、耐圧検査を施した後、塗装して高圧ガス容器が完成する順の生産工程となっている。
【0062】
この生産における生産工程、生産要素では、設備要素と作業要素は
図7のように定義する。即ち、設備要素A~Cに各鍛造機、設備要素D、Eに各溶接機、設備要素F、Gに各耐圧検査機、設備要素Hに塗装機を定義すると共に、作業要素WE1に本体(Body)鍛造工程、作業要素WE2に側部(Side)鍛造工程、作業要素WE3に溶接工程、作業要素WE4に耐圧検査工程、作業要素WE5に塗装工程を定義する。尚、
図7では、工場レイアウトにおける各設備要素としてのステーションの位置と通路(図示の点線)を模式的に示している。
【0063】
生産設計支援装置1には、入力部4からの入力等により、設備要素毎に、設備要素の諸元である設備要素情報を設備要素情報記憶部32に記憶させる。本実施例の設備要素情報の諸元のうちの一部は変更可能な諸元、変動パラメータとされ、変更可能な設備要素情報の諸元、変動パラメータは変更可能な範囲として設定され、設備要素情報記憶部32に記憶される。尚、設備要素情報の全ての諸元を必要に応じて変更可能な諸元、変動パラメータとすることが可能であり、又、設備要素と対応する設備要素情報自体の存在を変更対象とすることが可能である。
【0064】
図8に各設備要素に設定され、設備要素情報記憶部32に記憶される設備要素情報の例を示す。この例では、各設備要素に対し、固定値として各製品毎のサイクルタイムCT[min]、変動パラメータとして工場レイアウトの座標系における位置座標、固定値として設備要素が占有する縦横の大きさ、変動パラメータとして設備要素の部品バッファの部品の収容可能量、変動パラメータとして設備要素で作業を担う作業者数等が設備要素情報として設定されている。設備要素が複数種別の部品を必要とするものである場合、部品バッファの収容可能量は部品種別毎に設定するとよい。
図8の設備要素Aの例では、位置座標のX座標がXa1-Xa2, Y座標がYa1-Ya2の範囲で変更可能とされ、部品バッファの部品の収容可能量がVa1-Va2の範囲で変更可能とされ、設備要素で作業を担う作業者数がHa1-Ha2の範囲で変更可能とされている。
【0065】
図8において、変更可能な諸元、変動パラメータには変更可能な範囲で適用される分解能、分割数が設備要素情報記憶部32に設定されており、例えば設備要素Aの位置座標のX座標はXa1-Xa2の変更可能な範囲において適用される分解能、分割数XRa毎に変動され、設備要素Aの位置座標のY座標はYa1-Ya2の変更可能な範囲において適用される分解能、分割数YRa毎に変動され、設備要素Aの部品の収容可能量はVa1-Va2の変更可能な範囲において適用される分割能、分割数VRa毎に変動され、設備要素Aの作業を担う作業者数はHa1-Ha2の変更可能な範囲において適用される分解能、分割数HRa毎に変動されるようになっている。仮に設備要素AのXRa、YRa、VRa、HRaの分解能が全て所定数の「1」である場合、設備要素Aの位置座標のX座標はXa1-Xa2の変更可能な範囲で「1」毎に変動され、設備要素Aの位置座標のY座標はYa1-Ya2の変更可能な範囲で「1」毎に変動され、設備要素Aの部品の収容可能量はVa1-Va2の変更可能な範囲で「1」毎に変動され、設備要素Aの作業を担う作業者数はHa1-Ha2の変更可能な範囲で「1」毎に変動され、生産設計支援装置1或いは演算制御部2の演算処理が実行される。この分解能の所定数は、例えば設備要素Aの部品の収容可能量(収容可能個数)、設備要素Aの作業を担う作業者数など、諸元、変動パラメータの内容に対応して必要に応じて整数値で設定される。尚、設備要素情報における所要の変動パラメータに適用される分解能、分割数は、所定の数値範囲として設定し、その数値範囲の中から指定された数値の分解能、分割数を適用することも可能であり、又、所定間隔毎の数値範囲として設定し、その数値範囲の中から指定された数値の分解能、分割数を適用し或いは所定間隔毎の数値の全てを分解能として適用し、生産設計支援装置1或いは演算制御部2の演算処理を実行するようにすることも可能である。
【0066】
生産設計支援装置1には、入力部4からの入力等により、作業要素毎に、作業要素の諸元である作業要素情報を作業要素情報記憶部33に記憶させる。本実施例の作業要素情報の諸元のうちの一部は変更可能な諸元、変動パラメータとされ、変更可能な作業要素情報の諸元、変動パラメータは変更可能な範囲として設定され、作業要素情報記憶部33に記憶される。尚、作業要素情報の全ての諸元を必要に応じて変更可能な諸元、変動パラメータとすることが可能であり、又、作業要素と対応する作業要素情報自体の存在を変更対象とすることが可能である。
【0067】
図9に各作業要素に設定され、作業要素情報記憶部33に記憶される作業要素情報の例を示す。この例では、各作業要素に対し、固定値或いは固定データとして作業要素の必要部品の種別と各必要部品の必要数と各必要部品の単価、固定値或いは固定データとして作業要素の出力先、固定値或いは固定データとして作業要素の出力品の種別、変更可能な諸元、変動パラメータとして作業要素の出力品の数等が作業要素情報として設定されている。最初の作業工程となる作業要素WE1、WE2では、作業要素の惹起条件が設定されないか、或いは金属材等の部品we0等の作業要素の惹起条件が設定され、最初の作業工程以外の次工程の作業工程に対応する作業要素WE3、WE4、WE5には作業要素の惹起条件が設定されている。
図9の例の次工程の作業工程に対応する作業要素WE3、WE4、WE5の作業要素の惹起条件は、変動パラメータである作業要素WE3、WE4、WE5の出力品の数に対応して必要な部品の種別と数になっており、この必要部品の数は作業要素WE3、WE4、WE5の出力品の数に従属する変動パラメータとして設定されている。
図9の作業要素WE3の例では、変動パラメータの出力品である部品we3の数がN31-N32個の範囲で変更可能とされ、これに従属する作業要素WE3の惹起条件の必要部品we1の数と必要部品we2の数がそれぞれN31-N32、2(N31-N32)の範囲で変更可能になっている。また、
図9の作業要素WE5の例では、完成品の出力品数はN51個の固定値、これに必要な部品we4の数は出力品数N51個に従属するN51個であるが、完成品の出力品数も変動パラメータとし、これに必要な部品数を変動パラメータの完成品の出力品数に従属する変動パラメータとしてもよい。
【0068】
図9において、変更可能な諸元、変動パラメータには変更可能な範囲で適用される分解能、分割数が作業要素情報記憶部33に設定されており、例えば作業要素WE3の出力品の数はN31-N32の変更可能は範囲において適用される分解能、分割数NR3毎に変動される。仮に作業要素WE1~WE4の分解能NR1~NR4が全て所定数の「1」である場合、各作業要素WE1、WE2、WE3、WE4の出力品の数は、それぞれN11-N12、N21-N22、N31-N32、N41-N42の変更可能な範囲で「1」毎に変動され、生産設計支援装置1或いは演算制御部2の演算処理が実行される。この分解能の所定数は、諸元、変動パラメータの内容に対応して必要に応じて整数値で設定される。尚、作業要素情報における所要の変動パラメータに適用される分解能、分割数は、所定の数値範囲として設定し、その数値範囲の中から指定された数値の分解能、分割数を適用することも可能であり、又、所定間隔毎の数値範囲として設定し、その数値範囲の中から指定された数値の分解能、分割数を適用し或いは所定間隔毎の数値の全てを分解能として適用し、生産設計支援装置1或いは演算制御部2の演算処理を実行するようにすることも可能である。
【0069】
更に、生産設計支援装置1には、例えば入力部4からの「全組み合わせの生産ラインモデルの生成」ボタンの指定入力等により、演算制御部2が、生産ラインで実行可能な設備要素と作業要素の組み合わせ方に対応するだけコンポーネントの組み合わせで定義される生産ラインモデルの複数を生成し、生産ラインモデル記憶部34に記憶させる。尚、入力部4からの設備要素と作業要素のリンク情報の設定入力に応じて、生産設計支援装置1の演算制御部2が、所要の一又は複数の生産ラインモデルだけを生成し、生産ラインモデル記憶部34に記憶させること等も可能である。
【0070】
図10に生産ラインモデル記憶部34に記憶される生産ラインモデルの例を示す。生産ラインモデル記憶部34には、コンポーネントとしてリンク情報を設定可能な作業要素と設備要素の組み合わせが記憶される。そして、生産ラインモデル記憶部34に記憶される生産ラインモデルは、設備要素の設備要素情報と、作業要素の作業要素情報と、当該設備要素と当該作業要素を関係付けるリンク情報で構成されるコンポーネントを組み合わせて定義される。
図10の例では、
図7に対応する工場の全体で実行可能な生産ラインに対応する全ての生産ラインモデルPL1、PL2、…が設定され、生産ラインモデル記憶部34に記憶されている。
【0071】
また、上記
図10の生産ラインモデルの構成例に代え、生産ラインモデル記憶部34には、
図10(a)のコンポーネントとしてリンク情報を設定可能な作業要素と設備要素の組み合わせを、設備要素と作業要素を関係付けるリンク情報と設備要素情報と作業要素情報で構成されるコンポーネントの組み合わせで定義される生産ラインモデルの基礎データとして記憶させ、生産設計支援装置1或いは演算制御部2が、変更可能なリンク情報を変動パラメータとして変動させて設定することにより、生産ラインモデルPL1、PL2、…等を生成し、記憶部3の所定記憶領域に一次的或いは継続的に記憶する構成としても良好である。この場合、例えば遊休設備となる設備要素が発生しない組み合わせの生産ラインモデルだけを生成或いは抽出する等、生産設計支援装置1或いはその演算制御部2が、所定の生産性基準を上回る生産ラインモデルだけを生成する或いは抽出する構成としても良好である。
【0072】
そして、問題空間生成部211は、生産ラインモデル記憶部34に記憶された1又は複数の生産ラインモデル、或いはコンポーネントとしてリンク情報を設定可能な作業要素と設備要素の組み合わせを含む生産ラインモデルの基礎データに基づき、生産ラインモデルを構成するコンポーネントの設備要素情報の変更可能な諸元である独立変数の変動パラメータと、作業要素情報の変更可能な諸元である独立変数の変動パラメータの各々に対応する次元軸で構成される問題空間、又は、生産ラインモデルを構成するコンポーネントの設備要素情報の変更可能な諸元である独立変数の変動パラメータと、作業要素情報の変更可能な諸元である独立変数の変動パラメータと、設備要素と作業要素を変更可能に関係付けるリンク情報の独立変数の変動パラメータの各々に対応する次元軸で構成される問題空間を生成し、問題空間記憶部35に記憶させる。
【0073】
図8~
図10の例では、作業要素情報の変更可能な諸元である工場レイアウトの座標系における位置座標、設備要素の部品バッファの部品の収容可能量、設備要素で作業を担う作業者数等の独立変数の変動パラメータと、作業要素情報の変更可能な諸元である作業要素の出力品の数等の独立変数の変動パラメータの各々に対応する次元軸で構成される問題空間を生成し、問題空間記憶部35に記憶させる、又は、作業要素情報の変更可能な諸元である工場レイアウトの座標系における位置座標、設備要素の部品バッファの部品の収容可能量、設備要素で作業を担う作業者数等の独立変数の変動パラメータと、作業要素情報の変更可能な諸元である作業要素の出力品の数等の独立変数の変動パラメータと、設備要素と作業要素を変更可能に関係付けるリンク情報の独立変数である変動パラメータの各々に対応する次元軸で構成される問題空間を生成し、問題空間記憶部35に記憶させる。この際、設備要素情報、作業要素情報の中の全部又は所要の変更可能な諸元に分解能が対応設定して設備要素情報記憶部32、作業要素情報記憶部33に記憶されている場合には、設備要素情報、作業要素情報の中の変更可能な諸元の分解能を付加情報として有する問題空間を生成し、分解能の付加情報を対応する変動パラメータの次元軸に対応設定して問題空間記憶部35に記憶させる(
図11参照)。
【0074】
その後、学習処理部212は、生成されて問題空間記憶部35に記憶された問題空間を境界条件として、学習済みモデル或いは学習モデルを修正、更新しながら生産設計の最適解若しくは最適解群を取得する解析処理を実行し、更に、生産設計支援プログラムと協働する演算制御部2は、取得した最適解若しくは最適解群を出力部5から出力して利用者に提示する。本実施例における学習処理部212は、例えば材料在庫や製品在庫の少なさの程度が累積報酬の高さの程度となるように解析処理を実行し、更に、例えばこれに加えて個別受注に対応する納期遵守率と生産ラインの稼働率の程度を累積報酬の高さの程度となるように解析処理を実行し、完成品N51個の製造について、生産ラインモデルとその生産ラインモデルにおける各変動パラメータの値の組み合わせにおける在庫コストを演算して取得し、記憶部3の所定記憶領域に設定された所定個数など、在庫コストがより低い上位の複数個の当該組み合わせを最適解群として取得する、或いは、完成品N51個の製造について、生産ラインモデルとその生産ラインモデルにおける各変動パラメータの値の組み合わせにおける在庫コストを演算して取得し、記憶部3の所定記憶領域に記憶された閾値と比較して、閾値の在庫コストよりも在庫コストが低い複数個の当該組み合わせを最適解群として取得する、或いは、完成品N51個の製造について、生産ラインモデルとその生産ラインモデルにおける各変動パラメータの値の組み合わせにおける在庫コストを演算して取得し、在庫コストが最も低い当該組み合わせを最適解として取得する等の処理を実行する。そして、演算制御部2は、例えば
図12のような内容で、取得した最適解若しくは最適解群を出力部5から出力して利用者に提示する。
【0075】
また、模擬処理部213は、問題空間の基である一又は複数の生産ラインモデルのコンポーネントについて、設備要素とリンク情報で関係付けされている作業要素の作業要素情報の惹起条件の充足に応じて、設備要素が作業を実行し、作業要素の前記作業要素情報の作業完了後の出力先に出力するようにして模擬処理を実行し、模擬処理の結果を取得し、更に、生産設計支援プログラムと協働する演算制御部2或いは模擬処理部213は、問題空間に対応する模擬処理の結果を出力部5から出力して利用者に提示する。本実施例における模擬処理部213は、例えば
図12の生産ラインモデルPL3とその生産ラインモデルPL3における各変動パラメータの値の組み合わせや、生産ラインモデルPL4とその生産ラインモデルPL4における各変動パラメータの値の組み合わせや、
図12で抽出された組み合わせに対して入力部4からの入力等で設備要素情報の変動パラメータ若しくは作業要素情報の変動パラメータ若しくはその双方を所定値に変更した組み合わせについて、特許文献1のように、各設備要素とリンク情報で関係付けされている作業要素の作業要素情報の惹起条件の充足に応じて、各設備要素で必要とする部品を利用して作業を実行し、当該設備要素の処理結果として加工された作業完了品を作業要素の前記作業要素情報の作業完了後の出力先に出力するようにして模擬処理を実行し、模擬処理の結果を取得する。
【0076】
この模擬処理の演算においては、例えば設備要素A(鍛造機)で鍛造された部品we1:本体(Body)を設備要素D、E(溶接機)の部品バッファに格納し、設備要素B、C(鍛造機)で鍛造された部品we2:側部(Side)を設備要素D、E(溶接機)の部品バッファに格納し、設備要素D(溶接機)、または設備要素E(溶接機)の惹起条件が充足された時刻(部品we2:側部2個と部品we1:本体1個が部品バッファに格納された時刻)に必要な部品(部品we2:側部2個と部品we1:本体1個)を消費するようにして、設備要素D(溶接機)、または設備要素E(溶接機)が作業(溶接作業)を実行して側部(Side)と本体(Body)が溶接された中間品(部品we3)を生成し、この中間品(部品we3、生成品)を次工程として定義されている設備要素F、G(耐圧検査機)に出力するように模擬して演算処理する。尚、同一の作業要素において複数の設備要素が設定されている場合には、各設備要素における各々の惹起条件を個別に判断して、例えば各設備要素の部品の収容可能量(部品バッファ)の空容量の大きいものに優先して出力するように処理し、惹起条件に達した設備要素から稼働して出力する。このような処理を各設備要素が並列的に実行するように演算することで、生産を模擬することができる。
【0077】
そして、この模擬処理の演算において、各設備要素での状態変化をシミュレーション開始時刻からの経過時刻等の時刻に対応して動作ログデータベース38に記録することにより、様々な分析が可能となる。本例では、例えば設備要素A(鍛造機)で鍛造された部品we1:本体(Body)が設備要素D、E(溶接機)の部品バッファに格納される時刻、設備要素B、C(鍛造機)で鍛造された部品we2:側部(Side)が設備要素D、E(溶接機)の部品バッファに格納される時刻、設備要素D(溶接機)や設備要素E(溶接機)が部品we2(側部)2個と部品we1(本体)1個を消費し、部品we3(中間品)の生成を開始する時刻、設備要素D(溶接機)や設備要素E(溶接機)が部品we3(中間品)を生成を完了した時刻等を、各々の状態に対応して動作ログデータベース38に記録、格納する。
図13に動作ログデータベース38に記録されたログによる中間在庫の時間的推移をグラフ化したものを示す。この
図13のグラフは、生産設計支援プログラムと協働する演算制御部2或いは模擬処理部213が、問題空間に対応する模擬処理の結果として出力部5から出力して利用者に提示する内容に相当する。これにより、経時的、時間的な推移に対して、各設備要素が保持する部品バッファでの部品数、即ち中間在庫の経時的、時間的な推移を把握でき、又、別例として、同ログによる各設備要素の稼働率等の時間的推移も同様のグラフ化で把握することができる。
【0078】
このように学習処理による最適解若しくは最適解群を利用者に提示すると共に、問題空間に対応する模擬処理の結果を利用者に提示することにより、例えば学習処理による在庫コスト低減の解について、利用者は関連する在庫の状態、在庫推移を明確に把握することができる。即ち、人工知能の学習処理による解のブラックボックス化を無くし、当該解について利用者に十分な判断材料を与えることができる。
【0079】
〔第2実施形態の実施例〕
次に、第2実施形態の生産設計支援装置1を高圧ガス容器を製品として製造する生産工程に適用した実施例について説明する。この実施例は、基本的に
図6~
図13に示される第1実施形態の実施例と同様である。即ち、第1実施形態の実施例と同様の構成と処理に基づき、学習処理部212が、生成されて問題空間記憶部35に記憶された問題空間を境界条件として、学習済みモデルを修正、更新しながら生産設計の最適解群を取得する解析処理を実行し、取得した最適解群を出力部5から出力して利用者に提示すると共に、模擬処理部213が、問題空間の基である一又は複数の生産ラインモデルのコンポーネントについて、設備要素とリンク情報で関係付けされている作業要素の作業要素情報の惹起条件の充足に応じて、設備要素が作業を実行し、作業要素の前記作業要素情報の作業完了後の出力先に出力するようにして模擬処理を実行し、模擬処理の結果を取得し、問題空間に対応する模擬処理の結果を出力部5から出力して利用者に提示する。
【0080】
そして、模擬処理の結果で、例えば部品we1の経時的な中間在庫の変動が大きい生産ラインモデルとその生産ラインモデルにおける各変動パラメータの値の組み合わせがあった場合、運転資金の急増に対応する在庫の急増を抑制するため、入力部4からの入力等により、部品we1或いは部品we1を含む複数の部品に対して一定期間、一定時間毎の在庫変動率の上限の閾値を設定し、生産設計支援装置1の記憶部3の所定記憶領域に設定記憶する。この閾値は模擬処理の結果に対応する追加条件に相当する。学習処理部212は、問題空間記憶部35に記憶されている問題空間を境界条件とし、且つ模擬処理の結果に対応する追加条件に応じて、一定期間、一定時間毎の在庫変動率の上限の閾値を下回る生産ラインモデルとその生産ラインモデルにおける各変動パラメータの値の組み合わせによる、絞込最適解若しくは絞込最適解群を取得する処理を実行する。この際、模擬処理の結果に対応する追加条件により、多次元解空間の問題空間における圧縮空間αが、絞込最適解若しくは絞込最適解群を取得する処理に当たっての実質的な問題空間或いは実質的な境界条件となる(
図14参照)。学習処理部212は、取得した絞込最適解若しくは絞込最適解群を、例えば
図12の生産ラインモデルPL3とその生産ラインモデルPL3における各変動パラメータの値の組み合わせ等の内容で利用者に提示する。
【0081】
これにより、生産ラインの構成や内部の振る舞いを改めて評価し、人工知能の学習処理部212の精度を補完し、より高い精度の絞込最適解若しくは絞込最適解群を得ることができる。
【0082】
〔第3実施形態の実施例〕
次に、第3実施形態の生産設計支援装置1を高圧ガス容器を製品として製造する生産工程に適用した実施例について説明する。この実施例は、基本的に
図6~
図11に示される第1実施形態の実施例と対応する内容になっており、問題空間生成部211が問題空間を生成し、問題空間記憶部35に記憶させるまで第1実施形態の実施例と同様の処理を実行する。
【0083】
そして、模擬処理部213は、問題空間の一部に対応する問題空間の基である生産ラインモデルのコンポーネントについて、設備要素とリンク情報で関係付けされている作業要素の作業要素情報の惹起条件の充足に応じて、設備要素が作業を実行し、作業要素の前記作業要素情報の作業完了後の出力先に出力するようにして模擬処理を実行し、模擬処理の結果を取得し、模擬処理の結果を記憶部3の所定記憶領域に記憶する。
【0084】
更に、生産設計支援装置1の記憶部3の所定記憶領域に、部品we1、…等の中間部品に対して一定期間、一定時間毎の在庫変動率の上限の閾値を設定した状態で、特性条件取得部214が、この閾値を超える中間在庫の在庫変動率を検出した場合、部品we1等の該当部品の在庫変動率が閾値以内であることを特性条件として取得し、特性条件記憶部39に記憶する(
図13参照)。
【0085】
又は、別例として、
図8の設備要素情報の例で所要の設備要素情報の変更可能な諸元が分解能が設定されていない例、
図9の作業要素情報の例で所要の作業要素情報の変更可能な諸元が分解能が設定されていない例、或いはその双方の例を前提とし、生産設計支援装置1の記憶部3の所定記憶領域に、中間在庫の変動の時間的推移のグラフ(
図13参照)の相違度など模擬処理の結果の所要指標の相違度や変動率に対する閾値範囲を設定した状態で、特性条件取得部214が、複数の模擬処理結果における中間在庫の変動の時間的推移のグラフの相違度など所要指標の相違度や変動率が閾値以内となり、且つ最も変動パラメータの数値が近い2個の模擬処理の結果にそれぞれ対応する変動パラメータの組み合わせを取得し、この2つの変動パラメータの組み合わせの変動パラメータの値の相違を各々の変動パラメータの分解能とする特性条件を取得し、特性条件記憶部39に設定記憶する。即ち、この特性条件を取得する処理により、問題空間の付加情報となる所要の分解能XRa、YRa、NR1等が取得される(
図8、
図9参照)。
【0086】
そして、学習処理部212は、問題空間を境界条件とし且つ特性条件に応じて、学習データ記憶部36の学習済みモデル或いは学習モデルを修正、更新しながら生産設計の最適解若しくは最適解群を取得する解析処理を実行する。この際、模擬処理の結果に対応する特性条件により、多次元解空間の問題空間における圧縮空間βが、最適解若しくは最適解群を取得する処理に当たっての実質的な問題空間或いは実質的な境界条件となる(
図15参照)。学習処理部212は、取得した最適解若しくは最適解群を、例えば
図12の生産ラインモデルPL3とその生産ラインモデルPL3における各変動パラメータの値の組み合わせ等の内容で利用者に提示する。
【0087】
これにより、生産ラインの構成や内部の振る舞いを改めて評価し、信頼に値する最適解若しくは最適解群を効率的に得ることができる。
【0088】
〔本明細書開示発明の包含範囲〕
本明細書開示の発明は、発明として列記した各発明、各実施形態、各実施例の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な内容を本明細書開示の他の内容に変更して特定したもの、或いはこれらの内容に本明細書開示の他の内容を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な内容を部分的な作用効果が得られる限度で削除して上位概念化して特定したものを包含する。そして、本明細書開示の発明には下記変形例や追記した内容も含まれる。
【0089】
例えば第1~第3実施形態では、演算制御部2が、取得した最適解、最適解群、絞込最適解群や、模擬処理の結果を出力部5から出力して利用者に提示する構成としたが、生産設計支援装置1に通信部を設け、演算制御部2が、通信接続されるコンピュータ端末に取得した最適解、最適解群、絞込最適解群や、模擬処理の結果を送信し、コンピュータ端末を介してこれらの結果を利用者に提示する構成としても好適であり、或いは両者を併用しても好適である。
【0090】
また、第1実施形態と第2実施形態を組み合わせた構成、第2実施形態と第3実施形態を組み合わせた構成、第1実施形態と第3実施形態を組み合わせた構成、或いは第1、第2、第3実施形態を組み合わせた構成の生産設計支援装置1、生産設計支援方法、生産設計支援プログラム及びこれを搭載した記録媒体或いは非一過性の記録媒体としても好適である。
【0091】
また、本発明における生産設計支援装置、生産設計支援方法又は生産設計支援プログラム及びこれを搭載した記録媒体は、有形物の生産設計の支援に用いると好適であるが、例えば土木作業プロセス設計・管理・スケジューリング、建築プロセス設計・管理、トラック運輸のスケジューリング、航空管制、食品製造プロセス設計・監理、農産品加工プロセス、水産加工プロセス設計、畜産加工プロセス設計、チェーン・レストランのメニュー設計、倉庫業務作業計画、オフィス事務処理作業など定められた多様な作業を複数の要素が関係して実施される業務で、バリューチェーンなど付加価値を有する無形の生産物を対象として創出する場合に適用しても良好である。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、例えば製造業の工場等で生産ラインの設計の最適化を図る際に利用することができる。
【符号の説明】
【0093】
1…生産設計支援装置 2…演算制御部 21…生産設計支援処理部 211…問題空間生成部 212…学習処理部 213…模擬処理部 214…特性条件取得部 3…記憶部 31…生産設計支援プログラム記憶部 311…問題空間生成プログラム記憶部 312…学習処理プログラム記憶部 313…模擬処理プログラム記憶部 314…特性条件取得プログラム記憶部 32…設備要素情報記憶部 33…作業要素情報記憶部 34…生産ラインモデル記憶部 35…問題空間記憶部 36…学習データ記憶部 37…画面データ記憶部 38…動作ログデータベース 39…特性条件記憶部 4…入力部 5…出力部 α、β…圧縮空間