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特許6998087第一鉄アミノ酸粒子を含む組成物、およびその組成物を含む、膵臓関連疾患の治療または改善のための薬剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】第一鉄アミノ酸粒子を含む組成物、およびその組成物を含む、膵臓関連疾患の治療または改善のための薬剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/295 20060101AFI20220128BHJP
   A61K 31/7068 20060101ALI20220128BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20220128BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220128BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220128BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20220128BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
A61K31/295
A61K31/7068
A61P1/18
A61P29/00
A61P35/00
A61P35/04
A61P43/00 121
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020540748
(86)(22)【出願日】2018-12-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-06
(86)【国際出願番号】 CN2018122406
(87)【国際公開番号】W WO2020124495
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2020-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】515217786
【氏名又は名称】普惠徳生技股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】特許業務法人 山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 村源
(72)【発明者】
【氏名】陳 木桂
(72)【発明者】
【氏名】陳 滄澤
(72)【発明者】
【氏名】▲チャン▼ 勳錦
(72)【発明者】
【氏名】傅 嘉慧
(72)【発明者】
【氏名】王 開鼎
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-510006(JP,A)
【文献】特表2008-525442(JP,A)
【文献】特表2019-519603(JP,A)
【文献】特表2019-536789(JP,A)
【文献】特表2009-523826(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0065569(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0274967(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0358168(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0314322(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0138726(US,A1)
【文献】国際公開第2002/030947(WO,A2)
【文献】Nutrition,2001年,17,p.381-384
【文献】Revista de Nutricao,2008年,21(5),p.483-490
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
・IPC
A61K 31/295
A61K 31/7068
A61P 1/18
A61P 29/00
A61P 35/00
A61P 35/04
A61P 43/00
・DB
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一鉄アミノ酸キレートから焼結された第一鉄アミノ酸キレート粒子を含む組成物であって、第一鉄アミノ酸キレート粒子の平均粒子サイズが500nmから2600nmの範囲であり、平均分子量が1,500ダルトンから600,000ダルトンの範囲である、組成物。
【請求項2】
前記組成物中の第一鉄アミノ酸キレートのアミノ酸に対する、第一鉄のキレート化比が1:1と1:4の間である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
第一鉄アミノキレートがグリシン酸第一鉄キレートである、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
膵臓癌から産生された腹水を低減または改善し、膵臓癌、膵臓癌の転移、及び膵炎を治療または改善するための薬剤であって、有効量の、請求項1から3のいずれかに記載の組成物と、薬学的に許容可能な担体とを含む薬剤。
【請求項5】
前記組成物がヒトに投与されるものである、請求項4記載の薬剤。
【請求項6】
有効量が0.1mg/kg/日から120mg/kg/日の範囲である、請求項4に記載の薬剤。
【請求項7】
前記組成物がゲムシタビンと共に投与されるものである、請求項4記載の薬剤。
【請求項8】
ゲムシタビンが、一以上のゲムシタビンサイクルを含む用法・用量で投与され、各ゲムシタビンサイクルは、ゲムシタビンを週2回、3週間投与し、4週目にゲムシタビンを中止することから構成される、請求項7に記載の薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第一鉄アミノ酸キレートから焼結された第一鉄アミノ酸キレート粒子を含有する組成物、および膵臓関連疾患を治療または改善させる薬剤製造における該組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な膵臓関連疾患には、膵臓癌および膵炎がある。膵臓関連疾患の治療の困難さは、膵臓の位置および機能、ならびに治療方法が限定されていることにある。
【0003】
膵癌治療の進歩は、他の様々な癌の治療と比較して相対的に遅れている。これまでのところ、膵癌の全体の5年生存率はわずか9%である。膵癌は死因の第4位である。台湾では膵癌が死因の第8位であり、毎年10万人あたり8.5人が死亡している。進歩が遅れている理由としては、適用可能な薬剤が限られていることが考えられる。したがって、膵癌における薬剤開発は非常に貴重である。悪性腹水は、膵癌の進行期によくみられる臨床徴候であり、主に膵癌の腹膜浸潤に起因する。悪性腹水は出血性腹水または漿液性腹水である。腹水量が増加し、腹腔内臓器が圧迫されると食欲が低下する可能性がある。患者によっては、ゆっくりとした蠕動または嘔吐を引き起こす麻痺性イレウスがみられる。腹水の形成は患者の生活の質に影響するだけでなく、患者の進行期の治療や回復にも悪影響を及ぼす。膵炎とは、膵臓が産生する消化酵素が膵臓や周囲の組織を浸潤し始め、炎症を起こす現象である。対応する治療薬はないため、通常は膵臓の治癒を助けるために支持療法が行われる。従って、膵臓関連疾患を効果的に治療または改善するための薬剤を開発する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的のひとつは、膵臓関連疾患を効果的に治療または改善するための薬剤を提供することである。
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明は膵臓関連疾患の治療または改善に使用される組成物を提供する。前記組成物は、第一鉄アミノ酸キレートから焼結された第一鉄アミノ酸キレート粒子を含む。第一鉄アミノ酸キレート粒子は、平均粒子サイズが500nmから2600nmの範囲であり、平均分子量が1500ダルトンから600,000ダルトンの範囲である。
【0006】
一実施形態において、前記第一鉄アミノ酸キレート粒子は、1,500ダルトンから15,000ダルトンの範囲の平均分子量を有することが好ましい。別の実施形態では、前記第一鉄アミノ酸キレート粒子は、400,000ダルトンから550,000ダルトンの範囲の平均分子量を有することが好ましい。さらに好ましくは、前記第一鉄アミノ酸キレート粒子は550,000ダルトンの平均分子量を有する。
【0007】
好ましくは、前記組成物中の第一鉄アミノ酸キレートのアミノ酸に対する第一鉄のキレート化比は1:1~1:4である。
【0008】
好ましくは、前記組成物中の第一鉄アミノ酸キレートのアミノ酸に対する第一鉄のキレート化比は、1:1.5~1:2.5である。
【0009】
好ましくは、組成物中の第一鉄アミノ酸キレートは、無機鉄とアミノ酸とを混合し、60°Cから90°Cで、8時間から48時間加熱することにより調製され、アミノ酸に対する無機鉄の重量比率が1:1.2と1:1.5の間である、第一鉄アミノ酸キレートを含む組成物を得る。
【0010】
より好ましくは、無機鉄は、硫酸第一鉄、塩化第一鉄、ピロリン酸第一鉄、またはこれらの任意の組合せである。より好ましくは、アミノ酸はグリシンである。
【0011】
本発明において、「有効量」という用語は、所要期間において、膵臓関連疾患の所望の治療または改善を効果的に達成する用量を意味する。本発明において、「有効量」は、ヒトまたはマウス膵臓癌細胞の細胞生存率を低下させ、膵臓癌細胞死を誘導し、ヒト膵臓癌細胞の遊走および浸潤を抑制し、同所性異種移植膵臓癌の腫瘍増殖を抑制し、同所性異種移植膵臓癌の進行段階から悪性腹水を減少または改善し、または膵臓炎を治療または改善することができる、第一鉄アミノ酸キレート粒子から焼結された組成物の特定量範囲を投与することを指す。
【0012】
好ましくは、本発明の前記組成物は、ヒト、マウス、イヌ、ネコなどを対象として投与することができる。前記組成物の有効量は、0.1mg/kg/日から120mg/kg/日の範囲である。
【0013】
好ましくは、マウスのための前記組成物の有効量は、1キログラム当たり1ミリグラム/日(mg/kg/日)から120mg/kg/日の範囲である。より好ましくは、10mg/kg/日から120mg/kg/日の範囲である。より好ましくは、24mg/kg/日から72mg/kg/日の範囲である。
【0014】
好ましくは、イヌまたはネコに対する前記組成物の有効量は、0.1mg/kg/日から20mg/kg/日の範囲である。より好ましくは、1mg/kg/日から5mg/kg/日の範囲である。
【0015】
好ましくは、ヒトに対する前記組成物の有効量は、1mg/日から7,000mg/日の範囲である。より好ましくは、10mg/日から700mg/日の範囲である。上記の用量は、2005年に米国食品医薬品局が公表したガイダンス文書「成人健康志願者を対象とした治療薬の初期臨床試験における最大安全開始用量の推定」に従って算出される。
【0016】
本発明によれば、「薬学的に許容される担体」は、還元剤、溶媒、乳化剤、懸濁化剤、分解剤、結合剤、賦形剤、安定化剤、キレート剤、希釈剤、ゲル化剤、防腐剤、滑沢剤、界面活性剤および本発明に適した他の類似の担体または担体を含むが、これらに限定されない。
【0017】
好ましくは、「還元剤」は、アスコルビン酸、クエン酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、リンゴ酸、スルホン酸、コハク酸、またはこれらの任意の組合せを含むが、これらに限定されない。
【0018】
本発明によると、「薬剤」は、液体溶液、乳濁液、懸濁液、粉末、錠剤、ピル、ロゼンジ、トローチ、チューインガム、カプセル、リポソーム、坐剤、および本発明に適した他の類似の剤形または剤形を含むが、これらに限定されない種々の形態で調製することができる。
【0019】
好ましくは、薬剤は経腸または非経口投薬形態である。
より好ましくは、前記経腸投薬形態は経口投薬形態である。前記経口剤形は、溶液、乳濁液、懸濁液、粉末、錠剤、ピル、ロゼンジ、トローチ、チューインガム、またはカプセルである。
【0020】
好ましくは、前記膵臓関連疾患は、膵臓癌、膵臓癌転移、膵臓癌から産生された腹水、および膵炎を含むが、これらに限定されない。
【0021】
好ましくは、前記組成物はゲムシタビンと共に投与される。より好ましくは、ゲムシタビンは、一以上のゲムシタビンサイクルを含む用法・用量で投与され、各ゲムシタビンサイクルは、ゲムシタビンを週2回、3週間投与し、4週目にゲムシタビンを中止することから構成される。
【0022】
本発明の前記組成物は、重大な副作用なしに膵臓関連疾患を治療または改善することができる。ゲムシタビンと併用した場合、同所性異種移植膵癌を治療または改善し、黄疸などの肝毒性の少ない副作用で良好な治療効果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】PANC-1細胞における本発明の組成物による細胞運動性の抑制を解析するために、本発明の組成物で24時間用量依存的に処置した後のPANC-1細胞の細胞遊走能および浸潤能を示す(エラーバーは、少なくとも三つの独立した実験の平均±標準偏差を示す; nsは有意差なしを示す、*はp < 0.05、**はp < 0.01、***はp < 0.001を示す;スチューデントt検定)。
図2】SUIT-2細胞における本発明の組成物による細胞運動の抑制を解析するために、本発明の組成物で24時間用量依存的に処置した後のSUIT-2細胞の細胞遊走能および浸潤能を示す(エラーバーは、少なくとも三つの独立した実験の平均±標準偏差を示す; nsは有意差なしを示す、**はp < 0.05、***はp < 0.001を示す;スチューデントt検定) 。
図3】BxPC-3細胞における本発明の組成物による細胞運動の抑制を解析するために、本発明の組成物で24時間用量依存的に処理した後のBxPC-3細胞の細胞遊走能および浸潤能を示す(エラーバーは、少なくとも三つの独立した実験の平均±標準偏差を示す;nsは有意差なしを示す、***はp < 0.001;スチューデントt検定) 。
図4】AsPC-1細胞における本発明の組成物による細胞運動の抑制を分析するために、本発明の組成物で24時間処理した後のAsPC-1細胞の細胞遊走能および浸潤能を用量依存的に示す(エラーバーは、少なくとも三つの独立した試験の平均±標準偏差を示す; nsは有意差なしを示す;*はp < 0.05、**はp < 0.01、***はp < 0.001を示す;スチューデントt試験)。
図5-1】本発明の組成物で処置した同所性異種移植膵癌腫瘍のベースライン10Dにおける生物発光像である。
図5-2】本発明の組成物で処置した同所性異種移植膵癌腫瘍の実験13日目の生物発光像である。
図5-3】本発明の組成物で処置した同所性異種移植膵癌腫瘍の実験17日目の生物発光像である。
図5-4】本発明の組成物で処置した同所性異種移植膵癌腫瘍の実験20日目の生物発光像である。
図5-5】本発明の組成物で処置した同所性異種移植膵癌腫瘍の実験24日目の生物発光像である。
図5-6】本発明の組成物で処置した同所性異種移植膵癌腫瘍の実験31日目の生物発光像である。
図5-7】本発明の組成物で処置した同所性異種移植膵癌腫瘍の実験38日目の生物発光像である。
図6】本発明の組成物で処置した同所性異種移植膵臓癌マウスにおける腫瘍増殖のランチャートである。
図7】本発明の組成物の高用量群および低用量群における同所性異種移植膵臓癌マウスの生存チャートである。
図8】本発明の組成物の高用量群および低用量群における同所性異種移植膵臓癌マウスの悪性腹水の定量的測定を示す。
図9】本発明の組成物の低用量群における解剖前の実験マウスの背側および腹側の外観を示す。
図10-1】本発明の組成物、ゲムシタビン、またはそれらの組合せで処置したベースライン10Dでの膵臓癌腫瘍の生物発光像である。
図10-2】本発明の組成物、ゲムシタビンまたはこれらの組合せで処置した膵癌腫瘍の実験17日目の生物発光像である。
図10-3】本発明の組成物、ゲムシタビンまたはこれらの組合せで処置した膵癌腫瘍の実験24日目の生物発光像である。
図10-4】本発明の組成物、ゲムシタビンまたはこれらの組合せで処置した膵癌腫瘍の実験31日目の生物発光像である。
図10-5】本発明の組成物、ゲムシタビンまたはこれらの組合せで処置した膵癌腫瘍の実験38日目の生物発光像である。
図11】本発明の組成物、ゲムシタビン、またはそれらの組合せで処置した後の膵臓癌腫瘍発生のランチャートである。
図12】膵癌腫瘍に対して、本発明の組成物とゲムシタビンとを併用投与したマウスの、処置9週間目の黄疸現象を示す解剖写真である。
図13-1】膵臓癌腫瘍に対して、本発明の組成物、ゲムシタビン、またはそれらの組合せで処置した各実験動物群の血液サンプル中の総ビリルビンレベルを示す。
図13-2】膵臓癌腫瘍に対して、本発明の組成物、ゲムシタビン、またはそれらの組合せで処置した各実験動物群の血液サンプル中のGOT/ASTレベルを示す。
図13-3】膵臓癌腫瘍に対して、本発明の組成物、ゲムシタビン、またはそれらの組合せで処置した各実験動物群の血液サンプル中のGPT/ALTレベルを示す。
図14】膵臓癌治療のために本発明の組成物、ゲムシタビン、またはそれらの組合せで処置した実験動物の生存チャートである。
図15-1】本発明の組成物、ゲムシタビン、またはそれらの組合せを用いた処置(II)によるベースライン10Dでの膵臓癌腫瘍の生物発光像である。
図15-2】本発明の組成物、ゲムシタビン、またはこれらの組合せを用いた処置(II)による実験17日目の膵癌腫瘍の生物発光像である。
図15-3】本発明の組成物、ゲムシタビン、またはこれらの組合せを用いた処置(II)による実験24日目の膵癌腫瘍の生物発光像である。
図15-4】本発明の組成物、ゲムシタビン、またはこれらの組合せを用いた処置(II)による実験31日目の膵癌腫瘍の生物発光像である。
図15-5】本発明の組成物、ゲムシタビン、またはこれらの組合せを用いた処置(II)による実験38日目の膵癌腫瘍の生物発光像である。
図15-6】本発明の組成物、ゲムシタビン、またはこれらの組合せを用いた処置(II)による実験45日目の膵癌腫瘍の生物発光像である。
図15-7】本発明の組成物、ゲムシタビン、またはこれらの組合せを用いた処置(II)による実験59日目の膵癌腫瘍の生物発光像である。
図16】本発明の組成物、ゲムシタビン、またはそれらの組合せを用いた処置(II)による膵臓癌腫瘍発生のランチャートである。
図17-1】膵癌腫瘍に対し、本発明の組成物、ゲムシタビン、またはそれらの組合せを用いた処置(II)による実験動物の各群の血液サンプル中の総ビリルビン、GOT/AST、およびGPT/ALTを示す平均ランチャートである。
図17-2】膵癌腫瘍に対し、ゲムシタビンを用いた処置(II)による実験動物の各群の血液サンプル中の総ビリルビン、GOT/AST、およびGPT/ALTを示すランチャートである。
図17-3】膵癌腫瘍に対し、本発明の組成物を用いた処置(II)による実験動物の各群の血液サンプル中の総ビリルビン、GOT/AST、およびGPT/ALTを示すランチャートである。
図17-4】膵癌腫瘍に対し、本発明の組成物とゲムシタビンの組合せを用いた処理(II)による実験動物の各群の血液サンプル中の総ビリルビン、GOT/AST、およびGPT/ALTを示すランチャートである。
図18】膵臓癌腫瘍に対し本発明の組成物、ゲムシタビン、またはそれらの組合せを用いた処置(II)による実験マウスの生存チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下の実施形態により本発明についてさらに説明する。本発明は、実施形態の内容に限定されない。本発明の範囲から逸脱しなければ、当業者はある程度の改良または修正を行うことが可能である。
【0025】
<調製例1: 第一鉄アミノ酸粒子を含む組成物の調製>
【0026】
第一鉄アミノ酸キレート粒子を含む組成物は、台湾リガンド株式会社により調製され(ロット番号: F171001; 製造日:2017年10月5日)、前記組成物は凍結乾燥粉末の形態であり、以下のように調製される。まず、硫酸第一鉄とグリシン(98%より高純度)を重量比1:1.3で混合し、60°Cから90°Cで8時間~48時間加熱して第一鉄アミノ酸キレートを得た。第一鉄アミノ酸キレートのアミノ酸に対する第一鉄のキレート比率は、1:1~1:4であった。次いで、第一鉄アミノ酸キレートを200~400℃の範囲の温度で焼結し、第一鉄アミノ酸キレート粒子を得た。ベックマン・コールター社製N5サブミクロン粒子アナライザー(Beckman Coulter N5 Submicron Particle Size Analyzer)上で、動的光散乱 (DLS)により水中で測定した第一鉄アミノ酸キレート粒子の平均粒径は、1465.90±132.29 nmであった。ウォーターズ社製アライアンス2695システム(Waters Alliance 2695 System)を用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した第一鉄アミノ酸キレート粒子の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、ピーク平均分子量(Mp)および多分散性(PDI)は、それぞれ68188ダルトン、525538ダルトン、286426ダルトンおよび7.707205であった。
【0027】
<調製例2:ヒト膵腺癌細胞の培養>
【0028】
37°C及び5%COの加湿インキュベーター内の、10%ウシ胎児血清(FBS) (GIBCO、インビトロゲン)、ペニシリン (100 U/mL)、及びストレプトマイシン (100μg/mL)を含むダルベッコ変法イーグル培地 (GIBCO、インビトロゲン)で、PANC-1ヒト膵臓腺癌細胞を培養した。37°Cおよび5%COの加湿インキュベーター内の、10%ウシ胎児血清(FBS) (GIBCO、インビトロゲン)、ペニシリン (100 U/mL)、およびストレプトマイシン(100μg/mL)を含むRMPI―1640培地で、BxPC-3、 SUIT-2およびAsPC-1ヒト膵臓癌細胞を培養した。PANC-1, BxPC-3、AsPC-1は、食品産業研究開発研究所(Bioresource Collection and Research Center)より購入した。SUIT-2細胞株の同一性については、食品産業研究開発研究所においてヒト縦列型反復配列(short tandem repeat、STR)プロファイリングにより確認された。
【0029】
<調製例3:正常ヒト膵管細胞の培養>
【0030】
37°Cおよび5%COの加湿インキュベーター内の、上皮増殖因子およびウシ下垂体抽出物 (Life Technologies, Inc., Grand Island, NY)を含むKSF培地で、HPDE-E6E7正常ヒト膵管上皮細胞(Expasyから購入; No.CVCL_S972)を培養した。
【0031】
<実施例1: 抗膵癌:細胞増殖アッセイ>
【0032】
MTTアッセイを用いて、本発明の組成物の半最大阻害濃度(IC50)を試験した。調製例2及び調製例3から得られた正常ヒト膵細胞(ヒト膵管上皮細胞)及び膵癌細胞(ヒト膵腺癌細胞)を、96ウェルプレート(4×10細胞数/ウェル)に播種した。これらの細胞は、調製例1から得られた本発明の組成物を用いて、用量依存的に(10、10、10、10、および10μg/ml)処置された。24、48、72時間培養した後、各ウェルにMTT試液を添加し、さらに4時間(37度、5%CO)培養した。マイクロプレートリーダー(BioTek社)を用いて、570nmで吸光度を測定した。下記の表1は、24、48、および72時間、本発明の組成物で処置したヒト膵管上皮細胞およびヒト膵臓癌細胞の半最大阻害濃度を示す。全体として、本発明の組成物の膵臓癌細胞(ヒト膵臓腺癌細胞)に対する細胞増殖の抑制は、正常膵臓細胞のそれよりも有意であった。
【0033】
【表1】
【0034】
<実施例2: 本発明の組成物により誘導される膵臓癌細胞死>
【0035】
本発明の組成物によって誘導される細胞死を分析した。ヒト膵腺癌細胞を6ウェルプレートに播種し、調製例1から得た本発明の組成物で、用量依存的(0、100、250、500、750及び1000μg/mL)に処置した。48時間および72時間の培養後、細胞をPBS緩衝液ですすぎ、さらなる処置のためにトリプシンを添加し、次いで、マイナス20℃下、1時間70%エタノールで固定した。RNaseおよびヨウ化プロピジウムを含むPBSで細胞を懸濁し染色した。細胞死の特徴であるsubG1期細胞集積をFACSCaliburフローサイトメーター(Becton Dickinson)で検出した。
【0036】
下記の表2は、前記細胞の半最大阻害濃度を分析した結果を示す。実験データは、本発明の組成物が細胞増殖を抑制することができ、本発明の組成物がヒト膵臓癌細胞の細胞死を有意に誘発することができることを示す。
【0037】
【表2】
【0038】
<実施例3-1:本発明の組成物がヒト膵癌細胞の細胞遊走に及ぼす影響>
【0039】
8.0μmの細孔膜を有するトランスウェル(Corning Costar; Lowell, MA, USA)を、細胞遊走アッセイのために24ウェルプレートに入れた。調製例2から得られたヒト膵癌細胞を細胞遊走アッセイに用いた。対照群の細胞は本発明の組成物で処置せず、実験群の細胞は、調製例1から得られた本発明の組成物で用量依存的に24時間処置した。実験群と対照群の細胞を上部チャンバーで無血清培地(2×10細胞数/ウェル)に播種し、10%FBSを含む培地を化学誘引物質として下部チャンバーに加えた。37 °C、5%COで24時間培養後、トランスウェルの細孔膜下面の細胞をメタノールで固定し、クリスタルバイオレット(0.05 wt%)で染色した後、細孔膜を通過する細胞を光学顕微鏡(40x、ウェル当たり3ランダムフィールド)で計数し、遊走細胞数を測定した。
【0040】
<実施例3-2: 本発明の組成物がヒト膵癌細胞の細胞浸潤に及ぼす影響>
【0041】
8.0μm細孔膜を有するトランスウェル(Corning Costar; Lowell, MA, USA)を、細胞浸潤アッセイのために24ウェルプレートに入れ、ここで、トランスウェルの細孔膜をマトリゲル(60μg; BD Bioscience)でコーティングした。調製例2から得られたヒト膵癌細胞を細胞浸潤アッセイに用いた。対照群の細胞は本発明の組成物で処置せず、実験群の細胞は、調製例1から得られた本発明の組成物で、用量依存的に24時間処置した。実験群と対照群の細胞を上部チャンバーで無血清培地(1×105 細胞数/ウェル)に播種し、10%FBSを含む培地を化学誘引物質として下部チャンバーに添加した。24時間培養後、トランスウェルの細孔膜下面の細胞をメタノールで固定し、クリスタルバイオレット(0.05wt%)で染色した後、細孔膜を通過する細胞を光学顕微鏡(40x、ウェル当たり3ランダムフィールド)で計数し、浸潤細胞数を測定した。
【0042】
実施例3-1及び3-2の結果を図1図4に示した。本発明の組成物によるPANC1細胞株の細胞遊走および細胞浸潤の抑制は、用量依存的であった。図2に示したSUIT-2細胞、図3に示したBxPC-3細胞、および図4に示したAsPC-1細胞の細胞移動性は、本発明の組成物によって抑制された。前述の結果は、本発明の組成物が、癌細胞の移動性を抑制するのに重要な役割を果たすことを示している。
【0043】
<実施例4: 本発明の組成物による同所性異種移植膵癌の腫瘍増殖の抑制>
【0044】
調製例2から得られたヒト膵腺癌細胞株PANC-1をクローニングし、一般的なスキルを用いて発光・蛍光ベクターで標識した。細胞数5×10の実験マウス(BioLASCO Taiwan社より購入したNOD-SCID実験マウス60匹)の膵臓に、外科的に発光細胞および蛍光標識細胞を移植した。動物の膵臓への細胞移植の10日後に、非侵襲型インビボイメージングシステム(IVIS)によりベースラインデータを測定した。ベースラインのIVISデータを得た後、全ての実験マウスをランダムに均等にグループに割り当てた[測定したIVISデータの平均±3標準偏差の値を計算し、標準範囲内のIVISデータを有する動物を、対照群、調製例1で得た本発明の組成物の低用量群(24mg/kg)、および本発明の組成物の高用量群(72mg/kg)に割り当てた]。グループ分け後、薬剤を投与した。生理食塩液、および生理食塩液に本発明の組成物を二つの濃度で溶解させたものを、それぞれ、給餌管を通してマウスの胃に直接投与した。本発明の組成物を投与されたマウスは、薬物毒性について継続的に観察され、体重について1か月間測定され、IVISデータについて4週間測定された。マウスの死亡や重度の不可逆的毒性や腹水が生じた場合は、生存率の差を計算するために、そのマウスは犠牲にして事象発生時点として考慮する必要があった。実験群に関しては、実験中に死亡したマウスとIVISデータが高すぎるか低すぎるマウス(異常値)を除外すると、対照群、高用量群、低用量群(各群は、悪性腹水を定量的に測定するための実験マウス3匹を含む)のそれぞれに、13匹の同所性異種移植膵癌マウスが存在した。IVISデータ計測の時点は、ベースライン10日(ベースライン10D)、13日目(13D)、17日目(17D)、20日目(20D)、24日目(24D)、31日目(31D)、38日目(38D)の7つであった。IVISデータは、主に膵臓癌に対する本発明の組成物の初期段階の治療効果変動を観察するために、投与後最初の2週間は週2回測定した。最後の2週間では、IVISデータ測定を週1回に調整した。実験マウスへの本発明の組成物投与に関しては、本発明の組成物を90日間連続投与した後中止した。採用された用法・用量がこのように定められたのは、同所性異種移植膵癌マウスの対照群が、移植PANC-1の細胞数が5×10の場合、約90日間生存したことが主な理由である。実験期間中の各マウスの生存期間を記録した。
【0045】
図5-1~図5-7および図6に示すように、本発明の組成物で処置した二つの同所性異種移植膵癌マウスの実験群(高用量群および低用量群)は、対照群と比較して、実験24日目後(24D)に同所性異種移植膵癌の腫瘍増殖抑制に有意な影響を示した。実験38日目には検出シグナルの差が大きくなり、検出シグナルの差が最大となった。高用量群と低用量群のIVISデータの間に有意差はなかった。したがって、本発明の組成物の使用は、PANC-1細胞株を移植した同所性異種移植膵臓癌マウスの腫瘍増殖を抑制することができる。
【0046】
本発明の組成物の膵癌に対する治療効果をさらに観察するため、測定時点ごとの二つの実験群(高用量群と低用量群)と対照群のIVISデータの比較を以下の表3に示した。以下の表3に示すように、本発明の組成物で処置後3日目(D13、すなわち実験13日目目)以降、二つの実験群の膵癌の腫瘍増殖は、それぞれのIVISデータ計測時点において、対照群よりも遅いことが観察できた。したがって、本発明の組成物は、膵癌の腫瘍増殖を抑制する効果を有する。さらに、IVISデータ(38D)の最終測定時点において、本発明の組成物は、二つの実験群において膵臓癌の増殖に対して50%~60%抑制できることが分かった。
【0047】
【表3】
【0048】
また、高用量群と低用量群の二つの実験群、および対照群の生存期間の差を図7に示した。対照群の10 匹のマウスのうち、最初の死亡マウスが実験65 日目に発見され、実験80日目後に対照群において大量にマウスの死亡が継続的に発生し、その後、対照群の最後のマウスが実験91日目に死亡した。対照群の平均生存期間は85.7日であった。本発明の組成物を投与した10匹のマウスの生存期間に関して、高用量群および低用量群の二つの実験群のいずれかにおいて、いずれも実験86日目に、二つの群のそれぞれにおいて最初の死亡マウスが発見され、両群の生存期間の低下傾向は一貫して緩慢であった。したがって、本発明の組成物で90日間処置した後、高用量群と低用量群はいずれも実験的同所性異種移植膵癌マウスの生存期間が延びるという同様の治療効果を示した。本剤を投与した二つの実験群の最長生残期間は137日となった。低用量群の平均生存期間は108.7日であったが、高用量群の平均生存期間は107日であった。高用量群の平均生存期間は対照群より22日長かった。
【0049】
<実施例5: 本発明の組成が膵癌腹水に及ぼす影響>
【0050】
膵癌の悪性腹水を観察するために、実施例4から定量実験用に取っておいたマウスを用いた。三匹のマウスを、二つの実験群(調製例1から得られた組成物の高用量群と低用量群)と、対照群の三つの群のそれぞれに入れた。マウスの体重を測定し、マウスの外見と活動を毎日観察した。膵臓癌からの悪性腹水を定量するために、実験90日目にマウスを解剖した。
【0051】
図8は、本発明の組成物で処置した後の80日間(すなわち、実験90日間)の各群の体重変動を示す。本発明の組成物で処置した80日間では、高用量群と低用量群の二つの群の平均体重には劇的な変動はなかった。対照群の平均体重は、処置後の約70日目(実験80日目)において急激に増加し、処置後の80日目(実験90日目)では、平均体重はほぼ3グラム増加した。図9は、対照群および本発明の組成物を投与した低用量群の実験90日目における解剖前の写真を示す。対照群のマウスの腹腔は異常に腫脹していたが、本発明の組成物で処置した低用量群の実験動物の腹腔に有意な差異はなかった。腹水の程度の観察によれば、対照群の解剖したマウスの腹腔は腹水でいっぱいであったが、本発明の組成物の低用量群のマウスはこのような状況を示さなかった。対照群と低用量群のマウスの定量測定結果から、対照群の平均腹水量は6mLであったが、本発明の組成物を投与した低用量群の平均腹水量は1mL前後であった。対照群と本発明の組成物を投与した低用量群の、同所性異種移植膵癌マウスの定量的測定結果には大きな差があり、本発明の組成物が、同所性異種移植膵癌マウスにおいて進行期の悪性腹水の産生を軽減または抑制する効果を有することを示した。また、実験開始から90日目までの間で実験マウスにおける副作用の有無を観察した結果、実験マウスの体重、外見、活動性に有意な変化は認められなかった。したがって、本発明の組成物は、同所性異種移植膵臓癌マウスに対して有意な副作用を有さないと推測できる。
【0052】
<実施例6: 同所性異種移植膵癌に対するゲムシタビンと本発明の組成物併用の治療効果(I)>
【0053】
調製例2から得たヒト膵腺癌細胞株PANC-1をクローニングし、発光・蛍光ベクターで標識した。細胞数5×10の実験マウス(BioLASCO Taiwan社から購入したNOD-SCID実験マウス50匹)の膵臓に、外科的に発光細胞および蛍光標識細胞を移植した。動物の膵臓への細胞移植から10日後に、非侵襲インビボイメージングシステム(IVIS)によりベースラインデータを測定した。ベースラインのIVISデータが得られた後、全ての実験マウスを無作為に均等にグループ分けし[測定したIVISデータの平均値±3標準偏差を算出し、標準範囲内のIVISデータを有する動物を対照群(生理食塩液を使用)、調製例から得られた本発明の組成物群(調製例1から得られた組成物24mg/kgをマウスの胃に1日1回、栄養チューブを通して直接投与)、ゲムシタビン群(100mg/kgのゲムシタビンを週2回、静脈内注射により投与)、および併用群(本発明の組成物を24mg/kgを毎日投与し、100mg/kgのゲムシタビンを週2回投与)に割り付けた後、投与を行った。本発明の組成物の用法・用量は、実施例4の結果から、高用量群と低用量群との間に有意差は認められなかったことから、本実験には24mg/ kgの用量を選択した。膵癌に対する第一選択薬の用法・用量は、二つの雑誌論文、Cook, Natalie, et al.「ガンマセクレターゼ阻害によるマウス膵管腺癌における低酸素壊死促進」、Journal of Experimental Medicine 209.3(2012): 437-444、およびOlive, Kenneth P.et al.「Hedgehogシグナル伝達の阻害による膵癌マウスモデルへの化学療法送達の増強」、Science(2009)、に従って定め、実験のためにゲムシタビンを100mg/kg、週2回の用量で投与するようにした。IVISデータ計測時点は、ベースライン10日(ベースライン10D)、実験17日目(処置後7日目)、24日目(処置後14日目)、31日目(処置後21日目)、38日目(処置後28日目)であった。9週目の全実験動物について、総ビリルビン(T‐ビリルビン)、グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ/アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(GOT/AST)、グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ/アラニントランスアミナーゼ(GPT/ALT)の血液検査を行い、肉眼による黄疸の有無を観察した。肉眼で観察されたマウスの黄疸徴候は、るいそう、腫脹胆嚢、黄色暗色皮膚、異常黄色肢尾であった。実験中の各マウスの生存期間を記録した。
【0054】
図10-1から図10-5および図11に示すように、本発明の組成物の群は、対照群と比較して、膵臓癌の腫瘍増殖を抑制する有意な効果を有した。また、その効果は、実施例5の高用量群(72mg/kg)及び低用量群(24mg/kg)の実験群で示された効果と類似しており、膵癌の腫瘍増殖抑制において50%前後の治療効果が認められている。処置28日後のゲムシタビン群における同所性異種移植膵癌の腫瘍増殖抑制効果は、本発明の組成物群で示された効果と同程度であり、IVISデータの測定結果の傾向も実験期間中のそれと一致し、膵癌の腫瘍増殖抑制における治療効果は約50%であった。処置28日後の併用群における同所性異種移植膵癌の腫瘍増殖抑制効果は、膵癌の腫瘍増殖抑制効果が80%と、本発明の組成物群やゲムシタビン群よりも良好であり、対照群よりも高かった。したがって、本発明の組成物と、膵癌の臨床第一選択薬であるゲムシタビンとの併用は、同所性異種移植膵癌の腫瘍増殖抑制に優れた効果を有する。
【0055】
図12に示すように、ゲムシタビン群と併用群のマウスで黄疸が認められた。つまり、るいそう、異常腫脹胆嚢、黄色暗色皮膚、異常黄色肢尾がマウスで観察された。また悪性腹水も発生した。二つの群のマウスは、黄疸が発見された直後に次々と死亡した。この事象が発生した際(処置後9週間)、実験下の全マウスの血液を採取し、血液中のT-ビリルビン、GOT、GPTを調べ、その結果を図13-1~図13-3に示した。ゲムシタビン群および併用群のT-ビリルビン、GOTおよびGPTは、ゲムシタビンで処置しなかった群よりも有意に高かった。したがって、ゲムシタビンを継続的に投与することで、重度の黄疸を引き起こす可能性があると推測できる。図14に示すように、対照群の実験マウス8匹のうち、最初の死亡マウスは実験60日目に、最後の死亡マウスは実験91日目に認められた。対照群の平均生存期間は80.1日であった。併用群とゲムシタビン群の実験マウスでは、処置後9週目に黄疸が認められ、処置後10週目(実験80日目)に大量死が発生し始めた。ゲムシタビン群については、実験77日目に最初の死亡マウスが認められたのに対し、実験100日目に最後の死亡マウスが認められ、全群の平均生存期間は89.4日であった。併用群に関しては、実験84日目に最初の死亡マウスが発見されたのに対し、実験108日目に最後の死亡マウスが発見され、全群の平均生存期間は94.1日であった。前述の生存期間のデータによると、これら二つの群のマウスにおいていったん黄疸が見つかれば、マウスはすべて2週間前後で死亡すると思われる。本発明の組成物群に関しては、実験88日目に最初の死亡マウスを発見したのに対し、実験138日目に最後の死亡マウスを発見し、群全体の平均生存期間は106日で対照群より26日長く、同所性異種移植膵癌の実験マウスの生存期間を延長させる効果を示した。
【0056】
<実施例7:ゲムシタビンと本発明の組成物の併用によるPDOX膵癌に対する治療効果(II)>
【0057】
調製例2から得たヒト膵腺癌細胞株PANC―1をクローニングし、発光・蛍光ベクターで標識した。細胞数5×105の実験マウス(BioLASCO Taiwan Co., Ltd.より購入したNOD-SCID実験マウス40匹)の膵臓に、外科的に発光細胞および蛍光標識細胞を移植した。動物の膵臓への細胞移植の10日後に、ベースラインデータを非侵襲的インビボイメージングシステム(IVIS)により測定した。ベースラインのIVISデータが得られた後、全ての実験マウスを無作為に均等にグループに割り当てた[測定したIVISデータの平均値±3標準偏差を算出し、標準範囲内のIVISデータを有する動物を対照群(生理食塩液を使用)、本発明の組成物群(調製例1で得られた組成物を24mg/kgを毎日投与)、ゲムシタビン群(100mg/kgのゲムシタビンを週2回、3週間連続静脈内注射し、4週目にゲムシタビンを中止。この4週間をゲムシタビンサイクルと命名。本例ではゲムシタビンサイクルは3サイクル)、および併用群(100mg/kgのゲムシタビンを週2回、3週間連続静脈内注射し4週目にゲムシタビンを中止し、調製例1から得た本発明の組成物24mg/kgを毎日投与)]。投与経路は、実施例6と同様であるが、実施例6ではゲムシタビンを9週間連続投与した後、同所性異種移植膵癌マウスで黄疸が認められ、投与後10~12週目に死亡したため、実施例6から用法・用量を調節した。この事例のIVISデータ計測の時点は、ベースライン10日(ベースライン10D)、17日目(処置後7日)、24日目(処置後14日)、31日目(処置後21日)、38日目(処置後28日)、45日目(処置後35日)、および59日目(処置後49日)であった。実験マウスの血液を採取し、血液中のT-ビリルビン、GOT、およびGPTを調べ、一定の時点[ベースライン10日(ベースライン10D)、処置後4週目、処置後8週目、処置後10週目、および処置後12週目]で黄疸の原因をモニターした。黄疸の発生の有無は肉眼でも観察された。肉眼で観察されたマウスの黄疸徴候は、るいそう、腫脹胆嚢、黄色暗色皮膚、異常黄色肢尾であった。実験中の各マウスの生存期間を記録した。
【0058】
また、図15-1~図15-7及び図16に示すように、本発明の組成物群は処置後49日目に、対照群と比較して同所性異種移植膵癌の腫瘍増殖を抑制する優れた効果を有する(抑制効果は50%より高い)。前記効果は、処置後28日目の実施例4及び実施例6に示した効果と同様であった。同所性異種移植膵癌の腫瘍増殖の傾向も同様の傾向を示した。さらに、実施例4、実施例6および実施例7の三つの実施例は、本発明の組成物が、同所性異種移植膵臓癌の腫瘍増殖を50%より高く抑制する治療効果を有することを一貫して示した。ゲムシタビン群の同所性異種移植膵癌の腫瘍増殖抑制傾向は、処置後49日目の本発明の組成物群と類似しており、実験49日間の測定時点におけるIVISデータの腫瘍増殖抑制傾向も同様であり、同所性異種移植膵癌の腫瘍増殖を50~60%抑制するものであった。したがって、同所性異種移植膵癌の増殖を50%、60%抑制するという治療効果は、処置後28日目から処置後49日目まで維持されていたことから、ゲムシタビンの用法・用量の変更よって有意な差異は生じなかった。ゲムシタビンの用法・用量を変更後、併用群における同所性異種移植膵癌の腫瘍増殖抑制効果は、二つの単剤投与群(本発明の組成物群とゲムシタビン群)よりも良好であった。本発明の組成物群は、対照群と比較して膵癌の腫瘍増殖を抑制する効果が80%以上であり、実施例6に示した効果とほぼ同じであった。処置後28日目及び49日目における併用群の腫瘍増殖抑制効果(腫瘍増殖抑制効果は、それぞれ84%及び77%)は、同一測定時点での対照群と比較して、IVISデータによる差はそれほど認められなかった。すなわち、用法・用量の変更は併用群の進行期に対する治療効果に影響を及ぼさなかった。したがって、本実施例で繰り返した動物実験により、本発明の組成物と膵癌の臨床第一選択薬であるゲムシタビンとを併用することにより、同所性異種移植膵癌の腫瘍増殖の抑制において、より良好な効果が確実にもたらされる。
【0059】
定時採血後のT-ビリルビン、GOT及びGPTのモニタリング結果を図17-1~図17-4に示す。タイムポイントは全部で5つあり、ベースライン10日、処置後4週目、処置後8週目(処置後4週目および処置後8週目は、それぞれ、第1のゲムシタビンサイクルおよび第2のゲムシタビンサイクルの終了と同時点)、処置後10週目、および処置後12週目(処置後10週目および処置後12週目は、それぞれ、第3のゲムシタビンサイクルの開始および終了と同時点)である。処置後13週目の採血時点は、マウスに異常が認められ黄疸が発現したため、モニタリング用の追加採血時点とした。図17-1に示すように、処置後最初の12週間に採血した血液を用いた三つのモニタリング項目は、いずれも血液生化学的基準範囲(基準範囲: T-ビリルビン:0~1mg/dl, GOT/AST:40~100U/L; GPT/ALT: 30~50U/L)であった。ゲムシタビン群のGPT値は処置後8週目に異常に上昇したが、これは群中の1匹の実験マウスからの試料についての溶血または機械誤差に起因する可能性があり、GPT値は処置後10週目に正常に戻った。対照群のT-ビリルビンとGOTの値は、処置後10週目間で他の三つの実験群と比較してわずかに高かった。しかし、対照群のマウスは処置後10週目から死亡し始めたため、血液検査における三項目の平均値は他の群と有意差はなかった。処置後13週目(第3ゲムシタビンサイクル終了後1週間)に、対照群(実験マウスは1匹のみ残存)を除き、三つの実験群(本発明の組成物群、ゲムシタビン群、併用群)で、るいそう、異常腫脹胆嚢、黄色暗色皮膚、異常黄色肢尾等の黄疸の症状を示す実験マウスが1~2匹認められた。そのため、直ちに採血・検査を行った。T-ビリルビン、GOT、GPTの傾向結果を図17-2、図17-3、図17-4に示した。三つの図から観察されたT-ビリルビンに関しては、本発明の組成物群とゲムシタビン群の各群1匹のマウスが標準より高い値を示し、併用群の3匹の実験マウスが標準(0.1~0.9mg/mL)より高い値を示した。標準より高いT-ビリルビンを有する実験マウスは10日で死亡し始めた。13週目にゲムシタビン群の採血を行ったところ、当初は見られなかった黄疸が実験マウスに認められ、黄疸があるマウスは黄疸が認められた直後に死亡した。本実施例の実験マウスの生存期間を図18と次の表4に示した。
【0060】
【表4】
【0061】
本発明の組成物群の生存期間は対照群より長く、これは実施例4および実施例6に示した結果と一致することが分かった。本発明の組成物群の実験マウスの最長生存期間は140日であり、その平均生存期間は対照群より約25.2日長かった。したがって、本発明の組成物は、同所性異種移植膵臓癌の実験マウスの生存期間を引き延ばすことができる。また、ゲムシタビンの用法・用量は実施例6で用いた用法とは異なり、ゲムシタビンで処置した実験マウス(ゲムシタビン群及び併用群を含む)は、実施例6の対応する群のマウスよりも長い生存期間を示した。実験マウスで黄疸が発見されると、短期間(処置後13週目および処置後14週目)で死亡し始める。しかし、この期間を生き延びることができれば、実験マウスはもう少し長く生存できる可能性はある。また、併用群のマウスの最長生存期間は150日より長く、対照群よりも約36日長かった。併用群で処置したマウスの生存期間は、本発明の組成物およびゲムシタビン群のそれより長かった。解剖には各群のマウス1匹を用いたため、各群のマウス7匹のデータのみを表に示した。
【0062】
<実施例8: 本発明の組成物が膵炎に及ぼす影響>
【0063】
膵炎の指標である血中アミラーゼ値(正常値500~1500U/L)が非常に高い三匹のイヌに、本発明の組成物を1日1回、10mg/10kg/日の用量で経管栄養により1週間連続投与し、その後アミラーゼを調べた。対照群としてアミラーゼ値が正常なイヌ1匹を用い、支持療法として生理食塩水のみを投与した。各群の実験動物の血中アミラーゼ値をトレースし、膵炎が改善するか否かを調べた。以下の表5に示す結果のように、本発明の組成物により処置したイヌの血液中の異常アミラーゼは、生理食塩液を投与した対照群と比較して減少した。したがって、本発明の組成物は、膵炎を改善する効果を有する。表には記録されていないが、ネコの膵炎も、本発明の組成物を投与した後に改善された。これは、膵炎の指標であるアミラーゼの値が正常値に下がることを意味した。
【0064】
【表5】
【0065】
以上をまとめると、第一鉄アミノ酸粒子を含む組成物(本発明の組成物)は、膵臓関連疾患を治療または改善することができる。具体的には、本発明の組成物は、膵癌細胞の増殖を抑制し、膵癌細胞の細胞死を誘導し、膵癌細胞の遊走能及び浸潤能を抑制し、同所性異種移植膵癌の腫瘍増殖を抑制し、同所性異種移植膵癌の拡がりを改善し、進行同所性異種移植膵癌からの悪性腹水を改善又は減少させ、肝毒性の副作用を少なくし、膵癌の第一選択薬であるゲムシタビンと併用投与した場合の膵腫瘍の増殖をより良好に抑制する効果を示すことができた。さらに、本発明の組成物は、膵炎を治療または改善することができる。
【0066】
本発明によるいかなる補正および修正も、本発明の範囲および趣旨から逸脱しないことは当業者には自明である。本発明において好適な実施形態が開示されるが、本発明は当然のことながら特定の実施形態に不当に限定されない。実際に、当業者とって自明な、本発明の上記実施形態に対するいかなる簡単な修正および変更も以下の請求項に包含される。
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図5-4】
図5-5】
図5-6】
図5-7】
図6
図7
図8
図9
図10-1】
図10-2】
図10-3】
図10-4】
図10-5】
図11
図12
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図13-2】
図13-3】
図14
図15-1】
図15-2】
図15-3】
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図15-5】
図15-6】
図15-7】
図16
図17-1】
図17-2】
図17-3】
図17-4】
図18