(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】SARS-CoV-2とACE2タンパク質との結合阻害用組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 59/00 20060101AFI20220111BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20220111BHJP
A61L 9/04 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
A01N59/00 A
A01P1/00
A61L9/04
(21)【出願番号】P 2021033248
(22)【出願日】2021-03-03
(62)【分割の表示】P 2020108856の分割
【原出願日】2020-06-24
【審査請求日】2021-04-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391003392
【氏名又は名称】大幸薬品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【氏名又は名称】南条 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100179394
【氏名又は名称】瀬田 あや子
(74)【代理人】
【識別番号】100137811
【氏名又は名称】原 秀貢人
(74)【代理人】
【識別番号】100185384
【氏名又は名称】伊波 興一朗
(72)【発明者】
【氏名】緒方 規男
(72)【発明者】
【氏名】三浦 孝典
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/061092(WO,A1)
【文献】消毒剤使用指南,National Health Commission of the People's Republic of China[online],2020年02月18日,www.nhc.gov.cn/xcs/zhengcwj/202002/b9891e8c86d141a08ec45c6a18e21dc2.shtml,[検索日2021.05.06]
【文献】新型コロナウイルスに対し98%以上の消毒効果を確認,MONOist[online],2020年05月28日,https://monoist.atmarkit.co.jp/mn.articles/2005/28/news010.html,[検索日2020.10.13]
【文献】WALLS, A. C. et. al.,Structure, Function, and Antigenicity of the SARS-CoV-2 Spike Glycoprotein,Cell,2020年04月16日,180,281-292
【文献】HOFFMANN, M. et. al.,SARS-CoV-2 Cell Entry Depends on ACE2 and TMPRSS2 and Is Blocked by a Clinically Proven Protease Inh,Cell,2020年04月16日,181,271-280
【文献】二酸化塩素の自主運営基準設定のための評価について-ガス製品-,日本二酸化塩素工業会,2014年,https://monoist.atmarkit.co.jp/mn.articles/2005/28/news010.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A61L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質とアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)タンパク質との結合を阻害する方法であって、
SARS-CoV-2が存在
する場所に、二酸化塩素ガス濃度が0.00001ppm~230ppmとなるように有効量の二酸化塩素を含むガス状組成物を適用するステップを含む、
方法(ただし、ヒトの生体への適用を除く)。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記SARS-CoV-2が存在
する場所に有効量の二酸化塩素を含むガス状組成物を適用するステップが、前記場所における二酸化塩素ガス濃度が0.00001ppm~0.3ppmとなるように前記二酸化塩素を含むガス状組成物を適用するステップである、
方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、
前記SARS-CoV-2が存在
する場所に有効量の二酸化塩素を含むガス状組成物を適用するステップが、前記場所における二酸化塩素ガス濃度が0.3ppm~230ppmとなるように前記二酸化塩素を含むガス状組成物を適用するステップである、
方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、
前記SARS-CoV-2が存在
する場所に有効量の二酸化塩素を含むガス状組成物を適用するステップが、前記場所における二酸化塩素ガス濃度が10ppm~230ppmとなるように前記二酸化塩素を含むガス状組成物を適用するステップである、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SARS-CoV-2とACE2タンパク質との結合阻害用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
SARS-CoV-2(または2019-nCoV)は、一本鎖プラス鎖RNAのウイルスゲノムを有する、コロナウイルス科に属するウイルスである。2019年から2020年にかけて、SARS-CoV-2による感染症(COVID-19)が世界中で流行し、多くの感染者が発生している。SARS-CoV-2は、ウイルスタンパク質の1つであるスパイク(S)タンパク質と、動物の細胞表面に存在するアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)タンパク質との相互作用を利用して動物に感染することが知られている。しかし、現段階において、当該相互作用を有効に阻害する薬剤等は見出されていない。
【0003】
二酸化塩素ガスは、低濃度では動物の生体に対して安全なガスである一方、そのような低濃度でも、細菌・真菌・ウイルス等の微生物に対する失活作用や、消臭作用等を有していることが知られている(特許文献1)。しかし、SARS-CoV-2に対する二酸化塩素の効果はこれまで検証されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
SARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質とACE2タンパク質との相互作用を阻害し得る化合物等を探索することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質とACE2タンパク質との相互作用を阻害し得る化合物等を探索したところ、驚くべきことに、二酸化塩素がSARS-CoV-2のスパイクタンパク質に作用し、スパイクタンパク質とACE2タンパク質との相互作用を阻害することを見出した。
【0007】
すなわち本発明は、一実施形態において、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質とACE2タンパク質との結合を阻害するための組成物であって、有効量の二酸化塩素を含む、組成物に関する。
【0008】
本発明の一実施形態においては、前記組成物はSARS-CoV-2が存在し得る場所に適用されることを特徴とする。
【0009】
本発明の一実施形態においては、前記ACE2タンパク質がヒトACE2タンパク質であることを特徴とする。
【0010】
本発明の一実施形態においては、前記組成物が二酸化塩素を含む液剤であることを特徴とする。
【0011】
本発明の一実施形態においては、前記液剤中の二酸化塩素の濃度が1~2000ppmであることを特徴とする。
【0012】
本発明の一実施形態においては、前記液剤が、10~1000ppmの二酸化塩素を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の一実施形態においては、前記液剤が、さらに亜塩素酸塩を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明の一実施形態においては、前記液剤中には、前記亜塩素酸塩とは別途調製された二酸化塩素が含まれることを特徴とする。
【0015】
本発明の一実施形態においては、前記液剤中の二酸化塩素はすべて前記亜塩素酸塩に由来することを特徴とする。
【0016】
本発明の一実施形態においては、前記液剤中の前記亜塩素酸塩の濃度は、0.05重量%~10.0重量%であることを特徴とする。
【0017】
本発明の一実施形態においては、前記液剤中の前記亜塩素酸塩の濃度は、0.1重量%~5.0重量%であることを特徴とする。
【0018】
本発明の一実施形態においては、前記液剤のpHが4.5~6.5の範囲内に調製されていることを特徴とする。
【0019】
本発明の一実施形態においては、前記液剤のpHが5.5~6.0の範囲内に調製されていることを特徴とする。
【0020】
本発明の一実施形態においては、前記液剤がさらにゲル化剤を含むことを特徴とする。
【0021】
本発明の一実施形態においては、前記液剤がゲル状であることを特徴とする。
【0022】
本発明の一実施形態においては、前記組成物がガス状の二酸化塩素を含むガス状組成物であることを特徴とする。
【0023】
本発明の一実施形態においては、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質とACE2タンパク質との結合を阻害する濃度として、空間中の二酸化塩素ガス濃度が0.00001ppm~0.3ppmとなるように適用されることを特徴とする。
【0024】
本発明の一実施形態においては、前記「SARS-CoV-2が存在し得る場所」が、人間の手が触れる場所であることを特徴とする。
【0025】
本発明の一実施形態においては、前記「SARS-CoV-2が存在し得る場所」が、人間が呼吸をする空間であることを特徴とする。
【0026】
本発明の一実施形態においては、前記組成物は、二酸化塩素不存在の場合と比べて、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質とACE2タンパク質との結合を30%以上阻害することを特徴とする。
【0027】
本発明の一実施形態においては、前記組成物は、「SARS-CoV-2 Spike:ACE2 Inhibitor Screening Assay Kit(BPS Bioscience社、製品番号#79931)」を用いたSARS-CoV-2のスパイクタンパク質とACE2タンパク質との相互作用阻害試験において、二酸化塩素不存在の場合と比べて、30%以上の相互作用阻害を示すことを特徴とする。
【0028】
本発明の他の実施態様は、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質とACE2タンパク質との結合を阻害する方法であって、SARS-CoV-2が存在し得る場所に、有効量の二酸化塩素を適用するステップを含む、方法に関する。
【0029】
なお、上記の本発明の一又は複数の特徴を任意に組み合わせた発明も、本発明の範囲に含まれる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、二酸化塩素が、SARS-CoV-2のスパイクSタンパク質とACE2タンパク質との結合を阻害するという新規な知見を利用するものである。
【0031】
本発明によれば、SARS-CoV-2が存在し得る場所に二酸化塩素を適用することで、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質のACE2タンパク質への結合活性を失活させ、SARS-CoV-2による感染症(COVID-19)の発生を防ぐことができる。
【0032】
本開示において“SARS-CoV-2”という場合、当該用語は、分類学的見地から“SARS-CoV-2”に分類されるウイルスをいい、例えば、国際ウイルス分類委員会によって、そのような分類がなされる。典型的には、SARS-CoV-2は、スパイクタンパク質とACE2タンパク質との結合を利用して動物に感染するコロナウイルスである。
【0033】
なお、本発明の変形例においては、その対象がSARS-CoV-2に限られず、スパイクタンパク質とACE2タンパク質との結合を利用して動物に感染するコロナウイルスであってもよい。
【0034】
本発明おける二酸化塩素の使用は、二酸化塩素を含む液剤(二酸化塩素液剤)の使用であってもよいし、ガス状の二酸化塩素を含むガス状組成物の使用であってもよい。
【0035】
本発明の一実施形態として、二酸化塩素を含む液剤を用いる場合、例えば、人間の手が触れる場所に当該液剤を適用することで、当該場所に存在し得るSARS-CoV-2のスパイクタンパク質のACE2タンパク質への結合活性を失活させ、SARS-CoV-2による感染症(COVID-19)の発生を防ぐことができる。
【0036】
前記「人間の手が触れる場所」の非限定的な例としては、居住スペース、商業施設、公共施設、医療施設、交通機関、等における設備が挙げられる。設備の非限定な例としては、床、机、トイレ、キッチン、浴室、洗面所、玄関、ゴミ箱、家具、ドアノブ、手すり、車両のハンドル、電子機器等のスイッチ、筆記用具等の文房具、食器、等を挙げることができる。特に医療施設においては、SARS-CoV-2感染患者または感染疑い患者が接触した物や場所において本発明を適用することで、院内感染のリスクを低減することができる。
【0037】
また、本発明の一実施形態として、ガス状の二酸化塩素を含むガス状組成物を用いる場合、例えば、人間が呼吸をする空間に有効量の当該ガス状組成物を適用することにより、当該空間に存在し得るSARS-CoV-2のスパイクタンパク質のACE2タンパク質への結合活性を失活させ、SARS-CoV-2による感染症(COVID-19)の発生を防ぐことができる。
【0038】
前記「人間が呼吸をする空間」は、閉鎖空間であっても開放空間であってもよいが、閉鎖空間に近い空間であるほうが、本発明のガス状組成物が拡散しにくいため、本発明の効果を得やすい。前記「人間が呼吸をする空間」の非限定的な例としては、居住スペース、商業施設、公共施設、医療施設、交通機関、等における空間が挙げられる。特に医療施設においては、SARS-CoV-2感染患者または感染疑い患者が存在する空間において本発明を使用することにより、院内感染のリスクを低減することができる。
【0039】
本発明において用いることができる二酸化塩素液剤の調製方法は限定されず、公知の様々な方法で調製された液剤を用いることができる。例えば、二酸化塩素は水への溶解性が高いため、ガス状の二酸化塩素を水等の溶媒へ溶解させることで、二酸化塩素液剤を調製するこができる。また、亜塩素酸塩は、酸性条件下で二酸化塩素を発生させるため、pHが調製された亜塩素酸塩水溶液を二酸化塩素液剤として使用することもできる(この場合、液剤中の二酸化塩素は全て亜塩素酸塩に由来することとなる)。また、亜塩素酸塩を含む所定の電解液を電気分解することによって二酸化塩素液剤を調製することもできる。
【0040】
本発明において用いることができる二酸化塩素液剤は、1~2000ppmの二酸化塩素が溶存している液剤であることが好ましい。より好ましい液剤の例としては、1~2000ppmの二酸化塩素が溶存しており、0.05重量%~10重量%の濃度の亜塩素酸塩を含み、かつ、液剤のpHは4.5~6.5の範囲内に調製されている液剤を挙げることができる。二酸化塩素液剤中に含まれる二酸化塩素濃度は10~1000ppmであってよく、好ましくは50~800ppmであってよく、さらに好ましくは100~600ppmであってよい。また、二酸化塩素液剤中に含まれる亜塩素酸塩の濃度は0.1重量%~5.0重量%であってよく、より好ましくは0.5重量%~2.5重量%であってよい。
【0041】
亜塩素酸塩を含む二酸化塩素液剤に関しては、二酸化塩素液剤のpHが4.5よりも低くなると、液中の亜塩素酸塩が過剰に反応し、二酸化塩素ガスを放出しやすくなるため、二酸化塩素ガス放出量のコントロールが難しくなり、二酸化塩素液剤の保存安定性が低下する可能性が高まる。また、二酸化塩素液剤のpHが6.5よりも高くなると、液中の亜塩素酸塩の反応性が低下しやすくなり、適切な量の二酸化塩素ガスが放出されなくなる可能性が高まる。二酸化塩素液剤のpHは5.5~6.0の範囲内であることがより好ましい。なお、二酸化塩素液剤中の二酸化塩素濃度、亜塩素酸塩濃度、および、pHは、上記の範囲で任意に組み合わせることができる。
【0042】
本発明において用いることができる二酸化塩素液剤は、例えば、次のように製造することができる。まず、(a)亜塩素酸塩を水に溶解して2000~180000ppmの亜塩素酸塩水溶液を調製し、これとは別途、(b)二酸化塩素ガスを溶解させた100~2900ppmの二酸化塩素水溶液を調製し、そして、(a)および(b)を混合した後、この溶液に、pH調整剤を混合してpHが4.5~6.5に調製する。なお、上記の製造方法における、亜塩素酸塩水溶液の濃度、二酸化塩素水溶液の濃度は、目的とする液剤の組成に応じて、当業者が適宜調節することができる。
【0043】
上記の方法によって液剤を調整することにより、液剤中の溶存二酸化塩素濃度を高濃度から低濃度まで自由に調節することができる。また、上記の方法で調製された液剤は、二酸化塩素ガスと亜塩素酸塩を含むため、液剤から空気中に二酸化塩素ガスが放出されると、液剤中に二酸化塩素ガス濃度が低下するが、化学平衡により、亜塩素酸塩から二酸化塩素が液剤中に供給され、結果として液剤中の二酸化塩素ガス濃度が略一定に保たれる。この効果により、上記の二酸化塩素液剤は、長時間に渡って、徐放的に二酸化塩素ガスを空気中に放出することができる。また、対象に直接液剤を適用する場合には、二酸化塩素ガスを水へ溶解させただけの液剤よりも、多くの二酸化塩素を対象に提供することができるため、より高い効果を発揮し得る。液剤のpHが4.5~6.5の範囲内に調製されていると、液剤からの二酸化塩素ガスの放出量と、亜塩素酸塩からの二酸化塩素の供給のバランスが好適に保たれるため、より長時間、略一定の濃度の二酸化塩素ガスを放出することができる。
【0044】
本発明において用いることができる二酸化塩素液剤に含んでよい亜塩素酸塩としては、例えば、亜塩素酸アルカリ金属塩や亜塩素酸アルカリ土類金属塩が挙げられる。亜塩素酸アルカリ金属塩としては、例えば亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム、亜塩素酸リチウムが挙げられ、亜塩素酸アルカリ土類金属塩としては、亜塩素酸カルシウム、亜塩素酸マグネシウム、亜塩素酸バリウムが挙げられる。なかでも、入手が容易という点から、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウムが好ましく、亜塩素酸ナトリウムが最も好ましい。これら亜塩素酸塩は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
本発明において用いることができる二酸化塩素液剤を調製するためのpH調整剤は、当業者が任意のものを用いることができるが、例えば、リン酸、ホウ酸、メタリン酸、ピロリン酸、スルファミン酸、酢酸、クエン酸やそれらの塩などを用いることができ、優れた保存安定性が得られるという点で無機酸またはその塩が好ましい。なかでも、保存安定性に優れ、保存中における液性(pH)の変動を最小限に抑えることができるという点で、リン酸またはその塩(例えば、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムの混合物、等)を使用することが好ましく、リン酸二水素ナトリウムを使用することがさらに好ましい。なお、pH調整剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
本発明において用いることができる二酸化塩素液剤は、さらにゲル化剤を加えることにより、ゲル状の組成物としてもよい(本明細書においては、そのようなゲル状の組成物も「液剤」と呼ばれる)。二酸化塩素液剤をゲル状の組成物とすることにより、より長時間に渡って、対象に二酸化塩素を徐放的に適用することができる。ゲル化剤の非限定的な例としては、高吸水性樹脂(例えば、デンプン系吸水性樹脂、セルロース系吸水性樹脂、合成ポリマー系吸水性樹脂)を挙げることができる。なお、本発明において用いることができる二酸化塩素液剤を含むゲル状組成物は、二酸化塩素液剤とゲル化剤とを要時に混合して使用するキットとして提供されてもよい。
【0047】
本発明において二酸化塩素ガスを含むガス状組成物を使用する場合、空間中の二酸化塩素ガス濃度を、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質とACE2タンパク質との結合を阻害する濃度(例えば、0.00001ppm以上)とすることが好ましい。
【0048】
二酸化塩素ガスを含むガス状組成物を人や動物が存在する空間において使用する場合、対象とする空間中の二酸化塩素ガス濃度は、0.00001ppm~0.3ppmとすることが好ましい。二酸化塩素濃度の下限値は、例えば、0.00001ppm、0.0001ppm、0.001ppm、0.01ppm、0.1ppmの中から任意に選択されてよい。二酸化塩素濃度の上限値は、例えば、0.3ppm、0.2ppm、0.1ppmの中から任意に選択されてよい。好ましい二酸化塩素濃度の範囲として、0.0001ppm~0.3ppm、0.0001ppm~0.2ppm、0.0001ppm~0.1ppm、0.001ppm~0.3ppm、0.001ppm~0.2ppm、0.001ppm~0.1ppm、0.01ppm~0.3ppm、0.01ppm~0.2ppm、0.01ppm~0.1ppm、0.1ppm~0.3ppmを挙げることができる。
【0049】
本発明を用いて空間中へ二酸化塩素ガスを供給する時間は特に限定されないが、供給する二酸化塩素ガス濃度に応じて、供給する時間を適宜調整してもよい。例えば、空間中における二酸化塩素ガス濃度を0.00001ppm~0.01ppmとする場合は、常時二酸化塩素ガスを供給し続けても問題がない。空間中における二酸化塩素ガス濃度を0.01ppm~0.1ppmとする場合、二酸化塩素ガスを空間中へ供給する時間を、10分間~480分間とすることが好ましく、15分間~90分間とすることがより好ましく、15分間~60分間とすることがさらに好ましい。また、空間中における二酸化塩素ガス濃度を0.1ppm~0.3ppmとする場合、二酸化塩素ガスを空間中へ供給する時間を、0.5分間~480分間とすることが好ましく、1分間~60分間とすることがより好ましく、2分間~15分間とすることがさらに好ましい。
【0050】
二酸化塩素ガスを含むガス状組成物を、人や動物が存在しない空間におけるSARS-CoV-2の除染(いわゆる“燻蒸”)に用いる場合には、対象とする空間中の二酸化塩素ガス濃度を0.3ppm以上としてもよい。空間の除染における二酸化塩素ガス濃度は、確実にSARS-CoV-2のスパイクタンパク質とACE2タンパク質との結合を阻害する観点から、10ppm以上とすることが好ましく、15ppm以上がより好ましく、20ppm以上がさらに好ましい。なお、空間中の設備等の腐食を防止する観点から、230ppm以下であることが好ましい。
【0051】
本発明において二酸化塩素ガスを含むガス状組成物を使用する場合、二酸化塩素ガスの供給源は限定されず、様々な方法や装置を使用することができる。例えば、二酸化塩素ガスの供給源として、公知の二酸化塩素発生装置、二酸化塩素発生剤、二酸化塩素発生用キット等を用いることができる。また、二酸化塩素ガスの供給源として、前述の二酸化塩素液剤やゲル状組成物を用いてもよい。
【0052】
本明細書において用いられる用語は、特定の実施態様を説明するために用いられるのであり、発明を限定する意図ではない。
【0053】
また、本明細書において用いられる「含む」との用語は、文脈上明らかに異なる理解をすべき場合を除き、記載された事項(部材、ステップ、要素または数字等)が存在することを意図するものであり、それ以外の事項(部材、ステップ、要素または数字等)が存在することを排除しない。
【0054】
異なる定義が無い限り、ここに用いられるすべての用語(技術用語および科学用語を含む。)は、本発明が属する技術の当業者によって広く理解されるのと同じ意味を有する。ここに用いられる用語は、異なる定義が明示されていない限り、本明細書および関連技術分野における意味と整合的な意味を有するものとして解釈されるべきであり、理想化され、または、過度に形式的な意味において解釈されるべきではない。
【0055】
本発明の実施態様は模式図を参照しつつ説明される場合があるが、模式図である場合、説明を明確にするために、誇張されて表現されている場合がある。
【0056】
本明細書において、例えば、「1~10%」と表現されている場合、当業者は、当該表現が、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10%を個別具体的に指すことを理解する。
【0057】
本明細書において、成分含有量や数値範囲を示すのに用いられるあらゆる数値は、特に明示がない限り、用語「約」の意味を包含するものとして解釈される。例えば、「10倍」とは、特に明示がない限り、「約10倍」を意味するものと理解される。
【0058】
本明細書中に引用される文献は、それらのすべての開示が、本明細書中に援用されているとみなされるべきであって、当業者は、本明細書の文脈に従って、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、それらの先行技術文献における関連する開示内容を、本明細書の一部として援用して理解する。
【0059】
以下において、本発明を、実施例を参照してより詳細に説明する。しかしながら、本発明はいろいろな態様により具現化することができ、ここに記載される実施例に限定されるものとして解釈されてはならない。
【実施例】
【0060】
材料と方法
亜塩素酸ナトリウム水溶液に塩酸を加えて発生する二酸化塩素ガスを蒸留水に導入し、55mMの二酸化塩素水溶液として調整した。これを使用直前まで遮光し、4℃にて気密容器に保存した。
【0061】
SARS-CoV-2とACE2タンパク質との結合阻害実験に関しては、BPS Bioscience社(カリフォルニア州、San Diego)のSARS-CoV-2 Spike:ACE2 Inhibitor Screening Assay Kit(製品番号#79931)を用いた。このキットには、精製されたSARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質とACE2タンパク質が含まれる。実験は、製造業者の手順書に従って実施した。
【0062】
まず、スパイクタンパク質を、室温にて5分間0、0.25、0.5mMの二酸化塩素水溶液で処理した後、3.5μg/mlのACE2タンパク質を反応液中に加え、25℃で30分間静置した。反応液に2倍モル量のチオ硫酸ナトリウムを加えて反応を停止させた。その後、遊離のACE2タンパク質を除き、スパイクタンパク質に結合したACE2タンパク質の量を測定した。この測定には、ペルオキシダーゼで標識した抗ACE2抗体を用いた。この抗体を反応系に加えた後、ACE2タンパク質に結合した抗体の量を、ペルオキシダーゼを利用して測定した。すなわちペルオキシダーゼの基質を加えた後、生ずる化学発光の強度を、ルミノメーターを用いて測定した。
【0063】
結果
実験結果を以下の表に示す。
【表1】
表1に示すとおり、二酸化塩素の濃度依存的に、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質とACE2タンパク質との結合が阻害された。なお、今回試験を行った中で最も低い二酸化塩素濃度である0.25mM(約17ppm(w/w))の場合においても、スパイクタンパク質とACE2タンパク質の結合は有意の低下した(p<0.01;0mMに対するt検定)。
【0064】
以上の結果から、二酸化塩素はSARS-CoV-2のスパイクタンパク質とACE2タンパク質との結合を阻害する作用を有することが示された。
【要約】 (修正有)
【課題】SARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質とACE2タンパク質との相互作用を阻害し得る化合物等を提供する。
【解決手段】SARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質とアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)タンパク質との結合を阻害するための組成物であって、有効量の二酸化塩素を含む、組成物を提供する。
【選択図】なし