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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】放射パターン測定システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 29/10 20060101AFI20220111BHJP
【FI】
G01R29/10 A
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2017067024
(22)【出願日】2017-03-30
(65)【公開番号】P2018021893
(43)【公開日】2018-02-08
【審査請求日】2020-03-24
(31)【優先権主張番号】62/369,381
(32)【優先日】2016-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】15/371,128
(32)【優先日】2016-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505141602
【氏名又は名称】ローデ ウント シュワルツ ゲーエムベーハー ウント コー カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100104662
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智司
(72)【発明者】
【氏名】タンキールン アダム
(72)【発明者】
【氏名】バルトコ ヘンドリック
(72)【発明者】
【氏名】ローウェル コーベット
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-135773(JP,A)
【文献】米国特許第7876276(US,B1)
【文献】Tomas Mikulasek; Jan Puskely,“Error Analysis of Phase Retrieval Method Combining Global and Local Approaches”,Proceedings of 13th Conference on Microwave Techniques COMITE 2013,2013年04月17日,pp. 128-133,DOI: 10.1109/COMITE.2013.6545056
【文献】S. Farhad Razavi; Yahya Rahmat-Samii,“A New Look at Phaseless Planar Near-Field Measurements: Limitations, Simulations, Measurements, and a Hybrid Solution”,IEEE Antennas and Propagation Magazine,2007年04月,Vol. 49, No. 2,pp. 170-178,DOI: 10.1109/MAP.2007.376625
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 29/08-29/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナ素子を備えたアンテナアレイの放射パターンを、与えられる、振幅、周波数及び位相が一定の静的試験信号をもとに測定するシステムであって、
前記試験信号で駆動されたときに前記アンテナ素子が放射する信号の大きさを第1の面及び第2の面で測定する、又は前記第1の面及び第2の面から前記アンテナ素子に前記試験信号を放射する1つ以上のプローブを備えてなり、
前記1つ以上のプローブが前記試験信号を放射する場合、前記アンテナ素子は前記1つ以上のプローブが放射する信号を受信してそれぞれの測定された大きさを提供し、
さらに、測定された大きさをもとに前記アンテナアレイの放射パターンを計算するパターン計算部を備え
前記アンテナアレイの前記各アンテナ素子の最小の距離をΔdとして、前記第1の面の前記アンテナ素子までの第1の距離はΔdとΔdの2倍の間であり、前記第2の面の前記アンテナ素子までの第2の距離はΔdの2倍より大きいシステム。
【請求項2】
前記第1の面の前記アンテナ素子までの距離は、測定される大きさから前記各アンテナ素子を区別できる距離であり、前記第2の面の距離は、測定される大きさから前記各アンテナ素子を区別できない距離である請求項1記載のシステム。
【請求項3】
前記アンテナアレイはレドームを備え、前記第1の距離は前記レドームの外面の前記アンテナアレイまでの距離である請求項1記載のシステム。
【請求項4】
前記第1の距離で用いられる前記1つ以上のプローブの開口は、前記第2の距離で用いられる前記1つ以上のプローブの開口より小さい請求項1記載のシステム。
【請求項5】
前記第1の距離又は前記第2の距離で用いられる前記1つ以上のプローブの開口は、それぞれ、該第1の距離又は第2の距離における弧セグメントの2つの終点の距離と定義され、前記弧セグメントは、角度
からなり、ここで、λは前記試験信号の波長であり、Lmaxは、前記アンテナアレイを囲む最小の球の半径である請求項記載のシステム。
【請求項6】
前記第1の距離で用いられる前記1つ以上のプローブの開口は、
と定義され、ここで、λは前記試験信号の波長である請求項記載のシステム。
【請求項7】
前記第2の距離で用いられる前記1つ以上のプローブの開口は、
と定義され、ここで、D2は前記第2の距離であり、λは前記試験信号の波長であり、Lmaxは、前記アンテナアレイを囲む最小の球の半径である請求項記載のシステム。
【請求項8】
前記第1の面及び前記第2の面は、球又は楕円体又は円柱又は平面の少なくとも一部分からなる請求項1記載のシステム。
【請求項9】
前記第1の面と前記第2の面とは異なる形状を有する請求項8記載のシステム。
【請求項10】
第1の軸を中心として回転可能であり、前記第1の軸から前記第1の距離に少なくとも1つのプローブと、前記第1の軸から前記第2の距離に少なくとも1つの他のプローブとを備えた機械的構造体を備えた請求項1記載のシステム。
【請求項11】
振幅、周波数及び位相が一定の静的試験信号が与えられる複数のアンテナ素子を備えたアンテナアレイの放射パターンを測定するための方法であって、
前記試験信号で駆動されたときに前記アンテナ素子が放射する信号の大きさを、第1の面及び第2の面で1つ以上のプローブを用いて測定すること、又は前記1つ以上のプローブを用いて前記第1の面及び第2の面から前記アンテナ素子に前記試験信号を放射することを備えてなり、
前記1つ以上のプローブが前記試験信号を放射する場合、前記アンテナ素子は前記プローブが放射する信号を受信してそれぞれの測定された大きさを提供し
さらに、測定された大きさをもとに前記アンテナアレイの放射パターンを計算することを備え
前記アンテナアレイの前記各アンテナ素子の最小の距離をΔdとして、前記第1の面の前記アンテナ素子までの第1の距離はΔdとΔdの2倍の間であり、前記第2の面の前記アンテナ素子までの第2の距離はΔdの2倍より大きい方法。
【請求項12】
前記第1の面の前記アンテナ素子までの距離は、測定される大きさから前記各アンテナ素子を区別できる距離であり、前記第2の面の距離は、測定される大きさから前記各アンテナ素子を区別できない距離である請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記アンテナアレイはレドームを備え、前記第1の距離は前記レドームの外面の前記アンテナアレイまでの距離である請求項11記載の方法。
【請求項14】
前記第1の距離で用いられる前記1つ以上のプローブの開口は、前記第2の距離で用いられる前記1つ以上のプローブの開口より小さい請求項11記載の方法。
【請求項15】
前記第1の距離又は前記第2の距離で用いられる前記1つ以上のプローブの開口は、それぞれ、該第1の距離又は第2の距離における弧セグメントの2つの終点の距離と定義され、前記弧セグメントは、角度
からなり、ここで、λは前記試験信号の波長であり、Lmaxは、前記アンテナアレイを囲む最小の球の半径である請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記第1の距離で用いられる前記1つ以上のプローブの開口は、
と定義され、ここで、λは前記試験信号の波長である請求項14記載の方法。
【請求項17】
前記第2の距離で用いられる前記1つ以上のプローブの開口は、
と定義され、ここで、D2は前記第2の距離であり、λは前記試験信号の波長であり、Lmaxは、前記アンテナアレイを囲む最小の球の半径である請求項14記載の方法。
【請求項18】
前記第1の面及び前記第2の面は、球又は楕円体又は円柱又は平面の少なくとも一部分からなる請求項11記載の方法。
【請求項19】
前記第1の面と前記第2の面とは異なる形状を有する請求項18記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナアレイの放射パターンを測定するためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、無線信号を使用するあらゆるシステムに適用可能であるが、無線通信装置の試験と組み合わせて説明する。
【0003】
現代の無線通信装置は、無線周波数信号を使ってデータや音声を送信している。このような無線通信装置の製造業者は、常に、通信装置の効率の向上に努めると同時に法的規制や規格要求事項を満たさなくてはならない。
【0004】
したがって、このような通信装置に対して、開発中や生産中、生産後に広範な試験が行われている。このような試験は、品質保証及びコンプライアンス試験の役割を果たしている。ある試験は、装置のアンテナアレイの遠方界を測定することを備える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
RF装置の遠方界の試験を改良する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複数のアンテナ素子、即ち、2つ以上のアンテナ素子を備えたアンテナアレイの放射パターンを、与えられる試験信号をもとに測定するシステムを提供する。このシステムは、前記試験信号で駆動されたときに前記アンテナ素子が放射する信号の大きさを第1の面及び第2の面で測定する、又は前記第1の面及び第2の面から前記アンテナ素子に前記試験信号を放射する多数の、即ち、1つ以上のプローブを備える。前記プローブが前記試験信号を放射する場合、前記アンテナ素子は前記プローブが放射する信号を受信してそれぞれの測定された大きさを提供する。前記第1の面の前記アンテナ素子までの第1の距離は、前記第2の面の前記アンテナ素子までの第2の距離より小さい。また、前記システムは、測定された大きさをもとに前記アンテナアレイの放射パターンを計算するパターン計算部を備える。
【0007】
本発明は、さらに、複数のアンテナ素子を備えたアンテナアレイの放射パターンを、与えられる試験信号をもとに測定するための方法を提供する。この方法は、前記試験信号で駆動されたときに前記アンテナ素子が放射する信号の大きさを、第1の面及び第2の面で多数の、即ち、1つ以上のプローブを用いて測定すること、又は前記プローブを用いて前記第1の面及び第2の面から前記アンテナ素子に前記試験信号を放射することを備える。前記プローブが前記試験信号を放射する場合、前記アンテナ素子は前記プローブが放射する信号を受信してそれぞれの測定された大きさを提供する。前記第1の面の前記アンテナ素子までの第1の距離は、前記第2の面の前記アンテナ素子までの第2の距離より小さい。また、前記方法は、測定された大きさをもとに前記アンテナアレイの放射パターンを計算することを備える。
【0008】
例えばスマートフォンやその他のモバイル機器のような現代の通信システム、特にいわゆる5G機器では、コンパクトなアンテナシステムを提供するためにアンテナアレイを用いることができる。このようなアンテナアレイは、ビームフォーミングを行うことが可能であり、モバイルデータ通信における信号品質又は信号強度の改良に有利である。
【0009】
既述のように、何かしらの規格のような法的な又はその他の規則を確実に遵守するために、例えば、アンテナアレイのエミッション、特に放射パターン又は遠方界を測定する必要がある。さらに、放射パターンは、例えば、プローブが試験信号を放射し、アンテナ素子が放射された試験信号を受信するときに、その受信方向で測定することも可能である。
【0010】
各測定値として振幅値及び位相値を含む近傍界の測定値から遠方界を計算することもできるが、振幅測定値に比べて、無線信号の位相を測定するのは技術的にはるかに複雑である。
【0011】
したがって、本発明は、振幅測定値のみをもとにアンテナアレイの放射パターンを測定可能なシステムを提供する。
【0012】
振幅情報のみからなる近傍界の測定値をもとに遠方界を計算するために、本発明は、アンテナ素子に対して第1の距離を有する第1の面と、アンテナ素子に対して第2の距離を有する第2の面において、アンテナ素子のエミッションを測定する。ここでの「面」は、プローブを移動させる仮想面を指す。前記面は、3次元空間における平面又は各種曲面とすることができる。前記面は、アンテナ素子の全放射電力の少なくとも50%、60%、70%、80%又はそれ以上、例えば90%を通過する又は覆うように形成することができる。
【0013】
他方の方向における測定値も可能である。これは、プローブにより試験信号が放射され、アンテナアレイのアンテナ素子がこれを受信するということである。この場合、アンテナアレイは、信号の大きさを測定し、測定した大きさを直接提供する、又は受信した信号を、例えば試験用コネクタ又は無線により、単に転送することで測定した大きさをシステム又は試験システム内の測定部に間接的に提供する測定部を備えることができる。
【0014】
パターン計算部は、例えば、拡張されたPlane Wave Based Fast Irregular Antenna Field Transformation Algorithm,FIAFTAを用いてアンテナパターン、即ち、アンテナの遠方界を計算することができる。このようなアルゴリズムは、例えば、Carlos Lopez他著,「Extending the Plane Wave Based Fast Irregular Antenna Field Transformation Algorithm for Amplitude-Only Data」に開示されている。この刊行物の内容は、参照によりその全体が本明細書に援用される。FIAFTAアルゴリズムについてのさらなる説明は、例えば、A.D.Yaghjian著,「An overview of near-field antenna measurements」、及び「A new look at phaseless planar near-field measurements: limitations, simulations, measurements, and a hybrid solution」,IEEE Antennas Propag,第49巻,第2号,p.170-178に見られる。これらの刊行物の内容は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0015】
したがって、本発明は、大きさのみを測定し、位相は必ずしも測定しないが位相の測定も可能な単純なプローブとともに動作可能なシステムを提供する。このような単純なプローブは開発及び作成がより容易であるため、システムの複雑さを低減するだけでなく、より実用的なシステムを可能にする。
【0016】
本発明の付加的な実施形態は、付加的な下位の請求項、及び図面を参照しながら以下の説明で扱う。
【0017】
可能な実施形態では、試験信号は、アンテナ素子に加えられると、該アンテナ素子を駆動して静的RF信号、即ち、一定の振幅、一定の周波数及び一定の位相を有する信号を放射させることができる。
【0018】
可能な実施形態では、試験信号は、アンテナアレイの信号処理部に対するデジタル指令信号として与えることができる。信号処理部は、例えばスマートフォンの送受信機などとすることができ、試験信号を受信して、該試験信号内の情報に従って、各アンテナ素子を駆動するための各RF信号を生成する。
【0019】
可能な実施形態では、試験信号は、各アンテナ素子を直接駆動するためのRF信号として与えることができる。この場合の「直接」は、信号は、例えば送受信機によって、指令から実際のRF信号に変換されるのではないということを意味する。「直接」とは、信号生成器が、例えば試験用コネクタを介して、アンテナアレイに直接連結されていることを意味することもできるが、必ずしもそうとは限らない。信号生成器は、例えば、システムの一部、又は例えば、スマートフォンなどの被試験装置のユニットとすることができる。
【0020】
可能な実施形態では、第1の面のアンテナ素子までの第1の距離は、測定される大きさから各アンテナ素子を区別できる距離とすることができる。さらに、第2の面の第2の距離は、測定される大きさから各アンテナ素子を区別できない距離とすることができる。測定される大きさから各アンテナ素子を区別できる場合、各アンテナ素子のそれぞれについてその影響を詳細に測定することができる。対照的に、第2の距離では、重ね合されて生じる領域を測定することができる。これら2つのタイプの異なる情報は、後の、アンテナアレイの遠方界の計算の確かな基礎を提供する。
【0021】
可能な実施形態では、第1の距離は、試験信号の波長をλとして、λ/2より小さくすることができる。第2の距離は、λ/2より大きくすることができる。
【0022】
可能な実施形態では、素子間の間隔は均一であっても不均一であってもよいアンテナアレイの各アンテナ素子の最小の距離をΔdとして、第1の距離は、ΔdとΔdの2倍の間とすることができる。第2の距離は、Δdの2倍より大きくすることができる。第1の距離及び第2距離は変動可能とすることができる、即ち、一定ではないことが理解される。これは、各面が、すべての箇所においてアンテナアレイから等距離で間隔を空けているのではないことを暗に示してもいる。これは、特に、楕円形又は円形の底面を有する円柱の円筒壁のような曲面の場合に当てはめることができる。
【0023】
可能な実施形態では、アンテナアレイはレドームを備えることができ、第1の距離は、レドームの外面のアンテナアレイまでの距離とすることができる。つまり、プローブは、レドームの外面上をスライド可能又はレドームに略当接可能である。
【0024】
可能な実施形態では、第1の距離で用いられるプローブの開口は、第2の距離で用いられるプローブの開口より小さくすることができる。
【0025】
可能な実施形態では、第1の距離で用いられるプローブの開口は、それぞれ、第1の距離又は第2の距離における弧セグメントの2つの終点の距離と定義することができる。前記弧セグメントは、角度
からなることができ、ここで、λは、例えば測定媒体(通常は自由空間)における試験信号の波長であり、Lmaxは、アンテナアレイ又はアンテナアレイを支える装置を囲む最小の球の半径である。
【0026】
可能な実施形態では、第1の距離で用いられるプローブの開口は、
と定義することができ、ここで、λは、例えば測定媒体(通常は自由空間)における試験信号の波長である。
【0027】
可能な実施形態では、第2の距離で用いられるプローブの開口は、
と定義することができ、ここで、D2は第2の距離であり、λは、例えば測定測媒体(通常は自由空間)における試験信号の波長であり、Lmaxは、アンテナアレイ又はアンテナアレイ支える装置を囲む最小の球の半径である。
【0028】
可能な実施形態では、第1の面及び/又は第2の面は、球及び/又は楕円体及び/又は円柱及び/又は平面の少なくとも一部分からなり、特に、第1の面及び/又は第2の面は異なる形状からなる。
【0029】
可能な実施形態では、前記システムは、第1の軸を中心として回転可能であり、前記第1の軸から前記第1の距離に少なくとも1つのプローブと、前記第1の軸から前記第2の距離に少なくとも1つの別のプローブとを備えた機械的構造体を備えることができる。この機械的構造体は、例えば、前記第1の距離及び第2の距離のプローブを、前記第1の軸の両側に該第1の軸に向けて備えることができる。前記機械的構造体は、さらに、該機械的構造体を回転させた際に前記第1の距離におけるプローブにより形成される円柱の架空の上面及び底面に配置されるプローブを備えることができる。前記機械的構造体を前記第1の軸を中心として回転させる際、前記第1の距離及び前記第2の距離のプローブはそれぞれ円筒壁上を移動し、一方、前記第1の軸上を中心とするプローブは、第1の距離により得られる円柱の上面及び底面を対象とする。したがって、前記機械的構造体は、被試験装置を第1の軸上に配置した1度の回転だけで必要な詳細を記録することを可能にする。
【0030】
他のあらゆる機械的構造物を用いることも可能であることが理解される。例えば、ロボットアームのような構造物を用いてプローブを被試験装置の周囲で移動させることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
次に、本発明及びその利点がより完全に理解されるように、添付の図面と共に挙げる以下の説明に言及する。本発明は、次の図面の概略図に特定される例示的な実施形態を用いて以下により詳細に説明される。
【0032】
図1】本発明とともに用いるアンテナアレイのブロック図を示す。
図2】本発明とともに用いる別のアンテナアレイのブロック図を示す。
図3】本発明にかかるシステムに実施形態のブロック図を示す。
図4】本発明にかかるシステムの他の実施形態のブロック図を示す。
図5】本発明にかかる方法の実施形態のフロー図を示す。
図6】別のアンテナアレイの図を示す。
【0033】
図において、特に明記しない限り、同様の参照符号は同様の要素を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は、5つのアンテナ素子2,3を備えたアンテナアレイ1を示している。簡略化を目的として、最初及び最後のアンテナ素子2,3にのみ参照符号を付している。
【0035】
アンテナ素子2,3は一列に配置されている。つまり、アンテナアレイ1は、各アンテナ素子2,3が垂直方向の軸上に位置する一次元アンテナアレイ1である。各アンテナ素子2,3は距離Δd1離れて位置している。
【0036】
図1では、アンテナアレイ1から第1の距離D1の位置に第1の面5を点線で示している。さらに、アンテナアレイ1から第2の距離D2の位置に第2の面6を点線で示している。これら2つの面5,6は、アンテナアレイの中心軸又は他の適切な軸を中心として前記点線を(矢示のように)回転させることにより形成される。
【0037】
図1では、2つの面5,6は同じ形状を有する必要がないことが分かる。ここでは、第1の面5は円筒形状を有し、一方、第2の面6は球形状を有する。尚、あらゆる形状の組み合わせが可能である。
【0038】
前記各点線をそれぞれの軸を中心として360°回転させることにより測定を行うことができる。しかしながら、前記点線を360°回転する必要はない。アンテナ素子2,3が放射する電力が各面5,6に所定量含まれているという条件下で回転を小さくすることが可能である。各面に含まれる放射電力が増えるほど、計算される遠方界の精度が良くなる。
【0039】
図2は、本発明とともに用いられる別のアンテナアレイ10を示している。アンテナアレイ10は、4列5行で設けられるアンテナ素子11,12,13、即ち、20個のアンテナ素子11,12,13を備えている。
【0040】
図2では、アンテナ素子11,12,13の垂直方向の距離Δd1がアンテナ素子11,12,13の水平方向の距離Δd2より大きいことが分かる。
【0041】
本発明のシステムをこのようなアンテナアレイ10と用いる場合、前記距離Δd1,Δd2をもとに計算されるすべての値を、例えば、これらの距離の小さい方の距離をもとに計算することが可能である。
【0042】
図3は、図1に示したような、複数のアンテナ素子2,3を備えたアンテナアレイ1の放射パターンを測定するためのシステム100を示している。このシステム100は他のあらゆるアンテナアレイとともに使用可能であることが理解される。
【0043】
このシステム100は、各アンテナ素子2,3を駆動するための試験信号102を生成する信号生成器101を備えている。試験信号102は、アンテナ素子2,3を駆動して、静的RF信号、即ち、振幅、位相及び周波数が一定のRF信号を放射させる。図3では、信号生成器101は破線で示している。これは、信号生成器101は、ある実施形態ではシステム100の一部とすることができることを示している。しかしながら、信号生成器101は、例えば被試験装置の一部として、システム100の外部に置くことも可能である。信号生成器101は、例えば、試験されるスマートフォンに組み込むことが可能である。
【0044】
試験信号102は、例えば、アンテナアレイ1の信号処理部(別途図示せず)に対するデジタル指令信号として与えることができる。このような指令信号は、信号処理部、例えば送受信機に、アンテナ素子2,3をそれぞれのRF信号で駆動するために必要な情報を提供する。別の方法として、試験信号102は、各アンテナ素子2,3を駆動するためのRF信号として与えることができる。この場合、該RF信号は、信号処理部ではなく信号生成器101で生成される。
【0045】
システム100は、さらに、2つのプローブ103,104を備えている。2つのプローブ103,104という数は例示的に選択したにすぎず、システム100で用いるプローブの数はいくつであってもよい。プローブ103,104は、各アンテナ素子2,3が放射する信号の大きさ105,106を測定する。
【0046】
プローブ103,104は、アンテナアレイ1から2つの異なる距離D1,D2に位置しており、試験信号102で駆動されたときにアンテナ素子2,3が放射する信号の大きさを測定する。
【0047】
プローブ103,104は、アンテナアレイ1に対して相対的に移動可能である。「相対的に移動可能」とは、プローブ103,104及びアンテナアレイ1のいずれか一方又は両方が移動可能であるということを意味する。移動しながら、プローブ103は第1の面(図1の5を参照)上で走査を行う。プローブ104は、第2の面(図1の6を参照)上で走査を行う。ある実施形態では、1つのプローブ103,104を設け、これを移動させて第1の面及び第2の面上で走査を行うことができることが理解される。対応する機械的移動構造体を設けることができる。
【0048】
第1の面5のアンテナ素子2,3までの距離D1は、第2の面6のアンテナ素子2,3までの距離D2より小さい。
【0049】
第1の面5及び第2の面6はあらゆる形状とすることができる。これらは、特に、球、楕円体又は円柱の少なくとも一部分からなることができる。特に、第1の面5と第2の面6とは異なる形状からなることができる。
【0050】
第1の面5のアンテナアレイ1又はアンテナ素子2,3までの距離D1は、測定される大きさ105から各アンテナ素子を区別できる距離とすることができる。一方、第2の面6のアンテナアレイ1又はアンテナ素子2,3までの距離は、測定される大きさ106から各アンテナ素子2,3を区別できない距離とすることができる。
【0051】
第1の距離は、特に、各アンテナ素子2,3の距離ΔdとΔdの2倍の間とすることができる。上記で図2を参照して説明したように、各アンテナ素子2,3間に2つの異なる距離が存在する場合には、小さい方の距離をΔdとして選択することができる。レドームとも呼ばれるカバーを備えたアンテナアレイ1もある。このようなアンテナアレイ1では、第1の距離D1は、レドームの外面のアンテナアレイ1までの距離とすることができる。
【0052】
プローブ103,104は、例えば、アンテナからなることができる。第1の距離D1で用いられるプローブ103、即ち、そのアンテナの開口は、第2の距離D2で用いられるプローブ104の開口より小さくすることができる。
【0053】
プローブ103,104の開口は、例えば、それぞれ、第1の距離又は第2の距離における弧セグメントの2つの終端の距離と定義することができ、前記弧セグメントは、角度
からなり、ここで、λは試験信号の波長であり、をLmaxは、アンテナアレイ1,10を囲む最小の球の半径である。この計算については、図6を参照してさらに説明する。
【0054】
第1の距離D1で用いられるプローブ103の開口の計算の別の態様は、
と定義され、ここで、λは試験信号102の波長である。この場合、第2の距離D2で用いられるプローブ104の開口は、
と定義することができ、ここで、D2は第2の距離であり、λは試験信号の波長であり、Lmaxは、アンテナアレイを囲む最小の球の半径である。この計算についても、図6を参照してさらに説明する。
【0055】
システム100は、さらに、第1の距離D1及び第2の距離D2で測定された大きさ105,106をもとにアンテナアレイ1の放射パターン108を計算するパターン計算部107を備えている。パターン計算部107は、複数の異なるサブユニット、モジュール又は機能を備えることができることが理解される。このようなサブユニットは、例えば、空間における複数の測定点でプローブ信号の大きさを測定するパターン測定ユニットと、近傍界大きさパターンとも見なされる測定された大きさの後処理を行うパターン計算機とすることができる。
【0056】
パターン計算部107は、例えば、拡張されたPlane Wave Based Fast Irregular Antenna Field Transformation Algorithm,FIAFTAを用いてアンテナパターン、即ち、アンテナの遠方界を計算することができる。このようなアルゴリズムは、例えば、Carlos Lopez他著,「Extending the Plane Wave Based Fast Irregular Antenna Field Transformation Algorithm for Amplitude-Only Data」に開示されている。この刊行物の内容は、参照によりその全体が本明細書に援用される。FIAFTAアルゴリズムについてのさらなる説明は、例えば、A.D.Yaghjian著,「An overview of near-field antenna measurements」、及び「A new look at phaseless planar near-field measurements: limitations, simulations, measurements, and a hybrid solution」,IEEE Antennas Propag,第49巻,第2号,p.170-178に見られる。これらの刊行物の内容は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0057】
図4は、複数のアンテナ素子を備えたアンテナアレイの放射パターンを測定するための別のシステム200のブロック図を示している。図4では、アンテナアレイを示していないが、試験のために軸201上にアンテナアレイを配置することができる。
【0058】
代わりに、機械的構造体202が示されており、これは一種の門を形成している。つまり、この機械的構造体202は、接地板210に取り付けられており、2つの側柱211,212を備えており、1つの縦方向の柱214が2つの側柱211,212をその下端で接続しており、1つの縦方向の柱213が側柱211,212をその上端で接続している。
【0059】
機械的構造体202は、軸201を中心として回転可能に取り付けられている。この軸201は接地板210の中心に位置していない。代わりに、軸201は偏心的に位置している。つまり、第1の柱212は、軸201から第1の距離D1だけ離れている。第2の柱211は、軸201から第2の距離D2だけ離れている。接地板210が回転すると、柱212は、第1の距離D1において、軸201上又はその近傍に位置する被試験装置DUTの周囲を円形移動する。柱211は、第2の距離D2においてDUTの周囲を円形移動する。
【0060】
さらに、構造体202を水平方向及び垂直方向に直線移動させて測定プローブ203乃至209を閉曲面上に配置し、測定の空間分解能を向上させることができる。これは、例えば、リニアアクチュエータ又は直線移動機構(明示せず)により実現することができる。
【0061】
柱211,212上のプローブ203乃至207は、機械的構造体201の回転時にそれぞれの距離D1,D2においてDUTの周囲を移動するように位置している。縦方向の柱213,214上のプローブ208,209は、軸201上又はその近傍に取り付けられており、DUTの上面及び底面を対象とする。全プローブ203乃至209は、軸201、即ち、DUTに焦点が合わされる。
【0062】
図4の機械的構造体は、例えば、図3にかかるシステムの一部とすることができる。プローブ203乃至209の配置は例示的なものにすぎないことが理解される。プローブは、各DUTに合わせて、機械的構造体200のどの柱211,212,213,214にいくつ配置してもよい。さらに、機械的構造体200のあらゆる部分を改変することができる。例えば、接地板210を下方の縦方向の柱214に代えることもでき、縦方向の柱を省略することもできる。異なる距離のプローブを同時に回転させることができれば、どのような機械的構造体でも機械的構造体200の目的が果たされる。
【0063】
図5は、複数のアンテナ素子2,3,11,12,13を備えたアンテナアレイ1,10の放射パターン108を測定するための方法のフロー図を示している。
【0064】
この方法は、試験信号102を生成してS1、生成された試験信号102でアンテナ素子2,3,11,12,13を駆動することを備える。試験信号102は、アンテナ素子2,3,11,12,13に加えられると、該アンテナ素子2,3,11,12,13を駆動して静的RF信号を放射させることができる。試験信号102は、例えば、アンテナアレイ1,10の信号処理部に対して各RF信号を生成させるデジタル指令信号とすることができる。或いは、試験信号102は、各アンテナ素子2,3,11,12,13を直接駆動するためのRF信号として与えることができる。
【0065】
さらに、試験信号102で駆動されたときにアンテナ素子2,3,11,12,13が放射する信号の大きさ105,106が、第1の面5及び第2の面6において多数のプローブ103,104,203乃至209で測定されるS2。第1の面5のアンテナ素子2,3,11,12,13までの第1の距離D1は、第2の面6のアンテナ素子2,3,11,12,13までの第2の距離D2より小さい。第1の面及び第2の面は、球、楕円体又は円柱の少なくとも一部分からなることができ、第1の面と第2の面とは異なる形状からなることができる。
【0066】
第1の面のアンテナ素子2,3,11,12,13までの第1の距離D1は、測定される大きさ105,106から各アンテナ素子2,3,11,12,13を区別できる距離とすることができる。さらに、第2の面の第2の距離D2は、もはや測定される大きさ105,106から各アンテナ素子2,3,11,12,13を区別できない距離とすることができる。
【0067】
第1の距離D1は、例えば、各アンテナ素子2,3,11,12,13間の距離をΔdとすると、ΔdとΔdの2倍の間とすることができる。アンテナアレイ1,10がレドームを備える場合、第1の距離D1は、レドームの外面のアンテナアレイ1,10までの距離とすることができる。
【0068】
プローブ103,104,203乃至209は、例えば、アンテナとすることができる。このとき、第1の距離D1で用いられるプローブ103,104,203乃至209の開口は、第2の距離D2で用いられるプローブ103,104,203乃至209の開口より小さくすることができる。
【0069】
例えば、第1の距離D1又は第2の距離D2で用いられるプローブ103,104,203乃至209の開口は、それぞれ、第1の距離D1又は第2の距離D2における弧セグメントの2つの終点の距離と定義することができ、前記弧セグメントは、角度
からなり、ここで、をλは試験信号102の波長であり、Lmaxは、アンテナアレイ1,10を囲む最小の球の半径である。
【0070】
第1の距離D1で用いられるプローブ103,104,203乃至209の開口についての代替式は、
であり、ここで、λは試験信号102の波長である。
【0071】
第2の距離D2で用いられるプローブ103,104,203乃至209の開口について、代替公式は、
であり、ここで、D2は第2の距離であり、λは試験信号102の波長であり、Lmaxは、アンテナアレイ1,10を囲む最小の球の半径である。
【0072】
最後に、第1の面及び第2の面において測定された大きさ105,106をもとに、アンテナアレイ1,10の放射パターン108が計算されるS3。
【0073】
図6は、別のアンテナアレイ600の図を示している。このアンテナアレイ600は、該アンテナアレイ600の周囲に一致する最小の円601に囲まれている。この円は、半径602を有する。
【0074】
図6の図は、アンテナアレイ600のエミッションの測定に用いられるプローブの開口を計算する態様を説明する役割を果たす。
【0075】
同図には、角度αの弧セグメントが描かれている。角度αは、以下のように計算することができる。
ここで、Lmaxは円601の半径である。
【0076】
次に、第1の距離D1で用いられるプローブの開口は、
より小さくなるように計算することができる。
【0077】
次に、距離D1で用いられるプローブの開口は、
となるように計算することができる。
【0078】
別の方法として、各プローブの開口は、各弧セグメントの終点603,604又は605,606間の距離と同じ大きさとすることが可能である。
【0079】
別の方法として、完全なDTUの周囲の最小の円を上記計算の基礎として用いることが可能である。
【0080】
本明細書では具体的な実施形態を説明したが、当業者には、多様な代替の且つ/又は同等の実施物が存在することが認識されるであろう。上記の例示的な実施形態は、例にすぎず、決して、範囲、利用可能性又は構造を限定するよう意図されたものでないことが認識されるべきである。むしろ、上記概説及び詳細な説明は、当業者に対して、少なくとも1つの例示的な実施形態を実施するのに便利なロードマップを提供するものであり、添付の特許請求の範囲及びその法的同等物に記載されるような範囲を逸脱することなく、例示的な実施形態で説明した要素の機能及び配置において様々な変更を加えることができることが理解されるだろう。全体として、本願は、本明細書で論じた具体的な実施形態のあらゆる適合形態又は変化形態を包括するように意図されている。
【0081】
上記の詳細な説明では、開示の効率化を目的として、1又は複数の例において様々な特徴をグループ化している。上記の説明は、説明に役立つよう意図されたものであり、制限的となるよう意図されたものではないことが理解される。本発明の範囲に含むことができるすべての代替物、変形物及び同等物を包括することが意図されている。当業者には、上記明細書を検討することにより、多くの他の例が明らかになるであろう。
【0082】
上記明細書で用いた具体的な術語は、本発明の完全な理解を提供するために用いたものである。しかしながら、本明細書に照らして、当業者には、具体的詳細は本発明を実行するために必要でなないことが明らかになるであろう。かくして、上記の本発明の具体的な実施形態の記述は説明を目的として提示したものである。これらは、完全で余地がないこと、又は本発明を開示した形態そのものに限定することを意図されたものではなく、上記教示に鑑みて、多くの変形形態及び変化形態が可能であることが明らかである。上記実施形態は、他の当業者が、考えられる特定の使用に適合するように本発明及び様々な変形を伴った様々な実施形態を最良に活用できるように、本願の原理及びその実際の適用を最良に説明するために選択して説明したものである。本明細書全体を通して、「including」及び「in which」という語は、それぞれ、「comprising」及び「wherein」と同等の平易な英語として用いたものである。さらに、「第1」、「第2」、「第3」等は、単にラベルとして用いたものであり、それらの対象物に数値的要件を課すこと、又はある特定の重要性の順位付けを行うこと意図されたものではない。
【符号の説明】
【0083】
1 アンテナアレイ
2,3 アンテナ素子
5 第1の面
6 第2の面
10 アンテナアレイ
11,12,13 アンテナ素子
100 システム
101 信号生成器
102 試験信号
103,104 プローブ
105,106 大きさ
107 パターン計算部
108 放射パターン
200 システム
201 第1の軸
202 機械的構造体
203-209 プローブ
600 アンテナアレイ

図1
図2
図3
図4
図5
図6