(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】温度表示デバイス及び温度履歴管理ラベル
(51)【国際特許分類】
G01K 11/12 20210101AFI20220111BHJP
【FI】
G01K11/12 A
(21)【出願番号】P 2017189275
(22)【出願日】2017-09-29
【審査請求日】2020-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100166305
【氏名又は名称】谷川 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100171251
【氏名又は名称】篠田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】三本木 法光
(72)【発明者】
【氏名】谷 和夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 義則
(72)【発明者】
【氏名】山本 隆士
【審査官】平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-508153(JP,A)
【文献】特表2009-512597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上の時間情報印字予定部と、前記基材上の温度インジケータとを含み、前記温度インジケータは、フォトクロミック層を含
み、
前記時間情報印字予定部は、感熱記録層を含み、
前記フォトクロミック層は、前記感熱記録層上に位置し、
前記感熱記録層と前記フォトクロミック層の間に遮断層を含む
温度表示デバイス。
【請求項2】
前記フォトクロミック層の面積は、前記感熱記録層の面積より小さい、請求項
1に記載の温度表示デバイス。
【請求項3】
さらに、前記フォトクロミック層上の保護層を含む、請求項
1または2に記載の温度表示デバイス。
【請求項4】
前記保護層の面積は、前記フォトクロミック層の面積より大きい、請求項
3に記載の温度表示デバイス。
【請求項5】
さらに、前記基材における前記温度インジケータが形成されている面とは反対の面上に粘着層を備える、請求項1~
4のいずれか一項に記載の温度表示デバイス。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の温度表示デバイスの前記温度インジケータに光が照射されることにより前記温度インジケータが初期化されており、
前記温度インジケータが初期化された時刻が前記時間情報印字予定部に印字されている、温度履歴管理ラベル。
【請求項7】
前記時間情報印字予定部に印字された部分は、前記温度インジケータから少なくとも1mm離れている、請求項
6に記載の温度履歴管理ラベル。
【請求項8】
さらに、前記の初期化された時刻とは別の情報が印字されている、請求項
6又は
7に記載の温度履歴管理ラベル。
【請求項9】
前記時間情報印字予定部は、サーマルプリンタにより時刻が印字されている、請求項
6~
8のいずれか一項に記載の温度履歴管理ラベル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度表示デバイス及び温度履歴管理ラベルに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、食品及び医薬品等は、製造後又は開封後の経過時間や保存温度環境に注意しなければならないことが経験的によく理解されている。例えば乳製品は、製造時から急速に劣化する。製品の利用者は、製品を製造した企業により印刷又はプリンタ出力された情報により、製品の使用期限情報を認識している。
【0003】
また、医薬品の多くは、温度環境等の保管状態が適切に管理されなければならない。例えば、医薬品であるワクチンは、生物由来製品であり、その種類によって適切な保管状態が異なる。医薬品は、その保管状態が適切に管理されることで初めてその医薬品としての効果を発揮する。
【0004】
食品及び医薬品等の温度感受性の高い製品は、今後も増加することが予想されている。よってこれらの製品個々に対する適正な管理は、ますます重要である。温度感受性の高い製品が適切な温度下で管理されているかは、その製品を使用する個人のみならず、製品を製造及び販売等する企業によってもモニタリングされる必要がある。特に、温度感受性の高い製品が、適切でない温度下でどのくらいの時間保管されていたかを把握することは重要である。
【0005】
製品の製造工程、保管工程、及び配送工程等において、現状では、製品が管理される設備に設置される電子計測器を用いて温度管理されている。電子計測器を用いて温度管理をする場合、その温度履歴を記録するには、電子計測器をコンピュータ等に接続し、計測された温度履歴をコンピュータ等に出力する必要がある。
【0006】
温度管理としての電子計測器の利用は、バッテリー駆動型の動作原理であることから高コストであること、複雑な構成により装置が大型化することから、各製品に個別設置するのが困難であること、更に上述のように温度履歴を把握する操作が煩雑であり、取扱い上の簡便性がないことから本用途に適していない。
【0007】
他の温度管理用ツールとしては、示温インク材料を利用したサーモラベルがある。サーモラベルの取扱いは簡便性ではあるが、温度検知開始機能がない。示温インク材料は、発色反応が可逆性であるため、温度検知の対象や利用状況が限定される。また、サーモラベルは、高精度な温度測定が困難である。そのため、温度感受性の高い製品の保管時間並びに保管温度を簡便かつ正確に検知でき、その表示が可能なインジケータ、タグ、ラベル等が必要とされている。特許文献1には、フォトクロミック化合物を用いた温度履歴表示材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載される温度履歴表示材では、所定の経過時間における温度履歴が確認できる。しかし、実際に製品等の保管状態をモニタリングする場合には、任意の経過時間における製品等の温度履歴を確認できることが望まれる。
【0010】
本発明は、任意の経過時間における温度履歴を正確に表示できる温度表示デバイス及び温度履歴管理ラベルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]基材と、前記基材上の時間情報印字予定部と、前記基材上の温度インジケータとを含み、前記温度インジケータは、フォトクロミック層を含む、温度表示デバイス。
[2]前記時間情報印字予定部は、感熱記録層を含む、[1]に記載の温度表示デバイス。
[3]前記フォトクロミック層は、前記感熱記録層上に位置している、[2]に記載の温度表示デバイス。
[4]前記フォトクロミック層は、前記感熱記録層上であり、前記フォトクロミック層の一部が前記感熱記録層の一部に浸み込んでいる、[3]に記載の温度表示デバイス。
[5]さらに、前記感熱記録層と前記フォトクロミック層の間に遮断層を含む、[3]に記載の温度表示デバイス。
[6]前記フォトクロミック層の面積は、前記感熱記録層の面積より小さい、[2]~[5]のいずれか一項に記載の温度表示デバイス。
[7]さらに、前記フォトクロミック層上の保護層を含む、[1]~[6]のいずれか一項に記載の温度表示デバイス。
[8]前記保護層の面積は、前記フォトクロミック層の面積より大きい、[7]に記載の温度表示デバイス。
[9]さらに、前記基材における前記温度インジケータが形成されている面とは反対の面上に粘着層を備える、[1]~[8]のいずれか一項に記載の温度表示デバイス。
[10][1]~[9]に記載の温度表示デバイスの前記温度インジケータに光が照射されることにより前記温度インジケータが初期化されており、前記温度インジケータが初期化された時刻が前記時間情報印字予定部に印字されている、温度履歴管理ラベル。
[11]前記時間情報印字予定部に印字された部分は、前記温度インジケータから少なくとも1mm離れている、[11]に記載の温度履歴管理ラベル。
[12]さらに、前記の初期化された時刻とは別の情報が印字されている、[10]又は[11]に記載の温度履歴管理ラベル。
[13]前記時間情報印字予定部は、サーマルプリンタにより時刻が印字されている、[10]~[12]のいずれか一項に記載の温度履歴管理ラベル。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、任意の経過時間における温度履歴を正確に表示できる温度表示デバイス及び温度履歴管理ラベルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態における温度表示デバイスの平面図である。
【
図2】本発明の一実施形態における温度表示デバイスの断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態における温度インジケータの退色特性の一例を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態における温度表示デバイスの断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態における温度表示デバイスの断面図である。
【
図6】本発明の一実施形態における温度表示デバイスの断面図である。
【
図7】本発明の一実施形態における温度表示デバイスの断面図である。
【
図8】本発明の一実施形態における温度表示デバイスの断面図である。
【
図9】本発明の一実施形態における温度表示デバイスの断面図である。
【
図10】本発明の一実施形態における温度表示デバイスの平面図である。
【
図11】(A)は、本発明の一実施形態における温度表示デバイスの平面図であり、(B)は、本発明の一実施形態における温度表示デバイスが初期化されてから180分間経過後の温度インジケータ23a~23cのパターンと、温度管理の可否を判定した結果を示す図である。
【
図12】本発明の一実施形態に係る温度表示デバイスの発行装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の温度表示デバイス(温度履歴管理ラベル)について、図を参照して具体的に説明する。ただし、以下に説明する実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるため具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、発明内容を限定するものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、数や、位置や、大きさ等についての変更、省略、追加及びその他の変更が可能である。
【0015】
(温度表示デバイス)
以下、
図1及び
図2を参照して、本発明の一実施形態における温度表示デバイス(温度履歴管理ラベル)20について説明する。具体的には、サーマルプリンタを用いて印字が可能な温度表示デバイス20の態様について説明するが、本発明はこれに限定されず、インクジェットプリンタ等のサーマルプリンタ以外の印字装置により印字される構成であってもよい。
図1は、本発明の一実施形態における温度表示デバイス20の平面図である。
図2は、
図1の温度表示デバイス20のII-II断面図である。
【0016】
図1及び
図2に示すように、本実施形態の温度表示デバイス20は、台紙21と、参照部22と、温度インジケータ23と、時間情報印字予定部24と、情報印字部25とを含む。平面視において、参照部22と、温度インジケータ23と、時間情報印字予定部24と、情報印字部25とは、台紙21の面方向に並んでいる。台紙21は、基材31と、感熱記録層32とを有している。感熱記録層32は、基材31の第1の面31a上に位置する。本実施形態におけるフォトクロミック層33及び着色層34は、感熱記録層32上に位置している。
【0017】
温度表示デバイス20は、温度検知の対象となる製品等の対象物に貼付して使用することが想定されるため、対象物の仕様、サイズ、使用方法などに基づいて、台紙21の形状及び大きさが選択される。
【0018】
基材31の材質としては、ガラス、プラスチック、合成紙、上質紙、金属(アルミニウム等)などを挙げることができる。基材31は、合成紙又は上質紙であることが好ましい。温度表示デバイス20が低温下で使用され、結露が生じる可能性がある場合には、基材31として合成紙を使用することが好ましい。基材31として合成紙を使用すると、水分が基材31に染み込みにくく、基材としての強度が保たれる。
【0019】
基材31は、板状、箔状等であってよい。基材31は、可撓性を有することが好ましい。基材31は、温度インジケータ23に照射される光(例えば紫外線)に対して透過性であってもよいし、非透過性であってもよい。基材31は、例えば平面視略矩形のカード状であってよい。
【0020】
基材31の厚さは、感熱記録層32及びフォトクロミック層33を支持できる厚さであれば特に限定されないが、10μm~1.0mmであることが好ましく、より実用的な範囲として50μm~0.5mmであることが望ましい。
【0021】
基材31の材質は、感熱記録層32やフォトクロミック層33の形成方法や、感熱記録層32やフォトクロミック層33等の配置パターンを考慮して選択してもよい。
【0022】
感熱記録層32は、基材31上に位置する。感熱記録層32は、サーマルプリンタ等を用いて部分的に加熱されることにより変色し、印字される。
【0023】
感熱記録層32の厚さは、0.1μm~50μmであることが好ましく、より実用的な範囲として0.1μm~10μmであることが望ましい。感熱記録層32の厚さが0.1μm~50μmであることにより、印字品質が向上する。
【0024】
参照部22は、温度インジケータ23の色を特定するための指標となる基準色を呈する。目視により温度インジケータ23を参照部22と比較することによって、温度インジケータ23の色を判定することができる。参照部22は、着色層34を有している。
【0025】
本実施形態における着色層34は、感熱記録層32上に位置している。着色層34は、温度インジケータ23の色を特定するための指標となる基準色を呈している。着色層34の構成は特に限定されないが、外部環境(温度、光など)の影響で変色することなく所望の色強度(色濃度、明度)を維持でき、耐水性、耐光性に優れた材料(例えば顔料)を含んでいることが好ましい。
【0026】
温度インジケータ23は、特定の波長の光が照射されることにより初期化されて色強度(色濃度、明度)が変化する。温度インジケータ23は、フォトクロミック層33を少なくとも有している。本実施形態のフォトクロミック層33は、感熱記録層32上に位置している。
【0027】
フォトクロミック層33は、特定の波長の光が照射されることにより不可逆的に変色(有色化)し、熱により不可逆的に退色(消色)する材料であるフォトクロミック化合物を含んでいる。よって、温度インジケータ23に特定の波長の光を照射して変色させることにより、温度インジケータ23を初期化することができる。
【0028】
すなわち、温度表示デバイス20が実際に使用される直前に、温度インジケータ23に光を照射することによって温度表示デバイス20が初期化される。よって、温度表示デバイス20が保存される温度環境、すなわち温度表示デバイス20が初期化される以前における温度環境には制約が少ない。例えば、2℃程度の低温における温度検知をするための温度表示デバイス20であっても、常温(例えば25℃)における保存が可能である。
【0029】
フォトクロミック層33は、少なくともフォトクロミック化合物を含む。フォトクロミック化合物とは、エネルギーの低い基底状態(無色)から、紫外線等の光照射により励起状態となり、その後安定した異性体(有色)に不可逆的に変化する化合物である。さらに、この有色の異性体は、熱エネルギーによって退色する不可逆性を有している。この退色反応は、一定の熱エネルギー下で半永久的に継続する。つまり、フォトクロミック化合物の退色特性は、温度環境及び異性体に変化してからの経過時間に依存する。よって、フォトクロミック化合物に光照射することにより、有色の異性体に変化させることで温度表示デバイス20を初期化し、初期化時からの任意の経過時間と、フォトクロミック化合物の示す色を参照することによって、温度表示デバイス20(及び温度表示デバイス20が貼付された対象物)が曝された温度環境の推定判断が可能となる。
【0030】
フォトクロミック化合物としては、例えば、ジアリールエテン系、アゾベンゼン系、スピロピラン系、フルキド系が挙げられる。なかでも、ジアリールエテン系フォトクロミック化合物は、熱安定性、繰返し耐久性、熱に対して高感度であること、様々な温度で光反応可能であることなどの点で好ましい。ジアリールエテン系フォトクロミック化合物として、例えば一般式(1)に示す化合物が挙げられる。
【0031】
【化1】
[一般式(1)中、Xは硫黄原子(S)又はスルホニル基(SO
2)であり、Zは水素原子(H)又はフッ素原子(F)であり、R及びR’は同一又は異なっていてもよい炭素数1~6のアルキル基又は炭素数3~7のシクロアルキル基でありかつ少なくともいずれか一方が炭素数3~7の第二級アルキル基である。]
【0032】
上述のように、フォトクロミック化合物は、特定の波長の光、例えば紫外線(例えば波長250~400nm)の照射により有色となる。一般式(1)のフォトクロミック化合物は、紫外線照射により、2つのチオフェン環に結合する2つの置換基R(ここではR’=Rとする)が結合して環を形成(閉環)し有色となる。有色のフォトクロミック化合物は、所定の温度未満では安定であるが、当該温度以上の条件に曝される(加熱される)ことにより消色(退色)する。
【0033】
温度検知の信頼性を高める観点から、フォトクロミック化合物は、有色状態において可視光下で安定であることが好ましい。
【0034】
フォトクロミック層33に含まれるフォトクロミック化合物の割合は、フォトクロミック層33の全体の質量に対して、0.1~20質量%であることが好ましく、より実用的な範囲として1.0~10質量%であることが望ましい。フォトクロミック化合物の割合が0.1質量%以下であると、初期化濃度が薄くなって認識が悪くなるため、温度検知精度が低下する。フォトクロミック化合物の割合が20質量%以上であると、光照射による初期化の際、フォトクロミック化合物の反応率が低下し、未初期化部分が発生するため、温度特性が悪化してしまう。
【0035】
フォトクロミック層33は、フォトクロミック化合物に加え、バインダーを含んでいてもよい。バインダーの材料としては、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合体、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル、エポキシ樹脂、ニトロセルロース(硝化綿)、エチルセルロース、ポリアミド、イソプレンゴム等の環化ゴム、塩素化ポリオレフィン、マレイン酸樹脂、フェノール樹脂、ケトン樹脂、キシレン樹脂、石油樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネート等が挙げられる。上記の材料は、紫外線硬化性等の光硬化性の樹脂であってもよい。バインダーとしては、上記材料の中でもアクリル樹脂が好ましい。
【0036】
フォトクロミック層33の厚さは、2nm~50μmであることが好ましく、より実用的な範囲として10nm~30μmであることが望ましい。フォトクロミック層33の厚さが50μm以上であると、光照射による初期化の際、フォトクロミック層33における台紙21に近い部分に光が十分に到達せず、フォトクロミック化合物の反応率が低下し、未初期化部分が発生するため、温度特性が悪化してしまう。フォトクロミック層33の厚さが2nm以下であると、初期化濃度が薄くなり認識が悪く温度検知精度が低下する。
【0037】
時間情報印字予定部24は、温度インジケータ23が初期化された時刻等が印字される領域である。本実施形態における時間情報印字予定部24は、感熱記録層32を有している。
【0038】
図1の温度表示デバイス20は、発明をよりよく理解するために時間情報印字予定部24に時刻が印字された温度履歴管理ラベルを示しているが、温度インジケータ23が初期化される前においては、時刻は印字されておらず空白である。時間情報印字予定部24には、時刻の他に年、月、日が印字されてもよい。
【0039】
時間情報印字予定部24の他に、温度表示デバイス20が貼付される対象物の情報等が印字される領域である情報印字部25を設けてもよい。例えば、情報印字部25には温度表示デバイス20が貼付される対象物の製品名、対象物を個別に認識するための認証コード等を印字することができる。情報印字部25は、温度表示デバイス20が初期化される前に前記情報が印字されていてもよいし、温度インジケータ23が初期化される時に前記情報が印字されてもよい。本実施形態における情報印字部25は、時間情報印字予定部24と同様に感熱記録層32を有している。
【0040】
時間情報印字予定部24及び情報印字部25は、前記情報が文字として印字されるだけでなく、二次元バーコード等により暗号化されて印字されていてもよい。これにより、温度表示デバイス20が他の製品に張り替えられる等の改ざんを防止することが可能となり、温度表示デバイス20により示される温度履歴の信頼性が向上する。
【0041】
なお、時間情報印字予定部24及び情報印字部25は、サーマルプリンタにより印字され得る全範囲を示す。したがって、実際に印字される文字やパターンによっては、時間情報印字予定部24及び情報印字部25であっても、印字されない部分があってもよい。
【0042】
時間情報印字予定部24及び情報印字部25には、サーマルプリンタにより温度インジケータ23が初期化された時刻が印字される。サーマルプリンタを用いて印字する際、時間情報印字予定部24及び情報印字部25がサーマルプリンタによって加熱される。本実施形態においては、台紙21の面方向に、着色層34が温度インジケータ23と時間情報印字予定部24との間に配置されている。このような配置にすることにより、時間情報印字予定部24が印字される際、温度インジケータ23が熱の影響を受けにくい。しかしながら、本発明はこれに限定されず、温度インジケータ23と時間情報印字予定部24とが隣り合っていてもよい。この場合、温度インジケータ23と時間情報印字予定部24及び情報印字部25との距離を1mm以上とすることが好ましく、3mm以上とすることがより好ましく、5mm以上とすることがさらに好ましい。ここで、温度インジケータ23と時間情報印字予定部24との距離とは、温度インジケータ23の端部と、時間情報印字予定部24における実際に印される部分とが最も近接している部分の距離と定義する。温度インジケータ23と時間情報印字予定部24及び情報印字部25との距離が1mm以上であれば、サーマルプリンタを用いて印字した場合であっても、温度インジケータ23が加熱されることを回避することができる。温度インジケータ23と時間情報印字予定部24及び情報印字部25との距離が3mm以上であれば、サーマルプリンタの印字位置に誤差が生じる場合であっても温度インジケータ23の加熱を回避することができる。
【0043】
(温度表示デバイスの作製方法)
本発明の一態様における温度表示デバイス20の製造方法の一例を以下に説明する。
【0044】
基材31の上に、感熱記録層32を形成する。具体的には、基材31にロイコ染料、顕色剤及び溶媒を含む溶液を塗布し、乾燥することにより溶媒を除去し、感熱記録層32を形成する。なお、感熱記録層32を形成せず、市販の感熱紙を基材31及び感熱記録層32として用いてもよい。
【0045】
感熱記録層32上に、着色層34を形成する。着色層34を形成する方法としては、所望の色強度となるような顔料及び溶剤を含む溶液を調製し、この溶液を感熱記録層32上の一部に印刷した後、乾燥させる方法が挙げられる。
【0046】
感熱記録層32上に、フォトクロミック層33を形成する。フォトクロミック層33を形成する方法としては、フォトクロミック化合物、バインダー及び溶剤を含む溶液を調製し、この溶液を感熱記録層32上の一部に印刷した後、乾燥させる方法が挙げられる。
【0047】
フォトクロミック層33を形成する際に使用される溶媒は、フォトクロミック層33や感熱記録層32の材料に応じて決定されるが、例えばミネラルスピリット、石油ナフサ、テレピン油、n-ブチル、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、テトラリン、酢酸、酢酸メトキシブチル、アセトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、イソホロン、ジアセトンアルコール、イソプロピルアルコール(IPA)、n-ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、2-エトキシエタノール(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(セロソルブアセテート)、エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート(ブチルセロソルブアセテート)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)等が挙げられる。これらの材料を二種以上混合して溶剤として用いてもよい。中でも溶剤としては、トルエン、アセトンが好ましい。
【0048】
フォトクロミック化合物、バインダー及び溶剤を含む溶液に含まれるフォトクロミック化合物の割合は、前記溶液に適度な粘性が生じ、印刷の際滲みにくく、前記溶液中にフォトクロミック化合物を均一に分散させることができるように適宜設定される。
【0049】
フォトクロミック層33が感熱記録層32に染み込まないように、フォトクロミック化合物、バインダー及び溶剤を含む溶液の粘度を調節してもよい。このように粘度を調整することにより、フォトクロミック層33を安定的に形成でき、温度検知認識度や温度検知精度の向上を図ることができる。
【0050】
印刷方法としては、スクリーン印刷、凸版印刷、フレキソ印刷、ドライオフセット印刷、グラビア印刷、グラビアセットオフ印刷、パッド印刷、及びオフセット印刷等があるが、安価で簡便であるため、スクリーン印刷が好ましい。
以上により、本実施形態における温度表示デバイス20が製造される。
【0051】
(温度表示デバイスの使用方法)
次に、温度表示デバイス20の使用方法について説明する。
図3は、温度インジケータ23の退色特性の一例を示す図である。
図3の縦軸は、温度インジケータ23の色強度(例えば明度)であり、色強度が大きいほど濃い色である。横軸は、温度インジケータ23の初期化時からの経過時間を示す。
【0052】
図3に示すように、温度インジケータ23は、特定の波長の光が照射されて有色となった後、時間とともに退色(消色)する。
図3において、符号aは、第1の温度における色の経時変化を示す。符号bは、第1の温度より高い第2の温度における色の経時変化を示す。符号cは、第2の温度より高い第3の温度における色の経時変化を示す。このように、温度インジケータ23は、温度が高いほど退色(消色)が速くなる。
【0053】
参照部22における色強度は、温度インジケータ23に含まれるフォトクロミック化合物を有色とした(つまり初期化した)時点からの色強度の変化を、所定の温度条件下で予め測定しておき、所定の経過時間における色強度に基づいて定めることができる。例えば、参照部22の色強度を、想定された温度環境下における温度表示デバイス20の初期化時からの所定の経過時間後に得られる色強度とする。ここでは、温度表示デバイス20を5℃下で初期化から3時間保持した時に得られる色強度とする。
【0054】
次に、温度表示デバイス20を使用して対象物の温度検知を行う方法について説明する。まず、サーマルプリンタ等の発行装置を用いて、温度表示デバイス20の温度インジケータ23を初期化し、初期化された時刻を時間情報印字予定部24に印字する。なお本実施形態において、温度インジケータ23が初期化され、初期化された時刻等が時間情報印字予定部24に印字された状態の温度表示デバイス20を温度履歴管理ラベルと定義する。
【0055】
発行装置には、あらかじめ温度表示デバイス20が備えられている。発行装置に備えられた温度表示デバイス20の温度インジケータ23は、発行装置に設けられた光源から光が照射され、温度インジケータ23が初期化される。時間情報印字予定部24には、発行装置の印字記録部により温度インジケータ23が初期化された時刻等が印字される。時刻等の情報は、コード化されて時間情報印字予定部24に印字されてもよい。温度インジケータ23が初期化され、初期化された時刻が時間情報印字予定部24に印字されることにより、温度履歴管理ラベルが生成される。温度履歴管理ラベルは、発行装置から搬出され、温度検知の対象となる製品に直ちに貼付される。
【0056】
温度インジケータ23が初期化されてから3時間後、参照部22の色強度と、温度インジケータ23の色強度とを目視により比較する。温度インジケータ23の色強度が参照部22の色強度より高いと判断される場合、対象物は5℃より低い温度で保持されていたと推定される。温度インジケータ23の色強度が参照部22の色強度と同一と判断される場合、対象物は約5℃で保持されていたと推定される。温度インジケータ23の色強度が参照部22の色強度より低い場合、対象物は5℃より高い温度で保持されていたと推定される。
【0057】
以上のように、温度表示デバイス20が初期化されてから所定の時間経過後に目視により参照部22の色強度と温度インジケータ23の色強度とを比べることにより、温度履歴管理ラベルを取り付けた対象物が想定通りの温度環境にあったか否かを推定できる。本実施形態における温度表示デバイス20は、前記対象物の温度管理時間があらかじめ設定されている場合に有効である。
【0058】
以上の構成を有する温度表示デバイス20は、感熱記録層32を有しているため、サーマルプリンタ等の発行装置を用いて時刻及びその他の情報を印字することが可能である。サーマルプリンタは、小型、軽量、高印字信頼性、低コストであるため、温度表示デバイス20を用いて対象物の温度検知を開始する際、対象物の保管場所へサーマルプリンタを持ち運ぶことが可能である。また、オンデマンドで印刷すべき情報を修正し、温度表示デバイス20に印字することが可能である。
【0059】
なお、温度履歴管理ラベルの発行装置として、例えば
図12の発行装置50を用いることができる。発行装置50は、基材供給部55、印字記録部52、照射部53、移動機構部54、及び制御部51を備えている。
【0060】
基材供給部55は、例えば、長尺の温度表示デバイス20Hが巻回されたロール551(例えばロール紙)を備えることができる。温度表示デバイス20Hは、温度表示デバイス20の切断前の形態であり、複数の温度表示デバイス20が連なって構成されている。
【0061】
なお、基材供給部55は、予め所定の大きさに切断された温度表示デバイス20を供給できる方式(枚葉式)を採用してもよい。
【0062】
印字記録部52は、サーマルヘッドを用いた感熱記録式の印字記録方式が採用されている。サーマルプリンタは、動作音が非常に小さく、小型軽量に適した比較的簡単な構造で、コストが抑えられるという特長がある。また、サーマルプリンタは、インクリボン、インクカートリッジといったインク類を使用しないため、唯一の消耗品は感熱紙のみであり、簡便でランニングコストが抑えられるという利点もある。しかしながら、本発明に用いることのできる発行装置はこれに限定されず、インクリボン式、インクジェット式、電子写真式、レーザーマーキング式(レーザ光を照射して表面加工を行う方式)等の印字記録方式であってもよい。
【0063】
印字記録部52は、温度表示デバイス20Hに、時刻や温度履歴管理ラベル40の添付される対象物の情報等の表示情報を、温度表示デバイス20における時間情報印字予定部24等に印字する。
【0064】
照射部53は、温度インジケータ23に照射する照射光の光源を備えている。照射部53による照射光の波長は、例えば紫外光領域(例えば250~400nm)である。紫外線は、短波長から、可視光領域に近い長波長に至る広い範囲で温度インジケータ23の着色が可能である。照射部53は、フォトクロミック化合物の開環体と閉環体の吸収スペクトルに基づいて、使用する照射光の波長を選択できる構成であることが望ましい。
【0065】
光源としては、LED式、ランプ式等がある。光源は、温度表示デバイス20の仕様、及び発行装置50の仕様に応じて選択することができる。小型の発行装置50においては、紫外線LEDを光源として用いるのが好適である。紫外線LEDは波長帯域が狭いため、温度表示デバイスの温度インジケータ部のフォトクロミック吸収スペクトルから波長を選択し、その波長の光を照射できる紫外線LEDを選択するのが好ましい。ランプ式のように広い波長帯域の光源を用いる場合は、温度インジケータ部の吸収スペクトルに応じて、フィルターにより照射光の発色特性を調整することも可能である。
【0066】
照射部53は、光の照射時において発行装置50外に照射光が漏れないことが好ましい。照射部53は、印字記録部52より下流側(温度表示デバイス20Hの搬送方向の下流側)であって、発行装置50の出口(温度表示デバイス20Hが搬出される搬出口)に近い位置に設けられていてもよい。光照射により温度表示デバイス20Hの温度インジケータ部が温度検知を開始することから、照射部53が発行装置50の出口に近い位置にあると、温度検知の開始から短時間で対象製品に温度表示デバイスを貼付できるためである。また、印字記録部52が照射部53より搬送方向の上流側にあるため、印字の時点では温度検知が開始されていない。そのため、印字の際の加熱が温度インジケータ23の温度履歴に影響を与えない。よって、正確な温度履歴を表示することが可能となる。
【0067】
この場合、温度表示デバイス20Hにおける温度インジケータ23と、時間情報印字予定部24及び情報印字部25との距離は、照射部53と印字記録部52との距離と、温度表示デバイス20の搬送速度に依存する。温度インジケータ23に対する印字の際の熱の影響が抑えられるよう、温度インジケータ23と時間情報印字予定部24及び情報印字部25との距離が、1mm以上、好ましくは3mm以上、より好ましくは5mm以上離れるよう照射部53と印字記録部52との距離と、温度表示デバイス20の搬送速度を設定する。
【0068】
照射部53は、温度表示デバイス20Hの搬送方向に垂直に、印字記録部52と並列して配置されていてもよい。このように照射部53と印字記録部52とを配置することにより、温度インジケータ23への光照射と同時に時間情報印字予定部24に印字することが可能である。温度表示デバイス20のデータ信頼性が向上する。また、照射部53を印字記録部52より下流側に設ける場合と比較して、温度表示デバイス20Hと時間情報印字予定部24及び情報印字部25との距離を制御しやすい。この場合においても、温度インジケータ23と時間情報印字予定部24及び情報印字部25との距離が、1mm以上、好ましくは3mm以上、より好ましくは5mm以上離れるよう照射部53と印字記録部52との距離を設定する。
【0069】
移動機構部54は、モータ等の駆動部(図示略)によって長尺の温度表示デバイス20Hをロール551から繰り出し、印字記録部52及び照射部53を経て温度表示デバイスを送り出す。これによって温度表示デバイス20が発行される。
【0070】
制御部51は、例えば、相互に接続されたCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、及びRAM(Random Access Memory)を備える。例えば、制御部51は、予め記憶されたプログラムをCPUにより実行する。
【0071】
また、制御部51は、照射制御部、印字制御部、情報取得部、計時部、及び位置制御部を備えている。
【0072】
照射制御部は、照射部53による温度表示デバイス20Hへの光の照射を制御する。印字制御部は、印字記録部52による温度表示デバイス20Hへの表示情報の印字を制御する。前記表示情報は、例えば、温度表示デバイス20Hの温度検知の開始時間になる時間情報、すなわち温度インジケータ23に光を照射することにより温度表示デバイス20Hを初期化した時刻情報や、商品情報等である。
【0073】
情報取得部は、時間情報、商品情報を取得する。計時部は、照射部53において温度インジケータ23に光を照射する照射時刻を計時し、時刻情報(照射時刻)を出力する。この構成によれば、正確な時刻を温度表示デバイス20Hに印字できる。
【0074】
位置制御部は、例えば基材供給部55から供給される温度表示デバイス20Hの搬送を制御する。位置制御部は、温度表示デバイス20Hの位置に合わせて照射制御部及び印字制御部に制御信号を出力し、印字記録部52及び照射部53を動作させる。
【0075】
以上の構成を有する発行装置50を用いれば、本発明の温度表示デバイスの初期化と、初期化された時刻等の印字の双方を行うことが可能である。
【0076】
(温度表示デバイスの他の態様)
温度表示デバイス20のその他の態様として、以下が挙げられる。
図4は、他の態様における温度表示デバイス20Aの断面図を示す。
図4に示されるように、フォトクロミック層33Aの一部は、感熱記録層32の一部に染み込んでいてもよい。
【0077】
図5に示す温度表示デバイス20Bのように、フォトクロミック層33Bの一部は、感熱記録層32の一部及び基材31の一部に染み込んでいてもよい。
【0078】
温度表示デバイス20A及び20Bのフォトクロミック層33A及び33Bが感熱記録層32の一部及び基材31の一部に染み込む程度は、フォトクロミック層33A及び33Bの形成方法に依存する。そのため、所望のフォトクロミック層の形態を得るには、フォトクロミック層33A及び33Bの形成方法を適宜選択すればよい。例えば、フォトクロミック層33の位置を制御するために、フォトクロミック化合物、バインダー及び溶剤を含む溶液の粘度を規定してもよい。
【0079】
図6の温度表示デバイス20Cは、フォトクロミック層33C及び着色層34Cが、基材31上に直接接するように位置し、感熱記録層32Cと並列に位置していている。この時、フォトクロミック層33Cの一部は、基材31の一部に染み込んでいてもよい。
【0080】
図7の温度表示デバイス20Dは、粘着層35と、剥離層36を有している。粘着層35は、基材31の感熱記録層32が位置している第1の面21aとは反対の面である第2の面21b上に位置している。粘着層35は、基材31と剥離層36の間に位置している。温度表示デバイス20を使用する直前に剥離層36を粘着層35から剥がし、温度表示デバイス20を対象物に貼付して使用することができる。
【0081】
粘着層35の材料は、温度検知対象物に温度表示デバイス20Dを添付することが可能であれば特に限定されない。剥離層36の材料は、粘着層35から容易に剥離することが可能であれば特に限定されない。
【0082】
図8の温度表示デバイス20Eは、フォトクロミック層33上に保護層37を有している。保護層37の面積は、フォトクロミック層33の面積より大きい。保護層37は、フォトクロミック層33全体を覆うように配置されることが好ましい。保護層37を設けることにより、フォトクロミック層33に対する温度、湿度、薬品等の影響を抑制することができる。また、保護層37は、感熱記録層32への印字の際に、フォトクロミック層33が加熱されることを防止する。温度表示デバイス20Eに保護層37を設けることにより、印字に用いられるサーマルプリンタ等の印字装置の印字位置精度が低い場合においても、フォトクロミック層33への熱の影響を抑えることが可能である。保護層37は、フォトクロミック層33上だけでなく、感熱記録層32上に設けられていてもよいし、温度表示デバイス20Eの表面全体を覆っていてもよい。
【0083】
保護層37は、熱的及び化学的に安定なシリコーン塗布層であることが好ましいが、熱的及び化学的に安定な層であれば、特に限定されない。例えば、保護層37として、ポリビニルアルコール等からなる水性エマルジョンコーティング層、ポリエチレン等からなる透明なフィルムからなるラミネート層などが挙げられる。
【0084】
保護層37の形成方法としては、例えば、保護層37としてシリコーン塗布層を用いる場合、フォトクロミック層33全体を覆うようにシリコーン塗布層を形成するための溶液を塗布して乾燥することにより形成することができる。他の方法として、保護層37としてラミネート層を用いる場合、フォトクロミック層33全体を覆うようにラミネート層を配置し、圧着することでラミネート層を固定することで保護層37を形成することができる。
【0085】
なお、温度表示デバイス20に保護層37を設けない場合であっても、温度表示デバイス20の寸法と、温度インジケータ23、時間情報印字予定部24、情報印字部25のレイアウトを予め印字装置に記憶させておき、温度インジケータ23(すなわちフォトクロミック層33)の位置を避けるように印字範囲を設定しておけばよい。このようにすることで、印字の際にフォトクロミック層33を直接加熱することがなく、フォトクロミック層33の温度特性に影響を与えずに時刻及びその他の情報を印字することが可能である。
【0086】
図9の温度表示デバイス20Fは、フォトクロミック層33と感熱記録層32との間に、遮断層38を有している。遮断層38の面積は、フォトクロミック層33の面積より大きい。遮断層38は、フォトクロミック層33が感熱記録層32に直接接することを妨げるように配置されている。遮断層38を配置することにより、後述するフォトクロミック層33を形成するための溶媒やバインダー等が感熱記録層32に染み込むことで感熱記録層32が変色することを防ぐことができる。また、遮断層38を配置することにより、感熱記録層32によるフォトクロミック層33の発色特性への影響を抑制することができる。
【0087】
遮断層38の材料としては、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合体、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル、エポキシ樹脂、ニトロセルロース(硝化綿)、エチルセルロース樹脂、ポリアミド、イソプレンゴム等の環化ゴム、塩素化ポリオレフィン、マレイン酸樹脂、フェノール樹脂、ケトン樹脂、キシレン樹脂、石油樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネート等が挙げられる。上記の材料は、紫外線硬化性等の光硬化性の樹脂であってもよい。遮断層38の材料として、アクリル樹脂が好ましい。
【0088】
遮断層38の作製方法としては、以下の方法が挙げられる。まず上述の遮断層38の材料及び溶剤を含む溶液を調製する。遮断層38は、フォトクロミック層33を形成する前に、感熱記録層32に遮断層38の材料及び溶剤を含む溶液を印刷して乾燥することにより形成される。印刷方法としては、上述のフォトクロミック層33を作成するための印刷方法と同じ方法が挙げられる。
【0089】
また、温度表示デバイス20は、複数の色強度を有する参照部22を有していてもよい。
図10は、複数の色強度の参照部22を有する温度表示デバイスの平面図である。このような温度表示デバイスを使用する方法を以下に説明する。ここでは仮に温度表示デバイス20が貼付される対象物が5℃プラスマイナス3℃(即ち2℃以上8℃以下)で180分間保管されることを想定した場合について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0090】
温度表示デバイスが貼付される対象物が5℃プラスマイナス3℃で180分間保管されることを想定しているため、まず温度インジケータ23がそれぞれ2℃、5℃、8℃下で180分間保管された場合における色強度を測定する。そして、2℃下で180分間保管された時の温度インジケータ23の色強度を最大値、8℃下で180分間保管された時の温度インジケータ23の色強度を最小値、5℃下で180分間保管された時の温度インジケータ23の色強度を中間値となるように、5分割された熱退色テーブルを作成し、参照部22とする。
【0091】
図10は、上述のように作成された複数の色強度の参照部22を有する温度表示デバイス20の平面図である。温度表示デバイスは、使用される直前に温度インジケータ23への光照射により初期化され、時間情報印字予定部24に初期化された時刻が記録される。初期化された温度表示デバイス20、即ち温度履歴管理ラベルは、直ちに温度管理される対象物に貼付される。
【0092】
記録された時刻から180分間経過後の温度インジケータ23の色強度と、参照部22の色強度とを目視により比べることにより、容易に前記対象物が管理温度範囲内、すなわち5℃プラスマイナス3℃で保管されていたかを判定することが可能である。
【0093】
また、温度表示デバイスは、複数の参照部及び複数の温度インジケータを有していてもよい。
図11(A)は、参照部22a~22c及び温度インジケータ23a~23cを有する温度表示デバイス20Gの平面図である。温度インジケータ23a~23cは、それぞれ異なる温度範囲において色強度が変化する。参照部22a~22cは、それぞれ温度インジケータ23a~23cの初期化時の色強度を示している。
【0094】
温度表示デバイス20Gを用いて温度検知する方法を以下に説明する。ここでは仮に、温度表示デバイス20Gが貼付される対象物が5℃プラスマイナス3℃で180分間保管されることを想定した場合について説明するが、本発明はこれに限定されない。また、3つの異なる温度インジケータ23a~23cを用いた例について説明するが、本発明の温度表示デバイスにおける温度インジケータの数はこれに限定されない。
【0095】
本実施形態の温度表示デバイスにおいては、例えば、温度インジケータ23aは-3℃において180分間経過すると色強度がほとんど変化せず、2℃において180分間経過すると色強度が0付近まで減少するフォトクロミック化合物を含む。温度インジケータ23bは、2℃において180分間経過すると色強度がほとんど変化せず、8℃において180分間経過すると色強度が0付近まで減少するフォトクロミック化合物を含む。温度インジケータ23cは、8℃において180分間経過すると色強度がほとんど変化せず、14℃において180分間経過すると色強度が0付近まで減少するフォトクロミック化合物を含む。
【0096】
参照部22a~22cは、それぞれ温度インジケータ23a~23cの初期化時の色強度を示すよう作成される。
【0097】
温度表示デバイス20Gは、使用される直前に温度インジケータ23a~23cへの光照射により初期化され、時間情報印字予定部24に初期化された時刻が記録される。初期化された温度表示デバイス20G、即ち温度履歴管理ラベルは、直ちに温度管理される対象である対象物に貼付される。
【0098】
図11(B)は、温度履歴管理ラベルの初期化時から180分間経過後の温度インジケータ23a~23cのパターンと、温度管理の可否を判定した結果を示す図である。なお、
図11(B)に示される参照部22a~22c及び温度インジケータ23a~23cの配列は、
図11(A)に示したものと同一である。参照部22a~22cと温度インジケータ23a~23cとを目視により比べることにより、容易に前記対象物が管理温度範囲内、すなわち2℃以上8℃以下で保管されていたか、更には、管理温度範囲からどの程度逸脱したかを判定することが可能である。
【0099】
例えば、全ての温度インジケータ23a~23cが参照部22a~22cと同一の色強度であった場合、保管温度は‐3℃以下と予測され、管理温度範囲から外れたと判定することができる。
【0100】
温度インジケータ23b及び23cは、それぞれ参照部22b及び22cと同一の色強度であり、温度インジケータ23aの色強度は、参照部22aの色強度と無色との中間である場合、保管温度は約0℃と予測され、管理温度範囲から外れたと判定することができる。
【0101】
温度インジケータ23b及び23cは、それぞれ参照部22b及び22cと同一の色強度であり、温度インジケータ23aの色強度が著しく低下している場合、保管温度は約2℃と予測され、管理温度範囲内であったと判定することができる。
【0102】
温度インジケータ23cは、参照部22cと同一の色強度であり、温度インジケータ23aの色強度が著しく低下し、温度インジケータ23bの色強度が参照部22bの色強度と無色との中間である場合、保管温度は約5℃と予測され、管理温度範囲内であったと判定することができる。
【0103】
温度インジケータ23a及び23bは、色強度が著しく低下し、温度インジケータ23cは、参照部22cと同一の色強度である場合、保管温度は約8℃と予測され、管理温度範囲内であったと判定することができる。
【0104】
温度インジケータ23a及び23bは、色強度が著しく低下し、温度インジケータ23cは、参照部22cの色強度と無色との中間である場合、保管温度は約11℃と予測され、管理温度範囲から外れたと判定することができる。
【0105】
全ての温度インジケータ23a~23cの色強度が著しく低下している場合、保管温度は14℃以上と予測され、管理温度範囲から外れたと判定することができる。
【0106】
以上のように本発明の一態様における温度表示デバイス20Gによれば、温度表示デバイス20Gが貼付された対象物が管理温度範囲からどの程度逸脱したかを目視により容易に判定することが可能である。複数の参照部22a~22c及び複数の温度インジケータ23a~23cを有する温度表示デバイス20Gは、本来管理されるべき温度範囲からどの程度逸脱したかを把握する必要がある場合に有用である。
【0107】
温度表示デバイス20のその他の使用方法として、読取処理装置を用いた温度検知方法が挙げられる。この態様における温度表示デバイス20は、参照部22を設けなくてもよい。
【0108】
読取処理装置は、撮像機能を有する、例えばスマートフォン、タブレット端末、専用装置等である。読取処理装置は、その撮像手段を介して温度履歴管理ラベルの情報(温度インジケータ23、時間情報印字予定部24を含む画像)を読み取り、読み取った情報に基づいて温度履歴管理ラベル(温度表示デバイス20)が貼付されている対象物が曝されていた温度と経過時間等を求める。読取処理装置は、求めた対象物が曝されていた温度と温度履歴管理ラベルの初期化時からの経過時間等を表示部に表示させる。
【0109】
このように、読取処理装置を用いて温度履歴管理ラベルの情報を読み取って温度検知を行うことにより、温度履歴管理ラベルを初期化してからの任意の経過時間において、簡便に、より正確に温度履歴管理ラベルが貼付されている対象物の温度管理を行うことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の温度表示デバイス及び温度履歴管理ラベルは、任意の経過時間における温度履歴を正確に表示できる。
【符号の説明】
【0111】
20,20A,20B,20C、20D,20E,20F,20G,20H…温度表示デバイス(温度履歴管理ラベル)、21…台紙、22…参照部、23…温度インジケータ、24…時間情報印字予定部、25…情報印字部、31…基材、32…感熱記録層、33…フォトクロミック層、34…着色層、35…粘着層、36…剥離層、37…保護層、38…遮断層、40…温度履歴管理ラベル。