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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】中空円盤状スラストワッシャの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/38 20060101AFI20220111BHJP
   F16C 33/20 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
B29C45/38 E
F16C33/20 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017225514
(22)【出願日】2017-11-24
(65)【公開番号】P2019093645
(43)【公開日】2019-06-20
【審査請求日】2020-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】福澤 覚
(72)【発明者】
【氏名】阿部 浩久
【審査官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-015834(JP,A)
【文献】特開平10-024455(JP,A)
【文献】特開平07-178779(JP,A)
【文献】特開平11-170397(JP,A)
【文献】特開2016-176539(JP,A)
【文献】特開平06-193628(JP,A)
【文献】特開2001-295576(JP,A)
【文献】特開平06-323336(JP,A)
【文献】特開2019-044946(JP,A)
【文献】国際公開第2018/105408(WO,A1)
【文献】特開2002-139027(JP,A)
【文献】特開平07-119737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
B29C 33/00-33/76
F16C 17/00-17/26
F16C 33/00-33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製の中空円盤状スラストワッシャをディスクゲートを用いた射出成形によって製造する製造方法であって、
前記製造方法は、可動型板に設けられ、固定型板と前記可動型板を型閉じして形成される円環状のキャビティに、該キャビティの内周部に設けられた前記ディスクゲートを介して合成樹脂を充填し、保圧を経た後、一定時間冷却して合成樹脂を固化させ成形体を形成する成形工程と、型開きして前記成形体を取り出す離型工程と、前記成形工程後で、かつ、前記離型工程前に、型内でゲートカットするゲートカット工程とを備え、
前記ゲートカット工程は、前記固定型板と前記可動型板が型閉じした状態で、前記可動型板側に設けられており前記成形体の内径面を形成するコアピンを前記固定型板に向かって前進させて、前記ディスクゲートを前記可動型板から前記固定型板内に押し込むことで前記ディスクゲートを切断する工程であることを特徴とするスラストワッシャの製造方法。
【請求項2】
前記スラストワッシャは、厚さが0.2mm~8mm、内径が10mm~60mm、外径が20mm~160mmであることを特徴とする請求項1記載のスラストワッシャの製造方法。
【請求項3】
前記スラストワッシャは、外周の一部を切り欠いた切り欠き部を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載のスラストワッシャの製造方法。
【請求項4】
前記スラストワッシャは、スラスト面に潤滑溝を有することを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項記載のスラストワッシャの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製の中空円盤状スラストワッシャの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂製の中空円盤状スラストワッシャは、金属製の転がりスラスト軸受よりも軽量で、小型化可能、耐食性、安価などのメリットがあり、例えば、ベアリーTWシリーズ(NTN精密樹脂社製)のようなスラストワッシャとして市販されている。ベアリーTWシリーズは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂をベースとした樹脂組成物からなり、棒状またはパイプ状の圧縮成形体から全面機械加工によって製造されている。
【0003】
スラストワッシャが組み込まれる部品、装置、機械においては、他の部材との設計上の兼ね合いから、スラストワッシャに形状的制限を受ける場合が多い。例えば、外周面の一部を直線状にカットして回り止め機能を付けたり、外周形状をハウジング形状に合わせたり、摺動面に潤滑溝を設けたりすることがある。このような要求に対しては射出成形によってスラストワッシャが製造されている(特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-139027号公報
【文献】特開2016-176539号公報
【文献】特開平06-193628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のスラストワッシャは、外周長さの1/6~1/2の周長さのフィルムゲートから樹脂組成物が充填されて形成されたものである。このフィルムゲートを用いた射出成形により、成形収縮の影響を軽減でき、スラスト方向の精度が高く、また真円度も高いスラストワッシャが得られる。しかし、この製造方法では、溶融樹脂が合流する領域であるウェルドが生じるため、成形体の強度低下が懸念される。
【0006】
特許文献2のスラストワッシャは、ジカルボン酸成分とジアミン成分とからなるポリアミド樹脂をベース樹脂とし、これに繊維状補強材を配合してなる組成物を用いることでウェルドの強度が強化されている。しかし、この製造方法でもウェルドが生じるため、ウェルドにおける表面平滑性の低下が懸念される。
【0007】
一方、特許文献3のスラストワッシャは、ディスクゲートを用いた射出成形によって得られる。ディスクゲート方式の射出成形ではウェルドが生じないため、ウェルドに起因する強度低下や表面平滑性低下を防止できる。しかしこの射出成形では、一般に射出成形後に成形体の内径部を切削加工する必要がある。内径部の切削加工とは、ディスクゲートの取り外し加工であり、射出成形後に別工程として旋盤加工などが必須となるため、製造時間の延長やコストアップの要因となっている。
【0008】
本発明はこれらの問題に対処するためになされたものであり、ディスクゲートを採用しつつ、射出成形後の旋盤加工などのディスクゲートの取り外し工程を省くことができるスラストワッシャの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のスラストワッシャの製造方法は、合成樹脂製の中空円盤状スラストワッシャをディスクゲートを用いた射出成形によって製造する製造方法であって、この製造方法は、固定型板と可動型板を型閉じして形成される円環状のキャビティに、該キャビティの内周部に設けられた上記ディスクゲートを介して合成樹脂を充填し、成形体を形成する成形工程と、型開きして上記成形体を取り出す離型工程と、上記成形工程後で、かつ、上記離型工程前に、型内でゲートカットするゲートカット工程とを備え、上記ゲートカット工程は、上記固定型板と上記可動型板が型閉じした状態で、上記成形体の内径面を形成するコアピンを型閉じ方向に前進させて、上記ディスクゲートを切断する工程であることを特徴とする。
【0010】
上記コアピンが上記可動型板側に設けられており、上記ゲートカット工程は、上記コアピンを上記固定型板に向かって前進させ、上記ディスクゲートを上記固定型板内に押し込むことで上記ディスクゲートを切断する工程であることを特徴とする。
【0011】
上記スラストワッシャは、厚さが0.2mm~8mm、内径が10mm~60mm、外径が20mm~160mmであることを特徴とする。
【0012】
上記スラストワッシャは、外周の一部を切り欠いた切り欠き部を有することを特徴とする。上記スラストワッシャは、スラスト面に潤滑溝を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のスラストワッシャの製造方法は、合成樹脂製の中空円盤状スラストワッシャをディスクゲートを用いた射出成形によって製造するので、ウェルドが発生しない。そのため、ウェルドに起因する強度低下や表面平滑性低下を防止でき、強度の均一性や表面平滑性に優れる。また、サイドゲートやピンゲートなどの制限ゲートを用いた場合に発生するゲートでの表面平滑性の低下を防止でき、表面平滑性に優れる。
【0014】
さらに、成形工程後で、かつ、離型工程前に、固定型板と可動型板が型閉じした状態で、成形体の内径面を形成するコアピンを型閉じ方向に前進させて、ディスクゲートを切断する、つまり、型内ゲートカットするので、射出成形後の旋盤加工などのディスクゲートの取り外し工程を省くことができる。この製造工程の省略化によって、製造時間の短縮や製造コストの削減が図れる。
【0015】
上記ゲートカット工程は、固定型板と可動型板が型閉じした状態で、可動型板側のコアピンを固定型板に向かって前進させ、ディスクゲートを固定型板内に押し込むことでディスクゲートを切断するので、成形体とゲートが相対移動してディスクゲートが切り離され、得られたスラストワッシャの内径面に、ディスクゲートの一般的な取り外し工程である旋盤加工を行なう場合のような旋削痕が付かない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】スラストワッシャの一形態を示す斜視図である。
図2】本発明の製造方法に用いる金型の構造を示す断面模式図である。
図3】本発明の製造方法の成形工程を示す断面模式図である。
図4】本発明の製造方法のランナー部の取り出しを示す断面模式図である。
図5】本発明の製造方法のゲートカット工程を示す断面模式図である。
図6】本発明の製造方法の離型工程を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の製造方法によって製造される中空円盤状スラストワッシャの一形態を図1に基づいて説明する。図1はスラストワッシャの斜視図である。図1に示すように、スラストワッシャ1は、中空円盤状(円環平板状)の部材であり、スラスト面1aと、その反対面であるスラスト面1bと、両スラスト面1a、1bを繋ぐ内径面2および外径面3とを有する。両スラスト面1a、1bは平面形状であり、相手部材との摺動面になる。内径面2および外径面3は、それぞれ略円筒状に形成されている。また、スラストワッシャ1は、円筒状の外径面の一部を直線状に切り欠いた切り欠き部4を有する。切り欠き部4は回り止め機能を有し、この切り欠き部4をハウジングに係合させることで、スラストワッシャ1の該ハウジングに対する相対回転を防止することができる。なお、スラストワッシャ1の外径面の形状は略円筒状に限らず、ハウジング形状に合わせた多角形状としてもよい。
【0018】
図1の形態において、スラストワッシャ1は、スラスト面1aに放射状の溝5を複数(4本)有する。複数の溝5は、円盤中心角で互いに等角度間隔に設けられている。これら溝5は、スラスト面において、円盤の内周から外周に貫通する凹部として形成されている。装置などに組み込まれた際には、この溝が潤滑溝となり、平面部への潤滑油の供給性が向上する。なお、スラストワッシャ1は、図1の形態に限らず、両スラスト面1a、1bに溝を有する形態でもよく、両スラスト面1a、1bいずれにも溝を有しない形態でもよい。また、片面のスラスト面における溝の数や形状も特に限定されない。
【0019】
本発明の製造方法によって製造されるスラストワッシャ1の大きさ(厚み、外径や内径、幅など)は、用途などによって適宜設定される。例えば、スラストワッシャ1は、厚さが0.2mm~8mm、内径が10mm~60mm、外径が20mm~160mmである。
【0020】
本発明のスラストワッシャの製造方法は、上記スラストワッシャをディスクゲート方式の射出成形により製造する方法である。本発明の製造方法は、以下の(a)~(c)の3つの工程を少なくとも備える。すなわち、(a)射出成形金型に形成されるキャビティにディスクゲートを介して合成樹脂を充填し、成形体を形成する成形工程と、(b)射出成形金型内でゲートカットするゲートカット工程と、(c)型開きして成形体を取り出す離型工程とを備える。
【0021】
本発明の製造方法に用いる射出成形金型を図2に基づいて説明する。図2の射出成形金型は、可動型板6と、固定型板7と、ランナストリッパプレート8とからなる3プレート構造の金型である。可動型板6は、金型の開閉に伴って、固定型板7に対し、型開き方向(図2の左方向)に移動可能に設けられた金型である。また、固定型板7も、ランナストリッパプレート8に対し、型開き方向に移動可能に設けられた金型である。図2は、これら金型が型閉じされた状態であり、可動型板6と固定型板7はパーティングラインPLで衝合され、固定型板7とランナストリッパプレート8は衝合面Fで衝合されている。固定型板7は、第2スプルーブッシュ7aと、第2スプルーブッシュ7aおよびコイルバネ7cを収容する入れ子7bと、コイルバネ7cと、ランナプレート7dとを有する。図2の型閉じ状態において、第2スプルーブッシュ7aの可動型板側の端面および入れ子7bの可動型板側の端面は、平坦面(面一)となっており、固定型板7のパーティングラインPLの一部を構成している。
【0022】
ランナストリッパプレート8には、合成樹脂の射出方向と同軸に設けられた第1スプルー9が、ランナストリッパプレート8と固定型板7のランナプレート7dとの間には、第1スプルー9と連通して、第1スプルー9の垂直方向に設けられたランナー10が、固定型板7の第2スプルーブッシュ7aには、ランナー10と連通して溶融樹脂の射出方向と平行に設けられた第2スプルー11が、それぞれ設けられている。
【0023】
図2の型閉じ状態において、固定型板7と可動型板6との間には、円盤状のディスクゲート12と円環状のキャビティ13がそれぞれ形成される。キャビティ13は、成形体(スラストワッシャ)の軸方向と金型の型開き方向とが一致するように形成される。この場合、スラストワッシャの一方のスラスト面は、固定型板7に形成され、他方のスラスト面および外径面は、可動型板6に形成される。
【0024】
ディスクゲート12は、コアピン14およびエジェクタピン15の先端面と、これに対向する固定型板7の端面、具体的には第2スプルーブッシュ7aの端面との間に構成され、第2スプルー11と連通している。ディスクゲート12の外周部は、キャビティ13の内周部と全周に亘り連通しており、その境界がゲート口12aとなる。つまり、スラストワッシャの内径面側にディスクゲート12が設けられる。この構成では、ディスクゲート12に流入した合成樹脂は、当該ディスクゲート12の全周から放射状に広がって均一にキャビティ13に充填される。そのため、このディスクゲートを用いた射出成形ではウェルドが発生しない。
【0025】
また、可動型板6には、コアピン14と、エジェクタピン15、16が設けられている。これらは、型閉じ方向(図2の右方向)にそれぞれ前進が可能である。図2において、エジェクタピン16はキャビティ13の後方(図2左側)に収納され、エジェクタピン16の先端面がキャビティ13に面している。また、コアピン14およびエジェクタピン15はディスクゲート12の後方(図2左側)に収納され、これらのピンの先端面はディスクゲート12に面している。エジェクタピン15は、コアピン14の軸心に配置された円柱状部材である。また、コアピン14は円筒状部材であり、コアピン14の外径はディスクゲート12の外径と略同一となっている。
【0026】
図2において、コアピン14の先端面の位置は、PLからキャビティ13の厚さ(軸方向長さ)に応じて後退している。コアピン14の先端面の位置のPLからの後退量は、スラストワッシャの厚み分と同じか、この厚み分よりも短くできる。なお、コアピン14の先端面の位置のPLからの後退量は、ゲート口12aの軸方向長さである。
【0027】
本発明の製造方法の各工程について、図3図6を用いて説明する。図3は成形工程を示し、図4、5はゲートカット工程を示し、図6は離型工程を示している。
【0028】
(a)成形工程
成形工程は、溶融した合成樹脂をキャビティに充填し、成形体を形成する工程である。
【0029】
本発明に用いる合成樹脂は、射出成形可能な熱可塑性樹脂であれば特に限定されず、使用条件に応じて適宜採用できるが、熱可塑性樹脂の中でも、結晶性樹脂が好ましい。結晶性樹脂として、例えば、ポリアミド(PA)樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、フェノール(PF)樹脂などが挙げられる。また、必要に応じて合成樹脂に、炭素繊維、ガラス繊維などの繊維状補強材や、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、グラファイトなどの固体潤滑剤を配合してもよい。
【0030】
図3に示すように、射出成形機のノズル(図示省略)から射出された溶融状態の合成樹脂17は、第1スプルー9、ランナー10、第2スプルー11、ディスクゲート12、ゲート口12aを通ってキャビティ13に充填され、保圧を経た後、一定時間冷却して合成樹脂を固化させる。
【0031】
(b)ゲートカット工程
ゲートカット工程は、金型内でディスクゲートをゲートカットする工程である。この工程では、可動型板6と固定型板7とを型閉じした状態のまま、ディスクゲートを切断することを特徴とする。
【0032】
ゲートカット工程について、図4、5に基づき説明する。この工程では、まず、ランナストリッパプレート8と固定型板7との衝合面Fが、第1スプルー、ランナー、第2スプルーの一体固化樹脂(これら一体固化樹脂を「ランナー部」と総称する)が離型され取り出せる距離だけ開放される(図4参照)。これにより、ランナー部が金型から分離し落下する。なお、ランナー部の金型からの分離構造は3プレート金型の一般的な構造による。
【0033】
ランナストリッパプレート8と固定型板7との開放と連動して、コアピン14が固定型板7に向かって距離Dだけ前進する(図5参照)。この前進に伴い、ディスクゲート12がPLよりも固定型板7側に押し込まれ、入れ子7bの内周部に篏合する。この場合、コアピン14の外径と、ディスクゲート12の外径と、第2スプルーブッシュ7aのコアピン14に対向する部位の外径は、略同一となっている。これら一連の動作によって、ゲート口12aを介し接続状態となっていた成形体とディスクゲート内の固化樹脂とが切り離される。
【0034】
図5において、スラストワッシャの内径面は、ディスクゲート12をコアピン14によって切断することで形成される。すなわち、スラストワッシャの内径面は、固定型板7に向かって前進するコアピン14によって形成される。また、スラストワッシャの内径面が、コアピン14の外周面とコアピン14によるディスクゲート12の切断とによって形成されてもよい。この場合、射出成形時のコアピン14先端の位置はスラストワッシャの厚み方向の途中に配置されている、つまり、コアピン14先端の位置のPLからの後退量がスラストワッシャの厚み分よりも短くなっているため、スラストワッシャの内径面の一部がコアピン14の外周面によって形成され、残りがゲートカット時のコアピン14の前進によって形成される。
【0035】
ここで、固定型板7は、その一部がPLから内側に凹むことが可能な構造となっている。図5では、第2スプルーブッシュ7aが、入れ子7bに対し型閉じ方向にわずかに(例えば距離D)スライドするように構成される。固定型板7におけるこの構造は、型閉じした状態においてディスクゲートが固定型板7内に押し込み可能なものであればよく、図5に限定されない。なお、距離Dは、接続状態となっている成形体とディスクゲートとが切り離される距離であればよく、例えばキャビティ13の厚みに相当する距離、または、キャビティに溶融樹脂が充填可能な距離である。距離Dが厚いとゲートカット時にコアピン14の先端部に負荷がかかり、コアピンの交換時期が早くなるおそれがある。そのため、距離Dは2mm以下にすることが望まれる。
【0036】
このゲートカット工程では、キャビティ13内の樹脂(成形体)を固定型板7と入れ子7bとで拘束しつつ、コアピン14の前進によってディスクゲート12のみを型閉じ方向に移動させることで、成形体とゲートが相対移動してディスクゲートが切り離される。ディスクゲートの一般的な取り外し工程である旋盤加工では、スラストワッシャの内径面に周方向に沿った痕が付くが、本発明の製造方法では、型内で押し切りをすることでゲートカットするため、この旋盤加工による痕は付かない。
【0037】
(c)離型工程
離型工程は、固定型板と可動型板を型開きして、成形体を取り出す工程である。この工程では、固定型板7と可動型板6の間のパーティングラインPLが開放される。
【0038】
また、型開きと連動して、コアピン14の軸心内に配置されたエジェクタピン15と、キャビティ13後方に配置されたエジェクタピン16とが前進する(図6参照)。この突き出しにより、コアピン14先端に張り付いていたディスクゲート12と、射出成形体であるスラストワッシャ1とが金型から取り出される。
【0039】
以上、(a)~(c)の工程により、図1に示すようなスラストワッシャ1が製造される。本発明の製造方法では、上述のとおり、型内ゲートカットするので、射出成形後に旋盤加工などのディスクゲートの取り外し工程を省くことができる。これにより、製造工程の簡略化や、製造時間の短縮、コスト削減などが図れる。また、ディスクゲート方式を採用するため、成形されたスラストワッシャにウェルドが発生せず、ウェルドによる強度低下や表面平滑性の低下が防止される。
【0040】
本発明の製造方法は、図2図6などに示した方法に限らない。例えば、射出成形金型として、上述の型閉じした状態においてディスクゲートが一方の型内に押し込み可能なものであれば、可動型板と固定型板とからなる2プレート構造の金型を用いてもよい。また、図2図6における可動型板と固定型板との構成を反対にしてもよい。すなわち、固定型板側にディスクゲートやコアピンを設ける構成とし、そのコアピンを可動型板に向かって前進させ、ディスクゲートを可動型板内に押し込むことでゲートカットするようにしてもよい。
【0041】
本発明の製造方法によって製造されたスラストワッシャは、例えば、油圧クレーンなどの走行装置、旋回装置、油圧クレーン用ロープウィンチなどの建設機械に用いられる遊星歯車装置に用いられる。遊星装置において、スラストワッシャは、遊星歯車とキャリアとの間に介在して用いられる。この場合、スラストワッシャの両スラスト面のそれぞれが遊星歯車やキャリアとの摺動面となる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のスラストワッシャの製造方法では、ディスクゲートを採用しつつ、射出成形後の旋盤加工などのディスクゲートの取り外し工程を省くことができるので、製造工程の効率化や製造コストに優れ、スラストワッシャの製造方法として広く利用できる。
【符号の説明】
【0043】
1 スラストワッシャ
2 内径面
3 外径面
4 切り欠き部
5 溝
6 可動型板
7 固定型板
8 ランナストリッパプレート
9 第1スプルー
10 ランナー
11 第2スプルー
12 ディスクゲート
13 キャビティ
14 コアピン
15 エジェクタピン
16 エジェクタピン
17 合成樹脂
図1
図2
図3
図4
図5
図6