(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】円筒体用保持体、及び感光ドラムの製造方法
(51)【国際特許分類】
G03G 15/00 20060101AFI20220111BHJP
G03G 5/10 20060101ALI20220111BHJP
F16C 13/00 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
G03G15/00 651
G03G5/10
F16C13/00 Z
(21)【出願番号】P 2017240279
(22)【出願日】2017-12-15
【審査請求日】2020-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【氏名又は名称】高田 健市
(74)【代理人】
【識別番号】100194467
【氏名又は名称】杉浦 健文
(72)【発明者】
【氏名】工藤 学也
(72)【発明者】
【氏名】崎浜 秀和
【審査官】市川 勝
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-107257(JP,U)
【文献】特開2007-083127(JP,A)
【文献】特開2012-022130(JP,A)
【文献】実開平01-081227(JP,U)
【文献】特開2006-251227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/00
G03G 5/10
F16C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄液で洗浄される円筒体を起立状に保持する円筒体用保持体であって、
前記円筒体の下端開口から前記円筒体の内側に挿入配置される保持体本体部と、
前記円筒体の下端を前記下端に接触して受ける受け面を有する受け部と、を備え、
前記受け面は水平に配置され、
前記保持体本体部の上端部が、前記円筒体を適正位置へ案内する、下方向に対して半径方向外側へ傾斜した案内面を有しており、
前記受け面の前記洗浄液に対する濡れ性が前記案内面の前記洗浄液に対する濡れ性よりも良
く、
前記受け面に前記濡れ性を良くするための処理として粗面化処理が施されている、円筒体用保持体。
【請求項2】
前記案内面に前記粗面化処理が施されていない請求項1記載の円筒体用保持体。
【請求項3】
前記案内面を有する部位と前記受け面を有する部位とが分離可能に連結されている請求項1又は2記載の円筒体用保持体。
【請求項4】
前記保持体本体部と前記受け部が合成樹脂製である請求項1~3のいずれかに記載の円筒体用保持体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の保持体に円筒体としての感光ドラム基体を起立状に保持した状態で前記感光ドラム基体を洗浄液で洗浄し乾燥する、感光ドラムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光ドラム基体等の円筒体の洗浄及び乾燥時などに用いられる円筒体用保持体、及び、この保持体を用いた感光ドラムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
円筒体として例えば電子写真装置用感光ドラムを製造するために感光ドラム基体を洗浄したり乾燥したりするとき、基体は一般にパレット上に設けられた保持体に起立状に保持される。
【0003】
特開2007-41210号公報(特許文献1)は、このような基体を保持する保持体として、筒状の大径支柱とその内側に配置された小径支柱とを有する保持体を開示している。大径支柱の周壁部にはその内側と外側を連通する連通孔が形成されている。洗浄液や乾燥用ガスはこの連通孔を通って流通する。
【0004】
また、特開2011-22206号公報(特許文献2)は、保持体に起立状に保持された基体を洗浄液中から引き上げた後で基体を傾斜させることにより、洗浄液を短時間で除去することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-41210号公報
【文献】特開2011-22206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、保持体は、円筒体の下端面を当該下端面に接触して受ける受け面を有している。この受け面は一般に水平に形成されている。そのため、洗浄液で洗浄した基体を乾燥するときにこの受け面上に洗浄液が残り易かった。もし洗浄液が受け面上に残っていると、残った洗浄液が原因で基体に染みができたり次工程の環境を汚染したりするなどの問題が発生する。また、受け面上に洗浄液が残らないように洗浄液を乾燥除去するためには、基体の乾燥時間を長く設定しなければならなった。
【0007】
本発明は、上述した技術背景に鑑みてなされたもので、その目的は、洗浄液を迅速に乾燥除去しうる円筒体用保持体、及びこの保持体を用いた感光ドラムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の手段を提供する。
【0009】
[1] 洗浄液で洗浄される円筒体の下端開口から前記円筒体の内側に挿入配置される保持体本体部と、
前記円筒体の下端を前記下端に接触して受ける受け面を有する受け部と、を備え、
前記保持体本体部の上端部が、前記円筒体を適正位置へ案内する、下方向に対して半径方向外側へ傾斜した案内面を有しており、
前記受け面の前記洗浄液に対する濡れ性が前記案内面の前記洗浄液に対する濡れ性よりも良い、円筒体用保持体。
【0010】
[2] 前記受け面に前記濡れ性を良くするための処理として粗面化処理が施されており、
前記案内面に前記粗面化処理が施されていない前項1記載の円筒体用保持体。
【0011】
[3] 前記案内面を有する部位と前記受け面を有する部位とが分離可能に連結されている前項1又は2記載の円筒体用保持体。
【0012】
[4] 前記保持体本体部と前記受け部が合成樹脂製である前項1~3のいずれかに記載の円筒体用保持体。
【0013】
[5] 前項1~4のいずれかに記載の保持体に円筒体としての感光ドラム基体を起立状に保持した状態で前記感光ドラム基体を洗浄液で洗浄し乾燥する、感光ドラムの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明は以下の効果を奏する。
【0015】
前項1では、受け部の受け面の洗浄液に対する濡れ性が良いので、受け面上に残る洗浄液が玉状になりにくく、乾燥時において受け面上の洗浄液の乾燥用ガス(空気、温風、熱風等を含む)との接触面積が増加する。これにより、受け面上の洗浄液を迅速に乾燥除去することができる。また、保持体本体部の案内面の洗浄液に対する濡れ性は受け面のそれよりも悪く、案内面に付着した洗浄液は例えば略玉状になり案内面上を滑り落ち易くなる。これにより、案内面上の洗浄液についても迅速に乾燥除去することができる。
【0016】
前項2では、受け面に濡れ性を良くするための処理として粗面化処理が施されることにより、受け面の洗浄液に対する濡れ性を確実に良くすることができる。
【0017】
前項3では、案内面を有する部位と受け面を有する部位とが分離可能に連結されているので、例えば、受け面に洗浄液に対する濡れ性を良くするための処理(例:ショットブラストによる粗面化処理)を施す際に、案内面を有する部位と受け面を有する部位とを分離することにより、案内面に濡れ性を良くするための処理が施されないようにするための作業(例:マスキング作業)を行う必要がなくなる。これにより、受け面の濡れ性を良くするための処理について作業性が向上する。
【0018】
さらに、受け面が円筒体の下端との接触により局部的に摩耗した場合、案内面を有する部位と受け面を有する部位とを分離することにより、保持体全体のうち受け面を有する部位だけを新しいものと交換することができる。そのため、保持体についてランニングコストの削減を図りうる。
【0019】
前項5では、保持体本体部と受け部が合成樹脂製であることにより、円筒体を保持体に保持する際における円筒体の保持体との接触による円筒体の傷付き及び変形を抑制することができる。
【0020】
前項6では、感光ドラムを製造する際に前項1~5の効果のいずれかの効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る保持体の斜視図である。
【
図3】
図3は、同保持体をパレット上に固定した状態で示す側面図である。
【
図4】
図4は、同保持体を、案内面を有する部位と受け面を有する部位とに分離した状態で示す斜視図である。
【
図5】
図5は、同保持体に保持された円筒体としての感光ドラム基体を洗浄及び乾燥する場合を説明する図である。
【
図6】
図6は、感光ドラムを製造する際の感光ドラム基体の洗浄工程図である。
【
図7】
図7は、受け面の洗浄液に対する接触角を説明する図である。
【
図8】
図8は、案内面の洗浄液に対する接触角を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の一実施形態について図面を参照して以下に説明する。
【0023】
図1及び2に示すように、本発明の一実施形態に係る保持体1は、円筒体としての感光ドラム基体(二点鎖線で示す)30を起立状に保持するものである。
【0024】
基体30は電子写真装置用のものであり、その形状は円筒状であり詳述すると円管状である。基体30は、
図5に示すように洗浄槽45内の洗浄液40中に浸漬されて洗浄され、その後、洗浄液40から引き上げられて乾燥されるものである。
【0025】
基体30の外径、肉厚及び長さはそれぞれ限定されるものではなく、例えば、その外径は10~100mm、その肉厚は0.1~5mm及びその長さは50~500mmである。基体30の材質は限定されるものではなく、例えばアルミニウム(その合金を含む)等の金属である。
【0026】
保持体1は、
図3及び5に示すように例えば水平に配置されるパレット20上に複数立設されるものである。詳述すると、各保持体1はパレット20上に固定ボルト25によって取外し可能に固定状態に取り付けられるものである。固定ボルト25は例えば六角穴付ボルトからなる。保持体1の軸線Pは鉛直方向に向いている。
【0027】
保持体1は、
図1及び2に示すように保持体本体部2と台状の受け部10とを備えている。
【0028】
保持体本体部2は、基体30の下端開口33から基体30の内側31に挿入配置されるものであり(
図3参照)、受け部10に対して上方突出状に受け部10に設けられている。
【0029】
保持体本体部2の直径(太さ)は基体30の内径よりも小さく、具体的には基体30の内径に対して50~98%に設定されている。保持体本体部2の長さは通常、基体30の長さよりも短く、具体的には基体30の長さに対して例えば20~80%の範囲に設定されている。
【0030】
受け部10は保持体本体部2よりも大径に形成されたものであり、基体30の下端としての下端面32を当該下端面32に接触して受ける受け面11を有している。受け部10の直径(太さ)は、基体30の下端面32を受けうる大きさであれば限定されるものではなく、基体30の外径よりも大きく設定されている。
【0031】
保持体本体部2と受け部10は合成樹脂製である。合成樹脂として耐熱性及び耐薬品性に優れたものを使用することが望ましく、具体的には、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE樹脂)、硬質フッ素ゴム等のフッ素系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂)等を使用できる。保持体本体部2の材料と受け部10の材料は同種であっても良いし異種であっても良い。
【0032】
保持体本体部2は、保持体1の軸線Pに対して半径外方向へ放射状に突出し且つ保持体本体部2(保持体1)の上端から下方向に連続して延びた複数の板状の羽根部3(これを説明の便宜上「第1羽根部3」という)を備えている。複数の第1羽根部3の大きさ及び形状は互いに同じである。
【0033】
第1羽根部3の下端は、受け部10の受け面11の高さ位置と同等の高さか又は受け面11の高さ位置よりも下側に位置しており、本実施形態では受け面11の高さ位置よりも下側の位置である受け部10の下端に位置している。
【0034】
複数の第1羽根部3は保持体1の軸線P位置で互いに一体に連結されており、更に、
図2に示すように保持体1の周方向に略均等に配置されている。本実施形態では、第1羽根部3の枚数は4枚であり、これらの第1羽根部3の横断面形状は略十字状であり、したがって保持体1の平面視において各第1羽根部3、3間の角度は約90°である。
【0035】
なお本発明では、第1羽根部3の枚数は4枚に限定されるものではなく、その他に例えば3枚であってこれらの第1羽根部3の横断面形状が略三ツ矢状であっても良い。
【0036】
図1及び3に示すように、保持体本体部2の上端部は先細り状に形成されており、これにより保持体本体部2を基体30の下端開口33から基体30の内側31に挿入し易くなっている。
【0037】
すなわち、保持体本体部2の上端部には、下方向に対して半径方向外側へ傾斜した案内面4が形成されている。案内面4は、保持体本体部2の基体30内側31への挿入時に基体30を適正位置に案内するためのものである。本実施形態では、案内面4は、保持体本体部2の上端部としての、各第1羽根部3の上端部に、その上端から下方向に対して半径方向外側へ直線状に傾斜している。
【0038】
保持体1の軸線Pに対する案内面4の傾斜角αは15~60°の範囲であることが望ましい。この場合、基体30を適正位置に確実に案内することができるし、案内面4に付着した洗浄液40を案内面4上から確実に滑り落ち易くすることができる。
【0039】
ここで、本実施形態では案内面4は上述したように直線状に傾斜したものであるが、本発明では案内面はこれに限定されずその他に例えば断面円弧状に傾斜したものであっても良く、この場合、その曲率半径は限定されるものではなく例えば5~50mmの範囲に設定される。
【0040】
さらに、各第1羽根部3の上端部には案内面4の下端から保持体1の軸線Pに平行に鉛直面5が形成されている。さらに、保持体本体部2の上端部と下端部との間の部位は、当該上端部及び当該下端部よりも小径に形成されている。
【0041】
受け部10は、保持体1の軸線Pと同軸に形成された円筒状の軸部12を備えており、更に、軸部12の外周面から保持体1の軸線Pに対して半径外方向へ放射状に突出し且つ保持体1の軸線P方向に延びた複数の羽根部15(これを説明の便宜上「第2羽根部15」という)を備えている。複数の第2羽根部15の大きさ及び形状は互いに同じである。第2羽根部15は第1羽根部3よりも半径外方向へ突出している。
【0042】
複数の第2羽根部15は軸部12の外周面に一体に形成されており、更に、
図2に示すように保持体1の周方向に略均等に配置されている。本実施形態では、第2羽根部15の枚数は第1羽根部3の枚数と同じ(即ち4枚)であり、これらの第2羽根部15の横断面形状は略十字状であり、したがって保持体1の平面視において各第2羽根部15、15間の角度は約90°である。
【0043】
第1羽根部3と第2羽根部15は保持体1の周方向に離間しており、詳述すると
図2に示すように保持体1の平面視において各第2羽根部15、15間に第1羽根部3が一枚ずつ配置されるように第1羽根部3と第2羽根部15が保持体1の周方向に離間している。保持体1の平面視において第1羽根部3と第2羽根部15との間の角度は約45°である。
【0044】
第2羽根部15の上端面16は上述の受け面11を含んでおり、即ち受け面11は第2羽根部15の上端面16の一部からなる。詳述すると、受け面11は、第2羽根部15の上端面16における第2羽根部15の突出方向の中間から先端までの部分からなる。
【0045】
第2羽根部15の上端面16(受け面11を含む)は平坦状に形成されており、基体30を保持する状態では水平に配置される。さらに、第2羽根部15の上端面16における受け面11よりも軸線P(軸部12)側の部分には切欠き部17が局部的に設けられており、これにより、当該部分が受け面11よりも低い高さ位置になるように形成されている。
【0046】
受け部10の下端面は複数の第2羽根部15の下端面からなる。軸部12の下端部は受け部10の下端面よりも若干下側に突出している。これにより、受け部10の下端面の中心部に、軸部12の突出した下端部からなる位置決め用突出部13が形成されている。
【0047】
図4に示すように、保持体本体部2は、受け部10の受け面11よりも上側の高さ位置にて、受け部10側の部位2B(これを説明の便宜上「下本体部2B」という)とその上側の部位2A(これを説明の便宜上「上本体部2A」という)とに分割されている。
【0048】
保持体本体部2の第1羽根部3は、保持体本体部2が下本体部2Bと上本体部2Aに分割されることによって、受け部10側の部位3B(これを説明の便宜上「下第1羽根部3B」という)とその上側の部位3A(これを説明の便宜上「上第1羽根部3A」という)とに分割されている。したがって、上本体部2Aは上述の案内面4を有している。
【0049】
下本体部2Bと受け部10は一体に形成されており、したがって、受け部10は下本体部2Bを一体に有している。
【0050】
上本体部2Aと下本体部2Bが連結された状態において、受け部10の軸部12の上端は上本体部2Aの下端に位置している。
【0051】
下第1羽根部3Bは、下本体部2Bの上端(即ち軸部12の上端)から保持体1の下端(即ち受け部10の下端)まで下方向に連続して延びている。
【0052】
図4に示すように、上本体部2Aの下端面の中心部には、下方向に突出した横断面円形状の嵌合突出部7が一体に形成されている。そして、嵌合突出部7が軸部12の内側12aにその上側から嵌脱自在に嵌合されることにより、上本体部2Aと下本体部2Bが分離可能に連結されて保持体本体部2が構成されている。
【0053】
嵌合突出部7が軸部12の内側12aに嵌合された状態(即ち上本体部2Aと下本体部2Bが連結された状態)では、
図1及び2に示すように、保持体1の周方向における上第1羽根部3Aの位置と下第1羽根部3Bの位置とが全て一致している。
【0054】
保持体1は上述したようにパレット20上に固定ボルト25によって上方突出状に固定される。
【0055】
すなわち、
図4に示すように上本体部2Aの嵌合突出部7の下端面には当該下端面から上方向に延びた、固定ボルト25に螺合するねじ穴8が形成されている。パレット20には固定ボルト25用挿通孔22が穿設されている。そして、嵌合突出部7が軸部12の内側12aに嵌合された状態で、挿通孔22にその下側から挿通された固定ボルト25が嵌合突出部7のねじ穴8に螺合することにより、上本体部2Aと下本体部2Bとが連結されて保持体1が構成されるとともに保持体1がパレット20上に上方突出状に固定される。
【0056】
さらに、このような保持体1の固定状態において、保持体1の位置決め用突出部13がパレット20の上面20aに設けられた位置決め用凹部21に嵌脱自在に嵌合される。これにより、保持体1をパレット20上に固定する際にパレット20上における保持体1の固定位置が決定される。
【0057】
保持体1において、下本体部2Bを一体に有する受け部10には、その外表面全体に亘って洗浄液40に対する濡れ性を良くするための処理として粗面化処理が施されている。粗面化処理は本実施形態ではショットブラストにより行われる。これに対して、上本体部2Aの外表面にはそのような処理が一切施されていない。これにより、受け部10における少なくとも受け面11の洗浄液40に対する濡れ性は、上本体部2Aにおける少なくとも案内面4の洗浄液40に対する濡れ性よりも良くなっている。
【0058】
受け面11にショットブラストによる粗面化処理を施す場合、当該処理を行う前に、下本体部2Bを一体に有する受け部10(即ち受け面11を有する部位)と上本体部2A(即ち案内面4を有する部位)とを分離しておき、その後、下本体部2Bを一体に有する受け部10だけについてショットブラストによる粗面化処理を施すことが望ましい。この場合、上本体部2Aの案内面4にショットブラストによる粗面化処理が施されないようにするための作業(例:マスキング作業)を行う必要がなくなり、ショットブラストによる粗面化処理について作業性が向上するし、保持体1を低コストで製造することができる。
【0059】
洗浄液40に対する濡れ性を良くするためのショットブラストによる粗面化処理の条件は限定されるものではなく、例えば、使用するショットメディア(投射材)はガラスビーズ、投射時間は5minである。
【0060】
受け面11は洗浄液40に対する濡れ性が良いので、
図7に示すように受け面11における洗浄液40の接触角θ1が小さい。したがって、基体30の洗浄時に受け面11に洗浄液40が付着した場合、洗浄液40は玉状にならず、乾燥用ガス(空気、温風、熱風等を含む)との接触面積が大きくなる。これにより、洗浄液40を迅速に乾燥除去することができる。
【0061】
案内面4には洗浄液40に対する濡れ性を良くするための処理が施されていないので、
図8に示すように案内面4における洗浄液40の接触角θ2がθ1よりも大きい(θ2>θ1)。したがって、基体30の洗浄時に案内面4に洗浄液40が付着した場合、洗浄液40は略玉状になり、案内面4上の洗浄液40が案内面4上を滑り落ち易くなる。これにより、洗浄液40を迅速に乾燥除去することができる。
【0062】
受け部10が合成樹脂製である場合において、受け面11は、受け面11の表面粗さRzが5.0~20μmの範囲になるように粗面化処理が施されることが望ましい。この場合、受け面11上の洗浄液40を確実に迅速に乾燥除去することができる。
【0063】
保持体本体部2が合成樹脂製である場合において、案内面4の表面粗さRzは1.0μm以下であることが望ましい。この場合、案内面4上の洗浄液40を確実に滑り落ち易くすることができ、これにより案内面4上の洗浄液40を確実に迅速に乾燥除去することができる。案内面4の表面粗さRzの望ましい下限は限定されるものではなく、例えば0.01μmである。
【0064】
受け面11の表面状態の一例として
図9に受け面11の光学顕微鏡写真を示すように、受け面11にはショットブラストにより粗面化処理が施されており、そのため微細な凹凸が形成されている。同図の場合では受け面11の表面粗さRzは5.0μmである。
【0065】
案内面4の表面状態の一例として
図10に案内面4の光学顕微鏡写真を示すように、案内面4には保持体1を成型した際に用いた金型の製作時のツールマークの転写や、案内面4への切削加工時のツールマークがあり、したがって案内面4には積極的な粗面化処理は施されていない。同図の場合では案内面4の表面粗さRzは0.290μmである。
【0066】
なお、上述の表面粗さRzはいずれもJIS(日本工業規格) B0601:2001に準拠して測定された最大高さを意味している。
【0067】
基体30を保持体1に保持する場合、基体30をチャック装置(図示せず)のチャック部で把持する。そして、
図3に示すように基体30の下端開口33からその内側31に保持体1の保持体本体部2が挿入されるように基体30を下降していき、基体30の下端面32が保持体1の受け部10の受け面11に接触したとき基体30の下降を停止する。そして、チャック装置のチャック部による基体30の把持を解除する。これにより、
図1に示すように基体30が保持体1に起立状に保持される。
【0068】
このように基体30が保持体1に保持された状態では、基体30の下端面32は受け面11に接触して受け面11で受けられており、基体30は、その下端面32の受け面11との接触部分を除いて保持体1のどの部位とも接触していない。
【0069】
上述した基体30の保持体1への保持操作において、基体30の下端開口33からその内側31に保持体1の保持体本体部2を挿入させる際に基体30の下端面32が保持体本体部2の上端部に接触した場合、基体30の下端面32は案内面4によって受け面11に向かうように下側に案内される。その結果、基体30は、保持体1における基体30の洗浄時の適正位置に配置される。
【0070】
基体30から感光ドラムを製造する場合、
図5に示すようにパレット20上に立設された複数の保持体1にそれぞれ基体30を起立状に保持し、この状態で複数の基体30に対して一般に
図6に示す洗浄工程が行われる。その後、基体30の外表面に感光体層等の所定の層が形成されて感光ドラムが得られる。
【0071】
洗浄工程は、同図に示すように、予備洗浄工程S1と脱脂工程S2と第1リンス工程S3と中和工程S4と第2リンス工程S5と浸漬及び引き上げ乾燥工程S6と最終乾燥工程S7を含んでおり、この記載順に行われる。これらの工程S1~S7のうち脱脂工程S2~浸漬及び引き上げ乾燥工程S6は、
図5に示すようにパレット20上の複数の保持体1に複数の基体30が起立状に保持された状態のままで基体30が洗浄槽45内の洗浄液40中に浸漬されることにより、行われる。
【0072】
予備洗浄工程S1では、基体30はシャワー洗浄により洗浄される。脱脂工程S2では、基体30は洗浄液40としての酸性溶液で洗浄される。第1リンス工程S3では、基体30は洗浄液40としての純水で洗浄される。中和工程S4では、基体30は洗浄液40としてのアルカリ性溶液で洗浄される。第2リンス工程S5では、基体30は洗浄液40としての純水で洗浄される。浸漬及び引き上げ乾燥工程S6では、基体30は洗浄液40としての温純水中に浸漬されることにより洗浄され、その後、基体30が温純水中から引き上げられることにより、温純水を基体30から落下させるとともに温純水の予熱で乾燥される。最終乾燥工程S7では、基体30は引き上げ乾燥工程S6の後に残った温純水を除去するために乾燥用ガスとして例えば温風で乾燥される。
【0073】
これらの工程S1~S7のうち例えば浸漬及び引き上げ乾燥工程S6では、一般に保持体1の受け面11上に洗浄液(詳述すると温純水)40が残り易い。しかし、受け面11の洗浄液40に対する濡れ性が良いので、受け面11上の洗浄液40は迅速に乾燥除去される。また、保持体本体部2の案内面4は鉛直に形成されたものではなく傾斜しているので、一般に案内面4上に洗浄液40が残り易い。しかし、案内面4には洗浄液40に対する濡れ性を良くするための処理が施されていないので、案内面4に付着した洗浄液40は略玉状になり案内面4上を滑り落ち易くなっており、そのため案内面4上の洗浄液40についても迅速に乾燥除去される。したがって、基体30の乾燥時間を短縮することができるし基体30を確実に乾燥することができる。
【0074】
さらに、保持体1は合成樹脂製であるから、基体30を保持体1に保持する際における基体30の保持体1との接触による基体30の傷付き及び変形を抑制することができる。
【0075】
さらに、保持体1では、受け部10の受け面11よりも軸線P(軸部12)側の部分が受け面11よりも低い高さ位置になるように形成されているので、乾燥時に当該部分上に残った洗浄液40が受け面11側へ流動して基体30の下端面32に付着する不具合を抑制することができる。これにより、基体30を更に確実に乾燥することができるし、当該残った洗浄液40が原因で発生することのある基体30の染みや次工程の環境の汚染を確実に抑制することができる。
【0076】
また、保持体本体部2が上本体部2Aと下本体部2Bとに分離可能であるから、保持体1の受け部10の受け面11が摩耗した場合、上本体部2Aと下本体部2Bとを分離することにより、保持体1全体のうち下本体部2Bを一体に有する受け部10(即ち受け面11を有する部位)だけを新しいものと交換することができる。そのため、保持体1についてランニングコストの削減を図りうる。
【0077】
以上で本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で様々に変更可能である。
【0078】
例えば、本発明に係る保持体は、その受け部がパレット20に一体に設けられたものであっても良いし、受け部が台状に形成されていなくても良く、すなわち受け部の受け面が例えばパレット20の上面20aに形成されていても良い。
【0079】
また、本発明に係る保持体に保持される円筒体は、上記実施形態に示したように感光ドラム基体であることが特に望ましいが、これに限定されず、その他の円筒状の被洗浄体であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、感光ドラム基体等の円筒体の洗浄及び乾燥時などに用いられる円筒体用保持体、及び、感光ドラムの製造方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0081】
1:保持体
2:保持体本体部
4:案内面
10:受け部
11:受け面
30:基体(円筒体)
32:基体の下端面(円筒体の下端)
40:洗浄液